説明

改質電解質及びその製造方法、並びに、改質剤

【課題】低EWであり、高いプロトン伝導度を発現させることが可能であり、かつ、溶媒に対する高い可溶性を備え、触媒層アイオノマへの応用が可能な改質電解質及びその製造方法、並びに、改質剤を提供すること。
【解決手段】スルホンアミド基を備えたスルホンアミドポリマと、一般式:X−[(SO2)(CF2)nSO2NH]a−SO24(但し、Xはハロゲン、nは1以上の整数、aは1以上の整数、R4はOH、又は、パーフルオロカーボン基)で表される改質剤とを反応させ、スルホンアミドポリマと改質剤とをスルホニルイミド基(−SO2NHSO2−)を介して結合させる反応工程を備えた改質電解質の製造方法、及び、このような方法により得られる改質電解質。このような改質電解質の製造に用いられる改質剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質電解質及びその製造方法、並びに、改質剤に関し、さらに詳しくは、低EWであり、溶媒に対する高い可溶性を備えた改質電解質及びその製造方法、並びに、このような改質電解質の製造に用いられる改質剤に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型燃料電池は、固体高分子電解質膜の両面に電極が接合された膜電極接合体(MEA)を基本単位とする。また、固体高分子型燃料電池において、電極は、一般に、拡散層と触媒層の二層構造をとる。拡散層は、触媒層に反応ガス及び電子を供給するためのものであり、カーボンペーパー、カーボンクロス等が用いられる。また、触媒層は、電極反応の反応場となる部分であり、一般に、白金等の電極触媒を担持したカーボンと固体高分子電解質(触媒層アイオノマ)との複合体からなる。
【0003】
このようなMEAを構成する電解質膜あるいは触媒層アイオノマには、耐酸化性に優れた炭化フッ素系電解質(例えば、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成(株)製)、フレミオン(登録商標、旭硝子(株)製)等。)を用いるのが一般的である。また、炭化フッ素系電解質は、耐酸化性に優れるが、一般に極めて高価である。そのため、固体高分子型燃料電池の低コスト化を図るために、炭化水素系電解質の使用も検討されている。
【0004】
しかしながら、固体高分子型燃料電池を車載用動力源等として用いるためには、解決すべき課題が残されている。例えば、固体高分子型燃料電池において、高い性能を得るためには、電池の作動温度は高い方が好ましく、そのためには、電解質膜の耐熱性が高いことがこのましい。しかしながら、従来のフッ素系電解質膜は、高温における機械的強度が低いという問題がある。
また、燃料電池を高温低加湿又は無加湿で運転することが近年重要視されている。そのような条件下でも高いプロトン伝導性を発現させるためには、高イオン交換容量を有する電解質が必要である。しかしながら、高イオン交換容量を有する電解質は、高い含水率を有するために膜の膨潤変化が大きい。そのため、膜形状を維持できない場合や、水に溶解する場合がある。この高い伝導度と高い含水率というトレードオフをいかに克服するかが大きな課題となっている。
【0005】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、両末端スルホニルフロライドをアミド化処理したナフィオン(登録商標)に作用させ、架橋反応させる方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、スルホンアミド化されたナフィオン(登録商標)とFO2S−CF2−CF2−CF2−Iとを反応させ、−I基を−SO2OH基に変換する電解質の製造方法が開示されている。
同文献には、このような方法によって、強度を担う主鎖部分の結晶性を低下させることなく、電気伝導度を高めることができる点が記載されている。
【0007】
また、特許文献3には、CF2=CFOCF2CF2SO2N(CF2CH3)SO2CF3と、テトラフルオロエチレンとを共重合させることにより得られる重合体が開示されている。
同文献には、このようにして得られた重合体のEWが710〜1300g/molである点が記載されている。
【0008】
また、特許文献4には、電解質ではないが、活性光線又は放射線の照射により、HO3S(CF2)2SO2F、CF3SO2NHSO2(CF2)2SO2Fなどの化合物を発生させることが可能な化合物(例えば、これらのスルホニウム化合物、ヨードニウム化合物など)が開示されている。
【0009】
さらに、特許文献5には、酸無水物と無機塩とを反応させ、スルホンハロゲンとスルホン酸塩を同時に持つ化合物を合成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許出願公開公報US6670424号
【特許文献2】特開2002−324559号公報
【特許文献3】特開2005−248104号公報
【特許文献4】特開2007−3619号公報
【特許文献5】欧州特許公開公報EP0280392号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
燃料電池を高温低加湿又は無加湿で運転することが近年重要視されている。そのような条件下でも高いプロトン伝導度を発現させるためには、電解質膜だけでなく、電解質アイオノマもまた高いイオン交換容量を有している必要がある。
しかしながら、側鎖にスルホン酸基を持つ電解質をスルホンアミド化し、スルホンアミド化された電解質と両末端にスルホニルハライド基を備えた化合物とを反応させると、側鎖にスルホンイミド基が導入されるだけでなく、ポリマ同士の架橋反応も起こる。そのため、得られた電解質の溶媒への溶解度は、元の電解質に比べて低下する。また、溶解度の低下が著しい場合には、電解質が均一に溶解又は分散している溶液を作ることができない。そのため、このような電解質を触媒層アイオノマに応用するのは困難である。
【0012】
一方、特許文献2に開示されているように、スルホンアミド化された電解質とFO2S−CF2−CF2−CF2−Iとを反応させると、実質的にポリマ間を架橋させることなく、側鎖にスルホンイミド基を導入することができる。しかしながら、この方法は、複数段階の反応を減るため、工程が煩雑となる。
さらに、カソード側の電極反応を促進させるためには、触媒層アイオノマで覆われた触媒に酸素及びプロトンを効率よく供給する必要がある。そのためには、カソード側の触媒層アイオノマは、酸素透過性及びプロトン伝導性に優れている必要がある。しかしながら、酸素透過性及びプロトン伝導性を高度に両立させた電解質が提案された例は、従来にはない。
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、低EWであり、高いプロトン伝導度を発現させることが可能であり、かつ、溶媒に対する高い可溶性を備え、触媒層アイオノマへの応用が可能な改質電解質及びその製造方法を提供することにある。
本発明が解決しようとする他の課題は、工程を煩雑化させることなく、低EWで、かつ、溶媒に対する高い可溶性を備えた改質電解質及びその製造方法を提供することにある。
さらに、本発明が解決しようとする他の課題は、高プロトン伝導性に加えて、酸素透過性に優れた改質電解質及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために本発明に係る改質電解質は、(1.1)式〜(1.3)式で表されるいずれかの構造を備えていることを要旨とする。
【0015】
【化1】

