説明

改質ポリエステルの製造方法

【課題】
重合時に使用した触媒に起因する熱分解反応を抑制し、従来品に比べてポリエステルの色調が良好で、かつ高温溶融時における経時IV変化量が小さく、さらには製経時の毛羽や染めムラが発生しにくい染色性の優れた改質ポリエステルの製造方法を提供する。
【解決手段】
全酸成分に対し金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分0.1〜10モル%と、平均分子量400〜8000ポリオキシアルキレングリコール成分0.1〜5.0重量%を共重合した、酸化チタンとリン元素とを含有する改質ポリエステルの製造方法であって、アンチモン化合物を重縮合触媒として用い、改質ポリエステルのIV設定値の85%以上99%未満の段階で、5価のリン化合物をリン元素換算で10〜200ppm添加する改質ポリエステルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色調と熱安定性に優れた改質ポリエステルの製造方法に関するものである。更に詳しくは、本発明は、重合時に使用した触媒に起因する熱分解反応を抑制し、従来品に比べてポリマーの色調が良好で、かつ高温溶融時における経時固有粘度IV値変化量が小さく、整経時の毛羽や染めムラが発生しにくい改質ポリエステルを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは、その機能性の有用さから多目的に用いられており、例えば、衣料用、資材用および医療用に用いられている。そのポリエステルの中でも、汎用性と実用性の点でポリエチレンテレフタレートが優れており、好適に使用されている。
【0003】
一般にポリエチレンテレフタレートは、テレフタル酸またはそのエステル形成性誘導体とエチレングリコールから製造されるが、高分子量のポリマーを製造する商業的なプロセスでは、重縮合触媒としてアンチモン化合物、ゲルマニウム化合物およびチタン化合物などが広く用いられている。これらの重縮合触媒は、もちろんポリエチレンテレフタレートの重縮合反応を促進するが、熱分解反応や酸化分解反応などの副反応も促進する。副反応の一例としてポリマーが黄色く着色することは一般的に知られているが、ポリマーが黄色味を帯びるということは、例えばポリエステルを繊維として用いる場合、特に衣料用繊維では商品価値を損なうので好ましくない。
【0004】
このような問題に対して、重縮合触媒と共にリン化合物を添加することによりポリマーの色調や耐熱性を向上させる検討が広くなされている。この方法は、リン化合物により重縮合触媒の活性を抑制して、ポリマーの色調や耐熱性を向上させるというものである。
【0005】
チタン化合物を重縮合触媒として用いるポリエステル組成物の製造方法において、チタン化合物やリン化合物量、さらにはマグネシウム化合物、マンガン化合物およびカルシウム化合物量を規定することにより、耐熱性の優れたポリエステル組成物を得る方法が提案されている(特許文献1参照。)。しかしながら、この方法では確かに副反応の抑制に一定の効果は見られるものの、一定量以上のリン化合物を加えると重縮合触媒の重合活性が抑えられ過ぎて、目標の重合度まで到達しない場合もあり、重合反応時間が遅延するために結果としてポリマーの色調が悪化し、熱劣化しやすいためポリエステルの耐熱性が不十分であるという問題が発生する。
【0006】
アンチモン化合物を重縮合触媒として用いてポリエステル組成物を製造する際、重縮合反応が30〜60%完了の時期にリン化合物を添加して、色調や熱安定性に優れるポリエステル組成物を製造する方法が提案されている(特許文献2参照。)。しかしながら、この方法では確かに副反応の抑制に一定の効果は見られるものの、30〜60%の段階で一定量以上のリン化合物を加えると重縮合触媒の重合活性が抑えられ過ぎて、目標の重合度まで到達しない場合もあり、重合反応時間が遅延するために結果としてポリエステルの色調が悪化し、熱劣化しやすいためポリエステルの耐熱性が不十分であるという問題が発生する。
【0007】
イソフタル酸やポリエチレングリコール等を共重合することによる改質ポリエステルの製造方法において、リン化合物の添加による重合反応の遅延を解決すべく、リン化合物を重縮合反応終了後に添加する方法が提案されている(特許文献3参照。)。また別に、連続重合方法において、重縮合反応終了後にリン化合物を添加する方法が提案されている(特許文献4参照。)。確かにこれら方法を用いると、リン化合物による重縮合触媒の失活は防ぐことはできるが、重縮合反応が終了した後にポリエステルとリン化合物を混合するため、重縮合反応終了直後におこる副反応は抑制することができず、また混合工程におけるポリエステルの劣化は避けられない。
【0008】
そこで、本発明では上記課題を解決のため鋭意検討した結果、重縮合触媒の添加後に重合反応器の減圧を開始してから重合反応が実質的に完了する前、具体的には改質ポリエステルの設定固有粘度IV値の85%以上99%未満の段階で5価のリン化合物を添加することにより、本発明の目的を達成できるという知見を得た。
【特許文献1】特開2006−188667号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特公昭33−3748号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開昭48−79896号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特表2000−510180公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記従来の問題を解消、すなわち重合時に使用した触媒に起因する熱分解反応を抑制し、従来品に比べてポリエステルの色調が良好で、かつ高温溶融時における経時IV低下量が少なく、さらには製経時の毛羽や染めムラが発生しにくい染色性の優れた改質ポリエステルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の改質ポリエステルの製造方法は、全酸成分に対し金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分0.1〜10モル%と、平均分子量400〜8000ポリオキシアルキレングリコール成分0.1〜5.0重量%を共重合した、酸化チタンとリン元素とを含有する重縮合反応による改質ポリエステルの製造方法であって、アンチモン化合物を重縮合触媒として用い、改質ポリエステルの設定固有粘度IV値の85%以上99%未満の段階で、5価のリン化合物をリン元素換算で10〜200ppm添加することを特徴とする改質ポリエステルの製造方法である。
【0011】
本発明の改質ポリエステルの製造方法の好ましい態様によれば、前記の改質ポリエステルの設定固有粘度IV値の45%以下の段階で、3価のリン化合物をリン元素換算で20ppm未満添加することである。
【0012】
本発明の改質ポリエステルの製造方法の好ましい態様によれば、前記の酸化チタンの添加量は0.01〜7.0重量%である。
【0013】
本発明の改質ポリエステルの製造方法の好ましい態様によれば、前記の添加する3価のリン化合物と5価のリン化合物の分子量は、それぞれ150〜2000の範囲である。
【0014】
本発明の改質ポリエステルの製造方法の好ましい態様によれば、前記の改質ポリエステルの設定固有粘度IV値の85%以上99%未満の段階で、5価のリン化合物を添加するに際して、その5価のリン化合物をポリエステルを主体とする容器に入れその容器ごと添加するものである。
【0015】
本発明の改質ポリエステルの製造方法の好ましい態様によれば、前記の改質ポリエステルの設定固有粘度IV値の85%以上99%未満の段階で、3価のリン化合物をリン元素換算で10〜200ppm添加することである。
【0016】
