説明

放射線の積算吸収線量を測定する方法、及び平板状蛍光ガラス線量計

【課題】放射線の積算吸収線量を測定する方法、及びその測定方法に用いる平板状蛍光ガラス線量計を提供する。
【解決手段】放射線の積算吸収線量を測定する方法は、ファントム内に設置した線量計に放射線を照射し、その線量計への積算吸収線量を測定する方法であって、線量計として平板状蛍光ガラス線量計を用いること、及びその平板状蛍光ガラス線量計に関して予め作成した固有の検量線を用いて積算吸収線量を決定することを特徴とする。平板状蛍光ガラス線量計は、前記の測定方法に用いる線量計である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線の積算吸収線量を測定する方法、及びその測定方法に用いる平板状蛍光ガラス線量計に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線によるガン治療は、外科手術や抗ガン剤投与と共に、ガン療法の中で重要な役割を果たしている。放射線療法は、外科療法と同様に、ガン組織とその周辺のみを治療する局所治療である点で有利なだけでなく、外科療法のような臓器摘出が不要であり、臓器を温存することができる点で優れている。しかしながら、放射線治療においては、X線検査において画像を得るために照射する量とは比較にならないほどの大量の放射線を病巣に照射する必要があるので、副作用を軽減ないし防止するために、ガン組織に対して最適な放射線量を照射してダメージを与え、一方では周囲の正常組織に対しては照射する放射線量をできる限り少なくして損傷を抑えることが求められる。
【0003】
例えば、放射線療法の1つである強度変調療法(Intensity Modulated Radio Therapy:IMRT)では、治療対象となっている患者のガン組織の位置や形状に適合させて、放射線の照射野の形状や放射線の入射方向を調整して患者のガン組織に放射線を照射し、これらの放射線照射による積算吸収線量を最適化している。従って、放射線を患部に正確に集中させて、有効に放射線治療を実施することができる。このようなIMRTを実施する際には、まず治療計画を作成し、患部に対して所定の吸収線量分布の放射線照射を正確に行うことができる照射条件を設定する必要があり、更に、このような治療計画の妥当性を、実験的に検証する必要がある。
この場合、人体内部に線量計を挿入して試験的な線量測定を行うことはできないので、人体等価物質から構成される人体模型、すなわち、ファントム(phantom)内に線量計を挿入する。人体等価物質としては、人体の主要組織である筋肉と等価な水を使用した水ファントムや、水と等価な固体ファントムが使用されている(非特許文献1)。
【0004】
ファントム内に挿入する2次元用線量計としては、X線フィルム(X線銀塩フィルム)が従来から一般的に使用されている。X線フィルム線量計は、ファントム内でX線に感光して潜像を形成するので、続いて現像、定着、水洗、及び乾燥の各工程によってX線画像が形成される。得られたX線画像の濃度から、予め作成しておいた濃度−線量検量線を基準にして、ファントム内での2次元積算吸収線量を正確に測定することができる。前記の現像から乾燥までの連続工程は、一般に自動現像機によって行われており、自動現像機には、ローラによる搬送機構に加えて、液温や乾燥温度などの温度設定装置が設けられている。
【0005】
しかしながら、こうして現像されたX線画像の濃度は、自動現像機毎に異なる現像液の状態(疲労や劣化)や現像温度などの現像条件によって大きな影響を受けるため、キャリブレーション(較正)が必要とされている。簡易な手法としては、21ステップ等のチャートによるキャリブレーション処理が知られているが、光量対放射線量の関係が不正確であるため、誤差を生ずる可能性がある。より正確なキャリブレーションとしては、後述するように、ファントムによる線量測定のたび毎に、検量線を作成することが勧められており、極めて煩雑な操作を行う必要があった。
【0006】
