説明

故障装置特定システム

【課題】地上子の自己診断結果の出力がオンオフ信号であっても直列接続の抵抗回路を診断結果伝送用信号線として利用することで少数の信号線でも故障地上子を特定可能に診断結果を伝送しうる故障装置特定システムを実現する。
【解決手段】それぞれ抵抗R1〜R3の何れかに並列接続されていて地上子30の何れかの自己診断結果に応じて導通状態か遮断状態になる短絡擬制リレーNRM1〜NRM3を設け、抵抗回路R1+R2+R3の通電に係る電圧(24V)と電流に基づいて地上子30の故障有無を判定するとともに故障判定時には故障地上子を特定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数の自己診断結果出力装置のうち何れが故障したのかを特定する故障装置特定システムに関し、詳しくは、各装置に対応した複数の抵抗を直列接続した抵抗回路を利用することで少数の信号線でも故障装置を特定可能に診断結果を伝送しうる故障装置特定システムに関する。特に、本発明は、鉄道線路の軌道に設置されるATS−P地上子であって自装置内の回路等の故障を検知するようになった故障検知機能付きATS−P地上子を対象として故障装置を特定するのに好適な故障装置特定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道各社で、運転保安度の向上のため、ATS−Pシステムの導入が多くなっている。例えば東日本旅客鉄道株式会社の場合、首都圏の高密度線区には符号処理器(EC)と中継器(RP)と有電源地上子を組み合わせたシステムを設備している。このシステムでは符号処理器(EC)にフェールセーフコンピュータを用いており、符号処理器(EC)自体の故障診断の他に情報回線を介したFSK信号での電文の送受信で中継器(RP)や有電源地上子の故障検知ができる。この故障情報は信号指令センターの保全区所等に出力されている。本システムは、設備費の高いのが難点であるが、列車から列車番号や減速度などの情報を3.0MHzの情報波で受信できるため、運行管理や踏切制御にも利用されている(例えば非特許文献1参照)。ここでは、そのようなシステムATS−PI〜ATS−PIV(N)を中継器故障検出機能付きATS−Pシステムと呼ぶことにする。
【0003】
図4(a)は、従来の中継器故障検出機能付きATS−Pシステムの構造を示す概要ブロック図である。なお、中継器は地上子と一体化されることもあるが、ここでは別体とする。このような中継器故障検出機能付きATS−Pシステムは、鉄道線路の軌道11を走行する列車12に搭載されている車上装置と、地上側に設置されている中継器故障検出機能付きATS−P地上装置とからなる。地上装置は、信号機13及び器具箱14(信号機器具箱)に対応して設けられ、軌道11に沿って設置されている。このATS−P地上装置は、一台の符号処理器と、一組または複数組の中継器および地上子とからなり、符号処理器は、中継器に電力DC135V(ATS−PIVの場合、ATS−PI〜ATS−PIIIではAC100V)を供給するとともに、FSK(周波数シフトキーイング)方式の通信で中継器と交信するようになっている。中継器と地上子は、一対一で組にされ、信号機13から適宜な離隔位置に設置されている。
【0004】
そして、符号処理器が器具箱14からリレー信号にて信号機現示GR,YRを入力してその現示情報や信号機13までの距離情報などを中継器へ送り、その情報を中継器が地上子を介して1.7MHzの電波で送信するので、そこへ走行して来た列車12の車上装置が速度照査パターンPの発生に役立つ情報を受信して列車停止制御を行う。
また、各地上子が正常か否かはフェールセーフな符号処理器が中継器へ電文を送受信して判定するようになっているので、個々の地上子が自己診断を行う必要がなく自己診断結果を出力する必要もない。そのため、それぞれの地上子から符号処理器へ自己診断結果を知らせる信号線(回線)を敷設する必要もない。
【0005】
一方、首都圏の高密度線区以外の線区では、符号処理器や中継器が不要で経済性が高いATS−P地上子であるATS−P(N)地上子を用いたシステムが設備されている。ATS−P(N)地上子は、列車から245kHzの電力波を受信したときのみ、信号機の現示に対応した電文を列車に送信する、という無電源地上子である(例えば非特許文献2参照)。電文照査に基づいて地上子自体の要部の故障検知(自己診断)を行うようになった電文照査機能付地上子もあるが(例えば特許文献1参照)、電力波を受信したときのみ動作する機器であるため、検知結果の保全区所などへの出力はない。上述した符号処理器や有電源地上子を具備する中継器故障検出機能付きATS−P地上装置に比べて、ATS−P(N)地上子は設備費用が半分以下である。ここでは、そのような電文照査機能付地上子を電文照査機能付きATS−P(N)地上子と呼ぶことにする。
