説明

改良されたプローモーターおよびそれを用いたL−リシンの生産方法

【課題】アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ遺伝子のプロモーターを改良して発現効率を高めた微生物およびそれを用いたL−リシンの生産方法の提供。
【解決手段】本発明は、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼをコードする遺伝子と作動可能に連結され、改良されたプロモーター活性を有するコリネ型微生物由来の核酸分子、該核酸分子を含むベクター、該ベクターで形質転換された形質転換体、および該形質転換体を用いてL−リシンを生産する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改良されたプロモーターおよびそれを用いたL−リシンの生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コリネ型微生物は、アミノ酸と核酸関連物質の生産に伝統的に最も広く用いられる産業用微生物である。主にL−リシン、L−トレオニン、L−アルギニン、およびグルタミン酸塩などのアミノ酸および各種核酸を含む飼料、医薬品および食品などの分野で多様な用途を有する化学物質を生産するのに用いられるグラム陽性細菌であり、生育にビオチンを要求する。細胞分裂の際に直角に折り曲げられる特徴(snapping)を持っており、生成された代謝物質に対する分解活性が低いことも、この菌が持つ利点の一つである。代表的な菌種としては、コリネバクテリウム・グルタミクム(Corynebacterium glutamicum)を含むコリネバクテリウム属、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)を含むブレビバクテリウム属、アルスロバクター属(Arthrobacter sp.)、およびマイクロバクテリウム属(Microbacterium sp.)などがある。
【0003】
L−リシンは、L−アミノ酸の一つであって、その他のアミノ酸の吸収を増加させることにより飼料の質を向上させることが可能な能力により動物飼料補充物として商業的に用いられており、医学では注入用溶液剤の成分として使用され、製薬産業にも使用されている。よって、リシンを産業的に生産することは経済的に重要な産業工程である。
【0004】
リシンの生産効率を改善させるための方法として、リシン生合成経路上の遺伝子を増幅させるか、あるいは該遺伝子のプロモーターを改変して、生合成経路上の酵素活性を増大させる方法が用いられてきた。従来のリシン生合成関連遺伝子が強化されたコリネバクテリウム菌株およびそれを用いたL−リシンの生産方法が知られていた。例えば、米国特許第6,746,855号には、lysE遺伝子(リシン排出キャリア遺伝子)が強化され、dapA遺伝子、lysC遺伝子、pyc遺伝子およびdapB遺伝子からなる群より選ばれた遺伝子がさらに導入されたコリネバクテリアを培養してL−リシンを生産する方法が開示されている。また、米国特許第6,221,636号には、L−リシンおよびL−トレオニンによるフィードバック阻害が実質的に脱感作されたアスパルトキナーゼをコードするDNA配列、およびジアミノピメリン酸デカルボキシラーゼをコードするDNA配列を含む組換えDNAで形質転換されたコリネバクテリアが開示されている。
【0005】
そして、米国特許公開番号第20060003424号には、GDH遺伝子、CS遺伝子、ICDH遺伝子、pDH遺伝子、ACO生産遺伝子などのプロモーター配列をコンセンサス(consensus)配列と類似するように改変して酵素活性が増加したコリネ型微生物を用いて、L−アミノ酸を生産する方法が開示されている。
【0006】
前記のようにコリネ型微生物を、遺伝子工学的または代謝工学的技術を用いて目的の物質などを高力価で生産することが可能な菌株として開発するためには、微生物内の様々な代謝過程に関連した遺伝子の発現を選択的に調節することができなければならない。このような調節のためには、調節遺伝子の一つとしてDNA分子上にRNA合成酵素が結合して転写(transcription)を開始する部位としてのプロモーターの活性を調節することが重要である。
ところが、現在まで、リシン生合成経路のうち、リシンの前駆体であるアスパラギン酸塩を供給する重要な役割を担当すると思われるアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(aspartate aminotransferase;EC;2.6.1.1;aspB)遺伝子のプロモーターを改良して、発現率を高めたコリネ型細菌については開示されたことがない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、aspB遺伝子のプロモーターを改良して発現率を高めた微生物を提供し、該微生物を用いて効率よくリシンを生産する方法を提供することである。
すなわち、本発明の目的は、改良されたプロモーターの活性を有するコリネバクテリウム・グルタミクム由来の核酸分子を提供することにある。
本発明の他の目的は、前記プロモーターの活性を有する核酸分子を含むベクターを提供することにある。
本発明の別の目的は、前記ベクターで形質転換された形質転換体を提供することにある。
本発明の別の目的は、前記形質転換体を培養する段階を含む、リシンの生産方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意努力した結果、コリネバクテリウム染色体上のaspB遺伝子のプロモーターを塩基置換によって改良し、改良されたプロモーターをコリネバクテリウム属微生物に導入させることにより、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ酵素の活性が内在的活性より増加しているコリネバクテリウム属微生物を提供することができることを見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0009】
