説明

改質ゼオライトβ

本発明は改質ゼオライトβを提供し、該改質ゼオライトβの無水化学式(酸化物のwt%基準)は、(0〜0.3)Na2O・(0.5〜10)Al2O3・(1.3〜10)P2O5・(0.7〜15)MO・(70〜97)SiO2[式中、遷移金属Mは、Fe、Co、Ni、Cu、Mn、ZnおよびSnから成る群から選択される1つまたはそれ以上の遷移金属であり;xは、該遷移金属の原子数を表し;yは、該遷移金属Mの酸化状態を満足させるために使用される数を表す。]で示されることを特徴とする。該改質ゼオライトβは、石油炭化水素接触分解におけるクラッキング触媒または補助剤の活性成分として使用し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質ゼオライトβおよびその使用、特に、燐および遷移金属で改質したゼオライトβおよび石油炭化水素処理におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
1967年に、アルミン酸ナトリウム、シリカゲル、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAOH)および水を使用して、Mobile CorpのWadlingerは、混合結晶化によってゼオライトβを初めて合成した。ゼオライトβは、広い範囲で変化し得る高シリカ/アルミナ比を特徴とする。Martensらは、デカンをプローブとして使用することによって、ゼオライトβが12員環の多孔性骨格構造を有することを示し;1988年に、NewsamおよびHigginsらは、モデルを構成し、粉末回折測定をシミュレートすることによって、ゼオライトβが積層欠陥構造を有することを初めて示した。ゼオライトβは、交絡多孔性チャンネルを有する12員環構造を有し、(001)結晶面に平行な一次元多孔性チャンネルについて、12員環の孔径は0.75〜0.57nmであり、(100)結晶面に平行な二次元多孔性チャンネルについて、12員環の孔径は0.65〜0.56nmである。ゼオライトβは、これまでに唯一つしか発見されていないマクロ細孔および三次元構造を有する高シリカゼオライトであり、その構造的特殊性により酸触媒特性および構造選択性の両方を有し、さらに、極めて高い熱安定性(結晶格子の破損温度が1200℃より高い)、水熱安定性および耐摩耗性を有する。独特の構造的特徴により、ゼオライトβは、優れた熱および水熱安定性、耐酸性、耐コーキング性および一連の触媒反応における触媒活性を有し、触媒作用、吸着などの局面で優れた性能を示し、従って、用途において広範な可能性を有し、最近、急速に新しいタイプの触媒物質が開発されている。いくつかの金属成分で改質または担持された後に、ゼオライトβを、石油精製および石油化学処理、例えば、オレフィンの水素化分解、水素化異性化、水和などに使用することができる。
【0003】
多くの触媒化学反応方法において、金属または金属イオン(例えば、Ni、Co、Cu、Ag、Zn、Fe、Mn、Cr、Zr、Mo、W、アルカリ土類金属、希土類金属など)で担持または交換されたゼオライトを、触媒の活性成分として使用する必要性がある。
【0004】
CN 1098028Aは、トルエン不均化およびアルキル交換反応用のゼオライトβ触媒を開示し、該触媒は、10〜90wt%のゼオライトβ、5〜90wt%の結合剤、および0.05〜5wt%のNi、Co、Cu、Ag、Sn、Gaなどから成る群から選択される金属から成り、該金属は浸漬によって担持されている。
【0005】
米国特許第5453553号は、ベンゼンおよびラウリレンの反応によってドデシルベンゼンを製造する方法を開示し、使用される触媒は、Fe、Ni、Co、PtおよびIrから選択される1つまたはそれ以上の遷移金属を、X-、Y-、M-、ZSM-12およびゼオライトβから選択されるゼオライト上に担持することによって得られる。これらの金属は、含浸によってゼオライトの孔に担持され、触媒は、ドデシルベンゼンの合成に使用される触媒の安定性を明らかに向上させることができるが、活性安定性を増加させるという目的は、水素雰囲気下に反応を行う場合にしか達成できない。
