説明

改良型貨幣アイテム受入機

【課題】ウィンドウの幅を制御する複雑さが含まれない貨幣アイテム受入方法を提供すること。
【解決手段】検査中の貨幣アイテムに基づいた個々の貨幣アイテム信号(Rs)をもたらすためのセンサ回路(S1〜S4)と、検査中の貨幣アイテムのそれぞれについて、貨幣アイテム信号の値の関数としての変換された貨幣アイテム信号(Tnew)と先に検査された貨幣アイテムについての貨幣アイテム信号の値に関連している履歴データ(AVGDNおよびMaxDn)のような不正基準の関数である少なくとも1つの可変パラメータとを作成し、変換ずみ貨幣アイテム信号の値(Tnew)とウィンドウ限界値(W2,L2)との比較を行い、さらにそれがウィンドウ限界に納まるとそれぞれの貨幣アイテムを受け入れるためのプロセッサ構成体(11)とを備えてなる貨幣アイテム受入機。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、硬貨や紙幣のような貨幣アイテム(money items, items of money)の受入機に関するものであり、また、多金種受入機への特定の用途があるがそれに限定されない貨幣アイテム受入機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
硬貨・紙幣受入機はよく知られている。硬貨受入機の1つの例は英国特許出願第2169429号明細書に記載されている。この受入機には、検査中の硬貨の材料および金属含有量の指標である硬貨パラメータ信号を作成するために、センサコイルによって硬貨についての一連の誘導検査が行われる硬貨監視ステーションを硬貨が通過する硬貨流下通路が含まれている。硬貨パラメータ信号は、ディジタル化されて、検査硬貨の受入可能性の有無を判定するためにマイクロコントローラによって記憶ずみ硬貨データと比較される。硬貨が受入可能であると判定されると、マイクロコントローラによって受入ゲートが作動して、硬貨は受入通路へ導かれる。そうでないときには、受入ゲートは非作動状態のままであり、硬貨は拒絶通路へ導かれる。
【0003】
紙幣検認機では、センサによって紙幣の特徴が検出される。例えば、光学的検出器を用いると、適切なセンサで検出することのできる紙幣の幾何学的寸法、透過あるいは反射における光源に対するそのスペクトル感度、あるいは磁気転写インクの存在を検出することができる。このように作成されたパラメータ信号は、ディジタル化されて、先に説明した従来技術の硬貨受入機に類似した方法で記憶値と比較される。紙幣の受入可能性は比較の結果に基づいて判定される。
【0004】
同じ金種のいくつかの硬貨あるいは紙幣が受入機を通過すると、硬貨あるいは紙幣のパラメータデータの連続値が作り出される。これらの信号値の分布をグラフとしてプロットすると、その結果は、中央に最高点があり両側に最低点がある釣鐘曲線である。このグラフの形状は、必ずしもそうではないが典型的にはガウス曲線である。
【0005】
この分布によれば、特定金種の硬貨あるいは紙幣のような貨幣アイテムについては、対応しているパラメータ信号の確度の高い値はたいてい、いずれかの側へ減少する蓋然性のある釣鐘曲線の最高点にあることが示されている。従来技術の硬貨・紙幣受入機では、データは、特定金種についてのパラメータ信号の許容範囲に対応している記憶部に記憶される。受入機によって、検査中の硬貨あるいは紙幣についての値が記憶データと比較されて、真正性が判定される。このデータは、上限値および下限値の項目で、あるいは平均値および標準偏差として、その平均値についての所定数の標準偏差が含まれるようにウィンドウを規定することができる。記憶されたウィンドウを狭くすることによって、真正の貨幣アイテムと偽物の貨幣アイテムとの間に増大した識別能がもたらされる。しかしながら、そのウィンドウを狭くし過ぎると、不都合なことに真正貨幣アイテムの拒絶率が増大する。従って、ウィンドウの幅は、これら2つの因子の間における妥協案として選択される。硬貨受入機あるいは紙幣受入機を欺こうとする試みには、記憶ずみ受入ウィンドウの内部に入るパラメータ信号を受入機に作成させる偽造硬貨あるいは偽造紙幣の製造が含まれる。今日まで、オペレータが、通常の操作については相対的に広いウィンドウ幅を、また検認に対して偽物が存在するときには相対的に狭いウィンドウ幅を手動で選択することができるように、硬貨受入機には相対的に広いウィンドウ幅と狭いウィンドウ幅とが設けられていた。1つの例は、日本の特許公開平2−197985号公報に記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ウィンドウ幅を動的に変更して真正の硬貨と偽物の硬貨との識別能を改善するために、異なるいくつかの取り組みが提案されてきた。