説明

改良体の造成方法

【課題】セメントによる十分な長期強度と水ガラスによる一定の早期強度を確保しつつ規模が大きな改良体を地盤内に確実に造成する。
【解決手段】本発明に係る改良体の造成方法はまず、改良体が形成されるべき地盤1内の領域にセメント分布領域2を先行形成し(ステップ101)、次いでロッド3を材軸回りに回転させかつ材軸に沿って下降させながら、その下端近傍に設けられた吐出口4を介して水ガラス溶液を圧縮空気とともに高圧噴射する(ステップ104)。水ガラス溶液を圧縮空気とともにセメント分布領域2内に高圧噴射するにあたっては、セメント分布領域2のうち、領域上縁31近傍に相当する深さが噴射開始位置となるようにロッド3を位置決めし、次いでロッド3を下降させることによって噴射位置である吐出口4を下方に移動させながら、水ガラス溶液及び圧縮空気を該吐出口から高圧噴射し、領域下縁32近傍に相当する深さで高圧噴射を終了する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤内に改良体を造成する際に適用される改良体の造成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築土木工事を行うにあたり、地盤の止水性が低い場合や強度が不足している場合には、本体工事に先立って地盤改良を行うことにより、止水性や強度を改善して建築土木構造物あるいはその周辺地盤の健全性を十分に確保することが重要となる。
【0003】
地盤改良工法には様々な方式のものが開発されており、概ね、地盤内に薬液を浸透注入することで止水性の向上を図る薬液注入工法と、地盤内の所定領域に拡がる土を切削しつつ原位置で硬化材と攪拌混合することで、強度が改善された改良体を地盤内に造成する方法とに大別されるが、後者の工法はさらに、攪拌翼を備えた攪拌混合装置で切削及び攪拌混合を行う方法と、硬化材とともに圧縮空気や水を高圧噴射することによって地盤内を切削しつつ攪拌混合を行う方法とに分類される。
【0004】
これらのうち、高圧噴射による攪拌混合方法は、ジェットグラウト工法あるいは高圧噴射攪拌工法と呼ばれており(以下、高圧噴射攪拌工法)、地盤内に挿入された多重管ロッドを回転させつつ前進又は後退させるとともに、該多重管ロッドに設けられた吐出口から硬化材や水あるいは圧縮空気を地盤内に高圧噴射することによって、地盤内に柱状の改良体を造成することができるようになっており、高圧噴射される流体の種類や噴射の仕方によって、JSG工法、CJG工法、CCP工法、RJP工法などさまざまな工法が開発されている。
【0005】
高圧噴射攪拌工法で用いる硬化材は、長期強度が大きいセメントを懸濁させてなるセメントミルクが主体となるが、かかるセメントミルクに加えて、強度発現が早い硬化材を併用する場合があり、例えばカルシウムアルミネート及び石膏を含有した急硬材を噴射する技術や(特許文献1)、セメントミルクに塩化カルシウムを添加する技術が知られており(特許文献2)、いずれもセメントによる十分な長期強度を確保しつつ、早期の強度発現が実現できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−138588号公報
【特許文献2】特開2009−174305号公報
【特許文献3】特開2006−138192号公報
【特許文献4】特開2007−092015号公報
【特許文献5】特開2000−290991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、薬液注入工法の分野では、水ガラス、すなわちケイ酸ナトリウム(ケイ酸ソーダ)を主剤とし、これを硬化させるための硬化材としてセメントミルクを用いる技術が古くから知られており、高圧噴射攪拌工法の分野においても、地盤内に噴射されたセメントミルクの逸散を防止することを目的とし、あるいは地上に排出されるスライムの粘性を低下させて作業性を改善することを目的として水ガラスを併用する技術が提案されている(特許文献3、特許文献4)。