本発明の改質ポリエステルの製造方法の好ましい態様によれば、前記の重縮合反応の溶融重縮合工程は、回分式重縮合である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、従来の製造方法で得られた改質ポリエステルに比べて、ポリエステルの色調が良好で、かつ高温溶融時における経時固有粘度IV低下量を小さくすることができる。この改質ポリエステルは、繊維用の成形体への製造工程における、固有粘度IV低下の問題を解消できるだけでなく、製経時の毛羽や染めムラの発生を抑制することが出来、染色性に優れた改質ポリエステルである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の改質ポリエステルの製造方法は、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体およびジオールまたはそのエステル形成性誘導体をエステル化またはエステル交換反応させた後、重縮合する製造方法である。このような製造方法により得られる改質ポリエステルとして具体的には、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレ−ト、およびポリエチレン−1,2−ビス(2−クロロフェノキシ)エタン−4,4’−ジカルボキシレート等が挙げられる。中でも、最も汎用的に用いられているポリエチレンテレフタレートまたは主としてエチレンテレフタレート単位を含む改質ポリエステル共重合体が好適である。
【0019】
本発明で用いられるポリオキシアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリブチレングリコール等が挙げられる。これらのポリオキシアルキレングリコールは単一で用いても良いし、混合して使用してもよい。得られる改質ポリエステルの均質性の観点から、例えば主成分がポリエチレンテレフタレートであるポリエステルにはポリエチレングリコールを用いることが好ましい。
【0020】
また、本発明の改質ポリエステルの製造方法により得られる改質ポリエステルには、全酸成分ら対し金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分が0.1〜10モル%と、重量平均分子量400〜8000のポリオキシアルキレングリコールが0.1〜5.0重量%共重合されている。
【0021】
金属スルホネート基を含有するイソフタル酸の共重合量が多すぎると、重合工程でのΔIV値およびΔb値が大きくなる。一方、金属スルホネート基を含有するイソフタル酸の共重合量が少なすぎると、製糸時の染色性に劣る。金属スルホネート基を含有するイソフタル酸の共重合量は、好ましくは0.6〜5モル%であり、より好ましくは1.0〜3.0モル%である。
【0022】
ポリオキシアルキレングリコールの重量平均分子量が大きすぎると、共重合せずポリエステル中で塊を形成し易く、ポリオキシアルキレングリコールの重量平均分子量が小さすぎると染色性に劣る。また、ポリオキシアルキレングリコールの共重合量が多すぎると、重合工程でのΔb値およびΔIV値が大きくなる。ポリオキシアルキレングリコールの共重合量が少なすぎると、製糸時の染色性に劣る。
ポリオキシアルキレングリコールの重量平均分子量は、好ましくは800〜2000であり、共重合量は好ましくは0.5〜2.0重量%である。
【0023】
ポリエステルの着色や耐熱性の悪化は、飽和ポリエステル樹脂ハンドブック(日刊工業新聞社、初版、P.178〜198)に明示されているように、ポリエステルの副反応によって起こる。このポリエステルの副反応は、金属触媒によってカルボニル酸素が活性化し、β水素が引き抜かれることにより、ビニル末端基成分およびアルデヒド成分が発生する。このビニル末端基によりポリエンが形成されることによってポリエステルが黄色に着色し、また、アルデヒド成分が発生するために、主鎖エステル結合が切断されるため、耐熱性が劣ったポリエステルとなる。リン化合物は、重縮合触媒と適度に相互作用することにより、重縮合触媒の活性を調節する役割を果たす。しかしながら、従来のリン化合物を重縮合反応開始前に添加する方法では、重縮合触媒の副反応の活性とともに重縮合活性をも低下させることは避けられなかった。ところが、本発明によると、重縮合触媒の重合活性を十分に保持したままに、副反応活性のみを極めて小さく抑えることができる。
【0024】
また、本発明者らは上記ポリエステルの着色メカニズムを詳細に検討したところ、ポリエステルのβ水素の引き抜きと、ビニル末端基成分およびアルデヒド成分の発生する反応はポリエステルの重縮合反応が実質的に完了する直後に多量に起こり、その後はビニル末端基成分がポリエンに形成される反応が進行し、リン化合物の添加によっても抑制しがたいことを見出した。
【0025】
そのため、リン化合物をポリエステルの重縮合反応が実質的に終了した後ではなく、実質的に重縮合反応が終了する前に添加することにより、重縮合完了直後に起こるβ水素の引き抜きとビニル末端基成分およびアルデヒド成分の生成を特異的に抑制できることを見出したものである。これは、従来のリン化合物やリン化合物の添加方法では達成し得なかったものである。
【0026】
本発明においては、5価のリン化合物は、改質ポリエステルの設定固有粘度IV値の85%以上99%未満の段階で添加される。さらに好ましくは、5価のリン化合物の添加は改質ポリエステルの設定固有粘度IV値の90%以上97.5%以下の間であり、特に好ましくは、92%以上96%以下の間である。リン化合物の添加が、重縮合反応が完了する時点の99%以上であると、リン化合物の分散時間などから改質ポリエステルの重合が実質的に完了した後に添加するのと同じこととなり、重合反応器から安定的に吐出できなくなり、チップ形状が不均一となるため、後の乾燥工程や溶融工程などでの物性変化や設備トラブルを引き起こす可能性がある。リン化合物の添加が、設定固有粘度IV値の85%未満では、重合反応が遅延してしまい、ポリエステルの色調が悪化する。リン化合物を添加する時期における改質ポリエステルのIV値は、直接サンプリングを行い後述する方法でIV測定を行っても良いが、反応器の攪拌翼にかかるトルク負荷から算出しても良い。
【0027】
本発明において、改質ポリエステルの設定固有粘度IV値の85%以上99%未満の段階で添加される5価のリン化合物は、重合触媒に配位して触媒活性を抑えることによりポリエステルの副反応を特に抑制する。
【0028】
本発明で用いられる5価のリン化合物は、数回に分割して添加してもよく、フィーダーなどで継続的に添加を行っても良いが、回分式重縮合の場合においては、リン化合物を添加する場合、リン化合物を単独で添加してもよく、エチレングリコール等のジオール成分に溶解させた状態または分散させて添加してもよい。ただし、エチレングリコール等のジオール成分を多量に持ち込んで添加を行うと、改質ポリエステルの解重合(ポリエステル主鎖の切断反応)が進行してしまうため、リン化合物を単独で添加することが好ましい。
【0029】
本発明で用いられる5価のリン化合物は、重縮合系に溶解または溶融可能であり、本発明で得られるポリエステルと実質的に同一成分のポリエステルから成るカプセル(容器)に充填し、その容器ごと添加することが好ましい。上記のような容器にリン化合物を入れて添加を行うと、減圧条件下での重合反応器に添加を行うことで、リン化合物が飛散して減圧ラインにリン化合物が流出することを防止することができると共に、リン化合物をポリエステル中に所望量添加することができる。本発明でいう容器とは、5価のリン化合物がまとめられるものであればよく、例えば、ふたや栓を有する射出成形容器、あるいはシートやフィルムをシールあるいは縫製などで袋状にしたものなどが含まれる。上記の容器には、孔などの空気抜きを作ることが好ましい。空気抜きを作った容器にリン化合物を入れて容器ごと添加すると、真空条件下で重合反応器に添加しても、空気膨張によりカプセルが破裂してリン化合物が減圧ラインに流出したり、重合反応器の上部や壁面に付着することがなく、ポリエステル中にリン化合物を所望量添加することができる。
【0030】
この容器の厚さは、厚すぎると溶解、溶融時間が長くかかるため厚さは薄い方が好ましいが、リン化合物の封入や添加作業の際に破裂しない程度の厚さを確保する。そのためには、10〜500μmの厚さで均一で偏肉のないものが好ましい。
【0031】
本発明において添加される5価のリン化合物の具体的な化合物は、下記式(1)
【0032】
【化1】

