説明

放射線測定装置

【課題】アナログパルス信号のパイルアップによる数え落とし補正と誤計数を減算する補正を行い、測定レンジの上限まで高精度な測定が可能な放射線測定装置を提供する。
【解決手段】放射線検出器1により出力されたアナログパルス信号が所定の条件を満たす場合にデジタルパルス信号を出力する波高弁別器3とシグナルチャンネル波高分析器4を備え、第1のカウンタ5と第2のカウンタ6は、それぞれから出力されたデジタルパルス信号を計数し、計数値M、Pを出力する。演算器7は、計数値Mから得られる計数率mに対して、メモリ8に格納された数え落とし補正テーブル81を参照して数え落とし補正を行い、1次補正計数率nを求める。さらに、計数値Pから得られる計数率pに対して、メモリ8に格納された誤計数補正テーブル82を参照してパイルアップによる誤計数率qを求め、2次補正計数率(n−q)を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性物質や放射線を取り扱う施設内の環境及びプロセスの放射線測定、または施設周辺環境の放射線測定に使用される放射線測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所、核燃料再処理施設等、放射性物質や放射線を取り扱う施設では、施設内の環境及びプロセスの放射線測定、または施設周辺環境の放射線測定をするために、それぞれの目的に応じた放射線測定装置が設置されている。施設内環境の放射線測定用としては、例えば半導体検出器が用いられ、プロセスの放射能測定用としては、例えばNaIシンチレーション検出器またはプラスチックシンチレーション検出器が用いられる。さらに、施設周辺環境の放射線測定用としては、例えばNaIシンチレーション検出器が用いられる。
【0003】
これらの放射線測定装置の測定レンジは、プロセスの放射能測定用では10〜10cpm(cpm;1分間の計数率)、環境放射線測定用では1〜10nGy/hと広範囲であり、入射する放射線はランダムで統計的な広がりを有している。さらに、放射線検出器から出力されるアナログパルス信号が幅を有するため、測定レンジの上限に近づくにつれてアナログパルス信号がパイルアップ(近い時間に発生したパルスが重なって見かけ上高くなり1つのパルスとして計数されること)する確率が無視できなくなる。その結果、計数率または放射線量の出力が低下する、いわゆる数え落とし現象が生じる。
【0004】
このようなパイルアップによる数え落としを補正する従来技術としては、例えば特許文献1に提示されている数え落とし補正式(数式1)が一般に知られている。なお、数式1において、nは数え落とし補正した計数率、mは測定による計数率、t1はダブルパルス分解時間(2つのパルスの計数が2パルス計数から1パルス計数になる限界の時間間隔)である。
n=m/(1−m・t1) (数式1)
【0005】
ただし、上記の数式1は、まひ型(paralysable)モデルの場合の補正式であり、非まひ型(nonparalysable)モデルの場合には適さない。このため、例えば特許文献2では、まひ型モデル及び非まひ型モデルのいずれの場合でも補正ができるランダムパルス計数装置が提示されている。この例では、弁別手段の出力パルス信号をゲート信号によりマスクし、これにより得られたパルス信号を出力パルス信号に加算して補正する方法が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭56−37512号公報
【特許文献2】特開平2−155311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の数式1に示す従来の非まひ型モデルの補正式による補正では、数え落としが10%以上となる高計数域では補正不足により測定精度が低下するという問題があり、測定レンジ上限近傍の出力の直線性を改善する必要があった。
【0008】
一方、パイルアップに起因する現象としては、上記のような数え落としのみでなく、波高弁別レベルよりも低いパルスが、パイルアップにより波高弁別レベルを超えて計数されてしまう誤計数も起こり得る。特に、波高弁別レベルの下限近くにアナログパルス信号の分布が集中している場合は、このような誤計数が無視できなくなり、数式1のような単純な計算式による補正では精度が低いという問題があった。なお、特許文献1で提示された補正方法においても、パイルアップによる数え落とし分を加算する補正のみであり、誤計数による数え過ぎを減算する補正は行っていない。
