説明

放電ランプ装置用アークチューブおよび同アークチューブの製造方法

【課題】フリッカーの発生しない放電ランプ装置用アークチューブの提供。
【解決手段】電極棒6とモリブデン箔7とモリブデン製リード線8を接合一体化した電極アッシーA,A’が両端のピンチシール部13A,13A’に封着され、始動用希ガスとともに発光物質等を封入したガラス管中央の密閉ガラス球12内に電極6,6が対設されたアークチューブにおいて、ピンチシール部13A,13A’封着前の電極アッシーA,A’に200〜800℃の真空熱処理を施して、その水分含有量を10ppm以下、望ましくは3ppm以下で、酸化膜を除去するように調整した。密閉ガラス球12内に封入される不純物(水分やガス)が極めて少なく、フリッカーが発生せず、3000ルーメン以上の光束が得られ、約15kVまで起動電圧を低くできるアークチューブが提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極棒とモリブデン箔とモリブデン製リード線を接合一体化した電極アッシーがガラス管両端のピンチシール部に封着されて、始動用希ガスとともに発光物質等を封入したガラス管中央の密閉ガラス球内に電極が対設された放電ランプ装置用アークチューブおよび同アークチューブの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図7は従来の放電ランプ装置であり、アークチューブ5の前端部は絶縁性ベース1の前方に突出する一本のリードサポート2によって支持され、アークチューブ5の後端部はベース1の凹部1aで支持され、さらにアークチューブ5の後端部寄りが絶縁性ベース1の前面に固定された金属製支持部材Sによって把持された構造となっている。
【0003】
アークチューブ5から導出する前端側リード線8は、溶接によってリードサポート2に固定され、一方、後端側リード線8は、ベース1の凹部1a形成底面壁1bを貫通し、底面壁1bに設けられている端子3に、溶接により固定されている。符号Gは、アークチューブ5から発した光の中で、人体に有害な波長域の紫外線成分をカットする円筒形状の紫外線遮蔽用グローブで、アークチューブ5に溶着一体化されている。
【0004】
そして、アークチューブ5は、図8に示すように、前後一対のピンチシール部5b,5b問に、電極棒6,6を対設しかつ発光物質等(水銀や金属ハロゲン等)を封入した密閉ガラス球5aが形成された構造となっている。ピンチシール部5b内には、密閉ガラス球5a内に突出するタングステン製電極棒6とピンチシ−ル部5bから導出するモリブデン製リード線8とをモリブデン箔7を介して接合一体化した電極アッシーA,A’が封着されて、密閉ガラス球5aにおける気密性が確保されている。
【0005】
このアークチューブ(水銀入りアークチューブ)5の製造方法としては、まず図9(a)に示されるように、直線状延出部w
の途中にガラス球wの形成されている円筒形ガラス管Wの下方の開口端側から、電極棒6とモリブデン箔7とリード線8を接合一体化した電極アッシーAを挿入し、チャンバー部w2
の近傍位置q1を一次ピンチシールする。次いで、図9(b)に示されるように 、上方の開口端側からガラス管W内に差し入れた水銀供給ノズルNを介して、ガラス球w2に水銀を供給する。次いで、図9(c)に示されるように、ガラス球w2に発光物質等のペレットP等を投入し、つづいて図9(d)に示されるように、リード線8に屈曲部8aを形成した他の電極アッシーA’を挿入し自己保持させる。即ち、ガラス管W内に挿入された電極アッシーA’は、リード線8に形成されているガラス管Wの内径より幅のある屈曲部8aがガラス管Wの内周面に圧接し、この圧接力によって挿入されたその位置に自己保持される。つづいて、ガラス管Wの開口端部側をバーナを使って仮封止する。さらにガラス管Wの電極アッシーA’挿入部位を二次ピンチシールするとともに、ガラス管Wの仮封止側を所定位置で切断し、リード線8をガラス管Wから導出させる。
【0006】
この種のアークチューブ5では、アークチューブ点灯中に光がちらつく現象(以下、これをフリッカーという。)が問題となることが知られている。
【0007】
このフリッカー発生のメカニズムは、
4ScI+3SiO→2Sc+3SiI………(1)
nW+SiI→SiWn+2I………(2)
4ScI+3ThO→2Sc+3ThI………(3)
という反応式で示され、次のように説明できる。
【0008】