【0033】
で示される構造を含む化合物であり、式中のRとRとRは、炭素数1〜30のアルキル基またはアリール基を表し、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。
【0034】
5価のリン化合物としては、具体的には例えば、メチルホスホン酸、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、イソプロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ベンジルホスホン酸、トリルホスホン酸、キシリルホスホン酸、ビフェニルホスホン酸、ナフチルホスホン酸、アントリルホスホン酸、2−カルボキシフェニルホスホン酸、3−カルボキシフェニルホスホン酸、4−カルボキシフェニルホスホン酸、2,3−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,4−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,6−ジカルボキシフェニルホスホン酸、3,4−ジカルボキシフェニルホスホン酸、3,5−ジカルボキシフェニルホスホン酸、2,3,4−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,3,5−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,3,6−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,4,5−トリカルボキシフェニルホスホン酸、2,4,6−トリカルボキシフェニルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチルエステル、メチルホスホン酸ジエチルエステル、エチルホスホン酸ジメチルエステル、エチルホスホン酸ジエチルエステル、フェニルホスホン酸ジメチルエステル、フェニルホスホン酸ジエチルエステル、フェニルホスホン酸ジフェニルエステル、ベンジルホスホン酸ジメチルエステル、ベンジルホスホン酸ジエチルエステル、ベンジルホスホン酸ジフェニルエステル、リチウム(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル)、ナトリウム(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル)、マグネシウムビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル)、カルシウムビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスホン酸エチル)、ジエチルホスホノ酢酸、ジエチルホスホノ酢酸メチル、ジエチルホスホノ酢酸エチル、下記式(2)
【0035】
【化2】

