説明

放射線遮蔽装置

【課題】 試料及び検出器を交換・点検する作業が容易にできる放射線遮蔽装置を提供する。
【解決手段】 放射線遮蔽装置(100)は、遮蔽材(LB)を有し測定試料(SA)を遮蔽材で覆う試料用放射線遮蔽部(50)と、遮蔽材(LB)を有し試料用放射線遮蔽部に着脱可能に取り付けられる第1放射線遮蔽部(10A)を有している。試料用放射線遮蔽部と第1放射線遮蔽部との間に配置され測定試料からの放射線を検出する第1検出器(SS)と、試料用放射線遮蔽部及び第1放射線遮蔽部の外側に配置され第1検出器に接続され第1検出器を冷却するための冷媒を貯蔵する第1冷媒容器(NT)と、を備えることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は放射能測定において、試料からの放射線漏洩を防止しかつ環境放射線を遮蔽する放射線遮蔽装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料の放射能を測定する際には、例えば特許文献1では、試料からの放射線の漏洩による被曝防止と環境放射線の遮蔽とを行っている。そして特許文献1は,放射線検出器の内部に内部遮蔽体を設け、検出部と検出部の直ぐ後ろに設置すべきヘッドアンプを内部遮蔽体の測定対象側に設け、その他の増幅伝送回路等を内部遮蔽体の外側に設置して、遮蔽体全体の軽量化を図っている。
【0003】
放射性医薬品の製造現場では、日常的に製造された医薬品に含まれる放射性同位元素を分析するために放射線のスペクトル(エネルギー分布)を測定する。放射性医薬品は特定の放射性物質を用いており、それらからの放射線のレベルは周辺の環境放射線に比べてきわめて高い。したがって、試料を検出部に近づけて測定すると、高いレベルの放射線のみを検出して弱いレベルの放射線を確実に検出することが困難となる。
【0004】
特許文献1のような試料と検出部を鉛直方向に設置する垂直型では距離を十分に取ることができないため、放射性医薬品中の特定の放射性物質以外からの弱いレベルの放射線を確実に検出することができない。このため、放射性医薬品に使用される放射能測定装置は横置き型が採用されている。この放射能測定装置は試料から検出部までの全体を遮蔽材料で覆うため、大量の遮蔽材料を必要とする。通常は比較的安価な鉛ブロック(遮蔽ブロック)を積み重ねた後に金属板で周囲をカバーし遮蔽体としている。
【特許文献1】特開平09−101372号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、検出器を交換・点検する際には、金属板を外した上で鉛ブロックを一つずつ外さなければならず、半日の工程を必要とした。さらに鉛ブロック1個が約11kgの重さをもつため作業には危険を伴っていた。また、単に放射線遮蔽装置を分離するだけでは環境放射線の影響を受けずに検出器を遮蔽体から取り出すことは困難であった。
そこで本発明は、検出器を交換・点検する作業が鉛ブロックの積み下ろし作業なしに容易にできる放射線遮蔽装置を提供することで、上記課題を解決する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の観点の放射線遮蔽装置は、測定試料からの放射線を検出する第1検出器と、第1検出器に接続され第1検出器を冷却するための冷媒を貯蔵する第1冷媒容器とを有する第1放射線検出装置を使用する放射線遮蔽装置において、少なくとも1端面を除いて測定試料を覆う遮蔽材を有するとともに、1端面から外側に延びた遮蔽材を有する試料用放射線遮蔽部と、遮蔽材を有し試料用放射線遮蔽部の一端面に着脱可能に取り付けられる第1放射線遮蔽部とを備え、第1検出器は、試料用放射線遮蔽部と第1放射線遮蔽部との間に配置され、外側に延びた遮蔽材により環境放射線から遮蔽されており、第1冷媒容器は試料用放射線遮蔽部及び第1放射線遮蔽部の外側に配置される。
この構成により、個々の放射線の遮蔽ブロックを積み重ねたり取り出したりすることなく、第1検出器を点検調整できる。第1検出器に接続され第1冷媒容器を外部に有しているため、試料用放射線遮蔽部に第1放射線遮蔽部を装着しても開口部が形成される。開口部が形成されていても第1検出器が環境放射線から遮蔽されているので、正確な放射線の測定が可能となる。
【0007】
第2の観点の放射線遮蔽装置は、試料用放射線遮蔽部を載置する中央テーブルと、第1放射線遮蔽部を載置する移動テーブルと、中央テーブルと移動テーブルとを結合する結合手段と、を備える。