【0009】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、アナログパルス信号のパイルアップによる数え落とし補正と誤計数を減算する補正を行うことができ、測定レンジの上限まで高精度な測定が可能な放射線測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る放射線測定装置は、外部から入射した放射線を吸収しそのエネルギーに依存した波高値のアナログパルス信号を出力する放射線検出手段と、放射線検出手段により出力されたアナログパルス信号をそれぞれ所定の条件に基づいて弁別し当該条件を満たす場合にデジタルパルス信号を出力する第1及び第2の弁別手段と、第1及び第2の弁別手段により出力されたデジタルパルス信号をそれぞれ計数する第1及び第2の計数手段と、第1及び第2の計数手段による計数値をもとに求めた計数率に対して補正演算を実行する演算手段と、演算手段における補正演算で用いられる補正テーブルを格納する記憶手段を備えたものである。記憶手段は、第1の計数手段による計数値Mから得られる計数率mに対してアナログパルス信号のパイルアップによる数え落とし補正を行うための数え落とし補正テーブルと、第2の計数手段による計数値Pから得られる計数率pに対してアナログパルス信号のパイルアップによる誤計数を減算する補正を行うための誤計数補正テーブルを有し、演算手段は、第1の計数手段による計数値Mを所定の周期で入力して計数率mを求める第1の計数率演算手段と、第2の計数手段による計数値Pを所定の周期で入力して計数率pを求める第2の計数率演算手段と、計数率mに対して数え落とし補正テーブルを参照してパイルアップによる数え落とし補正を行い1次補正計数率nを求める1次補正演算手段と、計数率pに対して誤計数補正テーブルを参照してパイルアップによる誤計数率qを求め、さらに1次補正計数率nから誤計数率qを減算した2次補正計数率(n−q)を求める2次補正演算手段を有するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る放射線測定装置によれば、放射線検出手段により出力されたアナログパルス信号をそれぞれ所定の条件に基づいて弁別し当該条件を満たす場合にデジタルパルス信号を出力する第1及び第2の弁別手段と、第1及び第2の弁別手段により出力されたデジタルパルス信号をそれぞれ計数する第1及び第2の計数手段を備え、第1の計数手段による計数値Mから得られる計数率mに対して数え落とし補正を行い1次補正計数率nを求め、さらに、第2の計数手段による計数値Pから得られる計数率pについてパイルアップによる誤計数率qを求めて2次補正計数率(n−q)を求めるようにしたので、アナログパルス信号のパイルアップによる数え落とし補正と、パイルアップによる誤計数(数え過ぎ)を減算する補正を行うことができ、高計数域における計数率の直線性が良好となり、測定レンジ上限まで高精度な測定が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施の形態1に係る放射線測定装置の構成を示す概略図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係る放射線測定装置のメモリに格納された数え落とし補正テーブルを示す図である。
【図3】本発明の実施の形態1に係る放射線測定装置のメモリに格納された誤計数補正テーブルを示す図である。
【図4】本発明の実施の形態2に係る放射線測定装置のメモリに格納された数え落とし及び誤計数補正テーブルを示す図である。
【図5】本発明の実施の形態3に係る放射線測定装置の構成を示す概略図である。
【図6】本発明の実施の形態4に係る放射線測定装置の構成を示す概略図である。
【図7】本発明の実施の形態5に係る放射線測定装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態1.
以下に、本発明の実施の形態1に係る放射線測定装置について、図面に基づいて説明する。図1は、本実施の形態1に係る放射線測定装置の構成を示している。放射線検出手段である放射線検出器1は、外部から入射した放射線を吸収しそのエネルギーに依存した波高値のアナログパルス信号を出力する。パルス増幅器2は、放射線検出器1から出力されたアナログパルス信号を入力して波高値を比例的に増幅する。
【0014】
第1の弁別手段である波高弁別器3は、放射線検出器1により出力されパルス増幅器2で増幅されたアナログパルス信号を所定の条件に基づいて弁別し、当該条件を満たす場合にデジタルパルス信号Aを出力する。