【0008】
本出願人は、薬液注入工法における水ガラスの実績の豊富さの観点から、高圧噴射攪拌工法においても早期強度の確保を目的として水ガラスをセメントミルクと併用できないかという点に着眼し、研究開発を行った。
【0009】
しかしながら、セメントミルクと水ガラスを高圧噴射した場合、上記特許文献2でも指摘されている通り、多重管ロッドの吐出口近傍に固結物が短時間に形成されてしまい、該固結物が障害となって広い範囲の高圧噴射が難しくなり、結果として大きな改良体を造成することができないという基本的な問題が存在し、単に両者を高圧噴射する方法、例えば特許文献5記載の技術では、水ガラスによる早期の強度発現を期待しつつ所望の大きさの改良体を造成することは難しい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上述した事情を考慮してなされたものであり、セメントによる十分な長期強度と水ガラスによる一定の早期強度を確保することが可能でかつ規模が大きな改良体であっても地盤内に確実に造成することが可能な改良体の造成方法を提供することを目的とする。
【0011】
上記目的を達成するため、本発明に係る改良体の造成方法は請求項1に記載したように、セメント系硬化材が水に添加されてなる第1の硬化材溶液を地盤中の土と原位置で攪拌混合することにより前記地盤中にセメント分布領域を形成するセメント分布領域形成工程と、前記セメント分布領域を形成した後、該セメント分布領域内にケイ酸ナトリウムを含む第2の硬化材溶液を圧縮空気とともに高圧噴射するケイ酸ナトリウム噴射工程とからなる改良体の造成方法であって、前記セメント分布領域の領域上縁近傍に相当する深さを噴射開始位置、領域下縁近傍に相当する深さを噴射終了位置としかつ前記噴射開始位置から前記噴射終了位置まで噴射位置を下方に移動させながら、前記第2の硬化材溶液を前記セメント分布領域に高圧噴射するものである。
【0012】
また、本発明に係る改良体の造成方法は、前記地盤内に設定された改良体造成範囲を深さ方向に分割することで複数の改良体造成区画を設定し、該複数の改良体造成区画への前記セメント分布領域形成工程とそれに続く前記ケイ酸ナトリウム噴射工程とを、前記複数の改良体造成区画ごとにかつ最下層に位置する改良体造成区画から順次上層に向けて繰り返し行うものである。
【0013】
また、本発明に係る改良体の造成方法は、前記第2の硬化材溶液が噴射される吐出箇所近傍での前記ケイ酸ナトリウムによるゲル化が抑制されるように、該第2の硬化材溶液を配合調整するものである。
【0014】
また、本発明に係る改良体の造成方法は、前記セメント分布領域にロッドを挿入し、該ロッドを材軸回りに回転させかつ材軸に沿って下降させながら、該ロッドの先端近傍に設けられた吐出口を介して前記第2の硬化材溶液を前記セメント分布領域に噴射するものである。
【0015】
また、本発明に係る改良体の造成方法は、前記セメント分布領域を、前記地盤にロッドを挿入し、該ロッドを材軸回りに回転させかつ材軸に沿って上昇させながら該ロッドの先端近傍に設けられた吐出口を介して前記第1の硬化材溶液を圧縮空気とともに前記地盤に高圧噴射することで形成するものである。
【0016】
セメントミルク及び水ガラスによって形成される固結物が障害となって大きな改良体を地盤中に造成できないという上述の問題を解決するため、本出願人は、地盤改良の対象となる地盤にセメント分布領域を先行形成し、しかる後、該セメント分布領域に水ガラスを噴射する試みを行った。
【0017】
しかし、従来の高圧噴射攪拌工法と同様にロッドを上昇させながらその下端近傍から水ガラスを噴射した場合、セメント分布領域のうち、高さにしておおよそ下方30%の範囲では、セメントによる長期強度は発現するものの、水ガラスによる早期強度は発現せず、上方70%の範囲では、早期強度のみならず、長期強度も十分に発現しないことがわかった。
