説明

改良されたスクラロース精製プロセス

スクラロースを、少なくともスクラロース、他の塩素化糖類、塩化ナトリウム、及びジメチルアンモニウムクロリドを含有する水溶液から、スクラロース用の有機溶媒へと、スクラロースが有機溶媒へと抽出されるよう該有機溶媒を上記水溶液と接触させることにより抽出するプロセス。接触の前又は接触の間に、スクラロースの上記有機溶媒への分配係数を増大させるよう、水溶液中のジメチルアンモニウムクロリドに対する塩化ナトリウムの比率を増大させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スクラロース精製プロセスの改良、特にその一段階に関し、そのように精製されたスクラロースを提供する。
【0002】
[関連出願の相互参照]
本願は、2008年4月3日付けで出願された米国仮特許出願第61/042,068号明細書(その全体が参照により本明細書中に援用される)の優先権の利益を主張するものである。
【背景技術】
【0003】
スクロースの甘味強度の数百倍の甘味強度を有する甘味料であるスクラロース(4,1’,6’−トリクロロ−4,1’,6’−トリデオキシガラクトスクロース)は、スクロースから4位、1’位、及び6’位のヒドロキシル基を塩素で置換することによって得られる。スクラロース合成は、特定のヒドロキシル基を塩素原子で選択的に置換する一方で、極めて反応性に富む第一級ヒドロキシル基を含む他のヒドロキシル基を保存する必要があるため、高度な技術を必要とする。この合成に対する多数の手法が開発されている。例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3、及び特許文献4(参照により本明細書中に明示的に援用される)を参照されたい。しかしながら、かかる手法は典型的にはスクラロースに加えて様々なレベルの他の塩素化糖化合物を含有する生成物をもたらす。関連塩素化材料のこの複雑な混合物から高純度形態のスクラロースを単離することにますます努力が傾けられている。早期に報告された研究は、典型的には合成混合物から直接スクラロースを結晶化するという、高不純物レベルの物質を生じるプロセスを含んでいた。スクラロースは合成混合物からシリカゲルクロマトグラフィーにより精製される場合もある。例えば、特許文献5(参照により本明細書中に明示的に援用される)を参照されたい。この手順ではシリカゲルを使用するため、高純度のスクラロースの商業的大量生産には適していない場合がある。また、スクラロースから塩素化糖不純物を除去する他の手法への注目度は相対的に低い。これらの不純物は極めて低い濃度であってもスクラロースの甘味度、味、及び風味改善特性に悪影響を与える可能性があるため、その効率的な除去は重要である。
【0004】
スクラロース合成は、典型的には製造プロセスにおいて標的分子(スクラロース)から分離され、除去される必要がある広範な塩素化スクロース部分の同時合成をもたらす。典型的には、スクラロース含有供給流を調製後、多数の精製工程に付すが、スクラロース自体よりも低疎水性及び高疎水性の種を除去するために一般に採用されるその精製プロセスの1つが溶媒抽出である。
【0005】
スクラロース及び関連化合物を合成する様々な方法が提案されている。例えば、特許文献6(参照により本明細書中に明示的に援用される)は、関連化合物である1’,4’,6’−トリクロロ−1’,4’,6’−トリデオキシスクロースを合成するプロセスに関する。ペンタアセテート前駆体の脱アセチル化の後、反応混合物をシリカゲルカラムクロマトグラフィーによって精製する。酢酸エチルを用いて生成物をシリカゲルから溶出させる。
【0006】
特許文献3(参照により本明細書中に明示的に援用される)は、スクラロース−6−ベンゾエートのメタノール溶液のKOH処理によりスクラロースを製造するプロセスに関する。メタノールを蒸発によって除去し、残渣を水に溶解させる。この水溶液を、それぞれ1/4容量の酢酸エチルで3回抽出する。合わせた有機抽出物を濃縮した後、水で逆抽出して、酢酸エチル中に存在するスクラロースを回収する。合わせた水性分を濃縮し、脱色剤で処理する。さらに濃縮することによってスクラロースを結晶化させる。回収された結晶の純度は99.6%であると報告されている。このレベルまでの精製は、主に溶媒抽出プロセスではなく結晶化によって達成される。この手法は最初の水溶液の酢酸エチル抽出しか含まず、スクラロースが水溶液から有機相へと再抽出されることはなく、それによりさらなる精製が達成されることは注目に値する。
【0007】
特許文献7(参照により本明細書中に明示的に援用される)は、塩基を使用してスクラロース−6−ベンゾエートのメタノール溶液を加水分解する同様のプロセスに関する。メタノールを蒸発により除去し、スクラロースを含有する残渣を水に溶解させる。この溶液を、それぞれ1/4容量の酢酸エチルで3回抽出する。残りの水層を活性炭で脱色し、濃縮して、スクラロースを結晶化させる。
【0008】
特許文献8(参照により本明細書中に明示的に援用される)は、6−アシルエステル前駆体化合物のアルカリ加水分解により生成されたブライン水溶液からスクラロースを抽出するために使用することのできる溶媒に関する。考え得る溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソアミルケトン、塩化メチレン、クロロホルム、ジエチルエーテル、及びメチルターシャリーブチルエーテルが挙げられる。抽出選択性、再利用の容易さ、及び毒性学的安全性から酢酸エチルが好適な溶媒として提示されている。
【0009】
特許文献8はまた、スクラロース前駆体のエステル加水分解後に残った水溶液を濃縮した後、酢酸エチル又は他の好適な溶媒を用いた3回の連続抽出によりスクラロースを単離するプロセスに関する。次いで、抽出物を合わせ、任意で水で洗浄して残ったジメチルホルムアミドを除去した後、スクラロースを濃縮及び結晶化により回収してもよい。この特許は、アルカリ脱エステル化後に得られたブライン水溶液中に含有されるスクラロースをジクロロメタン、クロロホルム、2−ブタノン、シクロヘキサノン、又は酢酸エチル等のブラインと混和しない溶媒へと抽出するプロセスにも関する。有機抽出物を次に水で逆抽出して、スクラロースを水相中に戻してもよい。次いで、この水溶液を脱色及び濃縮してもよく、得られた精製スクラロースを結晶化により回収する。この手法では比較的純粋でない物質が生じる。
【0010】
特許文献8において論考されているさらなる手法は、脱エステル化後に残ったアルカリ溶液のトルエン抽出を含む。具体的には、溶液を2回トルエンで抽出し、非極性不純物を除去する。次いで、水溶液を2−ブタノンで繰り返し抽出する。この2−ブタノン抽出物を合わせ、溶媒を蒸発させて、スクラロースを含有する赤みがかったシロップを得る。
