説明

放射性物質除去フィルター及びそれを用いるフィルターユニット

【課題】
充填密度が高くかつ圧力損失の低いフィルターを用いて高密度でかつ低圧力損失のフィルターユニットを提供する
【解決手段】
活性炭素繊維を主材料とした2層以上の積層シートからなる放射性物質除去フィルターにおいて、前記積層シートのうち1層以上が編地状の活性炭素繊維シートであることを特徴とする放射性物質除去フィルター。積層シートの透過速度係数が0.02〜0.2cm/s/Paであり、単位面積あたりの重量が少なくとも600g/mである。このフィルターは放射性物質除去フィルターユニットに使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療施設や原子力施設などで発生した放射性気体分の捕集除去する放射性物質除去フィルター及びそれを用いる放射性物質除去フィルターユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、医療施設や原子力施設などにおいては、放射性ヨウ素などの放射性気体が排出されるため、空調施設の気体処理経路中に空気浄化装置を設置し、発生した放射性気体分の濃度を法律に規制された基準値以下に低下させた後、施設外に排出している。
【0003】
近年は、原子力技術の利用の高まりから、大学の研究施設や医療施設あるいは原子力発電所などにおいて排出される放射性気体量も増加する傾向にあり、また、環境面への配慮からも、大気中に排出される放射性気体の濃度の規制が一段と厳しく設定されてきている。
【0004】
このため、設置されている空気浄化装置の見直しが図られてきているが、放射性気体濃度の規制の厳格化が図られると、既設の空気浄化装置を取り替えたり改変したりしなければならないという事態が生じる。そのため、シート化されたチャコールフィルターを内蔵し、該シート状チャコールフィルターへの通過による放射性気体成分の捕集除去を行うことが提案されている(特許文献1参照)。また、ここではチャコールフィルターは織布状、不織布状の活性炭素繊維が用いられている。
【0005】
ここで用いられる活性炭素繊維については、細孔直径3〜30nmの細孔容積が0.15cc/g以下で、細孔直径3nm未満の細孔容積が0.50cc/g以上の細孔形状を有する活性炭素繊維シートに有機吸着に有効なアミンを添着し、この活性炭素繊維からなるシートの少なくとも一方に保護シートを積層したものが提案されている(特許文献2参照)。
【0006】
かかる活性炭素繊維シートの場合、これを必要に応じ、例えば濾材をひだ折加工し、波型に成型されたセパレーターを介しジグザグに折りたたんで収めてユニット化されて使用される。また櫛型のセパレーターをプリーツ間に挿入してジグザグに折りたたんでユニットに収めたりして使用されるが、いずれの場合でも高寿命化のためユニット内に高い充填量で充填した場合ユニットの圧力損失が高くなり、反面圧損を低くするために充填量を低くすると寿命が落ちるという欠点が生じている。
【特許文献1】特開2003−66191号公報
【特許文献2】特開2004−205490号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、充填密度が高くかつ圧力損失の低いフィルターを用いて高密度でかつ低圧力損失のフィルターユニットを提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明はかかる課題を達成するために鋭意検討した結果、得られたものである。
即ち、本発明は活性炭素繊維を主材料とした2層以上の積層シートからなる放射性物質除去フィルターにおいて、前記積層シートのうち1層以上が編地状の活性炭素繊維シートであることを特徴とする放射性物質除去フィルターである。
本発明の放射性物質除去フィルターの好ましい態様では、前記積層シートの透過速度係数が0.02〜0.2cm/s/Paであり、前記積層シートの単位面積あたりの重量が少なくとも600g/mである。
また、本発明の放射性物質除去フィルターの好ましい態様では、本発明の放射性物質除去フィルターは放射性物質除去フィルターユニットに用いられる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、嵩密度が高くかつ圧力損失が小さいフィルターを提供することができる。また、本発明のフィルターを効率良く折りたたんでユニット化することによって、長寿命、低圧力損失の放射性物質除去フィルターユニットを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の放射性物質除去フィルターを以下に詳細に説明する。
図1は本発明のフィルターユニットの全体概略図を示す。図1からわかるようにフィルターユニットはひだ折されたフィルター1とセパレーター2、およびこれらを囲う枠体3から構成される。こうしたユニットの場合、寿命や除去効率を満足するためにできるだけ多くの活性吸着剤を充填することが望ましいが、あまり充填すると圧力損失も高くなるため、高い密度、薄い厚みを有するフィルターを使用してひだ折後のひだとひだの間の間隔を空け、構造抵抗を極力低減することにより圧力損失を低減することがフィルターの設計上望まれている。またひだ折時のハンドリング性も同時に求められる。本発明のフィルターは活性炭素繊維を主材料とした2層以上の積層シートから構成されており、その積層シートのうち1層以上が編地状の活性炭素繊維シートである。層構造が2層以上である場合、薄いシートを重ねて用いることにより本来強度的に弱い構造体を強くすることができ、ユニット作成上の取扱性が容易になる。層構造が3層以上である場合、様々な密度の濾材を効率よく組み合わせかつ程よい厚み、密度や剛性にすることができ、有効である。但し、シートの1層以上が編地状の活性炭素繊維シートであることが強度や密度の点で必要である。そのため編地状の活性炭素繊維シートがない場合、適度の厚みや要求に対応する密度に対する低い圧力損失を保持することが難しく、かつハンドリングを満足できないため好ましくない。
