説明

放射線測定装置及びデータ処理方法

【課題】放射線測定装置において放射線の飛来方向及びエネルギー(区分)を識別できるようにする。
【解決手段】指向特性が互いに異なるように複数の検出器20,22,24が設けられる。複数の検出器20,22,24に対応する複数のスペクトルに対してそれぞれ複数のエネルギー区分が設定され、各エネルギー区分ごとに積算計数値の相互間比率を示す実測比率情報(実測計数比列)が演算される。実測比率情報が複数の応答関数と照合され、特定の実測比率情報と特定の理論比率情報との間に適合関係が判定された場合に、それに基づいて放射線の飛来方向及びエネルギー区分が識別される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射線測定装置及びデータ処理方法に関し、特に、放射線の飛来方向等を識別する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
(1)本願の背景
本発明は、アロカ株式会社が独立行政法人科学技術振興機構から委託された「全方向性ガンマ線検出器」に関する新技術開発を実施する過程において、その成果として生み出されたものである。
【0003】
(2)従来の技術
放射線測定装置としてのモニタリングポストは、例えば、原子力発電所、核燃料処理施設などの施設の周囲や自治体における観測点に設置され、その設置場所において放射線計測を連続的に遂行する。これにより異常発生の有無が常時監視される。モニタリングポストにおいては、放射線の飛来方向を自動的に識別することが望まれる。その方法として、指向性をもった検出器を回転させる方法があげられる。検出器には、通常、鉛などで構成されるコリメータや遮蔽部材が設けられており、その検出器を回転させるためにはどうしても大掛かりな機構が必要となる。モニタリングポスト以外の放射線測定装置(例えば、フロア上に設置されるサーべイモニタ)においても、放射線の飛来方向を識別することが求められている。特許文献1、2、3には、複数種類のシンチレータを用いて得られた複数のスペクトル上でそれぞれピークを特定し、複数のピークについて計数値の比率を求め、その比率から放射線の飛来方向(入射方向)を特定することが開示されている。なお、本願に関連する未公開の先願として特願2005−014578号がある。
【0004】
【特許文献1】特開2004−191327号公報
【特許文献2】特開2004−361290号公報
【非特許文献1】白川芳幸、全方向性γ線検出器の開発、RADIOISOTOPES、Vol.53、No.8、pp.445-450、Aug.2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
スペクトル上でピークを特定する手法を用いる場合、ピークが不明瞭の場合あるいはピーク特定精度に問題がある場合には、演算結果の信頼性が低下する。ピークが明瞭に現れるまで待ってから演算を行うことも可能ではあるが、その場合には迅速な処理を行えなくなる。なお、複数の放射線が同時入射した場合にそれらを弁別計測することが望まれ、また、放射線の飛来方向とは別に、放射線のエネルギー(あるいはエネルギー区分)を識別することが望まれる。
【0006】
本発明の目的は、スペクトル上におけるピークの特定を行うことなく、放射線の飛来方向やエネルギーを演算できるようにすることにある。
【0007】
本発明の他の目的は、複数の放射線が同時入射した場合においてもそれらを識別できるようにすることにある。
【0008】
本発明の更に他の目的は、放射線の飛来方向及びエネルギーを直感的に認識できる表示方式を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係る放射線測定装置は、指向特性が互いに異なるように設けられた複数の検出器を有し、それらの検出器によって放射線を個別的に検出する検出部と、前記複数の検出器を用いて得られた複数の検出データに基づいて、複数のエネルギー区分における各エネルギー区分ごとに前記複数の検出器に対応する複数の個別計数値についての相互間比率を表す実測比率情報を演算する演算手段と、前記各エネルギー区分ごとに飛来方向に応じた理論比率情報を与える応答関数を生成する生成手段と、前記複数のエネルギー区分に対応した複数の応答関数に対して前記複数のエネルギー区分に対応した複数の実測比率情報を照合し、特定の実測比率情報と特定の理論比率情報との間に適合関係が判定された場合に、それに基づいて前記検出部で検出された放射線について飛来方向及びエネルギー区分の少なくとも一方を識別する照合手段と、を含むことを特徴とする。
【0010】
上記構成によれば、互いに指向特性が異なるように設けられた複数の検出器を用いて放射線(例えばγ線、β線)が検出される。例えば、複数の検出器についての配置関係を適宜定めることによってそれぞれの指向特性を異ならせることができる。また、遮蔽部材などを利用して各検出器が有する主感度方向を異ならせることによってそれぞれの指向特性を異ならせることもできる。各検出器は望ましくはシンチレータ部材によって構成されるが、その場合に、それらを同一材料且つ同一形態で構成してもよいし、それらの材料や形態を異ならせることも可能である。いずれにしても、各検出器の感度特性に方位依存性をもたせるようにすればよい。
【0011】
演算手段は、複数の検出データに基づいて、複数のエネルギー区分に対応した複数の実測比率情報を演算する。複数のエネルギー区分は、それぞれ均一の区分幅を有していてもよいが、非均一の区分幅を有していてもよい。例えば、精細な識別が求められるエネルギー領域については、そこに小さな区分幅をもったエネルギー区分を密に設定するようにしてもよい(その場合、それ以外の領域についてはエネルギー区分が粗に設定される)。但し、基本的に、実測比率情報を求める前提となる個々のエネルギー区分と、複数の応答関数を生成する前提となった個々のエネルギー区分とを合致、整合させる必要がある。各エネルギー区分ごとに求められる実測比率情報は、複数の検出器に対応する複数の個別計数値について、それらの相互間比率を求めることによって演算される。例えば、後述するように、複数の個別計数値をそれらの総和でそれぞれ規格化することによって複数の計数比(実測計数比)を求め、それらの組合せあるいは数列として、実測比率情報が構成されてもよい。いずれにしても、各エネルギー区分ごとに、各検出器の指向特性の相違が反映された計数値の比率に関係する情報を演算するのが望ましい。なお、各検出器についての個別計数値は、エネルギー区分内における積算計数値、計数率等であってもよい。
