説明

散水式浄化装置用保水体および散水式浄化装置

【課題】DHS法による高い処理効率を生かしつつ、処理規模を大きくするのに有利な散水式浄化装置を提供する。
【解決手段】処理空間21中に上下姿勢で配置された保水体4に、処理水を伝わらせて流下させ、処理空間21内に酸素含有ガスを導入するとともに、処理空間から気体を排出することによって、処理水をろ過するとともに保水体の付着微生物により処理水中または酸素含有ガス中の処理対象物を分解処理するために、保水体4は、全長にわたって保水状態を維持することができる上下長を有する複数のシート状保水部41と、複数のシート状保水部41同士を、間隔をあけて上下に接続し、処理水を伝わらせて流下する流下断面積が前記シート状保水部よりも小さい流下部42とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理空間中に上下姿勢で配置された保水体に、処理水を伝わらせて流下させ、
前記処理空間内に酸素含有ガスを導入するとともに、前記処理空間から気体を排出することによって、
処理水をろ過するとともに前記保水体の付着微生物により処理水中または酸素含有ガス中の処理対象物を分解処理する散水式浄化装置用保水体および散水式浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
排水浄化は通常活性汚泥法により行われるが、曝気動力が大きい、汚泥が大量に発生するという課題がある。一方、好気処理でありながら、曝気を必要とせず、汚泥発生量も少ない方法として、散水ろ床式水処理方法がある。しかし、通常の散水ろ床は、保水性がない。これまで知られていた散水ろ床式水処理方法では、散水した水が自然流下して下部に到達するまでの比較的短い時間で、排水が散水ろ床に担持された微生物と接触して浄化される。そのため、散水ろ床式水処理方法においては、気液接触時間(HRT)が十分とれないために、効率的な処理は望めないという問題がある。
【0003】
これを解決するためにDHS(Downflow Hanging Sponge)法による水処理方法が開発されている(特許文献1,2参照)。DHS法とは、汚水を、ろ材を充填した反応槽の上部から散水し、処理水がろ材上に増殖している微生物と接触しながら流下する間に好気的に浄化を行う方法であり、処理空間中に吊り下げて配置されたブロック状のスポンジ担体と、前記スポンジ担体の上部に処理水を供給する散水部とを有する。
【0004】
DHS法を行うDHSリアクターに用いられるスポンジ担体は保水性があるために、HRTを長時間確保することができ、数時間かけて排水処理することも可能である。また、散水ろ床では、ろ床を構成するろ材の表面のみに薄い生物膜が形成されるのに対して、通常のDHSリアクターではスポンジ担体が30mm程度のブロック状であるため、内部にも微生物が生息することができる。そのため、通常の散水ろ床に比べて単位体積あたりの保持微生物量が非常に多い。さらに、DHSリアクターにおいては、処理水は、スポンジ担体の内部および表面を下降しつつ案内されて流下する。すると、前記処理水は、流下してスポンジ担体の上端に達したところで、前記スポンジ担体の内部に分散するように流れる。このとき、処理水は比較的狭い領域から比較的広い領域に拡散されつつ流下することになるとともに、前記処理水は、スポンジ担体の下端で再度集合することになる。すると、前記処理水は、分散したときに流速が低下し、集合したときに流速が上昇する変動を繰り返すことになる。これにより、流速の低下した状況で処理水中の溶存酸素を微生物に与え、流速の上昇したときに処理水に酸素を溶かし込むという作用を繰り返すため、処理水に対する酸素溶解効率を高めることができる。そのため、溶存酸素は、処理空間中における液中への酸素の溶解、処理水中への拡散、処理水の流下移動によって、スポンジ内部に供給されることになり、散水ろ床に比べて、微生物による水処理環境が良好に維持されやすいものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3586745号公報
