説明

放射線被曝量取得装置および方法並びにプログラム

【課題】造影剤が注入される被写体を連続的に放射線撮影する場合においても、より正確な被写体の放射線被曝量を取得する。
【解決手段】造影剤が注入される被写体を連続的に放射線撮影することによって放射線画像検出器12により検出されたフレーム毎の放射線画像信号の集合である放射線動画信号に基づいて、放射線被曝量取得装置40において上記連続的な放射線撮影による被写体の放射線被曝量を取得する際、フレーム毎の放射線画像信号のうち、造影剤の像を表す画像信号が含まれているフレームを造影剤フレームとして特定し、造影剤フレームの分の放射線被曝量について、放射線被曝量を本来の数値に近づけるための補正を行うとともに、造影剤フレームより後の造影剤フレーム以外のフレームの分の放射線被曝量について、放射線被曝量を本来の数値に近づけるために、取得した放射線被曝量の数値を嵩上げする嵩上処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造影剤が注入される被写体を連続的に放射線撮影することにより取得されたフレーム毎の放射線画像信号の集合である放射線動画信号に基づいて、被写体の放射線被曝量を取得する放射線被曝量取得装置および方法並びにプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、放射線撮影を行う医療現場において、放射線撮影による患者の被曝量を管理することが重要視されている。放射線撮影による患者の被曝とガンなどの疾患などとの関連が注目されているため、放射線撮影による患者の被曝量を保存し、患者が累積的に受ける放射線被曝量を把握して管理することが要求されている。
【0003】
そして、放射線撮影によって患者が受ける放射線被曝量を計測する方法としては、例えば、放射線を射出する放射線源に面積線量計を設け、この線量計によって計測された値に基づいて患者が受ける放射線被曝量と取得する方法が提案されている。
【0004】
しかしながら、このような方法を採用する場合、患者の被曝量を計測するための線量計を新たに設ける必要があり、コストアップになる問題がある。
【0005】
そこで、上記のような線量計を設けるのではなく、患者の放射線画像を検出する放射線画像検出器によって検出された画像信号に基づいて患者の被曝量を取得することが提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4387644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、特許文献1においては、一般的な静止画撮影における患者の被曝量を取得することが提案されているが、実際の医療現場では、このような静止画撮影だけではなく、透視画像のような動画の撮影が行われる場合がある。
【0008】
そして、このような透視画像の撮影においては、例えば血管などに造影剤を注入し、血管などの造影剤画像を撮影、観察する場合が考えられるが、このような場合にも単純に放射線画像検出器の画像信号に基づいて患者の被曝量を取得しようとすると、算出値が本来患者が被曝している量とは異なる懸念がある。すなわち、造影剤での放射線吸収により、放射線画像検出器への放射線到達量が減少するからである。
【0009】
また、透視画像の撮影において造影剤が注入された場合、造影剤は一箇所に留まることなく患者の血管などを流れることになるので、透視画像の撮影による全てのフレームに造影剤の像が写り込むわけでなく、一部のフレームのみに造影剤が写り込むことになるので、その点も考慮して透視画像の撮影全体を通しての患者の被曝量を取得する必要がある。
【0010】
さらには、一度体内に造影剤を注入すると、血液中で希釈された造影剤が体内でしばらく残留するため、一見すると画像中に造影剤が写っていないようであっても、希釈・拡散された造影剤が画像に全体的に映り込んで、画像全体の信号値が僅かに変動するおそれがある。従って、体内に造影剤を注入した後は、造影剤注入直後程ではないものの、やはり被曝量の算出値が本来患者が被曝している量とは異なる懸念がある。
【0011】
なお、特許文献1には、透視画像の撮影全体を通しての被曝量の取得や、造影剤の写り込みや体内での造影剤の残留の影響なども考慮した被曝量の取得については一切提案されていない。
【0012】