aspB遺伝子と作動可能に連結された、コリネバクテリウム・グルタミクム由来の、改良されたプロモーター活性を有する本発明に係る核酸分子は、野生型プロモーターに比べて高いプロモーター活性を示すので、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼの酵素活性を増加させ、それによりリシンの生産効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1はコリネバクテリウム染色体挿入用ベクターpDZを示す図である。
【図2】図2はコリネバクテリウム塩基置換用ベクターpDZ-aspBP1を示す図である。
【図3】図3はコリネバクテリウム塩基置換用ベクターpDZ-aspBP2を示す図である。
【図4】図4はコリネバクテリウム塩基置換用ベクターpDZ-aspBP3を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
一つの態様として、本発明は、配列番号2、3、および4よりなる群から選ばれたいずれか一つの塩基配列を持つ、改良されたプロモーター活性を有する核酸分子に関する。
【0012】
好ましい一実施態様として、前記の塩基配列は、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼをコードする遺伝子と作動可能に連結することができ、コリネバクテリウム属由来であり得る。
【0013】
本発明において、用語「プロモーター」とは、RNAポリメラーゼが結合して遺伝子の転写を開始するようにするDNA領域、すなわち、通常コード領域の上流に見出される非翻訳核酸配列をいい、RNAポリメラーゼの認識部位を含み、かつmRNA転写開始部位の5’上流側に位置し、プロモーター下流にある遺伝子のmRNAへの転写開始活性を有する。
【0014】
本発明のプロモーター活性を有するコリネバクテリウム・グルタミクム核酸分子は、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼをコードする遺伝子と作動可能に連結される。アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼをコードする遺伝子は、aspB遺伝子であって、コリネバクテリウム属細菌でリシンを生産する生合成経路上の主要な遺伝子である。
【0015】
アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼは、グルタミン酸塩のアミノ基をオキサロ酢酸へ転移する反応を触媒することにより、リシン生合成の前駆体であるアスパラギン酸塩を供給する重要な役割をする。したがって、前記アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼの活性が増加すると、リシン生合成の前駆体であるアスパラギン酸塩が増加し、結局、リシンの生合成が増加することとなる。
【0016】
また、前記用語「作動可能に連結」とは、本発明のプロモーター活性を有する核酸配列がアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼをコードする遺伝子の転写を開始および媒介するように、前記遺伝子配列とプロモーター配列とが機能的に連結されていることを意味する。これは本発明のプロモーター活性を有する核酸配列がaspB遺伝子と作動可能に連結されることにより、前記オペロン遺伝子の転写活性を調節することができることを意味する。
【0017】
現在まで、aspB遺伝子のプロモーター上で遺伝子の転写を開始する転写開始点(transcriptional start site)は、知られていなかった。
本発明者らは、具体的な一実施例において、aspB遺伝子の転写開始点同定のために5’−RACE(Rapid Amplification of 5’cDNA Ends)技法(Sambrook,J.,Russell,D.W.Molecular Cloning:a laboratory manual 3rd ed.8.54)を行った。5’−RACEは、mRNAの一部が既知の場合に、それを用いて5’上流の未知領域をクローニングするための方法であり、Takara社の5’−Full Race core set(Cat.No.6122)を用いて実験を行った。実験の結果、aspB遺伝子の転写開始点は、ATG開始コドンの上流72bpに位置するGであると同定された。
前記で同定された転写開始点を+1位置にして、改良のためのプロモーターコンセンサス配列部位を選定した。
【0018】
本発明のプロモーター活性を有する核酸配列は、コリネバクテリウム・グルタミクムにおいてaspB遺伝子のプロモーターを改良したもので、野生型プロモーターより高いプロモーター活性を持つようにしたことを特徴とする。さらに高いプロモーター活性を持つように改良する方法としては、当業界における公知の方法を、制限なく使用することができ、好ましくは、コリネバクテリウム・グルタミクムaspB遺伝子のプロモーター核酸配列に、欠失、挿入、非保存的または保存的置換またはこれらの組み合わせにより、配列上の変異を誘導して改良することができる。
【0019】
本発明のプロモーター核酸分子は、標準分子生物学技術を用いて単離または製造できる。例えば、適切なプライマー配列を用いてPCRによって単離することができる。また、自動化されたDNA合成機を用いる標準合成技術を利用して製造することもできる。
