説明

放射線同時計数処理方法および断層撮影装置

【課題】検出器の感度の影響を受けずに精度よく補正を行うことができる放射線同時計数処理方法および断層撮影装置を提供することを目的とする。
【解決手段】ステップS4の規格化では、同時計数投影データ上の所定のパスにある各画素値を、そのパス全体の加算平均値を用いて規格化し、ステップS5の除算/検出器固有感度の導出では、同時計数投影データ上の別の所定のパスにある画素値の加算平均値を、ステップS4の規格化で規格化された同時計数投影データ上の全体領域の加算平均値で除算することで、検出器の感度の影響を受けずに精度よく補正を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、放射性薬剤が投与された被検体から発生した放射線を同時計数して得られたデータに対して一連の演算処理を行う放射線同時計数処理方法および断層撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
PET(Positron Emission Tomography)装置は、陽子(Positron)、すなわちポジトロンの消滅によって発生する複数本のγ線を検出して複数個の検出器でγ線を同時に検出したときのみ被検体の断層画像を再構成するように構成されている。
【0003】
このPET装置では、放射性薬剤を被検体に投与した後、対象組織における薬剤蓄積の過程を経時的に測定することで、様々な生体機能の定量測定が可能である。したがって、PET装置によって得られる断層画像は機能情報を有する。
【0004】
ところで、γ線を同時に検出する、すなわちγ線を同時計数する技術では、γ線を2次元的に検出する2D−PETの他に、近年ではγ線を3次元的に検出する3D−PETが用いられている。かかる3D−PETでは、被検体の近傍に各検出器を大立体角にそれぞれ配設することでγ線の検出効率を高め、検出器の感度を飛躍的に向上させることができる。
【0005】
γ線を同時計数するには同時計数回路に各γ線を入力して、入力されたγ線の時間差が所定のタイムウィンドウ内に収まっているか否かで判断される。実際の同時計数回路では、4ns〜20ns(ns=10−9s)という非常に短いタイムウィンドウ内に検出されたγ線を「同時」とみなしている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0006】
PETの定量性の維持、画質の維持のためには、検出器の感度を補正(すなわちノーマライズ)することが必須である。PETにおけるノーマライズは、同時計数する対向した2つの検出器を結ぶ仮想上の直線である同時計数LOR(Line Of Response)ごとの計数のバラツキをなくすことが目的であるので、従来では全てのLOR間の線源量が等しくなるような条件下でデータ収集を行い、得られた計数分布の逆数を各LORのノーマライズ係数(感度補正係数)とするdirect法が用いられている。しかし、direct法では全てのLORごとのデータを保存する必要があるので、検出器の数の二乗に比例したデータサイズとなる。PET装置の撮像視野の拡張・高分解能化に伴い、上述したような3D−PETを採用するなどのように検出器の数が増加するので、より少ないデータサイズの補正因子を持つことが求められる。
【0007】
そこで、ノーマライズ係数(感度補正係数)がいくつかの積に分けられる性質を利用して、装置や検出器の幾何条件などから決まる不変な要素(経年的に変化しない要素)を用い、経年的に変動する可能性のある要素(経年的に変化する変動の要素)のみを定期的に更新する手法が用いられている。この手法は「要素別感度補正法」と呼ばれている(例えば、非特許文献1、2参照)。
【0008】
この要素別感度補正法では、図3(a)に示すように、同時計数する検出器リング対を(u,v)、図3(b)に示すように、同時計数するリング内検出器対を(i,j)としたときに、感度補正係数NCuivjを下記(1)式のような要素に分解する。
【0009】
NCuivj=εui×εvj×buvk×duvrk×guvr×fuv …(1)
ただし、上記(1)中のεui,εvjは検出器固有感度、duvrkは結晶干渉因子、fuvはリングペア感度、buvkはブロック形状因子、guvrは動径方向幾何学因子、kはブロック内の結晶相対位置、rは動径方向位置である。
【0010】
これらの要素のうち、guvr,duvrkなどは幾何学的に決まる要素であり、fuvも経年的に変化しない要素である。したがって、低散乱の均一線源で一度測定しておけばよい。検出器固有感度εui,εvjは、例えばフォトマルチプライヤ(光電子増倍管)のゲインなどの影響で経年的に変動する可能性のある要素であるので、所定期間で定期的に更新を行うためにその都度測定する。検出器固有感度εui,εvjについては、上述した非特許文献1のような「ファンサム(fan-sum)法」と呼ばれる手法で算出される。
【0011】
ファンサム法は、円筒ファントムをモデルとして同時計数を行い、図10に示すように、ある検出器dと対になる対向ファン検出器列との同時計数和(あるいは同時計数の加算平均値)を、全ての個々の検出器に対する対向ファン検出器列との平均的な同時計数和(あるいは加算平均値)で除算するなどして、検出器dの固有感度を求める。検出器dを全ての検出器について考慮することで、全ての検出器の固有感度を求める。これを同時計数投影データで行う場合、全ての検出器の固有感度は、図6に示すような2種類の傾き成分Eff,Effを有したパスについて考慮することで得られる。
【0012】
検出器固有感度のバラツキがランダムに存在しても、かかる算出法では、上述したように、経年的に変化しない要素については一度の測定のみで済み、経年的に変化する変動の要素である検出器固有感度についてのみ定期的に測定して更新すればよい。また従来のdirect法に比べ、変動の要素のみを求める同時計数測定は短時間ですむ。したがって、direct法と比較すると簡便かつ効果的である。
【特許文献1】特開2000−28727号公報
【特許文献2】特開平7−113873号公報
