説明

放射線感受性物品の殺菌線量を確立する方法

方法は、低いバイオバーデンを有し、かつ放射線感受性が高い対象物の、放射線による殺菌を提供する。対象物に損傷を与えることなく殺菌を確実なものとするのに十分な放射線線量は、対象物の1つ以上の試料上のバイオバーデンを決定する工程と、残存微生物の確率が0.01になる線量の推定値を決定する工程と、推定された前記線量で対象物のある量の試料を試験することにより推定値を確認する工程と、残存微生物の確率が0.01になることが確認された線量に係数を加えることにより、無菌性保証レベル10-6の線量を計算する工程であって、係数が、残存微生物の確率が0.01になる線量に比例し、かつバイオバーデンのlogに反比例する工程と、によって決定される。

【発明の詳細な説明】
【開示の内容】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は放射線殺菌に関し、より詳細には、最小でありながら効果的な殺菌のための放射線線量を決定することに関する。
【0002】
〔背景技術〕
放射線殺菌線量の検証に用いられる線量設定方法1及び2は、1980年代前半に開発された。当時、医療装置の殺菌には、2.5メガラド(25kGy)が一般に許容される線量であると考えられていた。しかしながら、多くの医療装置は、より低い線量で無菌性保証レベル(SAL)である10-6を有し、一部の医療装置はこのSALを達成するめに25kGyを超える線量を必要とすることが認められた。方法1及び2の研究開発に使用された医療装置の重要な特徴は、最小限に制御された環境でそれらが製造されることであり、その結果、バイオバーデンが比較的高レベルでその種類が高度に多様性となり、かつ構成材料は放射線線量25〜75kGyでは比較的影響を受けなくなる。
【0003】
現在開発されているヘルスケア製品の多くは、それらが、放射線障害に対して比較的感受性が高い1つ以上の生理活性成分を有し、かつ汚染性微生物の数及び種類を制限する高度に制御された環境で製造されるという点で、1980年代前半に製造されたものと大きく異なる。多くの場合、これらヘルスケア製品の成分の一部又は全ては、製造工程に導入される前に殺菌される。
【0004】
方法1及び2の主要な基本原理(国際標準化機構11137−2、2006年参照)は、SAL 10-6を達成する線量を決定する際に、その一環として、製品バイオバーデンの放射線反応の直接検査を用いることである。この2つの方法では、100の製品アイテムを照射する試験が実施され、試験される100アイテムのうち非殺菌アイテム(10-2SAL)が1つ以下となることが予想される線量で無菌試験が実施される。
【0005】
方法2Bは、「低くかつ安定したバイオバーデン」に適応されるが、これらの定性的用語は厳密に定義されていない。この方法では、製品のバイオバーデンレベルは決定されず、100の製品アイテムに用いられる放射線線量は、「段階的線量試験(IED)」を行って推定され、この方法が用いるIDEの線量値は、1、2、3、4、5、6、7、及び8kGyである。20の製品アイテムがこれら線量のそれぞれで照射され、無菌試験を受ける。IDEの目的は、「第1の分画陽性(FFP)」線量、つまり、少なくとも1製品アイテムが無菌であり、かつ残りのアイテムが非殺菌(例えば、20のうち19が非殺菌)であることが判明する最初の線量を同定することである。
【0006】
結果が0+/20となるIDEの最低線量は、10-2SALとなる線量の推定値である。100の製品アイテムがこの線量で照射され、この試験は「検証線量実験(VDE)」と呼ばれる。VDEで0、1、又は2つの無菌陽性試験が観察されると、この供給線量は「第1の非陽性(FNP)」線量と呼ばれる。FFP及びFNP線量を決定することにより、方法2において、実験的に決定された10-2SAL線量から10-6SAL線量を導くのに用いられる、「DS」と呼ばれる係数を計算することができる。
【0007】