米国特許第355989号公報には、検査することで作り出された硬貨パラメータ信号が、関係する硬貨についての低受入確率領域に対応している真正硬貨についての通常ウィンドウ領域に入るときに、真正硬貨についての第1の通常受入ウィンドウから第2の狭小ウィンドウへ自動的に切り換わる硬貨受入機が記載されている。不正硬貨のグループにはすべて類似した性質があり、それらによって、受入機には通常ウィンドウの内部にあるパラメータ信号が作り出されるが、これらのパラメータ信号には、真正硬貨に関連したウィンドウの高確率ピーク領域に集中することなく、代わりに、通常ウィンドウの内部における釣鐘曲線分布の低確率最低部領域に集中する値が常に備わっている。パラメータ信号がこの低確率領域の内部に入ると、次に検査される硬貨のためには第2の狭小ウィンドウが使用される。次の硬貨がその狭小ウィンドウの中に入るパラメータを有していると、それは真正硬貨であるが、そうでないときには、それは拒絶すべき偽物である。このような取り組みは、受入機が受け入れるように設計されている外貨セットの高額金種に対応しているが正確には同じでない性質のある外貨セットからの特に低額金種の硬貨の使用によって行われる不正行為を防止することを意図するものである。外国の金種の硬貨がそれら自体のほぼガウス分布のパラメータ信号を示すということと、この分布の低確率領域すなわち最低部領域が、受入機が受け入れるように設計された真正硬貨についての分布の対応領域に一部重なるときには、低額金種の値の外国硬貨が真正硬貨として時々受け入れられることは、わかるであろう。
【0007】
別の取り組みは、ヨーロッパ特許出願公開0480736号公報に記載されており、ここでは、受入ウィンドウは、先の硬貨パラメータ値が互いにかなり離れていない限り、先の受入可能硬貨についての硬貨パラメータの値に基づいている。これによって、硬貨受入機は、温度および他の長期ドリフトのような作動パラメータにおける変化を考慮に入れるために、ウィンドウを自己調整することができる。この取り組みについての危険性は、硬貨受入機が、真正硬貨に類似した不正硬貨を使用することによって不正行為を受け入れるようにそのウィンドウを修正することが教示されていることである。この問題点を克服するために、いわゆるニアミス領域が規定されており、検査中の硬貨からの硬貨パラメータ信号がこの領域に入ると、これは、不正行為のおそれを表示し、そのウィンドウは、可能性のある不正行為によって影響を受けるウィンドウ位置を避けるためにその領域から変位する。しかしながら、ニアミス領域の位置は、真正の物品を不正な攻撃として誤って検出するのを防止するために重要である。この目的のために、ニアミス領域は真正硬貨集団の外側に合理的な間隔を置いていなければならない(とりわけ、ウィンドウの中心の位置決めにおける誤差が考慮されているときには)。これによって、不正の試みに充分に近くてニアミス領域に置かれる前にウィンドウ変位を引き起こす隙間が作り出される。わずかに改造された真正硬貨あるいはウィンドウの他の側における異なる不正行為であっても、ウィンドウを初めの不正の試みへ向けるために利用することもできる。このため、ヨーロッパ特許出願公開0480736号公報に記載された方法は、相対的に低い品質の不正行為のために使用されるだけであり、従って、より強い不正攻撃に対抗するためにはいっそう厳しいシステムが必要である。
【0008】
この発明は、ウィンドウの幅を制御する複雑さが含まれない代わりの取り組みを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明によれば、検査中のそれぞれの貨幣アイテムの関数である値が備わった個々の貨幣アイテム信号を生成し、検査中の貨幣アイテムのそれぞれについて、前記貨幣アイテム信号の値の関数としての変換された貨幣アイテム信号と、検査中の貨幣アイテムについての受入基準の関数である少なくとも1つの可変パラメータとを作成し、前記変換ずみ貨幣アイテム信号の値とウィンドウ限界値との比較を行い、さらに前記比較に基づいてそれぞれの貨幣アイテムを受け入れることからなる貨幣アイテムの受入方法が提供される。
【0010】
前記可変パラメータは、先に検査された貨幣アイテムについての前記貨幣アイテム信号の値に関連している履歴データの関数であってもよい。
【0011】
前記変換ずみ貨幣アイテム信号は、受入基準の出現を判定するエキスパートシステムに基づいた規則の結果に従って前記貨幣アイテム信号を変換することによって作成することができる。さらに具体的には、前記変換ずみ貨幣アイテム信号は、先に検査された貨幣アイテムに基づいたデータと1つ以上の規則との比較の結果に基づいて決定された増幅因子に従って、検査中の貨幣アイテムについての前記貨幣アイテム信号を調整することによって作成することができる。相異なる増幅因子は、これらの規則についての比較の結果に応じて使用することができる。