【非特許文献1】北村圭司、石川亮宏、山谷泰賀 “jPET-D4における要素別感度補正法の開発”、平成16年度次世代PET装置開発研究報告書、p.43−48、[online]、独立行政法人 放射線医学総合研究所、インターネット< URL : http://www.nirs.go.jp/usr/medical-imaging/ja/study/jPET_D4_2005/p43_48.pdf>
【非特許文献2】Badawi RD, Lodge MA, Marsden PK: Algorithms for calculating detector efficiency normalization coefficients for true coincidences in 3D PET. Phys. Med. Biol. 43, 1998
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、このような構成を有する従来例の場合には、次のような問題がある。すなわち、補正の精度が検出器の感度差の影響を受けてしまうという問題がある。感度が極端に異なる検出器が存在しない場合には、従来技術に示した算出法は簡便かつ効果的であるが、対向ファン検出器列内に感度が極端に異なる検出器が存在する場合には、検出器の感度の影響を受けてしまう。具体的には、その極端に異なる検出器を含むファンと含まないファンとではファンサムされた同時計数和(あるいは同時計数の加算平均値)に影響を及ぼし、求める検出器固有感度の精度が劣化し、結果として感度補正の過不足が生じてしまう。
【0014】
この発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、検出器の感度の影響を受けずに精度よく補正を行うことができる放射線同時計数処理方法および断層撮影装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち、請求項1に記載の発明は、放射性薬剤が投与された被検体から発生した放射線を同時計数して得られたデータに対して演算処理を行う放射線同時計数処理方法であって、放射線検出器群を構成する複数の放射線検出器について、各々の放射線検出器の特性を示す感度補正係数を、経年的に変化しない不変の要素と、経年的に変化する変動の要素とに分解した場合に、(A)モデルとなる被検体から発生した放射線を同時計数して得られた出力データに基づいて、前記不変の要素を求める要素導出工程と、(B)モデルとなる被検体から発生した放射線を同時計数して得られた出力データに基づいて、同時計数投影データを求める同時計数投影データ導出工程と、(C)前記(B)の同時計数投影データ導出工程で求められた同時計数投影データ上の所定のパスにある各画素値を、そのパス全体の加算データを用いて規格化する規格化工程と、(D)前記(C)の規格化工程で規格化された同時計数投影データ上の別の所定のパスにある画素値の統計量を全体領域の加算データで除算する除算工程と、(E)前記(D)の除算工程で除算された値を前記変動の要素とし、その変動の要素と前記(A)の要素導出工程で求められた不変の要素との積で前記感度補正係数を放射線検出器ごとに求める感度補正係数導出工程と、(F)前記(E)の感度補正係数導出工程で求められた各々の放射線検出器ごとの感度補正係数を用いて、対象となる被検体から発生した放射線を同時計数して得られた出力データを放射線検出器ごとに補正する補正工程とを備えることを特徴とするものである。
【0016】
[作用・効果]請求項1に記載の発明によれば、(A)の要素導出工程では、モデルとなる低散乱かつ均一な被検体から発生した放射線を同時計数して得られた出力データに基づいて、経年的に変化しない不変の要素を求める。(B)の同時計数投影データ導出工程では、モデルとなる被検体から発生した放射線を同時計数して得られた出力データに基づいて、同時計数投影データを求め、(C)の規格化工程では、(B)の同時計数投影データ導出工程で求められた同時計数投影データ上の所定のパスにある各画素値を、そのパス全体の加算データを用いて規格化する。(D)の除算工程では、(C)の規格化工程で規格化された同時計数投影データ上の別の所定のパスにある画素値の統計量を全体領域の加算データで除算する。(E)の感度補正係数導出工程では、(D)の除算工程で除算された値を経年的に変化する変動の要素とし、その変動の要素と(A)の要素導出工程で求められた不変の要素との積で各々の放射線検出器の特性を示す感度補正係数を放射線検出器ごとに求める。
【0017】
上述した(C)の規格化工程を除くとともに(D)の除算工程での除算する対象(規格化された同時計数投影データ)が従来と異なる部分を除けば、(A)の要素導出工程、(B)の同時計数投影データ導出工程、(D)の除算工程および(E)の感度補正係数導出工程は上述した従来の要素別感度補正法に相当する工程である。(C)の規格化工程を除くとともに(D)の除算工程での除算する対象(規格化された同時計数投影データ上の全体領域の加算データ)が従来と異なる部分を除けば、(B)の同時計数投影データ導出工程、(D)の除算工程は上述した従来のファンサム法に相当する工程である。
【0018】
つまり、(C)の規格化工程では、同時計数投影データ上の所定のパスにある各画素値を、そのパス全体の加算データを用いて規格化し、(D)の除算工程では、(C)の規格化工程で規格化された同時計数投影データ上の別の所定のパスにある画素値の統計量を、全体領域の加算データで除算する部分が従来と異なる点である。(C)の規格化工程では、同時計数投影データ上の所定のパスにある各画素値を、そのパス全体の加算データを用いて規格化することで、所定のパス間のバラツキが擬似的に補正される。その擬似的に補正された、すなわち規格化された同時計数投影データ上の全体領域の加算データを用いて、(D)の除算工程で除算を行うことで、別の所定のパスが前者のパスの感度のバラツキの影響を受けることなく変動の要素を精度よく求めることができる。その結果、(E)の感度補正係数導出工程で感度補正係数を精度よく求めることができ、検出器の感度の影響を受けずに精度よく補正を行うことができる。
【0019】
上述した発明において、上述した統計量の一例は加算値あるいは加算平均値(すなわち相加平均値)である(請求項2に記載の発明)。つまり、(D)の除算工程では、(C)の規格化された同時計数投影データ導出工程で求められた同時計数投影データ上の別の所定のパスにある画素値の加算値あるいは加算平均値を、(C)の規格化工程で規格化された同時計数投影データ上の全体領域の加算データで除算することになる。なお、統計量は加算値あるいは加算平均値に代表される加算データに限定されず、中央値(メディアン)やヒストグラムでの最も頻度の高い値であってもよい。
