説明

放射性核種捕捉材料、放射性核種捕捉用カートリッジ、製造方法及び分離方法

【課題】繰り返し使用に適した放射性核種捕捉材料、放射性核種捕捉用カートリッジ、当該放射性核種捕捉材料の製造方法及び当該放射性核種捕捉材料を用いた放射性核種を含む化学種の分離方法を提供する。
【解決手段】放射性核種を含む化学種を捕捉するための放射性核種捕捉材料10において、連通孔を有する多孔質体よりなる基材1と、基材1に結合された、放射性核種を含む化学種を捕捉するためのイオン交換基及び/又はキレート形成基を有するグラフト高分子鎖3と、を備えるよう構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性核種捕捉材料、放射性核種捕捉用カートリッジ、製造方法及び分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性核種の分析は、環境放射線のモニタリング、原子力施設の運転管理及び放射性廃棄物の効率的な処理・処分を目的として実施されている。分析対象となる放射性核種のうち、γ線放出核種は非破壊分析が可能であるのに対し、α及びβ線放出核種は、測定の前処理として化学分離が必要となる。
放射性核種を含む化学種の分離では、溶媒抽出法及びイオン交換樹脂などを充填したカラム分離法を組み合わせる手法が主流となっている。
【0003】
溶媒抽出法では、アクチノイドや希土類元素などに高い選択性をもつ抽出試薬を利用できるため、放射性核種分析の現場ではたいへん有効である。しかしながら、溶媒抽出法では、一度に多数の試料を処理できない、有害な有機溶媒廃液が発生する、などの問題点がある。
【0004】
カラムを用いる分離法では、イオン交換基やキレート形成基など、金属イオン(放射性核種を含む化学種)を捕捉する機能を導入したビーズ状樹脂をカラムに充填し、分離目的の化学種に応じて調製した溶液をカラムに通過させる。そのため数種類の化学種を一つのカラムで相互分離できる。カラム分離法で用いられる樹脂には、共有結合によって官能基を導入した樹脂のほかに、疎水性相互作用によって抽出試薬を担持した樹脂がある。抽出試薬を担持した樹脂は、溶媒抽出で用いられる抽出試薬の選択性と、カラム分離の利便性と、を備えており、かつ調製が容易であるという特徴がある。しかしながら、カラム分離法では、ビーズ状樹脂内部の官能基まで分離目的の化学種が拡散するのに時間を要する。したがって、試料溶液を速く通液させると、分離目的の化学種がビーズ状樹脂内部の官能基には捕捉されずに流出し、回収率低下の原因となる。また、捕捉された化学種を溶出する際にも、ビーズ状樹脂内部まで溶出液が拡散するのに時間を要するため、多量の溶出液を通液しなければ、捕捉された化学種の全てを回収できないという問題点がある。
【0005】
そこで、例えば、多孔性中空糸膜、多孔性フィルム、繊維、不織布などの基材にグラフト(接ぎ木)高分子鎖を結合させ、そのグラフト高分子鎖に抽出試薬を担持させることによって、金属イオン(放射性核種を含む化学種)の分離精製を高容量かつ高速で行える吸着材料が提案された(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−331510号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の吸着材料では、グラフト高分子鎖が有する抽出試薬担持機能を持つ官能基に、疎水性相互作用や静電相互作用によって抽出試薬が担持されているだけなので、担持された抽出試薬が漏出してしまうことがある。そのため、繰り返し使用には適していないという問題点がある。
【0007】
本発明の課題は、繰り返し使用に適した放射性核種捕捉材料、放射性核種捕捉用カートリッジ、当該放射性核種捕捉材料の製造方法及び当該放射性核種捕捉材料を用いた放射性核種を含む化学種の分離方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、
放射性核種捕捉材料において、
連通孔を有する多孔質体よりなる基材と、
前記基材に結合された、放射性核種を含む化学種を捕捉するためのイオン交換基及び/又はキレート形成基を有するグラフト高分子鎖と、
を備えることを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、
請求項1に記載の放射性核種捕捉材料において、
前記基材は、厚さが1〜10mm、前記連通孔の平均細孔径が0.5〜5μm及び前記連通孔の体積分率が70〜85%のシート状のものであることを特徴とする。
【0010】
請求項3に記載の発明は、
請求項1又は2に記載の放射性核種捕捉材料において、
前記グラフト高分子鎖は、前記基材の表面部に結合されており、前記基材の内部には非結合されていることを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、
請求項1〜3の何れか一項に記載の放射性核種捕捉材料において、
前記基材は、ポリオレフィンから構成されたものであることを特徴とする。
【0012】
請求項5に記載の発明は、
請求項1〜4の何れか一項に記載の放射性核種捕捉材料において、
前記グラフト高分子鎖は、前記連通孔内に配置されていることを特徴とする。
【0013】
請求項6に記載の発明は、
放射性核種捕捉用カートリッジにおいて、
請求項1〜5の何れか一項に記載の放射性核種捕捉材料をカートリッジに充填して構成されていることを特徴とする。
【0014】
請求項7に記載の発明は、
請求項1〜5の何れか一項に記載の放射性核種捕捉材料の製造方法において、
前記基材に電離放射線を照射する照射ステップと、
次いで、所定の官能基を有する重合性単量体を前記基材にグラフト重合することによって、当該所定の官能基を有するグラフト高分子鎖を当該基材に結合させるグラフト重合ステップと、
次いで、前記所定の官能基の少なくとも一部を前記イオン交換基及び/又は前記キレート形成基に変換する変換ステップと、
を備えることを特徴とする。
【0015】
請求項8に記載の発明は、
請求項1〜5の何れか一項に記載の放射性核種捕捉材料の製造方法において、
前記基材に電離放射線を照射する照射ステップと、
次いで、前記イオン交換基を有する重合性単量体及び/又は前記キレート形成基を有する重合性単量体を前記基材にグラフト重合することによって、当該イオン交換基及び/又は当該キレート形成基を有するグラフト高分子鎖を当該基材に結合させるグラフト重合ステップと、
を備えることを特徴とする。
【0016】
請求項9に記載の発明は、
請求項1〜5の何れか一項に記載の放射性核種捕捉材料の製造方法において、
前記基材と所定の官能基を有する重合性単量体とを共存させた状態で、当該基材に電離放射線を照射し、当該所定の官能基を有する重合性単量体を当該基材にグラフト重合することによって、当該所定の官能基を有するグラフト高分子鎖を当該基材に結合させる照射・グラフト重合ステップと、
次いで、前記所定の官能基の少なくとも一部を前記イオン交換基及び/又は前記キレート形成基に変換する変換ステップと、
を備えることを特徴とする。
【0017】
請求項10に記載の発明は、
請求項1〜5の何れか一項に記載の放射性核種捕捉材料の製造方法において、
前記基材と前記イオン交換基を有する重合性単量体及び/又は前記キレート形成基を有する重合性単量体とを共存させた状態で、当該基材に電離放射線を照射し、当該イオン交換基を有する重合性単量体及び/又は当該キレート形成基を有する重合性単量体を当該基材にグラフト重合することによって、当該イオン交換基及び/又は当該キレート形成基を有するグラフト高分子鎖を当該基材に結合させる照射・グラフト重合ステップを備えることを特徴とする。
【0018】
請求項11に記載の発明は、
請求項1〜5の何れか一項に記載の放射性核種捕捉材料を用いた放射性核種を含む化学種の分離方法において、
前記放射性核種捕捉材料によって、前記化学種を捕捉する捕捉ステップと、
前記放射性核種捕捉材料によって捕捉されている化学種を溶出するための溶出液を使用して、当該化学種を当該放射性核種捕捉材料から溶出させる溶出ステップと、
を備えることを特徴とする。
【0019】
請求項12に記載の発明は、
請求項1〜5の何れか一項に記載の放射性核種捕捉材料を用いた放射性核種を含む化学種の分離方法において、
前記放射性核種捕捉材料によって、複数種類の前記化学種を捕捉する捕捉ステップと、
前記放射性核種捕捉材料によって捕捉されている複数種類の化学種のうちの所望の種類の化学種を溶出するための溶出液を使用して、当該所望の種類の化学種を当該放射性核種捕捉材料から溶出させる溶出ステップと、
を備えることを特徴とする。
【0020】
請求項13に記載の発明は、
請求項1〜5の何れか一項に記載の放射性核種捕捉材料を用いた放射性核種を含む化学種の分離方法において、
前記放射性核種捕捉材料によって、複数種類の前記化学種を捕捉する捕捉ステップと、
前記放射性核種捕捉材料によって捕捉されている複数種類の化学種のうちの1種類の化学種を溶出するための溶出液を使用して、当該1種類の化学種を当該放射性核種捕捉材料から溶出させる第1溶出ステップと、
前記放射性核種捕捉材料によって捕捉されている化学種の種類が1種類になるまで前記第1溶出ステップを繰り返す繰り返しステップと、
