説明

放射性表面源及びその作成方法

放射線治療のための放射性表面源を作成するための方法が開示される。方法は(a)表面を有する構造体を準備する;(b)前記表面の上又は真下に少なくとも一種の放射性核種の原子を収集するように前記少なくとも一種の放射性核種の流束中に前記構造体を位置させる;そして(c)前記原子が前記表面中に挿入されるが放射性崩壊時に前記表面から外にはね返ることができるように前記表面を処理することを含む。本発明の実施態様では、方法は原子がポリマー材料中に収集されるようにポリマー材料の少なくとも一つの層によって表面を被覆することをさらに含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線治療、特に放射性核種の崩壊系列核(decay chain nuclei)を放射することができる放射性表面源に関する。
【背景技術】
【0002】
癌は現在の世界において主要な死因である。癌の有効的な治療は悪性腫瘍の早期発見後に最も容易に達成される。(化学療法以外の)癌を治療するために使用される技術のほとんどは脳、胸、卵巣、結腸などの器官の限定された腫瘍部位に対して向けられる。
【0003】
異常細胞の塊りが固化され、かつ十分に大きいとき、加熱、冷却、照射又は化学切除を使用する腫瘍塊の破壊、外科的除去が可能になる。なぜならばターゲットは容易に識別可能であり、限局化可能であるからである。身体の癌並びに他の疾患を治療するために使用される放射線治療(radiation therapy,radiotherapy,又はtherapeutic radiology)が特に関連性がある。放射線治療は良く規定された空間的輪郭を有する固化した腫瘍を治療するために特に好適である。かかる腫瘍は胸、腎臓及び前立腺癌、並びに脳、肺及び肝臓における二次増殖において遭遇される。
【0004】
ほとんどの放射線治療は遠隔療法で行なわれ、そこでは放射線源はターゲットから遠い。かかるタイプの治療は典型的には、イオン化放射線、深い組織に透過する線を利用し、それは冒された細胞と物理的かつ化学的に反応してそれらを破壊することができる。各治療プログラムは各治療期間の放射線の種類及び量、治療期間の頻度及び期間の全回数によって規定される放射線量を有する。
【0005】
小線源治療は、放射性ペレット又は種が治療されるターゲット組織中に又はその近くに移植される放射線治療の形態である。最も有名な例は前立腺癌の場合であり、そこでは器官全体が実際に照射される。小線源治療で合併症を起こす確率は極小であり、前立腺の経尿道的電気切除術を受けた患者において起こりやすい。そうでなければ、横断的な会陰移植を受ける患者は優れたクオリティ・オブ・ライフを示す。小線源治療に使用される放射性源は源の数ミリメートル以内の全てのそれらの吸収された線量を沈積させるので、源は、隣接する正常な組織に照射される放射線量が最小化され、かつ癌組織自体に照射される線量が最大化されるように、配置されることができる。
【0006】
最も一般的には、放射線治療は補助的な使用方法として使用され、例えば人体の外科的開腹、悪性腫瘍の除去、及び身体部分の縫合後に外部源の放射線量にさらすことによって完全に除去されないレムナント腫瘍細胞を治療するか又は関連する身体部分の縫合前にレムナント腫瘍細胞に直接放射線量を照射する。
【0007】
様々な種類の放射線がそれらの殺細胞効率において幅広く異なることが良く知られている。ガンマ及びベータ線は相対的に低い効率を有する。対照的に、アルファ粒子並びに他の重荷電粒子は多量のエネルギーを移動させることができ、従って極めて効率的である。ある条件では、単一の重粒子によって移動されるエネルギーは細胞を破壊するのに十分である。さらに、ターゲット細胞のまわりの正常組織の非特異的照射は大きく低減されるか又は存在しない。なぜならば重粒子は数個の細胞の直径の距離にわたって放射線を照射できるからである。
【0008】
他方、ヒト組織のそれらの範囲が0.1ミリメートル未満であるという事実は、重粒子を使用できる方法の回数を制限する。特に、アルファ粒子による従来の放射線治療は、腫瘍が皮膚の表面上にあるときに外的に行なわれることが一般的である。
【0009】
国際特許出願公開No.WO 2004/096293(Kelsonら)は、ラジウム−223、ラジウム−224、ラドン−219又はラドン−220の如き放射性核種が予め決められた期間、腫瘍の近く及び/又はその内部に位置される放射線治療法を開示する。放射性核種は治療線量の崩壊系列核及びアルファ粒子を腫瘍中に投与する。放射性核種は、溶質中の放射性核種の溶液を対象に投与することによって、又は放射線治療装置によって、腫瘍の近く及び/又はその内部に位置され、それによって放射性核種(典型的にはラジウム−223又はラジウム−224)は装置の表面の上又は真下になる。
【0010】
放射線治療装置の使用は、放射性核種をその全寿命にわたって閉じ込め、一方腫瘍から離れたその対流を防止する目的のためである。しかしながら、ラジウム(ラジウム−223及びラジウム−224)は水中で高い反応性を有することが知られている。装置が組織と接触されるとき、放射性原子は、体液と相互作用し、装置から時期尚早に除去されるかもしれず、結果として腫瘍に照射される放射線量の減少、従って望ましくない場所に照射される放射線量の増加を生じる。
【0011】
さらに、かかる装置が効果的に作動するためには、放射性原子は、それらの崩壊生成物が十分に高い確率で装置の外へはね返り、必要なアルファ線量を腫瘍に照射することができるように装置の外表面に十分近くなければならない。
【0012】
本発明は、放射性表面源及びその作成方法を提供することによって、従来技術の放射線治療法と関連した問題に対する解決策を提供する。
【発明の開示】
【0013】
本発明の一側面によれば、放射線治療のための放射性表面源を作成するための方法が提供される。その方法は、(a)表面を有する構造体を準備する;(b)表面の上又は真下に少なくとも一種の放射性核種の原子を収集するように少なくとも一種の放射性核種の流束中に構造体を位置させる;そして(c)原子が表面中に挿入されるが放射性崩壊時に表面から外にはね返ることができるように表面を処理することを含む。
【0014】
以下に記載される本発明の好ましい実施態様におけるさらなる特徴によれば、表面は、表面への熱処理の適用によって処理される。
【0015】
記載された好ましい実施態様におけるさらなる特徴によれば、方法は、表面を流体で処理し、表面から少なくとも一種の放射性核種の残留原子を除去することをさらに含む。
【0016】
記載された好ましい実施態様におけるさらなる特徴によれば、熱処理は、表面の下の原子の拡散を起こすために十分な選択された予め決められた温度に表面を加熱することを含む。
【0017】
記載された好ましい実施態様におけるさらなる特徴によれば、方法は、工程(b)の前に、原子が少なくとも一つの層中に収集されるように、ポリマー材料の少なくとも一つの層によって表面を被覆することをさらに含む。この実施態様では、表面はポリマー材料を溶融するのに十分な選択された予め決められた温度に加熱され、それによって原子をポリマー材料中に挿入する。
