説明

放射性モリブデンの製造方法及び装置

【課題】濃縮235Uを使用せず、高強度で半減期の長い燃料廃棄物を多量に発生させることなく、効率よく廉価に放射性モリブデンの安定供給ができる技術を提供する。
【解決手段】100Moをターゲット核として含む原料ターゲットに、加速器からの高速中性子を照射し、1個の中性子の照射により2個の中性子を放出する(n,2n)反応を起させ、99Moを生成させることを特徴とする。原料ターゲットのターゲット核として、原子炉内で235Uの核分裂反応で生成された廃棄物100Moを用いることが生成効率をより一層向上させる観点から好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性診断薬である放射性テクネチウム99mTcの親核種である放射性モリブデン99Moを、核燃料物質ウランを使用せず、高強度で半減期の長い広範囲の同位元素から成る(例えばストロンチウム90からセシウム137)放射性廃棄物を多量に発生することなく効率良く廉価に生成し安定供給を可能にする製造方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、医療の分野で放射線やラジオアイソトープ(以下、RIと称する)は、病気の診断、治療に欠かすことができないものとなっている。RIから放出される放射線は、物質自体はごく微量であっても確実に検出・定量することができ、この性質を利用してシンチグラフィによる検査、診断が行われている。これに用いる医薬品はいわゆる「放射性医薬品」と呼ばれており、放射性医薬品等に用いられるRIには半減期が短く、放射線の透過力の大きいガンマ線を出すものが適している。
【0003】
放射性医薬品等に使用されるRIとその使用例を例示すると、例えば、99mTcは脳・甲状腺・骨シンチグラフィ、67Gaは乳ガン・肺ガン・悪性リンパ腫治療、201Tlは甲状腺腫瘍シンチレータ、60Coはガンマナイフ用線源、32Pは白血病治療、35SはDNA塩基配列・遺伝子染色体配置決定、51Crは循環血液量・循環赤血球量測定、59Feは血清中総鉄結合能(TIBC)測定、89Sr、153mSm、186Reは疼痛緩和薬、90Yは悪性リンパ腫治療、103Pdは前立腺ガン治療、125Iは腫瘍マーカー、131Iは甲状腺機能亢進症・甲状腺ガン治療、133Xeは局所肺換気機能検査、等である。
【0004】
これらのRIの中で核医学診断全体の80%以上で利用されている99mTcは、現在、235Uを36%〜93%程度濃縮した高濃縮235Uを原料として、それを原子炉で中性子照射して核分裂反応させ、その核分裂生成物の中から99mTcの親核種である99Moを抽出することにより製造されている。この濃縮235Uを用いる方法は、特に核不拡散の観点から問題があり国際原子力機関(IAEA)等では235U濃縮度が20%以下の低濃縮235Uを用いる技術に切替えるための働きかけを世界各国で行っており、それに対応した技術開発が世界中で進められている。しかし、30年に及ぶ働きかけにもかかわらず世界のほとんどの99Moは未だ高濃縮235Uを使用して生成されている。一方、235U濃縮度を20%以下にした低濃縮235Uを99Mo製造用の原料に用いると、高濃縮235Uを用いた場合と同量の99Moを製造しようとすると5倍のウラン量を必要とし、従って廃棄物も5倍に増えると同時にプルトニウムの生成量が約25倍に増えてしまうという問題が新たに生じる。このため原子炉の熱中性子(0.025eV)を98Moターゲットに照射し、発生する99Moを抽出する方法も利用されている。またサイクロトロンからの荷電粒子を照射する方法も利用されている。
【0005】
また、RIの一部はわが国で製造されているが、その多くは海外からの輸入に頼っているのが実情である。平成19年にはカナダの原子炉のトラブルで放射性医薬品の入手が困難となり深刻な問題となった。平成20年8月には世界市場に約26%の99Moを供給しているオランダの原子炉が一次冷却系底部構造の一部腐食変形のため運転を停止、平成21年2月中旬に運転再開となった。ところが平成21年5月には再度カナダの原子炉で重水の漏れが発覚したため運転が休止しており、復旧は早くて平成22年3月末と考えられている。この様にRIのほとんどを他国からの輸入で頼っていると、他国の国内事情や原子炉の老朽化、メンテナンス、トラブル等により、安定した供給体制が維持できないことも予想され、RIの安定供給は重要かつ緊急な課題となってきている。とりわけ、わが国が大半のRIの輸入先として頼っているカナダにおいては、その供給のための原子炉が2011年に運転許可期限に達することが決まっており、それ以降については、世界的視点・長期的視点に立った現実的な計画は全く存在していない。米国や欧州においても99Mo等をはじめとするRIの安定供給が切望されているが、それに対応できる現実的体制はまだとられておらず、早急にその体制確立が必要となってきている(非特許文献1)。また、RIの大半を海外からの輸入に依存すると、医療等で使用されるRIの価格が高騰し、ひいては医療費全体の高騰の一因となってしまう。平成19年度では放射性医薬品の販売価格は440億円にも達している(非特許文献2:5ページ目)。
【0006】
また、原子炉で235Uを核分裂させた場合、図1(非特許文献3)に示すように所望のRI以外に様々な核種が生成され、必要でない生成核廃棄物の保存、管理、処理等が膨大になり且つ非常に煩わしいものとなっていた。
【0007】