本発明は、上記の事情に鑑み、造影剤が注入される被写体を連続的に放射線撮影する場合においても、より正確な被写体の放射線被曝量を取得することができる放射線被曝量取得装置および方法並びにプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の放射線被曝量取得装置は、造影剤が注入される被写体を連続的に放射線撮影することによって放射線画像検出器により検出されたフレーム毎の放射線画像信号に基づいて、連続的な放射線撮影による被写体の放射線被曝量を取得する放射線被曝量取得部と、フレーム毎の放射線画像信号のうち、造影剤の像を表す画像信号が含まれているフレームを造影剤フレームとして特定する造影剤フレーム特定部とを備え、放射線被曝量取得部が、造影剤フレームの分の放射線被曝量について、放射線被曝量を本来の数値に近づけるための補正を行うとともに、造影剤フレームより後の造影剤フレーム以外のフレームの分の放射線被曝量について、放射線被曝量を本来の数値に近づけるために、取得した放射線被曝量の数値を嵩上げする嵩上処理を所定期間行うものであることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の放射線被曝量取得方法は、造影剤が注入される被写体を連続的に放射線撮影することによって放射線画像検出器により検出されたフレーム毎の放射線画像信号に基づいて、連続的な放射線撮影による被写体の放射線被曝量を取得する放射線被曝量取得方法であって、フレーム毎の放射線画像信号のうち、造影剤の像を表す画像信号が含まれているフレームを造影剤フレームとして特定し、造影剤フレームの分の放射線被曝量について、放射線被曝量を本来の数値に近づけるための補正を行うとともに、造影剤フレームより後の造影剤フレーム以外のフレームの分の放射線被曝量について、放射線被曝量を本来の数値に近づけるために、取得した放射線被曝量の数値を嵩上げする嵩上処理を所定期間行うことを特徴とする。
【0015】
上記放射線被曝量取得装置および方法において、造影剤フレームの分の放射線被曝量について、放射線被曝量を本来の数値に近づけるための補正の方法については、特に限定はなく、どのような方法を用いてもよい。
【0016】
また、「嵩上処理」とは、数値を大きくする処理であって、1より大きい係数を掛ける処理や、所定値を加算する処理等、どのような処理でもよい。
【0017】
また、「所定期間」とは、連続的な放射線撮影により得られた全フレームのうち、造影剤フレームより後の造影剤フレーム以外の全フレームであってもよいし、造影剤フレームより後の有限の期間内のフレームであってもよい。
【0018】
また、過去のデータから造影剤の被写体内での残留の影響により放射線被曝量がどの程度の量および期間少なく取得されるかについての情報、もしくは、被写体へ注入した造影剤の量を示す情報を取得し、取得した情報に基づいて嵩上げする量および/または期間を決定するようにしてもよい。
【0019】
また、放射線画像信号のE.I.(Exposure Index)に基づいて放射線被曝量を取得することが好ましいが、これ以外にも各フレーム内の信号値の平均値や、ヒストグラムを考慮して算出した値等、各フレーム内でどの程度放射線が検出されているかを判断するための指標となる値であればどのような値を用いてもよい。なお、E.I.に基づいて算出された値とは、E.I.そのものの値でもよいし、E.I.に何らかの補正を加えた値でもよい。
【0020】
また、本発明による放射線被曝量取得方法をコンピュータに実行させるためのプログラムとして提供してもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の放射線被曝量取得装置および方法並びにプログラムによれば、造影剤が注入される被写体を連続的に放射線撮影することによって放射線画像検出器により検出されたフレーム毎の放射線画像信号に基づいて、連続的な放射線撮影による被写体の放射線被曝量を取得する際、フレーム毎の放射線画像信号のうち、造影剤の像を表す画像信号が含まれているフレームを造影剤フレームとして特定し、造影剤フレームの分の放射線被曝量について、放射線被曝量を本来の数値に近づけるための補正を行うとともに、造影剤フレームより後の造影剤フレーム以外のフレームの分の放射線被曝量について、放射線被曝量を本来の数値に近づけるために、取得した放射線被曝量の数値を嵩上げする嵩上処理を所定期間行うようにしたので、造影剤フレームにおける誤差のみならず、造影剤フレームと特定されなくても被写体内における造影剤の残留の影響により画像信号値が変動してしまっているフレームにおける誤差まで考慮した、より正確な被写体の放射線被曝量を取得することができる。