【0020】
また、上述したこれらの発明において、(B)の同時計数投影データ導出工程、(C)の規格化工程、(D)の除算工程、(E)の感度補正係数導出工程および(F)の補正工程を所定期間で繰り返し行うのが好ましい(請求項3に記載の発明)。経年的に変化しない不変の要素については、感度ムラが少ない状態で一回のみ同時計数測定を行えばよく、経年的に変化する変動の要素についてのみ、(B)の同時計数投影データ導出工程、(C)の規格化工程、(D)の除算工程、(E)の感度補正係数導出工程および(F)の補正工程を繰り返し行って更新する。このように不変の要素については理想的な検出器状態(感度ムラが少ない状態)で行った一回の同時計数測定データを用いるので、従来のdirect法よりも幾何学的要素に関わる補正の精度が安定する。また、経年的に変化する変動の要素については定期的な同時計数データおよび不変の要素に基づいて更新するので、経年的に変化する変動の要素に的確に対応した状態で補正が行われ、補正が効果的となる。したがって、従来と比較すると簡便かつ効果的である。
【0021】
また、請求項4に記載の発明は、放射性薬剤が投与された被検体から発生した放射線を同時計数して断層画像を得る断層撮影装置であって、(a)複数の放射線検出器から構成された放射線検出器群と、(b)各々の放射線検出器の特性を示す感度補正係数を、経年的に変化しない不変の要素と、経年的に変化する変動の要素とに分解した場合に、(A)モデルとなる被検体から発生した放射線を同時計数して得られた出力データに基づいて、前記不変の要素を求める要素導出工程と、(B)モデルとなる被検体から発生した放射線を同時計数して得られた出力データに基づいて、同時計数投影データを求める同時計数投影データ導出工程と、(C)前記(B)の同時計数投影データ導出工程で求められた同時計数投影データ上の所定のパスにある各画素値を、そのパス全体の加算データを用いて規格化する規格化工程と、(D)前記(C)の規格化工程で規格化された同時計数投影データ上の別の所定のパスにある画素値の統計量を、全体領域の加算データで除算する除算工程と、(E)前記(D)の除算工程で除算された値を前記変動の要素とし、その変動の要素と前記(A)の要素導出工程で求められた不変の要素との積で前記感度補正係数を放射線検出器ごとに求める感度補正係数導出工程と、(F)前記(E)の感度補正係数導出工程で求められた各々の放射線検出器ごとの感度補正係数を用いて、対象となる被検体から発生した放射線を同時計数されて得られた出力データを放射線検出器ごとに補正する一連の演算処理を行う演算手段と、(c)その演算処理で補正された出力データに基づいて画像処理を行って断層画像を出力する画像処理手段とを備えることを特徴とするものである。
【0022】
[作用・効果]請求項4に記載の発明によれば、(A)の要素導出工程、(B)の同時計数投影データ導出工程、(C)の規格化工程、(D)の除算工程、(E)の感度補正係数導出工程および(F)の補正工程の一連の演算処理を行う演算手段を備えている。その演算処理のうち、(C)の規格化工程では、同時計数投影データ上の所定のパスにある各画素値を、そのパス全体の加算データを用いて規格化し、(D)の除算工程では、(C)の規格化工程で規格化された同時計数投影データ上の別の所定のパスにある画素値の統計量を、全体領域の加算データで除算することで、検出器の感度の影響を受けずに精度よく補正を行うことができる。
【発明の効果】
【0023】
この発明に係る放射線同時計数処理方法および断層撮影装置によれば、(C)の規格化工程では、同時計数投影データ上の所定のパスにある各画素値を、そのパス全体の加算データを用いて規格化し、(D)の除算工程では、(C)の規格化工程で規格化された同時計数投影データ上の別の所定のパスにある画素値の統計量を、全体領域の加算データで除算することで、検出器の極端な感度差があっても、その影響を受けずに精度よく補正を行うことができる。
【実施例】
【0024】
以下、図面を参照してこの発明の実施例を説明する。
図1は、実施例1に係るPET(Positron Emission Tomography)装置の側面図およびブロック図である。
【0025】
本実施例に係るPET装置は、図1に示すように、被検体Mを載置する天板1を備えている。この天板1は、上下に昇降移動、被検体Mの体軸Zに沿って平行移動するように構成されている。このように構成することで、天板1に載置された被検体Mは、後述するガントリ2の開口部2aを通って、頭部から順に腹部、足部へと走査されて、被検体Mの投影データや断層画像といった診断データを得る。なお、走査される部位や各部位の走査順序については特に限定されない。
【0026】
天板1の他に、本実施例装置は、開口部2aを有したガントリ2と、互いに近接配置された複数個のシンチレータブロック3aと複数個のフォトマルチプライヤ3bとを備えている。シンチレータブロック3aおよびフォトマルチプライヤ3bは、被検体Mの体軸Z周りを取り囲むようにしてリング状に配置されており、ガントリ2内に埋設されている。フォトマルチプライヤ3bは、シンチレータブロック3aよりも外側に配設されている。
【0027】
シンチレータブロック3aおよびフォトマルチプライヤ3bからなるγ線検出器3の具体的な配置としては、例えば、被検体Mの体軸Zと平行な方向にはγ線検出器3が16個並び、被検体Mを囲むγ線検出器3が多角形のリング(図3(b)を参照)からなる場合において多角形の各辺にγ線検出器3が24個並ぶ形態が挙げられる。なお、被検体Mを囲むγ線検出器3の径によってγ線検出器3が並ぶ個数は16個に限定されないし、被検体Mの体軸Zと平行な方向にγ線検出器3が並ぶ個数も16個に限定されない。なお、γ線検出器3の構造上、各γ線検出器3については、被検体Mを挟んで互いに対向する必要はない。また、本実施例では、シンチレータブロック3aが、シンチレータ層を多層に積層してコンプトン散乱が起きやすくなるように構成されている。また、このγ線検出器3は、3次元(DOI)検出器である。シンチレータブロック3aおよびフォトマルチプライヤ3bからなるγ線検出器3は、この発明における放射線検出器群に相当する。
