放射線治療情報提供システム及び放射線治療情報提供プログラム
【課題】放射線治療中にリアルタイムに散乱線データを取得し、これを利用することで、照射線量を実測・表示することができる放射線治療情報提供システム及び放射線治療情報提供プログラムを提供すること。
【解決手段】治療X線ビームに対して所定の角度(散乱角)をなす位置にコリメータを備えた検出器を設置し、その方向に来た散乱線のみを選択的に検出し、この検出を照射部から照射される治療用のX線ビームの軸と検出器の検出面とのなす角を維持しながら実行することで、被検体内の3次元領域をスキャンする。得られた所定の散乱角に関する3次元散乱線データを用いて、散乱線ボリュームデータを再構成すると共に、当該散乱線ボリュームデータを吸収された放射線量の3次元分布を示す吸収線量ボリュームデータに変換し、吸収線量画像を生成する。生成された吸収線量画像は、例えば形態画像等(CT画像等)と合成され表示される。
【解決手段】治療X線ビームに対して所定の角度(散乱角)をなす位置にコリメータを備えた検出器を設置し、その方向に来た散乱線のみを選択的に検出し、この検出を照射部から照射される治療用のX線ビームの軸と検出器の検出面とのなす角を維持しながら実行することで、被検体内の3次元領域をスキャンする。得られた所定の散乱角に関する3次元散乱線データを用いて、散乱線ボリュームデータを再構成すると共に、当該散乱線ボリュームデータを吸収された放射線量の3次元分布を示す吸収線量ボリュームデータに変換し、吸収線量画像を生成する。生成された吸収線量画像は、例えば形態画像等(CT画像等)と合成され表示される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線治療装置において治療用放射線を照射したときに発生する散乱X線を実測し、これを利用して、患部で吸収された吸収線量3次元分布を高精度に取得するための放射線治療情報提供システム及び放射線治療情報提供プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
放射線治療を正確に行うために、照射焦点と同じ視点から被検体をモニターしたいという要求がある。現在使われている殆どの放射線治療装置には、アイソセンターを挟んで照射ヘッドと対向する位置に高エネルギー放射線による撮影を可能にするEPID(=Electronic Portal Imaging Device)と呼ばれるイメージセンサーを配置することにより、照射焦点と同じ視点から見込んだMeVエネルギー光子によるX線透視画像(以下、MV画像と略す)を撮影できるようになっている。これを使って、照射ヘッドの回転軸の周りに全周にわたって透過画像を収集すれば、治療用放射線コーンビームCT(=Mega-volt Cone Beam CT)による画像再構成を実施できるので、“MeVエネルギーを持つ光子に対する全減弱係数3次元分布”を実測することができる。別の方法としては、通常の診断用X線CT(=kilo-volt CT)により“keVエネルギーを有する光子に対する全減弱係数3次元分布画像”を求めることができるので、keVエネルギーでの減弱係数とMeVエネルギーでの減弱係数との定量的関係と“臓器を構成する元素分布”という先見情報から、“MeVエネルギーを持つ光子に対する全減弱係数3次元分布”を推定するということも行われている。
【0003】
ところで、被検体が生体の場合、その組織は骨、筋肉、脂肪に大別され、しかもそれらの質量エネルギー吸収係数[cm2/g]は光子エネルギー[MeV]依存性を持ち、図1に示すように数MeVエネルギーの領域では殆ど差がつかないといった特長がある。このため数MeVエネルギーのX線を使う放射線治療では、生体組織に対してコントラストが殆どつかないという欠点がある。これとは別に、コントラストがつきやすい数10keVエネルギーのX線を使ってモニタリングする方式も実用化されている。しかしながら、制動放射の放射方向にエネルギー依存性があるため、keVエネルギーX線管球とX線画像検出器を別に設けざるを得ず、視点が照射焦点と異なってしまうという欠点がある。
【0004】
なお、本願に関連する公知文献としては、例えば次のようなものがある。
【特許文献1】特開平5−146426号公報 この特許文献が開示する技術は、X線被写体の散乱線を検出し、被写体の断層像を得るものである。ペンシル状ビームを走査することにより被写体の3次元散乱線像を再構成して得ることが特徴である。すなわち、本技術はペンシル状ビームのみを想定しており、X線治療で用いられる、有限の幅をもったビームが通過した領域の散乱像(治療ビームによる線量の空間分布)を得るものではない。また、エネルギーの高い治療ビーム(数MeV)の被写体内での散乱は前方散乱が優位となるため、入射X線方向に検出器を配置すると散乱線と透過線の区別が難しく、散乱線の検出に補正処理を必須としている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の放射線治療装置では、上述の方法で予め作成される被検体内部の“全減弱係数3次元分布”と、治療時も校正時と同じように正常に放射線が照射されているという仮定の下で治療計画時に作成された“照射線量3次元分布”データから吸収線量分布を数値計算によって求め、操作者が希望する方向から見込んだ吸収線量分布画像を表示するというものしか利用されていない。
【0006】
すなわち、従来技術によって提供される情報は、放射線照射が計画通り行われたと仮定したときの“推定吸収線量分布画像”を表したものであり、治療中に実測されたデータに基づくものではない。従って、治療計画時の情報の域をでないものとなっている。このため、「全減弱係数3次元分布の測定誤差」、「吸収線量計算誤差」、「計画段階と治療中の放射線照射強度の誤差」などいった誤差要因が入り込む可能性がある。
【0007】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、放射線治療中にリアルタイムに散乱線データを取得し、これを利用することで、吸収線量を実測・表示することができる放射線治療情報提供システム及び放射線治療情報提供プログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するため、次のような手段を講じている。
【0009】
請求項1に記載の発明は、被検体に対して平面状の治療用放射線ビームを照射する照射手段と、前記治療用放射線ビームに起因して発生する前記被検体の散乱線を所定の散乱角方向から検出して散乱線データを収集する検出手段と、前記治療用放射線ビームの照射方向に対する前記検出手段の検出面のなす角度を一定に保ちながら、前記治療用放射線ビームの軸の位置及び前記検出手段の検出面の位置を移動させることにより前記被検体を3次元走査し、3次元散乱線データを取得するデータ取得制御手段と、前記3次元散乱線データに基づいて、前記被検体内における散乱線発生密度の3次元的分布を示す散乱線ボリュームデータを再構成する画像再構成手段と、前記散乱線ボリュームデータに基づいて、前記被検体内における吸収線量画像または散乱線発生密度画像を生成する画像生成手段と、前記吸収線量画像または散乱線発生密度画像を表示する表示手段と、を具備することを特徴とする放射線治療情報提供システムである。
【0010】
請求項8に記載の発明は、コンピュータに、被検体に対して照射される平面状の治療用放射線ビームに起因して発生する前記被検体の散乱線を所定の散乱角方向から検出して散乱線データを収集させる検出機能と、前記治療用放射線ビームの照射方向に対する前記検出手段の検出面のなす角度を一定に保ちながら、前記治療用放射線ビームの軸の位置及び前記検出手段の検出面の位置を移動させることによりで前記被検体を3次元走査させ、3次元散乱線データを取得させるデータ取得制御機能と、前記3次元散乱線データに基づいて、前記被検体内における散乱線発生密度の3次元的分布を示す散乱線ボリュームデータを再構成させる画像再構成機能と、前記散乱線ボリュームデータに基づいて、前記被検体内における吸収線量画像又は散乱線発生密度画像を生成させる画像生成機能と、前記吸収線量画像又は散乱線発生密度画像を表示させる表示機能と、を具備することを特徴とする放射線治療情報提供プログラムである。
【発明の効果】
【0011】
以上本発明によれば、放射線治療中にリアルタイムに散乱線データを取得し、これを利用することで、照射線量を実測・表示することができる放射線治療情報提供システム及び放射線治療情報提供プログラムを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。なお、以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0013】
[原理と方法]
本実施形態に係る放射線治療情報提供システムは、被検体に対して照射した放射線に基づく当該被検体からの散乱X線を計測し、これに基づいて被検体のどの部位に、どれだけの線量が照射されたかを客観的に示す情報を取得するものである。その原理と方法は、次の様である。
【0014】
図2は、水の場合における、光子(=X線)エネルギー[MeV]に対する質量吸収係数[cm2/g]を表すグラフを示している。また、図3は、コンプトン散乱の原理を説明するための模式図である。図2によれば、数MeVエネルギーを持つX線(=光子)の生体組織(約70重量%が水であるため、全体がほぼ水と見なしうる)に対する散乱のうち、コンプトン散乱と電子対生成が同程度であることが分かる。コンプトン散乱では、入射光子のエネルギーをE0[MeV]、散乱角度をθ[deg]、散乱光子のエネルギーをEθ[MeV]としたときの関係式は次の式(1)のようになることが知られている。
【0015】
【数1】
【0016】
いま、θをθ≧90[deg]の固定角度と仮定すると、コンプトン散乱によって、例えばE0=5[MeV]ならば、Eθ≦0.464[MeV]のエネルギーを有する散乱光子(即ち、散乱線)が発生する。この他に、電子対生成では0.511[MeV]以上の電子と陽電子が生成され、最終的に陽電子と電子の衝突によって0.511[MeV]以上の光子が発生し、電子は制動放射を起すことになる。即ちトータルとしてみた場合、入射光子数にほぼ比例した後方散乱光子が検出されることになる。
【0017】
放射線治療中は被検体にMeVエネルギーを持った光子を照射することから、もし放射線照射中に発生位置が特定できる散乱線をイメージセンサーで検出できれば、予め測定しておいた“全減弱係数3次元分布データ”を使って補正をすることで、放射線照射中に測定したデータから“吸収線量3次元分布”を実測できることになる。
【0018】
本発明は、2次元散乱線画像を取得しそれを走査することで、3次元散乱画像も収集する装置及び方法を提供するものである。更にそれに補正を加えることで、治療用放射線による“吸収線量3次元分布”も求めることができる。
【0019】
[構成]
図4は、本実施形態に係る放射線治療情報提供システム1のブロック構成図を示している。また、図5は、本放射線治療情報提供システム1の散乱線の測定形態を示した図である。同図に示すように、本放射線治療情報提供システム1は、放射線照射システム2、放射線検出システム3、データ取得制御部4、データ処理システム5、表示部6、記憶部7、操作部8、ネットワークI/F9を具備している。放射線照射システム2及び放射線検出システム3は架台(ガントリ)に設置され、架台を移動、回転させることで、被検体に対して任意の位置に配置することができる。また、データ取得制御部4、データ処理システム5、表示部6、記憶部7、操作部8、ネットワークI/F9は、例えば放射線治療情報提供システム1の本体(筐体)に設置される。
