説明

改良多孔質膜

【課題】蒸気滅菌を受けた場合に安定した細孔径を有する改良膜を提供する。
【解決手段】延伸ポリテトラフルオロエチレンの多孔質シート22であり、ASTMD737試験に従って0.2CFM以上の通気度を有し、膜を180℃の温度に1時間暴露した場合の膜の通気度の変化は30%未満であり、シート22はまた、ASTMD751試験に従って135psi以上の平均Mullen静水侵入圧力を有し、180℃の温度に1時間暴露した後にも、平均Mullen静水学的水侵入圧力は実質的に変化しなく、膜を180℃の温度に1時間暴露した場合、膜のバブルポイント値の変化は20%未満である細孔径を有する改良膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に多孔質膜に関する。特に、本発明は改善された性質を有する多孔質延伸ポリテトラフルオロエチレン膜に関する。
【背景技術】
【0002】
延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)から製造される膜は公知である。かかる公知の膜は、その化学的不活性のために多くの用途で使用されている。ePTFE膜の例示的な用途には、防水性で通気性の衣服、流体濾過、医療用移植及びガス抜きがある。
【0003】
通例、膜は通気性、水侵入抵抗性及び/又は安定した細孔径のような特定の性質を達成するように製造される。所望の性質は、多くの場合、膜の細孔径、厚さ及び/又は単位重量を調節することで達成できる。若干の従来知られていた膜では、蒸気滅菌時のような高温に暴露された場合、通気性に直接影響する細孔径が維持されなかった。したがって、蒸気滅菌を受けた場合に安定した細孔径を有する改良膜に対するニーズが存在している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
米国特許第7306841号明細書
【発明の概要】
【0005】
本発明の一態様は、向上した強度及び細孔安定性のような1以上の改善された性質を有する膜である。かかる膜は延伸ポリテトラフルオロエチレンのシートを含んでいる。かかるシートは多孔質であり、ASTM D737試験に従って0.2CFM以上の通気度を有する。かかるシートはまた、ASTM D751試験に従って135psi以上の平均Mullen静水学的水侵入圧力を有する。
【0006】
本発明の別の態様は、延伸ポリテトラフルオロエチレンのシートを含む膜である。かかるシートは、第1の潤滑剤率で加工用潤滑剤と混合した第1のPTFE微粉末樹脂から作製された第1の押出物を含んでいる。また、第1の潤滑剤率で加工用潤滑剤と混合した第1のPTFE微粉末樹脂から作製された第2の押出物が作製される。第1及び第2の押出物は一体化テープ構造物に合体され、次いで二軸延伸される。かかるシートは多孔質であり、ASTM D737試験に従って0.2CFM以上の通気度を有する。かかるシートはまた、ASTM D751試験に従って135psi以上の平均Mullen静水学的水侵入圧力を有する。
【0007】
本発明のさらに別の態様は、延伸ポリテトラフルオロエチレンのシートを含む膜である。かかるシートは多孔質であり、ASTM D737試験に従って0.2CFM以上の通気度を有する。膜を180℃の温度に1時間暴露した場合、膜の通気度の変化は30%未満である。かかるシートはまた、ASTM D751試験に従って135psi以上の平均Mullen静水学的水侵入圧力を有する。180℃の温度に1時間暴露した後にも、平均Mullen静水学的水侵入圧力は実質的に変化しない。膜を180℃の温度に1時間暴露した場合、膜のバブルポイント値の変化は20%未満である。
【0008】
本発明のさらに他の特徴は、本発明が関係する技術分野の当業者にとっては、添付の図面を参照しながら以下の説明を読むことで自ずから明らかになろう。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明の一態様に従って製造される膜シートの一部分の斜視図である。
【図2】図2は、概して図1中の線2−2に沿って見た、図1に示した膜シートの断面図である。
【図3】図3は、膜シートを製造するために使用されるプロセスの略図である。
