説明

放射線検出器の線源変動補正方法およびこの方法を用いた放射線検査装置

【課題】放射線の瞬時的な変動(スパイク)に対して、検出器の出力値を選択したデータを除去して演算を行うことで、高精度測定が可能な線源変動補正方法を提供する。
【解決手段】放射線発生装置と、該放射線発生装置からの放射線出力を検出する放射線検出器と、該放射線検出器から連続して出力されるデータを予め定めた時間毎に順次グルーピングし、該グルーピングした領域に含まれる複数のデータを加算平均して出力する放射線検出器の線源変動補正方法において、前記グルーピングした領域の中の選択したデータを除去して加算平均した値を用いて放射線の強さを演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射線検出器の線源変動補正方法に関し、放射線の瞬時的な変動(スパイク)を含む出力をグループとして取り込み、グループの中のデータを選択的に除去して演算することにより高精度測定を図った放射線検出器の線源変動補正方法およびこの方法を用いた放射線検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図2(a,b)は本発明が適用される被検査物(シート状物体)の厚さをオンラインで測定する放射線検査装置の一般的構成図である。図において、25はO形フレームである。26は被検査物であり、例えは紙やプラスチックのフィルム等のシートである。29はO形フレーム25の下側のフレームに設けられ,β線やX線又は赤外線等を発生する線源部、30はO形フレーム25の上側のフレームに設けられ,被検査物を透過した線源部29からの放射線を検出する放射線検出部である。
【0003】
31は上下ヘッド29,30(以下、単に上下ヘッドという)を同期して駆動してO形フレーム25上を往復走行させるモータ,32はモータ31へ駆動電流を供給する駆動回路である。33はモータ31が所定角度回転する毎に1パルス出力するエンコーダ,36はO形フレーム25の略中央部に設けられた初期化スイッチ、35は各種演算制御を行う制御部で内部にカウンタ34が組み込まれている、50は検出部30の出力に基づいて被検査物(以下、単にシートという)の厚さや塗工量を演算する演算処理部であり,この演算処理部50は制御部35内に組み込まれている場合もある。
【0004】
上記の構成において,上下ヘッドは装置が稼働しているときは,装置の向かって左側(BK)端部(校正点K)に退避している。そして測定が開始されると,まず,上下ヘッドは左側(BK)から右側(FR)へシート26の幅方向に走行し,所定のデータ採取位置(シート26の幅方向に数百ポイント設定してある)にくると,制御部35は検出部30が検出したデータを取り込んで,シート26の厚さを演算する。そして上下ヘッドは左側と右側との間を往復走行し,検出が続けられる。
【0005】
このように上下ヘッドの作動の制御は制御部35が行う。制御部35はエンコーダ33からの出力パルスPをカウンタ34で加減算し,上下ヘッドの位置の検出を行い駆動回路32を制御する。そして,上下ヘッドが左側から右側へ走行し,O形フレーム25の略中央部に設けられた初期化スイッチ36をオンすると,その信号Rは制御部35に与えられる。信号Rを受け取った制御部35は,上下ヘッドがO形フレーム25の略中央部にあるときにカウンタ34をリセットし,上下ヘッドの位置ずれが積算するのを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−050739
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
空港の手荷物検査や工業製品の生産ラインでの部品有無検査のように、本来在ってならない物品や、逆に在るべき物品の欠落などを測定する分野では、閾値判定に余裕があるために高い測定精度は必要ない。例えば手荷物検査等では10%程度の測定精度であっても許容される。
【0008】
一方、膜厚測定や塗工量測定では高い測定精度が要求される。膜厚測定等では、0.数%のオーダーで測定精度が求められる。
このように、線源の安定が不可欠な用途では、線源(放射線量)の安定出力が大変重要になる。このため、メインの検出器とは別の検出器で直接線量を測ったり、変動要因である温度、湿度、気圧などをモニタすることで、線源の安定制御を行っている。
【0009】
膜厚測定では、測定対象物に応じてX線やβ線等が用いられる。X線管に於いては、スパイクと称される瞬時的な出力変動が発生するものもあり、測定に悪影響を及ぼす。線源の長期的変動に対しては、前記検出方法でフィードバック制御することができるが、数ms〜数十msで、出力変動が〜3%程度の瞬時的な変動に対しては有効な制御手法が無い。
【0010】
図2(c)はX線出力(縦軸)と時間(ms)の関係を示す説明図である。図2(c)ではX線の出力を所定時間ごとに(例えばグループA,Bのように数十m秒ごとに)グルーピングしている(図で示すようにグループごとに瞬時的な変動(スパイク)の大きさと発生回数が異なっている)。そのため、スパイクの発生しないX線管の開発、改良が行われているが、現状ではスパイクの発生の少ないものを選別(エージング含む)して採用している。
【0011】
