放電ランプ装置用アークチューブ
【課題】フリッカーの発生およびピンチシール部における縦クラックや箔浮き抑制に対して有効な放電ランプ装置用水銀フリーアークチューブを提供。
【解決手段】ガラス管の両端開口部がピンチシールされて、少なくとも主発光用金属ハロゲン化物を希ガスとともに封入し電極棒14を対設した密閉ガラス球を備えた水銀フリーアークチューブで、電極棒14を、先端側領域15が基端側領域16より太い同芯段付き形状で、電極埋込領域16Aの体積Vを0.25〜0.42mm3、電極棒14の総体積を0.4〜0.6mm3に構成した。フリッカーと箔浮きの抑制には、Vは0.25mm3以上、縦クラックの抑制には、Vは0.40mm3以下が望ましく、電極消耗の抑制には、電極棒14の総体積が0.4
mm3以上、輝点変動の抑制には、電極棒14の総体積0.6mm3以下が望ましい。
【解決手段】ガラス管の両端開口部がピンチシールされて、少なくとも主発光用金属ハロゲン化物を希ガスとともに封入し電極棒14を対設した密閉ガラス球を備えた水銀フリーアークチューブで、電極棒14を、先端側領域15が基端側領域16より太い同芯段付き形状で、電極埋込領域16Aの体積Vを0.25〜0.42mm3、電極棒14の総体積を0.4〜0.6mm3に構成した。フリッカーと箔浮きの抑制には、Vは0.25mm3以上、縦クラックの抑制には、Vは0.40mm3以下が望ましく、電極消耗の抑制には、電極棒14の総体積が0.4
mm3以上、輝点変動の抑制には、電極棒14の総体積0.6mm3以下が望ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス管の両端開口部がピンチシールされることで、少なくとも主発光用金属ハロゲン化物が希ガスとともに封入され、かつ電極棒が対設された密閉ガラス球を備えた放電ランプ装置用水銀フリーアークチューブに係り、特に、密閉ガラス球内に突出する先端側領域の横断面積がピンチシール部に封着された基端側領域の横断面積よりも大きい同芯段付き形状の電極棒を備えた放電ランプ装置用水銀フリーアークチューブに関する。
【背景技術】
【0002】
図9は従来の放電ランプ装置であり、石英ガラス製アークチューブ5の前端部は絶縁性ベース1の前方に突出する一本のリードサポート2によって支持され、アークチューブ5の後端部はベース1の凹部1aで支持され、アークチューブの後端部寄りが絶縁性ベース1の前面に固定された金属製支持部材4によって、把持された構造となっている。アークチューブ5から導出する前端側リード線8は、溶接によってリードサポート2に固定され、一方、後端側リード線8は、ベース1の凹部1a形成底面壁1bを貫通し、底面壁1bに設けられている端子3に、溶接により固定されている。符号Gは、アークチューブ5から発した光の中で、人体に有害な波長域の紫外線成分をカットする円筒形状のガラス製紫外線遮蔽用グローブで、アークチューブ5に溶着一体化されている。
【0003】
そしてアークチューブ5は、前後一対のピンチシール部5b,5b間に、電極棒6,6を対設し発光物質(NaやScのハロゲン化物やHg)を希ガスとともに封入した密閉ガラス球5aが形成された構造となっている。ピンチシール部5b内には、密閉ガラス球5a内に突出する電極棒6とピンチシール部5bから導出するリード線8とを接続するモリブデン箔7が封着されて、ピンチシール部5bにおける気密性が確保されている。
【0004】
即ち、電極棒6としては、耐熱性および耐久性に優れたタングステン製が最も望ましいが、タングステンはアークチューブを構成する石英ガラスと線膨張係数が大きく異なり、石英ガラスとのなじみも悪く気密性に劣る。したがって、タングステン製電極棒6に、伸縮性および柔軟性に優れ、石英ガラスと比較的なじみのよいモリブデン箔7を接続し、モリブデン箔7をピンチシール部5bで封着することで、ピンチシール部5bにおける気密性を確保するようになっている。
【0005】
しかし、アークチューブの点灯時と消灯時でピンチシール部5bにおける温度差が大きく、線膨張係数が大きく異なる電極棒と石英ガラス層間には、点灯時に熱応力が生じる。特に、近年のアークチューブは瞬時点灯ができるように構成されており、温度上昇率が大きく、熱応力が急激に生じる。そして、点消灯によりこの状態が繰り返されると、電極棒6を封着するピンチシール部(石英ガラス層)5bには、電極棒6に対し放射状に延びるクラック(以下、縦クラックという)が発生し、封入物質がリークし、点灯不良や寿命の低下につながるという問題があった。
【0006】
この問題に対しては、アークチューブの製造過程においてピンチシール部5bに生じた残留圧縮歪が所定の領域にわたって残っている場合の方が、アークチューブの点灯に伴う温度上昇に伴ってピンチシール部の石英ガラス層に生じる熱応力が分散されるので、それだけピンチシール部の石英ガラス層に縦クラックが生じにくく、アークチューブの寿命が延びる、という考えの基に、下記特許文献1(特開2001−15067)が提案された。
【0007】
即ち、特開2001−15067は、図10に示すように、ピンチシール部5bにおける石英ガラス層の電極棒6との密着面に広範な所定範囲にわたって残留圧縮歪層9が形成されるとともに、残留圧縮歪層9とその周りのガラス層間にはビードクラック(残留圧縮歪層9を取り囲むように周方向および軸方向に延びるクラック)9aが形成された構造で、アークチューブの点灯時に電極棒6と石英ガラス層の界面に発生する熱応力が残留圧縮歪層9およびビードクラック9aによって吸収分散されて石英ガラス層側に伝達されるため、ピンチシール部5bの石英ガラス層には封入物質のリークにつながる縦クラックが発生しないというものである。
【0008】
また、密閉ガラス球5a内に封入されているHgは、所定の管電圧を維持し、電極への電子の衝突量を減少させて電極の損傷を緩和する非常に有用な物質であるが、環境有害物質であることから、最近では、Hgを封入しない、いわゆる水銀フリーアークチューブの開発が進められている。
【0009】
そして、水銀フリーにした場合には、管電圧が下がり、放電に必要な管電力が得られないため、管電力を上げるべくアークチューブに供給する電流(管電流)を増加させる必要があり、それだけ電極の負荷が増加し、電極が損傷(消耗や黒化)し、発光効率の低下やアークの立ち消えにつながるという問題が発生した。これに対しては、電極棒6の径を太くすることで対応できるが、電極6が太すぎると、ピンチシール後にピンチシール部が冷える過程で、電極棒と石英ガラス層との熱収縮量の差が大きく顕在化し、石英ガラス層の電極棒との界面が剥離してしまって、ピンチシール部5bにおける石英ガラス層の電極棒6の周りに、アークチューブ点灯時に発生する熱応力を吸収緩和できる最適な大きさの残留圧縮歪層9およびビードクラック9aを形成することができず、アークチューブの点消灯によってピンチシール部5bには封入物質のリークにつながる縦クラックが発生してしまう、と考えられた。
【0010】
そこで、下記特許文献2,3に示す水銀フリーアークチューブでは、例えば、図11に示すように、密閉ガラス球内に突出配置される電極棒先端側領域6aの外径をピンチシール部に封着される電極棒基端側領域6bの外径より太くした段付き電極棒(ピンチシール部に封着される電極棒基端側領域6bの外径を電極棒先端側領域6bの外径より細くした段付き電極棒)を採用することで、電極の損傷と縦クラックの発生という相反する問題の解決を図っている(特許文献3)。
【特許文献1】特開2001−15067
【特許文献2】特開2005−142072
【特許文献3】特開2005−183164
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、前記特許文献2,3のように、電極棒を段付き形状にしただけでは、密閉ガラス球内の希ガスの圧力が高く投入電力も高く設定することが必要な水銀フリーアークチューブにおいて、特に放電ランプ装置の起動時に、径の大きい電極先端側領域からピンチシール部に封着されている径の小さい電極基端側領域に向かう電流や熱流が急激に発生し、これがため、アークチューブの寿命低下の原因となるフリッカー(アークのちらつき)の発生やピンチシール部における縦クラックや箔浮き(モリブデン箔とガラス層間に隙間が生じること)の発生を確実に抑制する上では不十分であることがわかった。
【0012】
そこで、発明者は、段付き電極棒のピンチシール部に封着されている径の小さい基端側領域の体積(容積)に注目してみた。そして、ピンチシール部に封着されている電極棒基端側領域の体積(容積)とフリッカーの発生,同領域の体積(容積)とピンチシール部における縦クラックの発生および箔浮きの発生とのそれぞれの相関関係を考察したところ、図3,4に示すような結果が得られた。
【0013】
即ち、電極棒におけるピンチシール部に封着されている領域の体積(容積)を大きくすると、電極棒からピンチシール部への熱伝導が促進されて、電極先端側領域が極端に高温とならず、電極の変形やフリッカーの発生が抑制されるし、電極棒のピンチシール部に封着されている領域における熱容量が大きい分、電極棒に接続されているモリブデン箔の温度が上がらず、ガラス層とモリブデン箔間に発生する熱応力が小さく、それだけ箔浮きの発生が抑制されることがわかった。
【0014】
また、ピンチシール部において縦クラックの発生を抑制するには、電極棒におけるピンチシール部に封着されている領域の体積(容積)が所定範囲以下であることが望ましいこともわかった。縦クラックの発生を抑制するには、ピンチシール部の電極棒周りに形成される残留圧縮歪層およびビードクラックが最適な範囲に形成されていることが望ましいが、電極棒におけるピンチシール部に封着されている領域の体積(容積)が小さ過ぎると、ガラス層と電極棒間の界面の面積も小さく、ガラス層に発生する残留圧縮歪層(ビードクラック)も小さ過ぎる。一方、電極棒における同領域の体積(容積)が大きすぎると、ガラス層と電極棒間の界面の周方向および軸方向の面積が大きく、ピンチシール後にピンチシール部が冷える過程で、電極棒と石英ガラス層との熱収縮量差が大きく顕在化し、石英ガラス層に適切な残留圧縮歪層およびビードクラックを形成できない。特に、残留圧縮歪層およびビードクラックが大きい場合には、点灯時にビードクラックの周方向の端部から放射状方向に延びるクラックが発生する、即ち、縦クラックの発生につながることがわかった。
【0015】
このように、段付き電極棒のピンチシール部に封着されている径の細い基端側領域の体積(容積)を所定範囲とすれば、フリッカーの発生、ピンチシール部における縦クラックや箔浮きの発生を防止できること(アークチューブの長寿命化が可能)が確認されたので、この度の出願に至ったものである。