【0020】
[放射線照射システム]
放射線照射システム2は、電力供給部201、照射部203、タイミング制御部205、ガントリ制御部207を有している。
【0021】
電力供給部201は、データ取得制御部4からの制御に従って照射部203に電力を供給する。
【0022】
照射部203は、例えば線形加速器(ライナック)の機構を有する放射線照射装置である。特に、照射部203は、照射する放射線を薄い平面形状に整形するための機構を有している。当該照射部203の構成の詳細については、後述する。
【0023】
タイミング制御部205は、データ取得制御部4からの制御に従って所定のタイミングで照射部203に電力が供給されるように、電力供給部201を制御する。
【0024】
ガントリ制御部207は、例えば操作部8やデータ取得制御部4からの制御指示に従って、ガントリの移動位置・回転位置を制御する。
【0025】
<照射部203の構成>
図5に示すように、当該照射部203においては、まず、加速管203aの一端に設けられた電子銃203bにより、陰極から放射された熱電子は数100keVのエネルギーになるまで加速される。次に、クライストロン203cで発生したマイクロ波は導波管を使って加速管203aまで導かれ、そこでこの熱電子は数MeVのエネルギーに達するまで加速される。この加速された熱電子は偏向電磁石(bending magnet)203dによってその方向を変えられ、透過型ターゲット203eに衝突する。このとき制動放射により、数MeVのエネルギーのX線が放射される。このX線は、イコライザ(フラットニング・フィルタ)203fを通過させることで、放射方向全体にわたってほぼ均一な強度を持つX線になるように調整される。このX線は、最初に“ジョー(jaw)”と呼ばれるコリメータ(後述)により放射方向が絞られ、次にマルチリーフ・コリメータ(=多葉コリメータ、multileaf collimator)(後述)により、更に患部の形状に近い照射形状に整形され、最終的にその患部に照射される。
【0026】
図6、図7は、照射部203が有する、照射する放射線を薄い平面形状に整形するための機構を説明するための図である。
【0027】
各図に示すように、本照射部203では、イコライザ203fを通過してきたMeVエネルギーX線の照射領域B0を制限するため、ジョー203gを利用して非常に厚みを薄くした平面状のX線ビームB1にする。ジョー203gの端面には、に示されるように円柱を中心軸に沿って二分したような部材が嵌め込まれており、その端面は常に照射焦点を通るように、タイミング制御部205により常に角度制御されている。そのため、ジョー203gにより“半影”を生じることはない。次に、この薄い平面状に整形されたX線ビームB1は、治療部位の輪郭に合わせた開口形状になるように制御されるマルチリーフ・コリメータ203hにより更に絞られ、薄い平面状に整形されたX線ビームB2(原体照射の場合は、治療部位の輪郭と同じ開口形状となる)が生成される。
【0028】
なお、薄い平面状に整形されたX線ビームB2の照射領域内部は、言わばエネルギーが照射され散乱が促される領域であり、その意味でX線ビームB2が照射される被検体断面は、X線による励起断面と捉えることができる。
【0029】
[放射線検出システム]
放射線検出システム3は、検出器301、平行コリメータ303、移動機構部305、位置検出部307を有している。
【0030】
検出器301は、数100keVのX線を検出できる半導体検出器や、イメージング・プレートと撮像素子から成る検出器等であり、被検体に対して照射した放射線に基づく当該被検体からの散乱X線を検出する。この検出器の好ましいサイズ、照射ビーム軸に対する配置角度、画素数等については後述する。
【0031】
平行コリメータ303は、所定の方向から来た散乱線のみを選択的に検出するための絞り装置である。この平行コリメータ303の好ましい形状、グリッドサイズ等については、後述する。
【0032】
移動機構部305は、照射部203の照射ビーム軸に対する検出器301の検出面の角度(すなわち、照射ビーム軸と検出器301の検出面の法線との角度)、放射線ビーム軸を中心とした検出器301の回転角、被検体と検出器301の検出面との距離等を制御するために、検出器301の位置や角度を移動させるための移動機構部である。
【0033】
位置検出部307は、検出器301の位置を検出するためのエンコーダである。
【0034】
<検出器301・平行コリメータ303>
図8は、被検体に照射される(薄い平面状に整形された)X線ビームB2の厚みを2等分する中心線Lに対する検出器301及び平行コリメータ303の位置及び角度を説明するための図である。また、図9(a)は平行コリメータ303を散乱線の入射側から見た図であり、図9(b)は、平行コリメータ303が設けられた検出器301の斜視図である。
【0035】
このように二段階に絞られたX線は患者の身体に照射されるが、体表面→患部→反対側の体表面という経路を通過していく。放射線治療の場合MeVエネルギーのX線を照射することになるので、散乱線の半分以上が“コンプトン散乱”に起因すると考えられる。このコンプトン散乱に起因する成分のエネルギーと散乱角θとの間には、既述の式(1)の関係が成立することが知られている。そこで実測する散乱線のエネルギー範囲がほぼ同じになるように(すなわち、散乱角θがほぼ一定と見なせる散乱線だけを検出できるように)、図8のような位置に、図9(a)、図9(b)に示すような平行コリメータ303(平行グリッド)を付けた検出器301を配置する。
【0036】
X線ビームB2の厚みを2等分する中心線Lと、平行コリメータの視線方向を示す直線Mのなす角α(=180-θ)[deg]が、常に一定値α0になる位置関係を保ったまま、散乱線を計測するものとする。このとき治療用X線の照射の焦点をF、アイソセンターを点Oとおく。焦点Fと点Oを通る直線L0と直線Lのなす角をφ[deg]とするとき、α=α0(一定)という条件を常に満たしつつ、φを変化させて散乱線データを収集する。以上の動作により、治療用放射線が照射される部位全体の散乱線画像をボリューム・データ(=3次元データ)として収集することができる。
【0037】
<移動機構部305>
図10は、検出器301及び平行コリメータ303を移動させるための移動機構部305の一例を示した図である。同図に示すように、本移動機構部305は、放射線照射部203の照射ヘッドの前方に、検出器301及び平行コリメータ303を、焦点Fを中心とする同心円上に移動可能とするためのレールに沿って動かすためのものである。このとき、直線Lと平行コリメータの視線Mのなす角αが常にα0(一定)という関係を保ったまま(すなわち、照射部203の重心位置と検出器301の重心位置との相対的位置関係を保持したまま)薄い平面状に整形されたX線ビームB2の厚みの二等分線Lと直線L0とのなす角φを変化させて、被検体の散乱線画像を収集する。
【0038】
図11は、図10に示した移動機構部305を用いた検出器301及び平行コリメータ303の移動によって取得される散乱線データと走査空間の座標との関係式を求めるための図である。図11に示すように、平行コリメータ303付き検出器301の水平方向の座標をx’、垂直方向の座標をY’、焦点Fからこの検出器301の中心点O’までの距離をd0、照射の焦点FとアイソセンターOとの距離をfとする。アイソセンターOを原点とする直交座標系をO-XYZとし、その座標系における任意の点QのX座標をx、 Y座標をy、Z座標をzとする。その他の記号の取り方は、これまで説明してきたものに従うものとする。簡単な幾何学的計算から、検出器301で撮像した散乱線画像における任意の画素Sの座標系O’-X’Y’における座標を(x’,y’)、これに対応する被検体の点Qの座標系O-XYZにおける座標を(x,y,z)とおいたとき、それらの対応関係は、次の式(2−1)、(2−2)、(2−3)のように導かれる。
【0039】
【数2】
【0040】
これらの式は、検出器301の任意の画素と放射線治療装置の治療空間との間に一対一のマッピングが可能であり、且つ被検体の3次元情報を取得できることを意味している。また画素値(輝度)は散乱線の光子数に比例するので、前述の全減弱係数3次元分布データに基づく補正を行えば、治療中の実測データから吸収線量3次元分布も求めることができる。
【0041】
図12は、検出器301及び平行コリメータ303を移動させるための移動機構部305の他の例を示した図である。同図に示すように、本移動機構部305は、平行コリメータ303付き検出器301の中心点O’(あるいは、重心位置)は照射ヘッドに対して固定されているものとし、X線ビームB2の中心線Lと、平行コリメータ303の視線方向を示す直線Mのなす角α(=180-θ)[deg]が、常に一定値α0であるという角度関係を保ったまま散乱線を測定できるように、中心線Lの走査角φと同期して検出器301の視線方向を重心位置の周りに変えながら撮像する。即ち、検出器301の検出面(及び平行コリメータ303の開口面)を回転させるというものである。
【0042】
図13は、図12に示した移動機構部305を用いた検出器301及び平行コリメータ303の移動によって取得される散乱線データと走査空間の座標との関係式を求めるための図である。図13に示すように、O-XYZ座標系での中心点O’の座標を(0,y1,z1)、X線画像検出器上の任意の点SのO’-X’Y’座標系での座標を(x’,y’)とおく。その他の記号の取り方はこれまでのものを踏襲するものとする。簡単な幾何学の計算から、X線画像検出器で撮像した散乱線画像における任意の画素Sの座標を (x’,y’)とし、これに対応する被検体の点Qの座標を(x,y,z)で表すと、その対応関係は、次の式(3−1)、(3−2)、(3−3)のように求められる。
【0043】
【数3】
【0044】
これらの関係は、図10、図11に示した例よりも多少複雑になるものの、これも一対一の対応が可能であることから、3次元情報を取得できることを示している。また画素値(=輝度)は散乱線の光子数に比例するので、前述の全減弱係数3次元分布データに基づく補正を行えば、治療中の実測データから吸収線量3次元分布を求めることができる。
【0045】
なお、上述した移動機構部305の各例では、ジョー203gの開閉移動方向が放射線治療装置のガントリ回転軸方向(図11、図13の座標の取り方に従えば、X軸に平行な方向)と平行な場合だけを示してきたが、これと直交する方向(図11、図13の座標の取り方に従えば、Y軸に平行な方向)となっていても、全く同様に散乱線画像を取得したり、吸収線量3次元分布を求めたりすることができる。
【0046】
[データ取得制御部]
データ取得制御部4は、放射線治療時における散乱線計測に関する総合的な制御を行う。例えば、データ取得制御部4は、放射線照射システム2のタイミング制御部205からの信号を得て、放射線検出システム3に対して散乱線計測開始トリガーや検出データの伝送トリガーを送信する等、放射線照射、散乱線計測、データ処理、画像表示、ネットワーク通信等について、本放射線治療情報提供システム1を静的又は動的に制御する。また、例えばデータ取得制御部4は、必要に応じて、ネットワークを介して放射線治療計画装置から受け取った治療計画に基づいて、各照射の照射時間に合わせてスキャン時間を最適化したり、放射線照射システム2の放射線照射タイミングに合わせて、X線ビームB2のビーム軸と検出器301及びコリメータ305の向き(すなわち、X線ビームB2のビーム軸と検出器301の法線とのなす角)が一定になるように、移動機構部305の制御を行ったりする。
