説明

放射温度計

【課題】 測定対象物の有無および温度変化を容易に検出することが可能な放射温度計を提供する。
【解決手段】 CPUは、測定対象物に対応するデジタル信号およびサーミスタに対応するデジタル信号をそれぞれ取得する。次に、CPUは、チャンネルに割り当てられた測定モードの確認を行う。続いて、CPUは、使用者により設定された測定モードが第1のモードであるか否かを判別する。設定された測定モードが第1のモードである場合、CPUは、比較処理を行う。次に、CPUは、比較結果を検出信号として出力する。次いで、CPUは、次のチャンネルがあるか否かを判別する。次のチャンネルがない場合、CPUは、検出処理を終了する。次のチャンネルがある場合、CPUは、チャンネルに割り当てられた測定モードの確認を再び行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体から放射される赤外線エネルギーに基づいて、その物体の有無および温度変化を検出する放射温度計に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、測定対象物から放射される赤外線エネルギーを検出し、その赤外線エネルギーを測定対象物の放射率で補正することにより測定対象物の実際の温度を測定する放射温度計がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一般に放射温度計は、サーモパイル等の感熱素子により赤外線エネルギーを検出する。サーモパイルは、複数の熱電対を直列に接続した赤外線受光部(温接点)を備える。
【0004】
このようなサーモパイルにおいて、赤外線受光部に赤外線が入射すると、入射した赤外線の量に応じて温接点と冷接点との間に温度差が生じ、その差に応じた熱起電力が発生する。この熱起電力が測定対象物の温度に対応する。
【0005】
ここで、サーモパイルにおける冷接点の温度は、サーモパイルの内部温度により変化する。そこで、サーモパイルの内部温度をサーミスタにより測定することにより、サーモパイルにより測定された測定対象物の温度をサーモパイルの内部温度に基づいて補正する。それにより、測定対象物の正確な温度を得ることができる。
【0006】
この測定された測定対象物の温度に基づいて、測定対象物の有無が検出され、また、測定対象物の温度変化が検出されている。
【特許文献1】特開平7−324981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の放射温度計を用いて測定対象物の温度を測定する場合、測定対象物の各々の放射率を予め測定しておく必要がある。そのため、使用者に大変手間がかかる。
【0008】
本発明の目的は、測定対象物の有無および温度変化を容易に検出することが可能な放射温度計を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る放射温度計は、測定対象物からの赤外線エネルギーを検出する赤外線検出手段と、測定対象物の検出のための赤外量のしきい値を設定する第1の設定手段と、赤外線検出手段により検出された赤外線エネルギーおよび第1の設定手段により設定された赤外量のしきい値に基づいて測定対象物の検出状態を判定する第1の測定モードを有する判定手段とを備えたものである。
【0010】
本発明に係る放射温度計においては、測定対象物からの赤外線エネルギーが赤外線検出手段により検出される。測定対象物の検出のための赤外量のしきい値が第1の設定手段により設定される。第1の測定モードでは、赤外線検出手段により検出された赤外線エネルギーおよび第1の設定手段により設定された赤外量のしきい値に基づいて測定対象物の検出状態が判定手段により判定される。
【0011】
このように、第1の測定モードにおいては、赤外線エネルギーの温度換算の処理を行うことなく、検出された赤外線エネルギーをそのまま用いることにより、測定対象物の検出状態が高速で判定される。
【0012】
また、第1の測定モードにおいては、測定対象物の赤外線エネルギーおよび赤外量のしきい値に基づいて測定対象物の検出状態が判定されるので、第1の測定モードは、測定対象物の有無の検出または過渡的な変化の検出を行う場合に適している。これは、測定対象物の有無の検出または過渡的な変化の検出の場合には、測定対象物の赤外線エネルギーの変化のみを判別すれば足り、測定対象物の正確な温度は必ずしも必要ないからである。