【特許文献2】特開2009−220075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、DHSリアクターの処理規模を大きくしたいような場合に、DHSリアクターに対する担体の充填率を確保するために、大きなスポンジ担体を用いることが考えられる。しかし、スポンジ担体が大きくなると、酸素供給速度と消費速度の関係で、内部まで酸素が供給されにくくなる。そのため、スポンジ担体に担持される微生物量が多くなっても水処理能力をあまり向上させることができないという問題がある。逆に、小さなスポンジ担体を多数使用し、DHSリアクターに対する担体の充填率を確保したとすると、スポンジ担体全体としての比表面積は大きくなり、スポンジ担体内部への酸素供給速度は上がり、深部まで好気状態にすることができる。その反面、多数のスポンジ担体を処理空間中に間隔をあけて並べると、担体間のスペースを小さくせざるを得なくなるため、生物膜が成長したときに、担体間が容易に閉塞してしまい、処理水の流れが悪化するなどの問題が生じやすくなる。
【0007】
本発明の目的は、上記実情に鑑み、DHS法による高い処理効率を生かしつつ、処理規模を大きくするのに有利な散水式浄化装置を提供することにあり、具体的には、その散水式浄化装置においてDHSリアクターに用いられているブロック状のスポンジ担体に代えて用いることができる散水式浄化装置用保水体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
〔構成1〕
上記課題を解決するための本発明の散水式浄化装置用保水体の特徴構成は、
処理空間中に上下姿勢で配置されたシート状の保水体に、処理水を伝わらせて流下させ、前記処理空間内に酸素含有ガスを導入するとともに、前記処理空間から気体を排出することによって、処理水をろ過するとともに前記保水体の付着微生物により処理水中および/または酸素含有ガス中の処理対象物を分解処理する散水式浄化装置用保水体であって、前記保水体は、全長にわたって保水状態を維持することができる上下長を有する複数のシート状保水部と、前記複数のシート状保水部同士を、間隔をあけて上下に接続し、処理水を伝わらせて流下する流下断面積が前記シート状保水部よりも小さい流下部とを備えた点にある。
【0009】
〔作用効果1〕
本発明の散水式浄化装置用保水体は、シート状であるから、保水性がある。また、前記シート状保水部における吸水能力を適宜設定することによって、前記本発明の保水体による保水量を好適に設定しておくことができる。前記保水体は、全長にわたって保水状態を維持することができる上下長を有するシート状保水部を備えるから、前記保水体は、前記シート状保水部で上下全長にわたって保水した状態で処理水を分解処理することができる。このとき、前記シート状保水部は、十分量の処理水を保持した状態で処理空間内の酸素含有ガスと接触するので、前記シート状保水部に処理水を伝わらせて流下させることによって、処理水が保水体を伝って内部を流下するHRTを十分に長く設定することができるようになる。従って、生物膜の活性を高く維持しやすく、処理水をろ過するとともに、前記シート状保水部の付着微生物により、処理水中および/または酸素含有ガス中の処理対象物を分解処理する効率を向上することができる。従って、前記保水体によれば、DHSリアクターに用いられるスポンジ担体に比べて、有効微生物量を大幅に向上させることができる。
【0010】
また、前記シート状保水部は、平坦なシート状であるから、スポンジ担体より嵩張りにくく、多数を間隔を置いた姿勢で並列配置させることができる。そのため、処理空間中への充填率を高く設定することが容易であり、処理水の処理規模を増加させる場合に特に有利である。
【0011】
また、前記保水体に、処理水を伝わらせて流下させると、図2矢印に示すように、処理水は、保水体の内部および表面を下降しつつ案内され、前記流下部を介して隣接するシート状保水部に流下する。すると、前記流下部は、流下断面積が前記シート状保水部よりも小さいので、前記処理水は、流下してシート状保水部下端に達したところで、前記流下部に集中するように流れる。そして、前記流下部に流入した処理水は、隣接するシート状保水部にまで流下して、前記シート状保水部内に拡散する。このとき、処理水は流下部の比較的狭い領域から比較的広い領域に拡散されつつ流下することになる。すなわち、前記保水体を流下する処理水は、シート状保水部に達してシート状保水部内を拡散し、流下部に達して集合するという動きを繰り返すように流れる。すると、前記処理水は、拡散したときに流速が低下し、集合したときに流速が上昇する変動を繰り返すことになる。これにより、DHS法の処理水の流れを再現することができ、DHS法と同様に処理水に対する酸素溶解効率を高めることが可能となっている。