【0047】
[データ処理システム]
データ処理システム5は、補正処理部501、再構成処理部503、変換処理部505、画像処理部507を有している。
【0048】
補正処理部501は、必要に応じてデータのキャリブレーション処理、ノイズを除去するための補正処理、治療用放射線や散乱線が被検体内を伝播することに起因する信号減弱に関する補正(減弱補正)処理等を行う。当該補正処理501が実行する減弱補正処理の内容については、後で詳しく説明する。
【0049】
再構成処理部503は、放射線検出システム3において検出された散乱線画像データを用いて画像再構成処理を実行し、散乱イベント回数(散乱発生回数)の密度の3次元的分布を示す散乱線ボリュームデータを取得する。再構成法式としては、前述の(2−1)、(2−2)、(2−3)、(3−1)、(3−2)、(3−3)で表される関係式を利用した再構成手法を用いる。
【0050】
変換処理部505は、画像再構成処理によって得られた3次元画像データを、吸収された放射線量(吸収線量)の3次元分布を示す吸収線量ボリュームデータに変換する。
【0051】
画像処理部507は、吸収線量ボリュームデータ等を用いて、被検体の所定部位に関する吸収された放射線量(吸収線量)の分布を示す吸収線量画像データを生成する。また、吸収線量画像をフュージョン(Fusion)して表示する場合には、画像処理部507は、吸収線量ボリュームデータ等を用いて画像合成処理を行う。
【0052】
<減弱補正>
図14は、減弱補正の概念を説明するための図である。
【0053】
減弱補正は、被検体と散乱線検出システム3との相対的位置関係に基づいて実行される。いま薄い平面状に整形されたX線ビームB2が、患者の身体に侵入してから脱出するまでの過程を考える。図14に示すように、平行コリメータ303付き検出器301の各画素で検出される散乱線は、その画素を通り且つ平行コリメータの視線方向Mと平行な直線Nと、“薄い平面状に整形されたX線ビーム”の厚みを二等分する平面Πとの交点Pから放射されたものであると特定できるので、「斜視方向からの画像収集」と「生体組織による減衰効果」を考慮した輝度値の補正を行えば、“生体内の任意の位置での散乱線”を実測できたことになる。散乱線は、その発生した点Qでの原子との相互作用があったことを意味しており、散乱と同時にエネルギーの吸収が生じていることも意味している。この散乱線は、その点Qでの吸収線量D[Gy](=D[J/kg])に比例していると考えてよいことから、点Qから体表面の脱出点R(これら点は前出の直線N上にある)までの経路に沿った全減弱係数の積分値を予め求めておいた“全減弱係数3次元分布データ”から計算し、これを使った補正処理(=点Qから点Rの経路に沿った全減衰量の逆数をその画素値にかけるという演算)で求めることができる。なお、全減弱係数による減衰は指数関数で表されるので簡単に求めることができる。
【0054】
生体内部構造を可視化するには上記の補正だけでは不十分で、“薄い平面状に整形されたX線ビーム”の侵入点Pから点Qにいたる経路に沿った全減弱係数も併せて補正する処理(=点Pから点Qの経路に沿った全減衰量の逆数、及び点Qから点Rの経路に沿った全減衰量の逆数をその画素値にかける演算)を付すことにより求めることができる。
【0055】
これ以外に“全減弱係数3次元分布データ”を使わない生体内部構造の簡便な可視化方法として次のような方法が考えられる。先ず、照射X線強度(即ち、被検体に照射される直前で減弱が生じていない段階でのX線強度)をモニターする手段として、例えば図5に示すイコライザ203fとジョー203gとの間に、“線量モニター”(例えば半導体放射線検出器、またはシンチレータ付き耐放射線性を有するカメラなど)を設け、照射X線強度I0をリアルタイムに検出・記録する。この信号は減弱を受ける前のX線の光子数N0に比例する。比例定数をγ0とおけば、次の式(4)の様に表すことができる。
【0056】
【数4】
【0057】
本システム1では、図14に示すように、薄い平面状に整形されたX線ビームは侵入点Pから被検体に入り、主要な散乱が生じた点Qで散乱され、脱出点Rから“平行コリメータをつけたX線画像検出器”に向かって放射するという現象が生じている。いま「点Qから点Rに至る減弱がほぼ無視できる」と仮定し、更に「点Qからの散乱線の強度は、減弱を受けながら点Qまで到達したX線強度にも比例する」こと、及び「散乱線は、減弱によって失われていくエネルギーに比例する」ことを考え合わせると、図15のようなモデルが考えられる。X線画像検出器のi番目の画素で検出された信号値をSiとする。また画素番号は、侵入点Pから散乱点Qに向かって、1から順番に付けるものとする。すると、比例定数を用いて、次の式(5)の様に表すことができる。
【0058】
【数5】
【0059】
生体内部構造を可視化するためには、“散乱の強弱”(=X線強度に対する散乱線強度の比)に比例する画素値を持つ画像の方が、より解剖学的構造に対応すると考えられるので、これを表示できるように下記のような補正を行う。即ち、i番目の画素に対応する画像輝度値Pjを次に示す式(6)のように計算して求める。これにより“全減弱係数3次元データ”等が入手できない場合でも、簡便に生体内部構造をより分かりやすく可視化することが可能になる。
【0060】
【数6】
【0061】
[表示部、記憶部、操作部、ネットワークI/F]
表示部6は、吸収線量画像データを用いて吸収線量画像を所定の形態で表示する。例えば、表示部6は、必要に応じて、吸収線量画像を計画画像や照射直前、照射中に得た画像とフュージョンして表示を行う。
【0062】
記憶部7は、照射する放射線ビームの軸と検出器301の検出面との角度を一定に保ちながら散乱線データを取得(スキャン)するための所定のスキャンシーケンス、補正処理、画像再構成処理、変換処理、表示処理等を実行するための制御プログラムや、治療計画を当該システムで表示、編集するための専用プログラム、当該放射線治療情報提供システム1によって取得された散乱線ボリュームデータ、吸収線量ボリュームデータ、吸収線量画像データ、X線コンピュータ断層撮影装置等の他のモダリティによって取得された画像データ等を記憶する。当該記憶部7に記憶されているデータは、ネットワークI/F90を経由して外部装置へ転送することも可能となっている。
【0063】
操作部8は、オペレータからの各種指示、条件、関心領域(ROI)の設定指示、種々の画質条件設定指示等を装置本体11にとりこむための各種スイッチ、ボタン、トラックボール13s、マウス13c、キーボード13d等を有している。
【0064】
ネットワークI/F9は、当該放射線治療情報提供システム1によって得られた吸収線量画像データ等をネットワーク経由で他の装置に転送し、また、例えば放射線治療計画装置において作成された治療計画等をネットワーク経由で取得する。
【0065】
(動作)
次に、本放射線治療情報提供システム1の放射線治療時における動作について説明する。
【0066】
図16は、本放射線治療情報提供システム1の動作を含む放射線治療時における処理の流れを示したフローチャートである。以下、各ステップの処理内容について説明する。
【0067】
[被検体の配置等:ステップS1]
まず、データ取得制御部4は、例えばネットワークを介して当該被検体に関する治療計画情報を取得し、表示部6に表示する。術者は、表示された治療計画に従って寝台上に被検体を配置すると共に、操作部8を介して、放射線照射時間の設定、散乱線計測を行う散乱角の設定、スキャンシーケンスの選択等を行う(ステップS1)。なお、放射線照射時間の設定等については、取得した治療計画情報に基づいて、自動的に行うようにしてもよい。
【0068】
[放射線照射(散乱線データの取得):ステップS2]
次に、放射線照射システム2は、被検体に対して薄い平面状に整形されたX線ビームB2を所定のタイミングで照射し、放射線検出システム2は、当該照射放射線に基づいて被検体外に出てくる所定の散乱角の散乱線を検出する。また、データ取得制御部4は、照射部203から照射される治療用のX線ビームB2の軸と検出器301の視線方向とのなす角を維持しながらX線ビームB2による励起断面を移動させ、当該被検体内の3次元領域を走査(スキャン)するように、ガントリ制御部207或いは移動機構部305を制御する(ステップS2)。この治療用のX線ビームB2を用いた3次元領域のスキャンにより、X線ビームB2の平面に対応する複数の二次元散乱線データからなる3次元散乱線データが取得される。
【0069】
[前処理(補正処理等):ステップS3]
次に、データ処理システム5の補正処理部501は、減弱補正を含む前処理を実行し、投影データを取得する(ステップS3)。なお、減弱補正の内容は、既述の通りである。
【0070】
[画像再構成処理:ステップS4]
次に、データ処理システム5の画像再構成処理部503は、取得された投影データを用いて画像再構成処理を実行し、散乱線ボリュームデータを取得する(ステップS4)。
【0071】
[変換処理:ステップS5]
次に、データ処理システム5の変換処理部507は、ボクセル(voxel)ごとに算出された単位体積あたりの散乱回数nを、吸収線量に換算することで、散乱線ボリュームデータを吸収された放射線量(吸収線量)の3次元分布を示す吸収線量ボリュームデータに変換する(ステップS5)。ここで、吸収線量とは、単位質量当たりの吸収エネルギーであり、[Gy]=[J/kg]で表される。また、再構成処理で算出された散乱回数nとは、所定の散乱角θd 方向に散乱線(光子)が飛んだ散乱の回数である。
【0072】
すなわち、散乱線が、電子に与えたエネルギー(組織に吸収されたエネルギー)Te,θdは、次式(7)のように表せる。
【0073】
【数7】
【0074】
ここで、hνは、治療X線ビームのエネルギー[eV]を意味しており、治療計画時に設定されている。
【0075】
ゆえに、θd 方向に飛んだ散乱線から見積もった、組織の吸収エネルギーは、n×Te,θd [eV]で表される。しかし、実際には、θd 以外の方向への散乱も起こっているため、それらも考慮する必要がある。ある方向θへの散乱線の数は、式(8a)の様に表すことができ、これらの散乱線から、組織が受け取るエネルギーは、式(8b)のように表される。
【0076】
【数8】
【0077】
ここで、微分散乱断面積をdσ/dΩ を単に、σ(θ)と表した。Ωは立体角を意味する。これを用いると、ボクセル内の吸収エネルギーEa[eV]は、次式(9)で表すことができる。
【0078】
【数9】
【0079】
さらに、ボクセルの体積をVとして、組織が殆ど水(密度1g/cm3)で構成されていると仮定すると、ボクセルの吸収線量D[Gy]は、次の式(10)の様に表すことができる。
【0080】
【数10】
【0081】
この計算を全てのボクセルに対して行うことで、吸収線量分布が得られる。
【0082】
[吸収線量画像データの生成/画像データの表示:ステップS6、S7]
次に、画像処理部507は、吸収線量ボリュームデータ等を用いて、被検体の所定部位に関する吸収された放射線量(吸収線量)の分布を示す吸収線量画像データを生成し、例えばフュージョン表示するためにCT画像と合成する(ステップS6)。表示部6は、所定の形態にて吸収線量画像を表示する(ステップS7)。
【0083】
図17は、吸収線量画像の表示の一形態(心臓を含む肺野横断面におけるフュージョン表示)を示した図である。治療中、或いは治療前後の任意のタイミングにおいて、同図に示すような吸収線量画像を表示することができる。術者は、表示された画像を観察することで、実際に患者のどの部位に、どれだけの線量が照射されたかを、視覚的且つ定量的に把握することができる。