即ち、(1)式のように、アークチューブの管壁を構成している石英ガラス(SiO)がScIと反応して失透現象が起こり、このとき発生したSiI(中のSi)が、(2)式のように、タングステン電極と反応して、低融点合金(SiWn)が生成されたり、トリアドープタングステン電極では、(3)式のように、トリア(ThO)が消失して、電極の変形や損傷により電極間距離が広がり、再点弧電圧が上昇して、バラストの制御ができない状態になって、フリッカーが発生する。
【0009】
そして、このフリッカー発生のメカニズム(反応式)は、不純ガスや水分が存在すると反応が一層進行するため、下記特許文献1に示されるように、アークチューブを構成する石英ガラス中のOH基の含有量を小さくしたり、特許文献2に示されるように、密閉ガラス球内の封入物質(ハロゲン化金属)中の水分含有量を小さくすることで、このフリッカーの発生を防止するという提案がなされている。
【特許文献1】特開平11−329350号
【特許文献2】特開2004−39323号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
また、従来のアークチューブの密閉ガラス球5aには緩衝作用を営む水銀が封入されているが、水銀は環境有害物質であり、地球上の環境汚染をできるだけ減らそうとする社会のニーズに対して、密閉ガラス球5a内に水銀を含まない水銀フリーアークチューブの開発が盛んに行われている。そして、この水銀フリーアークチューブの製造方法としては、前記した水銀入りアークチューブの製造方法(図9参照)における図9(b)に示す水銀供給工程だけが省かれて、その他の工程は水銀入りアークチューブの製造方法と概略同一である。
【0011】
そして、発明者は、この水銀フリーアークチューブを開発する過程で、特許文献1,2に示すように、石英ガラス中のOH基の含有量を小さくしたり、封入物質(ハロゲン化金属)であるペレットP中の水分含有量を小さくすること以上に、電極アッシーに付着している不純物(水分および酸化膜)を除去することがフリッカーの発生を防止する上で重要であり、特に、ピンチシール工程に用いる電極アッシーA,A’を、予め200〜800℃で真空熱処理しておくことがフリッカー発生の防止に有効であることを見出した。
【0012】
即ち、ペレットPとして密閉ガラス球5aに封入される封入物質(ハロゲン化金属)の総重量は、たかだか0.3〜0.4mgであるのに対し、電極アッシーA,A’の重量は1本で約75mg(2本で約150mg)で、ペレットPと電極アッシーA,A’が同じ水分含有量であっても、水分の総量としては電極アッシーA,A’の方が圧倒的に多いので、電極アッシーA,A’の水分含有量を少なくすることがフリッカー発生の防止に有効であると考えた。
【0013】
また、従来の水銀フリーアークチューブの製造方法では、密閉ガラス球5a内に不純ガスや水分が存在しないように、電極アッシーA,A’を構成する電極棒6,モリブデン箔7,リード線8に対して、それぞれの部品の段階で不純物(水分や酸化膜)を除去するための処理(電極棒6には真空熱処理,モリブデン箔7には酸化・還元処理,リード線8には還元処理)を施すようになっている。しかし、製造された水銀フリーアークチューブについて発明者がその評価試験を行ったところ、図4,5,6における各比較例に示すように、寿命試験では2560時間〜2670時間でフリッカーが発生し、光束測定試験では光束(平均値)が2976ルーメンと低く、起動電圧測定試験では起動電圧(平均値)が18.9kVと高く、いずれも好ましくない結果であった。
【0014】
発明者がこの原因について考察した結果、電極棒6,モリブデン箔7,リード線8は、それぞれの部品の段階で行う不純物(水分や酸化膜)除去処理により、一旦は不純物(水分や酸化膜)が除去されるものの、その後、電極棒6,モリブデン箔7,リード線8を大気中で溶接(接合)して電極アッシーA,A’として一体化する際に、不純物(水分や酸化膜)が再付着して、フリッカーの発生が促進されたり、不純物の励起にエネルギーが使われて、光束が低下したりアークチューブの起動電圧が高くなる、と考えられる。
【0015】
そこで、発明者は、電極棒6,モリブデン箔7,リード線8を一体化した電極アッシーA,A’を、ピンチシール工程に先立って200〜800℃で真空熱処理するようにしたところ、図4,5,6おける実施例1,2に示すように、寿命試験では3000時間以内でのフリッカーの発生がなく、光束測定試験では3000ルーメン以上の光束(平均値)が得られ、起動電圧測定試験では起動電圧(平均値)が約15kVに低下するという、好ましい結果が得られたので、この度、本発明を提案するに至ったものである。