【0020】
具体的な一実施例において、本発明者は、米国国立衛生研究所のジーンバンク(NIH GenBank)から、aspB遺伝子(コリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032のゲノム(NCBI登録番号:NC_003450.3)上の遺伝子座タグ(locas tag)NCg10237)のプロモーター部位を含む塩基配列を収得し(配列番号1)、この塩基配列に基づいて8つのプライマー(配列番号10〜17)を合成した。その後、コリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032の染色体DNAを鋳型とし、前記プライマーを用いてPCRを行い、主要部位に改変された配列を有するプロモーターを含む本発明に係る核酸分子(配列番号2、3、および4)を収得した。
【0021】
本発明のコリネバクテリウム・グルタミクムプロモーター活性を有する核酸分子は、好ましくは原核細胞、特に大腸菌またはコリネ型細菌における遺伝子発現のためのプロモーターとして有用である。本発明において、用語「コリネ型細菌」は、コリネバクテリウム属(Corynebacterium sp.)、ブレビバクテリウム属(Brevibacterium sp.)、アルスロバクター属(Arthrobacter sp.)、およびマイクロバクテリウム属(Microbacterium sp.)の微生物を含む概念である。このようなコリネ型細菌は、コリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032、コリネバクテリウム・サーモアミノゲネス(thermoaminogenes)FERM BP−1539、ブレビバクテリウム・フラバム(Brevibacterium flavum)ATCC14067、ブレビバクテリウム・ラクトフェルメンタム(lactofermentum)ATCC13869、およびこれらから製造されたL−アミノ酸生産突然変異体または菌株、例えば、コリネバクテリウム・グルタミクムKFCC10881、コリネバクテリウム・グルタミクムKFCC11001を含み、好ましくはコリネバクテリウム・グルタミクムKFCC10881であるが、これらの例に限定されない。
【0022】
他の態様として、本発明は、前記改良されたプロモーター活性を有する核酸分子を含むベクターに関する。
本発明の用語「ベクター」は、適切な宿主内で目的の遺伝子を発現させることができるように適切な調節配列に作動可能に連結された遺伝子の塩基配列を含有するDNA構築物を意味する。前記調節配列は、転写を開始することが可能なプロモーター、そのような転写を調節するための任意のオペレーター配列、適切なmRNAリボソーム結合部位をコードする配列、並びに転写および翻訳の終結を調節する配列を含む。
【0023】
本発明で使用されるベクターは、宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、当業界における公知の任意のベクターを用いることができる。例えば、プラスミド、ファージ粒子、または簡単には潜在的ゲノム挿入物であり、好ましくはpECCG122ベクター(ノ・ガブスら、Kor.Jour.Microbiol.July.1991 p.149−154)を使用することができるが、これに限定されない。ベクターは、適当な宿主内に形質転換された後、宿主ゲノムとは関係なく複製または機能することができ、ゲノムそのものに組み込まれる場合もある。
【0024】
具体的には、本発明のベクターは、宿主細胞内に導入されると、ベクター内のプロモーター活性を有する核酸分子配列が宿主細胞ゲノム上の内在性(endogeneous)aspB遺伝子のプロモーター部位の配列と相同組換えを起こし、染色体内に挿入され得る。したがって、本発明のベクターとしては、宿主染色体への挿入有無を確認するための選択マーカー(selection marker)をさらに含みうる。選択マーカーは、ベクターで形質転換された細胞を選択、すなわち、目的遺伝子の挿入有無を確認するためのもので、薬物耐性、栄養要求性、細胞毒性剤に対する耐性または表面タンパク質の発現などの選択可能な表現型を付与するマーカーが使用できる。選択剤を含む環境では、選択マーカーを発現する細胞のみが生存し、あるいは他の表現形質を示すので、形質転換された細胞を選択することができる。本発明のベクターは、好ましくはlacZ遺伝子を含み得る。
【0025】
本発明の具体的な一実施例において、本発明者は、相同組換えによってコリネバクテリウム・グルタミクムのaspB遺伝子のプロモーター部位を、プロモーター活性が増進するように変異したプロモーター配列に置換させることが可能なベクターを製造した。まず、大腸菌クローニング用ベクターpACYC177を制限酵素処理して平滑末端化した後、lacZ遺伝子を挿入させるために、大腸菌K12 W3110ゲノムDNAからPCRを用いて自体のプロモーターを含むようにlacZ遺伝子を増幅した後、多数の制限酵素認識部位を含むアダプター配列を挿入することにより、コリネバクテリウム染色体挿入用ベクターpDZを製造した(図1)。その後、上述したように高いプロモーター活性を持つように製造された、aspB遺伝子のプロモーター配列内に変異を有するプロモーターを含む核酸分子を、前記pDZベクターのアダプター部位に挿入することにより、配列番号2の核酸配列を含むベクターpDZ-aspBP1(図2)、配列番号3の核酸配列を含むベクターpDZ-aspBP2(図3)、および配列番号4の核酸配列を含むベクターpDZ-aspBP3(図4)を、それぞれ製造した。
【0026】
別の態様として、本発明は、前記ベクターで形質転換された形質転換体に関する。
