説明

改良された貯蔵安定性を有する助触媒

本発明の対象は、ポリマーの熱架橋用の、ジアルキルアセトアセトアミド、ジアルキルアニリン及びアセチルアセトナートの群からの、改良された貯蔵安定性を有する助触媒であって、前記助触媒が粉末状の無機担体材料上に施与されていることにより特徴付けられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーの熱架橋用の、改良された貯蔵安定性を有する助触媒に関する。
【0002】
ポリマーの熱による架橋又は硬化は、触媒の添加により促進される。例えば、シート状プラスチック部材の製造の際に、しばしば不飽和ポリエステル樹脂組成物(UP樹脂)が使用される。これらのポリエステル樹脂は、ジカルボン酸又はジカルボン酸無水物とポリオールとの反応生成物である。そのようなポリエステル樹脂組成物は、エチレン系不飽和基を有するモノマー、一般的にスチレンも含有する。スチレンはポリエステル樹脂組成物に、ポリエステルを溶解させるため及びポリエステル組成物が流動可能な材料であることを保証するために、添加される。前記ポリエステル樹脂組成物を用いて得られるプラスチック部材の強化のためには、ポリエステル樹脂組成物はさらに繊維材料、例えばガラス繊維、炭素繊維又は相応する繊維マットを含有する。硬化のためには、そのような系は触媒として、過酸化化合物、例えばt−ブチルペルベンゾアートを、有機金属化合物、例えばコバルトオクタノアートと組み合わせて含有する。ビニル樹脂の熱硬化のためにも、そのような触媒の組合せが使用される。一般的に、不飽和ポリエステル樹脂及びビニル樹脂は、これらの触媒系を用いて80℃までの温度で硬化される。
【0003】
不飽和ポリエステル樹脂又はビニル樹脂の熱硬化用の助触媒として、一般的にジアルキルアセトアセトアミド、ジアルキルアニリン及びアセチルアセトナートが使用される。しかしながら、これらの化合物の場合に不利であるのは、それらの低すぎる貯蔵安定性である。前記化合物の不安定性は、それらの変色をまねき、このことはそしてまた、架橋されたポリエステル樹脂もしくはビニル樹脂を用いて製造される構造部材の変色をまねく。
【0004】
前記の助触媒は、室温で液体の形で存在する。貯蔵安定性を改良するために、これらの液体は現在5〜20質量%の水割合を有して供給される。それにより確かに安定性を改良することができるが、助触媒としての使用の際に、熱架橋の際に、この水割合はしかし望ましくない。
【0005】
故に、より良好な貯蔵安定性が得られ、これがその後の使用の際の欠点と結び付くことのない剤形(Darreichungsform)の助触媒を提供するという課題が存在していた。
【0006】
本発明の対象は、ポリマーの熱架橋用の、ジアルキルアセトアセトアミド、ジアルキルアニリン及びアセチルアセトナートの群からの、改良された貯蔵安定性を有する助触媒であって、前記助触媒が粉末状の無機担体材料上に施与されていることにより特徴付けられる。
【0007】
粉末状の無機担体材料の例は、ホウ素、アルミニウム、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、チタン及びジルコニウムの酸化物の群からの微粒状の無機固体である。それらの複合酸化物、例えばケイ酸アルミニウム、例えば層状ケイ酸塩、例えば粘土、モンモリロナイトも適している。二酸化ケイ素、例えばシリカゲル又はシリカ、粘土、又は二酸化チタンが好ましい。シリカ、例えば湿式化学的な沈殿により製造されるシリカ、及び特に火炎加水分解法による熱分解により、例えばテトラクロロシラン又はメチルトリクロロシラン又はメチルジクロロシランから、製造される熱分解法シリカが特に好ましい。平均粒度は、一般的に5nm〜100μm、好ましくは10μmまでである。
【0008】
好ましくは使用されるシリカは、10μm未満、好ましくは1μm未満の、特に100〜1000nmのサイズ範囲内の、シリカアグリゲートの水力直径(hydrodynamischen Durchmesser)を有する。好ましくは、0.1m2/gよりも大きく、特に好ましくは20m2/g〜400m2/gの比表面積(DIN 66131及び66132によるBET法により測定)を有するものが使用される。親水性及び疎水性のシリカが使用されることができる。
【0009】
適した触媒活性な助触媒は、C1〜C3−アルキル基を有する、ジアルキルアセトアセトアミド、ジアルキルアニリン及びアセチルアセトナートの群からのそのような助触媒である。N,N−ジメチルアセトアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアセトアミド又はジメチルアニリンが好ましい。
【0010】
改良された貯蔵安定性を有する助触媒の製造のためには、粉末状の固体は液体の助触媒と混合される。液体の助触媒は、担体粒子の表面上に吸収され、かつ表面上で助触媒でコーティングされている粉末状の粒子が存在する。一般的に、助触媒は、担体材料及び助触媒の全質量を基準として、20〜80質量%の量で使用される。
【0011】
こうして得ることができる助触媒は、好ましくは80℃までの温度範囲内の熱架橋反応用の助触媒としてそのために典型的な使用分野に適している。不飽和ポリエステル樹脂からの成形部材の製造の際の助触媒として及びビニル樹脂の架橋用の助触媒として好ましい。
【0012】
次の例は、本発明をさらに説明するために利用される。
【0013】
本発明による助触媒の製造:
高分散シリカ(HDK N20)33.4gをビーカー中に装入した。その後、希薄なジェット(duennen Strahl)中でその都度ジエチルアセトアセトアミド(DEAA)又はジメチルアセトアセトアミド(DMAA)66.6gを羽根形撹拌機で撹拌しながら、添加した。完全な均質化のためには、添加の完了後にさらに1分間、最大回転数でさらに撹拌した。その後、生成物は使用できる状態になった。
【0014】
貯蔵安定性の試験:
その都度製造される混合物(DEAA−HDK及びDMAA−HDK)その都度10gをペトリ皿(直径80mm)中へはかり入れ、かつ日光の排除のために覆った。
【0015】
比較のために、その都度DEAA又はDMAA 20gをペトリ皿(直径80mm)中へはかり入れ、かつ日光の排除のために覆った。
【0016】
さらに比較として、DEAAもしくはDMAA 14g及び水6gの混合物をその都度ペトリ皿(直径80mm)中へはかり入れ、かつ日光の排除のために覆った(DEAA−H2O及びDMAA−H2O)。
【0017】
前記試料をその都度、60℃で8週間貯蔵した。1週間の間隔でその都度明度値L、赤色値a及び黄色値bを、分光計(Byk GardnerのSpectro-Guide Sphere Gloss)を用いて測定した。
【0018】
明度値Lが高ければ高いほど、より変色が少なくなり、より良好になる。
【0019】
赤色値aが高ければ高いほど、より変色が大きくなり、より不良になる。
【0020】
黄色値bが高ければ高いほど、より変色が大きくなり、より不良になる。
【0021】
結果は、第1〜3表にまとめられている。
【0022】
第1表:明度値L
【表1】