【0011】
特許文献9(参照により本明細書中に明示的に援用される)は、スクラロース−6−アセテートのアルカリ加水分解及び続く中和によって得られる粗スクラロース溶液の抽出プロセスに関する。スクラロース水溶液を水飽和した酢酸エチルで抽出する。幾らかの不純物がこの抽出によって選択的に有機相へと分配される。続いて、同様に有機相へと分配されたスクラロースの一部を回収するため、酢酸エチル相を水で逆洗する。水溶液及び水性逆洗液(aqueous backwash)を合わせ、濃縮及び脱色し、スクラロースを水相から結晶化によって回収する。
【0012】
特許文献10(参照により本明細書中に明示的に援用される)は、第2の非混和性溶媒による組成物の液体抽出を行って、第2の溶媒へと不純物を除去する工程、及び第3の非混和性溶媒による組成物の第2の抽出を行って、スクラロースを第3の溶媒へと移し、不純物を第1の溶媒中に保持させる工程を含む、第1の溶媒中のスクラロース及び不純物を含む組成物から不純物を除去する方法に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】米国特許第4,362,869号明細書
【特許文献2】米国特許第4,826,962号明細書
【特許文献3】米国特許第4,980,463号明細書
【特許文献4】米国特許第5,141,860号明細書
【特許文献5】米国特許第5,128,248号明細書
【特許文献6】米国特許第4,405,654号明細書
【特許文献7】米国特許第5,034,551号明細書
【特許文献8】米国特許第5,498,709号明細書
【特許文献9】米国特許第5,530,106号明細書
【特許文献10】米国特許第7,049,435号明細書
【発明の概要】
【0014】
本発明は、スクラロース又はスクラロース−6−アシレートを含有する水溶液からのスクラロース又はスクラロース−6−アシレートの溶媒抽出の改良を提供する。この溶媒抽出を実行したところ、水溶液と抽出溶媒との間のスクラロース又はスクラロース−6−アシレートの分配係数が比較的好ましくないことが観察されたが、今回、驚くべきことに、これがジメチルアンモニウムクロリド(DMAHCl)の存在のためであり、DMAHClに対するNaClの比率を増大させることによってこの影響を改善し得ることが発見された。
【0015】
したがって、NaCl及びDMAHClの量並びにその比率を制御することによって、スクラロース(及び他の塩素化種)の有機相への分配係数に作用することが可能である。さらに、分配係数(K)の正確な値は、NaClのwt%、DMAHClのwt%、及びそれらの相対量の関数であることが見出されている。この事実を用いると、水相中に溶解されたこれらの塩の量を変化させることによってK値を制御することができる。具体的には、DMAHClに対する塩化ナトリウムの比率を増大させることにより、スクラロース又はスクラロース−6−アシレートの有機相への抽出を向上させることができる。
【0016】
したがって、本発明の1つの実施の形態は、スクラロース又はスクラロース−6−アシレートを、少なくとも該スクラロース又は該スクラロース−6−アシレート、他の塩素化糖類、ジメチルアンモニウムクロリド、並びにアルカリ金属塩化物、塩化アンモニウム、及びアルカリ土類金属塩化物から成る群から選択されるさらなる塩化物を含有する水溶液から、上記スクラロース又は上記スクラロース−6−アシレート用の有機溶媒へと、上記スクラロース又は上記スクラロース−6−アシレートが上記有機溶媒へと抽出されるよう有機溶媒と上記水溶液とを接触させることにより抽出する方法であって、上記接触の前又は上記接触の間に、上記スクラロース又は上記スクラロース−6−アシレートの上記有機溶媒への分配係数が増大するよう、上記水溶液中のジメチルアンモニウムクロリドに対する上記さらなる塩化物の比率を増大させる、方法に関する。
【0017】
本発明の別の実施の形態は、スクラロースをスクラロース合成に由来する供給流から精製する方法であって、供給流を一連の精製工程に付すが、該工程の少なくとも1つが、スクラロースを、少なくともスクラロース、他の塩素化糖類、ジメチルアンモニウムクロリド、並びにアルカリ金属塩化物、塩化アンモニウム、及びアルカリ土類金属塩化物から成る群から選択されるさらなる塩化物を含有する水溶液から、スクラロース用の有機溶媒へと、スクラロースが上記有機溶媒へと抽出されるよう有機溶媒と上記水溶液とを接触させることにより抽出することを含み、上記接触の前又は上記接触の間に、スクラロースの上記有機溶媒への分配係数が増大するよう、上記水溶液中のジメチルアンモニウムクロリドに対する上記さらなる塩化物の比率を増大させる、方法に関する。
【0018】
本発明のさらなる実施の形態では、スクラロース−6−アシレート合成に由来する供給流からスクラロースを製造する方法であって、該供給流を一連の精製工程に付し、精製されたスクラロース−6−アシレートを次いで脱アシル化して、スクラロースを得るが、精製工程の少なくとも1つが、スクラロース−6−アシレートを、少なくともスクラロース−6−アシレート、他の塩素化糖類、ジメチルアンモニウムクロリド、並びにアルカリ金属塩化物、塩化アンモニウム、及びアルカリ土類金属塩化物から成る群から選択されるさらなる塩化物を含有する水溶液から、スクラロース−6−アシレート用の有機溶媒へと、スクラロース−6−アシレートが上記有機溶媒へと抽出されるよう有機溶媒と上記水溶液とを接触させることにより抽出することを含み、上記接触の前又は上記接触の間に、スクラロース−6−アシレートの上記有機溶媒への分配係数が増大するよう、上記水溶液中のジメチルアンモニウムクロリドに対する上記さらなる塩化物の比率を増大させる、方法が提供される。
【0019】
さらに別の実施の形態では、本発明は、スクラロース又はスクラロース−6−アシレートを、少なくとも該スクラロース又は該スクラロース−6−アシレート、他の塩素化糖類、ジメチルアンモニウムクロリド、並びにアルカリ金属塩化物、塩化アンモニウム、及びアルカリ土類金属塩化物から成る群から選択されるさらなる塩化物を含有する水溶液から、上記スクラロース又は上記スクラロース−6−アシレート用の有機溶媒へと抽出する方法であって、
ジメチルアンモニウムクロリドを前記水溶液から除去して、ジメチルアンモニウムクロリドに対する上記さらなる塩化物の比率を増大させ、それによりスクラロースの上記有機溶媒への分配係数を増大させる工程、及び