本発明の用語「形質転換」は、DNAを宿主に導入し、該DNAが染色体外因子として、または染色体に組み込まれることによって複製可能になることを意味する。好ましい一実施態様として、ベクターで宿主細胞を形質転換した後、ベクター内のプロモーター活性を有する核酸分子配列は、宿主細胞ゲノム上の内在性(endogeneous)aspB遺伝子のプロモーター部位の配列と相同組換えを起こして染色体内に挿入されてもよいし、プラスミド形態で保持されてもよい。
【0027】
本発明のベクターによる細胞の形質転換は、核酸を細胞内に導入するいずれの方法でも行うことができる。宿主細胞に応じて、当分野における公知の適切な標準技術が選択され、例えば、エレクトロポーレション法(electroporation)、リン酸カルシウム(CaPO)沈殿、塩化カルシウム(CaCl)沈殿、マイクロインジェクション法(microinjection)、ポリエチレングリコール(PEG)法、DEAE−デキストラン法、カチオン性リポソーム法、および酢酸リチウム−DMSO法などがある。
【0028】
前記宿主細胞としては、DNAの導入効率が高く、導入されたDNAの発現効率が高い宿主を使用することが望ましいが、原核および真核を含む全ての微生物が使用可能であり、好ましくは大腸菌またはコリネ型細菌、さらに好ましくはコリネバクテリウム属またはブレビバクテリウム属、より一層好ましくはコリネバクテリウム・グルタミクムKFCC10881を使用することができる。
【0029】
本発明のベクターで形質転換された形質転換体では、相同組換えによってコリネバクテリウム・グルタミクムのaspB遺伝子のプロモーター部位を、プロモーター活性が増進するように変異したプロモーター配列に置換することにより、aspB遺伝子は改良されたプロモーターを有する。これにより該形質転換体は、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼの酵素活性が野生型よりも高いという特徴を持つ。
【0030】
本発明の具体的な一実施例では、本発明に係る、配列番号2で構成されるプロモーター活性を有する核酸分子を含むベクターpDZ-aspBP1(図2)、配列番号3で構成されるプロモーター活性を有する核酸分子を含むベクターpDZ-aspBP2(図3)、および配列番号4で構成されるプロモーター活性を有する核酸分子を含むベクターpDZ-aspBP3(図4)のそれぞれで、コリネバクテリウム・グルタミクムKFCC10881を形質転換させることにより、aspB遺伝子のプロモーター活性が増進した各形質転換体を製造した。
【0031】
本発明ではpDZ−aspBP1で形質転換させて得た形質転換体を、KFCC10881−aspBP1と、pDZ-aspBP2で形質転換させて得た形質転換体をKFCC10881−aspBP2と、pDZ-aspBP3で形質転換させて得た形質転換体をKFCC10881−aspBP3とそれぞれ命名した。それぞれの形質転換体のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼの活性を母菌株であるKFCC10881と比較したところ、それぞれの形質転換体は母菌株よりそれぞれ2.1倍、2.6倍および1.8倍活性が高いことが確認され(表3)、これによって本発明の改良されたプロモーターがアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼの活性を増加させることを確認した。また、前記形質転換体は、活性改善効果を有することが示されたので、KFCC10881−aspBP1、KFCC10881−aspBP2およびKFCC10881−aspBP3をそれぞれCA01−773、CA01−774、およびCA01-775と命名し、2010年2月5日付で韓国微生物保存センター(Korean Culture Center of Microorgianisms、以下、「KCCM」と略する)に受託番号KCCM11061P、KCCM11062P、およびKCCM11063Pで寄託した。
【0032】
別の態様として、本発明は、前記形質転換体を培養する工程を含む、リシンの生産方法に関する。
本発明において、形質転換体の培養は公知の方法によって行われ得る。培養温度、培養時間および培地のpHなどの条件は適切に調節できる。これらの公知の培養方法は、文献[Chmiel;Bioprozesstechnik 1.Einfuhrung in die Bioverfahrenstechnik(Gustav Fisher Verlag,Stuttgart,1991)、およびStorhas;Bioreaktoren und periphere Einrichtungen(Vieweg Verlag、Braunschweig / Wiesbaden、1994)]に詳細に記述されている。また、培養方法には回分式培養(batch culture)、連続式培養(continuous culture)、および流加式培養(fed−batch culture)が含まれる。好ましくはバッチ工程、または注入バッチまたは反復注入バッチ工程で連続的に培養することができるが、これらに限定されない。
【0033】