方法2Bを、高度に制御された環境で製造される、平均バイオバーデンの低い現行製品に適用するに当たっての難題は、DS値を計算する方法である。演算「DS=1.6+[0.2(FNP−FFP)]」を用いて、最低殺菌線量8.2kGを導き出す1.8kGy[殺菌線量=10-2線量+4(DS)=1.0+4(1.8)=8.2;FNP=1.0kGy]と等しいDS値の最低値を効率的に設定する。殺菌線量8.2kGyは、例えば、放射線感受性が比較的高い微生物から構成される、バイオバーデンが1.0の製品にとってはあまりにも控え目である。本発明は、バイオバーデンの低い放射線感受性材料にとって有効な線量を決定する際の、現行基準における当該方法の制限を克服する。
【0008】
〔課題を解決するための手段〕
本発明による方法は、放射線による対象物の殺菌を提供する。本方法は、無菌性保証レベル10-6までの殺菌を確実にするのに十分な放射線線量を決定する工程、及び、次に、当該放射線線量を対象物に適用する工程を含む。線量を決定する工程は、対象物の1つ以上の試料上のバイオバーデンを決定する工程と、対象物のある量の試料を異なる放射線線量レベルで試験して、それを下回ると試料が全く殺菌されず、それを超えると試料が殺菌される線量を決定することにより、残存微生物の確率が0.01になる線量の推定値を決定する工程と、対象物のある量の試料を推定された線量で試験することにより、残存微生物の確率が0.01になる線量の推定値を確認する工程と、残存微生物の確率が0.01になることが確認された線量に係数を加えることにより、無菌性保証レベル10-6の線量を計算する工程であって、係数が、残存微生物の確率が0.01になる線量に比例し、かつバイオバーデンのlogに反比例する工程と、を含む。
【0009】
好ましくは、バイオバーデンは20CFU以下であり、より好ましくは、5CFU以下である。
【0010】
好ましくは、推定線量により残存微生物の確率が0.01になることを確認するための、対象物の試料の量は100個である。
【0011】
好ましくは、係数は、PV*(CD/(2+log(BB))(式中、PVは比例値を表し、CDは残存微生物の確率が0.01になることが確認された線量を表し、BBはコロニー形成単位でのバイオバーデンを表す)と等しい。好ましくは、PVは1.0〜10.0の範囲内である。好ましくは、PVは2以上であり、より好ましくは、2〜3の範囲内であり、2.2が最も好ましい。
【0012】
本発明の一態様において、対象物はタンパク質を含む。
【発明を実施するための形態】
【0013】
放射線殺菌の使用上の限界は、電離放射線が有する場合がある照射される製品に与える有害な影響である。同様に、高圧蒸気殺菌を熱に不安定な製品に適用することはできない。熱はまた、エチレンオキシド、並びにガス自体との反応によって生成される効果に対する制限となり得る。現代科学技術により、汚染されているのが100アイテム中1アイテム未満となる程度まで無菌処理することにより、熱に弱い、あるいはプロセス感受性が高い製品を製造することができる。このような製品は、無菌処理によって10-6SALを現実的に達成することはできないが、製品が必要な放射線線量に持ちこたえるができるのであれば、比較的低い放射線線量で10-6SALに至らしめることは可能である。
【0014】
微生物界は、電離放射線への耐性が大きく異なるおびただしい数の種を有している。多くは極めて感受性が高いが、放射線耐性が高いものもいくつか存在するので、任意の許容可能な線量設定方法の必須要素は、製品バイオバーデンの放射線反応を測定する工程をプロセスに含ませることである。
【0015】
本発明は、適切なレベルの保守性を有する、10-6SAL製品に特異的な殺菌線量を決定する従来の方法を改良する。改良は、低いバイオバーデンの存在下で殺菌線量をより正確に計算するために、バイオバーデンを決定することを含む。
【0016】
本発明に従って殺菌線量を決定するために、殺菌される製品の3つの個別の製品バッチのそれぞれから少なくとも270の製品アイテムを選択するのが好ましい。各バッチから選択された10の非殺菌製品アイテムのそれぞれについて、3つのバッチそれぞれに関するアイテム毎の平均バイオバーデンと、選択された全製品アイテムに関するアイテム毎の平均バイオバーデンと、を含むバイオバーデンを決定する。個別の製品アイテムについてバイオバーデンを決定することが望ましいが、バイオバーデンが非常に低い場合は、バッチ平均バイオバーデンを決定する目的で、単一バッチから10アイテムを取り出すことが可能である。好ましくは、バイオバーデンはISO 11737に従って決定される。
