説明

改質粘土鉱物粉末およびその製造方法

【課題】粘土鉱物粉末の表面領域を改質することで、機能性を有するような他の物質の付与を容易に可能とするように比表面積が増大された改質粘土鉱物粉末と、この改質粘土鉱物粉末の製造方法とを提供する。
【解決手段】粘土鉱物粉末12およびアルカリ剤を混合状態として加熱することで、該粘土鉱物粉末12の表面領域を改質して多孔性のゲル化領域14を形成する。更に、このゲル化領域14を、水や酸性溶液を使用することで除去してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アルカリ剤を用いることで、雲母またはタルク等の粘土鉱物粉末の表面状態を改質して比表面積を大きく向上させ、例えば、種々の機能を発現する機能性物質を容易に付与し得るようした改質粘土鉱物粉末およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
雲母(マイカ)、タルク、カオリナイト(カオリン)およびモンモリロナイト等の粘土鉱物は、地表付近の埋蔵量が多く、またこれらの加工が容易であることから、古くから様々な用途に用いられ、かつその利用範囲も極めて多岐に渡っている。雲母は、俗に「千枚剥がし」と呼ばれ、細かい鱗片状に剥離し易い特異的な層状積層構造を有し、滑り性、弾力性、電気絶縁性および耐熱性等の良好な特性を有すると共に、物理的・化学的にも安定な物質として知られている。一方、タルクは、そのモース硬度が1と極めて柔らかい鉱物であり、また滑りが良いことから「滑石」や「ソープストーン」と俗に呼称されている。また、タルクの構造も、雲母ほど顕著ではないが層状になっている。更に、カオリナイトは、アルミニウムの含水ケイ酸塩鉱物(AlSi(OH))であり、吸水性が高く、密着性に優れていることから磁器の材料として有名である。近年、これらの粘土鉱物が、ファンデーション等化粧品の素材等として夫々の特徴を活かして用いられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
これらの粘土鉱物の主成分は二酸化ケイ素(SiO)であるため、前述した如く、物理的・化学的に極めて安定である一方で、他の物質による修飾が困難、すなわち他物質との物理的・化学的な結合性が弱いと云う問題を内在している。特に雲母は、劈開面が原子間力顕微鏡(AFM)の基板とされる程に高い平滑性を備えており、他の物質を付与することによって幅広い使用用途が考えられるが、前述の安定性故に利用法が制限されている。
【0004】
また、雲母に限らず、タルクおよびカオリナイト等の粘土鉱物は一般的に物理的・化学的に安定であり、前述の如く、物理的・化学的な修飾が困難であり、具体的には化学物質の吸着や付着が容易とはいえないため、雲母と同様に利用法が制限されている。このような他物質の付着をなす手段の1つとして、例えば、雲母表面に酸化チタン薄膜を形成させてチタン雲母とする等の、粘土鉱物の表面と他の物質とを、極めて緩慢な条件で化学反応させる方法が実施されている。しかしこのような処理は、コストが非常に掛かる問題があるため、化粧品等の付加価値性の高い一部分野でしか利用されておらず、汎用的な手段とは云えなかった。
【0005】
例えば、白雲母粉末は、良好な滑り性に由来する触感および高い白色度によって、ファンデーション等の化粧品原材料として好適に採用されているが、高い弾力性によってファンデーション成形が上手くいかない問題があった。この問題は、油脂類を加えることで対応可能であるが、白雲母等の粘土鉱物粉末は、前述の如く、化学物質の吸着や付着が困難であるため油脂類が過剰に必要とされる。その結果、疎水性の増大による保湿(保水)性が悪化し、白雲母が有する高い透明性故に、吸油時に色調が黒っぽくなる、所謂「雲母のくすみ」が発生する、といったファンデーション等にとっては許容できない問題を内在していた。
【0006】
すなわちこの発明は、従来の技術に係る粘土鉱物粉末およびその製造方法に内在する前記問題に鑑み、これらを好適に解決するべく提案されたものであって、粘土鉱物粉末の表面領域を改質することで、機能性を有するような他の物質の付与を容易に可能とするように比表面積が増大された改質粘土鉱物粉末と、この改質粘土鉱物粉末の製造方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、請求項1に記載の発明に係る改質粘土鉱物粉末は、
粘土鉱物粉末の表面領域が多孔性のゲル化領域となっていることを特徴とする。
従って、請求項1に係る発明によれば、雲母またはタルク等の粘土鉱物粉末の表面を多孔性のゲル化領域としているから、粘土鉱物が本来有している弾力性や柔軟性といった機能を損なわず、かつ所要の機能を発現する機能性物質等を好適に付与し得る。
【0008】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、請求項2に記載の発明に係る改質粘土鉱物粉末は、
粘土鉱物粉末およびアルカリ剤を混合状態として加熱することで、該粘土鉱物粉末の表面領域が改質されて多孔性のゲル化領域となっていることを特徴とする。
従って、請求項2に係る発明によれば、雲母またはタルク等の粘土鉱物粉末の表面を改質して多孔性のゲル化領域としているから、粘土鉱物が本来有している弾力性や柔軟性といった機能を損なわず、かつ所要の機能を発現する機能性物質等を好適に付与し得る。
【0009】
請求項3に記載の発明は、前記アルカリ剤が、加熱後に除去されていることを要旨とする。
従って、請求項3に係る発明によれば、得られた改質粘土鉱物粉末が中性化するから、取り扱い性が向上する。
【0010】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、請求項4に記載の発明に係る改質粘土鉱物粉末は、
粘土鉱物粉末およびアルカリ剤を混合状態として加熱することで、該粘土鉱物粉末の表面領域を改質してゲル化領域とした後、該ゲル化領域を除去することで加熱後の粘土鉱物粉末の表面の比表面積が、加熱前の1.5倍以上になっていることを特徴とする。
従って、請求項4に係る発明によれば、雲母またはタルク等の粘土鉱物粉末の表面が凹凸とされて比表面積が増大しているから、粘土鉱物が本来有している弾力性や柔軟性といった機能を損なわず、かつ所要の機能を発現する機能性物質等を好適に付与し得る。
【0011】
請求項5に記載の発明は、前記ゲル化領域の除去が、酸性溶液によってアルカリ剤の除去と共になされていることを要旨とする。
従って、請求項5に係る発明によれば、アルカリ剤の除去を同時に達成し、得られた改質粘土鉱物粉末が中性化するから、取り扱い性が向上する。
【0012】
請求項6に記載の発明は、前記アルカリ剤が除去された後に、分散剤および/または緩衝剤が添加されたことを要旨とする。
従って、請求項6に係る発明によれば、加熱によって得られた改質粘土鉱物粉末の凝集や、pHの変動を防止し得る。
【0013】
請求項7に記載の発明は、前記分散剤として、ヘキサメタリン酸ナトリウムまたはテトラポリリン酸ナトリウムが使用されていることを要旨とする。
従って、請求項7に係る発明によれば、緩衝作用も小さく、安価なヘキサメタリン酸ナトリウムまたはテトラポリリン酸ナトリウムが使用されるから、加熱によって得られた改質粘土鉱物粉末の凝集防止を好適かつ容易に達成し得る。
【0014】
請求項8に記載の発明は、前記緩衝剤として、リン酸系化合物が使用されていることを要旨とする。
従って、請求項8に係る発明によれば、広いpH領域で緩衝作用を発現し、かつ安価なリン酸系化合物が使用されるから、加熱によって得られた改質粘土鉱物粉末のpHの変動防止を好適かつ容易に達成し得る。
【0015】
請求項9に記載の発明は、混合された前記粘土鉱物粉末およびアルカリ剤は、550〜1300℃の範囲で加熱されていることを要旨とする。
従って、請求項9に係る発明によれば、粘土鉱物粉末の種類によらず粘土鉱物粉末を好適に改質し得る。
【0016】
請求項10に記載の発明は、前記アルカリ剤の混合量は、粘土鉱物粉末およびアルカリ剤の全体を100重量部とした場合に、5〜30重量部の範囲になっていることを要旨とする。
従って、請求項10に係る発明によれば、改質によって形成されるゲル化領域の厚さを制御し得る。
【0017】
請求項11に記載の発明は、前記アルカリ剤として、アルカリ金属の水酸化物あるいは炭酸塩または炭酸水素塩が使用されていることを要旨とする。
従って、請求項11に係る発明によれば、取り扱い性が良好な水酸化物あるいは炭酸塩または炭酸水素塩を使用するから、粘土鉱物粉末の改質を容易に達成し得る。
【0018】