このような問題を考慮し、本出願人らは、ウランを用いないで、放射性診断薬として非常によく利用されている放射性テクネチウム99mTcの親核種である放射性モリブデン99Moを効率的に製造する技術を提案した(特許文献1)。ここで提案した方法は、Mo化合物を水に溶解したMo水溶液を、原子炉の炉心に設置した照射キャプセル中で中性子を照射して98Mo(n,γ)反応によって99Moを生成させ、そのMo水溶液を連続的あるいはバッチ的に回収することによって効率的に99Moを製造しようというものである。同様に特許文献2には、98Moを用い、熱中性子捕獲反応で放射性モリブデン99Moを生成する技術が提案されている。しかしながら、これら熱中性子捕獲反応を用いるケースでは、原子炉を用いるためその製造場所が限定され、しかも原子炉の運転形態に大きく依存するのに加えて製造コストが高価となり、反応断面積が小さいため比放射能が低く、製造効率にも問題があった。また原子炉のメンテナンスにはその安全性等を考慮すると例えば定期点検等で半年の運転停止をしなければならないような事態も発生する。これらの事情から病院等の施設で99Moを簡便にかつ安定供給するためには、さらなる技術的工夫が必要であった。
【0008】
一方、加速器を用いて陽子や重イオンビームを原料ターゲットに照射し、RIを生成することも行われている。陽子の場合、使用される加速器をコンパクトにすることで病院等の施設で簡便に使用することができる。しかしながら、このような小型加速器から出射される陽子を用いてRIを生成する場合、軽い核種のRIにしか対応することができず、重い核種のRIに対応しようとすると加速器の大型化を避けることができないという問題があった。即ち、陽子を用いてRIを生成する場合、陽子は正の電荷を有しているため、重い核種(それはたくさんの正の電荷の陽子を持つ原子核であるが)のターゲット核と反応するには、正の電荷同士の反撥相互作用があるのでこれに打ち勝って、原子核内部にまで入り込まなければならない。そのためには、入射する陽子のエネルギーが十分高い必要がある。更に陽子はターゲット物質に入射すると標的内で陽子のエネルギーは大きく減少するため使用できる標的の厚さは限定され、結果として十分なRIを生成する効率が高くない場合が多い。一方、標的中でのエネルギー損失は標的の温度を上昇させる事になり、融点の高くないターゲットでは陽子ビームの使用強度が制限される場合もある。ところで陽子ビームは加速器により生成され真空パイプ中をターゲットがセットされる近傍場所まで輸送されてくる。しかるにターゲットを大気側にセットする際には、真空パイプ内の真空を保持して大気側部と遮断する必要がある。遮断に用いる物質は陽子ビームのエネルギーと強度を減少させてはいけないのでできるだけ薄い事が要請される。しかし、一方この物質は陽子ビームを絶えず照射され続けるので結果として放射線損傷で破壊され、高強度の陽子ビームを長時間使用することは困難になる。多様なRIを目的に応じ製造するには、ターゲット物質は大気中にセットできれば標的の形状、材質の選択が柔軟に行え、実際上は大変便利である。しかし、上記の如く陽子ビームを利用したRI生成は問題点を抱えている。これらの事情は重イオンビームの場合も似通っている。陽子よりも正の電荷が多い分より問題は大きい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−102078号公報
【特許文献2】特表2002−504231号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】”Accelerating production of medical isotopes” Nature Vol 457, 29 January 2009
【非特許文献2】日本学術会議 基礎医学委員会・総合工学委員会合同 放射性・放射能の利用に伴う課題検討分科会「提言:我が国における放射性同位元素の安定供給体制について」平成20年(2008年)7月24日
【非特許文献3】Nuclear Physics A462 (1987) 85-108 North-Holland, Amsterdam
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、以上のような従来技術の問題を解消し、濃縮235Uを使用せず、原子炉施設を利用せず、燃料廃棄物を多量に発生させることなく、効率よく廉価にかつ簡便に放射性モリブデンの安定供給を実現できる方法及び装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明は、以下の技術的手法ないし手段を提供する。
【0013】
〔1〕100Moを含むターゲットに、加速器からの高速中性子を照射し、1個の中性子の照射により2個の中性子を放出する(n,2n)反応を起させ、99Moを生成させることを特徴とする放射性モリブデンの製造方法。
【0014】
〔2〕上記第1の発明において、原料ターゲットのターゲット核として、原子炉内で235Uの核分裂反応で廃棄物として生成された100Moを用いることを特徴とする放射性モリブデンの製造方法。
【0015】
〔3〕上記第1又は2の発明において、原料ターゲットを加速器の高速中性子出射部に密着させた状態で又は離間させた状態で中性子を原料ターゲットに照射することを特徴とする放射性モリブデンの製造方法。
【0016】
〔4〕高速中性子を発生させる加速器と、100Moをターゲット核として含む原料ターゲットを支持するターゲット支持手段を備え、加速器からの高速中性子を原料ターゲットに照射し、1個の中性子の照射により2個の中性子を放出する(n,2n)反応を起させ、99Moを生成させることを特徴とする放射性モリブデンの製造装置。
【0017】
〔5〕上記第4の発明において、原料ターゲットのターゲット核が、原子炉内で235Uの核分裂反応で生成された廃棄物としての100Moであることを特徴とする放射性モリブデンの製造装置。
【0018】
〔6〕上記第4又は第5の発明において、原料ターゲットが、加速器の高速中性子出射部に密着させた状態又は離間させた状態でセットされていることを特徴とする放射性モリブデンの製造装置。
【0019】