放射線吸収線量を平面上で2次元的に把握する手段としては、前記X線フィルムの他にダイオードやイオンチェンバー等を利用する方法も考えられる。ダイオードの場合は、素子をマトリクス状に配置し、電離量を吸収線量に変換する方法が一般的な手法である。しかしながら、ダイオードは、暗電流の状態が大気温度等により影響を受けてしまい、これはダイオードに印加電圧を与えた場合に電流が微妙に流れてしまうことを意味するので、放射線吸収線量の測定時における一回毎の補正が必要となる。また、ダイオード及びイオンチェンバーを平面上に配列させて、平面的な情報を取得する場合は、その形状が必然的に厚みを生じること、及び電圧を印加する必要があることから、検出素子までの透過線量を測定するために用いられることはあっても、ファントム内から発生する散乱放射線をも測定することは不可能である。
【非特許文献1】日本医学放射線学会物理部会「放射線治療における高エネルギーX線および電子線の吸収線量の標準測定法」80−82,1989,通商産業研究社
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の課題は、ファントム内で放射線吸収線量を線量計によって2次元平面で測定する場合に、キャリブレーション(較正)処理が煩雑ではない測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題は、本発明により、
ファントム内に設置した線量計に放射線を照射し、その線量計への積算吸収線量を測定する方法であって、
線量計として平板状蛍光ガラス線量計を用いること、及び
その平板状蛍光ガラス線量計に関して予め作成した固有の検量線を用いて積算吸収線量を決定すること
を特徴とする、前記の積算吸収線量の測定方法によって解決することができる。
本発明方法の好ましい態様においては、固有の検量線が、既知量の放射線を照射した後の平板状蛍光ガラス線量計に励起線を照射して発光させた蛍光強度の濃度と、前記の既知量放射線との相関から作成された検量線である。
本発明方法の別の好ましい態様においては、ファントムとして水ファントム又は固体ファントムを用いる。
本発明方法の更に別の好ましい態様においては、放射線照射を、放射線療法の治療計画に沿って実施する。
【0009】
また、本発明は、
ファントム内に設置した線量計に放射線を照射し、その線量計への積算吸収線量の分布を示す画像の形成する方法であって、
線量計として平板状蛍光ガラス線量計を用いること、及び
その平板状蛍光ガラス線量計に関して予め作成した固有の検量線を用いて積算吸収線量を決定すること
を特徴とする、前記の積算吸収線量の分布を示す画像の形成方法にも関する。
本発明の画像形成方法の好ましい態様においては、放射線照射を、放射線療法の治療計画に沿って実施する。
【0010】
また、本発明は、前記の本発明による測定方法又は画像形成方法に用いる、平板状蛍光ガラス線量計にも関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の測定方法によれば、現像処理が不要になるので、現像処理に基づく誤差が発生せず、現像液の廃棄問題も発生しない。また、線量計として使用する個々の平板状蛍光ガラス線量計に固有の検量線を用いることができるので、固有検量線を作成した後は、積算吸収線量を測定するたび毎に、検量線を作成する必要がない。更に、平板状蛍光ガラス線量計は、エネルギー依存性が低く、ラジオフォトルミネッセンス(RPL)発光中心の安定性が非常に高いので、前記の固有検量線に基づく濃度−線量変換の信頼性が極めて高くなる。更にまた、平板状蛍光ガラス線量計は、アニール処理により繰り返して再利用することができ、廃棄物処理の問題も発生しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明による測定方法は、公知のファントム(例えば、水ファントム又は固体ファントム)を用いて実施することができる。水ファントムとしては、本発明者が開発したファントム要素及びその要素を含む水ファントム(特願2003−390240号)を用いるのが好ましい。
最初に、本発明者が開発し、本発明の測定方法に好適に使用することのできる前記のファントム要素、及びそのファントム要素を含む水ファントムの好ましい態様を、添付図面を参照しながら説明する。
【0013】
図1は、水ファントム10を外側固体ファントム4に装着した状態を示す斜視図であり、図2は、その一部を切り欠いて示す斜視図であり、図3は、その分解図である。