上記有機溶媒と得られた溶液とを接触させ、上記スクラロース又は上記スクラロース−6−アシレートを有機溶媒へと抽出する工程を含む、方法を提供する。
【0020】
本発明の他の目的、特徴、及び利点は、以下の発明を実施するための形態により明らかとなる。発明を実施するための形態及び特定の実施例は、本発明の特定の実施形態を示すものであるが、例示としてのみ提供される。したがって、本発明は、この発明を実施するための形態によって当業者に明らかとなり得る、本発明の精神及び範囲内にあるこれらの様々な変更形態及び修正形態も含む。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】DMAHClに対するNaClの比率(他の全てのパラメータは一定に保つ)の予測される分配係数(Kの予測値)への影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書中に記載される特定の方法論、プロトコル、pH、及び試薬等は変化し得るため、本発明がそれらに限定されないことを理解されよう。本明細書中で使用される専門用語が特定の実施形態を説明する目的でのみ使用され、本発明の範囲を限定することを意図しないことも理解されよう。本明細書中及び添付の特許請求の範囲で使用される場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈上他に明確な指示がない限り、複数の指示対象を含むことに留意されたい。したがって、例えば「溶媒(a solvent)」への言及は、1つ又は複数の溶媒への言及であり、溶媒の適当な混合物を含む場合もあり、当業者に既知の等価物等を含む。
【0023】
他に規定のない限り、本明細書中で使用される技術用語及び科学用語は全て、本発明が属する分野における当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。好ましい方法、装置、及び材料が記載されているが、本明細書中に記載されるものと同様又は等価の任意の方法及び材料を本発明の実施又は試験に際して使用することができる。本明細書中に引用される全ての参考文献は、その全体が参照により援用される。
定義
「芳香族」:本明細書中で使用される場合、共鳴(resonant)共役二重結合を有する環状構造を含有する化合物、例えば、ベンゼン、トルエン、又はキシレン等を含む。
【0024】
「逆洗」:本明細書中で使用される場合、第1の溶媒の抽出に使用した後に残った第2の溶媒相を、少量の第1の溶媒で再抽出する抽出工程を含む。これによって、不純物を半選択的に除去するために採用され得る第2の溶媒へと部分的に分配された、スクラロース又は他の種のような貴重な材料を回収する手段がもたらされる。逆洗溶液を第1の溶媒と合わせてもよく、それにより第1の溶媒においてスクラロース又は他の種のような貴重な生成物の回収を最大にすることができる。逆洗溶液を第1の溶媒に添加する前に、必要に応じて濃縮してもよい。
【0025】
「結晶化」:本明細書中で使用される場合、溶液から結晶を得るプロセスを含む。結晶形成の開始は自発的であっても、又は種結晶の添加を必要とするものであってもよい。本明細書中で使用される場合、「結晶化」とは、固体状又は液状物質が溶媒中に溶解されて、溶液を生じ、これが次に飽和又は過飽和の状態にされ、結晶が得られる状況を表すものでもある。また、「結晶化」という用語には、結晶を濾過又は遠心分離し、結晶を脱水し、結晶を1つ又は複数の溶媒で洗浄し、結晶を乾燥させ、そのようにして得られた最終生成物を採取する補助的なプロセスが含まれる。
【0026】
「供給混合物」:本明細書中で使用される場合、任意のスクラロースの合成プロセスに由来する化合物の任意の混合物を含む。スクラロースとあらゆる不純物の混合物が含まれる。
【0027】
「不純物」:本明細書中で使用される場合、スクラロース以外の化合物を含み、スクラロースを合成する様々なプロセスの生成物(スクラロースではない)を含む。「不純物」は、遊離形態で存在するか又はカルボン酸のエステルとして存在するかに関わらず、スクロースの任意のモノクロロ誘導体、ジクロロ誘導体、テトラクロロ誘導体、及びペンタクロロ誘導体、並びにスクロース、スクラロース、又はその構成単糖類から誘導される任意の他の二糖類又は三糖類、並びにスクラロース以外の任意のトリクロロ誘導体を含む。「不純物」は、ジクロロスクロースアセテート、6,1’,6’−トリクロロスクロース、4,6,6’−トリクロロスクロース、4,1’,4’,6’−テトラクロロガラクトタガトース、4,1’,6’−トリクロロガラクトスクロース−6−アセテート、4,6,1’,6’−テトラクロロガラクトスクロース、4,1’−ジクロロガラクトスクロース、3’,6’−ジクロロアンヒドロスクロース、4,6’−ジクロロガラクトスクロース、1’,6’−ジクロロスクロース、6,6’−ジクロロスクロース、4,1’,6’−トリクロロスクロース、4,6,6’−トリクロロガラクトスクロース、4,1’,5’−トリクロロガラクトスクロース−6−アセテート、及び4,6,6’−トリクロロガラクトスクロース等の任意のハロゲン化糖誘導体を含む。「不純物」は、任意の有機塩又は無機塩、炭水化物、又はスクラロース−6−アシレート以外のアシル化炭水化物を含む。
【0028】
「溶媒」:本明細書中で使用される場合、別の物質を溶解するか又は実質的に分散させることができる液体を含む。
プロセス
欧州特許第0409549号明細書は、第三級アミド反応媒体においてスクロース−6−アシレートを塩素化して、スクラロース−6−アセテート等のスクラロース−6−アシレートを製造するプロセスを開示している。このプロセスにおいては、大過剰の塩素化剤、例えばホスゲン等が使用される。塩素化反応の後、その過剰の塩素化剤を好適な塩基を使用して失活させるが、それにより塩基の塩化物塩が形成される。反応溶媒が通常通り(as seems usual)ジメチルホルムアミドであるこの段階では、溶媒の一部も塩基と反応して、ジメチルアンモニウムクロリドが生成する場合もある。このため、生じた生成物流は、スクラロース−6−アシレート、第三級アミド反応媒体、水、及び塩を含む。次いで、スクラロース−6−アシレートを脱アシル化してスクラロースを得る。この脱アシル化の前又は後の或る段階で、塩及びDMAHClの含有量を低減することを目的として、反応混合物を精製する。脱アシル化を、そのままジメチルホルムアミド中で実行する場合、この脱アシル化工程もDMAHClの形成をもたらし得る。
【0029】