【0016】
本発明は前記した従来技術の問題点および発明者の知見に基づいてなされたもので、その目的は、フリッカーの発生,縦クラックの発生および箔浮きの発生の全てを抑制する上で有効な長寿命の放電ランプ装置用水銀フリーアークチューブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成するために、請求項1に係る放電ランプ装置用アークチューブにおいては、ガラス管の両端開口部がピンチシールされることで、少なくとも主発光用金属ハロゲン化物が希ガスとともに封入され、かつ電極棒が対設された密閉ガラス球を備えた放電ランプ装置用水銀フリーアークチューブにおいて、
前記電極棒を、前記密閉ガラス球内に突出する先端側領域の横断面積が前記ピンチシール部に封着された基端側領域の横断面積よりも大きい同芯段付き形状に構成するとともに、前記ピンチシール部に封着された領域の体積Vを0.25〜0.42mm3の範囲内に構成した。
【0018】
ここで、「段付き形状」とは、電極棒先端側領域と電極棒基端側領域間の段差部が実施例に示すような直角形状に形成されているものに限らず、段差が徐変するテーパ形状やスロープ形状といった形状も含む。
【0019】
(作用)水銀フリーアークチューブでは、密閉ガラス球内に水銀が封入されないという欠点を補うために、希ガス(例えばXe)の封入圧が、水銀入りアークチューブの場合(一般に、5〜8気圧)に比べて高い10〜15気圧に設定され、放電に必要な管電力を得るべく投入電力は、水銀入りアークチューブの場合(一般に、60〜70W)に比べて高い70〜85Wに設定され、アークチューブに供給する電流(管電流)は、水銀入りアークチューブの場合(一般に、2.2〜2.6A)に比べて高い2.7〜3.2Aに設定されている。このため、電極に作用する負荷が増加し、電極が損傷し易くなるため、電極の総体積(容積)は、水銀入りアークチューブの場合(一般に、0.25〜0.35mm3)に比べて大きい例えば0.4〜0.6mm3とする。また、損傷のおそれのある電極棒先端側領域では径が大きいので、それだけ損傷し難い。また、ピンチシール部に封着されている電極棒基端側領域では、径が大きい(太すぎる)と、縦クラックの発生を抑制する最適な残留圧縮歪層やビードクラックを形成できないが、電極棒先端側領域の径よりも小さい(細い)ので、電極棒の周りに残留圧縮歪層やビードクラックが形成されて、ピンチシール部において縦クラックが発生し難い。
【0020】
このように、特許文献3と同様に、電極棒を、密閉ガラス球内に突出する領域(先端側領域)がピンチシール部に封着される領域(基端側領域)よりも太い段付き形状(ピンチシール部に封着される電極棒基端側領域の外径を電極棒先端側領域の外径より小さくした段付き電極棒)にすることで、電極の損傷およびピンチシール部での縦クラックの発生をある程度は抑制できる。
しかし、図3,4に示すように、フリッカーの発生,ピンチシール部での縦クラックの発生および箔浮きの発生を確実に抑制するため(アークチューブの長寿命化のため)には、ピンチシール部に封着されている電極棒基端側領域の体積Vを0.25〜0.42mm3の範囲内にすることが必要になる。
【0021】
即ち、ピンチシール部に封着されている電極棒基端側領域の体積Vの、フリッカーの発生,ピンチシール部での縦クラックの発生および箔浮きの発生を確実に抑制するため(アークチューブの長寿命化のため)に望ましいとされる大きさについては、段付き電極棒の小径基端側領域の横断面積をA、同電極棒のピンチシール部に封着された領域の長さをL、同電極棒のピンチシール部に封着された領域の体積(容積)をV、同電極棒の密閉ガラス球内に突出する領域の体積をvとして、次のように説明できる。
【0022】
(電極の変形やフリッカーの発生に対して):電極棒におけるピンチシール部に封着されている領域の体積V(=A・L)を大きくすると、電極棒からピンチシール部への熱伝導が促進されて、電極先端側領域が極端に高温とならず、電極の変形やフリッカーの発生が抑制される。そして、図3に示すVに対するフリッカー発生時間(アークチューブ点灯後フリッカーの発生に至るまでの時間;アークチューブの平均寿命)特性において、フリッカー発生時間(アークチューブの平均寿命)の限界を一般的に望ましいとされる2500時間に設定すると、Vは0.25mm3以上であることが望ましい。
【0023】
(箔浮きに対して):電極棒におけるピンチシール部に封着されている領域の体積V(=A・L)を大きくすると、電極棒のピンチシール部に封着されている領域における熱容量が大きい分、電極棒に接続されているモリブデン箔の温度が上がらず、ガラス層とモリブデン箔間に発生する熱応力が小さく、それだけ箔浮きの発生が抑制される。そして、Vに対する箔浮き発生率特性(図4一点鎖線参照)において、不良品の発生率の限界を0.5%に設定すると、Vは0.25mm3以上であることが望ましい。
【0024】
(縦クラックに対して):ピンチシール部において縦クラックの発生を抑制するには、ピンチシール部の電極棒周りに形成される残留圧縮歪層およびビードクラックが最適範囲に形成されていることが望ましく、電極棒におけるピンチシール部に封着されている領域の体積(容積)Vが小さ過ぎると、ガラス層と電極棒間の界面の面積も小さく、ガラス層に発生する残留圧縮歪層(ビードクラック)も小さ過ぎるため、電極棒における同領域の体積(容積)Vは大きいほうがよい。しかし、電極棒における同領域の体積(容積)Vが大きすぎると、ガラス層と電極棒間の界面の周方向および軸方向の面積が大きく、ピンチシール後にピンチシール部が冷える過程で、電極棒と石英ガラス層との熱収縮量差が大きく顕在化し、石英ガラス層に適切な残留圧縮歪層およびビードクラックを形成できない。特に、残留圧縮歪層およびビードクラックが大きい場合には、点灯時にビードクラックの周方向の端部から放射状方向に延びるクラックが発生する、即ち、縦クラックの発生につながることがわかった。そして、Vに対する縦クラック発生率特性(図4実線参照)において、不良品の発生率の限界を0.5%に設定すると、Vは0.42mm3以下であることが望ましい。
以上のことから、フリッカーの発生およびピンチシール部での縦クラックや箔浮きの発生を確実に抑制するため(アークチューブの長寿命化のため)には、ピンチシール部に封着されている電極棒基端側領域の体積Vを0.25〜0.42mm3の範囲内にすることが望ましい。
【0025】
また、請求項2においては、請求項1に記載の放電ランプ装置用水銀フリーアークチューブにおいて、前記電極棒の密閉ガラス球内に突出する領域の体積をvとして、V+vが0.40〜0.60mm3、かつV・vが0.03〜0.09mm6の範囲内となるように構成した。
【0026】
(作用)電極棒の総体積(V+v)に対する不良品(電極消耗)の発生率特性(図5実線参照)において、不良品の発生率の限界を0.5%に設定すると、V+vは0.40mm3以上であることが望ましい。また、電極棒の総体積(V+v)に対する不良品(安定点灯中におけるアークの輝点位置の変動、以下、輝点変動という)の発生率特性(図5一点鎖線参照)において、不良品の発生率の限界を0.5%に設定すると、V+vは0.60mm3以下であることが望ましい。
【0027】
また、電極棒のピンチシール部に封着されている領域の体積Vと電極棒の密閉ガラス球内に突出する領域の体積vとの積(V・v)に対する不良品(電極消耗)の発生率特性(図6実線参照)において、不良品(電極消耗)の発生率の限界を0.5%に設定すると、V・vは0.03mm6以上であることが望ましい。また、V・vに対する不良品(輝点変動)の発生率特性(図6一点鎖線参照)において、不良品の発生率の限界を0.5%に設定すると、V・vは0.09mm6以下であることが望ましい。
【0028】
また、請求項3においては、請求項1または2に記載の放電ランプ装置用水銀フリーアークチューブにおいて、前記電極棒を、カリウムがドープされたカリウムドープタングステン製電極棒であって、予め1200℃〜2000℃の範囲の真空熱処理が施されたもので構成するとともに、アークチューブとして構成した後に点消灯を繰り返すエージング工程を経て、前記密閉ガラス球内に突出する径の大きい電極棒先端側領域の縦断面結晶構造をノンサグ状結晶構造で構成するとともに、その先端部を電極棒先端側領域と略同一径の単一の結晶で構成するようにした。
【0029】
(作用)密閉ガラス球内に対設されている電極棒としては、従来はトリエーテッドタングステン(一般にトリタンと称呼される)製電極棒で構成されており、タングステン中に含まれているトリア(ThO2)が原因でフリッカー(アークのちらつき)が発生し易い。図7は、水銀フリーアークチューブにおいて、トリエーテッドタングステン製電極棒がフリッカーを発生するメカニズム(化学反応式)を示す図で、電極の変形とトリアの消失により再点弧電圧が上昇し、フリッカーが発生するものと考えられている。さらには、段付き電極棒は、一般に円柱形状の電極棒を切削により段付き形状に加工することで得られるため、切削加工が必要な分、電極棒の表面にはそれだけ不純物が付着したり水分が吸着されることとなって、フリッカーがより発生し易い。
【0030】
しかし、カリウムドープタングステン製電極棒では、トリア(ThO2)が原因でフリッカー(アークのちらつき)が発生することがない。また、ピンチシール前に予め1200℃〜2000℃の範囲の真空熱処理が施されることで、電極棒表面に付着していた不純物や吸着されていた水分を除去することもできる。このとき、電極棒全域の縦断面結晶構造は強度に優れた折れ難い繊維状結晶構造となっている。
【0031】
さらに、カリウムドープタングステン製電極棒は、アークチューブとして組み立てられた後に点消灯を繰り返すエージング工程を経ることで、密閉ガラス球内に突出する径の大きい電極棒先端側領域の縦断面結晶構造は、図8(a)に示すように、エージング工程前の繊維状結晶が成長(粗大化)したノンサグ状結晶構造となるとともに、その先端部は、ノンサグ状結晶とは明らかに異なる成長(粗大化)した単一の結晶(図8(a)符号C1参照)で構成されている。
【0032】
電極棒先端側領域の縦断面ノンサグ状結晶構造は、軸方向に作用する負荷に対しての強度に優れることは勿論、横方向に作用する負荷に対しての強度にも優れ、電極に上下方向の振動が伝達されても折損しない。
【0033】