【0006】
ゼオライトβの使用の際に遭遇する主な障害は、一方では、テンプレート剤の除去の際に構造が損傷しやすいことであり、他方では、反応工程の間に脱アルミニウムしやすいことにより、その活性安定性が低いことである。
【0007】
米国特許第4605637号は、より低い酸性度のゼオライト、例えばB(ホウ素)含有ZSM-5、B含有ゼオライトβ、高ケイ素ZSM-5ゼオライトなどを、燐酸アルミニウム物質、例えば微結晶AlPO4-5などで液体水性系において処理して、Al原子をゼオライトの骨格に移動させて、ゼオライトの酸性度および熱分解活性を増加させる方法を提示している。
【0008】
CN 1043450Aは、ゼオライトβを改質する方法を提示し、該方法は、Naゼオライトβを焼成し、その骨格の一部からアルミニウムを抽出し、次に、ゼオライトのカリウム分が0.5〜2.5wt%になるように、得られたゼオライトをカリウム交換し、乾燥させ、焼成し、ほぼ中性の燐酸塩緩衝液(燐酸水素カリウム-燐酸二水素カリウム、次亜燐酸-次亜燐酸カリウム、亜燐酸-亜燐酸カリウムを包含する)中に室温で4〜10時間浸漬し、必要に応じて洗浄を行いまたは行わず、それによって、ゼオライトの燐含量を0.01〜0.5wt%とし、次に、乾燥し、焼成することを含んで成り;この方法によれば、改質ゼオライトβは、水素化異性化反応用の炭化水素処理触媒として好適である。
【0009】
CN 1179994Aは、ゼオライトβを改質する方法を提示し、該方法は、下記の工程を含んで成る:Na-ゼオライトβをアンモニウムイオンと交換して、ゼオライトのNa2O含量を0.1wt%未満にし;次に、該アンモニウムイオン交換ゼオライトβを酸で処理して、その骨格の一部からアルミニウム原子を抽出して、シリカ/アルミナ比を50より大に増加し;このように脱アルミニウムしたゼオライトβと燐酸または燐酸塩とを均一に混合し;次に、得られた混合物を、得られたゼオライトが2〜5wt%のP2O5分を有するように、オーブン乾燥し;最後に、得られたゼオライトを、450〜650℃で水蒸気雰囲気下に0.5〜4時間にわたって熱水焼成する。この方法によって改質したゼオライトβを炭化水素の分解反応に使用した場合、より高い収量のオレフィン、特により高い収量の異性オレフィンおよびより低い収量のコークスが得られる。
【0010】
CN 1205249Aは、ゼオライトβを改質する方法を提示し、該方法は、下記を含んで成る:合成ゼオライトβの粗粉末を、Al2O3源、P2O5源、SiO2源、H2O2および水を含有する混合物と、ゼオライトβ:Al2O3:P2O5:SiO2:H2O2:H2O=1:(0.001〜0.02):(0.01〜0.30):(0〜0.05):(0〜0.10):(1.0〜3.0)の重量比で混合し、次に、乾燥し、さらに温度を400〜650℃に上げ、そのようにして得た混合物を1〜5時間焼成し、次に、焼成したゼオライトを従来法によってアンモニウムイオンと交換して、ゼオライトのNa2O含量を0.1wt%未満に減少させる。この方法は、ゼオライトβの活性安定性を明らかに向上させることができ、結晶保持率を増加させることもできる。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、驚くべきことに、ゼオライトβを燐および遷移金属で改質すると、ゼオライトβの水熱安定性を増加し得るだけでなく、そのように改質されたゼオライトをクラッキング触媒または助剤の成分として使用すれば、C2〜C12オレフィン(特にC5〜C12オレフィン)の収率および選択性も増加し得ることを見出した。
【0012】
従って、本発明の目的の1つは、改質ゼオライトβを提供することである。本発明の第二の目的は、接触分解の触媒または助剤における活性成分としての、改質ゼオライトβの使用を提供することである。
【0013】