【0036】
で示されるテトラエチルビフェニル−4,4’−ジイルジホスホネート、および下記式(3)
【0037】
【化3】

【0038】
で示されるテトラドデシルビフェニル−4,4’−ジイルジホスホネートなどが挙げられる。これら5価のリン化合物は、1種または2種以上組み合わせて用いても良い。
【0039】
本発明において、改質ポリエステルの設定固有粘度IV値の85%以上99%未満の段階で添加される5価のリン化合物は、得られる改質ポリエステルの色調や、繊維、フィルムおよびボトル等への成形体の製造工程における熱によるIV低下を小さくするため、得られる改質ポリエステルに対してリン原子換算で10〜200ppmとなるように添加することが重要である。5価のリン化合物の添加量が上記範囲より少ないと所望の目的効果を発揮するに至らず、上記範囲より添加量が多いとリン化合物の分散が不十分となるため、重合反応器から安定的に吐出できなくなり、チップ形状が不均一となるため後の乾燥工程や溶融工程などでの物性変化や設備トラブルを引き起こす可能性がある。リン化合物の添加量は、好ましくは12〜150ppmであり、さらに好ましくは15〜100ppmである。
【0040】
5価のリン化合物の重量平均分子量は、150〜2000の範囲であることが好ましい。リン化合物の重量平均分子量が上記の範囲内であると、減圧条件下での添加におけるリン化合物の飛散が少なく、また、リン化合物のポリエステル中への溶融が早く均一に分散されるために、リン由来の凝集異物の発生が抑えられる。5価のリン化合物の重量平均分子量は、好ましくは175〜1500であり、さらに好ましくは200〜1200である。
【0041】
本発明においては、重縮合反応中の熱劣化を抑制するために、改質ポリエステルの設定固有粘度IV値の45%以下の段階で、3価のリン化合物を添加することもできる。
【0042】
3価のリン化合物とは、ホスファイト系化合物、ホスホナイト系化合物、ホスフィナイト系化合物、ホスフィン系化合物およびそれらのアルキルエステルまたはアリールエステルのことを指す。これらの3価のリン化合物は、副反応により発生する過酸化物(R−O−OH:副反応をさらに促進する)をアルコール(R−OH)に変換し、自らは5価のリン化合物に変わることにより改質ポリエステルの副反応を特に抑制する。
【0043】
3価のリン化合物は、下記式(4)
【0044】
【化4】

【0045】
で示される構造を含む化合物であり、式中のRとRとRは、炭素数1〜20のアルキル基またはアリール基を表し、それぞれ同じであっても異なっていてもよい。
【0046】
3価のリン化合物としては、具体的には下記式(5)
【0047】
【化5】

【0048】
で示されるビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(融点:230〜240℃)、フェニル亜ホスホン酸ジエチルおよびフェニル亜ホスホン酸ジイソプロピル、下記式(6)
【0049】
【化6】

【0050】
で示されるテトラキス(2,4−ジ−t−ブチル−5−メチルフェニル)[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジイルビスホスホナイト(融点:234〜240℃)、および下記式(7)
【0051】
【化7】