【0011】
本発明のフィルターで用いられる編地状の活性炭素繊維シートを含む積層シートの透過速度係数は0.02〜0.2cm/s/Paであることが望まれる。透過速度係数とはある一定の圧力損失である場合の空気の風速を示すものであるが、望ましくは0.03〜0.19cm/s/Pa、さらには0.04〜0.18cm/s/Paであることが特に望ましい。本来はこうした透過速度係数は大きいほど望ましいが、0.2cm/s/Paより大きい場合、有効な除去効率と寿命を確保することが困難となり、また0.02cm/s/Paより小さい場合は本来の使用条件の風速に対応することが困難になり、好ましくない。
【0012】
本発明のフィルターで用いられる活性炭素繊維は、BET法による比表面積が700m/g以上を有し、かつBJH(Barrett−Joyner−Halenda)法、マイクロポア孔についてはHK(Horvath−Kawazoe)法により求められた細孔分布から算出された細孔直径3〜30nmの細孔容積0.15cc/g以下、細孔直径3nm未満の細孔容積0.50cc/g以上の細孔特性を有するものが有機系沃素化合物の脱離および加熱による脱着が生じないため好ましく使用される。しかしながら、有機系ヨウ素化合物を除去する必要のないフィルターの場合これらの性能に特に限定されない。また、本発明に使用される活性炭素繊維は特に限定されないが、綿、麻などの天然セルロース繊維の他、レーヨン、ポリノジック、溶融紡糸法によるものなどの再生セルロース繊維、さらにはポリビニルアルコール繊維、アクリル系繊維、芳香族ポリアミド繊維、架橋ホルムアルデヒド繊維、リグニン繊維、フェノール系繊維、石油ピッチ繊維等の合成繊維が挙げられる。活性炭素繊維の物性(強度等)が高く、しかも吸着性能が優れた再生セルロース繊維、フェノール系繊維、アクリル系繊維を用い、公知の方法によって活性炭素繊維を製造することが好ましい。
【0013】
また、特にフィルターの有機ヨウ素の除去特性を向上させるために活性炭素繊維に1種類以上の薬品を添着してもよい。かかる薬品としては、1,4−ジアザ−2,2,2−ピシクロオクタン(トリエチレンジアミン)、N,N’−ビス−(3−アミノプロピル)−ピペラジン、N,N−ジメチル−アミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、1,5−ジアザビシクロウンデセン、ポリ−3級−ブチルアミノエチルメタクリレート、ポリエチレンイミン、1,5−ジアザピシクロ〔4,3,0〕ノン−5−エン、1,5−ジアザピシクロ〔5,4,0〕ウンデ7−5−エン、2−メチル−1,4−ジアザピシクロ〔2,2,2〕オクタン、フェニルヒドラジン、2−シアノピリジン、ジイソプロピルアミン、トリメチルアミノエチルピペラジン、ヘキサメチレンテトラミン、メチルポリエチレンイミン、ポリアルキルポリアミン等のアミン類の他、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化錫などの金属ヨウ化物が好適に用いられる。
【0014】
さらに本発明のフィルターで用いられる編地状の活性炭素繊維については上記の材料を前もって所定の条件で編み上げシート化して公知の方法で焼成、賦活されることによって製造される。編組織については特に限定はしないが、リブ編み又は両面編みのシートであると効果的な幾何表面積と空隙率を得ることができ、またフライス編みやスムース編みは、カーボン生地を焼成する際にコース方向に生じる収縮応力による該生地耳部の捲込みが殆ど生じず、編物の利用可能有効幅を確保できるためいずれも望ましい。ここで使用される原料糸はステープルから得られる紡績糸又はフィラメント糸条のいずれか、或いはこれらを混合した混繊糸条であってもよく、特に限定はされない。また単繊維繊度は1.1dtex以上、5.5dtex以下のものが取扱性を確保する観点から好適に利用される。更に撚合わせた糸条の繊度は好ましくは150dtex以上、590dtex以下であることが炭化、賦活処理を行う上で望ましい。
【0015】
編地以外のシート組織としては不織布、織布、紙状物などが存在するが、特に限定されずに厚みや透過速度係数を勘案して適宜使用される。さらにこうしたシートは積層濾材として、ユニット形成時の取扱性を保持するために適宜接合して積層してもよい。接合方法は接着剤によるケミカルボンド法、ホットメルト樹脂によるサーマルボンド法、ニードルパンチによる方法、ステッチボンド法、キルティングによる方法などがあるが、特に限定されない。上述のように本発明のフィルターは2層以上の積層シートからなり、その積層シートは1層以上の編地状活性炭素繊維シートを含み、積層シートの透過速度係数は0.02〜0.2cm/s/Paである。かくして得られた積層されたシートは一般に厚みが2〜20mmであり、重量が200〜2000g/mであるが、設定風量などで適宜勘案されるため特に限定されるものではない。また、積層シートの強度をさらに保持するために上記の活性炭素繊維以外の他の種類のシートを積層してもよい。