【0012】
一方、複数のエネルギー区分に対応して複数の応答関数が用意される。各応答関数は、望ましくは、実験によりあるいはシミュレーションにより予め作成されるものであって、上記の実測比率情報に照合されるテンプレートとして機能する。すなわち、各エネルギー区分ごとの応答関数は、放射線の飛来方向に応じて変化する理論比率情報を表す関数である。理論比率情報は、実測比率情報と照合されるものであって、実測値に対する理論値として位置付けられる。生成手段は、各応答関数を表すデータを生成する記憶部、及び/又は各応答関数の数式を生成する演算部、その他の手段として構成される。
【0013】
照合手段は、複数のエネルギー区分に対応した複数の応答関数に対して、複数のエネルギー区分に対応した複数の実測比率情報を照合する。すなわち、各エネルギー区分ごとに、応答関数が表す各飛来方向ごとの理論比率情報に対して実測比率情報が照合される。その場合において、特定の実測比率情報と特定の理論比率情報との間に適合関係が判定されると、つまり、実測値と理論値とが合致すると、それに基づいて、飛来方向及びエネルギー区分の少なくとも一方を逆推知することが可能となる。すなわち、適合関係が成立した時点における理論比率情報の属性(当該理論比率情報に対応する飛来方位、及び/又は、当該理論比率情報を表す応答関数に対応付けられたエネルギー区分)から、入射した放射線の飛来方向及び/又はエネルギー区分を識別できる。ここで、望ましくは、前記照合手段は、前記検出部で検出された放射線について飛来方向及びエネルギー区分の双方を識別する。
【0014】
以上のように、本発明によれば、スペクトルのピークを特定した上で、それを用いて演算処理を行うのではないので、ピークが不明瞭な場合であっても、演算処理を行うことができ、また、ピーク特定精度に依存しない演算処理を実現できる。あるいは、スペクトル上においてピークが明瞭に認識できるまで演算開始を遅らせる必要がないので、迅速な演算を行うことも可能である。
【0015】
(2)望ましくは、前記各エネルギー区分ごとの実測比率情報は、前記複数の個別計数値をそれらの総和で規格化することによって求められる複数の実測計数比からなる実測計数比列として構成され、前記飛来方向に応じた理論比率情報は、前記複数の実測計数比と照合される複数の理論計数比からなる理論計数比列として構成される。実測計数比列(実測計数比の組)は、複数の検出器間における計数値の内分比を表す数列に相当する。理論計数比列(理論計数比の組)は、実測計数比列に対比、照合される数列である。
【0016】
望ましくは、前記演算手段は、前記複数の検出データに基づいて前記複数の検出器に対応する複数のスペクトルを作成するスペクトル作成手段と、前記複数のスペクトルに対して複数のエネルギー区分を設定し、各エネルギー区分ごとに前記複数の検出器に対応する複数の個別計数値を求める個別計数値演算手段と、前記各エネルギー区分ごとに、前記複数の個別計数値をそれらの総和である全体計数値で除することによって前記複数の実測計数比を求める実測計数比演算手段と、を含む。スペクトル作成手段は、マルチチャンネルアナライザ(MCA)によって構成されてもよいし、各エネルギー区分ごとに積算計数値を演算できる他のデバイス(例えば、シングルチャンネルアナライザ(SCA))によって構成されてもよい。複数のアナライザを並列動作させるのが望ましいが、単一のアナライザを時分割動作させてもよい。個別計数値演算手段と実測計数比演算手段を統合して単一の演算手段として構成してもよい。これは更に他の手段についても同様に指摘できることである。各手段は専用のハードウエアあるいはソフトウエア機能として実現することが可能である。
【0017】
望ましくは、前記生成手段で生成する前記各エネルギー区分ごとの応答関数は、前記飛来方向ごとの理論比率情報を与える数式又はテーブルとして構成される。望ましくは、前記各エネルギー区分ごとの応答関数は、前記検出部についての仮想的なモデルを用いて仮想的に各方位から所定エネルギーをもった放射線を照射するシミュレーションの実行結果として予め作成される。指定エネルギーは、望ましくは、各エネルギー区分における中央のエネルギーとして設定され、例えば、仮想的モデルに対してそのようなエネルギーに光電ピークが生じるγ線が仮想的に照射される。その場合には、照射方位が連続的に又は所定ピッチに可変される。
【0018】
望ましくは、前記複数の検出器は、前記検出部における中心軸回りに配列されたn(但しn≧3)個のシンチレータブロックによって構成される。3個以上のシンチレータブロックを円周方向に並べれば、それぞれの指向特性が異なることになり、水平方向全周囲からの放射線についてその飛来方向を判別できる。
【0019】
望ましくは、前記検出部に対してエネルギーが異なる複数の放射線が入射された場合、前記照合手段により前記複数の放射線に対応する複数の適合関係が判定され、前記判定された各適合関係ごとに飛来方向及びエネルギー区分が識別される。上記のように、複数のエネルギー区分に対応した複数の応答関数に対して、各エネルギー区分に対応した実測比率情報が個別的に照合されるので、互いにエネルギーが異なる複数の放射線が同時入射した場合においても、それらを区別して取り扱うことができる。これは同一の飛来方向から複数の放射線が入射してきた場合においても同様である。なお、エネルギー(エネルギー区分)が同一の複数の放射線が入射した場合においても、それらを区別する必要があれば、上記構成に対して更に別の識別方式を組み合わせればよい。
【0020】
(3)望ましくは、前記照合手段によって識別された飛来方向及びエネルギー区分に基づいて所定の座標系上にマークをマッピングすることによってチャートを作成するチャート作成手段と、前記チャートを表示するチャート表示手段と、を含む。このチャートによれば、飛来方向とエネルギー区分とを同時に直感的に把握できる。
【0021】