【0012】
先に検査された貨幣アイテムについての前記貨幣アイテム信号に対応しているデータの平均値は、前記ウィンドウ限界値によって区切られたウィンドウの内部に存在している第1限界値と比較することができ、前記平均値が前記第1限界の内部にないときには、検査中の貨幣アイテムについての前記貨幣アイテム信号は前記増幅因子に従って調整することができる。
【0013】
先に検査された貨幣アイテムについての前記貨幣アイテム信号の値に対応しているデータの最大値は、前記ウィンドウ限界値によって区切られたウィンドウの内部に存在している第2限界値と比較することができ、前記最大値が前記第2限界の内部にないときには、検査中の貨幣アイテムについての前記貨幣アイテム信号は前記増幅因子に従って調整することができる。
【0014】
前記ウィンドウ限界値は、ウィンドウ平均値に関連する偏差として受入ウィンドウを区切ることができ、さらに、貨幣アイテムについての前記貨幣アイテム信号の値は、前記ウィンドウ平均値、最頻値あるいは中央値に関連して調整し、それによって誤差信号を作り出することができ、前記変換ずみ貨幣アイテム信号はこの誤差信号から作成することができる。
【0015】
この発明にはさらに、検査中のそれぞれの貨幣アイテムの関数としてある値の個々の貨幣アイテム信号をもたらすためのセンサ回路と、検査中の貨幣アイテムのそれぞれについて、前記貨幣アイテム信号の値の関数としての変換された貨幣アイテム信号と検査中の貨幣アイテムについての受入基準の関数である少なくとも1つの可変パラメータとを作成し、前記変換ずみ貨幣アイテム信号の値とウィンドウ限界値との比較を行い、さらに前記比較に基づいてそれぞれの貨幣アイテムを受け入れるためのプロセッサ構成体とを備えてなる貨幣アイテム受入機もまた含まれている。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、この発明に係る硬貨受入機の概略ブロック図である。
【図2】図2は、図1に示された受入機の回路の概略ブロック図である。
【図3】図3は、図1に示されたマイクロコントローラによって実施された硬貨受入処理の概略ブロック図である。
【図4】図4は、一定のウィンドウ限界値のある受入ウィンドウの構成を示す。
【図5】図5は、一定の受入データに関連した検査中の連続状硬貨から得られたデータと他の限界値との概略図である。
【図6】図6は、この発明に係る硬貨受入処理の流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明をいっそう充分に理解するために、ここで、その実施形態が添付図面を参照しながら一例として説明される。
【0018】
硬貨受入機の概要
図1は、硬貨とともに使用するための、この発明に係る受入機の一般的構成を表わしている。この硬貨受入機は、例えばユーロ硬貨セットおよび複本位制2.00ポンド硬貨を含む英国硬貨セットのような、複本位制硬貨を含む相異なる金種のいくつかの硬貨を検認することができるものである。受入機には本体1が備わり、本体1には硬貨流下通路2があり、硬貨流下通路2は、検査中の硬貨が入口3から監視ステーション4を介して斜めに進み、ゲート5へ向かって落ちるものである。検査は、それぞれの硬貨についてそれが監視ステーション4を通過するようにして行われる。検査の結果が真正硬貨の存在を示していると、ゲート5が開いて硬貨は受入通路6へ進むが、そうでないときには、ゲートは閉じたままであり、硬貨は拒絶通路7へ向きを変えられる。硬貨8について受入機を通る通路は破線9で模式的に示されている。
【0019】
硬貨監視ステーション4には4つの硬貨感知コイルユニットS1,S2,S3,S4が含まれており、これらは、硬貨との電磁結合を作り出すために通電される。また、受入通路6には、ゲート5の下流側にコイルユニットPSが設けられており、これは、受入可能と判定された硬貨が実際に受入通路6を通過したかどうかを検出するために承認センサとして作用する。
【0020】
これらのコイルは、図2に模式的に示された駆動・インターフェイス回路10によって、相異なる周波数で通電される。これらのコイルによって、検査中の硬貨の中には渦電流が誘発される。4つのコイルと硬貨との間の相異なる電磁結合によって、硬貨は実質的に独自に特徴付けられる。駆動・インターフェイス回路10によって、硬貨とコイルユニットS1,S2,S3,S4との間における相異なる電磁結合の関数として、対応するディジタル型硬貨パラメータデータ信号Rs、すなわちR1,R2,R3,R4が作り出される。
コイルユニットPSのために対応する信号が作り出される。コイルSには、検査中の硬貨における個々の弦領域の誘導特性を検出するために、その硬貨の直径に比べて小さい直径がある。
