説明

故紙格納袋

【課題】故紙の散逸を防止するために格納袋から取り出すことなく、袋保管した状態にて離解機へ投入することができる故紙格納袋を提供する。
【解決手段】セキュリティ製品の抄造に用いられる故紙4と称する試料片群を格納する故紙格納袋1について、特に故紙格納袋1は、少なくとも水溶性フィルムからなる内包袋2と、木材繊維及び/又は合成繊維からなる外包袋3とから構成される。また、内包袋2は、ポリビニルアルコールフィルム、ポリビニルピロリドンフィルム、水溶性多糖類フィルム及び水溶性セルロース誘導体フィルムの群から選択される材料により構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に製紙工場の離解機において、試料片である故紙を離解するまでの工程における故紙の散逸防止に関するものであり、特に水溶性フィルムを内包袋として有する故紙格納袋に関する。
【背景技術】
【0002】
諸証券用紙等セキュリティ性の高い製品は、紛失や散逸が発生しないよう厳重に工程管理されている。こうした管理は正紙のみならず、製品規格上不合格とされ、損紙扱いとなった用紙や精裁後の裁断屑についても、貴重故紙として厳重に管理されている。
【0003】
このようなセキュリティ性の高い貴重製品を扱う生産工場では、発生した損紙や裁断屑といった故紙は、およそ布袋に詰めた後、袋の口を紐で結束し、当該袋の重量を計量後、各工場において厳重に管理された倉庫に一時的に保管される。その後、再利用のため、製紙工場に袋詰の状態で搬送され、離解機において離解することにより原形を留めない状態とした後、脱インキ、脱鉄及び脱砂などの異物除去や離解促進薬品の除去等を行う精選工程を経て再パルプ化される。こうして処理されたパルプは、試料として再び各種用紙の原材料として利用される。
【0004】
ここで、故紙が離解機に投入される工程について、図7を用いて説明する。一般に、故紙(4)は、直接、離解機(11)に投入することはなく、一旦、格納袋(6)から取り出して、異物混入の確認を行った後、離解機(11)上部に存する投入口(12)にベルトコンベア(10)を利用し移動させて投入される。そのため、故紙(4)が離解機(11)に投入されるまでの間で一部の故紙(4’)が散逸していた。
【0005】
また、故紙をベルトコンベアにて離解機に投入するような現在の一般的な生産方式を用いた場合、離解機内の上部又は側面に、セキュリティ製品と判別できる程度に原形を残した故紙が、残留物として付着することがあり、時に排水と一緒に工場管理区域外へ流出し、セキュリティ性が喪失することが危惧されていた。
【0006】
前述した問題を解決するために、容器であって、容器の本体を規定し分配用開口を有する中空の外殻と、外殻の内側に設けられる袋又はライナとを備え、袋の開口端が外殻の分配用開口を通って延び、外殻の外側に対して固定され、中空の外殻がリサイクルされた材料及び/又は生分解性の材料から形成される容器を用いる技術があった。(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2009−518245号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述した先行技術である特許文献1の技術を用いた場合、分配用開口を有し本体を規定する中空の外殻と、外殻の内側の袋とを有する容器であって、該袋は、分離した処分を可能とするために容器の主本体から分離することができる。また、該容器は、容器の内容物が通って分配されるべき流れ口を形成すること及び容器を密封するニップを作り出すために流れ口を折り畳むことによって密封できる特徴を有しており、製紙用の試料格納袋としても利用することが可能である。
【0009】
しかしながら、特許文献1の容器を、製紙用の故紙格納袋として利用した場合、木材又は製紙用パルプなど生分解性の材料から形成すれば、工程に存する離解機において完全に溶解することは可能であるが、インキ成分や鉄成分が含まれる可能性のある故紙である場合、格納袋を非磁性体とし、且つ、透明又は半透明とすることが極めて有用であり、前述した生分解性の材料では成形することができない。更に、生分解性の材料を用いた場合、離解機以降の工程において精選除去することも困難であり、必ずしも先行技術を利用することはできない。
【0010】
本発明は、前述した従来の問題点を解決するために創案したものであり、本発明の主たる目的は、故紙が製紙工場や印刷工場にて発生してから再利用のため製紙工場の離解機で離解するまでの工程間における故紙の散逸防止を充足する故紙格納袋を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前述の課題を解決するため、本発明の故紙格納袋は、セキュリティ製品の抄造に用いられる故紙と称する試料片群を格納する故紙格納袋について、前記故紙格納袋は、少なくとも水溶性フィルムからなる内包袋と、木材繊維及び/又は合成繊維からなる外包袋とから構成されることを特徴としている。