【0084】
(効果)
以上述べた構成によれば、以下の効果を得ることができる。
【0085】
本放射線治療情報提供システム1では、治療X線ビームに対して所定の角度(散乱角)をなす位置にコリメータを備えた検出器を設置し、その方向に来た散乱線のみを選択的に検出し、この検出を照射部203から照射される治療用X線ビームの軸と検出器301の検出面とのなす角を維持しつつ治療用X線ビームと検出面とを移動させながら実行することで、被検体内の3次元領域をスキャンする。得られた所定の散乱角に関する3次元散乱線データを用いて、散乱線ボリュームデータを再構成すると共に、当該散乱線ボリュームデータを吸収された放射線量の3次元分布を示す吸収線量ボリュームデータに変換し、吸収線量画像を生成する。生成された吸収線量画像は、例えば形態画像等(CT画像等)と合成されて表示される。表示される吸収線画像は、実測によって得られた客観的なデータである多方向の散乱線データに基づいて生成されたものである。従って、術者は、この吸収線量画像を観察することで、現実に放射線が照射された位置及び量を、視覚的且つ定量的に把握することができる。これにより、計画通りに放射線治療が行われているか否かを客観的な基準を用いて判定することができ、放射線の治療部位やその周辺領域に対する過剰照射や過少照射を防ぐことができる。その結果、放射線治療の効果を向上、被検体への余分な被曝量の低減を実現することができ、放射線治療の質の向上に寄与することができる。
【0086】
また、本放射線治療情報提供システム1によれば、吸収線量画像を、治療中にリアルタイムに観察することができる。また、予め取得された散乱線ボリュームデータや吸収線量ボリュームデータを用いて再構成処理や所定の画像処理を行うことで、吸収線量画像を任意のタイミングで観察することができる。従って、治療中であれば、現在照射されている放射線の位置や強度をリアルタイムに迅速且つ簡単に視覚的に確認することができ、また、例えば治療経過途中段階であれば、今までの治療において放射線が照射された位置や累積放射線量を迅速且つ簡単に視覚的に確認することができる。すなわち、術者は、所望の状況で吸収線量画像を観察することで、現在の治療や今までの治療の妥当性を客観的基準に基づいて判定することができる。
【0087】
また、本放射線治療情報提供システム1によれば、被検体と散乱線検出システム3との相対的位置関係に基づいて、放射線治療用X線の散乱地点からX線画像検出器に向かう被検体の脱出地点に至るまでの経路において減弱補正をするとか、放射線治療用X線の被検体への侵入地点から散乱地点を経由して検出器に向かって被検体を出る脱出地点に至るまでの全経路において照射X線や散乱線に関する減弱補正といった計算を実行する。これによって、被検体内部を伝播することによるエネルギー減弱の影響を補正することができ、信頼性の高い散乱線ボリュームデータ、吸収線量ボリュームデータ等を取得することができる。
【0088】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。具体的な変形例としては、例えば次のようなものがある。
【0089】
例えば、本実施形態に係る制御機能、信号処理機能、表示機能等は、当該処理を実行するプログラムをワークステーション等のコンピュータにインストールし、これらをメモリ上で展開することによっても実現することができる。このとき、コンピュータに当該手法を実行させることのできるプログラムは、磁気ディスク(フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスクなど)、光ディスク(CD−ROM、DVDなど)、半導体メモリなどの記録媒体に格納して頒布することも可能である。
【0090】
また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0091】
以上本発明によれば、放射線治療中にリアルタイムに散乱線データを取得し、これを利用することで、照射線量を実測・表示することができる放射線治療情報提供システム及び放射線治療情報提供プログラムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】図1は、生体組織における、光子(即ちX線)エネルギー[MeV]に対する質量吸収係数[cm2/g]を表すグラフを示している。
【図2】図2は、水の場合における、光子(=X線)エネルギー[MeV]に対する質量吸収係数[cm2/g]を表すグラフである。
【図3】図3は、コンプトン散乱の原理を表す模式図である。
【図4】図4は、本実施形態に係る放射線治療情報提供システム1のブロック構成図を示している。
【図5】図5は、本放射線治療情報提供システム1の散乱線の測定形態を示した図である。
【図6】図6は、照射部203が有する、照射する放射線を薄い平面形状に整形するための機構を説明するための側面図である。
【図7】図7は、照射部203が有する、照射する放射線を薄い平面形状に整形するための機構を説明するための斜視図である。
【図8】図8は、被検体に照射される(薄い平面状に整形された)X線ビームB2の厚みを2等分する中心線Lに対する検出器301、平行コリメータ303の位置及び角度を説明するための図である。
【図9】図9(a)は平行コリメータ303を散乱線の入射側から見た図である。図9(b)は、平行コリメータ303が設けられた検出器301の斜視図である。
【図10】図10は、検出器301及び平行コリメータ303を移動させるための移動機構部305の一例を示した図である。
【図11】図11は、図10に示した移動機構部305を用いた検出器301及び平行コリメータ303の移動によって取得される散乱線データと走査空間の座標との関係式を求めるための図である。
【図12】図12は、検出器301及び平行コリメータ303を移動させるための移動機構部305の別の例を示した図である。
【図13】図13は、図12に示した移動機構部305を用いた検出器301及び平行コリメータ303の回転によって取得される散乱線データと走査空間の座標との関係式を求めるための図である。
【図14】図14は、減弱補正の概念を説明するための図である。
【図15】図15は、別の簡易減弱補正の概念を説明するための図である。
【図16】図16は、本放射線治療情報提供システム1の動作を含む放射線治療時における処理の流れを示したフローチャートである。
【図17】図17は、吸収線量画像の表示の一形態(心臓を含む肺野横断面におけるフュージョン表示)を示した図である。
【符号の説明】
【0093】
1…放射線治療情報提供システム、2…放射線照射システム、3…放射線検出システム、4…データ取得制御部、5…データ処理システム、6…表示部、7…記憶部、8…操作部、9…ネットワークI/F、201…電力供給部、203…照射部、205…タイミング制御部、207…ガントリ制御部、301…検出器、303…平行コリメータ、305…移動機構部、307…位置検出部、501…補正処理部、503…再構成処理部、505…変換処理部、507…画像処理部
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線治療装置において治療用放射線を照射したときに発生する散乱X線を実測し、これを利用して、患部で吸収された吸収線量3次元分布を高精度に取得するための放射線治療情報提供システム及び放射線治療情報提供プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
放射線治療を正確に行うために、照射焦点と同じ視点から被検体をモニターしたいという要求がある。現在使われている殆どの放射線治療装置には、アイソセンターを挟んで照射ヘッドと対向する位置に高エネルギー放射線による撮影を可能にするEPID(=Electronic Portal Imaging Device)と呼ばれるイメージセンサーを配置することにより、照射焦点と同じ視点から見込んだMeVエネルギー光子によるX線透視画像(以下、MV画像と略す)を撮影できるようになっている。これを使って、照射ヘッドの回転軸の周りに全周にわたって透過画像を収集すれば、治療用放射線コーンビームCT(=Mega-volt Cone Beam CT)による画像再構成を実施できるので、“MeVエネルギーを持つ光子に対する全減弱係数3次元分布”を実測することができる。別の方法としては、通常の診断用X線CT(=kilo-volt CT)により“keVエネルギーを有する光子に対する全減弱係数3次元分布画像”を求めることができるので、keVエネルギーでの減弱係数とMeVエネルギーでの減弱係数との定量的関係と“臓器を構成する元素分布”という先見情報から、“MeVエネルギーを持つ光子に対する全減弱係数3次元分布”を推定するということも行われている。
【0003】
ところで、被検体が生体の場合、その組織は骨、筋肉、脂肪に大別され、しかもそれらの質量エネルギー吸収係数[cm2/g]は光子エネルギー[MeV]依存性を持ち、図1に示すように数MeVエネルギーの領域では殆ど差がつかないといった特長がある。このため数MeVエネルギーのX線を使う放射線治療では、生体組織に対してコントラストが殆どつかないという欠点がある。これとは別に、コントラストがつきやすい数10keVエネルギーのX線を使ってモニタリングする方式も実用化されている。しかしながら、制動放射の放射方向にエネルギー依存性があるため、keVエネルギーX線管球とX線画像検出器を別に設けざるを得ず、視点が照射焦点と異なってしまうという欠点がある。
【0004】
なお、本願に関連する公知文献としては、例えば次のようなものがある。
【特許文献1】特開平5−146426号公報 この特許文献が開示する技術は、X線被写体の散乱線を検出し、被写体の断層像を得るものである。ペンシル状ビームを走査することにより被写体の3次元散乱線像を再構成して得ることが特徴である。すなわち、本技術はペンシル状ビームのみを想定しており、X線治療で用いられる、有限の幅をもったビームが通過した領域の散乱像(治療ビームによる線量の空間分布)を得るものではない。また、エネルギーの高い治療ビーム(数MeV)の被写体内での散乱は前方散乱が優位となるため、入射X線方向に検出器を配置すると散乱線と透過線の区別が難しく、散乱線の検出に補正処理を必須としている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の放射線治療装置では、上述の方法で予め作成される被検体内部の“全減弱係数3次元分布”と、治療時も校正時と同じように正常に放射線が照射されているという仮定の下で治療計画時に作成された“照射線量3次元分布”データから吸収線量分布を数値計算によって求め、操作者が希望する方向から見込んだ吸収線量分布画像を表示するというものしか利用されていない。
【0006】
すなわち、従来技術によって提供される情報は、放射線照射が計画通り行われたと仮定したときの“推定吸収線量分布画像”を表したものであり、治療中に実測されたデータに基づくものではない。従って、治療計画時の情報の域をでないものとなっている。このため、「全減弱係数3次元分布の測定誤差」、「吸収線量計算誤差」、「計画段階と治療中の放射線照射強度の誤差」などいった誤差要因が入り込む可能性がある。
【0007】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、放射線治療中にリアルタイムに散乱線データを取得し、これを利用することで、吸収線量を実測・表示することができる放射線治療情報提供システム及び放射線治療情報提供プログラムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するため、次のような手段を講じている。