【0021】
硬貨の真偽を判定するために、検査中の硬貨によって作り出された硬貨パラメータ信号は、記憶部12へ接続されたマイクロコントローラ11へ送られる。マイクロコントローラ11は、検査中の硬貨から得られた硬貨パラメータ信号R1,……R4を処理して、その結果を記憶部12の中に保持された対応記憶値と比較する。記憶値は、上限値および下限値のあるウィンドウの項目で保持されている。そして、処理されたデータが特定金種の真正硬貨に関連した対応ウィンドウの内部に納まるときには、硬貨は受入可能であると表示されるが、そうでないときには硬貨は拒絶される。受入可能であれば、ライン13に信号がもたらされて、硬貨を受入通路6へ送ることができるように、図1に示されたゲート5を操作する駆動回路14へ送られる。そうでないときには、ゲート5は開かれず、硬貨は拒絶通路7へ進む。マイクロコントローラ11によって行われた硬貨受入処理は、ライン16に受信された外部入力値に応じて修正しあるいは更新することができる。
【0022】
マイクロコントローラ11は、硬貨受入機が特定の通貨セットの2つ以上を受け入れるかあるいは拒絶することができるように、処理したデータを、異なる金種の硬貨について適している、記憶部12からの相異なるいくつかの組の作動ウィンドウデータと比較する。硬貨が受け入れられると、受入通路6に沿ったその移動は受入後承認センサコイルユニットPSによって検出され、また、ユニット10は、対応データをマイクロコントローラ11へ送り、次いで、受け入れた硬貨に属する通過承認度を表示する出力をライン15にもたらす。
【0023】
センサコイルユニットSにはそれぞれ、個々の振動性回路に接続された1つ以上のインダクターコイルが含まれており、コイル駆動・インターフェイス回路10には、データをマイクロコントローラ11へもたらすように、コイルユニットからの連続的な出力値を走査するためのマルチプレクサが含まれている。それぞれの回路は典型的には50〜150kHzの範囲にある振動数で振動し、また、回路素子は、それぞれのセンサコイルS1〜S4がそれらの間におけるクロスカップリングを防止するために自然共振振動数を有するように、選択される。
【0024】
硬貨がセンサコイルユニットS1を通過すると、そのインピーダンスは、100ミリ秒までの時間を超える硬貨の存在によって変更される。その結果、コイルにおける振動の振幅は、硬貨が通過する時間にわたって修正されるとともに、振動の振動数は変更される。硬貨によって作り出された変調に起因する振幅および振動数の変化は、硬貨の特性を表示する硬貨パラメータ信号R1,……R4を作り出すために使用される。
【0025】
硬貨受入処理
図3は、マイクロコントローラ11によって実施された処理の模式図である。この処理は、説明を簡単にするために1つの硬貨パラメータ信号Rsに関して説明されるが、対応する処理がそれぞれの硬貨パラメータ信号について個々に実施されることは理解されるであろう。図3に示されたように、硬貨パラメータ信号Rsは、図2に示されたコイルインターフェイス・駆動回路10から得られるものである。この信号Rsは、それを生じさせる硬貨に対応する数値のあるディジタル信号に変換される。このディジタル変換は、マイクロコントローラ11によるかあるいはコイル駆動・インターフェイス回路10自体の内部で実施することができる。硬貨パラメータ信号Rsの値は、ステップS3.1において、記憶部12に記憶されている一定のウィンドウ限界値と比較される。ステップS3.2およびステップS3.3に示されたように、この比較の結果に基づいて硬貨受入/拒絶信号が作り出される。
【0026】
ステップS3.3で一定のウィンドウ限界値と比較するのに先立って、ステップS3.4で硬貨パラメータ信号Rsの値を変換するために、人工知能(AI)が利用される。AIの機能によって、硬貨パラメータ信号は、いくつかの因子、さらに具体的には、受け入れられあるいは拒絶された先の硬貨の履歴、不正な硬貨が近隣で使用されているという隣接する硬貨受入機からの表示のような風評、および温度の変化のような環境的入力データを考慮に入れるために、変換される。例えば、硬貨パラメータ信号は、一定のウィンドウ限界値との比較に先立って温度変化あるいはセンサコイルの近傍における金属物体の存在を考慮に入れるために、われわれのヨーロッパ特許出願公開0399694号公報に記載されたように変換することができる。
【0027】
この例では、AIの機能には、以下にいっそう詳しく説明されるように、エキスパートシステムに基づいた規則が備わっている。
【0028】