通例のように、使用される塩基が水酸化ナトリウムである場合、形成される塩は塩化ナトリウムである。しかしながら、他の塩基、例えば他のアルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、又は水酸化アンモニウムを使用して、塩をアルカリ金属塩化物、アルカリ土類金属塩化物、又は塩化アンモニウムとしてもよい。
【0030】
このため、本発明のプロセスの出発材料である水性供給溶液は、スクラロース又はスクラロース−6−アシレートに加えて、塩化ナトリウム又は別の塩化物及びジメチルアンモニウムクロリドといった副反応から生じる様々な不純物を含有する。供給溶液を付した先の手順に応じて、NaCl:DMAHCl比を多かれ少なかれ調整する必要がある。この比率は増大させる必要があるため、これはより多量の塩化ナトリウム又は他の塩化物を添加するか、又はジメチルアンモニウムクロリドを除去することによって達成され得る。最終的に添加したものを全て除去する必要があるため、好ましい選択肢はジメチルアンモニウムクロリドを除去することである。これは当業者に既知の様々な方法によって達成され得る。
【0031】
例えば、DMAHClを除去する有用な一方法は、必要に応じて最初にpHを調整し、、遊離ジメチルアミンを形成させ、次にこのジメチルアミンを真空下で蒸発させることである。一般に、DMAHClから遊離DMAを形成させるには、pHを少なくとも10、より好適には約11という値まで上昇させるのが最も好都合であることが見出されている。次いで、反応媒体に真空を適用して、DMAを揮散させる(strip off)が、温度を上昇させてDMAを揮発させることによってDMAの除去が向上し得る。
【0032】
DMAHClを除去する別の方法は樹脂を採用する。例えば、この方法は以下のように実行することができる:
DOWのHCRS又はPuroliteのC120E等の強酸性陽イオン樹脂を、10%NaCl又は5%NaOHのいずれかを用いて洗浄することによって準備する。低イオン含有量の水に入った樹脂床を充填する。スクラロースの粗水性生成物溶液を、例えば特許文献8に開示される方法によって準備して、NaClを蒸発により除去する。塩の低減量が大きいほどDMAに対する樹脂の容量が増大する。少なくとも半分の塩を除去すべきである。部分的に脱塩した濾液を希釈して、粘度を低下させ、流動性を向上させてもよい。再生剤(regenerate)をフラッシングした樹脂カラムに、1当量〜3当量のDMAを適用するのに十分な濾液を適用する。適用後、低イオンフラッシング(low ion flush)を行い、望ましい炭水化物を置換する。樹脂は希苛性アルカリ又は8%〜12%NaClのいずれかを用いて再生することができる。
【0033】
DMAHClを除去するが、供給溶液中のその濃度を(試料上で)20000ppm以下、より好ましくは1000ppm以下の値まで低減するのに十分なDMAHClを除去するのが好ましい。いずれにせよ、NaCl:DMAHCl比を変更するどのような手段を用いるのであっても、10:1〜100:1、より好ましくは10:1〜25:1の値まで増大させるのが好ましい。
【0034】
抽出工程の前に、水溶液を蒸発させるか、又はそうでなければ処理して、乾燥固形分を例えば15%〜65%、より好ましくは30%〜55%のレベルまで増大させるのが望ましい。
【0035】
溶媒の選択は、有機溶媒及び水性供給流中でのスクラロースと主要不純物との相対溶解度、並びに可燃性、プロセス内での再利用の容易さ、環境問題、毒性、及びコストといった他の因子によって決まる。有機溶媒を抽出工程において使用する前に意図的に水で飽和させることができる。有機溶媒の混合物を使用してもよい。有機溶媒としての使用が考えられる溶媒は、水と非混和性であり、スクラロース等のハロゲン化スクロース誘導体が容易に溶解する溶媒を含む。水、水溶液、又はハロゲン化スクロース誘導体が容易に溶解するが、第2の溶媒が第1の溶媒と適切な比率かつ適切な条件下で混合された場合に依然として分離相を形成する他の溶媒等の第1の溶媒に部分的に溶解する溶媒も含まれる。典型的な有機溶媒としては、酢酸メチル、酢酸エチル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソアミルケトン、塩化メチレン、クロロホルム、ジエチルエーテル、メチルt−ブチルエーテル、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、1,1,1−トリクロロエタン、n−ドデカン、ホワイトスピリット、テレビン、シクロヘキサン、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル、四塩化炭素、キシレン、トルエン、ベンゼン、トリクロロエチレン、2−ブトキシエタノールアセテート(ブチルセロソルブ(登録商標)アセテート)、二塩化エチレン、ブタノール、モルホリン、及びそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。第1の有機溶媒は、好ましくは酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸n−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸アミル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソアミルケトン、塩化メチレン、クロロホルム、又はn−ブタノールを単一溶媒として、又はこれらの溶媒、若しくは第1のリストの他の溶媒との混合溶媒として含む。第1の溶媒は、より好ましくは酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸n−プロピル、酢酸n−ブチル、メチルイソブチルケトン、又はn−ブタノールを単一溶媒として、又はこれらの溶媒、若しくは第1若しくは第2のリストの他の溶媒との混合溶媒として含む。酢酸エチルが最も好ましい溶媒である。ジエチルエーテル、メチルt−ブチルエーテル、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、イソオクタン、1,1,1−トリクロロエタン、n−ドデカン、ホワイトスピリット、テレビン、シクロヘキサン、四塩化炭素、キシレン、トルエン、ベンゼン、トリクロロエチレン、2−ブトキシエタノールアセテート(ブチルセロソルブ(登録商標)アセテート)、二塩化エチレン、及びモルホリンは一般に単一溶媒としては好ましくはないが、記載したような混合溶媒中で使用することができる。
【0036】
抽出工程において、有機溶媒対水性供給溶液の体積比は、抽出を最適化するためには、一般的には2:1〜5:1、より一般的には3:1〜4:1である。抽出は液液抽出に関して当該技術分野で既知の任意の手段によって実行することができる。