請求項12に記載の発明は、前記アルカリ金属として、ナトリウム、カリウムまたはリチウムが使用されていることを要旨とする。
従って、請求項12に係る発明によれば、アルカリ金属として存在量が多く、安価で入手の容易なナトリウム、カリウムまたはリチウムが使用されるから、粘土鉱物粉末の改質を低コストで達成し得る。
【0019】
請求項13に記載の発明は、混合された前記粘土鉱物粉末およびアルカリ剤の加熱は、水の存在下に該粘土鉱物粉末およびアルカリ剤混練して乾燥させた後に実施されていることを要旨とする。
従って、請求項13に係る発明によれば、加熱に先立って粘土鉱物粉末およびアルカリ剤が混練されるため、該アルカリ剤の偏在を防止して、該粘土鉱物粉末およびアルカリ剤の接触を好適に達成し得る。
【0020】
請求項14に記載の発明は、前記粘土鉱物粉末およびアルカリ剤を混練する際に使用される水の使用量が、100重量部の混合された粘土鉱物粉末およびアルカリ剤に対して、70〜150重量部になっていることを要旨とする。
従って、請求項14に係る発明によれば、粘土鉱物粉末に混合されるアルカリ剤の偏在を好適に防止し得る。
【0021】
請求項15に記載の発明は、前記アルカリ剤には、アルカリ土類金属の塩、酸化物または水酸化物が含有されていることを要旨とする。
従って、請求項15に係る発明によれば、アルカリ土類金属は、水に難溶性であるため、使い勝手がよい。
【0022】
請求項16に記載の発明は、前記アルカリ土類金属として、カルシウムまたはマグネシウムが使用されていることを要旨とする。
従って、請求項16に係る発明によれば、アルカリ土類金属として存在量が多く、容易に入手可能であり、かつ取り扱い性に優れるカルシウムまたはマグネシウムが使用されるから、容易に改質粘土鉱物粉末の収量を低コストで増加させ得る。
【0023】
請求項17に記載の発明は、前記粘土鉱物粉末として、天然または合成の雲母、タルクあるいはカオリナイトの粉末が、1種類または2種類以上使用されていることを要旨とする。
従って、請求項17に係る発明によれば、改質粘土鉱物粉末に雲母、タルクあるいはカオリナイトが備える多様な素材的特性を付与し得る。
【0024】
請求項18に記載の発明は、前記天然の雲母として、雲母、黒雲母、金雲母または絹雲母が、1種類または2種類以上使用されていることを要旨とする。
従って、請求項18に係る発明によれば、改質粘土鉱物粉末に各種雲母が備える多様な素材的特性を付与し得る。
【0025】
請求項19に記載の発明は、前記粘土鉱物粉末として、該粘土鉱物粉末の原鉱石を破砕したフィルム状またはフレーク状の物質が使用されていることを要旨とする。
従って、請求項19に係る発明によれば、改質粘土鉱物粉末に用途に応じた形状的特性を付与し得る。
【0026】
請求項20に記載の発明は、前記原鉱石の粉砕は、乾式または湿式によって実施されていることを要旨とする。
従って、請求項20に係る発明によれば、原鉱石の粉砕を容易になし得る。
【0027】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、請求項21に記載の発明に係る改質粘土鉱物粉末の製造方法は、
粘土鉱物粉末およびアルカリ剤の混合体を加熱することで、該粘土鉱物粉末の表面領域を多孔性のゲル化領域に改質させるようにしたことを特徴とする。
従って、請求項21に係る発明によれば、雲母またはタルク等の粘土鉱物粉末の表面が改質されて多孔性のゲル化領域としているから、粘土鉱物が本来有している弾力性や柔軟性といった機能を損なわず、かつ所要の機能を発現する機能性物質等を好適に付与し得る改質粘土鉱物粉末を製造し得る。
【0028】
請求項22に記載の発明は、前記加熱後の混合体を洗浄することで、前記アルカリ剤を除去するようにしたことを要旨とする。
従って、請求項22に係る発明によれば、アルカリ剤が除去されるから、取り扱い性の向上した中性の改質粘土鉱物粉末を製造し得る。
【0029】
請求項23に記載の発明は、前記加熱後の混合体を酸性溶液によって洗浄することで、前記ゲル化領域およびアルカリ剤を除去して、加熱前に比較して表面の比表面積を1.5倍以上としたことを要旨とする。
従って、請求項23に係る発明によれば、雲母またはタルク等の粘土鉱物粉末の表面が凹凸が増えて比表面積が増大しているから、粘土鉱物が本来有している弾力性や柔軟性といった機能を損なわず、かつ所要の機能を発現する機能性物質等を好適に付与し得る改質粘土鉱物粉末を製造し得る。
【0030】
請求項24に記載の発明は、前記アルカリ剤の除去に続いて、分散剤および/または緩衝剤を添加する後処理を実施するようにしたことを要旨とする。
従って、請求項24に係る発明によれば、凝集や、pHの変動を防止し得る改質粘土鉱物粉末を製造し得る。
【0031】
請求項25に記載の発明は、前記分散剤として、ヘキサメタリン酸ナトリウムまたはテトラポリリン酸ナトリウムを使用するようにしたことを要旨とする。
従って、請求項25に係る発明によれば、緩衝作用も小さく、安価なヘキサメタリン酸ナトリウムまたはテトラポリリン酸ナトリウムを使用するから、粉末の凝集を防止し得る改質粘土鉱物粉末を低コストに製造し得る。
【0032】
請求項26に記載の発明は、前記緩衝剤として、リン酸系化合物を使用するようにしたことを要旨とする。
従って、請求項26に係る発明によれば、広いpH領域で緩衝作用を発現し、かつ安価なリン酸系化合物を使用するから、pHの変動を防止し得る改質粘土鉱物粉末を容易かつ安価に製造し得る。
【0033】
請求項27に記載の発明は、前記混合体は、550〜1300℃の範囲で加熱されることを要旨とする。
従って、請求項27に係る発明によれば、粘土鉱物粉末の種類によらず改質粘土鉱物粉末を確実に製造し得る。
【0034】
請求項28に記載の発明は、前記アルカリ剤は、粘土鉱物粉末およびアルカリ剤の全体を100重量部とした場合に、5〜30重量部の範囲になるように混合されることを要旨とする。
従って、請求項28に係る発明によれば、改質によって形成されるゲル化領域の厚さを制御し得る。
【0035】
請求項29に記載の発明は、前記アルカリ剤として、アルカリ金属の水酸化物あるいは炭酸塩または炭酸水素塩を使用するようにしたことを要旨とする。
従って、請求項29に係る発明によれば、取り扱い性が良好かつ安価な水酸化物あるいは炭酸塩または炭酸水素塩を使用するから、改質粘土鉱物粉末を容易に製造し得る。
【0036】
請求項30に記載の発明は、前記アルカリ金属として、ナトリウム、カリウムまたはリチウムを使用するようにしたことを要旨とする。
従って、請求項30に係る発明によれば、アルカリ金属として存在量が多く、安価で入手の容易なナトリウム等を使用するから、改質粘土鉱物粉末を安価に製造し得る。
【0037】
請求項31に記載の発明は、前記混合体は、水の存在下に前記粘土鉱物粉末およびアルカリ剤を混練して乾燥させた後に加熱するようにしたことを要旨とする。
従って、請求項31に係る発明によれば、加熱に先立って粘土鉱物粉末およびアルカリ剤が混練されるため、該アルカリ剤の偏在を防止して、該粘土鉱物粉末およびアルカリ剤の接触を好適に達成し得る。
【0038】
請求項32に記載の発明は、前記混合体の混練時には、100重量部の混合体に対して、70〜150重量部の水が使用されることを要旨とする。
従って、請求項32に係る発明によれば、粘土鉱物粉末に混合されるアルカリ剤の偏在を好適に防止し得る。
【0039】
請求項33に記載の発明は、前記アルカリ剤に、アルカリ土類金属の塩、酸化物または水酸化物を含有するようにしたことを要旨とする。
従って、請求項33に係る発明によれば、水に難溶性であるため、改質粘土鉱物粉末の製造が容易化する。
【0040】
請求項34に記載の発明は、前記アルカリ土類金属として、カルシウムまたはマグネシウムを使用するようにしたことを要旨とする。
従って、請求項34に係る発明によれば、アルカリ土類金属として容易に入手可能であり、かつ取り扱い性に優れるカルシウムまたはマグネシウムを使用するから、容易に改質粘土鉱物粉末の収量を安価に増加させ得る。
【0041】
請求項35に記載の発明は前記粘土鉱物粉末として、天然または合成の雲母、タルクあるいはカオリナイトの粉末を、1種類または2種類以上使用するようにしたことを要旨とする。
従って、請求項35に係る発明によれば、雲母、タルクあるいはカオリナイトが備える多様な素材的特性を付与した改質粘土鉱物粉末を製造し得る。
【0042】
請求項36に記載の発明は、前記天然の雲母として、白雲母、黒雲母、金雲母または絹雲母を、1種類または2種類以上使用するようにしたことを要旨とする。
従って、請求項36に係る発明によれば、各種雲母が備える多様な素材的特性を付与した改質粘土鉱物粉末を製造し得る。