図4には、ステップS3.1の比較処理のために使用される一定ウィンドウの例が示されている。このウィンドウは、特定金種の硬貨についての硬貨パラメータ信号の平均値に対応している平均値Mの項で記憶される。平均から離れている硬貨を収容するために、一定のウィンドウ上限値W1およびウィンドウ下限値W2が、平均値の近くにもたらされ、また、平均値Mに対する偏差の項で記憶される。図4の例では、ウィンドウ上限値W1およびウィンドウ下限値W2は、平均値Mに対して±7であるが、平均値に関して対称的に配置する必要のない他の値を使用することができるのはもちろんである。ウィンドウをもたらすことによって、平均値からわずかに離れている硬貨もまた受け入れることができる。ウィンドウ幅(W2−W1)があまりにも広く作られているときには、不正硬貨が受け入れられるおそれが大きく、ウィンドウ幅があまりにも狭く作られているときには、かなりの数の真正硬貨が拒絶されるおそれがある、ということはわかるであろう。ウィンドウ幅はこれら2つの考慮事項の間における妥協案である必要がある。
【0029】
これまでは、先の硬貨読取値によって不正硬貨が硬貨受入機に存在しているおそれのあることが表示されるときにウィンドウを変化させることが提案されてきた。この発明の次の例によれば、エキスパートシステムに基づいた規則の形態でAIを使用する、代わりの改善された取り組みがもたらされている。平均値Mから一定ウィンドウ限界値W2へのウィンドウの正の進行領域、すなわち図4における領域Aが考慮される。記載を簡単にするために詳しく説明されないが、同じような考慮が平均値Mから一定ウィンドウ限界値W1への負の進行領域になされる、ということはわかるであろう。
【0030】
図5によれば、硬貨パラメータ信号Rsの最新の値あるいは新しい値から得られたデータは、先に検査された同じ金種H1s……HNsの硬貨についての先行値Nとともに表わされている。検査された硬貨のそれぞれについての硬貨パラメータ信号の値は、黒丸点として示されており、硬貨パラメータ値は、一定ウィンドウについての平均値Mに対して再評価された。さらに詳しく言えば、マイクロコントローラ11は、システムに基づいた規則に使用するための対応調整データDを作り出すために、硬貨パラメータ信号Rs,H1sなどの値を調整する。例えば、目下検査中の硬貨についての硬貨パラメータRsを考慮すると、これによってデータDnewが作り出され、ここでDnew=Rs−Mである。この例では、Dnew=3であり、やはり履歴的硬貨パラメータ信号H1s……HNsに対応して得られた調整ずみの履歴的データD1……DNに対応している。この例では、D1=4であり、DN=9である。
【0031】
マイクロコントローラ11は、先に検査された同じ金種の硬貨に関する所定数の先行データDN値を記憶するように構成されている。例えば、最新の10個のDN値が記憶されて、現在の平均値AVGDNが計算される。また、現在の基準で、記憶データDnから最大値MaxDnが決定される。これらの値MaxDnおよびAVGDNは、硬貨受入処理における履歴的データとして使用される。
【0032】
再び図4によれば、いくつかの真正硬貨が検査されるときに、対応するAVGDNの値は平均値Mに近いものであるべきである。平均値AVGDNが平均値Mからかなり離れているときには、検認機は偽物の硬貨を使用する詐欺師によって攻撃されるおそれがある。また、MaxDnの値が平均値Mよりもウィンドウ値W2により近いときには、不正の試みが行われるおそれが大きい。
【0033】
図6には、履歴的データが、ステップS3.4の変換において、またその後のステップS3.1における変換データと一定のウィンドウ限界値との比較において、どのように使用されるかが示されている。図6を詳しく参照すると、検認処理がステップS6.0で開始され、また、ステップS6.1で「攻撃中」のフラッグUAが値「偽物である値」に設定される。同様に、増幅因子Aが初めは単一の値に設定され、また、変換されたデータパラメータTnewが0に初期化される。
【0034】
次に、ステップS6.2で、AVGDNの値が、図5に示された限界値L1によって定義された受入基準と比較される。そして、検査中の最新の10個の硬貨についてのDnの平均値が限界値L1を超えて平均値Mからかなり離れているときには、硬貨受入機は詐欺師によって攻撃されるおそれがあり、フラッグUAはステップS6.2で「真正である値」に設定される。また、増幅因子Aは値>1に設定される。この例では、増幅因子は、後に説明される変換処理において実質的に使用するための3の値に設定される。
【0035】
ステップS6.4では、先に計算されたMaxDnの値が、保護限界L2によって定義された受入基準と比較されるが、その値は図5に示されている。MaxDnがこの限界値を超えると、先に検査された硬貨の1つが一定のウィンドウ限界値W2に近いDの値を有しており、最近検査された硬貨の不正行為のおそれを意味している。この場合には、フラッグUAは、硬貨受入機が詐欺師によって攻撃されることを表示する、ステップS6.5で「真正である値」に設定される。また、増幅因子Aは値>1、例えば4に設定される。