【0018】
記載された好ましい実施態様におけるさらなる特徴によれば、表面を被覆することは、浸漬、紡糸、インフレーション及び射出成形からなる群から選択される方法によって実施される。
【0019】
記載された好ましい実施態様におけるさらなる特徴によれば、方法は、ポリマー材料の層を流体で処理し、層から放射性核種の残留原子を除去することをさらに含む。
【0020】
本発明の別の側面によれば、放射線治療のための放射性表面源の作成方法が提供される。その方法は、(a)非導電性材料から作られた構造体を準備する;(b)構造体を少なくとも一つの金属層によって少なくとも部分的に被覆し、それによって金属表面を形成する;そして(c)表面の上又は真下に少なくとも一種の放射性核種の原子を収集するように少なくとも一つの放射性核種の流束中に構造体を位置させることを含む。
【0021】
以下に記載された本発明の好ましい実施態様におけるさらなる特徴によれば、非導電性材料は生体吸収性材料を含む。
【0022】
以下に記載された本発明の好ましい実施態様におけるさらなる特徴によれば、方法は、表面から少なくとも一種の放射性核種の残留原子を除去するように金属表面を流体で処理することをさらに含む。
【0023】
記載された好ましい実施態様におけるさらなる特徴によれば、方法は、保護被覆によって金属表面を少なくとも部分的に被覆することをさらに含む。
【0024】
記載された好ましい実施態様におけるさらなる特徴によれば、方法は、保護被覆から少なくとも一種の放射性核種の残留原子を除去するように保護被覆を流体で処理することをさらに含む。
【0025】
以下に記載された好ましい実施態様におけるさらなる特徴によれば、流体での処理は、ポリマー材料の表面保護被覆又は層が流体に接触するとき、表面からの原子の除去が実質的に防止されることを確実にするために、残留原子の量が予め決められたしきい値以下になるまで繰り返される。
【0026】
記載された好ましい実施態様におけるさらなる特徴によれば、少なくとも一種の放射性核種の原子は、表面を負の極性の電圧源に接続することによって収集される。
【0027】
記載された好ましい実施態様におけるさらなる特徴によれば、少なくとも一種の放射性核種の原子は、真空下での直接埋め込みによって収集される。
【0028】
記載された好ましい実施態様におけるさらなる特徴によれば、少なくとも一種の放射性核種の流束中に構造体を位置させることは、ガス環境下で実施される。記載された好ましい実施態様におけるさらなる特徴によれば、ガス環境の圧力及び電圧源の電圧は、原子の速度が熱速度に低下されるように選択される。
【0029】
本発明の別の側面によれば、放射線治療のための放射性表面源が提供される。表面源は、表面、及び表面中に挿入されるが放射性崩壊時に表面から外へはね返ることができる少なくとも一種の放射性核種の原子を有する構造体を含む。表面源は、それが流体(例えば水又は血液)に接触するときに表面からの原子の除去が実質的に防止される利点を有する。
【0030】
以下に記載された好ましい実施態様におけるさらなる特徴によれば、放射性表面源は、表面を被覆するポリマー材料の少なくとも一つの層をさらに含み、少なくとも一種の放射性核種の原子はポリマー材料中に挿入される。
【0031】
本発明のさらに別の側面によれば、ポリマー材料、及び少なくとも一種の放射性核種の原子を含む組成物が提供され、原子はポリマー材料中に挿入されるが放射性崩壊時にポリマー材料から外にはね返ることができる。
【0032】
本発明のさらに別の側面によれば、放射線治療のための放射性表面源が提供される。放射性表面源は、表面を有する一つ以上の金属層によって少なくとも部分的に被覆された生体吸収性材料から作られた構造体を含む。金属層は、表面中に挿入されるが放射性崩壊時に表面から外へはね返ることができる放射性核種の原子を含む。
【0033】
以下に記載された好ましい実施態様におけるさらなる特徴によれば、表面源は、金属層を少なくとも部分的に被覆する保護被覆をさらに含む。
【0034】
記載された好ましい実施態様におけるさらなる特徴によれば、放射性核種の原子は表面の数オングストローム下にある。
【0035】
記載された好ましい実施態様におけるさらなる特徴によれば、放射性核種はラジウムを含む。記載された好ましい実施態様におけるさらなる特徴によれば、ラジウムはラジウム−223及びラジウム−224からなる群から選択される。
【0036】
記載された好ましい実施態様におけるさらなる特徴によれば、ポリマー材料は熱可塑性ポリマー材料を含む。
【0037】
記載された好ましい実施態様におけるさらなる特徴によれば、ポリマー材料はポリメチルメタクリレートを含む。
【0038】
記載された好ましい実施態様におけるさらなる特徴によれば、放射性表面源は、治療される組織において約10〜約100グレイ(Gy)に等価な放射線量によって特徴づけられる。
【0039】
記載された好ましい実施態様におけるさらなる特徴によれば、放射性核種の放射能は約10ナノキュリー〜約10マイクロキュリーである。
【0040】
記載された好ましい実施態様におけるさらなる特徴によれば、原子は、1秒あたり約10〜約10個の核の出て行く流束で放射性表面源から外へ崩壊系列核を放射することができる。
【0041】
記載された好ましい実施態様におけるさらなる特徴によれば、放射性核種の表面密度は約1010〜約1013原子/cmである。
【0042】
記載された好ましい実施態様におけるさらなる特徴によれば、構造体は金属から作られる。
【0043】
記載された好ましい実施態様におけるさらなる特徴によれば、構造体は、針状物、ワイヤ、内視鏡の先端、腹腔鏡の先端及び撮像装置の先端からなる群から選択される。
【0044】
本発明は、上述の組成物、表面源及びその作成方法を提供することによって現在公知の構成の欠点をうまく対処する。
【0045】
特に別の定義がない限り、本書で使用する全ての技術的および科学的用語は、本発明が属する技術分野の通常の熟練者が一般的に理解するのと同じ意味を有する。本書に記載するのと同様または同等の方法および材料を、本発明の実施または試験に使用することができるが、適切な方法および材料を下述する。競合する場合、定義を含め本特許明細書が支配する。加えて、材料、方法、および実施例は単なる例証であって、限定を意図するものではない。
【0046】
図面の簡単な記述
本発明を本書では、単なる例示として、添付の図面を参照して説明する。今、特に図面を詳細に参照すると、図示する細部は例であって、本発明の好適な実施形態の例証説明を目的としているにすぎず、発明の原理および概念的側面の最も有用かつ分かり易い記述であると信じられるものを提供するために提示することを強調しておく。これに関し、発明の詳細を発明の基本的理解に必要である以上に詳しく示そうとはせず、図面に照らした記述は、本発明の幾つかの形態をいかに実際に具現することができるかを、当業者に明らかにする。