本発明によって提供される改質ゼオライトβは、燐および遷移金属で改質されたゼオライトβであり、その無水化学式(酸化物のwt%基準)は、
(0〜0.3)Na2O・(0.5〜10)Al2O3・(1.3〜10)P2O5・(0.7〜15)MO・(70〜97)SiO2
[式中、
Mは、Fe、Co、Ni、Cu、Mn、ZnおよびSnから成る群から選択される1つまたはそれ以上の遷移金属であり;
xは、遷移金属Mの原子数であり;
yは、遷移金属Mの酸化状態の要件を満たす数である。]
で示される。
【0014】
さらに、本発明は、クラッキング触媒または助剤の活性成分としての、改質ゼオライトβの使用を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の更なる特徴を以下の記載において示し、一部は該記載から明らかであり、または本発明の実施によって理解し得る。
【0016】
本発明を以下にさらに詳しく説明する。しかしながら、本発明は種々の態様において実施でき、本明細書に示される実施形態に限定されるものと理解すべきでない。むしろ、それらの態様は、本開示が充分なものとなり、本発明の範囲が当業者に充分に理解されるように示すものである。
【0017】
本発明によって提供される改質ゼオライトβは、燐および遷移金属で改質されたゼオライトβであり、その無水化学式(酸化物のwt%基準)は、
(0〜0.3)Na2O・(0.5〜10)Al2O3・(1.3〜10)P2O5・(0.7〜15)MO・(70〜97)SiO2
[式中、
Mは、Fe、Co、Ni、Cu、Mn、ZnおよびSnから成る群から選択される1つまたはそれ以上の遷移金属であり;
xは、遷移金属Mの原子数であり;
yは、遷移金属Mの酸化状態の要件を満たす数である。
一態様において、該遷移金属MはFe、Co、Ni、Cu、Mn、ZnおよびSnから成る群から選択される1つの遷移金属である。]
で示される。
【0018】
好ましくは、本発明の改質ゼオライトβは、無水化学式(酸化物のwt%基準):
(0〜0.2)Na2O・(1〜9)Al2O3・(1.5〜7)P2O5・(0.9〜10)MO・(75〜95)SiO2
より好ましくは、
(0〜0.2)Na2O・(1〜9)Al2O3・(2〜5)P2O5・(1〜3)MO・(84〜95)SiO2
で示される。
【0019】
好ましい態様において、遷移金属Mは、Fe、Co、NiおよびCuから選択される1つまたはそれ以上の遷移金属であり、より好ましくはFeおよび/またはCuである。
【0020】
本発明の改質ゼオライトβの製造法は、下記の工程を含んで成る:アンモニウム交換、燐による改質、金属による改質、および焼成。具体的には、該製造法は、例えば、下記の工程を含んで成る:例えば、従来の結晶化によって得られるNa型ゼオライトβを、ゼオライト:アンモニウム塩:H2O= 1:(0.1〜1):(5〜10)の重量比で、室温〜100℃の温度において0.5〜2時間にわたって交換し、濾過し、該交換手順を1〜4回繰り返して、ゼオライトのNa2O含量を0.2wt%未満にし、次に、燐、およびFe、Co、Ni、Cu、Mn、ZnおよびSnから成る群から選択される1つまたはそれ以上の遷移金属Mを導入して交換ゼオライトβを改質し、次に、400〜800℃で0.5〜8時間焼成する。該焼成工程は水蒸気雰囲気下の焼成工程であってよい。
【0021】
本発明の改質ゼオライトβの製造法において、ゼオライトを、燐、およびFe、Co、Ni、Cu、Mn、ZnおよびSnから選択される1つまたはそれ以上の遷移金属Mで改質する工程は、例えば、含浸またはイオン交換法によって行うことができる。
【0022】
含浸は、例えば、3つの方法の1つによって行うことができる:
a. アンモニウム交換ゼオライトβのフィルターケーキを、燐含有化合物の水溶液の所定量と共に、室温〜95℃の温度で均一にパルプ化し、オーブン乾燥し、400〜800℃の条件下で焼成し、Fe、Co、Ni、Cu、Mn、ZnおよびSnから選択される1つまたはそれ以上の遷移金属Mを含有する化合物の水溶液の所定量と、室温〜95℃の温度で均一に混合し、次に、オーブン乾燥する;