【0018】
これは、水ガラスが、同時噴射された圧縮空気に連行される形で、すなわち圧縮空気によるエアリフトによってセメント分布領域内を浮上し、その分布範囲が上方に偏るため、セメント分布領域の下方では早期の強度発現が困難になる一方、セメント分布領域の上方においては早い段階で固結物が生成されるものの、ロッドを引き上げつつ高圧噴射を行う関係上、ゲル化がある程度進行した後で高圧噴射が行われることになり、それが原因で成長中の固結物が水ガラスや圧縮空気の噴流によって破壊され、その結果、早期強度が発現しなくなるばかりか、セメントの水和反応も進行しなくなるためと考えられる。
【0019】
これを受け、本出願人は、従来の高圧噴射攪拌工法とは異なり、ロッドを下降させながらその下端から水ガラスを圧縮空気とともに高圧噴射する試みを行ったところ、水ガラスの浮上及びそれに起因する偏在が防止されるとともに、ゲル化が始まった領域では、高圧噴射による噴流で攪乱されることなく静置状態が維持されてゲル化が進行することとなり、かくしてセメント分布領域全体にわたり、早期強度及び長期強度の両方を確保することができるという知見を得るに至ったものである。
【0020】
すなわち、本発明に係る改良体の造成方法においては、セメント分布領域を地盤内に先行形成し(セメント分布領域形成工程)、次いで該セメント分布領域内にケイ酸ナトリウムを含む第2の硬化材溶液を圧縮空気とともに高圧噴射するが(ケイ酸ナトリウム噴射工程)、ケイ酸ナトリウム噴射工程において第2の硬化材溶液をセメント分布領域内に高圧噴射するにあたっては、セメント分布領域の領域上縁近傍に相当する深さを噴射開始位置、領域下縁近傍に相当する深さを噴射終了位置とし、かつ噴射開始位置から前記噴射終了位置まで噴射位置を下方に移動させながら、第2の硬化材溶液をセメント分布領域に高圧噴射する。
【0021】
このようにすると、噴射位置よりも浅い箇所では、先行噴射された第2の硬化材溶液中のケイ酸ナトリウムによるゲル化が既に始まっているため、第2の硬化材溶液中のケイ酸ナトリウムが、その噴射位置よりも浅い箇所に向けて浮上することはないし、第2の硬化材溶液の噴射位置は、順次下方へと移動するため、ゲル化が進行中の箇所に高圧噴射による噴流が及ぶこともない。
【0022】
したがって、ケイ酸ナトリウムの偏在が未然に防止されるとともに、第2の硬化材溶液及び圧縮空気の高圧噴射による噴流によってケイ酸ナトリウムによるゲル化やセメントの水和反応が阻害される懸念もなくなり、かくしてセメント分布領域全体にわたり、ケイ酸ナトリウム由来のゲル化による早期強度を確保することができるとともに、セメントの水和反応による長期強度の発現を達成することも可能となる。
【0023】
加えて、第2の硬化材溶液の噴射先は、従来のように未だ攪乱されていない地盤ではなく、既に切削され攪乱状態の地盤である。
【0024】
そのため、未攪乱地盤であるがゆえに噴射時の抵抗が大きく、そのために吐出箇所近傍でのケイ酸ナトリウムによるゲル化が防止できなかった従来に比べ、本発明においては、噴射時の抵抗が大幅に減少して吐出箇所近傍でのゲル化を抑制しやすくなり、かくして、第1の硬化材溶液をセメント分布領域として広く地盤内に分散させることができることと相俟って、大きな改良体を地盤内に確実に造成することが可能となる。
【0025】
セメント系硬化材には、各種セメントのほか、フライアッシュ、膨張材、高炉スラグ微粉末、シリカフューム等の水硬性又は潜在水硬性を持つ無機質材料が包摂される。
【0026】
第1の硬化材溶液は、上述したセメント系硬化材のほかに、必要に応じて混和剤が適宜添加されたものでもよい。
【0027】
第2の硬化材溶液は、ケイ酸ナトリウムが含まれていればその配合は任意であるが、第2の硬化材溶液が噴射される吐出箇所近傍でのケイ酸ナトリウムによるゲル化が抑制されるように、該第2の硬化材溶液を配合調整するようにすれば、大きな改良体をより確実に地盤内に造成することが可能となる。