望ましくは、前記所定の座標系における円周方向は飛来方向を表し、前記所定の座標系における径方向はエネルギー区分を表す。望ましくは、前記チャート作成手段は、線量情報に応じて前記マークの表示態様を変化させる。この構成によれば、更に同時に線量(あるいは線量率)の大小を直感的に認識できる。望ましくは、前記線量情報は、前記照合手段によって識別されたエネルギー区分について演算された線量情報である。望ましくは、前記マークの表示態様の変化には、サイズ変化、形状変化、色相変化及び輝度変化の内の少なくとも1つが含まれる。なお、上記のチャート表示技術を、放射線の飛来方向とエネルギー(あるいはエネルギー区分)を演算、表示する他の放射線測定装置に適用することも可能であり、その場合においても上記同様の利点を得られる。
【0022】
(4)また、本発明は、水平指向特性が互いに異なるように設けられたn(但しn≧3)個の検出器を有する検出部を備えた放射線測定装置におけるデータ処理方法において、前記n個の検出器を用いて得られたn個の検出データに基づいて、m(但しm≧2)個のエネルギー区分における各エネルギー区分ごとに前記n個の検出器に対応するn個の個別計数値についての相互間比率を表す実測比率情報を演算する工程と、前記各エネルギー区分ごとに飛来方向に応じた理論比率情報を与える応答関数を生成する工程と、前記m個のエネルギー区分に対応するm個の応答関数に対して前記m個のエネルギー区分に対応するm個の実測比率情報を照合し、特定の実測比率情報と特定の理論比率情報との間に適合関係が判定された場合に、それに基づいて前記検出部で検出された放射線について飛来方向及びエネルギー区分を識別する工程と、を含むことを特徴とする。
【0023】
望ましくは、更に、飛来方向を円周方向に対応付け且つエネルギー区分を径方向に対応付けた極座標系上に、前記識別された飛来方向及びエネルギー区分を表すマークをマッピングすることによってチャートを作成する工程を含む。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明によれば、スペクトル上におけるピークの特定を行うことなく、放射線の飛来方向やエネルギーを演算できる。あるいは、本発明によれば、複数の放射線が同時入射した場合においてもそれらを識別できる。あるいは、本発明によれば、放射線の飛来方向及びエネルギーを直感的に認識できる表示方式を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0026】
図1には、本発明に係る放射線測定装置の好適な実施形態が示されている。本実施形態に係る放射線測定装置は環境放射線(特にγ線)を連続的に測定するモニタリングポストとして構成される。勿論、本発明はサーベイメータ等の他の放射線測定装置にも適用可能である。
【0027】
図1において、放射線測定装置は、測定ユニット10及び演算ユニット12を有する。測定ユニット10は、放射線検出部14及び光電変換部16を有する。放射線検出部14は、本実施形態において3つのシンチレータブロック(3つの検出器)20,22,24によって構成されている。3つのシンチレータブロック20,22,24は、水平面上において、放射線検出部14の垂直中心軸回りに均等角度で配置されており、各シンチレータブロック20,22,24は、上方から(又は下方から)見て、120度に開いた扇状の形態を有する。放射線検出部14は、それ全体として円柱形状又は円板形状を有する。放射線検出部14の直径は例えば7.62cm(3インチ)であり、その高さは例えば7.62cm(3インチ)である。
【0028】
上記のように放射線検出部14が構成されているため、各シンチレータブロック20,22,24の指向特性は互いに相違する。すなわち、例えば、符号32で示される方向から放射線が入射した場合、前方側に存在するシンチレータブロック20の感度が当該放射線に対して最も高くなり、後方側に存在するシンチレータブロック22,24の感度は、シンチレータブロック20がその前方に存在することから、相対的に低くなる。このように、3つのシンチレータブロック20,22,24を円周方向に配列した場合にはその固有の構造から、それぞれのシンチレータブロック20,22,24の指向特性が互いに相違することになる。
【0029】
本実施形態では、各シンチレータブロック20,22,24は、互いに同一の材料及び同一の形態をもって構成されている。しかし、それらを互いに異なる材料で構成することもできるし、それらを互いに異なる形態で構成することもできる。いずれにしても、複数の検出器の指向特性が異なるように、複数の検出器が構成される。例えば、複数の検出器に対して遮蔽材料を利用して指向性をもたせつつ、各検出器の主感度方向を異ならせて配置するようにしてもよい。その場合には複数の検出器を垂直方向に並べて配置することも可能である。
【0030】
3つのシンチレータブロック20,22,24の相互間には、反射層26,28,30が設けられている。それらの反射層26,28,30によって、シンチレータブロック20,22,24相互間における光の回り込みが防止されている。なお、下面側の光出射領域を除いて、各シンチレータブロック20,22,24の全体を反射材で覆うようにしてもよい。
【0031】
光電変換部16は、3つのシンチレータブロックに対応する3つの光検出器(光電子増倍管)34,36,38によって構成されている。各光検出器34,36,38の受光面が、それらに対応するシンチレータブロック20,22,24の下面に接合されている。よって、あるシンチレータブロックに放射線が入射し、そこで発光が生じると、その光は当該シンチレータブロックに接合された光検出器で検出されることになる。光検出器においては、光信号が電気信号に変換される。
【0032】
必要に応じて、各シンチレータブロック20,22,24の下面と各光検出器34,36,38の受光面との間にライトガイドなどを設けるようにしてもよい。いずれにしても、放射線の入射によりシンチレータブロック内にて発生した光が、当該シンチレータブロックに対応する光検出器にできる限り効率的に導かれるように、測定ユニット10を構成するのが望ましい。
【0033】
なお、測定ユニット10における放射線検出部14及び光電変換部16は図示されていないケース内に収容されているが、図1においてはそのケースが図示省略されている。本実施形態の測定ユニット10においては、従来のように放射線検出部を回転させる機構や大がかりな遮蔽構造を設ける必要がないので、測定ユニット10を小型化でき、またその重量を小さくできるという利点がある。
【0034】
