説明

放射線治療装置

【課題】線量分布測定が容易で、かつ、線量分布の測定の際に照射野形成装置の取付け精度に歪みが生じるおそれのない放射線治療装置を提供する。
【解決手段】放射線治療を行う治療室71と、治療室71の壁面又は天井面に固定された放射線を照射する照射野形成装置13とを備えた放射線治療装置において、上記照射野形成装置13から照射される放射線の線量を測定する線量分布測定装置21と、その線量分布測定装置21を、上記治療室71内の照射野形成装置13と対向する位置に出没自在に移動案内する移動機構22とを備えたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線治療装置に係り、特に、水ファントム型の線量分布測定装置を備えた放射線治療装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
癌などの疾病の治療法として最も一般的な、外科手術による切開・除去の他に、体内の癌細胞などに陽子線を含む放射線をピンポイントで照射して治療する放射線治療法がある。この放射線治療法は、外科手術を伴わないため、体力が低下した患者などにも適用可能であると共に、入院期間の短縮を図ることが可能であり、生活の質の向上を目指した治療法として導入されつつある。
【0003】
この放射線治療装置、例えば陽子線治療装置は、図1に示すように、陽子を加速器(図示せず)で高エネルギまで加速してなる陽子線を、照射野形成装置13からベッド(台)11上の放射線治療者15に照射するものである。陽子線治療装置としては、照射野形成装置13をベッド11の周りに公転可能に支持する回転ガントリ12を備えた回転ガントリ型のもの(特許文献1等参照)や、照射野形成装置13を側壁又は天井に固定した固定型のものが挙げられる。
【0004】
ここで、陽子線は、放射線治療者15の癌細胞などの形状・存在位置に応じて、所望の3次元形状に、かつ、所望の線量分布に調整された状態で照射する必要があるため、照射野形成装置13による照射野の形成精度が問題となってくる。よって、照射野の形成精度が良好であるかどうかを検査すべく、線量分布の測定を行う必要がある。この線量分布の測定には、人体による吸収を模した水が充填された密閉水槽内に、センサを配置してなる水ファントム型線量分布測定装置(以下、水ファントムと表す)が一般的に用いられており、特許文献1記載の線量分布測定装置においては、照射野形成装置13に対して水ファントムを直接取付けることで、照射野形成装置13の回転に応じて水ファントムを一体的に回転させ、線量分布の測定を行っている。
【0005】
【特許文献1】特開平11−64530号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、水ファントム、例えば、1辺が40cmの立方体である水ファントムは、重量が70kg以上にもなる重量物である。線量分布の測定は定期的に(例えば、1日に1回又は2回)行われることから、線量分布の測定の度に水ファントムを取付け、測定後は撤去するという作業は大変な重労働であり、また、これらの作業を行うには長時間を要するという問題があった。
【0007】
また、前述したように、水ファントムは重量物であることから、固定型及び回転ガントリ型の陽子線治療装置の各照射野形成装置13に水ファントムを直接取付けると、各照射野形成装置13に大きな負荷がかかってしまうため、照射野の形成精度が重要である照射野形成装置13の取付け精度に、歪みが生じるおそれがあった。特に、任意の角度に陽子線を照射する回転ガントリ型の陽子線治療装置において、照射野形成装置13を任意の角度に傾けた状態で線量分布の測定を精度良く行うことは困難であった。
【0008】
以上の事情を考慮して創案された本発明の目的は、線量分布測定が容易で、かつ、線量分布の測定の際に照射野形成装置の取付け精度に歪みが生じるおそれのない放射線治療装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成すべく本発明に係る放射線治療装置は、放射線治療を行う治療室と、治療室の壁面又は天井面に固定された放射線を照射する照射野形成装置とを備えた放射線治療装置において、上記照射野形成装置から照射される放射線の線量を測定する線量分布測定装置と、その線量分布測定装置を、上記治療室内の照射野形成装置と対向する位置に出没自在に移動案内する移動機構とを備えたものである。