【図4】図4は、図3に示したプロセスのカレンダー部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一態様に従って製造される改良膜20(図1)は、シート22の形態を有している。シート22(図2)には、少なくとも2つの同一の層又は構成部分が組み込まれている。構成部分は、ペースト押出法によって得られる押出物24、26の形態を有している。押出物24、26は一体化テープ構造物40(図3及び図4)に形成される。次いで、一体化テープ構造物40を二軸延伸することで膜20のシート22が形成される。
【0011】
得られた膜20のシート22は多孔質、好ましくは微孔質であり、多数のフィブリル64によって相互連結された多数のノード62からなる三次元マトリックス型又は格子型の構造を有している。膜20のシート22の材料は延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)からなり、これは焼結されることもあれば焼結されないこともある。
【0012】
ノード62及びフィブリル64の表面は、膜の相対する主面間において曲がりくねった経路に沿って膜20のシート22を貫通する多数の相いに連絡した細孔を画成する。好ましくは、シート22中の細孔の平均サイズは微孔質と見なすのに十分なものであるが、本発明では任意の細孔径が使用できる。膜20のシート22中の細孔26の好適な平均サイズは0.01〜1.0μmの範囲内、好ましくは0.01〜0.25μmの範囲内、最も好ましくは0.05〜0.15μmの範囲内であり得る。この多孔度は、膜20のシート22を通気性にすることができる。
【0013】
例えば、膜20のシート22は、ASTM D737試験法に従って測定して約0.10〜0.50CFMの範囲内、好ましくは約0.20〜0.35CFMの範囲内の通気度を有する。膜20のシート22はまた、ASTM D751試験に従って約135〜200psiの範囲内、好ましくは約150〜185psiの範囲内の平均Mullen静水学的水侵入圧力を有する。膜20のシート22はまた、ASTM F−316試験法に従って約25〜50psiの範囲内、好ましくは約30〜40psiの範囲内のバブルポイント圧力を有する。
【0014】
膜20のシート22を製造するには、ミキサー100(図3)内でポリテトラフルオロエチレン(PTFE)微粉末樹脂及び潤滑剤が混合される。PTFE微粉末樹脂は、DuPont社から601A又は603A TEFLON(登録商標)微粉末樹脂の名称で入手できる。潤滑剤は、Exxon Mobile CorporationからISOPAR(登録商標)Kの名称で入手できる。例えば、潤滑剤の使用量、即ち潤滑率はPTFE微粉末樹脂に対して潤滑剤14〜22wt%の範囲内にあり、好ましくは潤滑率はPTFE微粉末樹脂に対して潤滑剤15〜17wt%の範囲内にあり、最も好ましくは潤滑率は16wt%である。ミキサー100は、PK Blenderのような任意適宜の混合装置であり得る。所定の適当量の潤滑剤及びPTFE微粉末樹脂をミキサー100内に導入する。PTFE微粉末樹脂を「酷使」しない速度でミキサー100を回転させる。ミキサー100は、潤滑剤がPTFE微粉末樹脂を十分に湿潤させて保護することを可能にする適当な時間にわたって回転させる。
【0015】
潤滑剤及びPTFE微粉末樹脂の混合物を予備成形機120内に導入する。予備成形機120は、潤滑剤及びPTFE微粉末樹脂の混合物を機械的に圧縮してビレット(図示せず)にする。ビレットは、例えば約2〜約6インチの範囲内の任意適宜の直径を有し得る細長い円筒形のものである。ビレットをこの段階で貯蔵することで、潤滑剤をPTFE微粉末樹脂の隙間に一層良く浸透させることができる。
【0016】
ビレットを押出機140内に配置する。押出機140は、ビレットをなす潤滑剤及びPTFE微粉末樹脂の混合物を強制的に押出機のダイから押し出して押出物24、26を与えるプレスである。押出プロセス中には、PTFE微粉末樹脂の生の分散粒子が互いにすれ違いながら移動するのでフィブリルが形成される。押出物24、26は、ダイの形状に応じ、約0.035〜0.045インチの範囲内、好ましくは約0.040インチの所定厚さを有する。例えば、本発明の一態様に従えば、押出物24、26は実質的に同一の厚さ及び潤滑率を有する。押出物24、26は、一時的な貯蔵のためロール142上に巻き取ることができる。
【0017】