〔7〕上記第4ないし6のいずれかの発明において、加速器の高速中性子出射部が冷却手段を備え、かつ該高速中性子照射部が真空室と大気側の隔壁機能を有し、かつ該高速中性子照射部に原料ターゲットが密着させた状態又は離間させた状態でセットされていることを特徴とする放射性同位元素の製造装置。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、加速器からの高速中性子を用い、(n,2n)反応を生じさせて放射性モリブデンを製造させるようにしたので、濃縮235Uを使用せず、原子炉施設を利用せず、高強度の半減期の長い燃料廃棄物を低減させて効率良く廉価に放射性モリブデンの安定供給が可能となる。
【0021】
また、天然Moの同位体組成比は100Moが9.6%であるのに対し原子炉燃料廃棄物Moの同位体組成比は約25.5%であるため、原料ターゲットのターゲット核として、原子炉内で235Uの核分裂反応で生成された100Moを用いることにより生成効率を向上させることができる。
【0022】
また、本発明による放射性モリブデンの製造装置は、核燃料物質の規制を受ける必要がなく、小型化できるため、病院等の施設において簡便に利用できる利点がある。
【0023】
さらに、本発明によれば、中性子を原料ターゲットに照射してRIを生成するため、正の電荷を持つ陽子ビームを標的に照射する場合に比べると中性子は電荷を持たないので、ターゲット内での電磁相互作用によるエネルギー損失そしてそれに伴うターゲットの発熱に煩わされる事が無く陽子ビームの場合などに比べ100倍程度以上の重量のターゲットを一度に照射する事が可能であり、RI生成量を高める事ができる。又ターゲットを大気中に配置することができるため、原料ターゲットの配置、材質の選択の自由度が大きくなる利点がある。これは多様な利用者に対して計り知れない利便性を齎すと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】原子炉で235Uの核分裂で生成される核種の生成量分布を示す図である。
【図2】100Moと高速中性子との反応断面積評価値を示すグラフである。
【図3】100Moに高速中性子を照射したとき、(n,2n)反応が起こり99Moが生成されるときの高速中性子と100Moの反応断面積との関係を示すグラフである。
【図4】本発明の一実施形態による放射性モリブデン製造装置を模式的に示す図である。
【図5】本発明の別の実施形態による放射性モリブデン製造装置の要部を模式的に示す図である。
【図6】本発明による99Moの製造手順を示すブロック図である。
【図7】加速器からの高速中性子を、ターゲット核100Moを含む原料ターゲットに照射することにより、99Moが生成されたことを示す図で、(a)が99Moのベータ崩壊に伴って放出される739keVガンマ線の測定データ、(b)が99Moのベータ崩壊により励起される99mTcの状態から放出される141keVガンマ線の測定データである。
【図8】(a)、(b)は、高速中性子を照射したモリブデン混入チタン酸ゲルをガラス管に入れ、それぞれ水と生理食塩水でミルキングし、得られた液を乾燥させ、99mTcのガンマ線強度の変化を測定した結果を示す図である。
【図9】(a)、(b)は、高速中性子を照射したモリブデン混入チタン酸ゲルをミルキングしビーカーにとり、それぞれ水と生理食塩水で洗浄し、上澄み液を乾燥させ、99mTcのガンマ線強度の変化を測定した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施形態に基づき詳細に説明する。
【0026】
本発明では、放射性診断薬である放射性テクネチウム(99mTc)の親核種である放射性モリブデン99Moを、100Moを含むターゲットに、加速器からの高速中性子を照射し、1個の中性子の照射により2個の中性子を放出する(n,2n)反応を起させることにより製造する。本発明において、高速中性子とは、0.1MeV以上のエネルギーを有する中性子のことを意味する。
【0027】
Moは、原子番号42の元素であり、天然Moの同位体組成比は表1のようになっている。
【0028】
【表1】

【0029】
上記表より、Mo(n,2n)反応が主であるとMo(n,2n)反応生成物はそのほとんどがターゲットのMoより中性子が1つ少ない天然に安定に存在するMoとなることがわかる。
【0030】
ここで100Moに着目してみる。100Moに高速中性子を照射すると、(n,2n)反応、(n,He)反応、(n,p)反応、(n,3n)反応、(n,np)反応、(n,n’γ)反応等の種々の反応が起きる。図2に、100Moに高速中性子を照射したときの中性子エネルギーと反応断面積の評価値をグラフで示す。図2より、100Moに14MeV程度の高速中性子を照射した場合、(n,2n)反応断面積が最大値に近く且他の反応よりも非常に大きな反応断面積を有することが分かる。
【0031】
また、図3に、100Moに高速中性子を照射したとき、(n,2n)反応が起こり99Moが生成されるときの高速中性子と100Moの反応断面積との関係を示す。図3から(n,2n)反応は中性子のエネルギーが8.5MeV付近から急に立ち上がり、9.5MeVあたりから25MeVあたりまで、非常に大きくかつほぼ一定の反応断面積を示すことがわかる。そして14MeV付近で(n、2n)反応断面積は最大値に近い値をとることがわかる。
【0032】
そこで、本発明では、放射性モリブデン99Moを、100Moを含むターゲットに、加速器からの高速中性子を照射し、1個の中性子の照射により2個の中性子を放出する(n,2n)反応を起させることにより製造する。この反応は次式で表される。
【0033】
100Mo+n → 99Mo+2n