【0012】
〔構成2〕
また、上記構成に加えて、前記シート状保水部が繊維の太さ10〜2000μm、目付0.005〜0.2g/cm2の織布または不織布、編み地、タオル地もしくは孔径0.01〜2mmの多孔質シートから構成してあることが好ましい。
【0013】
〔作用効果2〕
前記シート状保水部が繊維の太さ10〜2000μm、目付0.005〜0.2g/cm2の織布または不織布、編み地、タオル地もしくは孔径0.01〜2mmの多孔質シートから構成してあることにより、その織布、不織布、編み地、タオル地等の繊維間や多孔質シートの孔部(以下、単に隙間と呼ぶ場合がある)に容易に処理水が侵入しつつ、前記シート状保水部の厚さ内および表面を伝って処理水が流下しやすい。前記隙間は、織布または不織布の場合は、繊維の太さ、目付けにより規定される目開き、スポンジ、焼結体シート等からなる多孔質シートの場合は、孔径として規定することができ、隙間が小さすぎると、シート状保水部の内部まで処理水が浸透しにくく、かつ、内部に育成する微生物による目詰まりが発生しやすくなるので好ましくない。また、隙間が大きすぎると、シート状保水部内に処理水を保持することができなくなるため、保水性が低下する。従って、上述の範囲内で、シート状保水部が高い保水性を発揮してHRTを高く維持することができる。
【0014】
〔構成3〕
また、前記シート状保水部がナイロン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ビニロン、アクリル繊維、炭素繊維から選ばれる少なくとも一種を主材とすることが好ましい。
【0015】
〔作用効果3〕
前記シート状保水部の材質は、上下姿勢で処理水を含んだ状態の重量でも十分受けられる強度と、処理水の性状によらず物性の変化をきたさない安定性と、微生物が着床して生育しやすいこと、生分解されにくいことが要求される。これらの観点から、ナイロン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ビニロン、アクリル繊維、炭素繊維から選ばれる少なくとも一種を主材とするものが、いずれの観点においても良好な物性を備えているため、好ましい。
【0016】
〔構成4〕
また、前記シート状保水部の上下長が、10〜60mmであり、前記流下部の長さが5〜30mmであることが好ましい。
【0017】
〔作用効果4〕
すなわち、前記シート状保水部が全長にわたって保水状態を維持することができる長さは、前記シート状保水部に対する処理水の浸透圧と保水された処理水の自重とのバランスで決まる。通常の前記シート状保水部を構成する隙間の場合、この上下長は、10〜60mmとなるので、前記シート状保水部の上下長は、この長さに設定することが好ましい。
【0018】
また、流下部の長さは、短すぎると、シート状保水部に付着した処理水の液滴がシート状保水部間を短絡するおそれがあるために、十分な長さを確保する必要があるが、長すぎると、所定空間内に充填できるシート状保水部の充填率が低下して水処理効率の低下につながること、および、流下部が絡み易くなって、取扱作業性が低下することなどから5〜30mmとすることが好ましい。また、前記流下部は、流下断面積が前記シート状保水部よりも小さいことが要求されるが、これは、前記シート状保水部の保水性を損なわない程度の流下断面積であれば、前記シート状保水部の物性等に応じて適宜設定することができる。
【0019】
〔構成5〕
また、本発明の散水式浄化装置の特徴構成は、
中空のタンク内に処理空間を形成するとともに、散水部を設け、
該散水部の下方にシート状の保水体を上下姿勢に保持する保持部を設け、
前記保持部に前記保水体を保持した状態で、
前記散水部より前記保水体に処理水を供給する処理水供給手段を備え、
前記保水体により浄化された処理水を取出す処理水排出手段を備え、
前記処理空間内に酸素含有ガスを供給する給気管を設け、