この構成により、試料用放射線遮蔽部と第1放射線遮蔽部との着脱が容易になるとともに、中央テーブルと移動テーブルとが結合することで測定試料と第1検出器との距離を正確にして放射線を測定することができる。その一方で、測定試料からの放射線が外部に漏れたり、外部からの環境放射線が第1検出器に入ったりすることがない。なお、移動テーブルには一段のみのテーブル及び二段以上を有する多段テーブルを含む。
【0008】
第3の観点の放射線遮蔽装置の移動テーブルは、第2の観点において、第1放射線遮蔽部を載置する上段テーブルと第1放射線検出装置を摺動部材を介して載置する下段テーブルとを備えており、第1放射線検出装置は、下段テーブルの摺動部材で摺動させられて搬送用に使用される搬送テーブルとの間で移設可能である。
この構成により、第1放射線遮蔽部を移動テーブルから搬送テーブルへ移す際に又はその逆方向に移す際に、移動テーブルに摺動部材が設けられているので第1放射線検出装置を容易に移動させることができる。
【0009】
第4の観点の放射線遮蔽装置は、第2の観点において、第1放射線検出装置を載置し移動可能な検出装置載置テーブルを備え、検出装置載置テーブルが移動テーブル内部に入り込む。
この構成により、移動テーブルとは別に検出装置載置テーブルを移動させることができる。そして、検出装置載置テーブルが移動テーブル内部に入り込むことで第1検出器を環境放射線から遮蔽することができる。
【0010】
第5の観点の放射線遮蔽装置は、第3又は第4の観点において、第1放射線検出装置を高さ方向に調整可能な支持台を備える。
第5の観点の放射線遮蔽装置の構成により、第1検出器と測定すべき測定試料の測定中心とを結ぶ直線を水平にすることが可能となる。
【0011】
第6の観点の放射線遮蔽装置は、第1放射線検出装置とは別に、測定試料からの放射線を検出する第2検出器と、第2検出器に接続され第2検出器を冷却するための冷媒を貯蔵する第2冷媒容器とを有する第2放射線検出装置を使用し、試料用放射線遮蔽部は1端面の反対側の他端面から外側に延びた遮蔽材を有し、遮蔽材を有し他端面に着脱可能に取り付けられる第2放射線遮蔽部を備える。
この構成により、第1放射線検出装置を調整などのために搬出しなくてはならない場合であっても、第2放射線検出装置をすぐに使用することができる。これによって、急遽第1冷媒容器に冷媒を充填しなければならなくなった場合でも、直ちに第2放射線検出装置を使用できる。このため放射性医薬品の生産・品質管理に与える影響を最小限とすることができる。
【0012】
第7の観点の放射線遮蔽装置の試料用放射線遮蔽部は、第6の観点において、測定試料を配置する第1位置と第2位置とを備え、第1位置に測定試料を配置する際には第1位置と第2検出器との間に遮蔽板を配置し、第2位置に測定試料を配置する際には第2位置と第1検出器との間に遮蔽板を配置する。
第10の観点の放射線遮蔽装置の構成により、第1検出器を使い第2検出器を使用しない場合には、第1位置と第2検出器との間に遮蔽板を入れることで第2検出器側に放射線が漏れないように、また第2検出器に影響を与えないようにすることが可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の放射線遮蔽装置は、試料用放射線遮蔽部から第1放射線遮蔽部を簡易に迅速に切り離すことができる。この場合に個々の遮蔽ブロックを積み重ねたり取り外したりする必要がないため、操作者に与える負担が少なくて済む。さらに、環境放射線の影響を受けることなく放射線測定が可能であり、かつ検出器を簡単に放射線遮蔽装置から取り出すことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<測定試料>
本発明の放射線遮蔽装置100で測定される測定試料SAとして、[F−18]FDG溶液、[Ga−67]クエン酸ガリウム,[Tl−201]塩化タリウム溶液、[Tc−99m]ヒドロキシメチレンジホスホン酸テクネチウム溶液などの放射性医薬品が代表的である。これらは、医療現場に供給するため、日常的に生産されており製造される放射性医薬品の品質管理に放射線のスペクトル測定は欠かせない。
【0015】
<放射線検出器及びデュワー瓶の構成>