【0016】
本発明は前記した従来技術の問題点および前記した発明者の知見に鑑みてなされたもので、その目的は、フリッカーの発生しない放電ランプ装置用アークチューブおよび同アークチューブの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成するために、請求項1に係る放電ランプ装置用アークチューブにおいては、電極棒とモリブデン箔とモリブデン製リード線を接合一体化した電極アッシーが両端のピンチシール部に封着されることで、始動用希ガスとともに発光物質等を封入したガラス管中央の密閉ガラス球内に電極が対設された放電ランプ装置用アークチューブにおいて、
前記電極アッシーには、前記ピンチシール部に封着される前に、その水分含有量を10ppm以下、望ましくは3ppm以下に調整する200〜800℃の真空熱処理を施すように構成した。
【0018】
また、前記目的を達成するために、請求項2に係る放電ランプ装置用アークチューブの製造方法においては、電極棒とモリブデン箔とモリブデン製リード線が接合一体化された第1の電極アッシーをガラス管の一端側から挿通してガラス管をピンチシールする一次ピンチシール工程と、電極棒とモリブデン箔とモリブデン製リード線が接合一体化された第2の電極アッシーをガラス管の他端側から挿通し、管内に始動用希ガスおよび発光物質等を供給した状態でガラス管をピンチシールする二次ピンチシール工程とを備えた放電ランプ装置用アークチューブの製造方法において、前記第1,第2のピンチシール工程に先立ち、前記第1,第2の電極アッシーに200〜800℃の真空熱処理を施すように構成した。
(作用)ピンチシール部封着前の電極アッシーに200℃〜800℃の真空熱処理を施すことで、電極アッシーは、その水分含有量が10ppm以下、望ましくは3ppm以下に調整されるとともに、その表面に付着している酸化膜(主に電極棒とモリブデン箔とモリブデン製リード線間の各接合部に付着している酸化膜)も確実に除去された形態でピンチシール部に封着(ピンチシール)される。
【0019】
このため、寿命測定試験結果(図4参照)に示されるように、約2600時間でフリッカーが発生する比較例に対して、本願発明に係るアークチューブでは3000時間以内でのフリッカーの発生がない。また、光束測定試験結果(図5参照)に示されるように、自動車用ヘッドランプ用光源バルブの光束値としての一般的要求基準である3000ルーメンに満たない比較例(2676ルーメン)に対して、本願発明に係るアークチューブでは3000ルーメン以上の光束(平均値)が得られた。また、起動電圧測定試験結果(図6参照)に示されるように、約19kVと高い値となった比較例に対し、本願発明に係るアークチューブでは一般に望ましい起動電圧とされる16kVより低い約15kVが得られた。
【0020】
これらの図4〜6に示すように、フリッカーの発生を防止する上では、電極アッシーに施す真空熱処理温度を200℃以上にして電極アッシーの水分含有量を10ppm以下、望ましくは3ppm以下にすればよく、しかも真空熱処理温度が高いほど、光束値が上がり、起動電圧が低下するため、真空熱処理温度は高い方が望ましい。しかし、真空熱処理温度が800℃以上では、電極アッシーの水分含有量が確実に3ppm以下となるものの、第1に、モリブデン箔の結晶粒子が成長(拡大)し、モリブデン箔の表面粗さが平滑化され、石英ガラスとの密着性が低下し、密閉ガラス球内の封入物質のリークにつながる箔浮き(モリブデン箔とガラス層間に隙間が形成される現象)が生じる。第2に、二次ピンチシール側の第2の電極アッシーのモリブデン製リード線には、ガラス管の内周面に圧接して電極アッシーをガラス管内所定位置に自己保持させるための屈曲部が形成されているが、真空熱処理温度が800℃以上では、このリード線(屈曲部)の抗張力(ばね性)が低下し、二次ピンチシールに際してのリード線屈曲部における自己保持機能が低下し、第2の電極アッシーをガラス管内所定位置に保持しにくくなる。このため、電極アッシーの真空熱処理温度は200〜800℃の範囲であることが望ましい。
【0021】
請求項3においては、請求項2に記載の放電ランプ装置用アークチューブの製造方法において、電極アッシーとして一体化する前の前記電極棒をその太さに適した1600〜2200℃の温度で真空熱処理するように構成した。
