説明

放射線測定装置

【課題】ノイズ侵入による誤動作を確実に防止し、かつ誤作動防止のための信号処理を行う際に生じる実質的な欠測時間を最小限に抑えた放射線測定装置を提供する。
【解決手段】第1のカウンタ3の計数値と第2のカウンタ6の計数値とを比較し、その比較結果が所定の許容範囲を逸脱して上昇したらノイズを検知したと判断し、ノイズが存在する期間中は前回の演算周期で得られた計数率を今回の演算周期で得られた計数率として採用する。そして、上記比較結果が所定の許容範囲に復帰したならノイズ侵入がなくなったと判断し、アップダウンカウンタ7の積算値に基づく正規の計数率が正常復帰するまでの期間中、第1のカウンタ3の計数値に基づき演算されたバックアップ計数率を今回の演算周期の計数率として採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉施設、使用済燃料再処理施設等の放出管理あるいは放射線管理に用いられる放射線モニタを構成する放射線測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、原子炉施設、使用済燃料再処理施設等で使用される放射線測定装置は放射線を検出した結果としての信号パルスの入力繰り返し周波数が0.01cps程度から10cps程度までの広いレンジをカバーして測定することが求められる。この場合、レンジ切り替えに伴う不連続性をなくすために、従来、広い測定レンジをレンジ切り換えなしで高速で動作するアップダウンカウンタを用いた計数率測定が行われている。
【0003】
この計数率測定は、アップダウンカウンタにおいて加算入力と減算入力がバランスしたときの積算値を演算器が一定の演算周期で読み取って計数率を演算するもので、特に高計数率まで測定できるという利点がある。
【0004】
しかしながら、アップダウンカウンタを用いた場合には、一度ノイズが進入すると元の計数率の値に戻るまでは時定数で復帰する特性があり、その間は実質的な欠測時間となる。したがって、計数率を効率良く測定するためには、計数率が正常復帰するまでの欠測時間の最小化を図ることが重要である。
【0005】
そこで、従来は、アップダウンカウンタに並列して別途にカウンタを設置し、このカウンタの計数値増加が一過性か継続性かをチェックし、一過性のものであればノイズ侵入と判定して、一時的に当該カウンタの計数値に基づく計数率を求めて出力する。一方、アップダウンカウンタの積算値に基づく計数率が復帰したなら、ノイズ侵入がなくなったと判断して、その計数率に出力を切り換えることにより、装置の高速性を損なわずにノイズ進入による誤動作を防止するとともに、誤動作防止の信号処理に伴う欠測時間が長くならないように抑制する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
【特許文献1】特許第3517331号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の特許文献1記載の従来の放射線測定装置は、カウンタの計数値の増加が一過性のものか、継続するものかを時間的な推移によって見極めることでノイズ侵入の有無を判定するので、その判定には所定の時間(演算周期×回数)の経過が必須であり、長時間継続するノイズを考慮すると依然として判定時間を長く取らざるを得ず、その間が実質的に欠測になるという課題があった。
【0008】
また、カウンタの計数値上昇がノイズ侵入によるものではなくて真の放射線の増加によるものであった場合には、アップダウンカウンタの積算値に基づいて得られる計数率に切り換えて出力されるために、測定される計数率が突変して段差を生じ、計数率測定時の連続性が損なわれるという課題があった。
【0009】
さらに、ノイズの侵入期間が上記ノイズ判定のために要する所定の時間経過よりも長く継続している場合には、演算器は真の放射線の増加によるもと誤判定してしまい、その結果、測定される計数率が誤って上昇してしまうという課題がある。そして、このように測定される計数率が急に上昇した場合に、ノイズ侵入に起因した上昇か、真の放射線増加による上昇かを見極める上では、デジタルオシロスコープ等を接続して確認する必要があり、測定精度を確保する上で余分な手間と時間を要する。
【0010】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたもので、放射線検出器が放射線を検出した結果としてのアナログ信号パルスを入力して放射線量を測定する際に、有害なノイズ侵入による誤動作を確実に防止するとともに、誤作動防止のための信号処理を行う際に生じる欠測時間を最小限に抑えることができる放射線測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、本発明の放射線測定装置は、放射線検出器から出力されるアナログの信号パルスを入力して所定の波高条件を満たすパルスを弁別して出力する波高弁別手段と、この波高弁別手段から出力されるパルスを一定周期毎に計数して計数値を出力する第1の計数手段と、上記アナログの信号パルスを入力して所定の波形条件を満たすパルスを弁別して出力する波形弁別手段と、この波形弁別手段から出力されるパルスと上記波高弁別手段から出力されるパルスの論理積条件を満たすパルスを出力する論理積手段と、この論理積手段から出力されるパルスを上記一定周期毎に計数して計数値を出力する第2の計数手段と、上記波高弁別手段から出力されたパルスを加算カウントするとともに、フィードバックパルスを減算カウントして積算値を出力する加減積算手段と、この加減積算手段に入力されるパルスが標準偏差に基づいて重み付けされて計数されるように制御する積算制御手段と、上記加減算手段から出力される積算値に応じた繰り返し周波数をもつ上記フィードバックパルスを上記加減積算手段に出力するパルス発生手段と、一定の演算周期毎に上記第1の計数手段の計数値、上記第2の計数手段の計数値、および上記加減積算手段の積算値をそれぞれ入力し、これらの値に基づいて上記加減積算手段の積算値に対して時定数の一次遅れで応答する計数率を算出する演算手段とを備え、