【0052】
で示されるテトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル){1,1−ビフェニル}−4,4’−ジイルビスホスホナイト(融点:75−95℃)が挙げられる。
【0053】
これらの3価のリン化合物のうち、上記の式(5)で示される化合物は、(大崎工業化学株式会社製“GSY−P101”(登録商標))として、また上記の式(6)で示される化合物は、(チバ・スペシャリティー・ケミカルズ製“P−EPQ”(登録商標))として、それぞれ入手可能である。これらの3価のリン化合物は、1種または2種以上組み合わせて用いても良い。
【0054】
本発明において、改質ポリエステルの設定固有粘度IV値の85%以上99%未満の段階で添加する3価のリン化合物は、得られる改質ポリエステルの色調や、繊維、フィルムおよびボトル等への成形体の製造工程における着色を少なくするため、得られる改質ポリエステルに対してリン原子換算で10〜200ppmとなるように添加することが好ましい。3価のリン化合物の添加量が上記範囲より少ないと所望の目的効果を発揮するに至らず、上記範囲より添加量が多いとリン化合物の分散が不十分となるため、重合反応器から安定的に吐出できなくなり、チップ形状が不均一となるため後の乾燥工程や溶融工程などでの物性変化や設備トラブルを引き起こす可能性がある。3価のリン化合物の添加量は、好ましくは12〜150ppmであり、さらに好ましくは15〜100ppmである。
【0055】
本発明において、改質ポリエステルの設定固有粘度IV値の45%以下の段階で添加する3価のリン化合物は、得られる改質ポリエステルの色調や、繊維、フィルムおよびボトル等への成形体の製造工程における着色を少なくするため、得られる改質ポリエステルに対してリン元素換算で20ppm未満添加することが好ましい。3価のリン化合物の添加量が上記量よりも多いと、重合反応が遅延してしまい、ポリエステルの色調が悪化することがある。3価のリン化合物の添加量は、より好ましくは15ppm以下であり、さらに好ましくは、重合反応中の改質ポリエステルの熱劣化を抑制する意味で、5〜12ppmである。
【0056】
3価のリン化合物は、重量平均分子量が150〜2000の範囲であることが好ましい。3価のリン化合物の重量平均分子量が上記の範囲内であると、減圧条件下での添加におけるリン化合物の飛散が少なく、また、リン化合物のポリエステル中への溶融が早く均一に分散されるためにリン由来の凝集異物の発生が抑えられる。重量平均分子量は、より好ましくは175〜1500であり、さらに好ましくは200〜1200である。
【0057】
本発明の改質ポリエステルの製造方法では、重縮合触媒として、アンチモン化合物が用いられるが、ゲルマニウム化合物、チタン化合物、アルミニウム化合物、ナトリウム化合物、カリウム化合物、リチウム化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、亜鉛化合物、コバルト化合物およびマンガン化合物等の化合物(重縮合触媒)を併用しても良い。これらの重縮合触媒は、得られる改質ポリエステルに対して金属原子換算で1〜1000ppm添加することが好ましい。
【0058】
本発明で用いられる重縮合触媒とは、一般にジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体およびジオールまたはそのエステル形成性誘導体から改質ポリエステルを合成する反応において、(1)ジカルボン酸成分とジオール成分との反応であるエステル化反応、(2)ジカルボン酸のエステル形成性誘導体成分とジオール成分との反応であるエステル交換反応、および(3)実質的にエステル反応またはエステル交換反応が終了し、得られたポリエチレンテレフタレート低重合体を脱ジオール反応にて高重合度化せしめる重縮合反応の反応のうち、少なくとも上記の(3)の反応促進に寄与する効果を持っているものを指す。
【0059】
本発明で得られる改質ポリエステルは、酸化チタンを0.01〜7.0重量%含有することが好ましい。酸化チタンの含有量がこの範囲にあると溶融時の熱分解も発生しにくくポリエステルの色調が良好であり、成形時の異物の問題も発生しない。酸化チタンの含有量は、好ましくは0.5〜2.0重量%であり、さらに好ましくは1.2〜1.8重量%である。また、酸化チタン粒子の粒径は、繊維にした場合の糸工程におけるガイドなどの摩耗を低減させる点から、二次粒径の平均が1.0μm以下であり、頻度分布における2.0μm以上の粒子の積分割合が5%以下であることが好ましい。酸化チタンは、エステル交換反応またはエステル化反応後で、重縮合反応開始前に添加されることが望ましい。
【0060】
さらに、本発明で得られる改質ポリエステルは、、目的を損なわない範囲で、酸化ケイ素、炭酸カルシウム、チッ化ケイ素、クレー、タルク、カオリン、シリコンおよびカーボンブラック等の粒子のほか、着色防止剤、安定剤および抗酸化剤等の添加剤を含有しても差支えない。
【0061】
本発明の改質ポリエステルの製造方法における溶融重縮合工程は、回分式重縮合とすることにより、より顕著な改善効果が見込まれる。回分式重縮合では、所望の設定IV値に到達した時点で反応機内に不活性ガスを流入させて、反応機内を常圧または加圧にして重縮合反応を停止し、反応器外に吐出する。
【0062】
次工程に供される改質ポリエステルは、吐出工程の初めに採取した固有粘度IV値と同工程終了直前の固有粘度IV値との差をΔIV値とすると、そのΔIV値を0.045〜0.050とすることが好ましい。さらにはΔIV値は0.040〜0.045であることが好ましく、特に好ましくは0.040以下である。ΔIV値が上記の範囲にあると、次工程でのIV値のバラツキが小さくなるため、品質トラブルが発生しにくい。ΔIV値が上記の範囲を超えてしまうと、次工程での品質トラブル、例えば縦筋が発生することがある。
【0063】
次工程に供される改質ポリエステルは、吐出工程の初めに採取した色調b値と同工程終了直前の色調b値との差をΔb値とすると、そのΔb値を−2.5〜+2.5とすることが好ましい。さらにはΔb値は−2.0〜2.0であることが好ましく、特に好ましくは−1.5〜1.5である。Δb値が上記の範囲にあると、次工程での色調バラツキが小さくなるため、品質トラブルが発生しにくい。Δb値が上記の範囲を超えてしまうと、次工程での品質トラブル、例えば縦筋が発生することがある。
【0064】
上記のΔIV値とΔb値をそれぞれ上記の範囲とするためには、全酸成分に対する金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分0.1〜10モル%と、平均分子量400〜8000ポリオキシアルキレングリコール成分0.1〜5.0重量%を共重合し、改質ポリエステルのIV設定値の85%以上99%未満の段階で、3価のリン化合物をリン元素換算で10〜200ppm添加し、5価のリン化合物をリン元素換算で10〜200ppm添加する。