【0016】
【化2】

【0017】
【化3】

【0018】
本発明に係る改質電解質の製造方法は、
スルホンアミドポリマと、(3.1)〜(3.4)式で表されるいずれか1以上の改質剤とを反応させ、前記スルホンアミドポリマと前記改質剤とをスルホニルイミド基(−SO2NHSO2−)を介して結合させる反応工程
を備えている。
【0019】
X−[O2S(CF2)nSO2NH]a−SO24 ・・・(3.1)
但し、Xは、ハロゲン
nは、1以上の整数で、繰り返し単位の中で任意に選択することができる
aは、1以上の整数
4は、OH、又は、パーフルオロカーボン基
【0020】
X−[O2S(CF2)nSO2NH]a−SO25 ・・・(3.2)
但し、Xは、ハロゲン
nは、1以上の整数で、繰り返し単位の中で任意に選択することができる
aは、1以上の整数
5は、芳香族基
【0021】
XO2S−(CF2)n−SO26 ・・・(3.3)
但し、Xは、ハロゲン
nは、1以上の整数
6は、OH、OM(Mはアルカリ金属)、パーフルオロカーボン基、又は、芳香族基
【0022】
【化4】

【0023】
前記スルホンアミドポリマは、(2)式で表される構造を備えているものが好ましい。
【0024】
【化5】

【0025】
さらに、本発明に係る改質剤は、(3.1)式で表される構造を備えていることを要旨とする。
X−[O2S(CF2)nSO2NH]a−SO24 ・・・(3.1)
但し、Xは、ハロゲン
nは、1以上の整数で、繰り返し単位の中で任意に選択することができる
aは、1以上の整数
4は、OH、又は、パーフルオロカーボン基
【発明の効果】
【0026】
(3.1)〜(3.3)式で表される改質剤は、1個のスルホニルハライド基を備え、−I基を備えていない。また、(3.4)式で表される改質剤は、スルホンアミドポリマとの反応過程で(3.3)式で表される改質剤又はその誘導体を生成すると考えられる。そのため、これらのいずれかとスルホンアミドポリマとを反応させると、側鎖に容易にスルホンイミド基を導入することができる。両端がパーフルオロアルキル基で挟まれたスルホンイミド基は、強酸基として機能するので、スルホンイミド基の導入により、元のポリマに比べてEWが低下する。また、改質剤との反応時に、ポリマ間に架橋構造が導入されることがない。さらに、(3.1)〜(3.4)式で表される改質剤は、−I基を持たないので、製造工程を煩雑化させることもない。
さらに、末端が疎水基(特に、親水基を持たないパーフルオロカーボン基)である改質剤を用いて改質すると、高いプロトン伝導性を示し、かつ、高い酸素透過度を示す改質電解質が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例1で得られた改質電解質の19F NMRスペクトルである。
【図2】実施例2で得られた改質電解質の19F NMRスペクトルである。
【図3】実施例5〜7で得られた改質電解質膜及び比較例2の電解質膜の末端炭素数と酸素透過度との関係を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 改質電解質(1)]
本発明の第1の実施の形態に係る改質電解質は、(1.1)式で表される構造を備えている。
【0029】
【化6】