【0015】
また、第2の弁別手段であるシングルチャンネル波高分析器4は、放射線検出器1により出力されパルス増幅器2で増幅されたアナログパルス信号を所定の条件に基づいて弁別し、当該条件を満たす場合にデジタルパルス信号Bを出力する。本実施の形態1では、シングルチャンネル波高分析器4は、波高弁別器3の波高弁別レベルを上限とする所定の波高値以下で且つノイズ領域を含まない範囲に設定されたウィンドウにおいてアナログパルス信号を弁別する。
【0016】
第1の計数手段である第1のカウンタ5は、波高弁別器3により出力されたデジタルパルス信号Aを入力して計数し、計数値Mを出力する。また、第2の計数手段である第2のカウンタ6は、シングルチャンネル波高分析器4により出力されたデジタルパルスBを入力して計数し、計数値Pを出力する。
【0017】
なお、放射線検出器1としては、測定対象に応じてNaI(Tl)シンチレーション検出器、CsI(Tl)シンチレーション検出器、YAP(Ce)シンチレーション検出器、半導体検出器、プラスチックシンチレーション検出器等が用いられる。また、第1の弁別手段として、波高弁別器3の代わりにシングルチャンネル波高分析器を用いてもよい。
【0018】
演算手段である演算器7は、第1のカウンタ5による計数値M、及び第2のカウンタ6による計数値Pをもとに求めた計数率に対して補正演算を実行するもので、第1の計数率演算手段(図中、第1の計数率演算と記す)71、1次補正演算手段(図中、1次補正演算と記す)72、第2の計数率演算手段(図中、第2の計数率演算と記す)73、2次補正演算手段(図中、2次補正演算と記す)74、及び放射線量演算手段(図中、放射線量演算と記す)75を有している。
【0019】
第1の計数率演算手段71は、第1のカウンタ5による計数値Mを所定の周期で入力して計数率mを求める。1次補正演算手段72は、計数率mに対して後述の数え落とし補正テーブル81を参照してパイルアップによる数え落とし補正を行い、1次補正計数率nを求める。
【0020】
また、第2の計数率演算手段73は、第2のカウンタ6による計数値Pを所定の周期で入力して計数率pを求める。2次補正演算手段74は、計数率pに対して後述の誤計数補正テーブル82を参照してパイルアップによる誤計数率qを求め、さらに1次補正計数率nから誤計数率qを減算した2次補正計数率(n−q)を求める。
【0021】
放射線量演算手段75は、2次補正計数率(n−q)に基づき、必要に応じて例えば線量率、線量等量率、放射能濃度を求める演算を実行する。表示器9は、演算器7による演算結果、すなわち2次補正計数率、線量率、線量等量率、放射能濃度等を適宜出力する。
【0022】
記憶手段であるメモリ8は、演算器7における補正演算で用いられる補正テーブルを格納するもので、本実施の形態1では、数え落とし補正テーブル81と誤計数補正テーブル82を有している。数え落とし補正テーブル81は、図2に示すように、第1のカウンタ5による計数値Mから得られる計数率mに対して、アナログパルス信号のパイルアップによる数え落とし補正を行うためのものである。図2において、nは、計数率mに対して数え落とし補正を行った1次補正計数率である。
【0023】
また、誤計数補正テーブル82は、図3に示すように、第2のカウンタ6による計数値Pから得られる計数率pに対してアナログパルス信号のパイルアップによる誤計数を減算する補正を行うためのものである。図3において、qは、計数率pに対する誤計数率である。数え落とし補正テーブル81と誤計数補正テーブル82の作成方法については後述する。
【0024】
次に、第1の計数率演算手段71及び第2の計数率演算手段73における計数率m、pの演算方法について説明する。第1のカウンタ5による今回演算周期の計数をM(今回)、今回演算周期の計数率をm(今回)、前回演算周期の計数率をm(前回)、下記の数式2〜数式5の定義により数式6で求める積算値をR、今回演算周期の積算値をR(今回)、前回演算周期の積算値をR(前回)、演算周期の時間をΔT、標準偏差をσ、時定数をτ、時定数に係わる定数をγ、1カウントの計数の重み付けをαとする時、第1の計数率演算手段71は、下記の数式6及び数式7の演算を実行して今回演算周期の計数率m(今回)を求めることができる。
【0025】
σ=1/(2mτ)1/2=(γ/2)1/2 (数式2)
τ=1/(2mσ) (数式3)
γ=1/(mτ)=2−λln2 (数式4)
α=11−λ (数式5)
R(今回)=R(前回)+2α×{M(今回)−m(前回)×ΔT} (数式6)
m(今回)=eγR(今回)=2γR(今回)/ln2 (数式7)
