説明

放射線検出装置及び放射線の検出方法

【課題】 位置分解能に優れ、且つ高エネルギーの光子をも高感度で検出できる放射線検出装置を安価に提供する。
【解決手段】 入射した放射線を紫外線に変換する、例えばネオジウムを含有せしめたフッ化ランタン、ネオジウムを含有せしめたフッ化リチウムバリウム等からなるシンチレーターと、入射した紫外線を電気信号に変換するマイクロストリップガスチャンバーとを具備することを特徴とし、放射線を電気信号として取り出すことが可能な放射線検出装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な放射線検出装置に関する。該放射線検出装置は、陽電子断層撮影、X線撮影等の医療分野、各種非破壊検査等の工業分野、及び所持品検査等の保安分野において好適に使用できる。
【背景技術】
【0002】
放射線利用技術は、陽電子断層撮影、X線撮影等の医療分野、各種非破壊検査等の工業分野、及び所持品検査等の保安分野など多岐にわたり、現在も目覚しい発展を続けている。
【0003】
放射線検出装置は、放射線利用技術の重要な位置を占める要素技術であって、放射線利用技術の発展に伴い、放射線に対する検出感度、放射線の入射位置に対する位置分解能、或いは計数率特性について、より高度な性能が求められている。また、放射線利用技術の普及に伴い、放射線検出装置の低コスト化や小型化も求められている。
【0004】
現在知られている放射線検出装置としては、シンチレーターと光電子増倍管を組み合わせたシンチレーション検出器が挙げられる。該シンチレーション検出器は、放射線と相互作用する確率の大きいシンチレーターを用いることから、放射線に対する検出感度が高く、特に放射線の中でも高エネルギーの光子を効率よく検出できるという特徴を有するものの、光電子増倍管のサイズ上の制約により、位置分解能の向上や装置の小型化には限界があった。また、光電子増倍管が高価であるため、低コスト化が困難であるという問題もあった。
【0005】
一方、位置分解能が高く、小型化や低コスト化が容易な放射線検出装置として、ガスカウンターが知られているが、該ガスカウンターは放射線に対する阻止能が低く、特に高エネルギーの光子に対する検出感度が乏しいという問題があった。
【0006】
かかる問題を解決すべく、放射線に対する阻止能の大きいシンチレーターとガスカウンターの一種であるマルチワイヤープロポーショナルカウンターを組み合わせた放射線検出装置が提案されたが(非特許文献1参照)、依然として検出感度ならびに位置分解能に問題があった。
【0007】
【特許文献1】WO02/001598号公報
【非特許文献1】S. Tavernier et al, “Determination of the scintillation light yield of neodymium doped LaF3 scintillator”, Nulcear Instruments and Physics Research, A311,301 (1992).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、位置分解能に優れ、且つ高エネルギーの光子をも高感度で検出できる放射線検出装置を安価に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、位置分解能に優れ、小型化や低コスト化が容易なガスカウンターに着目し、該ガスカウンターの高エネルギーの光子に対する検出感度を高めるべく種々検討を重ねた結果、高エネルギーの光子に対する阻止能の大きいシンチレーターと、ガスカウンターの一種であるマイクロストリップガスチャンバー(以下MSGCともいう)を組み合わせることによって所期の目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、入射した放射線を紫外線に変換するシンチレーターと、入射した紫外線を電気信号に変換するマイクロストリップガスチャンバーとを具備することを特徴とし、放射線を電気信号として取り出すことが可能な放射線検出装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の放射線検出装置によれば、位置分解能に優れ、且つ高エネルギーの光子をも高感度で検出できる放射線検出装置を安価に得ることができる。該放射線検出装置は、陽電子断層撮影、X線撮影等の医療分野、各種非破壊検査等の工業分野、及び所持品検査等の保安分野において好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の放射線検出装置の動作原理について、図1を用いて説明する。まず入射した放射線がシンチレーター1によって紫外線に変換される。該紫外線によってガス2が電離され、電離イオン3と電子4を生成する。生成した電子は、正の高電圧が印加されたアノード5に向かって加速され、他のガス分子と衝突することによって、他のガス分子の電離を誘発し、電子なだれ現象を引き起こす。該電子なだれ現象によって100〜10000倍に増幅された電荷パルスがMSGC上のアノードおよびカソードから読み出され、結果的に入射した放射線を電気信号として検出することができる。
【0013】
以下、本発明の放射線検出装置についてより詳細に説明する。
【0014】
本発明の放射線検出装置において、検出対象とする放射線は特に限定されず、X線、γ線、或いは中性子線等の検出に好適に使用できるが、本発明の放射線検出装置は、高エネルギーの光子であるγ線の検出において、最大の効果を発揮する。