図1〜2は、本発明の様々な例示的実施態様による、放射線治療のための放射性表面源の作成方法のフローチャート図である。
図3a−bは、本発明の様々な例示的実施態様における放射性表面源の概略図である。
図4は、本発明の様々な例示的実施態様の教示による、生体吸収性糸から作られた放射性表面源の概略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
本発明の実施態様は、放射線治療に使用されることができる方法、放射性表面源及び組成物を含む。特に、本発明は、特に限定されないがラジウム−223,ラジウム−224,ラドン−219及びラドン−220の如き放射性核種の崩壊系列核を使用して侵襲的又は非侵襲的方法で腫瘍を局所的に破壊するために使用されることができる。
【0048】
本発明による放射線治療のための方法及び装置の原理及び操作は、図面及び関連記載を参照してより良く理解されうる。
【0049】
本発明の少なくとも一つの実施態様を詳細に説明する前に、本発明はその適用において以下の記載に述べられた又は図面に示された構成要素の構成及び配置の詳細に限定されないことを理解しなければならない。本発明は他の実施態様であることができ又は様々な方法で実施又は実践されることができる。また、本書で使用される語法及び用語は、説明の目的のためであり、限定としてみなすべきではないことを理解しなければならない。
【0050】
放射線は、放射性物質の核が崩壊工程を受けるときにその核によって放出されうる放射性原子又は原子の粒子又は波の流れである。典型的には、四種類の放射線がある:(i)アルファ粒子とも称される、ヘリウム核の形のアルファ放射線;(ii)電子又は陽電子の形のベータ放射線;(iii)電磁波又は光子の形のガンマ放射線;及び(iv)中性核子の形の中性子放射線。
【0051】
放射性物質の核が崩壊を受けて放射線を放射する速度は、崩壊しうる物質中の放射性核の数に正比例する。従って、時間が経つにつれて、物質中の放射性核の数は減少し、崩壊速度は低下する。放射性物質の放射性核の数が1/2倍に減少する時間は物質の半減期と称される。一般に、放射性崩壊は波動関数によって支配される量子力学プロセスであり、その平方は確率として解釈される。短時間では、各放射性核は特定の崩壊確率を有するが、それが実際に行なわれるかどうかは無秩序な確率によって決定される。放射性核が一つより多い崩壊経路を有するとき、特定の経路の崩壊確率は経路の分岐比と称される。
【0052】
アルファ放射体としても知られるアルファ粒子を放射する核は典型的には、陽子に対する中性子の比が極めて低い、重い核である。かかる核からのアルファ粒子(二つの陽子及び二つの中性子)の放射後、比は増大され、核はより安定する。原子の核における陽子の数が元素を決定するので、アルファ粒子の損失は実際にその元素を異なる元素に変化する。例えば、ポロニウム−210(Po)は、3:2の比に相当する、126個の中性子及び84個の陽子を有する。Po−210の原子がアルファ粒子を放射するとき、比は約1%増加され、それは124個の中性子及び82個の陽子を有する安定した鉛−206(Pb)原子を生じる。
【0053】
上記四種の放射線のうち、アルファ粒子が最も重く、電子の質量の約7000倍であり、ヒトの組織の最も短い範囲を有し、0.1ミリメートル未満である。それゆえ、アルファ粒子による従来の放射線治療方法は皮膚の表面の上又はその真下の近くの薄い腫瘍にだけ有効である。
【0054】
Kelsonらは、ラジウム−223又はラジウム−224原子が表面の上又は真下に捕獲される放射性表面源を有する放射線治療装置を教示する。ラジウム原子は、装置から逃げて腫瘍を破壊又は少なくとも損傷するのに十分なエネルギーでアルファ粒子並びに崩壊系列核及び原子を放射する。
【0055】
本実施態様は、放射線治療のために好適な放射性表面源の作成に使用されることができる組成物をうまく提供する。組成物は、ポリマー材料及び一種以上の放射性核種の原子を含む。放射線核種の原子は、ポリマー材料中に挿入されるが、放射性崩壊時にポリマー材料から外にはね返ることができる。
【0056】
本書で使用される「挿入される原子(Intercalated atoms)」は、原子と分子の間で結合エネルギーがあるような方法で、ホスト材料(本実施態様におけるポリマー材料)の分子中又はその分子間に含まれる外来原子に関する。この挿入された状態の結果として、ホスト材料は、放射性崩壊が起こるとき、娘核又は原子がホスト材料から逃げるという意味で放射性になる。挿入された放射性核種原子は、放射性核種原子とホスト材料の分子の間の結合エネルギーが放射性核種の娘核又は原子の自然の反跳エネルギーより低いという意味でホスト材料から外にはね返ることができる。従って、本発明の現在好ましい実施態様によれば、結合エネルギーが原子自体及び/又は隣接原子の放射性崩壊によって破壊されるまで、挿入された原子はホスト材料内のその場所に留まる。
【0057】
ポリマー材料は熱可塑性ポリマー材料であることが好ましい。熱可塑性材料は一般に、ガラス転移温度より十分に上に加熱されると流動し、冷却すると固体になる材料である。それらは弾性又は非弾性であってもよい。本実施態様に有用な熱可塑性材料は、限定されないが、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリオレフィン(例えばイソタクチックのポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブチレン、ポリオレフィンコポリマー又はターポリマー、例えばエチレン/プロピレンコポリマー及びそれらのブレンド)、エチレン−ビニルアセテートコポリマー、エチレンアクリル酸コポリマー、エチレンメタクリル酸コポリマー、ポリスチレン、エチレンビニルアルコール、非晶質ポリエステルを含むポリエステル、ポリアミド、フッ素化熱可塑性樹脂、例えばポリフッ化ビニリデン及びフッ化エチレン/プロピレンコポリマー、ハロゲン化熱可塑性樹脂、例えば塩素化ポリエチレン及びポリエステルブロックアミドを含む。
【0058】
本実施態様の組成は、ポリマー材料の表面上に放射性核種の原子を収集するように放射性核種の流束中にポリマー材料を位置させることによって製造されることができる。次いで、ポリマー材料は、例えば原子が表面中に挿入されるが放射性崩壊時に表面の外へはね返ることができるように熱処理を適用することによって処理されることができる。熱処理が適用されるとき、熱処理はポリマー材料を溶融するように表面の加熱を含むことが好ましい。加熱は、材料のガラス転移温度より十分に高い温度にされることができる。例えば、ポリマー材料がPMMAであるとき、それは約一時間、約180℃以上の温度に加熱されることができる。
【0059】
本書で使用される用語「約」は±10%に関する。
【0060】
