説明

放電加工方法及び放電加工機

【課題】加工速度の低下を抑え、電極消耗を抑えることができる放電加工方法及び放電加工機を提供する。
【解決手段】電極15とワーク16の間隙にパルス電圧を印加して放電を発生させ、ワーク16を加工する放電加工機において、パルス電圧のパルス幅を、電極15に加工液中の炭素が付着するパルス幅と、電極15が消耗するパルス幅とを周期的に繰り返すように制御するパルス幅決定部31を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極とワークとの間隙にパルス電圧を印加して放電を発生させ、ワークを加工する放電加工方法及び放電加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
電極とワークとの間隙にパルス電圧を印加して放電を発生させ、ワークを加工する放電加工方法の従来の一例として、特許文献1が開示されている。特許文献1には、電極有消耗の電圧パルス条件設定装置と電極低消耗の電圧パルス条件設定装置とを備えた電源装置により、電極消耗の少ない状態で放電加工を行う放電加工方法及び放電加工用電源装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−243842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では、電極有消耗パルスと電極低消耗パルスとを組合せ、電極低消耗パルスで電極に保護皮膜を形成することにより、電極の消耗を抑制する技術を開示するものであるが、電極は除々に消耗してしまう。また、理論的に電極が無消耗になる加工条件を設定しても実際の加工では除々に電極が消耗していくか、又は除々に皮膜が増大してしまう問題があった。
【0005】
本発明は、加工速度の低下を抑え、電極消耗を抑えることができる放電加工方法及び放電加工機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明によれば、電極とワークの間隙にパルス電圧を印加して放電を発生させ、ワークを加工する放電加工方法において、前記パルス電圧を発生させる加工電源の陽極に電極を、陰極にワークを接続し、前記電極と前記ワークの間隙に炭素を含んだ加工液を介在させ、前記パルス電圧のパルス幅を、前記電極に前記加工液中の炭素が付着するパルス幅と、前記電極が消耗するパルス幅とを周期的に繰り返すように制御して加工することを特徴とした放電加工方法が提供される。
【0007】
また、本発明によれば、周期的に変更する前記パルス幅は、パルス幅変換関数を用い、初期設定されたパルス幅と経過時間とに基づいて求める放電加工方法が提供される。
【0008】
また、本発明によれば、加工中にアークが発生した場合は、パルス幅を短く固定し、アークが解消したら周期的にパルス幅を変える制御に切り換える放電加工方法が提供される。
【0009】
また、本発明によれば、電極とワークの間隙にパルス電圧を印加して放電を発生させ、ワークを加工する放電加工機において、前記パルス電圧のパルス幅を、前記電極に加工液中の炭素が付着するパルス幅と、前記電極が消耗するパルス幅とを周期的に繰り返すように制御するパルス幅決定部を具備することを特徴とした放電加工機が提供される。
【発明の効果】
【0010】
以上の如く、本発明の放電加工方法及び放電加工機によれば、電極とワークとの間隙に印加するパルス電圧を電極消耗がないパルス幅よりも小さく電極が消耗するパルス幅と、電極消耗がないパルス幅よりも大きく電極に炭素が付着するパルス幅のパルス電圧に周期的に変えながら加工するので、電極の炭素付着と消耗を繰り返し、電極の消耗を抑えることができる。また、アークが発生した場合、パルス幅を短く固定してアークを解消するので、アークによる加工速度の低下を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の放電加工機の一実施形態を示す構成ブロック図である。
【図2】図1に示す放電加工機のパルス幅決定手段の詳細ブロック図である。
【図3】印加電圧のパルス幅の時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1には本発明の放電加工機の一実施形態が示されている。放電加工機10には、加工槽内があり、加工槽内に充満された加工液中に浸漬しているワーク16を放電により加工するための電極15と、互いに直交するX軸、Y軸、Z軸の3つの軸に関して電極15を移動させるための各軸送りモータと電気的に接続され、各軸送りモータに駆動電力を供給する駆動手段17と、電極15にパルス電圧を印加する加工電源19と、駆動手段17及び加工電源19を制御する制御装置21と、を備えている。放電加工機10は、さらに、加工電源19からワーク16及び電極15へのそれぞれの配線の途中で、ワーク16と電極15との間の極間電圧を検出するために電圧検出部23を備えている。加工液には、炭素を含む油系放電加工液を使用することができる。電極15には、銅、銅タングステン、銀タングステン又はグラファイトを所定の形状に加工されたものを使用することができる。
【0013】
各軸送りモータは、ボールねじと組み合わせて用いられ、電極15を各軸方向に移動させる。図示される実施形態においては、駆動手段17により電極15がワーク16に対して移動させられるものとして示されているが、電極15とワーク16とは相対的に移動可能であればよく、電極15を支持するヘッド及び加工槽が載置されている図示しないワークテーブルのいずれか一方又は両方を必要に応じて移動させてもよい。