【0012】
また、本発明の故紙格納袋における内包袋は、透明又は半透明であることを特徴としている。
【0013】
また、本発明の故紙格納袋における内包袋は、非通油性フィルムであり、且つ、ポリビニルアルコールフィルム、ポリビニルピロリドンフィルム、水溶性多糖類フィルム及び水溶性セルロース誘導体フィルムの群から選択される材料により構成されることを特徴としている。
【0014】
また、本発明の故紙格納袋における内包袋及び外包袋は、それぞれ密閉できることを特徴としている。
【0015】
また、本発明の故紙格納袋における内包袋又は外包袋は、内包袋の表面又は外包袋の内面に低摩擦材料を塗布していることを特徴としている。
【0016】
また、本発明の故紙格納袋における内包袋は、略円柱又は略逆円錐台のいずれかの形状であることを特徴としている。
【0017】
さらに、本発明の故紙格納袋における外包袋は、少なくとも前面に窓部を形成していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
本発明の故紙格納袋は、透明又は半透明の水溶性フィルムを内包袋として装備しており、その内包袋に故紙を詰めているため、離解機に投入する前に故紙に混在している畏れのある異物を内包袋の外側から容易に確認することができる。その結果、故紙を格納袋から一々取り出す必要がなくなることから、従前のように故紙が原形を留めた状態で散逸することはない。また、内包袋は水溶性フィルムであることから、離解機内で容易に溶解することができ、離解後の精選工程において完全に除去されるために、製造した用紙品質に与える影響は全くなく、故紙格納袋における内包袋を使用した場合においても製品品質の保全が実現できるという効果を奏する。
【0019】
また、本発明の故紙格納袋は、内包袋ごと離解機に投入することが可能となることから、従来に比して故紙投入に費やす時間が大幅に短縮できる。また、ベルトコンベアに散逸した故紙の点検作業及び回収作業が不要となることから、オペレータの作業負荷の低減及び生産機械の稼働率の向上が図れるという効果を奏する。
【0020】
また、本発明の故紙格納袋を用いることで、従来の離解工程において発生が顕著であった故紙の散逸防止に費やしていた人的コスト及び設備投資におけるコストを大幅に抑制することができ、工程コストの低廉化に寄与できるという効果を奏する。
【0021】
さらに、本発明の故紙格納袋を用いることで、上述した課題における全ての問題点が解消されるとともに、従前必須であったオペレータによる離解機内における残留故紙の確認作業が不要となることから、該作業に従事するオペレータの安全性をより充実させることが可能となるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明における故紙格納袋の一例を示す概略図である。
【図2】本発明における別形態の故紙格納袋の一例を示す概略図である。
【図3】本発明における内包袋の一例を示す概略図である。
【図4】本発明における外包袋の一例を示す概略図である。
【図5】本発明の故紙格納袋を利用した離解工程の一部を示す概略図である。
【図6】従来の一般的な格納袋の一例を示す概略図である。
【図7】従来の離解工程の一部を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1乃至図7に基づき、この発明の実施の形態を詳細に説明する。まず、図1は本発明における故紙格納袋の一例を示す概略図である。また、図2は本発明における別形態の故紙格納袋の一例を示す概略図である。また、図3は本発明における内包袋の一例、図4は本発明における外包袋の一例を夫々示す概略図である。また、図5は本発明の故紙格納袋を利用した離解工程における一部の概略図である。また、図6は従来の一般的な格納袋の一例を示す概略図である。さらに、図7は従来の離解工程の一部を示す概略図である。
【0024】
本発明の実施の形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、当然、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内であれば、その他いろいろな実施の形態が含まれる。
【0025】
