説明

放射線撮像装置および放射線撮像表示システム

【課題】光電変換素子上に波長変換層が設けられた積層構造において、光吸収率の低減を抑制することが可能な放射線撮像装置および放射線撮像表示システムを提供する。
【解決手段】放射線撮像装置1は、フォトダイオード111Aを含む画素部12上にシンチレータ層114を備えたものであり、これらフォトダイオード111Aとシンチレータ層114との界面付近の積層構造において、n型半導体層125とシンチレータ層114との間に、これら層よりも屈折率の低い低屈折率層129が設けられている。光の干渉が生じ易くなり、光吸収率が低屈折率層の膜厚に依存して変化し、極大値をもつようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば医療用や非破壊検査用のX線撮影に好適な放射線撮像装置および放射線撮像表示システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、X線等の放射線を使用した放射線撮像装置として、写真フィルムを介さずに、画像を電気信号として取得する(光電変換によって撮像する)放射線撮像装置が開発されている(例えば、特許文献1,2)。このような放射線撮像装置としては、フォトダイオード等の光電変換素子を含む画素基板上に、シンチレータを備えたいわゆる間接変換型の放射線撮像装置が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−45420号公報
【特許文献2】特開2003−215255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記のような間接変換型の放射線撮像装置では、シンチレータが画素基板上に直付けされる場合、シンチレータがない場合(光が空気層を経て光電変換素子へ入射する場合)に比べ、界面反射に起因する光損失により、光吸収率が低減する。あるいは、特許文献1のように、光電変換素子を保護膜(SiN単層)で覆い、この保護膜上にシンチレータを積層した場合にも、上記直付けの場合と同様、光吸収率が低減するという問題がある。
【0005】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、光電変換素子上に波長変換層が設けられた積層構造において、光吸収率の低減を抑制することが可能な放射線撮像装置および放射線撮像表示システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の放射線撮像装置は、光電変換層と、光電変換層上に設けられ、放射線の波長を光電変換層の感度域の波長に変換する波長変換層と、光電変換層と波長変換層との間に設けられ、光電変換層および波長変換層よりも低い屈折率を有する低屈折率層とを備えたものである。
【0007】
本発明の放射線撮像装置では、光電変換層と波長変換層との間に、それらよりも屈折率の低い低屈折率層が設けられていることにより、波長変換層から発せられた後、光電変換層へ入射するまでの間に光の干渉が生じ易くなる。これにより、光電変換層における光吸収率は、低屈折率層の膜厚に依存して変化し、極大値をもつようになる。
【0008】
本発明の放射線撮像表示システムは、放射線に基づく画像を取得する撮像装置(上記本発明の放射線撮像装置)と、この撮像装置により取得された画像を表示する表示装置とを備えたものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の放射線撮像装置によれば、光電変換層と波長変換層との間に、それらよりも屈折率の低い低屈折率層を設けるようにしたので、光の干渉による効果を利用して、光電変換層の光吸収率に対し、低屈折率層の膜厚依存性をもたせることができる。即ち、例えば光吸収率が極大値をとるように低屈折率層の膜厚を最適化することができる。これにより、光電変換素子上に波長変換層が設けられた積層構造において、光吸収率の低減を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施の形態に係る放射線撮像装置の全体構成を表す機能ブロック図である。
【図2】図1に示した放射線撮像装置の断面構造を表す模式図である。
【図3】図1に示した単位画素における画素駆動回路(アクティブ駆動回路)の一例である。
【図4】図3に示したトランジスタの断面構造を表す模式図である。
【図5】図3に示したフォトダイオードの断面構造を表す模式図である。
【図6】図4に示したフォトダイオードと図2に示したシンチレータ層との界面付近の積層構造を表す模式図である。
【図7】図5に示した積層構造における各層の材料例および屈折率の関係について説明するための断面模式図である。
【図8】比較例に係るフォトダイオードとシンチレータ層との界面付近の積層構造を表す模式図である。
【図9】図8に示した積層構造における各層の材料例および屈折率の関係について説明するための断面模式図である。
【図10】比較例1,2において使用した各層の厚みおよび屈折率の値を示した図である。
【図11】比較例1(シンチレータ層なし,ITO:80nm)の保護膜SiNの厚みと光吸収率との関係を表す特性図であり、(A)は入射角0°、(B)は入射角30°の場合を示す。
【図12】比較例2(シンチレータ層あり,ITO:80nm)の保護膜SiNの厚みと光吸収率との関係を表す特性図であり、(A)は入射角0°、(B)は入射角30°の場合を示す。
【図13】実施例1において使用した各層の厚みおよび屈折率の値を示した図である。
【図14】実施例1(低屈折率層SiO2挿入,ITO:80nm)の低屈折率層の厚みと光吸収率との関係を表す特性図であり、(A)は入射角0°、(B)は入射角30°の場合を示す。
【図15】比較例1における光吸収率の入射角依存性について示す特性図である。
【図16】比較例2における光吸収率の入射角依存性について示す特性図である。
【図17】実施例1における光吸収率の入射角依存性について示す特性図である。
【図18】変形例1に係るフォトダイオードとシンチレータ層との界面付近の積層構造を表す模式図である。
【図19】実施例2において使用した各層の厚みおよび屈折率の値を示した図である。
【図20】実施例2(低屈折率層SiO2挿入,ITO:80nm)の低屈折率層の厚みと光吸収率との関係を表す特性図であり、(A)は入射角0°、(B)は入射角30°の場合を示す。
【図21】実施例2における光吸収率の入射角依存性について示す特性図である。
【図22】変形例2に係るフォトダイオードとシンチレータ層との界面付近の積層構造を表す模式図である。
【図23】変形例3に係るフォトダイオードとシンチレータ層との界面付近の積層構造を表す模式図である。