【0030】
Pは、パーフルオロアルキル鎖又は炭化水素鎖を表す。Qは、パーフルオロアルキル鎖、炭化水素鎖又は直接結合を表す。
「パーフルオロアルキル鎖」とは、C−F結合を含み、かつ、C−H結合を含まない鎖状構造をいう。パーフルオロアルキル鎖は、C−F結合に加えて、エーテル結合(−O−)、スルホニル結合(−SO2−)などを含んでいても良い。パーフルオロアルキル鎖は、直鎖状であっても良く、あるいは、分枝構造を備えていても良い。
「炭化水素鎖」とは、C−H結合を含む鎖状構造をいう。炭化水素鎖は、C−H結合に加えて、C−F結合、エーテル結合(−O−)、スルホニル結合(−SO2−)などを含んでいても良い。炭化水素鎖は、直鎖状であっても良く、あるいは、分枝構造を備えていても良い。
【0031】
Pを構成するパーフルオロアルキル鎖としては、具体的には、
(1) −[CF2−CF2]x−[CF2−CF(−)]y−、
(2) −[CF2−CF2]x−[CF2−CF(CF3)]y−[CF2−CF(−)]z−、
などがある。
Pを構成する炭化水素鎖としては、具体的には、
(1) −[C64−SO2]x−(C63−)y−、
(2) −(C64−O)x−(C64−SO2)y−(C63−)z−、
(3) −[C64−C(CF3)2]x−(C63−)y−、
などがある。
【0032】
Qを構成するパーフルオロアルキル鎖としては、具体的には、
(1) −OCF2CF(CF3)−、
(2) −[OCF2CF(CF3)]l−O−、
(3) −O(CF2)2−、
などがある。
Qを構成する炭化水素鎖としては、具体的には、
(1) −C64−、
(2) −(SO2−C64)−、
などがある。
【0033】
Xは、水素又はフッ素を表す。
1個のCに結合している2個のXは、双方が水素又はフッ素であっても良く、あるいは一方が水素で他方がフッ素であっても良い。m≧2である場合、Xは、同一であっても良く、あるいは、繰り返し単位毎に異なっていても良い。
【0034】
mは、0以上の整数であり、−(CX2)−の繰り返し数を表す。
一般に、mが大きくなるほど、側鎖の疎水部が伸びるため、親水・疎水のモルフォロジ構造が取りやすくなる。mは、1以上が好ましい。
一方、mが大きくなりすぎると、分子量が増えるため、酸基密度低下によりプロトン伝導度が下がる。従って、mは、3以下が好ましい。
【0035】
nは、1以上の整数であり、−(CF2)−の繰り返し数を表す。
一般に、nが大きくなるほど、改質電解質の製造に用いられる改質剤の合成が容易となる。nは、2以上が好ましく、さらに好ましくは、3以上である。
一方、nが大きくなりすぎると、改質電解質が溶媒に溶けにくくなる。また、酸基同士の間隔が長くなるために分子量が増加し、酸基の増加の効果が少なくなる。従って、nは、4以下が好ましい。
a≧2である場合、繰り返し単位中に含まれるnは、同一であっても良く、あるいは、繰り返し単位毎に異なっていても良い。
【0036】
aは、1以上の整数であり、−[SO2(CF2)nSO2NH]−の繰り返し数を表す。
一般に、aが大きくなるほど、酸基の数が多くなり、プロトン伝導度が大きくなる。高いプロトン伝導度を得るためには、aは、2以上が好ましい。
一方、aが大きくなりすぎると、含水率が高くなり、膨潤が大きくなる。従って、aは、3以下が好ましい。
【0037】
1は、OH、又は、パーフルオロカーボン基を表す。
「パーフルオロカーボン基」とは、C−F結合を含み、かつ、C−H結合を含まない1価の基をいう。パーフルオロカーボン基は、C−F結合に加えて、各種の官能基(例えば、−CO2H、−PO32、−SO3Hなど)、エーテル結合(−O−)、スルホニル結合(−SO2−)などを含んでいても良い。さらに、パーフルオロカーボン基は、鎖式構造を備えていても良く、あるいは、脂環式構造を備えていても良い。
「鎖式構造を備えたパーフルオロカーボン基」とは、C−F結合を含み、C−H結合を含まず、かつ、環状構造を備えていない基を言う。鎖式構造は、直鎖状又は分岐状のいずれであっても良い。また、鎖式構造は、飽和結合(単結合)のみを備えていても良く、あるいは、これに代えて又はこれに加えて不飽和結合を備えていても良い。
「脂環式構造を備えたパーフルオロカーボン基」とは、C−F結合を含み、C−H結合を含まず、かつ、芳香環以外の環状構造を備えた基を言う。環状構造は、3員環以上であればよく、環内で架橋していても良い。
【0038】
1がパーフルオロカーボン基である場合、改質電解質は、いずれか1種のR1が含まれていても良く、あるいは、2種以上が含まれていても良い。
パーフルオロカーボン基R1としては、具体的には、以下のようなものがある。
(1)−(CF2)kCF3(kは0以上9以下の整数。例えば、−CF3、−(CF2)3CF3、−(CF2)7CF3など。)。
(2)−(CF2)kCF(CF3)2(kは0以上8以下の整数。例えば、−(CF2)2CF(CF3)2など。)。
(3)−Ck2k-1(脂環式構造:kは3以上10以下の整数。例えば、−C611など)。
(4)−(CF2)kOCF3(kは1以上10以下の整数。例えば、−(CF2)3OCF3など。)。
(5)−(CF2)kPO32(kは1以上10以下の整数。例えば、−(CF2)3PO32など。)。
(6)−(CF2)kCO2H(kは1以上10以下の整数。例えば、−(CF2)3CO2Hなど。)。
(7)−(CF2)kSO3H(kは1以上10以下の整数。例えば、−(CF2)3SO3Hなど。)。
【0039】
(1.1)式で表される改質電解質の中でも、特に、(1.1.1)〜(1.1.5)式で表されるものが好ましい。
【0040】
【化7】