【実施例】
【0016】
次に実施例、比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、測定方法は下記の方法に準拠した。
(1)透過速度係数
フィルターサンプルを7cmφに打ち抜き、風速8cm/secの空気を流してそのときの圧力損失を計測する。さらに風速をそのときの圧力損失で除して透過速度係数とした。
(2)細孔特性
島津製作所製ASAP2010を使用し液体窒素温度における窒素吸着等温線より以下の各項目を算出した。
比表面積:BET法による(相対圧0.02〜0.2)
細孔容積:メソポア孔についてはBJH(Barrett−Joyner−Halenda)法により、マイクロポア孔についてはHK(Horvath−Kawazoe)法により求められた細孔分布から算出した。
【0017】
実施例
単繊維繊度2.2dtexで、糸条の繊度295dtexのフェノール系繊維を使用し、22ゲージ両面丸編み機によりフライス編地を編成した。この編物は、目付225g/m、厚さ1.65mmであった。この編物を処理装置に設置し、装置内温度を常温から890℃まで5℃/分の速度で昇温させた後、30分間保持して炭化した。この際の雰囲気は不活性雰囲気(N)とした。炭化後、装置内を水蒸気30vol%を含有する雰囲気(残部はN)とし、引続き890℃で30分間保持して賦活し、編地状シートを得た。シートの目付は122g/mで、厚さは1.1mmであった。比表面積は1280m/g、細孔直径3〜30nmの細孔容積が0.01cc/g、細孔直径3nm未満の細孔容積が0.73cc/gであった。
この編地状シート2枚を熱融着繊維を用いて接着し積層した。さらに公知の方法で得られた比表面積は1490m/g、細孔直径3〜30nmの細孔容積が0.01cc/g、細孔直径3nm未満の細孔容積が0.83cc/g、重量が200g/m、厚みが2.5mmの活性炭素繊維不織布を用意し、先の編地状2層積層品4枚とこの活性炭素繊維不織布1枚を積層した。この積層フィルターの厚みは11mm、透過速度係数は0.12cm/s/Paであった。
このフィルターを幅585mm、山高さ275mm、山数20山でひだ折加工し、内寸586mm角、奥行290mmの枠体に装着し、ひだとひだの間にセパレーターを挿入して、さらに枠体とフィルターとの接面を接着剤で接着してフィルターユニットとした。このときのユニットに占める活性炭素繊維量は9500g、風速28m/分での圧力損失は240Paであった。
【0018】
比較例
公知の方法で得られた比表面積は1490m/g、細孔直径3〜30nmの細孔容積が0.01cc/g、細孔直径3nm未満の細孔容積が0.83cc/g、重量が200g/m、厚みが2.5mmの活性炭素繊維不織布5枚とその両面に重量100g/mのポリプロピレン繊維から成る不織布をニードルパンチにより積層した。この積層フィルターの厚みは13mm、透過速度係数は0.015cm/s/Paであった。
このフィルターを幅585mm、山高さ275mm、山数19山でひだ折加工し、内寸586mm角、奥行290mmの枠体に装着し、ひだとひだの間にセパレーターを挿入して、さらに枠体とフィルターとの接面を接着剤で接着してフィルターユニットとした。このときのユニットに占める活性炭素繊維量は5800g、風速28m/分での圧力損失は430Paであった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のフィルターユニットの全体概略図を示す。
【符号の説明】
【0020】
1 : フィルター
2 : セパレーター
3 : 枠体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性炭素繊維を主材料とした2層以上の積層シートからなる放射性物質除去フィルターにおいて、前記積層シートのうち1層以上が編地状の活性炭素繊維シートであることを特徴とする放射性物質除去フィルター。
【請求項2】
積層シートの透過速度係数が0.02〜0.2cm/s/Paであることを特徴とする請求項1に記載の放射性物質除去フィルター。
【請求項3】
積層シートの単位面積あたりの重量が少なくとも600g/mであることを特徴とする請求項1又は2に記載の放射性物質除去フィルター。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の放射性物質除去フィルターを用いることを特徴とする放射性物質除去フィルターユニット。

【図1】
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【公開番号】特開2006−112820(P2006−112820A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−297711(P2004−297711)
【出願日】平成16年10月12日(2004.10.12)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(394025245)株式会社ワカイダ・エンジニアリング (10)
【Fターム(参考)】