上記のように、100Moから放射性モリブデン99Moを効率良く生成するためには、高速中性子のエネルギーは9.5〜25MeV、より好ましくは12〜17MeVの範囲である。高速中性子のエネルギーが9.5MeVより小さくなると、放射性モリブデン99Moの発生効率が急速に低下し、25MeVより多くなると(n,2n)反応以外の反応が次第に優位になり、やはり(n,2n)反応による放射性モリブデン99Moの発生効率が低下する。
【0034】
本発明では、99Moを製造するために、原子炉を利用しないで、小型加速器を用いて発生させた高速中性子を100Moに照射する。このようにすると、原子炉を使用する場合に比べ、多量の燃料廃棄物を生成させることなく、低放射能化を図ることができる。
また、原子炉の使用済み燃料廃棄物の100Moを原料ターゲット核として利用すると、99Moの生成効率がより一層向上するのみならず、原子炉の使用済み燃料廃棄物の有効利用ができる。
【0035】
高速中性子を発生させる小型加速器は、例えば市販の小型加速器を用いてもよいし、本出願人の設備である日本原子力研究開発機構核融合中性子工学用中性子源施設(FNS)のようなD−T中性子源等の施設を使用してもよい。
【0036】
中性子発生用加速器では、例えば重水素(H)ビームを3重水素(H)に照射して、次の反応で高速中性子をヘリウム(He)とともに生成することができる。
【0037】
H+H→He+n
この反応で生成される中性子エネルギー(En)は次の関係式で与えられる。
【0038】
4×En=Ed+2×{2×Ed×En}1/2×cosθ+3×Q
ここでEdは重水素エネルギー、Qは反応の発生エネルギーでQ=17.6MeVである。θは生成される中性子が入射重水素となす角度である。この式より、例えば0.35MeVの低エネルギー重水素を用いると14MeVの高速中性子が得られることが分かる。また、現在プロジェクト遂行中の国際核融合材料照射施設(IFMIF)では液体リチウム(Li)に重水素を照射して高強度の高速中性子を生成する。さらに、金属Liや金属ベリリウム(Be)に陽子又は重水素を照射しても高速中性子を発生させることができる。
【0039】
ここで、本発明による99Moの生成効率について検討してみる。原子炉で核分裂により生成される99Moの量(Y)は下記で与えられる。
【0040】
235U:濃縮度20%。熱中性子と235Uとの反応による核分裂断面積は585バーン。この内、99Moの生成比は6%(図1参照)。以上より、このUで生成される99Moの量=0.20×585×0.06=7バーンと与えられる。
【0041】
100Mo:天然存在比9.6%。高速中性子による99Mo生成反応断面積は1.5バーン。以上より、天然Moで生成される99Moの量=0.096×1.5=0.14バーンと与えられる。
【0042】
即ち、Y高速とYの比=Y高速/Y=0.14/7=0.02 式(1)
高速中性子による99Moの生成量は中性子量を除くと原子炉の場合の2%である。
【0043】
ところで中性子量については
原子炉の熱中性子量φ:日本原子力開発機構研究用原子炉施設JRR3の場合にはφ=1014個/(cm・秒)
式(2)
高速中性子の量φ高速:IFMIFの場合にはφ高速=1014個/(cm・秒)
式(3)
即ち高速中性子量の原子炉の量に対する比は:φ高速/φ=1 式(4)
となる。以上、中性子量を考慮すると、高速中性子利用による99Mo生成量と原子炉利用による99Mo生成量との比は次に与えられる。
【0044】
0.02×1=0.02 式(5)
ここで比較的容易に高濃度100Moが得られることを考えると(例えば100%濃縮とすると)式(5)の比は、式(1)と式(4)より、
0.02,9.6×100=0.21 式(6)
となる。即ち、本発明によれば、高速中性子を用い原子炉での生成量と十分比較できる量の99Moを生成できることがわかる。
一方、原子炉の使用済み燃料100Moを原料ターゲットにする場合は、濃縮度が天然の9.6%に比し高く25.5%である事から、式(5)の比は
0.02÷0.096×0.255=0.05 式(7)
となる。即ち、天然Moを利用する場合に比し2.5倍多くの99Moを製造できる。
【0045】
図4に、本発明の一実施形態に係る放射性モリブデン99Moの製造装置を模式的に示す。
【0046】
図において、1は高電圧電源、2は電源ケーブル、3は加速器ターミナル、4は加速管、5は重陽子輸送ライン、6は中性子発生部、7は冷却管、8冷却系、9はMoターゲット、10はターゲット支持枠あるいは試料容器、11はターゲット支持台、12は放射線遮蔽が施された99Mo収容容器である。図4の(a)と(b)はそれぞれ、Moターゲット9を中性子発生部6に密着させた状態と離間させた状態を示す。
【0047】
RIの生成効率は図4(a)のように、原料ターゲット9を高速中性子発生部6に密着させた場合が大きくなる。この場合、高速中性子発生部6と冷却管7の先端に例えばCu等からなる冷却部材を介して原料ターゲット9あるいはそれを収容する試料容器10を密着させる。この場合、高速中性子発生部6に設けられた冷却部材は、重陽子輸送ライン5の真空室と原料ターゲット9のある大気側との隔壁機能を有することとなる。また、場合によっては、図4(b)に示すように、原料ターゲット9を高速中性子発生部6から10mm程度までの距離離間させてもよく、この距離は限定的なものではない。
【0048】
高電圧電源1は、上記中性子生成反応で多量の中性子を生成するために、重水素ビームを0.35MeV程度のエネルギーとするための高電圧を出力する。電源ケーブル2は、高電圧電源1の高電圧を加速器ターミナル3に接する加速管4に印加するためのものである。高速中性子発生部6にはCu等の熱伝導性に優れた金属板上に、例えば3重水素を吸蔵させたチタン等の蒸着膜が設けられたものがセットされ、高速中性子発生部6は、上記中性子生成反応を起し、多量の中性子を生成する役割をする。冷却系8は、重水素ビームで照射される金属板中の3重水素が熱拡散するのを防ぐべく冷却管7により金属板を冷却する役割をする。冷却は水冷等により行う。金属板は固定式のものでもよく、回転式のものでもよい。