【0041】
【化8】

【0042】
【化9】

【0043】
(1.1)式で表される改質電解質において、分子構造(特に、繰り返し単位数a)を最適化すると、EWを低くすることができる。具体的には、分子構造を最適化することによって、EWは、1000g/mol以下となる。高いプロトン伝導度を得るためには、EWは、さらに好ましくは、820g/mol以下、さらに好ましくは、740g/mol以下である。
また、(1.1)式で表される改質電解質において、分子構造を最適化すると、改質電解質の溶媒に対する溶解度を高く維持することができる。(1.1)式で表される電解質において、分子構造を最適化すると、溶解度は、1wt%以上となる。触媒層アイオノマへの応用を容易化するためには、溶解度は、2wt%以上が好ましく、さらに好ましくは、5wt%以上である。
ここで、本発明において、「溶解度」とは、改質電解質の重量濃度を言う。また、溶液中のポリマ微粒子の光散乱で測定される平均粒子径が10〜1000nmであることが好ましい。さらに好ましくは、10〜500nmである。
【0044】
また、(1.1)式で表される改質電解質の中でも、R1が疎水基(すなわち、スルホン酸基等の親水基を持たないパーフルオロカーボン基)であるものが好ましい。側鎖の末端にこれらの疎水基を設けると、改質電解質の酸素透過性が向上する。
高い酸素透過性を得るためには、R1の炭素数は、2以上が好ましい。R1の炭素数は、さらに好ましくは、3以上である。
一方、R1の炭素数が多くなりすぎると、一般溶媒に溶解しなくなるという問題がある。従って、R1の炭素数は、20以下が好ましい。R1の炭素数は、さらに好ましくは、10以下である。
例えば、R1が−(CF2)kCF3である場合、kは1以上9以下が好ましく、さらに好ましくは、3以上7以下である。
また、R1が−(CF2)kCF(CF3)2である場合、kは0以上8以下が好ましく、さらに好ましくは、2以上6以下である。
また、R1が−Ck2k-1である場合、kは3以上10以下が好ましく、さらに好ましくは、5以上8以下である。
【0045】
[2. 改質電解質(2)]
本発明の第2の実施の形態に係る改質電解質は、(1.2)式で表される構造を備えている。(1.2)式中、P、Q、X、m、n、及び,aは、それぞれ、(1.1)式と同様であるので説明を省略する。
【0046】
【化10】

【0047】
2は、芳香族基を表す。「芳香族基」とは、単環又は多環の芳香環を備えた1価の基をいう。芳香族基は、エーテル結合(−O−)、スルホニル結合(−SO2−)、スルホンイミド結合(−NHSO2−)、ポリフェニレン(−[C64]b−(b≧2))などを含んでいても良い。
芳香族基としては、具体的には、
(1)フェニル(−C65)、ナフチル(−C107)、アントラセン(−C149)、
(2)−(C64)n−C65(nは1以上の整数)、
(3)−(C64)n−(SO264)p−(C65)(n、pは1以上の整数)、
などがある。
【0048】
(1.2)式で表される改質電解質の中でも、特に、(1.2.1)式で表されるものが好ましい。
【0049】
【化11】

【0050】
(1.2)式で表される改質電解質において、分子構造(特に、繰り返し単位数a)を最適化すると、EWを低くすることができる。具体的には、分子構造を最適化することによって、EWは、1000g/mol以下となる。高いプロトン伝導度を得るためには、EWは、さらに好ましくは、820g/mol以下、さらに好ましくは、740g/mol以下である。
また、(1.2)式で表される改質電解質において、分子構造を最適化すると、改質電解質の溶媒に対する溶解度を高く維持することができる。(1.2)式で表される電解質において、分子構造を最適化すると、溶解度は、1wt%以上となる。触媒層アイオノマへの応用を容易化するためには、溶解度は、2wt%以上が好ましく、さらに好ましくは、5wt%以上である。
【0051】
[3. 改質電解質(3)]
本発明の第3の実施の形態に係る改質電解質は、(1.3)式で表される構造を備えている。(1.3)式中、P、Q、X、m及びnは、それぞれ、(1.1)式と同様であるので説明を省略する。
【0052】
【化12】

【0053】
3は、OH、パーフルオロカーボン基、又は、芳香族基を表す。パーフルオロカーボン基及び芳香族基は、それぞれ、(1.1)式及び(1.2)式中のパーフルオロカーボン基及び芳香族基と同様であるので説明を省略する。
【0054】
(1.3)式で表される改質電解質の中でも、特に、(1.3.1)式で表されるものが好ましい。
【0055】
【化13】

【0056】
(1.3)式で表される改質電解質において、分子構造を最適化すると、EWを低くすることができる。具体的には、分子構造を最適化することによって、EWは、1000g/mol以下となる。高いプロトン伝導度を得るためには、EWは、さらに好ましくは、820g/mol以下、さらに好ましくは、740g/mol以下である。
また、(1.3)式で表される改質電解質において、分子構造を最適化すると、改質電解質の溶媒に対する溶解度を高く維持することができる。(1.3)式で表される電解質において、分子構造を最適化すると、溶解度は、1wt%以上となる。触媒層アイオノマへの応用を容易化するためには、溶解度は、2wt%以上が好ましく、さらに好ましくは、5wt%以上である。
【0057】
また、(1.3)式で表される改質電解質の中でも、R3が疎水基であるものが好ましい。R3が疎水基である場合、改質電解質の酸素透過性が向上する。疎水基の詳細については、R1と同様であるので、説明を省略する。
【0058】
[4. 改質電解質の製造方法]
本発明に係る改質電解質の製造方法は、スルホンアミドポリマと、改質剤とを反応させる反応工程を備えている。
【0059】
[4.1. スルホンアミドポリマ]
スルホンアミドポリマとは、スルホンアミド基(−SO2NH2)を備えたポリマをいう。本発明において、スルホンアミドポリマの構造は特に限定されるものではなく、スルホンアミド基を備えたすべてのポリマに対して本発明を適用することができる。
これらの中でも、スルホンアミドポリマは、(2)式で表される構造を備えたポリマが好ましい。(2)式中のP、Q、X及びmについては、(1.1)式と同様であるので、説明を省略する。
【0060】
【化14】