【図24】変形例4に係る画素駆動回路(パッシブ駆動回路)の一例である。
【図25】適用例に係る放射線撮像表示システムの全体構成を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。尚、説明は以下の順序で行う。

1.実施の形態(光電変換層側から順に、透明導電膜、保護層、低屈折率層および波長変換層を備えた間接変換型の放射線撮像装置の例)
2.実施例1(1.の構成に相当するシミュレーション例)
3.変形例1(低屈折率層を透明導電膜と保護層との間に設けた場合の例)
4.実施例2(3.の構成に相当するシミュレーション例)
5.変形例2(波長変換層上に有機保護膜を設けた例)
6.変形例3(有機保護膜の他の配置例)
7.変形例4(画素駆動回路をパッシブ駆動回路とした例)
8.適用例(放射線撮像表示システムの例)
【0012】
<実施の形態>
[放射線撮像装置の全体構成]
図1は、本発明の一実施の形態に係る放射線撮像装置(放射線撮像装置1)の全体構成を表すものである。放射線撮像装置1は、いわゆる間接変換型FPD(Flat Panel Detector)であり、α線、β線、γ線、X線に代表される放射線を波長変換後に受光し、放射線に基づく画像情報を読み取るものである。この放射線撮像装置1は、医療用をはじめ、手荷物検査等のその他の非破壊検査用のX線撮像装置として好適に用いられるものである。
【0013】
放射線撮像装置1は、基板11上に画素部12を有し、この画素部12の周囲には、例えば行走査部13、水平選択部14、列走査部15およびシステム制御部16からなる周辺回路(駆動回路)が設けられている。
【0014】
画素部12は、放射線撮像装置1における撮像エリアとなるものである。この画素部12には、入射光の光量に応じた電荷量の光電荷を発生して内部に蓄積する光電変換素子(後述のフォトダイオード111A)を含む単位画素12a(以下、単に「画素」と記述する場合もある)が行列状に2次元配置されている。単位画素12aには、画素駆動線17として例えば2本の配線(具体的には行選択線およびリセット制御線)が画素行ごとに設けられている。
【0015】
画素部12には更に、行列状の画素配列に対して画素行ごとに画素駆動線17が行方向(画素行の画素の配列方向)に沿って配線され、画素列ごとに垂直信号線18が列方向(画素列の画素の配列方向)に沿って配線されている。画素駆動線17は、画素からの信号読み出しのための駆動信号を伝送するものである。図1では、画素駆動線17について1本の配線として示しているが、1本に限られるものではない。画素駆動線17の一端は、行走査部13の各行に対応した出力端に接続されている。この画素部12の構成については後述する。
【0016】
行走査部13は、シフトレジスタやアドレスデコーダ等によって構成され、画素部12の各画素12aを、例えば行単位で駆動する画素駆動部である。行走査部13によって選択走査された画素行の各単位画素から出力される信号は、垂直信号線18の各々を通して水平選択部14に供給される。水平選択部14は、垂直信号線18ごとに設けられたアンプや水平選択スイッチ等によって構成されている。
【0017】
列走査部15は、シフトレジスタやアドレスデコーダ等によって構成され、水平選択部14の各水平選択スイッチを走査しつつ順番に駆動する。この列走査部15による選択走査により、垂直信号線18の各々を通して伝送される各画素の信号が順番に水平信号線19に出力され、当該水平信号線19を通して基板11の外部へ伝送される。
【0018】
行走査部13、水平選択部14、列走査部15および水平信号線19からなる回路部分は、基板11上に直に形成された回路であってもよいし、あるいは外部制御ICに配設されたものであってもよい。また、それらの回路部分は、ケーブル等により接続された他の基板に形成されていてもよい。
【0019】
システム制御部16は、基板11の外部から与えられるクロックや、動作モードを指令するデータなどを受け取り、また、放射線撮像装置1の内部情報などのデータを出力する。システム制御部16はさらに、各種のタイミング信号を生成するタイミングジェネレータを有し、当該タイミングジェネレータで生成された各種のタイミング信号を基に行走査部13、水平選択部14および列走査部15などの周辺回路の駆動制御を行う。
【0020】
図2は、放射線撮像装置1の断面構造を模式的に表したものである。このように、間接変換型FPDでは、画素部12上に更にシンチレータ層114(波長変換層)を有している。画素部12は、後述のフォトダイオード111Aおよびトランジスタ111B(Tr1,Tr2,Tr3)を画素毎に有し、シンチレータ層114から発せられた光(波長変換後の光)をフォトダイオード111Aにおいて受光し、読み出しトランジスタ(Tr3)により電気信号として読み出すようになっている。この画素部12とシンチレータ層114との界面付近には、詳細は後述するが、保護層128および低屈折率層129が積層されている。
【0021】
シンチレータ層114は、放射線の波長をフォトダイオード111Aの感度域の波長に波長変換するものである。このシンチレータ層114には、例えばX線を可視光に変換する蛍光体が用いられる。このような蛍光体としては、例えば、ヨウ化セシウム(CsI)にタリウム(Tl)を添加したもの、酸化硫黄カドミウム(Gd22S)にテルビウム(Tb)を添加したもの、BaFX(XはCl,Br,I等)等が挙げられる。シンチレータ層114の厚みは100μm〜600μmであることが望ましく、例えば600μmである。このようなシンチレータ層114は、平坦化膜113上に例えば真空蒸着法を用いて成膜することができる。以下、画素部12の詳細構成について説明する。
【0022】
[画素部12の詳細構成]
(画素回路)
図3は、画素部12における単位画素12aの回路構成の一例(アクティブ駆動回路)である。単位画素12aは、例えばフォトダイオード111Aと、トランジスタTr1,Tr2,Tr3(後述のトランジスタ111Bに相当)と、前述の垂直信号線18と、画素駆動線17としての行選択線171およびリセット制御線172とを含むものである。
【0023】
フォトダイオード111Aは、例えばPIN(Positive Intrinsic Negative Diode) フォトダイオードであり、例えばその感度域(受光波長帯域)が可視域である(可視光を受光可能である)。フォトダイオード111Aは、例えば上部電極126(端子133)に基準電位Vxrefが印加されることで、入射光の光量(受光量)に応じた電荷量の信号電荷を発生するものである。フォトダイオード111Aは、例えば下部電極(p型半導体層122)側が蓄積ノードNに接続されている。蓄積ノードNには容量成分136が存在し、フォトダイオード111Aで発生した信号電荷は蓄積ノードNに蓄積される。尚、フォトダイオード111Aを蓄積ノードNとグランド(GND)との間に接続した構成としてもよい。このフォトダイオードの断面構造については後述する。