押出物24、26をそれぞれのロール142から引き出し、カレンダー160(図3及び図4)に導く。2つの押出物24、26が図示されているが、適当な形状を有する任意適宜の数の押出物を用いて膜20のシート22を製造できることは自明であろう。図3に最も良く示される通り、上方又は第1の押出物24は、回転する上部のローラー162に接しながら機械方向MDに沿って送られる。下方又は第2の押出物26は、回転する下部のローラー164に接しながら機械方向MDに沿って送られる。
【0018】
カレンダー160は、図4に示される通り、押出物24、26から一体化テープ40を形成する。ローラー162、164の間のギャップは押出物24、26の合計厚さより小さいので、第1及び第2の押出物24、26は互いに強制的にかみ合わされる。ギャップは約0.010〜0.030インチの範囲内、好ましくは約0.020インチである。ローラー162、164は金属であり、それぞれが使用する押出物24、26の数及び厚さに応じて約160〜320℃の範囲内の温度に加熱される。一体化テープ40の厚さは、好ましくは約0.010〜0.030インチの範囲内、好ましくは約0.020インチである。
【0019】
第1及び第2の押出物24、26は、第1及び第2の押出物を構成するノード62及びフィブリル64を機械的にインターロックすることで一体化テープ構造物40に合体される。即ち、カレンダー作業中には、第1の押出物24の一部分が第2の押出物26の一部分に押し込められる。これは比較的強固な一体化テープ構造物40を与え、これが膜20の完成シート22の他の望ましい改善された性質を可能にする。
【0020】
一体化テープ構造物40は、一連の加熱乾燥ローラー180(図3)に接しながら引き取られる。加熱乾燥ローラー180は、一体化テープ構造物40中に残留する潤滑剤を追い出す。除去された潤滑剤は捕集システム(図示せず)で集められる。
【0021】
一体化テープ構造物40を少なくとも一方向、好ましくは二方向(二軸)に沿って「膨張」つまり延伸することによって、膜20の完成シート22が形成される。「膨張」とは、フィブリル64に永久ひずみ又は伸びを導入するのに十分なだけ、膜材料の弾性限界を超えて延伸することを意味するものである。
【0022】
一体化テープ構造物40は機械方向MD延伸機200に導かれる。機械方向延伸機200は、第1の速度で回転する第1のローラー202を有している。機械方向延伸機200は、第1のローラー202の第1の速度より大きい第2の速度で回転する第2のローラー204も有している。ローラー202、204は、約260〜300°Fの範囲内、好ましくは約280°Fに加熱されている。第1のローラー202の表面速度より速く回転する第2のローラー204の表面速度差は、機械方向MD延伸比を決定する。本発明の一態様に従えば、機械方向MD延伸比は約1.0〜6.0の範囲内、好ましくは約2.0〜3.5の範囲内にある。
【0023】
一体化テープ構造物40は横断方向XD延伸機220に導かれる。一体化テープ構造物40は、横断方向XD延伸機220の部品により、横方向に沿って相対する縁端がクランプされる。一体化テープ構造物40を機械方向MDと実質的に直交する第2の方法に沿って所定量だけ延伸することでシート22が形成される。一体化テープ構造物40は、横断方向XDに沿って元の横方向寸法(幅)の約8〜12倍の範囲内、好ましくは約10倍に延伸される。一体化テープ構造物40は、約500〜600°Fの範囲内、好ましくは約550°Fの高温に暴露されたときに延伸される。
【0024】
シート22は、好ましくは膜材料中の残留応力を低減させて最小にするために加熱又は「焼結」される。シート22は、好ましくは、横断方向延伸機220内において約700〜750°Fの範囲内、好ましくは約730°Fの高温に暴露することで加熱される。しかし、膜20の想定される用途にとって適当であれば、シート22を焼結しなくてもよいし或いは部分的に焼結してもよい。次いで、膜20のシート22はロール222上に巻き取られる。
【0025】
本発明の一態様に係る膜20のシート22を公知の膜と比較して試験した。試験の結果を下記表中に示す。試料1は、単一の押出物から製造した公知のePTFE膜である。試料2は、本発明の一態様に従って製造した膜20のシート22である。本発明の一態様に係る膜20のシート22は、模擬蒸気滅菌の前後において安定した細孔径を有している。最初に、試料膜を平均細孔径、厚さ、通気度、バブルポイント及びMullen静水学的水侵入力圧力について試験する。模擬蒸気滅菌に際しては、金属フープ上に試料膜を固定する。フープ及び試料膜を180℃の熱風オーブン内に1時間配置する。フープ及び試料膜をオーブンから取り出し、室温に放冷する。試料膜をフープから取り外す。次いで、試料膜を平均細孔径、厚さ、通気度、バブルポイント及びMullen静水学的水侵入力圧力について試験する。
