説明

放電表面処理用電極

【課題】電極構成物質の被処理材料への効率的な移動を実現する放電表面処理用電極を提供する。
【解決手段】被処理材料との間の放電により、電極構成材料の少なくとも一部を含む被膜を、前記被処理材料の表面に形成する放電表面処理用電極10であって、放電処理時において、電極中に分散している導電性ダイヤモンド粒子12が放電の起点となり、偏りが少なく安定した放電を実現し、また、その高い熱伝導性により、放電により発生する熱を材料粒子14に効率的に伝えることができる。これにより、放電表面処理用電極10は、材料粒子14の被処理材料18への効率的な移動を実現し、単位電極消耗量に対する被処理材料18への膜形成量が増加するとともに、電極くずの発生を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電表面処理に用いられる放電表面処理用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
油液中に設置した被処理材料と電極の間に放電を発生させ、当該放電のエネルギーを利用する技術として、放電加工と放電表面処理が開発されている。放電加工に用いられる電極が、放電による加工を実現できれば足りるのに対して、放電表面処理に用いられる電極には、被膜の基となる材料を圧縮成形した、内部に空隙を有する電極が用いられ、放電加工に用いられる電極とは異なる性質・機能が求められる。すなわち、放電表面処理用電極は、その構成材料の少なくとも一部が、放電エネルギーによって被処理材料表面に移動する必要があり、構成材料、強度(崩れやすさ)、電気伝導率などが、放電加工用の電極とは大きく異なる。
【0003】
このような放電表面処理用電極に関する従来技術としては、例えば金属粉末あるいは金属化合物粉末を加圧成形した圧粉体を用いた電極が開示されている(特許文献1等参照)。しかし、従来の放電表面処理用電極は、内部に含まれる粉末の結合力の均一性を確保することが難しく、また、放電表面処理の放電エネルギーが特定の部分に集中するような場合もある。これにより、従来技術に係る放電表面用電極は、特定の部分が過剰に崩れるような現象が起きる場合があり、これに伴い、放電表面処理用電極の構成物質のうち、被処理材料に移動して被膜を形成する割合が減少するという問題が発生する。崩壊した電極の構成材料のうち、被処理材料に移動しないものは、電極くずとして油液中を浮遊する。
【0004】
一方で、放電表面処理用電極ではなく、放電加工用電極に関する従来技術として、電極消耗を減少させるために、微細多結晶ダイヤモンドを電極中に分散させる技術が開示されている(特許文献2等参照)。しかし、このような放電加工用電極に関する技術は、電極消耗の減少という課題を解決するためのものであり、電極構成物質の被処理材料への効率的な移動の実現という課題に対して有効であるか否かについては言及がない。また、放電加工用電極と放電表面処理用電極とでは、上述するように機械的・電気的性質が大きく異なるため、一方の技術を他方に応用するには困難が伴う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第99/46423号
【特許文献2】特開2006−167893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされ、その目的は、電極構成物質の被処理材料への効率的な移動を実現する放電表面処理用電極を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するために、本発明に係る放電表面処理用電極は、
被処理材料との間の放電により、電極構成材料の少なくとも一部を含む被膜を、前記被処理材料の表面に形成する放電表面処理用電極であって、
導電性ダイヤモンド粒子を含む。
【0008】
導電性ダイヤモンドは、絶縁性ダイヤモンドと異なり、内部に空隙を有する比較的崩れ易い性質を有する放電表面処理用電極の内部においても、電極の導電性を阻害することなく、放電表面処理において好適に放電の起点となることができる。したがって、このような導電性ダイヤモンドが内部に分散された放電表面処理用電極は、放電箇所に偏りが少なく安定した放電を実現することができる。また、放電表面処理用電極は、内部に空隙を有しており、伝熱面積が小さく、熱が溜まり易い構造であるため、この電極に熱伝導率が高いダイヤモンドを用いることで、効率的にその周囲の電極構成物質に、放電により発生する熱を伝えることができる。これにより、本発明に係る放電表面処理用電極は、電極構成物質の被処理材料への効率的な移動を実現し、電極くずの発生を抑制することができる。
【0009】
また、例えば、本発明に係る放電表面処理用電極は、前記被処理材料に移動させる材料粒子をさらに含み、
前記導電性ダイヤモンド粒子は、不純物が添加されたダイヤモンドであり、前記導電性ダイヤモンド粒子が、前記材料粒子中に分散されていても良い。
