説明

放電励起式ガスレーザ装置およびその故障箇所判別方法

【課題】
パルスパワーモジュールとレーザチャンバの何れが故障しているかを安全且つ短時間で判別できるようにする。
【解決手段】
レーザチャンバ内に形成される放電回路のピーキングコンデンサとパルスパワーモジュール内に形成される磁気パルス圧縮回路との間に流れる電流を電流センサで検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザチャンバに設けられたピーキングコンデンサとパルスパワーモジュールに設けられた磁気パルス圧縮回路との間に電流センサを設けた放電励起式ガスレーザ装置に関し、また当該電流センサの計測値を用いてレーザチャンバとパルスパワーモジュールの何れが故障しているか判別する故障箇所判別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路の微細化、高集積化につれて、その製造用の投影露光装置においては解像力の向上が要請されている。このため、露光用光源から放出される露光光の短波長化が進められており、半導体露光用光源として、従来の水銀ランプから波長248nmのKrFエキシマレーザ装置が用いられている。さらに、次世代の半導体露光用光源として、波長193nmのArFエキシマレーザ装置及び波長157nmのフッ素(F2 )レーザ装置等の紫外線を放出するガスレーザ装置が有力である。
【0003】
KrFエキシマレーザ装置においては、フッ素(F2 )ガス、クリプトン(Kr)ガス及びバッファガスとしてのネオン(Ne)等の希ガスからなる混合ガスがレーザガスとして使用される。またArFエキシマレーザ装置においては、フッ素(F2 )ガス、アルゴン(Ar )ガス及びバッファガスとしてのネオン(Ne)等の希ガスからなる混合ガスがレーザガスとして使用される。またフッ素(F2 )レーザ装置においては、フッ素(F2 )ガス及びバッファガスとしてヘリウム(He )等の希ガスからなる混合ガスがレーザガスとして使用される。各レーザ装置において、レーザガスは数百KPaでレーザチャンバに封入される。
【0004】
レーザチャンバの内部には、一対の主放電電極とこの主放電電極に並列に接続されるピーキングコンデンサとを含む放電回路が形成される。レーザチャンバにはパルスパワーモジュールが機械的に接続されており、このパルスパワーモジュールの内部には、レーザチャンバの放電回路と電気的に接続される磁気パルス圧縮回路が形成される。
【0005】
充電回路から供給されるエネルギーは磁気パルス圧縮回路でパルス圧縮されエネルギーは放電回路のピーキングコンデンサに転送される。ピーキングコンデンサにパルス圧縮されたエネルギーが転送されると、主放電電極に高電圧が印加される。主放電電極間にかかる電圧がある値(ブレークダウン電圧)に達すると、主放電電極間のレーザガスが絶縁破壊されて主放電が開始し、この主放電によってレーザ媒質であるレーザガスが励起される。するとパルス状のレーザ光が出力される。
【0006】
こうした放電励起式ガスレーザ装置において、レーザ出力に何らかの異常が発生した場合、例えばレーザ出力がゼロになった場合などには、レーザチャンバ、パルスパワーモジュールの何れかのモジュールが故障している可能性がある。
【0007】
パルスパワーモジュールとレーザチャンバは取り扱う電圧が数十kVと非常に高く、また低インダクタンスとなるように密に接続されているため、故障検出用の電圧測定が困難になる。また電圧測定装置をレーザ装置の内部に設けるとなると、レーザ装置自体の大型化を招くことになる。レーザ装置の稼働現場は設置スペースが限られるケースが多く、大型のレーザ装置は望ましくない。そこでパルスパワーモジュールとレーザチャンバの何れが故障しているかを特定することは困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
放電励起式ガスレーザ装置が動作する際には磁気パルス圧縮回路及び放電回路に数十kVの高電圧が印加される。このため従来のように高電圧プローブなどの電圧測定装置の一部をパルスパワーモジュールの筐体の窓から出した状態でレーザ装置を動作させる検査には危険が伴う。また電圧測定装置の接触子が磁気パルス圧縮回路と放電回路との接続箇所以外の部位に接続する虞もあり、こうした点でも危険がある。さらにこうした場合は新たな故障を招くことにもなる。