【0010】
具体的には、上記線量分布測定装置が、垂直方向又は水平方向に移動自在な移動機構の先端部に設けられ、照射野形成装置から照射された放射線の、水中での線量分布を測定する水ファントム部と、その水ファントム部を照射野形成装置に対して近接・離間させる駆動機構とを備えていることが好ましい。
【0011】
また、上記水ファントム部が、水が充満された密閉水槽と、その密閉水槽内に配置される放射線検知器と、その放射線検知器を、密閉水槽の高さ方向と垂直な面に走査させる走査手段および密閉水槽の高さ方向に移動させる移動手段とを備えていること、または、上記水ファントム部が、水が充満された密閉水槽と、その密閉水槽内に配置され、複数の放射線検知器からなる検知センサと、その検知センサを、密閉水槽の高さ方向と垂直な面で回転させる回転手段および密閉水槽の高さ方向に移動させる移動手段とを備えていることが好ましい。さらに、上記複数の放射線検知器を、十文字状又は一文字状に配列して検知センサを形成することが好ましい。
【0012】
これによって、従来、作業者による手作業で行っていた線量分布測定装置の設置・撤去が、線量分布測定装置の移動機構及び駆動機構の操作だけで可能となり、線量分布の測定が容易となる。また、線量分布の測定の際に、線量分布測定装置を照射野形成装置に直接取付けるのではなく、近接させるだけであるため、照射野形成装置の取付け精度に歪みが生じることがなくなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、次のような優れた効果を発揮する。
(1) 従来、作業者による手作業で行っていた線量分布測定装置の設置・撤去が、線量分布測定装置の移動機構及び駆動機構の操作だけで可能となり、線量分布の測定が容易となる。
(2) 線量分布の測定の際に、線量分布測定装置を照射野形成装置に直接取付けるのではなく、近接させるだけであるため、照射野形成装置の取付け精度に歪みが生じることがなくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好適一実施の形態を添付図面に基いて説明する。
【0015】
まず、本発明に関連する参考例を説明する。
(参考例)
参考例に係る放射線治療装置を用いて線量分布測定を行うための説明図を図2〜図4に、図2〜図4における水ファントム部の拡大斜視図を図5に、図5の水ファントム部における検知センサの変形例を図6に示す。尚、図1と同様の部材には同じ符号を付しており、これらの部材についての詳細な説明は省略する。
【0016】
図2〜図5に示すように、参考例に係る放射線治療装置は、略円筒状の回転ガントリ12と、回転ガントリ12の内部に形成された放射線治療を行う治療室40bと、回転ガントリ12の内面12aに支持された照射野形成装置13とを備え、照射野形成装置13から照射される放射線の線量を測定する線量分布測定装置21と、その線量分布測定装置21を、治療室内の照射野形成装置13と対向する位置に出没自在に移動案内し、かつ、照射野形成装置13と連動して回転する移動機構22とを備えたものである。また、線量分布測定装置21及び移動機構22は、回転ガントリ12の回転軸C1と照射野形成装置13の中心軸C2とを含む同一平面上に設けられるものであり、移動機構22は回転軸C1の延長方向(図2〜図4中では左右方向)に移動自在である。
【0017】
回転ガントリ12は、一端(図2〜図4中では左端)だけが閉口した円筒部材30と、円筒部材30を仕切る隔壁34とで主に構成され、円筒部材30の内部に閉空間40a及び開空間(治療室)40bを有している。隔壁34は、リング状の部材32の両端面(図2〜図4中では左右端面)に円板状の隔壁部材31a,31bを固定して設けたものであり、その内部に空間33を有している。また、円筒部材30には駆動手段(図示せず)が接続されており、この駆動手段を駆動させることで回転ガントリ12が周方向に回動し、その結果、円筒部材30及び隔壁34が回動する。また、隔壁34に固定される線量分布測定装置21の水ファントム部23(後述)も回動する。