次に、演算ユニット12について説明する。図1に示す構成例では、3つの放射線検出器(すなわち3つのシンチレータブロック20,22,24)に対応して、3つの信号処理部40,42,44と、3つのマルチチャンネルアナライザ(MCA)46,48,50と、が設けられている。各信号処理部40,42,44は、光検出器34,36,38から出力される信号を増幅する増幅器、各信号についてアナログ信号からデジタル信号への変換を行うA/D変換器、及び、その他の必要な回路、を有している。MCA46,48,50は3つの検出器を用いて得られた信号(検出データ)に基づいて3つのスペクトルを作成する回路である。すなわち、MCA46,48,50はスペクトル生成器として機能しており、それらに代えて3つのシングルチャンネルアナライザ(SCA)を設けるようにしてもよい。また、完全なスペクトルを形成するのではなく、後述の各エネルギー区分ごとに計数値を求める回路を設けるようにしてもよい。そのような回路は概略的に見ればスペクトル作成回路及びスペクトル解析回路に相当するものである。
【0035】
データ処理部52は例えばマイクロプロセッサなどによって構成されるものである。その具体的な処理内容については後に詳述するが、本実施形態におけるデータ処理部52は、複数のスペクトルに対して複数のエネルギー区分を設定し、各エネルギー区分ごとに所定演算を行った上で、その演算結果を後述の応答関数群と照合することにより、入射した放射線の飛来方向θ及びエネルギー(エネルギー区分)Eの識別を行っている。ここで、応答関数群は、データ処理部52に接続された記憶部54上に格納されている。ちなみに、応答関数群は、後に説明するように、所定のシミュレーションを実行することによって求めることができる。符号60によって、応答関数群を表すデータのメモリ54への格納が示されている。
【0036】
上記のようにデータ処理部52において、入射した放射線についての飛来方向θとエネルギー(エネルギー区分)Eとが求められると、表示処理部56は、それらの情報をユーザーに分かり易く提供するための所定の表示処理を実行する。後に説明するように、その場合においては、所定のチャートが作成され、表示部57上にはそのチャートが表示される。もちろん、データ処理部52によって求められた飛来方向θ及びエネルギーEの情報をネットワークを通じて外部装置に出力するようにしてもよい。
【0037】
次に、図1に示したデータ処理部52の処理内容について詳述する。図2には、データ処理部52における各処理の内容がフローチャートとして示されている。これを図3〜図10を参照しながら説明する。
【0038】
S101,S102,S103は、3つの検出器に対応した3つのステップであって、それぞれのステップにおいては、各検出器ごとに作成されたスペクトルに対して複数のエネルギー区分が設定され、各エネルギー区分iごとに、積算された計数値N1i,N2i,N3iが求められる。但し、N1,N2,N3は各検出器ごとに積算された計数値を表し、それらの添字iは、エネルギー区分の番号を示す正の整数(1,2,3,4,5)である。
【0039】
このS101,S102,S103の処理を図3を用いて説明する。図3には、一例として、第1検出器から得られた検出データに基づくスペクトル62が示されている。このスペクトル62に対して図示されるように複数のエネルギー区分64〜72が設定される。各エネルギー区分64〜72は、互いに同一の区分幅を有するものであってもよいし、それぞれ異なる区分幅を有するものであってもよい。本実施形態においては、全てのエネルギー区分64〜72に対して同一の区分幅が設定されており、その区分幅は200keVである。もちろん、その数値は一例である。ちなみに、より詳細な識別を行いたいエネルギー領域があればそこにエネルギー区分を密に設定し、それ以外の領域についてはエネルギー区分を粗に設定するようにしてもよい。
【0040】
本実施形態では、各エネルギー区分64〜72ごとに、スペクトラムに基づいて計数値についての積算処理が実行される。すなわち、積算計数値が求められる。これが図3においてN11〜N15で表されている。ここで、エネルギー区分70においてスペクトラム62のピークが存在しているが、本実施形態に係る手法によれば、そのようなピークを弁別、特定することなく、入射放射線について解析を行うことが可能である。図3においては、第1検出器についてのスペクトル処理が示されていたが、他の検出器についてのスペクトルに対しても同様な処理が実行される。
【0041】
本実施形態において、3つの検出器について上記のS101,S102,S103の処理を実行すると、図4の(A)に示す結果を得ることができる。ここで、符号74は、第1検出器についてのスペクトルを処理した結果を表しており、すなわち、5つのエネルギー区分に対応した5つの積算計数値N11〜N15を示している。符号76は、第2検出器についてのスペクトルを処理した結果として、5つのエネルギー区分に対応した5つの積算計数N21〜N25を示している。符号78は、第3検出器についてのスペクトルを処理した結果として、5つのエネルギー区分に対応した5つの積算計数値N31〜N35を示している。
【0042】
図2に戻って、S104では、各エネルギー区分iごとに3つの積算計数値の総和として全計数値Tiが求められる(例えばT1=N11+N21+N31である)。そして、S105,S106,S107においては、それぞれのエネルギー区分ごとに求められた3つの積算計数値をそれぞれ全計数値Tiで除することにより、各積算計数値に対応した計数比が求められる。これについて図4を用いて説明する。
【0043】
図4の(B)には上記のS104〜S107を実行した結果が示されている。ここで、0〜200keVのエネルギー区分に着目すると、(A)に示したように、3つの検出器に対応する3つの積算計数値N11,N21,N31を、それらの総和T1(=N11+N21+N31)で除すると(規格化すると)、(B)に示されるように、3つの計数比K11,K21,K31が求められる。同様に、他のエネルギー区分についても規格化演算によって各積算計数値ごとに計数比が求められる。これにより、(B)に示されるように、3つの検出器及び5つのエネルギー区分に対応した15個の計数比が求められる(符号80,82,84参照)。各エネルギー区分ごとの3つの計数比は3つの検出器間における感度差あるいは検出効率の差を表すものであり、換言すれば、各エネルギー区分内における全計数値に対する内分比を表すものである。
【0044】