【0037】
例えば、これらの手段としては、標準容器内での攪拌、その後の沈降及びデカント、連続カラム抽出装置、及び/又は連続混合及びデカントの方法が挙げられる。バッチ設備、連続設備、及び連続向流設備を本発明において使用することができる。この設備の例としては、任意のKarr往復動プレート塔(Koch Inc.,Kansas City,Mo.)、任意のScheibel塔(Koch Inc.,Kansas City,Mo.)、任意の充填塔、任意のパルス充填塔、任意のミキサーセトラーの一式、任意のミキサー及び遠心分離機の一式、並びに任意の遠心向流抽出装置(例えば、Robatel Inc.,Pittsfield Mass.製の抽出装置)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0038】
実際に、本発明においては様々な抽出手法を有利に採用することができ、したがって本発明の範囲は特定の設備構成に限定されることを意図されない。さらに、本明細書中に記載される種々のプロセス工程(第1の抽出、第1の抽出の逆洗、及び第2の抽出)は、設備の種々の容器又は部品において行うことができる。代替的には、これらの工程は全て同じ容器内で行ってもよく、又は或る特定の態様では、任意の順序で若しくは同時に行ってもよい。
【0039】
本発明を適用する材料がスクラロース−6−アシレートである場合、アシレート基は塩素化反応中にスクロースの6位を保護するのに好適な任意の基であってもよいが、アセテート及びベンゾエートが好ましい。
【0040】
本発明のプロセスをスクラロース−6−アシレートに適用する場合、スクラロースを得るためにはこの化合物を脱アシル化する必要がある。脱アシル化を行う方法は当該技術分野で既知である。例えば、米国特許第6,890,581号明細書(その全体が参照により本明細書中に援用される)に開示される方法を使用することができる。
【0041】
本発明の方法によって精製されたスクラロースは、必要に応じてさらに精製してもよい。好適な技法としては液液抽出及び結晶化が挙げられる。好適な技法は、特許文献10及び米国特許第6,998,480号明細書(どちらもその全体が参照により本明細書中に援用される)に開示されている。
スクロース−6−エステルの調製
スクロースの6−ヒドロキシルの選択的保護は、有機スズ系アシル化促進剤の存在下、無水極性非プロトン性溶媒中で、スクロース−6−エステルを生成させるのに十分な温度及び期間で、スクロースと無水酢酸又は無水安息香酸等のカルボン酸無水物とを反応させることによって実行することができる。6−エステル基は6位のヒドロキシルを塩素化反応から保護する。したがって、塩素化反応条件に安定であり、得られたスクラロースに影響を与えない条件下で除去することができる任意のエステル基が使用され得る。スクロース−6−アセテートを調製する場合、有機スズ系アシル化促進剤として、例えば1,3−ジアセトキシ−1,1,3,3−テトラブチルジスタンノキサン、及びカルボン酸無水物として無水酢酸を使用することができる。スクロース−6−エステルの調製は、例えばO' Brienの米国特許第4,783,526号明細書、Naviaの米国特許第4,950,746号明細書、Simpsonの米国特許第4,889,928号明細書、Neiditchの米国特許第5,023,329号明細書、Walkupの米国特許第5,089,608号明細書、Vernonの特許文献7、Sankeyの米国特許第5,470,969号明細書、Kahnの米国特許第5,440,026号明細書、Clarkの米国特許第6,939,962号明細書、及びLiの米国特許出願公開第2007/0227897号明細書(それらの開示全体が参照により本明細書中に援用される)に開示されている。
スクラロース−6−エステル含有供給流の調製
スクロース−6−エステルをスクラロース−6−エステルへと変換するために、スクロース−6−エステルの4位、1’位、及び6’位のヒドロキシルをクロロ基へと変換し、4位での立体化学的配置を反転させる。4位での立体化学的配置の反転を伴う、このエステルの4位、1’位、及び6’位のヒドロキシルのクロロ基への変換は、Walkupの特許文献3、Jaiの米国特許出願公開第2006/0205936号明細書、及びFryの米国特許出願公開第2007/0100139号明細書(それらの開示全体が参照により本明細書中に援用される)に開示されている。
【0042】
塩素化プロセスは以下の工程を含む。スクロース−6−エステル、第三級アミド、及び少なくとも7モル当量の塩素化剤を含む反応混合物を調製する。例えば、一プロセスでは、スクロース−6−エステルは、約20wt%〜約40wt%のスクロース−6−エステルを含む供給流中に添加することができる。反応混合物中の全炭水化物に対する第三級アミドの重量比は、約5:1〜約12:1であり得る。代替的には、予め形成したクロロホルムイミニウム塩、例えば(クロロメチレン)ジメチルアンモニウムクロリド(アーノルド試薬)等を使用することができる。(クロロメチレン)ジメチルアンモニウムクロリドは、例えばホスゲンとN,N−ジメチルホルムアミドとの反応によって調製することができる。典型的には、(クロロメチレン)ジメチルアンモニウム塩対スクロース−6−エステルのモル比は約7:1〜約11:1である。
【0043】
続いて、スクロース−6−エステルの2位、3位、4位、1’位、3’位、4’位、及び6’位のヒドロキシル基を、O−アルキルホルムイミニウム基へと変換する。得られた反応混合物を、残存するヒドロキシル基がO−アルキルホルムイミニウム基として残るスクラロース−6−エステルの誘導体を含有する生成物を生成させるのに十分な温度(単数又は複数)及び期間(単数又は複数)で加熱する。例えば、Walkupの特許文献3(その開示が参照により本明細書中に援用される)及びFryの米国特許出願公開第2007/0100139号明細書(その開示が参照により本明細書中に援用される)は、かかるプロセスを開示している。
【0044】