【0022】
また、過去のデータから造影剤の被写体内での残留の影響により放射線被曝量がどの程度の量および期間少なく取得されるかについての情報、もしくは、被写体へ注入した造影剤の量を示す情報を取得し、取得した情報に基づいて嵩上げする量および/または期間を決定するようにすれば、実際に即したより正確な被写体の放射線被曝量を取得することができる。
【0023】
また、放射線画像信号のE.I.(Exposure Index)に基づいて放射線被曝量を取得するようにすれば、実際の被写体の放射線被曝量を反映した値とすることができるので、さらに正確な被写体の放射線被曝量を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の放射線被曝量取得装置の一実施形態を用いた放射線画像撮影システム全体の概略構成を示すブロック図
【図2】本発明の放射線被曝量取得装置の一実施形態を用いた放射線画像撮影システムの作用を説明するためのフローチャート
【図3】放射線の照射タイミングと放射線画像検出器における電荷蓄積タイミングと造影剤の検出信号との関係を示すタイミングチャートと、フレーム毎の放射線画像信号に基づいて算出された放射線被曝量を表すグラフとを示す図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の放射線被曝量取得装置の一実施形態を用いた放射線画像撮影システムの一実施形態について説明する。図1は、本実施形態の放射線画像撮影システム全体の概略構成を示すブロック図である。
【0026】
本実施形態の放射線画像撮影システムは、図1に示すように、患者の透視画像(動画)を撮影する放射線画像撮影装置10と、放射線画像撮影装置10によって撮影された透視画像を表示する放射線画像表示装置20と、患者の血管やリンパ管などに対して造影剤を注入する造影剤注入装置30と、放射線画像撮影装置10によって撮影された透視画像の画像信号に基づいて、患者の被曝量を取得する放射線被曝量取得装置40と、放射線被曝量取得装置40によって取得された患者毎の被曝量を記憶して管理する放射線被曝量管理装置50と、放射線画像撮影システム全体の制御を行うシステム制御装置60とを備えている。
【0027】
放射線画像撮影装置10は、図1に示すように、X線管球や絞りなどを備え、X線管球から射出されて絞りを透過した放射線を患者に照射する放射線照射部11と、患者を透過した放射線を検出して患者の放射線画像を表す放射線画像信号を出力する放射線画像検出器12と、放射線画像検出器12から出力された放射線画像信号を記憶する放射線画像記憶部13と、放射線画像撮影装置10全体を制御する制御部14とを備えている。
【0028】
放射線画像検出器12は、放射線画像の記録と読出しを繰り返して行うことができるものであり、放射線の照射を直接受けて電荷を発生して蓄積することによって放射線画像の記録が行われる、いわゆる直接型の放射線画像検出器を用いてもよいし、放射線を一旦可視光に変換し、その可視光を電荷に変換して蓄積することによって放射線画像の記録が行われる、いわゆる間接型の放射線画像検出器を用いるようにしてもよい。また、上述したようにして電荷を蓄積することによって記録された放射線画像の読出方式としては、TFT(thin film transistor)スイッチがオン・オフされることによって放射線画像信号が読みだされる、いわゆるTFT読出方式のものや、読取光を照射することによって放射線画像信号が読み出される、いわゆる光読出方式のものを用いることができるが、これに限らずその他のものを用いるようにしてもよい。
【0029】
そして、本実施形態の放射線画像撮影装置10は、造影剤注入装置30によって造影剤が注入される患者の透視画像(動画)の撮影を行うものであり、制御部14は、この透視画像の撮影が行われるように放射線照射部11と放射線画像検出器12とを制御するものである。具体的には、制御部14は、所定のフレームレートで放射線照射部11から放射線を照射させるとともに、その放射線の照射によって放射線画像の記録と読出しが行われるように放射線画像検出器12を制御するものである。そして、放射線画像検出器12から出力されたフレーム毎の放射線画像信号を放射線画像記憶部13に順次記憶するものである。さらに、本実施形態の制御部14は、フレーム毎の放射線画像信号を放射線画像記憶部13に記憶する際、そのフレーム毎の放射線画像信号内に造影剤の像を表す画像信号が含まれるか否かを示す情報を付加するものであるが、その作用については後で詳述する。