【0043】
請求項37に記載の発明は、前記粘土鉱物粉末として、該粘土鉱物粉末の原鉱石を破砕したフィルム状またはフレーク状の物質を使用するようにしたことを要旨とする。
従って、請求項37に係る発明によれば、用途に応じた形状的特性を付与した改質粘土鉱物粉末を製造し得る。
【0044】
請求項38に記載の発明は、前記原鉱石は、乾式または湿式によって粉砕するようにしたことを要旨とする。
従って、請求項38に係る発明によれば、原鉱石の粉砕を容易になし得る。
【発明の効果】
【0045】
本発明に係る改質粘土鉱物粉末およびその製造方法によれば、アルカリ剤を用いて表面領域を改質することで、粘土鉱物粉末の比表面積を増大させるため、該粘土鉱物粉末に多様な機能性物質を容易に付与し、該機能性物質が発現する多様な機能を付与した改質粘土鉱物粉末を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
次に、本発明に係る改質粘土鉱物粉末およびその製造方法につき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照して以下に説明する。本願の発明者は、雲母(マイカ)、タルク(滑石)またはカオリナイト等の粘土鉱物の粉末およびアルカリ剤を混合して加熱を施すことで、該粉末の表面領域が改質(変性)されて比表面積が増大し、発色等の各種機能を発現する機能性物質を容易に付与し得る改質粘土鉱物粉末が得られることを知見したものである。なお、本発明で云う雲母、タルクまたはカオリナイトは、基材として選択する粘土鉱物として好適な例を挙げたものであって、他の層状構造を有する粘土鉱物も含み、例えばバーミキュライトまたは他の粘土鉱物であってもよい。また、本発明で云う粘土鉱物粉末は、雲母、タルクまたはカオリナイト等の粘土鉱物粒子からなるものであり、粉末の表現は粒子の意味を含むものとする。更に、本発明で云う粘土鉱物粉末およびアルカリ剤の「混合」は、該アルカリ剤を粘土鉱物粉末上に塗布する等の「接触」も含むものとする。また更に、本発明で云う「改質」とは、粘土鉱物粉末の(表面領域の)状態を変化させて品質を改善させることを意味する。
【0047】
(第1実施例)
第1実施例に係る改質粘土鉱物粉末10は、図1に示す如く、雲母、タルク等の粘土鉱物粉末12の表面領域を改質することで多孔性のゲル化領域14としたものであり、該改質によって比表面積が増大されている。この多孔性のゲル化領域14は、その孔径が数ナノメートル(nm) 〜 数百nmと非常に微細な構造を呈するため、比表面積は少なくとも1.5倍以上に向上している。ここで表面領域とは、改質前の粘土鉱物粉末の表面近傍であって、厚さ1μm程度までの領域を指す。一般の雲母等の粘土鉱物粉末の総厚さは、1μm程度であり、1μm以上の表面領域がゲル化領域14に改質されると、実質的にゲル化領域14だけになってしまい、改質粘土鉱物粉末10が得られなくなるためである。なお、機能性物質(粉末)の改質粘土鉱物粉末10表面への吸着・付与の度合いを表す指標として、後述の実験2に記載の如く、比表面積だけでなく吸油量、吸水量およびメチレンブルー吸着量を用いている。そして、前記吸油量、吸水量およびメチレンブルー吸着量については、何れも比表面積を用いることで定量的な評価が可能であるので、本発明においては機能性物質(粉末)の改質粘土鉱物粉末10表面への吸着・付与の度合いを表す指標として比表面積を採用している。
【0048】
そして、前記表面領域の改質は、(1)粘土鉱物粉末12とアルカリ剤20とを混合(アルカリ剤20との接触)して、(2)所定温度で加熱する、ことでなされる。具体的には、前記粘土鉱物粉末12の表面領域において、該粘土鉱物粉末12の組成をなす結晶水が脱離して、アルカリ剤20の金属成分と置換することでゲル化領域14が生じる。また、粘土鉱物粉末12の表面領域だけが改質されてゲル化領域14となるので、該ゲル化領域14の下には粘土鉱物粉末12が存在し、従って、得られる改質粘土鉱物粉末10において該粘土鉱物粉末12が発現する有用な機能は保持されている(後述の実験1参照)。なお、前記ゲル化領域14の厚さは、前述した改質条件(1)および(2)から明らかなように、アルカリ剤20との接触の度合いと、加熱の度合い(加熱温度および時間)とによって決定される。
【0049】
本第1実施例に係る改質粘土鉱物粉末10は、図2に示す如く、基本的に各原料準備工程S1、混合工程S2、加熱工程S3、アルカリ分除去工程S4および最終工程S5を経ることで製造される。ここで本発明の理解に資するため、各工程について説明する前に粘土鉱物として好適に使用される雲母およびタルクにつき、以下説明する。
【0050】
前記雲母は、主成分として層状の単斜晶系結晶構造を持つ含水珪酸塩鉱物であり、これを粉砕して得られる粉末は、細かくても鱗片状または板状の相似形になって粒度が安定すると共に、良好な滑り性、弾性等を示す。そして雲母は、3原子のケイ素(Si)と1原子のアルミニウム(Al)との酸化物が形成する4個の四面体構造2層間に、2個または3個の金属酸化・水酸化物が構成する八面体構造が挟み込まれた構造の2:1型粘土鉱物である。この構造においては四面体の1/4がAlに置換されて、四面体−八面体−四面体を1つの構成ユニットとしている雲母各層の層間は負電荷を有することになるため、6個の四面体が形成する6員環の中心に、12配位の形で1価の陽イオンであるカリウム(K)が取り込まれている。
【0051】
そして雲母には、構造の微差によって白雲母(マスコバイト)、黒雲母(バイオタイト)、金雲母(フロゴパイト)および合成雲母等が存在する。雲母の八面体を構成する金属元素は、3価のアルミニウム(Al3+)、2価の鉄(Fe2+)もしくはマグネシウム(Mg2+)であるが、電荷のバランスを取るには、八面体陽イオンの電荷は全部で +6でなければならない。すなわち、八面体のカチオンとして3価カチオン(Al3+ 等)が入る場合、カチオン席の2/3にカチオンが入り、1/3は空席となる2-八面体(dioctahedral)型となり、2価カチオン(Mg2+、Fe2+ 等)の場合では、すべての八面体カチオン席(3/3)が満席になる3-八面体(trioctahedral)型となる。なお、2価カチオンが3価カチオンを置換して八面体に入っている場合でも、1/3が空席であれば2-八面体型となり、逆に3価カチオンが2価カチオンを置換して八面体に入っている場合、3/3で満席になっていれば3-八面体型となる。この2-八面体型雲母の代表格が白雲母(muscovite)であり、3-八面体型雲母の代表格が黒・金雲母(biotite)である。
【0052】
この他、近年、人為的に合成した合成金雲母等の特殊な雲母も知られている。雲母の四面体シートは、前述のように、3個のケイ素に対して1個のアルミニウムの比率で平面的に繋がっているが、アルミニウムを含まない、ケイ素だけで形成されている4ケイ素型の雲母や、更にこの層間に存在する1個のカリウム原子を、2個のナトリウム原子に置換したナトリウム雲母等がこれにあたる。これらは、下記の非特許文献に記載される如く、膨潤性等の優れた特性を有してはいるが、表面が平滑で物理的・化学的に安定である点においては一般的な雲母と同様である。また、合成雲母は、人為的に雲母を構成する各成分を溶融させて結晶生成させ、phlogopite(八面体をマグネシウム(Mg2+)だけで構成される雲母を指し、一般には鉄を含むbiotiteであって色の淡い黒金色の雲母)のOH基(結晶水)をフッ素に置換した化学構造を有する雲母である。
【非特許文献1】太田俊一(2004)粘土基礎講座I 合成雲母とその応用、粘土科学、第44巻、第1号、31-36
【0053】
またタルクは、4原子のケイ素(Si)の酸化物が形成する4個の四面体構造2層間に、3個のマグネシウム(Mg)酸化・水酸化物が構成する八面体構造が挟み込まれた構造となっている。すなわち、構造が雲母とは異なり、各層の層間に電荷が存在せずに層間陽イオンが存在していない。従って、雲母のように各層が電荷によって固着しておらず、層間が滑って構造が崩壊し易い構造を有しており、雲母とは感触が異なる。また物性的には高い白色度を有して光を殆ど透過しないため、色調についても光透過性の高い雲母とは異なるものとなっている。これら雲母およびタルクは何れも化学的にも極めて安定であり、有機または無機の化学物質をこれらの表面に化学結合させて固着することは困難であることが知られている。
【0054】