(作用)電極アッシーにおける電極棒は、二度にわたって不純物除去処理が施されているので、それだけ電極アッシーに付着している不純物(水分および酸化膜)の量が少なく、密閉ガラス球内に封入される不純物としての水分やガスがそれだけ少なく、フリッカーの発生防止に有効である。
【0022】
特に、1600〜2200℃という高温で真空熱処理した電極棒では、その表面に吸着している水分や酸化膜のみならず、電極棒内部の不純物(水分や異物)も除去できる。そして、この真空熱処理温度が高いほど、不純物(水分や異物)除去効果が高いが、同時に結晶の粗大化が進行し、折れやすくなる。したがって、電極棒の径に適した処理温度を選定する(例えば、直径0.25mmの電極棒では、約1600℃とする)ことが望ましい。
【0023】
請求項4においては、請求項2または3に記載の放電ランプ装置用アークチューブの製造方法において、電極アッシーとして一体化する前の前記モリブデン箔に300〜500℃で酸化処理を行った後、900℃で還元処理するように構成した。
(作用)電極アッシーにおけるモリブデン箔は、二度にわたって不純物除去処理が施されているので、電極アッシーに付着している不純物(水分および酸化膜)の量がそれだけ少なく、密閉ガラス球内に封入される不純物としての水分やガスが少なく、フリッカーの発生防止に有効である。また、電極アッシーとして一体化する前のモリブデン箔に施す酸化・還元処理は、モリブデン箔の表面粗度を高めて、ガラス層との密着性を高めるように作用する。
【0024】
請求項5においては、請求項2〜4のいずれかに記載の放電ランプ装置用アークチューブの製造方法において、電極アッシーとして一体化する前の前記モリブデン製リード線を800℃で還元処理するように構成した。
(作用)電極アッシーにおけるモリブデン製リード線は、二度にわたって不純物除去処理が施されているので、それだけ電極アッシーに付着している不純物(水分および酸化膜)の量が少なく、密閉ガラス球内に封入される不純物としての水分やガスがそれだけ少なく、フリッカーの発生の防止に有効である。
【発明の効果】
【0025】
請求項1に係る放電ランプ装置用アークチューブによれば、不純物(水分や酸化膜)を除去した電極アッシーがピンチシール部に封着されているので、密閉ガラス球内に封入されている不純物としての水分やガスが少なく、フリッカーの発生しない放電ランプ装置用アークチューブが提供される。
【0026】
請求項2に係る放電ランプ装置用アークチューブの製造方法によれば、電極アッシーから不純物(水分や酸化膜)を除去した状態でガラス管をピンチシールするので、密閉ガラス球内に封入される不純物としての水分やガスが少なくなって、フリッカーの発生しない放電ランプ装置用アークチューブが提供される。
【0027】
請求項3によれば、電極アッシーの特に電極棒に付着している不純物(水分や酸化膜)が確実に除去されているので、密閉ガラス球内に封入される不純物としての水分やガスがそれだけ少なくなって、フリッカーの発生しない放電ランプ装置用アークチューブが提供される。
【0028】
請求項4によれば、電極アッシーの特にモリブデン箔に付着している不純物(水分や酸化膜)が確実に除去されているので、密閉ガラス球内に封入される不純物としての水分やガスがそれだけ少なくなって、フリッカーの発生しない放電ランプ装置用アークチューブが提供される。
【0029】
請求項5によれば、電極アッシーの特にモリブデン製リード線に付着している不純物(水分や酸化膜)が確実に除去されているので、密閉ガラス球内に封入される不純物としての水分やガスがそれだけ少なくなって、フリッカーの発生しない放電ランプ装置用アークチューブが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて説明する。
【0031】
図1〜図6は、本発明の一実施例を示すもので、図1は本発明の一実施例である放電ランプ装置用水銀フリーアークチューブの縦断面図、図2は同アークチューブの製造工程の前処理工程を示す工程説明図、図3は同アークチューブの製造工程を示す工程説明図で、(a)は一次ピシチシール工程における仮ピンチシール工程の説明図、(b)は一次ピンチシール工程における本ピンチシール工程の説明図、(c)は発光物質等のペレット投入工程の説明図、(d)は第2の電極アッシー挿入工程の説明図、(e)はチップオフ工程(電極アッシー仮止め工程)の説明図、(f)は二次ピンチシール工程の説明図、図4は同アークチューブの寿命試験結果を示す図、図5は同アークチューブの光束測定試験結果を示す図、図6は同アークチューブの起動電圧測定試験結果を示す図である。