本発明者が開発した前記のファントム要素100は、立方体状箱体1と正方形型蓋部2とからなる(図3参照)。このファントム要素100を構成する立方体状箱体1の収容室15の内部に正方形型線量測定手段3を嵌め込んで挿入(嵌挿)した状態を、未装着状態の正方形型蓋部2と共に、図4に示す。また、図1〜図4に示す実施態様で用いる線量測定手段3は、図5(分解斜視図)に示すように、2枚の正方形型フレーム32,35で周縁部を挟まれた正方形型平板状蛍光ガラス線量計31である。フレーム32,35は、それぞれ正方形型枠部34,37と、それらに囲まれた正方形型開口窓33,36を有し、平板状蛍光ガラス線量計31は、前記の枠部34,37によって挟まれて四周を固定され、開口窓33,36の部分で露出される。なお、放射線が照射される側の平板状蛍光ガラス線量計31の中央部が露出されていれば充分であるので、放射線が照射される側のフレームとしては、図5に示すように、正方形型開口窓33を有する正方形型フレーム32を用い、反対側のフレームとしては、開口窓を有していないフレームを用いることもできる。また、本発明の測定方法においては、線量測定手段3として、図6に示すように、フレーム32,35を用いずに、平板状蛍光ガラス線量計31を単独で用いることもできる。
【0014】
前記のファントム要素100を構成する立方体状箱体1は、上面全体が開口しており、その上面開口部から線量測定手段3の挿入と、水の充填を行うことが可能である。前記立方体状箱体1は、その対向する内部側壁表面に前記立方体状箱体1の軸方向(図3及び図4の矢印Xの方向)に延びる少なくとも一対の溝11を有し、その一対の溝11のそれぞれに、耐水性で平板状の正方形型線量測定手段3の両側端部30A,30Bを挿入することによって、前記正方形型線量測定手段3を前記立方体状箱体1の軸方向Xに対して平行な方向で着脱自在に装着することができる。
【0015】
前記の溝11は、それぞれ、立方体状箱体1の対向する2つの内部側壁表面に設ける。その際、それぞれの対向する内部側壁表面において、所定の間隔(例えば、1cm)を設け、しかも、上端部(上面と接する地点)から下端部(底面と接する地点)に至る全長に亘って設ける。また、線量測定手段3の両側端部30A,30Bを対向する一対の溝11に嵌め込んで挿入(嵌挿)した場合に、線量測定手段3が、残りのもう1組の対向する2つの内部側壁表面(溝11を設けていない内部側壁表面)と平行になるように設ける。前記の立方体状箱体1の対向する2つの内部側壁面に、複数の溝11をそれぞれ同間隔を開けて設けることにより、1枚の線量測定手段3を種々の位置に嵌挿させ、種々の位置における線量測定を実施することができるだけでなく、複数枚の線量測定手段3を同時に嵌挿させて、線量測定を三次元的に実施することも可能になる。また、溝11は、立方体状箱体1の底面の内側表面に設ける必要はないが、底面の内側表面に設けることもできる。更に、立方体状箱体1の対向する2つの内部側壁表面だけでなく、もう1組の対向する2つの内部側壁表面に溝を設けることもできる。
【0016】
前記立方体状箱体1に線量測定手段3を挿入した後に、立方体状箱体1の収容室15の内部に、水を充填し、続いて、正方形型蓋部2で、前記立方体状箱体1の開口上面を水密に密閉する。水の充填は、線量測定手段3を挿入した前記立方体状箱体1の全体を水槽(図示せず)の内の水中に完全に水没させ、立方体状箱体1の収容室15の内部が水で完全に充填された状態にし、その水中にて正方形型蓋部2で開口上面を覆い、正方形型蓋部2の周縁部に適当な間隔を開けて設けたボルト用貫通ネジ孔23から、立方体状箱体1の上面縁部に設けたネジ孔13にボルト(図示せず)を通し、各ボルトを締め付けて水密に密閉することによって行うことができる。なお、ボルトは、放射線照射に影響を与えないため、樹脂製(非金属製)であることが好ましい。
【0017】