前記処理空間内のガスを排出する排気管を設けた
散水式浄化装置であって、
前記保水体は、全長にわたって保水状態を維持することができる上下長を有する複数のシート状保水部と、
前記複数のシート状保水部同士を、間隔をあけて上下に接続し、処理水を伝わらせて流下する流下断面積が前記シート状保水部よりも小さい流下部とを備えた点にある。
【0020】
〔作用効果5〕
上記構成に基けば、前記散水部から処理水供給手段により処理水を散水することにより中空のタンク中の処理空間に処理水を散水することができる。散水部の下方には保持部に上下姿勢に保持したシート状の保水体を設けてあるから、前記処理水は、前記保水体の内部に保持される。そして前記保水体は、付着微生物が生育するシート状保水部を備えるので、前記処理水は前記シート状保水部に吸収されつつ主に前記シート状保水部の内部を伝って流下する。また、前記シート状保水部の吸水能力を適宜設定することによって、前記保水体のHRTも好適に設定しておくことができる。そのために、前記保水体に処理水を伝わらせて流下させることによって、処理水が内部を流下する間に、処理水をろ過するとともに前記シート状保水部の付着微生物により、処理水中または酸素含有ガス中の処理対象物を分解処理することができる。
【0021】
また、前記保水体に、処理水を伝わらせて流下させると、図2矢印に示すように、処理水は、シート状保水部の内部および表面を下降しつつ案内され、前記流下部を介して隣接するシート状保水部に流下する。すると、前記処理水は、流下してシート状保水部下端に達したところで、前記流下部に集中するように流れる。そして、流下部に流入した処理水は、隣接するシート状保水部にまで流下して、前記シート状保水部内に拡散する。このとき、処理水は流下部の比較的狭い領域から比較的広い領域に拡散されつつ流下することになる。すなわち、前記保水体を流下する処理水は、シート状保水部に達してシート状保水部内を拡散し、流下部に達して集合するという動きを繰り返すように流れる。すると、前記処理水は、拡散したときに流速が低下し、集合したときに流速が上昇する変動を繰り返すことになる。これにより、DHS法の処理水の流れを再現することができ、DHS法と同様に処理水に対する酸素溶解効率を高めることが可能となっている。
【0022】
保水体を流下した処理水は、前記シート状保水部に付着した生物膜により浄化されて処理水排出手段により回収される。すなわち、保水体に、処理水を伝わらせて流下させ、前記処理空間内に酸素含有ガスを導入するとともに、前記処理空間から気体を排出することによって、処理水をろ過するとともに前記シート状保水部の付着微生物により処理水中または酸素含有ガス中の処理対象物を分解処理することができる。
【0023】
従って、上記構成の散水式浄化装置によれば、前記処理空間内に酸素含有ガスを導入するとともに、前記処理空間から気体を排出する工程を行いつつ、処理空間内に処理水供給手段により処理水を供給し、処理水排出手段により浄化済みの処理水を取出す工程を行うことにより、連続的に処理水の浄化を行うことができる。
【0024】
〔構成6〕
また、上記構成に加え、前記処理空間内に処理ガスを供給する処理ガス供給手段を設けるとともに、前記処理ガスを前記処理水とともに前記シート状保水部の付着微生物により分解処理する構成としてあれば好ましい。
【0025】
〔作用効果6〕
前記タンク内に処理ガスを供給する処理ガス供給手段を設けてあれば、前記処理ガス供給手段により供給された処理ガスは、前記保水体の前記シート状保水部に処理水とともに吸収されて前記シート状保水部に付着する微生物に供給することができる。すると、微生物に供給された処理ガスに含まれる処理対象物は、前記微生物に資化され、浄化される。従って、上記構成によれば、処理水中の処理対象物のみならず処理ガス中の処理対象物も同時に浄化することができる散水式浄化装置を提供することができることになる。
【発明の効果】
【0026】
従って、従来のスポンジ担体を用いた場合に比べ、格段に早い速度で排水処理、ガス処理を行うことができる。本発明の散水式浄化装置は好気性の有効微生物を保持して効率的に酸素供給を行うためのシステムであるため、排水およびガス中に含まれる成分に対応した微生物が自然に増殖することにより、生物分解可能な成分であれば、処理が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】散水式浄化装置の模式図