【0014】
加工電源19は、制御装置21から、極間への印加電圧、τON(放電時間)、τOFF(休止時間)等の加工電源用パラメータを受け、これらに従って電極15とワーク16との極間にパルス電圧を供給する。電圧検出部23により、ワーク16と電極15との間の極間電圧を検出することによって、制御装置21はワーク16と電極15との加工間隙を駆動手段17により制御し、安定した加工が行われるようにする。また、加工電源19の陽極には電極15を接続し、加工電源19の陰極にはワーク16を接続している。
【0015】
制御装置21は、加工プログラム25の内容を解釈して加工指令を読み出す読取解釈部27と、電極15とワーク16との極間へ印加されるパルス電圧などの加工パラメータを記憶する加工条件記憶部29と、加工指令と加工パラメータに基づいて、パルス電圧のパルス幅が周期的に変化するようにパルス幅を制御するパルス幅決定部31と、を具備している。加工プログラム25は、記録媒体を介して間接的に、又はキーボード等の入力装置を介して直接的に制御装置21に提供することができる。加工条件記憶部29には、ワーク16を加工するために必要な加工電源用パラメータ、各サーボモータへの制御パラメータ等を記憶する。加工電源用パラメータには、電極15とワーク16との極間へ印加されるパルス電圧設定値、パルス幅、パルス周期、τW(待機時間)、τON(放電時間)、τOFF(休止時間)等の加工電源用パラメータが含まれる。
【0016】
図2には、パルス幅決定部31の詳細が示されている。パルス幅決定部31は、電圧検出部23により検出された放電時の電圧を監視して、アークの発生を判断する放電電圧監視部33と、アーク発生時に短いパルス幅を維持するパルス幅一定モードとアーク解消後にパルス幅を周期的に増減するパルス幅変化モードとを切り換えるパルス幅モード切換部35と、パルス幅モード切換部35によりパルス幅変化モードが選択されたときに、パラメータで設定された振幅を有する周期関数(パルス幅変換関数)により放電時のパルス幅を算出するパルス幅算出部37と、を備えている。パルス幅の変動範囲は、ワークの材質や、加工速度などに基づいて決定される。
【0017】
パルス幅算出部37の周期関数には、図3に示すように、正弦曲線を形成する関数を適用することができる。パルス幅が周期関数により算出されることにより、加工条件記憶部29に記憶されている電極無消耗のパルス幅設定値を基準に、パルス幅を周期的に長く、又はパルス幅を周期的に変化させながら放電加工をすることができる。一例としての図3に示す正弦曲線では、パルス幅設定値が200μsec、パルス幅上限値が260μsec、パルス幅下限値が140μsec、周期が30secに設定されている。パルス幅設定値よりパルス幅が長い時間帯では加工液中の炭素が電極に付着し、パルス幅設定値よりパルス幅が短い時間帯では付着した炭素がはがれることにより、又は被膜の増大を無くすことができる。また、仕上げ面のしみやピンホールの発生が防止され、加工面品位を高めることができる。
【0018】
以上のように、本実施形態の放電加工機10によれば、電極15とワーク16との間隙に印加するパルス電圧を電極消耗がないパルス幅よりも小さいパルス幅と大きいパルス幅のパルス電圧に周期的に変えながら加工するので、電極の消耗を低下させることができる。また、アークが発生した場合に、パルス幅を短く固定しアークを解消するので、加工速度の低下を抑えることができる。
【0019】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【符号の説明】
【0020】
10 放電加工機
15 電極
16 ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極とワークの間隙にパルス電圧を印加して放電を発生させ、ワークを加工する放電加工方法において、
前記パルス電圧を発生させる加工電源の陽極に電極を、陰極にワークを接続し、
前記電極と前記ワークの間隙に炭素を含んだ加工液を介在させ、
前記パルス電圧のパルス幅を、前記電極に前記加工液中の炭素が付着するパルス幅と、前記電極が消耗するパルス幅とを周期的に繰り返すように制御して加工することを特徴とした放電加工方法。
【請求項2】
周期的に変更する前記パルス幅は、パルス幅変換関数を用い、初期設定されたパルス幅と経過時間とに基づいて求める請求項1に記載の放電加工方法。
【請求項3】
加工中にアークが発生した場合は、パルス幅を短く固定し、アークが解消したら周期的にパルス幅を変える制御に切り換える請求項1又は2に記載の放電加工方法。
【請求項4】
電極とワークの間隙にパルス電圧を印加して放電を発生させ、ワークを加工する放電加工機において、
前記パルス電圧のパルス幅を、前記電極に加工液中の炭素が付着するパルス幅と、前記電極が消耗するパルス幅とを周期的に繰り返すように制御するパルス幅決定部を具備することを特徴とした放電加工機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−110689(P2011−110689A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−272321(P2009−272321)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000154990)株式会社牧野フライス製作所 (116)
【Fターム(参考)】