b. アンモニウム交換ゼオライトβのフィルターケーキを、燐含有化合物の水溶液の所定量と共に、室温〜95℃の温度で均一にパルプ化し、オーブン乾燥し、Fe、Co、Ni、Cu、Mn、ZnおよびSnから選択される1つまたはそれ以上の遷移金属Mを含有する化合物の水溶液の所定量と、室温〜95℃の温度で均一に混合し、次に、オーブン乾燥し、前記の2つの水溶液の含浸手順を逆にすることもできる;
c. アンモニウム交換ゼオライトβのフィルターケーキを、燐含有化合物ならびにFe、Co、Ni、Cu、Mn、ZnおよびSnから選択される1つまたはそれ以上の遷移金属M含有化合物を含有する混合水溶液の所定量と、室温〜95℃の温度で均一に混合し、次に、オーブン乾燥する。
【0023】
上記イオン交換は、例えば、下記の方法によって行ってよい。アンモニウム交換後のゼオライトβのフィルターケーキを、燐含有化合物の水溶液の所定量と共に、室温〜95℃の温度で均一にパルプ化し、オーブン乾燥し、400〜800℃の条件下で焼成し、次に、Fe、Co、Ni、Cu、Mn、ZnおよびSnから選択される1つまたはそれ以上の遷移金属Mを含有する化合物の水溶液の所定量と、1:(5〜20)の固体/液体比で均一に混合し、80〜95℃で2〜3時間攪拌し、次に、濾過し、その交換段階を多数回繰り返すことができ、交換後に得た試料を水で多数回洗浄し、次に、オーブン乾燥する。
【0024】
本発明の改質ゼオライトβの製造法において、アンモニウム塩は、当分野においてアンモニウム交換処理に一般に使用される無機アンモニウム塩、例えば、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウムおよび硝酸アンモニウムから選択される1つのアンモニウム塩、またはそれらの混合物である。
【0025】
本発明の改質ゼオライトβの製造法において、燐含有化合物は、燐酸、燐酸水素アンモニウム、燐酸二水素アンモニウムおよび燐酸アンモニウムから選択される化合物、またはそれらの混合物である。
【0026】
本発明の改質ゼオライトβの製造法において、使用されるゼオライトβは特に限定されず、当分野において一般に使用されるゼオライトβであってよく、市販のゼオライトβであってもよく、当分野で既知の製造法を使用して得られるゼオライトβであってもよい。
【0027】
本発明の改質ゼオライトβの製造法において、Fe、Co、Ni、Cu、Mn、ZnおよびSnから選択される1つまたはそれ以上の遷移金属Mを含有する化合物は、対応する水溶性塩から選択され、該水溶性塩は、硫酸塩、硝酸塩および塩化物から選択される塩である。
【0028】
本発明の製造法において、本発明の改質ゼオライトβの製造に関係する装置および工程制御は、特に限定されないが、当分野で常套の装置および工程制御を使用してよい。
【0029】
他の態様において、本発明は、クラッキング触媒または助剤の活性成分としての、前記改質ゼオライトβの使用を提供する。本発明の改質ゼオライトβを活性成分として使用することによって、石油炭化水素の接触分解に使用されるクラッキング触媒または助剤を製造することができる。
【0030】
クラッキング触媒または助剤は、本発明の改質ゼオライトβを活性成分として使用することを条件として、従来法によって製造でき、それについてこれ以上説明する必要はない。
【0031】
本発明の改質ゼオライトβは、石油炭化水素の接触分解法において、クラッキング触媒または助剤の活性成分として使用することができる。本発明の改質ゼオライトβは、燐および遷移金属で同時に改質されたゼオライトβであり、ゼオライトβの水熱安定性が増加するだけでなく、改質ゼオライトを接触分解工程におけるクラッキング触媒または助剤の活性成分として使用すると、C2〜C12オレフィン(特にC5〜C12オレフィン)の選択性も増加し得る。
【0032】