【0028】
その他にも、本実施例装置は、天板駆動部4とコントローラ5とメモリ部6と入力部7と出力部8と同時計数回路9と再構成部10とを備えている。天板駆動部4は、天板1の上述した移動を行うように駆動する機構であって、図示を省略するモータなどで構成されている。
【0029】
コントローラ5は、本実施例装置を構成する各部分を統括制御する。コントローラ5は、中央演算処理装置(CPU)などで構成されている。なお、本実施例では、コントローラ5は、図2に示すγ線同時計数処理に係る演算処理を実行する機能を備えている。また、γ線同時計数処理を実行する場合には、メモリ部6の後述するγ線同時計数処理プログラム6aを読み出すことで行われる。したがって、コントローラ5は、この発明における演算手段に相当する。
【0030】
メモリ部6は、ROM(Read-only Memory)やRAM(Random-Access Memory)などに代表される記憶媒体で構成されている。本実施例では、同時計数回路9や再構成部10で処理されたデータについてはRAMに書き込んで記憶し、必要に応じてRAMから読み出す。特に、本実施例では、一連のγ線同時計数処理に含まれる補正処理に用いられる補正元データ(検出器固有感度εui,εvj、結晶干渉因子duvrk、リングペア感度、fuv、ブロック形状因子buvk、動径方向幾何学因子guvr、感度補正係数NCuivjなど)についてはメモリ部6の補正元データメモリ部6bに書き込んで記憶し、補正時に補正元データメモリ部6bから読み出す。ROMには、γ線同時計数処理プログラム6aを予め記憶している。補正元データの具体的な作成方法やγ線同時計数処理プログラム6aの具体的な処理については、図2のフローチャートで後述するとともに、補正元データの内容については、図3〜図7の模式図で後述する。
【0031】
入力部7は、オペレータが入力したデータや命令をコントローラ5に送り込む。入力部7は、マウスやキーボードやジョイスティックやトラックボールやタッチパネルなどに代表されるポインティングデバイスで構成されている。出力部8はモニタなどに代表される表示部やプリンタなどで構成されている。
【0032】
再構成部10は、例えば上述したメモリ部6などに代表される記憶媒体のROMに記憶されたプログラムあるいは入力部7で入力された命令をコントローラ5が実行することで実現される。再構成部10は、この発明における画像処理手段に相当する。
【0033】
放射性薬剤、すなわち放射性同位元素(RI)が投与された被検体Mから発生したγ線をシンチレータブロック3aが光に変換して、変換されたその光をフォトマルチプライヤ3bが光電変換して電気信号に出力する。その電気信号を画像情報(画素)として同時計数回路9に送り込む。
【0034】
具体的には、被検体Mに放射性薬剤を投与すると、ポジトロン放出型のRIのポジトロンが消滅することにより、2本のγ線が発生する。同時計数回路9は、シンチレータブロック3aの位置とγ線の入射タイミングとをチェックし、被検体Mを挟んで互いに対向位置にある2つのシンチレータブロック3aでγ線が同時に入射したと判定されたときのみ、送り込まれた計数情報を同時計数データとする。一方のシンチレータブロック3aのみにγ線が入射したときには、同時計数回路9は、ノイズと判定してそれを棄却する。
【0035】
同時計数回路9に送り込まれた画像情報を投影データとして、再構成部10に送り込む。再構成部10がその投影データを再構成して、被検体Mの断層画像を求める。断層画像を、コントローラ5を介して出力部9に送り込む。このようにして、再構成部10で得られた断層画像に基づいて核医学診断を行う。
【0036】
補正元データの具体的な作成方法やγ線同時計数処理プログラム6aの具体的な処理について、図2のフローチャートを参照して説明するとともに、補正元データの内容については、図3〜図7の模式図を参照して説明する。図2は、補正元データの作成処理、およびγ線同時計数処理プログラム6aによる同時計数処理の一連の流れを示したフローチャートである。また、図3は、LORの定義を検出器で示した模式図であり、図4は、各々の不変の要素をそれぞれ求める説明に供する模式図であり、図5は、円筒ファントムを同時計数収集した場合の投影データの模式図であり、図6は、傾き成分を有したパスを併せて図示した投影データの模式図であり、図7は、感度が極端に異なる検出器のパスが存在したときの投影データの模式図である。なお、図3では、フォトマルチプライヤ3bの図示を省略する。
【0037】
(ステップS1)円筒ファントムの同時計数
図3に示すように、円筒ファントムをモデルとした被検体Mから発生したγ線が、被検体Mを挟んで互いに対向位置にある2つのシンチレータブロック3aで同時に入射したときのみ、同時計数回路9がγ線を同時計数する。図3(a)は同時計数する検出器リング対から見た図であり、図3(b)はリング内検出器対から見た図である。図3(a)に示すように、同時計数する検出器リング対を(u,v)、図3(b)に示すように、同時計数するリング内検出器対を(i,j)とする。
【0038】
(ステップS2)ライン線源の同時計数
検出器リング内を回転するライン線源から発生したγ線が、被検体Mを挟んで互いに対向位置にある2つのシンチレータブロック3aで同時に入射したときのみ、同時計数回路9がγ線を同時計数する。この計数データから、後述のステップ3により投影データを導出する。
【0039】
(ステップS3´)不変の要素の導出
ライン線源同時計数データにおいて、同時計数回路9に送り込まれた計数情報に基づいて、結晶干渉因子duvrk、リングペア感度fuv、ブロック形状因子buvk、動径方向幾何学因子guvrといった経年的に変化しない不変の要素を求める。これらの要素は幾何学的に決まる要素であるので経年的に変化しない。
【0040】