【0026】
数式5においてλを例えば11、9、7、5とすると、数式4と数式2から標準偏差σはそれぞれ1.3%、2.6%、5.2%、10.4%となる。数式5でλが11の時を基準にすると、λが9、7、5の時、γはそれぞれ2倍、2倍、2倍となり、数式2のように標準偏差σはそれぞれ2倍、2倍、2倍となり、数式3のように時定数はそれぞれ2−2倍、2−4倍、2−6倍となる。
【0027】
なお、高計数域では、例えば測定レンジ上限が10cpmであってM/ΔTが10cpmのとき、σを0.026とすると、τ(10cpm)は約44msecであり、ΔTが200msecの場合、数式7で求めたm(今回)に対してM/ΔTは応答的な差が微小であり、補正を行う上での時間的なずれについては問題ない。
【0028】
また、第2のカウンタ6による今回演算周期の計数をP(今回)、今回演算周期の計数率をp(今回)、前回演算周期の計数率をp(前回)、上記の数式2〜数式5の定義により数式8で求める積算値をSとすると、第2の計数率演算手段73は、下記の数式8及び数式9の演算を実行して今回演算周期の計数率p(今回)を求めることができる。
S(今回)=S(前回)+2α×{P(今回)−p(前回)×ΔT} (数式8)
p(今回)=eγS(今回)=2γS(今回)/ln2 (数式9)
【0029】
なお、高計数域では、例えば測定レンジ上限が10cpmであって、M/ΔTが10cpmのとき、P/ΔTが2×10cpmで、σを0.026とすると、τ(2×10cpm)は約222msecであるので、ΔTが200msecの場合、数式7で求めたm(今回)及び数式9で求めたp(今回)に対して応答的な差が微小であり、補正を行う上での時間的なずれについては問題ない。
【0030】
次に、1次補正演算手段72において用いられる数え落とし補正テーブル81(図2)の作成方法について説明する。数え落とし補正テーブル81は、実験的に発生させた擬似信号パルスでダブルパルスを近接させて、波高弁別器3のデジタルパルス出力がなくなる時のパイルアップの分解時間t1を求め、下記の数式10により計数率mに対する一次補正計数率nを求めることにより作成される。
m=n・exp(−n・t1) (数式10)
【0031】
なお、1次補正演算手段72による補正演算は、放射線検出器1から出力されるアナログパルス信号の入射放射線に対する計数率の応答が、パイルアップによる数え落としにより直線から乖離する範囲に限定して実行し、その他の範囲については実行する必要はない。例えば、放射線測定装置の計数率の測定レンジ仕様が10〜10cpmで、数え落としにより直線からの乖離が発生する範囲が10〜10cpmの場合、1次補正演算手段72による補正演算は、10〜10cpmの高計数域に限定して実行される。
【0032】
次に、2次補正演算手段74において用いられる誤計数補正テーブル82(図3)の作成方法について説明する。誤計数補正テーブル82は、実験的に発生させた擬似信号パルスでダブルパルスを近接させてパイルアップによる誤計数が発生する近接時間t2を求め、下記の数式11により計数率pに対する誤計数率qを求めることにより作成される。
【0033】
具体的には、波高弁別器においてウィンドウを複数の領域に分け、それぞれの代表波高において、波高の組み合わせ毎に2つの擬似信号パルスの間隔を近づけて、波高弁別器により計数されるようになった時間(すなわち誤計数が発生した近接時間t2)を実験的に求め、平均的な近接時間t2を用いて下記の数式11により誤計数補正テーブル82を作成する。
q=p{1−exp(−p・t2)} (数式11)
【0034】
以上のように、本実施の形態1では、波高弁別器3とシグナルチャンネル波高分析器4により出力されたデジタルパルス信号をそれぞれ計数する第1のカウンタ5と第2のカウンタ6を備え、第1のカウンタ5による計数値Mから得られる計数率mに対して、メモリ8に格納された数え落とし補正テーブル81を参照して数え落とし補正を行い1次補正計数率nを求め、さらに、第2のカウンタ6による計数値Pから得られる計数率pに対して、メモリ8に格納された誤計数補正テーブル82を参照してパイルアップによる誤計数率qを求め、2次補正計数率(n−q)を求めるようにした。
【0035】
これにより、アナログパルス信号のパイルアップによる数え落とし補正と、パイルアップによる誤計数(数え過ぎ)を減算する補正を行うことができ、高計数域における計数率の直線性が良好となり、測定レンジ上限まで高精度な測定が可能な放射線測定装置が得られる。
【0036】
実施の形態2.