【0061】
(2)式で表されるスルホンアミドポリマとしては、具体的には、
(1)パーフルオロカーボンスルホン酸ポリマのスルホン酸基をスルホンアミド基に変換したパーフルオロカーボンスルホンアミドポリマ、
(2)ポリエーテルエーテルケトンスルホン酸ポリマのスルホン酸基をスルホンアミド基に変換したポリエーテルエーテルケトンスルホンアミドポリマ、
などがある。
【0062】
[4.2. 改質剤]
「改質剤」とは、
(1)1個の反応点(すなわち、スルホニルハライド基)を持つ化合物、又は、
(2)1個の反応点を持つ化合物を生成可能な化合物
をいう。
改質剤としては、具体的には、以下のようなものがある。これらの改質剤は、いずれか1種を用いても良く、あるいは、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0063】
[4.2.1. 第1の具体例]
改質剤の第1の具体例は、(3.1)式で表される化合物からなる。
X−[O2S(CF2)nSO2NH]a−SO24 ・・・(3.1)
但し、Xは、ハロゲン
nは、1以上の整数で、繰り返し単位の中で任意に選択することができる
aは、1以上の整数
4は、OH、又は、パーフルオロカーボン基
(3.1)式中、n、a及びR4は、それぞれ、(1.1)式中のn、a及びR1と同様であるので説明を省略する。
【0064】
(3.1)式で表される改質剤の中でも、特に、
(1)F−[O2S(CF2)3SO2NH]a−SO3H(a≧1)、
(2)F−[O2S(CF2)3SO2NH]a−SO2CF3(a≧1)、
(3)F−[O2S(CF2)3SO2NH]a−SO2(CF2)3CF3(a≧1)、
(4)F−[O2S(CF2)3SO2NH]a−SO2(CF2)7CF3(a≧1)、
(5)F−[O2S(CF2)3SO2NH]a−SO2(CF2)2CF(CF3)2(a≧1)、
(6)F−[O2S(CF2)3SO2NH]a−SO2611(a≧1)、
などが好ましい。
【0065】
[4.2.2. 第2の具体例]
改質剤の第2の具体例は、(3.2)式で表される化合物からなる。
X−[O2S(CF2)nSO2NH]a−SO25 ・・・(3.2)
但し、Xは、ハロゲン
nは、1以上の整数
aは、1以上の整数
5は、芳香族基
(3.2)式中、n、a及びR5は、それぞれ、(1.2)式中のn、a及びR2と同様であるので説明を省略する。
【0066】
(3.2)式で表される改質剤の中でも、特に、
(1) F−[O2S(CF2)3SO2NH]a−SO265(a≧1)、
(2) F−[O2S(CF2)3SO2NH]a−SO2(C64)n65(a≧1)、
などが好ましい。
【0067】
[4.2.3. 第3の具体例]
改質剤の第3の具体例は、(3.3)式で表される化合物からなる。
XO2S−(CF2)n−SO26 ・・・(3.3)
但し、Xは、ハロゲン
nは、1以上の整数
6は、OH、OM(Mはアルカリ金属)、パーフルオロカーボン基、又は、芳香族基
【0068】
(3.3)式において、R6は、OH、パーフルオロカーボン基又は芳香族基に加えて、OM(Mはアルカリ金属)である場合がある。
6に関するその他の点、及び、(3.3)式中のnは、(3.1)式及び(3.2)と同様であるので詳細な説明を省略する。
【0069】
(3.3)式で表される改質剤の中でも、特に、FO2S−(CF2)3−SO3Hが好ましい。
【0070】
[4.2.4. 第4の具体例]
改質剤の第4の具体例は、(3.4)式で表される化合物からなる。
【0071】
【化15】

【0072】
(3.4)式で表される化合物は、環状無水スルホン酸化合物である。環状無水スルホン酸化合物とスルホンアミドポリマとを反応させると、環状無水スルホン酸化合物が開環し、開環した生成物の一端がスルホンアミド基と結合する。
nは、環状無水スルホン酸化合物に含まれるパーフルオロアルキル鎖の炭素数を表す。一般に、nが大きくなるほど、原料の分子量が増大し、取り扱いやすいという利点がある。従って、nは、2以上が好ましく、さらに好ましくは、3以上である。
一方、nが大きくなりすぎると、環状構造が不安定となる。そのため、分子間での脱水反応が優先し、モノマーとして単離するのが困難となる。従って、nは、4以下が好ましい。
【0073】
[4.3. 改質電解質の合成反応]
例えば、スルホンアミドポリマと(3.1)式〜(3.3)式で表される改質剤とを反応させると、縮合反応が起こり、スルホンアミドポリマと改質剤とがスルホニルイミド結合(−SO2NHSO2−)を介して結合する。この時、塩基存在下で縮合反応を行うと、縮合反応を促進させることができる。
塩基としては、具体的には、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、DBU(ジアザバイシクロウンデセン)、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA)などがある。
【0074】
(4.1)式に、スルホンアミドポリマと(3.1)式で表される改質剤(但し、X=F)との反応式を示す。
(4.2)式に、スルホンアミドポリマと、(3.3)式で表される改質剤(但し、X=F)との反応式を示す。
(4.3)式に、スルホンアミドポリマと(3.4)式で表される改質剤との反応式を示す。
【0075】
【化16】