【0049】
本発明のMoターゲット9核として、天然の100Moあるいは原子炉の235Uの核分裂反応で生成された廃棄物としての100Moを用いることができる。また、Moターゲット9としては、天然の100Moあるいは100Moの天然存在比以上に濃縮した100Moを三酸化モリブデンMoO等のモリブデン酸化物粉末としたもの、あるいはこの粉末としたものを高密度に圧縮成型し、ペレット化したもの(かさ密度60%以上)を用いることができる(例えば、特開昭55−22102号公報)。また、濃縮した100Moを用いる場合、その前処理として電磁分離回収法等を施す必要がある。三酸化モリブデンMoOの粉末としたものを用いる場合には石英管に密封し、さらにアルミニウム系の金属製照射容器に密封封入する必要がある。三酸化モリブデンMoOの粉末をペレットにしたものを用いる場合には直接金属製照射容器に密封封入する。この金属製照射容器が試料容器10である。さらに、Mo金属もターゲットとして使用できる。ただし、この場合、Mo抽出に硝酸等による溶解が必要となる。さらにまた、本発明によれば、Moターゲット9として、チタン酸アルコキシド、ジルコニウム酸アルコキシドもしくはその混合物にモリブデンが100Moであるモリブデン酸水溶液を添加して調製したモリブデン酸混合のゲル体を用いることもできる。
【0050】
Moターゲット6としてペレット化したものを用いる場合、その寸法としては例えば直径10mm、厚み0.5mmのものを用いることができるが、もちろん、これは一例であってこれに限定されるものではなく、高速中性子の照射エネルギーや収率等を考慮して適宜の形状、寸法とすることができる。その場合、あまりMoターゲット9の厚みが厚すぎると、中性子散乱の問題が生じ、生成効率が低下するため、その点を考慮する必要がある。高速中性子発生部6から中性子は全方位方向に放射され、中性子束(個/cm・秒)は1/rで低下する。このため、高速中性子発生部6にMoターゲットを密着させた構成の場合に99Moの生成効率が最大となる。尚、rは中性子発生部からMoターゲットまでの距離である。
【0051】
ターゲット支持枠あるいは試料容器10には、Mo試料(100Mo)が固定されるか、収容されるようになっている。ターゲット支持台11は、ターゲット支持枠あるいは試料容器10を固定する役割をする。99Mo収容容器12は、放射線遮蔽体を備え、生成された放射性モリブデン99Moはこの中に入れて、実験室から取出し、所要の場所に運搬、移動させる。なお、99Mo収容容器12以外の各部材も、必要に応じて放射線遮蔽を行う。
【0052】
上記のような構成の装置により、生成RIの半減期を考慮すると14MeV程度の中性子を2〜3日程度の照射により、所望量の99Moを得ることができる。この場合、加速器からの高速中性子を用いるため、核分裂を利用しないことから多量の燃料廃棄物が発生せずまた、反応断面積の比較的大きな(n,2n)反応を利用しているため、高効率で所望の99Moを安定供給することが可能となる。さらに、装置構成も市販の加速器を利用し非常に小型化できるため、病院等の施設において、簡便にかつ安定して99Moを製造、利用することが可能となる。
【0053】
また、対象ターゲットの反応閾値が15MeV以上の場合には、次のような構成の装置を用いる。高電圧電源1は、上記中性子生成反応で多量の中性子を生成するために、例えば陽子ビームを25MeV程度のエネルギーとするための高電圧を出力する。電源ケーブル2は、高電圧電源1の高電圧を加速器ターミナル3に接する加速管4に印加するためのものである。高速中性子発生部6には、Cu等の熱伝導性に優れた金属板上に金属Li薄膜が設けられたものがセットされ、高速中性子発生部6では、上記中性子生成反応を起し、多量の中性子を生成する役割をする。冷却系8は、陽子ビームで照射されるCu金属板表面のLiが熱拡散するのを防ぐべく冷却管7により金属板を冷却する役割をする。冷却は水冷等により行う。金属板は固定式のものでもよく、回転式のものでもよい。この場合、高速中性子発生部6から中性子はほとんど陽子ビーム軸に沿って放射され、中性子束(個/cm・秒)は1/rで低下する。したがって、原料ターゲット9は、中性子発生部に密着するか、近接(10mm程度までの離間)して配置するのが好ましい。
【0054】
次に、本発明の別の実施形態について述べる。
【0055】
図5は、本発明の別の実施形態に係る放射性モリブデン99Moの製造装置の要部を模式的に示す図で、(a)は重水素ビーム進行方向に垂直な方向から見た模式図で中性子発生部と原料ターゲットが密着している場合、(b)は中性子発生部と原料ターゲットが離間している場合、(c)は重水素ビーム進行方向から見た模式図である。
【0056】
図中21は重水素ビーム、22は直方体状の真空ビーム管、33は3重水素(トリチウム)を吸着したチタン膜を有する銅板、24はターゲット試料、25は冷却部材である。冷却部材25は銅板23と一体になっていてもよく、この場合、銅板23は内壁と外壁を有し、内壁(真空室側)の銅板23の表面には、3重水素を吸着したチタン膜が設けられ、外壁(大気側)の銅板の表面には、ターゲット試料24が密着配置されるか、離間配置され、内壁と外壁の間の空間を水等の冷却媒体が通過するようになっている。
【0057】
重水素()ビーム21を3重水素(H)に照射して生成される高速中性子は、大量の中性子が重水素ビーム21の入射方向に関係なくほぼ全空間に等方的に放出される特性を持つ。このため限られた中性子利用時間で生成された中性子を最大限に利用するため以下のようにMo試料24を配置する。Mo試料24としては、例えば天然のMoあるいは濃縮したMoの三酸化物のパウダーを圧縮して固化・焼結させたペレット状のものを使用してもよいし、前述したような金属Moを使用することもできる。