動径方向幾何学因子guvrについては、図4(a)に示すように、投影データの全投影角度について加算し、横軸にリングの径方向をとるとともに、縦軸に計数値をとって計数の一次元分布を求め、その分布をキャンセルする逆数を動径方向幾何学因子guvrとすることで求められる。結晶干渉因子duvrkについては、動径方向幾何学因子で補正された投影データにおいて、リングの径方向の結晶並びが一致する投影角度毎に投影データを加算し、横軸にリングの径方向をとるとともに、縦軸に計数値をとって計数の一次元分布を求め、その分布をキャンセルする逆数を結晶干渉因子duvrkとすることで求められる。投影角ごとの結晶並びの違いは、図4(b)に示すような検出器ブロック間等に生じる抜けなどに起因する。なお、各辺単位での動径方向幾何学因子guvrと相違して、結晶干渉因子duvrkについては各辺単位よりも細かい各ブロック単位で考慮されるので、ブロック内の結晶相対位置kも変数として加えられる。ブロック形状因子buvkについては、動径方向幾何学因子、結晶干渉因子が補正された投影データにおいて、各ブロック単位での計数分布に基づいて得ることができる。しかし、計数率や散乱線の割合などによって変動する特性もあるので、変動の因子に分類される場合もある。リングペア感度fuvについては、動径方向幾何学因子、結晶干渉因子、ブロック形状因子が補正された投影データにおいて、図3(a)に示す検出器リング対間を結ぶLORを考慮した計数分布に基づいて得られる。
【0041】
これらの結晶干渉因子duvrk、リングペア感度fuv、動径方向幾何学因子guvrを、後述するステップS8での感度補正を行うための補正元データとして、コントローラ5を介して、メモリ部6の補正元データメモリ部6bに書き込んで記憶する。結晶干渉因子duvrk、リングペア感度fuv、動径方向幾何学因子guvrは、この発明における不変の要素に相当する。また、このステップS3´は、この発明における(A)の要素導出工程に相当する。
【0042】
(ステップS3)投影データ導出
ステップS3´と並行して、同時計数回路9に送り込まれた計数情報を投影データとする。具体的には、図5に示すように、縦軸をγ線の照射方向θとし、横軸を被検体Mの体軸Zに直交する面方向(すなわち径方向)とした投影データを作成する。
【0043】
(ステップS3´´)不変の要素のみ感度補正
ステップS3で求められた投影データに対し、ステップ2で求めた不変の要素のみを考慮した感度補正を適用し、不変の要素が感度補正された投影データを作成する。
【0044】
(ステップS4)規格化
ステップS3´´で求められた投影データ上の円筒ファントムに相当する部分を、図5ではCで図示するとともに、パスを、図5ではPで図示する。なお、投影データ上の円筒ファントムに相当する部分Cは、「ファン領域」とも呼ばれる。この投影データも補正元データとして、コントローラ5を介して、メモリ部6の補正元データメモリ部6bに書き込んで記憶する。投影データは、この発明における同時計数投影データに相当する。また、上述したステップS3は、この発明における(B)の同時計数投影データ導出工程に相当する。
【0045】
所定のパスにある各画素値を、そのパス全体の加算データ(本実施例では加算平均値)を用いて規格化する。具体的には、図6に示すように、パスPは、図からみて左下がりの傾き成分Eff、および右下がりの傾き成分Effからなる。先ず、所定のパスとして右下がりの傾き成分Effを有したパスPを指定し、次に所定のパスとして左下がりの傾き成分Effを有したパスPを指定する。そして、先ず、最初に指定された右下がりの傾き成分Effを有した所定のパスPにある各画素値を、その右下がりの傾き成分Effを有した各々のパスP全体の加算平均値(すなわち相加平均値)でそれぞれ除算することで規格化する。次に後で指定された左下がりの傾き成分Effを有した所定のパスPにある各画素値を、その左下がりの傾き成分Effを有した各々のパスP全体の加算平均値(すなわち相加平均値)でそれぞれ除算することで規格化する。この規格化されたデータも補正元データとして、コントローラ5を介して、メモリ部6の補正元データメモリ部6bに書き込んで記憶する。このステップS4は、この発明における(C)の規格化工程に相当する。
【0046】
(ステップS5)除算/検出器固有感度の導出
ステップS3´´で求められた投影データ上の別の所定のパスにある画素値の統計量(実施例では加算平均値)を、ステップS4で規格化された投影データ上の全体領域の加算データ(本実施例では加算平均値)で除算する。具体的には、ステップS4で所定のパスとして右下がりの傾き成分Effを有したパスPを指定した場合には、ステップS5で別の所定のパスとして左下がりの傾き成分Effを有したパスPを指定し、ステップS4で所定のパスとして左下がりの傾き成分Effを有したパスPを指定した場合には、ステップS5で別の所定のパスとして右下がりの傾き成分Effを有したパスPを指定する。そして、ステップS4で所定のパスとして右下がりの傾き成分Effを有したパスPを指定した場合には、左下がりの傾き成分Effを有した別の所定のパスPにある画素値の加算平均値(すなわち相加平均値)を、ステップS4で規格化された投影データ上の全体領域の加算データ(本実施例では加算平均値)で除算する。また、ステップS4で所定のパスとして左下がりの傾き成分Effを有したパスPを指定した場合には、右下がりの傾き成分Effを有した別の所定のパスPにある画素値の加算平均値(すなわち相加平均値)を、ステップS4で規格化された投影データ上の全体領域の加算データ(本実施例では加算平均値)で除算する。
【0047】
このように除算された値を検出器固有感度εui,εvjとして、この検出器固有感度εui,εvjも補正元データとして求め、コントローラ5を介して、メモリ部6の補正元データメモリ部6bに書き込んで記憶する。
【0048】
例えば、図7(a)に示すように、極端な感度差の検出器のパスをPで図示する。また、図7(b)に示すように、左下がりの傾き成分Effのうち、感度ムラの小さいパスで計算される検出器“1”の感度をεとし、極端な感度差の検出器のパスPを交差したパスで計算される検出器“2”の感度をεとする。また、図7(b)に示すように、右下がりの傾き成分Effのうち、感度ムラの小さいパスで計算される検出器“3”の感度をεとし、極端な感度差の検出器のパスPで計算される検出器“4”の感度をεとする。
【0049】
検出器固有感度εui,εvjは、この発明における変動の要素に相当する。すなわち、検出器固有感度εui,εvjは、例えばフォトマルチプライヤのゲインなどの影響で経年的に変動する可能性のある要素であるので、所定期間で定期的に更新を行うためにその都度測定する。このステップS4は、この発明における(D)の除算工程に相当する。
【0050】