【0036】
次いで、ステップS6.6で、フラッグUAの条件が検査されて、硬貨受入機が詐欺師によって攻撃されるかどうかが判定される。不正攻撃がないときには、変換されたデータパラメータTnewが検査中の硬貨に対応しているDnewと同じ値に設定される。次いで、Tnewの値がステップS6.9で限界値L3と比較される。限界値L3は、図5に示された一定のウィンドウ限界値W2に対応している。そして、Tnewの値がL3よりも小さいときには、そのデータは、Dnewの許容値に、従って検査中の硬貨についてのRsの許容値に対応している。
【0037】
これに対して、Tnewが一定のウィンドウ限界値L3を超えていると、硬貨は、ステップS6.11で、示されたように拒絶される。
【0038】
ステップS6.6の検査によって、検認機が攻撃されることが示されているときには、検査中の硬貨についてのDnewの値は、ステップS6.3あるいはステップS6.5で、増幅因子セットを使用して変換される。この変換は、パラメータTnewがDnew*Aの値を採用するように、ステップS6.8で実施される。変換されあるいは増幅された値は次に、先に説明したように、ステップS6.9で一定のウィンドウ限界値L3と比較される。そして、硬貨受入機が詐欺師によって攻撃されるときには、いっそう厳しい検査が硬貨データDに適用される。増幅因子のせいで、検査中の硬貨についての実効値Dnewは、検認機が攻撃されておらず、かつ、増幅因子Aが適用されていない状況と比較して一定の限界値L3よりも小さいものであるためには、そのウィンドウについての平均値Mの値にいっそう近いものである必要がある。
【0039】
そして、この発明に従って、受入機が不正な攻撃を受けているときにいっそう厳しい検査が適用され、また、この発明に従って、一定のウィンドウ限界値L3は、ウィンドウ位置を変更したりあるいは相異なるウィンドウ幅を切り換えて自動警備保証を達成したりする必要がないように、利用される。
【0040】
多くの修正および変形がこの発明の範囲内に納まる。例えば、ある状況では、限界値L2に対してMaxDnの値を検査した後に限界値L1に対してAVGDNの値を検査するのが好ましいかもしれない。また、増幅因子の値は、先に与えられた値に限定されず、また、特定の環境に応じて変更することができる。
【0041】
先に説明された例では、限界値L1およびL2に対応している受入基準は、不正な攻撃が発生した時点を判定するための不正基準からなっており、また、1よりも大きい(A>1)1つ以上の増幅因子が、不正行為に対する増大した識別能をもたらすために使用される。しかしながら、受入可能な硬貨の移動が生じると、不正行為の出現のおそれが相対的に低いときに硬貨が受け入れられる確度を増大させるために、増幅因子0>A<1が使用される。
【0042】
また、移動平均AVGDNとMaxDnとを作り出すために使用されたデータは、特定の経過時間よりも多く検査された硬貨からの硬貨パラメータ信号がAVGDNとMaxDnとを決定する目的のために無視されるように、時間依存性のものである。
【0043】
さらにまた、エキスパートシステムに基づいた規則には、増幅因子Aが詐欺師に応じて適用される基準を決定するための付加的なあるいは代わりの規則が含まれていてもよい。
また、調整された信号と閾値との比較を使用しない異なった規則を使用することができる。さらにまた、非線形の変換、相殺およびこれらの組み合わせのような、簡単な増幅以外の変換を使用することもできる。例えば、図3に模式的に示されたように、詐欺師があるグループの機械の近隣にいるという隣接する硬貨受入機からの風評(I)は、増幅因子Aの値を設定するために、あるいは、その風評に応じて硬貨をいっそう厳しく検査する目的で一定時間期間についての他の変換の値を設定するために使用することができる。この風評データは、図2に示された入力部16において受け入れることができる。また、温度のような環境的入力データは、不正行為が例えば特定の時刻、例えば居酒屋閉店時刻で起きることがわかった状況において、そのデータへの検査に基づいた付加的規則を温度あるいは日時の関数として課するために適用することができる。さらに、環境的入力データは、温度あるいは他の因子を考慮に入れるために、長期間、ゆっくり時間をかけてウィンドウ限界値W1,W2を変える目的で使用することができる。
【0044】