ガソリン製品中のC5〜C12オレフィンは、C2〜C4オレフィンを生成するための有効な先駆物質であるので、ガソリンのC5〜C12オレフィン分の増加は、形状選択的ゼオライトが付加的形状選択的分解によってC2〜C4オレフィンを生成するために、より多くのオレフィン供給材料を生じることができる。
【実施例】
【0033】
下記の実施例を使用して本発明をさらに説明するが、本発明はそれら実施例により限定されない。
【0034】
各実施例および比較例において、改質ゼオライトβの各試料におけるNa2O、Fe2O3、Co2O3、NiO、CuO、Mn2O3、ZnO、SnO2、Al2O3およびSiO2の含有量は、X線蛍光法によって測定される(Analytical Methods in Petrochemical Industry (RIPP Experiment Techniques)、Yang Cuidingら編、Science Press, 1990も参照)。
【0035】
下記の実施例および比較例に記載される触媒活性の評価法および触媒組成物の特性決定法は当分野において常套のものであり、従って、これらに関するあらゆる説明を省略する。
【0036】
下記のように使用される全ての試薬は、特に記載しなければ、化学的に純粋な試薬である。
【0037】
実施例1
100g(乾量基準)のゼオライトβ(Qilu Catalyst Company製、SiO2/Al2O3比=25)を、NH4Cl溶液で交換し、洗浄して0.2wt%未満のNa2O含量とし、濾過してフィルターケークを得、6.8g H3PO4(濃度85%)および3.2g Cu(NO3)2・3H2Oを水90gに添加し、溶解させ、次に、フィルターケークと混合して含浸を行い、オーブン乾燥し、550℃で2時間焼成して、本発明の改質ゼオライトβを得た。元素分析によるその化学組成は次の通りである:
0.1Na2O・8.2Al2O3・4.0P2O5・1.0CuO・86.7SiO2
【0038】
実施例2
100g(乾量基準)のゼオライトβを、NH4Cl溶液で交換し、洗浄して0.2wt%未満のNa2O含量とし、濾過してフィルターケークを得、11.8g H3PO4(濃度85%)および6.3g CuCl2を水90gに添加し、溶解させ、次に、フィルターケークと混合して含浸を行い、オーブン乾燥し、550℃で2時間焼成して、本発明の改質ゼオライトβを得た。元素分析によるその化学組成は次の通りである:
0.1Na2O・7.0Al2O3・6.9P2O5・3.5CuO・82.5SiO2
【0039】
実施例3
100g(乾量基準)のゼオライトβを、NH4Cl溶液で交換し、洗浄して0.2wt%未満のNa2O含量とし、濾過して、フィルターケークを得;4.2g NH4H2PO4を水60gに溶解し、次に、フィルターケークと混合して含浸を行い、オーブン乾燥し、550℃で2時間焼成し;前記試料を、1:5の固体/液体比において80〜90℃で2時間にわたってCu(NO3)2溶液(濃度5%)で交換し、濾過し、所定量に達するまで数時間にわたって交換を行い、次に、550℃で2時間焼成し、本発明によって提供されるゼオライトを得た。元素分析によるその化学組成は次の通りである:
0.03Na2O・2.0Al2O3・2.5P2O5・2.1CuO・93.4SiO2
【0040】
実施例4
100g(乾量基準)のゼオライトβを、NH4Cl溶液で交換し、洗浄して0.2wt%未満のNa2O含量とし、濾過して、フィルターケークを得、6.9g H3PO4(濃度85%)および8.1g Fe(NO3)3・9H2Oを水90gに添加し溶解し、次に、フィルターケークと混合して含浸を行い、次に、オーブン乾燥し;得られた試料を550℃で2時間焼成して、本発明の改質ゼオライトβを得た。元素分析によるその化学組成は次の通りである:
0.1Na2O・6.0Al2O3・4.1P2O5・1.5Fe2O3・88.3SiO2
【0041】
実施例5
100g(乾量基準)のゼオライトβを、NH4Cl溶液で交換し、洗浄して0.2wt%未満のNa2O含量とし、濾過して、フィルターケークを得、9.3g H3PO4(濃度85%)および33.6g Co(NO3)2・6H2Oを水90gに添加し溶解し、次に、フィルターケークと混合して含浸を行い、オーブン乾燥し、550℃で2時間焼成して、本発明の改質ゼオライトβを得た。元素分析によるその化学組成は次の通りである:
0.1Na2O・6.7Al2O3・5.4P2O5・9.6Co2O3・78.2SiO2
【0042】
実施例6
100g(乾量基準)のゼオライトβを、NH4Cl溶液で交換し、洗浄して0.2wt%未満のNa2O含量とし、濾過して、フィルターケークを得、6.0g H3PO4(濃度85%)および6.3g Ni(NO3)2・6H2Oを水90gに添加し、溶解し、次に、フィルターケークと混合して含浸を行い、次に、オーブン乾燥し;得られた試料を550℃で2時間焼成して、本発明の改質ゼオライトβを得た。元素分析によるその化学組成は次の通りである:
0.08Na2O・6.0Al2O3・4.3P2O5・1.8NiO・87.8SiO2
【0043】
実施例7
100g(乾量基準)のゼオライトβを、NH4Cl溶液で交換し、洗浄して0.2wt%未満のNa2O含量とし、濾過して、フィルターケークを得、6.0g H3PO4(濃度85%)および35.4g Mn(NO3)2を水90gに添加し溶解し、次に、フィルターケークと混合して含浸を行い、次に、オーブン乾燥し;得られた試料を550℃で2時間焼成して、本発明の改質ゼオライトβを得た。元素分析によるその化学組成は次の通りである:
0.09Na2O・1.9Al2O3・3.8P2O5・6.4Mn2O3・87.8SiO2
【0044】
実施例8
結晶化生成物としてのゼオライトβ100g(乾量基準)を、NH4Cl溶液で交換し、洗浄して0.2wt%未満のNa2O含量とし、濾過して、フィルターケークを得、2.1g H3PO4(濃度85%)および5.9g Zn(NO3)2・6H2Oを水90gに添加し溶解し、次に、フィルターケークと混合して含浸を行い、次に、オーブン乾燥し;得られた試料を550℃で2時間焼成して、本発明の改質ゼオライトβを得た。元素分析によるその化学組成は次の通りである:
0.15Na2O・1.3Al2O3・1.5P2O5・1.6ZnO・95.8SiO2
【0045】
実施例9
100g(乾量基準)のゼオライトβを、NH4Cl溶液で交換し、洗浄して0.2wt%未満のNa2O含量とし、濾過して、フィルターケークを得、6.0g H3PO4(濃度85%)および3.7g SnCl4・5H2Oを水90gに添加し溶解し、次に、フィルターケークと混合して含浸を行い、次に、オーブン乾燥し;得られた試料を550℃で2時間焼成して、本発明の改質ゼオライトβを得た。元素分析によるその化学組成は次の通りである:
0.11Na2O・6.3Al2O3・4.1P2O5・1.7SnO2・87.8SiO2
【0046】
実施例10
100g(乾量基準)のゼオライトβを、NH4Cl溶液で交換し、洗浄して0.2wt%未満のNa2O含量とし、濾過して、フィルターケークを得、7.1g H3PO4(濃度85%)、3.2g Cu(NO3)2・3H2Oおよび5.3g Fe(NO3)3・9H2Oを水90gに添加し溶解し、次に、フィルターケークと混合して含浸を行い、次に、オーブン乾燥し;得られた試料を550℃で2時間焼成して、本発明の改質ゼオライトβを得た。元素分析によるその化学組成は次の通りである:
0.11Na2O・5.9Al2O3・4.1P2O5・1.0CuO・1.0Fe2O3・87.9SiO2、または
0.11Na2O・5.9Al2O3・4.1P2O5・2.0MO1.25・87.9SiO2
(遷移金属Mの計算原子量は59.7である)
【0047】
比較例1
ゼオライトβを、NH4Cl溶液で交換し、洗浄して0.2wt%未満のNa2O含量とし、濾過して、フィルターケークを得、フィルターケークを120℃でオーブン乾燥し;得られた試料を550℃で2時間焼成した。元素分析によるその化学組成は次の通りである:
0.15Na2O・6.4Al2O3・93.5SiO2
【0048】
比較例2