上記演算手段は、今回の演算周期で得られる上記第1、第2計数手段の各計数値の比較を行い、両者の比較結果が所定の許容範囲を逸脱して上昇した場合には、前回の演算周期で得られた計数率を今回の演算周期の計数率として決定する一方、上記第1、第2計数手段の各計数値の比較結果が所定の許容範囲に復帰した場合には、前回の演算周期で得られた計数率と上記第1の計数手段の今回の演算周期で得られた計数値とに基づいてバックアップ計数率を求め、このバックアップ計数率を今回の演算周期で得られた上記加減積算手段の積算値に基づく正規の計数率と比較し、上記正規の計数率が所定の許容範囲に復帰するまでは上記バックアップ計数率を今回の計数率として決定し、上記正規の計数率が所定の許容範囲に復帰した場合には、上記正規の計数率を今回の計数率として決定するものであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、第1の計数手段の計数値と第2の計数手段の計数値とを比較することによりノイズ侵入を検知し、比較結果が所定の許容範囲を逸脱して上昇したらノイズを検知したと判断し、ノイズが存在する期間は前回の演算周期で得られた計数率を今回の演算周期で得られた計数率として採用し、比較結果が所定の許容範囲に復帰したならばノイズ侵入がなくなったと判断して、加減算手段の積算値に基づく正規の計数率が正常復帰するまでの間、第1の計数手段の計数値に基づいて演算されたバックアップ計数率を今回の演算周期の計数率として採用するようにしたので、ノイズ侵入による計数率の過度の上昇を確実に防止できるとともに、ノイズ侵入による欠測を最小限に抑制することができ、高速の放射線測定装置を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1における放射線測定装置の構成を示すブロック図である。
【0014】
図1において、図外の放射線検出器が放射線を検出した結果として得られるアナログの信号パルスは、信号入力端子1から波高弁別器2と波形弁別器4にそれぞれ入力される。
【0015】
波高弁別器2は、上記入力された信号パルスの電圧レベルが所定の許容範囲(図2のf1〜f2)内にあるものを弁別してデジタルパルスとして出力する。
【0016】
第1のカウンタ3は、波高弁別器2から出力されたデジタルパルスを入力して一定の演算周期ΔT毎に計数して計数値を出力する。
【0017】
波形弁別器4は、入力される信号パルスが逆極性側に所定のレベル(図2のf4)を超えるもの、あるいは、所定の波高値レベル(図2のf3)以上の信号パルスの内で予め設定された許容範囲Δwを逸脱したものをそれぞれ除去して、正規の極性でかつパルス幅が許容範囲Δw内の信号パルスのみを弁別してデジタルパルスとして出力する。なお、f3〜f4の範囲は不感帯となる。
【0018】
AND回路5は、波高弁別器2から出力されるデジタルパルスと波形弁別器4から出力されるデジタルパルスのAND条件でデジタルパルスを出力する。
【0019】
第2のカウンタ6は、AND回路5から出力されたデジタルパルスを一定の演算周期ΔT毎に計数してその計数値を出力する。
【0020】
アップダウンカウンタ7は、波高弁別器2から出力される繰り返し周波数FINのデジタルパルスを加算入力端子UPに入力し、また、パルス発生器9から出力された繰り返し周波数Fのデジタルパルスを減算入力端子DOWNに入力して、その結果である積算値Mをパルス発生器9および演算器10に出力する。
【0021】
積算制御回路8は、アップダウンカウンタ7の加算入力端子UPおよび減算入力端子DOWNに加わる入力パルスを予め計数率分布に基づいて設定された標準偏差σによって重み付けして計数するようにアップダウンカウンタ7を制御する。例えば、アップダウンカウンタ7の加算入力端子に1パルスが入力されたとした場合、重み付けが“4”のときには、4パルス分が加算入力端子に入力されたのと等価になる。したがって、積算制御回路8から与えられる重み付け計数は計数率の応答性と関係するが、この点については、後の実施の形態3において詳述する。
【0022】
パルス発生器9は、アップダウンカウンタ7から出力された積算値Mを入力し、この積算値Mの関数で表される繰り返し周波数F(M)のパルスを出力し、これをアップダウンカウンタ7の減算入力端子にフィードバックパルスとして与える。
【0023】
演算器10は、第1のカウンタ3から出力された計数値、第2のカウンタ6から出力された計数値、アップダウンカウンタ7から出力された積算値Mをそれぞれ入力し、それらの値を用いて計数率nを求め、その計数率nを工学値変換を行って放射線測定値として測定値出力端子11から出力する。さらに、演算器10は、予め設定された標準偏差σに基づき、積算制御回路8の重み付け計数を決定する。
【0024】
メモリ13は、演算器10の演算に必要な演算手順と設定値を記憶するとともに、演算結果を格納する。なお、12はノイズ侵入があったと判断された場合に警報を出力するための警報出力端子である。
【0025】
ここで、上記の波高弁別器2が特許請求の範囲の波高弁別手段に、波形弁別手段4が特許請求の範囲の波形弁別手段に、第1のカウンタ3が特許請求の範囲の第1の計数手段に、AND回路5が特許請求の範囲の論理積手段に、第2のカウンタ6が特許請求の範囲の第2の計数手段に、アップダウンカウンタ7が特許請求の範囲の加減算手段に、パルス発生器9が特許請求の範囲のパルス発生手段に、演算器10が特許請求の範囲の演算手段にそれぞれ対応している。
【0026】
図2は、放射線測定装置のノイズ除去動作を概念的に示すタイムチャートであって、同図(a)は信号入力端子1に入力されるアナログの信号パルスを、同図(b)は波高弁別器2から出力されるデジタルパルスを、同図(c)は波形弁別器4から出力されるデジタルパルスを、同図(d)はAND回路5から出力されるデジタルパルスをそれぞれ示している。
【0027】
ここに、f1、f2はそれぞれ波高弁別器2において信号パルスの波高値を弁別する下限レベルと上限レベルを示し、f3は波形弁別器4においてパルス幅弁別の対象となる信号パルスを選別するレベルを示し、f4は逆極性パルスを検出するレベルを示す。ここで、f1≧f3になるように設定され、波高弁別器2で信号パルスとみなされる入力パルスは、全て波形弁別器4におけるパルス幅弁別の対象となるようにしている。
【0028】