前記放射性核種捕捉材料によって捕捉されている化学種の種類が1種類になった際、当該1種類の化学種を溶出するための溶出液を使用して、当該1種類の化学種を当該放射性核種捕捉材料から溶出させる第2溶出ステップと、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
請求項1に記載の発明によれば、放射性核種捕捉材料は、連通孔を有する多孔質体よりなる基材と、基材に結合された、放射性核種を含む化学種を捕捉するためのイオン交換基及び/又はキレート形成基を有するグラフト高分子鎖と、を備えている。グラフト高分子鎖は、基材にグラフト(すなわち、基材に共有結合によって接ぎ木)されているとともに、グラフト高分子鎖の骨格に共有結合されたイオン交換基及び/又はキレート形成基を有している。すなわち、放射性核種を含む化学種を捕捉するためのイオン交換基及び/又はキレート形成基は、共有結合によって基材に固定されており漏出することがないため、放射性核種捕捉材料を繰り返し使用に適したものとすることができる。
【0022】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明と同様の効果が得られることは無論のこと、基材は、厚さが1〜10mmのシート状のものであり、多孔性中空糸膜や多孔性フィルムを基材とした従来の放射性核種捕捉材料と比較して厚みがある。したがって、物理的強度が高い繰り返し使用に適した放射性核種捕捉材料を構成することができるとともに、取り扱い性に優れた放射性核種捕捉材料を構成することができる。
また、基材は、連通孔の平均細孔径が0.5〜5μm及び連通孔の体積分率が70〜85%のシート状のものであり、微細な連通孔を多数有している。したがって、拡散性が良好であるためフィルター効率が良く、高速処理時においても高い捕捉性能を有する放射性核種捕捉材料を構成することができる。
【0023】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2に記載の発明と同様の効果が得られることは無論のこと、グラフト高分子鎖は、基材の表面部に結合されており、基材の内部には非結合されている。すなわち、グラフト高分子鎖が非結合された部分(基材の内部)は、基材自体の物理的・化学的特性を維持しており、グラフト高分子鎖が結合された部分(基材の表面部)の支持体としての役割を果たすため、繰り返し使用に適した放射性核種捕捉材料を構成することができる。
【0024】
請求項4に記載の発明によれば、請求項1〜3の何れか一項に記載の発明と同様の効果が得られることは無論のこと、基材は、ポリオレフィンから構成されている。したがって、物理的・化学的安定性に優れているため、繰り返し使用に適した放射性核種捕捉材料を構成することができるとともに、基材自体の反応性が低いため、放射性核種を含む化学種を捕捉するためのイオン交換基及び/又はキレート形成基による選択的な捕捉が行える放射性核種捕捉材料を構成することができる。
【0025】
請求項5に記載の発明によれば、請求項1〜4の何れか一項に記載の発明と同様の効果が得られることは無論のこと、グラフト高分子鎖は、連通孔内に配置されている。すなわち、放射性核種を含む化学種は、連通孔を通っている間に、グラフト高分子鎖が有する放射性核種を含む化学種を捕捉するためのイオン交換基及び/又はキレート形成基まで容易にアクセスできる。したがって、放射性核種を含む化学種が捕捉されずに基材を通り抜けてしまうことが少なく、高速処理時においても高い捕捉性能を有する放射性核種捕捉材料を構成することができる。
【0026】
請求項6に記載の発明によれば、放射性核種捕捉用カートリッジは、請求項1〜5の何れか一項に記載の放射性核種捕捉材料をカートリッジに充填して構成されているため、使い勝手が良い。
【0027】
請求項7に記載の発明によれば、照射ステップと、グラフト重合ステップと、変換ステップと、だけを備える簡単な方法で、請求項1〜5の何れか一項に記載の放射性核種捕捉材料を製造することができる。
【0028】
請求項8に記載の発明によれば、照射ステップと、グラフト重合ステップと、だけを備える簡単な方法で、請求項1〜5の何れか一項に記載の放射性核種捕捉材料を製造することができる。
【0029】
請求項9に記載の発明によれば、照射・グラフト重合ステップと、変換ステップと、だけを備える簡単な方法で、請求項1〜5の何れか一項に記載の放射性核種捕捉材料を製造することができる。
【0030】
請求項10に記載の発明によれば、照射・グラフト重合ステップだけを備える簡単な方法で、請求項1〜5の何れか一項に記載の放射性核種捕捉材料を製造することができる。
【0031】
請求項11に記載の発明によれば、捕捉ステップと、溶出ステップと、だけを備える簡単な方法で、請求項1〜5の何れか一項に記載の放射性核種捕捉材料を用いて、放射性核種を含む化学種が溶解する放射性核種溶液などから放射性核種を含む化学種を分離することができる。また、溶出ステップで、放射性核種捕捉材料によって捕捉された放射性核種を含む化学種のほとんど全てが溶出するため、放射性核種捕捉材料を繰り返して使用することができる。
【0032】
請求項12に記載の発明によれば、捕捉ステップと、溶出ステップと、だけを備える簡単な方法で、請求項1〜5の何れか一項に記載の放射性核種捕捉材料を用いて、放射性核種を含む化学種が溶解する放射性核種溶液などから放射性核種を含む化学種を分離することができるとともに、複数種類の化学種の中から所望の種類の化学種を取り出すことができる。
【0033】
請求項13に記載の発明によれば、捕捉ステップと、第1溶出ステップと、繰り返しステップと、第2溶出ステップと、だけを備える簡単な方法で、請求項1〜5の何れか一項に記載の放射性核種捕捉材料を用いて、放射性核種を含む化学種が溶解する放射性核種溶液などから放射性核種を含む化学種を分離することができるとともに、複数種類の化学種を1種類毎に単離することができる。また、第1溶出ステップ、繰り返しステップ及び第2溶出ステップで、放射性核種捕捉材料によって捕捉された放射性核種を含む化学種のほとんど全てが溶出するため、放射性核種捕捉材料を繰り返して使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、図を参照して、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。なお、発明の範囲は、図示例に限定されない。
【0035】
<放射性核種捕捉材料、放射性核種捕捉用カートリッジ及び放射性核種捕捉材料の製造方法>
図1に、放射性核種捕捉材料10の製造経路の一例を示し、図2に、放射性核種捕捉用カートリッジ100の一例を示す。
放射性核種捕捉材料10は、例えば、放射性核種を含む化学種が溶解する放射性核種溶液から放射性核種を含む化学種を捕捉して分離するための材料である。
放射性核種捕捉材料10は、例えば、連通孔を有する多孔質体よりなる基材1と、基材1に結合された、放射性核種を含む化学種を捕捉するためのイオン交換基及び/又はキレート形成基(以下「放射性核種捕捉基」と呼ぶ)を有するグラフト高分子鎖3と、を備えて構成される。すなわち、放射性核種捕捉材料10は、例えば、連通孔を有する多孔質体よりなる基材1に放射性核種捕捉基が導入されたグラフト高分子鎖3が結合された構造を有している。
【0036】
放射性核種捕捉材料10は、例えば、グラフト重合法を適用して製造される。
具体的には、放射性核種捕捉材料10は、例えば、図1に示すように、基材1に電離放射線(例えば、電子線)を照射する照射ステップと、次いで、所定の官能基(例えば、エポキシ基)を有する重合性単量体(例えば、グリシジルメタクリレート(GMA))を基材1にグラフト重合することによって、当該所定の官能基を有するグラフト高分子鎖2を基材1に結合させるグラフト重合ステップと、次いで、当該所定の官能基の少なくとも一部を、放射性核種捕捉基(例えば、ジエチルアミノ基(−N(C))に変換することによって、当該所定の官能基を有するグラフト高分子鎖2を、放射性核種捕捉基を有するグラフト高分子鎖3に変換する変換ステップと、により製造される。
なお、図1は、放射性核種捕捉材料10の製造経路の一例であり、放射性核種捕捉材料10の製造経路は、図1に限られるものではない。
【0037】
より具体的には、例えば、照射ステップで、基材1にラジカルを発生させ、グラフト重合ステップで、ラジカルを開始点として、所定の官能基を有するグラフト高分子鎖2を成長させる。グラフト高分子鎖2の骨格には、所定の官能基が共有結合されており、次の変換ステップで、この所定の官能基の少なくとも一部を、放射性核種捕捉基に変換する。
したがって、放射性核種捕捉材料10においては、基材1を形成する高分子素材(主鎖)に、放射性核種捕捉基を有するグラフト高分子鎖3(側鎖)が共有結合しており、グラフト高分子鎖3の骨格に、放射性核種捕捉基が共有結合している。
また、放射性核種捕捉基を有するグラフト高分子鎖3は、連通孔の表面にグラフト(接ぎ木)されて、連通孔内において“ポリマーブラシ”を形成している。すなわち、放射性核種捕捉基を有するグラフト高分子鎖3の少なくとも一部は、連通孔内に配置されている。