この比較例は、燐改質ゼオライトβ(CN 1179994Aに使用されている方法によって製造)を示すために使用する。
【0049】
100g(乾量基準)のゼオライトβを、NH4Cl溶液で交換し、洗浄して0.2wt%未満のNa2O含量とし、濾過して、フィルターケークを得;フィルターケークを、60℃で、500mLの3wt%フルオロ珪酸(H2SiF6)溶液と2時間反応させ、濾過し、次に、フィルターケーキを、濃度85wt%の燐酸8gおよび擬ベーマイト2g(乾量基準)を含む混合物と均一に混合し、得られた混合物をオーブンにおいて110℃で乾燥し、マッフル炉に入れ、2hr−1のWHSVの水蒸気流下550℃で2時間焼成した。元素分析により、得られた生成物の化学組成は次の通りである:
0.1Na2O・5.1Al2O3・3.3P2O5・91.5SiO2
【0050】
比較例3
この比較例は、金属改質ゼオライトβを示すために使用する。
【0051】
結晶化生成物としてのゼオライトβ100g(乾量基準)を、NH4Cl溶液で交換し、洗浄して0.2wt%未満のNa2O含量とし、濾過して、フィルターケークを得;4.7g Cu(NO3)2・3H2Oを水90gに添加し溶解し、次に、フィルターケークと混合して、含浸を行い、次に、オーブン乾燥し;得られた試料を550℃で2時間焼成した。元素分析によるその化学組成は次の通りである:
0.1Na2O・6.3Al2O3・1.5CuO・92.1SiO2
【0052】
実施例11
本実施例は、軽ディーゼル油の接触分解に使用した場合、本発明の改質ゼオライトβの、C2〜C12オレフィン(特に、C5〜C12オレフィン)収率および選択性における作用を示すために使用する。
【0053】
前記の実施例および比較例で調製した試料を、固定床熟成装置において800℃および100%水蒸気の条件下で4時間にわたってそれぞれ熟成させ、タブレット化し、篩にかけ、次に、軽ディーゼル油を供給原料油として使用して固定床微量反応器において、20〜40メッシュの粒子を、接触分解について下記の評価条件下で評価した:反応温度550℃、再生温度600℃、油供給1.56g、供給時間70秒、触媒原材料(inventory)2g。
【0054】
表から、本発明によって提供された改質ゼオライトは、優れた水熱安定性だけでなく、より高いC2〜C12オレフィン(特に、C5〜C12オレフィン)収率および選択性も有することが分かる。燐によりゼオライトの改質(比較例2参照)は、水熱安定性、およびゼオライトβの炭化水素転化能力を効果的に増加させることができる。遷移金属によるゼオライトβの改質(比較例3参照)は、金属の中程度の脱水素能力に照らして、炭化水素分解処理におけるオレフィンの選択性を効果的に増加させる。これらと比較して、本発明の改質ゼオライトβは燐および遷移金属により同時に改質され、ゼオライトβの水熱安定性が増加し、分解生成物におけるC2〜C12オレフィン(特に、C5〜C12オレフィン)収率および選択性も効果的に増加し、プロピレン収率がかなりの程度に増加する。
【0055】
さらに、C5〜C12オレフィン収率が明らかに増加する。C5〜C12オレフィンは、C2〜C4オレフィン生成の有効な先駆物質であることが知られている。C5〜C12オレフィン収率の増加は、形状選択的ゼオライトが付加的形状選択性分解によってC2〜C4オレフィンを生成するために、より多くの供給原料をもたらし得る。
【0056】
実施例12
この実施例は、本発明の改質ゼオライトβを、石油炭化水素の接触分解用の触媒における活性成分の1つとして使用したときに、C2〜C4オレフィンの収率および選択性において有する作用を示すために使用する。
【0057】
上記実施例および比較例において調製された改質ゼオライトβ試料を、固定床熟成装置において800℃および100%水蒸気の条件下で4時間にわたってそれぞれ熟成させ、次に、工業用平衡触媒(DOCP)(Changling Catalyst Company製)および形状選択性分子篩と、DOCP:改質ゼオライトβ:形状選択性分子篩=85:5:10の比で均一に混合して、触媒を得た。