【0024】
トランジスタTr1,Tr2,Tr3はいずれも、例えばNチャネル型の電界効果トランジスタであり、チャネルを形成する半導体層(後述の半導体層126)が例えば非結晶シリコン、微結晶シリコン、多結晶シリコン等のシリコン系半導体、望ましくは低温多結晶シリコンにより構成されている。あるいは、酸化インジウムガリウム亜鉛(InGaZnO)または酸化亜鉛(ZnO)等の酸化物半導体により構成されていてもよい。
【0025】
トランジスタTr1は、リセットトランジスタであり、参照電位Vrefが与えられる端子137と蓄積ノードNとの間に接続されている。このトランジスタTr1は、リセット信号Vrstに応答してオンすることによって蓄積ノードNの電位を参照電位Vrefにリセットするものである。トランジスタTr2は、読出トランジスタであり、ゲートが蓄積ノードNに、端子134(ドレイン)が電源VDDにそれぞれ接続されている。このトランジスタTr2は、フォトダイオード111Aで発生した信号電荷をゲートで受け、当該信号電荷に応じた信号電圧を出力する。トランジスタTr3は、行選択トランジスタであり、トランジスタTr2のソースと垂直信号線18との間に接続されており、行走査信号Vreadに応答してオンすることにより、トランジスタTr2から出力される信号を垂直信号線18に出力する。このトランジスタTr3については、トランジスタTr2のドレインと電源VDDとの間に接続する構成を採ることも可能である。以下、これらのトランジスタ(総称してトランジスタ111Bとする)の断面構造について説明する。
【0026】
(トランジスタ111Bの断面構造)
図4は、トランジスタ111Bの断面構成例であり、画素部12の断面構造の一部に相当するものである。トランジスタ111Bは、半導体層126を挟むようにして2つのゲート電極を設けた、いわゆるデュアルゲート構造を有している。例えば、トランジスタ111Bは、基板11上に、第1ゲート電極120Aと、この第1ゲート電極120Aを覆うように形成された第1ゲート絶縁膜129を有している。第1ゲート絶縁膜129上には、チャネル層126aを含む半導体層126が設けられている。この半導体層126を覆うように、第2ゲート絶縁膜130が形成され、この第2ゲート絶縁膜130上の第1ゲート電極120Aに対向する領域に、第2ゲート電極120Bが配設されている。第2ゲート電極120B上には、層間絶縁膜131が形成されており、この層間絶縁膜131と第2ゲート絶縁膜130とに形成されたコンタクトホールH1を埋め込むように、ソース・ドレイン電極132が設けられている。
【0027】
第1ゲート電極120Aおよび第2ゲート電極120Bはそれぞれ、例えばチタン(Ti),アルミニウム(Al),モリブデン(Mo),タングステン(W),クロム(Cr)等のいずれかよりなる単層膜またはそれらの積層膜よりなる。第1ゲート電極120Aおよび第2ゲート電極120Bの厚みはそれぞれ、例えば30nm〜150nmとなっている。
【0028】
第1ゲート絶縁膜129および第2ゲート絶縁膜130は、例えば酸化シリコン(SiO2)、酸窒化シリコン(SiON)、窒化シリコン(SiNx)等の単層膜であるか、あるいはこのようなシリコン化合物よりなる層を複数積層した積層膜である。
【0029】
半導体層126は、例えば非結晶シリコン、多結晶シリコン、低温多結晶シリコンまたは微結晶シリコンにより構成され、望ましくは低温多結晶シリコンにより構成されている。あるいは、酸化インジウムガリウム亜鉛(IGZO)等の酸化物半導体により構成されていてもよい。この半導体層126では、チャネル層126aとN+層126cとの間に、リーク電流を低減する目的でLDD層126bが形成されている。ソース・ドレイン電極132は、Ti、Al、Mo、W、Cr等からなる単層膜またはこれらの積層膜からなり、信号読み出しのための配線に接続されている。
【0030】
層間絶縁膜131は、例えば酸化シリコン、酸窒化シリコンおよび窒化シリコンのうちの単層膜またはこれらの積層膜により構成されている。
【0031】
尚、トランジスタ111Bは、上記のようなデュアルゲート構造を有するものに限定されず、半導体層のチャネルに対向して1つのゲート電極が配設されたものであってもよい。
【0032】
(フォトダイオード111Aの断面構成)
図5は、フォトダイオード111Aの断面構成例であり、画素部12の一部に相当するものである。このフォトダイオード111Aは、上記トランジスタ111Bと共に基板11上に設けられ、例えばその積層構造の一部がトランジスタ111Bと共通しており、同一の薄膜プロセスによって形成されるものである。以下、フォトダイオード111Aの詳細構成について説明する。
【0033】
フォトダイオード111Aは、基板11上の選択的な領域に、ゲート絶縁膜121を介してp型半導体層122を有している。基板11上(詳細にはゲート絶縁膜121上)には、そのp型半導体層122に対向してコンタクトホールH2を有する層間絶縁膜123Aが設けられている。層間絶縁膜123AのコンタクトホールH2内のp型半導体層122上には、i型半導体層124が設けられており、このi型半導体層124上にn型半導体層125が形成されている。n型半導体層125には、コンタクトホールH3を有する層間絶縁膜123Bが設けられており、そのコンタクトホールH3を介してn型半導体層125と上部電極126(導電膜)とが接続されている。
【0034】
尚、ここでは、基板11側(下部側)にp型半導体層122、上部側にn型半導体層125をそれぞれ設けた例を挙げたが、これと逆の構造、即ち下部側(基板11側)をn型、上部側をp型とした構造であってもよい。また、上記ゲート絶縁膜121,層間絶縁膜123Aおよび層間絶縁膜123Bは、それらの一部または全部において、トランジスタ111Bにおける第1ゲート絶縁膜129、第2ゲート絶縁膜130および層間絶縁膜131の各層と同一の層構造を有する。このフォトダイオード111Aはトランジスタ111Bと同一の薄膜プロセスにより形成可能である。
【0035】
p型半導体層122は、例えば多結晶シリコン(ポリシリコン)等に、例えばボロン(B)等のp型不純物がドープされてなるp+領域であり、厚みは例えば40nm〜50nmである。このp型半導体層122は、例えば信号電荷を読み出すための下部電極を兼ねており、例えば、前述の蓄積ノードN(図3)に接続されている(あるいは、p型半導体層122が蓄積ノードNとなって、電荷を蓄積させるようになっている)。
【0036】