また、水銀フリーアークチューブでは、放電に必要な管電力が得られるように、管電力を上げるべくアークチューブに供給する電流(管電流)を増加させる必要があり、それだけ電極先端部が高温となる。このため、アークチューブについて点消灯を繰り返すと、電極先端部近傍の結晶が成長(結晶サイズが拡大)して、結晶界面位置が変化するなどして電極先端面形状が変化し、輝点ズレ(放電の輝点位置が点消灯の度に移動すること)や輝点変動(安定点灯中に輝点が移動すること)といった、いわゆる放電時の輝点割れが起こり、自動車用前照灯における適正な配光が得られないとか中心光度が低下するなどの原因となる。しかし、電極棒先端部は縦断面単一の結晶で構成されているので、フリッカー(アークのちらつき)発生の原因となる放電時の輝点割れが起こりにくい。
【発明の効果】
【0034】
本発明に係る放電ランプ装置用水銀フリーアークチューブによれば、フリッカーの発生およびピンチシール部での縦クラックや箔浮きの発生が確実に抑制されて、長寿命の放電ランプ装置用水銀フリーアークチューブが得られる。
【0035】
請求項2によれば、電極の消耗の度合いが少なく、輝点変動も少ないので、長寿命で視認性の良好な放電ランプ装置用水銀フリーアークチューブが得られる。
【0036】
請求項3によれば、放電時の輝点割れが起こらず、フリッカーの発生がいっそう抑制されて、さらに長寿命の放電ランプ装置用水銀フリーアークチューブが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて説明する。
【0038】
図1〜図8は本発明の第1の実施例を示すもので、図1は本発明の第1の実施例である放電ランプ装置用アークチューブの縦断面図、図2は同アークチューブを構成する電極棒の拡大側面斜視図、図3は電極棒のピンチシール部に封着された領域の体積に対するフリッカー発生時間(アークチューブの寿命)特性を示す図、図4は電極棒のピンチシール部に封着された領域の体積に対する箔浮き発生率特性および対する縦クラック発生率特性を示す図、図5は電極棒の総体積に対する不良品(電極消耗)の発生率特性および不良品(輝点変動)の発生率特性を示す図、図6は電極棒の密閉ガラス球内に突出する領域の体積と電極棒のピンチシール部に封着された領域の体積の積に対する不良品(電極消耗)の発生率特性および不良品(輝点変動)の発生率特性を示す図、図7はトリエーテッドタングステン製電極棒で構成された電極を備えたアークチューブにおいてフリッカー発生のメカニズム(化学反応式)を示す図、図8はカリウムドープタングステン製電極棒に真空熱処理(1200℃〜2000℃の範囲)を施した後にエージング処理を施した電極棒先端側領域の拡大縦断面結晶構造(図8(a))を、同様の処理を施したトリエーテッドタングステン製電極棒先端側領域の拡大縦断面結晶構造(図8(b))と比較して示す図である。
【0039】
これらの図において、アークチューブ10の装着される放電ランプ装置は、70〜85W(例えば75W)の定格電力で動作する水銀フリーアークチューブ用の放電ランプ装置である点を除いて、その構造は、図9に示す従来構造と略同一である。
【0040】
アークチューブ10は、直線状延出部の長手方向途中に球状膨出部が形成された円パイプ形状の石英ガラス管の球状膨出部寄りがピンチシールされて、内容積50μl以下の放電空間を形成する楕円体形状又は円筒形状のチップレス密閉ガラス球12の両端部に横断面矩形状のピンチシール部13,13が形成された非常にコンパクトな構造で、密閉ガラス球12内には、発光物質である(NaI,ScI3)および水銀に代わるZnI2やThI4等の緩衝用金属ハロゲン化物が始動用希ガス(例えば、Xeガス)とともに封入されている。
【0041】
また密閉ガラス球12内には、放電電極を構成するタングステン製の電極棒14,14が対向配置されており、電極棒14,14はピンチシール部13に封着されたモリブデン箔17に接続され、ピンチシール部13,13の端部からはモリブデン箔17,17に接続されたモリブテン製リード線18,18が導出している。
【0042】
符号20および22は、ピンチシール部13における電極棒14の周りに形成された残留圧縮歪層およびビードクラックで、アークチューブの点灯時に電極棒14(16)と石英ガラス層の界面に発生する熱応力が残留圧縮歪層20およびビードクラック22によって吸収分散されて石英ガラス層側に伝達されるため、ピンチシール部13の石英ガラス層に封入物質のリークにつながる縦クラックが発生し難い。
【0043】
また、電極棒14は、密閉ガラス球12内に突出する外径dの大きい円柱状先端側領域15とピンチシール部13に封着された外径D(<d)の小さい円柱状基端側領域16とが同芯状に連続する段付き円柱型に形成されるとともに、先端側領域16の横断面積aとピンチシール部に封着された基端側領域15の横断面積Aの比a/Aが1.1〜7.3の範囲とされた構成については、特許文献3の水銀フリーアークチューブに用いられている電極棒と同一である。
【0044】
詳しくは、密閉ガラス球12内に突出する電極棒先端側領域15は、その外径dが大きいほど、電極の熱容量が大きく、それだけ電極が消耗したり黒化するといった電極の損傷が少ないので、外径dは、この種のアークチューブ用円柱形状電極としての外径寸法規格値の上限0.4mmを超えない範囲で、できるだけ大きい寸法(例えば0.3〜0.4mm)が望ましい。なお、外径dが大きすぎると、電極の熱容量が大きすぎて、電極先端部での熱エネルギーの消費が増え、光エネルギーとしての消費、即ち、エネルギー効率が低下するが、アークチューブ用タングステン電極としての規格値上限0.4mmを超えなければ問題はない。
【0045】
一方、ピンチシール部13に封着された電極棒基端側領域16の外径Dは、アークチューブの点消灯に伴ってピンチシール部13の石英ガラス層に発生する熱応力が小さくなるように小さい寸法(例えば、0.1〜0.3mm)が望ましい。
【0046】
即ち、水銀フリーアークチューブでは、密閉ガラス球内に水銀が封入されないという欠点を補うために、希ガス(例えばXe)の封入圧が、水銀入りアークチューブの場合(一般に、5〜8気圧)に比べて高い10〜15気圧に設定され、放電に必要な管電力を得るべく投入電力は、水銀入りアークチューブの場合(一般に、60〜70W)に比べて高い70〜85Wに設定され、アークチューブに供給する電流(管電流)は、水銀入りアークチューブの場合(一般に、2.2〜2.6A)に比べて高い2.7〜3.2Aに設定されている。このため、電極に作用する負荷が増加し、電極が損傷し易くなるため、電極棒14の総体積(容積)は、水銀入りアークチューブの場合(一般に、0.25〜0.35mm3)に比べて大きい例えば0.4〜0.6mm3とする。また、最も損傷のおそれのある電極棒先端領域15では径が大きいので、それだけ損傷し難い。一方、ピンチシール部13に封着されている電極棒基端側領域16では、径が大きい(太過ぎる)と、ピンチシール部13における電極棒16の周りに、アークチューブ点灯時に発生する熱応力を吸収緩和する最適な残留圧縮歪層やビードクラックを形成できない場合があって、点消灯時に伴って発生する熱応力によって、ピンチシール部13に封入物質のリークにつながる縦クラックが発生するおそれがあるが、電極棒基端側領域16の径Dが先端側領域15の径dよりも小さいので、電極棒16の周りにある程度の大きさの残留圧縮歪層20(ビードクラック22)が形成されて、それだけピンチシール部13において縦クラックが発生し難い。
【0047】
このように、本実施例では、特許文献3の場合と同様に、電極棒14は、密閉ガラス球12内に突出する先端側領域15の径dがピンチシール部に封着される基端側領域16の径Dよりも大きい(基端側領域16の径Dが先端側領域15の径dよりも小さい)段付き形状に構成されることで、電極15の損傷およびピンチシール部13での縦クラックの発生をある程度は抑制できる構造となっている。
しかし、図3,4に示すように、フリッカーの発生,ピンチシール部13での縦クラックの発生および箔浮きの発生を確実に抑制するため(アークチューブの長寿命化のため)には、小径の電極棒基端側領域16のピンチシール部13に封着されている領域(以下、電極埋込領域という)16Aの体積Vを0.25〜0.42mm3の範囲内にすることが必要になる。
【0048】
即ち、段付き電極棒14の小径基端側領域16(電極埋込領域16A)の横断面積をA、同極埋込領域16Aの長さをL、同極埋込領域16Aの体積(容積)をV、同電極棒の密閉ガラス球内に突出する領域(以下、電極突出領域という)15Aの体積をvとすると、電極埋込領域16Aの体積V(=A・L)が大きいほど、電極棒からピンチシール部への熱伝導が促進されて、電極突出領域15Aが極端に高温とならず、電極の変形やフリッカーの発生が抑制される。そして、図3に示すVに対するフリッカー発生時間(アークチューブ点灯後、フリッカーの発生に至るまでの時間;アークチューブの平均寿命)特性において、フリッカー発生時間(アークチューブの平均寿命)の限界を一般的に望ましいとされる2500時間に設定すると、Vは0.25mm3以上が望ましいことがわかる。
【0049】
また、電極埋込領域16Aの体積V(=A・L)を大きくすると、電極埋込領域16Aにおける熱容量が大きい分、電極棒14(16)に接続されているモリブデン箔17の温度が上がらず、ガラス層とモリブデン箔17間に発生する熱応力が小さく、それだけ箔浮きの発生が抑制される。そして、Vに対する箔浮き発生率特性(図4一点鎖線参照)において、不良品の発生率の限界を0.5%に設定すると、Vは0.25mm3以上が望ましいことがわかる。
【0050】
また、ピンチシール部13において縦クラックの発生を抑制するには、電極埋込領域16Aの周りに形成される残留圧縮歪層20およびビードクラック22が最適範囲(例えば、ビードクラック22は電極棒16を中心とする円弧状に延在するが、ビードクラック22は、円弧の半径の大きさがピンチシール部の横断面の短辺の幅の1/4以下)となるように形成されていることが望ましいが、電極埋込領域16Aの体積(容積)が大きすぎると、ガラス層と電極埋込領域16A間の界面の周方向および軸方向の面積が大きく、ピンチシール後にピンチシール部13が冷える過程で、電極埋込領域16Aと石英ガラス層との熱収縮量差が大きく顕在化し、石英ガラス層に適切な残留圧縮歪層およびビードクラックを形成できない。特に、残留圧縮歪層およびビードクラックが大きい場合(例えば、ビードクラックの円弧の半径の大きさがピンチシール部の横断面の短辺の幅の1/4を超えるような場合)には、点灯時にビードクラックの周方向の端部から放射状方向に延びるクラックが発生する、即ち、縦クラックの発生につながることがわかった。そして、電極埋込領域16Aの体積(容積)Vに対する縦クラック発生率特性(図4実線参照)において、不良品の発生率の限界を0.5%に設定すると、Vは0.42mm3以下が望ましいことがわかる。
【0051】