【0015】
本発明の放射線検出装置の構成要素であるシンチレーターは、放射線を紫外線に変換できるものであれば、特に制限無く使用できるが、ガスの電離を効率よく行うことを目的として、紫外線の中でも特に波長の短い真空紫外線に変換できるシンチレーターを用いることが好ましい。
【0016】
本発明において、真空紫外線とは波長が200nm以下の紫外線を云う。該真空紫外線は高いエネルギーを有するため、ガスを効率よく電離することができる。
【0017】
放射線を真空紫外線に変換するシンチレーターとしてはフッ化物結晶が好適である。真空紫外線は多くの材料に吸収される性質を有するため、シンチレーター自身が変換した真空紫外線を吸収するという問題があるが、フッ化物結晶は例外的に真空紫外線を吸収し難い特性を有するため、本発明において好適に用いることができる。
【0018】
また、高エネルギーの光子に対する阻止能を高めるため、高密度で且つ有効原子番号の大きいシンチレーターを用いることが好ましい。
【0019】
上記要件を満たすシンチレーターとして、ネオジウムを含有せしめたフッ化ランタン(以下、Nd:LaFと表す)、またはネオジウムを含有せしめたフッ化リチウムバリウム(以下、Nd:BaLiFと表す)が挙げられる。
【0020】
本発明者等の検討によれば、Nd:LaF及びNd:BaLiFは、放射線をそれぞれ175nm及び183nmの真空紫外線に変換することができ、また、その密度はそれぞれ5.9g/mL及び5.2g/mL、有効原子番号はそれぞれ50及び48であり、良好な特性を有することが明らかとなっている。
【0021】
本発明の放射線検出装置の構成要素であるMSGCの基本構成を図2及び図3に示す。MSGCはガスチャンバーの中に、例えばフォトリソグラフィー技術を利用して製作されたマイクロストリッププレート(以下MSプレートともいう)を設けることで構成される。
【0022】
当該MSプレートの詳細は、例えばWO02/001598号公報(特許文献1)に記載されており、ここに記載の技術がそのまま採用できる。
【0023】
MSプレートは、絶縁体基板6の表面に交互に配設された金属製カソードストリップ7および金属製アノードストリップ8と、基板6の裏面にカソードストリップ7及びアノードストリップ8に直交して延出するように配設した読み出し電極(バックストリップ)9とを有している。
【0024】
MSプレートの寸法について例を挙げて説明すると、電極のピッチは200〜1000μm、カソード幅は50〜400μm、アノード幅は5〜10μm、基板の寸法は20〜200mm四方である。
【0025】
本発明で用いるMSプレートの基板は、絶縁体であれば特に制限無く使用でき、その厚さも特に制限されない。したがって、例えば厚さが1mm未満の合成石英等を基板に用いることができるため、放射線検出装置を極めて安価に且つ小型に構成することが可能である。
【0026】
さらに、MSGCはそれぞれ互いに隣接するカソードストリップ7とアノードストリップ8間に電位差を形成するための高電圧源を備えており、両電極(カソードストリップ7およびアノードストリップ8)に高電圧を印加することにより、ガスの電離で生じた電荷は増幅され、X方向の位置情報としてアノードストリップ8から読み出される。また、基板6の表面側に付着した電荷によって、基板6の裏面側に生成した誘起電荷は、Y方向の位置情報として読み出し電極9から読み出される。
【0027】
アノードストリップ8及び読み出し電極9から読み出された信号は、それぞれ信号処理回路に接続され、コンピュータによって信号が解析処理される。
【0028】
各電極から得られた信号を読み取って処理する回路は、当分野において公知の技術が採用され、例えば増幅器、マルチチャンネルアナライザ、或いは特定用途向け集積回路(ASIC)などで構成される。
【0029】
本発明の放射線検出装置で用いるガスは、特に限定されないが、電離ポテンシャルの低いテトラキスジメチルアミノエチレン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、アセトン、ベンゼン等が好適である。これらのガスは単体で用いてもよく、アルゴンガス等と混合して用いても良い。
【0030】
本発明の放射線検出装置において、シンチレーターとMSGCとの組み合わせの形態は特に制限されず、シンチレーターをMSGCのチャンバー内に挿入する形態、或いはシンチレーターからの紫外線を適当な窓を介してMSGCのチャンバー内に導入する形態等を適宜採用できるが、放射線検出装置の応答速度等の特性に鑑みて、シンチレーターをチャンバー内に挿入し、MSプレートに近接して設置する形態が好ましい。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。
【0032】
実施例1
図4に示す結晶製造装置を用いて、本発明の放射線検出器で用いるシンチレーターを製造した。
【0033】
原料としては、純度が99.99%のフッ化ランタン及びフッ化ネオジウムを用いた。アフターヒーター1、ヒーター2、断熱材3、ステージ4、及び坩堝5は、高純度カーボン製のものを使用し、坩堝底部に設けた孔の形状は直径2.2mm、長さ0.5mmの円柱状とした。
【0034】
まず、フッ化ランタンの1.1g、及びフッ化ネオジウムの0.0057gをそれぞれ秤量し、よく混合して得られた混合原料を坩堝5に充填した。
【0035】