【0076】
【化17】

【0077】
【化18】

【0078】
また、(3.4)式で表される化合物(環状無水スルホン酸化合物)とMX(Mはアルカリ金属、Xはハロゲン)とを反応させると、環状無水スルホン酸化合物が開環し、(3.3)式で表される改質剤(但し、R6=OM)が生成する。次いで、得られた改質剤とスルホンアミドポリマとを反応させると、縮合反応により両者が結合する。
(4.4)式に、これらの反応の反応式を示す。
【0079】
【化19】

【0080】
縮合反応後、NaOH水溶液又はNaOH水溶液とアルコール(例えば、エタノール)との混合溶媒で洗浄する。塩基共存下でスルホンアミドポリマと改質剤とを反応させると、ポリマの酸基と塩基とが結合し、塩になっていると考えられる。NaOHによる洗浄は、塩基塩をNa塩に変換するために行われる。
洗浄後、H22及びHNO3で処理する。H22処理は、残留有機分を除去するために行われる。残留有機分は、Pt等の被毒物質となる。また、HNO3処理は、Na塩を酸体にするために行われる。
【0081】
[4.4. 反応条件]
スルホンアミドと改質剤とを縮合反応させる場合、反応温度は、80℃未満が好ましい。反応温度が高すぎると、反応が複雑となり、分解物が生成する。
【0082】
[5. 改質剤の製造方法]
[5.1. 改質剤の合成反応]
上述した改質剤は、市販されているか、あるいは、市販されている類似の分子構造を備えた化合物を出発原料に用いて、公知の反応により製造することができる。
例えば、FO2S(CF2)nSO3H(CnSF、nは1以上の整数)は、FO2S(CF2)nSO2F(CnF、nは1以上の整数)に対して所定量の水と塩基(例えば、DIPEA)とを加え、これらを反応させることにより製造することができる。
また、XO2S(CF2)nSO3M(Xはハロゲン、Mはアルカリ金属、nは1以上の整数)は、(3.4)式で表される環状無水スルホン酸化合物とMX(Mはアルカリ金属、Xはハロゲン)とを反応させることにより得られる。
【0083】
また、(3.1)式で表される改質剤は、
(1)(5.1.1)式に示すように、スルホニルハライドモノマとスルホニルアミドモノマとを(k+1):kのモル比で反応させ、
(2)(5.1.2)式に示すように、H−R7を用いて、得られたオリゴマの片方の末端のみ官能基変換を施す、
ことにより得られる。
この時、炭素数nが同一であるスルホニルハライドモノマ及びスルホニルアミドモノマを出発原料に用いると、繰り返し単位中に含まれるnが同一である改質剤が得られる。一方、炭素数nが異なるスルホニルハライドモノマ及び/又はスルホニルアミドモノマを出発原料に用いると、繰り返し単位毎にnが異なる改質剤が得られる。
【0084】
【化20】