【0038】
放射性核種捕捉用カートリッジ100は、例えば、図2に示すように、放射性核種捕捉材料10をカートリッジ20に充填して構成されている。
そして、例えば、シリンジポンプや送液ポンプなどを用いて放射性核種捕捉用カートリッジ100に放射性核種を含む化学種が溶解した放射性核種溶液を供給し、放射性核種捕捉材料10の一方の面(例えば、上面)から他方の面(例えば、下面)に向けて放射性核種溶液を透過させることによって、放射性核種捕捉材料10に放射性核種を含む化学種を捕捉させる。
【0039】
基材1の形状は、連通孔を有する多孔質体であれば、特に限定されるものではない。
基材1の好ましい形状としては、例えば、厚さが1〜10mm、連通孔の平均細孔径が0.5〜5μm及び連通孔の体積分率が70〜85%のシート状が挙げられる。
【0040】
基材1の厚さが1mm未満の場合には、厚さが薄くなり過ぎる。そのため、取り扱い難く、例えば、カートリッジ20への充填が困難であるなどの傾向を示すとともに、物理的強度が低く繰り返し使用に適さない傾向を示す。
一方、基材1の厚さが10mmを超える場合には、厚さが厚くなり過ぎる。そのため、取り扱い難く、例えば、カートリッジ20への充填が困難であるなどの傾向を示す。
【0041】
また、連通孔の平均細孔径が0.5μm未満の場合には、孔径が小さくなり過ぎる。そのため、放射性核種溶液を放射性核種捕捉材料10の一方の面から他方の面へと透過させる際の溶液透過性が低下し、高速処理が困難になる傾向を示す。
一方、連通孔の平均細孔径が5μmを超える場合には、孔径が大きくなり過ぎる。そのため、放射性核種溶液を放射性核種捕捉材料10の一方の面から他方の面へと透過させて放射性核種を含む化学種を捕捉させる際、放射性核種溶液を高速に透過させると、放射性核種を含む化学種が捕捉されずに基材1を通り抜けてしまう傾向を示す。
ここで、連通孔の平均細孔径とは、例えば、バブルポイント法などの所定の評価法を利用して得られる平均流量細孔径のことである。
【0042】
また、連通孔の体積分率が70%未満の場合には、連通孔の割合が少なくなり過ぎる。そのため、放射性核種溶液を放射性核種捕捉材料10の一方の面から他方の面へと透過させる際の溶液透過性が低下し、高速処理が困難になる傾向を示す。
一方、連通孔の体積分率が85%を超える場合には、連通孔の割合が多くなり過ぎる。そのため、物理的強度が低く繰り返し使用に適さない傾向を示す。
【0043】
基材1を形成する材料は、グラフト重合法を適用して放射性核種捕捉材料10を製造できるのであれば、特に限定されるものではない。
基材1を形成する好ましい材料としては、例えば、物理的・化学的安定性に優れている、基材1自体の反応性が低いなどの特徴を有するポリオレフィン(例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなど)が挙げられる。その他、基材1を形成する材料としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂、ポリオレフィンとフッ素樹脂との組み合わせ(混合体や共重合体)などが挙げられる。また、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリスチレンなども挙げられる。
【0044】
グラフト重合法は、所定の官能基を有するグラフト高分子鎖2を、基材1にグラフトすることができるのであれば、特に限定されるものではない。
好ましいグラフト重合法としては、例えば、重合開始剤が不要である、基材1の形状に制限がない、基材1全体にラジカルを生成することができるなどの特徴を有する電離放射線(電子線、X線、α線、β線、γ線など)を用いる重合法が挙げられる。その他、グラフト重合法としては、例えば、紫外線を用いる重合法、重合開始剤を用いる重合法などが挙げられる。
【0045】
所定の官能基を有するグラフト高分子鎖2を形成する重合性単量体は、その所定の官能基を、放射性核種捕捉基に変換することができるのであれば、特に限定されるものではない。
好ましい所定の官能基としては、例えば、放射性核種捕捉基への変換が容易であるなどの特徴を有するエポキシ基が挙げられる。したがって、好ましい重合性単量体としては、例えば、エポキシ基を有する重合単量体であるグリシジルメタクリレート(GMA)やグリシジルアクリレートなどが挙げられる。
【0046】
グラフト高分子鎖3が有する放射性核種捕捉基は、捕捉対象とする放射線核種を含む化学種の種類に応じて適宜選択可能である。また、グラフト高分子鎖3は、放射性核種捕捉基として、1又は複数種類のイオン交換基を有していても良いし、1又は複数種類のキレート形成基を有していても良いし、1又は複数種類のイオン交換基及び1又は複数種類のキレート形成基を有していても良い。
具体的には、放射性核種捕捉基のうちのイオン交換基としては、例えば、スルホン酸基やリン酸基、カルボキシル基などのカチオン交換基、1級アミノ基や2級アミノ基、3級アミノ基、4級アンモニウム基などのアニオン交換基が挙げられる。また、放射性核種捕捉基のうちのキレート形成基としては、例えば、イミノジ酢酸基やイミノジエタノール基などが挙げられる。
【0047】
放射性核種捕捉基を有するグラフト高分子鎖3は、基材1の全体に結合されていても良いし、基材1の表面部に結合されて基材1の内部には非結合されていても良い。
放射性核種捕捉基を有するグラフト高分子鎖3が基材1の全体に結合された放射性核種捕捉材料10は、例えば、グラフト重合における重合性単量体の濃度、溶媒の種類、反応温度、反応時間などを制御して所定の官能基を有するグラフト高分子鎖2を基材1の全体に結合させ、その所定の官能基の少なくとも一部を放射性核種捕捉基に変換することによって得られる。
一方、放射性核種捕捉基を有するグラフト高分子鎖3が基材1の表面部に結合されて基材1の内部には非結合された放射性核種捕捉材料10は、例えば、グラフト重合における重合性単量体の濃度、溶媒の種類、反応温度、反応時間などを制御して所定の官能基を有するグラフト高分子鎖2を基材1の表面部のみに結合させ、その所定の官能基の少なくとも一部を放射性核種捕捉基に変換することによって得られる。
【0048】
放射性核種捕捉基を有するグラフト高分子鎖3が基材1の全体に結合されている場合は、グラフト高分子鎖3が基材1の表面部に結合されて基材1の内部には非結合されている場合と比較して、放射性核種捕捉材料10中の放射性核種捕捉基の量を多くすることができるため、より多量の放射性核種を含む化学種を捕捉することができる、捕捉効率が良い、などの利点がある。
【0049】
一方、放射性核種捕捉基を有するグラフト高分子鎖3が基材1の表面部に結合されて基材1の内部には非結合されている場合、すなわち、放射性核種捕捉材料10が、グラフト高分子鎖3が結合された表面部と、グラフト高分子鎖3が非結合された内部と、の2層構造で構成されている場合は、グラフト高分子鎖3が非結合された内部が、グラフト高分子鎖3が結合された表面部の支持体としての役割を果たすため、グラフト高分子鎖3が基材1の全体に結合されている場合と比較して、膨潤を抑えることができる、物理的強度が高い、などの利点がある。
ここで、グラフト高分子鎖3が結合される表面部は、基材1の膜厚方向における基材1の表面部(表層)を指し、グラフト高分子鎖3が非結合される内部は、基材1の膜厚方向における基材1の内部(内層)を指す。
【0050】
基材1に放射性核種捕捉基を有するグラフト高分子鎖3(所定の官能基を有するグラフト高分子鎖2)が結合すると、その部分は基材1の組織が分断されて緻密性に欠け、基材1の剛性が低下する。そのため、グラフト高分子鎖3が結合された部分は、溶媒に対する膨潤度が大きくなるとともに、物理的強度が低下する。その一方で、グラフト高分子鎖3が非結合された部分の割合が多いと、放射性核種捕捉材料10中の放射性核種捕捉基の量が少なくなり、捕捉可能な放射性核種を含む化学種の量が少なくなる、捕捉効率が悪い、などの問題が生じる。したがって、放射性核種捕捉材料10の膜厚方向におけるグラフト高分子鎖3が結合された表面部(両面の場合はその合計)の厚さの割合を、放射性核種捕捉材料10の厚さの40〜60%、放射性核種捕捉材料10の膜厚方向におけるグラフト高分子鎖3が非結合された内部の厚さの割合を、放射性核種捕捉材料10の厚さの60〜40%に設定すると、捕捉性能(捕捉可能な放射性核種を含む化学種の量や捕捉効率など)と、膨潤度や物理的強度(変形耐性を含む)と、のバランスを良好に保つことができる。
【0051】
<放射性核種を含む化学種の分離方法>
次に、放射性核種捕捉材料10を用いた放射性核種を含む化学種の分離方法について説明する。
【0052】
(分離方法1)
放射性核種捕捉材料10は、例えば、捕捉ステップと、溶出ステップと、によって、放射性核種溶液から放射性核種を含む化学種を分離することができる。
【0053】
まず、捕捉ステップで、放射性核種捕捉材料10によって、放射性核種を含む化学種を捕捉する。具体的には、例えば、放射性核種捕捉用カートリッジ100に、1又は複数種類の化学種が溶解した放射性核種溶液を供給することによって、放射性核種捕捉材料10に当該1又は複数種類の化学種を捕捉させる。