【0032】
これらの図において、アークチューブ10の装着される放電ランプ装置は、図7に示す従来構造と同一であり、その説明は省略する。
【0033】
アークチューブ10は、直線状延出部wの長手方向途中に球状膨出部wが形成された円パイプ形状の石英ガラス管Wの球状膨出部w寄りがピンチシールされて、放電空間を形成する楕円体形状のチップレス密閉ガラス球12の両端部に横断面矩形状のピンチシール部13A,13A’(一次ピンチシール部13A,二次ピンチシール部13A’)が形成された構造で、密閉ガラス球12内には、放電電極を構成するタングステン製の電極棒6,6が対向配置されており、電極棒6,6はピンチシール部13A,13A’に封着されたモリブデン箔7,7に接続され、ピンチシール部13A,13A’の端部からはモリブデン箔7,7に接続されたモリブテン製リード線8,8が導出し、リード線8,8は非ピンチシール部である円パイプ形状部14を挿通して外部に延びている。
【0034】
このアークチューブ10の外観構造については、図8に示す従来の水銀入りアークチューブ5と一見したところ変わるものではないが、密閉ガラス球12内には、始動用希ガス,主発光用金属ハロゲン化物および水銀に代わる緩衝物質として作用する補助金属ハロゲン化物等(以下、発光物質等という)が封入されている。即ち、アークチューブ10は、環境有害物質である水銀を封入した従来の水銀入りアークチューブとは異なり、水銀に代わる補助金属ハロゲン化物が封入されている、いわゆる水銀フリーアークチューブとして構成されており、密閉ガラス球12内の封入物質の具体的な構成としては、例えば、特開平11−238488号、特開平11−307048号等において種々の提案がなされている。
【0035】
次に、図1に示す水銀フリーアークチューブ10の製造工程を、図2,3に基づいて説明する。
【0036】
この水銀フリーアークチューブの製造工程では、ガラス管Wに電極アッシーA,A’を挿入してガラス管をピンチシール等する工程(図3参照)に先だって、電極アッシーA,A’を組み立てて電極アッシーA,A’から不純物(水分および酸化膜)を確実に除去する前工程〈図2参照〉を行うことに特徴がある。
【0037】
即ち、電極アッシーA,A’を構成する電極棒6,モリブデン箔7およびリード線8に対しては、それぞれ部品の段階で不純物(水分および酸化膜)除去処理を施すことは勿論であるが、これら6,7,8を電極アッシーA,A’として接合一体化した後にも電極アッシーA,A’に不純物(水分および酸化膜)除去処理を施して、電極アッシーA,A’に付着している不純物(水分および酸化膜)を確実に除去した上で、図3(a)に示す一次ピンチシール工程が開始される。
【0038】
具体的には、電極棒6については、図2(a1)に示される切断工程において、電極棒構成材である細長いタングステン製電極材を所定寸法(例えば、6・5mm)の電極棒6に切断する。ついで、図2(b1)に示される真空熱処理工程において、所定寸法の電極棒6を真空加熱炉に入れて真空熱処理(1600〜2200℃)を施すことで、電極棒6の表面に付着している不純物(水分および酸化膜)を除去する。特に、1600〜2200℃という高温で真空熱処理するため、電極棒6の表面に吸着している水分や酸化膜のみならず、電極棒6内部の不純物(水分や異物)も除去できる。
【0039】
モリブデン箔7については、図2(b2)に示される酸化還元処理工程において、スプール状のモリブデン箔材(巾1.5mmの帯状のモリブデン箔材をスプール状に捲回したもの)を巻きほぐし、酸化・還元炉において酸化(300〜500℃)・還元(900℃)処理を施すことで、モリブデン箔材の表面粗さを高め(1μm以上の凹凸を形成し)て石英ガラス層との密着性を高めるとともに、モリブデン箔材の表面に付着している不純物(水分および酸化膜)を除去する。なお、このモリブデン箔の酸化・還元処理については、特開2003−86136において、詳しく説明されている。そして、図2(a2)に示される切断工程において、モリブデン箔材を所定寸法のモリブデン箔7に切断する。
【0040】
モリブデン製リード線8については、図2(a3)に示される切断工程において、細長いモリブデン製リード線材を所定の長さのリード線8に切断した後、図2(b3)に示される還元処理工程において、リード線8を還元炉に入れて還元処理(800℃)を施すことで、モリブデン製リード線8の表面に付着している不純物(水分および酸化膜)を除去する。なお、電極アッシーA’に対応するリード線8には、切断工程の後、リード線8の所定位置に屈曲部8aを形成しておく。