【0023】
結果は、本発明による助触媒を用いての明度値が、純粋な助触媒又は水と混合された助触媒を用いるよりも、かなり良好であることを示している。このことは、明らかに改良された貯蔵安定性を証明する。
【0024】
第2表:赤色値a
【表2】

【0025】
結果は、本発明による助触媒の赤色値が、最初からより良好であり、かつこれらの値が貯蔵の過程で、従来の助触媒の場合のような不良にはほど遠いことを示している。
【0026】
第3表:黄色値b
【表3】

【0027】
結果は、本発明による助触媒の黄色値が、最初からより良好であり、かつこれらの値が貯蔵の過程で、従来の助触媒の場合のような不良にはほど遠いことを示している。
【0028】
助触媒活性の試験:
助触媒活性の試験のために、次の混合物を製造した:
不飽和ポリエステル樹脂(Palapreg P18-03) 50g
10%コバルトオクタノアート 0.05g
t−ブチルペルベンゾアート(Btanox M50) 1.0g。
【0029】
比較例1:
前記混合物に助触媒を添加せず、これを室温で8週間貯蔵した。
【0030】
比較例2:
前記混合物にDEAA 0.1gを添加し、これを室温で8週間貯蔵した。
【0031】
比較例3:
前記混合物にDEAA 0.1gを添加し、これを60℃で8週間貯蔵した。
【0032】
例4:
前記混合物にDEAA−HDK 0.15gを添加し、これを60℃で8週間貯蔵した。
【0033】
比較例5:
前記混合物にDMAA−H2O 0.1gを添加し、これを室温で8週間貯蔵した。
【0034】
比較例6:
前記混合物にDMAA−H2O 0.1gを添加し、これを60℃で8週間貯蔵した。
【0035】
例7:
前記混合物にDMAA−HDK 0.15gを添加し、これを60℃で8週間貯蔵した。
【0036】
(比較)例による混合物を、貯蔵後にガラスプレート上へその都度施与し、かつゲル化の開始するまでの時間を決定した(ゲル時間GZ[単位:min])。
【0037】
ゲル時間の増加は活性減少を示唆する。結果は、第4表にまとめられている。
【0038】
第4表:
【表4】

【0039】
例4(比較例5と比較して)及び例7(比較例6と比較して)の結果は、助触媒を担体材料へ施与した場合に、有意な活性低下が生じないことを示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーの熱架橋用の、ジアルキルアセトアセトアミド、ジアルキルアニリン及びアセチルアセトナートの群からの、改良された貯蔵安定性を有する助触媒であって、前記助触媒が粉末状の無機担体材料上に施与されていることを特徴とする、助触媒。
【請求項2】
担体材料として、ホウ素、アルミニウム、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、チタン及びジルコニウムの酸化物又はそれらの複合酸化物の群からの微粒状の無機固体が含まれている、請求項1記載の助触媒。
【請求項3】
担体材料としてシリカゲル又はシリカのような二酸化ケイ素が含まれている、請求項1記載の助触媒。
【請求項4】
担体材料の平均粒度が5nm〜100μmである、請求項1から3までのいずれか1項記載の助触媒。
【請求項5】
触媒活性な助触媒成分として、C1〜C3−アルキル基を有する、ジアルキルアセトアセトアミド、ジアルキルアニリン及びアセチルアセトナートの群からのそのような成分が含まれている、請求項1から4までのいずれか1項記載の助触媒。
【請求項6】
触媒活性な助触媒成分が、担体材料及び助触媒の全質量を基準として、20〜80質量%の量で使用される、請求項1から5までのいずれか1項記載の助触媒。
【請求項7】
請求項1から6までのいずれか1項記載の助触媒を、粉末状の無機担体材料を液体の助触媒と混合することによって、製造する方法。
【請求項8】
不飽和ポリエステル樹脂から成形部材を製造する際の、請求項1から6までのいずれか1項記載の助触媒の使用。
【請求項9】
ビニル樹脂を架橋するための、請求項1から6までのいずれか1項記載の助触媒の使用。

【公表番号】特表2009−541552(P2009−541552A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−517130(P2009−517130)
【出願日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際出願番号】PCT/EP2007/056205
【国際公開番号】WO2008/000687
【国際公開日】平成20年1月3日(2008.1.3)
【出願人】(390008969)ワッカー ケミー アクチエンゲゼルシャフト (417)
【氏名又は名称原語表記】Wacker Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】