本発明の実施の形態2に係る放射線測定装置の主な構成は、上記実施の形態1と同様であるので、図1を流用して説明する。上記実施の形態1では、1次補正演算手段72は、実験的に発生させた擬似信号パルスでダブルパルスを近接させて求めたダブルパルス分解時間t1を数式10に適用して作成した数え落とし補正テーブル81を参照して補正演算を実行し、1次補正計数率nを求めるようにした。また、2次補正演算手段74も同様に、平均的な誤計数発生近接時間t2を数式11に適用して作成した誤計数補正テーブル82を参照して補正演算を実行し、誤計数率qを求め、2次補正計数率(n−q)を求めるようにした。
【0037】
これに対し、本実施の形態2では、計数率mに対してアナログパルス信号のパイルアップによる数え落とし補正と誤計数を減算する補正を同時に行うようにした。メモリ8は、図4に示す数え落とし及び誤計数補正テーブルを格納しており、演算器7は、1次補正演算手段72と2次補正演算手段74を統合した補正演算手段(図示せず)により、数え落とし及び誤計数補正テーブルを参照して補正計数率rを求める。なお、ここで求められた補正計数率rは、上記実施の形態1における2次補正計数率(n−q)に相当するものである。
【0038】
本実施の形態2で用いられる数え落とし及び誤計数補正テーブル(図4)の作成方法について説明する。測定対象の放射線のエネルギーが明確で、且つ実際に照射することが可能な場合、予め実験的に当該放射線を照射して計数率mに対する補正計数率rを求め、数え落とし及び誤計数補正テーブルを作成する。
【0039】
具体的には、数え落としが無視でき且つ適度の計数率で統計的誤差が少ない計数率を基準とした理想直線に対し、パイルアップによる数え落としにより直線から乖離する範囲について、標準線源と放射線検出器の距離を変えて3点以上の計数率mに対する補正計数率rを実測する。それらの実測値を折れ線で結び、これを直線に近似することにより、数え落とし及び誤計数補正テーブルを作成することができる。
【0040】
本実施の形態2によれば、測定による計数率mに対してアナログパルス信号のパイルアップによる数え落とし補正と誤計数を減算する補正を同時に行うようにしたので、上記実施の形態1と同様に、高計数域における計数率の直線性が良好となり、測定レンジ上限まで高精度な測定が可能な放射線測定装置が得られる。
【0041】
実施の形態3.
図5は、本発明の実施の形態3に係る放射線測定装置の構成を示している。なお、図5中、図1と同一、相当部分には同一符号を付している。本実施の形態3に係る放射線測定装置は、第2の弁別手段として、マルチチャンネル波高分析器(MCA)10を備えたものである。
【0042】
MCA10は、波高弁別器3の波高弁別レベルを上限とする所定の波高値以下で且つノイズ領域を含まない範囲に設定された複数のウィンドウにおいて、アナログパルス信号を弁別する。例えば、波高弁別器3の波高弁別レベル以下で且つノイズ領域を含まない範囲を3分割して3つのウィンドウを設定した例について以下に説明する。
【0043】
第2の計数率演算手段73は、上記実施の形態1と同様に、それぞれのウィンドウでの計数値P1、P2、P3から、計数率p1、p2、p3を求める。メモリ8には、それぞれのウィンドウ毎の計数率p1、p2、p3対して、上記の数式11からパイルアップによる誤計数率q1、q2、q3を求めたq1誤計数補正テーブル83、q2誤計数補正テーブル84、及びq3誤計数補正テーブル85が格納されている。
【0044】
2次補正演算手段74は、計数率p1、p2、p3のそれぞれに対して、各誤計数補正テーブル83、84、85を参照してパイルアップによる誤計数率q1、q2、q3を求め、2次補正計数率(n−q1−q2−q3)を求める。なお、1次補正計数率nの求め方については上記実施の形態1と同様であるので説明を省略する。
【0045】
本実施の形態3によれば、上記実施の形態1と同様の効果に加え、第2の弁別手段としてMCA10を備えることにより、高計数域における計数率の直線性がさらに良好となり、より高精度な補正が行える。
【0046】
実施の形態4.