図2に戻って、S108においては、各エネルギー区分iごとの3つの計数比(すなわち、実測計数比列)Riを、各エネルギー区分iごとの応答関数(具体的には、それにより定義される全ての理論計数比列)と照合する処理が実行される。これについて図4の(C)及び(D)を用いて説明する。
【0045】
図4の(C)に示されるように、0〜200keVのエネルギー区分に着目すると、当該エネルギー区分においては3つの計数比K11,K21,K31が求められ、それらの組み合わせとして実測計数比列R1が定義される。同様に、他のエネルギー区分についても実測計数比列R2〜R5が定義される。そして、(D)に示されるように、それぞれのエネルギー区分ごとに、実測計数比列が応答関数と照合される。
【0046】
応答関数としては、本実施形態において、5つのエネルギー区分に対応した5つの応答関数があらかじめ用意されている。各応答関数は、本実施形態において後に詳述するようなシミュレーションを実行することによって得られた関数であり、0〜360度の範囲内における理論計数比列を表すものである。図4においては、5つの応答関数が、I1-0360,I2-0360,I3-0360,I4-0360,I5-0360で表されている。例えば、0〜200keVのエネルギー区分においては、実測計数比列R1は応答関数I1-0360と照合されることになる。これは他のエネルギー区分についても同様である。
【0047】
図5〜図9には、5つのエネルギー区分に対応した第1乃至第5応答関数が示されている。各図において、横軸は角度(飛来方位に相当)を示しており、縦軸は理論計数比を示している。ここで、丸記号で標識されたライン(破線)は第1検出器についての理論計数比の変化を示しており、三角形記号で標識されたライン(破線)は第2検出器についての理論計数比の変化を示しており、四角形記号で標識されたライン(破線)は第3検出器についての理論計数比の変化を示している。各理論計数比はシミュレーション実行結果に対して上記同様の演算処理を行うことによって求められる。すなわち、後に説明するように、仮想的な検出部モデルに対して、個々のエネルギー区分の中央にエネルギーピークをもった仮想的なγ線が照射される。その場合に、γ線の照射方位(角度)が可変される。これによって、各エネルギー区分ごとに、且つ、各照射方位ごとに、3つの検出器に対応する3つのスペクトルが得られる。それらのスペクトルに対して、複数のエネルギー区分を設定した上で、各エネルギー区分ごとに、3つの検出器に対応する3つの積算計数値N1,N2,N3を求め、それぞれをそれらの総和Tで規格化することによって、複数の理論計数比(N1/T,N2/T,N3/T)が求められる。それらをプロットしたものが第1乃至第5応答関数である。
【0048】
図5〜図9に示されるように、各エネルギー区分に対応する応答関数において、3つの理論計数比が角度に応じてサインカーブのように変動する。ただし、図5〜図9の相互比較から明らかなように、エネルギーが高くなると透過力が高くなるために、3つの検出器間における理論計数比の差が小さくなる。いずれにしても、各エネルギー区分ごとにかつ各方位ごとに異なる理論計数比列(3つの理論計数比の組)が予め特定され、それらが応答関数群として用いられる。
【0049】
図2において、上述したS108では、各エネルギー区分iごとに、応答関数に対して実測計数比列Riを照合する処理が実行され、S109において適合判定が行われる。すなわち、実測計数比列が理論計数比列と一致したか否かが判断される。この場合においては、例えば相関演算などを用いるようにしてもよく、相関値が一定範囲内に入った場合には適合判定を行うようにしてもよい。また、各計数比ごとに適合判定を行うための範囲を設定して、その範囲に属するか否かをもって適合判定を行うようにしてもよい。
【0050】
実測計数比列に対して適合する理論計数比列が存在しない場合には、計測対象となる一定レベル以上の放射線の入射がないものと判断される。この場合には、自然放射線(環境放射線)の入射と判断される。一方、複数の方向から同一エネルギーをもった放射線が入射された場合において、演算を適正に行えずに判定結果に問題が生じるのであれば、図2のS115においてエラー処理を実行し、例えばアラームなどを発生させるようにしてもよい。ちなみに、本実施形態における放射線測定装置においては、エネルギーが異なる限りにおいて、複数の放射線が同一方向あるいは異なる方向から同時に入射した場合においても、各放射線を識別してそれぞれについて飛来方向及びエネルギー(エネルギー区分)の判定を行い得る。
【0051】
なお、図2において、S108及びS109の工程は順次実行させる必要はなく、S110で示されるように、同時に実行させるようにしてもよい。
【0052】
図10には、適合判定が成立する場合の一例が示されている。図10に示す例において、R4は4番目のエネルギー区分(600〜800keV)について演算された実測計数比列を示しており、それは3つの実測計数比K14,K24,K34で構成されるものである。その実測計数比列R4は、同エネルギー区分に対応する第4応答関数と照合され、その場合において、図10では270度の角度に対応づけられた理論計数比列I4-270が実測計数比列R4と合致している。このような適合関係が見出されると、適合関係にある理論計数比列I4-270の属性としての角度(270度)を読み取ることにより、放射線の飛来方向を特定することができる。また、適合関係が成立した応答関数の属性としてのエネルギー区分(600〜800keV)を読み取ることにより、入射した放射線についてのエネルギー区分を識別することが可能となる。なお、互いにエネルギーの異なる複数の放射線が同時に入射された場合には、複数のエネルギー区分において複数の適合関係が成立することになる。そして、それぞれについて飛来方位及びエネルギー区分の識別を行うことが可能である。
【0053】
図2におけるS111及びS112には、以上説明した飛来方向θの特定及びエネルギー区分Eの特定が示されている。そして、S113及びS114においては、特定された飛来方向θの情報及びエネルギー区分Eの情報が出力される。
【0054】