このように、本実施例では、フリッカーの発生およびピンチシール部13での縦クラックや箔浮きの発生を確実に抑制するため(アークチューブの長寿命化のため)に、電極14における電極埋込領域16Aの体積Vが0.25〜0.42mm3の範囲内に構成されている。
【0052】
さらに、本実施例では、電極埋設領域16Aの体積(容積)Vと電極突出領域15Aの体積(容積)vとの和、即ち電極棒14の総体積(V+v)が0.40〜0.60で、かつ電極埋設領域16Aの体積(容積)Vと電極突出領域15Aの体積(容積)vとの積(V・v)が0.03〜0.09の範囲内となるように構成されて、電極の消耗による不良品発生率およびアークの輝点変動による不良品発生率のいずれも0.5%以下となるように構成されている。
【0053】
即ち、図5に示すように、電極棒14の総体積(V+v)が小さ過ぎると、電極の熱容量が小さ過ぎて、電極が極端な高温度となって、電極が消耗する。一方、電極棒14の総体積(V+v)が大き過ぎると、電極の熱容量が大き過ぎて、電極が安定した放電のために必要な適正温度とならず、輝点変動が発生する。電極棒14の総体積(V+v)に対する不良品(電極消耗)の発生率特性(図5実線参照)および不良品(輝点変動)の発生率特性(図5一点差線参照)の限界をそれぞれ0.5%に設定すると、電極棒14の総体積(V+v)は0.03mm3以上、0.60mm3以下が望ましいことがわかる。
【0054】
また、電極の消耗と輝点変動に対する有効範囲(限界)をより明確にするために、電極埋設領域16Aの体積(容積)Vと電極突出領域15Aの体積(容積)vとの積(V・v)に対する不良品(電極消耗)発生率特性(図6実線参照)および不良品(輝点変動)発生率特性(図6一点鎖線参照)を求めるとともに、電極消耗および輝点変動によるそれぞれの不良品発生率の限界をそれぞれ0.5%に設定すると、V・vは0.040mm6以上、0.09mm6以下が望ましいことがわかる。
【0055】
また、本実施例の段付き電極棒14は、カリウムがドープされたカリウムドープタングステン製電極棒で、予め1200℃〜2000℃の範囲の真空熱処理が施されたもので構成されるとともに、アークチューブ10として構成された後に点消灯を繰り返すエージング工程を経て、電極突出領域15Aを構成する電極棒先端側領域15の縦断面結晶構造がノンサグ状結晶構造とされるとともに、その先端部が電極棒先端側領域15と略同一径の単一の結晶で構成された結晶構造とされて、電極棒(大径電極棒先端側領域15)の折損が抑制されるとともに、フリッカー(アークのちらつき)の発生を一層抑制できる構造となっている。
即ち、密閉ガラス球12内に対設されている電極棒14としては、従来はトリエーテッドタングステン(一般にトリタンと称呼される)製電極棒で構成されており、タングステン中に含まれているトリア(ThO2)が原因でフリッカー(アークのちらつき)が発生し易い。図7は、トリエーテッドタングステン製電極棒を対向電極として備えた水銀フリーアークチューブにおいてフリッカーを発生するメカニズム(化学反応式)を示す図で、この図に示すように、電極の変形とトリアの消失により再点弧電圧が上昇し、フリッカーが発生すると考えられている。また、電極棒14を所定の段付き形状に加工する方法としては、均一な外径dをもつ円柱形状の電極棒の一端側(基端側領域16)を、例えば切削によって外径Dの円柱形状に形成する方法が考えられるが、切削加工が必要な分、電極棒14の表面にはそれだけ不純物が付着したり水分が吸着されることとなって、フリッカーがより発生し易い。
【0056】
しかし、本実施例における段付き電極棒14は、トリエーテッドタングステン製電極棒ではなく、トリア(ThO2)が原因でフリッカー(アークのちらつき)が発生することがないカリウムドープタングステン製電極棒14で構成されている。
【0057】
さらに、カリウムドープタングステン製段付き電極棒14には、ピンチシール前に予め1200℃〜2000℃の範囲の真空熱処理が施されて、表面に付着していた不純物や吸着されていた水分が除去されている。そして、真空熱処理が施されることで、電極棒14全域の縦断面結晶構造は、強度のある折れ難い繊維状結晶構造となる。さらに、真空熱処理が施されたカリウムドープタングステン製電極棒14が、アークチューブ10として組み立てられた後に点消灯を繰り返すエージング工程を経ることで、図8(a)に示すように、電極突出領域15Aを構成する電極棒先端側領域15の縦断面結晶構造は、エージング工程前の繊維状結晶が成長(粗大化)したノンサグ状結晶構造となって、上下方向の振動などの横方向荷重に対しての強度に特に優れた結晶構造を構成する。
【0058】
特に、エージング工程を経た電極棒先端側領域15の先端部は、ノンサグ状結晶とは明らかに異なる成長(粗大化)した単一の結晶構造となって、放電時の輝点割れが起こらず、それだけフリッカー(アークのちらつき)が発生し難い構造となっている。即ち、水銀フリーアークチューブでは、放電に必要な管電力が得られるように、管電力を上げるべくアークチューブに供給する電流(管電流)を増加させる必要があり、それだけ電極先端部が高温となる。このため、アークチューブについて点消灯を繰り返すと、電極先端部近傍の結晶が成長(結晶サイズが拡大)して、結晶界面位置が変化するなどして電極先端面形状が変化し、輝点ズレや輝点変動といった、いわゆる放電時の輝点割れが起こり、自動車用前照灯における適正な配光が得られないとか中心光度が低下するなどの原因となる。しかし、電極棒先端部は、先端領域15の外径に等しい単一の結晶C1で構成されているので、電極先端面の形状が大きく変化することがなく、電極棒先端が徐々に消耗するにしても電極先端面形状(単一結晶の端面形状)全体がほぼ均一に消耗するため、フリッカー(アークのちらつき)発生の原因となる放電時の輝点割れが起こりにくい。
【0059】
図8(b)は、カリウムドープタングステン製段付き電極棒14と同様の処理を施したトリエーテッドタングステン製段付き電極棒(ピンチシール前に予め1200℃〜2000℃の範囲の真空熱処理を施した後、アークチューブとして組み付けた後にエージング工程を施したトリエーテッドタングステン製電極棒)の先端側領域の拡大縦断面結晶構造を示すが、電極突出領域15Aを構成する電極棒先端側領域15の先端部までの全体がノンサグ状結晶構造で構成されているため、放電時の輝点割れが起こり易く、それだけフリッカー(アークのちらつき)が発生し易い。このように、図8(a)に示す、先端部が単一の結晶C1で構成されているカリウムドープタングステン製電極棒先端側領域の縦断面結晶構造が、先端部までノンサグ状結晶構造で構成されているトリエーテッドタングステン製電極棒先端側領域の縦断面結晶構造(図8(b)参照)とは、明らかに相違していることがわかる。
【0060】
また、水銀フリーアークチューブ10の製造方法については、真空熱処理(1200℃〜2000℃)を施した段付き電極棒14とモリブデン箔17とリード線18を直線状に接続一体化した電極アッシーを予め作っておき、ガラス球の成形されたガラス管の開口端部にこの電極アッシーを挿通保持し、ガラス管の開口端部をピンチシールすることで、密閉ガラス球内にNa,Scのハロゲン化物,水銀に代わるZnI2やThI4などの緩衝用金属ハロゲン化物等を希ガス(Xeガス)とともに封止する。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の第1の実施例である放電ランプ装置用アークチューブの要部縦断面図である。
【図2】同アークチューブを構成する電極棒の拡大側面斜視図である。
【図3】電極棒のピンチシール部に封着された領域の体積に対するフリッカー発生時間(アークチューブの寿命)特性を示す図である。
【図4】電極棒のピンチシール部に封着された領域の体積に対する箔浮き発生率特性および対する縦クラック発生率特性を示す図である。
【図5】電極棒の総体積に対する不良品(電極消耗)の発生率特性および不良品(輝点変動)の発生率特性を示す図である。
【図6】電極棒の密閉ガラス球内に突出する領域の体積と電極棒のピンチシール部に封着された領域の体積の積に対する不良品(電極消耗)の発生率特性および不良品(輝点変動)の発生率特性を示す図である。
【図7】トリエーテッドタングステン製電極棒で構成された電極を備えたアークチューブにおいてフリッカーを発生するメカニズム(化学反応式)を示す図である。
【図8】(a)はカリウムドープタングステン製電極棒に真空熱処理(1200℃〜2000℃の範囲)を施した後にエージング処理を施した電極棒先端側領域の拡大縦断面結晶構造、(b)は同様の処理を施したトリエーテッドタングステン製電極棒先端側領域の拡大縦断面結晶構造をそれぞれ示す図である。
【図9】従来の放電ランプ装置の縦断面図である。
【図10】従来のアークチューブ(特許文献1)のピンチシール部に形成された残留圧縮歪層およびビードクラックを示す縦断面図である。
【図11】従来の水銀フリーアークチューブ(特許文献2,3)に用いる電極棒の拡大斜視図である。
【符号の説明】
【0062】
10 水銀フリーアークチューブ
12 密閉ガラス球
13 ピンチシール部
14 段付き電極棒
15 段付き電極棒の先端側領域
15A 電極突出領域
16 段付き電極棒の基端側領域
16A 電極埋込領域
17 モリブデン箔
18 リード線
20 残留圧縮歪層
22 ビードクラック
A 電極棒の基端側領域(電極埋込領域)の横断面積
L 電極埋込領域の長さ
V 電極埋込領域の体積(容積)
a 電極突出領域の横断面積
v 電極突出領域の体積(容積)
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス管の両端開口部がピンチシールされることで、少なくとも主発光用金属ハロゲン化物が希ガスとともに封入され、かつ電極棒が対設された密閉ガラス球を備えた放電ランプ装置用水銀フリーアークチューブに係り、特に、密閉ガラス球内に突出する先端側領域の横断面積がピンチシール部に封着された基端側領域の横断面積よりも大きい同芯段付き形状の電極棒を備えた放電ランプ装置用水銀フリーアークチューブに関する。
【背景技術】
【0002】
図9は従来の放電ランプ装置であり、石英ガラス製アークチューブ5の前端部は絶縁性ベース1の前方に突出する一本のリードサポート2によって支持され、アークチューブ5の後端部はベース1の凹部1aで支持され、アークチューブの後端部寄りが絶縁性ベース1の前面に固定された金属製支持部材4によって、把持された構造となっている。アークチューブ5から導出する前端側リード線8は、溶接によってリードサポート2に固定され、一方、後端側リード線8は、ベース1の凹部1a形成底面壁1bを貫通し、底面壁1bに設けられている端子3に、溶接により固定されている。符号Gは、アークチューブ5から発した光の中で、人体に有害な波長域の紫外線成分をカットする円筒形状のガラス製紫外線遮蔽用グローブで、アークチューブ5に溶着一体化されている。