前記各原料準備工程S1は、改質粘土鉱物粉末10を得るための原料である粘土鉱物粉末12と、該粘土鉱物粉末12の表面領域を改質するためのアルカリ剤20とを準備する工程で、粉砕段階S11と、必要に応じて実施される分級段階S12および乾燥段階S13とからなる。前記粉砕段階S11は、基本的に粘土鉱物の原鉱石、すなわち、岩塊として存在する粘土鉱物から、所定粒径に調整等された粘土鉱物粉末12を得るための段階である。また必要に応じて、後述の如く、アルカリ剤20にも実施される。この粉砕段階S11は、ピンミル、ハンマーミル、ロールミル(ローラーミル)や、乾式粉砕または湿式粉砕その他公知の粉砕手段によって実施される。そして、粘土鉱物粉末12の粉砕については、湿式下で好適な粉砕等を実施する水流を利用した、所謂水流粉砕機や水中攪拌機等による粉砕が好適である。この水流粉砕機や水中攪拌機等の使用による粉砕は、分級が同時に実施されるため、後述する分級段階S12における分級が不要となる。ここで使用される粉砕手段の種類や、粉砕時間等によって、改質粘土鉱物粉末10の基となる粘土鉱物粉末12の径が略決定される。
【0055】
また、前記粘土鉱物粉末12としては、その使用用途等に応じて、粘土鉱物の原鉱石を所要の方法で粉砕して得られたフィルム状、フレーク状または粉末等の任意の形態のものを用いてもよい。このような形状とすることで、本発明に係る改質粘土鉱物粉末10を用いる際に、例えば、特に良好な触感が求められるファンデーション等の化粧品原料等の用途に応じた形状的特性を発現させることが可能となる。
【0056】
前記分級段階S12は、粉砕段階S11の実施により得られた粘土鉱物粉末12を使用用途に応じた粒径に揃える段階である。この分級段階S12において実施される分級は、基材として使用する粘土鉱物粉末12の粒径に対応したメッシュを有する通常の篩いによる分級等、従来公知の方法が適宜採用可能である。なお、例えば粉砕段階S11の実施により、充分に製品としての粒度となっており、粘土鉱物粉末12の粒径を揃える必要がない場合には必ずしも分級を実施する必要はない。
【0057】
また、乾燥段階S13は、湿式粉砕法で粉砕を実施した際に、粉砕に使用した水を除去等するための乾燥を施す段階であり、一般的に使用される熱風循環恒温乾燥炉等の従来公知の手段を使用することで実施され、例えば流動層乾燥機等の従来公知の乾燥機や、フィルタープレス後に乾熱乾燥またはスプレードライ等の通常の脱水・乾燥法によって実施される。乾燥温度および時間については、粘土鉱物粉末12の乾燥が充分になされ、かつ該粘土鉱物粉末12の性状等に影響が出ない範囲で設定される。例えば、この乾燥を行なう温度は、105〜160℃程度に設定される。この温度が高過ぎると、殊にタルクの場合、タルク原鉱石が有する親水性等の有用な物性が失われる場合があるので注意が必要である。また、乾燥時間は製造効率を大きく悪化させないように、90〜180分程度の範囲内で適宜設定される。なお、粉砕段階S11において乾式粉砕法を採用した場合は乾燥は不要となる。
【0058】
各原料準備工程S1では、粘土鉱物粉末12だけでなく、該粘土鉱物粉末12と混合されて、その表面領域を改質させるアルカリ剤20も準備される。ここで使用されるアルカリ剤20としては、一般的に知られているナトリウム、カリウムまたはリチウム等のアルカリ金属の水酸化物あるいは炭酸塩または炭酸水素塩が挙げられ、これらを単体または数種類を混合して用いる。ここでアルカリ金属としては、安価で入手の容易なナトリウム、カリウムまたはリチウムが好適に採用される。
【0059】
また、前記アルカリ剤20に、カルシウムまたはマグネシウム等のアルカリ土類金属の塩、酸化物または水酸化物を含有させるようにしてもよい。このようにアルカリ剤20にアルカリ土類金属を含有させると、該アルカリ土類金属が発現する増量材機能により、該アルカリ土類金属を用いない場合に比較して効率的に粘土鉱物粉末12の表面領域を改質して、ゲル化領域14を形成することができる。アルカリ土類金属として、入手の容易なカルシウムまたはマグネシウムを用いることで、改質粘土鉱物粉末10の安価に製造し得る。
【0060】
前記アルカリ剤20は、粘土鉱物粉末12と混合し易いように粉体状または液体状で準備される。これは、粘土鉱物粉末12の表面領域の改質条件(ゲル化領域14の形成条件)の(1)を好適に達成するためのものであり、該アルカリ剤20として細かい粉状物や液状物を使用することで、該ゲル化領域14を効率的に形成することが可能になる。アルカリ剤20として粉状物を使用する場合、前述した粉砕段階S11と、必要に応じて分級段階S12および乾燥段階S13とを実施して準備され、または市販物から準備される。アルカリ剤20として液状物を使用する場合、固体状のアルカリ剤20を水等の溶媒に溶解させることで準備され、または粉状物と同様に市販物から準備される。また、アルカリ剤20として潮解性を有する水酸化ナトリウム等を利用して粉体物を得る場合には、湿式粉砕が不適なことは云うまでもない。
【0061】
前記アルカリ剤20の混合量は、粘土鉱物粉末12およびアルカリ剤20の総量を100重量部として、これに対して5〜30重量部の範囲になるようにされる。この混合量が5重量部未満であると、粘土鉱物粉末12とアルカリ剤20との混合(接触)状態や加熱温度に関係なく、粘土鉱物粉末12の表面領域のゲル化領域14への改質が殆どなされなくなってしまう。一方、30重量部を超えると、粘土鉱物粉末12とアルカリ剤20との混合(接触)状態に関係なく、該アルカリ剤20による改質が表面領域だけに留まらず、該粘土鉱物粉末12の全体に及んでしまい、粘土鉱物粉末12が殆ど全てゲル化領域14に改質されてしまう。本発明に係る改質粘土鉱物粉末10は、アルカリ剤20と加熱とによる改質が基となる粘土鉱物粉末12の全領域に及ばないように制御することで、基の粘土鉱物粉末12の優れた物性を備えつつ、比表面積が増大して機能性物質等の吸着・付与が容易化した改質粘土鉱物粉末10を得るものである。すなわち、粘土鉱物粉末12の全てがゲル化領域14にならないように、アルカリ剤20の混合割合を30重量部以下とする必要がある。
【0062】
また、ゲル化領域14は、粘土鉱物粉末12の結晶水がアルカリ剤20の金属成分と置換することで形成されるため、アルカリ剤20の混合量は、少なくとも改質すべき粘土鉱物粉末12の表面領域において置換される結晶水の化学当量以上とされる。すなわち、アルカリ剤20の金属成分の化学当量は、該アルカリ剤20と混合される粘土鉱物粉末12の組成から計算される結晶水の化学当量よりも多くなるようにされる。
【0063】
前記混合工程S2は、粘土鉱物粉末12およびアルカリ剤20を混合して、これらの混合体16を得る工程である。この混合工程S2は、リボン型、パドル型やスクリュー型ミキサー、ニーダーまたはその他公知の混合手段により実施される。この混合工程S2における混合は、前述の改質条件(1)に関連し、ゲル化領域14の形成に大きな影響を与えるものである。そして、粘土鉱物粉末12とアルカリ剤20との混合が不充分であると、アルカリ剤20が不均質に存在し、粘土鉱物粉末12における表面領域の改質にムラが生じてゲル化領域14が好適に形成されなくなり、結果的に粘土鉱物粉末12の表面領域を好適に改質し得ない虞がある。この混合・混練時間は、粘土鉱物粉末12の粒径やアルカリ剤20の混合量等の各要素によって変動するが、該粘土鉱物粉末12およびアルカリ剤20が均質に混ざり合うように適宜設定される。
【0064】
前記加熱工程S3は、粘土鉱物粉末12およびアルカリ剤20の混合体16を加熱する工程である。すなわち、前述の改質条件(2)を達成するための工程であり、加熱の温度は550〜1300℃の範囲にされる。この温度は、粘土鉱物粉末12の種類により決定されており、該粘土鉱物粉末12の結晶水がアルカリ剤20の金属成分と置換が可能となるように、少なくとも該結晶水が粘土鉱物粉末12の組成中から脱離可能な脱水温度以上であって、粘土鉱物粉末12が溶解することなく形状を維持し得る温度以下に設定される。
【0065】
例えば、雲母であれば、少なくとも650℃以上、好適には800℃とされ、化粧品原料として好適に使用される白雲母においては、加熱温度800℃で1時間程度、700℃では3〜4時間程度、650℃では15時間以上の加熱時間が必要である。また、金雲母および黒雲母では900℃で1時間程度、750〜800℃では3〜4時間程度である。タルクでは、これよりも高い温度が必要であり、950〜1000℃で1時間程度の加熱が必要である。カオリナイトでは800℃で1時間程度が好適である。なお、一般に粘土鉱物は熱伝導率が低く、内部まで均一に加熱することが困難であるため、この点を考慮した加熱条件が必要である。
【0066】