ここで、放射性核種を含む化学種とは、同一の元素であっても質量数の異なる同位体同士(例えば、240Puと242Puなど)が形成する化学種のことである。したがって、1種類の化学種が溶解した放射性核種溶液は、例えば、プルトニウム(240Pu、242Puなど)を含む化学種が溶解する溶液であり、2種類の化学種が溶解した放射性核種溶液は、例えば、プルトニウム(240Pu、242Puなど)を含む化学種及びウラン(235U、238Uなど)を含む化学種が溶解した放射性核種溶液のことである。
【0054】
次いで、溶出ステップで、放射性核種捕捉材料10によって捕捉されている化学種を溶出するための溶出液を使用して、当該化学種を放射性核種捕捉材料10から溶出させる。具体的には、例えば、放射性核種捕捉用カートリッジ100に溶出液を供給することによって、化学種を溶出させる。
ここで、溶出液は、例えば、放射性核種捕捉材料10に導入されている放射性核種捕捉基と、放射性核種捕捉材料10によって捕捉されている放射性核種を含む化学種の種類と、の組み合わせに応じて、適宜選択される。
具体的には、例えば、放射性核種捕捉材料10に導入されている放射性核種捕捉基がジエチルアミノ基、放射性核種捕捉材料10によって捕捉されている化学種の種類がウラン(235U、238Uなど)を含む化学種とプルトニウム(240Pu、242Puなど)を含む化学種の場合は、溶出液として1M塩酸などを選択すると、ウランを含む化学種とプルトニウムを含む化学種を溶出することができる。
【0055】
次いで、洗浄ステップで、洗浄液を使用して、放射性核種捕捉材料10を洗浄する。より具体的には、例えば、放射性核種捕捉用カートリッジ100に洗浄液を供給することによって、放射性核種捕捉材料10を洗浄する。
ここで、洗浄ステップは、放射性核種捕捉材料10を繰り返して使用する際、次の捕捉ステップにスムーズに移行できるよう、放射性核種捕捉材料10中に残留する溶出液を洗浄するステップである。したがって、洗浄液としては、例えば、放射性核種溶液の溶媒や純水などを用いることができる。
【0056】
(分離方法2)
放射性核種捕捉材料10は、例えば、捕捉ステップと、溶出ステップと、によって、放射性核種溶液から放射性核種を含む化学種を分離することができるとともに、複数種類の化学種の中から所望の種類の化学種を取り出すことができる。
なお、所望の種類の化学種は、1種類の化学種であっても良いし、複数種類の化学種であっても良い。
【0057】
まず、捕捉ステップで、放射性核種捕捉材料10によって、放射性核種を含む化学種を捕捉する。具体的には、例えば、放射性核種捕捉用カートリッジ100に、複数種類の化学種が溶解した放射性核種溶液を供給することによって、放射性核種捕捉材料10に当該複数種類の化学種を捕捉させる。
【0058】
次いで、第1溶出ステップで、放射性核種捕捉材料10によって捕捉されている複数種類の化学種のうちの所望の種類の化学種を優先的に溶出するための溶出液を使用して、当該所望の種類の化学種を放射性核種捕捉材料10から溶出させる。
具体的には、例えば、放射性核種捕捉用カートリッジ100に溶出液を供給することによって、所望の種類の化学種を溶出させる。
【0059】
ここで、溶出液は、例えば、放射性核種捕捉材料10に導入されている放射性核種捕捉基と、溶出させる化学種の種類と、の組み合わせに応じて、適宜選択される。
具体的には、例えば、放射性核種捕捉材料10に導入されている放射性核種捕捉基がジエチルアミノ基、放射性核種捕捉材料10によって捕捉されている化学種の種類がウラン(235U、238Uなど)を含む化学種及びプルトニウム(240Pu、242Puなど)を含む化学種、所望の種類の化学種がウランを含む化学種の場合は、溶出液として7M硝酸などを選択すると、ウランを含む化学種及びプルトニウムを含む化学種のうちのウランを含む化学種を優先的に溶出することができる。
また、例えば、放射性核種捕捉材料10に導入されている放射性核種捕捉基がジエチルアミノ基、放射性核種捕捉材料10によって捕捉されている放射性核種を含む化学種の種類がウラン(235U、238Uなど)を含む化学種、プルトニウム(240Pu、242Puなど)を含む化学種及びアメリシウム(241Am、243Amなど)を含む化学種、所望の種類の化学種がアメリシウムを含む化学種の場合は、溶出液として10M塩酸-0.1M硝酸などを選択すると、ウランを含む化学種、プルトニウムを含む化学種及びアメリシウムを含む化学種のうちのアメリシウムを含む化学種を優先的に溶出することができる。
【0060】
(分離方法3)
放射性核種捕捉材料10は、例えば、捕捉ステップと、第1溶出ステップと、繰り返しステップと、第2溶出ステップとによって、放射性核種溶液から放射性核種を含む化学種を分離することができるとともに、複数種類の化学種を1種類毎に単離することができる。
【0061】
まず、捕捉ステップで、放射性核種捕捉材料10によって、放射性核種を含む化学種を捕捉する。具体的には、例えば、放射性核種捕捉用カートリッジ100に、複数種類の化学種が溶解した放射性核種溶液を供給することによって、放射性核種捕捉材料10に当該複数種類の化学種を捕捉させる。
【0062】
次いで、第1溶出ステップで、放射性核種捕捉材料10によって捕捉されている複数種類の化学種のうちの1種類の化学種を優先的に溶出するための溶出液を使用して、当該1種類の化学種を放射性核種捕捉材料10から溶出させる。
次いで、繰り返しステップで、放射性核種捕捉材料10によって捕捉されている化学種の種類が1種類になるまで第1溶出ステップを繰り返す。
次いで、第2溶出ステップで、放射性核種捕捉材料10によって捕捉されている化学種の種類が1種類になった際、当該1種類の化学種を溶出するための溶出液を使用して、当該1種類の化学種を放射性核種捕捉材料10から溶出させる。
具体的には、例えば、放射性核種捕捉用カートリッジ100に溶出液を供給することによって、1種類の化学種を溶出させる。
【0063】
ここで、溶出液は、例えば、放射性核種捕捉材料10に導入されている放射性核種捕捉基と、溶出させる化学種の種類と、の組み合わせに応じて、適宜選択される。
具体的には、例えば、放射性核種捕捉材料10に導入されている放射性核種捕捉基がジエチルアミノ基、放射性核種捕捉材料10によって捕捉されている放射性核種を含む化学種の種類がウラン(235U、238Uなど)を含む化学種及びプルトニウム(240Pu、242Puなど)を含む化学種の場合は、第1溶出ステップで、溶出液として7M硝酸などを選択すると、ウランを含む化学種及びプルトニウムを含む化学種のうちのウランを含む化学種を優先的に溶出することができ、次いで、第2溶出ステップで、溶出液として1M塩酸などを選択すると、プルトニウムを含む化学種を溶出することができる。
また、例えば、放射性核種捕捉材料10に導入されている放射性核種捕捉基がジエチルアミノ基、放射性核種捕捉材料10によって捕捉されている放射性核種を含む化学種の種類がウラン(235U、238Uなど)を含む化学種、プルトニウム(240Pu、242Puなど)を含む化学種及びアメリシウム(241Am、243Amなど)を含む化学種の場合は、第1溶出ステップで、溶出液として10M塩酸-0.1M硝酸などを選択すると、ウランを含む化学種、プルトニウムを含む化学種及びアメリシウムを含む化学種のうちのアメリシウムを含む化学種を優先的に溶出することができ、次いで、繰り返しステップで、溶出液として7M硝酸などを選択すると、ウランを含む化学種及びプルトニウムを含む化学種のうちのウランを含む化学種を優先的に溶出することができ、次いで、第2溶出ステップで、溶出液として1M塩酸を選択すると、プルトニウムを含む化学種を溶出することができる。
【0064】
次いで、洗浄ステップで、洗浄液を使用して、放射性核種捕捉材料10を洗浄する。具体的には、例えば、放射性核種捕捉用カートリッジ100に洗浄液を供給することによって、放射性核種捕捉材料10を洗浄する。
ここで、洗浄ステップは、放射性核種捕捉材料10を繰り返して使用する際、次の捕捉ステップにスムーズに移行できるよう、放射性核種捕捉材料10中に残留する溶出液を洗浄するステップである。したがって、洗浄液としては、例えば、放射性核種溶液の溶媒や純水などを用いることができる。
【0065】
<実施例>
次に、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0066】
(放射性核種捕捉材料の製造)
まず、放射性核種捕捉材料10を製造した。
実施例では、ウラン(U)を含む化学種、プルトニウム(Pu)を含む化学種、アメリシウム(Am)を含む化学種を捕捉対象とする。Uを含む化学種及びPuを含む化学種の化学形態は、高濃度の硝酸中では、それぞれUO(NO及びPu(NO2−が支配的であり、高濃度の塩酸中では、それぞれUOCl及びPuCl2−が支配的であるとされている。したがって、放射性核種捕捉基としてイオン交換基(アニオン交換基)である2級アミノ基(ジエチルアミノ基)を選択した。そして、例えば、図1に示す製造経路で、ジエチルアミノ基が導入された放射性核種捕捉材料10(以下、「DEAシート」と呼ぶ)を製造した。
【0067】