i型半導体層124は、p型とn型の中間の導電性を示す半導体層、例えばノンドープの真性半導体層であり、例えば非結晶シリコン(アモルファスシリコン:α−Si)により構成されている。i型半導体層124の厚みは、例えば400nm〜1000nmであるが、厚みが大きい程、光感度を高めることができる。
【0037】
n型半導体層125は、例えば非結晶シリコンにより構成され、n+領域を形成するものである。このn型半導体層125の厚みは例えば、10nm〜50nmである。
【0038】
上部電極126は、光電変換のための基準電位を供給するための電極であり、例えばITO(Indium Tin Oxide)等の透明導電膜により構成されている。上部電極126には、この上部電極126に電圧を供給するための電源配線127が接続されている。この上部電極126の厚みは、例えば50nm〜100nmであり、後述の条件式(条件式(3))を満足するように設定されていることが望ましい。電源配線127は上部電極126よりも低抵抗の材料、例えばTi、Al、Mo、W、Cr等によって構成されている。
【0039】
[フォトダイオードとシンチレータ層との界面付近の積層構造]
図6は、フォトダイオード111Aとシンチレータ層114との界面付近の積層構造(積層構造10A)を模式的に表したものである。放射線撮像装置1では、上述のように画素部12上にシンチレータ層114が設けられるが、本実施の形態では、それらの界面付近に、フォトダイオード111A側(上部電極126側)から順に、更に保護層128と低屈折率層129とが設けられている。
【0040】
保護層128は、フォトダイオード114Aの保護するパッシベーション膜であり、例えば窒化シリコン(SiN)よりなる。保護層128の厚みは、例えば130nm〜180nmであり、後述する条件式(条件式(3))を満たすように設定されていることが望ましい。
【0041】
低屈折率層129は、界面付近において相対的に低屈折率を示す材料、例えば光電変換層としてのn型半導体層125(あるいはi型半導体層124)、上部電極126、保護層127およびシンチレータ層114よりも屈折率の低い材料により構成されている。また、この低屈折率層129の厚みは、例えば80nm〜100nmであり、後述する条件式(条件式(2))を満たすように設定されていることが望ましい。この低屈折率層129の構成材料としては、積層構造10Aのうちの他の層よりも低い屈折率を示すものであればよいが、例えばSiO2,SiON等が挙げられる。尚、ここでは低屈折率層129の材料として、SiO2のような絶縁材料を用いているが、絶縁材料に限らず、導電性を示す材料が用いられてもよい。低屈折率の導電膜を用いる場合には、上部電極126を兼ねて配設可能となるため、即ちn型半導体層125側から低屈折率層129、保護層128およびシンチレータ層114を順に積層した構造となる。
【0042】
(屈折率および膜厚についての条件)
本実施の形態では、上記のような積層構造10Aにおいて、低屈折率層129と他の層との屈折率が、以下の条件式(1)を満足するようになっている。但し、低屈折率層129よりも上に設けられる層の屈折率をn0、低屈折率層129の屈折率をn1、低屈折率層129とn型半導体層125との間に設けられる層の屈折率をn2、およびn型半導体層125の屈折率をn3とする。
n0>n1<n2<n3 ………(1)
【0043】
ここでは、積層構造10Aが、n型半導体層125側から順に、上部電極126、保護層128、低屈折率層129およびシンチレータ層114が設けられた構造であるから、シンチレータ層114の屈折率をn0、低屈折率層129の屈折率をn1、保護層128および上部電極126の屈折率をn2(詳細にはn21またはn22)、およびn型半導体層125の屈折率をn3としている。尚、保護層128および上部電極126については、上記屈折率n2として、それぞれの屈折率n21,n22毎に条件式(1)を満足していればよい。
【0044】
図7は、上記のような屈折率の関係を満たす積層構造10Aにおける各層の材料の一例とその屈折率の相対的な程度(低、中、高)について表したものである。このように、n型半導体層125(α−Si(n+))が高屈折率(n3=4)であるのに対し、シンチレータ層114(CsI)、保護層128(SiN)および上部電極126(ITO)が中屈折率(n0=1.77,n21=1.82,n22=1.73)でほぼ同等の屈折率となっている。本実施の形態では、このような中屈折率層間(ここでは、保護層128とシンチレータ層114との間)に、それよりも低い屈折率(n1=1.43)を示す低屈折率層129(SiO2)が挟み込まれた構造となっている。このような構造では、特に、n0の値とn2(n21またはn22)の値とが相対的に近い場合に、低屈折率層129を設けることの効果が大きくなる。
【0045】
即ち、低屈折率層129を設けることにより、少なくとも上記の屈折率n0,n1,n21,n22,n3における相対的な大小関係において、以下に説明するような効果が得られる。但し、空気層の屈折率を1.0とし、括弧内に記載した「低」,「中」および「高」はそれぞれ、屈折率の相対的な程度を表したものとする。
【0046】
まず、上記のような積層構造10Aにおいて、CsI層のない場合について考えると、この場合、光入射側から順に、空気層(低)、SiN層およびITO層(中)、α−Si層(高)を積層した構造となる。このような構造では、光の干渉効果が生じ、空気から入射する光の吸収率が上がっている。
【0047】
ところが、CsI層を有する構造の場合、光入射側から順に、空気層(低)、CsI層(中)、SiN層およびITO層(中)、α−Si層(高)を積層した構造となる。このような構造では、CsI層とSiN層(またはITO層)とがほぼ同等の屈折率となり(SiN層およびITO層等が光学的な干渉に寄与せず)、光の吸収率向上の効果が得られない。
【0048】
そこで、SiO2層(低)が、CsI層(中)とα−Si層(高)との間のいずれかの層に設けられてさえいれば、光学的な干渉効果による光吸収率向上(または光吸収率低減の抑制)の効果を得ることができる。これは、後述する図12および図14より明らかである。また、この光吸収率向上の効果を、より効果的に得るためには、各層の屈折率および膜厚の関係を以下のように設定することが望ましいと推定される。
【0049】
即ち、積層構造10Aでは、上記条件式(1)を満たす場合に、低屈折率層129の屈折率(n1)および厚み(d1)が更に、以下の条件式(2)を満足することが望ましいと推定される。但し、mを整数、λを入射光の波長とする。後述の実施例において示されるように、条件式(2)を満足するような膜厚設定を行うことで、光の干渉による効果を有効に利用することができる。即ち、光の干渉により、低屈折率層129の膜厚に依存して、光電変換層における光吸収率が変化する(極小点、極大点を形成する)ようになる。そのため、光吸収率が極大値(最大値)をとるように、低屈折率層129の膜厚を最適化することができ、これにより、光吸収率の低減を抑制することができる。