測定試料SAからの放射線のスペクトル測定には、マルチチャンネル型波高分析器と放射線検出器を組み合わせたシステムが使用される。放射線検出器の検出部として、高純度Ge検出器、Si(Li)検出器、NaIシンチレータ、CsI(Tl)シンチレータなどが使用可能である。本実施例では、性能の高い高純度Ge検出器を用いている。この高純度Ge検出器は測定時に液体窒素又は液体ヘリウムなどの冷媒で冷却する必要があり、デュワー瓶と冷却ロッドを介して接続されている。液体窒素などの冷媒は、高純度Ge検出器内のゲルマニウム半導体素子を冷却している。高純度Ge検出器SSの先端には、エンドチャップが設けられその中にゲルマニウム半導体素子が設けられている。またゲルマニウム半導体素子からの信号を増幅するアンプなどが内部に格納されている。高純度Ge検出器SSは、操作性などの観点からデュワー瓶NTから冷却ロッドが90度曲がった位置に取り付けられている。
【0016】
デュワー瓶NTは、液体窒素又は液体ヘリウムなどの冷媒を入れて低温を保つ装置であり、熱の流入を防ぐために真空や銀メッキで外部と熱遮断を図っている。なお、通常、測定試料SAからの放射線を測定するために、高純度Ge検出器SSを常温から所定温度まで冷却する。高純度Ge検出器SSが安定した信号を出力するには冷却期間を数日要する。
【0017】
一般に、高純度Ge検出器SSの点検又は調整などで、高純度Ge検出器SSを放射線遮蔽装置100から外さなければならない場合がある。このような場合のため、本実施例の放射線遮蔽装置100は2つの高純度Ge検出器SSを備えており、一方の高純度Ge検出器SSが使用できない場合であっても他方の高純度Ge検出器SSをすぐに使用することができる。このため、測定試料SAの測定ができない期間がきわめて短時間で済むため、放射性医薬品の品質試験には好適である。以下の実施例では、高純度Ge検出器SSを使った例で説明する。
【0018】
<放射線遮蔽装置100の概略>
図1は、放射線遮蔽装置100の斜視図であり、放射線遮蔽装置100は中央に試料用放射線遮蔽部50を配置し、その両端に第1放射線遮蔽部10Aと第2放射線遮蔽部10Bとを配置している。また、図2(a)は放射線遮蔽装置100の上面図であり、図2(b)は一部を切り欠いた正面図である。図1及び図2では、第1放射線遮蔽部10A及び第2放射線遮蔽部10Bが試料用放射線遮蔽部50から切り離された状態を示している。また、図3は第1放射線遮蔽部10A及び第2放射線遮蔽部10Bが試料用放射線遮蔽部50に装着された正面図である。但し、図1ないし図3では、鉛ブロックLB(遮蔽ブロック)がすべてむき出し状態で描かれているが、実際には両端面など一部がむき出しなままで、鉛ブロックLBの外装はステンレス製、鉄製又は樹脂製のカバーで覆われている。
【0019】
鉛ブロックLBがカバーで覆われた実際の放射線遮蔽装置100の外観は、図4、図5及び図6に描かれている。
図4は放射線遮蔽装置100の六面図であり、(a)は正面図、(b)は背面図、(c)は左側面図、(d)は右側面図、(e)は平面図、そして(f)は底面図となる。
図5は試料用放射線遮蔽部50の六面図であり、(a)は正面図、(b)は背面図、(c)は左側面図、(d)は右側面図、(e)は平面図、そして(f)は底面図となる。
図6は放射線遮蔽部10(第1放射線遮蔽部10A及び第2放射線遮蔽部10Bは同じ形状である。)の六面図であり、(a)は正面図、(b)は背面図、(c)は左側面図、(d)は右側面図、(e)は平面図、そして(f)は底面図となる。
【0020】
放射線遮蔽装置100は、測定試料SAから出た放射線が操作者を被曝させることのないよう測定試料SAからの放射線を遮蔽する。また、放射線遮蔽装置100は、高純度Ge検出器SSが環境放射線(又は外部放射線とも言う)の影響を受けないように遮蔽するために使用される。但し、放射線遮蔽装置100全体を完全に密封する必要はない。放射線は直進性が高いため、測定試料SAから放射線が直進する位置が遮蔽されていれば、それ以外の位置に開口部が形成されていても良い。
【0021】
試料用放射線遮蔽部50、第1放射線遮蔽部10A及び第2放射線遮蔽部10Bは、複数の鉛ブロックLBで構成されている。鉛ブロックLBは、遮蔽能力が高く、安価であることから良く用いられる。鉛ブロックLBは縦横高さが5×10×20cmの大きさであり、1ブロックの重量が約11kgになる。これら鉛ブロックLBを積み重ねたり並べたりして放射線を遮蔽する壁を形成できる。積み上げた鉛ブロックLBは崩れないよう所要単位毎に不図示の鉄板で囲まれている。なお、鉛ブロックLBの多くはJIS規格で「Z4817放射線遮へい用鉛ブロック」として規定されているものを使用している。JIS規格以外の鉛ブロックは必要な寸法に合わせて加工されており,例えば、鉛ブロック58は5×10×19.5cmの大きさ、第1放射線遮蔽部10Aの最上段の角部の鉛ブロックは5×10×7.5cmである。
