説明

改質木材およびその製造方法

【課題】ホウ素化合物による木材改質液の難点であった溶脱を防止する改質木材とその製造方法を提供する。
【解決手段】防腐・防蟻および防火性能を併せ持つ高濃度のホウ素化合物による木材改質液を調合した。これを木材中に含浸し乾燥させて固定化した後、アクリルオリゴマーによる溶脱防止剤で被覆することでホウ素化合物系処理液の難点であった溶脱を防止することが出来た。これによりホウ素化合物処理材の屋外での使用が可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願の発明は、高濃度のホウ素化合物からなる木材改質液および改質木材の製造法に関するものである。さらに詳しくは、本出願の発明は、木材中に木材改質液を含浸させた後特許第3397472号および特許第3434046号に記載した特徴を持つアクリルオリゴマーを再度木材に加圧注入または置き浸け含浸あるいは刷毛塗りによる塗布により木材表面層に染み込ませ、光または熱により硬化させて木材中における水分の吸脱防止をはかりホウ素化合物の溶脱肪止処理を施すことで、防火性、防腐性および防蟻性などの性能を付与した屋外用の建材として使用できる改質木材を製造する方法に関するものである。
【技術背景】
【0002】
木材は、加工の容易性、外観の美しさ、軽量などの理由から多くの建造物に利用されてきた。しかし、これらの長所がある反面、木材には、燃える、腐る、狂うといった欠点が付きまとい、建材の性能への高度化する要求を満たすことが出来ず、結果として建築基準法などの法令によっても、建造物への木材利用が制限されているのが現状である。
【0003】
木材工業に関わる人々の弛まざる努力によって、前出の木材の欠点を改善し、防腐防蟻処理材、木材プラスチック複合体(WPC)、木材無機質複合体(WIC)といった改質木材として改良法を開発してきた。このなかで防腐防蟻処理は比較的古くから行われており一般的である。また木材無機質複合体は、防火、寸法安定化処理として、その技術が確定されつつあるが、厚さなどの処理寸法に制限がありまた処理方法が複雑である上にコスト高といったことが難点となり、一般に普及するには至っていない。
【0004】
また防腐防蟻処理においては、効力を期待するあまり、毒性の強いヒ素やクロムなどを含んだ薬剤で処理がなされてきた。これらの薬剤は環境へ与える負荷が大きく、現在ではその使用が制限されつつあり、アンモニウム塩や銅イオンなどの毒性が低く周囲の環境に及ぼす影響が小さい薬剤が多く開発され広く使われている。
【0005】
ホウ素化合物は、防腐、防蟻、防火に対する性能は古くから知られている。ホウ素化合物は常温では水に数パーセント程度しか溶解せず、それにもかかわらず木材中で固着したホウ酸塩化合物は吸湿することにより容易に溶脱してしまう難点があり、木材に処理しても十分な効果が得られない場合があった。
【0006】
高濃度のホウ素化合物溶液を高密度に含浸させる方法として、含浸と乾燥を繰り返す方法が考案され、この方法によって処理された木材は建築基準法の不燃材料の認定を受けている(特許文献1参照)。しかしこの方法は含浸工程および乾燥工程を複数回施さなければならず、処理方法を複雑にしている。
【特許文献1】 特許3538194号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
解決しようとする問題点は、ホウ素化合物からなる木材改質液を木材中に含浸固定させる場合において、性質が水溶性であるため、吸湿または吸水することにより容易に木材より溶脱する点である。まして防火性および防腐性を向上させるためには高濃度のホウ酸を注入しなければならず周囲環境に影響を与える。それゆえ屋外ではホウ酸注入木材の使用は妨げられていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本件発明は、高濃度のホウ素化合物からなる木材改質液を木材中に含浸固定させ、さらに特許第3397472号および特許第3434046号にみられるアクリルオリゴマーを再度木材に加圧注入または置き浸けあるいは刷毛塗りによる塗布により木材表面層に染み込ませ、光または熱により硬化させて木材中における水分の吸脱防止をはかりホウ素化合物の溶脱防止処理を施すことで、防火性、防腐性および防蟻性などの性能を付与した屋外用の建材として使用できる改質木材を製造を最も重い特徴とする。
【0009】
次にホウ素化合物処理による改質木材の具体的な製造方法を説明する。木材改質液の調合は、以下の割合によった。
水 100重量部
ホウ酸 30〜45重量部
重曹 10〜15重量部
これらのものをよく攪拌してホウ素化合物による木材改質液を調製する。この時のホウ素化合物の濃度は、重量比で30〜35%となる。この調合方法により、ホウ酸単独での水に対する溶解度約5〜6%をはるかに超える高濃度のホウ素化合物溶液が得られる。
【0010】
木材への木材改質液の含浸工程である。含浸方法は、世間一般に広く行われている減圧加圧法など何れの方法を採用しても何ら差し支えなく、ここでは一例を記述する。圧力容器の処理槽に処理すべき木材(含水率15%程度)を並べて格納した後、圧力容器内を減圧下(−730mmHg程度)で30分間静置する。引き続き減圧下で木材改質液を処理槽内に木材が完全に浸るまで導入し、更に30分間静置する。減圧工程終了後、圧力容器の圧力を常圧まで戻した後、直ちに加圧し10kgf/cmで60分間静置する。処理が終了し圧力容器を常圧に戻した後、処理槽から含浸された薬液で濡れた状態の処理木材を取り出す。この時の薬液の含浸量は、400〜500kg/m程度である。