処理中、放射性核種の原子はポリマー材料中に拡散する。しかし、ポリマー材料中の放射性核種原子の相対的に短い平均自由経路(PMMA中のラジウム原子に対して数ナノメートル)のため、放射性核種原子は表面に相対的に近いままである。熱処理が使用されるとき、ポリマー材料は、ポリマー材料が固体になるように冷却されることが好ましい。冷却はまた、好適な冷却技術(例えば、換気、人工的な冷却環境の使用など)を使用して実施されることができる。いったんポリマー材料が冷却されると、凝固された材料のマトリックス中に原子が挿入される。表面に対して相対的に近いと、放射性核種原子が崩壊するとき、崩壊生成物(アルファ粒子及び娘核又は原子)はポリマー材料から外へ逃避する。
【0061】
以下は、本発明の様々な例示的実施態様に従って放射性表面源を作成するために使用されることができる方法の記載である。方法は図1及び2のフローチャートに示されている。
【0062】
特記しない限り、以下に記載される方法工程は、多くの組み合わせ又は順序の実施において同時に又は連続して実施されることができることが理解されるべきである。特に、図1及び2のフローチャートの順序は限定して考えられるべきではない。例えば、以下の記載及び特定の順序のフローチャートに現れる二つ以上の方法工程は、異なる順序で(例えば逆の順序で)又は実質的に同時に実施されることができる。さらに、以下の記載又はフローチャートに現れる一つ以上の方法工程は、任意であり、本発明の実施態様の有用かつ容易に理解される記載であると思われるものを提供するために与えられたものである。この点に関して、本発明の範囲を図1及び2に与えられた方法工程に制限することを意図しない。
【0063】
図1を参照すると、方法は工程10で開始し、構造体が準備される工程11に続く。構造体はいかなる材料からも作られることができる。一つの実施態様では、構造体は電気伝導性材料(例えば限定されないが、金属(例えばステンレス鋼))から作られる。本発明者によってなされた実験では、316タイプのステンレス鋼が使用されたが、他の材料も使用することができる。非伝導性構造体を使用して放射性表面源を作成するための好ましい方法は図2を参照して以下に与えられる。
【0064】
構造体の形状は、放射性表面源が作成される放射線治療法の種類に依存する。代表例は、限定されないが、針状物、ワイヤ、糸(例えば縫合糸)、ビーズ、内視鏡の先端、腹腔鏡の先端及び撮像装置の先端が挙げられる。構造体は、残留する粒子又はほこりが実質的にないという意味で清浄されることが好ましい。残留する粒子又はほこりは、例えば構造体を超音波的に、例えばアセトン又は他の清浄液体中で清浄にすることによって、構造体の表面から除去されることができる。
【0065】
本発明の好ましい実施態様によれば、方法は、任意の工程12に続き、そこでは表面はポリマー材料の一つ以上の層によって被覆される。ポリマー材料はホスト材料を演じ、その中に放射性核種の原子が挿入されてホスト材料を放射性にする。ポリマー材料は上記材料のいずれかであることができる。被覆は公知の方法でなされることができる。本発明の一実施態様では、被覆はポリマー材料と溶媒の溶液中に構造体を浸漬することによってなされる。例えば、本発明の発明者によって、メチルイソブチルケトン(MIBK)におけるPMMA(例えば数%、例えば約3重量%)の希釈溶液が構造体を被覆するために有用であることが見出された。
【0066】
本実施態様のために好適な他の被覆技術は、限定されないが、紡糸(例えば電界紡糸、湿式紡糸、ゲル紡糸、乾式紡糸、溶融紡糸、分散紡糸(dispersion spinning)、反応紡糸(reaction spinning)、粘着紡糸(tack spinning))、インフレーション及び射出成型を含む。
【0067】
工程12が実施されるかどうかにかかわらず、方法は工程13に続き、そこでは構造体(ポリマー被覆あり又はなし)は一種以上の放射性核種の流束中に位置され、表面の上又は真下でその原子を収集する。
【0068】
放射性核種は、特に限定されないが、ラジウム−223又はラジウム−224などの相対的に短命の放射性同位体であることが好ましい。ラジウム223が使用されるとき、以下の崩壊系列がそこから放出される:
Ra−223はアルファ崩壊によって11.4dの半減期でRn−219に崩壊する:
Rn−219はアルファ崩壊によって4sの半減期でPo−215に崩壊する;
Po−215はアルファ崩壊によって1.8msの半減期でPb−211に崩壊する;
Pb−211はベータ崩壊によって36mの半減期でBi−211に崩壊する;
Bi−211はアルファ崩壊によって2.1mの半減期でTl−207に崩壊する;
Tl−207はベータ崩壊によって4.8mの半減期で安定したPb−207に崩壊する。
【0069】
ラジウム224が使用されるとき、以下の崩壊系列がそこから放出される:
Ra−224はアルファ崩壊によって3.7dの半減期でRn−220に崩壊する;
Rn−220はアルファ崩壊によって56sの半減期でPo−216に崩壊する;
Po−216はアルファ崩壊によって0.15sの半減期でPb−212に崩壊する;
Pb−212はベータ崩壊によって10.6hの半減期でBi−212に崩壊する;
Bi−212はアルファ崩壊によって1hの半減期でTl−208(36%分岐比)に、又はベータ崩壊によってPo−212(64%分岐比)に崩壊する。
Tl−208はベータ崩壊によって3mの半減期で安定したPb−208に崩壊する;
Po−212はアルファ崩壊によって0.3μsの半減期で安定したPb−208に崩壊する。
【0070】
表面上の放射性核種の収集は、流束生成表面源の如き流束生成手段の利用によって達成されてもよい。例えば、放射性核種がRa−224であるとき、その流束はTh−228の表面源によって生成されることができる。Th−228の表面源は、例えばU−232の親表面源から放射されたTh−228原子を収集することによって作られることができる。かかる親表面源は、例えば金属上にU−232を含有する酸の薄い層を広げることによって作られることができる。
【0071】
あるいは、Th−228の表面源は、39秒の半減期を有するFr−228のビームを収集することによって得られることができる。Fr−228は次にRa−228に崩壊する。Ra−228は5.75年の半減期でAc−228に崩壊し、Ac−228は次に6時間の半減期でベータ崩壊によってTh−228に崩壊する。全崩壊系列、Fr−228,Ra−228,Ac−228及びTh−228はベータ崩壊による。Th−228の集団は数年のオーダの期間にわたってゆっくりと作られ、Ra−228と放射性平衡に近づく。従って、得られたTh−228表面源はそれ自身の1.9年の半減期よりむしろRa−228の5.75年の半減期を特徴とする。
【0072】
放射性核種がRa−223であるとき、その流束はAc−227の表面源によって生成されることができ、それはTh−227と放射性平衡にある。Ac−227表面源は、数十keVのエネルギーを有するFr−227イオンのビームを分離し、数ナノメータの深さで箔にFr−227イオンを埋め込むことによって得られることができる。二つの短い半減期のベータ崩壊の連続によって、Fr−227イオンはAc−227に崩壊し、それによって所望のAc−227表面源を与える。
【0073】