【図2】保水体を流下する処理水を示す図
【図3】保水体の斜視図
【図4】COD分解率のグラフ
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明の散水式浄化装置および散水式浄化装置用保水体を説明する。なお、以下に好適な実施例を記すが、これら実施例はそれぞれ、本発明をより具体的に例示するために記載されたものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々変更が可能であり、本発明は、以下の記載に限定されるものではない。
【0029】
図1に示すように、散水式浄化装置は、架台1に中空のタンク2を設けてなり、前記中空のタンク2内に処理空間21を形成するとともに、散水部3を設け、該散水部3の下方に保水体4を上下姿勢に保持する保持部5を設けて構成する。また、前記保持部5に前記保水体4を保持した状態で、前記散水部3より前記保水体4に処理水を供給する処理水供給手段6を備え、前記保水体4により浄化された処理水を取出す処理水排出手段7を備え、前記処理空間21内を大気解放状態に維持する給気管8および排気管9を備える。
【0030】
前記タンク2の上部には給水管61を設けるとともに、前記給水管61から供給される処理水を前記散水部3により前記保水体4に供給可能に処理水供給手段6を構成する。また、タンク2の底部には、有孔底板22を設け、その下部には、前記有孔底板22を通過して滴下する処理水を集める集水部71を形成し、前記集水部71には排水管72を設けて処理水排出手段7を構成する。これにより前記給水管61から供給される処理水は、前記保水体4を伝って流下し、集水部71で集水された後、排水管72を通してタンク2外に排出される。
なお、タンク2内面やその他のタンク2内の部材には、腐食防止のため、表面にステンレス加工を施すことが望ましい。
【0031】
前記前記散水部3は、給水管61から供給される処理水を受ける皿状部材31を備え、前記皿状部材31は、底面に多数の散水孔32を開設してある。前記皿状部材31はタンク2内の上部に水平姿勢に設けられ、前記散水孔32から均一に前記保水体4に処理水を滴下供給可能に構成してある。なお、散水部3としては、上記のような皿状部材31のほか、散水孔32を有する管体を旋回させる構造や、多数の孔を開設したシャワ−状のものなど、種々の構造を採用することができる。
【0032】
タンク2内上部の散水部3の直下に水平姿勢でに配備される環状の保持部材51を設ける。前記保持部材51のその外側面には、タンク2内面に設けられたガイド部23に係止固定する係止部52を備える。これにより、前記保持部材51の内側面には、保水体4を保持する保持部5を備える。よって、保持部材51をタンク2内面に固定すると、その固定状態で保持部材51の保持部5に保水体4を保持することができる。
【0033】
保水体4は、図1、3に示すように、吸水性シートからなり、全長にわたって保水状態を維持することができる上下長を有する複数のシート状保水部41と、前記複数のシート状保水部41、41同士を、間隔をあけて上下に接続し、処理水を伝わらせて流下する糸状の流下部42とを備え、シート状保水部41を筒状に巻いた状態で前記保持部材51に保持させてある。前記シート状保水部41は、たとえば、ナイロン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ビニロン、アクリル繊維、炭素繊維から選ばれる少なくとも一種を主材とする繊維の太さ10〜2000μm、目付0.005〜0.2g/cm2のタオル地の吸水性シートからなり、一端側に前記保持部5に吊り下げ係止する係止部43を設けてある。また、前記保水体4に伝わらせて流下する処理水は、前記シート状保水部41に浸入して拡散し、前記シート状保水部41内を移動して糸状の前記流下部42に達し、その流下部42から下方に隣接するシート状保水部41に移流するように千鳥配置して構成してある。また、前記シート状保水部41の上下長は10〜60mmであり、前記流下部42の長さが5〜30mmとしてある。前記保水体4を前記保持部材51に係止させるには、紐状部材(たとえば、テグスや水糸などのフレキシブルでかつある程度の強度を有するもの)を用いてもよい。