【0003】
そしてアークチューブ5は、前後一対のピンチシール部5b,5b間に、電極棒6,6を対設し発光物質(NaやScのハロゲン化物やHg)を希ガスとともに封入した密閉ガラス球5aが形成された構造となっている。ピンチシール部5b内には、密閉ガラス球5a内に突出する電極棒6とピンチシール部5bから導出するリード線8とを接続するモリブデン箔7が封着されて、ピンチシール部5bにおける気密性が確保されている。
【0004】
即ち、電極棒6としては、耐熱性および耐久性に優れたタングステン製が最も望ましいが、タングステンはアークチューブを構成する石英ガラスと線膨張係数が大きく異なり、石英ガラスとのなじみも悪く気密性に劣る。したがって、タングステン製電極棒6に、伸縮性および柔軟性に優れ、石英ガラスと比較的なじみのよいモリブデン箔7を接続し、モリブデン箔7をピンチシール部5bで封着することで、ピンチシール部5bにおける気密性を確保するようになっている。
【0005】
しかし、アークチューブの点灯時と消灯時でピンチシール部5bにおける温度差が大きく、線膨張係数が大きく異なる電極棒と石英ガラス層間には、点灯時に熱応力が生じる。特に、近年のアークチューブは瞬時点灯ができるように構成されており、温度上昇率が大きく、熱応力が急激に生じる。そして、点消灯によりこの状態が繰り返されると、電極棒6を封着するピンチシール部(石英ガラス層)5bには、電極棒6に対し放射状に延びるクラック(以下、縦クラックという)が発生し、封入物質がリークし、点灯不良や寿命の低下につながるという問題があった。
【0006】
この問題に対しては、アークチューブの製造過程においてピンチシール部5bに生じた残留圧縮歪が所定の領域にわたって残っている場合の方が、アークチューブの点灯に伴う温度上昇に伴ってピンチシール部の石英ガラス層に生じる熱応力が分散されるので、それだけピンチシール部の石英ガラス層に縦クラックが生じにくく、アークチューブの寿命が延びる、という考えの基に、下記特許文献1(特開2001−15067)が提案された。
【0007】
即ち、特開2001−15067は、図10に示すように、ピンチシール部5bにおける石英ガラス層の電極棒6との密着面に広範な所定範囲にわたって残留圧縮歪層9が形成されるとともに、残留圧縮歪層9とその周りのガラス層間にはビードクラック(残留圧縮歪層9を取り囲むように周方向および軸方向に延びるクラック)9aが形成された構造で、アークチューブの点灯時に電極棒6と石英ガラス層の界面に発生する熱応力が残留圧縮歪層9およびビードクラック9aによって吸収分散されて石英ガラス層側に伝達されるため、ピンチシール部5bの石英ガラス層には封入物質のリークにつながる縦クラックが発生しないというものである。
【0008】
また、密閉ガラス球5a内に封入されているHgは、所定の管電圧を維持し、電極への電子の衝突量を減少させて電極の損傷を緩和する非常に有用な物質であるが、環境有害物質であることから、最近では、Hgを封入しない、いわゆる水銀フリーアークチューブの開発が進められている。
【0009】
そして、水銀フリーにした場合には、管電圧が下がり、放電に必要な管電力が得られないため、管電力を上げるべくアークチューブに供給する電流(管電流)を増加させる必要があり、それだけ電極の負荷が増加し、電極が損傷(消耗や黒化)し、発光効率の低下やアークの立ち消えにつながるという問題が発生した。これに対しては、電極棒6の径を太くすることで対応できるが、電極6が太すぎると、ピンチシール後にピンチシール部が冷える過程で、電極棒と石英ガラス層との熱収縮量の差が大きく顕在化し、石英ガラス層の電極棒との界面が剥離してしまって、ピンチシール部5bにおける石英ガラス層の電極棒6の周りに、アークチューブ点灯時に発生する熱応力を吸収緩和できる最適な大きさの残留圧縮歪層9およびビードクラック9aを形成することができず、アークチューブの点消灯によってピンチシール部5bには封入物質のリークにつながる縦クラックが発生してしまう、と考えられた。
【0010】
そこで、下記特許文献2,3に示す水銀フリーアークチューブでは、例えば、図11に示すように、密閉ガラス球内に突出配置される電極棒先端側領域6aの外径をピンチシール部に封着される電極棒基端側領域6bの外径より太くした段付き電極棒(ピンチシール部に封着される電極棒基端側領域6bの外径を電極棒先端側領域6bの外径より細くした段付き電極棒)を採用することで、電極の損傷と縦クラックの発生という相反する問題の解決を図っている(特許文献3)。
【特許文献1】特開2001−15067
【特許文献2】特開2005−142072
【特許文献3】特開2005−183164
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、前記特許文献2,3のように、電極棒を段付き形状にしただけでは、密閉ガラス球内の希ガスの圧力が高く投入電力も高く設定することが必要な水銀フリーアークチューブにおいて、特に放電ランプ装置の起動時に、径の大きい電極先端側領域からピンチシール部に封着されている径の小さい電極基端側領域に向かう電流や熱流が急激に発生し、これがため、アークチューブの寿命低下の原因となるフリッカー(アークのちらつき)の発生やピンチシール部における縦クラックや箔浮き(モリブデン箔とガラス層間に隙間が生じること)の発生を確実に抑制する上では不十分であることがわかった。
【0012】
そこで、発明者は、段付き電極棒のピンチシール部に封着されている径の小さい基端側領域の体積(容積)に注目してみた。そして、ピンチシール部に封着されている電極棒基端側領域の体積(容積)とフリッカーの発生,同領域の体積(容積)とピンチシール部における縦クラックの発生および箔浮きの発生とのそれぞれの相関関係を考察したところ、図3,4に示すような結果が得られた。
【0013】
即ち、電極棒におけるピンチシール部に封着されている領域の体積(容積)を大きくすると、電極棒からピンチシール部への熱伝導が促進されて、電極先端側領域が極端に高温とならず、電極の変形やフリッカーの発生が抑制されるし、電極棒のピンチシール部に封着されている領域における熱容量が大きい分、電極棒に接続されているモリブデン箔の温度が上がらず、ガラス層とモリブデン箔間に発生する熱応力が小さく、それだけ箔浮きの発生が抑制されることがわかった。
【0014】
また、ピンチシール部において縦クラックの発生を抑制するには、電極棒におけるピンチシール部に封着されている領域の体積(容積)が所定範囲以下であることが望ましいこともわかった。縦クラックの発生を抑制するには、ピンチシール部の電極棒周りに形成される残留圧縮歪層およびビードクラックが最適な範囲に形成されていることが望ましいが、電極棒におけるピンチシール部に封着されている領域の体積(容積)が小さ過ぎると、ガラス層と電極棒間の界面の面積も小さく、ガラス層に発生する残留圧縮歪層(ビードクラック)も小さ過ぎる。一方、電極棒における同領域の体積(容積)が大きすぎると、ガラス層と電極棒間の界面の周方向および軸方向の面積が大きく、ピンチシール後にピンチシール部が冷える過程で、電極棒と石英ガラス層との熱収縮量差が大きく顕在化し、石英ガラス層に適切な残留圧縮歪層およびビードクラックを形成できない。特に、残留圧縮歪層およびビードクラックが大きい場合には、点灯時にビードクラックの周方向の端部から放射状方向に延びるクラックが発生する、即ち、縦クラックの発生につながることがわかった。
【0015】
このように、段付き電極棒のピンチシール部に封着されている径の細い基端側領域の体積(容積)を所定範囲とすれば、フリッカーの発生、ピンチシール部における縦クラックや箔浮きの発生を防止できること(アークチューブの長寿命化が可能)が確認されたので、この度の出願に至ったものである。
【0016】
本発明は前記した従来技術の問題点および発明者の知見に基づいてなされたもので、その目的は、フリッカーの発生,縦クラックの発生および箔浮きの発生の全てを抑制する上で有効な長寿命の放電ランプ装置用水銀フリーアークチューブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
前記目的を達成するために、請求項1に係る放電ランプ装置用アークチューブにおいては、ガラス管の両端開口部がピンチシールされることで、少なくとも主発光用金属ハロゲン化物が希ガスとともに封入され、かつ電極棒が対設された密閉ガラス球を備えた放電ランプ装置用水銀フリーアークチューブにおいて、
前記電極棒を、前記密閉ガラス球内に突出する先端側領域の横断面積が前記ピンチシール部に封着された基端側領域の横断面積よりも大きい同芯段付き形状に構成するとともに、前記ピンチシール部に封着された領域の体積Vを0.25〜0.42mm3の範囲内に構成した。
【0018】
ここで、「段付き形状」とは、電極棒先端側領域と電極棒基端側領域間の段差部が実施例に示すような直角形状に形成されているものに限らず、段差が徐変するテーパ形状やスロープ形状といった形状も含む。
【0019】
(作用)水銀フリーアークチューブでは、密閉ガラス球内に水銀が封入されないという欠点を補うために、希ガス(例えばXe)の封入圧が、水銀入りアークチューブの場合(一般に、5〜8気圧)に比べて高い10〜15気圧に設定され、放電に必要な管電力を得るべく投入電力は、水銀入りアークチューブの場合(一般に、60〜70W)に比べて高い70〜85Wに設定され、アークチューブに供給する電流(管電流)は、水銀入りアークチューブの場合(一般に、2.2〜2.6A)に比べて高い2.7〜3.2Aに設定されている。このため、電極に作用する負荷が増加し、電極が損傷し易くなるため、電極の総体積(容積)は、水銀入りアークチューブの場合(一般に、0.25〜0.35mm3)に比べて大きい例えば0.4〜0.6mm3とする。また、損傷のおそれのある電極棒先端側領域では径が大きいので、それだけ損傷し難い。また、ピンチシール部に封着されている電極棒基端側領域では、径が大きい(太すぎる)と、縦クラックの発生を抑制する最適な残留圧縮歪層やビードクラックを形成できないが、電極棒先端側領域の径よりも小さい(細い)ので、電極棒の周りに残留圧縮歪層やビードクラックが形成されて、ピンチシール部において縦クラックが発生し難い。
【0020】