Fr−227又はFr−228を分離するための利用可能な同位体セパレータは、限定されないが、CERN,GenevaのISOLDE又はTRIUMF,VancouverのISACを含む。
【0074】
表面の上又は真下の放射性核種の収集は、複数の方法でなされることができる。例えば、ある実施態様では、収集は静電力によってなされる。流束生成手段から脱着する原子は、(崩壊自体によって及び流束生成手段の層の通過の結果として)正に帯電される。従って、流束生成手段と構造体の間に好適な負の電圧を適用することによって、放射性核種の脱着する核は構造体の外側表面上に収集されることができる。本発明の好ましい実施態様によれば、収集は、核の速度を熱速度まで低下するように好適なガス圧力下でなされ、従って構造体の表面のそれらの収集を容易にする。構造体と脱着する原子の間の静電力は、構造体のサイズが流束生成手段のサイズより小さいときであっても、構造体の表面の上又は真下のかなりの量(例えば95%より多い)の原子を収集する。さらに、構造体の面積が流束生成手段の面積より小さいとき、構造体上で高濃度の放射性核種が達成されることができる。小さいサイズの構造体は、特に最小の侵襲的医療方法において有利である。収集された放射能の量は流束生成手段の強さ、流束生成手段と構造体と幾何学的構成の間の電界の強さに依存する。好ましくは、構造体の表面上の放射性核種の表面密度は約1010〜約1013原子/cmである。
【0075】
別の実施態様では、放射性核種原子の収集は減圧下の直接埋め込みによる。この実施態様では、流束生成手段は構造体に接近して減圧下で位置される。流束生成手段からはね返る核又は原子は減圧間隙を横切り、構造体の表面に埋め込まれる。
【0076】
追加の実施態様では、放射性核種は、放射性核種の十分にエネルギーのあるビームを分離し、放射性核種ビームを構造体上に向けるか又は構造体をビームの経路に位置させ、放射性核種を構造体の表面に埋め込むことによって収集されることができる。放射性核種ビームは例えば上述の同位体セパレータのいずれかを使用して得られることができる。
【0077】
本発明の様々な例示的実施態様では、方法は工程14に続き、そこでは構造体の放射能が測定される。測定は、アルファカウンティング構成、及び構造体の表面から脱着する娘原子(例えばラドン原子)を除去する一定の空気流を使用してなされることができる。放射性核種の特徴的なアルファ粒子の測定は構造体の全放射能を与え、一方ワイヤに残る娘原子によって放出されるアルファ粒子の測定は表面からの娘原子の脱着確率をもたらす。構造体がポリマー材料によって被覆されないとき、娘原子の脱着確率は約45〜55%である。構造体がポリマー材料によって被覆されるとき、脱着確率はより高い(約75〜85%)。なぜならば、内側にはね返る娘原子の多くは半多孔質の緩く充填されたポリマー層を通って外に拡散するからである。
【0078】
もし構造体の放射能が低すぎるなら、方法はより多くの原子を収集するために工程13をループすることができる。もし構造体の放射能が高すぎるなら、過剰の放射性核種原子は、構造体を水の如き洗浄液と接触することによって洗浄されることができる。あるいは、放射性核種は、所望の放射能が達成されるまで介入なしに崩壊させることができる。
【0079】
いったん放射性核種が構造体の表面上に収集されると、方法は工程15に続き、そこでは構造体の表面は、放射性核種の原子が表面中に挿入されるが放射性崩壊時に表面の外へはね返ることができるように処理される。
【0080】
本発明の様々な例示的実施態様では、処理は熱処理を含み、その熱処理は一般に加熱後の冷却を含む。表面がポリマー材料によって被覆される実施態様では、加熱はポリマー材料を溶融するようになされる。かかる加熱は、上でさらに詳述したようにポリマー材料の層中への放射性核種原子の拡散及び挿入を生じる。続く冷却(自然冷却又は能動的な冷却技術による)は凝固されたポリマー材料中の放射性核種原子の挿入を生じる。
【0081】
ポリマー材料による表面の被覆が全くない実施態様では、加熱は、放射性核種原子が構造体の表面中に挿入されるように、表面の下の原子の拡散を起こすのに十分に選択された温度になされることが好ましい。従って、この実施態様では、ホスト材料は構造体自体によって演じられる。この実施態様の典型的な温度は約400℃〜約500℃である。
【0082】
所望により及び好ましくは、方法は、構造体の表面から放射性核種原子の非放射性除去を最小にするように設計された一つ以上の工程を含む。
【0083】
従って、本発明の好ましい実施態様によれば、方法は任意の工程16に続き、そこでは構造体の放射能は上でさらに詳述したように測定される。この段階では、構造体上の放射性核種の放射能は、時間に対する指数関数な崩壊の特徴を除いて、ほぼ同じである。娘原子の脱着確率は、構造体又は凝固された被覆を通る娘原子の拡散の抑制によるポリマー被覆あり及びなしの両方で約45〜55%である。
【0084】
次いで、方法は、任意の工程17に続き、そこでは表面はそこから放射性核種の残留原子を除去するように流体で処理される。処理は、例えば予め決められた期間、例えば30分以上、温水(約40℃)中の構造体の浸漬を含むことができる。
【0085】
次いで、方法は、流体処理中に除去された残留放射性核種原子の量を推定するように工程16に戻ってループすることができる。典型的には、最初の流体処理によって約5%〜約20%の放射能の減少を生じる。
【0086】
本発明の好ましい実施態様によれば、方法は、残留原子の量が予め決められたしきい値以下になるまで工程16と工程17の間をループする。それは例えば流体処理時に2%未満の放射能減少に相当しうる。当業者によって認識されているように、かかる繰り返しは、表面が流体に接触するとき、表面からの原子の除去が実質的に防止されることを確実にする。
【0087】
所望により及び好ましくは、方法は工程18に続き、そこでは構造体の表面は保護被覆によって被覆される。保護被覆は例えばチタンの薄い(例えば厚さ数ナノメートル、例えば5ナノメートル)層であってもよい。保護被覆は非放射性の態様で放射性核種原子をこぼすことから表面をさらに保護するために役立つ。保護被覆は、構造体の表面からのアルファ粒子及び他の崩壊系列生成物の放射を妨げないように選択されることが好ましい。工程18が実行される実施態様では、上の工程12にかかわらず、それを実行することができる。従って、本実施態様による方法は工程12及び18のいずれかの実行又は省略を考慮する。
【0088】
方法は工程19で終了する。
【0089】
図2は、本発明の他の例示的実施態様による放射性表面源を作成するために好適な方法のフローチャート図である。この方法は、放射性核種を担持する構造体が導電性でないときに特に有用である。
【0090】
方法は工程20で開始し、工程21に続き、そこでは構造体が準備される。構造体は非導電性であることが好ましい。より好ましくは、構造体は生体吸収性材料から作られ、それは自然に存在する材料、合成材料、又は自然に存在する材料と合成材料の組み合わせであることができる。生体吸収性材料の代表例は、限定されないが、コラーゲン、及びグリコリド、ラクチド、カプロラクトン、p−ジオキサノン、トリメチレンカーボネートのポリマー、及びそれらの物理的及び化学的組み合わせを含む。