波高弁別器2は、正規の極性で波高値がf1〜f2の範囲内にある信号(この例ではb1、b4、b6、b8、b10〜b15の各信号パルス)のみを抽出し、これらの信号をそれぞれデジタルパルス(この例ではc1、c4、c6、c8、c10〜c15の各パルス)に変換して出力する。したがって、b2、b3、b9の信号パルスは、波高値が許容範囲f1〜f2外のためにノイズとして排除される。
【0029】
波形弁別器4は、正規の極性(信号パルスが所定の波高値レベルf3以上)で、かつ、パルス幅が許容範囲Δw内の信号パルスのみを弁別してデジタルパルスに変換して出力し、その他の信号パルスはノイズとして排除する。しかも、波形弁別器4は、信号パルスが逆極性側に所定のレベルf4を越えるものを検出した場合、その検出時点から所定の期間中は信号パルスの入力の有無に係わらずデジタルパルスを出力しない不感時間が設定されている。
【0030】
したがって、図2の例では、b2は不感帯のために排除され、b5〜b8は逆極性側に所定のレベルf4を越えかつ不感時間内に入力されるために排除される。また、b10、b11は波高値レベルf3以上の正規の極性であるがパルス幅が許容範囲Δw内に収まっていないので排除される。したがって、結局、b1、b3、b4、b9、b12〜b15の各信号パルスのみが抽出され、これらの信号パルスがそれぞれデジタルパルスd1、d3、d4、d9、d11〜d15に変換されて出力される。
【0031】
次に、AND回路5は、波高弁別器2の出力パルス(c1、c4、c6、c8、c10〜c15)と波形弁別器4の出力パルス(d1、d3、d4、d9、d11〜d15)のAND条件を満たすパルスを出力する。したがって、AND回路5からは図2(d)に示すように、j1、j4、d12〜j15のデジタルパルスが出力され、これが第2のカウンタ6に入力される。
【0032】
このように、波高値異常のものや、逆極性のもの、正規の極性であるがパルス幅が許容範囲Δwから外れているような各信号パルスは、AND回路5によって除去される。しかし、図2の例でb4の信号パルスは、ノイズ特有の振動波形の第1波であり、信号パルスと同じ極性となるために除去し難い。このような場合には、例えば波形弁別器4の出力を所定の時間だけ遅延して、その間に逆極性のものがないかチェックし、その結果で、すなわち時間遅れを持たせてデジタルパルスを出力するようにすれば、信号パルスb4についてもノイズとみなして除去することが可能である。
【0033】
ここで、第1のカウンタ3で一定の演算周期ΔT内にc1、c4、c6、c8、c10〜c15の各パルスを計数したときの計数値をN3とし、また、第2のカウンタ6で一定の演算周期ΔT内にj1、j4、d12〜j15の各パルスを計数したときの計数値をN6とすると、ノイズ進入時にはN3とN6との間に差を生じる。
【0034】
アップダウンカウンタ7は、上記のようにして波高弁別器2から出力される繰り返し周波数FINのデジタルパルスを加算入力端子UPに入力し、またパルス発生器9から出力される繰り返し周波数F(M)のデジタルパルスを減算入力端子DOWNに入力し、その結果の積算値Mをパルス発生器9および演算器10にそれぞれ出力する。パルス発生器9は、積算値Mを入力してこの積算値Mの関数で表される繰り返し周波数F(M)のデジタルパルスを出力する。
【0035】
演算器10は、積算値Mを入力して後述の(1)式に基づいて計数率nを演算する。また、演算器10は、予め設定された標準偏差σに基づき積算制御回路8の計数の重み付けを決定する。なお、フィードバックパルスの繰り返し周波数F(M)と計数率nは、波高弁別器2から出力されるパルスの繰り返し周波数FINに平衡するように時定数τの一次遅れで追従して応答する。
【0036】
図3はこの実施の形態1の放射線測定装置における演算器10の演算処理手順を示すフロー図である。なお、以降において、符号Sは各処理ステップを意味する。また、今回の演算周期で得られる値は(今回)として表記し、また、前回の演算周期で得られた値は(前回)として表記する。
【0037】
演算器10は、第1のカウンタ3の計数値N3(今回)と第2のカウンタ6の計数値N6(今回)とアップダウンカウンタ7の積算値M(今回)を読み込む(S1)。
【0038】
次に、N3(今回)とN6(今回)の比が予め設定された許容上限k1を超えたかどうかを判断する(S2)。ここで、許容上限k1を超えていない場合は、ノイズ侵入が少ないものと判断し、下記の(1)式によりアップダウンカウンタ7の積算値M(今回)に基づき正規の計数率n(今回)を演算し(S3)、この計数率n(今回)を出力して(S4)、S1に戻る。
n(今回)=eγM(今回)=2γM(今回)/ln2 (1)
ここに、nは計数率、σは標準偏差、γ=2−λln2、λは定数である。
【0039】
一方、S2で許容上限k1を超えている場合は、ノイズ侵入の可能性が高いため、計数率n(前回)を計数率n(今回)として出力し(S5)、ΔT経過後の次の演算周期でN3(今回)とN6(今回)とアップダウンカウンタ7の積算値M(今回)を読み込み(S6)、N3(今回)とN6(今回)の比が許容上限k1を超えているかどうかを判断する(S7)。その際、N3(今回)とN6(今回)の比が許容上限k1を超えている場合は、依然としてノイズ侵入の可能性が高いものと判断してS5に戻る。
【0040】
一方、上記のS7で許容上限をk1を超えていない場合は、ノイズ侵入が終了したものと判断して、第1カウンタ3の計数値N3(今回)を用いてバックアップ計数率nを算出する。すなわち、まず、下記の(2)式に基づいて、計数率n(前回)を用いて前回の演算周期における積算値M(前回)を求める(S8)。続いて、下記の(3)式に基づいて、S8で求めたM(前回)とN3(今回)と前回の演算周期に出力した計数率n(前回)とを用いて積算値Mを今回分として求める(S9)。引き続いて、前述の(1)式に基づいて、S9で求めたM(今回)を用いてバックアップ計数率nを今回分として求める(S10)。
【0041】
M(前回)=ln{n(前回)}/γ (2)
ただし、γ=2−λln2
M(今回)=M(前回)+2α×{N3(今回)−n(前回)×ΔT} (3)
ただし、ΔT:測定時間
【0042】