【0030】
なお、放射線画像撮影装置10の構成としては、患者を立位状態で撮影する構成でもよいし、患者を臥位状態で撮影する構成でもよい。また、患者を立位状態および臥位状態との両方で撮影可能な構成でもよい。
【0031】
放射線画像表示装置20は、放射線画像撮影装置10の放射線画像記憶部13から読み出されたフレーム毎の放射線画像信号に対して所定の処理を施して表示制御信号を生成し、その表示制御信号に基づいてモニタに患者の透視画像を表示させるものである。
【0032】
造影剤注入装置30は、使用者による指示入力に基づいて、もしくは予め設定された造影剤注入開始タイミングに基づいて造影剤を患者の血管内などに自動的に注入するものである。具体的には、例えば注射器などから構成され、造影剤を患者の血管内などに注入する造影剤注入部31と、造影剤注入部31の造影剤注入動作を駆動する注入駆動部32と、注入駆動部32の動作などを制御する制御部33と、造影剤注入装置30から患者の血管内などへ造影剤が注入中であるか否かを検出する造影剤注入検出センサ部34とを備えている。
【0033】
注入駆動部32は、例えば造影剤注入部31の注射器のピストンを動かすものであり、空気圧やモータや油圧などの動力手段によって構成されるものである。
【0034】
造影剤注入検出センサ部34は、造影剤注入部31から造影剤が吐出されたことを検出するセンサを有するものである。そして、造影剤注入検出センサ部34は、その造影剤検出信号を放射線画像撮影装置10の制御部14に出力するものである。
【0035】
放射線被曝量取得装置40は、放射線画像撮影装置10の放射線画像記憶部13から読み出されたフレーム毎の放射線画像信号のうち、造影剤の像の画像信号を含むフレームの放射線画像信号を造影剤フレームとして特定する造影剤フレーム特定部41と、放射線画像撮影装置10の放射線画像記憶部13から読み出されたフレーム毎の放射線画像信号の信号評価値に基づいて、患者の放射線被曝量を取得する放射線被曝量取得部42とを備えている。なお、造影剤フレーム特定部41と放射線被曝量取得部42の作用については、後で詳述する。
【0036】
放射線被曝量管理装置50は、放射線被曝量取得装置40において取得された患者の放射線被曝量を記憶し、患者毎の放射線被曝量を管理するものである。
【0037】
システム制御装置60は、上述した放射線画像撮影装置10、放射線画像表示装置20、造影剤注入装置30、放射線被曝量取得装置40および放射線被曝量管理装置50に制御信号を出力してこれらの動作を制御するとともに、これらの装置間の信号の入出力の制御を行うものである。また、システム制御装置60には入力部70が設けられており、この入力部70によって使用者による所定の指示入力や、撮影条件や患者のID情報などの入力が受け付けられる。入力部70において受け付けられた入力情報は、システム制御装置60によって必要に応じて各装置に出力される。
【0038】
次に、本実施形態の放射線画像撮影システムの作用について、図2に示すフローチャートを参照しながら説明する。
【0039】
まず、放射線画像撮影装置10に設けられた撮影台などの上に被写体である患者が設置され、患者のポジショニングが行われる(S10)。
【0040】
次に、使用者によって入力部70を用いて撮影対象の患者のID情報と所定の撮影条件とが入力され、患者のID情報については放射線被曝量管理装置50に登録され、撮影条件については放射線画像撮影装置10の制御部14に設定される(S12)。なお、撮影条件としては、患者の撮影部位に対して適切な線量の放射線を照射するための管電圧、管電流、照射時間や、透視画像の撮影のフレームレートなどがある。透視画像の撮影のフレームレートとしては、例えば5fps〜60fpsのフレームレートが設定される。
【0041】
次に、使用者によって入力部70を用いて患者の透視画像の撮影の開始指示が入力され、この入力に応じてシステム制御装置60から放射線画像撮影装置10に対して透視画像の撮影を行うよう制御信号が出力され、放射線画像撮影装置10は、入力された制御信号に応じて透視画像の撮影を開始する(S14)。
【0042】
具体的には、入力された撮影条件に基づいて放射線照射部11のX線管球が制御され、所定の線量の放射線が所定のフレームレートで間欠的に患者に向けて照射される。