【0013】
さらに、第1の測定モードにおいては、赤外線エネルギーの温度換算を行う必要がないので、測定対象物の放射率を予め測定する必要がない。それにより、使用者の手間が著しく省ける。
【0014】
放射温度計は、赤外線検出手段の温度を検出する温度検出手段と、温度検出手段により検出された温度を赤外線エネルギーに換算する第1の換算手段と、第1の換算手段による換算結果に基づいて赤外線検出手段により検出された赤外線エネルギーを補正する補正手段とをさらに備え、判定手段は、補正手段による補正結果および赤外量のしきい値に基づいて測定対象物の検出状態を判定する第2の測定モードをさらに有してもよい。
【0015】
この場合、赤外線検出手段の温度が温度検出手段により検出される。温度検出手段により検出された温度が第1の換算手段により赤外線エネルギーに換算される。第1の換算手段による換算結果に基づいて赤外線検出手段により検出された赤外線エネルギーが補正手段により補正される。第2の測定モードでは、補正手段による補正結果および赤外量のしきい値に基づいて測定対象物の検出状態が判定手段により判定される。
【0016】
このように、第2の測定モードにおいては、温度検出手段により検出された測定対象物の赤外線エネルギーが、第1の換算手段による換算結果に基づいて補正手段により補正されることにより、測定対象物の正確な赤外線エネルギーを得ることができる。
【0017】
また、第2の測定モードにおいては、測定対象物の赤外線エネルギーおよび赤外量のしきい値に基づいて測定対象物の検出状態が判定されるので、第2の測定モードは、測定対象物の有無の検出または過渡的な変化の検出を行う場合に適している。これは、測定対象物の有無の検出または過渡的な変化の検出の場合には、測定対象物の赤外線エネルギーの変化のみを判別すれば足り、測定対象物の正確な温度は必ずしも必要ないからである。
【0018】
さらに、第2の測定モードにおいては、赤外線エネルギーの温度換算を行う必要がないので、測定対象物の放射率を予め測定する必要がない。それにより、使用者の手間が著しく省ける。
【0019】
放射温度計は、測定対象物の放射率を記憶する記憶手段と、補正手段による補正結果を記憶手段に記憶された放射率を用いて温度に換算する第2の換算手段と、測定対象物の検出のための温度のしきい値を設定する第2の設定手段とをさらに備え、判定手段は、第2の換算手段による換算結果および第2の設定手段により設定された温度のしきい値に基づいて測定対象物の検出状態を判定する第3の測定モードをさらに有してもよい。
【0020】
この場合、測定対象物の放射率が記憶手段により記憶される。記憶手段に記憶された放射率を用いて補正手段による補正結果が第2の換算手段により温度に換算される。測定対象物の検出のための温度のしきい値が第2の設定手段により設定される。第3の測定モードでは、第2の換算手段による換算結果および第2の設定手段により設定された温度のしきい値に基づいて測定対象物の検出状態が判定手段により判定される。
【0021】
それにより、第3の測定モードは、測定対象物の温度の変化を検出する場合に有用である。すなわち、第3の測定モードは、測定対象物の温度管理に適している。
【0022】
放射温度計は、判定手段による第1、第2および第3の測定モードのうちいずれかを選択する選択手段をさらに備えてもよい。
【0023】
この場合、判定手段による第1、第2および第3の測定モードのうちいずれかが選択手段により選択される。それにより、使用者は、用途に応じて測定モードを変更することができる。
【0024】
判定手段は、複数のしきい値を用いた複数の判定処理を行い、選択手段は、判定手段による複数の判定処理に第1、第2および第3の測定モードのいずれかを選択してもよい。
【0025】
この場合、判定手段による複数の判定処理に第1、第2および第3の測定モードのいずれかが選択手段により選択される。それにより、使用者は、複数の判定処理にそれぞれ異なる測定モードを選択手段により設定できるとともに、複数の判定処理に同じ測定モードを選択手段により設定できる。この場合、同じ測定モードが設定された複数の判定処理には、それぞれ異なるしきい値を設定することができる。