上記S10で算出されるバックアップ計数率nは、アップダウンカウンタ7の積算値Mに基づく正規の計数率そのものではないが、上記(1)式、(3)式から分かるように、アップダウンカウンタ7の前回の積算値をベースにして、第1のカウンタ3の計数値N3(今回)を用いて算出するので、正規の計数率に比較的近似した値となる。
【0043】
続いて、上記(1)式に基づいて、アップダウンカウンタ7の積算値Mを用いて正規の計数率n(今回)を求める(S11)。そして、この正規の計数率n(今回)と上記の第1のカウンタ3の計数値N3を用いて得られるバックアップ計数率n(今回)の比が許容上限k2を超えているかどうかを判断する(S12)。
【0044】
ここで、許容上限k2を超えている場合は、アップダウンカウンタ7の積算値に基づく正規の計数率が未だ正常復帰していないものと判断してバックアップ計数率n(今回)を出力し(S13)、ΔT経過後の次の演算周期でS6に戻る。
【0045】
一方、S12で許容上限k2を超えていない場合は、アップダウンカウンタ7の積算値に基づく正規の計数率が正常復帰しているものと判断して正規の計数率n(今回)を出力し(S4)、ΔT経過後の次の演算周期でS1に戻る。
【0046】
なお、上記S2、S7、S12での比較の基準値となるk1、k2は、それぞれ実質的な計数誤差を包含し、放射線測定値に影響しないように、例えば計数誤差+放射線の統計的変動×3倍に設定するのが好ましい。
【0047】
図4は、この実施の形態1においてノイズ侵入時の計数率の応答性を概念的に示すタイムチャートである。
ここに、g1の期間はノイズ侵入のない初期状態を示し、g2の期間はノイズ侵入時に前回演算周期の計数率を今回演算周期の計数率として固定した状態を示し、g3の期間はノイズ侵入がなくなってバックアップ計数率に移行した状態を示し、g4の期間は正規の計数率に復帰した状態を示す。また、符号h1はノイズ侵入時にアップダウンカウンタ7の積算値Mにより得られる正規の計数率が上昇する過渡状態を示し、h2はノイズ侵入がなくなってアップダウンカウンタ7の積算値Mにより得られる正規の計数率が正常復帰するまでの過渡状態を示し、h0はこの実施の形態1において演算器10から実際に出力される計数率の変化を示す。
【0048】
以上のように、この実施の形態1では、第1のカウンタ3の計数値N3と第2のカウンタ6の計数値N6を比較することによりノイズ侵入を検知し、ノイズを検知したならば、ノイズが存在する期間は前回の演算周期で得られた計数率を今回の演算周期で得られた計数率として採用し(図3のS5〜S7)、ノイズ侵入がなくなったらば、アップダウンカウンタ7の積算値に基づく正規の計数率が正常復帰するまでの期間中、第1のカウンタ3の計数値に基づき演算されたバックアップ計数率を今回の演算周期で得られた計数率として採用する(図3のS6〜S13)ようにしたので、ノイズ侵入による計数率nの過度の上昇を確実に防止できるとともに、ノイズ侵入による実質的な欠測を最小限に抑制することができ、高速の放射線測定装置を提供することができる。
【0049】
実施の形態2.
図5は本発明の実施の形態2における放射線測定装置の構成を示すブロック図であり、図1に示した実施の形態1と対応する構成部分には同一の符号を付す。
【0050】
上記の実施の形態1では、アップダウンカウンタ7の加算入力端子UPに対して波高弁別器2から出力されたデジタルパルスが入力されている。これに対して、実施の形態2では、図5に示すように、アップダウンカウンタ7の加算入力端子UPに対してAND回路5から出力されたデジタルパルスが入力されるようにしている。その他の構成は図1に示した実施の形態1と同様である。
【0051】
ここで、実施の形態1の場合と同様、図2(a)に示したようなアナログの信号パルスが信号入力端子1に入力されたとした場合、波高弁別器2からは図2(b)に示したように、c1、c4、c6、c8、c10〜c15の各デジタルパルスが出力されてこれが第1のカウンタ3で計数される。また、AND回路5からは図2(d)に示したように、j1、j4、d12〜j15の各デジタルパルスが出力されてこれが第2のカウンタ6で計数される。したがって、実施の形態1の場合と同様、第1のカウンタ3で一定の演算周期ΔT内にc1、c4、c6、c8、c10〜c15のパルスを計数したときの計数値をN3とし、第2のカウンタ6で一定周期ΔT内にj1、j4、d12〜j15のパルスを計数したときの計数値をN6とすると、ノイズ進入時にはN3とN6との間に差を生じる。
【0052】
この実施の形態2の放射線測定装置における演算器10の基本的な演算処理の流れは、図3に示した実施の形態1におけるフロー図と同じであるが、S9の処理内容が実施の形態1と異なっている。
【0053】
すなわち、実施の形態1のバックアップ計数率n(今回)は、S8で求めた積算値M(前回)と、第1のカウンタ3の計数値N3(今回)と、前回の演算周期に出力した計数率n(前回)とに基づいて算出する。これに対して、この実施の形態2では、AND回路5の出力をアップダウンカウンタ7の加算入力端子UPに入力するようにしているので、図3に示したフロー図のS9において、S8で求めた積算値M(前回)と、第2のカウンタ6の計数値N6(今回)と、計数率n(前回)とを利用して、下記の(4)式に基づいて積算値M(今回)を求める。
M(今回)=M(今回)+2α×{N6(今回)−n(前回)×△T} (4)
演算器10におけるその他の演算処理手順は実施の形態1の場合と同様であるから、ここでは詳しい説明は省略する。
【0054】
以上のように、この実施の形態2では、実施の形態1と同様にノイズ侵入による計数率nの過度の上昇を確実に防止できるとともに、AND回路5により波高弁別器2の出力と波形弁別器4のAND条件でノイズパルスを除去し、その結果のデジタルパルスをアップダウンカウンタ7の加算入力端子UPに入力しているので、実施の形態1のように波高弁別器2で弁別したパルスをアップダウンカウンタに直接入力する場合に比べてノイズによるアップダウンカウンタ7の積算値の増加がより小さくなる。このため、ノイズ侵入期間中の実質的な欠側を実施の形態1よりも少なくでき、バックアップ計数率から正規の計数率への切り換えも速めることができる。したがって、誤作動防止のための信号処理を行う際に生じる実質的な欠測時間の短縮化を図ることが可能となる。
【0055】
実施の形態3.
