説明

散気板

【課題】微細な気泡を効率よく発生させることができる散気板を提供する。
【解決手段】薄板に複数の長孔状の開孔2が設けられており、各開孔2を通して液中に気体を分散させる散気板1において、該開孔2に近接して、開孔2の両側に、開孔2の長手方向と平行に延在する凹条又は凸条よりなる条部3が設けられている散気板1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理システム等で使用する散気板に関する。
【背景技術】
【0002】
気液接触により気相から液相へ物質を移動する技術、特に、好気性生物反応を利用した水処理槽へ酸素を移動するにあたって、散気板が用いられている。酸素移動の効率を高めるために、種々の散気板および散気装置が提案されている。
【0003】
例えば、多数の孔またはスリットを有する金属薄板よりなる散気板が特許文献1に示されている。
【0004】
また、特許文献2には、気体放出孔の短辺の最大幅が30μm以下の非円形のスリット状であることを特徴とするガス分散器が記載されている。スリットの形成法としては、枠体の中央空間から枠体の外側に通ずる溝が形成された中間枠体あるいはガス分散器の両端面に配置した平面板体を積層することにより形成する方法が示されている。
【0005】
特許文献3には、複数の開孔を有する薄板からなり、開孔は向かい合う短辺と長辺により構成された四角形形状を有し、短辺方向の間隔のうち最もひろい部分の長さが0.03mm−0.15mmであることを特徴とする散気板が記載されている。
【0006】
特許文献4には、散気膜の裏面に凹凸加工を行い、散気膜と天井面部の間に空気が容易に侵入させるようにする方法が記載されている。
【0007】
一般に、散気板の孔に空気が供給されると、孔から気液界面が成長し、気液界面が散気膜面と接触している接触線における下向きの界面張力よりも気泡の浮力が優った時点で離脱して気泡が形成される。
【0008】
気泡表面は界面張力が働いており気泡断面を円形に維持しようとする力が働いている。孔の形状を矩形などの非円形とすることで、孔と接触している気液界面の形状が円形から乖離した形状となるために、界面が不安定となり、より早い段階でちぎれて小さな気泡として浮上を始める。このため、孔の形状を矩形などの非円形とすることが小さな気泡を形成して溶解性能を高めるために有効であると言われており(特許文献2)、特許文献1〜3では孔形状をスリット(特許文献1)、矩形(特許文献2)又は四角形(特許文献3)とすることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−61817
【特許文献2】特開2008−183475
【特許文献3】特開2008−207165
【特許文献4】特開2007−14899
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
完全な親水性ではない一般の金属薄板材料よりなり、図3のように長方形状の開孔2を設けた散気板4では、開孔2と接触している気泡の断面が、長方形の長辺よりも外側に広がるために、開孔2を長方形にしても、界面と膜面との接触形状が円に近い形状となり、不安定さが増加せず、大きな気泡となってからちぎれて上昇することになる。また、気液界面と膜面との接触線が長くなるために、気泡が大きくならないと離脱せず、気泡が粗大となるため、溶解性能が高くならない。
【0011】
特許文献4のように、散気膜の裏面に凹凸加工を行った場合には、散気膜と天井面部の間に空気が容易に侵入させるようにするのには効果があるが、気泡を小さくするには効果が無い。
【0012】
本発明は、微細な気泡を効率よく発生させることができる散気板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明(請求項1)の散気板は、薄板に複数の長孔状の開孔が設けられており、各開孔を通して液中に気体を分散させる散気板において、該薄板の表面に、該開孔に近接して、開孔長手方向と平行に延在する凹条又は凸条よりなる条部が設けられていることを特徴とするものである。
【0014】
請求項2の散気板は、請求項1において、開孔の形状が長方形であることを特徴とするものである。
【0015】
請求項3の散気板は、請求項1又は2において、前記開孔の両側に前記条部が設けられていることを特徴とするものである。
【0016】
請求項4の散気板は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記開孔の長手方向の長さと前記条部の長さとが略等しいことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
長孔状の開孔を有する散気板において、開孔長手方向と平行方向に延在する条部を設けることにより、後述の図2のように、開孔のすぐ近くで気液界面を堰き止めることができる。これにより、気液界面と膜面との接触部が円とかけ離れた形状となり、また、気液界面と膜面の接触線が短くなるために、小さな気泡の状態で気泡を離脱させることができ、微細な気泡を効率よく発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)図は実施の形態に係る散気板の平面図、(b)図は(a)図のB−B線断面図である。
【図2】図1の散気板の作用説明図である。
【図3】(a)図は従来の散気板の平面図、(b)図は(a)図のB−B線断面図である。
【図4】(a)図は実施例に係る散気板の平面図、(b)図は(a)図のB−B線断面図である。
【図5】(a)図は実施例に係る散気板の平面図、(b)図は(a)図のB−B線断面図である。
【図6】(a)図は比較例の散気板の平面図、(b)図は(a)図のB−B線断面図、(c)図は(a)図のC−C線断面図、(d)図は(a)図のD−D線断面図、(e)図は(a)図のE−E線断面図、(f)図は(a)図のF−F線断面図である。
【図7】(a)図は比較例の散気板の平面図、(b)図は(a)図のB−B線断面図、(c)図は(a)図のC−C線断面図、(d)図は(a)図のD−D線断面図、(e)図は(a)図のE−E線断面図である。
【図8】(a)図は比較例の散気板の平面図、(b)図は(a)図のB−B線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。図1,2,5及び図4はそれぞれ実施の形態に係る散気板を示している。
【0020】
図1,2,5に示す散気板1は、長孔状の開孔2と、該開孔2の両サイドに設けられた、開孔2の長手方向と平行方向に延在する凹条(溝)よりなる条部3とを有する。この散気板1では、1本の開孔2の両側にそれぞれ2本ずつ、合計4本の凹条3が設けられている。図4の散気板5では、長孔状の開孔2の両側にそれぞれ1本ずつ、合計2本の条部3が開孔2と平行に設けられている。なお、図示は省略するが、凹条に代わりに凸条(凸堤)を設けてもよく、凹条と凸条の両方を設けてもよい。
【0021】
開孔1本当りの条部3の数は2〜8個特に4〜6個程度が好ましい。条部3の長手方向の長さは開孔2の長手方向の長さの50〜200%特に80〜120%程度と、略等しいことが望ましい。
【0022】
散気板の材質は、金属、特にステンレス、ニッケル、鉄、銅、銅合金、黄銅、真鍮、燐青銅、ベリリウム銅、パーマロイなどが好ましい。散気板の厚さは10〜200μm特に20〜100μm程度が好ましい。
【0023】
水に散気する場合、開孔2の幅Wは10〜200μm特に20〜100μm程度が好適であり、長手方向の長さLは20〜2000μm特に50〜500μm程度が好適である。L/W比は2〜10特に3〜5程度が好ましい。
【0024】
開孔2から直近の条部3までの距離aは10〜60μm程度が好適であり、それらの中心間距離は30〜100μm程度であることが好ましい。
【0025】
条部3の幅bは10〜100μm特に20〜60μm程度が好適である。
【0026】
条部3同士の中心間距離は20〜100μm程度が好ましい。条部3の深さ(凹条の場合)又は高さ(凸条の場合)は2〜100μm特に5〜40μm程度が好ましい。
【0027】
開孔は、開口率すなわち散気板の板面の面積に対する全開孔の面積の比が0.005〜2%特に0.01〜0.5%となるように設けられるのが好ましい。
【0028】
条部3は、フォトエッチング法におけるハーフエッチング手法で生成することができる。例えば、薄板にレジストをコーティングした後、凹条形成予定部分を露光し、化学切削する。凸条を形成する場合には、凸条以外の部分を露光し、化学切削する。
【0029】