原料を充填した坩堝5を、アフターヒーター1の上部にセットし、その周囲にヒーター2、及び断熱材3を順次セットした。次いで、油回転ポンプ及び油拡散ポンプからなる真空排気装置を用いて、チャンバー6内を1.0×10−4Paまで真空排気した後、アルゴン−四フッ化メタン混合ガスをチャンバー6内に導入してガス置換を行った。
【0036】
ガス置換後のチャンバー6内の圧力は大気圧とした後、高周波コイル7で原料を加熱して溶融せしめたが、原料融液の坩堝5底部の孔からの滲出は認められなかった。そこで、高周波の出力を調整して原料融液の温度を徐々に上げながら、引き下げロッド8の先端に設けたW−Reワイヤーを、上記孔に挿入し、引き下げる操作を繰り返したところ、原料の融液を上記孔より引き出すことができた。
【0037】
この時点の温度が保たれるように高周波の出力を調整し、原料の融液を引き下げ、結晶化を開始した。3mm/hrの速度で連続的に20時間引き下げ、Nd:LaF結晶を得た。該結晶は直径が2mm、長さが60mmであった。
【0038】
上記Nd:LaF結晶を、ダイヤモンド切断砥石を備えたブレードソーによって20mmの長さに切断し、結晶の長軸方向に沿って研削を行い、長さ20mm、幅2mm、厚さ1mmの形状に加工した。その後、各面を鏡面研磨して、本発明で用いるシンチレーターを得た。
【0039】
上記シンチレーター及びMSプレートをチャンバー内に設置した。なお、MSプレートとしては、50mm×50mm×1mmtの石英基板上に、幅60μm、高さ0.2μmのカソード、及び、幅5μm、高さ0.2μmのアノードを設けたものを用いた。アノード間の間隔は400μm、各電極間の間隔は10μmとした。
【0040】
次いでチャンバー内に飽和濃度のトリエチルアミンを含む30%メタン−アルゴン混合ガスを導入してMSGCを構成した。
【0041】
MSプレートのアノードに700Vの電圧を印加し、MSGCの外部より662keVのγ線を照射した。アノードより読み出した電荷パルスを、増幅器を介してマルチチャンネルアナライザに取り込み、電荷パルスの波高分布スペクトルを作成した。
【0042】
得られた波高分布スペクトルを図5に示す。該波高分布スペクトルから、本発明の放射線検出器によれば、662keVもの高エネルギーを有するγ線を効率よく検出できることが示された。
【0043】
実施例2
原料としてフッ化バリウムを0.86g、フッ化リチウムを0.13g、及びフッ化ネオジウムを0.0049g用いる以外は、実施例1と同様の操作によってNd:BaLiF結晶を製造した。なお、フッ化バリウム、フッ化リチウム、及びフッ化ネオジウムは純度が99.99%のものを用いた。
【0044】
実施例1と同様に加工し、本発明で用いるシンチレーターを得た。
【0045】
得られたシンチレーターを用いて、実施例1と同様にして波高分布スペクトルを作成した。結果を図6に示す。該波高分布スペクトルから、本発明の放射線検出器によれば、662keVもの高エネルギーを有するγ線を効率よく検出できることが示された。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本図は、本発明の放射線検出装置の概略図である。
【図2】本図は、本発明の放射線検出装置の構成要素であるMSGCの基本構成を示す図である。
【図3】本図は、MSGCによる2次元位置情報の読み取りを説明する概念図である。
【図4】本図は、マイクロ引き下げ法による結晶製造装置の概略図である。
【図5】本図は、本発明の放射線検出装置によるγ線の検出結果を表す図であり、Nd:LaFをシンチレーターとして用いた場合の、波高スペクトルである。
【図6】本図は、本発明の放射線検出装置によるγ線の検出結果を表す図であり、Nd:BaLiFをシンチレーターとして用いた場合の、波高スペクトルである。
【符号の説明】
【0047】
1 シンチレーター
2 ガス
3 電離イオン
4 電子
5 アノード
6 基板
7 カソードストリップ
8 アノードストリップ
9 読み出し電極
10 アフターヒーター
11 ヒーター
12 断熱材
13 ステージ
14 坩堝
15 チャンバー
16 高周波コイル
17 引き下げロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射した放射線を紫外線に変換するシンチレーターと、入射した紫外線を電気信号に変換するマイクロストリップガスチャンバーとを具備することを特徴とし、放射線を電気信号として取り出すことが可能な放射線検出装置。
【請求項2】
シンチレーターが、フッ化物結晶であることを特徴とする請求項1記載の放射線検出装置。
【請求項3】
フッ化物結晶が、ネオジウムを含有せしめたフッ化ランタン、またはネオジウムを含有せしめたフッ化リチウムバリウムであることを特徴とする請求項2記載の放射線検出装置。
【請求項4】
入射した放射線をシンチレーターを用いて紫外線に変換し、次いで当該紫外線をマイクロストリップガスチャンバーに導いてガスを電離させ、その結果生じた電荷を電気信号として取り出さすことを特徴とする放射線の検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−202977(P2008−202977A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−36816(P2007−36816)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】