【0022】
<試料用放射線遮蔽部50の構成>
試料用放射線遮蔽部50は、第1放射線遮蔽部10A及び第2放射線遮蔽部10Bと接する両端以外には、鉛ブロックLBが積み重ねられている。すなわち、長手方向の側面、下面及び上面は鉛ブロックLBで覆われている。上面の一部にはスライド天板52が設けられており、ガイドレール54に沿ってスライド天板52が移動可能である。スライド天板52はその内部に鋳造鉛ブロックを有しており、スライド天板52を閉めた状態では、測定試料SAから出た放射線が外部に漏れ出ることはなく、環境放射線が試料用放射線遮蔽部50の内部に入ることもない。
【0023】
操作者は、スライド天板52を開けて測定試料SAを所定の位置に配置する。測定に際しては高純度Ge検出器SSから測定試料SAを一定の距離に保つ必要があり、測定試料SAの種類によって配置位置は予め定められている。測定試料SAと高純度Ge検出器SSとの距離は、例えば[F−18]FDG水溶液の場合は100cmである。また、測定試料SAが液体の場合にはガラス瓶に入った状態で収容される。試料用放射線遮蔽部50には、高純度Ge検出器SSからの距離が容易にわかるように1cm毎の目盛りが形成されている。このように測定試料SAの種類に応じてスライド天板52の開ける位置が異なるため、複数のスライド天板52が長手方向に並んで設けられている。
【0024】
試料用放射線遮蔽部50は、操作者が立ったまま作業がし易いように中央テーブル60に載置される。また、高純度Ge検出器SSの高さと測定試料SAとが同じ高さにするため中央テーブル60には試料用放射線遮蔽部50が載置される。なお、測定試料SAが配置される高さは、床から約80cmに設定されている。
【0025】
また、本実施例では2つの高純度Ge検出器SSを備えているため、図3に開示するように、使用しない側に測定試料SAからの放射線が漏れ出ないよう遮蔽板56を挿入できるようになっている。使用しない高純度Ge検出器SSと測定試料SAとが近い距離になっているので高純度Ge検出器SSを保護する必要もある。他方の高純度Ge検出器SSを使用する場合には、図3の点線で示した位置に遮蔽板56を挿入する。遮蔽板56は鉛で構成され、その遮蔽板56の厚みは測定試料SAの放射能量に応じて調整すれば良い。
【0026】
試料用放射線遮蔽部50の両端側の下部には、端面から延びた位置に鉛ブロック58が設けられている。この延びた位置の鉛ブロック58を支えるため、中央テーブル60から延びた金属板67が設けられている。
【0027】
<第1放射線遮蔽部10A及び第2放射線遮蔽部10Bの構成>
第1放射線遮蔽部10A及び第2放射線遮蔽部10Bは同じ構成であるため、第1放射線遮蔽部10Aを代表して説明する。
第1放射線遮蔽部10Aの側面及び上面は鉛ブロックLBで覆われている。下面側は高純度Ge検出器SSが挿入されるため鉛ブロックLBが設けられていない。
【0028】
第1放射線遮蔽部10Aの下面に鉛ブロックLBが設けられていないため、図3に示すように、第1放射線遮蔽部10A側は試料用放射線遮蔽部50と当接したときに開口部OPが形成されるようになる。その開口部OPが大きいと環境放射線が高純度Ge検出器SSに入り込むことになるが、試料用放射線遮蔽部50から突き出た鉛ブロック58が環境放射線を遮っている。
【0029】
第1放射線遮蔽部10Aは、移動テーブルの一態様である移動二段テーブル20の上段テーブルに載置されており、また高純度Ge検出器SSを備えるデュワー瓶NTは移動二段テーブル20の下段テーブルに載置されている。移動二段テーブル20の底フレームには、ブレーキ付きキャスター22が設けられている。このため操作者は小さな力で第1放射線遮蔽部10A及び高純度Ge検出器SSを備えるデュワー瓶NTを移動させることができる。
【0030】
図7は、第1放射線遮蔽部10Aが試料用放射線遮蔽部50に装着された際の高純度Ge検出器SSの周辺拡大図である。
【0031】