【0009】
請求項1に記載の発明は、被検体に対して平面状の治療用放射線ビームを照射する照射手段と、前記治療用放射線ビームに起因して発生する前記被検体の散乱線を所定の散乱角方向から検出して散乱線データを収集する検出手段と、前記治療用放射線ビームの照射方向に対する前記検出手段の検出面のなす角度を一定に保ちながら、前記治療用放射線ビームの軸の位置及び前記検出手段の検出面の位置を移動させることにより前記被検体を3次元走査し、3次元散乱線データを取得するデータ取得制御手段と、前記3次元散乱線データに基づいて、前記被検体内における散乱線発生密度の3次元的分布を示す散乱線ボリュームデータを再構成する画像再構成手段と、前記散乱線ボリュームデータに基づいて、前記被検体内における吸収線量画像または散乱線発生密度画像を生成する画像生成手段と、前記吸収線量画像または散乱線発生密度画像を表示する表示手段と、を具備することを特徴とする放射線治療情報提供システムである。
【0010】
請求項8に記載の発明は、コンピュータに、被検体に対して照射される平面状の治療用放射線ビームに起因して発生する前記被検体の散乱線を所定の散乱角方向から検出して散乱線データを収集させる検出機能と、前記治療用放射線ビームの照射方向に対する前記検出手段の検出面のなす角度を一定に保ちながら、前記治療用放射線ビームの軸の位置及び前記検出手段の検出面の位置を移動させることによりで前記被検体を3次元走査させ、3次元散乱線データを取得させるデータ取得制御機能と、前記3次元散乱線データに基づいて、前記被検体内における散乱線発生密度の3次元的分布を示す散乱線ボリュームデータを再構成させる画像再構成機能と、前記散乱線ボリュームデータに基づいて、前記被検体内における吸収線量画像又は散乱線発生密度画像を生成させる画像生成機能と、前記吸収線量画像又は散乱線発生密度画像を表示させる表示機能と、を具備することを特徴とする放射線治療情報提供プログラムである。
【発明の効果】
【0011】
以上本発明によれば、放射線治療中にリアルタイムに散乱線データを取得し、これを利用することで、照射線量を実測・表示することができる放射線治療情報提供システム及び放射線治療情報提供プログラムを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。なお、以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0013】
[原理と方法]
本実施形態に係る放射線治療情報提供システムは、被検体に対して照射した放射線に基づく当該被検体からの散乱X線を計測し、これに基づいて被検体のどの部位に、どれだけの線量が照射されたかを客観的に示す情報を取得するものである。その原理と方法は、次の様である。
【0014】
図2は、水の場合における、光子(=X線)エネルギー[MeV]に対する質量吸収係数[cm2/g]を表すグラフを示している。また、図3は、コンプトン散乱の原理を説明するための模式図である。図2によれば、数MeVエネルギーを持つX線(=光子)の生体組織(約70重量%が水であるため、全体がほぼ水と見なしうる)に対する散乱のうち、コンプトン散乱と電子対生成が同程度であることが分かる。コンプトン散乱では、入射光子のエネルギーをE0[MeV]、散乱角度をθ[deg]、散乱光子のエネルギーをEθ[MeV]としたときの関係式は次の式(1)のようになることが知られている。
【0015】
【数1】
【0016】
いま、θをθ≧90[deg]の固定角度と仮定すると、コンプトン散乱によって、例えばE0=5[MeV]ならば、Eθ≦0.464[MeV]のエネルギーを有する散乱光子(即ち、散乱線)が発生する。この他に、電子対生成では0.511[MeV]以上の電子と陽電子が生成され、最終的に陽電子と電子の衝突によって0.511[MeV]以上の光子が発生し、電子は制動放射を起すことになる。即ちトータルとしてみた場合、入射光子数にほぼ比例した後方散乱光子が検出されることになる。
【0017】
放射線治療中は被検体にMeVエネルギーを持った光子を照射することから、もし放射線照射中に発生位置が特定できる散乱線をイメージセンサーで検出できれば、予め測定しておいた“全減弱係数3次元分布データ”を使って補正をすることで、放射線照射中に測定したデータから“吸収線量3次元分布”を実測できることになる。
【0018】
本発明は、2次元散乱線画像を取得しそれを走査することで、3次元散乱画像も収集する装置及び方法を提供するものである。更にそれに補正を加えることで、治療用放射線による“吸収線量3次元分布”も求めることができる。
【0019】
[構成]
図4は、本実施形態に係る放射線治療情報提供システム1のブロック構成図を示している。また、図5は、本放射線治療情報提供システム1の散乱線の測定形態を示した図である。同図に示すように、本放射線治療情報提供システム1は、放射線照射システム2、放射線検出システム3、データ取得制御部4、データ処理システム5、表示部6、記憶部7、操作部8、ネットワークI/F9を具備している。放射線照射システム2及び放射線検出システム3は架台(ガントリ)に設置され、架台を移動、回転させることで、被検体に対して任意の位置に配置することができる。また、データ取得制御部4、データ処理システム5、表示部6、記憶部7、操作部8、ネットワークI/F9は、例えば放射線治療情報提供システム1の本体(筐体)に設置される。
【0020】
[放射線照射システム]
放射線照射システム2は、電力供給部201、照射部203、タイミング制御部205、ガントリ制御部207を有している。
【0021】
電力供給部201は、データ取得制御部4からの制御に従って照射部203に電力を供給する。
【0022】
照射部203は、例えば線形加速器(ライナック)の機構を有する放射線照射装置である。特に、照射部203は、照射する放射線を薄い平面形状に整形するための機構を有している。当該照射部203の構成の詳細については、後述する。
【0023】
タイミング制御部205は、データ取得制御部4からの制御に従って所定のタイミングで照射部203に電力が供給されるように、電力供給部201を制御する。
【0024】
ガントリ制御部207は、例えば操作部8やデータ取得制御部4からの制御指示に従って、ガントリの移動位置・回転位置を制御する。
【0025】
<照射部203の構成>
図5に示すように、当該照射部203においては、まず、加速管203aの一端に設けられた電子銃203bにより、陰極から放射された熱電子は数100keVのエネルギーになるまで加速される。次に、クライストロン203cで発生したマイクロ波は導波管を使って加速管203aまで導かれ、そこでこの熱電子は数MeVのエネルギーに達するまで加速される。この加速された熱電子は偏向電磁石(bending magnet)203dによってその方向を変えられ、透過型ターゲット203eに衝突する。このとき制動放射により、数MeVのエネルギーのX線が放射される。このX線は、イコライザ(フラットニング・フィルタ)203fを通過させることで、放射方向全体にわたってほぼ均一な強度を持つX線になるように調整される。このX線は、最初に“ジョー(jaw)”と呼ばれるコリメータ(後述)により放射方向が絞られ、次にマルチリーフ・コリメータ(=多葉コリメータ、multileaf collimator)(後述)により、更に患部の形状に近い照射形状に整形され、最終的にその患部に照射される。
【0026】
図6、図7は、照射部203が有する、照射する放射線を薄い平面形状に整形するための機構を説明するための図である。
【0027】
各図に示すように、本照射部203では、イコライザ203fを通過してきたMeVエネルギーX線の照射領域B0を制限するため、ジョー203gを利用して非常に厚みを薄くした平面状のX線ビームB1にする。ジョー203gの端面には、に示されるように円柱を中心軸に沿って二分したような部材が嵌め込まれており、その端面は常に照射焦点を通るように、タイミング制御部205により常に角度制御されている。そのため、ジョー203gにより“半影”を生じることはない。次に、この薄い平面状に整形されたX線ビームB1は、治療部位の輪郭に合わせた開口形状になるように制御されるマルチリーフ・コリメータ203hにより更に絞られ、薄い平面状に整形されたX線ビームB2(原体照射の場合は、治療部位の輪郭と同じ開口形状となる)が生成される。
【0028】
なお、薄い平面状に整形されたX線ビームB2の照射領域内部は、言わばエネルギーが照射され散乱が促される領域であり、その意味でX線ビームB2が照射される被検体断面は、X線による励起断面と捉えることができる。
【0029】
[放射線検出システム]
放射線検出システム3は、検出器301、平行コリメータ303、移動機構部305、位置検出部307を有している。
【0030】
検出器301は、数100keVのX線を検出できる半導体検出器や、イメージング・プレートと撮像素子から成る検出器等であり、被検体に対して照射した放射線に基づく当該被検体からの散乱X線を検出する。この検出器の好ましいサイズ、照射ビーム軸に対する配置角度、画素数等については後述する。
【0031】
平行コリメータ303は、所定の方向から来た散乱線のみを選択的に検出するための絞り装置である。この平行コリメータ303の好ましい形状、グリッドサイズ等については、後述する。
【0032】
移動機構部305は、照射部203の照射ビーム軸に対する検出器301の検出面の角度(すなわち、照射ビーム軸と検出器301の検出面の法線との角度)、放射線ビーム軸を中心とした検出器301の回転角、被検体と検出器301の検出面との距離等を制御するために、検出器301の位置や角度を移動させるための移動機構部である。
【0033】
位置検出部307は、検出器301の位置を検出するためのエンコーダである。
【0034】
<検出器301・平行コリメータ303>
図8は、被検体に照射される(薄い平面状に整形された)X線ビームB2の厚みを2等分する中心線Lに対する検出器301及び平行コリメータ303の位置及び角度を説明するための図である。また、図9(a)は平行コリメータ303を散乱線の入射側から見た図であり、図9(b)は、平行コリメータ303が設けられた検出器301の斜視図である。
【0035】
このように二段階に絞られたX線は患者の身体に照射されるが、体表面→患部→反対側の体表面という経路を通過していく。放射線治療の場合MeVエネルギーのX線を照射することになるので、散乱線の半分以上が“コンプトン散乱”に起因すると考えられる。このコンプトン散乱に起因する成分のエネルギーと散乱角θとの間には、既述の式(1)の関係が成立することが知られている。そこで実測する散乱線のエネルギー範囲がほぼ同じになるように(すなわち、散乱角θがほぼ一定と見なせる散乱線だけを検出できるように)、図8のような位置に、図9(a)、図9(b)に示すような平行コリメータ303(平行グリッド)を付けた検出器301を配置する。
【0036】
X線ビームB2の厚みを2等分する中心線Lと、平行コリメータの視線方向を示す直線Mのなす角α(=180-θ)[deg]が、常に一定値α0になる位置関係を保ったまま、散乱線を計測するものとする。このとき治療用X線の照射の焦点をF、アイソセンターを点Oとおく。焦点Fと点Oを通る直線L0と直線Lのなす角をφ[deg]とするとき、α=α0(一定)という条件を常に満たしつつ、φを変化させて散乱線データを収集する。以上の動作により、治療用放射線が照射される部位全体の散乱線画像をボリューム・データ(=3次元データ)として収集することができる。