【0018】
台11には、台11自体を水平方向(図4中の矢印Bの方向)に回転させる回転機構45が連結されている。また、台11には、回転軸C1の延長方向への移動機構46と、回転軸C1の延長方向と垂直な方向(図2〜図4中では図面に垂直な方向)への移動機構47とが連結されている。これによって、台11上の放射線治療者15の、水平方向の位置及び向きを自在に調節することができる。
【0019】
線量分布測定装置21は、回転軸C1の延長方向(図2〜図4中では左右方向)に移動(伸縮)自在な移動機構22の先端部(図2〜図4中では右端部)に設けられ、照射野形成装置13から照射された陽子線の、水中での線量分布を測定する水ファントム部23と、その水ファントム部23を照射野形成装置13に対して近接・離間させる駆動機構24(図5参照)とを備えている。
【0020】
ここで、移動機構22は、固定側の第1フレーム部材22aと駆動側の第2フレーム部材22bとで主に構成され、フレーム部材22a,22bは線運動ガイド(LM(linear motion)ガイド)を介してスライド自在となっている。また、固定側の第1フレーム部材22aは、隔壁部材31aに固定して設けられる。さらに、フレーム部材22bに固定された係合部材42が、フレーム部材22aの内部に回転軸C1の延長方向に配置されたボールネジ43と係合しており、駆動モータ(例えば、ステッピングモータ)44によってボールネジ43を回転駆動させることで、係合部材42に固定されたフレーム部材22bが回転軸C1の延長方向に移動する。隔壁部材31aに対するフレーム部材22aの固定位置は、図2〜図4中では回転軸C1の下方であり、また、フレーム部材22a,22bの配列方向は、図2〜図4中では上下方向であるが、移動機構の水平方向(図2〜図4中では図面と垂直な方向)の中心軸が、回転軸C1と中心軸C2とを含む同一平面上又はその近傍に位置していれば、特に限定するものではない。
【0021】
駆動機構24は、水ファントム部23を載せる台部材25と、台部材25と係合して設けられ、照射野形成装置13に対して近接・離間させる取付け部材26とで構成され、この取付け部材内部に設けられた駆動装置(図示せず)によって、台部材25が上下方向に昇降自在となる。
【0022】
水ファントム部23は、水51が充満された密閉水槽52と、その密閉水槽52内に配置され、複数の放射線検知器53からなる検知センサ54と、その検知センサ54を、密閉水槽52の高さ方向(図5中では上下方向)と垂直な面で回転させる回転手段55および密閉水槽52の高さ方向に移動させる移動手段56とを備えている。水ファントム部23及び駆動機構24は、密閉水槽52の中心軸C3と回転軸C1とが直交するように、つまり、回転軸C1と中心軸C3とが同一平面上に位置するように、移動機構22(フレーム部材22b)の先端部に取付けられる。
【0023】
参考例においては、移動機構22を回転軸C1の延長方向に移動させる場合について説明を行ったが、密閉水槽52の中心軸C3と照射野形成装置13の中心軸C2とを一致させることが可能であれば(図3参照)、その移動方向は特に限定するものではない。
【0024】
次に、参考例の放射線治療装置の稼働方法を、添付図面を用いて説明する。
【0025】
放射線治療装置による治療に先立って、照射野形成装置13による照射野の形成精度が良好であるかどうかを検査すべく、線量分布の測定を行う。この測定は、例えば、装置を最初に稼働させる前、最後に稼働させた後、又は放射線治療を行う直前ごとに行う。
【0026】
先ず、図2に示すように、目的とする照射野が得られるように、駆動手段を駆動させて回転ガントリ12を回動させ、照射野形成装置13を任意のある一定の角度だけ傾かせる(図2では垂直方向)。この時、回転ガントリ12の回動によって線量分布測定装置21も連動して傾き、照射野形成装置13とは反対の方向にある一定の角度だけ傾く。つまり、照射野形成装置13を傾けて時計の針の1、2、3時の位置に位置させた場合、線量分布測定装置21は時計の針の7、8、9時の位置に位置するように傾く。