【0065】
本発明の改質ポリエステルの製造方法で得られた改質ポリエステルを、繊維形成性重合体の構成成分として用いることにより、今までにない高い染色特性を持ち、かつ繊維形成性重合体の繊維物性を損なわない範囲で合成繊維を得ることが出来る。
【0066】
また、本発明において得られる繊維成形性重合体として好適に用いられる改質ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレートおよびポリブチレンテレフタレート等のポリエステルが挙げられる。特に好ましいポリエステルは、衣料用合成繊維として最も汎用性の高いポリエチレンテレフタレートを主体とするポリエステルである。
【0067】
合成繊維の形態としては、芯鞘型複合繊維、芯鞘型複合中空繊維、海島型複合繊維、張り合わせ型複合繊維およびブレンド繊維等が挙げられ、本発明の良染色特性のポリエステルを任意の割合で構成成分として用いることができる。
【0068】
また、繊維形成性樹脂に本発明で得られた改質ポリエステルを配合した合成繊維の場合、本発明で得られた改質ポリエステルの配合比率は、全ポリマー量に対して3〜95重量%とすることが好ましい。この配合比率の下限は、十分な染色性を付与する目的から設定され、配合比率の上限は紡糸性の低下や繊維物性の低下を防止する観点から設定される。
【0069】
実用上良好な染色性を得るためには、合成繊維の染色吸尽率は高いほど好ましく、30%以上、さらには40%以上、特に好ましくは50%以上である。また、繊維形成性重合体には、酸化チタンやカーボンブラック等の顔料のほか、従来公知の抗酸化剤、着色防止剤、耐光剤および帯電防止剤等が添加されても良い。
【0070】
本発明で得られる合成繊維の断面形状は、丸ばかりでなく、三角、偏平および多葉型などの異形断面でも良い。また、その合成繊維の糸状形態は、フィラメントおよびステープルのどちらでも良く、用途によって適宜選定される。また、布帛形態は、織物、編物および不織布など目的に応じて適宜選択できる。
【0071】
ポリエチレンテレフタレートは、通常、次のいずれかのプロセスで製造される。
【0072】
すなわち、(A)テレフタル酸とエチレングリコールを原料とし、直接エステル化反応によって低重合体を得、さらにその後の重縮合反応によって高分子量ポリマーを得るプロセス、および(B)ジメチルテレフタレートとエチレングリコールを原料とし、エステル交換反応によって低重合体を得、さらにその後の重縮合反応によって高分子量ポリマーを得るプロセスである。エステル交換反応においては、マグネシウム、マンガン、カルシウム、コバルト、亜鉛およびリチウム等の化合物や、前述のチタン化合物を触媒として用いて反応を進行させ、またエステル交換反応が実質的に完結した後に、反応に用いた触媒を不活性化する目的で、リン化合物を添加してもよい。この時点で添加するリン化合物は、本発明において添加するリン化合物とは全く異なるものである。
【0073】
本発明において、改質ポリエステルは、上記の(A)または(B)の一連の反応の任意の段階、好ましくは(A)または(B)の一連の反応の前半で得られた低重合体に、スルホン酸塩基を含有するイソフタル酸とポリエチレングリコール、酸化チタン、重縮合触媒としてアンチモン化合物を添加した後、反応器内を減圧にして重縮合反応を開始して得られる。このとき、改質ポリエステルのIV設定値の85%以上99%未満の段階で5価のリン化合物を添加し、目的のポリエチレンテレフタレートを得るものである。この反応は回分式、半回分式あるいは連続式等の重縮合形式に適応し得る。
【実施例】
【0074】
以下、実施例により、本発明の改良ポリエステルの製造方法について、さらに詳細に説明する。実施例中の物性値は、次の方法で測定したものである。
【0075】
(1)ポリエステルの固有粘度IV
オルソクロロフェノールを溶媒として、25℃の温度で測定した。
【0076】
(2)ポリエステルの色調
色差計(スガ試験機社製、SMカラーコンピュータ型式SM−T45)を用いて、ハンター値(L、a、b値)として測定した。
【0077】
(3)ポリエステルのb値中心値
吐出工程の重量換算で半分にあたる時間でサンプリングしたポリエステルのb値を、b値中心値とする。例えば、1トンのポリエステルを吐出する場合は、500kg時点のポリエステルをサンプリングする。その色調は、上記(2)に記載の方法で測定した。
【0078】
(4)ポリエステルのIV中心値
吐出工程の重量換算で半分にあたる時間でサンプリングしたポリエステルのIV値をIV中心値とする。例えば、1トンのポリエステルを吐出する場合は、500kg時点のポリエステルをサンプリングする。そのIV値は、上記(1)に記載の方法で測定した。
【0079】
(5)ポリエステルのΔb値
吐出工程の初めに採取したポリエステルのb値と同工程終了直前のb値との差をΔb値とする。その色調は、上記(2)に記載の方法で測定した。
【0080】
(6)ポリエステルのΔIV値
吐出工程の初めに採取したポリエステルのIV値と同工程終了直前のIV値との差をΔIV値とする。そのIV値は、上記(1)に記載の方法で測定した。
【0081】
(7)ポリエステル中のチタン元素、リン元素およびアンチモン元素等の含有量
蛍光X線元素分析装置(堀場製作所社製、MESA−500W型)により求めた。
【0082】
(8)毛羽数
多点毛羽計数装置 MFC-120(東レエンジニアリング株式会社製)を用いて、糸速500m/min、100分間でカウントされる毛羽数を測定した。
【0083】
この値が0.2個/千万メートル以下のものは、優れたポリマーといえる。
【0084】
(9)経筋
筒編地を目視にて確認した。判断基準は、経筋が目立ち商品価値が無ければ×、経筋が目立つものの商品価値があるものは△、経筋が認められないものは○とした。上記の○と△を合格とし、×を不合格とした。
【0085】
(10)染料吸尽率
筒編地をマラカイトグリーン(関東化学製)5%owf、酢酸0.5ml/l、酢酸ソーダ0.2g/lからなる浴比1:100の120℃の温度の熱水溶液中で、60分間染色を行い、染色前後の液中染色濃度差から筒編地の染料吸尽率を求めた。
【0086】
この値が30%より大きければ、染色性に優れたポリエステルであると言える。
【0087】
[実施例1]
予めビス(ヒドロキシエチル)テレフタレート約100kgが仕込まれ、温度250℃、圧力1.2×10Paに保持されたエステル化反応槽に、高純度テレフタル酸(三井化学社製)82.5kgとエチレングリコール(日本触媒社製)35.4kgのスラリーを4時間かけて順次供給し、供給終了後もさらに1時間かけてエステル化反応を行い、得られたエステル化反応生成物101.5kgを重縮合槽に移送した。このエステル化反応性生物の固有粘度IVは0.3であった。
【0088】