【0058】
工業用平衡触媒DOCPおよび形状選択性分子篩を、DOCP:形状選択性分子篩=90:10の比で均一に混合することによって、比較触媒CAT-0を得た。触媒を、固定床ミクロ反応器において、接触分解について下記の条件下で評価した:反応温度500℃、再生温度600℃、触媒/油比2.94、および触媒原材料5g。
【0059】
供給原料油の特性を表2に示す。評価の結果を表3に示す。
【0060】
ゼオライトβを使用しないCAT-0と比較して、ゼオライトβを接触分解触媒に添加すると(比較例1)、重油の転化率が減少し、プロピレン収率がわずかに増加することが、表3から分かる。燐改質ゼオライトβを添加すると(比較例2)、重油の転化率は同等であるが、プロピレン収率は増加する。金属改質ゼオライトβを添加すると(比較例3)、プロピレン収率は増加するが、重油の転化率は減少する。これらと比較して、本発明の改質ゼオライトβを添加すると、重油の転化率は実質的に同等であり、コークスおよびドライガス収率はわずかに増加するが、プロピレン収率は増加し、全ブテン収率およびイソブテン収率はある程度増加し、液化石油ガス収率は増加し、液化石油ガス中のプロピレン濃度も増加する。
【0061】
本発明の意図または範囲を逸脱せずに、本発明に種々の変更および変化を加え得ることは、当業者に明らかである。従って、本発明は、請求の範囲およびその同等物の範囲内であることを条件として、本発明の変更および変化を包含するものとする。
【表1】

【表2】

【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
燐および遷移金属Mで改質されていることを特徴とし、下記の無水化学式(酸化物のwt%基準):
(0〜0.3)Na2O・(0.5〜10)Al2O3・(1.3〜10)P2O5・(0.7〜15)MO・(70〜97)SiO2
[式中、
遷移金属Mは、Fe、Co、Ni、Cu、Mn、ZnおよびSnから成る群から選択される1つまたはそれ以上の遷移金属であり;
xは、遷移金属Mの原子数であり;
yは、遷移金属Mの酸化状態の要件を満たす数である]
で示される改質ゼオライトβ。
【請求項2】
無水化学式:(0〜0.2)Na2O・(1〜9)Al2O3・(1.5〜7)P2O5・(0.9〜10)MO・(75〜95)SiO2で示される、請求項1に記載の改質ゼオライトβ。
【請求項3】
無水化学式:(0〜0.2)Na2O・(1〜9)Al2O3・(2〜5)P2O5・(1〜3)MO・(84〜95)SiO2で示される、請求項2に記載の改質ゼオライトβ。
【請求項4】
遷移金属Mが、Fe、Co、Ni、Cu、Mn、ZnおよびSnから成る群から選択される1つの遷移金属である、請求項1に記載の改質ゼオライトβ。
【請求項5】
遷移金属Mが、Fe、Co、NiおよびCuから成る群から選択される1つまたはそれ以上の遷移金属である、請求項1に記載の改質ゼオライトβ。
【請求項6】
遷移金属Mが、Feおよび/またはCuから選択される、請求項1に記載の改質ゼオライトβ。
【請求項7】
クラッキング触媒または助剤における活性成分としての、請求項1〜6のいずれかに記載の改質ゼオライトβの使用。

【公表番号】特表2008−542173(P2008−542173A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−513898(P2008−513898)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【国際出願番号】PCT/CN2006/001164
【国際公開番号】WO2006/128374
【国際公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【出願人】(501329404)中國石油化工股▲分▼有限公司 (13)
【出願人】(504427813)中国石油化工股▲分▼有限公司石油化工科学研究院 (10)
【Fターム(参考)】