使用される培養培地は、特定の菌株の要求条件を適切に充足させなければならない。多様な微生物に対する培養培地は公知である(例えば、「Manual of Methods for General Bacteriology」from American Society for Bacteriology (Washington D.C.、USA、1981)。培地内の炭素供給源としては、糖および炭水化物(例:グルコース、スクロース、ラクトース、フルクトース、マルトース、モラッセ、澱粉およびセルロース)、油脂および脂肪(例:大豆油、ヒマワリ油、ピーナッツ油およびココナツ油)、脂肪酸(例:パルミチン酸、ステアリン酸およびリノール酸)、アルコール(例:グリセロールおよびエタノール)、および有機酸(例:酢酸)などを用いることができる。これらの物質は個別的にまたは混合物として使用できる。窒素供給源は、窒素含有有機化合物(例:ペプトン、酵母抽出液、肉汁、麦芽抽出液、トウモロコシ浸漬液、大豆粕粉および尿素)、または無機化合物(例:硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウムおよび硝酸アンモニウム)を用いることができ、これらの物質も個別的にまたは混合物として使用することができる。リン供給源としては、リン酸二水素カリウムまたはリン酸水素二カリウムまたは相応するナトリウム含有塩を用いることができる。
【0034】
また、培養培地は、成長に必須の金属塩(例:硫酸マグネシウムまたは硫酸鉄)を含有することができ、最終的に、アミノ酸およびビタミンなどの必須成長促進物質を前述した物質の他に使用することができる。適切な前駆体を前記培養培地にさらに加えることができる。前記供給物質は、培養培地に一度に全部加えるか、あるいは培養中に適切に供給することができる。
【0035】
培養培地のpHは、塩基性化合物(例:水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたはアンモニア)または酸性化合物(例:リン酸または硫酸)を適切に用いて調節することができる。発泡は、脂肪酸ポリグリコールエステルなどの起泡剤を用いて調節することができる。酸素または酸素含有ガス混合物、例えば空気を培養培地中に導入して好気性条件を維持することができる。培養温度は通常20〜45℃、好ましくは25〜40℃である。培養は所望のL−アミノ酸の生成量が最大に得られるまで続けられ、このような目的によって通常10〜160時間で達成される。L−リシンは培養培地中に排出されるか、あるいは細胞中に含まれていてもよい。
【0036】
一方、本発明の形質転換体を培養する工程を含むリシンの生産方法は、前記培養工程で生成されるリシンを回収する工程をさらに含みうる。当業界における公知の方法によって、細胞または培養培地からL−リシンを分離することができる。本発明において有用なL−リシン回収方法の例として、濾過、陰イオン交換クロマトグラフィー、結晶化およびHPLCなどの方法が挙げられるが、これらの例に限定されない。
以下、下記実施例によって本発明をより具体的に説明する。これらの実施例は本発明を例示的に実施するためのもので、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されない。
【実施例】
【0037】
本実施例では、改良されたプロモーター製作のために、aspB遺伝子の転写開始点を明らかにし、リシン生産菌株としてのコリネバクテリウム・グルタミクムのaspB遺伝子のプロモーターを、相同組換えによって改良されたプロモーターで置換するための組換えベクターを製作し、前記ベクターでコリネバクテリウム・グルタミクムKFCC10881菌株を形質転換させて、染色体上のプロモーターが改良された菌株を得ることにより、リシン生産効率の向上した菌株を製造した。
【0038】
本発明で利用するコリネバクテリウム・グルタミクムKFCC10881菌株は、コリネバクテリウム・グルタミクム野生株(ATCC13032)を母菌株として人工変異法によって製作されたS−(2−アミノエチル)システイン(以下、「AEC」という)に対する耐性およびホモセリン漏出(homoserine leaky)の特徴を持つ菌株である(韓国登録特許第0159812号、同第0397322号参照)。
【0039】
実施例1:aspB遺伝子転写開始点の同定
本実施例では、現在まで、知られていなかったaspB遺伝子の転写開始点(transcriptional start site)を同定した。
aspB遺伝子の転写開始点の同定のために、5’−RACE(Rapid Amplification of 5’cDNA Ends)技法(Sambrook, J., Russell, D.W. Molecular Cloning:a laboratory manual 3rd ed. 8.54)を用いた。
5’−RACEは、mRNAの一部が既知の場合に、それを用いて5’上流の未知領域をクローニングするための方法であり、本実施例ではTakara社の5’−Full Race core set(Cat.No.6122)を用いて実験を行った。
5’−RACE実験のために、米国国立衛生研究所のジーンバンク(NIH GenBank)に登録されたaspB遺伝子(コリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032のゲノム(NCBI登録番号:NC_003450.3)上の遺伝子座タグ(locas tag)NCg10237)の塩基配列に基づいて5つのプライマー(表1、配列番号5〜9)を合成した。
【0040】
【表1】

【0041】
まず、ATCC13032菌株のmRNAを抽出し、aspB遺伝子のmRNAに特異的な5’末端リン酸化RT−プライマー(配列番号5)を用いて逆転写反応で一本鎖(1st strand)cDNAを合成した。その後、RNaseHで処理してハイブリッドDNA−RNAのRNAを分解した後、RNAリガーゼにより一本のcDNAを環状に(あるいはコンカテマー化)した。
前記において、ライゲーション反応が終わった試料を鋳型とし、配列番号6と7をプライマーとして用いてPCR増幅をし、1次PCR産物を得た。前記で得られた1次PCR産物を鋳型とし、配列番号8と9をプライマーとして用いてPCRを再び行い、2次PCR産物を得た。PCRは、変性95℃、30秒、アニーリング55℃、30秒、および重合反応72℃、1分の条件を30サイクル繰り返し行った。最終的に得られたPCR産物は、遺伝子精製を行った後、シークエンシングによる塩基配列の分析を行った。