図6は、本発明の実施の形態4に係る放射線測定装置の構成を示している。なお、図6中、図1と同一、相当部分には同一符号を付している。本実施の形態4に係る放射線測定装置は、第1の弁別手段として波形弁別器11を備えたものである。
【0047】
波形弁別器11は、放射線検出器1により出力されたアナログパルス信号について信号波形とノイズ波形を弁別するとともに、定周期で信号波形とノイズ波形の比率を求め、演算器7に対して出力する。演算器7は、信号波形とノイズ波形の比率が所定の閾値を超えた場合には、1次補正演算手段72及び2次補正演算手段74による補正演算を実行しない。
【0048】
本実施の形態4によれば、上記実施の形態1と同様の効果に加え、第1の弁別手段として波形弁別器11を備え、放射線検出器1により出力されたアナログパルス信号について信号波形とノイズ波形を弁別するようにしたので、ノイズによる誤った補正を防止することができ、さらに高精度な補正が行える。
【0049】
実施の形態5.
図7は、本発明の実施の形態5に係る放射線測定装置の構成を示している。なお、図7中、図1と同一、相当部分には同一符号を付している。本実施の形態5に係る放射線測定装置は、第1の計数手段としてアップダウンカウンタ12、周波数合成回路13、及び積算制御回路14を備えたものである。
【0050】
アップダウンカウンタ12は、定周期で波高弁別器3から出力されたデジタルパルス信号を加算入力121に入力するとともに、周波数合成回路13から出力されたデジタルパルス信号を減算入力122に入力し、これらの積算値Rを出力する。周波数合成回路13は、該積算値Rに基づいて演算器7のクロックパルスを分周して出力するデジタルパルス信号の周波数を変化させる。積算制御回路14は、アップダウンカウンタ12の計数において、加算入力121及び減算入力122に入力されたデジタルパルス信号が標準偏差σに基づき重み付けされるようにアップダウンカウンタ12を制御する。
【0051】
本実施の形態5では、アップダウンカウンタ12により出力される積算値Rに基づいて、下記の数式12により計数率mが求められる。それ以降の補正演算については上記実施の形態1と同様であるので説明を省略する。
m=eγR=2γR/ln2 (数式12)
【0052】
本実施の形態5によれば、上記実施の形態1と同様の効果に加え、アップダウンカウンタ12を用いることにより、積算値Rを高速回路で欠測なくワイドレンジで測定できるので、バースト状に変化する放射線に対しても高精度な測定が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、原子力発電所、核燃料再処理施設等、放射性物質や放射線を取り扱う施設で使用される放射線測定装置として利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 放射線検出器、2 パルス増幅器、3 波高弁別器、
4 シングルチャンネル波高分析器、5 第1のカウンタ、6 第2のカウンタ、
7 演算器、8 メモリ、9 表示器、10 マルチチャンネル波高分析器(MCA)、
11 波形弁別器、12 アップダウンカウンタ、13 周波数合成回路、
14 積算制御回路、71 第1の計数率演算手段、72 1次補正演算手段、
73 第2の計数率演算手段、74 2次補正演算手段、75 放射線量演算手段、
81 数え落とし補正テーブル、82 誤計数補正テーブル、
83 q1誤計数補正テーブル、84 q2誤計数補正テーブル、
85 q3誤計数補正テーブル、121 加算入力、122 減算入力。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から入射した放射線を吸収しそのエネルギーに依存した波高値のアナログパルス信号を出力する放射線検出手段と、前記放射線検出手段により出力されたアナログパルス信号をそれぞれ所定の条件に基づいて弁別し当該条件を満たす場合にデジタルパルス信号を出力する第1及び第2の弁別手段と、前記第1及び第2の弁別手段により出力されたデジタルパルス信号をそれぞれ計数する第1及び第2の計数手段と、前記第1及び第2の計数手段による計数値をもとに求めた計数率に対して補正演算を実行する演算手段と、前記演算手段における補正演算で用いられる補正テーブルを格納する記憶手段を備え、
前記記憶手段は、前記第1の計数手段による計数値Mから得られる計数率mに対してアナログパルス信号のパイルアップによる数え落とし補正を行うための数え落とし補正テーブルと、前記第2の計数手段による計数値Pから得られる計数率pに対してアナログパルス信号のパイルアップによる誤計数を減算する補正を行うための誤計数補正テーブルを有し、