【0009】
本発明はこうした実状に鑑みてなされたものであり、パルスパワーモジュールとレーザチャンバの何れが故障しているかを安全且つ短時間で判別できるようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、第1発明は、
主放電電極と当該主放電電極に並列に接続されるピーキングコンデンサとを有するレーザチャンバと、電源から供給されるパルスエネルギーをパルス圧縮する磁気パルス圧縮回路を有するパルスパワーモジュールと、を備え、前記磁気パルス圧縮回路から前記ピーキングコンデンサにパルス圧縮したエネルギーを転送し前記主放電電極間でパルス放電を発生させることによって、前記レーザチャンバ内に封入されたレーザガスを励起してパルスレーザ光を出力する放電励起式ガスレーザ装置において、
前記ピーキングコンデンサと前記パルス電源回路との間に流れる電流を検出するセンサを設けた
ことを特徴とする。
【0011】
第1発明は、レーザチャンバ内に形成される放電回路のピーキングコンデンサとパルスパワーモジュール内に形成される磁気パルス圧縮回路との間に流れる電流を電流センサで検出する。電流センサからは出力端子が引き出されており、オシロスコープなど電流観測できる装置が容易に接続できるようになっている。
【0012】
また第2発明は、第1発明において、
前記センサは絶縁油に浸漬される
ことを特徴とする。
【0013】
電流センサを空間中に設ける場合は周囲との絶縁を確保するためにある程度の空間が必要になる。対して電流センサを絶縁油に浸漬すれば絶縁を確保するための空間が小さくて済み、電流センサの設置スペースが小さく済む。一般に磁気パルス圧縮回路とピーキングコンデンサはエネルギー転送時のエネルギー損失を小さくするために極力近接される。電流を検出する電流センサの設置スペースが小さければ、磁気パルス圧縮回路とピーキングコンデンサとの間隔を大きく広げる必要がなく、エネルギー損失が大きくなることもない。 なおパルスパワーモジュール内で磁気パルス圧縮回路が絶縁油に浸漬されている場合は、磁気パルス圧縮回路と共に電流センサをその絶縁油に浸漬すればよい。
【0014】
また第3発明は、
主放電電極間でパルス放電を発生させることによってレーザガスを励起してレーザ光を出力する放電励起式ガスレーザ装置の故障箇所を判別する放電励起式ガスレーザ装置の故障箇所判別方法において、
前記放電励起式ガスレーザ装置は、
前記主放電電極と当該主放電電極に並列に接続されるピーキングコンデンサとを有するレーザチャンバと、
電源から供給されるパルスエネルギーをパルス圧縮して前記ピーキングコンデンサに転送する磁気パルス圧縮回路を有するパルスパワーモジュールと、
前記ピーキングコンデンサと前記磁気パルス圧縮回路との間に流れる電流を検出するセンサと、を備えており、
前記センサで電流を計測し、
計測値が正常値であれば前記レーザチャンバが故障していると判別し、計測値が異常値であれば前記パルスパワーモジュールが故障していると判別する
ことを特徴とする。
【0015】
第3発明は第1発明の電流センサを用いてレーザチャンバとパルスパワーモジュールの何れが故障しているかを判別する方法である。
【0016】
電流センサの測定値が正常値の範囲内にあれば、電流センサの上流側にあるパルスパワーモジュールに故障が無く、電流センサの下流側にあるレーザチャンバに故障が有ると判断できる。逆に電流センサの測定値が異常値の範囲内にあれば、電流センサの上流側にあるパルスパワーモジュールに故障が有り、電流センサの下流側にあるレーザチャンバに故障が無いと判断できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電流センサが磁気パルス圧縮回路と放電回路のピーキングコンデンサとの間に設けられる。電流センサは高電圧プローブのような電圧測定装置と比較して小型であり、電流センサを備えたレーザ装置は電圧測定装置を備えたレーザ装置ほど大型化しない。電流センサが予めレーザ装置に設けられていれば、故障検査時の作業は電流センサの測定値を外部の装置で確認するのみで済み、作業自体が容易であり又危険な作業を伴うこともない。
【0018】
さらに本発明によれば、電流センサを絶縁油に浸漬することで電流センサ自身及び電流センサの設置スペースを小型化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0020】