n1×d1=(2m+1)×(λ/4) ………(2)
【0050】
更に、これらの条件式(1),(2)に加えて、以下の条件式(3)を満足することがより望ましいと推定される。但し、m’を整数とし、保護層128の厚みをd21、上部電極126の厚みをd22とする。このように本実施の形態では、n型半導体層125と低屈折率層129との間に設けられた、保護層128および上部電極126の2つの中屈折率層の膜厚を最適化することがより望ましい。
(n21×d21)+(n22×d22)=(2m’+1)×(λ/4) ………(3)
【0051】
[作用・効果]
本実施の形態の作用、効果について、図1〜図9を参照して説明する。放射線撮像装置1では、図示しない放射線(例えばX線)照射源から照射され、被写体(検出体)を透過した放射線を取り込み、これを波長変換後に光電変換することによって、被写体の画像を電気信号として取得する。詳細には、放射線撮像装置1に入射した放射線は、まず、シンチレータ層114において、フォトダイオード111Aの感度域(ここでは可視域)の波長に変換される。波長変換後の光(可視光)が、シンチレータ層114から発せられると、この可視光が画素部12へ入射する。
【0052】
画素部12では、フォトダイオード111Aに、図示しない電源配線から上部電極126を介して所定の電位が印加されると、上部電極126の側から入射した可視光が、その受光量に応じた電荷量の信号電荷に変換される(光電変換がなされる)。この光電変換によって発生した信号電荷は、p型半導体層122の側から光電流として取り出される。
【0053】
詳細には、フォトダイオード111Aにおける光電変換によって発生した電荷は、蓄積層(p型半導体層122,蓄積ノードN)により収集され、この蓄積層から電流として読み出され、トランジスタTr2(読出トランジスタ)のゲートに与えられる。トランジスタTr2は当該信号電荷に応じた信号電圧を出力する。このトランジスタTr2から出力される信号は、行走査信号Vreadに応答してトランジスタTr3がオンすると、垂直信号線18に出力される(読み出される)。このようにして読み出された信号は、垂直信号線18を介して画素列ごとに、水平選択部14へ出力される。
【0054】
(比較例)
ここで、図8に、本実施の形態の比較例に係る放射線撮像装置におけるフォトダイオードとシンチレータ層との界面付近の積層構造(積層構造100)について示す。また図9には、積層構造100における各層の材料の一例とその屈折率の相対的な程度(中、高)について表したものである。この積層構造100では、α−Siよりなる光電変換層(i型半導体層101,n型半導体層102)上に、上部電極103(ITO)、保護層104(SiN)およびシンチレータ層105(CsI)がこの順に設けられている。即ち、高屈折率(n3)のn型半導体層102上に設けられた、上部電極103、保護層104およびシンチレータ層105は、いずれもほぼ同等の中屈折率(n22,n21,n0)を示す。
【0055】
このような積層構造100では、例えばシンチレータ層105へ入射角0°で入射(垂直入射)した放射線は、可視光へ波長変換された後、n型半導体層102側へ向けて出射される。このとき、比較例では、シンチレータ層105、保護層104および上部電極103がほぼ同等の屈折率であるため、可視光はシンチレータ層105から出射された後、保護層104および上部電極103を順にほぼ垂直に透過する。ところが、n型半導体層102が高屈折率であるために、上記可視光は、上部電極103とn型半導体層102との間の界面(S1)において反射され、光損失が生じ易い。このような光損失により、シンチレータ層を有する間接変換型の放射線撮像装置では、光電変換層における光吸収率が低減してしまう。これは、保護層104を設けずに、上部電極103の表面にシンチレータ層105を直付けした場合についても同様のことが起こる。
【0056】
尚、フォトダイオード上にシンチレータ層が設けられていない場合、即ちフォトダイオードの直上が空気層である一般的なCCDやCMOS等の撮像装置では、前述のように、光学的な干渉効果が生じるため、上記のような光損失は生じない。上述の光吸収率低減の問題は、シンチレータ層を有する間接変換型の放射線撮像装置に特有に生じるものである。
【0057】
そこで、本実施の形態では、図6および図7に示したように、フォトダイオード111Aとシンチレータ層114との間、具体的には、それぞれが中屈折率を示すシンチレータ層114と保護層128との間に、低屈折率層129を設けている。換言すると、積層構造10Aは、上記条件式(1)を満足するような低屈折率層129を有している。これにより、シンチレータ層114から発せられた可視光が、n型半導体層125と上部電極126との間の界面S11において反射されたとしても、その反射光は、保護層128と低屈折率層129との界面(S12)および低屈折率層129とシンチレータ層114との界面(S13)において反射される。反射の繰り返しにより、光の干渉を生じる。このように、低屈折率層129を、シンチレータ層114と半導体層125との間に設けることにより、光学的な干渉効果を生じる。尚、ここでは、低屈折率層129を、シンチレータ層114と保護層128との間に設けているが、低屈折率層129の配置箇所はこれに限らず、シンチレータ層114およびn型半導体層125間であればよい。低屈折率層129が、シンチレータ層114とn型半導体層125との間のいずれかの層に設けられてさえいれば、上記と同様の干渉効果を得ることができる。
【0058】
このような干渉の効果により、光電変換層における光吸収率が変化する(極小点、極大点を形成する)ようになる。そして、この光吸収率の変化は、主に低屈折率層129の膜厚に依存して生じるため、光吸収率が極大値(最大値)をとるように、低屈折率層129の膜厚を最適化することにより、光吸収率の低減をより効果的に抑制することができるものと推定される。
【0059】
具体的には、低屈折率層129の膜厚が上記条件式(2)を満足すればよいと推定され、これにより、後述の実施例において示したように、入射角0°で入射した放射線に基づく可視光の光吸収率が極大となるように、低屈折率層129の膜厚を最適化できる。またこの際、更に、保護層128および上部電極126の各膜厚が上記条件式(3)を満足することがより望ましい。即ち、上部電極126および保護層128の膜厚と屈折率とにより決まる光路長と、低屈折率層129の膜厚と屈折率とにより決まる光路長とを最適化(反射率を最小化、言い換えると、透過率を最大化)することが望ましい。