前記演算手段は、前記第1の計数手段による計数値Mを所定の周期で入力して計数率mを求める第1の計数率演算手段と、前記第2の計数手段による計数値Pを所定の周期で入力して計数率pを求める第2の計数率演算手段と、計数率mに対して前記数え落とし補正テーブルを参照してパイルアップによる数え落とし補正を行い1次補正計数率nを求める1次補正演算手段と、計数率pに対して前記誤計数補正テーブルを参照してパイルアップによる誤計数率qを求め、さらに1次補正計数率nから誤計数率qを減算した2次補正計数率(n−q)を求める2次補正演算手段を有することを特徴とする放射線測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の放射線測定装置であって、前記数え落とし補正テーブルは、実験的に発生させた擬似信号パルスでダブルパルスを近接させてパイルアップの分解時間t1を求め、下式m=n・exp(−n・t1)により計数率mに対する一次補正計数率nを求めることにより作成されることを特徴とする放射線測定装置。
【請求項3】
請求項1に記載の放射線測定装置であって、前記誤計数補正テーブルは、実験的に発生させた擬似信号パルスでダブルパルスを近接させてパイルアップによる誤計数が発生する近接時間t2を求め、下式q=p{1−exp(−p・t2)}により計数率pに対する誤計数率qを求めることにより作成されることを特徴とする放射線測定装置。
【請求項4】
請求項1に記載の放射線測定装置であって、前記第1の弁別手段として、波高弁別器、シングルチャンネル波高分析器のいずれかを備えたことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項5】
請求項1に記載の放射線測定装置であって、前記第1の弁別手段として波形弁別器を備え、前記波形弁別器は、前記放射線検出手段により出力されたアナログパルス信号について信号波形とノイズ波形を弁別するとともに、定周期で信号波形とノイズ波形の比率を求め、当該比率が所定の閾値を超えた場合には、前記演算手段は、前記1次補正演算手段及び前記2次補正演算手段による補正演算を実行しないことを特徴とする放射線測定装置。
【請求項6】
請求項1に記載の放射線測定装置であって、前記第2の弁別手段としてシングルチャンネル波高分析器を備え、前記シングルチャンネル波高分析器は、所定の波高値以下で且つノイズ領域を含まない範囲に設定されたウィンドウにおいてアナログパルス信号を弁別することを特徴とする放射線測定装置。
【請求項7】
請求項1に記載の放射線測定装置であって、前記第2の弁別手段としてマルチチャンネル波高分析器を備え、前記マルチチャンネル波高分析器は、所定の波高値以下で且つノイズ領域を含まない範囲に設定された複数のウィンドウにおいてアナログパルス信号を弁別し、前記第2の計数率演算手段は、それぞれのウィンドウでの計数値P1、P2・・から計数率p1、p2・・を求め、また、前記記憶手段は、計数率p1、p2・・それぞれに対する誤計数補正テーブルを有し、前記2次補正演算手段は、計数率p1、p2・・それぞれに対して前記各誤計数補正テーブルを参照してパイルアップによる誤計数率q1、q2・・を求め、さらに2次補正計数率(n−q1−q2・・)を求めることを特徴とする放射線測定装置。
【請求項8】
請求項1に記載の放射線測定装置であって、前記記憶手段は、計数率mに対してアナログパルス信号のパイルアップによる数え落とし補正と誤計数を減算する補正を同時に行うための数え落とし及び誤計数補正テーブルを有し、また、前記演算手段は、前記1次補正演算手段と前記2次補正演算手段を統合した補正演算手段により、前記数え落とし及び誤計数補正テーブルを参照して2次補正計数率を求めることを特徴とする放射線測定装置。
【請求項9】
請求項1に記載の放射線測定装置であって、前記第1の計数手段としてアップダウンカウンタ、周波数合成回路及び積算制御回路を備え、前記アップダウンカウンタは、前記第1の弁別手段から出力されたデジタルパルス信号を加算入力に入力するとともに、前記周波数合成回路から出力されたデジタルパルス信号を減算入力に入力してこれらの積算値を出力し、前記周波数合成回路は、該積算値に基づいて出力するデジタルパルス信号の周波数を変化させ、前記積算制御回路は、前記アップダウンカウンタの計数において、前記加算入力及び前記減算入力に入力されたデジタルパルス信号が標準偏差σに基づき重み付けされるように、前記アップダウンカウンタを制御することを特徴とする放射線測定装置。
【請求項10】
請求項1に記載の放射線測定装置であって、前記放射線検出手段として、NaIシンチレーション検出器、CsIシンチレーション検出器、YAPシンチレーション検出器、半導体検出器、及びプラスチックシンチレーション検出器のいずれかを備えたことを特徴とする放射線測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate