説明

改質された炭素原料油および炭素材の製造方法

【課題】処理コストの安価な改質された炭素原料油の製造方法および炭素材の製造方法を提供する。
【解決手段】石炭系重質油および石油系重質油のうちから選ばれるいずれかひとつまたは双方からなる炭素原料油100質量部に対してアルカリ水溶液0.01質量部以上を混合し、生成する固形分を少なくとも除去することにより改質された炭素原料油を製造する。また、改質された炭素原料油を原材料に用いて炭素材を製造する。また、改質された炭素原料油の製造方法において生成する固形分を配合した石炭系重質油および石油系重質油のうちから選ばれるいずれかひとつまたは双方からなる炭素原料油を原材料に用いて炭素材を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質された炭素原料油および炭素材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭系(コールタール系)重質油や石油系重質油(以下、これらをまとめて炭素原料油ということがある。)は、例えば、バインダーピッチ、カーボンブラック、ピッチコークスあるいは炭素電極等の炭素材料や炭素製品(以下、これらをまとめて炭素材ということがある。)の原材料として用いられている。
【0003】
炭素原料油中には、有機溶剤(以下、単に溶剤という。)であるキノリンやトルエンに不溶な成分(以下、キノリンに不溶な成分をQI分、トルエンに不溶な成分をTI分ということがある。)が含まれている。これらの溶剤に不溶な成分は、炭素原料油の用途により有効に作用することもあるが、除去が必要な場合もある。
【0004】
炭素原料油からQI分を除去する方法については、芳香族系溶媒と脂肪族系溶媒を炭素原料油に添加することにより、QI分を固形物質(固形分)として沈降させて除去する方法が周知である。
QI分を固形物質として沈降・除去して得られる上澄み油は、さらに蒸留することで改質された炭素原料油となり、上記炭素材の原材料として好適に用いられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、芳香族系溶媒と脂肪族系溶媒を炭素原料油に添加する上記した従来の炭素原料油の改質方法は、高価な芳香族溶媒と脂肪族溶媒を使用し、また、溶媒を除去するための蒸留処理が必要であり、多大な処理コストを要する。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、処理コストの安価な改質された炭素原料油の製造方法および炭素材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る改質された炭素原料油の製造方法は、石炭系重質油および石油系重質油のうちから選ばれるいずれかひとつまたは双方からなる炭素原料油100質量部に対してアルカリ水溶液0.01質量部以上を混合し、生成する固形分を少なくとも除去することを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る炭素材の製造方法は、上記の改質された炭素原料油の製造方法により得られる改質された炭素原料油を原材料に用いることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る炭素材の製造方法は、上記の改質された炭素原料油の製造方法において生成する固形分を配合した石炭系重質油および石油系重質油のうちから選ばれるいずれかひとつまたは双方からなる炭素原料油を原材料に用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る炭素原料油の製造方法は、石炭系重質油および石油系重質油のうちから選ばれるいずれかひとつまたは双方からなる炭素原料油100質量部に対してアルカリ水溶液0.01質量部以上を混合し、生成する固形分を少なくとも除去するため、安価な処理コストで改質された炭素原料油を得ることができる。
また、本発明に係る炭素材の製造方法は、上記の改質された炭素原料油を原材料に用い、または、生成する固形分を原材料の一部に用いるため、炭素材の製造コストを低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施の形態について、以下に説明する。