【0017】
3つのバッチそれぞれに関する平均バイオバーデンレベルを、全体の平均バイオバーデンと比較して、バッチ平均のうちのいずれか1つが全体の平均バイオバーデンよりも2倍以上であるかを決定する。1つ以上のバッチ平均が全体の平均バイオバーデンの2倍以上高い場合、その後の計算では使用したバイオバーデンを最高バッチ平均値とすべきであり、そうでない場合は、その後の計算では全体の平均バイオバーデンが使われる。
【0018】
3つの製品バッチのうちの1つからの20の製品アイテムを、0.25kGy以上で開始し、公称増分0.25kGyで増加する一連の8つ以上の線量のうちの1つで照射して、IDEを実施する。これらのそれぞれは線量計でモニタされる。好ましくは、線量の許容誤差は、+0.05kGy又は+10%のどちらか多い方の範囲内でなければならない。続いて、照射された製品アイテムに無菌性試験が行われ、陽性試験の数を記録する。好ましくは、このような試験はISO 11737−2に従って行われる。
【0019】
続いて、FNP線量を決定する。3つのバッチのそれぞれに関するFNP線量は、全無菌試験が陰性になった後、一連の段階的線量における残りの試験のいずれかにおいて1回以下の更なる陽性試験が続く、連続する2つの線量の低い方である。あるいは、FNPは、全試験が陰性であったただ1つの段階的線量の直後で、試験が全て陰性になる段階的線量の前の、20無菌試験中陽性が1つ発生する最も低い線量を見出すことによって決定することができる。この情報は、3つのFNP線量の中で最も高い線量と等しい「検証線量(VD)」を決定するのに用いられる。
【0020】
VDは、3つのバッチのそれぞれから100の製品がVDで照射されるVDEを実施するために使用される。VDEの許容誤差はIDEの許容誤差と同様でなければならない。照射された製品アイテムは個別に無菌試験を受け、無菌試験陽性2つ以下を記録した陽性試験の数が各バッチ毎に現れなければならない。
【0021】
次に、このデータを使用して、式PD10=VD/(2+log(BB))(式中、BBはコロニー形成単位(CFU)でのバッチ平均バイオバーデンである)を用いて第1のD10値(PD10)を計算する。
【0022】
幅広い範囲のバイオバーデン数にわたって各集団を減少させるのに必要な、10-2SAL(PD10)を得るためのD10と、10-2線量で残存する集団を10-6SALに減少させるために必須であるD10との関係を判定するために、本発明者らは、多数の実際の微生物集団及び大きな系列の微生物の疑似集団を検査した。第2のD10は、最終D10又はTD10と呼ばれる。
【0023】
6つの異なる微生物集団の耐性分布と、それらの選択された修正とを含む集団A〜Fは、様々な線量設定及び具体化方法をコンピュータ評価する際の対抗量としての使用が見出されている。集団Cは線量設定方法1で用いられる標準であり、放射線殺菌プロセスに最も重度の対抗量を示すように設計された。分布を発現する際、D10値が1.0〜4.2kGyの範囲となる構成微生物の耐性の測定は、有機物質の存在下で生物を乾燥させて実施し、これにより意図的に極めて効果的な放射線保護状態を作り出した。集団Bは集団Cと同じ微生物の耐性を示すが、耐性は有機溶質を使用せずに測定され、全体として、放射線への反応は集団Cよりいくぶん大きく、D10の範囲は0.8〜3.3kGyである。理論上の集団Aは、放射線殺菌プロセスへの微生物の最低対抗量を示すために集団Bから想定され、集団Bに見出された発現頻度を維持したまま、D10値の9クラスのそれぞれを約30%減少させて得た。明らかに、集団Aの最初の選択は、新しい線量設定方法が適用される対象製品の予想される微生物学的状態を踏まえて行われる。D、E、及びFは、集団Cの放射線に対する反応よりもずっと低い反応を示す耐性分布を有する集団であるので、本文脈と関係がない。
【0024】