後に説明するように、各応答関数の作成にあたっては、シミュレーションにおいて各エネルギー区分の中央に光電ピークを有するγ線の照射が行われる。そのような前提の下で、各応答関数が作成されているため、実測計数比列と理論計数列との適合関係が判断された状態においては、当該実測計数比列は、結果として、3つの検出器に対応する3つのスペクトル上における3つのピークに対応したものとなる。しかしながら、本実施形態においては、基本的に、全エネルギー区分について実測計数比列の照合が行われており、各スペクトル上においてピークを特定する必要はない。すなわち、結果としてピークを利用することになるとしても、演算処理上においてピークを特定する必要はない。したがって、スペクトル上において必ずしもピークが明瞭でないような場合においても、精度良く入射放射線についての飛来方向及びエネルギー区分の判定を行うことができる。
【0055】
次に、図11〜図15を用いて、上記の本実施形態に係る方式に関し、シミュレーションによる実証結果を説明する。図11〜図15は、5つのエネルギー区分に対応している。各図において、破線は、理論計数比列の変化すなわち応答関数を示している。それらの応答関数は図5〜図9に示したものと同一である。一方、実線は、662keVに光電ピークを有するγ線を放射する線源(137Cs)を用いたシミュレーション結果を示している。すなわち、そのシミュレーションでは、仮想的なモデルとしての検出部の周囲において、上記γ線の照射方向を回転させており、その場合における計数比列(実測計数比列に相当)の変化を示したものが各図に示された実線である。ここで、各実線上における丸印は第1検出器に対応する計数比を表しており、三角形記号は第2検出器に対応する計数比を表しており、四角形記号は第3検出器に対応する計数比を表している。それぞれの計数比は上述したようにシミュレーション結果によって得られたものであって、厳密に言えば実測されたものではないが、実証上、上記の実測計数比とみなせるものである。
【0056】
入射された放射線のピークエネルギーは662keVであるため、それは600〜800keVのエネルギー区分に属する。このため、図14で示されるように、同エネルギー区分においては、全ての方位についてシミュレーションによる計数比列(実測計数比列)が理論計数比に合致している。その一方、他のエネルギー区分においては、どの方位においても適合関係が成立していない。すなわち、本実施形態の手法によれば、放射線が入射された場合に、当該放射線について適正にエネルギー区分を判断することができ、かつ、その飛来方向を適正に判断することが可能である。
【0057】
図16には、上述した応答関数群の作成方法がフローチャートとして示されている。本実施形態においては、公知の電磁カスケードモンテカルロシミュレーション(EGS)を用いて各応答関数が作成されている。
【0058】
S201では、エネルギー区分が定義される。本実施形態では、上記のように区分幅を200keVとして5つのエネルギー区分が設定される。もちろん、応答関数群の作成に係る複数のエネルギー区分とスペクトラム解析時における複数のエネルギー区分とが合致していれば十分であり、各エネルギー区分の区分幅を同一にする必要はない。
【0059】
S202では、仮想的なモデルとして、図1に示した放射線検出部を幾何学的に、構造的に定義した上で、そのモデルとしての放射線検出部の周囲から、所定のエネルギーをもったγ線を照射するシミュレーションが実行される。この場合においては、各エネルギー区分ごとに、その中央にピークエネルギーをもったγ線が照射される。しかもその照射方位は0〜360度の範囲内にわたって可変される。この場合においては連続的に照射方位を可変するようにしてもよいし、Δθピッチで可変するようにしてもよい。上述した図5〜図9に示した各応答関数においてはΔθとして30度が設定されている。S202の実行結果として、各エネルギーごとに且つ各方位ごとに、3つの検出器に対応する3つのスペクトルが得られることになる。
【0060】
S203では、各エネルギーごとに且つ各方位ごとに得られた3つのスペクトルに対して複数のエネルギー区分が設定され、各エネルギー区分ごとに3つのスペクトル上において積算計数値が求められる。そして、3つの積算計数値をそれらの総和で除することによって、3つの計数比(理論計数比)が求められる。それらは計数比列(理論計数比列)を構成するものである。そして、各エネルギー区分ごとにかつ各方位ごとに求められた理論計数比列が各エネルギー区分ごとに用意された座標上にプロットされる。そして、S204では、必要に応じて、各座標上にプロットされた複数の点に対して補間処理を実行することにより、応答関数を求めることが可能となる。この場合においては、応答関数を表す数値列としてそれを定義するようにしてもよいし、応答関数を表す数式としてそれを定義するようにしてもよい。いずれにしても、図16に示す各処理を実行することにより、図5〜図9に示した複数のエネルギー区分に対応する複数の応答関数を事前に生成することが可能となる。
【0061】
以上のように、実際の計測に先立って様々なエネルギーをもったγ線を様々な方位から照射した場合を想定し、それによる理論値集合(応答関数群)を保存しておけば、実際に実測値が得られた段階で、それを理論値集合と照合することにより、適合関係が認められる理論値を特定することができ、その属性として飛来方位及びエネルギー区分を逆推知することが可能となる。
【0062】
したがって、適合関係が適切に判定できる限りにおいて、複数の放射線が様々な方位から同時に入射しても、それらを弁別して計測することが可能である。ただし、同一エネルギー区分に属する複数の放射線が同時に入射した場合には、実測値と理論値との照合が適切に行えない可能性がある。そこで、そのような場合にはエラー処理を実行して判定の信頼性を高めるようにしてもよい。
【0063】
なお、図1に示したデータ処理部52は、1又は複数の検出器によって得られた検出データに基づいて、全エネルギー範囲に渡る線量及び各エネルギー区分ごとの線量を演算する機能も有している。例えば、全エネルギー範囲に対応する線量を演算する場合においては、3つのスペクトルの中からいずれかのスペクトルを選択し、そのスペクトルに基づいて線量を求めるようにしてもよい。このことは各エネルギー区分ごとの線量の演算についても同様である。もちろん、全てのスペクトルを考慮し、重み付け加算処理などを行って線量を演算するようにしてもよい。
【0064】
次に、図1に示した表示処理部56の処理例について説明する。図17〜図19には表示処理部56によって作成されるチャートが例示されている。
【0065】
各図に示されるチャートは極座標で構成されており、その座標系における円周方向は放射線の飛来方向θに相当している。また同座標系における径方向は放射線のエネルギー(エネルギー区分)に対応している。