塩基配列の分析の結果、aspB遺伝子の転写開始点は、ATG開始コドンの上流72bpに位置するGであると同定された。前記において、同定された転写開始点を+1位置にし、改良のためのプロモーターコンセンサス配列部位を選定した。
【0042】
実施例2:プロモーター改良用組換えベクターの製作
(1)染色体挿入用ベクター(pDZ)の製作
本実施例では、大腸菌クローニング用ベクターpACYC177(New England Biolab、GenBank accetion #X06402)を基本ベクターとして用いて、コリネバクテリウム染色体挿入用ベクターpDZを製作した。
pACYC177ベクターをAcuIおよびBanI制限酵素で処理した後、クレノウ酵素処理によって平滑末端化した。選択マーカーとして使用される大腸菌由来のlacZ遺伝子は、大腸菌K12 W3110のゲノムDNAからPCRによって自体のプロモーターを含むように増幅した後、T4 DNAポリメラーゼおよびポリヌクレオチドキナーゼ処理によって5’−末端リン酸化および平滑化することにより準備した。このように準備した2種のDNA断片を接合し、接合された環状DNA分子の制限酵素BamHI部位に、人為的に合成した多数の制限酵素認識部位を含んでいるアダプター配列を挿入することにより、コリネバクテリウム染色体挿入用ベクターpDZを完成した。図1はコリネバクテリウム染色体挿入用ベクターpDZを示す図である。
【0043】
(2)aspB遺伝子のプロモーターを改良するための組換えベクター製作
本実施例では、リシンを生産する菌株としてのコリネバクテリウム・グルタミクム由来のaspB遺伝子のプロモーターを改良するための組換えベクターを製作した。
まず、米国国立衛生研究所のジーンバンク(NIH GenBank)から、aspB遺伝子(コリネバクテリウム・グルタミクムATCC13032のゲノム(NCBI登録番号:NC_003450.3)上の遺伝子座タグ(locas tag)NCg10237)のプロモーター部位を含む塩基配列(配列番号1)を収得し、改変されたプロモーター配列を含むDNAの断片(配列番号2、3、および4)を収得した。改変プロモーター配列は一般に微生物において知られているプロモーターコンセンサス配列に基づいて考案した。
また、前記変形されたプロモーター配列を製造するためのプライマーとしては、前記塩基配列に基づいて8つのプライマー(表2、配列番号10〜17)を合成した。
【0044】
【表2】

【0045】
コリネバクテリウム・グルタミクム由来のaspB遺伝子のプロモーター配列を得るために、コリネバクテリウム・グルタミクムKFCC10881の染色体DNAを鋳型とし、表2に表記されたオリゴヌクレオチド対をプライマーとしてPCRを行った。重合酵素はPfuUltraTM高信頼DNAポリメラーゼ(Stratagene)を使用した。PCRは、変性95℃、30秒、アニーリング55℃、30秒、および重合反応72℃、1分の条件を30サイクル繰り返し行った。その結果、置換部位を一方の側の末端に含んでいる300bp DNA断片を得た。aspBP1−1は配列番号10と12をプライマーとして用いて増幅されたものであり、aspBP1−2は配列番号11と13をプライマーとして用いて増幅されたものである。前記増幅産物を、予めXbaI制限酵素で切断して準備したpDZベクターと混合し、In−fusion Cloning Kit(TAKARA)を用いてクローニングすることにより、pDZ−aspBP1ベクターを得た。
pDZ−aspBP2およびpDZ−aspBP3の場合にも、pDZ−aspBP1の場合と同様の方法によって製作した。但し、挿入断片のPCR増幅の際に、pDZ−aspBP2の場合には、配列番号10と14をプライマーとして用いて得られたaspBP2−1断片、および配列番号11と15を用いて得られたaspBP2−2断片とを用いて製作し、pDZ−aspBP3の場合には、配列番号10と16をプライマーとして用いて得られたaspBP3−1断片と、配列番号11と17を用いて得られたaspBP3−2断片とを用いて製作した。
図2、3、および4は、それぞれ配列番号2、3、および4に該当するaspBP1、aspBP2、aspBP3を含んでいるコリネバクテリウム染色体置換用ベクターpDZ−aspBP1、pDZ−aspBP2およびpDZ−aspBP3を示す図である。
【0046】
実施例3:組換えベクターのコリネバクテリウム・グルタミクム菌株内への挿入
本実施例では、コリネバクテリウムの染色体上のaspB遺伝子のプロモーターを改良するために、前記で製作した組換えベクターでリシン生産菌株としてのコリネバクテリウム・グルタミクムKFCC10881を形質転換させて、菌株染色体のプロモーター配列と前記ベクター上のプロモーター配列とを相同組換えによって置換させることにより、染色体内に前記改良プロモーター配列を挿入した。
前記実施例2において製造した改良プロモーター配列を有するDNA断片を含む前記の組換えベクターであるコリネバクテリウム染色体置換用ベクターpDZ−aspBP1、pDZ−aspBP2およびpDZ−aspBP3を、それぞれコリネバクテリウム・グルタミクムKFCC10881に電気パルス法により導入し、形質転換した後(Appl.Microbiol.Biotechnol.(1999)52:541−545による形質転換法を用いる)、カナマイシン25mg/Lを含有する選択培地で、染色体上の同遺伝子との相同性により挿入された菌株を選択した。