【0091】
生体吸収性材料から作られた放射性表面源を使用する利点は、それがターゲット位置に又はその近くに埋め込まれ、処理後にそれを除去する必要性なしでホスト組織に吸収されることができることである。
【0092】
方法は工程22に続き、そこでは構造体は金属層によって少なくとも部分的に被覆される。金属層は約5ナノメートルから約100ナノメートルの厚さであることが好ましい。金属層は層の上又は真下の放射性核種の収集を容易にするために十分な電気伝導性を構造体に与えるために役立つ。金属層は、遷移金属、希土類金属、アルカリ金属又は二種以上の金属の合金の如きいかなる金属又は金属合金からも作られることができる。本発明の好ましい実施態様によれば、金属層は埋め込み時に構造体が体液と相互作用することができるように構造体を少なくとも部分的に被覆する。この実施態様は、構造体が生体吸収性材料から作られるときに特に有用であり、それによって生体吸収性材料の被覆されない部分は分解されてホスト組織によって吸収される。
【0093】
方法は工程23に続き、そこでは構造体は、上でさらに詳述したように、一種以上の放射性核種の流束中に位置され、表面の上又は真下にその原子を収集する。本発明の好ましい実施態様によれば、方法は工程24に続き、そこでは構造体の放射能が測定される。もし構造体の放射能が低すぎるなら、方法はより多くの原子を収集するために工程23に戻ってループすることができ、逆にもし放射能が高すぎるなら、過剰の放射性核種原子は、上でさらに詳述したように、洗浄されるか又は崩壊させることができる。
【0094】
方法は工程25に続き、そこでは金属層は保護被覆によって被覆される。保護被覆は典型的には約5ナノメートルから約20ナノメートルの厚さである。保護被覆は、金属層が非放射性の態様で放射性核種原子をこぼすことから保護し、同時に金属層からアルファ粒子及び他の崩壊系列生成物の放射を妨げないために好適ないかなる材料からも作られることができる。保護被覆のために好適な材料の代表例は、限定されないが、生体安定性材料及び金属(例えばチタン)を含む。
【0095】
上の実施態様と同様に、方法は、所望により及び好ましくは、構造体の表面からの放射性核種原子の非放射性除去を最小にするように設計された一つ以上の工程を含む。従って、本発明の様々な例示的実施態様では、方法は工程26及び27に続き、そこでは構造体の放射能が測定され(工程26)、構造体が流体で処理されて放射性核種の残留原子を除去する(工程27)。工程26及び27は、上でさらに詳述したように、残留原子の量が予め決められたしきい値以下になるまで繰り返されることができる。
【0096】
方法は工程28で終了する。
【0097】
本実施態様による上の方法の選択された工程の実施は、放射線治療のための放射性表面源をうまく生成し、そこでは放射性核種の原子は表面及び/又はポリマー材料マトリックス(かかるマトリックスが与えられる実施態様では)中に挿入されるが、放射性崩壊時に表面から外へはね返ることができる。
【0098】
図3a−bは、本実施態様の教示に従って作られた放射性表面源30の概略図である。図3aに示された例示的実施態様では、源30は、ポリマー材料34、及びポリマー材料34中に挿入された一つ以上の放射性核種の原子36によって少なくとも部分的に被覆された構造体32を含む。図3bに示された例示的実施態様では、構造体32は金属層38によって部分的に被覆され、原子36は層38中に挿入されている。この実施態様は、構造体32が非導電性材料、例えば生体吸収性材料から作られるときに特に有用である。示されたように、構造体32は露出された部分42及び被覆された部分44を含む。述べたように、構造体32が生体吸収性材料から作られるとき、露出された部分は分解され、ホスト組織によって吸収される。また、図3bに示されているのは、層38を少なくとも部分的に被覆する保護被覆39である。
【0099】
使用において、本実施態様の表面源は腫瘍の近くに又は腫瘍中にもたらされ、放射能の放射は被験者の血液又は組織と表面との間の接触によって低減されない。熱拡撒によって及び/又は体液を介する対流によって娘原子だけが周囲の環境中に放出され、そこに分散される。娘原子及びそれらの多量の崩壊生成物(即ち、アルファ粒子及び他の娘核)は、腫瘍の細胞と相互作用するか又はより小さい質量粒子を生成することによって崩壊系列を継続する。当業者によって認識されているように、放射性核種と腫瘍の間の接近、及び各系列で生成される多数の粒子は、問題の細胞を損傷する確率を有意に増大し、従って腫瘍の効率的な治療を可能にする。
【0100】
本実施態様の表面源は、独立した放射線治療法として、又は腫瘍を外科的に除去もしくは切除するための従来のデバルキング法と組み合わせて使用されることができる。典型的な従来のデバルキング法では、いったん腫瘍が除去されたら、腫瘍のレムンナントは外科的に除去又は切除された領域の周囲の組織になお存在しうる。従って、本発明の好ましい実施態様によれば、表面源は崩壊系列核及びアルファ粒子を周囲の組織に投与するように、予め決められた時間、再び周囲の組織の近く又はその内部に位置させることができる。
【0101】
組織に対して表面源によって与えられる放射線の量は、治療される組織において約10〜約100グレイ(Gy)であることが好ましい。粒子流束に関して、本実施態様の表面源から放射される崩壊系列の出ていく流束は、好ましくは約10〜約10原子/秒、より好ましくは約10〜約10原子/秒である。
【0102】
本実施態様の表面源の放射能は腫瘍中への治療線量の投与を可能とするように選択されることが好ましい。表面源の放射能と投与された線量の間の関係は、腫瘍の種類及びサイズ、表面源が挿入される位置の数(複数の表面源が使用されるとき)、表面源と腫瘍の間の距離などの限定されない多くの要因に依存しうる。本実施態様の表面源の好ましい放射能は、限定されないが、約10ナノキュリー〜約10マイクロキュリー、より好ましくは約10ナノキュリー〜約1マイクロキュリーである。
【0103】
本実施態様の表面源は多くの腫瘍を破壊するために及び多くの種類の癌を治療するために使用されることができる。代表例は、限定されないが、一般に肺、胸部及び脳の癌である。他の例は、限定されないが、神経芽、甲状腺腫瘍、妊娠性栄養膜腫瘍、子宮内腫、カルチノイド腫瘍、結腸癌、食道癌、肝細胞癌、肝臓癌、リンパ腫、形質細胞腫瘍、中皮腫、胸腺腫、蜂窩性軟部肉腫、血管肉腫、類上皮肉腫、骨外性軟骨肉腫、線維肉腫、平滑筋肉腫、脂肪肉腫、悪性線維性組織球種、悪性血管内皮腫、悪性間葉腫、悪性神経鞘腫、滑膜肉腫、黒色腫、神経上皮腫、骨肉腫、平滑筋肉腫、ユーイング肉腫、骨肉腫、横紋筋肉腫、血管腫、粘液肉腫、中皮腫(例えば肺中皮腫)、顆粒膜細胞腫、莢膜細胞腫及びセルトリ−ライデッヒ腫瘍である。
【0104】