【0066】
図17に示されるように、上述した処理の結果として、入射した放射線について飛来方向とエネルギー区分が判定されると、極座標系上において、その判定された飛来方向及びエネルギー区分に対応する位置にマークM1が表示される。この例では、飛来方位が90度であり、エネルギー区分が600〜800keVである。また、本実施形態においてはマークM1のサイズがそれが存在するエネルギー区分における線量の大きさに対応付けられている。すなわち、線量が高い場合にはよりマークM1の直径が大きく表現され、線量が低い場合にはマークM1の直径が小さく表現される。したがって、図17に示されるチャートを見れば、入射した放射線の飛来方向、エネルギー区分、及び、線量情報を直感的に認識できるという利点がある。
【0067】
以上の例においては、線量の大小をマークM1の直径の大小として表したが、例えばマークの形態、色相あるいは輝度などを変化させて線量の大小を表現するようにしてもよい。例えば、線量の大きさと色相とを対応付ける場合には、図17に示すようなチャートの近傍にカラーバーを表示するのが望ましい。
【0068】
図18には、同一方向から互いにエネルギーの異なる2つの放射線が入射した場合の表示例が示されている。マークM2及びマークM3で示されるように、この例では方位120度の方向から2つの放射線が入射され、各放射線は、600〜800keVのエネルギー区分及び800〜1000keVのエネルギー区分の2つの区分に存在している。もちろん、エネルギーの区分幅をより細かく設定することにより、チャート上においてエネルギー分解能を高めることができる。
【0069】
図19に示す例においては互いに異なる方位から互いに異なるエネルギーをもった2つの放射線が入射した場合の表示例が示されている。この例では、マークM4によって、30度の飛来方位から600〜800keVのエネルギー区分に属する放射線が入射されており、また、90度の飛来方位から800〜1000keVのエネルギー区分に属する放射線が入射されている。
【0070】
上記実施形態においては、シミュレーションを用いて応答関数群の作成を行ったが、実験によって応答関数群を作成するようにしてもよい。上記実施形態における放射線測定装置はモニタリングポストであったが、サーベイメータその他の放射線測定装置に対して本発明を適用することも可能である。例えば、β線を検出するサーベイメータに本発明を適用するようにしてもよい。上記実施形態においては、3つのシンチレータブロックによって放射線検出部が構成されていたが、もちろん4つ以上のシンチレータブロックによって放射線検出部を構成するようにしてもよい。2つのシンチレータブロックを配置した場合、すなわち上方から見て半円形状の2つのシンチレータブロックを配置した場合、0〜180度及び180〜360度の2つの範囲内における飛来方向の弁別は可能であるが、上記実施形態のように具体的な飛来方向を特定することはできない。よって、3つ以上のシンチレータブロックを配置するのが望ましい。上記実施形態においては、5つのエネルギー区分を設定したが、6個以上あるいは4個以下のエネルギー区分を設定するようにしてもよい。ただし、エネルギー区分の個数が少ない場合には適合関係を的確に判断することが難しくなるので、例えば4つ以上のエネルギー区分を設定するのが望ましい。
【0071】
図1に示したデータ処理部はマイクロプロセッサなどによって構成することができるが、CPU上で動作するソフトウエアの機能として実現するようにしてもよい。その場合においては、MCA46,48,50以降の構成をコンピュータに置き換えてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明に係る放射線測定装置の好適な実施形態を示すブロック図である。
【図2】図1に示すデータ処理部の処理内容を示すフローチャートである。
【図3】スペクトルに対する複数のエネルギー区分の設定を説明するための図である。
【図4】データ処理部の処理内容を説明するための概念図である。
【図5】第1応答関数を示す図である。
【図6】第2応答関数を示す図である。
【図7】第3応答関数を示す図である。
【図8】第4応答関数を示す図である。
【図9】第5応答関数を示す図である。
【図10】実測計数比列と理論計数比列の適合を示す図である。
【図11】第1応答関数と実証結果を示す第1関数を示す図である。
【図12】第2応答関数と実証結果を示す第2関数を示す図である。
【図13】第3応答関数と実証結果を示す第3関数を示す図である。
【図14】第4応答関数と実証結果を示す第4関数を示す図である。
【図15】第5応答関数と実証結果を示す第5関数を示す図である。
【図16】応答関数を作成する処理を示すフローチャートである。
【図17】第1表示例を示す図である。
【図18】第2表示例を示す図である。
【図19】第3表示例を示す図である。
【符号の説明】
【0073】
10 測定ユニット、12 演算ユニット、14 放射線検出部、16 光電変換部、20,22,24 シンチレータブロック、34,36,38 光検出器(光電子増倍管)、40,42,44 信号処理部、46,48,50 マルチチャンネルアナライザ(MCA)、52 データ処理部、54 メモリ(応答関数群記憶部)、56 表示処理部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
指向特性が互いに異なるように設けられた複数の検出器を有し、それらの検出器によって放射線を個別的に検出する検出部と、
前記複数の検出器を用いて得られた複数の検出データに基づいて、複数のエネルギー区分における各エネルギー区分ごとに前記複数の検出器に対応する複数の個別計数値についての相互間比率を表す実測比率情報を演算する演算手段と、
前記各エネルギー区分ごとに飛来方向に応じた理論比率情報を与える応答関数を生成する生成手段と、
前記複数のエネルギー区分に対応した複数の応答関数に対して前記複数のエネルギー区分に対応した複数の実測比率情報を照合し、特定の実測比率情報と特定の理論比率情報との間に適合関係が判定された場合に、それに基づいて前記検出部で検出された放射線について飛来方向及びエネルギー区分の少なくとも一方を識別する照合手段と、
を含むことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記照合手段は、前記検出部で検出された放射線について飛来方向及びエネルギー区分の双方を識別する、
ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項3】
請求項1記載の装置において、
前記各エネルギー区分ごとの実測比率情報は、前記複数の個別計数値をそれらの総和で規格化することによって求められる複数の実測計数比からなる実測計数比列として構成され、
前記飛来方向に応じた理論比率情報は、前記複数の実測計数比と照合される複数の理論計数比からなる理論計数比列として構成される、
ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項4】
請求項3記載の装置において、
前記演算手段は、
前記複数の検出データに基づいて前記複数の検出器に対応する複数のスペクトルを作成するスペクトル作成手段と、
前記複数のスペクトルに対して複数のエネルギー区分を設定し、各エネルギー区分ごとに前記複数の検出器に対応する複数の個別計数値を求める個別計数値演算手段と、
前記各エネルギー区分ごとに、前記複数の個別計数値をそれらの総和である全体計数値で除することによって前記複数の実測計数比を求める実測計数比演算手段と、
を含むことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項5】
請求項1記載の装置において、
前記生成手段で生成する前記各エネルギー区分ごとの応答関数は、前記飛来方向ごとの理論比率情報を与える数式又はテーブルとして構成された、
ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項6】
請求項5記載の装置において、
前記各エネルギー区分ごとの応答関数は、前記検出部についての仮想的なモデルを用いて仮想的に各方位から所定エネルギーをもった放射線を照射するシミュレーションの実行結果として予め作成される、
ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項7】
請求項1記載の装置において、
前記複数の検出器は、前記検出部における中心軸回りに配列されたn(但しn≧3)個のシンチレータブロックによって構成される、
ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項8】
請求項2記載の装置において、
前記検出部に対してエネルギーが異なる複数の放射線が入射された場合、前記照合手段により前記複数の放射線に対応する複数の適合関係が判定され、
前記判定された各適合関係ごとに飛来方向及びエネルギー区分が識別される、
ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項9】
請求項2記載の装置において、
前記照合手段によって識別された飛来方向及びエネルギー区分に基づいて所定の座標系上にマークをマッピングすることによってチャートを作成するチャート作成手段と、
前記チャートを表示するチャート表示手段と、
を含むことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項10】
請求項9記載の装置において、
前記所定の座標系における円周方向は飛来方向を表し、前記所定の座標系における径方向はエネルギー区分を表す、
ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項11】
請求項9記載の装置において、
前記チャート作成手段は、線量情報に応じて前記マークの表示態様を変化させる、
ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項12】
請求項11記載の装置において、
前記線量情報は、前記照合手段によって識別されたエネルギー区分について演算された線量情報である、
ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項13】
請求項11記載の装置において、
前記マークの表示態様の変化には、サイズ変化、形状変化、色相変化及び輝度変化の内の少なくとも1つが含まれる、
ことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項14】
水平指向特性が互いに異なるように設けられたn(但しn≧3)個の検出器を有する検出部を備えた放射線測定装置におけるデータ処理方法において、
前記n個の検出器を用いて得られたn個の検出データに基づいて、m(但しm≧2)個のエネルギー区分における各エネルギー区分ごとに前記n個の検出器に対応するn個の個別計数値についての相互間比率を表す実測比率情報を演算する工程と、
前記各エネルギー区分ごとに飛来方向に応じた理論比率情報を与える応答関数を生成する工程と、
前記m個のエネルギー区分に対応するm個の応答関数に対して前記m個のエネルギー区分に対応するm個の実測比率情報を照合し、特定の実測比率情報と特定の理論比率情報との間に適合関係が判定された場合に、それに基づいて前記検出部で検出された放射線について飛来方向及びエネルギー区分を識別する工程と、
を含むことを特徴とする放射線測定装置におけるデータ処理方法。
【請求項15】
請求項14記載のデータ処理方法において、
更に、飛来方向を円周方向に対応付け且つエネルギー区分を径方向に対応付けた極座標系上に、前記識別された飛来方向及びエネルギー区分を表すマークをマッピングすることによってチャートを作成する工程を含むことを特徴とする放射線測定装置におけるデータ処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2007−155332(P2007−155332A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−346308(P2005−346308)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(独立行政法人科学技術振興機構新技術開発委託事業、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの)
【出願人】(301032942)独立行政法人放射線医学総合研究所 (149)
【出願人】(390029791)アロカ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】