ベクターが首尾よく染色体に挿入されたことは、X−gal(5−プロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトシド)を含む固体培地で青色を示すか否かを確認することにより、検出可能であった。1次染色体挿入された菌株を栄養培地で振とう培養(30℃、8時間)した後、それぞれ10−4から10−10まで希釈し、X−galを含んでいる固体培地に塗抹した。大部分のコロニーが青色を示すが、これに反して低い比率で現れる白色のコロニーを選択することにより、二重交差(Double−crossover)によってaspB遺伝子のプロモーター内で塩基配列が置換された菌株を選択した。このように選択された菌株は、PCRを用いた塩基置換の有無の確認および当該領域における塩基配列確認過程を経て最終選定した。
プロモーターの塩基置換の有無は、aspBP1の場合、配列番号11と19、aspBP2の場合、配列番号11と18、aspBP3の場合、配列番号11と18をプライマーとして用いてPCRを行うことにより分析し、目的の部位に対する塩基配列分析によって最終確認した。
最終的に、二重の交差過程を経て、染色体上のaspB遺伝子のプロモーターに塩基置換を含む、リシン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミクムKFCC10881−aspBP1、KFCC10881−aspBP2およびKFCC10881−aspBP3をそれぞれ得て、これらをそれぞれCA01−773、CA01−774およびCA01−775と命名し、2010年2月5日付で韓国微生物保存センターに受託番号KCCM11061P、KCCM11062PおよびKCCM11063Pで寄託した。
【0047】
実施例4:aspBプロモーター改良菌株におけるアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ酵素活性の測定
母菌株であるコリネバクテリウム・グルタミクムKFCC10881菌株および実施例3で最終的に製作されたL−リシン生産菌株であるコリネバクテリウム・グルタミクムKFCC10881−aspBP1、KFCC10881−aspBP2およびKFCC10881−aspBP3菌株のアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ酵素活性を測定するために、下記のような方法で培養し、培養液からタンパク質を分離して、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ活性を測定した。
対数期まで培養した培養液をOD600値が0.3となるように25mLの下記種培地に接種した後、OD600値が約15に達するまで培養した。
*種培地(pH7.0)
原糖20g、ペプトン10g、酵母抽出物5g、尿素1.5g、KHPO 4g、KHPO 8g、MgSO ・7HO 0.5g、ビオチン100μg、チアミンHCl 1000μg、カルシウム−パントテン酸2000μg、ニコチンアミド2000μg(蒸溜水1L基準)
培養液から遠心分離(5,000rpm、10分)によって菌体を回収し、0.1% Tris−HCl(pH8.0)緩衝溶液で2回洗浄した後、同緩衝溶液で600nmの濁度が160程度となるように懸濁した。懸濁液1.5mL当り1.25gのガラスビーズ(glass bead)を添加した後、ビーズビーター(bead beater)を用いて6分間菌体を破砕した。遠心分離(13,000rpm、30分)によって上澄み液を回収し、ブラッドフォード法(Bradford、M.M 1976.Anal.Biochem.72:248−254)によりタンパク質の濃度を定量した後、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ酵素活性の測定のための粗タンパク質溶液として使用した。
アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ酵素活性を測定するために、0.24M アスパラギン酸塩、0.09M Tris(pH7.8)、0.64mM NADH、0.11mM ピリドキサルリン酸塩(pyridoxal phosphate)、0.93kU/l MDH、0.42kU/l LDHを含む反応液に0.1mLの粗タンパク質溶液を混合し、30℃で10分間定置した後、12mMの2−オキソグルタル酸塩(oxoglutarate)を添加することにより反応を開始した。340nm波長で5分間吸光度の減少を測定してアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ酵素活性を計算した。アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ酵素活性単位(U)は、1分間に1mgのタンパク質によって減少したNADHのnmoleとして定義した。
コリネバクテリウム・グルタミクムKFCC10881−aspBP1、KFCC10881−aspBP2、およびKFCC10881−aspBP3の各菌株が示すアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ活性を、母菌株KFCC10881と比較してみた結果、KFCC10881−aspBP1菌株の場合、2.1倍、KFCC10881−aspBP2菌株の場合、2.6倍、そしてKFCC10881−aspBP3菌株の場合、1.8倍高いアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ活性を示すことが確認された(表3)。
【0048】
【表3】

【0049】
実施例5:aspBプロモーター改良菌株におけるリシン生産