(ステップS6)感度補正係数の導出
ステップS5で求められた検出器固有感度εui,εvjとステップS3´で求められた結晶干渉因子duvrk、リングペア感度、fuv、ブロック形状因子buvk、動径方向幾何学因子guvrとの積で感度補正係数NCuivjをγ線検出器3ごとに求める。具体的には、検出器固有感度εui,εvjと、結晶干渉因子duvrk、リングペア感度、fuv、ブロック形状因子buvk、動径方向幾何学因子guvrとを上記(1)式に代入することで感度補正係数NCuivjを求める。この動径方向幾何学因子guvrも補正元データとして、コントローラ5を介して、メモリ部6の補正元データメモリ部6bに書き込んで記憶する。このステップS6は、この発明における(E)の感度補正係数導出工程に相当する。
【0051】
(ステップS7)被検体の同時計数
対象となる被検体Mから発生したγ線が、被検体Mを挟んで互いに対向位置にある2つのシンチレータブロック3aで同時に入射したときのみ、同時計数回路9がγ線を同時計数する。
【0052】
(ステップS8)感度補正
ステップS6で求められた各々のγ線検出器3ごとの感度補正係数NCuivjをメモリ部6の補正元データメモリ部6bから読み出して用いて、同時計数回路9から出力された同時計数データを、検出器対3ごとに補正する。この補正されたデータを投影データとして、再構成部10に送り込み、再構成部10がその投影データを再構成して、被検体Mの断層画像を求めて、コントローラ5を介して出力部9に送り込む。このステップS8は、この発明における(F)の補正工程に相当する。
【0053】
上述の構成を備えた本実施例1に係るPET装置によれば、上述したステップS1〜S8の一連のγ線同時計数処理に係る演算処理を行うコントローラ5を備えている。ステップS2のライン線源の同時計数では、モデル(ここでは回転するライン線源)となる低散乱かつ均一な被検体Mから発生したγ線を同時計数し、ステップS3´の不変の要素の導出では、ステップS1の円筒ファントムの同時計数で同時計数された出力データ(画像情報)に基づいて、経年的に変化しない不変の要素として結晶干渉因子duvrk、リングペア感度fuv、ブロック形状因子buvk、動径方向幾何学因子guvrを求める。
【0054】
ステップS3の投影データ導出では、ステップS1の円筒ファントムの同時計数で同時計数された出力データ(画像情報)に基づいて、同時計数投影データを求め、ステップS4の規格化では、ステップS3´´の不変の要素のみの感度補正で求められた、不変の要素の感度補正済みの同時計数投影データ上の所定のパスにある各画素値を、そのパス全体の加算データ(実施例では加算平均値)を用いて規格化する。
【0055】
ステップS5の除算/検出器固有感度の導出では、ステップS3´´の不変の要素のみの感度補正で求められた同時計数投影データ(ここでは投影データ)上の別の所定のパスにある画素値の統計量(実施例では加算平均値)を、ステップS4の規格化で規格化された投影データ上の全体領域の加算データ(本実施例では加算平均値)で除算する。ステップS6の感度補正係数の導出では、ステップS5の除算/検出器固有感度の導出で除算された値を経年的に変化する変動の要素(検出器固有感度εui,εvj)とし、その変動の要素である検出器固有感度εui,εvjとステップS3´の不変の要素の導出で求められた結晶干渉因子duvrk、リングペア感度、fuv、ブロック形状因子buvk、動径方向幾何学因子guvrとの積で各々のγ線検出器3の特性を示す感度補正係数NCuivjをγ線検出器3ごとに求める。
【0056】
上述したステップS4の規格化を除くとともにステップS5の除算/検出器固有感度の導出での除算する対象(規格化された投影データ上の全体領域の加算データ)が従来と異なる部分を除けば、ステップS1の円筒ファントムの同時計数、ステップS3´の不変の要素の導出、ステップS3の投影データの導出、ステップS5の除算/検出器固有感度の導出、ステップS6の感度補正係数の導出、ステップ9のライン線源の同時計数およびステップ10の不変の要素のみの感度補正は上述した従来の要素別感度補正法に相当する工程である。ステップS4の規格化を除くとともにステップS5の除算/検出器固有感度の導出での除算する対象(規格化された投影データ上の全体領域の加算データ)が従来と異なる部分を除けば、ステップS3の投影データ導出、ステップS5の除算/検出器固有感度の導出は上述した従来のファンサム法に相当する工程である。
【0057】
つまり、ステップS4の規格化では、同時計数投影データ上の所定のパスにある各画素値を、そのパス全体の加算データ(実施例では加算平均値)を用いて規格化し、ステップS5の除算/検出器固有感度の導出では、不変の要素が感度補正された同時計数投影データ上の別の所定のパスにある画素値の統計量(実施例では加算平均値)を、ステップS4の規格化で規格化された同時計数投影データ上の全体領域の加算データ(本実施例では加算平均値)で除算する部分が従来と異なる点である。ステップS4の規格化では、同時計数投影データ上の所定のパスにある各画素値を、そのパス全体の加算データ(実施例では加算平均値)を用いて規格化することで、所定のパス間のバラツキが擬似的に補正される。
【0058】
上述した図7を参照して具体的に説明すると、従来においても検出器“1”のパス上の同時計数は、値のバラツキが比較的に小さく、また全体の平均値に近い値であるので、感度εは問題とならない。しかし、検出器“2”は極端な感度差の検出器“4”の影響を受けてパス上の平均値が高めに計算されるので、感度εは計数を低めに抑えようとする値になる。その結果、感度補正不足になる。これに対して、本実施例の場合には、左下がりの傾き成分Effに関する検出器固有感度をステップS5で求める段階で、先のステップS4で右下がりの傾き成分Effのバラツキが規格化によって擬似的に補正されている状態となっているので、左下がりの傾き成分Effは右下がりの傾き成分Effの感度のバラツキの影響(特に検出器“3”、“4”)を受けることなく、感度ε、εを求めることができる。その結果、感度補正不足が改善され、均一性が保たれる。右下がりの傾き成分Effについても同様である。
【0059】