【0026】
放射温度計は、判定手段による第1、第2および第3の測定モードの判定結果を表示する表示手段をさらに備えてもよい。
【0027】
この場合、使用者は、判定手段による第1、第2および第3の測定モードの判定結果を表示手段により容易に視認することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、第1の測定モードにおいては、測定対象物の検出状態が高速で判定される。また、第1の測定モードは、測定対象物の有無の検出または過渡的な変化の検出、すなわち、異物の検出等に有用である。さらに、第1の測定モードにおいては、赤外線エネルギーの温度換算を行う必要がないので、測定対象物の放射率を予め測定する必要がない。それにより、使用者の手間が著しく省ける。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態に係る放射温度計について図面を参照しながら説明する。
【0030】
図1は、本発明の実施の形態に係る放射温度計のブロック図である。
【0031】
図1に示すように、本実施の形態に係る放射温度計100は、ヘッド部100Aおよび本体部100Bを備える。なお、図1においては図示していないが、本体部100Bは表示部94を有する。表示部94については後述する。
【0032】
ヘッド部100Aおよび本体部100Bは互いにケーブル80により接続されている。また、本体部100Bはケーブル81を介して図示しない外部装置に接続される。
【0033】
図2は、図1のヘッド部100Aのブロック図であり、図3は、図1の本体部100Bのブロック図である。
【0034】
図2に示すように、ヘッド部100Aは、サーモパイル10、プリアンプ基板20、メイン基板30、電源基板40および2つのレーザダイオード60,70を備える。
【0035】
サーモパイル10は、赤外線受光部11およびサーミスタ12を備える。プリアンプ基板20には、第1の信号増幅部21および第2の信号増幅部22が実装される。メイン基板30には、第3の信号増幅部31、アナログデジタル変換回路(以下、AD変換回路と略記する。)32,33、CPU(中央演算処理装置)34、記憶部35、表示灯36およびレーザ駆動回路37が実装される。なお、表示灯36は、例えば後述の3つの表示灯36a,36b,36cを含む。
【0036】
電源基板40には、電源回路41、通信回路42およびレーザ駆動回路43が実装される。電源基板40には、電源線および信号線を含むケーブル80が接続されている。
【0037】
サーモパイル10において、赤外線受光部11は測定対象物から放射される赤外線エネルギーを検出する。サーミスタ12はサーモパイル10の内部温度を検出する。
【0038】
プリアンプ基板20において、第1の信号増幅部21は赤外線受光部11の出力信号を増幅する。第2の信号増幅部22はサーミスタ12の出力信号を増幅する。
【0039】
メイン基板30において、第3の信号増幅部31は第1の信号増幅部21の出力信号を増幅する。AD変換回路32は、第1の信号増幅部21の出力信号をデジタル信号に変換し、そのデジタル信号をCPU34へ与える。
【0040】
AD変換回路33は、第2の信号増幅部22の出力信号をデジタル信号に変換し、そのデジタル信号をCPU34へ与える。
【0041】
記憶部35には、サーモパイル10に関する情報等が記憶されている。サーモパイル10に関する情報とは、例えば、赤外線受光部11のゲインおよびオフセット値、サーミスタ12のゲインおよびオフセット値、ならびにサーモパイルの測定温度範囲等である。
【0042】
さらに、記憶部35には、本体部100Bから送信される測定対象物の放射率、温度換算テーブルおよび後述の検出処理における判定のためのしきい値等が記憶されている。なお、温度換算テーブルとは、複数のデジタル信号に対応した温度値を格納したテーブルである。
【0043】
CPU34は、AD変換回路32から与えられるデジタル信号、AD変換回路33から与えられるデジタル信号、ならびに記憶部35に記憶された測定対象物の放射率、後述の温度換算テーブルおよびしきい値に基づいて後述の検出処理を行う。