母菌株として用いたコリネバクテリウム・グルタミクムKFCC10881菌株、および実施例3で最終的に製作されたL−リシン生産菌株としてのコリネバクテリウム・グルタミクムKFCC10881−aspBP1、KFCC10881−aspBP2、およびKFCC10881−aspBP3菌株を、L−リシン生産のために下記の方法で培養した。
下記の種培地25mLを含有する250mLのコーナーバッフルフラスコにコリネバクテリウム・グルタミクム母菌株KFCC10881と、KFCC10881−aspBP1、KFCC10881−aspBP2、およびKFCC10881−aspBP3とを接種し、30℃で20時間200rpmで振とう培養した。下記の生産培地24mLを含有する250mLのコーナーバッフルフラスコに1mLの種培養液を接種し、30℃で120時間200rpmで振とう培養した。
*種培地(pH7.0)
原糖20g、ペプトン10g、酵母抽出物5g、尿素1.5g、KHPO4g、KHPO 8g、MgSO・7HO 0.5g、ビオチン100μg、チアミンHCl 1000μg、カルシウム−パントテン酸2000μg、ニコチンアミド2000μg(蒸溜水1L基準)
*生産培地(pH7.0)
ブドウ糖100g、(NHSO 40g、大豆タンパク質2.5g、トウモロコシ浸漬固形分(Corn Steep Solids)5g、尿素3g、KHPO 1g、MgSO・7HO 0.5g、ビオチン100μg、チアミン塩酸塩1000μg、カルシウム−パントテン酸2000μg、ニコチンアミド3000μg、CaCO 30g(蒸溜水1L基準)
培養終了の後、HPLCを用いた方法によってL−リシンの生産量を測定した。 コリネバクテリウム・グルタミクムKFCC10881と、KFCC10881−aspBP1、KFCC10881−aspBP2、およびKFCC10881−aspBP3とにおける培養液中のL−リシン濃度は、下記表4のとおりである。
【0050】
【表4】

【0051】
表4に示したように、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ活性が2.6倍に強化されたKFCC10881−aspBP2菌株は、母菌株KFCC10881に比べてリシン生産効率が5%以上高いことを確認することができた。また、活性が2.1倍に強化されたKFCC10881−aspBP1菌株は、リシン生産効率が3%以上、活性が1.8倍に強化されたKFCC10881−aspBP3菌株は、リシン生産効率が3%以上母菌株より高いことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の改良されたプロモーター活性を有するコリネバクテリウム・グルタミクム由来の核酸分子は、野生型に比べて高いプロモーター活性を示し、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼの酵素活性を増加させることによって、リシンの生合成効率を増加させることができる。これにより、産業的に有用なL−アミノ酸の一種である、L−リシンを高収率で生産することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号2、3、および4からなる群より選ばれるいずれか一つの塩基配列を含む、プロモーター活性を有する核酸分子。
【請求項2】
前記塩基配列は、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼをコードする遺伝子と作動可能に連結されている、請求項1に記載のプロモーター活性を有する核酸分子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の改良されたプロモーター活性を有する核酸分子を含む、ベクター。
【請求項4】
前記ベクターが、図2、3、および4に示されるpDZ−aspBP1、pDZ−aspBP2、およびpDZ−aspBP3からなる群より選ばれるいずれか一つの開裂地図で表される構造を有する、請求項3に記載のベクター。
【請求項5】
請求項3のベクターで形質転換された、形質転換体。
【請求項6】
前記形質転換体が、コリネバクテリウム属またはブレビバクテリウム属に属する微生物である、請求項5に記載の形質転換体。
【請求項7】
前記形質転換体が、コリネバクテリウム・グルタクムCA01−773(受託番号KCCM11061P)である、請求項5に記載の形質転換体。
【請求項8】
前記形質転換体が、コリネバクテリウム・グルタクムCA01−774(受託番号KCCM11062P)である、請求項5に記載の形質転換体。
【請求項9】
前記形質転換体が、コリネバクテリウム・グルタクムCA01−775(受託番号KCCM11063P)である、請求項5に記載の形質転換体。
【請求項10】
請求項1または2に記載のプロモーター活性を有する核酸分子が、染色体内に相同組換えで挿入されることを特徴とする、請求項5に記載の形質転換体。
【請求項11】
請求項1または2に記載のプロモーター活性を有する核酸分子が、プラスミド形態で保持されていることを特徴とする、請求項5に記載の形質転換体。
【請求項12】
請求項5乃至11のいずれか一項に記載の形質転換体を培養する工程を含む、リシンの生産方法。
【請求項13】
前記培養する工程で生成されるリシンを回収する工程をさらに含む、請求項12に記載のリシンの生産方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−182779(P2011−182779A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14476(P2011−14476)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(511023598)シージェイ チェイルジェダン コーポレイション (6)
【Fターム(参考)】