【0041】
そして、それぞれ部品の段階で不純物(水分および酸化膜)除去処理が施された電極棒6,モリブデン箔7,モリブデン製リード線8を、図2(c)に示される溶接組み立て工程において、抵抗溶接により電極アッシーA,A’として一体化する(電極アッシーA,A’を組み立てる)。ついで、図2(d)に示される真空熱処理工程において、電極アッシーA,A’を真空加熱炉に入れて200〜800℃の真空熱処理を施すことで、不純物(水分および酸化膜)が確実に除去された電極アッシーA,A’が得られる。なお、不純物(水分および酸化膜)をさらに確実に除去するには、水分濃度を1ppm以下に調整した不活性ガスで電極アッシーA,A’をウォッシングしつつ真空熱処理することが望ましい。
【0042】
ついで、ガラス管Wに電極アッシーA,A’を挿入してガラス管Wをピンチシール等する工程(図3)に移行するが、直線状延出部wの途中に球状膨出部wの形成されたガラス管Wを予め製造しておく。
【0043】
そして、図3(a)に示されるように、ガラス管Wを垂直に保持し、ガラス管Wの下方の開口端側から、電極アッシーAを挿入して所定位置に保持するとともに、ガラス管Wの上方開口端にフォーミングガス(アルゴンガス)供給ノズル40を差し込む。さらに、ガラス管Wの下端部をガス供給パイプ50内に挿入する。ノズル40から供給されるフォーミングガスは、ピンチシール時のガラス管W内を余圧状態に保持し、かつ電極アッシーAが酸化されるのを防止するためのものである。ガス供給パイプ50から供給される不活性ガス(アルゴンガスまたは窒素ガス)は、ピンチシールの際、およびピンチシール後のリード線8が高温状態にある間、リード線8を不活性ガス雰囲気に保持して、リード線8の酸化を防止するものである。符号22はガラス管把持部材である。
【0044】
ノズル40から加熱(例えば、120℃)したフォーミングガスをガラス管W内に供給しつつ、さらに、パイプ50から不活性ガス(アルゴンガスまたは窒素ガス)をガラス管Wの下端部に供給しつつ、直線状延出部wにおける球状膨出部wの近傍位置(モリブデン箔を含む位置)をバーナ24aで2100℃に加熱し、ピンチャー26aでモリブデン箔7のリード線8接続側を仮ピンチシールする。ガラス管Wに供給されるフォーミングガスは加熱されており、ガラス管W内の水分を効果的に除去する。
【0045】
次に、仮ピンチシールが終わると、図3(b)に示されるように、真空ポンプ(図示せず)によって、ガラス管W内を真空(400Torr以下の圧力)に保持し、ピンチヤー26bでモリブデン箔7を含む未ピンチシール部をバーナ24
bで2100℃に加熱し本ピンチシールする(一次ピンチシール工程)。なお、ガラス管W内に作用させる真空度は、400Torr〜4×10-3Torrが望ましい。また、この本ピンチシール工程においても、ガラス管Wの下方開口部を不活性ガス(アルゴンガスまたは窒素ガス)雰囲気に保持することで、リード線8の酸化を防ぐことが望ましい。
【0046】
次に、一次ピンチシール処理したガラス管Wには、図3(c)に示されるように、その上方開口部から球状膨出部wに発光物質等のペレット(外径が約0.5mmの球状物)Pを投入する(ペレット投入工程)。なお、ペレットPの投入前に、ガラス管W内を不活性ガスで満たすために数回のウォッシングを行うが、このウォッシングに使用される不活性ガス(アルゴンガス)は、例えば、120℃に加熱されており、ガラス管W内の水分を効果的に除去する。
次に、図3(d)に示されるように、ガラス管Wの上方の開口端側から第2の電極アッシーA’をガラス管W内所定位置まで挿入する(第2の電極アッシー挿入工程)。
【0047】
この第2の電極アッシーA’のリード線8には、長手方向途中にM字形状の屈曲部8aが設けられており、この屈曲部8aがガラス管Wの内周面に圧接された形態となって、直線状延出部wの長手方向所定位置に電極アッシーA’が自己保持される。
【0048】
そして、第2の電極アッシーA’の挿入位置を調整(一般には、数mmほど挿入)した後、ガラス管W内を排気し、図3(e)に示されるように、ガラス管W内にキセノンガスを供給しつつ、ガラス管Wの上方所定部位をチップオフすることで、ガラス管W内に電極アッシーA’を仮止めし、かつ発光物質等を封止する。符号wは、チップオフ部を示す。