先の例では、センサSの1つについての信号の処理が説明されており、また、それぞれのセンサ入力値は個々に処理されることが判るであろう。しかしながら、1つのセンサについての処理は、別のセンサについての結果を考慮することができ、また、センサの1つについての不正基準の存在は、センサの別のものについての信号の処理に関する受入基準を設定するために使用することができる。
【0045】
この発明は、専門家の利用、図3においてステップS3.4に示されたAI処理を実施するためのシステムに基づいた規則の利用に限定されるものではない。代案には、ファジー理論、神経回路網あるいは遺伝的アルゴリズムが含まれる。
【0046】
システムに基づいた規則のうちさまざまな規則を、ある規則が特定の時間期間について適用し、その後、硬貨受入事象に応じるかあるいは外部要因に応じるかのいずれかによって除去されるように、時間基準において個々にあるいは集合的に適用することができる、ということはわかるであろう。
【0047】
この発明は、硬貨検認機に限定されることなく、通貨価値のある代用硬貨、紙幣、カードおよび他の物品のような他の貨幣アイテムについても使用することができる、ということもわかるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査中のそれぞれの貨幣アイテムの関数である値が備わった個々の貨幣アイテム信号を生成し、
検査中の貨幣アイテムのそれぞれについて、前記貨幣アイテム信号の値の関数としての変換された貨幣アイテム信号と、検査中の貨幣アイテムについての受入基準の関数である少なくとも1つの可変パラメータとを作成し、
前記変換ずみ貨幣アイテム信号の値とウィンドウ限界値との比較を行い、さらに
前記比較に基づいてそれぞれの貨幣アイテムを受け入れる
ことからなり、
前記可変パラメータは、先に検査された貨幣アイテムについての前記貨幣アイテム信号の値に関連している履歴データの関数であり、
前記変換ずみ貨幣アイテム信号は、エキスパートシステムに基づいた規則の結果に従って前記貨幣アイテム信号を変換することで作成される
貨幣アイテム受入方法。
【請求項2】
前記変換ずみ貨幣アイテム信号は、先に検査された貨幣アイテムに基づいたデータと少なくとも1つの規則との比較の結果に基づいて決定された増幅因子に従って、検査中の貨幣アイテムについての前記貨幣アイテム信号を調整することで作成される請求項に記載の方法。
【請求項3】
2つ以上の前記規則を含んでいるとともに、これらの規則についての比較の結果に応じて相異なる増幅因子を使用することを含んでいる請求項に記載の方法。
【請求項4】
先に検査された貨幣アイテムについての前記貨幣アイテム信号に対応しているデータの平均値を前記ウィンドウ限界値によって区切られたウィンドウの内部に存在している第1限界値と比較し、前記平均値が前記第1限界の内部にないときには、検査中の貨幣アイテムについての前記貨幣アイテム信号を前記増幅因子に従って調整することを含んでいる請求項に記載の方法。
【請求項5】
先に検査された貨幣アイテムについての前記貨幣アイテム信号の値に対応しているデータの最大値を前記ウィンドウ限界値によって区切られたウィンドウの内部に存在している第2限界値と比較し、前記最大値が前記第2限界の内部にないときには、検査中の貨幣アイテムについての前記貨幣アイテム信号を前記増幅因子に従って調整することを含んでいる請求項またはに記載の方法。
【請求項6】
前記ウィンドウ限界値は、一定値を有している請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記ウィンドウ限界値は、ウィンドウ平均値に関連する偏差としてウィンドウを区切り、この方法はさらに、前記ウィンドウ平均値に関連する貨幣アイテムについての前記貨幣アイテム信号を再評価し、それによって、再評価された貨幣アイテムデータを作り出すことと、再評価された前記貨幣アイテムデータから前記変換ずみ貨幣アイテム信号を作成することとを含んでいる請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
硬貨受入機において実行され、さらに、前記受入機の外部にある供給源から受信したデータに基づいて前記貨幣アイテム信号の変換を修正することを含んでいる請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
外部にある供給源から受信したデータは、他の受入機における不正攻撃のデータを表示するデータからなっている請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記受入基準は、不正攻撃に対応している不正基準からなっている請求項1〜のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記貨幣アイテムは、硬貨あるいは代用硬貨からなっている請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