クロロホルムイミニウム塩又はビルスマイヤー試薬の形成は塩素化反応に必須ではないため、塩素化剤とは、クロロホルムイミニウム塩若しくはビルスマイヤー試薬を形成するために使用することができるか、又はスクロース−6−エステルのヒドロキシル基をクロロ基へと変換することができる任意の化合物を指す。使用することができる幾つかの塩素化剤としては、例えばホスゲン、オキシ塩化リン、五塩化リン、塩化チオニル、塩化スルフリル、塩化オキサリル、クロロギ酸トリクロロメチル(「ジホスゲン」)、炭酸ビス(トリクロロメチル)(「トリホスゲン」)、及びメタンスルホニルクロリドが挙げられる。使用することができる第三級アミドとしては、例えばN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N−ホルミルピペリジン、N−ホルミルモルホリン、及びN,N−ジエチルホルムアミドが挙げられる。N,N−ジメチルホルムアミドを第三級アミドとして使用する場合、反応溶媒としても使用することができる。最大で反応媒体の液体相の約80vol%以上の共溶媒を使用することができる。有用な共溶媒は、共に化学的に不活性であり、反応が一塩素化段階で本質的に均一となることを可能とする十分な溶媒力をもたらす溶媒、例えばトルエン、o−キシレン、1,1,2−トリクロロエタン、1,2−ジエトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテルである。
【0045】
反応混合物のクエンチによって、2位、3位、3’位、及び4’位のヒドロキシル基が元に戻り、スクラロース−6−エステルが形成される。反応混合物は、反応において使用される塩素化剤の量に対して約0.5モル当量〜約2.0モル当量、典型的には約1.0モル当量〜約1.5モル当量のアルカリを添加することによってクエンチすることができる。反応をクエンチするために、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物の水溶液、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物の水性スラリー、又は水酸化アンモニウム水溶液を使用することができる。例えば、約5wt%〜約35wt%、典型的には約8wt%〜約20wt%、好ましくは約10wt%〜約12wt%を含有する水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ金属水酸化物の水溶液を使用することができる。
【0046】
下記に記載されるように、二重流(dual stream)プロセス又は循環プロセスによって反応混合物にアルカリを添加することでクエンチを実行することができる。いずれの場合も、アルカリの添加の間、pH及び温度を制御する。クエンチは典型的には、約8.5〜約10.5のpH及び約0℃〜約60℃の温度で実行される。好ましくは、pHはクエンチ反応の間、約10.5を上回ってはならない。
【0047】
二重流プロセスにおいては、クエンチは、反応容器にアルカリ水溶液をゆっくりと添加すると同時に、塩素化反応材料をゆっくりと添加することによって実行される。塩素化反応混合物及びアルカリ水溶液は、所望の量の塩素化反応混合物が添加されるまで同時にゆっくりと添加される。さらなるアルカリ水溶液を所望のpHに達するまで添加する。次いで、反応の残りの期間中、温度及びpHを所望のレベルに維持する。このプロセスはバッチプロセスであっても、又は連続プロセスであってもよい。
【0048】
循環プロセスにおいては、クエンチは塩素化反応混合物を容器から循環ループを通して循環させることによって実行される。塩素化反応混合物及びアルカリ水溶液を、この循環ループ内にゆっくりと添加する。所望のpHに達するまで十分なアルカリ水溶液を添加する。次いで、反応の残りの期間中、温度及びpHを所望のレベルに維持する。このプロセスはバッチプロセスであっても、又は連続プロセスであってもよい。
【0049】
クエンチに続いて、酸水溶液、例えば塩酸水溶液を添加することによって反応混合物を中和することができる。得られた混合物は、主要な溶媒が水である水性溶媒中に、スクラロース−6−エステル、塩素化炭水化物不純物を含む他の炭水化物、未反応の第三級アミド、及び塩を含むものである。
スクラロース−6−エステルのスクラロースへの変換
スクラロース−6−エステル含有水性供給流は、典型的にはスクラロース及びスクラロース−6−エステルの両方を含む。スクラロース−6−エステルを加水分解する方法は、例えばCataniの米国特許第5,977,349号明細書、同第6,943,248号明細書、同第6,998,480号明細書、及び特許文献10、Vernonの米国特許第6,890,581号明細書、El Kabbaniの米国特許第6,809,198号明細書、及び同第6,646,121号明細書、Naviaの米国特許第5,298,611号明細書及び特許文献8、及び米国特許出願公開第2004/0030124号明細書、Liesenの米国特許出願公開第2006/0188629号明細書、Fryの米国特許出願公開第2006/0276639号明細書、El Kabbaniの米国特許出願公開第2007/0015916号明細書、Deshpandeの米国特許出願公開第2007/0160732号明細書、並びにRatnamの米国特許出願公開第2007/0270583号明細書(それらの開示全体が参照により本明細書中に援用される)に開示されている。
【0050】
例えば、(a)スクラロース−6−エステルは、保護基の除去を達成するのに十分な温度及び期間で、反応混合物のpHを約11±1へ上昇させることによってスクラロースへと加水分解することができ、(b)第三級アミドを例えば水蒸気ストリッピングによって除去する。工程(a)又は工程(b)のいずれを最初に実行してもよい。代替的には、スクラロース−6−エステルのスクラロースへの変換は、ナトリウムメトキシドを含有するメタノール中で実行することができる。スクラロース−6−エステルがスクラロース−6−アセテートである場合、スクラロース及び酸のメチルエステル、例えば酢酸メチルを形成するエステル交換反応が起こる。酸のメチルエステルは、蒸留によって除去することができ、得られたスクラロース含有生成物を水に溶解させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のプロセスはスクラロースの調製に有用である。本発明は、6−O−アシル前駆体のアルカリ脱アシル化及び中和によって得られるような、純粋でないスクラロース水溶液の供給流からの結晶性スクラロースの収率の増大をもたらす。
【0052】