【0044】
本実施の形態では、記憶部35に複数のしきい値が記憶される。この放射温度計は、複数のしきい値に対応する複数のチャンネルを有する。以下の例では、放射温度計が3チャンネルを有するものとする。また、この放射温度計は、測定モードとして第1、第2および第3のモードを有する。
【0045】
CPU34は、1または複数のチャンネルに対応する検出処理による検出結果を検出信号としてケーブル80および本体部100Bの通信回路92を介して本体部100BのCPU93に与えるとともに、チャンネルに対応する検出信号の状態を表示灯36a,36b,36cの点灯および非点灯によりそれぞれ表示する。
【0046】
また、CPU34は、AD変換回路32の出力信号のレベルに基づいて第3の信号増幅部31のゲインをフィードバック制御する。
【0047】
さらに、CPU34は、表示灯36、レーザ駆動回路37および電源基板40のレーザ駆動回路43の動作を制御する。レーザ駆動回路37は、CPU34の制御によりレーザダイオード60を駆動する。
【0048】
電源基板40において、電源回路41は本体部100Bからケーブル80を通じて与えられる電力をヘッド部100Aの各構成部に供給する。
【0049】
通信回路42およびレーザ駆動回路43は、ともにメイン基板30のCPU34と接続されている。
【0050】
通信回路42は、上述のように、ケーブル80を介してCPU34と本体部100Bとの間で通信を行う。レーザ駆動回路43は、CPU34の制御によりレーザダイオード70を駆動する。レーザダイオード60,70から出射されるレーザ光は測定対象物の測定箇所に照射される。
【0051】
なお、図2において、サーモパイル10はサーミスタ12を備えるが、これに限定されず、サーミスタ12をサーモパイル10外に設けてもよい。
【0052】
また、プリアンプ基板20、メイン基板30および電源基板40上の各構成部の設けられる基板上の位置については、図2の例に特に限定されない。
【0053】
図3に示すように、本体部100Bは、電源回路91、通信回路92、CPU93、表示部94、記憶部95、外部出力回路97、アナログ出力回路98および上記表示部94に設けられたモード設定キー101dを備える。
【0054】
電源回路91および通信回路92にはケーブル80が接続されている。電源回路91は、電池等の電力供給源を備え、その電力を本体部100Bの各構成部およびヘッド部100Aに供給する。通信回路92は、ケーブル80を介してCPU93とヘッド部100Aとの間で通信を行う。
【0055】
記憶部95は、使用者により設定された測定対象物の放射率および後述の検出処理における判定のためのしきい値等を記憶する。これらの放射率およびしきい値等は上記のヘッド部100Aに送信される。
【0056】
使用者は、モード設定キー101dを操作することにより、1または複数のチャンネル(本例では、第1〜第3のチャンネル)に検出処理の測定モードを割り当てることができる。すなわち、使用者は、モード設定キー101dを操作することにより、一つの測定モードによる検出結果をどのチャンネルに割り当てるかを決定することができる。
【0057】
CPU93は、本体部100Bの各構成部の動作を制御する。また、CPU93は、CPU34からの検出処理による検出信号を、外部出力回路97を介してケーブル81に出力する。
【0058】
さらに、CPU93は、測定された温度値に対応するアナログ信号をアナログ出力回路98を介してケーブル81に出力する。
【0059】
次に、本実施の形態に係る放射温度計100のヘッド部100Aの概略構造について説明する。
【0060】
図4は、本実施の形態に係る放射温度計100のヘッド部100Aの一例を示す外観斜視図である。
【0061】
図4に示すように、ヘッド部100Aの各構成部は略直方体形状のヘッドケーシングKに内蔵される。ヘッドケーシングKは、上面KU、下面KD、前面KF、背面KBおよび側面KS1,KS2を有する。
【0062】
以下の説明においては、図4の矢印X,Y,Zに示すように、側面KS1,KS2に垂直な方向をX方向と呼び、前面KFおよび背面KBに垂直な方向をY方向と呼び、上面KUおよび下面KDに垂直な方向をZ方向と呼ぶ。