【0027】
次に、ステッピングモータ44を回転駆動させて、図3に示すように、閉空間40a内に位置する第2フレーム部材22bを開空間40b側に伸張させ、隔壁34の空間33内に位置する水ファントム部23を、照射野形成装置13と対向する位置まで突出させる。この時、照射野形成装置13の中心軸C2と、水ファントム部23における密閉水槽52の中心軸C3とが一致する位置まで、フレーム部材22bの伸張を行う。また、前述したように、回転軸C1及び中心軸C2,C3は全て同一平面上に位置していることから、中心軸C2,C3を一致させるためには、フレーム部材22bを回転軸C1の延長方向にスライドさせる一軸制御だけでよい。尚、フレーム部材22bの伸張及び水ファントム部23の突出を妨げないように、隔壁34における隔壁部材31a,31bの当該箇所に開口部(図示せず)が形成されている。
【0028】
次に、線量分布測定装置21の駆動機構24を作動させ、図3に示すように、水ファントム部23における検知センサ54の基準位置(例えば、密閉水槽52の高さ方向中央よりも下方の位置)と、回転ガントリ12の回転軸C1と照射野形成装置13の中心軸C2との交点であるアイソセンター(照射位置)Oとが一致するまで、水ファントム部23を照射野形成装置13に対して近接させる。この時、水ファントム部23は照射野形成装置13に直接取付けられておらず、水ファントム部23と照射野形成装置13とは離間している。
【0029】
次に、照射野形成装置13から陽子線を照射し、水ファントム部23における密閉水槽52内に、アイソセンターOを原点とした照射野を形成する。この照射野は、例えば、アイソセンターOを中心に形成されるものであり、その形状は癌細胞等の放射線治療部と同じ3次元形状を呈している。この照射野の形成に先立って、移動手段56を駆動させて、検知センサ54を照射野における最も照射野形成装置13側の位置に位置させておく。
【0030】
次に、回転手段55を駆動させて検知センサ54を回転させ、その回転面における照射野の線量分布を走査する。その後、移動手段56を駆動させて検知センサ54を1ピッチ分だけ台部材25側(図5中では下側)に下降させると共に、その位置で検知センサ54を再び回転させ、その回転面における照射野の線量分布を走査する。この操作を順次繰り返し、照射野全体の線量分布の測定を行う。この測定によって実際に得られた照射野(測定値)と目的とする照射野(入力値)とを比較することで、形成精度の誤差が得られる。この誤差が許容範囲内であれば放射線治療を行うことが可能であり、誤差が許容範囲外であれば調整・修理などが必要となる。
【0031】
線量分布測定後、線量分布測定装置21の駆動機構24を作動させ、水ファントム部23を照射野形成装置13から離間させて、中立位置に戻す。その後、ステッピングモータ44を伸張時とは逆の方向に回転駆動させて、図4に示すように、開空間40b側に伸張している第2フレーム部材22bを閉空間40a側に収縮させ、水ファントム部23を隔壁34の空間33内に収納する。
【0032】
次に、台11上に放射線治療者15を載せ、放射線治療者15の治療箇所がアイソセンターOに位置するように回転機構45及び移動機構46,47を駆動させ、位置の仮決めを行う。その後、デジタル式放射線透過装置(DR(digital radiograph)装置(図示せず))等を用いて放射線治療者15の治療箇所の位置を確認・決定する。
【0033】
その後、目的とする照射野が得られるように調整した照射野形成装置13から陽子線を照射して放射線治療を行う。
【0034】