加熱工程S3における加熱は、一般的に使用される熱風循環恒温乾燥炉等の従来公知の手段を使用することで実施され、この他、例えば流動層乾燥機等の従来公知の乾燥機も使用し得る。また、加熱時間は、加熱温度と同様に、粘土鉱物粉末12の結晶水がアルカリ剤20の金属成分と置換し得る長さ以上に設定される。具体的には、製造効率を阻害しない範囲内である90〜180分程度での設定が好適であるが、製造設備その他の条件により、前述した粘土鉱物粉末12の結晶水の離脱が好適になされる温度に設定し得ない場合には、低い温度で24時間と云った処理を実施してもよい。
【0067】
本加熱工程S3を実施することで、粘土鉱物粉末12から、その表面領域がゲル化領域14に改質された改質粘土鉱物粉末10が得られる。すなわち、粘土鉱物粉末12の表面領域が、アルカリ剤20と加熱とによって改質されて、多孔性のゲル化領域14となり、該ゲル化領域14によって比表面積が増大する。この比表面積の増大により、色材等の各種機能性物質を好適に付与し得る改質粘土鉱物粉末10が得られる。ここで、改質粘土鉱物粉末10は、粘土鉱物粉末12の表面領域の組成が若干置換され、かつ性状がゲル化しただけであり、該ゲル化領域14の下には粘土鉱物粉末12が存在しているので、該粘土鉱物粉末12の各種特性、例えば雲母であれば、滑り性、弾力性、電気絶縁性および耐熱性等、タルクであれば良好な親水性と云った良好な特性を保持した状態となっている。
【0068】
前記アルカリ分除去工程S4は、前述した各工程S1〜S3を経た加熱後の混合体(改質粘土鉱物粉末10およびアルカリ剤20)から、アルカリ分(アルカリ剤20および加熱することでアルカリ剤20から生成される金属酸化物)を除去して、改質粘土鉱物粉末10を中性化する工程であり、アルカリ分除去段階S41と、必要に応じて実施される中性化段階S42と、乾燥段階S43とからなる。前記アルカリ分除去段階S41におけるアルカリ剤20等の除去は、基本的に水洗によって実施されるが、その他公知の如何なる方法も採用可能であり、更に必要に応じて水洗の後に中性化を確実になし得るために酸中和による中性化段階S42が実施される。特に加熱によってアルカリ剤20から生成される金属酸化物は高いアルカリ性を示すので、得られる改質粘土鉱物粉末10の人体に対する安全性等の取り扱い性を向上させるために、本アルカリ分除去工程S4の実施が奨励される。
【0069】
なお、このアルカリ分除去工程S4は、改質粘土鉱物粉末10の使用用途がアルカリ剤20の存在を許容する等の場合には不要となる。前記乾燥段階S43は、アルカリ分除去段階S41の水洗によって濡れている改質粘土鉱物粉末10を乾燥させる段階であり、前述の乾燥段階S13において使用される各種機器の使用等によって実施される。乾燥温度および時間については、改質粘土鉱物粉末10の乾燥が充分になされ、かつ該改質粘土鉱物粉末10の性状等に影響が出ない範囲で設定される。
【0070】
前記最終工程S5は、前述の各工程S1〜S4を経ることで製造された改質粘土鉱物粉末10に対して、出荷に必要な計量、包装その他様々な検査等を実施する工程である。そして本最終工程S5の終了後に改質粘土鉱物粉末10は出荷等される。雲母等の粘土鉱物粉末は化学的に安定な物質であるため、化学物質の結合は困難であったが、本発明においてはアルカリ剤20と混合して、表面領域を変性させて比表面積を増大させることで、色材等の機能性物質を好適に付与し得る表面状態となる。
【0071】
本発明に係る改質粘土鉱物粉末10は、比表面積が増大されているので、各種機能性物質の吸着および付着性が向上した状態となっている。このような特徴を有する前記改質粘土鉱物粉末10を、例えばプラスチック等の樹脂類のフィラーとして用いる場合には、通常の粘土鉱物粉末12を使用した場合に比較して、樹脂分子の吸着および付着性が向上するため、樹脂強度をはじめとする樹脂物性が向上する効果を奏する。また、白雲母鉱物から得られる粘土鉱物粉末12についても、改質によってゲル化領域14が形成された改質粘土鉱物粉末10では、表面の比表面積および散乱光量が増加するので、吸油量が増大することで油脂類等化粧品に配合される他の成分と良く調和し、結果として油脂の使用量を減少させ得ると共に、透明度が低下する「雲母のくすみ」の問題も低減する。すなわち、本発明に係る改質粘土鉱物粉末10は、触感および白色度を向上させるべくファンデーション等の化粧品原材料として採用する際の、前述([0005]参照)した各種問題を解決し、該化粧品原材料として好適に使用できる特性を発現し得る。
【0072】
また、色材、殺虫剤または殺菌剤等の薬効成分、界面活性剤等の機能を有している各種機能性物質を吸着・付着させることで、容易に当該機能を発現する粘土鉱物粉末を製造することができる。更に、フィルム状またはフレーク状の粘土鉱物粉末12から改質粘土鉱物粉末10を得て、これに各種機能性材料を吸着・付与することで、各種機能を発現するフィルム状またはフレーク状の粘土鉱物粉末を製造することも可能である。
【0073】
(第2実施例)
前述の第1実施例では、粘土鉱物粉末12は、アルカリ剤20の存在下に加熱することで、粘土鉱物粉末12の表面領域に多孔性のゲル化領域14を形成して比表面積を増大させていたが、本発明はこれに限定されるものではない。加熱することで形成される前記ゲル化領域14は酸性溶液に可溶であるため、得られた改質粘土鉱物粉末10を酸性溶液で洗浄し、該ゲル化領域14を除去するようにしてもよい。
【0074】
ここで前述した如く、前記ゲル化領域14の厚さは、アルカリ剤20との接触の度合いと、加熱の度合い(加熱温度および時間)とによって決定される。すなわち、粘土鉱物粉末12およびアルカリ剤20の混合度合いは、混合方法の選択および混合時間の設定によって均質に近づけることは可能であっても全く同一にはできない。また、加熱温度も、一般に如何なる加熱装置を用いたとしても、加熱室内の加熱速度等は同一とはできない。すなわち、前記ゲル化領域14の厚さは、改質粘土鉱物粉末10の部位によって同一とはならず異なるものとなる。従って、このようにして得られる第2実施例の改質粘土鉱物粉末11は、粘土鉱物粉末12の表面領域に不均一な厚さで形成されたゲル化領域14が除去されるため、図3に示す如く、処理前の粘土鉱物粉末12に比較して表面の凸凹が多くなり、少なくとも比表面積が1.5倍以上に増大したものとなっている。このように、比表面積が1.5倍となることで、得られる改質粘土鉱物粉末10が基となる粘土鉱物粉末12に比較して、機能性物質等の吸着・付与をなし得る状態になっている(後述の実験3)。
【0075】
前記アルカリ剤20の混合量は、第1実施例と同様に粘土鉱物粉末12およびアルカリ剤20の総量を100重量部として、これに対して5〜30重量部の範囲になるようにされる。この混合量が5重量部未満であると、粘土鉱物粉末12とアルカリ剤20との混合(接触)状態や加熱温度に関係なく、粘土鉱物粉末12の表面領域のゲル化領域14への改質が殆どなされなくなってしまい、得られる改質粘土鉱物粉末10の比表面積が、基となる粘土鉱物粉末12の比表面積の1.5倍とならなくなってしまう。一方、30重量部を超えると、粘土鉱物粉末12とアルカリ剤20との混合(接触)状態に関係なく、該アルカリ剤20による改質が表面領域だけに留まらず、該粘土鉱物粉末12の全体に及んで粘土鉱物粉末12が殆ど全てゲル化領域14に改質されてしまうため、第2実施例に係る粘土鉱物粉末12は得られなくなってしまう。
【0076】
第2実施例に係る前記改質粘土鉱物粉末11は、図4に示す如く、第1実施例の改質粘土鉱物粉末10の製造工程におけるアルカリ分除去工程S4に代えて、ゲル化領域除去工程S6を実施することで製造される。ここで各工程S1〜S3およびS5は、前述の第1実施例と同様であるので説明は省略する。
【0077】
第2実施例においてアルカリ分除去工程S4の代わりに実施されるゲル化領域除去工程S6は、粘土鉱物粉末12の表面領域を改質して形成されたゲル化領域14と、アルカリ分(アルカリ剤20および加熱することでアルカリ剤20から生成される金属酸化物)とを除去する工程であり、ゲル化領域除去段階S61と、必要に応じて実施される中性化段階S62と、乾燥段階S63とからなる。前記ゲル化領域除去段階S61によるゲル化領域14およびアルカリ分の除去は、酸性溶液によってpHを3.5以下に調整することでなされる。
【0078】
このpHが3.5を超えると、ゲル化領域14の溶解が少なく、また溶解したゲル化領域14も再度ゲル化してしまう。この現象は、pH1程度の強酸であっても、ゲル化領域14溶解中にpHが3.5を上回ると発生する。除去に必要とされる洗浄時間は、使用する酸性溶液のpHによって変動するが、強い酸性溶液(pH1程度)で数時間、弱い酸性溶液(pH3.5程度)で24時間程度である。基本的にゲル化領域14の下に存在する粘土鉱物粉末12は、前述の如く、物理的・化学的に安定であって酸性溶液に溶け出すことがないので、酸性溶液による洗浄時間は前述の時間より長いものであってもよい。