高純度Ge検出器SSは、デュワー瓶NTから冷却ロッドが90度曲がった位置に取り付けられているので、第1放射線遮蔽部10Aが試料用放射線遮蔽部50の端面に装着されると、試料用放射線遮蔽部50から延びた鉛ブロック58は高純度Ge検出器SSの下面に入り込み、高純度Ge検出器SSとデュワー瓶NTとを結ぶ冷却ロッド近傍まで入る。冷却ロッドが存在するため、そこに鉛ブロックLBを設けることができない。しかし、測定試料SAからの放射線RRを外部に出ることを遮断することもできるし、また環境放射線ERが高純度Ge検出器SSに到達することを防ぐこともできる。
【0032】
図7(a)は、測定試料SAを高純度Ge検出器SSから100cm離れた位置に配置した例である。試料用放射線遮蔽部50から延びた鉛ブロック58の存在により、測定試料SAからの放射線RRは一点鎖線で示すように、第1放射線遮蔽部10Aの鉛ブロックLBで遮蔽される。また、図7(b)は、測定試料SAを高純度Ge検出器SSから25cm離れた位置に配置した例であるが、このように測定試料SAを最短の配置位置に配置しても、測定試料SAからの放射線RRは一点鎖線で示すように、第1放射線遮蔽部10Aの鉛ブロックLB又は試料用放射線遮蔽部50の鉛ブロック58で遮蔽される。図示しないが、操作者が誤って測定試料SAを高純度Ge検出器SSから1cmしか離れていない位置に配置したとしても、測定試料SAからの放射線RRは開口部OPから外部に出ることはない。
【0033】
また、二点鎖線で示す環境放射線ERはさまざまな角度から開口部OPを経由して第1放射線遮蔽部10A内に侵入する。しかし、試料用放射線遮蔽部50から延びた鉛ブロック58の存在により、環境放射線ERが高純度Ge検出器SSの検出面に入ることがない。
【0034】
上述したように、試料用放射線遮蔽部50の両端側の下部に端面から延びた位置に鉛ブロック58が設けられている。この鉛ブロック58を移動二段テーブル20側に載置することもできる。しかし、移動二段テーブル20側に高純度Ge検出器SSの直下に鉛ブロックLBがあると、鉛ブロックを外さない限り高純度Ge検出器SSを第1放射線遮蔽部10Aから取り出すことはできない。そこで、第1放射線遮蔽部10Aが試料用放射線遮蔽部50に装着された際に、高純度Ge検出器SSの直下に鉛ブロック58が配置されるように、試料用放射線遮蔽部50側に鉛ブロック58を設けている。
【0035】
<中央テーブル60及び移動二段テーブル20の構成>
中央テーブル60には結合手段であるキャッチクリップ68が設けられており、移動二段テーブル20にはフック28が設けられている。第1放射線遮蔽部10Aが試料用放射線遮蔽部50の端面に装着される際に、キャッチクリップ68とフック28とによって中央テーブル60に移動二段テーブル20が固定される。中央テーブル60と移動二段テーブル20とを装着すると、試料用放射線遮蔽部50の鉛ブロックLBと第1放射線遮蔽部10Aの鉛ブロックLBとが当接し、測定試料SAからの放射線が外部に出ることを防ぐとともに、環境放射線ERが高純度Ge検出器SSに到達することを防ぐ。また、測定試料SAと高純度Ge検出器SSとの距離を所定距離に位置決めすることができる。中央テーブル60から移動二段テーブル20を分離する際にはキャッチクリップ68を取り外す。容易に着脱可能な機能を有していれば、キャッチクリップ68以外に磁石・ワンタッチクリップ等を使用することができる。中央テーブル60にフック28が設けられ、移動二段テーブル20にキャッチクリップ68が設けられるように構成してもよい。
【0036】
本実施例では中央テーブル60は高さのみを可変できるように可変アンカーボルト18が中央テーブル60の底フレームに設けられている。しかし、中央テーブル60も移動できるようにキャスター22が設けられていても良い。
【0037】
図8は、移動二段テーブル20の下段テーブルから高純度Ge検出器SSを備えるデュワー瓶NTを取り出す際の斜視図である。移動二段テーブル20の下段テーブルには摺動部材であるスライドレール27が設けられており、スライドレール27は、フッ素入りPOM(ポリオキシメチレン)樹脂成形板等の滑りやすい材料でできている.スライドレール27上にはデュワー瓶NTを支える支持台25が載置される。支持台25は下板25Aと上板25Bとで構成され、上板25Aに高さ調整ネジ24が設けられている。高さ調整ネジ24をネジ込むと上板25Aの高さが上がり、緩めると上板25Aの高さが下がる。つまり支持台25は高さ調整ネジ24でデュワー瓶NTの高さを変えることができる。デュワー瓶NTの高さを変えることで高純度Ge検出器SSの高さを測定試料SAの高さと任意に合わせることができる、即ち第1検出器と測定すべき測定試料SAの測定中心とを結ぶ直線を水平にすることができる。