具体的には、照射ステップにおいて、常温、窒素雰囲気下で、基材1に電子線を200kGy照射した。基材1としては、連通孔を有するポリエチレン多孔質体(厚さが2.0mm、連通孔の平均細孔径が1μm、空孔率(連通孔の体積分率)が75%)を使用した。
【0068】
次いで、グラフト重合ステップにおいて、電子線が照射された基材1をグリシジルメタクリレートの20体積%メタノール溶液(GMA溶液)に40℃で7分間浸漬することによって、基材1に、グリシジルメタクリレート(GMA)をグラフト重合させた。なお、GMAがグラフトされた基材1のグラフト率[%](=100×(グラフトされたグリシジルメタクリレートの重量)/(基材1の重量))は、200%であった。
さらに、基材1を、GMA溶液に浸漬させる時間が増加するほど、グラフト率が増加することも確認した。
【0069】
次いで、変換ステップにおいて、GMAがグラフトされた基材1を、ジエチルアミンの50体積%水溶液(ジエチルアミン水溶液)に40℃で90分以上浸漬することによって、グラフトされたGMAが有するエポキシ基をジエチルアミノ基に変換し、DEAシートを製造した。なお、放射性核種捕捉材料10のジエチルアミノ基密度[mol/kg-DEAシート]は、約3.3mol/kg-DEAシートであった。これは、グラフトされたGMAが有するエポキシ基の95%がジエチルアミノ基に変換したことを示している。
さらに、GMAがグラフトされた基材1を、ジエチルアミン水溶液に浸漬させる時間が増加するほど、ジエチルアミノ基密度が増加し、ジエチルアミン水溶液に40℃で90分間浸漬させると、ジエチルアミノ基密度が約3.3mol/kg-DEAシート(=約3.3mol/L-Bed)に達することも確認した。
【0070】
ここで、従来法で用いられるイオン交換樹脂(陰イオン交換樹脂)では、陰イオン交換基密度が1.2mol/L-Bedである。したがって、放射性核種捕捉材料10(DEAシート)は、従来法で用いられるイオン交換樹脂の2.7倍以上の陰イオン交換基密度を有し、従来法で用いられるイオン交換樹脂よりも高密度に陰イオン交換基を導入できることが分かった。
【0071】
また、SEM(scanning electron microscope)を用いて、基材1とDEAシートを観察した。その結果、基材1の多孔質構造と、DEAシートの多孔質構造と、にほとんど差違はなく、基材1に放射性核種捕捉基を有するグラフト高分子鎖3を結合させても、多孔質構造を維持できることが分かった。
【0072】
(放射性核種捕捉用カートリッジの製造)
次に、放射性核種捕捉用カートリッジ100を製造した。
具体的には、例えば、円筒形状のカートリッジ20に、カートリッジ20の内径に合わせてディスク状に裁断したDEAシートを充填して、放射性核種捕捉用カートリッジ100を製造した。
なお、カートリッジ20には、1枚のDEAシートを充填しても良いし、複数枚のDEAシートを充填しても良い。
【0073】
(透水性)
次に、放射性核種捕捉材料10の透水性を測定した。
例えば、DEAシートに一定圧力及び一定温度下で純水を透過させ、DEAシートの透水性を測定した。
【0074】
具体的には、例えば、1枚のDEAシートが充填された放射性核種捕捉用カートリッジ100に、一定圧力及び一定温度下で純水を供給し、純水透過流束[m/h](=(一定圧力(ΔP=0.1 MPa)・一定温度(25℃)下での純水の透過流量)/(π(DEAシートの半径))を求めた。
ジエチルアミノ基密度が約3.3mol/kg-DEAシートのDEAシートの純水透過流束は、43m/h(ΔP=0.1 MPa,25℃)であった。
【0075】
ここで、多孔性中空糸膜を基材とした従来の放射性核種捕捉材料(特許文献1の吸着材料)の純水透過流束は、2.5m/h(ΔP=0.1 MPa,25℃)であり、放射性核種捕捉材料10(DEAシート)は、多孔性中空糸膜を基材とした従来の放射性核種捕捉材料の17倍以上の純水透過流束を有し、多孔性中空糸膜を基材とした従来の放射性核種捕捉材料よりも透水性が高いことが分かった。したがって、放射性核種捕捉材料10は、多孔性中空糸膜を基材とした従来の放射性核種捕捉材料よりも、高速に放射性核種を含む化学種を捕捉できることが分かった。
【0076】
(捕捉効率の流量依存性)
次に、放射性核種捕捉材料10による捕捉効率の流量依存性を測定した。
例えば、Puを含む化学種が溶解する放射性核種溶液を一定流量でDEAシートに透過させ、DEAシートによるPu捕捉効率を求めた。
【0077】
まず、例えば、Puを含む化学種を10M塩酸-0.1M硝酸に溶解させて放射性核種溶液を作成した。なお、作成された放射性核種溶液においては、5mL中に、100Bqの240Pu(=11.9×10−9gのPu)が含有されている。
ここで、Bq(ベクレル)は、放射能の強さを表す単位であり、1秒間に崩壊する放射性核種の数を表す単位である。
【0078】
次いで、例えば、1枚のDEAシートが充填された放射性核種捕捉用カートリッジ100に、5mLの放射性核種溶液を一定流量で供給した。そして、放射性核種捕捉用カートリッジ100から流出してきた流出液中の240Puの放射能量を、例えば、α線測定装置を用いて計測し、Pu捕捉効率[−](=(捕捉された240Puの放射能)/(供給した240Puの放射能))を求めた。この操作を、放射性核種溶液の透過流量を0.3〜80mL/minの範囲で変化させて行った。その結果を、図3に示す。
【0079】
図3の横軸は放射性核種溶液の透過流量であり、縦軸はPu捕捉効率である。図3によれば、透過流量0.3〜80mL/minの範囲で、放射性核種溶液の透過流量に関係なく、Pu捕捉効率が1.0であることが分かる。すなわち、透過流量を260倍以上(=80/0.3)増加させても、Pu捕捉効率は1.0であることが分かる。これは、連通孔内において、Puを含む化学種の拡散時間が滞留時間(Puを含む化学種が放射性核種捕捉材料10内に滞留している時間、すなわち、Puを含む化学種が連通孔を通過するのにかかる時間)に比べて無視できるほど小さく、Puを含む化学種が、グラフト高分子鎖3中のジエチルアミノ基まで容易にアクセスできるためである。
これにより、放射性核種捕捉材料10(DEAシート)は、高速処理時も高い放射性核種捕捉効率を示すことが分かった。
【0080】
(溶出挙動)
次に、放射性核種捕捉材料10によって捕捉された放射性核種を含む化学種の溶出挙動を測定した。
【0081】
(溶出挙動1)
第1に、例えば、吸着液(放射性核種溶液の溶媒)として塩酸-硝酸を用い、溶出液として塩酸-硝酸及び塩酸を用い、DEAシートによって捕捉されたUを含む化学種及びPuを含む化学種の溶出挙動を求めた。
【0082】
まず、例えば、Uを含む化学種及びPuを含む化学種を10M塩酸-0.1M硝酸に溶解させて放射性核種溶液を作成した。なお、作成された放射性核種溶液においては、3mL中に、1000Bqの233U及び1000Bqの242Puが含有されている。
【0083】
次いで、例えば、1枚のDEAシートが充填された放射性核種捕捉用カートリッジ100に、3mLの放射性核種溶液を供給して、DEAシートにUを含む化学種及びPuを含む化学種を捕捉させた。
【0084】
次いで、例えば、Uを含む化学種及びPuを含む化学種を捕捉したDEAシートが充填された放射性核種捕捉用カートリッジ100に、9mLの10M塩酸-0.1M硝酸を供給し、その後、9mLの1M塩酸を供給し、その後、洗浄のために純水を供給した。そして、放射性核種捕捉用カートリッジ100から流出してきた流出液中の233U及び242Puの放射能量を、例えば、α線測定装置を用いて計測し、233U及び242Puのそれぞれについて、A/A[−](=(流出液中の放射能)/(放射性核種溶液中の放射能))を求めた。その結果を、図4に示す。
【0085】
図4の横軸は流出液体積であり、縦軸はA/Aである。図4(a)はUを含む化学種についての結果であり、図4(b)はPuを含む化学種についての結果である。
図4によれば、DEAシートに捕捉されたUを含む化学種及びPuを含む化学種は、DEAシートに10M塩酸-0.1M硝酸を透過させても溶出せず、DEAシートに1M塩酸を透過させると溶出することが分かる。また、DEAシートに捕捉されたUを含む化学種及びPuを含む化学種は、1M塩酸を3mL透過させた時点で、捕捉されたUを含む化学種及びPuを含む化学種のほとんど全てが溶出することが分かる。
【0086】
以上の結果から、放射性核種捕捉材料10(DEAシート)に捕捉された放射性核種を含む化学種は、好適な溶出液を選択することで、イオン交換樹脂や抽出クロマトグラフィー樹脂を用いる従来法よりも溶出液量が1/10程度で済み、そして、その少ない溶出液量でも捕捉された放射性核種を含む化学種のほとんど全てを溶出できることが分かった。また、溶出ステップを行うと放射性核種捕捉材料10(DEAシート)には放射性核種を含む化学種がほとんど残存しないため、放射性核種捕捉材料10は、繰り返して使用できるものであることが分かった。
【0087】
(溶出挙動2)
第2に、例えば、吸着液(放射性核種溶液の溶媒)として硝酸を用い、溶出液として硝酸及び塩酸を用い、DEAシートによって捕捉されたUを含む化学種及びPuを含む化学種の溶出挙動を求めた。
【0088】