このように、特許文献3と同様に、電極棒を、密閉ガラス球内に突出する領域(先端側領域)がピンチシール部に封着される領域(基端側領域)よりも太い段付き形状(ピンチシール部に封着される電極棒基端側領域の外径を電極棒先端側領域の外径より小さくした段付き電極棒)にすることで、電極の損傷およびピンチシール部での縦クラックの発生をある程度は抑制できる。
しかし、図3,4に示すように、フリッカーの発生,ピンチシール部での縦クラックの発生および箔浮きの発生を確実に抑制するため(アークチューブの長寿命化のため)には、ピンチシール部に封着されている電極棒基端側領域の体積Vを0.25〜0.42mm3の範囲内にすることが必要になる。
【0021】
即ち、ピンチシール部に封着されている電極棒基端側領域の体積Vの、フリッカーの発生,ピンチシール部での縦クラックの発生および箔浮きの発生を確実に抑制するため(アークチューブの長寿命化のため)に望ましいとされる大きさについては、段付き電極棒の小径基端側領域の横断面積をA、同電極棒のピンチシール部に封着された領域の長さをL、同電極棒のピンチシール部に封着された領域の体積(容積)をV、同電極棒の密閉ガラス球内に突出する領域の体積をvとして、次のように説明できる。
【0022】
(電極の変形やフリッカーの発生に対して):電極棒におけるピンチシール部に封着されている領域の体積V(=A・L)を大きくすると、電極棒からピンチシール部への熱伝導が促進されて、電極先端側領域が極端に高温とならず、電極の変形やフリッカーの発生が抑制される。そして、図3に示すVに対するフリッカー発生時間(アークチューブ点灯後フリッカーの発生に至るまでの時間;アークチューブの平均寿命)特性において、フリッカー発生時間(アークチューブの平均寿命)の限界を一般的に望ましいとされる2500時間に設定すると、Vは0.25mm3以上であることが望ましい。
【0023】
(箔浮きに対して):電極棒におけるピンチシール部に封着されている領域の体積V(=A・L)を大きくすると、電極棒のピンチシール部に封着されている領域における熱容量が大きい分、電極棒に接続されているモリブデン箔の温度が上がらず、ガラス層とモリブデン箔間に発生する熱応力が小さく、それだけ箔浮きの発生が抑制される。そして、Vに対する箔浮き発生率特性(図4一点鎖線参照)において、不良品の発生率の限界を0.5%に設定すると、Vは0.25mm3以上であることが望ましい。
【0024】
(縦クラックに対して):ピンチシール部において縦クラックの発生を抑制するには、ピンチシール部の電極棒周りに形成される残留圧縮歪層およびビードクラックが最適範囲に形成されていることが望ましく、電極棒におけるピンチシール部に封着されている領域の体積(容積)Vが小さ過ぎると、ガラス層と電極棒間の界面の面積も小さく、ガラス層に発生する残留圧縮歪層(ビードクラック)も小さ過ぎるため、電極棒における同領域の体積(容積)Vは大きいほうがよい。しかし、電極棒における同領域の体積(容積)Vが大きすぎると、ガラス層と電極棒間の界面の周方向および軸方向の面積が大きく、ピンチシール後にピンチシール部が冷える過程で、電極棒と石英ガラス層との熱収縮量差が大きく顕在化し、石英ガラス層に適切な残留圧縮歪層およびビードクラックを形成できない。特に、残留圧縮歪層およびビードクラックが大きい場合には、点灯時にビードクラックの周方向の端部から放射状方向に延びるクラックが発生する、即ち、縦クラックの発生につながることがわかった。そして、Vに対する縦クラック発生率特性(図4実線参照)において、不良品の発生率の限界を0.5%に設定すると、Vは0.42mm3以下であることが望ましい。
以上のことから、フリッカーの発生およびピンチシール部での縦クラックや箔浮きの発生を確実に抑制するため(アークチューブの長寿命化のため)には、ピンチシール部に封着されている電極棒基端側領域の体積Vを0.25〜0.42mm3の範囲内にすることが望ましい。
【0025】
また、請求項2においては、請求項1に記載の放電ランプ装置用水銀フリーアークチューブにおいて、前記電極棒の密閉ガラス球内に突出する領域の体積をvとして、V+vが0.40〜0.60mm3、かつV・vが0.03〜0.09mm6の範囲内となるように構成した。
【0026】
(作用)電極棒の総体積(V+v)に対する不良品(電極消耗)の発生率特性(図5実線参照)において、不良品の発生率の限界を0.5%に設定すると、V+vは0.40mm3以上であることが望ましい。また、電極棒の総体積(V+v)に対する不良品(安定点灯中におけるアークの輝点位置の変動、以下、輝点変動という)の発生率特性(図5一点鎖線参照)において、不良品の発生率の限界を0.5%に設定すると、V+vは0.60mm3以下であることが望ましい。
【0027】
また、電極棒のピンチシール部に封着されている領域の体積Vと電極棒の密閉ガラス球内に突出する領域の体積vとの積(V・v)に対する不良品(電極消耗)の発生率特性(図6実線参照)において、不良品(電極消耗)の発生率の限界を0.5%に設定すると、V・vは0.03mm6以上であることが望ましい。また、V・vに対する不良品(輝点変動)の発生率特性(図6一点鎖線参照)において、不良品の発生率の限界を0.5%に設定すると、V・vは0.09mm6以下であることが望ましい。
【0028】
また、請求項3においては、請求項1または2に記載の放電ランプ装置用水銀フリーアークチューブにおいて、前記電極棒を、カリウムがドープされたカリウムドープタングステン製電極棒であって、予め1200℃〜2000℃の範囲の真空熱処理が施されたもので構成するとともに、アークチューブとして構成した後に点消灯を繰り返すエージング工程を経て、前記密閉ガラス球内に突出する径の大きい電極棒先端側領域の縦断面結晶構造をノンサグ状結晶構造で構成するとともに、その先端部を電極棒先端側領域と略同一径の単一の結晶で構成するようにした。
【0029】
(作用)密閉ガラス球内に対設されている電極棒としては、従来はトリエーテッドタングステン(一般にトリタンと称呼される)製電極棒で構成されており、タングステン中に含まれているトリア(ThO2)が原因でフリッカー(アークのちらつき)が発生し易い。図7は、水銀フリーアークチューブにおいて、トリエーテッドタングステン製電極棒がフリッカーを発生するメカニズム(化学反応式)を示す図で、電極の変形とトリアの消失により再点弧電圧が上昇し、フリッカーが発生するものと考えられている。さらには、段付き電極棒は、一般に円柱形状の電極棒を切削により段付き形状に加工することで得られるため、切削加工が必要な分、電極棒の表面にはそれだけ不純物が付着したり水分が吸着されることとなって、フリッカーがより発生し易い。
【0030】
しかし、カリウムドープタングステン製電極棒では、トリア(ThO2)が原因でフリッカー(アークのちらつき)が発生することがない。また、ピンチシール前に予め1200℃〜2000℃の範囲の真空熱処理が施されることで、電極棒表面に付着していた不純物や吸着されていた水分を除去することもできる。このとき、電極棒全域の縦断面結晶構造は強度に優れた折れ難い繊維状結晶構造となっている。
【0031】
さらに、カリウムドープタングステン製電極棒は、アークチューブとして組み立てられた後に点消灯を繰り返すエージング工程を経ることで、密閉ガラス球内に突出する径の大きい電極棒先端側領域の縦断面結晶構造は、図8(a)に示すように、エージング工程前の繊維状結晶が成長(粗大化)したノンサグ状結晶構造となるとともに、その先端部は、ノンサグ状結晶とは明らかに異なる成長(粗大化)した単一の結晶(図8(a)符号C1参照)で構成されている。
【0032】
電極棒先端側領域の縦断面ノンサグ状結晶構造は、軸方向に作用する負荷に対しての強度に優れることは勿論、横方向に作用する負荷に対しての強度にも優れ、電極に上下方向の振動が伝達されても折損しない。
【0033】
また、水銀フリーアークチューブでは、放電に必要な管電力が得られるように、管電力を上げるべくアークチューブに供給する電流(管電流)を増加させる必要があり、それだけ電極先端部が高温となる。このため、アークチューブについて点消灯を繰り返すと、電極先端部近傍の結晶が成長(結晶サイズが拡大)して、結晶界面位置が変化するなどして電極先端面形状が変化し、輝点ズレ(放電の輝点位置が点消灯の度に移動すること)や輝点変動(安定点灯中に輝点が移動すること)といった、いわゆる放電時の輝点割れが起こり、自動車用前照灯における適正な配光が得られないとか中心光度が低下するなどの原因となる。しかし、電極棒先端部は縦断面単一の結晶で構成されているので、フリッカー(アークのちらつき)発生の原因となる放電時の輝点割れが起こりにくい。
【発明の効果】
【0034】
本発明に係る放電ランプ装置用水銀フリーアークチューブによれば、フリッカーの発生およびピンチシール部での縦クラックや箔浮きの発生が確実に抑制されて、長寿命の放電ランプ装置用水銀フリーアークチューブが得られる。
【0035】
請求項2によれば、電極の消耗の度合いが少なく、輝点変動も少ないので、長寿命で視認性の良好な放電ランプ装置用水銀フリーアークチューブが得られる。
【0036】
請求項3によれば、放電時の輝点割れが起こらず、フリッカーの発生がいっそう抑制されて、さらに長寿命の放電ランプ装置用水銀フリーアークチューブが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて説明する。
【0038】
図1〜図8は本発明の第1の実施例を示すもので、図1は本発明の第1の実施例である放電ランプ装置用アークチューブの縦断面図、図2は同アークチューブを構成する電極棒の拡大側面斜視図、図3は電極棒のピンチシール部に封着された領域の体積に対するフリッカー発生時間(アークチューブの寿命)特性を示す図、図4は電極棒のピンチシール部に封着された領域の体積に対する箔浮き発生率特性および対する縦クラック発生率特性を示す図、図5は電極棒の総体積に対する不良品(電極消耗)の発生率特性および不良品(輝点変動)の発生率特性を示す図、図6は電極棒の密閉ガラス球内に突出する領域の体積と電極棒のピンチシール部に封着された領域の体積の積に対する不良品(電極消耗)の発生率特性および不良品(輝点変動)の発生率特性を示す図、図7はトリエーテッドタングステン製電極棒で構成された電極を備えたアークチューブにおいてフリッカー発生のメカニズム(化学反応式)を示す図、図8はカリウムドープタングステン製電極棒に真空熱処理(1200℃〜2000℃の範囲)を施した後にエージング処理を施した電極棒先端側領域の拡大縦断面結晶構造(図8(a))を、同様の処理を施したトリエーテッドタングステン製電極棒先端側領域の拡大縦断面結晶構造(図8(b))と比較して示す図である。
【0039】