【0043】
そして、患者を透過した放射線は放射線画像検出器12に照射され、放射線画像検出器12において光電変換されて電荷信号として蓄積される。
【0044】
そして、各フレームの放射線の照射が終了する毎に、放射線画像検出器12に蓄積された電荷信号は制御部14によって読み出され、A/D変換器(図示省略)によってデジタル信号に変換された後、放射線画像記憶部13に記憶される。
【0045】
図3は、放射線照射部11のX線管球からの放射線の照射タイミングと放射線画像検出器12における電荷蓄積タイミングとを示すタイミングチャートである。なお、放射線画像検出器12の電荷の蓄積が行われていない期間(蓄積OFFの期間)は、放射線画像検出器12からの電荷信号の読出期間である。
【0046】
上記のようにしてX線管球による放射線の照射と放射線画像検出器12における放射線画像の記録および読出しとが所定のフレームレートで繰り返して行われることによって、放射線画像記憶部13にフレーム毎の放射線画像信号が順次記憶される。
【0047】
そして、放射線画像記憶部13に記憶されたフレーム毎の放射線画像信号は順次読み出されて放射線画像表示装置20に出力される。放射線画像表示装置20は、入力されたフレーム毎の放射線画像信号に基づいて表示制御信号を順次生成し、その表示制御信号をモニタに順次出力して患者の透視画像を動画としてモニタに表示させる(S16)。なお、放射線画像記憶部13に記憶されたフレーム毎の放射線画像信号は、読み出された後も消去されることなく放射線画像記憶部13に残っているものとする。
【0048】
ここで、上述したように透視画像の撮影および表示を行っている間において、使用者が血管などの造影剤画像を観察したいと考えた場合には、入力部70を用いて造影剤注入指示が入力される(S18)。
【0049】
入力部70において造影剤注入指示が入力されると、システム制御装置60から造影剤注入装置30に制御信号が出力される。造影剤注入装置30は、入力された制御信号に基づいて造影剤の注入を開始する。具体的には、注入駆動部32によって造影剤注入部31が駆動されて造影剤注入部31から所定量の造影剤が吐出される。
【0050】
そして、このとき造影剤注入装置30に設けられた造影剤注入検出センサ部34によって造影剤が吐出されたことが検出され、その検出信号は放射線画像撮影装置10の制御部14に出力される(S20)。放射線画像撮影装置10の制御部14は、上記造影剤検出信号が入力されると、その造影剤検出信号が入力されている間に撮影されたフレームの放射線画像信号に対して、造影剤の像を表す画像信号を含むものであることを示す情報(以下、造影剤フレーム情報という)をヘッダー情報として付加し、その放射線画像信号をヘッダー情報とともに放射線画像記憶部13に記憶する(S22)。より具体的には、図3に示すようなタイミングで造影剤検出信号が放射線画像撮影装置10に入力された場合には、造影剤注入中に撮影されたフレームF1とフレームF2の放射線画像信号に対して造影剤フレーム情報が付加されて放射線画像記憶部13に記憶される。
【0051】
そして、造影剤注入中に撮影された放射線画像信号についても放射線画像記憶部13から読み出されて放射線画像表示装置20に順次出力され、放射線画像表示装置20は、入力された放射線画像信号に基づいて表示制御信号を順次生成し、その表示制御信号に基づいてモニタに造影剤画像を含む放射線画像を表示する。
【0052】
次いで、造影剤注入装置30から所定量の造影剤の吐出が終了し、造影剤注入検出センサ部34において造影剤検出信号が検出されなくなった後は、撮影された放射線画像信号に対して造影剤フレーム情報が付加されることなく放射線画像記憶部13に記憶され、上記と同様にして放射線画像記憶部13からフレーム毎の放射線画像信号が読み出され、放射線画像表示装置20において透視画像が表示される。
【0053】
そして、使用者によって入力部70を用いて透視画像の撮影終了指示が入力されると、システム制御装置60は、透視画像の撮影を終了するように放射線画像撮影装置10に制御信号を出力し、放射線画像撮影装置10は、入力された制御信号に応じて透視画像の撮影を終了する(S26)。
【0054】
次に、上述したような透視画像の撮影が終了すると、システム制御装置60は放射線画像撮影装置10の放射線画像記憶部13に記憶された全フレームの放射線画像信号を読み出し、放射線被曝量取得装置40に入力させる。
【0055】