【0028】
本発明に係る改良体の造成方法のうち、第2の硬化材溶液を圧縮空気とともにセメント分布領域内に高圧噴射する方法は任意であり、例えば、セメント分布領域にロッドを挿入し、該ロッドを材軸回りに回転させかつ材軸に沿って下降させながら、該ロッドの先端近傍に設けられた吐出口を介して第2の硬化材溶液をセメント分布領域に噴射する構成を採用することができる。
【0029】
かかる構成において、ロッドは、圧縮空気と第2の硬化材溶液を圧送する流路がそれぞれ個別に形成された二重管構造とするのがよい。
【0030】
セメント分布領域を地盤中に先行形成するにあたっては、第1の硬化材溶液を地盤中の土と原位置で攪拌混合できる限り、その施工方法は任意であって、JSG工法、CJG工法、CCP工法、RJP工法といった高圧噴射攪拌工法や、攪拌翼を備えた攪拌混合装置による機械攪拌工法を用いることが可能であり、例えばJSG工法に基づき、地盤にロッドを挿入し、該ロッドを材軸回りに回転させかつ材軸に沿って上昇させながら該ロッドの先端近傍に設けられた吐出口を介して第1の硬化材溶液を圧縮空気とともに高圧噴射する方法を選択することができる。
【0031】
この場合も、ロッドは、圧縮空気と第1の硬化材溶液を圧送する流路がそれぞれ個別に形成された二重管構造とするのがよい。
【0032】
ケイ酸ナトリウム噴射工程においては、第2の硬化材溶液をセメント分布領域に高圧噴射することに起因するスライムが発生する。かかるスライムは、任意の方法により、例えばロッドを介して高圧噴射を行う場合であれば該ロッドとセメント分布領域との隙間を利用して適宜地上に排泥することが可能であるが、ケイ酸ナトリウム噴射工程を行う段階では、セメント分布領域がその上方から順次固結していくため、第2の硬化材溶液の高圧噴射に伴うスライムを地上に排泥することが困難になる場合も想定され、上述した例であれば、セメント分布領域の固結によってロッドとセメント分布領域との隙間が小さくなり、スライムの上昇、ひいては地上への排泥が妨げられる懸念がある。
【0033】
かかる場合には、地盤内に設定された改良体造成範囲全体にセメント分布領域を先行形成してそのセメント分布領域に第2の硬化材溶液を高圧噴射するのではなく、地盤内に設定された改良体造成範囲を深さ方向に分割することで複数の改良体造成区画を設定し、該複数の改良体造成区画へのセメント分布領域形成工程とそれに続くケイ酸ナトリウム噴射工程とを、複数の改良体造成区画ごとにかつ最下層に位置する改良体造成区画から順次上層に向けて繰り返し行うようにすればよい。
【0034】
このようにすると、各改良体造成区画において、第2の硬化材溶液の噴射開始から噴射終了までの時間が短くなるため、地上へのスライムの排泥をスムーズに行いつつ、セメント分布領域が固結する前に第2の硬化材溶液の噴射を終えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本実施形態に係る改良体の造成方法を示したフローチャート。
【図2】本実施形態に係る改良体の造成方法の施工手順を示した断面図。
【図3】引き続き本実施形態に係る改良体の造成方法の施工手順を示した断面図。
【図4】変形例に係る改良体の造成方法の施工手順を示した断面図。
【図5】引き続き変形例に係る改良体の造成方法の施工手順を示した断面図。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明に係る改良体の造成方法の実施の形態について、添付図面を参照して説明する。
【0037】
図1は、本実施形態に係る改良体の造成方法を示したフローチャート、図2及び図3はその施工手順を示した断面図である。本実施形態に係る改良体の造成方法は、例えば既設の道路下にシールドトンネル等のあらたな地下構造物を構築するにあたり、その周辺地盤の強度を向上させるために適用されるものであって、まず図2(a)に示すように、改良体が形成されるべき地盤1内の領域にセメント分布領域2を先行形成する(セメント分布領域形成工程、ステップ101)。