【0060】
また、詳細は後述するが、光電変換層の光吸収率は、入射角(放射線のシンチレータ層114に対する入射角)に対しても依存性を有する。上記のような低屈折率層129を含む積層構造10Aを有することにより、特に入射角0°の方向(垂直方向)における光吸収率を選択的に高めることができる(斜め方向から入射する放射線を選択的に受光排除することができる)。従って、画素間リーク(クロストーク)のない画像の取得が可能となる。
【0061】
以上説明したように本実施の形態では、フォトダイオード111Aおよびシンチレータ層114間の積層構造10Aにおいて、シンチレータ層114とn型半導体層125との間に、シンチレータ層114、保護層128、上部電極126およびn型半導体層125よりも屈折率の低い低屈折率層129を設けている。これにより、光の干渉効果を利用して、光電変換層における光吸収率の低減を抑制することができる。即ち、フォトダイオード111A上にシンチレータ層114が設けられた構造において、光吸収率の低減を抑制することが可能となる。
【0062】
<実施例>
次に、上記実施の形態の放射線撮像装置1の数値実施例(シミュレーション)について説明する。
【0063】
(比較例1,2)
まず、上述した比較例の積層構造100(図8,9)について、光吸収率を次のような条件により測定した。即ち、比較例1として、シンチレータ層105を設けない構造(保護層104上が空気層となっている構造)に対し、入射角0°および30°でそれぞれ放射線を入射させた場合の光吸収率を測定した。また、比較例2として、シンチレータ層105を設けた構造に対し、入射角0°および30°でそれぞれ放射線を入射させた場合の光吸収率を測定した。これらの比較例1,2において使用した積層構造100の各層の膜厚および屈折率の条件を図10に示す。尚、いずれの場合においても、保護層104の膜厚を0〜500nmと変化させ、ITOの膜厚は80nmとした。また、可視光の波長としては545nm〜570nmの範囲(5nm刻み)とした。これらの結果を、図11(A),(B)および図12(A),(B)に示す。尚、光吸収率としては、入射フォトン数に対する半導体層(101,102)における吸収フォトン数の割合(いわゆる外部量子効率)を示している。
【0064】
図11(A),(B)に示したように、シンチレータ層105を設けていない比較例1では、光の干渉効果により、保護層104(SiN)の膜厚に依存して光吸収率が極大点(ピーク)を形成するため、SiNの膜厚設定を最適に行えば、光吸収率は低減しない。但し、入射角0°から30°へ変化しても、光吸収率が極大値となるSiNの膜厚の変化が約10nm程しかなく、入射角依存性に乏しい。このように入射角依存性が乏しいと、詳細は後述するが、画素間クロストークを生じさせ易くなる。
【0065】
一方、図12(A),(B)に示したように、シンチレータ層105を設けた比較例2では、光の干渉が生じないため、保護層104(SiN)の膜厚に依存して光吸収率が極大点を形成し難くなり、約82%程度まで低減してしまう。また、上記比較例1と同様、入射角0°から30°へ変化しても、光吸収率が極大値となるSiNの膜厚の変化が約10nm程しかなく、入射角依存性に乏しい。このように入射角依存性が乏しいと、詳細は後述するが、画素間クロストークを生じさせ易くなる。
【0066】
(実施例1)
この比較例1に対し、実施例1として、上記実施の形態における積層構造10Aについても、入射角0°および30°でそれぞれ放射線を入射させた場合の光吸収率を測定した。これらの実施例1において使用した積層構造10Aの各層の膜厚および屈折率の条件を図13に示す。尚、実施例1では、低屈折率層129(SiO2)の膜厚を0〜300nmの範囲で変化させ、ITOの膜厚を80nm、保護層128(SiN)の膜厚を150nmとした。また、可視光の波長としては上記比較例と同様、545nm〜570nmの範囲(5nm刻み)とした。これらの結果を、図14(A),(B)に示す。
【0067】
図14(A),(B)に示したように、保護層128とシンチレータ層114との間に低屈折率層129(SiO2)を設けた実施例1では、光の干渉効果により、SiO2膜厚に依存して光吸収率が極大点を形成していることがわかる。即ち、光吸収率が極大値をとるようにSiO2膜厚の最適化を行うことができ、これにより、実施例1では95.1%もの光吸収率を実現できることがわかる。また、光吸収率が極大値となるSiNの膜厚は、入射角0°,30°間で約80nmもの差があり、入射角依存性を有している。このため、入射角0°方向における光吸収率を相対的に高め、詳細は後述するが、画素間クロストークを抑制することができる。
【0068】
また、上記のような光吸収率の入射角依存性についても測定した。図15に比較例1、図16に比較例2、図17に実施例1に相当する結果を示す。これらの図に示したように、実施例1では、比較例1,2に比べ、入射角依存性が大きく、即ち入射角0°付近において局所的に高光吸収率を示しており、入射角が大きくなるに従って、光吸収率が急激に低減している。このため、比較例1,2よりも特に入射角0°方向における光吸収率を選択的に高めることができる(斜め方向からの入射光を選択的に受光排除することができる)。従って、画素間リーク(クロストーク)のない画像の取得が可能となる。
【0069】
以下、上記実施の形態の放射線撮像装置の変形例(変形例1〜4)について説明する。尚、上記実施の形態と同様の構成要素については同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0070】
<変形例1>
図18(A)は、変形例1に係る放射線撮像装置におけるフォトダイオード111Aとシンチレータ層114との界面付近の積層構造(積層構造10B)について表したものである。積層構造10Bは、上記実施の形態と同様、フォトダイオード111Aにおけるn型半導体層125とシンチレータ層114との間に低屈折率層129を有している。但し、本変形例では、上記実施の形態と異なり、n型半導体層125上に、上部電極126、低屈折率層129、保護層128およびシンチレータ層114がこの順に設けられている。即ち、本変形例の積層構造10Bは、低屈折率層129が上部電極126と保護層128との間に配設された構造となっている。
【0071】