最初に、一般的な格納袋について説明する。図6に示すように一般的な格納袋(6)は、分配用開口を有し本体を規定する中空の外殻(7)と、外殻の内側の袋(8)とを有しており、格納袋(6)は、分離した処分を可能とするために格納袋の主本体から分離できる態様である。また、その材質としては、木材又は製紙用パルプなど生分解性の材料から形成されている。ここで、当該格納袋(6)は、生分解性の材料から形成されているので、透明化又は半透明化することが極めて困難であるとともに、格納袋ごと溶解した場合に、不純物として残留してしまうことから有用でない。
【0026】
次に、故紙を離解機に投入するまでの一般的な離解工程について図7を用いて説明する。印刷工場や製紙工場の裁断工程、抄造工程等にて発生した損紙や裁断屑などの故紙は一般的な布製の格納袋(6’)に格納され、離解工程に搬入されてくる。その後、作業者は、故紙に異物が混入していないかを確認した後、離解機に投入する必要があることから、一旦、格納袋(6’)から故紙(4)を取り出し、離解機(11)に存する投入口(12)へ繋がったベルトコンベア(10)上に載置させ、当該ベルトコンベア(10)を稼働させることで、故紙(4)を離解機(11)に投入されていた。この工程において、時にベルトコンベア(10)上から一部の故紙(4’)が散逸する場合があった。
【0027】
一方、本発明の故紙格納袋について、図1を用いて詳細に説明する。本発明の故紙格納袋(1)は、外包袋(3)とその内側に存する内包袋(2)の少なくとも2重構造にて構成されており、外包袋(3)は、木材繊維や合成繊維から形成され、また、内包袋(2)は水溶性フィルムから形成されている。この内包袋(2)の内部に故紙(4)が存することになる。なお、故紙格納袋(1)の態様として、外包袋(3)と内包袋(2)の間に別途包袋(図示せず)を設けた態様とする場合もある。
【0028】
また、本発明の故紙格納袋(1)における内包袋(2)は、透明又は半透明とする場合もある。また、内包袋(2)を非通油性フィルムにて作製する場合もあり、例えば、ポリビニルアルコールフィルム、ポリビニルピロリドンフィルム、水溶性多糖類フィルム及び水溶性セルロース誘導体フィルムの群から選択される材料により作製する。さらに、故紙格納袋(1)における内包袋(2)、外包袋(3)ともに開孔口を密閉することも可能である。
【0029】
次に、本発明の故紙格納袋(1)の別形態の態様として、図2に示すように、故紙格納袋(1)における内包袋(2)を外包袋(3)から取り出しやすいように、内包袋(2)の表面に摩擦抵抗を抑制するために低摩擦材料である、例えばシリコーン(9)を塗布する場合もある。当然、外包袋(3)の内面に低摩擦材料を塗布する場合もある。また、同様の目的で内包袋(2)の態様を図3(a)に示すように略円柱(2)、又は図3(b)に示すように略逆円錐台(2’)とする場合もある。
【0030】
また、本発明の故紙格納袋(1)における外包袋(3)は、図4に示すように袋の前面のいずれかの箇所に窓部(5)を形成する場合がある。当該窓部(5)は、例えば、透明フィルムにて形成しており、内部に存する内包袋(2)の状態を観察するために役立つ。
【0031】
次に、本発明の故紙格納袋(1)を利用して、故紙を離解機に投入するまでの離解工程について図5を用いて説明する。先述したように印刷工場や製紙工場の裁断工程、抄造工程等にて発生した損紙や裁断屑などの故紙は故紙格納袋(1)に格納され、離解工程に搬入されてくる。その後、作業者は、故紙格納袋(1)から故紙(4)が格納された内包袋(2)を取り出し、開孔口を開けること無しにそのまま密閉された状態にて、離解機(11)に存する投入口(12)へ繋がったベルトコンベア(10)上に載置させ、当該ベルトコンベア(10)を稼働させることで、故紙(4)を離解機(11)に投入させ、離解処理を行う。この時、内包袋(2)は、水溶性フィルムから形成されており、離解機(11)内に存する水溶液(図示せず)と接触した際に溶解することになる。
【実施例】
【0032】
本発明における実施の例示について図面を参酌しながら詳細に説明する。まず、図1に示すような合成繊維にて形成された外包袋(3)に、水溶性ポリビニルアルコールフィルム(以下、「PVAフィルム」という。)にて形成された内包袋(2)を内在させた故紙格納袋(1)を用いて、印刷工場や製紙工場といった生産工場において発生した故紙(4)約50kgを故紙格納袋(1)1袋に格納した。この時、内包袋は図3(b)に示すように略逆円錐台形状の態様のものを用いた。また、外包袋(3)は、前面の一部に透明フィルムにて作製された窓部(5)を配した態様のものを用いた。そして、故紙(1)を密充させた故紙格納袋(1)を合計50袋準備し、約70℃の温水9,000Lと水酸化ナトリウム約5kgを撹拌した水溶液を有する離解機(11)へ投入させ、離解処理を行い、その後、精選工程等を経てパルプ化させた例示について説明する。