正方形型蓋部2は、例えば、図4(外側表面の斜視図)及び図7(内側表面の斜視図)に示すとおり、水密に密閉した場合に外側に露出する基台21と、その基台21の内側表面の中央部に突出する中央突出部24と、その中央突出部24の周辺部に設けた緩衝材としてのゴムパッキング22とを含む。前記の中央突出部24の突出部は、立方体状箱体1の収容室15の上部内側壁面の形状と一致し、中央突出部24は収容室15内部に入り込む。前記の中央突出部24の突出部を、立方体状柱状箱体1の収容室15内部に挿入することにより、立方体状柱状箱体1の収容室15の内部に嵌挿された線量測定手段3を上方から押さえて固定することが好ましい。また、ゴムパッキング22は、前記立方体状箱体1の上面の正方形露出面17の形状と一致する。従って、ボルト用貫通ネジ孔23からネジ孔13を通るボルトを締め付けると、ゴムパッキング22が締め付けられるので、前記立方体状箱体1の収容室15の内部に充填された水は、漏れ出すことがない。なお、中央突出部24は、立方体状箱体1の収容室15の内部に進入するので、その進入する距離に相当する長さだけ、正方形型線量測定手段3の寸法を短くしておく(厳密には、長方形型線量測定手段3となる)。
【0018】
正方形型蓋部2は、図4及び図7に示すとおり、気泡排出口26とそれを閉鎖する栓25を有することができる。水槽内で前記立方体状箱体1の収容室15の内部に水を充填し、正方形型蓋部2で水密に密閉した後に、収容室15の内部に気泡が残留することがあるので、水槽内の水中に完全に浸漬させた状態で栓25を開封し、気泡を外部に除去してから再度密封することができる。なお、立方体状箱体1を最初に水槽内の水に完全に浸漬させて収容室15の内部に水を充填し、続いて、線量測定手段3を一対の溝11に嵌め込んで挿入(嵌挿)し、その後で正方形型蓋部2で水密に密閉することもできる。
【0019】
こうして正方形型蓋部2で水密に密閉して形成された水ファントム10は、図1〜図3に示すように、外側固体ファントム4に装着する。外側固体ファントム4は、その内部に、水ファントム収容部41を有しており、外側表面は人体の外形と同様の形状に成形されている。また、外側固体ファントム4の外側表面には、放射線照射を実施する場合の可視マークとなる参照線43とその交点42を設けるのが好ましい。
【0020】
水ファントム10を含んだ状態で外側固体ファントム4に放射線照射を実施し、その終了後に水ファントム10を取り出し、続いて線量測定手段3を取り出して、線量測定手段3に記録された照射線量を測定する。
【0021】
本発明方法で用いる水ファントムあるいはファントム要素において、柱状箱体の外観形状は特に限定されず、例えば、図1〜図4に示した立方体状箱体1であるか、若しくは直方体状箱体であるか、あるいは、図8に示すように、円柱状箱体1Aであるか、あるいは、楕円柱状箱体であることもできる。なお、図8では、前記の円柱状箱体1Aの円柱状収容室15の内部に正方形型又は長方形型線量測定手段3を嵌め込んで挿入(嵌挿)した状態を、未装着状態の円形型蓋部2Aと共に示す。
【0022】
本発明方法で用いる柱状箱体が、図1〜図4に示した立方体状箱体1である場合には、外側固体ファントム4の内部の水ファントム収容部41に装着する際に、90°回転させて、立方体状箱体1に挿入されている線量測定手段3の方向を90°回転させることができる。また、本発明方法で用いる柱状箱体が、図8に示すような円柱状箱体1Aである場合には、外側固体ファントム4の内部の円柱状水ファントム収容部41に装着する際に、任意の角度で回転させ、円柱状箱体1Aに挿入されている線量測定手段3の方向を任意の角度で回転させることができる。
【0023】
本発明方法で用いる水ファントムを収容する外側固体ファントムの外形は、人体の外形と同様に成形するのが好ましい。固体ファントムの材料としては、水等価物として従来から慣用されているポリスチレン(密度=1.05)、アクリル樹脂(密度=1.18)、又はパラフィン系組成物である「Mid Dp」(密度=1.00;パラフィン50.0%,ポリエチレン25.0%,松ヤニ16.2%,酸化マグネシウム6.4%,酸化チタン2.4%)を挙げることができる。また、固体外側ファントムの中に、補正用ファントム、例えば、骨ファントムとしてのポリテトラフルオロエチレン(密度=1.85)、脂肪ファントムとしてのポリエチレン(密度=0.93)、あるいは肺ファントムとしてのコルク(密度=0.3〜0.4)を含有させることもできる。
【0024】
本発明による測定方法は、前記の通り、公知の固体ファントムを用いて実施することもできる。