図3は検出器出力の演算処理フローチャートを示すものである。ここではステップaからステップdまでを前処理と呼び、ステップeからステップfまでを後処理と呼ぶ。
検出器30(図2a,b参照)では微弱な検出電流を抵抗値の高い精密抵抗を用いて電圧(mV〜V)に変換し、AD変換器や送信部を介して演算部に転送する。
【0012】
ステップaにおいて、演算部には検出器30から単位時間で読み出した出力値が連続して得られる。
ステップbにおいて、単位時間で読み出した出力値は測定誤差が大きく、夫々の出力値をそのまま使うことはできない。検出器によっても異なるが、通常数%程度のバラツキを呈するため複数の出力値を加算平均するか、もしくは加算値で扱う(母数nとして、
1/√n効果が期待できる)。
【0013】
試料は高速で流れているため、ある程度短時間で露光(積算)して1回の出力値を出力する。積算時間(単位時間)は概ね0.数ms〜数ms程度が一般的である。このデータを複数回、例えば64回を単位として1つのグループとする(ここでは規定数を64と設定している)。
【0014】
ステップcにおいて、1つのグループの64個のデータを加算平均もしくは、加算値として検出する。
ステップdにおいて、最小単位のグルーピング毎の出力値を演算処理の後処理へ渡す。
【0015】
上述において、例えば積算時間が1msであったならば、1ms×64回=64msが最小時間分解能となる。積算時間と平均化回数は試料の流れ速度、空間分解、測定精度、検出感度など様々な条件を勘案して最適となるように決める。
【0016】
次に、後処理におけるステップeにおいては最小時間分解能で求められる測定値から、システム的に期待される出力値単位で更に加算平均される。例えば、1秒毎にデータ保存及びデータ表示するのであれば、15回(64ms×15=960ms)と集計数が設定されて加算平均することになる。
更に、ステップfにおいて、予め指定された基準値と出力値を比較してアラームを発したり、標準偏差等の統計データ化するなどの処理が行われる。
【0017】
従来、精度の高い測定をするために、多数の出力値を加算平均して必要な精度の測定を行っているが、これは線源の変動が全く無いことを前提としてのものであって、出力変動がある場合には、前述したように線源にフィードバックしたり、出力値に線源の変動係数を乗じて補正している。比較的長期間の変動要因であればその補正も可能であるが、数msの瞬時的変化には対応できない。スパイクの発生は不定期であり、図2(c)に示すグループAとグループBでは、グループBの加算平均値が大きくなり、測定誤差が大きくなる。
【0018】
このため、スパイクの発生しない選別されたX線管を使用しているが、高価なX線管となっている。スパイク等の瞬時的乱れの発生を許容して一般的に流通している安価なX線管が使えれば、安価な測定装置の供給が可能である。
【0019】
従って本発明は、X線を用いた膜厚(坪量)、塗工量の測定に於いて、X線の瞬時的な変動(スパイク)に対して、検出器の出力値を選択して演算を行うことで、高精度測定が可能な線源変動補正方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の放射線検出器の線源変動補正方法の発明は、
放射線発生装置と、該放射線発生装置からの放射線出力を検出する放射線検出器と、該放射線検出器から連続して出力されるデータを予め定めた時間毎に順次グルーピングし、該グルーピングした領域に含まれる複数のデータを加算平均して出力する放射線検出器の線源変動補正方法において、前記グルーピングした領域の中の選択したデータを除去して加算平均した値を用いて放射線の強さを演算することを特徴とする放射線検出器の線源変動補正方法。
【0021】
請求項2においては、請求項1記載の放射線検出器の線源変動補正方法において、前記選択したデータは所定の出力より高く出力する場合は高い順に、低く出力する場合は低い順に所定の割合で選択したデータであることを特徴とする。
【0022】
請求項3においては、請求項1記載の放射線検出器の線源変動補正方法において、前記選択したデータは所定の出力より高い順に若しくは低い順に並び替え、出力の高い若しくは低い方から所定の割合で選択したデータであることを特徴とする。
【0023】
請求項4においては、薄膜(紙、フィルム、シート、金属箔)の坪量測定や金属箔等に塗工剤を塗工する放射線検出器の線源変動補正手段として請求項1に記載の放射線線源変動補正方法を用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば以下のような効果がある。
請求項1〜3によれば、
放射線の瞬時的な出力変動(スパイク)に対して、検出器からの出力値を選択的に除去して演算を行うことで、出力変動のある線源であっても高精度測定が可能となる。また、低価格の放射線源が使えるようになり、装置価格やランニングコストを抑えることができる。
【0025】
低価格の放射線源であっても、高精度を要求される様々な薄膜(紙やフィルム、シート、金属薄膜など)の坪量測定や塗工量測定に採用が可能になり、汎用放射線源の利用が可能になる。
【0026】