上記の実施の形態1、2では、演算器10がバックアップ計数率を採用するか否かにかかわらず、標準偏差σを常に一定値に設定して動作させている。これに対して、この実施の形態3では、演算器10がバックアップ計数率を採用している期間は、標準偏差σの値を変更することで、応答速度を速くして誤作動防止のための信号処理を行う際に生じる実質的な欠測時間の短縮化を図るようにしたものである。
【0056】
ここで、アップダウンカウンタ7に入力される繰り返し周波数のパルスに対する演算器10で求められる計数率nの応答性について説明する。
【0057】
いま、nを計数率、σを標準偏差、τを時定数としたとき、これらには次式で示す関係がある。
n=F(M)=eγM=2γM/ln2 (5)
σ=1/(2nτ)1/2=(γ/2)1/2 (6)
τ=1/(2nσ) (7)
γ=2σ=2−λln2 (8)
α=11−λ (9)
ここに、γは重み付け計数の関係因子、α,λは零または正の整数である。
【0058】
上記(8)式において、λを例えば11、9、7、5とすると、上記(6)式で示すように標準偏差σはそれぞれ1.3%、2.6%、5.2%、10.4%となる。上記(8)式でλが11のときを基準にすると、λが9,7,5の時、γはそれぞれ2倍、2倍、2倍となり、上記(6)式のように標準偏差σはそれぞれ2倍、2倍、2倍となり、上記(7)式のように時定数τはそれぞれ2−2倍、2−4倍、2−6倍となる。
【0059】
上記(5)式に示すように、計数率nが一定の状態で、γを2α倍にすると、Mは2−α倍で平衡する。nが一定の状態において、γを変えてもMが変化しないようにするには、γを2α倍にしたアップダウンカウンタ7は、パルスの重み付けを2α倍にして計数すればよい。すなわち、アップダウンカウンタ7の加算入力71に波高弁別器2から出力されたデジタルパルスが1個入力されると、Mは2αだけ加算計数される。一方、アップダウンカウンタ7の減算入力72にパルス発生器9から出力されるデジタルパルスが1個入力されると、Mは2αだけ減算計数される。結果として積算値Mは、加算計数と減算計数の差の積算値Nに2αを掛け算した値になる。上記(9)式のようにλが11、9、7、5の時、αとしてそれぞれ0,2,4,6が与えられる。例えば、λが11の時は1パルスの入力に対して1個として加算または減算され、MとNは等しくなる。λが9の時は1パルスの入力に対して4個として加算または減算される。
【0060】
したがって、上記(5)式においてγを2α倍に変えることは、計数の重み付けを2α倍に変えることと同等であり、計数率nは、2α倍に重み付けされた結果の積算値Mと基準のλ=11(α=0)に対応するγに基づき(5)式により求められる。
【0061】
このように、積算制御回路8がアップダウンカウンタ7の計数の重み付けを制御することにより、標準偏差σを容易に変更することができる。また、(5)式〜(9)式の関係から見て、標準偏差σを変更しても積算値Mは変化しないので、測定中に指示の中心値を変化させることなく応答性を変えることができる。なお、上記(5)式はパルス発生器9の出力パルスをクロックパルスで合成する等の回路上の都合あるいは演算処理の都合に合わせて、例えば折れ線近似してもよい。
【0062】
図6は、符号a1で示すような一定期間にわたってステップ状の信号パルスが入力された場合に、演算器10から出力される信号の応答性を概念的に示すタイムチャートである。
ここに、曲線a2は標準偏差σ=2.6%における出力応答を、曲線a3は標準偏差σ=5.2%における出力応答をそれぞれ示している。出力は時間経過とともに指数関数で減少し、標準偏差σが大きいほど時定数τの値が小さくなって出力の応答が速いことが分かる。これは前述の(7)式の関係においても示されている。
【0063】
そこで、この実施の形態3では、バックアップ計数率nを出力する際に、上記(5)式の正規の計数率を、上記(8)式のγをγ1からγ2>γ1の関係にあるγ2に自動的に切り換える。これに伴い、上記(6)式の標準偏差σはσ2>σ1の関係にあるσ2に変更され、さらに上記(7)式で求められる時定数τはτ2<τ1の関係のτ2に変更されるので、小さい時定数τ2でアップダウンカウンタ7を動作させることができる。
【0064】
図7はこの実施の形態3の放射線測定装置における演算器10の演算処理手順を示すフロー図である。
この演算器10における基本的な演算処理の流れは、図3に示した実施の形態1におけるフロー図と同じであるが、実施の形態1と異なる点は、S12に続いて、バックアップ計数率n(今回)を出力するときには(S13)、標準偏差をσ2(>σ1)に設定し(S14)、ΔT経過後の次の演算周期でS6に戻る。これに対して、正規の計数率n(今回)を出力したときには(S15)、標準偏差をσ1に設定し(S16)、ΔT経過後の次の演算周期でS1に戻る。
【0065】
図8は、この実施の形態3におけるノイズ侵入時の計数率の応答性を概念的に示すタイムチャートである。
ここに、曲線h21,h22はノイズ侵入がなくなってアップダウンカウンタ7を使用して得られる正規の計数率が正常復帰する過渡状態を示しており、曲線h21は上記のτ1(標準偏差σ1)に対応し、曲線h22は上記のτ2(標準偏差σ2)に対応している。
【0066】
図8から分かるように、演算器10がバックアップ計数率の出力を開始してから、アップダウンカウンタ7の積算値Mに基づく正規の計数率を出力するまでに要する時間は、時定数がτ1に設定した場合にはg3の期間を要するが、この実施の形態3のように標準偏差をσ2(>σ1)、つまり時定数をτ2(<τ1)に設定した場合はg32となり時間を短縮化できる。その他の記号は図4に示した実施の形態1の場合と同じなので説明を省略する。
【0067】
以上のように、この実施の形態3では、バックアップ計数率を採用している間は標準偏差をσ1からσ2に切り換えて時定数を小さくて応答性を高めているので、実施の形態1,2の場合よりもさらに短時間で高計数率測定可能な状態、すなわち、アップダウンカウンタ7を使用した正規の測定状態に復帰させることができる。したがって、誤作動防止のための信号処理を行う際に生じる実質的な欠測時間の短縮化をさらに促進することができる。
【0068】
実施の形態4.