【0006】
図4(b),(c)は、従来の電文照査機能付きATS−P(N)地上子20の構造を示し、(b)がATS−P(N)システムの地上設備の概要ブロック図、(c)が電文照査機能付きATS−P(N)地上子20のブロック図である。
ATS−P(N)システムも(図4(b)参照)、鉄道線路の軌道11を走行する列車12に搭載されている車上装置と、地上側に設置されているATS−P(N)地上装置とからなるが、地上装置には符号処理器や中継器が無く、器具箱14とケーブルで接続されてリレー信号伝送可能になっているATS−P(N)地上子が軌道11に沿って地上側に設置されている。
【0007】
ATS−P(N)地上子も、信号機13に対応して一台か複数台が設けられ、複数台の場合は信号機13から適宜な離隔位置に分散配置されて(図4(b)では3個の地上子20,20,20を例示)、器具箱14から直接リレー信号にて信号機現示GR,YRを入力し、その現示情報や信号機13までの距離情報などを1.7MHzの電波で送信するようになっている。また、ATS−P(N)地上子は無電源地上子になっており、そこへ走行して来た列車12の車上装置から245kHzの電力波が届くと、それを受信して動作電力を発生するようになっている。そして、列車12が軌道11を走行して例えば地上子20に接近すると、地上子20は、245kHzの電力波から電力を得て、信号機現示GR,YRの入力と情報の電波送信とを行う。そのため、車上装置から地上装置への情報伝達が不要な路線では、ATS−S地上子と同じ感覚で使用されている。
【0008】
電文照査機能付きATS−P(N)地上子20は、そのような基本構成のATS−P(N)地上子に故障検知機能を付加したものであり、具体的には(図4(c)参照)、信号機現示GR,YRに基づき信号機13の現示がG現示かY現示かR現示かを判別して対応する送信用電文Maを電文ROMから読み出して生成するとともに同一内容の非送信電文Mcを別の電文ROMから読み出して生成する電文生成手段と、それら複数の電文ROMから出力される2つの同一の電文同士Ma,Mbを照合する照合回路21と、1.7MHzの電波に適合した上述の変調回路及び送信コイルと、照合一致時には送信用電文Maを変調回路にて車上へ送出するのを許容するが、照合不一致時には電文送出を変調回路に禁止させる故障処理回路とを具えている。また、地上子20は、無電源化のために、245kHzの電波の受信に適合した受信コイルと、その受信信号から整流等で動作電力を発生させて各部へ供給する電源回路も、具えている。
【0009】
このような電文照査機能付きATS−P(N)地上子20にあっては、複数の電文ROMから同一内容の電文を多重に生成して、一方は送信の対象になる送信用電文Maにするが他方は送信の対象にならない非送信電文Mcとしたうえで、それらの送信用電文Maと非送信電文Mcとの照合を照合回路21で行うことにより、自装置の故障とりわけ電文記憶部の故障を検知(自己診断)することができるようになっている。そのため、コストの嵩むフェールセーフコンピュータを用いないでも、自装置の故障を検知する機能が実現できるので、簡便かつ安価に安全性が確保されるが、個々の地上子が行った自己診断結果を器具箱14へ出力するようにはなっていなかったため、故障情報などの診断結果を器具箱経由で信号指令センターに収集することもできなかった。
【0010】
これに対し、電文記憶部ばかりか送信部まで故障を検知しうる故障検知機能付きATS−P地上子であって簡素なものも案出されている(特許文献2参照)。図5(a)は、そのような地上子30を1台だけ設置した地上設備の概要ブロック図、図5(b)は、地上子30を3台設置して複数並設した地上設備の概要ブロック図である。
地上子30は(図5(a)参照)、何れも、送信用電文Maの送信電波を受信して受信電文Mbを得るとともに、その受信電文Mbと非送信電文Mcとを照合回路31で比較することにより、電文記憶部ばかりか送信部まで故障を検知できるものとなっている。
【0011】
また、その検知結果(自己診断結果)を出力回路32にてリレーNRM1を駆動しうるリレー信号(リレー駆動信号)にしてから器具箱14へ送出するようになっている。
さらに、器具箱14から電力供給を受けて各部の動作電力を生成する電源回路を具備して有電源地上子となっているので、自己診断も診断結果出力も常に行うことができる。
リレーNRM1は器具箱14に設けられるところ、器具箱14には定常状態監視装置15が標準設置されており、定常状態監視装置15は、リレーNRM1などの出力するリレー信号(リレー接点信号)を入力して収集し、その情報を通信にて外部の信号指令センターの保全区所などへ送信するようになっている。
【0012】
そのような器具箱14に複数の例えば3台の地上子30が接続されている場合(図5(b)参照)、それぞれの地上子30から自己診断結果がリレー駆動信号で器具箱14に送られてくるので、器具箱14には各地上子30からのリレー駆動信号で駆動される合計3個のリレーNRM1,NRM2,NRM3が設けられ、それらのリレー接点信号が定常状態監視装置15に入力されることとなる。このような謂わば診断結果出力機能付きATS−Pシステムにあっては、地上子30が正常か否かを個々の地上子30について信号指令センターで把握することができる代わり、地上子30と器具箱14とを繋ぐリレー信号伝送可能な診断結果伝送用信号線33,33,33をそれぞれの地上子30,30,30毎に敷設することが必要である。
【0013】
もっとも(図5(c)参照)、そのような診断結果伝送用信号線33を共用化・少数化することは可能であり、例えば、リレーNRM1,NRM2,NRM3を器具箱14から地上子30,30,30かその直近の接続箱へ一つずつ移して分散設置したうえで、それらのリレー接点を直列接続の形で共通の診断結果伝送用信号線34に介挿するのが、安直である。ただし、この場合、診断結果の伝送中に、正常状態を正とする論理で見れば論理積がとられ、故障状態を正とする論理で見れば論理和がとられるので、その論理演算結果を入力する器具箱14の定常状態監視装置15では、総ての地上子30が正常であることと、何れかの地上子30が故障していることは判別できても、故障と判別したとき更に故障した地上子30がどれなのかを特定することまではできない。
【0014】
なお、同じ鉄道分野で軌道回路の故障検出技術を見ると(特許文献3,4参照)、二端子間の電圧と電流を測定してその二端子の先のレールや信号線における断線や短絡などの故障部位を特定するようになったケーブル混触検知装置や軌道回路故障部位特定装置が開発されている。この手法では、抵抗網内の抵抗値変化が二端子間の測定値に対し変化部位によって量の異なる変化を引き起こすことに基づいて故障部位が判別されるので、抵抗網をなしているレールや信号線が実際に断線や短絡あるいはそれに近い故障状態にならなければ故障部位を特定することができない。
【0015】
さらに、異分野まで範囲を広げて見ると、伝送回線上に複数の信号発信器を接続したマルチドロップ配線システムにおいて回線の断線個所や故障機器を特定する手法が知られている(例えば特許文献5参照)。この手法では(図6参照)、信号線に対する装置Devの接続点と他の装置Devの接続点との間に、一つずつ、値の異なる抵抗Rb〜Rdを介挿させて、複数の抵抗を直列接続した抵抗回路を信号発信器接続先の伝送回線に組み込み、この抵抗回路を利用することで少数の信号線でも故障装置を特定できるようになっているが、抵抗Ra〜Rdの断線や短絡に応じて検知がなされるものでなく、各々の装置Devが伝送回線に一定値の直流電流を出力することで検知が可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2001−199335号公報
【特許文献2】特願2011−008299号
【特許文献3】特開2005−199838号公報
【特許文献4】特願2010−079641号
【特許文献5】特開2004−061448号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】鉄道電気技術者のための信号概論「ATS・ATC」51−73頁 社団法人 日本鉄道電気技術協会 平成17年6月28日 改訂版2刷発行
【非特許文献2】鉄道電気技術者のための信号概論「ATS・ATC」73−74頁 社団法人 日本鉄道電気技術協会 平成17年6月28日 改訂版2刷発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
このような状況の下で、検知結果を出力するようになった故障検知機能付きATS−P地上子などの自己診断結果出力装置を対象として、装置台数より診断結果伝送用信号線の本数を少なくしても、故障装置を特定できるようにするには、各装置に対応した複数の抵抗を直列接続した抵抗回路を導入して、それを診断結果伝送用信号線に組み込んでおき、その抵抗回路の抵抗値変化に基づいて故障装置を特定するのが良いと思われる。
【0019】
しかしながら、上述したようにATS−P地上子は検知結果をリレー信号で出力するようになっており、リレー信号は、リレー接点信号であればリレー接点の開閉状態がそのまま信号になる開閉対応のオンオフ信号であり、リレー駆動信号であれば例えば24Vや100Vといった所定電圧の給電を受けて信号状態として所定電圧と無電圧とのうち何れか一方の電圧値をとることでリレー接点を開閉させるのでやはり開閉対応のオンオフ信号であり、このような開閉対応の二値状態を示すオンオフ信号は、リレー接点やスイッチといった電路開閉部材の駆動や制御には単独使用できて使い易いが、電流制御には不向きであり電流制御に敢えて使用する場合は定電流回路等を付加することが必要である。
【0020】
このため、複数の装置がそれぞれ出力について定電流制御を行うことが肝要な上述のマルチドロップ配線故障検知手法は、そのまま導入するには適さない。
また、抵抗素子そのものを切ったり繋いだりするのも無理なので、上述したケーブル混触検知手法や軌道回路故障部位特定手法も、そのまま導入することはできない。
そこで、複数の自己診断結果出力装置が自己診断結果をオンオフ信号で出力するものであっても各装置に対応させた抵抗を直列接続した抵抗回路を診断結果伝送用信号線として利用することで少数の信号線でも故障装置を特定可能に診断結果を伝送しうる故障装置特定システムを実現することが技術的な課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の故障装置特定システムは(解決手段1)、このような課題を解決するために創案されたものであり、それぞれ自己の状態が正常か故障かを調べて自己診断結果をオンオフ信号で出力する複数の自己診断結果出力装置と、値の異なる複数の抵抗を直列に接続した抵抗回路と、それぞれ前記抵抗の何れかに並列接続されていて前記自己診断結果出力装置の何れかの自己診断結果に応じて導通状態か遮断状態になる複数の短絡擬制回路と、前記抵抗回路に通電する通電回路と、その通電に係る電圧と電流に基づいて前記自己診断結果出力装置に係る故障の有無を判定するとともに故障判定時には故障装置を特定する判定手段とを備えている。
【0022】
また、本発明の故障装置特定システムは(解決手段2)、上記解決手段1の故障装置特定システムであって、前記自己診断結果出力装置が自己診断結果をリレー(短絡擬制リレー)で出力するものであり、前記短絡擬制回路が導通遮断の状態切替を前記リレー(短絡擬制リレー)のリレー接点で行うものであることを特徴とする。
【0023】
さらに、本発明の故障装置特定システムは(解決手段3)、上記解決手段1,2の故障装置特定システムであって、前記判定手段が、前記通電回路の通電状態に対応した電圧にて抵抗経由で駆動される判別用リレーを複数具備していて判定及び特定の結果をリレー信号で出力するようになっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
このような本発明の故障装置特定システムにあっては(解決手段1)、診断結果伝送用信号線の本数が少なくても済むよう、自己診断結果出力装置と短絡擬制回路と抵抗とが一つずつ対応づけられたうえで、各装置に対応させた抵抗を直列接続した抵抗回路が共通の診断結果伝送用信号線として利用されるが、短絡擬制回路が導通状態か遮断状態か何れかになる電路開閉形のものなので、自己診断結果が開閉対応のオンオフ信号であっても、定電流回路等は不要で、上記の対応づけが簡便に具現化される。
【0025】
そして、対応する自己診断結果出力装置と短絡擬制回路と抵抗とについて、自己診断結果が故障のときには、短絡擬制回路が遮断状態になるので、抵抗が断線も短絡もしていない状態で抵抗回路の抵抗値の積み上げに参加するが、自己診断結果が正常のときには、短絡擬制回路が導通するので、抵抗が短絡したのと同等の状態が擬似的に作り出されて、抵抗が抵抗回路の抵抗値の積み上げから外れることとなる。
あるいは、対応する自己診断結果出力装置と短絡擬制回路と抵抗とについて、自己診断結果が正常のときには、短絡擬制回路が遮断状態になるので、抵抗が断線も短絡もしていない状態で抵抗回路の抵抗値の積み上げに参加するが、自己診断結果が故障のときには、短絡擬制回路が導通するので、抵抗が短絡したのと同等の状態が擬似的に作り出されて、抵抗が抵抗回路の抵抗値の積み上げから外れることとなる。
【0026】
このように各自己診断結果出力装置の正常故障状態または故障正常状態に各抵抗の導通短絡状態を対応させる擬制がなされるようにしたことにより、判定手段からは恰も抵抗そのものが変化したかのように見倣せることになるため、抵抗回路の全抵抗の変化に基づく判定手法が有効となり、既述した従来の故障部位特定手法やそれに準じた簡便な手法で判定手段を具現化することも可能となる。
したがって、この発明によれば、複数の自己診断結果出力装置が自己診断結果をオンオフ信号で出力するものであっても各装置に対応させた抵抗を直列接続した抵抗回路を診断結果伝送用信号線として利用することで少数の信号線でも故障装置を特定可能に診断結果を伝送しうる故障装置特定システムを実現することができる。
【0027】
また、本発明の故障装置特定システムにあっては(解決手段2)、自己診断結果出力装置の自己診断結果を出力するリレーの接点で短絡擬制回路が構成されるようにしたことにより、厳しい環境下の鉄道沿線に設置される信号保安設備との相性が良いうえ、不所望な回路規模の増大を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施例1について、三現示情報切替形の故障検知機能付きATS−P地上子を自己診断結果出力装置とする故障装置特定システムのブロック図である。
【図2】(a)が通電回路の回路図、(b)が判定基準の表である。
【図3】本発明の実施例2について、リレーを利用した判定手段の具体例を示す回路図である。
【図4】(a)が従来の中継器故障検出機能付きATS−Pシステムの地上設備の概要ブロック図、(b)が従来の電文照査機能付きATS−P(N)システムの地上設備の概要ブロック図、(c)が従来の三現示情報切替形の電文照査機能付きATS−P(N)地上子のブロック図である。
【図5】(a)が三現示情報切替形の故障検知機能付きATS−P地上子のブロック図、(b)が直截的な故障装置特定システムのブロック図、(c)が直截的な診断結果伝送用信号線共用化回路のブロック図である。
【図6】公知になっている故障機器特定可能なマルチドロップ配線システムのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
このような本発明の故障装置特定システムについて、これを実施するための具体的な形態を、以下の実施例1〜2により説明する。
図1〜2に示した実施例1は、上述した解決手段1〜2(出願当初の請求項1〜2)を具現化したものであり、図3に示した実施例2は、上述した解決手段3(出願当初の請求項3)を具現化したものである。
なお、それらの図示に際しては、簡明化等のため、機械的構造や,電気回路の詳細,電子回路の詳細などは図示を割愛し、発明の説明に必要なものや関連するものを中心にブロック図で示した。
さらに、それらの図示に際し従来と同様の構成要素には同一の符号を付して示したので、また、それらについて背景技術の欄で述べたことは以下の各実施例についても共通するので、重複する再度の説明は割愛し、以下、従来との相違点を中心に説明する。
【実施例1】
【0030】
本発明の故障装置特定システムの実施例1について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。図1は、三現示情報切替形の故障検知機能付きATS−P地上子30を自己診断結果出力装置とするシステムのブロック図であり、図2は、(a)が通電回路36と抵抗回路R1+R2+R3+R4の回路図、(b)が判定基準の表である。
この故障装置特定システムは(図1参照)、軌道11に沿って分散設置された器具箱14と複数の地上子30(図1では3個だけ図示したが4個目も存在する)とを具えている点で、既述した従来システムを踏襲しているが、以下の点で従来システムと相違する。
【0031】
この故障装置特定システムが従来と相違する主な点は、診断結果伝送用信号線の共通化のために、個別の診断結果伝送用信号線33を介して駆動されるリレーNRM1〜NRM4が短絡擬制リレー(短絡擬制回路)になって夫々地上子30の直近の接続箱35に移設された点と、抵抗値の異なる複数の抵抗R1〜R4を直列に接続した抵抗回路R1+R2+R3+R4を組み込んだ共通の診断結果伝送用信号線34が器具箱14と各地上子30とに亘って配線された点と、抵抗回路R1+R2+R3+R4に通電する通電回路36が器具箱14に設けられた点と、その通電に係る電圧と電流に基づいて地上子30に係る故障の有無を判定するとともに故障判定時には故障装置を特定する判定手段37が器具箱14に設けられた点である。
【0032】
詳述すると(図1参照)、一番目(No.1)の地上子30用の接続箱35には短絡擬制リレーNRM1と抵抗R1が設けられ、二番目(No.2)の地上子30用の接続箱35には短絡擬制リレーNRM2と抵抗R2が設けられ、三番目(No.3)の地上子30用の接続箱35には短絡擬制リレーNRM3と抵抗R3が設けられ、四番目(No.4)の地上子30用の接続箱35には短絡擬制リレーNRM4と抵抗R4が設けられている。また、通電回路36と判定手段37は器具箱14に設けられている。なお、地上子30がそれぞれ自己の状態を調べて正常か故障かの自己診断結果をリレー駆動信号(オンオフ信号)で出力することや、それぞれのリレー駆動信号が診断結果伝送用信号線33を介して対応する短絡擬制リレーNRM1〜NRM4を動作させるようになっていることは、既述した通りである。
【0033】
通電回路36は(図1,図2(a)参照)、例えばDC24Vの電源と診断結果伝送用信号線34とを繋ぐ給電線が有れば最小限の役目を果たすが、ノイズ低減のため地上子30の動作電力供給用のDC0Vの帰還線とは別に配線された診断結果伝送用信号線34の帰還線をDC0Vの所に繋いでいる。このような通電回路36は、判定に必要な抵抗回路R1+R2+R3+R4の全抵抗値の変化を反映した物理量として、その通電に係る電圧と電流を把握するようにもなっており、そのために診断結果伝送用信号線34への給電電圧と診断結果伝送用信号線34の電流Iとの両方を測定しても良いが、この例では、電圧が24Vであって既知の固定値なので、変動する電流Iを把握するために、DC24Vの給電線に抵抗Rvを介挿接続しておいて、その両端の電位差である電圧Vを測定するものとなっている。このような電流電圧変換機能の具体化に用いられる抵抗Rvは、小抵抗で良く、この例では100Ωである。
【0034】
抵抗回路R1+R2+R3+R4における抵抗R1〜R4は、複数の地上子30の同時故障を想定しない場合には単に総ての抵抗の値が異なってさえいれば良いが、複数の地上子30の同時故障時に総ての故障装置を特定したい場合は、総ての部分集合についても合計抵抗値が異なるものを採択することになる。ここでは(図2(a)参照)、2倍以上の比率で変化するものという条件で、「R1=3kΩ、R2=6kΩ、R3=12kΩ、R4=24kΩ」が採用されている。このような抵抗R1〜R4のうち(図1,図2(a)参照)、抵抗R1には短絡擬制リレーNRM1のリレー接点が並列接続され、抵抗R2には短絡擬制リレーNRM2のリレー接点が並列接続され、抵抗R3には短絡擬制リレーNRM3のリレー接点が並列接続され、抵抗R4には短絡擬制リレーNRM4のリレー接点が並列接続されている。
【0035】
抵抗R1〜R4に並列接続された上記のリレー接点は、それぞれ対応する地上子30の自己診断結果に応じて導通状態か遮断状態になるが、ここでは、何れのリレー接点も、自己診断結果が正常検知の時は導通状態になり、自己診断結果が故障検知の時は遮断状態になることで、短絡擬制回路として機能するようになっている。
なお、一番目(No.1)の地上子30の接続箱35の中の短絡擬制リレーNRM1には、時定数が例えば60ms程度の充放電回路が組み合わされて、短絡擬制リレーNRM1が、無視可能な短時間の故障検知,例えば照合回路31での短時間不一致や,電源リップルその他の微小なノイズ等には、応動しないようになっている。他の短絡擬制リレーNRM2〜NRM4についても繰り返しとなる説明は割愛するが同様である。
【0036】
判定手段37は(図2(b)参照)、抵抗回路R1+R2+R3+R4の通電に係る既知の電圧24Vと電流I対応の測定電圧Vとに基づいて地上子30それぞれが正常か故障かを判定するとともに故障判定時には故障地上子を特定するようになっている。具体的には、抵抗回路R1+R2+R3+R4の抵抗Rに抵抗Rvの100Ωと診断結果伝送用信号線34のケーブル抵抗Rcたとえば34.2Ωを加えたものが電流Iを決める全抵抗(R+Rv+Rc)になるので、抵抗R1〜R4が短絡(0Ω)短絡(0Ω)短絡(0Ω)短絡(0Ω)の場合は全抵抗が134.2Ωで電流が178.8mAで電圧Vが17883.8mVになって閾値判別等で総て正常と判定され、抵抗R1〜R4が有効(3000Ω)短絡(0Ω)短絡(0Ω)短絡(0Ω)の場合は全抵抗が3134.2Ωで電流が765.7mAで電圧Vが765.7mVになってやはり閾値判別等で一番目(No.1)の地上子30だけ故障と判定され、以下、繰り返しとなる説明は省くが、電圧Vの閾値判別等で故障地上子が特定される。