【0063】
図4において、ヘッドケーシングKの前面KFに赤外線集光部KHおよびレーザ出射部K60,K70が設けられ、上面KUに発光ダイオードからなる表示灯36が設けられ、背面KBにケーブル接続部KJが設けられている。
【0064】
表示灯36a,36b,36cが上面KUにそれぞれ設けられることにより、使用者は表示灯36a,36b,36cの点灯および非点灯状況を容易に認識することができる。
【0065】
赤外線集光部KHにおいては、測定対象物から放射される赤外線が取り込まれる。図2のレーザダイオード60,70により発生されたレーザ光が、レーザ出射部K60,K70から測定箇所へ向けて出射される。それにより、使用者は、測定対象物の測定箇所を容易に認識することができる。
【0066】
ケーブル接続部KJには、ケーブル80が接続される。このケーブル80は、上述のように本体部100Bに接続される。
【0067】
図5は、本体部100Bの表示部94の一例を示す模式図である。
【0068】
図5に示すように、表示部94は、入力部102および表示パネル103を備える。
【0069】
表示部94の入力部102は、モード設定キー101d、セットキー101e、上キー101fおよび下キー101gを含む。
【0070】
また、表示パネル103は、出力表示灯101aおよび7セグメントLED101b,101cを含む。
【0071】
セットキー101eは、例えば各種操作の確定を行う場合等に用いられる。また、使用者は、モード設定キー101d、上キー101fおよび下キー101gをそれぞれ操作することにより、測定対象物の放射率およびしきい値等を設定することができる。
【0072】
出力表示灯101aは、第1〜第3のチャンネルに対応する検出信号の状態を点灯および非点灯によりそれぞれ表示する。
【0073】
7セグメントLED101bは、例えば赤外量等を表示する。7セグメントLED101cは、例えば後述のティーチング処理により算出されたしきい値等を表示する。
【0074】
次に、本実施の形態に係る放射温度計を用いた測定対象物の検出処理についてフローチャートを参照しながら説明する。
【0075】
図6は、CPU34の検出処理を示すフローチャートである。
【0076】
図6に示すように、最初に、CPU34は、AD変換回路32およびAD変換回路33から、測定対象物に対応するデジタル信号(以下、測定対象物の赤外量と呼ぶ)およびサーミスタ12に対応するデジタル信号をそれぞれ取得する(ステップS1)。
【0077】
ここで、CPU34は、サーミスタ12に対応するデジタル信号を取り込むと、記憶部35に記憶されている温度換算テーブルに基づいて、このサーミスタ12に対応するデジタル信号を温度値に換算する。そして、CPU34は、換算された温度値を、この温度値に相当する赤外量のデジタル信号(以下、内部温度の赤外量と呼ぶ)に換算する。なお、換算された内部温度の赤外量は、記憶部35に記憶される。
【0078】
次に、CPU34は、チャンネルに割り当てられた測定モードの確認を行う(ステップS2)。
【0079】
続いて、CPU34は、使用者により設定された測定モードが第1のモードであるか否かを判別する(ステップS3)。設定された測定モードが第1のモードである場合、CPU34は、比較処理を行う(ステップS4)。
【0080】
ステップS4の比較処理においては、CPU34は、上記測定対象物の赤外量が後述のティーチング処理により予め算出されたしきい値よりも大きいか否かを比較する。
【0081】
次に、CPU34は、ステップS4の比較結果を検出信号として出力する(ステップS5)。例えば、上記測定対象物の赤外量が後述のティーチング処理により予め算出されたしきい値よりも大きい場合には、この検出信号がハイレベル(例えばオン状態)となり、上記測定対象物の赤外量がしきい値よりも小さい場合には、この検出信号がローレベル(例えばオフ状態)となる。
【0082】
次いで、CPU34は、次のチャンネルがあるか否かを判別する(ステップS6)。次のチャンネルがない場合、CPU34は、検出処理を終了する。次のチャンネルがある場合、CPU34は、ステップS2の処理に戻る。