【0038】
セメント分布領域2は、硬化後は改良体となるため、その改良体の予定形状に合わせて例えば円柱状に範囲設定すればよい。
【0039】
セメント分布領域2を形成するには、JSG工法に従い、まず、地盤1にロッド3を挿入し、次いで、該ロッドを材軸回りに回転させかつ材軸に沿って上昇させながら、その下端近傍に設けられた吐出口4を介して第1の硬化材溶液としてのセメントミルクを圧縮空気とともに高圧噴射する。
【0040】
ロッド3は、材軸方向に沿って2つの流路が形成された二重管構造であって、各流路の基端側を地上に設置されたセメントミルク圧送装置及びコンプレッサー(図示せず)にそれぞれ連通接続してあるとともに、先端を吐出口4に連通接続してあり、地上から別々に圧送されたセメントミルク及び圧縮空気を吐出口4から同時に噴出させることができるようになっている。
【0041】
このようにセメントミルクを吐出口4を介して圧縮空気とともに地盤1に高圧噴射すると、地盤1は、高圧噴射による噴流で切削されるとともに、切削された地盤1中の土がセメントミルクと原位置で攪拌混合され、高圧噴射終了後は、高圧噴射が開始された深さ位置から終了する深さ位置までの寸法を高さHとし、噴射圧や地盤性状で定まる吐出口4からの切削可能距離を半径Rとする円柱状のセメント分布領域2が同図(b)のように地盤1内に形成される。
【0042】
なお、セメントミルク及び圧縮空気の高圧噴射に伴い、地盤1内からスライム6が排出されるので、これを排泥ピット5でいったん貯留した後、図示しないポンプで適宜搬出する。
【0043】
セメント分布領域2が形成されたならば、ロッド3をいったん地盤1から引き抜き、これを地上で洗浄することで、流路内に残留しているセメントミルクを除去し(ステップ102)、しかる後、図3(a)に示すように、ロッド3をセメント分布領域2内にあらためて挿入し(ステップ103)、次いで、該ロッドを材軸回りに回転させかつ材軸に沿って下降させながら、その下端近傍に設けられた吐出口4を介して第2の硬化材溶液としての水ガラス溶液を圧縮空気とともに高圧噴射する(ケイ酸ナトリウム噴射工程、ステップ104)。
【0044】
ここで、水ガラス溶液が噴射される対象は、未だ攪乱されていない地盤ではなく、セメント分布領域2といういわば攪乱済みの地盤であるため、噴射時の抵抗は従来よりも格段に小さく、それゆえ吐出口4近傍でのケイ酸ゲルの発生は本来的に生じにくくなっているが、必要であれば、吐出口4近傍での水ガラス(ケイ酸ナトリウム)によるゲル化が抑制されるよう、水ガラス溶液を適宜配合調整すればよい。
【0045】
また、本実施形態においては、セメント分布領域2を先行形成してから該セメント分布領域に水ガラス溶液を高圧噴射するという二段階施工を採用しているため、高圧噴射に伴って生じるスライムの量は比較的少なくて済むが、セメント分布領域2のうち、早期強度が発現した領域とロッド3の周面との間には、ロッド3の回転によって隙間が形成されているので、必要がある場合には、該隙間を介してスライム6を地上に排泥し、排泥ピット5でいったん貯留した後、図示しないポンプで適宜搬出すればよい。
【0046】
水ガラス溶液を圧縮空気とともにセメント分布領域2内に高圧噴射するにあたっては、図3(a)に示すように、セメント分布領域2のうち、領域上縁31近傍に相当する深さが噴射開始位置となるようにロッド3を位置決めし、次いで、ロッド3を下降させることによって噴射位置である吐出口4を下方に移動させながら、水ガラス溶液及び圧縮空気を該吐出口から高圧噴射し、領域下縁32近傍に相当する深さで高圧噴射を終了する。
【0047】