【0058】
3重水素含有チタン板23に照射される高強度の重水素ビーム21がチタンの温度を上げて3重水素が熱拡散することを防ぐため、3重水素含有チタン板23を冷却管25により冷却する。与えられた冷却能力の範囲でより高強度の重水素ビーム21を使用するためにはこの重水素ビーム21により与えられる単位面積当りの熱負荷を減少させることが考えられる。そのため、重水素ビーム21の大きさは通常の5mm直径から加速器のビーム輸送の方式を変えて例えば10mm直径にする。この結果、単位面積当りの熱負荷は1/4に減じ従来の重水素ビームの4倍の強度までを増強することができ、その結果生成される中性子も4倍の量利用できる。また、高速中性子は全空間に等方的に放出されることから、Mo試料24は、重水素ビーム21の前方だけでなく、図5(c)のように側面にもセットする。
【0059】
重水素ビーム21は、直方体である真空ビーム管22により真空が保たれているビーム輸送系を経て、3重水素含有チタン膜を有する銅板23に照射される。そしてH→He+n反応で生成された高速中性子は、冷却管15の大気側に埋め込まれた(最近接距離)Mo試料24に照射される。一方、3重水素含有チタン膜を有する銅板23に直角に入射する重水素ビーム21に対し後方に放出される高速中性子を効率的に利用すべく、高速中性子生成箇所に近接する真空ビーム管(直方体)22の4面を加工し、Mo試料24を図示のように埋め込む。このような構成とすると、高速中性子は全空間に等方的に放出されるので放射性モリブデン99Mo生成がより高効率で行われることになる。
【0060】
本発明で製造された99Moは、β崩壊により99mTcとなった状態で医療現場等で使用されるが、この場合99mTcの分離は、例えば高速中性子をMoO等のMo試料24のターゲットに照射した後、アルカリ溶液(例えば、水酸化ナトリウム等)で溶かし、99MoO2−をアルミナカラムに吸着させ、生理食塩水を通して99TcOを取出し、適当な溶媒に溶かして使用することができる。このようにして所望の99mTcを抽出することをミルキングという。そしてこのようにミルキングを行う装置はジェネレータもしくはカウと呼ばれる。ジェネレータとしては、99Moを高密度ジルコニウム化合物(PZC)に吸着させて、生理的食塩水を通して99mTcを抽出するPZCジェネレータ(例えば、特開昭52−17199号公報、特開平08−309182号公報、特開平10−30027号公報等)も好ましく使用することができる。
【0061】
また、本発明では、前述したように、ターゲット試料として、チタン酸アルコキシド、ジルコニウム酸アルコキシドもしくはその混合物にモリブデンが100Moであるモリブデン酸水溶液を添加して調製したモリブデン酸混合のゲル体を用いることができる。
【0062】
この場合、チタン酸アルコキシド、ジルコニウム酸アルコキシドもしくはその混合物に用いるアルコールとしては、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどの一価のアルコール、エチレングリコールなどの二価のアルコール、グリセリンやポリビニルアルコールなどの多価のアルコールなどを用いることができる。
【0063】
モリブデン酸水溶液としては、モリブデン酸アンモニウム(NHMoO、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸コバルト、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸鉛、モリブデン酸マグネシウム、モリブデン酸マンガン(II)などを用いることができる。
【0064】
ここで、モリブデン酸混入チタン酸ゲルの製法例について述べる。
モリブデン酸混合のゲル体は、(チタン(IV)t−ブトキシドTi(O−C10mlとモリブデン酸アンモニウム 1molとをn−ブタノールCOH [100ml]に溶解した後、撹拌子を用いて撹拌しつつ0.1N HNO [10ml]を加えてブチルチタネートの加水分解反応によりモリブデン酸を内包するチタン酸ゲルを生じせしめた。
生じたチタン酸ゲルを遠心分離器によって分取した後、アセトンで洗浄し、乾燥させた後に加圧整形し照射試料とした。
【0065】
このように、原料ターゲットとしてモリブデン酸混入チタン酸ゲルを用いると、高速中性子照射後の99Moをジルコニウム酸ゲルあるいはチタン酸ゲルに混入させる作業が不要になるため、ゲル化させる際の作業者の被曝や環境汚染の問題が回避できる利点がある。
【0066】
また、より高速の中性子を使用する場合は、前述のように、陽子等をLiやBeに照射する。この場合、ほとんどの中性子束は陽子ビームの方向にそって出射する。したがって、ターゲット試料24の配置は図5(d)や(e)に示すように中性子発生部の前方となる。図5(d)はターゲット試料14を中性子発生部と密着させた場合、図5(e)はターゲット試料24を中性子発生部と離間配置させた場合である。以上のように、本発明によれば、ターゲット試料24を真空中ではなく、大気側に配置させることができるため、ターゲット試料24の形状、配置の自由度が大きくなる利点がある。
【0067】
次に、本発明による99Moの製造方法について述べる。
【0068】
本発明による99Moの製造方法は、基本的に、100Moをターゲット核として含む原料ターゲットに、加速器からの高速中性子を照射し、1個の中性子の照射により2個の中性子を放出する(n,2n)反応を起させ、99Moを生成させることを特徴とするものである。
【0069】
以下、図6の製造手順のブロック図を参照しながら本発明による99Moの製造方法の一例を説明する。
【0070】
先ず、例えば天然Moを用い、三酸化モリブデンMoOの粉末を圧縮し、成型・焼結してペレット状の100Moを含むMoターゲットを作成する(ステップS1)。