【0083】
上記ステップS3において、設定された測定モードが第1のモードでない場合、CPU34は、赤外量の補正を行う(ステップS7)。この場合、CPU34は、上記測定対象物の赤外量から内部温度の赤外量を減算する。以下、この減算値を補正後の赤外量と呼ぶ。
【0084】
続いて、CPU34は、設定された測定モードが第2のモードであるか否かを判別する(ステップS8)。設定された測定モードが第2のモードである場合、CPU34は、比較処理を行う(ステップS9)。
【0085】
ステップS9の比較処理においては、CPU34は、上記補正後の赤外量が後述のティーチング処理により予め算出されたしきい値よりも大きいか否かを比較する。
【0086】
次に、CPU34は、ステップS9の比較結果を検出信号として出力する(ステップS10)。例えば、上記補正後の赤外量が後述のティーチング処理により予め算出されたしきい値よりも大きい場合には、この検出信号がハイレベル(例えばオン状態)となり、上記補正後の赤外量がしきい値よりも小さい場合には、この検出信号がローレベル(例えばオフ状態)となる。その後、CPU34は、ステップS6の処理に進む。
【0087】
上記ステップS8において、設定された測定モードが第2のモードでない場合すなわち、設定された測定モードが第3のモードである場合、CPU34は、補正後の赤外量の温度換算を行う(ステップS11)。
【0088】
この場合、CPU34は、補正後の赤外量に対して、記憶部35に記憶される測定対象物の放射率を乗算する。そして、CPU34は、記憶部35に記憶される温度換算テーブルに基づいて、上記乗算結果を温度値に換算する。
【0089】
続いて、CPU34は、比較処理を行う(ステップS12)。このステップS12の比較処理においては、CPU34は、上記温度値が後述のティーチング処理により予め算出されたしきい値よりも大きいか否かを比較する。
【0090】
次に、CPU34は、ステップS12の比較結果を検出信号として出力する(ステップS13)。例えば、上記温度値が後述のティーチング処理により予め算出されたしきい値よりも大きい場合には、この検出信号がハイレベル(例えばオン状態)となり、上記温度値がしきい値よりも小さい場合には、この検出信号がローレベル(例えばオフ状態)となる。その後、CPU34は、ステップS6の処理に進む。
【0091】
ここで、例えば第1〜第3のチャンネルの検出処理を、この順に行う場合について説明する。
【0092】
例えば、使用者により第1のチャンネルに第3のモードが割り当てられている場合には、CPU34は、上記ステップS1〜S3,S7,S8,S11〜S13,S6の処理を順に行う。
【0093】
次に、第2のチャンネルに第2のモードが割り当てられている場合には、CPU34は、ステップS2,S3,S8〜S10,S6の処理を順に行う。なお、ステップS7の処理は、第1のチャンネルの処理時に行っているので再び行うことはない。これは、第1のチャンネルの処理時にステップS7において算出された補正後の赤外量が記憶部35に記憶されているためである。
【0094】
最後に、第3のチャンネルに第1のモードが割り当てられている場合には、CPU34は、ステップS2〜S6の処理を順に行う。
【0095】
このように、第1〜第3のチャンネルに異なる測定モードがそれぞれ割り当てられてもよいし、これに限定されず、第1〜第3のチャンネルに同じ測定モードがそれぞれ割り当てられてもよい。この場合、図6の比較処理においては、第1〜第3の検出処理には、それぞれ異なるしきい値を設定することができる。
【0096】
図7は、CPU34によるティーチング処理を示すフローチャートである。
【0097】
ティーチング処理とは、上述した検出処理に用いられる各しきい値を予め決定するための処理である。また、以下に述べるティーチング処理については、第1のモードに用いるしきい値を算出する場合について説明するが、測定モードが第2および第3のモードにおけるしきい値も同様に算出される。
【0098】
図7に示すように、最初に、CPU34は、赤外量の最大値および最小値をそれぞれ予め定められた値に初期化する(ステップS51)。例えば、最大値を0に設定し、最小値を100に設定する。