【0012】
本実施の形態に係る炭素原料油の製造方法は、石炭系重質油および石油系重質油のうちから選ばれるいずれかひとつまたは双方からなる炭素原料油100質量部に対してアルカリ水溶液0.01質量部以上を混合し、生成する固形分を少なくとも除去する。
【0013】
炭素原料油は、石炭系重質油や石油系重質油を用いることができる。
石炭系重質油として、石炭を乾留して得られるコールタール、コールタールを分留・熱処理して得られるピッチもしくはその副生油、またはピッチをコーキングする時に発生するカーボンブラック用原料油等を挙げることができる。一方、石油系重質油として、原油の熱分解油または熱分解油の分留品等を挙げることができる。これらの炭素原料油は、1種単独でまたは2種類以上の混合物の状態で使用することができる。
【0014】
アルカリ水溶液は、その種類を特に限定するものではないが、NaOH、KOH、Ca(OH)2、Mg(OH)2等のアルカリ金属またはアルカリ土類金属(広義のアルカリ土類金属)の水酸化物、Na2CO3、K2CO3等のアルカリ金属の炭酸化物、あるいはまたNH4(OH)等の無機アルカリ水溶液を好適に使用することができる。
【0015】
アルカリ水溶液は、炭素原料油100質量部に対して0.01質量部以上を配合する。アルカリ水溶液の配合比率が0.01質量部より少ないと、固形物質の析出が不十分となる。一方、アルカリ水溶液の配合比率の上限は特にないが、100質量部を超える量を配合しても固形物質の析出効果は目立って向上しない。
【0016】
アルカリ水溶液のアルカリ濃度は、特に限定するものではないが、好ましくは、1質量%以上、より好ましくは10質量%以上とする。
【0017】
炭素原料油とアルカリ水溶液の混合は、炭素原料油が流動性を有する状態にある限り、温度条件を特に限定するものではないが、常温〜250℃の温度範囲で行うことが好ましく、60℃〜200℃の温度範囲で行うことがより好ましい。炭素原料油は、通常、流動性を有する状態にあるが、粘度が高い等の理由でそのままでは効率的な混合に必要な十分な流動性を確保できない場合は、適宜加温して流動性を付与する。
【0018】
炭素原料油とアルカリ水溶液の混合時間は、使用する炭素原料油の種類等に応じて適宜設定することができるが、およそ5分以上程度とすることが好ましく、かつ、それで十分である。
【0019】
ここで、炭素原料油とアルカリ水溶液の混合手段は、適宜選択して用いることができ、例えば、公知の一般的工業手段の中から動力攪拌やスタティックミキサー等を用いることができる。また、例えば、炭素原料油かアルカリ水溶液のうちの一方の液流に向けて他方を噴霧、噴射する方法や、炭素原料油およびアルカリ水溶液の両者を対向して噴霧、噴射して衝突させる方法等であってもよく、これらの方法の場合は、狭義の混合の概念から外れて、いうならば接触、あるいは接触混合であるが、本実施の形態では、これらも混合の一形態に含む。
【0020】
炭素原料油とアルカリ水溶液の混合によって生成する固形分(固形物質)を炭素原料油から分離・除去する手段は、適宜選択して用いることができ、例えば、公知の一般的工業手段の中から静置分離、遠心分離、ろ過分離等を用いることができる。
これにより、固形分が除去されて、改質された炭素原料油が得られる。
ここで、アルカリ水溶液の使用量が、改質された炭素原料油の品質や炭素原料油を原材料に用いて製造する炭素材の品質に影響しない程度に少ない場合は、ことさら改質された炭素原料油とアルカリ水溶液を分離する必要はないが、アルカリ水溶液の使用量が相対的に多い場合は、例えば静置分離等の適宜の手段により改質された炭素原料油からアルカリ水溶液を除去することが好ましい。
【0021】
以上説明した本実施の形態に係る改質した炭素原料油の製造方法によれば、芳香族系溶媒と脂肪族系溶媒を用いる従来の方法に代えてアルカリ水溶液を用いることで、安価な処理コストで改質された炭素原料油を得ることができる。
【0022】
ところで、例えばコールタール1質量部に、例えば1N−NaOH水溶液3質量部を作用させて、例えば2時間撹拌等して、アルカリ水溶液に可溶な成分を取り除く方法が開示されている(特開平06−157015号公報)。この方法によれば、ピッチ中の酸素含有量を減らすことで、同一軟化点において高い炭素収率を示すとされている。