そして、まず、造影剤フレーム特定部41が、全フレームの放射線画像信号の中から造影剤フレーム情報が付加されたフレームの放射線画像信号を特定し、そのフレームを造影剤フレームとして特定する(S28)。
【0056】
次に、放射線被曝量取得部42において、各フレームの放射線画像信号に基づいて、透視画像の各フレームの撮影中に患者が受けた放射線被曝量を算出する(S30)。具体的には、本実施形態においては、まず、各フレームの放射線画像信号に基づいてE.I.(Exposure Index)を信号評価値として算出し、このE.I.に基づいて放射線被曝量を取得する。
【0057】
このE.I.の算出方法については、まず、各フレームの放射線画像内に、所定の計算領域を設定する。この計算領域としては、例えば放射線画像の全領域や、使用者が任意に設定した領域や、撮影部位の情報に基づいて規定された領域や、放射線画像の中心から画像サイズの10%の範囲の領域などを採用することができる。または、例えば放射線画像のヒストグラムに基づいて求められる、いわゆる素抜け領域を除く領域や、放射線画像の中心濃度から全濃度幅の90%の領域などを採用することができる。もしくは、上述した条件を組み合わせて特定の計算領域を設定するようにしてもよい。
【0058】
次に、上記で設定した計算領域の代表値Vを算出する。代表値Vとしては、放射線画像の濃度値そのものや、濃度値そのものに対して、全濃度値の平均値、中央値、最頻値またはトリム平均値を加味した統計的特徴値などを採用することができる。そして、この代表値Vに基づいて、下式によりフレーム毎のE.I.を算出する。
E.I.= C × g(V)
g(V):逆校正関数
:100・Gy(定数)
【0059】
なお、g(V)は、RQA5の線質にて得られる放射線画像に基づいて規定される関数である。代表値Vは、放射線画像検出器におけるシンチレータの違いなどに起因する感度の違いや、上述した計算領域の設定方法または代表値Vの算出方法の違いによってその大きさが異なるものとなるが、g(V)はその違いを正規化する関数である。つまり、いかなる放射線画像検出器の種類であっても、RQA5の線質で同一の線量を受けた場合、E.I.はほぼ同一の値となることになる。
【0060】
上述したようにして、放射線被曝量取得部42において、各フレームの放射線画像信号に基づいて算出されたE.I.を用いて、各フレームの撮影中に患者が受けた放射線被曝量を取得する。なお、E.I.を用いて放射線被曝量を取得する方法としては、例えば、これらの関係を規定した関数や、ルックアップテーブルなどを予め設定しておくようにすればよい。
【0061】
図3の一番下のグラフは、上述したようにして取得されたフレーム毎の放射線被曝量を線で結んだものである。なお、図3のグラフの横軸は、撮影開始から何枚目のフレームであるかを示すものである。また、グラフの形状については、変化の特性を明示するために、実際の変化量よりも誇張して示している。
【0062】
ここで、上述したように透視画像の撮影の途中で造影剤を注入して造影剤画像を撮影した場合、患者に照射された放射線は放射線画像検出器12に到達する前に造影剤によって吸収されるため、造影剤フレームの放射線画像信号に基づいて放射線被曝量を算出した場合、実際に患者が受けた放射線被曝量よりも小さい値となってしまう。具体的には、図3に示す造影剤フレームF1,F2の放射線画像信号に基づいて放射線被曝量を算出した場合、本来の数値(図3のグラフ中の一点鎖線で示す推定値)よりも小さい値となってしまう。
【0063】
そこで、本実施形態においては、造影剤フレームの放射線被曝量については、造影剤フレームの直前の造影剤フレーム以外のフレームの放射線被曝量と造影剤フレームの直後の造影剤フレーム以外のフレームの放射線被曝量とを用いた直線補間により補正した値とする。具体的には、図3のグラフに示すように、造影剤画像を含むフレームF1,F2の直前と直後に撮影されたフレームの放射線画像信号に基づいて算出された放射線被曝量を用いて直線補間を行い、この直線上における造影剤フレームF1,F2の撮影タイミングの時点の放射線被曝量を取得することによって、造影剤フレームF1,F2が撮影されている間の患者の放射線被曝量を取得する。
また、造影剤フレームF1,F2より後の造影剤フレーム以外のフレームでは、造影剤フレームと特定されなくても体内における造影剤の残留の影響により画像全体の信号値が僅かに変動し、造影剤フレーム程ではないものの造影剤フレームと同様の理由により本来の数値(図3のグラフ中の一点鎖線で示す推定値)よりも小さい値となってしまうため、造影剤フレームより後の造影剤フレーム以外のフレームの分の放射線被曝量について、放射線被曝量を本来の数値に近づけるために、取得した放射線被曝量の数値を嵩上げする嵩上処理を行う。