これらの図において、アークチューブ10の装着される放電ランプ装置は、70〜85W(例えば75W)の定格電力で動作する水銀フリーアークチューブ用の放電ランプ装置である点を除いて、その構造は、図9に示す従来構造と略同一である。
【0040】
アークチューブ10は、直線状延出部の長手方向途中に球状膨出部が形成された円パイプ形状の石英ガラス管の球状膨出部寄りがピンチシールされて、内容積50μl以下の放電空間を形成する楕円体形状又は円筒形状のチップレス密閉ガラス球12の両端部に横断面矩形状のピンチシール部13,13が形成された非常にコンパクトな構造で、密閉ガラス球12内には、発光物質である(NaI,ScI3)および水銀に代わるZnI2やThI4等の緩衝用金属ハロゲン化物が始動用希ガス(例えば、Xeガス)とともに封入されている。
【0041】
また密閉ガラス球12内には、放電電極を構成するタングステン製の電極棒14,14が対向配置されており、電極棒14,14はピンチシール部13に封着されたモリブデン箔17に接続され、ピンチシール部13,13の端部からはモリブデン箔17,17に接続されたモリブテン製リード線18,18が導出している。
【0042】
符号20および22は、ピンチシール部13における電極棒14の周りに形成された残留圧縮歪層およびビードクラックで、アークチューブの点灯時に電極棒14(16)と石英ガラス層の界面に発生する熱応力が残留圧縮歪層20およびビードクラック22によって吸収分散されて石英ガラス層側に伝達されるため、ピンチシール部13の石英ガラス層に封入物質のリークにつながる縦クラックが発生し難い。
【0043】
また、電極棒14は、密閉ガラス球12内に突出する外径dの大きい円柱状先端側領域15とピンチシール部13に封着された外径D(<d)の小さい円柱状基端側領域16とが同芯状に連続する段付き円柱型に形成されるとともに、先端側領域16の横断面積aとピンチシール部に封着された基端側領域15の横断面積Aの比a/Aが1.1〜7.3の範囲とされた構成については、特許文献3の水銀フリーアークチューブに用いられている電極棒と同一である。
【0044】
詳しくは、密閉ガラス球12内に突出する電極棒先端側領域15は、その外径dが大きいほど、電極の熱容量が大きく、それだけ電極が消耗したり黒化するといった電極の損傷が少ないので、外径dは、この種のアークチューブ用円柱形状電極としての外径寸法規格値の上限0.4mmを超えない範囲で、できるだけ大きい寸法(例えば0.3〜0.4mm)が望ましい。なお、外径dが大きすぎると、電極の熱容量が大きすぎて、電極先端部での熱エネルギーの消費が増え、光エネルギーとしての消費、即ち、エネルギー効率が低下するが、アークチューブ用タングステン電極としての規格値上限0.4mmを超えなければ問題はない。
【0045】
一方、ピンチシール部13に封着された電極棒基端側領域16の外径Dは、アークチューブの点消灯に伴ってピンチシール部13の石英ガラス層に発生する熱応力が小さくなるように小さい寸法(例えば、0.1〜0.3mm)が望ましい。
【0046】
即ち、水銀フリーアークチューブでは、密閉ガラス球内に水銀が封入されないという欠点を補うために、希ガス(例えばXe)の封入圧が、水銀入りアークチューブの場合(一般に、5〜8気圧)に比べて高い10〜15気圧に設定され、放電に必要な管電力を得るべく投入電力は、水銀入りアークチューブの場合(一般に、60〜70W)に比べて高い70〜85Wに設定され、アークチューブに供給する電流(管電流)は、水銀入りアークチューブの場合(一般に、2.2〜2.6A)に比べて高い2.7〜3.2Aに設定されている。このため、電極に作用する負荷が増加し、電極が損傷し易くなるため、電極棒14の総体積(容積)は、水銀入りアークチューブの場合(一般に、0.25〜0.35mm3)に比べて大きい例えば0.4〜0.6mm3とする。また、最も損傷のおそれのある電極棒先端領域15では径が大きいので、それだけ損傷し難い。一方、ピンチシール部13に封着されている電極棒基端側領域16では、径が大きい(太過ぎる)と、ピンチシール部13における電極棒16の周りに、アークチューブ点灯時に発生する熱応力を吸収緩和する最適な残留圧縮歪層やビードクラックを形成できない場合があって、点消灯時に伴って発生する熱応力によって、ピンチシール部13に封入物質のリークにつながる縦クラックが発生するおそれがあるが、電極棒基端側領域16の径Dが先端側領域15の径dよりも小さいので、電極棒16の周りにある程度の大きさの残留圧縮歪層20(ビードクラック22)が形成されて、それだけピンチシール部13において縦クラックが発生し難い。
【0047】
このように、本実施例では、特許文献3の場合と同様に、電極棒14は、密閉ガラス球12内に突出する先端側領域15の径dがピンチシール部に封着される基端側領域16の径Dよりも大きい(基端側領域16の径Dが先端側領域15の径dよりも小さい)段付き形状に構成されることで、電極15の損傷およびピンチシール部13での縦クラックの発生をある程度は抑制できる構造となっている。
しかし、図3,4に示すように、フリッカーの発生,ピンチシール部13での縦クラックの発生および箔浮きの発生を確実に抑制するため(アークチューブの長寿命化のため)には、小径の電極棒基端側領域16のピンチシール部13に封着されている領域(以下、電極埋込領域という)16Aの体積Vを0.25〜0.42mm3の範囲内にすることが必要になる。
【0048】
即ち、段付き電極棒14の小径基端側領域16(電極埋込領域16A)の横断面積をA、同極埋込領域16Aの長さをL、同極埋込領域16Aの体積(容積)をV、同電極棒の密閉ガラス球内に突出する領域(以下、電極突出領域という)15Aの体積をvとすると、電極埋込領域16Aの体積V(=A・L)が大きいほど、電極棒からピンチシール部への熱伝導が促進されて、電極突出領域15Aが極端に高温とならず、電極の変形やフリッカーの発生が抑制される。そして、図3に示すVに対するフリッカー発生時間(アークチューブ点灯後、フリッカーの発生に至るまでの時間;アークチューブの平均寿命)特性において、フリッカー発生時間(アークチューブの平均寿命)の限界を一般的に望ましいとされる2500時間に設定すると、Vは0.25mm3以上が望ましいことがわかる。
【0049】
また、電極埋込領域16Aの体積V(=A・L)を大きくすると、電極埋込領域16Aにおける熱容量が大きい分、電極棒14(16)に接続されているモリブデン箔17の温度が上がらず、ガラス層とモリブデン箔17間に発生する熱応力が小さく、それだけ箔浮きの発生が抑制される。そして、Vに対する箔浮き発生率特性(図4一点鎖線参照)において、不良品の発生率の限界を0.5%に設定すると、Vは0.25mm3以上が望ましいことがわかる。
【0050】
また、ピンチシール部13において縦クラックの発生を抑制するには、電極埋込領域16Aの周りに形成される残留圧縮歪層20およびビードクラック22が最適範囲(例えば、ビードクラック22は電極棒16を中心とする円弧状に延在するが、ビードクラック22は、円弧の半径の大きさがピンチシール部の横断面の短辺の幅の1/4以下)となるように形成されていることが望ましいが、電極埋込領域16Aの体積(容積)が大きすぎると、ガラス層と電極埋込領域16A間の界面の周方向および軸方向の面積が大きく、ピンチシール後にピンチシール部13が冷える過程で、電極埋込領域16Aと石英ガラス層との熱収縮量差が大きく顕在化し、石英ガラス層に適切な残留圧縮歪層およびビードクラックを形成できない。特に、残留圧縮歪層およびビードクラックが大きい場合(例えば、ビードクラックの円弧の半径の大きさがピンチシール部の横断面の短辺の幅の1/4を超えるような場合)には、点灯時にビードクラックの周方向の端部から放射状方向に延びるクラックが発生する、即ち、縦クラックの発生につながることがわかった。そして、電極埋込領域16Aの体積(容積)Vに対する縦クラック発生率特性(図4実線参照)において、不良品の発生率の限界を0.5%に設定すると、Vは0.42mm3以下が望ましいことがわかる。
【0051】
このように、本実施例では、フリッカーの発生およびピンチシール部13での縦クラックや箔浮きの発生を確実に抑制するため(アークチューブの長寿命化のため)に、電極14における電極埋込領域16Aの体積Vが0.25〜0.42mm3の範囲内に構成されている。
【0052】
さらに、本実施例では、電極埋設領域16Aの体積(容積)Vと電極突出領域15Aの体積(容積)vとの和、即ち電極棒14の総体積(V+v)が0.40〜0.60で、かつ電極埋設領域16Aの体積(容積)Vと電極突出領域15Aの体積(容積)vとの積(V・v)が0.03〜0.09の範囲内となるように構成されて、電極の消耗による不良品発生率およびアークの輝点変動による不良品発生率のいずれも0.5%以下となるように構成されている。
【0053】
即ち、図5に示すように、電極棒14の総体積(V+v)が小さ過ぎると、電極の熱容量が小さ過ぎて、電極が極端な高温度となって、電極が消耗する。一方、電極棒14の総体積(V+v)が大き過ぎると、電極の熱容量が大き過ぎて、電極が安定した放電のために必要な適正温度とならず、輝点変動が発生する。電極棒14の総体積(V+v)に対する不良品(電極消耗)の発生率特性(図5実線参照)および不良品(輝点変動)の発生率特性(図5一点差線参照)の限界をそれぞれ0.5%に設定すると、電極棒14の総体積(V+v)は0.03mm3以上、0.60mm3以下が望ましいことがわかる。
【0054】
また、電極の消耗と輝点変動に対する有効範囲(限界)をより明確にするために、電極埋設領域16Aの体積(容積)Vと電極突出領域15Aの体積(容積)vとの積(V・v)に対する不良品(電極消耗)発生率特性(図6実線参照)および不良品(輝点変動)発生率特性(図6一点鎖線参照)を求めるとともに、電極消耗および輝点変動によるそれぞれの不良品発生率の限界をそれぞれ0.5%に設定すると、V・vは0.040mm6以上、0.09mm6以下が望ましいことがわかる。
【0055】
また、本実施例の段付き電極棒14は、カリウムがドープされたカリウムドープタングステン製電極棒で、予め1200℃〜2000℃の範囲の真空熱処理が施されたもので構成されるとともに、アークチューブ10として構成された後に点消灯を繰り返すエージング工程を経て、電極突出領域15Aを構成する電極棒先端側領域15の縦断面結晶構造がノンサグ状結晶構造とされるとともに、その先端部が電極棒先端側領域15と略同一径の単一の結晶で構成された結晶構造とされて、電極棒(大径電極棒先端側領域15)の折損が抑制されるとともに、フリッカー(アークのちらつき)の発生を一層抑制できる構造となっている。