【0010】
導電性のダイヤモンド粒子としては、いくつかのタイプが考えられるが、その一つとして、ホウ素等の不純物が添加されたダイヤモンドが挙げられる。このタイプの導電性ダイヤモンド粒子を含む放電表面処理用電極は、導電性ダイヤモンド粒子以外に、被処理材料に移動させる材料粒子を含む。導電性ダイヤモンド粒子は、電極表面処理時に放電の起点となり、安定した放電を実現するとともに、このような放電表面処理用電極は、内部に空隙を有しており、伝熱面積が小さく、熱が溜まり易い構造であっても、この電極に熱伝導率が高いダイヤモンドを用いることで、その周囲の電極構成物質に対して、放電で発生する熱を効率的に伝えることができる。
【0011】
また、例えば、前記導電性ダイヤモンド粒子は、ダイヤモンドと、当該ダイヤモンドの表面にコーティングされた導電性材料とを含んでも良い。
【0012】
導電性ダイヤモンド粒子の他の例としては、導電性を有しない通常のダイヤモンドの表面に、導電性材料をコーティングしたものが挙げられる。このような導電性ダイヤモンド粒子も、電極表面処理時に放電の起点となり、安定した放電を実現することができる。また、このような導電性ダイヤモンド粒子を用いた放電表面処理用電極は、ダイヤモンドにコーティングされた導電性材料を、放電表面処理の際に被処理材料に移動させ、被膜の材料とすることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る放電表面処理用電極を用いた表面処理の概要を表す概念図である。
【図2】図2は、放電表面処理用電極の微細構造を表す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、図面等を用いて本発明の一実施形態に係る放電表面処理用電極の説明を行う。
図1は、本発明の一実施形態に係る放電表面処理用電極10を用いた放電表面処理の概要を表す概念図である。放電表面処理では、加工液16中に設置した被処理材料18と放電表面処理用電極10の間に放電を発生させ、そのエネルギーにより、被処理材料18の表面に硬質被膜20を形成する。放電表面処理において形成される被膜20は、放電時に溶融等した放電表面処理用電極10の電極構成材料を用いて形成される。
【0015】
図2は、図1に示す放電表面処理用電極10の微細構造を表す概念図である。図2に示すように、放電表面処理用電極10は、材料粒子14と、材料粒子14中に分散された導電性ダイヤモンド粒子12を含む。放電表面処理用電極10における導電性ダイヤモンド粒子12の含有割合は特に限定されず、材料粒子14の材質や、放電処理によって被処理材料18表面に形成される被膜20の性質等に応じて調整されるが、例えば5%〜95%の範囲とすることができる。
【0016】
図2に示すように、材料粒子14及び導電性ダイヤモンド粒子12は、加圧成型等によって直接結合していても良いが、これらの粒子の間に、粒子の結合を媒介する他の金属粉末、樹脂又は炭素等が存在していても良い。また、電極が適度な強度を有していれば、電極内部の空隙はどのような形状でもよい。
【0017】
材料粒子14の少なくとも一部は、放電表面処理によって被処理材料18表面に移動され、被処理材料18表面の被膜20を構成する材料となる。材料粒子14の材質は、放電表面処理用電極10の放電表面処理によって被処理材料18表面に形成する被膜20に応じて選択され、特に限定されないが、例えば金属、金属化合物等が挙げられ、さらに具体的には、チタン(Ti)、チタン水素化物(TiH)、チタン炭化物(TiC)、チタンニッケル合金(TiN)、タングステンカーバイド、クロムカーバイド、コバルト、BN、B4C、ホウ化物、MoSi、酸化鉄、酸化亜鉛等が挙げられる。なお、被処理材料18表面に形成される被膜20の性質は、材料粒子14そのものだけでなく、放電条件、電極10の構成材料が放電エネルギーにより反応した物質、被処理材料18の材質の影響を受け得る。
【0018】
導電性ダイヤモンド粒子12は、導電性を付与したダイヤモンドの粒子であり、少なくとも不純物が添加されたダイヤモンドと、ダイヤモンドの表面に導電性材料をコーティングしたものが存在する。不純物が添加されたダイヤモンドとしては、ホウ素、リン、窒素等がドープされたダイヤモンドが挙げられ、高温高圧法や、マイクロ波プラズマCVD法によって製造される。不純物を含まない通常のダイヤモンドは絶縁体であるが、例えばホウ素をドープしたダイヤモンドは、ホウ素の添加量に応じて導電性を帯びる。
【0019】
ダイヤモンドの表面に導電性材料をコーティングするタイプの導電性ダイヤモンド粒子12は、例えば金属元素等の導電性材料を、ダイヤモンドの表面にコーティングしたものである。コーティングの方法やコーティングに使用される導電性材料は特に限定されず、コーティング後の粒子表面が、導電経路となるように処理されていれば良い。
【0020】
図1及び図2に示す放電表面処理用電極10の製造方法の一例を以下に示す。
放電表面処理用電極10の製造方法では、まず、原材料となる材料粒子14と導電性ダイヤモンド粒子12を準備する。材料粒子14は、ボールミル等によって粉砕して生成された粉体であってもよく、粉末が凝集した凝集体であっても良い。材料粒子14の粒径は特に限定されないが、例えば1〜100μm程度とすることができる。導電性ダイヤモンド粒子12の製造方法は、上述したとおりであり、その粒径は特に限定されないが、例えば0.1〜100μm程度とすることができる。
【0021】
次に、材料粒子14と導電性ダイヤモンド粒子12を混合し、電極材料の混合粉末を作製する。この際、例えば材料粒子14の結合力に応じて、軟性金属等を、結合材として添加しても良い。さらに、混合粉末を加圧成型したのち焼結し、放電表面処理用電極10を得る。
【0022】
図2に示すような導電性ダイヤモンド粒子12を含む放電表面処理用電極10は、放電処理時において、電極中に分散している導電性ダイヤモンド粒子12が放電の起点となり、偏りが少なく安定した放電を実現し、また、その高い熱伝導性により、放電により発生する熱を材料粒子14に効率的に伝えることができる。これにより、放電表面処理用電極10は、材料粒子14の被処理材料18への効率的な移動を実現し、単位電極消耗量に対する被処理材料18への膜形成量が増加するとともに、電極くずの発生を抑制することができる。
【0023】
ここで、放電表面処理用電極10に含まれる導電性ダイヤモンド粒子12は、絶縁性ではなく、導電性であることにより、このような顕著な効果を奏する。一般的に、放電表面処理用電極は、放電加工用電極とは異なり、その一部が被処理材料18表面に移動し、被処理材料18表面に新たな被膜20を付与することを予定しているため、放電加工用電極と比較して密ではなく、内部に空隙を有し、また被処理材料18に移動させるための材料が電極材料として選定されるため、電気伝導率が比較的低い材料が選定されることもあり、電気伝導率が低い電極も作成される可能性がある。このような放電表面処理用電極では、放電加工用電極と同様に絶縁性である通常のダイヤモンドを含んでいたとしても、当該部分での導電経路が十分に形成されないなどの問題に起因して、安定的な放電の起点となることが困難である。
【0024】
しかし、導電性ダイヤモンド粒子12を含む放電表面処理用電極10は、導電性ダイヤモンド粒子12が導電性を有しているために、放電表面処理における放電の起点となることができる。また、放電表面処理用電極は構成材料を被処理材料へと移動させるため、放電によって構成材料が崩れるが、従来の放電処理用電極は、特定の部分から放電されることにより電極構成材料が崩れた際に、次の放電の起点がランダムに発生するおそれがある。しかし、本実施形態に係る放電表面処理用電極10は、導電性ダイヤモンド粒子が存在することにより、被処理材料18に近い導電性ダイヤモンドが放電の起点となり、安定した放電を行うことができる。
【0025】
なお、導電性ダイヤモンド粒子12として、導電性材料をコーティングしたものを用いる場合は、放電表面処理用電極は、図2に示すような材料粒子14がなくても、コーティングされた導電性材料を被処理材料18に移動させて被膜20の材料とし、放電表面処理を実施することができる。
【符号の説明】
【0026】
10…放電表面処理用電極
12…導電性ダイヤモンド粒子
14…材料粒子
16・・・加工液
18・・・被処理材料
20・・・被膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理材料との間の放電により、電極構成材料の少なくとも一部を含む被膜を、前記被処理材料の表面に形成する放電表面処理用電極であって、
導電性ダイヤモンド粒子を含むことを特徴とする放電表面処理用電極。
【請求項2】
前記被処理材料に移動させる材料粒子をさらに含み、
前記導電性ダイヤモンド粒子は、不純物が添加されたダイヤモンドであり、前記導電性ダイヤモンド粒子が、前記材料粒子中に分散されていることを特徴とする請求項1に記載の放電表面処理用電極。
【請求項3】
前記導電性ダイヤモンド粒子は、ダイヤモンドと、当該ダイヤモンドの表面にコーティングされた導電性材料とを含むことを特徴とする請求項1に記載の放電表面処理用電極。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−95935(P2013−95935A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237302(P2011−237302)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000101879)イーグル工業株式会社 (119)
【Fターム(参考)】