スクラロースは、多くの食品用途及び飲料用途、並びに他の用途で使用することができる高甘味度甘味料である。かかる用途としては、例えば飲料、複合甘味料(combination sweeteners)、消費者製品、甘味料製品、錠剤コア(tablet cores)(Luberの米国特許第6,277,409号明細書)、医薬組成物(Luberの米国特許第6,258,381号明細書、Rocheの米国特許第5,817,340号明細書、及びMcNallyの米国特許第5,593,696号明細書)、速吸収性液体組成物(Gelotteの米国特許第6,211,246号明細書)、安定な発泡組成物(Gowan, Jr.の米国特許第6,090,401号明細書)、デンタルフロス(Ochsの米国特許第6,080,481号明細書)、速崩壊性医薬品剤形(Gowan, Jr.の米国特許第5,876,759号明細書)、薬用飲料濃縮物(Shahの米国特許第5,674,522号明細書)、医薬水性懸濁液(Ratnarajの米国特許第5,658,919号明細書、Gowan, Jr.の米国特許第5,621,005号明細書及び同第5,374,659号明細書、並びにBlaseの米国特許第5,409,907号明細書及び同第5,272,137号明細書)、フルーツスプレッド(Antenucciの米国特許第5,397,588号明細書、及びSharpの米国特許第5,270,071号明細書)、液体濃縮組成物(Antenucciの米国特許第5,384,311号明細書)、及び安定化ソルビン酸溶液(Merciadezの米国特許第5,354,902号明細書)が挙げられる。許容甘味度(acceptable sweetness)の決定は、当業者に良く知られた当該技術分野で既知の様々な標準「味覚テスト」プロトコル、例えばMerkelの米国特許第6,998,144号明細書及びShamilの米国特許第6,265,012号明細書において言及されるプロトコル等によって達成することができる。
【0053】
本発明は以下の実施例を参照してさらに説明されるが、多くの変形形態が可能であり、当業者によって使用され得ることを認識されたい。
【実施例】
【0054】
実施例1
ジメチルアンモニウムクロリドの除去
様々な不純物を含有するスクラロース溶液を、上記に示したような、多数の以前に開示されたスクラロースを合成するプロセスによって得ることができる。例えば特許文献8を参照されたい。本発明の一実施形態では、6−O−アシルスクラロース誘導体を脱アシル化し、水蒸気ストリッピングを行って、塩素化反応から残っているジメチルホルムアミドを除去した。これによって、ほぼ以下のような組成を有する水溶液が生じた:
5%の全炭水化物(そのうち25%がジクロロ糖類であり、5%がテトラクロロ糖類であり、5%が他のトリクロロ糖類であり、65%がスクラロースである)
1000ppm未満のDMF
13%のNaCl
2%の有機塩(DMAHClを含む)、及び
80%の水。
【0055】
この溶液を、真空蒸発により重量の約70%を除去することによって、約34%が炭水化物となるまで濃縮した。塩の濾過によって合成(resultant)流を生成したが、これを分析したところ、15重量%のDMA及び2.3重量%のナトリウムを含有していた。これを続いて適当な粘度とするために、水で4倍に希釈した。この流を、10%NaCl又は5%NaOHのいずれかで洗浄したDOWのHCRS樹脂のカラムに負荷した。樹脂1リットル当たり3当量のDMAを負荷した場合、負荷したDMAの約78%が樹脂上に保持された。充填した樹脂1リットル当たり1当量のDMAしか負荷しなかった場合、負荷したDMAの100%が保持された。充填した樹脂1リットル当たり2当量のDMAを負荷した場合、負荷したDMAの92%が保持された。残留スクラロースは樹脂再生前に置換される際、幾らかの希釈を受けた。
実施例2
分配係数に対するNaCl及びDMAHClの影響の実験証明
DMAHCl、NaCl、及びスクラロースを含有する一連の水溶液を、表1に示すように水中で作製した。溶液は全て室温で無色透明であった。
【0056】
【表1】

【0057】
各試料を約37gの酢酸エチル(EA)と共に振盪した。混合物を沈降させると、重相(水性)及び軽相(EAベース)が形成された。これらそれぞれの相の重量を記録し、各相をそのスクラロース含有量について解析した。また、各相の乾燥固形分を蒸発乾固によって測定した(水分バランス(moisture balance))。結果を下記表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
提示したデータから、各々の実験について分配係数Kを算出することが可能であり、Kは以下のように定義される:
K=(軽相中のスクラロースのwt%)/(重相中のスクラロースのwt%)
【0061】
【表4】

【0062】
統計的解析
上記実験データは表5に示すようにまとめることができるが、ここでDMAHCl、NaCl、及びスクラロースの重量は実験に付す初期供給流中の水に対するwt%として表している:
【0063】
【表5】

【0064】
重回帰技法を用いたこのデータの統計的解析によって、これら全ての成分の濃度がKの観察値に影響を与えることが示される:
【0065】
【表6】

【0066】
表6は、塩化ナトリウム及びスクラロースの重量%濃度が、Kに対してプラスの影響を与え(すなわち、供給流中にこれらの成分が多いほど、K値が高くなる)、一方で驚くべきことに、DMAHClの重量%が逆の影響を与える(DMAHClの重量%が高いほど、Kが低くなる)ことを示す。これらの回帰係数を使用してK値を予測する場合、表7に示すように密接な相関が見られる:
【0067】
【表7】

【0068】
考察
塩化ナトリウムが典型的な「塩析」効果を示すことがこのデータから明らかである。この効果は通常、NaClを水相中に溶解することによって、(イオン対により)高極性の媒体が生じるとして説明される。この媒体においては、電気的に中性な炭水化物ベースの種(スクラロース等)の溶媒和エネルギーは比較的低いため、スクラロースが優先的に酢酸エチル相へと分配される(このためKが比較的高くなる)。
【0069】
DMAHClも塩であり、NaClと同様の影響を示すことが予想されたかもしれない。しかしながら、驚くべきことに逆の影響を示す。この理由は明らかでない。
結論:プロセスに関する結果
添付の図面は、DMAHClに対するNaClの比率(他の全てのパラメータは一定に保つ)の予測される分配係数(Kの予測値)への影響を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクラロース又はスクラロース−6−アシレートを、少なくとも該スクラロース又は該スクラロース−6−アシレート、他の塩素化糖類、ジメチルアンモニウムクロリド、並びにアルカリ金属塩化物、塩化アンモニウム、及びアルカリ土類金属塩化物から成る群から選択されるさらなる塩化物を含有する水溶液から、前記スクラロース又は前記スクラロース−6−アシレート用の有機溶媒へと、前記スクラロース又は前記スクラロース−6−アシレートが前記有機溶媒へと抽出されるよう該有機溶媒と前記水溶液とを接触させることにより抽出する方法であって、接触の前又は接触の間に、前記スクラロース又は前記スクラロース−6−アシレートの前記有機溶媒への分配係数が増大するよう、前記水溶液中のジメチルアンモニウムクロリドに対する前記さらなる塩化物の比率を増大させる、方法。