また本変形例においても、上記積層構造10Bにおいて、低屈折率層129と他の層との屈折率が、前述の条件式(1)を満足するようになっている。但し、本変形例では、シンチレータ層114および保護層128の屈折率をn0(詳細にはn01またはn02)、低屈折率層129の屈折率をn1、上部電極126の屈折率をn2、およびn型半導体層125の屈折率をn3とする。尚、シンチレータ層114および保護層128については、上記屈折率n0として、それぞれの屈折率n01,n02毎に条件式(1)を満足していればよい。このような構造においても、特に、n0(n01またはn02)の値とn2の値とが相対的に近い場合に、低屈折率層129を設けることの効果が大きくなる。
【0072】
図18(B)は、上記のような屈折率の関係を満たす積層構造10Bにおける各層の材料の一例とその屈折率の相対的な程度(低、中、高)について表したものである。このように、n型半導体層125(α−Si(n+))が高屈折率(n3=4)であるのに対し、シンチレータ層114(CsI)、保護層128(SiN)および上部電極126(ITO)が中屈折率(n0=1.77,n21=1.82,n22=1.73)でほぼ同等の屈折率となっている。本変形例では、このような中屈折率層間(ここでは、保護層128と上部電極126との間)に、それよりも低い屈折率(n1=1.43)を示す低屈折率層129(SiO2)が挟み込まれた構造となっている。これにより、本変形例では、n型半導体層125と上部電極126との間の界面(S21)側からの光が、上部電極126と低屈折率層129との間の界面(S22)、および低屈折率層129と保護層128との間の界面(S23)において、反射されるようになっている。
【0073】
また、積層構造10Bにおいても、上記実施の形態の積層構造10Aと同様、条件式(1)を満たす場合に、低屈折率層129の屈折率(n1)および厚み(d1)が更に、前述の条件式(2)を満足することが望ましいと推定される。これにより、光の干渉による効果を有効に利用して低屈折率層129の膜厚を最適化し、光吸収率の低減を抑制することができる。
【0074】
本変形例では、前述の条件式(1),(2)に加えて、以下の条件式(4)を満足することがより望ましいと推定される。但し、m’を整数とし、上部電極126の厚みをd2とする。このように本実施の形態では、n型半導体層125と低屈折率層129との間に設けられた上部電極126の膜厚を最適化することがより望ましい。ここで、上記実施の形態の形態では、光吸収率を極大値にするために、低屈折率層129に加え、更に保護層128および上部電極126の計3層の膜厚を制御することが望ましいが、本変形例では、低屈折率層129と上部電極126との計2層の膜厚を制御すればよい。即ち、本変形例では、保護層128の膜厚ばらつきによる影響を受けにくいため、プロセス容易性が高い。
n2×d2=(2m’+1)×(λ/4) ………(4)
【0075】
以上のように本変形例においても、フォトダイオード111Aおよびシンチレータ層114間の積層構造10Bにおいて、シンチレータ層114、保護層128、上部電極126およびn型半導体層125よりも屈折率の低い低屈折率層129を設けている。これにより、光の干渉効果を有効に利用することができ、上記実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0076】
<実施例2>
上記変形例1に係る積層構造10Bについても、上記実施例1と同様のシミュレーションを行った。即ち、実施例2として、上記積層構造10Bについて、入射角0°および30°でそれぞれ放射線を入射させた場合の光吸収率を測定した。この実施例2において使用した積層構造10Aの各層の膜厚および屈折率の条件を図19に示す。尚、実施例2では、低屈折率層129(SiO2)の膜厚を0〜300nmの範囲で変化させ、ITOの膜厚を80nm、保護層128(SiN)の膜厚を150nmとした。また、可視光の波長についても、545nm〜570nmの範囲(5nm刻み)とした。これらの結果を、図20(A),(B)に示す。
【0077】
図20(A),(B)に示したように、保護層128と上部電極126との間に低屈折率層129(SiO2)を設けた場合であっても、上記実施の形態と同様、光の干渉効果により、SiO2膜厚に依存して光吸収率が極大点を形成していることがわかる。即ち、光吸収率が極大値をとるようにSiO2膜厚の最適化を行うことができ、これにより、実施例2では95.1%もの光吸収率を実現できることがわかる。また、光吸収率が極大値となるSiNの膜厚は、入射角0°,30°間で約50nmもの差があり、入射角依存性を有している。このため、画素間クロストークを抑制することができる。実施例2における光吸収率の入射角依存性についてのシミュレーション結果を図21に示す。このように、実施例2においても、前述の実施例1と同様、入射角0°付近において局所的に高光吸収率を示しており、入射角が大きくなるに従って光吸収率が急激に低減する傾向を示す。従って、画素間リーク(クロストーク)のない画像の取得が可能となる。
【0078】
<変形例2>
図22は、変形例2に係る積層構造(積層構造10C)について表したものである。上記実施の形態および変形例1では、シンチレータ層114を最上層として図示したが、積層構造10Cのように、シンチレータ層114上に、水分バリア機能を有する有機保護膜130を設けた構造としてもよい。有機保護膜130は、例えばパリレンC(ポリモノクロルパラキシリレン)よりなる。シンチレータ層114に用いられる上述のような蛍光体材料、特にCsIは水分によって劣化し易いため、このような有機保護膜130が設けられていることが望ましい。
【0079】
また本変形例においても、上記積層構造10Cにおいて、低屈折率層129と他の層との屈折率が、前述の条件式(1)を満足するようになっている。但し、本変形例では、有機保護膜130、シンチレータ層114の屈折率をn0、低屈折率層129の屈折率をn1、保護層128および上部電極126の屈折率をn2、およびn型半導体層125の屈折率をn3とする。
【0080】
<変形例3>
図23は、変形例3に係る積層構造(積層構造10D)について表したものである。このように、有機保護膜130は、シンチレータ層114の下面(光電変換層側の面)に設けられていてもよい。
【0081】
上記変形例2,3のように、シンチレータ層114の上面または下面に、水分保護のための有機保護膜130が設けられていてもよく、このような場合であっても、低屈折率層129屈折率が有機保護膜130の屈折率(例えば1.8)よりも低ければ、上記実施の形態と同等の効果を得ることができる。
【0082】
<変形例4>