【0079】
また、前記酸性溶液としては、加熱後の混合体16をpH3.5以下に調整し得るものであれば問題なく使用できるが、クエン酸等のように、金属錯体(キレート)を形成する酸を用いた溶液の場合、ゲル化領域14およびアルカリ分だけでなく改質粘土鉱物粉末10中に含まれる鉄等の異物も効率良く除去することが可能である。酸性溶液による異物除去は、金属錯体を形成する酸と、塩酸、硝酸または硫酸等の無機酸(鉱酸)とを混合して用いた酸性溶液の使用が更に効果的である。このように、改質粘土鉱物粉末10の鉄等の異物を除去すると、粘土鉱物粉末12として白雲母を用いた場合に、該白雲母の微妙な発色の基となる異物としての鉄等を好適に除去し得るため、得られる改質粘土鉱物粉末10の白色度を更に高め得る。なお、酸性溶液がアルカリ剤20に中和されてpHが3.5を上回ると、ゲル化領域14の除去が充分にできなくなるので、酸性溶液のpHおよび使用量については、粘土鉱物粉末12に混合したアルカリ剤20の量から予め計算することが好ましい。
【0080】
前記中性化段階S62は、ゲル化領域14等の除去に使用された酸性溶液を完全に除去して、改質粘土鉱物粉末11を中性化するための段階であり、該酸性溶液を充分に除去するに足る、具体的には洗浄に供する改質粘土鉱物粉末11の体積の10倍量程度以上の水を使用して実施される。この中性化段階S62は、改質粘土鉱物粉末11の使用用途が酸性を許容する等の場合には不要となる。また、乾燥段階S63は、中性化段階S62の洗浄によって濡れている改質粘土鉱物粉末11を乾燥させる段階であり、前述の乾燥段階S13と同様に実施される。乾燥温度および時間については、改質粘土鉱物粉末11の乾燥が充分になされ、かつ該改質粘土鉱物粉末11の性状等に影響が出ない範囲で設定される。なお、ゲル化領域14およびアルカリ分の除去に必要な酸性溶液の化学当量を計算してゲル化領域除去段階S61を実施することで、中性化段階S62を不要とすることもできる。
【0081】
このようにして得られた改質粘土鉱物粉末11は、表面が基となる粘土鉱物粉末12に比較して凸凹が多くなり、少なくとも比表面積が1.5倍となっている。すなわち、第2実施例に係る改質粘土鉱物粉末11も、第1実施例の改質粘土鉱物粉末10と同様に各種機能性物質の吸着および付着性が向上している。また、表面に多孔性のゲル化領域14が存在しない状態となっているので、該多孔性に由来する「ザラザラ」した触感が薄れて、素材としての粘土鉱物粉末12の性状に由来する良好な触感(特に雲母の場合)が強く発現するようになっている。
【0082】
なお、酸性溶液でゲル化領域14およびアルカリ分を同時的に除去するのではなく、第1実施例の改質粘土鉱物粉末10の製造工程における全工程S1〜S5に加えて、アルカリ分除去工程S4および最終工程S5の間にゲル化領域除去工程S6を実施することで、改質粘土鉱物粉末11を製造するようにしてもよい。この場合、先ずアルカリ分除去工程S4でアルカリ分の充分な除去が可能になるので、引き続いて実施されるゲル化領域除去工程S6で使用する酸性溶液について、アルカリ分を除去する能力を考慮しなくてもよい。また、水洗により実施されるアルカリ分除去段階S41に引き続き、酸性溶液によるゲル化領域除去段階S61が実施されるので、アルカリ分除去段階S41後に実施される乾燥段階S43は不要となる。
【0083】
(変更例)
本発明は、実施例の構成に限定されず、以下の如く変更することも可能である。
(1)前述の実施例では、粘土鉱物粉末12とアルカリ剤20とは混合体16とされて加熱されているが、本発明はこれに限定されず、図5に示す如く、混合工程S2および加熱工程S3の間に混練工程S7を実施するようにしてもよい。この混練工程S7は、混合工程S2で実施される粘土鉱物粉末12およびアルカリ剤20の混合の度合いを更に高めるものであって、該粘土鉱物粉末12およびアルカリ剤20を高い水準で均質化するために実施される。前記混練工程S7は、粘土鉱物粉末12およびアルカリ剤20の混合体16に水を加えた後に、公知の混練機器を用いることで実施される。水の使用量は、100重量部の混合体16に対して70〜150重量部にされる。この使用量が70重量部未満であると、水が少なく混練が好適に実施できず、150重量部を超えると、使用した水の除去に時間がかかって製造効率が低下して現実的ではなくなる。また、粘土鉱物粉末12の種類によっても最適値があり、粘土鉱物粉末12が白雲母または金雲母等の雲母の場合は、100重量部の混合体16に対して70〜80重量部であり、粘土鉱物粉末12がカオリナイトまたはタルクの場合には、100重量部の混合体16に対して100重量部程度である。なお、本混練工程S7を実施する際であって、アルカリ剤20が水溶性の場合には、該アルカリ剤20が混練時に使用される水に溶解してしまうため、前記各原料準備工程S1における粉砕、分級および乾燥は不要となる。また、図5において、加熱工程S3以降の各工程は省略している。
(2)前述の実施例では、アルカリ分除去工程S4またはゲル化領域除去工程S6を実施した後に最終工程S5を実施しているが、本発明はこれに限定されず、図6に示す如く、該アルカリ分除去工程S4またはゲル化領域除去工程S6と最終工程S5との間に改質粘土鉱物粉末10,11の性質等を改善する後処理工程S8を実施するようにしてもよい。この後処理工程S8では、改質粘土鉱物粉末10,11に対して、例えば分散剤や緩衝剤等が混合される。前記分散剤は、得られた改質粘土鉱物粉末10,11が微細であって凝集する虞がある場合等に用いられ、例えば、ヘキサメタリン酸ナトリウムまたはテトラポリリン酸ナトリウム等が挙げられる。また、前記緩衝剤は、改質粘土鉱物粉末10,11の使用時におけるpHの変動を抑制したい場合に用いられ、リン酸系化合物等の公知の物質が使用される。なお、前述の変更例(1)においても、ここで述べた後処理工程S8は適応可能である。また、図6において、アルカリ分除去工程S4またはゲル化領域除去工程S6以前の各工程は省略している。
【0084】
(実験例)
以下に、本発明に係る改質粘土鉱物粉末に関して、以下の各実験を行ない、得られた改質粘土鉱物粉末の測定・観察を実施して評価すると共に、製造方法についての評価を行なった。
【0085】
(実験1:アルカリ剤の混合量と、得られる改質粘土鉱物粉末(形成されるゲル化領域)の量とについて)
基本的に前述の第2実施例に記載の改質粘土鉱物粉末の製造方法に沿って、粘土鉱物粉末として、粉末A(白雲母(商品名 Y−3000;株式会社山口雲母工業所製))、粉末B(金雲母粉末(商品名 NCR−300;株式会社山口雲母工業所製))、粉末C(タルク粉末(商品名 FK−300S;株式会社山口雲母工業所製))または粉末D(カオリナイト粉末(商品名 ASP−170;エンゲルハード社製))を用いると共に、アルカリ剤として汎用の炭酸ナトリウムを使用し、この粘土鉱物粉末とアルカリ剤とを混合(実験例1:粘土鉱物粉末:アルカリ剤=65:35、実験例2:粘土鉱物粉末:アルカリ剤=70:30、実験例3:粘土鉱物粉末:アルカリ剤=90:10、実験例4:粘土鉱物粉末:アルカリ剤=95:5、実験例5:粘土鉱物粉末:アルカリ剤=96:4、実験例6:粘土鉱物粉末:アルカリ剤=99:1(何れも重量割合))した後、100重量部の混合体に対して、粉末Aおよび粉末Bでは80重量部の水を使用し、粉末Cおよび粉末Dでは100重量部の水を使用して混練した。そして、混練物を加熱した後に、得られた改質粘土鉱物粉末とアルカリ剤とを合わせた体積の約10倍量の水で洗浄および吸引濾過を3回繰り返してアルカリ分を除去した後、塩酸による中和を実施して更に吸引濾過および乾熱乾燥を施して改質粘土鉱物粉末(ゲル化領域あり)とした。更に、この改質粘土鉱物粉末を酸性溶液によりpH2に調整してゲル化領域を除去した改質粘土鉱物粉末とした。そして、最初の粘土鉱物粉末の重量と、最終的に残留した改質粘土鉱物粉末(ゲル化領域なし)の重量とから、粘土鉱物粉末の改質による残存率(%)を算出した。
【0086】
(使用機器等)
・粘土鉱物粉末およびアルカリ剤の混合:汎用の電動式混合機を使用して、以下の条件で混合した。
混合条件;混合速度900回転/分、時間1分間
・粘土鉱物粉末およびアルカリ剤の混合体の混練:混練器(商品名 ケンミックス メタリック KM−800:愛工舎製作所製)を使用して、以下の条件で混練した。