検査中のそれぞれの貨幣アイテムの関数としてある値の個々の貨幣アイテム信号をもたらすためのセンサ回路と、
検査中の貨幣アイテムのそれぞれについて、前記貨幣アイテム信号の値の関数としての変換された貨幣アイテム信号と検査中の貨幣アイテムについての受入基準の関数である少なくとも1つの可変パラメータとを作成し、前記変換ずみ貨幣アイテム信号の値とウィンドウ限界値との比較を行い、さらに前記比較に基づいてそれぞれの貨幣アイテムを受け入れるためのプロセッサ構成体と
を備えてなり、
前記可変パラメータは、先に検査された貨幣アイテムについての前記貨幣アイテム信号の値に関連している履歴データの関数であり、
前記プロセッサ構成体は、エキスパートシステムに基づいた規則の結果に従って前記貨幣アイテム信号を変換することによって前記変換ずみ貨幣アイテム信号を作成するように作動可能である
貨幣アイテム受入機。
【請求項13】
前記プロセッサ構成体は、先に検査された貨幣アイテムに基づいたデータと少なくとも1つの規則との比較の結果に基づいて決定された増幅因子に従って検査中の貨幣アイテムについての前記貨幣アイテム信号を調整することで前記変換ずみ貨幣アイテム信号を作成するように作動可能である請求項12に記載の貨幣アイテム受入機。
【請求項14】
2つ以上の前記規則を含んでいるとともに、前記プロセッサ構成体は、これらの規則についての比較の結果に応じて相異なる増幅因子を使用するように作動可能である請求項13に記載の貨幣アイテム受入機。
【請求項15】
前記プロセッサ構成体は、先に検査された貨幣アイテムについての前記貨幣アイテム信号に対応しているデータの平均値を前記ウィンドウ限界値によって区切られたウィンドウの内部に存在している第1限界値と比較し、前記平均値が前記第1限界の内部にないときには、検査中の貨幣アイテムについての前記貨幣アイテム信号を前記増幅因子に従って調整するように作動可能である請求項13または14に記載の貨幣アイテム受入機。
【請求項16】
前記プロセッサ構成体は、先に検査された貨幣アイテムについての前記貨幣アイテム信号の値に対応しているデータの最大値を前記ウィンドウ限界値によって区切られたウィンドウの内部に存在している第2限界値と比較し、前記最大値が前記第2限界の内部にないときには、検査中の貨幣アイテムについての前記貨幣アイテム信号を前記増幅因子に従って調整するように作動可能である請求項13または14に記載の貨幣アイテム受入機。
【請求項17】
前記ウィンドウ限界値は、一定値を有している請求項1216のいずれか1つに記載の貨幣アイテム受入機。
【請求項18】
前記ウィンドウ限界値は、ウィンドウ平均値に関連する偏差としてウィンドウを区切り、さらに、前記プロセッサ構成体は、前記ウィンドウ平均値に関連する貨幣アイテムについての貨幣アイテム信号の値を再評価し、それによって、再評価された貨幣アイテムデータを作り出し、さらに再評価された前記貨幣アイテムデータから前記変換ずみ貨幣アイテム信号を作成するように作動可能である請求項1217のいずれか1つに記載の貨幣アイテム受入機。
【請求項19】
前記プロセッサ構成体は、外部にある供給源から受信したデータに基づいて前記貨幣アイテム信号の変換を調整するように作動可能である請求項1218のいずれか1つに記載の貨幣アイテム受入機。
【請求項20】
外部にある供給源から受信したデータは、他の受入機における不正攻撃のデータを表示するデータからなっている請求項19に記載の貨幣アイテム受入機。
【請求項21】
硬貨あるいは代用硬貨を受け入れるように作動可能である請求項1220のいずれか1つに記載の貨幣アイテム受入機。
【請求項22】
請求項1221のいずれか1つに記載の多金種受入機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−23042(P2011−23042A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243991(P2010−243991)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【分割の表示】特願2004−566153(P2004−566153)の分割
【原出願日】平成15年12月15日(2003.12.15)
【出願人】(505257305)マネー コントロールズ リミテッド (6)
【氏名又は名称原語表記】MONEY CONTROLS LIMITED
【住所又は居所原語表記】Coin House,New Coin Street,Royton,Oldham,Lancashire OL2 6JZ,UNITED KINGDOM
【Fターム(参考)】