不均一な微生物集団の放射線線量反応曲線を2つの異なる部分に分割する概念は、方法VDmaxを最初に開発する際に利用された。この取り組みを進めるうちに、規定のSAL(一般に10-2)のVDEを通過することを前提として、単に、10-2をいくぶん下回る目標SAL(一般に10-6)を達成するように殺菌線量を設定したこのSALで残存している、製品上の微生物集団の反応であることが認められた。この最終反応は、2つの点(log10-2、10-2の線量)(log10-6、10-6の線量)を結ぶ線形線から導かれるD10値によって定量的に定義することができ、その値は用語TD10に象徴されてきた。SAL10-2より上で発生する線量反応曲線の上部は、同様に、点(logバイオバーデン、線量=0)、(log10-2、10-2の線量)を結ぶ線によって導かれるD10によって定義することができ、その値はPD10に象徴される。集団Cの線量反応曲線のこの分析は、これから15kGyから35kGyに及ぶ殺菌線量の範囲の具体化方法に適用される方法VDmaxの基礎であり、このような状況においては、有用かつ有効なアプローチであることが証明された(注記、方法VDmaxでは、検証はSAL 10-1で行われ、したがって、このSALは、この方法で用いるPD10及びTD10値を計算するための線量反応曲線の転移点である)。
【0025】
不均一な放射線反応を伴う不均一な微生物集団は、一般に殺菌前の製品に存在するバイオバーデンを構成する。このような集団は、必然的にPD10の値を上回るTD10の値を導き出すので、1.0を超えるTD10/PD10比を示す。例外的に、バイオバーデンは、放射線に対して均一な反応を呈する単一種の微生物を含む場合がある。均一な集団は比率1.0を提供し、又は微生物の線量反応曲線が肩を示す状況では、1.0未満を提供する。
【0026】
集団A
不均一な「集団A」では、バイオバーデンのレベルに関係なく、TD10/PD10の比率は1.0を超えることが予想される。予想通りであることが見出された。TD10/PD10比はバイオバーデン範囲0.02〜1000にわたって系統的に変化し、下限で2.01、上限で1.67の値となり、バイオバーデン0.50で最大値2.18を通過する。最大値が存在するのは、TD10及びPD10の値がバイオバーデンの増加に伴って増加する異なる比率に起因する。この最大値を値2.2に切り上げることにより、集団A以外の耐性分布を有する集団から導き出したTD10/PD10比を比較することができる、係数PD10の第一選択を提供する。
【0027】
集団C
別の不均一な微生物集団である「集団C」のTD10/PD10比の値は、バイオバーデンが増加するのに伴い、集団Aに見られるのと同様なやり方で振る舞う。0.02〜1000に及ぶバイオバーデンレベルでは、比率は1.78〜1.58に及び、バイオバーデン約0.30で最大値1.92となる。集団Cは、線量設定方法1で見られる耐性分布(いわゆる耐性の標準分布)であり、そのTD10/PD10比は、同等のバイオバーデンレベルにおいて例外なく集団Aの比率未満であり、確認事項は、PD10係数として選択した2.2に関連する保存性の程度を示している。
【0028】
集団A_MD55〜MD62
これら微生物集団は、集団Aを修正して発現させたファミリーを含む。修正は、集団Aで発生する最大耐性の頻度を系統的に右に移動させ、一方で移動させた頻度を8つの集団内で昇順に入れ替えることを含む。こうして、放射線に対する反応が、MD記述子が増加すると漸次減少する集団を得た。8つの集団は全て不均一であるので、TD10/PD10比は1.0を超える値を示した。耐性分布が広く変化するこの一群の集団では、バイオバーデン範囲0.02〜1000でTD10/PD10比が2.05を超えることはなく、その大部分は比較値2.2をはるかに下回った。実際、集団の全体的な耐性が増加する(換言すると、放射線に対する反応が減少する)につれ、比率は値1.0に近づき、再び係数2.2の保存性の性質を示した。
【0029】
集団A由来のその他の修正分布