【0033】
最初に、本発明の主要素である故紙格納袋(1)について更に詳細に説明する。一方の内包袋(2)の態様としては、透明の水溶性フィルムである完全ケン化型ポリビニルアルコール(クラリアVF−S;クラレ社製)を用いており、フィルムの膜厚は25μmであり、上底面の直径1,000mm、下底面の直径900mm、高さ1,400mmの略逆円錐台形状となるように袋の周囲を熱圧着して作製した。また、他方の外包袋(3)の態様としては、合成繊維製であり、横幅1,000mm、縦幅1,400mmとした形状である。なお、内包袋(2)及び外包袋(3)ともに袋口が密閉できる態様である。
【0034】
まず、図5に示すとおり、故紙格納袋(1)から故紙(4)が格納されたPVAフィルム製の内包袋(2)ごと取り出し、ベルトコンベア(10)上に載置させ、当該ベルトコンベア(10)を稼働させることで、離解機(11)へ投入した結果、ベルトコンベア(10)近傍において故紙(4)の散逸は全くなかった。これは、従前のようにベルトコンベア(10)へ直接、故紙(4)を載置させていた際に発生が顕著であったベルトコンベア(10)近傍への故紙(4’)の散逸と比して、十分効果を有することを確認した。
【0035】
また、約40分経過後の離解機(11)の内部を目視にて確認した結果、離解できていない故紙は存在していなかった。さらに、精選工程を通過した後、故紙懸濁液中のPVA濃度を測定したところ、PVAフィルムを使用しない故紙懸濁液と略程度であり、精選工程においてPVAフィルムがおよそ除去されることを確認した。
【0036】
また、図2に示すように、表面に低摩擦材料であるシリコーン(9)を塗布した内包袋(2)を用いた結果についても確認した。これにより、故紙格納袋(1)における外包袋(3)から内包袋(2)が容易に分離できることを確認した。その他の工程における例示については、前述の実施例と略同様であるので詳細の説明は省略する。
【0037】
なお、本実施例では内包袋(2)の材質として、PVAフィルムについて説明してきたが、その他、ポリビニルピロリドンフィルム、水溶性多糖類フィルム及び水溶性セルロース誘導体フィルムを用いた場合についても確認したが、同様に良好な結果を得ることが可能であった。
【符号の説明】
【0038】
1、1’ 故紙格納袋
2、2’ 内包袋
3 外包袋
4、4’ 故紙
5 窓部
6、6’ 一般的な格納袋(容器)
7 外殻
8 内側の袋
9 低摩擦材料
10 ベルトコンベア
11 離解機
12 投入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セキュリティ製品の抄造に用いられる故紙と称する試料片群を格納する故紙格納袋について、前記故紙格納袋は、少なくとも水溶性フィルムからなる内包袋と、木材繊維及び/又は合成繊維からなる外包袋とから構成されることを特徴とする故紙格納袋。
【請求項2】
前記内包袋は、透明又は半透明であることを特徴とする請求項1記載の故紙格納袋。
【請求項3】
前記内包袋は、非通油性フィルムであり、且つ、ポリビニルアルコールフィルム、ポリビニルピロリドンフィルム、水溶性多糖類フィルム及び水溶性セルロース誘導体フィルムの群から選択される材料により構成されることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の故紙格納袋。
【請求項4】
前記内包袋及び前記外包袋は、それぞれ密閉できることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の故紙格納袋。
【請求項5】
前記内包袋又は前記外包袋は、内包袋の表面又は外包袋の内面に低摩擦材料を塗布していることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の故紙格納袋。
【請求項6】
前記内包袋は、略円柱又は略逆円錐台のいずれかの形状であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の故紙格納袋。
【請求項7】
前記外包袋は、少なくとも前面に窓部を形成していることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の故紙格納袋。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−126401(P2012−126401A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276662(P2010−276662)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】