【0085】
例えば、(5.1.2)式において、H−R7として、H2Oを用いると、次の(3.1.1)式で表される改質剤が得られる。
FO2S(CF2)n−[SO2NHSO2(CF2)n]2k−SO3
≡F−[O2S(CF2)nSO2NH]2k−SO2(CF2)nSO3H ・・(3.1.1)
【0086】
あるいは、まず、CnSFと塩基(例えば、アンモニア、LiNTMS2など)からH2NO2S(CF2)nSO3H(CnSA、nは1以上の整数)を合成する。次の(5.2)式に、CnSAの合成反応の一例を示す。
FO2S(CF2)nSO3H+LiNTMS2→H2NO2S(CF2)nSO3
・・(5.2)
次いで、(5.1.2)式において、H−R7に代えてCnSAを用いると、次の(3.1.2)式で表される改質剤が得られる。
FO2S(CF2)n−[SO2NHSO2(CF2)n]2k−SO2NHSO2(CF2)nSO3
≡F−[O2S(CF2)nSO2NH]2k+1−SO2(CF2)nSO3H ・・(3.1.2)
【0087】
(3.1)式で表される改質剤で、R4が−(CF2)nPO3Hであるものは、−(CF2)n−PO(OMe)2を酸処理することにより製造することができる。
(3.1)式で表される改質剤で、R4が−(CF2)nCO2Hであるものは、−(CF2)n−COFを加水分解することにより製造することができる。
(3.1)式で表される改質剤で、R4が−(CF2)nOCF3であるものは、−(CH2)n−OCH3を電解フッ素化することにより製造することができる。
(3.2)式で表される改質剤は、FO2S(CF2)nSO2FとH2NSO265とを反応させることにより製造することができる。
その他の改質剤についても、上述した方法と同様の方法により製造することができる。
【0088】
[5.2. 反応条件]
C3Fのような両末端がスルホニルハライド基である出発原料の片方の末端のみをスルホン酸基に変換する場合、出発原料:1当量に対して、塩基(例えば、DIPEA):2当量と反応物(例えば、水):1当量を加える。塩基を添加することによって目的とする改質剤が得られるのは、塩基が反応により生成した改質剤の酸基部分を中和し、反応性を下げる(安定性を上げる)ためと考えられる。
この時の反応温度は、80℃未満が好ましい。反応温度が高すぎると、反応が複雑となり、分解物が生成する。そのため、生成した改質剤を分離するのが困難となる。反応温度は、好ましくは、0℃〜室温である。
【0089】
[6. 改質電解質及びその製造方法、並びに、改質剤の作用]
(3.1)〜(3.3)式で表される改質剤は、1個のスルホニルハライド基を備え、−I基を備えていない。また、(3.4)式で表される改質剤は、スルホンアミドポリマとの反応過程で(3.3)式で表される改質剤又はその誘導体を生成すると考えられる。
そのため、これらのいずれかとスルホンアミドポリマとを反応させると、側鎖に容易にスルホンイミド基を導入することができる。両端がパーフルオロアルキル基で挟まれたスルホンイミド基は、強酸基として機能するので、スルホンイミド基の導入により、元のポリマに比べてEWが低下する。また、改質剤との反応時に、ポリマ間に架橋構造が導入されることがない。さらに、(3.1)〜(3.4)式で表される改質剤は、−I基を持たないので、製造工程を煩雑化させることもない。
【0090】
本発明に係る改質電解質の製造方法は、ポリマの改質により低EW化が可能であり、スルホンアミド基を有するポリマ全般に対して適用できる。また、ポリマ間に化学架橋が起こらないので、元ポリマの物性をほとんど損なうことがない。そのため、本発明に係る方法により得られる改質電解質は、溶媒に溶解させることができ、触媒層アイオノマとしての利用も可能となる。本発明に係る改質電解質は、高伝導性であり低抵抗となることから、従来の電解質(例えば、ナフィオン(登録商標))を利用した燃料電池よりも高温低加湿条件化で作動できる可能性がある。
さらに、スルホンアミドポリマの2官能化改質時に、末端に疎水基(特に、親水基を持たないパーフルオロカーボン基)を導入すると、高プロトン伝導性と高酸素透過性を同時に達成することができる。酸素は、ポリマと水の界面付近を拡散していることから、疎水基が酸素透過性を高めていると考えられる。このような改質電解質をMEAのカソード側の触媒層アイオノマとして用いると、従来のMEAに比べて高温低加湿条件下で高い性能を示す。これは、低湿度下でもプロトンと酸素が触媒に十分供給されるためと考えられる。さらに、改質には、従来ポリマの転用が可能であるため、新たに多段階の合成ルートを経る必要がなく、製造コストを下げることができる。
【実施例】
【0091】
(実施例1)
[1. 試料の作製]
アセトニトリル中、0℃で、FO2S(CF2)3SO2F(C3F):30gとDIPEA(33mL)に対し、水を1当量加えることにより、FO2S(CF2)3SO3H(C3SF)を生成させた(19F NMRスペクトルで確認)。
これに、側鎖をスルホンアミド化したナフィオン(登録商標)(10g)とDIPEA(33mL)を加えて80℃で2週間反応させた。溶媒を除いたのちに、NaOH水溶液/EtOH混合溶媒で洗浄し、H22及びHNO3で処理することで、同じ側鎖にスルホンイミド基とスルホン酸基の2つを同時に持つポリマ(12g)を得た。(6.1)式に、合成反応式を示す。
【0092】
【化21】

【0093】
[2. 評価]
得られたポリマ(改質電解質)の構造を19F NMRスペクトル及びIRスペクトルで確認した。図1に、得られたポリマの19F NMRスペクトルを示す。図1より、目的とする化合物が得られていることがわかる。
得られた改質電解質は、エタノールと水の混合溶媒(重量比1:1)でオートクレーブ処理することで溶液化が可能であり、触媒インクの作製が可能であった。また、これを触媒層として用いたMEAを作製し燃料電池評価を行ったところ、発電可能であることを確認した。
【0094】
(実施例2)
[1. 試料の作製]
C3F(1.4g)に対し、CF3SO2NH2(0.47g)を作用させ、片側をトリフルオロメチル化した。これと、側鎖をスルホンアミド化したナフィオン(登録商標)(0.70g)とをアセトニトリル中で反応させることで、同じ側鎖にスルホンイミド基を2つ持つポリマ(1.0g)を得た。(6.2)式に合成反応式を示す。
【0095】
【化22】

【0096】
[2. 評価]
得られたポリマ(改質電解質)の構造を19F NMRスペクトル及びIRスペクトルで確認した。図2に、得られたポリマの19F NMRスペクトルを示す。図2より、目的とする化合物が得られていることがわかる。
【0097】
(実施例3)
[1. 試料の作製]
[1.1. 改質剤の作製]
アセトニトリル中、C3F:22.5gとC3A:11.0gとを混合(モル比で(k+1):kに相当)し、0℃で塩基(DIPEA)と反応させることで両末端がSO2Fであるポリスルホンイミドを得た。得られたポリスルホンイミドに塩基(DIPEA)(18.5g)と1当量の水を加え、ポリスルホンイミドの片側のみスルホン酸基に変換した。(6.3)式に、合成反応式を示す。
【0098】
【化23】

【0099】
[1.2. 改質電解質の作製]
[1.1.]で得られた改質剤を用いた以外は、実施例1と同様にして、改質電解質を作製した。
[2. 評価]
19F NMRスペクトル及びIRスペクトルにより、目的とする改質電解質が得られていることを確認した。
【0100】
(比較例1)
アセトニトリル中でC3FとC3Aとを2:1で混合し、塩基(DIPEA)を加えて80℃で加熱した。反応温度が高いために分解物が生成し、目的物を分離することができなかった。
【0101】
(実施例4)
[1. 試料の作製]
環状無水スルホン酸(n=3)とポリスルホンアミドポリマとを塩基共存下で反応させることで、側鎖にスルホンイミド基とスルホン酸基とを持つ化合物を合成した。(6.4)式に、合成反応式を示す。
【0102】
【化24】