【0064】
なお、この嵩上処理の量および期間については、過去のデータから造影剤の残留の影響により放射線被曝量がどの程度の量および期間少なく取得されるかについての情報を予め取得しておき、この情報に基づいて嵩上処理の量および期間を決定したり、造影剤注入装置30から被写体へ注入した造影剤の量を示す情報を取得し、この情報に基づいて嵩上処理の量および期間を決定する等、どのような方法で決定してもよい。
【0065】
また、嵩上処理の方法についても、取得した放射線被曝量に対して、予め設定された所定の放射線被曝量を加算することによって嵩上げするようにしてもよいし、予め設定された1より大きい所定の係数を掛け合わせることによって嵩上げするようにする等、どのような方法でもよい。
【0066】
そして、放射線被曝量取得部42は、全フレームの放射線被曝量を加算することによって連続的な放射線撮影全体を通しての被写体の総放射線被曝量を算出する。
【0067】
放射線被曝量取得部42において取得された総放射線被曝量は放射線被曝量管理装置50に入力され、放射線被曝量管理装置50は、予め設定入力された患者のID情報とともに総放射線被曝量を登録する(S32)。そして、放射線被曝量管理装置50は、登録した総放射線被曝量を患者のID情報とともに必要に応じて表示したり、また、所定の患者について過去からの累積総放射線被曝量を算出し、その値が予め設定された規定値よりも大きくなった場合に警告メッセージを表示したりする。
【0068】
本実施形態の放射線画像撮影システムによれば、フレーム毎の放射線画像信号のうち、造影剤の画像を表す画像信号が含まれているフレームを造影剤フレームとして特定し、造影剤フレームの分の放射線被曝量について、放射線被曝量を本来の数値に近づけるための補正を行うとともに、造影剤フレームより後の造影剤フレーム以外のフレームの分の放射線被曝量について、放射線被曝量を本来の数値に近づけるために、取得した放射線被曝量の数値を嵩上げする嵩上処理を所定期間行うようにしたので、造影剤フレームにおける誤差のみならず、造影剤フレームと特定されなくても被写体内における造影剤の残留の影響により画像信号値が変動してしまっているフレームにおける誤差まで考慮した、より正確な被写体の放射線被曝量を取得することができる。
【0069】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、例えば造影剤フレームの特定については、上述の造影剤注入検出センサを用いた特定以外にも、造影剤注入時刻取得部を設け、この造影剤注入時刻取得部によって造影剤の注入が開始された時刻と造影剤の注入が終了した時刻とを取得し、この時刻情報に基づいて造影剤フレームの特定を行うようにしてもよいし、これらのようなセンサを用いずに各フレームの信号評価値が造影剤フレーム以外のフレームの信号評価値とは異なる所定の範囲の値である場合に造影剤フレームと特定するようにする等、どのような方法を用いてもよい。
【0070】
また、上記実施形態の放射線画像撮影システムにおいては、造影剤フレームの直前および直後のフレームの放射線画像信号に基づいて算出された放射線被曝量を直線補間することによって造影剤フレームが撮影されている間の患者の放射線被曝量を取得するようにしたが、このような方法に限らず、例えば直前または直後のフレームの放射線画像信号に基づいて算出された放射線被曝量をそのまま造影剤フレームが撮影されている間の患者の放射線被曝量として採用するようにしてもよいし、その他の造影剤フレーム以外のフレームの放射線画像信号に基づいて算出された放射線被曝量を採用するようにしてもよい。もしくは、造影剤フレームの放射線画像信号に基づいて算出された放射線被曝量に対して、予め設定された所定の放射線被曝量を加算することによって補正するようにしてもよいし、造影剤フレームの放射線画像信号に基づいて算出された放射線被曝量に対して、予め設定された1より大きい所定の係数を掛け合わせることによって補正する等、どのような方法を用いてもよい。
【0071】