【0099】
次に、CPU34は、測定対象物の赤外量の取り込みを行う(ステップS52)。
【0100】
続いて、CPU34は、取り込まれた赤外量が最大値よりも大きいか否かを判別する(ステップS53)。取り込まれた赤外量が最大値よりも大きい場合、CPU34は、取り込まれた赤外量を新たな最大値とする(ステップS54)。
【0101】
ステップS53において取り込まれた赤外量が最大値以下の場合、CPU34は、取り込まれた赤外量が最小値よりも小さいか否かを判別する(ステップS55)。取り込まれた赤外量が最小値よりも小さい場合、CPU34は、取り込まれた赤外量を新たな最小値とする(ステップS56)。
【0102】
ステップS55において取り込まれた赤外量が最小値以上の場合およびステップS56の処理の後、CPU34は、ステップS57の処理に進む。
【0103】
その後、CPU34は、赤外量のサンプリングを所定回数繰り返したか否かを判別する(ステップS57)。
【0104】
ステップS57において赤外量のサンプリングを所定回数繰り返していない場合、CPU34は、ステップS52の処理に戻り、ステップS52〜S57の処理を繰り返す。
【0105】
赤外量のサンプリングを所定回数繰り返した場合、CPU34は、赤外量のしきい値を算出する(ステップS58)。なお、赤外量のしきい値は、(最大値+最小値)/2により算出される。
【0106】
このように、検出処理において、各測定モードで用いられるしきい値を設定することにより、このしきい値に基づいて測定対象物の出力状態が容易に判断される。
【0107】
本実施の形態においては、使用者は、1または複数のチャンネルに検出処理の測定モードを選択的に割り当てることができる。それにより、用途に応じて測定モードを変更することができる。
【0108】
特に、第1のモードでは、図6におけるステップS7の赤外量の補正およびステップS11の赤外量の温度換算の処理を行う必要がないので、高速で検出信号を出力することが可能である。
【0109】
第2のモードでは、サーモパイル10により測定された測定対象物の赤外量を内部温度の赤外量に基づいて補正することにより、測定対象物の正確な赤外量を得ることができる。
【0110】
また、第1および第2のモードは、測定対象物の赤外量およびしきい値に基づいて測定対象物の有無の検出または過渡的な変化の検出を行う場合に適している。これは、測定対象物の有無の検出または過渡的な変化の検出の場合には、測定対象物の赤外量の変化のみを判別すれば足り、測定対象物の正確な温度は必ずしも必要ないからである。したがって、第1および第2のモードは、異物の検出等に有用である。
【0111】
また、第1および第2のモードを用いる場合には、測定対象物の放射率を予め測定する必要がないので、使用者の手間が省ける。
【0112】
第3のモードは、測定対象物の温度の変化を検出する場合に有用である。すなわち、第3のモードは、測定対象物の温度管理に適している。
【0113】
なお、絶対温度は赤外量の4乗に比例する。そのため、常温付近と高温(例えば500℃程度)付近とでは赤外量に対する温度の変化率が大きく異なる。したがって、しきい値との比率による検出処理を行う場合には、赤外量を用いる方がしきい値に対する検出された赤外量の余裕度を正確に認識することができる。
【0114】
(請求項の各構成要素と実施の形態の各部との対応)
本実施の形態においては、サーモパイル10および赤外線受光部11が赤外線検出手段に相当し、モード設定キー101d、上キー101f、下キー101gおよび記憶部35が第1および第2の設定手段に相当し、CPU34が判定手段および補正手段に相当し、サーミスタ12が温度検出手段に相当し、CPU34および記憶部35が第1および第2の換算手段に相当し、記憶部35が記憶手段に相当し、モード設定キー101dが選択手段に相当し、表示灯36が表示手段に相当する。
【0115】
(他の実施の形態)
なお、上記実施の形態では、ヘッド部100AのCPU34が記憶部35に記憶されている種々の情報に基づき検出処理を行うこととしているが、これに限定されるものではなく、本体部100BのCPU93が記憶部95に記憶されている種々の情報に基づき検出処理を行ってもよい。