混練条件;混練速度60回転/分、時間30分間
・粘土鉱物粉末およびアルカリ剤の混合体の加熱:電気マッフル炉(商品名 FUW−253PA:東京製作所製)を使用して、以下の条件で加熱した。
加熱条件;温度800℃、時間1時間、室温から処理温度に至る到達時間1時間
・使用した酸性溶液:塩酸
【0087】
(実験1の結果)
実験1に係る結果を表1に示す。この表1から、アルカリ剤の混合割合が35重量部となった場合には、粘土鉱物粉末の種類によらず残存率がほぼゼロとなり、得られる粉末は改質粘土鉱物粉末とは云えないことが確認された。また、アルカリ剤の混合割合が30重量部となった場合には、最も残存率の低い白雲母については9%であり、最も高い粘土鉱物粉末はタルクで83%であった。この残存率の高さは、各粘土鉱物粉末の結晶水の脱離温度が高い程、残存率が高くなっていること、すなわち結晶水の脱離容易性に関連していることが確認された。更に、粘土鉱物粉末とアルカリ剤との混合割合が90:10の実験例3では、粘土鉱物粉末の種類に関わらず70〜90%の高い残存率となること、すなわち形成されるゲル化領域の下に充分な粘土鉱物粉末が残存することが確認された。
【0088】
また、粘土鉱物粉末とアルカリ剤との混合割合が95:5の実験例4では、前述の実験例3とほぼ同様の数値が得られ、粘土鉱物粉末とアルカリ剤との混合割合が96:4の実験例5と、粘土鉱物粉末とアルカリ剤との混合割合が99:1の実験例6とでは、何れの実験例でも粘土鉱物粉末の種類によらず残存率ほぼ100%であることが確認された。すなわち、アルカリ剤の混合割合が5%以上となることで、好適にゲル化領域14が形成されることが分かった。
【表1】

【0089】
(実験2:粘土鉱物粉末と、改質粘土鉱物粉末との差異について)
実験1で使用した粉末A(粘土鉱物粉末)と、実験1の実験例3および実験例4で夫々得られた粉末Aに係るゲル化領域を有する改質粘土鉱物粉末およびゲル化領域を除去した改質粘土鉱物粉末とについて、(1)吸油量の測定、(2)吸水量の測定、(3)メチレンブルー吸着量の測定および(4)比表面積の測定を行なった。なお、粉末Aにアルカリ剤を混合せず、加熱だけ施した対照用粉末を用意し、(1)〜(4)の測定を実施した。また混合、混練、加熱および酸性溶液に係る条件は、前述の実験1と同様である。更に、粉末Aと、実験1の実験例3で得られた粉末Aに係るゲル化領域を有する改質粘土鉱物粉末については、夫々(5)X線回折による結晶性分析(図7)、(6)走査型電子顕微鏡(SEM)写真による外観観察(図8および図9:拡大倍率2000倍、図10および図11:拡大倍率20000倍)を行なった。
【0090】
(実験2で使用した測定機器および測定方法)
(1)吸油性:油としてアマニ油(シグマ・アルドリッチ ジャパン製)を用い、JIS K5101に記載の方法により実施した。
(2)吸水性:蒸留水を用い、JIS K5101に記載の方法により実施した。
(3)メチレンブルー吸着量:JIS K1474 5.1.1.2に記載の方法により実施した。なお、メチレンブルーは、カチオン系分子の吸着度合いを確認する場合に有効な手段である。
(4)比表面積:BET法により実施した。
(5)結晶性分析:X線回折装置(商品名 RINT−2000:株式会社リガク製)により、粉末Aと、改質粘土鉱物粉末(ゲル化領域あり)とについて、雲母の結晶性ピークが観察される角度を含む2θ(°)=0〜70の測定を行なった。
(6)外観:走査電子顕微鏡(商品名 S−2400:株式会社日立ハイテクノロジーズ製)により、電子顕微鏡観察下において倍率2000倍および20000倍で粉末Aと、改質粘土鉱物粉末(ゲル化領域あり)との表面状態を観察した。
【0091】
(実験2の結果)
実験2に係る結果を、表2および図7〜図11に示す。ここで、図7(a)、図8および図10は粘土鉱物粉末である粉末Aのデータであり、図7(b)、図9および図11は実験例3で得られる改質粘土鉱物粉末(ゲル化領域あり)のデータである。なお、図8および図9において、夫々図内の右下部に現れる白い横線の全長は20μmであり、図10および図11において、夫々図内の右下部に現れる白い横線の全長は2μmである。
【0092】
表2から分かるように、改質粘土鉱物粉末(ゲル化領域あり)は、粉末Aに比較して、吸油量および吸水量が少なくとも1.5倍程度は向上していることが確認された。また、アルカリ剤を10重量部混合した実験例3に係る改質粘土鉱物粉末(ゲル化領域あり)では2倍以上の向上であった。すなわち、この改質粘土鉱物粉末(ゲル化領域あり)は、好適な触感を備え、少ない吸油量で好適に成形し得る特性を備えて、ファンデーション等の化粧用原料に好適に使用し得ることが分かった。
【表2】

【0093】
また、比表面積が2.4倍(実験例3は5倍)となっていると共に、メチレンブルー吸着量が約2倍(実験例3は3倍)になっているので、本発明に係る改質粘土鉱物粉末(ゲル化領域あり)は、例えば一般に雲母に対して吸着が困難とされるアニオン系分子に代表される水溶性物質を含めた機能性物質の付与が好適になされることが確認された。更に、ゲル化領域が除去された改質粘土鉱物粉末についても、(1)〜(3)の何れの値も基となる粉末Aの値を上回り、(4)比表面積も1.5倍(実験例3は約3.5倍)となっていることが確認された。なお、粉末Aに加熱だけ施した対照区粉末に対しても、本発明に係る改質粘土鉱物粉末(ゲル化領域あり・なし)は、機能性物質の吸着・付与に係る(1)〜(4)の何れの指標についても上回っていることが確認された。
【0094】
更に、図7から明らかなように、粉末Aと改質粘土鉱物粉末(ゲル化領域あり)とは全く同じ回折線を描いていることから、雲母内部の構造には変化が及んでいないことが明らかとなった。すなわち、改質されているのは、粘土鉱物粉末の表面領域だけであることが確認された。なお、図7のグラフ図における2θ=18°付近および27°付近のピークは、白雲母の存在を示すものである。また、図7において、横軸は角度(2θ)を、縦軸はX線強度を夫々表している。
【0095】
また、図8および図9(拡大倍率2000倍のSEM写真)では明確な差異が確認できなかったが、図10および図11(拡大倍率20000倍のSEM写真)では、(b)の改質粘土鉱物粉末における表面が、(a)の粉末A(粘土鉱物粉末)に比較して多孔化した状態となっていることが明らかとなった。すなわち、本発明に係る改質粘土鉱物粉末は、基となる粘土鉱物粉末の組成的な特徴を保持しつつ、かつ表面領域だけ改質されていることが確認された。
【0096】
(実験3:改質粘土鉱物粉末の機能性物質の吸着・付与性について)
実験1で使用された粉末Aと、実験1の実験例3で得られた粉末Aに係るゲル化領域を除去した改質粘土鉱物粉末と、実験例4で得られた粉末Aに係るゲル化領域を除去した改質粘土鉱物粉末と、実験1の実験例5で得られた粉末Aの処理物粉末とを基材として夫々用い、この各基材20gに対し、機能性物質として酢酸鉄(和光純薬・試薬特級)を、1mM量を夫々溶液として加えてよく混練し、105℃に設定した乾燥装置(三洋製・CONVECTION OVEN)で3時間乾熱乾燥させた後、これを体積の約10倍量の水で洗浄および吸引濾過を3回繰り返した。そして、粉末A、実験例3で得られた改質粘土鉱物粉末(ゲル化領域なし)、実験例4で得られた改質粘土鉱物粉末(ゲル化領域なし)および実験例5で得られた粉末Aの処理物粉末から、夫々試験片3−1、3−2、3−3および3−4を得た。そして、各試験片3−1〜3−4について目視観察により色相を評価した。
【0097】
(実験3で使用した測定機器等)
・酢酸鉄:和光純薬・試薬特級
・乾燥装置:三洋製・CONVECTION OVEN
【0098】
(実験3の結果)
実験3で得られた試験片3−2および3−3については充分な着色が認められる一方、試験片3−1および3−4については殆ど着色が見られなかった。すなわち、一般的な粘土鉱物粉末は、比表面積を1.5倍向上させることで、機能性物質の吸着・付与が可能なことが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明の好適な第1実施例に係る改質粘土鉱物粉末の表面領域を拡大して示す概略断面図である。
【図2】第1実施例の改質粘土鉱物粉末について、その製造方法の一例を示す工程図である。
【図3】本発明の好適な第2実施例に係る改質粘土鉱物粉末の表面領域を拡大して示す概略断面図である。
【図4】第2実施例の改質粘土鉱物粉末について、その製造方法の一例を示す工程図である。
【図5】変更例(1)に係る製造方法の一例を示す工程図である。
【図6】変更例(2)に係る製造方法の一例を示す工程図である。