参考例の放射線治療装置によれば、照射野の形成精度を検査するための線量分布測定の際、容易に線量分布測定装置21を設置することができる。具体的には、ステッピングモータ44を回転駆動させることで、移動機構22のフレーム部材22bがスライド移動して伸張すると共に、駆動機構24を作動させることで、水ファントム部23が照射野形成装置13に対向する位置に移動する。また、測定後は設置時と逆の操作を行うことで、容易に線量分布測定装置21を撤去することができる。よって、従来のように、線量分布測定の度に、重量物である水ファントムを搬送台車などを用いて回転ガントリ12の開空間40b内に運び込み、作業者による手作業で照射野形成装置13に取付ける必要はない。
【0035】
また、予め、回転軸C1及び中心軸C2,C3が全て同一平面上に位置するように設けていることから、フレーム部材22bを回転軸C1の延長方向にスライドさせる一軸制御だけで、中心軸C2,C3を一致させることができる。よって、線量分布測定の際、線量分布測定装置21の水ファントム部23を、所定位置に設置するための調整が容易であり、その結果、線量分布測定に伴う設置作業に要する時間の短縮化を図ることができる。
【0036】
さらに、水ファントム部23の設置は、照射野形成装置13に対向する位置に近接させるだけであって、水ファントム部23は照射野形成装置13に直接取付けるものではないことから、照射野形成装置13自体、及び回転ガントリ12における照射野形成装置13の支持位置に負荷がかかることはない。このため、照射野形成装置13を任意の角度に傾けた状態であっても、水ファントム部23による線量分布の測定が可能となる。その結果、照射野の形成精度が重要である照射野形成装置13において、回転ガントリ12に対する取付け精度に歪みが生じることはなく、また、照射野形成装置13を任意の角度に傾けた状態で線量分布の測定、すなわち実際の放射線治療時と同じ環境下で線量分布の測定を行うことができる。
【0037】
次に、本発明の一実施の形態を添付図面に基いて説明する。
(本実施の形態)
参考例の放射線治療装置は、照射野形成装置13を任意の角度に傾けることができる回転ガントリ型であった。
【0038】
本実施の形態に係る放射線治療装置を用いて線量分布測定を行うための説明図を図7〜図9に示す。尚、本実施の形態に係る照射野形成装置13、線量分布測定装置21および移動機構22などは、参考例のものと同様の構成を有する。そこで、図2〜図4と同様の部材には同じ符号を付しており、これらの部材についての詳細な説明は省略する。
【0039】
図7〜図9に示すように、本実施の形態に係る放射線治療装置は、放射線治療を行う治療室71と、治療室71内に配置され、放射線治療者15を載置するための台81と、治療室71の壁面(又は天井面)に固定された放射線を照射する照射野形成装置13とを備えた固定型のものであり、照射野形成装置13と対向する位置に近接・離間自在な線量分布測定装置21を有するものである。
【0040】
照射野形成装置13の中心軸C2を含んだ治療室71の床面72と垂直な面上に、水ファントム部23における密閉水槽52の中心軸C3が位置するように、線量分布装置21が設けられる。
【0041】
台81の下部には、台81の高さ方向(図7〜図9中では上下方向)と垂直な面で回転させる回転手段(図示せず)及び台81の高さ方向に移動させる昇降手段(図示せず)が連結・接続され、回転及び昇降自在に設けられている。ここで、台81の回転軸C4は、台81の背もたれ面82の中心を通るものである。
【0042】
次に、本実施の形態の放射線治療装置の稼働方法を、添付図面を用いて説明する。また、必要に応じて、図2〜図5を参照する。
【0043】
先ず、ステッピングモータ44(図4参照)を回転駆動させて、図7に示すように、治療室71外に位置する第2フレーム部材22bを治療室71側に伸張させ、治療室71外に位置する水ファントム部23を照射野形成装置13と対向する位置まで突出させる。この時、照射野形成装置13の中心軸C2と、水ファントム部23における密閉水槽52の中心軸C3とが一致する位置まで、フレーム部材22bの伸張を行う。また、前述したように、中心軸C2,C3は同一平面上に位置していることから、中心軸C2,C3を一致させるためには、フレーム部材22bを中心軸C2,C3と直交する方向(図7中では下方向)にスライドさせる一軸制御だけでよい。尚、フレーム部材22bの伸張及び水ファントム部23の突出を妨げないように、治療室71の天井の当該箇所に開口部(図示せず)が形成されている。