【0103】
[2. 評価]
IRスペクトルにより、目的とする改質電解質が得られていることを確認した。
【0104】
(実施例5〜7、比較例2)
[1. 試料の作製]
改質剤:FSO2(CF2)3SO2NHSO24(R4=−(CF2)3CF3、−CF3、又は、−OH)を用いてナフィオン(登録商標)の改質を行い、末端にパーフルオロブチル基(実施例5)、トリフルオロメチル基(実施例6)、又は、スルホン酸基(実施例7)を導入した。これらの改質電解質にエタノールと水の混合溶媒を加え、200℃でオートクレーブ処理した。その後、溶液のホモジナイザ処理を行った。この溶液からキャスト膜を作製した。キャスト膜を140℃で乾燥後、1N NaOH水溶液、H22水溶液、及び、1N HNO3水溶液でそれぞれ洗浄した。
比較として、市販のナフィオン(登録商標)膜(比較例2)も試験に用いた。
【0105】
[2. 試験方法]
[2.1. 当量重量EW及び含水率]
洗浄した膜の当量重量EW及び含水率を測定した。当量重量EWの測定には、滴定法を用いた。また、含水率は、室温、水中で膜を24時間浸漬し、その時の重量と60℃で乾燥させた時の重量の差を乾燥重量で割ることで求めた。
含水率(%)=(含水重量−乾燥重量)×100/乾燥重量
[2.2. プロトン伝導度]
洗浄した膜のプロトン伝導度(25℃)を測定した。プロトン伝導度の測定には、交流2端子法を用いた。
[2.3. 酸素透過度]
洗浄した膜の酸素透過度(80℃)を測定した。酸素透過度の測定には、微小電極を用いたポテンシャルステップ法を用いた。
【0106】
[3. 結果]
表1に、当量重量EW、含水率、プロトン伝導度及び酸素透過度を示す。また、図3に、末端基R4(=R1)の炭素数(末端炭素数)と酸素透過度との関係を示す。
表1及び図3より、以下のことがわかる。
(1)末端にスルホン酸基を導入した改質電解質(実施例7)の場合、その酸素透過度は比較例2とほぼ同等であるが、そのプロトン伝導度は比較例2より向上する。
(2)末端に疎水基を導入した改質電解質(実施例5、6)の場合、そのプロトン伝導度は末端にスルホン酸基を導入した改質電解質(実施例7)より若干劣るが、その酸素透過度は実施例7より向上する。
(3)末端炭素数が多くなるほど、電解質の酸素透過度は向上する。
【0107】
【表1】

【0108】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明に係る改質電解質及びその製造方法は、固体高分子型燃料電池、水電解装置、ハロゲン化水素酸電解装置、食塩電解装置、酸素及び/又は水素濃縮器、湿度センサ、ガスセンサ等の各種電気化学デバイスに用いられる電解質膜や触媒層内電解質、及びその製造方法として使用することができる。
また、本発明に係る改質剤は、このような改質電解質を製造するための原料として用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1.1)式で表される構造を備えた改質電解質。
【化1】

【請求項2】
前記R1は、
−(CF2)kCF3(但し、kは1以上9以下の整数)、
−(CF2)kCF(CF3)2(但し、kは0以上8以下の整数)、又は、
−Ck2k-1(但し、kは3以上10以下の整数)
である請求項1に記載の改質電解質。
【請求項3】
(1.2)式で表される構造を備えた改質電解質。
【化2】

【請求項4】
(1.3)式で表される構造を備えた改質電解質。
【化3】

【請求項5】
前記R3は、
−(CF2)kCF3(但し、kは1以上9以下の整数)、
−(CF2)kCF(CF3)2(但し、kは0以上8以下の整数)、又は、
−Ck2k-1(但し、kは3以上10以下の整数)
である請求項4に記載の改質電解質。
【請求項6】
触媒層アイオノマとして用いられる請求項1から5までのいずれかに記載の改質電解質。
【請求項7】
スルホンアミドポリマと、(3.1)式〜(3.4)で表されるいずれか1以上の改質剤とを反応させ、前記スルホンアミドポリマと前記改質剤とをスルホニルイミド基(−SO2NHSO2−)を介して結合させる反応工程
を備えた改質電解質の製造方法。
X−[O2S(CF2)nSO2NH]a−SO24 ・・・(3.1)
但し、Xは、ハロゲン
nは、1以上の整数で、繰り返し単位の中で任意に選択することができる
aは、1以上の整数
4は、OH、又は、パーフルオロカーボン基
X−[O2S(CF2)nSO2NH]a−SO25 ・・・(3.2)
但し、Xは、ハロゲン
nは、1以上の整数で、繰り返し単位の中で任意に選択することができる
aは、1以上の整数
5は、芳香族基
XO2S−(CF2)n−SO26 ・・・(3.3)
但し、Xは、ハロゲン
nは、1以上の整数
6は、OH、OM(Mはアルカリ金属)、パーフルオロカーボン基、又は、芳香族基
【化4】

【請求項8】
前記スルホンアミドポリマは、(2)式で表される構造を備えている請求項7に記載の改質電解質の製造方法。
【化5】

【請求項9】
(3.1)式で表される構造を備えた改質剤。
X−[O2S(CF2)nSO2NH]a−SO24 ・・・(3.1)
但し、Xは、ハロゲン
nは、1以上の整数で、繰り返し単位の中で任意に選択することができる
aは、1以上の整数
4は、OH、又は、パーフルオロカーボン基

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−40363(P2011−40363A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−283472(P2009−283472)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】