【0037】
この実施例1の故障装置特定システムについて、その使用態様及び動作を説明する。複数台の地上子30が情報提供対象の信号機13と同じ軌道11に沿って他の地上子30と適宜離れて設置され(図1参照)、それらの接続箱35と信号機13の器具箱14とがケーブルで接続されるのは従来と同様であるが、地上子30から故障検知結果(自己診断結果)を接続箱35へ伝送する個別の診断結果伝送用信号線33が接続箱35の所で共通の診断結果伝送用信号線34に纏められて、それが接続箱35と器具箱14との接続ケーブルに含まれていれば良くなっているので、ケーブルの信号線の本数が従来より少なくて済むうえ、地上子30の台数に左右されることなくケーブルを準備することができる。
【0038】
そして、電源が投入されて、DC24VやDC135Vの供給電圧が立ち上がると、各地上子30は、列車12へ向けて無線送信する電文を信号機現示GR,YR等に基づいて生成するとともに、自己診断結果出力装置として自己の状態が正常か故障かを調べて自己診断結果(故障検知結果)をオンオフ信号で出力する。具体的には、一番目(No.1)の地上子30は自己診断結果に応じて専用の診断結果伝送用信号線33の先の短絡擬制リレーNRM1を駆動し、同様に二番目(No.2),三番目(No.3),四番目(No.4),の地上子30はそれぞれ自己診断結果に応じて専用の診断結果伝送用信号線33の先の短絡擬制リレーNRM2〜NRM4を駆動する。
【0039】
そして、総ての地上子30が正常と自己診断したときには、抵抗R1に並列な短絡擬制リレーNRM1のリレー接点も、抵抗R2に並列な短絡擬制リレーNRM2のリレー接点も、抵抗R3に並列な短絡擬制リレーNRM3のリレー接点も、抵抗R4に並列な短絡擬制リレーNRM4のリレー接点も、総てが導通して、抵抗Rが0Ωになり、通電回路36の通電対象回路の全抵抗が134.2Ωになり(図2(b)参照)、その通電の電流Iが178.8mAになり、抵抗Rvの両端電位差が17883.8mVになり、これが電圧Vとして計測されるので、判定手段37によって地上子30が総て正常であると判定され、その判定結果が定常状態監視装置15に通知される。
【0040】
また、例えば一番目(No.1)の地上子30が故障したと自己診断し他の地上子30が正常と自己診断したときには、抵抗R1に並列な短絡擬制リレーNRM1のリレー接点が遮断状態になる一方、他の抵抗R2〜R4に並列なリレー接点は何れも導通状態になって、抵抗Rvの電圧Vが765.7mAになるので(図2(b)参照)、判定手段37によって一番目(No.1)の地上子30だけが故障していると判定される。
さらに、例えば一番目(No.1)と二番目(No.2)の地上子30が故障したと自己診断し他の地上子30が正常と自己診断したときには、抵抗R1,R2に並列な短絡擬制リレーNRM1,NRM2のリレー接点が遮断状態になる一方、他の抵抗R3,R4に並列なリレー接点は導通状態になり、抵抗Rvの電圧Vが262.7mAになるので(図2(b)参照)、一番目(No.1)と二番目(No.2)の地上子30だけが故障していると判定される。
【0041】
このようにして、繰り返しとなる他の故障状況の説明は割愛するが、一番目(No.1)から四番目(No.4)まで四台の地上子30のうち何れかが故障すると、単独故障であれ複数同時故障であれ、故障した地上子30が総て判定手段37によって特定され、その判定結果が定常状態監視装置15に通知される。
【実施例2】
【0042】
本発明の故障装置特定システムの実施例2について、その具体的な構成を、図面を引用して説明する。図3は、リレーを用いて回路構成した判定手段37の具体例を示す回路図である。
【0043】
この故障装置特定システムでは、判定手段37が、抵抗Rvの両端の電位差(電圧V)を演算増幅器(Amp.)で増幅することで、通電回路36の通電状態に対応した電圧を発生し、この電圧で、2260Ωの抵抗を介して判別用リレーABN1を駆動し、760Ωの抵抗を介して判別用リレーABN2を駆動し、250Ωの抵抗を介して判別用リレーABN3を駆動し、0Ωの抵抗を介して判別用リレーABN4を駆動するようになっている。判別用リレーABN1〜ABN4のコイル抵抗は何れも800Ωであり、それと接続抵抗との抵抗比に基づいて、電圧Vを切り分ける四つの閾値が定まり、四つの判別用リレーABN1〜ABN4の動作状態によって電圧Vが16の場合に分けられる。