得られたエステル化反応生成物に、シリコーン(東芝シリコーン製、TSF433)5gを添加した。5分間撹拌した後、酢酸コバルト11.5g(ポリマーに対してコバルト原子換算で30ppm)、酢酸マンガン15g(ポリマーに対してマンガン原子換算で33ppm)、ペンタエリスリトールーテトラキス(3−(3,5−ジーt−ブチルー4−ヒドロキシフェノール)プロピオネート)(チバガイギー(株)製、“イルガノックス”(登録商標)1010)75g、酢酸リチウム45g、および三酸化アンチモン300g(ポリマーに対してアンチモン原子換算で250ppm)を添加し、設定固有粘度IV値に対して43%となった時点でポリマーに対して100ppm(リン原子換算で10ppm)相当のビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトール−ジ−ホスファイト(ADEKA社製、“アデカスタブ”(登録商標)PEP−36)のエチレングリコールスラリーの混合物を添加した。更に5分間撹拌した後、重量平均分子量1000のポリエチレングリコール(三洋化成工業(株)製)をポリエステルへの共重合量が1重量%となるように1kg添加した。更に5分間撹拌した後、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ヒドロキシエチルエステルのエチレングリコール溶液(竹本油脂(株)製、ES−740)を、ポリエステルに対する含有量が1.78モル%となるように添加した。更に5分撹拌した後、酸化チタンのエチレングリコールスラリーを、ポリエステルに対して1.5重量%となるように添加し、その後、低重合体を30rpmで攪拌しながら、反応系を250℃の温度から290℃の温度まで徐々に昇温するとともに、圧力を40Paまで下げた。
【0089】
所定の攪拌トルク(設定固有粘度IV値)の95%となった時点(減圧を開始してから2時間22分の時点)で、反応缶上部からポリエステルに対して367ppm(リン原子換算で25ppm)相当のテトラエチルビフェニル−4,4‘−ジイルジホスホネート(城北化学社製、分子量426)を予め、ポリエチレンテレフタレートを射出成形により厚さ200μm、内容積500cmの容器およびその蓋に成形した容器(容器とふたを合わせた重量は30g)に詰めたもの)を添加した。その後反応を継続し、所定の攪拌トルクに到達したら反応系を窒素パージして常圧に戻して重縮合反応を停止させ、ストランド状に吐出して冷却後、直ちにカッティングしてポリエステルのペレットを得た。減圧開始から所定の撹拌トルク到達までの時間は2時間30分であった。
【0090】
得られたポリエステルのb値中心値は6.2であり、Δb値は2.0であり、ΔIV値は0.037であった。得られたポリエステルをそのまま次工程に供し、150℃の温度で12時間真空乾燥した後、紡糸機に供しメルターにて溶融した後、紡糸パック部から吐出し、1000m/分の速度で引取った。得られた未延伸糸を80℃の温度で2.8倍に延伸した後、ローラー(125℃)で熱セットし、83.3dtex36フィラメントの延伸糸を得た。多点毛羽計数装置 MFC-120(東レエンジニアリング株式会社製)を用いて、糸速500m/min、100分間でカウントされる毛羽数を測定したところ、毛羽数は0.16個/千万メートルであり、品位は良好だった。
【0091】
このようにして得られた延伸糸を用いて、27ゲージの靴下編機(英光産業(株)製)により筒編地を編成した。次いで、その筒編地を0.2%の非イオン性活性剤(“グランアップ”(登録商標)CS、三洋化成(株)製)と0.2%のソーダ灰を含む沸騰水で5分間煮沸精錬し、水洗い、乾燥させた。この筒編地の染料吸尽率は65%であり、経筋も認められず、品位の良好なポリマーであった。結果を、表1と2に示す。
【0092】
[実施例2〜5]
改質ポリエステルの設定固有粘度IV値の85%以上99%未満の段階で添加する5価のリン化合物の添加時期を表1のように変更すること以外は、実施例1と同様にして改質ポリエステルを重合し、紡糸し、染色した。得られたポリエステルは耐熱性に優れているためΔIV値が小さく、色調に優れており、紡糸性と染色性の良好なポリエステルであった。結果を、表1と2に示す。
【0093】
[実施例6〜11]
改質ポリエステルの設定固有粘度IV値の85%以上99%未満の段階で添加する5価のリン化合物の添加量を表1のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして改質ポリエステルを重合し、紡糸し、染色した。得られたポリエステルは、耐熱性に優れているためΔIV値が小さく、色調に優れており、紡糸性と染色性の良好なポリエステルであった。結果を、表1と2に示す。
【0094】
[実施例12〜14]
改質ポリエステルの設定固有粘度IV値の45%以下の段階で添加する3価のリン化合物の添加量を表1のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして改質ポリエステルを重合し、紡糸し、染色した。得られたポリエステルは、耐熱性に優れているためΔIV値が小さく、色調に優れており、紡糸性と染色性の良好なポリエステルであった。結果を、表1と2に示す。
【0095】
[実施例15〜24]
5−ナトリウムスルホイソフタル酸ヒドロキシエチルエステルの共重合量、ポリアルキレングリコールの重量平均分子量と共重合量をそれぞれ表1と3のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして改質ポリエステルを重合し、紡糸し、染色した。得られたポリエステルは、耐熱性に優れているためΔIV値が小さく、色調に優れており、紡糸性と染色性の良好なポリエステルであった。結果を、表1〜4に示す。
【0096】
[実施例25〜27]
改質ポリエステルの設定固有粘度IV値の85%以上99%未満の段階で添加する5価のリン化合物の種類を表3のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして改質ポリエステルを重合し、紡糸し、染色した。得られたポリエステルは、耐熱性に優れているためΔIV値が小さく、色調に優れており、紡糸性と染色性の良好なポリエステルであった。結果を、表3と4に示す。
【0097】
[実施例28〜32]
重合触媒の種類と量を表3のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして改質ポリエステルを重合し、紡糸し、染色した。得られたポリエステルは、耐熱性に優れているためΔIV値が小さく、色調に優れており、紡糸性と染色性の良好なポリエステルであった。結果を、表3と4に示す。
【0098】
[実施例33〜35]
改質ポリエステルの設定固有粘度IV値の85%以上99%未満の段階で添加するリン化合物を5価のリン化合物だけではなく、さらに表3のように3価のリン化合物を添加したこと以外は、実施例1と同様にして改質ポリエステルを重合し、紡糸し、染色した。得られたポリエステルは、耐熱性に優れているためΔIV値が小さく、色調に優れており、紡糸性と染色性の良好なポリエステルであった。結果を、表3と4に示す。
【0099】
【表1】