図1はレーザチャンバ及びパルス充電器の機械的な接続関係を示す図である。図2はレーザチャンバ内の放電回路とパルスパワーモジュール内の磁気パルス圧縮回路との接続関係を示す図である。
図1に示すように、レーザチャンバ10の内部にはレーザガスが封入されると共に、一対の主放電電極12、13とピーキングコンデンサCpを含む放電回路11が形成される。一対の主放電電極12、13はアノード及びカソードからなり、アノードとカソードは互いに長手方向が平行するように又放電面が対向するように又所定距離だけ離間するように配置される。レーザチャンバ10にはパルスパワーモジュール20が接続される。パルスパワーモジュール20の内部には絶縁油22で満たされたタンク23が設けられており、絶縁油22には磁気パルス圧縮回路21と電流センサ42が浸漬される。レーザチャンバ10とパルスパワーモジュール20はモジュール化されている。
【0021】
パルスパワーモジュール20の磁気パルス圧縮回路21とレーザチャンバ10の放電回路11は図2に示されるような構成である。図2に示される回路において、放電回路11はレーザチャンバ10の内部に設けられ、磁気パルス圧縮回路21、昇圧用トランスT、固体スイッチSW、磁気アシストSR1、主コンデンサC0及び電流センサ42はパルスパワーモジュール20の内部に設けられ、充電回路31は充電器30の内部に設けられる。放電回路11には主電極12、13とピーキングコンデンサCpが設けられ、磁気パルス圧縮回路21には転送コンデンサC1、C2と磁気スイッチSR2、SR3が設けられる。
【0022】
主放電電極12、13にはピーキングコンデンサCpが並列に接続される。ピーキングコンデンサCpには磁気スイッチSR3と転送コンデンサC2を含む直列回路が並列に接続される。転送コンデンサC2には磁気スイッチSR2と転送コンデンサC1を含む直列回路が並列に接続される。転送コンデンサC1には昇圧用トランスTの2次巻線T2が並列に接続される。
一方、充電回路31の出力端には主コンデンサC0が並列に接続される。主コンデンサC0には磁気アシストSR1と昇圧用トランスTの1次巻線T1と固体スイッチSWからなる直列回路が並列に接続される。
【0023】
図2に示される回路において、磁気パルス圧縮回路21と放電回路11とを電気的に接続する配線41には電流センサ42が設けられる。電流検出センサ42は磁気パルス圧縮回路21から放電回路11に流れる電流を検出できるものであればよく、その形態は問わない。電流センサ42の一例として、ホール素子と一部に切込みのある環状の磁性芯を組み合わせたホール素子型電流センサがある。本実施形態は、環状の磁性芯に配線41が挿通される形態で電流センサ42が設けられる。電流センサ42はパルスパワーモジュール20内の絶縁油22に磁気パルス圧縮回路21と共に浸漬されるが、絶縁油22に浸漬されなくてもよい。また本実施形態ではパルスパワーモジュール20の内部に設けられているが、レーザチャンバ10の内部に設けられてもよい。電流センサ42はパルスパワーモジュール20の外部に出力端子42aを有する。出力端子42aにはオシロスコープなど電流観測する装置を接続できる。
【0024】
図3は本実施形態における故障判断処理の全体の流れを示す図である。
レーザ出力に異常が検出され、その原因が回路系統にあると判断された場合(ステップ01)は次の様に通常のレーザ発振と同じ様な故障判断用のレーザ発振が行われる。
【0025】
転送コンデンサC2からピーキングコンデンサCpにエネルギーが転送される際に、電流センサ42によって配線41を流れる電流を検出する(ステップ02)。作業員は電流センサ42の測定値を出力端子42aに接続したオシロスコープで確認する。
【0026】
電流センサ42の測定値が正常値の範囲内にあれば配線41を流れる電流に異常がないことになる(ステップ03判断YES)。すなわち電流センサ42の上流側にあるパルスパワーモジュール20に故障が無く、電流センサ42の下流側にあるレーザチャンバ10に故障が有ると判断できる(ステップ04)。作業員はレーザ装置からレーザチャンバ10を取り外し、交換用のレーザチャンバ10を新たに取り付けてレーザ装置を復旧させる。取り外されたレーザチャンバ10は故障箇所を修理された後に交換用のレーザチャンバ10として再利用される。