【0026】
膜20のシート22は、強度を表すMullen静水圧値のような顕著に改善された望ましい性質を有している。膜20のシート22は、ASTM D751試験に従って約135〜200psiの範囲内、好ましくは約150〜185psiの範囲内の平均Mullen静水学的水侵入圧力を有している。膜20のシート22はまた、ASTM F−316試験法に従って約25〜50psiの範囲内、好ましくは約30〜40psiの範囲内のバブルポイント圧力を有している。
【0027】
膜20のシート22はまた、強度を表すMullen静水圧値のような顕著に改善された望ましい性質を有している。膜20のシート22は、ASTM D737試験法に従って測定して約0.10〜0.50CFMの範囲内、好ましくは約0.20〜0.35CFMの範囲内の通気度を有している。
【0028】
重要な点として、膜20のシート22の試料2に関しては、模擬蒸気滅菌後にも細孔径が安定であることが確認された。180℃の温度に1時間暴露した後にも、細孔径は実質的に変化しないことが判明した。また、膜を180℃の温度に1時間暴露した場合、膜20のシート22の通気度の変化は30%未満であることも判明した。膜を180℃の温度に1時間暴露した場合、膜のバブルポイント値の変化は20%未満である。このように、模擬蒸気滅菌後にも安定した細孔径、比較的変化のない通気度及び強度を有する膜20の改良シート22が得られる。
【0029】
【表1】


本発明の1以上の態様に関する上記の説明から、当業者は様々な改良、変更及び修正に想到するであろう。当業者の技術範囲内にあるそのような改良、変更及び修正は、添付特許請求の範囲に包含されることが意図されている。
【符号の説明】
【0030】
20 膜
22 シート
24 第1の押出物
26 第2の押出物
62 ノード
64 フィブリル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
延伸ポリテトラフルオロエチレンのシート(22)を含んでなる膜(20)であって、
該シートが多孔質であり、ASTM D737に従って0.2CFM以上の通気度を有すると共に、
該シートがASTM D751に従って135psi以上の平均Mullen静水学的水侵入圧力を有する、膜(20)。
【請求項2】
該シートが
第1の潤滑剤率で加工用潤滑剤と混合した第1のPTFE微粉末樹脂から作製された第1の押出物(24)、及び
第1の潤滑剤率で加工用潤滑剤と混合した第1のPTFE微粉末樹脂から作製された第2の押出物(26)
を含み、第1及び第2の押出物(24、26)は一体化テープ構造物(40)に合体され、次いで二軸延伸される、請求項1記載の膜(20)。
【請求項3】
第1及び第2の押出物(24、26)は、第1及び第2の押出物を構成するノード(62)及びフィブリル(64)の機械的インターロックによって一体化テープ構造物(40)に合体される、請求項2記載の膜(20)。
【請求項4】
シート(22)がASTM D751に従って150psi以上の平均Mullen静水学的水侵入圧力を有する、請求項1記載の膜(20)。
【請求項5】
細孔径が0.01〜0.25μmの範囲内にある、請求項1記載の膜(20)。
【請求項6】
細孔径が180℃の温度に1時間暴露した後にも実質的に変化しない、請求項1記載の膜(20)。
【請求項7】
膜を180℃の温度に1時間暴露した場合、膜の通気度の変化が30%未満である、請求項1記載の膜(20)。
【請求項8】
膜を180℃の温度に1時間暴露した場合、膜のバブルポイント値の変化が20%未満である、請求項1記載の膜(20)。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−231321(P2011−231321A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94588(P2011−94588)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【Fターム(参考)】