このようにすると、水ガラス溶液の噴射位置よりも浅い箇所(同図で濃いハッチングを施した部分)では、先行噴射された水ガラス溶液中のケイ酸ナトリウムによるゲル化が既に始まっているため、噴射中の水ガラス溶液中のケイ酸ナトリウムが浅い箇所に向けて浮上することはないし、水ガラス溶液の噴射位置は順次下方へと移動するため、高圧噴射による噴流が、ゲル化が進行している箇所に及ぶこともない。
【0048】
したがって、セメント分布領域2においては、その領域上縁31近傍から下方に向けて順次、ケイ酸ゲルが形成されて早期強度が発現し、ロッド3の吐出口4が領域下縁32近傍に達したときには、セメント分布領域2全体がケイ酸ゲルによる早期強度を発現して改良体33となる(図3(b))。
【0049】
改良体33は、その後の時間経過によってセメントの水和反応による長期強度がさらに発現するが、噴射作業を終えた時点でケイ酸ゲルによる早期強度が既に発現しており、かかる早期強度によって一定の載荷荷重を支持することが可能となり、例えば地上の道路規制を適宜解除することができる。
【0050】
なお、水ガラス溶液を圧縮空気とともにセメント分布領域2内に高圧噴射するにあたっては、ロッド3の下降操作と水ガラス溶液の高圧噴射操作とを連続的に同時進行させるようにしてもよいし、ロッド3を例えば25cm下降させてはいったん停止し、その位置で高圧噴射を行うというように、ロッド3の下降操作と水ガラス溶液の高圧噴射操作とを断続的に繰り返すようにしてもかまわない。
【0051】
以上説明したように、本実施形態に係る改良体の造成方法によれば、噴射した水ガラス溶液中のケイ酸ナトリウムが、その噴射位置よりも浅い箇所に向けて浮上することはないし、高圧噴射による噴流が、ゲル化が進行している箇所に及ぶこともない。
【0052】
したがって、ケイ酸ナトリウムの偏在が未然に防止されるとともに、水ガラス溶液及び圧縮空気の高圧噴射による噴流によってケイ酸ナトリウムによるゲル化やセメントの水和反応が阻害される懸念もなくなり、かくしてセメント分布領域2全体にわたり、ケイ酸ナトリウムによるゲル化による早期強度を確保することができるとともに、セメントの水和反応による長期強度の発現を達成することも可能となる。
【0053】
また、本実施形態に係る改良体の造成方法によれば、水ガラス溶液の噴射先が攪乱済みの地盤であるため、噴射時の抵抗が大幅に減少して吐出箇所近傍でのゲル化を抑制しやすくなり、かくして、セメントミルクをセメント分布領域2として広く地盤内に分散させることができることと相俟って、大きな改良体を地盤内に確実に造成することが可能となる。
【0054】
本実施形態では、セメント分布領域2をJSG工法で構築するようにしたが、これに代えて、他の高圧噴射攪拌工法を用いることが可能であるし、攪拌翼を備えた攪拌混合装置による機械攪拌工法を用いることも可能である。
【0055】
また、本実施形態では、セメント分布領域2のうち、早期強度が発現した領域とロッド3の周面との間の隙間を、必要に応じてスライム6の排泥に利用するようにしたが、セメント分布領域2の早期固結によってロッド3とセメント分布領域2との隙間が小さくなり、スライムの上昇、ひいては地上への排泥が妨げられる懸念がある場合には、以下の手順で改良体を造成するようにすればよい。
【0056】
図4乃至図5は、変形例に係る改良体の造成方法の施工手順を示した断面図である。これらの図に示すように、本変形例においては、まず地盤1内に設定された改良体造成範囲41を深さ方向に分割することで、複数の改良体造成区画42a,42b,42c,42dを設定する。
【0057】
改良体造成区画42a,42b,42c,42dは、それぞれの高さを例えば1.5m程度とすることができる。
【0058】
次に、複数の改良体造成区画42a,42b,42c,42dのうち、図4(a)に示すように最下層の改良体造成区画42aに対し、セメント分布領域形成工程を行うとともに、形成されたセメント分布領域に対し、引き続き上述したケイ酸ナトリウム噴射工程を行う。