従って、本実施態様の表面源は、膣癌、外陰癌、子宮頸癌、子宮内膜癌、卵巣癌、肛門癌、唾液腺癌、喉頭癌、鼻咽頭癌、多くの肺転移及び急性又は慢性の白血病(例えばリンパ性、骨髄性、線毛細胞)の如き限定されない多くの種類の癌を治療するために使用されることができる。
【0105】
本発明の追加の目的、利点及び新規な特徴は、下記実施例を考察すれば、当業者には明らかになるであろう。なお、これら実施例は本発明を限定するものではない。さらに、先に詳述されかつ本願の特許請求の範囲の項に特許請求されている本発明の各種実施態様と側面は各々、下記実施例の実験によって支持されている。
【実施例】
【0106】
下記実施例を参照されたい。実施例は上記説明とともに限定されない方式で本発明を例示する
【0107】
生体吸収性放射性表面源の作成
本発明の様々な例示的実施態様に従って試作品の生体吸収性放射性表面源40を作った。試作品の表面源は図4に概略的に示されている。3〜0ゲージ(約0.3ミリメートルの直径d)の生体吸収性縫合糸42を表面源の構造体として使用した。糸はモノフィラメントグリコマー(glycomer)(No.631;BIOSYN(登録商標)のGM−332)から作られた。
【0108】
糸は第一チタン層44を形成するためにRFスパッタリングシステムにおいてチタンによって被覆された。層44の最大厚さhは約300オングストロームであった。糸の後側の約90度の区域46は被覆されないようにした。
【0109】
4ミリメートルの長さの被覆された糸が、Th−228発生手段からはね返るRa−224の流束中に位置された。46.5時間の収集期間後、Ra−224の放射能、及び源からのRn−220の脱着確率が測定された。測定は標準的なアルファ粒子のカウンティング室中で実施され、脱着するRn−220原子を除去する一定の空気流を用いた。脱着確率は源におけるRa−224カウントに対する残留Rn−220カウントの比率から決定された。Ra−224の全放射能は180±7ナノキュリーであり、Rn−220脱着確率は48±4%であった。放射能全体はTh−228発生手段によって放射されたRa−224原子の約80%の収集効率を表した。Rn−220の脱着確率は表面の最外層上で崩壊する原子から予測した50%の理論値に良く合致する。
【0110】
チタンの薄層48はRFスパッタリングによって層44上に付着された。層48は表面源40の保護被覆として作用した。RFスパッタリング中、糸の方向は、層48を、露出させた区域46上ではなく層44上に整合するように選択された。層48の最大厚さhは約150オングストロームであった。
【0111】
表面源は、自由なチタン粒子及び残留Ra−224原子を除去するために室温で水に浸漬された。40分の浸漬後、Ra−224の放射能、及び源からのRn−220の脱着確率はアルファ粒子カウンティング室中で測定された。Ra−224の放射能は9%±4%低下され、Ra−220の脱着確率は19%±4%であった。Rn−220の脱着確率の減少は金属保護被覆48の存在によって説明され、それはRn−220原子の一部がそれを通過するのを妨げる。
【0112】
放射能の測定に続いて、試作品の表面源を19時間の期間、再び室温で水に浸漬した。放射能はアルファ粒子カウンティング室中で再測定された。Ra−224の半減期(3.66日)による小さな変化を考慮に入れると、Ra−224の放射能の変化は無視することができ(0%±3%)、Rn−220の脱着確率は26%±4%であった。それゆえ、本実施態様の放射性表面源が水と接触すると、表面からの原子の除去が実質的に防止されることが証明された。
【0113】
分かりやすくするため別個の実施態様で説明されている本発明の特定の特徴は、組み合わせて単一の実施態様にして提供することもできることは分かるであろう。逆に、簡略化するため単一の実施態様で説明されている本発明の各種特徴は、別個に又は適切なサブコンビネーションで提供することもできる。
【0114】
本発明を、その具体的実施態様とともに説明してきたが、多くの変形と変更が当業者には明らかであることは明白である。したがって、本発明は、本願の特許請求の範囲の精神と広い範囲内に入っているこのような変形と変更をすべて含むことを意図される。本明細書に記載のすべての刊行物、特許及び特許願は、あたかも、個々の刊行物、特許又は特許願各々が、本願に具体的にかつ個々に参照して示されているように、本願に援用するものである。さらに、本願における任意の文献の引用もしくは確認は、このような文献が本発明に対する従来技術として利用できるという自白とみなすべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0115】
【図1】本発明の様々な例示的実施態様による、放射線治療のための放射性表面源の作成方法のフローチャート図である。
【図2】本発明の様々な例示的実施態様による、放射線治療のための放射性表面源の作成方法のフローチャート図である。
【図3】本発明の様々な例示的実施態様における放射性表面源の概略図である。
【図4】本発明の様々な例示的実施態様の教示による、生体吸収性糸から作られた放射性表面源の概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線治療のための放射性表面源を作成するための方法であって、以下の工程を含む方法:
(a)表面を有する構造体を準備する;
(b)前記表面の上又は真下に少なくとも一種の放射性核種の原子を収集するように前記少なくとも一種の放射性核種の流束中に前記構造体を位置させる;そして
(c)前記原子が前記表面中に挿入されるが放射性崩壊時に前記表面から外にはね返ることができるように前記表面を処理する。
【請求項2】
前記表面を処理することは、表面への熱処理の適用を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記熱処理の適用は、前記表面の下の前記原子の拡散を起こすために十分な選択された予め決められた温度に前記表面を加熱することを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程(b)の前に、前記原子が前記少なくとも一つの層中に収集されるように、ポリマー材料の少なくとも一つの層によって前記表面を被覆することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリマー材料の少なくとも一つの層を流体で処理し、前記少なくとも一つの層から前記少なくとも一種の放射性核種の残留原子を除去することをさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記工程(b)の前に、前記原子が前記少なくとも一つの層中に収集されるように、ポリマー材料の少なくとも一つの層によって前記表面を被覆することをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記熱処理の適用は、前記ポリマー材料を溶融するのに十分な選択された予め決められた温度に前記表面を加熱し、それによって前記原子を前記ポリマー材料中に挿入することを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記表面を被覆することは、浸漬、紡糸、インフレーション及び射出成形からなる群から選択される方法によって実施される、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記構造体は非導電性材料から作られ、前記工程(a)は、少なくとも一つの金属層によって前記構造体を少なくとも部分的に被覆し、それによって前記表面を形成することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