上記の実施の形態1〜3では、ノイズが侵入して波高弁別器2および波形弁別器4でノイズを除去しきれずにアップダウンカウンタの積算値が上昇しても計数率に影響しないように演算処理されるので、結果として外部で生じているノイズ源が放置されることになり、機器の故障を拡大させる原因となる可能性がある。
【0069】
そこで、この実施の形態4では、第1のカウンタ3の計数値N3(今回)と第2のカウンタ6の計数値N6(今回)との比が所定の条件を逸脱した場合にはノイズ侵入があったとものと判断して注意を促す注意警報を出力するようにしたものである。
【0070】
図9はこの実施の形態4の放射線測定装置における演算器10の演算処理手順を示すフロー図である。
この演算器10における基本的な演算処理の流れは、図3に示した実施の形態1におけるフロー図と同じであるが、実施の形態1と異なる点は、図3のS1に続いて、N3(今回)とN6(今回)の比が予め設定した許容上限k1を超えたかどうかを判断する(S2)。この時点で許容上限k1を超えている場合は、ノイズ侵入があったものと判断し、計数率n(前回)を計数率n(今回)として出力した後(S5)、警報出力端子12から注意警報を発信する(S17)。そして、ΔT経過後の次の演算周期でS6に移行する。
その他の構成、および作用効果は、実施の形態1の場合と同様であるから、ここでは詳しい説明は省略する。
【0071】
以上のように、この実施の形態4では、N3(今回)とN6(今回)との比が許容上限k1を超えた場合には注意警報を発信するようにしたので、それをトリガとしてタイムリーな調査が可能となり、内部ノイズの原因である機器故障の拡大を防止できるとともに、正確なノイズ侵入時刻を把握できるため、外部のノイズ源の特定が容易になる。
【0072】
実施の形態5.
この実施の形態5では、例えば図示しない放射線検出器の故障等に起因して信号入力端子1に入力されるべき信号パルスが測定途中で喪失した場合に、故障警報の発信タイミングを速めて故障復旧時間を短縮できるようにしたものである。
【0073】
すなわち、上記の実施の形態4では、アップダウンカウンタ7が積算値Mを計数している際には標準偏差σを固定して動作させているが、このように、標準偏差を固定して動作させる場合、測定値のゆらぎを一定にできる反面、計数率に反比例して時定数が長くなるという特性のために故障警報の発信が遅れるというデメリットがある。
【0074】
そこで、この実施の形態5では、計数率が予め設定した許容下限値を逸脱して低下した場合には、その逸脱した期間については、上記(8)式のγをγ1からγ3>γ1の関係にあるγ3に自動的に切り換える。これに伴い、上記(6)式の標準偏差σはσ3>σ1の関係にあるσ3に変更され、さらに上記(7)式で求められる時定数τはτ3<τ1の関係のτ3に変更されるので、小さい時定数τ3でアップダウンカウンタ7を動作させることができる。
【0075】
図10はこの実施の形態5の放射線測定装置における演算器10の演算処理手順を示すフロー図である。
この演算器10における基本的な演算処理の流れは、図3に示した実施の形態1におけるフロー図と同じであるが、実施の形態1と異なる点は、図3のS4に続いて、計数率n(今回)が予め設定した第1の許容下限値p1以下かどうかを判断し(S18)、第1の許容下限値p1以下の場合には、信号入力端子1から入力されるべき信号パルスが喪失した可能性が高いものと判断して標準偏差をσ3(>σ1)に設定する(S19)。引き続いて、計数率n(今回)が予め設定した第2の許容下限p2(<p1)以下かどうかを判断し(S20)、第2の許容下限p2以下の場合は、信号パルスの喪失が確実なものと判断して故障警報を発信する(S21)。その後は、ΔT経過後の次の演算周期でS1に戻る。
【0076】
一方、S18で第1の許容下限値p1以下でない場合には、放射線検出器の故障等の可能性は少ないものと判断して標準偏差をσ1に設定し(S16)、次の演算周期でS1に戻る。また、S21で第2の許容下限p2以下でない場合には、ΔT経過後の次の演算周期でS1に戻る。
【0077】
図11はこの実施の形態5における入力信号喪失時の計数率の応答性を概念的に示すタイムチャートである。
ここに、曲線h31はパルス喪失により標準偏差がσ1に設定された下で計数率が時定数τ1で低下する応答を示し、また、曲線h32は標準偏差がσ3(>σ1)に設定された下で計数率が時定数τ3(<τ1)で低下するこの実施の形態5における応答を示す。
【0078】
また、g5の期間は、時定数τ1の下でアップダウンカウンタ7の積算値Mに基づいて得られる通常の計数率の状態を示し、g6の期間の曲線h31は、放射線検出器の故障等に起因して信号パルスの喪失により計数率が時定数τ1で低下して第2の許容下限p2の故障警報発信に至る計数率の応答を示す。また、g7の期間の曲線h31は、故障警報発信後も計数率が時定数τ1で低下しているときの応答を示す。g8の期間の曲線h31は、信号パルス喪失により計数率が時定数τ1で低下して第1の許容下限p1に至るまでの応答を示し、g9の期間の曲線h32は、信号パルス喪失により計数率が時定数τ3で低下して第2の許容下限p2の故障警報発信に至るまでの応答を示す。
【0079】
この図11から分かるように、この実施の形態5では放射線検出器の故障等に起因して信号パルスが喪失し、計数率が第1の許容下限p1に達すると、時定数がτ1からτ3(<τ1)に切り換えられるため、計数率の低下の応答性が高くなり故障警報発信に至るまでの期間が短くなる。
【0080】
以上のように、この実施の形態5では、計数率が予め設定した第1の許容下限値p1を逸脱して低下したら、この逸脱した期間について、標準偏差をσ1からσ3に自動的に切り換えて小さい時定数τ3(<τ1)でアップダウンカウンタ7を動作させるようにしたので、実施の形態4の場合よりも故障警報の発信を速めることができ、迅速な対応が可能になり、故障復旧時間を短縮できるという利点が得られる。
【0081】
実施の形態6.