まず、例えば、Uを含む化学種及びPuを含む化学種を7M硝酸に溶解させて放射性核種溶液を作成した。なお、作成された放射性核種溶液においては、1mL中に、1000Bqの233U及び1000Bqの242Puが含有されている。
【0089】
次いで、例えば、1枚のDEAシートが充填された放射性核種捕捉用カートリッジ100に、1mLの放射性核種溶液を供給して、DEAシートにUを含む化学種及びPuを含む化学種を捕捉させた。
【0090】
次いで、例えば、Uを含む化学種及びPuを含む化学種を捕捉したDEAシートが充填された放射性核種捕捉用カートリッジ100に、9mLの7M硝酸を供給し、その後、9mLの1M塩酸を供給し、その後、洗浄のために純水を供給した。そして、放射性核種捕捉用カートリッジ100から流出してきた流出液中の233U及び242Puの放射能量を、例えば、α線測定装置を用いて計測し、233U及び242Puのそれぞれについて、A/A[−](=(流出液中の放射能)/(放射性核種溶液中の放射能))を求めた。その結果を、図5に示す。
【0091】
図5の横軸は流出液体積であり、縦軸はA/Aである。図5(a)はUを含む化学種についての結果であり、図5(b)はPuを含む化学種についての結果である。
図5によれば、DEAシートに捕捉されたUを含む化学種及びPuを含む化学種は、DEAシートに7M硝酸を透過させるとUを含む化学種が優先的に溶出し、その後、DEAシートに1M塩酸を透過させるとPuを含む化学種が溶出することが分かる。また、DEAシートに捕捉されたUを含む化学種及びPuを含む化学種は、7M硝酸を9mL透過させた時点で、捕捉されたUを含む化学種のほとんど全てが溶出し、1M塩酸を3mL透過させた時点で、捕捉されたPuを含む化学種のほとんど全てが溶出することが分かる。
【0092】
以上の結果から、放射性核種捕捉材料10(DEAシート)に捕捉された放射性核種を含む化学種は、好適な溶出液を選択することで、イオン交換樹脂や抽出クロマトグラフィー樹脂を用いる従来法よりも溶出液量が1/10程度で済み、そして、その少ない溶出液量でも捕捉された放射性核種を含む化学種のほとんど全てを溶出できることが分かった。また、複数種類の化学種の中から所望の種類の化学種を取り出すことができるとともに、複数種類の化学種を1種類毎に単離できることが分かった。また、溶出ステップを行うと放射性核種捕捉材料10(DEAシート)には放射性核種を含む化学種がほとんど残存しないため、放射性核種捕捉材料10は、繰り返して使用できるものであることが分かった。
【0093】
(溶出挙動3)
第3に、例えば、吸着液(放射性核種溶液の溶媒)として塩酸-硝酸を用い、溶出液として塩酸-硝酸、硝酸及び塩酸を用い、DEAシートによって捕捉されたUを含む化学種、Puを含む化学種及びAmを含む化学種の溶出挙動を求めた。
【0094】
まず、例えば、Uを含む化学種、Puを含む化学種及びAmを含む化学種を10M塩酸-0.1M硝酸に溶解させて放射性核種溶液を作成した。なお、作成された放射性核種溶液においては、1mL中に、1000Bqの233U、1000Bqの242Pu及び1000Bqの243Amが含有されている。
【0095】
次いで、例えば、1枚のDEAシートが充填された放射性核種捕捉用カートリッジ100に、1mLの放射性核種溶液を供給して、DEAシートにUを含む化学種、Puを含む化学種及びAmを含む化学種を捕捉させた。
【0096】
次いで、例えば、Uを含む化学種、Puを含む化学種及びAmを含む化学種を捕捉したDEAシートが充填された放射性核種捕捉用カートリッジ100に、16mLの10M塩酸-0.1M硝酸を供給し、その後、16mLの7M硝酸を供給し、その後、16mLの1M塩酸を供給し、その後、洗浄のために純水を供給した。そして、放射性核種捕捉用カートリッジ100から流出してきた流出液中の233U、242Pu及び243Amの放射能量を、例えば、α線測定装置を用いて計測し、233U、242Pu及び243Amのそれぞれについて、cpm[arbitrary unit](=1分間当たりに検出された放射線の数(カウント数))を求めた。その結果を、図6に示す。
【0097】
図6の横軸は流出液体積であり、縦軸はcpmである。図6の上段はAmを含む化学種についての結果であり、図6の中段はUを含む化学種についての結果であり、図6の下段はPuを含む化学種についての結果である。
図6によれば、DEAシートに捕捉されたUを含む化学種、Puを含む化学種及びAmを含む化学種は、DEAシートに10M塩酸-0.1M 硝酸を透過させるとAmを含む化学種が優先的に溶出し、その後、DEAシートに7M硝酸を透過させるとUを含む化学種が優先的に溶出し、その後、DEAシートに1M塩酸を透過させるとPuを含む化学種が溶出することが分かる。また、DEAシートに捕捉されたUを含む化学種、Puを含む化学種及びAmを含む化学種は、10M塩酸-0.1M硝酸を2mL透過させた時点で、捕捉されたAmを含む化学種のほとんど全てが溶出し、7M硝酸を5mL透過させた時点で、捕捉されたUを含む化学種のほとんど全てが溶出し、1M塩酸を8mL透過させた時点で、捕捉されたPuを含む化学種のほとんど全てが溶出することが分かる。
【0098】
また、図7に、図6の結果から算出された回収率及び除染係数を示す。
なお、Amフラクション(Am frac.)は、Uを含む化学種、Puを含む化学種及びAmを含む化学種のうちAmを含む化学種を優先的に溶出させる溶出液(10M塩酸-0.1M硝酸)を透過させた際の流出液のことであり、Uフラクション(U frac.)は、Uを含む化学種及びPuを含む化学種のうちUを含む化学種を優先的に溶出させる溶出液(7M硝酸)を透過させた際の流出液のことであり、Puフラクション(Pu frac.)は、Puを含む化学種を溶出させる溶出液(1M塩酸)を透過させた際の流出液のことである。
【0099】
図7によれば、Amを含む化学種は、10M塩酸-0.1M硝酸を16mL透過させたうちの最初の2mLで、捕捉されたAmを含む化学種の99%以上を回収でき、この2mL分の流出液(Amフラクション)中のUの除染係数(=(放射性核種溶液中のUの全量)/(Amフラクション中に混入したUの量))は、1.7×10であり、この2mL分の流出液(Amフラクション)中のPuの除染係数(=(放射性核種溶液中のPuの全量)/(Amフラクション中に混入したPuの量))は、7.2×10であることが分かる。
また、Uを含む化学種は、7M硝酸を16mL透過させたうちの最初の5mLで、捕捉されたUを含む化学種の99%を回収でき、この5mL分の流出液(Uフラクション)中のAmの除染係数(=(放射性核種溶液中のAmの全量)/(Uフラクション中に混入したAmの量))は、1.5×10であり、この5mL分の流出液(Uフラクション)中のPuの除染係数(=(放射性核種溶液中のPuの全量)/(Uフラクション中に混入したPuの量))は、3.3×10であることが分かる。
また、Puを含む化学種は、1M塩酸を16mL透過させたうちの最初の8.0mLで、捕捉されたPuを含む化学種の99%以上を回収でき、この8.0mL分の流出液(Puフラクション)中のAmの除染係数(=(放射性核種溶液中のAmの全量)/(Puフラクション中に混入したAmの量))は、6.4×10であり、この8.0mL分の流出液(Puフラクション)中のUの除染係数(=(放射性核種溶液中のUの全量)/(Puフラクション中に混入したUの量))は、2.7×10であることが分かる。
【0100】
ここで、放射性核種を、ICP−MS(Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometer)を用いて分析する際、精度の高い分析値を得るためには、化学分離によって、測定目的物質を損失することなく、可能な限り不純物を除去することが不可欠である。例えば、239Puの測定では、測定溶液マトリックスから生ずる主要な分子イオンである238UHが測定を妨害することが知られており、Puフラクション中のPuを含む化学種の量にもよるが、Puフラクション中のUの除染係数が>10であると、多くの場合は当該妨害を無視できて精度よく測定できる。
従来は、測定の妨害を防止するために、溶媒抽出法及びイオン交換樹脂などを充填したカラム分離法を組み合わせる手法によって化学分離をしていた。
これに対し、本発明では、放射性核種捕捉材料10に放射性核種を含む化学種を捕捉させて溶出させるだけの簡単な方法で化学分離をすることができ、図7に示すように、Puフラクション中のUの除染係数が>10を達成している。
【0101】
以上の結果から、放射性核種捕捉材料10(DEAシート)に捕捉された放射性核種を含む化学種は、好適な溶出液を選択することで、イオン交換樹脂や抽出クロマトグラフィー樹脂を用いる従来法よりも溶出液量が1/10程度で済み、そして、その少ない溶出液量でも捕捉された放射性核種を含む化学種のほとんど全てを溶出できることが分かった。また、複数種類の化学種の中から所望の種類の化学種を取り出すことができるとともに、複数種類の化学種を1種類毎に単離できることが分かった。また、溶出ステップを行うと放射性核種捕捉材料10(DEAシート)には放射性核種を含む化学種がほとんど残存しないため、放射性核種捕捉材料10は、繰り返して使用できるものであることが分かった。また、放射性核種捕捉材料10を用いると、少量の溶出液で高回収率かつ高精製度の測定溶液が得られることが分かった。