以上の本実施の形態の説明から明らかなように、本実施の形態と上記の技術は、その目的、作用効果が相違し、発明の構成も相違する、別個の技術思想による技術であることはいうまでもない。
【0023】
つぎに、本実施の形態に係る炭素材の製造方法は、上記の改質された炭素原料油の製造方法により得られる改質された炭素原料油を原材料に用いる。
ここで、炭素材は、本実施の形態の改質された炭素原料油を原材料として製造されるものである限り特に限定するものではないが、改質した炭素原料油をディレードコーカーにより処理して得られるピッチコークス、改質した炭素原料油を必要に応じて分留・熱処理して分子量分布を調整して得られるバインダーピッチや含浸ピッチを挙げることができ、さらにはこれらの炭素材を原料に用いて得られる黒鉛電極等の炭素製品を挙げることができる。なお、バインダーピッチや含浸ピッチは、改質された炭素原料油をそのまま用いることもでき、この場合、バインダーピッチや含浸ピッチ自体が改質された炭素原料油の一態様である。
これにより、原材料として安価な処理コストで得られる本実施の形態の改質された炭素原料油を用いることで、炭素材の製造コストを低減することができる。
【0024】
また、上記とは別の本実施の形態に係る炭素材の製造方法は、上記の改質された炭素原料油の製造方法において生成する固形分を配合した石炭系重質油および石油系重質油のうちから選ばれるいずれかひとつまたは双方からなる炭素原料油を原材料に用いる。
ここで、炭素材は、本実施の形態の固形分を原材料の一部として製造されるものである限り特に限定するものではないが、ピッチコークス、バインダーピッチや含浸ピッチ、カーボンブラックを挙げることができ、さらにはこれらの炭素材を原料に用いて得られる黒鉛電極等の炭素製品を挙げることができる。
これにより、炭化歩留や易黒鉛化性の向上した炭素材を安価な製造コストで得ることができる。
なお、上記2つの本実施の形態に係る炭素材の製造工程において、原材料として用いる原料油や中間製品等に含まれる固形分を除去することが望ましい場合、本実施の形態に係る改質した炭素原料油の製造方法を好適に用いることができる。
【実施例】
【0025】
実施例を挙げて、本発明をさらに説明する。なお、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0026】
〔実施例1〕
カーボンブラック用の炭素原料油100質量部に対して、48質量%の炭酸カリウム水溶液を0.15質量部添加(配合)した。混合温度は120℃で、攪拌による混合時間は20分とした。混合液(油)を静置後、析出した固形物質をデカンテーションで取り除き上澄み油を得た。固形物質は、炭素原料油100質量部に対して0.5質量部析出した。
炭素原料油中のQI分はtrace、TI分は0.8質量%であり、改質された炭素原料油である上澄み油中のQI分はtrace、TI分は0.4質量%であった。
なお、上記の上澄み油100質量部に対して、48質量%の炭酸カリウム水溶液を0.15質量部添加した。混合温度は120℃で、攪拌による混合時間は20分とした。混合液(油)を静置したが、固形物質は析出せず、固形物質が析出するのに必要な混合時間が先の処理における混合時間で十分であることが確認できた。
【0027】
〔参考例〕
実施例1と同じカーボンブラック用の炭素原料油100質量部に対して、48質量%の炭酸カリウム水溶液を0.005質量部添加した。混合温度は120℃で、攪拌による混合時間は20分とした。混合液(油)を静置したが、固形物質は析出していなかった。
【0028】
〔実施例2〕
実施例1と同じカーボンブラック用の炭素原料油100質量部に対して、48%質量の炭酸カリウム水溶液を50質量部添加した。混合温度は120℃で、攪拌による混合時間は20分とした。混合液(油)を静置した後、固形物質をデカンテーションで除去した。固形物質は、炭素原料油100質量部に対して0.5質量部析出した。
炭素原料油中のQI分はtrace、TI分は0.8質量%であり、改質された炭素原料油である上澄み油中のQI分はtrace、TI分は0.4質量%であった。
【0029】
〔実施例3〕
実施例1と同じカーボンブラック用の炭素原料油100質量部に対して、48質量%の炭酸カリウム水溶液を0.15質量部添加した。混合温度は250℃で、攪拌による混合時間は20分とした。混合液(油)を静置した後、固形物質をデカンテーションで除去した。固形物質は、炭素原料油100質量部に対して0.1質量部析出した。