【0027】
電流センサ42の測定値が異常値の範囲内にあれば配線41を流れる電流に異常があることになる(ステップ03判断NO)。すなわち電流センサ42の上流側にあるパルスパワーモジュール20に故障が有り、電流センサ42の下流側にあるレーザチャンバ10に故障が無いと判断できる(ステップ05)。作業員はレーザ装置からパルスパワーモジュール20を取り外し、交換用のパルスパワーモジュール20を新たに取り付けてレーザ装置を復旧させる。取り外されたパルスパワーモジュール20は故障箇所を修理された後に交換用のパルスパワーモジュール20として再利用される。
【0028】
本実施形態によれば、電流センサが磁気パルス圧縮回路と放電回路のピーキングコンデンサとの間に設けられる。電流センサは高電圧プローブのような電圧測定装置と比較して小型であり、電流センサを備えたレーザ装置は電圧測定装置を備えたレーザ装置ほど大型化しない。電流センサが予めレーザ装置に設けられていれば、故障検査時の作業は電流センサの測定値を外部の装置で確認するのみで済み、作業自体が容易であり又危険な作業を伴うこともない。
【0029】
さらに本実施形態によれば、電流センサを絶縁油に浸漬することで電流センサ自身及び電流センサの設置スペースを小型化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】レーザチャンバ及びパルス充電器の機械的な接続関係を示す図。
【図2】レーザチャンバ内の放電回路とパルスパワーモジュール内の磁気パルス圧縮回路との接続関係を示す図。
【図3】本実施形態における故障判断処理の全体の流れを示す図。
【符号の説明】
【0031】
10…レーザチャンバ、11…放電回路、12、13…主放電電極溝、
20…パルスパワーモジュール、21…磁気パルス圧縮回路、
30…充電器、31…充電回路、
41…配線、42…電流センサ
Cp…ピーキングコンデンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主放電電極と当該主放電電極に並列に接続されるピーキングコンデンサとを有するレーザチャンバと、電源から供給されるパルスエネルギーをパルス圧縮する磁気パルス圧縮回路を有するパルスパワーモジュールと、を備え、前記磁気パルス圧縮回路から前記ピーキングコンデンサにパルス圧縮したエネルギーを転送し前記主放電電極間でパルス放電を発生させることによって、前記レーザチャンバ内に封入されたレーザガスを励起してパルスレーザ光を出力する放電励起式ガスレーザ装置において、
前記ピーキングコンデンサと前記パルス電源回路との間に流れる電流を検出するセンサを設けた
ことを特徴とする放電励起式ガスレーザ装置。
【請求項2】
前記センサを絶縁油に浸漬する
ことを特徴とする請求項1記載の放電励起式ガスレーザ装置。
【請求項3】
主放電電極間でパルス放電を発生させることによってレーザガスを励起してレーザ光を出力する放電励起式ガスレーザ装置の故障箇所を判別する放電励起式ガスレーザ装置の故障箇所判別方法において、
前記放電励起式ガスレーザ装置は、
前記主放電電極と当該主放電電極に並列に接続されるピーキングコンデンサとを有するレーザチャンバと、
電源から供給されるパルスエネルギーをパルス圧縮して前記ピーキングコンデンサに転送する磁気パルス圧縮回路を有するパルスパワーモジュールと、
前記ピーキングコンデンサと前記磁気パルス圧縮回路との間に流れる電流を検出するセンサと、を備えており、
前記センサで電流を計測し、
計測値が正常値であれば前記レーザチャンバが故障していると判別し、計測値が異常値であれば前記パルスパワーモジュールが故障していると判別する
ことを特徴とする放電励起式ガスレーザ装置の故障箇所判別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−194063(P2009−194063A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31642(P2008−31642)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(300073919)ギガフォトン株式会社 (227)
【出願人】(000102212)ウシオ電機株式会社 (1,414)
【Fターム(参考)】