【0011】
含浸して濡れた処理木材の乾燥工程である。温風式乾燥機を庫内温度40〜60度に設定し、10〜14日間かけて含水率15%程度になるまで乾燥させる。この時処理木材に固着したホウ素化合物の薬剤の重量は、100〜125kg/m程度である。
【0012】
処理木材からのホウ素化合物の溶脱防止処理工程である。乾燥させた処理木材の表面が平滑になるように軽く研磨する。次にアクリルオリゴマーを主成分とする特許第3397472号および特許第3434046号記載の木材含浸処理用組成物に処理木材を置き浸け含浸処理または加圧注入処理あるいは刷毛塗りによる塗布により木材表面層に染み込ませ、光または熱により木材含浸処理用組成物を重合硬化させる。この処理により木材含浸処理用組成物が処理木材に水分の遮断層を構築させることにより、ホウ素化合物が処理材から溶脱することを抑えることができる。
【0013】
サンディングを施して表面を整えて、ホウ素化合物による改質木材を完成させた。こうしてできあがった改質木材は、ホウ素化合物の溶脱を防止できる上、防腐・防蟻・防虫性能に加え防火性能を合わせ持つ応用範囲の広い建材として利用できる。壁板・木柵・デッキ材・ベンチ材などの屋外仕様として、その表面に耐候性塗料を塗布することができる。また不燃性塗料を用いれば、処理木材の防火性能を維持できる。
【0014】
本件発明の改質木材の製造法は、高濃度のホウ素化合物水溶液を含浸し薬効成分を固定できるので、防腐防蟻処理木材に防火性能が付与されるという利点がある。また水分の吸水を大幅に遮断できるためホウ素化合物の溶脱がない利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
高濃度のホウ素化合物水溶液を木材中に含浸固定化するという目的を、極めて簡便な薬剤の調合により高濃度のホウ素化合物水溶液を作成し、この水溶液を木材中に含浸乾燥後、溶脱防止処理を施したことで実現した。
【実施例1】
【0016】
水100重量部とホウ酸30重量部を混合し、常温で攪拌した。ホウ酸が溶け残っている状態で、炭酸水素ナトリウム(重曹)10重量部を加え更に常温で攪拌し、一晩静置した。ホウ酸の一部が溶け残っている状態で、更に水10重量部を加えて常温で攪拌した。無色透明な均質な液体が得られた。この溶液のホウ素化合物濃度は26.7重量パーセントであった。
【0017】
ヒノキの試験材(厚さ30mm×幅70mm×長さ1800mm、平均比重0.44)を20本作成した。含水率は、平均10.8%であった。試験材を圧力容器に入れ、−0.90MPaまで減圧し、室温で30分間放置した。減圧された状態でホウ酸溶液を圧力容器内に注入し、試験材が完全にホウ素化合物水溶液で浸漬する状態にし、更に30分間減圧状態を保持した。圧力容器内を大気圧に戻した後、直ちに圧縮空気を送り込み加圧した。室温で7.0kgf/cmの圧力を60分間保持した。その後大気圧に戻し、圧力容器から試験材を取り出した。このときのホウ素化合物水溶液としての含浸量は、平均470kg/mであった。また重量増加率に換算すると106%であった
【0018】
ホウ素化合物水溶液で処理した試験材を乾燥機に入れ、庫内温度40〜60度で14日間強制乾燥させた。乾燥機から取り出したときに含水率は、平均14.6%であった。また試験材内で固着したホウ素化合物の含浸量は、平均109kg/mであった。重量増加率で評価すると、平均24.8%であった。
【0019】
乾燥させたホウ素化合物処理材の表面について、汚れを取る程度に軽く研磨した。その研磨した表面に光重合開始剤を添加したアクリルオリゴマーからなる木材含浸処理用組成物を置き漬けして取り出したしばらく放置した後、紫外線ランプを照射させてアクリルオリゴマーを重合硬化させて水分遮断層を形成させた。その表面を素地調整した後、水性ウレタン系塗料を3回塗布した。1週間の養生期間を経て、改質木材を完成させた。
【0020】
ホウ素化合物処理による改質木材にガスバーナーの火炎を20分間直接当てても木質部が炭化するだけで、燃焼現象は生じなかった。
【発明の効果】
【0021】
以上詳細に説明したように、高濃度のホウ素化合物による木材改質液を木材中に含浸させて乾燥させた後、特許第3397472号および特許第3434046号に記載した特徴を持つアクリルオリゴマーを再度木材に加圧注入または置き浸け含浸処理あるいは刷毛塗りによる塗布により木材表面層に染み込ませ、光または熱により木材含浸処理用組成物を重合硬化させることで水分の吸脱水を防止させ、木材中のホウ素化合物の溶脱防止を施すことができ、防火性、防腐性および防蟻性などの性能を付与した屋外用の建材として使用できる改質木材とその製造方法を提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】 改質木材の実施方法を示した説明図である。(実施例1)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸塩を含む高濃度ホウ酸溶液からなる木材改質液を木材中に含浸固定せしめ、特許第3397472号および特許第3434046号に記載した特徴を持つアクリルオリゴマーを再度木材に加圧注入または置き浸け含浸あるいは刷毛塗りによる塗布により木材表面層に染み込ませ、光または熱により硬化させて木材中における水分の吸脱防止をはかりホウ素化合物の溶脱防止処理を施したことを特徴とする改質木材。

【図1】
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