【0037】
<移動機構部305>
図10は、検出器301及び平行コリメータ303を移動させるための移動機構部305の一例を示した図である。同図に示すように、本移動機構部305は、放射線照射部203の照射ヘッドの前方に、検出器301及び平行コリメータ303を、焦点Fを中心とする同心円上に移動可能とするためのレールに沿って動かすためのものである。このとき、直線Lと平行コリメータの視線Mのなす角αが常にα0(一定)という関係を保ったまま(すなわち、照射部203の重心位置と検出器301の重心位置との相対的位置関係を保持したまま)薄い平面状に整形されたX線ビームB2の厚みの二等分線Lと直線L0とのなす角φを変化させて、被検体の散乱線画像を収集する。
【0038】
図11は、図10に示した移動機構部305を用いた検出器301及び平行コリメータ303の移動によって取得される散乱線データと走査空間の座標との関係式を求めるための図である。図11に示すように、平行コリメータ303付き検出器301の水平方向の座標をx’、垂直方向の座標をY’、焦点Fからこの検出器301の中心点O’までの距離をd0、照射の焦点FとアイソセンターOとの距離をfとする。アイソセンターOを原点とする直交座標系をO-XYZとし、その座標系における任意の点QのX座標をx、 Y座標をy、Z座標をzとする。その他の記号の取り方は、これまで説明してきたものに従うものとする。簡単な幾何学的計算から、検出器301で撮像した散乱線画像における任意の画素Sの座標系O’-X’Y’における座標を(x’,y’)、これに対応する被検体の点Qの座標系O-XYZにおける座標を(x,y,z)とおいたとき、それらの対応関係は、次の式(2−1)、(2−2)、(2−3)のように導かれる。
【0039】
【数2】
【0040】
これらの式は、検出器301の任意の画素と放射線治療装置の治療空間との間に一対一のマッピングが可能であり、且つ被検体の3次元情報を取得できることを意味している。また画素値(輝度)は散乱線の光子数に比例するので、前述の全減弱係数3次元分布データに基づく補正を行えば、治療中の実測データから吸収線量3次元分布も求めることができる。
【0041】
図12は、検出器301及び平行コリメータ303を移動させるための移動機構部305の他の例を示した図である。同図に示すように、本移動機構部305は、平行コリメータ303付き検出器301の中心点O’(あるいは、重心位置)は照射ヘッドに対して固定されているものとし、X線ビームB2の中心線Lと、平行コリメータ303の視線方向を示す直線Mのなす角α(=180-θ)[deg]が、常に一定値α0であるという角度関係を保ったまま散乱線を測定できるように、中心線Lの走査角φと同期して検出器301の視線方向を重心位置の周りに変えながら撮像する。即ち、検出器301の検出面(及び平行コリメータ303の開口面)を回転させるというものである。
【0042】
図13は、図12に示した移動機構部305を用いた検出器301及び平行コリメータ303の移動によって取得される散乱線データと走査空間の座標との関係式を求めるための図である。図13に示すように、O-XYZ座標系での中心点O’の座標を(0,y1,z1)、X線画像検出器上の任意の点SのO’-X’Y’座標系での座標を(x’,y’)とおく。その他の記号の取り方はこれまでのものを踏襲するものとする。簡単な幾何学の計算から、X線画像検出器で撮像した散乱線画像における任意の画素Sの座標を (x’,y’)とし、これに対応する被検体の点Qの座標を(x,y,z)で表すと、その対応関係は、次の式(3−1)、(3−2)、(3−3)のように求められる。
【0043】
【数3】
【0044】
これらの関係は、図10、図11に示した例よりも多少複雑になるものの、これも一対一の対応が可能であることから、3次元情報を取得できることを示している。また画素値(=輝度)は散乱線の光子数に比例するので、前述の全減弱係数3次元分布データに基づく補正を行えば、治療中の実測データから吸収線量3次元分布を求めることができる。
【0045】
なお、上述した移動機構部305の各例では、ジョー203gの開閉移動方向が放射線治療装置のガントリ回転軸方向(図11、図13の座標の取り方に従えば、X軸に平行な方向)と平行な場合だけを示してきたが、これと直交する方向(図11、図13の座標の取り方に従えば、Y軸に平行な方向)となっていても、全く同様に散乱線画像を取得したり、吸収線量3次元分布を求めたりすることができる。
【0046】
[データ取得制御部]
データ取得制御部4は、放射線治療時における散乱線計測に関する総合的な制御を行う。例えば、データ取得制御部4は、放射線照射システム2のタイミング制御部205からの信号を得て、放射線検出システム3に対して散乱線計測開始トリガーや検出データの伝送トリガーを送信する等、放射線照射、散乱線計測、データ処理、画像表示、ネットワーク通信等について、本放射線治療情報提供システム1を静的又は動的に制御する。また、例えばデータ取得制御部4は、必要に応じて、ネットワークを介して放射線治療計画装置から受け取った治療計画に基づいて、各照射の照射時間に合わせてスキャン時間を最適化したり、放射線照射システム2の放射線照射タイミングに合わせて、X線ビームB2のビーム軸と検出器301及びコリメータ305の向き(すなわち、X線ビームB2のビーム軸と検出器301の法線とのなす角)が一定になるように、移動機構部305の制御を行ったりする。
【0047】
[データ処理システム]
データ処理システム5は、補正処理部501、再構成処理部503、変換処理部505、画像処理部507を有している。
【0048】
補正処理部501は、必要に応じてデータのキャリブレーション処理、ノイズを除去するための補正処理、治療用放射線や散乱線が被検体内を伝播することに起因する信号減弱に関する補正(減弱補正)処理等を行う。当該補正処理501が実行する減弱補正処理の内容については、後で詳しく説明する。
【0049】
再構成処理部503は、放射線検出システム3において検出された散乱線画像データを用いて画像再構成処理を実行し、散乱イベント回数(散乱発生回数)の密度の3次元的分布を示す散乱線ボリュームデータを取得する。再構成法式としては、前述の(2−1)、(2−2)、(2−3)、(3−1)、(3−2)、(3−3)で表される関係式を利用した再構成手法を用いる。
【0050】
変換処理部505は、画像再構成処理によって得られた3次元画像データを、吸収された放射線量(吸収線量)の3次元分布を示す吸収線量ボリュームデータに変換する。
【0051】
画像処理部507は、吸収線量ボリュームデータ等を用いて、被検体の所定部位に関する吸収された放射線量(吸収線量)の分布を示す吸収線量画像データを生成する。また、吸収線量画像をフュージョン(Fusion)して表示する場合には、画像処理部507は、吸収線量ボリュームデータ等を用いて画像合成処理を行う。
【0052】
<減弱補正>
図14は、減弱補正の概念を説明するための図である。
【0053】
減弱補正は、被検体と散乱線検出システム3との相対的位置関係に基づいて実行される。いま薄い平面状に整形されたX線ビームB2が、患者の身体に侵入してから脱出するまでの過程を考える。図14に示すように、平行コリメータ303付き検出器301の各画素で検出される散乱線は、その画素を通り且つ平行コリメータの視線方向Mと平行な直線Nと、“薄い平面状に整形されたX線ビーム”の厚みを二等分する平面Πとの交点Pから放射されたものであると特定できるので、「斜視方向からの画像収集」と「生体組織による減衰効果」を考慮した輝度値の補正を行えば、“生体内の任意の位置での散乱線”を実測できたことになる。散乱線は、その発生した点Qでの原子との相互作用があったことを意味しており、散乱と同時にエネルギーの吸収が生じていることも意味している。この散乱線は、その点Qでの吸収線量D[Gy](=D[J/kg])に比例していると考えてよいことから、点Qから体表面の脱出点R(これら点は前出の直線N上にある)までの経路に沿った全減弱係数の積分値を予め求めておいた“全減弱係数3次元分布データ”から計算し、これを使った補正処理(=点Qから点Rの経路に沿った全減衰量の逆数をその画素値にかけるという演算)で求めることができる。なお、全減弱係数による減衰は指数関数で表されるので簡単に求めることができる。
【0054】
生体内部構造を可視化するには上記の補正だけでは不十分で、“薄い平面状に整形されたX線ビーム”の侵入点Pから点Qにいたる経路に沿った全減弱係数も併せて補正する処理(=点Pから点Qの経路に沿った全減衰量の逆数、及び点Qから点Rの経路に沿った全減衰量の逆数をその画素値にかける演算)を付すことにより求めることができる。
【0055】
これ以外に“全減弱係数3次元分布データ”を使わない生体内部構造の簡便な可視化方法として次のような方法が考えられる。先ず、照射X線強度(即ち、被検体に照射される直前で減弱が生じていない段階でのX線強度)をモニターする手段として、例えば図5に示すイコライザ203fとジョー203gとの間に、“線量モニター”(例えば半導体放射線検出器、またはシンチレータ付き耐放射線性を有するカメラなど)を設け、照射X線強度I0をリアルタイムに検出・記録する。この信号は減弱を受ける前のX線の光子数N0に比例する。比例定数をγ0とおけば、次の式(4)の様に表すことができる。
【0056】
【数4】
【0057】
本システム1では、図14に示すように、薄い平面状に整形されたX線ビームは侵入点Pから被検体に入り、主要な散乱が生じた点Qで散乱され、脱出点Rから“平行コリメータをつけたX線画像検出器”に向かって放射するという現象が生じている。いま「点Qから点Rに至る減弱がほぼ無視できる」と仮定し、更に「点Qからの散乱線の強度は、減弱を受けながら点Qまで到達したX線強度にも比例する」こと、及び「散乱線は、減弱によって失われていくエネルギーに比例する」ことを考え合わせると、図15のようなモデルが考えられる。X線画像検出器のi番目の画素で検出された信号値をSiとする。また画素番号は、侵入点Pから散乱点Qに向かって、1から順番に付けるものとする。すると、比例定数を用いて、次の式(5)の様に表すことができる。
【0058】
【数5】
【0059】
生体内部構造を可視化するためには、“散乱の強弱”(=X線強度に対する散乱線強度の比)に比例する画素値を持つ画像の方が、より解剖学的構造に対応すると考えられるので、これを表示できるように下記のような補正を行う。即ち、i番目の画素に対応する画像輝度値Pjを次に示す式(6)のように計算して求める。これにより“全減弱係数3次元データ”等が入手できない場合でも、簡便に生体内部構造をより分かりやすく可視化することが可能になる。
【0060】
【数6】
【0061】
[表示部、記憶部、操作部、ネットワークI/F]
表示部6は、吸収線量画像データを用いて吸収線量画像を所定の形態で表示する。例えば、表示部6は、必要に応じて、吸収線量画像を計画画像や照射直前、照射中に得た画像とフュージョンして表示を行う。
【0062】
記憶部7は、照射する放射線ビームの軸と検出器301の検出面との角度を一定に保ちながら散乱線データを取得(スキャン)するための所定のスキャンシーケンス、補正処理、画像再構成処理、変換処理、表示処理等を実行するための制御プログラムや、治療計画を当該システムで表示、編集するための専用プログラム、当該放射線治療情報提供システム1によって取得された散乱線ボリュームデータ、吸収線量ボリュームデータ、吸収線量画像データ、X線コンピュータ断層撮影装置等の他のモダリティによって取得された画像データ等を記憶する。当該記憶部7に記憶されているデータは、ネットワークI/F90を経由して外部装置へ転送することも可能となっている。