即ち、密閉ガラス球12内に対設されている電極棒14としては、従来はトリエーテッドタングステン(一般にトリタンと称呼される)製電極棒で構成されており、タングステン中に含まれているトリア(ThO2)が原因でフリッカー(アークのちらつき)が発生し易い。図7は、トリエーテッドタングステン製電極棒を対向電極として備えた水銀フリーアークチューブにおいてフリッカーを発生するメカニズム(化学反応式)を示す図で、この図に示すように、電極の変形とトリアの消失により再点弧電圧が上昇し、フリッカーが発生すると考えられている。また、電極棒14を所定の段付き形状に加工する方法としては、均一な外径dをもつ円柱形状の電極棒の一端側(基端側領域16)を、例えば切削によって外径Dの円柱形状に形成する方法が考えられるが、切削加工が必要な分、電極棒14の表面にはそれだけ不純物が付着したり水分が吸着されることとなって、フリッカーがより発生し易い。
【0056】
しかし、本実施例における段付き電極棒14は、トリエーテッドタングステン製電極棒ではなく、トリア(ThO2)が原因でフリッカー(アークのちらつき)が発生することがないカリウムドープタングステン製電極棒14で構成されている。
【0057】
さらに、カリウムドープタングステン製段付き電極棒14には、ピンチシール前に予め1200℃〜2000℃の範囲の真空熱処理が施されて、表面に付着していた不純物や吸着されていた水分が除去されている。そして、真空熱処理が施されることで、電極棒14全域の縦断面結晶構造は、強度のある折れ難い繊維状結晶構造となる。さらに、真空熱処理が施されたカリウムドープタングステン製電極棒14が、アークチューブ10として組み立てられた後に点消灯を繰り返すエージング工程を経ることで、図8(a)に示すように、電極突出領域15Aを構成する電極棒先端側領域15の縦断面結晶構造は、エージング工程前の繊維状結晶が成長(粗大化)したノンサグ状結晶構造となって、上下方向の振動などの横方向荷重に対しての強度に特に優れた結晶構造を構成する。
【0058】
特に、エージング工程を経た電極棒先端側領域15の先端部は、ノンサグ状結晶とは明らかに異なる成長(粗大化)した単一の結晶構造となって、放電時の輝点割れが起こらず、それだけフリッカー(アークのちらつき)が発生し難い構造となっている。即ち、水銀フリーアークチューブでは、放電に必要な管電力が得られるように、管電力を上げるべくアークチューブに供給する電流(管電流)を増加させる必要があり、それだけ電極先端部が高温となる。このため、アークチューブについて点消灯を繰り返すと、電極先端部近傍の結晶が成長(結晶サイズが拡大)して、結晶界面位置が変化するなどして電極先端面形状が変化し、輝点ズレや輝点変動といった、いわゆる放電時の輝点割れが起こり、自動車用前照灯における適正な配光が得られないとか中心光度が低下するなどの原因となる。しかし、電極棒先端部は、先端領域15の外径に等しい単一の結晶C1で構成されているので、電極先端面の形状が大きく変化することがなく、電極棒先端が徐々に消耗するにしても電極先端面形状(単一結晶の端面形状)全体がほぼ均一に消耗するため、フリッカー(アークのちらつき)発生の原因となる放電時の輝点割れが起こりにくい。
【0059】
図8(b)は、カリウムドープタングステン製段付き電極棒14と同様の処理を施したトリエーテッドタングステン製段付き電極棒(ピンチシール前に予め1200℃〜2000℃の範囲の真空熱処理を施した後、アークチューブとして組み付けた後にエージング工程を施したトリエーテッドタングステン製電極棒)の先端側領域の拡大縦断面結晶構造を示すが、電極突出領域15Aを構成する電極棒先端側領域15の先端部までの全体がノンサグ状結晶構造で構成されているため、放電時の輝点割れが起こり易く、それだけフリッカー(アークのちらつき)が発生し易い。このように、図8(a)に示す、先端部が単一の結晶C1で構成されているカリウムドープタングステン製電極棒先端側領域の縦断面結晶構造が、先端部までノンサグ状結晶構造で構成されているトリエーテッドタングステン製電極棒先端側領域の縦断面結晶構造(図8(b)参照)とは、明らかに相違していることがわかる。
【0060】
また、水銀フリーアークチューブ10の製造方法については、真空熱処理(1200℃〜2000℃)を施した段付き電極棒14とモリブデン箔17とリード線18を直線状に接続一体化した電極アッシーを予め作っておき、ガラス球の成形されたガラス管の開口端部にこの電極アッシーを挿通保持し、ガラス管の開口端部をピンチシールすることで、密閉ガラス球内にNa,Scのハロゲン化物,水銀に代わるZnI2やThI4などの緩衝用金属ハロゲン化物等を希ガス(Xeガス)とともに封止する。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の第1の実施例である放電ランプ装置用アークチューブの要部縦断面図である。
【図2】同アークチューブを構成する電極棒の拡大側面斜視図である。
【図3】電極棒のピンチシール部に封着された領域の体積に対するフリッカー発生時間(アークチューブの寿命)特性を示す図である。
【図4】電極棒のピンチシール部に封着された領域の体積に対する箔浮き発生率特性および対する縦クラック発生率特性を示す図である。
【図5】電極棒の総体積に対する不良品(電極消耗)の発生率特性および不良品(輝点変動)の発生率特性を示す図である。
【図6】電極棒の密閉ガラス球内に突出する領域の体積と電極棒のピンチシール部に封着された領域の体積の積に対する不良品(電極消耗)の発生率特性および不良品(輝点変動)の発生率特性を示す図である。
【図7】トリエーテッドタングステン製電極棒で構成された電極を備えたアークチューブにおいてフリッカーを発生するメカニズム(化学反応式)を示す図である。
【図8】(a)はカリウムドープタングステン製電極棒に真空熱処理(1200℃〜2000℃の範囲)を施した後にエージング処理を施した電極棒先端側領域の拡大縦断面結晶構造、(b)は同様の処理を施したトリエーテッドタングステン製電極棒先端側領域の拡大縦断面結晶構造をそれぞれ示す図である。
【図9】従来の放電ランプ装置の縦断面図である。
【図10】従来のアークチューブ(特許文献1)のピンチシール部に形成された残留圧縮歪層およびビードクラックを示す縦断面図である。
【図11】従来の水銀フリーアークチューブ(特許文献2,3)に用いる電極棒の拡大斜視図である。
【符号の説明】
【0062】
10 水銀フリーアークチューブ
12 密閉ガラス球
13 ピンチシール部
14 段付き電極棒
15 段付き電極棒の先端側領域
15A 電極突出領域
16 段付き電極棒の基端側領域
16A 電極埋込領域
17 モリブデン箔
18 リード線
20 残留圧縮歪層
22 ビードクラック
A 電極棒の基端側領域(電極埋込領域)の横断面積
L 電極埋込領域の長さ
V 電極埋込領域の体積(容積)
a 電極突出領域の横断面積
v 電極突出領域の体積(容積)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス管の両端開口部がピンチシールされることで、少なくとも主発光用金属ハロゲン化物が希ガスとともに封入され、かつ電極棒が対設された密閉ガラス球を備えた放電ランプ装置用水銀フリーアークチューブにおいて、
前記電極棒は、前記密閉ガラス球内に突出する先端側領域の横断面積が前記ピンチシール部に封着された基端側領域の横断面積よりも大きい同芯段付き形状に構成されるとともに、前記ピンチシール部に封着された領域の体積Vが0.25〜0.42mm3の範囲内に構成されたことを特徴とする放電ランプ装置用水銀フリーアークチューブ。
【請求項2】
前記電極棒の密閉ガラス球内に突出する領域の体積をvとして、V+vが0.40〜0.60mm3、V・vが0.03〜0.09mm6の範囲内に構成されたことを特徴とする請求項1に記載の放電ランプ装置用水銀フリーアークチューブ。
【請求項3】
前記電極棒は、カリウムがドープされたカリウムドープタングステン製電極棒であって、予め1200℃〜2000℃の範囲の真空熱処理が施されたもので構成されるとともに、アークチューブとして構成された後に点消灯を繰り返すエージング工程を経て、前記密閉ガラス球内に突出する径の大きい電極棒先端側領域の縦断面結晶構造がノンサグ状結晶構造で構成されるとともに、その先端部が電極棒先端側領域と略同一径の単一の結晶で構成されたことを特徴とする請求項1または2に記載の放電ランプ装置用水銀フリーアークチューブ。
【請求項1】
ガラス管の両端開口部がピンチシールされることで、少なくとも主発光用金属ハロゲン化物が希ガスとともに封入され、かつ電極棒が対設された密閉ガラス球を備えた放電ランプ装置用水銀フリーアークチューブにおいて、
前記電極棒は、前記密閉ガラス球内に突出する先端側領域の横断面積が前記ピンチシール部に封着された基端側領域の横断面積よりも大きい同芯段付き形状に構成されるとともに、前記ピンチシール部に封着された領域の体積Vが0.25〜0.42mm3の範囲内に構成されたことを特徴とする放電ランプ装置用水銀フリーアークチューブ。
【請求項2】
前記電極棒の密閉ガラス球内に突出する領域の体積をvとして、V+vが0.40〜0.60mm3、V・vが0.03〜0.09mm6の範囲内に構成されたことを特徴とする請求項1に記載の放電ランプ装置用水銀フリーアークチューブ。
【請求項3】
前記電極棒は、カリウムがドープされたカリウムドープタングステン製電極棒であって、予め1200℃〜2000℃の範囲の真空熱処理が施されたもので構成されるとともに、アークチューブとして構成された後に点消灯を繰り返すエージング工程を経て、前記密閉ガラス球内に突出する径の大きい電極棒先端側領域の縦断面結晶構造がノンサグ状結晶構造で構成されるとともに、その先端部が電極棒先端側領域と略同一径の単一の結晶で構成されたことを特徴とする請求項1または2に記載の放電ランプ装置用水銀フリーアークチューブ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2007−134055(P2007−134055A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−323136(P2005−323136)
【出願日】平成17年11月8日(2005.11.8)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年11月8日(2005.11.8)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】
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