上記実施の形態では画素の駆動回路をアクティブ駆動回路により構成した例について説明したが、図24に示したようなパッシブ駆動回路であってもよい。尚、上記実施の形態と同一の構成要素については同一符号を付してその説明は省略する。本変形例では、単位画素Pが、フォトダイオード111A、容量成分138およびトランジスタTr(読出し用のトランジスタTr3に相当)を含んで構成されている。トランジスタTrは、蓄積ノードNと垂直信号線18との間に接続されており、行走査信号Vreadに応答してオンすることにより、フォトダイオード111Aにおける受光量に基づいて蓄積ノードNに蓄積された信号電荷を垂直信号線18へ出力する。このように、画素の駆動方式は、上記実施の形態で述べたアククティブ駆動方式に限らず、本変形例のようなパッシブ駆動方式であってもよい。
【0083】
<適用例>
上記実施の形態および変形例1〜4において説明した放射線撮像装置1は、例えば図25に示したような放射線撮像表示システム2に適用可能である。放射線撮像表示システム2は、放射線撮像装置1と、画像処理部25と、表示装置28とを備えている。このような構成により、放射線撮像表示システム2では、X線源26から被写体27に向けて照射された放射線に基づいて、放射線撮像装置1が被写体27の画像データDoutを取得し、画像処理部25へ出力する。画像処理部25は、入力された画像データDoutに対して所定の画像処理を施し、その画像処理後の画像データ(表示データD1)を表示装置28へ出力する。表示装置28は、モニタ画面28aを有しており、そのモニタ画面28aに、画像処理部25から入力された表示データD1に基づく画像を表示する。
【0084】
このように、放射線撮像表示システム2では、放射線撮像装置1において、被写体27の画像を電気信号として取得可能であるため、取得した電気信号を表示装置28へ伝送することで、画像表示を行うことができる。即ち、放射線写真フィルムを用いることなく、被写体27の画像を観察可能となり、また、動画撮影および動画表示にも対応可能となる。
【0085】
以上、実施の形態および変形例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態等で説明した積層構造10A〜10Dにおける各層の材料および厚みは、上述のものに限定されず、他の様々な材料、厚みとすることができる。
【0086】
加えて、上記実施の形態では、フォトダイオード111Aを、基板側から、p型半導体層、i型半導体層およびn型半導体層の順に積層した構造としたが、基板側から、n型半導体層、i型半導体層およびp型半導体層の順に積層してもよい。
【符号の説明】
【0087】
1…放射線撮像装置、2…放射線撮像表示システム、10A〜10D…積層構造、11…基板、12…画素部、12a…単位画素、13…行走査部、14…水平選択部、15…列走査部、16…システム制御部、111A…フォトダイオード、111B…トランジスタ、114…シンチレータ層、124…i型半導体層、125…n型半導体層、126…上部電極、128…保護層、129…低屈折率層、130…有機保護膜。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光電変換層と、
前記光電変換層上に設けられ、放射線の波長を前記光電変換層の感度域の波長に変換する波長変換層と、
前記光電変換層と前記波長変換層との間に設けられ、前記光電変換層および前記波長変換層よりも低い屈折率を有する低屈折率層と
を備えた放射線撮像装置。
【請求項2】
前記光電変換層上に導電膜が設けられ、
前記低屈折率層は、前記導電膜よりも低い屈折率を有する
請求項1に記載の放射線撮像装置。
【請求項3】
前記導電膜上に保護層が設けられ、
前記低屈折率層は、前記保護層よりも低い屈折率を有する
請求項2に記載の放射線撮像装置。
【請求項4】
前記低屈折率層の前記光電変換層と反対側に設けられる層の屈折率をn0、前記低屈折率層の屈折率をn1、前記低屈折率層の厚みをd1、前記低屈折率層と前記光電変換層との間に設けられる層の屈折率をn2、および前記光電変換層の屈折率をn3としたとき、以下の式(1),(2)を満足する
請求項3に記載の放射線撮像装置。
n0>n1<n2<n3 ………(1)
n1×d1=(2m+1)×(λ/4) ………(2)
(但し、mは整数、λは入射光の波長とする。)
【請求項5】
前記光電変換層側から順に、前記導電膜、前記保護層、前記低屈折率層および前記波長変換層が積層されている
請求項4に記載の放射線撮像装置。
【請求項6】
前記保護層の屈折率および厚みをそれぞれn21,d21とし、前記導電膜の屈折率および厚みをそれぞれn22,d22とした場合、以下の式(3)を満足する
請求項5に記載の放射線撮像装置。
(n21×d21)+(n22×d22)=(2m’+1)×(λ/4) ………(3)
(但し、m’を整数とする。)
【請求項7】
前記光電変換層側から順に、前記導電膜、前記低屈折率層、前記保護層および前記波長変換層が積層されている
請求項4に記載の放射線撮像装置。
【請求項8】
前記導電膜の屈折率および厚みをそれぞれn2,d2とした場合、以下の式(4)を満足する
請求項7に記載の放射線撮像装置。
n2×d2=(2m’+1)×(λ/4) ………(4)
(但し、m’を整数とする。)
【請求項9】
前記波長変換層の射線入射側の面および前記光電変換層側の面のうちの少なくとも一方の面に有機保護膜が設けられ、
前記低屈折率層は、前記有機保護膜よりも低い屈折率を有する
請求項3に記載の放射線撮像装置。
【請求項10】
前記波長変換層はヨウ化セシウム(CsI)よりなる
請求項1に記載の放射線撮像装置。
【請求項11】
前記光電変換層は非晶質シリコン(アモルファスシリコン)よりなる
請求項1に記載の放射線撮像装置。
【請求項12】
前記低屈折率層は酸化シリコン(SiO2)よりなる
請求項1に記載の放射線撮像装置。
【請求項13】
前記導電膜はインジウム錫酸化物(ITO)よりなる
請求項2に記載の放射線撮像装置。
【請求項14】
前記保護層は窒化シリコン(SiN)よりなる
請求項3に記載の放射線撮像装置。
【請求項15】
放射線に基づく画像を取得する撮像装置と、前記撮像装置により取得された画像を表示する表示装置とを備え、
前記撮像装置は、
光電変換層と、
前記光電変換層上に設けられ、放射線の波長を前記光電変換層の感度域の波長に変換する波長変換層と、
前記光電変換層と前記波長変換層との間に設けられ、前記光電変換層および前記波長変換層よりも低い屈折率を有する低屈折率層と
を有する放射線撮像表示システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate


【公開番号】特開2012−211781(P2012−211781A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76516(P2011−76516)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】