【0063】
操作部8は、オペレータからの各種指示、条件、関心領域(ROI)の設定指示、種々の画質条件設定指示等を装置本体11にとりこむための各種スイッチ、ボタン、トラックボール13s、マウス13c、キーボード13d等を有している。
【0064】
ネットワークI/F9は、当該放射線治療情報提供システム1によって得られた吸収線量画像データ等をネットワーク経由で他の装置に転送し、また、例えば放射線治療計画装置において作成された治療計画等をネットワーク経由で取得する。
【0065】
(動作)
次に、本放射線治療情報提供システム1の放射線治療時における動作について説明する。
【0066】
図16は、本放射線治療情報提供システム1の動作を含む放射線治療時における処理の流れを示したフローチャートである。以下、各ステップの処理内容について説明する。
【0067】
[被検体の配置等:ステップS1]
まず、データ取得制御部4は、例えばネットワークを介して当該被検体に関する治療計画情報を取得し、表示部6に表示する。術者は、表示された治療計画に従って寝台上に被検体を配置すると共に、操作部8を介して、放射線照射時間の設定、散乱線計測を行う散乱角の設定、スキャンシーケンスの選択等を行う(ステップS1)。なお、放射線照射時間の設定等については、取得した治療計画情報に基づいて、自動的に行うようにしてもよい。
【0068】
[放射線照射(散乱線データの取得):ステップS2]
次に、放射線照射システム2は、被検体に対して薄い平面状に整形されたX線ビームB2を所定のタイミングで照射し、放射線検出システム2は、当該照射放射線に基づいて被検体外に出てくる所定の散乱角の散乱線を検出する。また、データ取得制御部4は、照射部203から照射される治療用のX線ビームB2の軸と検出器301の視線方向とのなす角を維持しながらX線ビームB2による励起断面を移動させ、当該被検体内の3次元領域を走査(スキャン)するように、ガントリ制御部207或いは移動機構部305を制御する(ステップS2)。この治療用のX線ビームB2を用いた3次元領域のスキャンにより、X線ビームB2の平面に対応する複数の二次元散乱線データからなる3次元散乱線データが取得される。
【0069】
[前処理(補正処理等):ステップS3]
次に、データ処理システム5の補正処理部501は、減弱補正を含む前処理を実行し、投影データを取得する(ステップS3)。なお、減弱補正の内容は、既述の通りである。
【0070】
[画像再構成処理:ステップS4]
次に、データ処理システム5の画像再構成処理部503は、取得された投影データを用いて画像再構成処理を実行し、散乱線ボリュームデータを取得する(ステップS4)。
【0071】
[変換処理:ステップS5]
次に、データ処理システム5の変換処理部507は、ボクセル(voxel)ごとに算出された単位体積あたりの散乱回数nを、吸収線量に換算することで、散乱線ボリュームデータを吸収された放射線量(吸収線量)の3次元分布を示す吸収線量ボリュームデータに変換する(ステップS5)。ここで、吸収線量とは、単位質量当たりの吸収エネルギーであり、[Gy]=[J/kg]で表される。また、再構成処理で算出された散乱回数nとは、所定の散乱角θd 方向に散乱線(光子)が飛んだ散乱の回数である。
【0072】
すなわち、散乱線が、電子に与えたエネルギー(組織に吸収されたエネルギー)Te,θdは、次式(7)のように表せる。
【0073】
【数7】
【0074】
ここで、hνは、治療X線ビームのエネルギー[eV]を意味しており、治療計画時に設定されている。
【0075】
ゆえに、θd 方向に飛んだ散乱線から見積もった、組織の吸収エネルギーは、n×Te,θd [eV]で表される。しかし、実際には、θd 以外の方向への散乱も起こっているため、それらも考慮する必要がある。ある方向θへの散乱線の数は、式(8a)の様に表すことができ、これらの散乱線から、組織が受け取るエネルギーは、式(8b)のように表される。
【0076】
【数8】
【0077】
ここで、微分散乱断面積をdσ/dΩ を単に、σ(θ)と表した。Ωは立体角を意味する。これを用いると、ボクセル内の吸収エネルギーEa[eV]は、次式(9)で表すことができる。
【0078】
【数9】
【0079】
さらに、ボクセルの体積をVとして、組織が殆ど水(密度1g/cm3)で構成されていると仮定すると、ボクセルの吸収線量D[Gy]は、次の式(10)の様に表すことができる。
【0080】
【数10】
【0081】
この計算を全てのボクセルに対して行うことで、吸収線量分布が得られる。
【0082】
[吸収線量画像データの生成/画像データの表示:ステップS6、S7]
次に、画像処理部507は、吸収線量ボリュームデータ等を用いて、被検体の所定部位に関する吸収された放射線量(吸収線量)の分布を示す吸収線量画像データを生成し、例えばフュージョン表示するためにCT画像と合成する(ステップS6)。表示部6は、所定の形態にて吸収線量画像を表示する(ステップS7)。
【0083】
図17は、吸収線量画像の表示の一形態(心臓を含む肺野横断面におけるフュージョン表示)を示した図である。治療中、或いは治療前後の任意のタイミングにおいて、同図に示すような吸収線量画像を表示することができる。術者は、表示された画像を観察することで、実際に患者のどの部位に、どれだけの線量が照射されたかを、視覚的且つ定量的に把握することができる。
【0084】
(効果)
以上述べた構成によれば、以下の効果を得ることができる。
【0085】
本放射線治療情報提供システム1では、治療X線ビームに対して所定の角度(散乱角)をなす位置にコリメータを備えた検出器を設置し、その方向に来た散乱線のみを選択的に検出し、この検出を照射部203から照射される治療用X線ビームの軸と検出器301の検出面とのなす角を維持しつつ治療用X線ビームと検出面とを移動させながら実行することで、被検体内の3次元領域をスキャンする。得られた所定の散乱角に関する3次元散乱線データを用いて、散乱線ボリュームデータを再構成すると共に、当該散乱線ボリュームデータを吸収された放射線量の3次元分布を示す吸収線量ボリュームデータに変換し、吸収線量画像を生成する。生成された吸収線量画像は、例えば形態画像等(CT画像等)と合成されて表示される。表示される吸収線画像は、実測によって得られた客観的なデータである多方向の散乱線データに基づいて生成されたものである。従って、術者は、この吸収線量画像を観察することで、現実に放射線が照射された位置及び量を、視覚的且つ定量的に把握することができる。これにより、計画通りに放射線治療が行われているか否かを客観的な基準を用いて判定することができ、放射線の治療部位やその周辺領域に対する過剰照射や過少照射を防ぐことができる。その結果、放射線治療の効果を向上、被検体への余分な被曝量の低減を実現することができ、放射線治療の質の向上に寄与することができる。
【0086】
また、本放射線治療情報提供システム1によれば、吸収線量画像を、治療中にリアルタイムに観察することができる。また、予め取得された散乱線ボリュームデータや吸収線量ボリュームデータを用いて再構成処理や所定の画像処理を行うことで、吸収線量画像を任意のタイミングで観察することができる。従って、治療中であれば、現在照射されている放射線の位置や強度をリアルタイムに迅速且つ簡単に視覚的に確認することができ、また、例えば治療経過途中段階であれば、今までの治療において放射線が照射された位置や累積放射線量を迅速且つ簡単に視覚的に確認することができる。すなわち、術者は、所望の状況で吸収線量画像を観察することで、現在の治療や今までの治療の妥当性を客観的基準に基づいて判定することができる。
【0087】
また、本放射線治療情報提供システム1によれば、被検体と散乱線検出システム3との相対的位置関係に基づいて、放射線治療用X線の散乱地点からX線画像検出器に向かう被検体の脱出地点に至るまでの経路において減弱補正をするとか、放射線治療用X線の被検体への侵入地点から散乱地点を経由して検出器に向かって被検体を出る脱出地点に至るまでの全経路において照射X線や散乱線に関する減弱補正といった計算を実行する。これによって、被検体内部を伝播することによるエネルギー減弱の影響を補正することができ、信頼性の高い散乱線ボリュームデータ、吸収線量ボリュームデータ等を取得することができる。
【0088】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。具体的な変形例としては、例えば次のようなものがある。
【0089】
例えば、本実施形態に係る制御機能、信号処理機能、表示機能等は、当該処理を実行するプログラムをワークステーション等のコンピュータにインストールし、これらをメモリ上で展開することによっても実現することができる。このとき、コンピュータに当該手法を実行させることのできるプログラムは、磁気ディスク(フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスクなど)、光ディスク(CD−ROM、DVDなど)、半導体メモリなどの記録媒体に格納して頒布することも可能である。
【0090】
また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0091】
以上本発明によれば、放射線治療中にリアルタイムに散乱線データを取得し、これを利用することで、照射線量を実測・表示することができる放射線治療情報提供システム及び放射線治療情報提供プログラムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】図1は、生体組織における、光子(即ちX線)エネルギー[MeV]に対する質量吸収係数[cm2/g]を表すグラフを示している。
【図2】図2は、水の場合における、光子(=X線)エネルギー[MeV]に対する質量吸収係数[cm2/g]を表すグラフである。
【図3】図3は、コンプトン散乱の原理を表す模式図である。
【図4】図4は、本実施形態に係る放射線治療情報提供システム1のブロック構成図を示している。
【図5】図5は、本放射線治療情報提供システム1の散乱線の測定形態を示した図である。
【図6】図6は、照射部203が有する、照射する放射線を薄い平面形状に整形するための機構を説明するための側面図である。
【図7】図7は、照射部203が有する、照射する放射線を薄い平面形状に整形するための機構を説明するための斜視図である。
【図8】図8は、被検体に照射される(薄い平面状に整形された)X線ビームB2の厚みを2等分する中心線Lに対する検出器301、平行コリメータ303の位置及び角度を説明するための図である。
【図9】図9(a)は平行コリメータ303を散乱線の入射側から見た図である。図9(b)は、平行コリメータ303が設けられた検出器301の斜視図である。
【図10】図10は、検出器301及び平行コリメータ303を移動させるための移動機構部305の一例を示した図である。
【図11】図11は、図10に示した移動機構部305を用いた検出器301及び平行コリメータ303の移動によって取得される散乱線データと走査空間の座標との関係式を求めるための図である。
【図12】図12は、検出器301及び平行コリメータ303を移動させるための移動機構部305の別の例を示した図である。
【図13】図13は、図12に示した移動機構部305を用いた検出器301及び平行コリメータ303の回転によって取得される散乱線データと走査空間の座標との関係式を求めるための図である。
【図14】図14は、減弱補正の概念を説明するための図である。