図9は、多数の板状固体ファントムを積み重ねて形成した固体ファントム6である。この固体ファントム6は、複数の板状ファントム61を積み重ね、各板状ファントム61に設けられている固定バー用孔62に、固定バー(図示せず)を貫通させて形成される。平板状蛍光ガラス線量計31は所望の位置に挟んで設けることができ、図9の場合は、板状ファントム61aと板状ファントム61bとの間に挟んで設置することができる。各板状ファントム61は、それぞれ所定の正確な厚さ(例えば、1cm)を有しているので、放射線の照射距離を正確に設定することができる。こうして形成した固体ファントムを前記の図1〜図3に示す外側固体ファントム4に挿入して線量測定を行う。
【0025】
本発明による測定方法において、線量計として使用する平板状蛍光ガラス線量計は、例えば、銀活性リン酸塩ガラスからなる。銀活性リン酸塩ガラスは、従来から棒状のガラス線量計として広く用いられているが、比較的大型の平板状に成形した形状での利用方法は従来全く知られていない。特に、本発明の測定方法のように、ファントム内に設置して積算吸収線量を測定する方法における線量計として利用することは知られていない。本発明の測定方法では、この銀活性リン酸塩ガラスを、前記のファントム内に1枚の連続的平板として挿入可能な、比較的大型の形状(例えば、1辺が約30mm〜約200mmの正方形の平板)に成形して用いる。
【0026】
銀活性リン酸塩ガラスを放射線で照射すると自由電子と正孔とが生じ、これらが銀原子に捕獲されて蛍光中心が生成される。こうして生成された蛍光中心に励起光を照射すると発光する。この現象をラジオフォトルミネッセンス(RPL)と称している。こうして発光する蛍光強度が、被爆放射線量(すなわち、積算吸収線量)に比例するので、蛍光強度を測定することによって積算吸収線量を正確に定量することができ、放射線療法の治療計画に用いることができる。励起光としては、波長300〜400nmの紫外線を用いることができる。例えば、約320nmの紫外線で励起するとオレンジ色の蛍光を放出する。
【0027】
励起光を照射することによって発光する蛍光から、任意の測定手段によって蛍光強度を測定することができる。測定手段としては、例えば、CCDカメラ、又はフォトマルチプライヤーを用いることができる。高感度CCDカメラを用いると、蛍光強度を電気信号に変えることができ、その電気信号をコンピュータで処理することができる。前記のRPL中心は、そのまま放置しても極めて安定に長期間保存され、励起光を照射して蛍光を発光させても、その処理によって消滅することがない。更に、蓄積線量も定量的に測定することができ、エネルギー依存性がない(すなわち、X線銀塩写真フィルムのように、照射放射線のエネルギーによって感度が変化することがない)ので、測定精度が向上する。また、高温(例えば、約400℃以上)での30分間程度の加熱(アニーリング)によって、蛍光中心が消滅し、新たに最初から放射線量の集積を行うことができる。
【0028】
本発明の測定方法においては、使用する個々の平板状蛍光ガラス線量計に関して、その平板状蛍光ガラス線量計に固有の検量線を予め作成しておく。具体的には、例えば、図1〜図4に示す水ファントム10に装着した平板状蛍光ガラス線量計31に対して、既知量の放射線を照射する。照射後の平板状蛍光ガラス線量計31を水ファントム10から取り出し、紫外線によって励起させ蛍光を発生させる、蛍光強度をCCDカメラで測定し、蛍光強度の濃度データを電気的データに置換して記録する。
【0029】
続いて、前記平板状蛍光ガラス線量計31に対して、例えば、約400℃での約30分間の加熱(アニーリング)処理を行って、蛍光中心を消滅させ、再び、図1〜図4に示す水ファントム10に装着し、別の既知量放射線を、前記と全く同じ順に照射した後に、水ファントム10から取り出し、前記と同様に蛍光を発生させ、蛍光強度をCCDカメラで測定し、蛍光強度の濃度データを電気的データに置換して記録する。更に、前記と同様に加熱(アニーリング)処理を行って蛍光中心を消滅させる。このようなサイクルを必要な回数繰り返し、得られた複数の既知量の積算吸収線量と、蛍光強度の濃度データに相関する電気的データとから、濃度−積算吸収線量の検量線を作成することができる。
【0030】