炭素原料油中のQI分はtrace、TI分は0.8質量%であり、改質された炭素原料油である上澄み油中のQI分はtraceであり、TI分は0.7質量%であった。
【0030】
〔実施例4〕
実施例1と同じカーボンブラック用の炭素原料油100質量部に対して、48質量%の炭酸カリウム水溶液を0.15質量部添加した。混合温度は200℃で、攪拌による混合時間は20分とした。混合液(油)を静置した後、固形物質をデカンテーションで除去した。固形物質は、炭素原料油100質量部に対して0.4質量部析出した。
炭素原料油中のQI分はtrace、TI分は0.8質量%であり、改質された炭素原料油である上澄み油中のQI分はtrace、TI分は0.5質量%であった。
【0031】
〔実施例5〕
実施例1と同じカーボンブラック用の炭素原料油100質量部に対して、24質量%の炭酸カリウム水溶液を0.3質量部添加した。混合温度は120℃で攪拌による混合時間は20分とした。混合液(油)を静置した後、固形物質をデカンテーションで除去した。固形物質は、炭素原料油100質量部に対して0.5質量部析出した。
炭素原料油中のQI分はtrace、TI分は0.8質量%であり、改質された炭素原料油である上澄み油中のQI分はtraceであり、TI分は0.4質量%であった。
【0032】
〔実施例6〕
コールタールを分留して得られるピッチを炭素原料油として用い、ピッチ100質量部に対して、48質量%のNaOH水溶液を1質量部添加した。混合温度は170℃で、攪拌による混合時間は20分とした。混合液(油)を静置した後、固形物質をデカンテーションで取り除き上澄み油を得た。固形物質は、ピッチ100質量部に対して8質量部析出した。
炭素原料油中のQI分は6質量%、TI分は15質量%であり、改質された炭素原料油である上澄み油中のQI分はtrace、TI分は14質量%であった。
【0033】
〔実施例7〕
実施例6と同じピッチから製造した含浸ピッチを炭素原料油として用い、含浸ピッチ100質量部に対して、48質量%のKOH水溶液を10質量部添加した。混合温度は150℃で攪拌による混合時間は20分とした。その後、遠心分離機で固形物質を取り除いた。固形物質は、含浸ピッチ100質量部に対して1質量部析出した。
炭素原料油としての含浸ピッチ中のQI分はtrace、TI分は10質量%であり、固形物質を除去した含浸ピッチ中のQI分はtrace、TI分は9質量%あった。
【0034】
〔比較例〕
コールタールを分留して得られるピッチ(QI分:6質量%)を炭素原料油として用い、ピッチ100質量部に対して、ベンゼン400質量部、n-ヘキサン500質量部を加え、100℃で混合し、20分攪拌した。混合液を静置した後、固形物質をデカンテーションで取り除き上澄み油を得た。固形物質は、ピッチ100質量部に対して12質量部析出した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭系重質油および石油系重質油のうちから選ばれるいずれかひとつまたは双方からなる炭素原料油100質量部に対してアルカリ水溶液0.01質量部以上を混合し、生成する固形分を少なくとも除去することを特徴とする改質された炭素原料油の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の改質された炭素原料油の製造方法により得られる炭素原料油を原材料に用いることを特徴とする炭素材の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の改質された炭素原料油の製造方法において生成する固形分を配合した石炭系重質油および石油系重質油のうちから選ばれるいずれかひとつまたは双方からなる炭素原料油を原材料に用いることを特徴とする炭素材の製造方法。

【公開番号】特開2008−222746(P2008−222746A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−58929(P2007−58929)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(597114915)新日化カーボン株式会社 (5)
【Fターム(参考)】