【図15】図15は、別の簡易減弱補正の概念を説明するための図である。
【図16】図16は、本放射線治療情報提供システム1の動作を含む放射線治療時における処理の流れを示したフローチャートである。
【図17】図17は、吸収線量画像の表示の一形態(心臓を含む肺野横断面におけるフュージョン表示)を示した図である。
【符号の説明】
【0093】
1…放射線治療情報提供システム、2…放射線照射システム、3…放射線検出システム、4…データ取得制御部、5…データ処理システム、6…表示部、7…記憶部、8…操作部、9…ネットワークI/F、201…電力供給部、203…照射部、205…タイミング制御部、207…ガントリ制御部、301…検出器、303…平行コリメータ、305…移動機構部、307…位置検出部、501…補正処理部、503…再構成処理部、505…変換処理部、507…画像処理部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に対して平面状の治療用放射線ビームを照射する照射手段と、
前記治療用放射線ビームに起因して発生する前記被検体の散乱線を所定の散乱角方向から検出して散乱線データを収集する検出手段と、
前記治療用放射線ビームの照射方向に対する前記検出手段の検出面のなす角度を一定に保ちながら、前記治療用放射線ビームの軸の位置及び前記検出手段の検出面の位置を移動させることによりで前記被検体を3次元走査し、3次元散乱線データを取得するデータ取得制御手段と、
前記3次元散乱線データに基づいて、前記被検体内における散乱線発生密度の3次元的分布を示す散乱線ボリュームデータを再構成する画像再構成手段と、
前記散乱線ボリュームデータに基づいて、前記被検体内における吸収線量画像又は散乱線発生密度画像を生成する画像生成手段と、
前記吸収線量画像又は散乱線発生密度画像を表示する表示手段と、
を具備することを特徴とする放射線治療情報提供システム。
【請求項2】
前記照射手段と前記検出手段との相対位置関係を固定しながら前記照射手段及び前記検出手段の空間的位置を移動させる移動機構をさらに具備し、
前記データ取得制御手段は、前記移動機構を制御することで、前記3次元走査を実行すること、
を特徴とする請求項1記載の放射線治療情報提供システム。
【請求項3】
前記検出手段の検出面の空間的位置を移動させる移動機構をさらに具備し、
前記データ取得制御手段は、前記治療用放射線ビームの軸の位置の移動に連動して前記検出手段の検出面の位置が移動するように前記移動機構を制御することで、前記3次元走査を実行すること、
を特徴とする請求項1記載の放射線治療情報提供システム。
【請求項4】
予め取得されたX線減弱係数の3次元分布と、前記被検体と前記検出手段との相対的位置関係とに基づいて、前記散乱線の発生位置から前記検出手段に向かって前記被検体を出る位置に至るまでの経路に沿ってX線減弱係数を積分することで、補正係数を取得し、当該補正係数を用いて、前記3次元散乱線データに関する減弱補正を行う補正手段をさらに具備し、
前記画像再構成手段は、前記補正後の3次元散乱線データに基づいて、前記被検体内における散乱線発生密度の3次元的分布を示す散乱線ボリュームデータを再構成すること、
を特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一項記載の放射線治療情報提供システム。
【請求項5】
予め取得されたX線減弱係数の3次元分布と、前記被検体と前記検出手段との相対的位置関係とに基づいて、前記治療用放射線ビームの前記被検体内への侵入位置から散乱線発生位置を経由して前記検出手段に向かって前記被検体を出る位置に至るまでの経路に沿ってX線減弱係数を積分することで、補正係数を取得し、当該補正係数を用いて、前記3次元散乱線データに関する減弱補正を行う補正手段をさらに具備し、
前記画像再構成手段は、前記補正後の3次元散乱線データに基づいて、前記被検体内における散乱線発生密度の3次元的分布を示す散乱線ボリュームデータを再構成すること、
を特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一項記載の放射線治療情報提供システム。
【請求項6】
前記平面状の治療用放射線ビームの強度情報と前記3次元散乱線データとに基づいて、前記治療用放射線ビームの前記被検体内への侵入位置から散乱線発生位置に至るまでの経路で生じるX線減弱を補正するための補正係数を推定し、当該補正係数を用いて、前記3次元散乱線データに関する減弱補正を行う補正手段をさらに具備し、
前記画像再構成手段は、前記補正後の3次元散乱線データに基づいて、前記被検体内における散乱線発生密度の3次元的分布を示す散乱線ボリュームデータを再構成すること、
を特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一項記載の放射線治療情報提供システム。
【請求項7】
前記表示手段は、前記散乱発生に関する画像を、形態画像と合成して表示することを特徴とする請求項1乃至6のうちいずれか一項記載の放射線治療情報提供システム。
【請求項8】
コンピュータに、
被検体に対して照射される平面状の治療用放射線ビームに起因して発生する前記被検体の散乱線を所定の散乱角方向から検出して散乱線データを収集させる検出機能と、
前記治療用放射線ビームの照射方向に対する前記検出手段の検出面のなす角度を一定に保ちながら、前記治療用放射線ビームの軸の位置及び前記検出手段の検出面の位置を移動させることによりで前記被検体を3次元走査させ、3次元散乱線データを取得させるデータ取得制御機能と、
前記3次元散乱線データに基づいて、前記被検体内における散乱線発生密度の3次元的分布を示す散乱線ボリュームデータを再構成させる画像再構成機能と、
前記散乱線ボリュームデータに基づいて、前記被検体内における吸収線量画像又は散乱線発生密度画像を生成させる画像生成機能と、
前記吸収線量画像又は散乱線発生密度画像を表示させる表示機能と、
を具備することを特徴とする放射線治療情報提供プログラム。
【請求項1】
被検体に対して平面状の治療用放射線ビームを照射する照射手段と、
前記治療用放射線ビームに起因して発生する前記被検体の散乱線を所定の散乱角方向から検出して散乱線データを収集する検出手段と、
前記治療用放射線ビームの照射方向に対する前記検出手段の検出面のなす角度を一定に保ちながら、前記治療用放射線ビームの軸の位置及び前記検出手段の検出面の位置を移動させることによりで前記被検体を3次元走査し、3次元散乱線データを取得するデータ取得制御手段と、
前記3次元散乱線データに基づいて、前記被検体内における散乱線発生密度の3次元的分布を示す散乱線ボリュームデータを再構成する画像再構成手段と、
前記散乱線ボリュームデータに基づいて、前記被検体内における吸収線量画像又は散乱線発生密度画像を生成する画像生成手段と、
前記吸収線量画像又は散乱線発生密度画像を表示する表示手段と、
を具備することを特徴とする放射線治療情報提供システム。
【請求項2】
前記照射手段と前記検出手段との相対位置関係を固定しながら前記照射手段及び前記検出手段の空間的位置を移動させる移動機構をさらに具備し、
前記データ取得制御手段は、前記移動機構を制御することで、前記3次元走査を実行すること、
を特徴とする請求項1記載の放射線治療情報提供システム。
【請求項3】
前記検出手段の検出面の空間的位置を移動させる移動機構をさらに具備し、
前記データ取得制御手段は、前記治療用放射線ビームの軸の位置の移動に連動して前記検出手段の検出面の位置が移動するように前記移動機構を制御することで、前記3次元走査を実行すること、
を特徴とする請求項1記載の放射線治療情報提供システム。
【請求項4】
予め取得されたX線減弱係数の3次元分布と、前記被検体と前記検出手段との相対的位置関係とに基づいて、前記散乱線の発生位置から前記検出手段に向かって前記被検体を出る位置に至るまでの経路に沿ってX線減弱係数を積分することで、補正係数を取得し、当該補正係数を用いて、前記3次元散乱線データに関する減弱補正を行う補正手段をさらに具備し、
前記画像再構成手段は、前記補正後の3次元散乱線データに基づいて、前記被検体内における散乱線発生密度の3次元的分布を示す散乱線ボリュームデータを再構成すること、
を特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一項記載の放射線治療情報提供システム。
【請求項5】
予め取得されたX線減弱係数の3次元分布と、前記被検体と前記検出手段との相対的位置関係とに基づいて、前記治療用放射線ビームの前記被検体内への侵入位置から散乱線発生位置を経由して前記検出手段に向かって前記被検体を出る位置に至るまでの経路に沿ってX線減弱係数を積分することで、補正係数を取得し、当該補正係数を用いて、前記3次元散乱線データに関する減弱補正を行う補正手段をさらに具備し、
前記画像再構成手段は、前記補正後の3次元散乱線データに基づいて、前記被検体内における散乱線発生密度の3次元的分布を示す散乱線ボリュームデータを再構成すること、
を特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一項記載の放射線治療情報提供システム。
【請求項6】
前記平面状の治療用放射線ビームの強度情報と前記3次元散乱線データとに基づいて、前記治療用放射線ビームの前記被検体内への侵入位置から散乱線発生位置に至るまでの経路で生じるX線減弱を補正するための補正係数を推定し、当該補正係数を用いて、前記3次元散乱線データに関する減弱補正を行う補正手段をさらに具備し、
前記画像再構成手段は、前記補正後の3次元散乱線データに基づいて、前記被検体内における散乱線発生密度の3次元的分布を示す散乱線ボリュームデータを再構成すること、
を特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一項記載の放射線治療情報提供システム。
【請求項7】
前記表示手段は、前記散乱発生に関する画像を、形態画像と合成して表示することを特徴とする請求項1乃至6のうちいずれか一項記載の放射線治療情報提供システム。
【請求項8】
コンピュータに、
被検体に対して照射される平面状の治療用放射線ビームに起因して発生する前記被検体の散乱線を所定の散乱角方向から検出して散乱線データを収集させる検出機能と、
前記治療用放射線ビームの照射方向に対する前記検出手段の検出面のなす角度を一定に保ちながら、前記治療用放射線ビームの軸の位置及び前記検出手段の検出面の位置を移動させることによりで前記被検体を3次元走査させ、3次元散乱線データを取得させるデータ取得制御機能と、
前記3次元散乱線データに基づいて、前記被検体内における散乱線発生密度の3次元的分布を示す散乱線ボリュームデータを再構成させる画像再構成機能と、
前記散乱線ボリュームデータに基づいて、前記被検体内における吸収線量画像又は散乱線発生密度画像を生成させる画像生成機能と、
前記吸収線量画像又は散乱線発生密度画像を表示させる表示機能と、
を具備することを特徴とする放射線治療情報提供プログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2009−148495(P2009−148495A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−331109(P2007−331109)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】
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