本発明の測定方法においては、使用する個々の平板状蛍光ガラス線量計に関して、その平板状蛍光ガラス線量計に固有の検量線を、予め1回だけ作成しておけば、その平板状蛍光ガラス線量計に関しては、その固有の検量線を、永続的に使用することができる。
一般に、人体への放射線照射は、約200cGy〜300cGyの範囲で実施されるので、検量線は、少なくとも200cGy〜300cGyの範囲の照射量を正確に測定することができるように作成することが好ましく、具体的には、例えば、15cGy程度から420cGy程度までの範囲を、好ましくは15cGy単位〜30cGy単位(最も好ましくは1cGy単位)で作成する。また、線量の較正は、10cmx10cmの寸法で実施することが推奨されているので、検量線の作成も、対象となる平板状蛍光ガラス線量計における10cmx10cmの領域で実施することが好ましい。
【0031】
例えば、15cGy〜420cGyの範囲について15cGy単位で検量線を作成する場合には、28回の測定データが必要になり、前記範囲について30cGy単位で検量線を作成する場合には、14回の測定データが必要になる。前記のとおり、X線フィルム(X線銀塩フィルム)を用いる従来方法においては、自動現像機による現像条件が変わる可能性が存在するたびごとに、検量線を作成する必要があるので、このことは、例えば、28回の測定データ(15cGy単位の検量線の場合)の採取、あるいは14回の測定データ(30cGy単位の検量線の場合)の採取が必要なことを意味している。従って、従来方法においては、測定操作や検量線の作成操作が煩雑なだけでなく、廃棄物として処理すべき現像X線フィルムや現像液が大量に発生するという欠点もあった。
【0032】
これに対して、本発明で用いる平板状蛍光ガラス線量計では、前記の通り、加熱(アニーリング)によって再生利用が可能であり、現像処理も不要であり、しかも、或る特定の平板状蛍光ガラス線量計に関して固有の検量線を1回作成すれば、その平板状蛍光ガラス線量計については、検量線を作成する必要はない。従って、煩雑な測定操作や検量線作成操作が不要となり、しかも、廃棄物の問題も発生しない。
【実施例】
【0033】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0034】
《実施例1》
ファントムとして、図1〜図4に示す水ファントム10と同様の水等価ファントム(約30cm×約30cm×約30cm)を用い、線量測定手段3として図6に示す平板状蛍光ガラス線量計31と同様の銀活性リン酸塩ガラス製の線量計(120mm×120mmの平板)を使用し、及び基準線量測定として電離箱(0.6cc)を用いて強度変調療法(IMRT)の治療計画の実証実験を行った。
このときの基準線量測定として電離箱を用いて計測した吸収線量は、176.99cGy(測定室温度24.2℃;大気圧101.5kPa)が得られ、この値を真の吸収線量とした。
治療計画データの画像を図10に示す。また、前記の水ファントム内に装着し、前記治療計画データに沿って照射を行ったガラス線量計に対し、紫外線(約430nm)によって励起して発生した蛍光の蛍光強度をCCDカメラで測定し、蛍光強度データを得た。この蛍光強度データを、予め作成した検量線によって線量データに変換した画像を図11に示す。
図10及び図11のアイソセンタ(照射野の中心)における照射量は、治療計画データ(図10)において171.40cGy(誤差=−3.261%)であり、ガラス線量計(図11)において177.17cGy(誤差=+0.101%)であった。
【0035】
本発明を、積算吸収線量の測定方法に沿って主に説明したが、前記の説明は、本発明による積算吸収線量分布を示す画像の形成方法にもそのまま当てはまる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、ファントム内に設置した線量計に放射線を照射し、その線量計への積算吸収線量を正確に測定する方法に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明方法で用いることのできる水ファントムを外側固体ファントムに装着した状態を示す斜視図である。
【図2】図1の水ファントムの一部を切り欠いて示す斜視図である。
【図3】図1の水ファントムの分解斜視図である。