【0102】
さらに、放射性核種捕捉材料10(DEAシート)のコンディショニングからPuを含む化学種の溶出までの所要時間(コンディショニングステップと、Uを含む化学種、Puを含む化学種及びAmを含む化学種の捕捉(捕捉ステップ)、Amを含む化学種の溶出(第1溶出ステップ)、Uを含む化学種の溶出(繰り返しステップ)及びPuを含む化学種の溶出(第2溶出ステップ)に要する時間)は、およそ1時間であった。したがって、放射性核種捕捉材料10は、イオン交換樹脂を用いる従来法の約1/5まで処理時間を短縮できた。
また、例えば、イオン交換樹脂を用いる従来法では、放射性核種溶液の透過時間を「7min/bed volume」とした際、Puフラクション中のUの除染係数は「>10」、Uフラクション中のPuの除染係数は「>10」である。それに対し、放射性核種捕捉材料10(DEAシート)は、透過時間を「0.25min/bed volume」とした際、Puフラクション中のUの除染係数は「2.7×10」(図7参照)、Uフラクション中のPuの除染係数は「3.3×10」(図7参照)であった。したがって、放射性核種捕捉材料10は、イオン交換樹脂を用いる従来法の約30倍の流量で処理しても、イオン交換樹脂を用いる従来法よりも高い分離性能を有することが分かった。
【0103】
以上説明した本発明の放射性核種捕捉材料10によれば、連通孔を有する多孔質体よりなる基材1と、基材1に結合された、放射性核種捕捉基(放射性核種を含む化学種を捕捉するためのイオン交換基及び/又はキレート形成基)を有するグラフト高分子鎖3と、を備えている。グラフト高分子鎖3は、基材1にグラフト(すなわち、基材1に共有結合によって接ぎ木)されているとともに、グラフト高分子鎖3の骨格に共有結合された放射性核種捕捉基を有している。すなわち、放射性核種捕捉基は、共有結合によって基材1に固定されており漏出することがないため、放射性核種捕捉材料10を繰り返し使用に適したものとすることができる。
【0104】
また、本発明の放射性核種捕捉材料10によれば、基材1は、厚さが1〜10mmのシート状のものであり、多孔性中空糸膜や多孔性フィルムを基材とした従来の放射性核種捕捉材料と比較して厚みがある。したがって、物理的強度が高い繰り返し使用に適した放射性核種捕捉材料10を構成することができるとともに、取り扱い性に優れた放射性核種捕捉材料10を構成することができる。
さらに、基材1は、連通孔の平均細孔径が0.5〜5μm及び連通孔の体積分率が70〜85%のシート状のものであり、微細な連通孔を多数有している。したがって、拡散性が良好であるためフィルター効率が良く、高速処理時においても高い捕捉性能を有する放射性核種捕捉材料10を構成することができる。
【0105】
また、本発明の放射性核種捕捉材料10によれば、放射性核種捕捉基を有するグラフト高分子鎖3が結合された部分(表面部)と、放射性核種捕捉基を有するグラフト高分子鎖3が非結合された部分(内部)と、の2層構造で構成可能である。すなわち、グラフト高分子鎖が非結合された部分(内部)は、基材1自体の物理的・化学的特性を維持しており、グラフト高分子鎖3が結合された部分(表面部)の支持体としての役割を果たすため、繰り返し使用に適した放射性核種捕捉材料10を構成することができる。
【0106】
また、本発明の放射性核種捕捉材料10によれば、基材1は、ポリオレフィンから構成されている。したがって、物理的・化学的安定性に優れているため、繰り返し使用に適した放射性核種捕捉材料10を構成することができるとともに、基材1自体の反応性が低いため、放射性核種捕捉基による選択的な捕捉が行える放射性核種捕捉材料10を構成することができる。
【0107】
また、本発明の放射性核種捕捉材料10によれば、放射性核種捕捉基を有するグラフト高分子鎖3は、連通孔内に配置されている。すなわち、放射性核種を含む化学種は、連通孔を通っている間に、グラフト高分子鎖3が有する放射性核種捕捉基まで容易にアクセスできる。したがって、放射性核種を含む化学種が捕捉されずに基材1を通り抜けてしまうことが少なく、高速処理時においても高い捕捉性能を有する放射性核種捕捉材料10を構成することができる。
【0108】
また、以上説明した本発明の放射性核種捕捉用カートリッジ100によれば、放射性核種捕捉材料10をカートリッジ20に充填して構成されているため、使い勝手が良い。
【0109】
また、以上説明した本発明の放射性核種捕捉材料10の製造方法によれば、照射ステップと、グラフト重合ステップと、変換ステップと、だけを備える簡単な方法で放射性核種捕捉材料10を製造することができる。
【0110】
また、以上説明した本発明の放射性核種捕捉材料10を用いた放射性核種を含む化学種の分離方法(分離方法1)によれば、捕捉ステップと、溶出ステップと、だけを備える簡単な方法で、放射性核種捕捉材料10を用いて、放射性核種溶液から放射性核種を含む化学種を分離することができる。また、溶出ステップで、放射性核種捕捉材料10によって捕捉された放射性核種を含む化学種のほとんど全てが溶出するため、放射性核種捕捉材料10を繰り返して使用することができる。
【0111】
また、以上説明した本発明の放射性核種捕捉材料10を用いた放射性核種を含む化学種の分離方法(分離方法2)によれば、捕捉ステップと、溶出ステップと、だけを備える簡単な方法で、放射性核種捕捉材料10を用いて、放射性核種溶液から放射性核種を含む化学種を分離することができるとともに、複数種類の化学種の中から所望の種類(所望の1又は複数種類)の化学種を取り出すことができる。
【0112】
また、以上説明した本発明の放射性核種捕捉材料10を用いた放射性核種を含む化学種の分離方法(分離方法3)によれば、捕捉ステップと、第1溶出ステップと、繰り返しステップと、第2溶出ステップと、だけを備える簡単な方法で、放射性核種捕捉材料10を用いて、放射性核種溶液から放射性核種を含む化学種を分離することができるとともに、複数種類の化学種を1種類毎に単離することができる。また、第1溶出ステップ、繰り返しステップ及び第2溶出ステップで、放射性核種捕捉材料10によって捕捉された放射性核種を含む化学種のほとんど全てが溶出するため、放射性核種捕捉材料10を繰り返して使用することができる。
【0113】
なお、本発明は、上記した実施の形態のものに限るものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0114】
<変形例1>
上記した実施の形態では、照射ステップと、グラフト重合ステップと、変換ステップと、によって放射性核種捕捉材料10を製造するようにしたが、例えば、所定の官能基を有する重合性単量体に代えて、放射性核種捕捉基を有する重合性単量体を基材1にグラフト重合すると、グラフト重合ステップのみで、放射性核種捕捉基を有するグラフト高分子鎖3を基材1に結合させることができるため、変換ステップを省略することができる。
ここで、放射性核種捕捉基を有する重合性単量体は、放射性核種を含む化学種を捕捉するためのイオン交換基を有する重合性単量体や、放射性核種を含む化学種を捕捉するためのキレート形成基を有する重合性単量体であれば任意である。
具体的には、放射性核種捕捉基を有する重合性単量体としては、例えば、イオン交換基(カチオン交換基)を有するアクリル酸などが挙げられる。また、例えば、所定の官能基(例えば、エポキシ基)を有する重合性単量体(例えば、グリシジルメタクリレートやグリシジルアクリレートなど)の所定の官能基を放射性核種捕捉基に変換することによって作成した重合性単量体などが挙げられる。
【0115】
<変形例2>
上記した実施の形態では、照射ステップと、グラフト重合ステップと、変換ステップと、によって放射性核種捕捉材料10を製造するようにしたが、例えば、基材1と所定の官能基を有する重合性単量体とを共存させた状態で、基材1に電離放射線を照射すると(照射・グラフト重合ステップ)、上記した実施の形態における照射ステップとグラフト重合ステップとを同時に行うことができる。
ここで、基材1と所定の官能基を有する重合性単量体とを共存させた状態とは、例えば、所定の官能基を有する重合性単量体が溶解する溶液(GMA溶液など)中に基材1を浸漬させた状態や、所定の官能基を有する重合性単量体が溶解する溶液を基材1に含浸させた状態などのことである。
【0116】
<変形例3>
上記した実施の形態では、照射ステップと、グラフト重合ステップと、変換ステップと、によって放射性核種捕捉材料10を製造するようにしたが、例えば、基材1と放射性核種捕捉基を有する重合性単量体とを共存させた状態で、基材1に電離放射線を照射すると(照射・グラフト重合ステップ)、上記した実施の形態における変換ステップを省略できるとともに、照射ステップとグラフト重合ステップとを同時に行うことができる。
ここで、基材1と放射性核種捕捉基を有する重合性単量体とを共存させた状態とは、例えば、放射性核種捕捉基を有する重合性単量体が溶解する溶液中に基材1を浸漬させた状態や、放射性核種捕捉基を有する重合性単量体が溶解する溶液を基材1に含浸させた状態などのことである。
【0117】