親分布の耐性分布と全体的に異なる耐性分布を発現させる別の手段は、耐性確率を、最低値から最高値に向けて漸次合計することである。これにより、放射線に対する反応が異なる程度で母集団を超えるか又は母集団未満であるいずれかの集団を提供する。集団A_MD6及びMD9はこのように反対のやり方で反応する一対の集団の1つであり、集団A_MD10及びMD14は別の一対、及び集団A_MD15及び20は第3の集団である。一対のうちより大きい数値記述子を有する集団は放射線に対する反応がより小さく、一対の集団の反応の差異は、記述子の増加に伴って大きくなる。放射線に対する反応が集団A(MD6、9、及び15)よりも大きいこれらの修正された集団では、バイオバーデン範囲0.02〜1000にわたって計算されたTD10/PD10比は全て、集団Aの対応する値より低く、したがって、値2.2で十分カバーされている。一方で、集団Aを超える耐性微生物の集団を提供する方法で修正され、その結果放射線に対する反応が減少した集団は、バイオバーデン範囲の最も低値で2.2を超える比率値を示す。例えば、集団A_MD9ではバイオバーデン0.3で最大比率2.52が見られ、MD14ではバイオバーデン0.2で最大比率2.76が見られ、MD20ではバイオバーデン0.08で最大比率3.04が見られる。明らかに、これらの確認事項は、PD10係数の値を最終的に選択する際の検討を必要とする。
【0030】
その他の集団
更に7つの集団について研究した。集団A及び集団Cから作製した2つの集団を、分布を作り出す各耐性区分で同じ確率が発生するように発現させ、それらは、それぞれ集団A_even及び集団C_evenと名付けられた。更なる2つの集団は集団A及び集団Cの修正であった。これらは、集団の最も感受性が高い区分と最も耐性の強い区分を単独でそれぞれ等しい確率で含み、集団A_50S_50R及び集団C_50S_50Rと名付けられた。3つの集団は事実上均一であり、それぞれが、D10値0.5、2.5、又は4.2kGyで定義される耐性を有する単一種の微生物を含んでおり、これらは、集団_mono0.5、2.5、及び4.5と名付けられた。
【0031】
7つの集団全てが、上で述べられた一般予想に従ったTD10/PD10比を示した。不均一な集団は、変化するバイオバーデンレベルと共に系統的に変わる比率値の範囲を提供し、かつ最大値を示した。更に、バイオバーデン0.02における集団A_50S_50Rを例外として、比率は2.2未満の値をとった。例外は、このバイオバーデンレベルにおいて極めて低いPD10値が存在したことに起因した。均一な「mono」集団は全て、TD10/PD10比1.0を示した。
【0032】
0.25〜1.0kGyの範囲の線量で照射したバチルス・プミルス胞子及びセラチア・マルセセンス・セルの混合懸濁液を用いたシミュレーション実験により、これらの放射線線量による検出は技術的に可能であるという必要な確認を得た。これらはまた、この線量範囲を用いた段階的線量実験は、SAL 10-2を達成する線量の推定値をそこから得ることができる分画陽性結果のアレイを導くことができることを実証した。
【0033】
シミュレーションされたIDE及びVDEは、修正された関連手順により良好な結果が得られることを実証した。このように、製品に対して行われた「低い線量」のIDE及びVDEは、そこから有意義かつ必要な線量を同定することが可能な、技術的に可能かつ実際的な手順であるということを確信するだけの十分な理由が存在する。
【0034】
集団AのTD10/PD10分析は、最大切り上げ比率2.2をもたらし、この値は、実質的に異なるが多くの場合類似した耐性分布を有する幅広い種類の集団に対して行われた分析から導かれた比率の値と対立してきた。この比較の総合的結果は、集団Aよりも放射線耐性が大きい集団C、及び集団Aの耐性分布に修正を加えたほとんどの集団が、広範囲のバイオバーデンレベルにわたって2.2よりかなり低い比率値を提供することである。明らかに、この結果は、PD10係数として2.2を選択することを強く支持し、かつ値の保存性を明確に示している。この確認事項の例外は、高放射線耐性である微生物が集団Aよりも高い割合で存在する分布を有する一定の集団である。これらの存在は、主にTD10値の増加をもたらし、これらの存在はまた、高いTD10/PD10比を提供する。
【0035】
上記例外を考慮して、考えなければならないのは、このような分布と「実体面」との関連性である。現在のところ、これは判断決定であるが、規定された製造条件及びそれらに課せられる制御を踏まえると、高放射線耐性であるかなりの数の微生物を有する微生物集団が、殺菌の前に製品に発生することは全くありそうにないと言っておく必要がある。更に、VDEの結果は、これらが存在しないことをチェックする役割を果たす。このような微生物が発生する場合、PD10係数2.2が無効になる、集団Aレベルを超える割合の特定のバイオバーデンで存在する必要がある。