【0038】
搬送テーブル30及び移動二段テーブル20の底フレームには、可変アンカーボルト18及びブレーキ付きキャスター22が設けられている。さらに搬送用に使用される搬送テーブル30にも、フッ素入りPOM樹脂成形板等の滑りやすい材質でできた摺動部材であるスライドレール37が設置されている。スライドレール27及びスライドレール37と支持台25との摩擦係数が小さいため操作者はデュワー瓶NTを載置した支持台25をその状態のまま搬送テーブル30に移設することができる。スライドレール27又はスライドレール37は、支持台25が滑らかに移動できるよう車輪等の機構を使っても良いが,本実施例のように摩擦係数の小さい材質を組合せることは,機構が単純になり測定システム全高をおさえるのに都合がよい。
【0039】
<放射線遮蔽装置100の動作>
次に、試料用放射線遮蔽部50に第1放射線遮蔽部10Aを取り付ける動作について説明する。
まず、図8に示されるように、校正された高純度Ge検出器SSを有するデュワー瓶NTが搬送テーブル30に載置されている。操作者は搬送テーブル30を移動二段テーブル20の下段テーブルに隣接させる。この状態で、搬送テーブル30のブレーキ付キャスター22のブレーキをかけ、また移動二段テーブル20のブレーキをかける。支持台25に載置されたデュワー瓶NTはスライドレール27に沿って搬送テーブル30から移動二段テーブル20の下段テーブルに移動させられる。
【0040】
その後操作者は、移動二段テーブル20のブレーキを解除して、移動二段テーブル20に載置されたデュワー瓶NTを中央テーブル60の一端に移動させる。そして、操作者は中央テーブル60のキャッチクリップ68と移動二段テーブル20のフック28とを結合する。このようにして、試料用放射線遮蔽部50の鉛ブロックLBと第1放射線遮蔽部10Aの鉛ブロックLBとが当接する。試料用放射線遮蔽部50の下部の端面から飛び出るように鉛ブロック58が設けられているので、環境放射線が高純度Ge検出器SSに届くことがない。これまでは鉛ブロックLBを積み重ねたりしていたが、一度も鉛ブロックLBを積み重ねたりすることなく、高純度Ge検出器SSをセットすることができる。
【0041】
次に操作者は、支持台の高さ調整ネジ24を回転させて、高純度Ge検出器SSの高さを測定試料SAと同じ高さになるように調整する。この時点で測定試料SAは試料用放射線遮蔽部50の所定位置に載置されていないが、測定試料SAの高さが予めわかっているのでその高さに調整する。試料用放射線遮蔽部50の鉛ブロックLBと第1放射線遮蔽部10Aの鉛ブロックLBとが当接する前に、高純度Ge検出器SSの高さを調整しても良い。
【0042】
次に操作者は、今回装着した高純度Ge検出器SS側の遮蔽板56を取り外す。そしてスライド天板52の一部をガイドレール54に沿って開けて測定試料SAを所定位置に載置する。その後スライド天板52を閉める。第1放射線遮蔽部10A及び試料用放射線遮蔽部50の鉛ブロックLBによって、測定試料SAからの放射線は遮断され外部に漏れ出ることがない。その後、操作者は高純度Ge検出器SSからの放射線のスペクトルを測定する。
【0043】
測定が終了して高純度Ge検出器SSを点検する場合又は故障の場合は、これらの順序を逆に行えば放射線遮蔽装置100から高純度Ge検出器SSを有するデュワー瓶NTを取り出すことができる。この場合でも、個々の鉛ブロックLBを取り外す必要はないため、高純度Ge検出器SSを冷却したまま容易に高純度Ge検出器SSを搬出することが可能である。
【0044】
本実施例の放射線遮蔽装置100は2つの高純度Ge検出器SSを備えているため、一方の高純度Ge検出器SSを搬出する際にも、他方の高純度Ge検出器SSを使用することができる。これによって、急遽一方の高純度Ge検出器SSを点検や修理しなければならなくなった場合でも、直ちに他方の高純度Ge検出器SSを使用できる。このため放射性医薬品の生産・品質管理に与える影響を最小限とすることができる。
【0045】
<移動一段テーブル40の構成>
図9は、第1放射線遮蔽部10Aが、移動テーブルの一態様である移動一段テーブル40に載置されている実施例の斜視図である。図8で示した同じ部材には同じ番号を付している。移動一段テーブル40は、図8に示した移動二段テーブル20と異なり、デュワー瓶NTを載置する下段テーブルを有していない。
【0046】