【0059】
最下層の改良体造成区画42aに改良体43aが造成されたならば、その上層に位置する改良体造成区画42bに対し、図4(b)に示すようにセメント分布領域形成工程及びケイ酸ナトリウム噴射工程を行う。
【0060】
以下、改良体造成区画42bに改良体43bが造成された後、その上層に位置する改良体造成区画42cに対し、図5(a)に示すようにセメント分布領域形成工程及びケイ酸ナトリウム噴射工程を行って改良体43cを造成し、次いで、その上層に位置する改良体造成区画42dに対し、図5(b)に示すようにセメント分布領域形成工程及びケイ酸ナトリウム噴射工程を行って改良体造成区画42dに改良体を造成する。
【0061】
このようにすると、各改良体造成区画42a,42b,42c,43dにおいて、水ガラス溶液の噴射開始から噴射終了までの時間が短くなるため、地上へのスライムの排泥をスムーズに行いつつ、セメント分布領域が固結する前に水ガラス溶液の噴射を終えることが可能となる。
【符号の説明】
【0062】
1 地盤
2 セメント分布領域
3 ロッド
4 吐出口
31 セメント分布領域の領域上縁
32 セメント分布領域の領域下縁
33 改良体
41 改良体造成範囲
42a,42b,42c,42d
改良体造成区画
43a,43b,43c,43d
改良体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント系硬化材が水に添加されてなる第1の硬化材溶液を地盤中の土と原位置で攪拌混合することにより前記地盤中にセメント分布領域を形成するセメント分布領域形成工程と、前記セメント分布領域を形成した後、該セメント分布領域内にケイ酸ナトリウムを含む第2の硬化材溶液を圧縮空気とともに高圧噴射するケイ酸ナトリウム噴射工程とからなる改良体の造成方法であって、前記セメント分布領域の領域上縁近傍に相当する深さを噴射開始位置、領域下縁近傍に相当する深さを噴射終了位置としかつ前記噴射開始位置から前記噴射終了位置まで噴射位置を下方に移動させながら、前記第2の硬化材溶液を前記セメント分布領域に高圧噴射することを特徴とする改良体の造成方法。
【請求項2】
前記地盤内に設定された改良体造成範囲を深さ方向に分割することで複数の改良体造成区画を設定し、該複数の改良体造成区画への前記セメント分布領域形成工程とそれに続く前記ケイ酸ナトリウム噴射工程とを、前記複数の改良体造成区画ごとにかつ最下層に位置する改良体造成区画から順次上層に向けて繰り返し行う請求項1記載の改良体の造成方法。
【請求項3】
前記第2の硬化材溶液が噴射される吐出箇所近傍での前記ケイ酸ナトリウムによるゲル化が抑制されるように、該第2の硬化材溶液を配合調整する請求項1又は請求項2記載の改良体の造成方法。
【請求項4】
前記セメント分布領域にロッドを挿入し、該ロッドを材軸回りに回転させかつ材軸に沿って下降させながら、該ロッドの先端近傍に設けられた吐出口を介して前記第2の硬化材溶液を前記セメント分布領域に噴射する請求項1乃至請求項3のいずれか一記載の改良体の造成方法。
【請求項5】
前記セメント分布領域を、前記地盤にロッドを挿入し、該ロッドを材軸回りに回転させかつ材軸に沿って上昇させながら該ロッドの先端近傍に設けられた吐出口を介して前記第1の硬化材溶液を圧縮空気とともに前記地盤に高圧噴射することで形成する請求項1乃至請求項4のいずれか一記載の改良体の造成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−188869(P2012−188869A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53641(P2011−53641)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(000149206)株式会社大阪防水建設社 (44)
【Fターム(参考)】