【0036】
したがって、TD10はPD10の2.2倍になると考えられる。次に、10-6SALを達成する殺菌線量を、VDにTD104回線量を加えて計算する、言い換えれば、殺菌線量はVDに(4*TD10)を加えたものと等しい。
【0037】
このように、殺菌線量は、対象となる装置を殺菌するのに用いられる線量であり、無菌性保証レベル10-6を提供する。本方法は、5CFU以下の非常に低い平均バイオバーデンに推奨される。デリケートな薬物及び放射線感受性装置の殺菌に有用である。
【0038】
タンパク質は、損傷を与えずに殺菌するのが特に難しい。本発明者らが関心を寄せる1つの特定領域は、血液中のタンパク質及び血漿タンパクの殺菌である。タンパク質の起源は、天然(即ち、ヒト、動物)、合成、又は組み換えであってもよい。血液中のタンパク質/血漿タンパクは、脂質、ホルモン、ビタミン、及び金属の輸送分子として働く。これらはまた、酵素、補体成分、プロテアーゼ阻害剤、及びキニン受容体としても機能する。血液中のタンパク質/血漿タンパクには、アルブミン、アンクロッド、バトロキソビン、コラーゲン、エカリン、エラスチン、エピネフリン、第X/Xa因子、第VII/VIIa因子、第IX/IXa因子、第XI/XIa因子、第XII/XIIa因子、フィブリン、フィコリン、フィブリノゲン、フィブロネクチン、ジェラチン、グロビン、ハプトグロビン、ヘモグロビン、ヘパリナーゼ、インヒビン、インスリン、インターロイキン、ラミニン、トロンビン、血小板表面糖タンパク質、プロトロンビン、セレクチン、トロンビン、トランスフェリン、フォンビルブランド因子、バソプレシン、バソプレシン誘導体、プロコアグラントベノム、血小板活性化剤、及び止血作用を有する合成ペプチドが挙げられるが、これらに限定されない。
【0039】
本発明者は、また、ポリマーの殺菌、特に、創傷包帯の布基材を調製するのに有用なポリマーの殺菌に関し、当該ポリマーには、非限定的に、コラーゲン、アルギン酸カルシウム、キチン、ポリエステル、ポリプロピレン、多糖、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアミン、ポリイミン、ポリアミド、ポリエステル、ポリエーテル、ポリヌクレオチド、ポリ核酸、ポリペプチド、タンパク質、ポリ(アルキレンオキシド)、ポリアルキレン、ポリチオエステル、ポリチオエーテル、ポリビニル、脂質を含むポリマー、及びこれらの混合物が含まれると考えている。好ましい繊維は、酸化した再生多糖類、特に、酸化再生セルロースを含む。本発明の方法は、前述のポリマー及びタンパク質と共に用いるのに極めて有用であることが見込まれる。
【0040】
本発明は特定の実施形態と関連付けて説明されてきたが、これは例示として示されており、限定ではなく、添付の特許請求の範囲の範囲は、先行技術が許す範囲で幅広く解釈されるべきであることを理解されたい。
【0041】
〔実施態様〕
(1) 対象物を放射線で殺菌する方法であって、前記方法が、無菌性保証レベル10-6にまでの滅菌を確実にするために十分な放射線線量を決定する工程、及び、次に、前記放射線線量を前記対象物に適用する工程を含み、前記線量を決定する前記工程が、
前記対象物の1つ以上の試料におけるバイオバーデンを決定する工程と、
前記対象物のある量の試料を異なる放射線線量レベルで試験して、それを下回ると試料が全く殺菌されず、それを超えると試料が殺菌される線量を決定することにより、残存微生物の確率が0.01になる線量の推定値を決定する工程と、
前記対象物のある量の試料を推定された前記線量で試験することにより、残存微生物の確率が0.01になる前記線量の前記推定値を確認する工程と、
残存微生物の確率が0.01になることが確認された前記線量に係数を加えることにより、前記無菌性保証レベル10-6の線量を計算する工程であって、前記係数が、残存微生物の確率が0.01になる前記線量に比例し、かつ前記バイオバーデンのlogに反比例する工程と、を含む、方法。
(2) 前記バイオバーデンが20CFU以下である、実施態様1に記載の方法。
(3) 前記バイオバーデンが5CFU以下である、実施態様1に記載の方法。