【0100】
【表2】

【0101】
【表3】

【0102】
【表4】

【0103】
(比較例1)
改質ポリエステルの設定固有粘度IV値の85%以上99%未満の段階で添加する5価のリン化合物を添加せずそのまま重合反応を行なったこと以外は、実施例1と同様にして改質ポリエステルを重合し、紡糸し、染色した。得られたポリエステルは、ΔIV値、Δb値が大きく、紡糸性と染色性の劣るポリエステルであった。結果を、表5と6に示す。
【0104】
(比較例2)
改質ポリエステルの設定固有粘度IV値の60%の段階で表5の5価のリン化合物を添加したこと以外は、実施例1と同様にして改質ポリエステルを重合した。5価のリン化合物を早く添加してしまったために、重合触媒が失活し目標IV値に到達しなかった。結果を、表5と6に示す。
【0105】
(比較例3)
改質ポリエステルの設定固有粘度IV値の60%の段階で、表5の3価のリン化合物と5価のリン化合物を添加したこと以外は、実施例1と同様にして改質ポリエステルを重合した。5価のリン化合物を早く添加してしまったために、重合触媒が失活し目標IV値に到達しなかった。結果を、表5と6に示す。
【0106】
(比較例4、5)
改質ポリエステルの設定固有粘度IV値の45%以下の段階で添加する3価のリン化合物の添加量を表5のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして改質ポリエステルを重合した。3価のリン化合物の添加量が多かったために、重合触媒が失活し目標IV値に到達しなかった。結果を、表5と6に示す。
【0107】
(比較例6)
改質ポリエステルの設定固有粘度IV値の85%以上99%未満の段階で添加する5価のリン化合物の添加量を表5のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして改質ポリエステルを重合した。しかしながら、リン化合物の分散性が不十分と考えられ、吐出が安定的に出来ずペレット化できなかった。結果を、表5と6に示す。
【0108】
(比較例7〜12)
金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分の共重合量、ポリアルキレングリコールの重量平均分子量と共重合量をそれぞれ表5のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして改質ポリエステルを重合し、紡糸し、染色した。比較例7と9では、得られたポリエステルは、耐熱性に優れているためΔIV値が小さく、色調に優れていたが、染色性が劣っていた。比較例8と10では、得られた改質ポリエステルは染色性に優れていたものの、Δb値とΔIV値が大きく、紡糸性が劣っていた。比較例11では、リン化合物の分散性が不十分と考えられ、吐出が安定的に出来ずペレット化できなかった。比較例12では、得られたポリエステルのΔIV値は良好であり、色調に優れていたが、染色性が劣っていた。結果を、表5と6に示す。
【0109】
(比較例13、14)
5価のリン化合物を重合反応が実質的に完了した後に(所定の目標固有粘度IV値に達した後)添加したこと以外は、実施例1と同様にして改質ポリエステルを重合し、紡糸し、染色した。比較例13では、5価のリン化合物を添加後、0.25秒後に吐出を行なった。比較例14では、所定の目標IV値に到達した後に、留出管のバルブを閉じ重合反応機の系内を減圧状態のまま、5価のリン化合物の添加を行い、10分間攪拌し混合を行なった後に吐出を行なった。比較例13では、ポリエステル中にリン化合物の凝集物と見られる異物が発生しており、Δb値とΔIV値も劣位であり、溶融紡糸時にはロ圧上昇が見られ毛羽も多発した。また、比較例14では、得られたポリエステルの色調、Δb値およびΔIV値が劣っており、紡糸性、染色性の悪いポリエステルであった。結果を、表5と6に示す。
【0110】
(比較例15、16)
改質ポリエステルの設定固有粘度IV値の85%以上99%未満の段階で添加する5価のリン化合物の種類を表5のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして改質ポリエステルを重合し、紡糸し、染色した。添加したリン化合物は分子量が小さいため、添加と同時に揮発してしまいポリエステル中に取り込まれなかった。そのため、得られたポリエステルはΔb値およびΔIV値が大きく、紡糸性と染色性も悪いポリエステルであった。結果を、表5と6に示す。
【0111】
【表5】

【0112】
【表6】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
全酸成分に対し金属スルホネート基を含有するイソフタル酸成分0.1〜10モル%と、平均分子量400〜8000ポリオキシアルキレングリコール成分0.1〜5.0重量%を共重合した、酸化チタンとリン元素とを含有する重縮合反応による改質ポリエステルの製造方法であって、アンチモン化合物を重縮合触媒として用い、改質ポリエステルの設定固有粘度IV値の85%以上99%未満の段階で、5価のリン化合物をリン元素換算で10〜200ppm添加することを特徴とする改質ポリエステルの製造方法。
【請求項2】
改質ポリエステルの設定固有粘度IV値の45%以下の段階で、3価のリン化合物をリン元素換算で20ppm未満添加することを特徴とする請求項1記載の改質ポリエステルの製造方法。
【請求項3】
酸化チタンの添加量が0.01〜7.0重量%であることを特徴とする請求項1または2記載の改質ポリエステルの製造方法。
【請求項4】
添加する3価のリン化合物と5価のリン化合物の分子量が、それぞれ150〜2000の範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の改質ポリエステルの製造方法。
【請求項5】
改質ポリエステルの設定固有粘度IV値の85%以上99%未満の段階で、5価のリン化合物を添加するに際して、その5価のリン化合物をポリエステルを主体とする容器に入れその容器ごと添加することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の改質ポリエステルの製造方法。
【請求項6】
改質ポリエステルの設定固有粘度IV値の85%以上99%未満の段階で、3価のリン化合物をリン元素換算で10〜200ppm添加することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の改質ポリエステルの製造方法。
【請求項7】
重縮合反応の溶融重縮合工程が回分式重縮合である請求項1〜6のいずれか1項記載の改質ポリエステルの製造方法。

【公開番号】特開2009−221412(P2009−221412A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−69490(P2008−69490)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】