この散気板1,5にあっては、開孔2に隣接して開孔2と平行な条部3を設けたことにより、図2に示されるように、開孔2のすぐ近くにて気液界面を堰き止めることができ、小さな気泡の状態で気泡を離脱させることができる。開孔2の形状を長方形とすることにより、気泡の離脱がさらに起こりやすくなり、小さな気泡が発生して溶解性能が高くなる。
【0030】
条部3が、長方形状の開孔2の長辺に平行であるため、気液界面の堰き止め効果が高い。また、開孔2の両側にそれぞれ複数本の条部を設置することでより高い堰き止め効果が得られる。
【0031】
上記実施の形態では、条部3は角形断面形状となっているが、半円形、半楕円形、三角形、五角形などの断面形状とされてもよい。
【実施例】
【0032】
以下実施例及び比較例について説明する。
【0033】
[実施例1,2、比較例1〜3]
直径47mmのSUS薄板(厚さ0.03mm)の中央に幅50μm、長さ200μmの一つの開孔2を設けた。各実施例及び比較例の条部3,9又は凹穴の形状及び寸法をそれぞれ図4〜8に示す。条部3の長さは開孔2と同じ200μmとし、深さdは10μmとした。
【0034】
実施例1(図4)の散気板5では、開孔2の両側に1本ずつ条部3を設けた。実施例2(図5)の散気板1では、開孔2の両側に2本ずつ条部3を設けた。
【0035】
比較例1(図6)の散気板7では、開孔2の両側に25×25μmの正方形の凹穴8を図示のように市松模様状に設けた。比較例2(図7)の散気板6では、開孔2の両側に、開孔2の長辺方向と直交方向に延在する溝9を4本ずつ設けた。
【0036】
比較例3(図8)の散気板10では、開孔2のみを設け、条部や凹穴は設けなかった。
【0037】
各散気板に対し、空気量20mL/minで通気した。発生した気泡をハイスピードカメラで撮影し、100個の気泡について、球相当気泡径を測定した。気泡径の測定結果を表1に示す。凹凸無しで長方形の開孔2が空いているだけの比較例3に比べて、開孔2と垂直な溝のある比較例2はかえって気泡径が大きくなった。市松模様の比較例1は比較例3に比べて僅かに気泡径が小さくなった。開孔2に対して平行な条部3が一組ある実施例1は、比較例に比べて明らかに気泡径が小さくなった。開孔2に対して平行な条部3が二組ある実施例2は、実施例1よりもさらに気泡径が小さくなった。
【0038】
この結果より、微細な気泡の作成のためには、凹凸の有無よりも、凹凸の形状が重要であり、開孔に対して平行に条部を形成することが効果が高いことが認められた。
【0039】
【表1】

【0040】
[実施例3〜5]
実施例2において、凹条の深さ(溝)を表2の通り、2μm(実施例3)、5μm(実施例4)、又は20μm(実施例5)としたこと以外は同様にして散気板を製作し、散気を行った。気泡径の測定結果を表2に示す。表2の通り、溝深さを5μm以上とすることにより、気泡径が小さくなる効果が高くなる。
【0041】
【表2】

【0042】
[考察]
上記実施例の通り、本発明によると微細は気泡を発生させることができ、溶解性能の高い散気板が提供される。
【符号の説明】
【0043】
1,4,5,6、7,10 散気板
2 開孔
3 条部
8 凹穴
9 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄板に複数の長孔状の開孔が設けられており、各開孔を通して液中に気体を分散させる散気板において、該薄板の表面に、該開孔に近接して、開孔長手方向と平行に延在する凹条又は凸条よりなる条部が設けられていることを特徴とする散気板。
【請求項2】
請求項1において、開孔の形状が長方形であることを特徴とする散気装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記開孔の両側に前記条部が設けられていることを特徴とする散気板。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記開孔の長手方向の長さと前記条部の長さとが略等しいことを特徴とする散気板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−217962(P2012−217962A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88343(P2011−88343)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】