【0116】
また、検出処理および各種制御動作を行う制御手段は、ヘッド部100AのCPU34および本体部100BのCPU93のうちどちらか1つでもよい。
【0117】
また、上記実施の形態では、3つのしきい値に対する第1〜第3のチャンネルを設けているが、これに限定されず、例えば1つまたは2つのチャンネルを設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明は、物体から放射される赤外線エネルギーに基づいて物体の温度変化等を検出することに利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】本発明の実施の形態に係る放射温度計のブロック図である。
【図2】図1のヘッド部のブロック図である。
【図3】図1の本体部のブロック図である。
【図4】本実施の形態に係る放射温度計のヘッド部の一例を示す外観斜視図である。
【図5】本体部の表示部の一例を示す模式図である。
【図6】CPUの検出処理を示すフローチャートである。
【図7】CPUによるティーチング処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0120】
10 サーモパイル
11 赤外線受光部
12 サーミスタ
34,93 CPU
35,95 記憶部
36,36a,36b,36c 表示灯
94 表示部
100 放射温度計
100A ヘッド部
100B 本体部
101a 出力表示灯
101b,101c 7セグメントLED
101d モード設定キー
101e セットキー
101f 上キー
101g 下キー
102 入力部
103 表示パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物からの赤外線エネルギーを検出する赤外線検出手段と、
前記測定対象物の検出のための赤外量のしきい値を設定する第1の設定手段と、
前記赤外線検出手段により検出された赤外線エネルギーおよび前記第1の設定手段により設定された赤外量のしきい値に基づいて前記測定対象物の検出状態を判定する第1の測定モードを有する判定手段とを備えたことを特徴とする放射温度計。
【請求項2】
前記赤外線検出手段の温度を検出する温度検出手段と、
前記温度検出手段により検出された温度を赤外線エネルギーに換算する第1の換算手段と、
前記第1の換算手段による換算結果に基づいて前記赤外線検出手段により検出された赤外線エネルギーを補正する補正手段とをさらに備え、
前記判定手段は、前記補正手段による補正結果および前記赤外量のしきい値に基づいて前記測定対象物の検出状態を判定する第2の測定モードをさらに有することを特徴とする請求項1記載の放射温度計。
【請求項3】
前記測定対象物の放射率を記憶する記憶手段と、
前記補正手段による前記補正結果を前記記憶手段に記憶された放射率を用いて温度に換算する第2の換算手段と、
前記測定対象物の検出のための温度のしきい値を設定する第2の設定手段とをさらに備え、
前記判定手段は、前記第2の換算手段による換算結果および前記第2の設定手段により設定された温度のしきい値に基づいて前記測定対象物の検出状態を判定する第3の測定モードをさらに有することを特徴とする請求項2記載の放射温度計。
【請求項4】
前記判定手段による第1、第2および第3の測定モードのうちいずれかを選択する選択手段をさらに備えたことを特徴とする請求項3記載の放射温度計。
【請求項5】
前記判定手段は、複数のしきい値を用いた複数の判定処理を行い、
前記選択手段は、前記判定手段による前記複数の判定処理に前記第1、第2および第3の測定モードのいずれかを選択することを特徴とする請求項3または4記載の放射温度計。
【請求項6】
前記判定手段による前記第1、第2および第3の測定モードの判定結果を表示する表示手段をさらに備えたことを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載の放射温度計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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