(4) 前記推定線量により残存微生物の確率が0.01になることを確認するための、前記対象物の試料の量が100個である、実施態様1に記載の方法。
(5) 前記係数が、PV*(CD/(2+log(BB))(式中、PVは比例値を表し、CDは残存微生物の確率が0.01になることが確認された前記線量を表し、BBはコロニー形成単位での前記バイオバーデンを表す)と等しい、実施態様4に記載の方法。
(6) PVが1.0〜10.0の範囲内である、実施態様5に記載の方法。
(7) PVが2以上である、実施態様5に記載の方法。
(8) PVが少なくとも2.2である、実施態様7に記載の方法。
(9) PVが2〜3の範囲内である、実施態様5に記載の方法。
(10) 前記対象物がタンパク質を含む、実施態様1に記載の方法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を放射線で殺菌する方法であって、前記方法が、無菌性保証レベル10-6にまでの滅菌を確実にするために十分な放射線線量を決定する工程、及び、次に、前記放射線線量を前記対象物に適用する工程を含み、前記線量を決定する前記工程が、
前記対象物の1つ以上の試料におけるバイオバーデンを決定する工程と、
前記対象物のある量の試料を異なる放射線線量レベルで試験して、それを下回ると試料が全く殺菌されず、それを超えると試料が殺菌される線量を決定することにより、残存微生物の確率が0.01になる線量の推定値を決定する工程と、
前記対象物のある量の試料を推定された前記線量で試験することにより、残存微生物の確率が0.01になる前記線量の前記推定値を確認する工程と、
残存微生物の確率が0.01になることが確認された前記線量に係数を加えることにより、前記無菌性保証レベル10-6の線量を計算する工程であって、前記係数が、残存微生物の確率が0.01になる前記線量に比例し、かつ前記バイオバーデンのlogに反比例する工程と、を含む、方法。
【請求項2】
前記バイオバーデンが20CFU以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記バイオバーデンが5CFU以下である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記推定線量により残存微生物の確率が0.01になることを確認するための、前記対象物の試料の量が100個である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記係数が、PV*(CD/(2+log(BB))(式中、PVは比例値を表し、CDは残存微生物の確率が0.01になることが確認された前記線量を表し、BBはコロニー形成単位での前記バイオバーデンを表す)と等しい、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
PVが1.0〜10.0の範囲内である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
PVが2以上である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
PVが少なくとも2.2である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
PVが2〜3の範囲内である、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
前記対象物がタンパク質を含む、請求項1に記載の方法。

【公表番号】特表2010−528771(P2010−528771A)
【公表日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−511269(P2010−511269)
【出願日】平成20年6月3日(2008.6.3)
【国際出願番号】PCT/US2008/065598
【国際公開番号】WO2008/154209
【国際公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(591286579)エシコン・インコーポレイテッド (170)
【氏名又は名称原語表記】ETHICON, INCORPORATED
【Fターム(参考)】