【請求項2】
スクラロース又はスクラロース−6−アシレートを、少なくとも該スクラロース又は該スクラロース−6−アシレート、他の塩素化糖類、ジメチルアンモニウムクロリド、並びにアルカリ金属塩化物、塩化アンモニウム、及びアルカリ土類金属塩化物から成る群から選択されるさらなる塩化物を含有する水溶液から、前記スクラロース又は前記スクラロース−6−アシレート用の有機溶媒へと抽出する方法であって、
ジメチルアンモニウムクロリドを前記水溶液から除去して、ジメチルアンモニウムクロリドに対する前記さらなる塩化物の比率を増大させ、それによりスクラロースの前記有機溶媒への分配係数を増大させる工程、及び
前記有機溶媒と得られた溶液とを接触させ、前記スクラロース又は前記スクラロース−6−アシレートを該有機溶媒へと抽出する工程を含む、方法。
【請求項3】
スクラロースをスクラロース合成に由来する供給流から精製する方法であって、該供給流を一連の精製工程に付すが、該工程の少なくとも1つが、スクラロースを、少なくともスクラロース、他の塩素化糖類、ジメチルアンモニウムクロリド、並びにアルカリ金属塩化物、塩化アンモニウム、及びアルカリ土類金属塩化物から成る群から選択されるさらなる塩化物を含有する水溶液から、スクラロース用の有機溶媒へと、スクラロースが前記有機溶媒へと抽出されるよう該有機溶媒と前記水溶液とを接触させることにより抽出することを含み、接触の前又は接触の間に、スクラロースの前記有機溶媒への分配係数が増大するよう、前記水溶液中のジメチルアンモニウムクロリドに対する前記さらなる塩化物の比率を増大させる、方法。
【請求項4】
スクラロース−6−アシレート合成に由来する供給流からスクラロースを製造する方法であって、該供給流を一連の精製工程に付し、精製されたスクラロース−6−アシレートを次いで脱アシル化して、スクラロースを得るが、該精製工程の少なくとも1つが、スクラロース−6−アシレートを、少なくともスクラロース−6−アシレート、他の塩素化糖類、ジメチルアンモニウムクロリド、並びにアルカリ金属塩化物、塩化アンモニウム、及びアルカリ土類金属塩化物から成る群から選択されるさらなる塩化物を含有する水溶液から、スクラロース−6−アシレート用の有機溶媒へと、スクラロース−6−アシレートが前記有機溶媒へと抽出されるよう該有機溶媒と前記水溶液とを接触させることにより抽出することを含み、前記接触の前又は前記接触の間に、スクラロース−6−アシレートの前記有機溶媒への分配係数が増大するよう、前記水溶液中のジメチルアンモニウムクロリドに対する前記さらなる塩化物の比率を増大させる、方法。
【請求項5】
前記抽出の前に、ジメチルアンモニウムクロリドを前記水溶液から除去して、ジメチルアンモニウムクロリドに対する前記さらなる塩化物の比率を増大させる、請求項1、3又は4に記載の方法。
【請求項6】
前記ジメチルアンモニウムクロリドを、遊離ジメチルアミンが形成されるようpHを調整し、該ジメチルアミンを熱及び/又は真空を適用して蒸発させることによって除去する、請求項2又は5に記載の方法。
【請求項7】
前記水溶液中のジメチルアンモニウムクロリド濃度を20000ppm以下に減少させるのに十分なジメチルアンモニウムクロリドを除去する、請求項2又は5に記載の方法。
【請求項8】
前記水溶液中のジメチルアンモニウムクロリド濃度を1000ppm以下に減少させるのに十分なジメチルアンモニウムクロリドを除去する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記水溶液中のジメチルアンモニウムクロリドに対する前記さらなる塩化物の比率を、10:1〜100:1の値まで増大させる、請求項1、2、3又は4に記載の方法。
【請求項10】
前記水溶液中のジメチルアンモニウムクロリドに対する前記さらなる塩化物の比率を、10:1〜25:1の値まで増大させる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記抽出の前に、前記水溶液を蒸発させて、乾燥固形分を15%〜65%のレベルまで増大させる、請求項1、2、3又は4に記載の方法。
【請求項12】
乾燥固形分を30%〜55%のレベルまで増大させる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記さらなる塩化物が塩化ナトリウムである、請求項1、2、3又は4に記載の方法。
【請求項14】
前記有機溶媒が、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸n−プロピル、酢酸n−ブチル、酢酸アミル、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソアミルケトン、塩化メチレン、クロロホルム、n−ブタノール、及びそれらの混合物から成る群から選択される溶媒を含み、好ましくは酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸n−プロピル、酢酸n−ブチル、メチルイソブチルケトン、n−ブタノール、及びそれらの混合物から成る群から選択される溶媒を含み、より好ましくは酢酸エチルを含む、請求項1、2、3又は4に記載の方法。
【請求項15】
前記有機溶媒が酢酸エチルである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記水溶液に対する前記有機溶媒の体積比が2:1〜5:1である、請求項1、2、3又は4に記載の方法。
【請求項17】
前記水溶液に対する前記有機溶媒の体積比が3:1〜4:1である、請求項16に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2011−516491(P2011−516491A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−503135(P2011−503135)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【国際出願番号】PCT/US2009/039105
【国際公開番号】WO2009/124116
【国際公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【出願人】(509178806)テート アンド ライル テクノロジー リミテッド (17)
【Fターム(参考)】