【0049】
図3(e)に示すチップオフ工程(電極アッシーA’仮止め工程)の後、図3(f)に示すように、発光物質P等が気化しないように球状膨出部wを液体窒素(LN)で冷却しながら、直線状延出部wにおける球状膨出部wの近傍位置(モリブデン箔7を含む位置)をバーナー24で2100℃に加熱し、ピンチャー26cで二次ピンチシールして、球状膨出部wを密封する(二次ピンチシール工程)ことで、一次ピンチシール部13Aと二次ピンチシール部13A’間に電極6,6が対設され発光物質P等が封入されたチップレス密閉ガラス球12を形成したガラス管ができ上がる。
【0050】
そして最後に、ガラス管Wの端部を所定の長さだけ切断することにより、図1に示す水銀フリーアークチューブ10が得られる。
【0051】
図4,5,6は、本実施例方法(図2,3に示す方法)で製造したアークチューブ10の寿命測定試験,光束測定試験および起動電圧測定試験の結果を、比較例のアークチューブ(電極アッシーの構成部品ごとに不純物除去処理を行うが、一体化した後の不純物除去処理を行っていない電極アッシーを用いて製造した水銀フリーアークチューブ、換言すれば、図2における前処理工程のうちの図2(d)で示す真空熱処理工程を除く前処理の施された電極アッシーを用いて製造した水銀フリーアークチューブ)と対比して示したもので、本実施例のアークチューブはいずれの試験においても良好な結果が得られた。
【0052】
図4は、アークチューブをIEC60810で定められた点滅モードで寿命試験を行った結果を示し、電極アッシーA,A’を200℃,800℃でそれぞれ真空熱処理した場合(実施例1,2)では、3000時間を経過してもフリッカーが発生しなかった。また、電極アッシーA,A’を1050℃で真空熱処理した場合は、3000時間を経過してもフリッカーが発生しないものの、1000時間経過時に箔浮きに起因したクラックがピンチシール部に発生した。
【0053】
即ち、図2(b2)に示す酸化(300〜500℃)・還元(900℃)処理工程によりモリブデン箔7の表面粗さ(1μm以上の凹凸)を高めたにもかかわらず、電極アッシーA,A’に施す真空熱処理温度が800℃以上であると、モリブデン結晶粒子が拡大(成長)して、モリブデン箔7の表面粗さが平滑化され、石英ガラスとの密着性が低下してしまって、密閉ガラス球12内の封入物質のリークにつながる箔浮きが生じる。
【0054】
一方、比較例では、2560時間〜2670時間でフリッカーが発生した。このことから、電極アッシーA,A’を200℃以上で真空熱処理することがフリッカー発生の防止に有効であるが、800℃以上で真空熱処理した場合には、箔浮きという新たな問題が発生するので、真空熱処理は200〜800℃の範囲が望ましい。
【0055】
また、図5は、アークチューブを積分球内で点灯し、光束を測定した結果(初特性測定時)を示し、電極アッシーA,A’を200℃,800℃でそれぞれ真空熱処理した場合(実施例1,2)では、自動車用ヘッドランプ用光源バルブの光束値としての一般的要求基準である3000ルーメン以上の3081ルーメン,3110ルーメンの光束(平均値)が得られた。一方、比較例では、3000ルーメンに満たない2976ルーメンで、本実施例では、比較例で得られる光束よりも100ルーメン以上アップしており、それだけ光束維持率に優れている。
【0056】
また、図6は、パルスピーク21kV、ライズタイム270nsecのバラストを用いて起動電圧を測定した結果(初特性測定時)を示し、電極アッシーA,A’を200℃,800℃でそれぞれ真空熱処理した場合(実施例1,2)では、起動電圧(平均値)が約15kV(15.4kV,15.0kV)で、比較例で得られる起動電圧(18.9kV)に比べて約3.5kV程度低い値となっている。
【0057】
なお、前記した実施例では、一次ピンチシール工程においてガラス管内に供給されるフォーミングガスは加熱されたものとして説明したが、ガラス管Wをバーナ等で外側から加熱しつつ、加熱していないフオーミングガスをガラス管内に供給することで、一次ピンチシール工程におけるガラス管W内の水分を除去するようにしてもよい。
【0058】
また、図3(c)に示すペレット投入工程前に行われるアルゴンガスによるガラス管W内のウォッシングは、加熱したアルゴンガスを使用すると説明したが、ガラス管Wをバーナ等で外側から加熱しつつ、加熱していないアルゴンガスを供給することで、ペレット投入工程前のウォッシング時にガラス管W内の水分を除去するようにしてもよい。