【図4】本発明方法で用いることのできるファントム要素を構成する立方体状箱体の収容室の内部に正方形型線量測定手段を嵌挿した状態を、未装着状態の正方形型蓋部と共に示す分解斜視図である。
【図5】本発明方法で用いることのできる水ファントムで用いる蛍光ガラス線量板を含む線量測定手段の分解斜視図である。
【図6】本発明方法で用いることのできる水ファントムで線量測定手段として用いる蛍光ガラス線量板の斜視図である。
【図7】本発明方法で用いることのできる水ファントムで用いる正方形型蓋部の内側表面の斜視図である。
【図8】本発明方法で用いることのできるファントム要素を構成する円柱状箱体の収容室の内部に正方形型線量測定手段を嵌挿した状態を、未装着状態の円形蓋部と共に示す分解斜視図である。
【図9】多数の板状固体ファントムを積み重ねて形成され、本発明方法で用いることのできる固体ファントムの斜視図である。
【図10】実施例の実証実験に用いた治療計画データの積算吸収線量の分布を示す画像である。
【図11】本発明方法により、前記治療計画データに沿って平板状蛍光ガラス線量計に形成された積算吸収線量の分布を示す画像である。
【符号の説明】
【0038】
1・・・立方体状箱体;1A・・・円柱状箱体;
2・・・正方形型蓋部;2A・・・円形型蓋部;
3・・・線量測定手段;
4・・・外側固体ファントム;6・・・固体ファントム;
10・・・水ファントム;11・・・溝;13・・・ネジ孔;
15・・・収容室;17・・・正方形露出面;
21・・・基台;22・・・ゴムパッキング;
23・・・ボルト用貫通ネジ孔;24・・・中央突出部;
25・・・栓;26・・・気泡排出口;30A,30B・・・両側端部;
31・・・蛍光ガラス線量板;32,35・・・フレーム;
33,36・・・開口窓;34,37・・・枠部;
41・・・水ファントム収容部;42・・・交点;43・・・参照線;
61,61a,61b・・・板状ファントム;
62・・・固定バー用孔;63・・・感光フィルム;
100・・・ファントム要素。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファントム内に設置した線量計に放射線を照射し、その線量計への積算吸収線量を測定する方法であって、
線量計として平板状蛍光ガラス線量計を用いること、及び
その平板状蛍光ガラス線量計に関して予め作成した固有の検量線を用いて積算吸収線量を決定すること
を特徴とする、前記の積算吸収線量の測定方法。
【請求項2】
固有の検量線が、既知量の放射線を照射した後の平板状蛍光ガラス線量計に励起線を照射して発光させた蛍光強度の濃度と、前記の既知量放射線との相関から作成された検量線である、請求項1に記載の測定方法。
【請求項3】
ファントムとして水ファントム又は固体ファントムを用いる、請求項1又は2に記載の測定方法。
【請求項4】
放射線照射を、放射線療法の治療計画に沿って実施する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の測定方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の測定方法に用いる、平板状蛍光ガラス線量計。
【請求項6】
ファントム内に設置した線量計に放射線を照射し、その線量計への積算吸収線量の分布を示す画像の形成する方法であって、
線量計として平板状蛍光ガラス線量計を用いること、及び
その平板状蛍光ガラス線量計に関して予め作成した固有の検量線を用いて積算吸収線量を決定すること
を特徴とする、前記の積算吸収線量の分布を示す画像の形成方法。
【請求項7】
放射線照射を、放射線療法の治療計画に沿って実施する、請求項6に記載の形成方法。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の形成方法に用いる、平板状蛍光ガラス線量計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−47009(P2006−47009A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−225855(P2004−225855)
【出願日】平成16年8月2日(2004.8.2)
【出願人】(502117734)アールテック有限会社 (3)
【Fターム(参考)】