また、上記実施形態では放射線被曝量取得装置を独立した装置として構成しているが、放射線画像撮影装置などの他の装置の一部として組み込むなど、どのような態様としてもよい。具体的には、システム制御装置60を含むコンソールに設けるようにしてもよいし、放射線画像撮影装置10に設けるようにしてもよい。また、放射線画像検出器12が可搬型の電子カセッテに収容されたものであり、その電子カセッテ内にLSI(Large Scale Integration)などの電子回路や、PLD(Programmable Logic Device)・FPGA(Field-Programmable Gate Array)などのプログラマブルな電子回路などのハードウェアが設けられている場合には、そのようなハードウェアによって造影剤フレームの特定や放射線被曝量の取得を行わせるようにしてもよい。このような構成を採用することによってよりリアルタイム性を追求することができる。
【0072】
これ以外にも、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行なってもよいのは勿論である。
【符号の説明】
【0073】
10 放射線画像撮影装置
11 放射線照射部
12 放射線画像検出器
13 放射線画像記憶部
14 制御部
20 放射線画像表示装置
30 造影剤注入装置
31 造影剤注入部
32 注入駆動部
33 制御部
34 造影剤注入検出センサ部
35 造影剤注入時刻取得部
40 放射線被曝量取得装置
41 造影剤フレーム特定部
42 放射線被曝量取得部
50 放射線被曝量管理装置
60 システム制御装置
70 入力部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
造影剤が注入される被写体を連続的に放射線撮影することによって放射線画像検出器により検出されたフレーム毎の放射線画像信号に基づいて、前記連続的な放射線撮影による前記被写体の放射線被曝量を取得する放射線被曝量取得部と、
前記フレーム毎の放射線画像信号のうち、前記造影剤の像を表す画像信号が含まれているフレームを造影剤フレームとして特定する造影剤フレーム特定部とを備え、
前記放射線被曝量取得部が、前記造影剤フレームの分の放射線被曝量について、放射線被曝量を本来の数値に近づけるための補正を行うとともに、前記造影剤フレームより後の前記造影剤フレーム以外のフレームの分の放射線被曝量について、放射線被曝量を本来の数値に近づけるために、取得した放射線被曝量の数値を嵩上げする嵩上処理を所定期間行うものであることを特徴とする放射線被曝量取得装置。
【請求項2】
前記造影剤フレーム特定部が、過去のデータから前記造影剤の前記被写体内での残留の影響により放射線被曝量がどの程度の量および期間少なく取得されるかについての情報を取得し、該取得した情報に基づいて前記嵩上げする量および/または前記所定期間を決定するものであることを特徴とする請求項1記載の放射線被曝量取得装置。
【請求項3】
前記造影剤フレーム特定部が、前記被写体へ注入した前記造影剤の量を示す情報を取得し、該取得した情報に基づいて前記嵩上げする量および/または前記所定期間を決定するものであることを特徴とする請求項1記載の放射線被曝量取得装置。
【請求項4】
前記放射線被曝量取得部が、前記放射線画像信号のE.I.(Exposure Index)に基づいて放射線被曝量を取得するものであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の放射線被曝量取得装置。
【請求項5】
造影剤が注入される被写体を連続的に放射線撮影することによって放射線画像検出器により検出されたフレーム毎の放射線画像信号に基づいて、前記連続的な放射線撮影による前記被写体の放射線被曝量を取得する放射線被曝量取得方法であって、
前記フレーム毎の放射線画像信号のうち、前記造影剤の像を表す画像信号が含まれているフレームを造影剤フレームとして特定し、
前記造影剤フレームの分の放射線被曝量について、放射線被曝量を本来の数値に近づけるための補正を行うとともに、
前記造影剤フレームより後の前記造影剤フレーム以外のフレームの分の放射線被曝量について、放射線被曝量を本来の数値に近づけるために、取得した放射線被曝量の数値を嵩上げする嵩上処理を所定期間行うことを特徴とする放射線被曝量取得方法。
【請求項6】
請求項5記載の放射線被曝量取得方法をコンピュータに実行させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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