上記の実施の形態5では、放射線検出器の故障等に起因して信号入力端子1に入力されるべき信号パルスが喪失した場合に、標準偏差σを自動的に切り換えて小さい時定数でアップダウンカウンタ7を動作させて故障警報の発信タイミングを速めている。
【0082】
これに対して、この実施の形態6では、第1のカウンタ3の計数値N3、または第2のカウンタ6の計数値N6が“0”である状態が、今回を含めて過去に溯った演算周期の所定の周期回数m分の期間(=m・ΔT)中に、予め設定した基準値u以上に繰り返された場合には、信号入力端子1に入力されるべき信号パルスが喪失したものと判断して標準偏差σを自動的に切り換えることにより、小さい時定数で計数率が応答するようにしたものである。
【0083】
図12はこの実施の形態6の放射線測定装置における演算器10の演算処理手順を示すフロー図である。
この演算器10における基本的な演算処理の流れは、図10に示した実施の形態5におけるフロー図と同じであるが、実施の形態5の場合と異なる点は、図10の場合と同じS4に続いて、今回を含めた直近の演算周期ΔTのm回分の期間(=ΔT・m)にわたって、第2のカウンタ6の計数値N6が“0”となる周期回数が予め設定した所定の基準値u以上かどうかを判断する(S22)。
【0084】
そして、第2のカウンタ6の計数値N6が“0”となる周期回数が基準値u以上の場合は、信号入力端子1から入力されるべき信号パルスが喪失した可能性が高いものと判断して標準偏差をσ3(>σ1)に設定する(S19)。引き続いて、n(今回)が第2の許容下限p2以下かどうかを判断し(S20)、第2の許容下限p2以下の場合は、信号パルスの喪失が確実なものと判断して故障警報を発信する(S21)。その後は、ΔT経過後の次の演算周期でS1に戻る。
【0085】
一方、S22で第2のカウンタ6の計数値N6が“0”となる回数が所定の基準値u未満である場合は、放射線検出器の故障等の可能性は少ないものと判断して標準偏差をσ1に設定し(S16)、次の演算周期でS1に戻る。また、S20で第2の許容下限p2以下でない場合には、ΔT経過後の次の演算周期でS1に戻る。
【0086】
例えば、演算周期ΔTを1秒とし、また、バックグラウンドの計数率を30cpmとすると、通常、バックグラウンドにおいて今回の演算周期を含む直近の60周期分の期間(=60・ΔT)にわたって、第2のカウンタ6の計数値N6が“0”となる回数は30回を中心に分布する。標準偏差の3倍のゆらぎを見込むと、計数値N6が“1”となる回数は正常な統計的変動では13回以下になることはない。したがって、演算の60周期分の期間中に計数値N6が“0”となる回数が47回以上になった場合には標準偏差をσ1からσ3に切り替えるようにすると、信号喪失の場合は47秒で標準偏差が切り換わることになる。いま、標準偏差σ1を0.26%、σ3を10.4%とし、第2の許容下限p2を例えば20cpmとすると、実施の形態5において標準偏差をσ1からσ3に切り換える場合と比べて、実施の形態6では信号喪失から標準偏差を切り換えるまでの時間を数10分のオーダで短縮することができる。
【0087】
なお、図12に示したフロー図では、第2のカウンタ6の計数値N6に基づいて標準偏差をσ1からσ3に切り替える場合の演算手順について説明したが、第1のカウンタ3の計数率N3に基づいて同様の演算手順で行ってもよい。
【0088】
以上のように、この実施の形態6では、演算周期ΔTのm回分にわたる期間(=m・ΔT)中に、第1のカウンタ3の計数値N3、あるいは第2のカウンタ6の計数値N6が“0”となる周期回数が所定の回数u分を超えた場合には、該当する期間について小さい時定数で測定値が応答するように標準偏差を切り換えるようにしたので、故障警報の発信を実施の形態5の場合よりもさらに速めることができ、より早期に対策を講じることができる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の実施の形態1における放射線測定装置の構成を示すブロック図である。
【図2】同装置のノイズ除去動作を概念的に示すタイムチャートである。
【図3】同装置における演算器の演算処理手順を示すフロー図である。
【図4】本発明の実施の形態1において、ノイズ侵入時の計数率の応答性を概念的に示すタイムチャートである。
【図5】本発明の実施の形態2における放射線測定装置の構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の実施の形態3における一定期間にわたってステップ状の信号パルスが入力された場合に、演算器から出力される信号の応答特性を概念的に示すタイムチャートである。
【図7】本発明の実施の形態3の放射線測定装置における演算器の演算処理手順を示すフロー図である。
【図8】本発明の実施の形態3において、ノイズ侵入時の計数率の応答性を概念的に示すタイムチャートである。
【図9】本発明の実施の形態4の放射線測定装置における演算器の演算処理手順を示すフロー図である。
【図10】本発明の実施の形態5の放射線測定装置における演算器の演算処理手順を示すフロー図である。
【図11】本発明の実施の形態5において、入力信号喪失時の計数率の応答性を概念的に示すタイムチャートである。
【図12】本発明の実施の形態6の放射線測定装置における演算器の演算処理手順を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0090】
1 信号入力端子、2 波高弁別器(波高弁別手段)、
3 第1のカウンタ(第1の計数手段)、4 波形弁別器(波形弁別手段)、
5 AND回路(論理積手段)、6 第2カウンタ(第2の計数手段)、
7 アップダウンカウンタ(加減算手段)、8 積算制御回路(積算制御手段)、
9 パルス発生器(パルス発生手段)、10 演算器、11 測定値出力端子、
12 警報出力端子、13 メモリ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線検出器から出力されるアナログの信号パルスを入力して所定の波高条件を満たすパルスを弁別して出力する波高弁別手段と、この波高弁別手段から出力されるパルスを一定周期毎に計数して計数値を出力する第1の計数手段と、上記アナログの信号パルスを入力して所定の波形条件を満たすパルスを弁別して出力する波形弁別手段と、この波形弁別手段から出力されるパルスと上記波高弁別手段から出力されるパルスの論理積条件を満たすパルスを出力する論理積手段と、この論理積手段から出力されるパルスを上記一定周期毎に計数して計数値を出力する第2の計数手段と、上記波高弁別手段から出力されたパルスを加算カウントするとともに、フィードバックパルスを減算カウントして積算値を出力する加減積算手段と、この加減積算手段に入力されるパルスが標準偏差に基づいて重み付けされて計数されるように制御する積算制御手段と、上記加減算手段から出力される積算値に応じた繰り返し周波数をもつ上記フィードバックパルスを上記加減積算手段に出力するパルス発生手段と、一定の演算周期毎に上記第1の計数手段の計数値、上記第2の計数手段の計数値、および上記加減積算手段の積算値をそれぞれ入力し、これらの値に基づいて上記加減積算手段の積算値に対して時定数の一次遅れで応答する計数率を算出する演算手段とを備え、
上記演算手段は、今回の演算周期で得られる上記第1、第2計数手段の各計数値の比較を行い、両者の比較結果が所定の許容範囲を逸脱して上昇した場合には、前回の演算周期で得られた計数率を今回の演算周期の計数率として決定する一方、上記第1、第2計数手段の各計数値の比較結果が所定の許容範囲に復帰した場合には、前回の演算周期で得られた計数率と上記第1の計数手段の今回の演算周期で得られた計数値とに基づいてバックアップ計数率を求め、このバックアップ計数率を今回の演算周期で得られた上記加減積算手段の積算値に基づく正規の計数率と比較し、上記正規の計数率が所定の許容範囲に復帰するまでは上記バックアップ計数率を今回の計数率として決定し、上記正規の計数率が所定の許容範囲に復帰した場合には、上記正規の計数率を今回の計数率として決定するものであることを特徴とする放射線測定装置。
【請求項2】
上記加減算手段は、上記波高弁別手段から出力されたパルスを加算カウントする代わりに、上記論理積手段から出力されたパルスを加算カウントするものであり、かつ、上記演算手段は、今回の演算周期で得られる上記第1、第2計数手段の各計数値の比較を行った結果、その比較結果が所定の許容範囲に復帰している場合には、前回の演算周期で得られた計数率と上記第1の計数手段の今回の演算周期で得られた計数値とに基づいてバックアップ計数率を求める代わりに、前回の演算周期で得られた計数率と上記第2の計数手段の今回の演算周期で得られた計数値とに基づいてバックアップ計数率を求めるものであることを特徴とする請求項1記載の放射線測定装置。
【請求項3】
上記演算手段は、バックアップ計数率を今回の演算周期の計数率としている期間において、上記積算制御手段の標準偏差に基づく重み付けを切り換えることで上記加減積算手段の計数を制御し、上記積算値に基づく正規の計数率に復帰するまでの計数率の応答を速くするものである、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の放射線測定装置。
【請求項4】
上記演算手段は、上記第1の計数手段の計数値と上記第2の計数手段の計数値の比較を行い、両者の比較結果が所定の条件を逸脱した場合にはノイズ進入とみなして警報を出力するものである、ことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の放射線測定装置。
【請求項5】
上記演算手段は、上記積算値に基づく正規の計数率が予め設定された下限値を逸脱して低下した場合には、その逸脱した期間において、上記積算制御手段の標準偏差に基づく重み付けを切り換えることで上記加減積算手段の計数を制御し、上記積算値に基づく計数率の応答を速くするものである、ことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の放射線測定装置。
【請求項6】
上記演算手段は、第1の計数手段または上記第2の計数手段の計数値が、今回を含めて過去に溯った演算周期の所定の周期回数分にわたる期間中に、計数値が零である周期回数が予め設定した所定の回数を超えた場合には、その逸脱した期間において、上記積算制御手段の標準偏差に基づく重み付けを切り換えることで上記加減積算手段の計数を制御し、上記積算値に基づく計数率の応答を速くするものである、ことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の放射線測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−215907(P2008−215907A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−51012(P2007−51012)
【出願日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】