その代わりに、検出装置載置テーブル45が高純度Ge検出器SSを備えるデュワー瓶NTを載置している。検出装置載置テーブル45の底フレームには、ブレーキ付きキャスター22が設けられ、高純度Ge検出器SSを備えるデュワー瓶NT自身が移動可能になっている。検出装置載置テーブル45は移動一段テーブル40内部に入り込む大きさになっている。したがって図8で開示したように、操作者が移動二段テーブル20から搬送テーブル30へスライドレール27及び37を介してデュワー瓶NTを移動させる必要がなくなる。その一方、移動一段テーブル40と検出装置載置テーブル45との位置関係を固定させる必要が生じる。このため、接合部であるワンタッチクリップ42が移動一段テーブル40の下部フレーム枠に設けられており、ワンタッチクリップ42が検出装置載置テーブル45のフック(不図示)と接合する。
【0047】
校正された高純度Ge検出器SSを有するデュワー瓶NTが検出装置載置テーブル45に載置された状態から、操作者は検出装置載置テーブル45を移動一段テーブル40に当接させる。この状態で、操作者は移動一段テーブル40のワンタッチクリップ42と検出装置載置テーブル45のフックとを接合する。このように移動一段テーブル40と検出装置載置テーブル45とを一体化させてから、移動一段テーブル40及び検出装置載置テーブル45を中央テーブル60の一端に移動させる。その後の動作は、<放射線遮蔽装置100の動作>で説明したと同様である。図9に示した実施例の場合でも、鉛ブロックLBを取り外したり積み重ねたりする必要がない。
【0048】
図示しないが、検出装置載置テーブル45を中央テーブル60の一端に移動させ、ワンタッチクリップで検出装置載置テーブル45を中央テーブル60に固定し、別途移動一段テーブル40を中央テーブル60の一端に移動させ、移動一段テーブル40を中央テーブル60にキャッチクリップ68で固定させてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本実施例の放射線遮蔽装置100では、複数の鉛ブロックLBを積み重ねて試料用放射線遮蔽部50、第1放射線遮蔽部10A及び第2放射線遮蔽部10B筺体を構成したが、一体型の鉛鋳造物で構成してもよい。
【0050】
また、試料用放射線遮蔽部50の両端に高純度Ge検出器SSを配置する構成にしたが、一方の端のみに高純度Ge検出器SSを配置する構成であってもよい。
図10は、別の放射線遮蔽装置110を示した正面図である。図1などと同じ部材には同じ符号を付している。
【0051】
別の放射線遮蔽装置110は、片側が鉛ブロック59で遮蔽された別の試料用放射線遮蔽部51を備えている。試料用放射線遮蔽部51は、2つの高純度Ge検出器SSを切り替える必要がないので遮蔽板56を有しておらず、また鉛ブロック59で遮蔽された側には延びた位置に配置される鉛ブロック58を有していない。この別の放射線遮蔽装置110は、1つの高純度Ge検出器SSしかないのでこの高純度Ge検出器SSの校正などに時間がかかると、その間測定試料SAの測定が中断される。しかし、別の放射線遮蔽装置110は1つの高純度Ge検出器SSを用意すればよいので、全体として安価な製造コストで用意することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】放射線遮蔽装置100の斜視図である。
【図2】(a)放射線遮蔽装置100の上面図である。 (b)一部を切り欠いた正面図である。
【図3】第1放射線遮蔽部10A及び第2放射線遮蔽部10Bが試料用放射線遮蔽部50に装着された正面図である。
【図4】放射線遮蔽装置100の六面図である。
【図5】試料用放射線遮蔽部50の六面図である。
【図6】放射線遮蔽部10の六面図である。
【図7】第1放射線遮蔽部10Aが試料用放射線遮蔽部50に装着された際の高純度Ge検出器SSの周辺拡大図である。 (a)測定試料SAを高純度Ge検出器SSから100cm離れた位置に配置した例である。 (b)測定試料SAを高純度Ge検出器SSから25cm離れた位置に配置した例である。
【図8】移動二段テーブル20の下段テーブルから高純度Ge検出器SSを備えるデュワー瓶NTを取り出す際の斜視図である。
【図9】第1放射線遮蔽部10が移動一段テーブル40に載置されている実施例の斜視図である。
【図10】片側が遮蔽されている別の試料用放射線遮蔽部51に第1放射線遮蔽部10Aを備えた別の放射線遮蔽装置110の正面図である。