【0044】
さらに、そのような場合分けが、判別用リレーABN1〜ABN4のリレー接点にて組まれた論理演算回路によって、四つの故障有無リレーTRB1〜TRB4の駆動ひいては動作状態に転化される。そして、故障有無リレーTRB1は短絡擬制リレーNRM1に対応した動作を行って一番目(No.1)の地上子30の故障検知結果(自己診断結果)をリレー接点信号で定常状態監視装置15に通知し、同様に故障有無リレーTRB2,TRB3,TRB4はそれぞれ短絡擬制リレーNRM2,NRM3,NRM4に対応した動作を行って二番目(No.2),三番目(No.3),四番目(No.4),の地上子30の故障検知結果をリレー接点信号で定常状態監視装置15に通知する。こうして、判定及び特定が的確に行われ、その結果が判定手段37からリレー信号で出力され定常状態監視装置15に入力される。
【0045】
[その他]
上記実施例では、抵抗R1〜R4や短絡擬制リレーNRM1〜NRM4が、地上子30の近くの接続箱35に設けられていたが、地上子30と一体的に実装しても良い。
また、上記実施例では、短絡擬制回路が遮断状態か導通状態になることの具体例として、短絡擬制回路が何れも正常検知時は導通状態になり故障検知時は遮断状態になる場合を述べたが、短絡擬制回路が何れもが正常検知時は遮断状態になり故障検知時は導通状態になるようにしても良く、あるいは夫々の短絡擬制回路によって対応関係がまちまちであっても良く、何れであっても対応関係が判定手段に適切に反映されていれば問題ない。なお、短絡擬制回路が正常検知時は導通状態になり故障検知時は遮断状態になる構成の方が、短絡擬制回路が正常検知時は遮断状態になり故障検知時は導通状態になる構成に比べて、故障のない定常状態で抵抗回路が消費する電力が少ない。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の故障装置特定システムは、上述した三現示情報切替形のATS−P地上子に適用が限定されるものでなく、固定情報形や他の個数の情報切替形の故障検知機能付きATS−P地上子にも適用することができ、さらには、自己の状態が正常か故障かを調べて自己診断結果をオンオフ信号で出力する自己診断結果出力装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0047】
11…軌道(鉄道線路)、12…列車(車上装置)、
13…信号機、14…器具箱、15…定常状態監視装置、
20…地上子、21…照合回路、
30…地上子(自己診断結果出力装置)、31…照合回路、
32…出力回路、33…診断結果伝送用信号線(個別)、
34…診断結果伝送用信号線(共通)、35…接続箱、
36…通電回路、37…判定手段、
NRM1〜NRM4…短絡擬制リレー、R1〜R4…抵抗(抵抗回路)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ自己の状態が正常か故障かを調べて自己診断結果をオンオフ信号で出力する複数の自己診断結果出力装置と、値の異なる複数の抵抗を直列に接続した抵抗回路と、それぞれ前記抵抗の何れかに並列接続されていて前記自己診断結果出力装置の何れかの自己診断結果に応じて導通状態か遮断状態になる複数の短絡擬制回路と、前記抵抗回路に通電する通電回路と、その通電に係る電圧と電流に基づいて前記自己診断結果出力装置に係る故障の有無を判定するとともに故障判定時には故障装置を特定する判定手段とを備えている故障装置特定システム。
【請求項2】
前記自己診断結果出力装置が自己診断結果をリレーで出力するものであり、前記短絡擬制回路が導通遮断の状態切替を前記リレーのリレー接点で行うものであることを特徴とする請求項1記載の故障装置特定システム。
【請求項3】
前記判定手段が、前記通電回路の通電状態に対応した電圧にて抵抗経由で駆動される判別用リレーを複数具備していて判定及び特定の結果をリレー信号で出力するようになっていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載された故障装置特定システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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