上記した実施の形態及び変形例1〜3において、基材1の形状は、シート状に限ることはなく、例えば、円板状や四角板状などであっても良い。
【0118】
上記した実施の形態及び変形例1〜3において、放射性核種捕捉材料10に放射性核種を含む化学種を捕捉させる際、放射性核種捕捉材料10をカートリッジ20に充填するようにしたが、これに限ることはなく、例えば、容器内に所定量の放射性核種捕捉材料10を収容し、その中へ放射性核種溶液を注入して攪拌するなどして、放射性核種捕捉材料10に放射性核種を含む化学種を捕捉させても良い。
【0119】
上記した実施の形態及び変形例1〜3において、放射性核種捕捉材料10は、放射性核種を含む化学種が溶解する放射性核種溶液から放射性核種を含む化学種を捕捉して分離するようにしたが、これに限ることはなく、放射性核種捕捉材料10が有する連通孔を通過できる物質(気体、液体、ゾル、ゲルなど)内に存在する放射性核種を含む化学種であれば、放射性核種捕捉材料10は、その物質から放射性核種を含む化学種を捕捉して分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】本発明の放射性核種捕捉材料の製造経路の一例を示す図である。
【図2】本発明の放射性核種捕捉用カートリッジの一例を示す図である。
【図3】本発明の放射性核種捕捉材料を使用して得た、Pu捕捉効率の流量依存性を示す図である。
【図4】Uを含む化学種及びPuを含む化学種を捕捉している本発明の放射性核種捕捉材料に10M塩酸-0.1M硝酸及び1M塩酸を透過させることによって得た、Uを含む化学種及びPuを含む化学種の溶出挙動を示す図である。
【図5】Uを含む化学種及びPuを含む化学種を捕捉している本発明の放射性核種捕捉材料に7M硝酸及び1M塩酸を透過させることによって得た、Uを含む化学種及びPuを含む化学種の溶出挙動を示す図である。
【図6】Uを含む化学種、Puを含む化学種及びAmを含む化学種を捕捉している本発明の放射性核種捕捉材料に10M塩酸-0.1M硝酸、7M硝酸及び1M塩酸を透過させることによって得た、Uを含む化学種、Puを含む化学種及びAmを含む化学種の溶出挙動を示す図である。
【図7】図6の結果から算出された回収率及び除染係数を示す図である。
【符号の説明】
【0121】
1 基材
2 所定の官能基を有するグラフト高分子鎖
3 放射性核種捕捉基(放射性核種を含む化学種を捕捉するためのイオン交換基及び/又はキレート形成基)を有するグラフト高分子鎖
10 放射性核種捕捉材料
20 カートリッジ
30 放射性核種捕捉用カートリッジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連通孔を有する多孔質体よりなる基材と、
前記基材に結合された、放射性核種を含む化学種を捕捉するためのイオン交換基及び/又はキレート形成基を有するグラフト高分子鎖と、
を備えることを特徴とする放射性核種捕捉材料。
【請求項2】
請求項1に記載の放射性核種捕捉材料において、
前記基材は、厚さが1〜10mm、前記連通孔の平均細孔径が0.5〜5μm及び前記連通孔の体積分率が70〜85%のシート状のものであることを特徴とする放射性核種捕捉材料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の放射性核種捕捉材料において、
前記グラフト高分子鎖は、前記基材の表面部に結合されており、前記基材の内部には非結合されていることを特徴とする放射性核種捕捉材料。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載の放射性核種捕捉材料において、
前記基材は、ポリオレフィンから構成されたものであることを特徴とする放射性核種捕捉材料。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項に記載の放射性核種捕捉材料において、
前記グラフト高分子鎖は、前記連通孔内に配置されていることを特徴とする放射性核種捕捉材料。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項に記載の放射性核種捕捉材料をカートリッジに充填して構成されていることを特徴とする放射性核種捕捉用カートリッジ。
【請求項7】
請求項1〜5の何れか一項に記載の放射性核種捕捉材料の製造方法において、
前記基材に電離放射線を照射する照射ステップと、
次いで、所定の官能基を有する重合性単量体を前記基材にグラフト重合することによって、当該所定の官能基を有するグラフト高分子鎖を当該基材に結合させるグラフト重合ステップと、
次いで、前記所定の官能基の少なくとも一部を前記イオン交換基及び/又は前記キレート形成基に変換する変換ステップと、
を備えることを特徴とする製造方法。
【請求項8】
請求項1〜5の何れか一項に記載の放射性核種捕捉材料の製造方法において、
前記基材に電離放射線を照射する照射ステップと、
次いで、前記イオン交換基を有する重合性単量体及び/又は前記キレート形成基を有する重合性単量体を前記基材にグラフト重合することによって、当該イオン交換基及び/又は当該キレート形成基を有するグラフト高分子鎖を当該基材に結合させるグラフト重合ステップと、
を備えることを特徴とする製造方法。
【請求項9】
請求項1〜5の何れか一項に記載の放射性核種捕捉材料の製造方法において、
前記基材と所定の官能基を有する重合性単量体とを共存させた状態で、当該基材に電離放射線を照射し、当該所定の官能基を有する重合性単量体を当該基材にグラフト重合することによって、当該所定の官能基を有するグラフト高分子鎖を当該基材に結合させる照射・グラフト重合ステップと、
次いで、前記所定の官能基の少なくとも一部を前記イオン交換基及び/又は前記キレート形成基に変換する変換ステップと、
を備えることを特徴とする製造方法。
【請求項10】
請求項1〜5の何れか一項に記載の放射性核種捕捉材料の製造方法において、
前記基材と前記イオン交換基を有する重合性単量体及び/又は前記キレート形成基を有する重合性単量体とを共存させた状態で、当該基材に電離放射線を照射し、当該イオン交換基を有する重合性単量体及び/又は当該キレート形成基を有する重合性単量体を当該基材にグラフト重合することによって、当該イオン交換基及び/又は当該キレート形成基を有するグラフト高分子鎖を当該基材に結合させる照射・グラフト重合ステップを備えることを特徴とする製造方法。
【請求項11】
請求項1〜5の何れか一項に記載の放射性核種捕捉材料を用いた放射性核種を含む化学種の分離方法において、
前記放射性核種捕捉材料によって、前記化学種を捕捉する捕捉ステップと、
前記放射性核種捕捉材料によって捕捉されている化学種を溶出するための溶出液を使用して、当該化学種を当該放射性核種捕捉材料から溶出させる溶出ステップと、
を備えることを特徴とする分離方法。
【請求項12】
請求項1〜5の何れか一項に記載の放射性核種捕捉材料を用いた放射性核種を含む化学種の分離方法において、
前記放射性核種捕捉材料によって、複数種類の前記化学種を捕捉する捕捉ステップと、
前記放射性核種捕捉材料によって捕捉されている複数種類の化学種のうちの所望の種類の化学種を溶出するための溶出液を使用して、当該所望の種類の化学種を当該放射性核種捕捉材料から溶出させる溶出ステップと、
を備えることを特徴とする分離方法。
【請求項13】
請求項1〜5の何れか一項に記載の放射性核種捕捉材料を用いた放射性核種を含む化学種の分離方法において、
前記放射性核種捕捉材料によって、複数種類の前記化学種を捕捉する捕捉ステップと、
前記放射性核種捕捉材料によって捕捉されている複数種類の化学種のうちの1種類の化学種を溶出するための溶出液を使用して、当該1種類の化学種を当該放射性核種捕捉材料から溶出させる第1溶出ステップと、
前記放射性核種捕捉材料によって捕捉されている化学種の種類が1種類になるまで前記第1溶出ステップを繰り返す繰り返しステップと、
前記放射性核種捕捉材料によって捕捉されている化学種の種類が1種類になった際、当該1種類の化学種を溶出するための溶出液を使用して、当該1種類の化学種を当該放射性核種捕捉材料から溶出させる第2溶出ステップと、
を備えることを特徴とする分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−63354(P2009−63354A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−230210(P2007−230210)
【出願日】平成19年9月5日(2007.9.5)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年3月6日 社団法人 日本原子力学会発行の「日本原子力学会 2007年春の年会要旨集(CD−ROM)」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年4月30日 日本膜学会発行の「日本膜学会第29年会 講演要旨集」に発表
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【出願人】(304021831)国立大学法人 千葉大学 (601)
【Fターム(参考)】