【符号の説明】
【0053】
10A … 第1放射線遮蔽部
10B … 第2放射線遮蔽部
18 … 可変アンカーボルト
20 … 移動テーブル(20A,20B … 移動二段テーブル)
22 … キャスター
24 … 調整ネジ
25 … 支持台 (25A … 下板,25B … 上板)
27 … スライドレール
28 … フック
30 … 搬送テーブル
37 … スライドレール
40 … 移動一段テーブル
42 … ワンタッチクリップ
45 … 検出装置載置テーブル
50 … 試料用放射線遮蔽部
52 … スライド天板
54 … ガイドレール
56 … 遮蔽板
60 … 中央テーブル
68 … キャッチクリップ
100 … 放射線遮蔽装置
ER … 環境放射線
LB … 鉛ブロック, 58 … 鉛ブロック
NT … デュワー瓶
OP … 開口部
RR … 放射線
SA … 測定試料
SS … 検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定試料からの放射線を検出する第1検出器と、前記第1検出器に接続され前記第1検出器を冷却するための冷媒を貯蔵する第1冷媒容器とを有する第1放射線検出装置を使用する放射線遮蔽装置において、
少なくとも1端面を除いて前記測定試料を覆う遮蔽材を有するとともに、前記1端面から外側に延びた遮蔽材を有する試料用放射線遮蔽部と、
遮蔽材を有し、前記試料用放射線遮蔽部の前記一端面に着脱可能に取り付けられる第1放射線遮蔽部とを備え、
前記第1検出器は、前記試料用放射線遮蔽部と第1放射線遮蔽部との間に配置され、外側に延びた前記遮蔽材により環境放射線から遮蔽されており、
前記第1冷媒容器は、前記試料用放射線遮蔽部及び第1放射線遮蔽部の外側に配置されることを特徴とする放射線遮蔽装置。
【請求項2】
前記試料用放射線遮蔽部を載置する中央テーブルと、
前記第1放射線遮蔽部を載置する移動テーブルと、
前記中央テーブルと前記移動テーブルとを結合する結合手段と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の放射線遮蔽装置。
【請求項3】
前記移動テーブルは前記第1放射線遮蔽部を載置する上段テーブルと第1放射線検出装置を摺動部材を介して載置する下段テーブルとを備えており、
前記第1放射線検出装置は、前記下段テーブルの摺動部材で摺動させられて搬送用に使用される搬送テーブルとの間で移設可能であることを特徴とする請求項2に記載の放射線遮蔽装置。
【請求項4】
前記第1放射線検出装置を載置し移動可能な検出装置載置テーブルを備え、
前記検出装置載置テーブルが前記移動テーブル内部に入り込むことを特徴とする請求項2に記載の放射線遮蔽装置。
【請求項5】
前記第1放射線検出装置を高さ方向に調整可能な支持台を備えることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の放射線遮蔽装置。
【請求項6】
前記放射線遮蔽装置は、前記第1放射線検出器とは別に、測定試料からの放射線を検出する第2検出器と、前記第2検出器に接続され前記第2検出器を冷却するための冷媒を貯蔵する第2冷媒容器とを有する第2放射線検出装置を使用し、
前記試料用放射線遮蔽部は、前記1端面の反対側の他端面から外側に延びた遮蔽材を有し、
遮蔽材を有し、前記他端面に着脱可能に取り付けられる第2放射線遮蔽部を備えることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の放射線遮蔽装置。
【請求項7】
前記試料用放射線遮蔽部は、前記測定試料を配置する第1位置と第2位置とを備え、
前記第1位置に前記測定試料を配置する際には前記第1位置と前記第2検出器との間に遮蔽板を配置し、
前記第2位置に前記測定試料を配置する際には前記第2位置と前記第1検出器との間に遮蔽板を配置することを特徴とする請求項6に記載の放射線遮蔽装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−298574(P2008−298574A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−144764(P2007−144764)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(000230250)日本メジフィジックス株式会社 (75)
【Fターム(参考)】