【0044】
次に、線量分布測定装置21の駆動機構24(図5参照)を作動させ、図8に示すように、水ファントム部23における検知センサ54(図5参照)の基準位置(例えば、密閉水槽52の長さ方向(図7中では左右方向)中央よりも右側の位置)と、照射野形成装置13の中心軸C2と回転軸C4との交点であるアイソセンター(照射位置)Oとが一致するまで、水ファントム部23を照射野形成装置13に対して近接させる。この時、水ファントム部23は照射野形成装置13に直接取付けられておらず、水ファントム部23と照射野形成装置13とは離間している。
【0045】
次に、照射野形成装置13から陽子線を照射し、水ファントム部23における密閉水槽52内に、アイソセンターOを原点とした照射野を形成する。この照射野は、例えば、アイソセンターOを中心に形成されるものであり、その形状は癌細胞等の放射線治療部と同じ3次元形状を呈している。この照射野の形成に先立って、移動手段56を駆動させて、検知センサ54を照射野における最も照射野形成装置13側の位置に位置させておく。
【0046】
次に、回転手段55を駆動させて検知センサ54を回転させ(図5参照)、その回転面における照射野の線量分布を走査する。その後、移動手段56を駆動させて検知センサ54を1ピッチ分だけ台部材25側(図7中では右側)にスライドさせると共に、その位置で検知センサ54を再び回転させ、その回転面における照射野の線量分布を走査する。この操作を順次繰り返し、照射野全体の線量分布の測定を行う。この測定によって実際に得られた照射野(測定値)と目的とする照射野(入力値)とを比較することで、形成精度の誤差が得られる。この誤差が許容範囲内であれば放射線治療を行うことが可能であり、誤差が許容範囲外であれば調整・修理などが必要となる。
【0047】
線量分布測定後、線量分布測定装置21の駆動機構24を作動させ、水ファントム部23を照射野形成装置13から離間させて、中立位置に戻す。その後、ステッピングモータ44を伸張時とは逆の方向に回転駆動させて、治療室71側に伸張している第2フレーム部材22bを収縮させ(図4参照)、図9に示すように、水ファントム部23を治療室71外に収納する。
【0048】
次に、台81上に放射線治療者15を載せ、放射線治療者15のアイソセンターOに位置するように、回転手段、水平移動手段、及び昇降手段を調整する。その後、デジタル式放射線透過装置(DR(digital radiograph)装置(図示せず))等を用いて放射線治療者15の治療箇所の位置を確認・決定する。
【0049】
その後、目的とする照射野が得られるように調整した照射野形成装置13から陽子線を照射して放射線治療を行う。
【0050】
本実施の形態の放射線治療装置は、照射野形成装置13を任意の角度に傾けることができないこと以外は、参考例の放射線治療装置と同様の作用効果を得ることができる。
【0051】
また、本実施の形態の放射線治療装置は、参考例の放射線治療装置のように回転ガントリを伴わないため、装置構成が簡易となり、装置の小型・軽量化を図ることができると共に、低コストで製造可能である。
【0052】
以上、本発明の実施の形態は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、他にも種々のものが想定されることは言うまでもない。
【0053】
上述の実施の形態においては、図5に示すように、放射線検知器53を十文字状に配列してなる検知センサ54を用いた場合について説明を行ったが、これに限定するものではない。例えば、図6に示すように、放射線検知器53を一文字状に配列してなる検知センサ64や、放射線検知器53を放射状に配列してなる検知センサであってもよい。
【0054】