請求項4によれば、薄膜(紙やフィルム、シート、金属薄膜など)の坪量測定や塗工量測定の精度が向上した放射線検出器を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態の一例を示す放射線検出器の線源変動補正方法の演算処理フローチャートである。
【図2】従来及び本発明が適用される検査装置の一例を示す概略構成図(a,b)及びX線出力と時間の関係を示す説明図(c)である。
【図3】従来の放射線検出器の線源変動補正方法の演算処理フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下本発明を、図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明の実施形態の一例を示す放射線検出器の線源変動補正方法のフローチャートである。なお、図3の従来のフローチャートとはステップbの工程の後、ステップb’及びステップb’’を加えた点のみが異なっている。
【0029】
図1のステップaにおいて、
演算部には検出器30から単位時間で読み出した出力値が連続して得られる。
ステップbにおいて、設定された規定数に従ってグルーピングを行う。即ち、単位時間で読み出した出力値は測定誤差が大きく、夫々の出力値をそのまま使うことはできないので出力を所定時間ごとにグループとして取り込む。
【0030】
ステップb’において、グルーピングされた領域の出力データをソートして出力の高い順に並べ替える。同様に、線源の出力値が小さくなるようにスパイク現象が生じる場合は、ソートしたデータから小さい出力値を適当数排除し、加算平均する。
図1(b)は出力の高い順に、図1(c)は所定値より低い出力を含む場合に低い順に並べ替えた状態を示している。
【0031】
ステップb’’において、線源の挙動に合せて出力を予め設定した選別条件に従ってデータを選別(例えば出力値の高いものから10%を除去)する。
ここで、図2(c)のX線管の出力変動の詳細を見ると、大部分の時間においては安定した出力値を示しているが、不規則にスパイクが発生して0〜3%程度高い出力が発生している。
【0032】
このような線源に於いては、ソートしたデータの高出力値に対する信頼性が無いと判断して、例えばソートしたデータの10%のデータ、母数64個であればデータ数6個について高い出力値を除外し、残りの58個のデータで加算平均を行う(58個の加算平均により、バラツキを1/√58=1/5.6程度に抑えられる)どの程度データ数を除外するかは、X線管の出力変動を見れば容易に、除外個数を決めることができる。
【0033】
以降の工程は従来例と同様である。即ち、
ステップcにおいて、グループ内に残ったデータを加算平均し、
ステップdにおいて、加算平均した値を出力する。
後処理におけるステップe,fにおいても従来例と同様なのでここでの説明は省略する。
【0034】
なお、以上の説明は、本発明の説明および例示を目的として特定の好適な実施例を示したに過ぎない。実施例では放射線源としてX線を使用したが例えばβ線、ガンマ線等であっても良い。また、測定対象はシート状のものに限るものではなく、コンベア上を流れるようなものであっても良い。従って本発明は、上記実施例に限定されることなく、その本質から逸脱しない範囲で更に多くの変更、変形を含むものである。
【符号の説明】
【0035】
25 O型フレーム
26 被検査物
29 下ヘッド
30 上ヘッド(検出部)
31 モータ
32 駆動回路
33 エンコーダ
34 カウンタ
35 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線発生装置と、該放射線発生装置からの放射線出力を検出する放射線検出器と、該放射線検出器から連続して出力されるデータを予め定めた時間毎に順次グルーピングし、該グルーピングした領域に含まれる複数のデータを加算平均して出力する放射線検出器の線源変動補正方法において、前記グルーピングした領域の中の選択したデータを除去して加算平均した値を用いて放射線の強さを演算することを特徴とする放射線検出器の線源変動補正方法。
【請求項2】
前記選択したデータは所定の出力より高く出力する場合は高い順に、低く出力する場合は低い順に所定の割合で選択したデータであることを特徴とする請求項1記載の放射線検出器の線源変動補正方法。
【請求項3】
前記選択したデータは所定の出力より高い順に若しくは低い順に並び替え、出力の高い若しくは低い方から所定の割合で選択したデータであることを特徴とする請求項1記載の放射線検出器の線源変動補正方法。
【請求項4】
薄膜(紙、フィルム、シート、金属箔)の坪量測定や金属箔等に塗工剤を塗工する放射線検出器の線源変動補正手段として請求項1に記載の放射線線源変動補正方法を用いたことを特徴とする放射線検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−123010(P2011−123010A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282904(P2009−282904)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000006507)横河電機株式会社 (4,443)
【Fターム(参考)】