放射線治療のための放射性表面源を作成するための方法であって、以下の工程を含む方法:
(a)非導電性材料から作られた構造体を準備する;
(b)前記構造体を少なくとも一つの金属層によって少なくとも部分的に被覆し、それによって表面を形成する;そして
(c)前記表面の上又は真下に少なくとも一種の放射性核種の原子を収集するように前記少なくとも一つの放射性核種の流束中に前記構造体を位置させる。
【請求項11】
前記非導電性材料は生体吸収性材料を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
保護被覆によって前記表面を少なくとも部分的に被覆することをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記表面から前記少なくとも一種の放射性核種の残留原子を除去するように前記表面を流体で処理することをさらに含む、請求項1又は10に記載の方法。
【請求項14】
前記保護被覆から前記少なくとも一種の放射性核種の残留原子を除去するように前記保護被覆を流体で処理することをさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記残留原子の量が予め決められたしきい値以下になるまで少なくとも一回、前記流体での処理を繰り返すことをさらに含む、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも一種の放射性核種の原子は、真空下での直接埋め込みによって収集される、請求項1又は10に記載の方法。
【請求項17】
前記少なくとも一種の放射性核種の原子は、前記表面を負の極性の電圧源に接続することによって収集される、請求項1又は10に記載の方法。
【請求項18】
前記少なくとも一種の放射性核種の流束中に前記構造体を位置させることは、ガス環境下で実施される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記ガス環境の圧力及び前記電圧源の電圧は、前記原子の速度が熱速度に低下されるように選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
放射線治療のための放射性表面源であって、表面、及び前記表面中に挿入されるが放射性崩壊時に前記表面から外へはね返ることができる少なくとも一種の放射性核種の原子を有する構造体を含み、前記表面が流体に接触するとき、前記表面からの前記原子の除去が実質的に防止される、放射性表面源。
【請求項21】
前記表面を被覆するポリマー材料の少なくとも一つの層をさらに含み、前記少なくとも一種の放射性核種の原子は前記ポリマー材料中に挿入される、請求項20に記載の放射性表面源。
【請求項22】
少なくとも一種の放射性核種の原子を有する少なくとも一つの金属層によって少なくとも部分的に被覆された生体吸収性材料から作られた構造体を含む、放射線治療のための放射性表面源であって、前記原子は前記少なくとも一つの金属層中に挿入されるが放射性崩壊時に前記少なくとも一つの金属層から外へはね返ることができる、放射性表面源。
【請求項23】
前記少なくとも一つの金属層を少なくとも部分的に被覆する保護被覆をさらに含む、請求項22に記載の放射性表面源。
【請求項24】
ポリマー材料、及び少なくとも一種の放射性核種の原子を含む組成物であって、前記原子は前記ポリマー材料中に挿入されるが放射性崩壊時に前記ポリマー材料から外にはね返ることができる、組成物。
【請求項25】
前記少なくとも一種の放射性核種の原子は、前記表面の数オングストローム下にある、請求項3,10又は20に記載の方法、放射性表面源。
【請求項26】
前記少なくとも一種の放射性核種はラジウムを含む、請求項1,10,20,22又は23に記載の方法、放射性表面源又は組成物。
【請求項27】
前記ラジウムはラジウム−223及びラジウム−224からなる群から選択される、請求項26に記載の方法、放射性表面源又は組成物。
【請求項28】
前記ポリマー材料は熱可塑性ポリマー材料を含む、請求項4,6,21又は24に記載の方法、放射性表面源又は組成物。
【請求項29】
前記ポリマー材料はポリメチルメタクリレートを含む、請求項4,6,21又は24に記載の方法、放射性表面源又は組成物。
【請求項30】
放射性表面源は、治療される組織において約10〜約100グレイに等価な放射線量によって特徴づけられる、請求項1,10,20又は22に記載の方法又は放射性表面源。
【請求項31】
前記少なくとも一種の放射性核種の放射能は約10ナノキュリー〜約10マイクロキュリーである、請求項1,10,20,22又は23に記載の方法、放射性表面源又は組成物。
【請求項32】
前記原子は、1秒あたり約10〜約10個の核の出て行く流束で放射性表面源から外へ崩壊系列核を放射することができる、請求項1,10,20又は22に記載の方法又は放射性表面源。
【請求項33】
前記少なくとも一種の放射性核種の表面密度は約1010〜約1013原子/cmである、請求項1,10,20又は22に記載の方法又は放射性表面源。
【請求項34】
前記構造体は金属から作られる、請求項1又は20に記載の方法又は放射性表面源。
【請求項35】
前記構造体は、針状物、ワイヤ、ビーズ、内視鏡の先端、腹腔鏡の先端、及び撮像装置の先端からなる群から選択される、請求項1又は20に記載の方法又は放射性表面源。
【請求項36】
前記構造体は、縫合糸である、請求項10又は20に記載の方法又は放射性表面源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−503491(P2009−503491A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−523530(P2008−523530)
【出願日】平成18年7月23日(2006.7.23)
【国際出願番号】PCT/IL2006/000850
【国際公開番号】WO2007/013060
【国際公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(501177609)ラモット・アット・テル・アビブ・ユニバーシテイ・リミテッド (14)
【氏名又は名称原語表記】RAMOT AT TEL AVIV UNIVERSITY LTD.
【Fターム(参考)】