【0071】
次に、Moターゲットを試料容器に入れ、中性子照射位置にセットする(ステップS2)。
【0072】
次に、冷却用銅板上に設けた3重水素が吸蔵されたチタン板に対し、加速器から、例えば0.35MeVの重水素ビームを照射する。これにより例えば14MeVの高速中性子が発生する(ステップS3)
Moターゲットでは、この高速中性子の照射により(n,2n)反応が優位に起こり、99Moが生成する(ステップS4)。
【0073】
適当な時間の中性子照射を行った後に、照射を停止し、99Moが入った試料容器を取出し、所望の99Moが得られる(ステップS5)。
【0074】
得られた99Moはβ崩壊により99mTcとなるが、この99mTcは前述したジェネレータを用いて分離され、所望の用途のために使用される(ステップS6)。
【0075】
以上、製造方法の一例を述べたが、もちろん、本発明の製造方法はこの例に限定されるものではなく、各ステップにおいて、前述した種々の手法を用いて行うことができる。また、上記では天然のMoを用いたが、原子炉の核分裂燃料廃棄物のMo又は同位体濃縮100Moを原料ターゲットのターゲット核として利用すると、99Moの生成効率がより一層向上する。
【0076】
次に、以上のことを確認する目的で行った実験結果について述べる。
<実験目的>
99Moが14MeVの高速中性子により天然Mo試料を用いて予測どおりの反応断面積で生成される事の確認
*上記反応断面積の絶対値決定に用いる93Nb試料を用い14MeV中性子で生成される92Nbの放射線を測定し、断面積決定に使用できる事の確認
99Mo生成反応に付随して生成される残留放射性同位元素(放射性廃棄物)の定量的評価
H+H(R)He+n反応で生成される14MeV中性子が期待される中性子強度で安定に生成されるかどうかの確認(Hターゲットの性能評価)
*上記反応を誘起させるためのH(重水素ビーム)が安定に供給される事の確認
(小型加速器が安定に稼動する事の検証)
*Moターゲット、Nbターゲットの中性子照射箇所への設置及び取外しが容易に且つ柔軟に行えるかどうかの確認
<実験場所> 日本原子力研究開発機構核融合中性子工学用中性子源施設(FNS)
<実験日時>
中性子照射実験:平成21年1月27日〜1月30日(1日当り6時間照射)
生成Mo放射能測定:平成21年1月27日〜2月5日
<試料> 天然Mo
試料1:直径:約10mm、厚さ:50ミクロン(0.05mm)、重量40.214mg
試料2:直径:約10mm、厚さ:5ミクロン(0.005mm)、重量3.663mg
試料1は6時間照射後測定。
試料2は最終日まで中性子照射後測定。
<試料> 93Nb
試料3:直径10mm、厚さ:0.1mm、重量67.196mg
<Moターゲット設置場所>
Hビーム軸の延長方向で中性子発生箇所から10cm離れた場所。
<中性子照射条件>
*14MeV中性子生成反応
H+H(R)He+n:Hビームエネルギー:0.35MeV
*中性子発生量
発生箇所で1.8×1011n/cm・秒[1月27日]〜1.5×1011n/cm・秒[1月30日]
99Mo生成反応>
100Mo+n(R)99Mo+2n
92Nb生成反応>
93Nb+n(R)92Nb+2n
99Mo及び残留放射能の測定(FNSで測定)>
*測定条件:中性子照射後ほぼ1時間の冷却時間をおき測定開始
*測定器:Ge半導体検出器
99Mo試料及び92Nb試料配置:Ge検出器から5cm離れた位置にセット
<結果>
99Moは当初予測どおりの量生成されている事を確認
93Nb試料は99Mo断面積決定に使用できる事を確認
99Mo生成反応に付随して生成される残留放射性同位元素(放射性廃棄物)の定量的評価ができた。(99Moの量に比し微量である事を確認)。
【0077】
H+H(R)He+n反応で生成される14MeV中性子は期待通りの中性子強度で安定に生成する事を確認(Hターゲットは高い性能を持つと評価できた)
*上記反応を誘起させるH(重水素ビーム)が安定に供給される事が確認できた。
【0078】
(小型加速器が安定に稼動する事の検証)
*Moターゲット、Nbターゲットの中性子照射箇所への設置及び取外しが容易に且つ柔軟に行える事を確認した。
【0079】
また、上記の条件で作製したものが99Moであることを、高性能のゲルマニウム半導体検出器を用いガンマ線を検出することにより確認した。半導体検出器は試料から5cmの位置に配置した。その結果を図7に示す。図7の(a)が99Moのベータ崩壊に伴って放出される739keVガンマ線の測定データ、(b)が99Moのベータ崩壊により励起される99mTcの状態から放出される141keVガンマ線の測定データである。高速14MeV中性子で99Moが生成されていることが確認できた。
【0080】
次に、前述のモリブデン酸混入チタン酸ゲルの製法例で実際に作成した試料を99Mo/99mTcジェネレータに適用してミルキングを行った例について述べる。
先ず、高速中性子を照射したチタン酸ゲルをビーカーにとり、2mlずつ4回水で洗浄し、その上澄液を乾燥させ、99mTcのガンマ線強度の変化を前記の半導体検出器で調べた。その結果を図8(b)に示す。図8(b)は水の代わりに生理食塩水を用いて同様の測定を行った結果である。
次に、ガラス管に高速中性子を照射した上記と同様のチタン酸ゲルを入れ、水で99mTcを溶離させてミルキングを行い、5滴ずつ(1滴は0.274mg)分取し、乾燥させ、含まれる99mTcのガンマ線強度の変化を調べた。その結果を図9(a)に示す。図9(b)は水の代わりに生理食塩水を用いて同様の測定を行った結果である。
以上から、99mTcが得られていることが確認された。