【0059】
また、前記した実施例では、水銀フリーアークチューブおよび同アークチューブの製造方法について説明したが、水銀入りのアークチューブおよび同アークチューブの製造方法についても本発明を同様に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の一実施例である放電ランプ装置用水銀フリーアークチューブの縦断面図である。
【図2】同アークチューブの製造工程の前処理工程を示す工程説明図である。
【図3】同アークチューブの製造工程説明図で、(a)は一次ピンチシール工程における仮ピンチシール工程の説明図、(b)は一次ピンチシール工程における本ピンチシール工程の説明図、(c)は発光物質等のペレット投入工程の説明図、(d)は第2の電極アッシー挿入工程の説明図、(e)はチップオフ工程(電極アッシー仮止め工程)の説明図、(f)は二次ピンチシール工程の説明図である。
【図4】同アークチューブの寿命測定試験結果を比較例と対比して示す図である
【図5】同アークチューブの光束測定試験結果を比較例と対比して示す図である。
【図6】同アークチューブの起動電圧測定試験結果を比較例と対比して示す図である。
【図7】従来の放電ランプ装置の縦断面図である。
【図8】従来の水銀入りアークチューブの縦断面図である。
【図9】従来の水銀入りアークチューブの製造工程説明図である。
【符号の説明】
【0061】
A 一次ピンチシール側の電極アッシー(第1の電極アッシー)
A’二次ピンチシール側の電極アッシー(第2の電極アッシー)
6 電極棒
7 モリブデン箔
8 リード線
8a リード線のM型の屈曲部
P 発光物質等のペレット
W ガラス管
ガラス管の直線状延出部
ガラス管の球状膨出部
10 水銀フリーアークチューブ
12 密閉ガラス球
13A 一次ピンチシール部
13A’ 二次ピンチシール部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極棒とモリブデン箔とモリブデン製リード線を接合一体化した電極アッシーが両端のピンチシール部に封着されることで、始動用希ガスとともに発光物質等を封入したガラス管中央の密閉ガラス球内に電極が対設された放電ランプ装置用アークチューブにおいて、
前記電極アッシーには、前記ピンチシール部に封着される前に、その水分含有量を10ppm以下、望ましくは3ppm以下に調整する200〜800℃の真空熱処理が施されていることを特徴とする放電ランプ装置用アークチューブ。
【請求項2】
電極棒とモリブデン箔とモリブデン製リード線が接合一体化された第1の電極アッシーをガラス管の一端側から挿通してガラス管をピンチシールする一次ピンチシール工程と、電極棒とモリブデン箔とモリブデン製リード線が接合一体化された第2の電極アッシーをガラス管の他端側から挿通し、管内に始動用希ガスおよび発光物質等を供給した状態でガラス管をピンチシールする二次ピンチシール工程とを備えた放電ランプ装置用アークチューブの製造方法において、前記第1,第2のピンチシール工程に先立ち、前記第1,第2の電極アッシーに200〜800℃の真空熱処理を施すことを特徴とする放電ランプ装置用アークチューブの製造方法。
【請求項3】
前記電極棒は、電極アッシーとして一体化する前に、その太さに適した1600〜2200℃の温度で真空熱処理されたことを特徴とする請求項2に記載の放電ランプ装置用アークチューブの製造方法。
【請求項4】
前記モリブデン箔は、電極アッシーとして一体化する前に、300〜500℃で酸化処理した後、900℃で還元処理されたことを特徴とする請求項2または3に記載の放電ランプ装置用アークチューブの製造方法。
【請求項5】
前記モリブデン製リード線は、電極アッシーとして一体化する前に、800℃で還元処理されたことを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の放電ランプ装置用アークチューブの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−164533(P2006−164533A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−349481(P2004−349481)
【出願日】平成16年12月2日(2004.12.2)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】