このように補正された、すなわち規格化された同時計数投影データ上の全体領域の加算データ(実施例では加算平均値)を用いて、ステップS5の除算/検出器固有感度の導出で除算を行うことで、別の所定のパスが前者のパスの感度のバラツキの影響を受けることなく変動の要素である検出器固有感度を精度よく求めることができる。その結果、ステップS6の感度補正係数の導出で感度補正係数を精度よく求めることができ、γ線検出器3の感度の影響を受けずに精度よく補正を行うことができる。
【0060】
本実施例では、統計量として加算平均値を例に採って説明している。つまり、ステップS5の除算/検出器固有感度の導出では、ステップS3の投影データの導出で求められた同時計数投影データ上の別の所定のパスにある画素値の加算平均値を、ステップS4の規格化で規格化された同時計数投影データ上の全体領域の加算データ(本実施例では加算平均値)で除算することになる。
【0061】
なお、ステップS1の円筒ファントムの同時計数、ステップS3の投影データ導出、ステップS4の規格化、ステップS5の除算/検出器固有感度の導出、ステップS6の感度補正係数の導出、ステップS7の被検体の同時計数およびステップS8の感度補正を所定期間で繰り返し行うのが好ましい。経年的に変化しない不変の要素については、検出器ゲイン調整直後など検出器の感度ムラが少ない理想的な状態で、ステップS2のライン線源の同時計数を一回のみ行えばよく、経年的に変化する変動の要素である検出器固有感度についてのみ、ステップS1の円筒ファントムの同時計数、ステップS3の投影データ導出、ステップ10の不変の要素のみの感度補正、ステップS4の規格化、ステップS5の除算/検出器固有感度の導出、ステップS6の感度補正係数の導出、ステップS7の被検体の同時計数およびステップS8の感度補正を繰り返し行って更新する。従来のdirect法における同時計数測定よりも、変動の要素を求める同時計数測定の方が短時間測定ですむので、従来と比較すると簡便になる。また、不変の要素は理想的な検出器状態で測定された際の補正値を使用し、経年的に変化する変動の要素である検出器固有感度についてのみ繰り返し更新するので、不変の要素は常に安定した補正値を適用しつつ、検出器固有感度に的確に対応した状態で補正が行われ、補正が効果的となる。したがって、従来と比較すると簡便かつ効果的である。
【0062】
ステップS4の規格化において、所定のパスとして右下がりの傾き成分Effを有したパスPを指定して、右下がりの傾き成分Effを有した所定のパスPにある各画素値を、その右下がりの傾き成分Effを有した各々のパスP全体の加算平均値でそれぞれ除算することで規格化した後に、ステップS5の除算/検出器固有感度の導出において、別の所定のパスとして左下がりの傾き成分Effを有したパスPを指定し、左下がりの傾き成分Effを有した別の所定のパスPにある画素値の加算平均値を、ステップS4で規格化された投影データ上の全体領域の加算データで除算してもよい。逆に、ステップS4の規格化において、所定のパスとして左下がりの傾き成分Effを有したパスPを指定して、左下がりの傾き成分Effを有した所定のパスPにある各画素値を、その左下がりの傾き成分Effを有した各々のパスP全体の加算平均値でそれぞれ除算することで規格化した後に、ステップS5の除算/検出器固有感度の導出において、別の所定のパスとして右下がりの傾き成分Effを有したパスPを指定し、右下がりの傾き成分Effを有した別の所定のパスPにある画素値の加算平均値を、ステップS4で規格化された投影データ上の全体領域の加算データで除算してもよい。
【0063】
このように、本実施例の場合には、ステップS4で所定のパスとして右下がりの傾き成分Effを有したパスPを指定した後に、ステップS5で別の所定のパスとして左下がりの傾き成分Effを有したパスPを指定してもよいし、ステップS4で所定のパスとして左下がりの傾き成分Effを有したパスPを指定した後に、ステップS5で別の所定のパスとして右下がりの傾き成分Effを有したパスPを指定してもよい。したがって、指定して補正する順番(Eff→Eff、あるいはEff→Eff)は任意でよく、極端な感度差を有する検出器の場所や数に依存せずに、固有検出器感度を適切に求めることができる。なお、従来の手法では、極端な感度差を有する検出器の場所や数に依存して、指定して補正する順番が変わるので、予め順番を決定する必要がある。また、従来の手法では、両方の成分に極端な感度差が含まれている場合には、順番をいくら変えても本実施例のような効果を得ることはできない。
【0064】
この発明は、上記実施形態に限られることはなく、下記のように変形実施することができる。
【0065】
(1)上述した実施例では、PET装置を例に採って説明したが、この発明は、放射性薬剤が投与された被検体から発生した放射線を同時計数して断層画像を得る断層撮影装置であれば、PET装置に限定されずに適用することができる。
【0066】
(2)上述した実施例では、シンチレータブロック3aおよびフォトマルチプライヤ3bから構成されるγ線検出器3が静止したままでγ線を検出する静止型であったが、シンチレータブロック3aおよびフォトマルチプライヤ3bが被検体Mの周りを回転しながらγ線を検出する回転型でもよい。
【0067】
(3)上述した実施例では、吸収補正を行うために被検体の近傍に外部線源を備えた装置にも適用することができる。すなわち、被検体Mに投与する放射性薬剤、すなわち放射性同位元素(RI)と同種の放射線を外部線源から照射して、吸収補正データ(トランスミッションデータ)を求めて、この吸収補正データを用いて吸収補正を行う前に、感度補正を行うことも可能である。
【0068】
(4)この発明は、PET装置とX線CT装置とを備えたPET−CTのように、断層撮影装置と他の撮影装置(その他に核磁気共鳴装置 (MRI: Magnetic Resonance Imaging)など)とを組み合わせた装置にも適用することができる。
【0069】
(5)上述した実施例では、この発明における放射線検出器群は、多角形のリング(図3(b)を参照)からなるγ線検出器3であったが、図8(a)に示す円形状のリングからなるγ線検出器3であってもよいし、図8(b)に示す四角形のリングからなるγ線検出器3であってもよいし、図8(c)に示す三角形のリングからなるγ線検出器3であってもよい。また、必ずしもリングである必要はなく、図9(a)あるいは図9(b)に示す互いに対向したγ線検出器3であってもよい。