【図7】実験2に係る粘土鉱物粉末および改質粘土鉱物粉末についてのX線回折の結果を示すグラフ図である。
【図8】実験2に係る粘土鉱物粉末を倍率2000倍で撮影した走査型電子顕微鏡写真である。
【図9】実験2に係る改質粘土鉱物粉末を倍率2000倍で撮影した走査型電子顕微鏡写真である。
【図10】実験2に係る粘土鉱物粉末を倍率20000倍で撮影した走査型電子顕微鏡写真である。
【図11】実験2に係る改質粘土鉱物粉末を倍率20000倍で撮影した走査型電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0100】
12 粘土鉱物粉末
14 ゲル化領域
20 アルカリ剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘土鉱物粉末(12)の表面領域が多孔性のゲル化領域(14)となっている
ことを特徴とする改質粘土鉱物粉末。
【請求項2】
粘土鉱物粉末(12)およびアルカリ剤(20)を混合状態として加熱することで、該粘土鉱物粉末(12)の表面領域が改質されて多孔性のゲル化領域(14)となっている
ことを特徴とする改質粘土鉱物粉末。
【請求項3】
前記アルカリ剤(20)が、加熱後に除去されている請求項2記載の改質粘土鉱物粉末。
【請求項4】
粘土鉱物粉末(12)およびアルカリ剤(20)を混合状態として加熱することで、該粘土鉱物粉末(12)の表面領域を改質してゲル化領域(14)とした後、該ゲル化領域(14)を除去することで加熱後の粘土鉱物粉末(12)の表面の比表面積が、加熱前の1.5倍以上になっている
ことを特徴とする改質粘土鉱物粉末。
【請求項5】
前記ゲル化領域(14)の除去が、酸性溶液によってアルカリ剤(20)の除去と共になされている請求項4記載の改質粘土鉱物粉末。
【請求項6】
前記アルカリ剤(20)が除去された後に、分散剤および/または緩衝剤が添加された請求項3または5記載の改質粘土鉱物粉末。
【請求項7】
前記分散剤として、ヘキサメタリン酸ナトリウムまたはテトラポリリン酸ナトリウムが使用されている請求項6記載の改質粘土鉱物粉末。
【請求項8】
前記緩衝剤として、リン酸系化合物が使用されている請求項6記載の改質粘土鉱物粉末。
【請求項9】
混合された前記粘土鉱物粉末(12)およびアルカリ剤(20)は、550〜1300℃の範囲で加熱されている請求項2〜8の何れか一項に記載の改質粘土鉱物粉末。
【請求項10】
前記アルカリ剤(20)の混合量は、粘土鉱物粉末(12)およびアルカリ剤(20)の全体を100重量部とした場合に、5〜30重量部の範囲になっている請求項2〜9の何れか一項に記載の改質粘土鉱物粉末。
【請求項11】
前記アルカリ剤(20)として、アルカリ金属の水酸化物あるいは炭酸塩または炭酸水素塩が使用されている請求項2〜10の何れか一項に記載の改質粘土鉱物粉末。
【請求項12】
前記アルカリ金属として、ナトリウム、カリウムまたはリチウムが使用されている請求項11記載の改質粘土鉱物粉末。
【請求項13】
混合された前記粘土鉱物粉末(12)およびアルカリ剤(20)の加熱は、水の存在下に該粘土鉱物粉末(12)およびアルカリ剤(20)混練して乾燥させた後に実施されている請求項2〜12の何れか一項に記載の改質粘土鉱物粉末。
【請求項14】
前記粘土鉱物粉末(12)およびアルカリ剤(20)を混練する際に使用される水の使用量が、100重量部の混合された粘土鉱物粉末(12)およびアルカリ剤(20)に対して、70〜150重量部になっている請求項13記載の改質粘土鉱物粉末。
【請求項15】
前記アルカリ剤(20)には、アルカリ土類金属の塩、酸化物または水酸化物が含有されている請求項2〜14の何れか一項に記載の改質粘土鉱物粉末。
【請求項16】
前記アルカリ土類金属として、カルシウムまたはマグネシウムが使用されている請求項15記載の改質粘土鉱物粉末。
【請求項17】
前記粘土鉱物粉末(12)として、天然または合成の雲母、タルクあるいはカオリナイトの粉末が、1種類または2種類以上使用されている請求項1〜16の何れか一項に記載の改質粘土鉱物粉末。
【請求項18】
前記天然の雲母として、白雲母、黒雲母、金雲母または絹雲母が、1種類または2種類以上使用されている請求項17記載の改質粘土鉱物粉末。
【請求項19】
前記粘土鉱物粉末(12)として、該粘土鉱物粉末(12)の原鉱石を破砕したフィルム状またはフレーク状の物質が使用されている請求項1〜18の何れか一項に記載の改質粘土鉱物粉末。
【請求項20】
前記原鉱石の粉砕は、乾式または湿式によって実施されている請求項19記載の改質粘土鉱物粉末。
【請求項21】
粘土鉱物粉末(12)およびアルカリ剤(20)の混合体(16)を加熱することで、該粘土鉱物粉末(12)の表面領域を多孔性のゲル化領域(14)に改質させるようにした
ことを特徴とする改質粘土鉱物粉末の製造方法。
【請求項22】
前記加熱後の混合体(16)を洗浄することで、前記アルカリ剤(20)を除去するようにした請求項21記載の改質粘土鉱物粉末の製造方法。
【請求項23】
前記加熱後の混合体(16)を酸性溶液によって洗浄することで、前記ゲル化領域(14)およびアルカリ剤(20)を除去して、加熱前に比較して表面の比表面積を1.5倍以上とした請求項21記載の改質粘土鉱物粉末の製造方法。
【請求項24】
前記アルカリ剤(20)の除去に続いて、分散剤および/または緩衝剤を添加する後処理を実施するようにした請求項22または23記載の改質粘土鉱物粉末の製造方法。
【請求項25】
前記分散剤として、ヘキサメタリン酸ナトリウムまたはテトラポリリン酸ナトリウムを使用するようにした請求項24記載の改質粘土鉱物粉末の製造方法。
【請求項26】
前記緩衝剤として、リン酸系化合物を使用するようにした請求項24記載の改質粘土鉱物粉末の製造方法。
【請求項27】
前記混合体(16)は、550〜1300℃の範囲で加熱される請求項21〜26の何れか一項に記載の改質粘土鉱物粉末の製造方法。
【請求項28】
前記アルカリ剤(20)は、粘土鉱物粉末(12)およびアルカリ剤(20)の全体を100重量部とした場合に、5〜30重量部の範囲になるように混合される請求項21〜27の何れか一項に記載の改質粘土鉱物粉末の製造方法。
【請求項29】
前記アルカリ剤(20)として、アルカリ金属の水酸化物あるいは炭酸塩または炭酸水素塩を使用するようにした請求項21〜28の何れか一項に記載の改質粘土鉱物粉末の製造方法。
【請求項30】
前記アルカリ金属として、ナトリウム、カリウムまたはリチウムを使用するようにした請求項29記載の改質粘土鉱物粉末の製造方法。
【請求項31】
前記混合体(16)は、水の存在下に前記粘土鉱物粉末(12)およびアルカリ剤(20)を混練して乾燥させた後に加熱するようにした請求項21〜30の何れか一項に記載の改質粘土鉱物粉末の製造方法。
【請求項32】
前記混合体(16)の混練時には、100重量部の混合体(16)に対して、70〜150重量部の水が使用される請求項31記載の改質粘土鉱物粉末の製造方法。
【請求項33】
前記アルカリ剤(20)に、アルカリ土類金属の塩、酸化物または水酸化物を含有するようにした請求項21〜32の何れか一項に記載の改質粘土鉱物粉末の製造方法。
【請求項34】
前記アルカリ土類金属として、カルシウムまたはマグネシウムを使用するようにした請求項33記載の改質粘土鉱物粉末の製造方法。
【請求項35】
前記粘土鉱物粉末(12)として、天然または合成の雲母、タルクあるいはカオリナイトの粉末を、1種類または2種類以上使用するようにした請求項21〜34の何れか一項に記載の改質粘土鉱物粉末の製造方法。
【請求項36】
前記天然の雲母として、白雲母、黒雲母、金雲母または絹雲母を、1種類または2種類以上使用するようにした請求項35記載の改質粘土鉱物粉末の製造方法。
【請求項37】
前記粘土鉱物粉末(12)として、該粘土鉱物粉末(12)の原鉱石を破砕したフィルム状またはフレーク状の物質を使用するようにした請求項21〜36の何れか一項に記載の改質粘土鉱物粉末の製造方法。
【請求項38】
前記原鉱石は、乾式または湿式によって粉砕するようにした請求項37記載の改質粘土鉱物粉末の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2009−84132(P2009−84132A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−259160(P2007−259160)
【出願日】平成19年10月2日(2007.10.2)
【出願人】(598031095)株式会社 山口雲母工業所 (7)
【Fターム(参考)】