なお、チタン酸ゲルの場合、放射性モリブデン含有材料によるジェネレータにアルミナカラムを直列に配置することにより、Tiを中性子照射したときに生じるScによる影響を防止することができ、より高純度の無担体99mTcを得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明により製造された99Moがβ崩壊して得られた99mTcは、特に、医療分野における下記のような検査、治療に下記のような形態で利用することができる。
【0082】
(1) 機能検査:肺循環機能、心拍出量、肺血液量
テクネチウムヒト血清アルブミン(99mTc−HSA)
(2) 機能検査:甲状腺摂取率
過テクネチウム酸ナトリウム
(3) 脳シンチグラフィ
過テクネチウム酸ナトリウム、メチレンジホスホン酸テクネチウム(99mTc−MDP)
(4) 脳血流シンチグラフィ
エキサメタジムテクネチウム(ヘキサメチルプロピレンアミンオキシム)(99mTc−HM−PAO)、N,N’−エチレンジ−L−シスウテイネート(3)オキソテクネチウムジエチルエステル
(5) 甲状腺シンチグラフィ
過テクネチウム酸ナトリウム
(6) 肺血流シンチグラフィ
テクネチウム大凝集ヒト血清アルブミン(99mTc−MAA)
(7) 心筋シンチグラフィ
ヘキサキス(2−メトキシイソブチルイソニトリル)テクネチウム(99mTc−MIBI)、テトロホスミンテクネチウム、ピロリン酸テクネチウム(99mTc−PYP)
(8) 心プールシンチグラフィ
テクネチウムヒト血清アルブミン(99mTc−HSA)、ヒト血清アルブミンジエチレントリアミン五酢酸テクネチウム(99mTc−HSA−DTPA)
(9) 肝シンチグラフィ
テクネチウムスズコロイド、フィチン酸テクネチウム、ガラクトシルヒト血清アルブミンジエチレントリアミン五酢酸テクネチウム(99mTc−GSA)
(10) 肝・胆道シンチグラフィ
N−(2,6−ジメチルフェニルカルバモイルメチル)イミノ二酢酸テクネチウム(99mTc−HIDA)、ジエチルアセトアニリドイミノ二酢酸テクネチウム、ピリドキシリデンイソロイシンテクネチウム(99mTc−PI)、N−ピリドキシル−5−メチルトリプトファンテクネチウム(99mTc−PMT)
(11) 唾液腺シンチグラフィ
過テクネチウム酸ナトリウム
(12) 腎シンチグラフィ
ジメルカプトコハク酸テクネチウム(99mTc−DMSA)、ジエチレントリアミン五酢酸テクネチウム、(99mTc−DTPA)、メルカプトアセチルグリシルグリシンテクネシウム(99mTc−MAG
(13) 脾臓シンチグラフィ
テクネチウムスズコロイド、フィチン酸テクネチウム
(14) リンパ節シンチグラフィ
テクネチウムスズコロイド、フィチン酸テクネチウム
(15) 骨シンチグラフィ
エタンヒドロキシジホスホン酸テクネチウム(99mTc−EHDP)、ヒドロキシメチレンジホスホン酸テクネチウム(99mTc−HMDP)、ピロリン酸テクネチウム(99mTc−PYP)、メチレンホスホン酸テクネチウム(99mTc−MDP)
【符号の説明】
【0083】
1 高電圧電源
2 電源ケーブル
3 加速器ターミナル
4 加速管
5 重陽子輸送ライン
6 中性子発生部
7 冷却管
8 冷却系
9 Moターゲット
10 ターゲット支持枠
11 ターゲット支持台あるいは試料容器
12 ターゲット保管庫
21 重水素ビーム
22 真空輸送ライン
23 3重水素含有チタン膜を有する銅板
24 Moターゲット
25 冷却管
26 陽子ビーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
100Moをターゲット核として含む原料ターゲットに、加速器からの高速中性子を照射し、1個の中性子の照射により2個の中性子を放出する(n,2n)反応を起させ、99Moを生成させることを特徴とする放射性モリブデンの製造方法。
【請求項2】
ターゲット核として、原子炉内で235Uの核分裂反応で生成された廃棄物100Moを用いることを特徴とする請求項1に記載の放射性モリブデンの製造方法。
【請求項3】
原料ターゲットを加速器の高速中性子出射部に密着させた状態又は離間させた状態で中性子を原料ターゲットに照射することを特徴とする請求項1又は2に記載の放射性モリブデンの製造方法。
【請求項4】
高速中性子を発生させる加速器と、100Moをターゲット核として含む原料ターゲットを支持するターゲット支持手段を備え、加速器からの高速中性子を原料ターゲットに照射し、1個の中性子の照射により2個の中性子を放出する(n,2n)反応を起させ、99Moを生成させることを特徴とする放射性モリブデンの製造装置。
【請求項5】
原料ターゲットのターゲット核が、原子炉内で235Uの核分裂反応で生成された廃棄物としての
100Moであることを特徴とする請求項4に記載の放射性モリブデンの製造装置。
【請求項6】
原料ターゲットが、加速器の高速中性子発生部に密着させた状態又は離間させた状態でセットされていることを特徴とする請求項4又は5に記載の放射性モリブデンの製造装置。
【請求項7】
加速器の高速中性子発生部が冷却手段を備え、かつ該高速中性子発生部が真空室と大気側の隔壁機能を有し、かつ該高速中性子発生部に原料ターゲットが密着させた状態又は離間させた状態でセットされていることを特徴とする請求項4ないし6のいずれか一項に記載の放射性モリブデンの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−223937(P2010−223937A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270457(P2009−270457)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年9月30日 一般社団法人日本核医学会発行の「核医学(第46巻 第3号)」に発表
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】