【0070】
(6)上述した実施例では、統計量として加算平均値を例に採って説明したが、加算平均値以外の加算データとして加算値(ここでは計数和)でもよい。なお、統計量は加算値あるいは加算平均値に代表される加算データに限定されず、中央値(メディアン)やヒストグラムでの最も頻度の高い値であってもよい。
【0071】
(7)上述した実施例では、規格化する際に用いられる加算データとして加算平均値を例に採って説明したが、上述した変形例(6)と同様に、加算値(ここでは計数和)でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】実施例1に係るPET(Positron Emission Tomography)装置の側面図およびブロック図である。
【図2】補正元データの作成処理、およびγ線同時計数処理プログラムによる同時計数処理の一連の流れを示したフローチャートである。
【図3】LORの定義を検出器で示した模式図であり、(a)は同時計数する検出器リング対から見た図、(b)はリング内検出器対から見た図である。
【図4】(a)、(b)は、各々の不変の要素をそれぞれ求める説明に供する模式図である。
【図5】円筒ファントムを同時計数収集した場合の投影データの模式図である。
【図6】傾き成分を有したパスを併せて図示した投影データの模式図である。
【図7】(a)、(b)は、感度が極端に異なる検出器のパスが存在したときの投影データの模式図である。
【図8】(a)〜(c)は、変形例に係る検出器の概略図である。
【図9】(a)、(b)は、変形例に係る検出器の概略図である。
【図10】ファンサム法における計数の説明に供する検出器の模式図である。
【符号の説明】
【0073】
3 … γ線検出器
5 … コントローラ
10 … 再構成部
NCuivj … 感度補正係数
εui,εvj … 検出器固有感度
uvrk … 結晶干渉因子
uv … リングペア感度
uvk … ブロック形状因子
uvr … 動径方向幾何学因子
P … パス
M … 被検体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性薬剤が投与された被検体から発生した放射線を同時計数して得られたデータに対して演算処理を行う放射線同時計数処理方法であって、放射線検出器群を構成する複数の放射線検出器について、各々の放射線検出器の特性を示す感度補正係数を、経年的に変化しない不変の要素と、経年的に変化する変動の要素とに分解した場合に、(A)モデルとなる被検体から発生した放射線を同時計数して得られた出力データに基づいて、前記不変の要素を求める要素導出工程と、(B)モデルとなる被検体から発生した放射線を同時計数して得られた出力データに基づいて、同時計数投影データを求める同時計数投影データ導出工程と、(C)前記(B)の同時計数投影データ導出工程で求められた同時計数投影データ上の所定のパスにある各画素値を、そのパス全体の加算データを用いて規格化する規格化工程と、(D)前記(C)の規格化工程で規格化された同時計数投影データ上の別の所定のパスにある画素値の統計量を全体領域の加算データで除算する除算工程と、(E)前記(D)の除算工程で除算された値を前記変動の要素とし、その変動の要素と前記(A)の要素導出工程で求められた不変の要素との積で前記感度補正係数を放射線検出器ごとに求める感度補正係数導出工程と、(F)前記(E)の感度補正係数導出工程で求められた各々の放射線検出器ごとの感度補正係数を用いて、対象となる被検体から発生した放射線を同時計数して得られた出力データを放射線検出器ごとに補正する補正工程とを備えることを特徴とする放射線同時計数処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の放射線同時計数処理方法において、前記統計量は加算値あるいは加算平均値であって、前記(D)の除算工程では、前記(C)の規格化工程で規格化された同時計数投影データ上の別の所定のパスにある画素値の加算値あるいは加算平均値を、全体領域の加算データで除算することを特徴とする放射線同時計数処理方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の放射線同時計数処理方法において、前記(B)の同時計数投影データ導出工程、(C)の規格化工程、(D)の除算工程、(E)の感度補正係数導出工程および(F)の補正工程を所定期間で繰り返し行うことを特徴とする放射線同時計数処理方法。
【請求項4】
放射性薬剤が投与された被検体から発生した放射線を同時計数して断層画像を得る断層撮影装置であって、(a)複数の放射線検出器から構成された放射線検出器群と、(b)各々の放射線検出器の特性を示す感度補正係数を、経年的に変化しない不変の要素と、経年的に変化する変動の要素とに分解した場合に、(A)モデルとなる被検体から発生した放射線を同時計数して得られた出力データに基づいて、前記不変の要素を求める要素導出工程と、(B)モデルとなる被検体から発生した放射線を同時計数して得られた出力データに基づいて、同時計数投影データを求める同時計数投影データ導出工程と、(C)前記(B)の同時計数投影データ導出工程で求められた同時計数投影データ上の所定のパスにある各画素値を、そのパス全体の加算データを用いて規格化する規格化工程と、(D)前記(C)の規格化工程で規格化された同時計数投影データ上の別の所定のパスにある画素値の統計量を、全体領域の加算データで除算する除算工程と、(E)前記(D)の除算工程で除算された値を前記変動の要素とし、その変動の要素と前記(A)の要素導出工程で求められた不変の要素との積で前記感度補正係数を放射線検出器ごとに求める感度補正係数導出工程と、(F)前記(E)の感度補正係数導出工程で求められた各々の放射線検出器ごとの感度補正係数を用いて、対象となる被検体から発生した放射線を同時計数されて得られた出力データを放射線検出器ごとに補正する一連の演算処理を行う演算手段と、(c)その演算処理で補正された出力データに基づいて画像処理を行って断層画像を出力する画像処理手段とを備えることを特徴とする断層撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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