また、検知センサを1個の放射線検知器53だけで形成してもよい。この場合、図5、図6に示した水ファントム部23及び駆動機構24において、放射線検知器を密閉水槽52の高さ方向と垂直な面に走査させる走査手段(図示せず)が新たに必要となり、また、図5、図6に示した回転手段55は必要としなくなる。走査手段としては、例えば、台部材25と密閉水槽52との間に配置され、密閉水槽52全体をX軸方向(図5、図6中では左右方向)及びY軸方向(図5、図6中では奥行き方向)に移動自在に動かすことができるX軸−Y軸移動テーブルなどが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】回転ガントリ型の放射線治療装置の斜視図である。
【図2】参考例に係る放射線治療装置を用いて線量分布測定を行うための説明図であり、線量分布測定前の状態である。
【図3】参考例に係る放射線治療装置を用いて線量分布測定を行うための説明図であり、線量分布測定中の状態である。
【図4】参考例に係る放射線治療装置を用いて線量分布測定を行うための説明図であり、線量分布測定後の状態である。
【図5】図2〜図4における水ファントム部の拡大斜視図である。
【図6】図5の水ファントム部における検知センサの変形例を示す斜視図である。
【図7】本発明の一実施形態に係る放射線治療装置を用いて線量分布測定を行うための説明図であり、線量分布測定前の状態である。
【図8】本実施の形態に係る放射線治療装置を用いて線量分布測定を行うための説明図であり、線量分布測定中の状態である。
【図9】本実施の形態に係る放射線治療装置を用いて線量分布測定を行うための説明図であり、線量分布測定後の状態である。
【符号の説明】
【0056】
11,81 台
12 回転ガントリ
12a 内面(回転ガントリ)
13 照射野形成装置
15 放射線治療者
21 線量分布測定装置
22 移動機構
23 水ファントム部
24 駆動機構
51 水
52 密閉水槽
53 放射線検知器
54,64 検知センサ
55 回転手段
56 移動手段
71 治療室
C1 回転ガントリの回転軸
C2 照射野形成装置の中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線治療を行う治療室と、治療室の壁面又は天井面に固定された放射線を照射する照射野形成装置とを備えた放射線治療装置において、
上記照射野形成装置から照射される放射線の線量を測定する線量分布測定装置と、その線量分布測定装置を、上記治療室内の照射野形成装置と対向する位置に出没自在に移動案内する移動機構とを備えたことを特徴とする放射線治療装置。
【請求項2】
上記線量分布測定装置が、垂直方向及び/又は水平方向に移動自在な移動機構の先端部に設けられ、照射野形成装置から照射された放射線の、水中での線量分布を測定する水ファントム部と、その水ファントム部を照射野形成装置に対して近接・離間させる駆動機構とを備えた請求項1記載の放射線治療装置。
【請求項3】
上記水ファントム部が、水が充満された密閉水槽と、その密閉水槽内に配置される放射線検知器と、その放射線検知器を、密閉水槽の高さ方向と垂直な面に走査させる走査手段および密閉水槽の高さ方向に移動させる移動手段とを備えた請求項2記載の放射線治療装置。
【請求項4】
上記水ファントム部が、水が充満された密閉水槽と、その密閉水槽内に配置され、複数の放射線検知器からなる検知センサと、その検知センサを、密閉水槽の高さ方向と垂直な面で回転させる回転手段および密閉水槽の高さ方向に移動させる移動手段とを備えた請求項2記載の放射線治療装置。
【請求項5】
上記複数の放射線検知器を、十文字状又は一文字状に配列して検知センサを形成した請求項4記載の放射線治療装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−104888(P2008−104888A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−325030(P2007−325030)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【分割の表示】特願2002−210577(P2002−210577)の分割
【原出願日】平成14年7月19日(2002.7.19)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】