【0034】
また、図1に示すように、タンク2には、タンク2内に空気を供給する給気管8を連通させて設けるとともに、タンク2内の空気を排気する常開の排気管9を連通させてある。なお、前記給気管8には、タンク2内にたとえば硫化水素などの処理ガスを供給する処理ガス供給手段81を連設してあり、前記タンク2内に空気を供給する際に処理ガスをあわせて供給し、空気とともに前記処理ガスを、前記保水体4に吸収された処理水に溶解させることができるように構成してある。
【0035】
次に、上記のような構成した散水式装置の使用方法について説明する。
先ず、処理水を処理する場合は、図1に示すように、処理水を給水管61を介して散水部3内に供給する。これにより処理水は、散水孔32を介して保水体4に均等に散水され、吸水される。
【0036】
保水体4に吸収された処理水は、保水体4を伝って流下する間に、付着微生物により分解処理されるとともに、浮遊物質(SS)の捕捉が行われる。処理水は、前記保水体4下端に達した後、下方に落下し、有孔底板22を透過した後、集水部71、排水管72を介してタンク2外に送水される。なお、処理工程中は、給気管8および排気管9を開放し、タンク2内に常に新鮮な空気を流入させ、前記保水体4中に生育する微生物に酸素を供給するとともに、処理水の浄化処理能力の促進を図る。また、前記処理ガス供給手段81から処理ガスを導入しつつ上記処理水の浄化を行うと、前記処理ガスは、前記処理水中に溶解しつつ、前記処理水とともに微生物により分解浄化される。
【0037】
上記散水式浄化装置のモデル試験を行った実施例を以下に示す。
〔実施例〕
長さ0.3m、内径2cmの透明アクリルチューブを上記タンク2として用いて、前記アクリルチューブ上部に密栓を設け、前記密栓に人口排水を供給する給水管61および処理ガス供給手段81としての給気管8を設けた散水式浄化装置を作成した。この散水式浄化装置の内部に下記保水体4を挿入して吊り下げ固定した。試験開始にあたり、メタン発酵排水を水処理している排水汚泥100mlを本装置に2回通し、保水体に汚泥を吸着させた。その後1日あたり288mLのメタン発酵排水(溶解性COD濃度525mg/L)を上部から滴下した。また、空気を14.4L/日の割合で前記アクリルチューブ内に循環供給した。
【0038】
保水体
シート状保水部;
材質 :ポリエスエル80%、ナイロン20%
繊維の太さ :20番手
目付 :0.025g/cm2
使用量 :体積30cm3
上下長 :34〜38mm
厚さ :10mm
流下部;
材質 :ポリエステル
糸の太さ :0.3mm
上下長 :10〜20mm
HRT :0.18日
負荷 :3g−溶解性CODcr/m3・日
【0039】
図4に示すように、試験開始6日後に溶解性CODの分解率は安定し、その後5日間の溶解性CODcrの分解率は平均72%であった。
【0040】
〔比較例〕
上記実施例で用いた散水式浄化装置の内部に前記保水体4に代え、下記スポンジ状の担体を充填し、上記実施例と同様の保水能力とした散水式浄化装置を用い同様に試験を行った。
【0041】
スポンジ担体
材質:ポリウレタン
目開き(吸水能力) :0.442cm3/cm3
長さ、体積(使用量):体積25.73cm3(使用量:25.7×20=514.7cm3),全長1m
HRT:0.18日
負荷 :3g−溶解性CODcr/m3・日
【0042】
図4に示すように、試験開始6日後に溶解性CODの分解率は安定し、その後5日間の溶解性CODcrの分解率は平均32%であった。
【0043】
その結果、本発明の散水式浄化装置用保水体を用いれば、DHS法同様に処理水を処理する機能を再現しつつ、散水式浄化装置に供給される処理ガスを良好に浄化できることが明らかになった。
【0044】
〔その他の実施形態〕
先の実施形態では、前記保水体4は吊り下げ保持したが、これに限らず支持板に通水性シート等のシート状保水部41を複数貼付け、前記シート状保水部41に処理水を上下全長にわたって保水状態を維持することが出来るとともに、前記複数のシート状保水部41同士を、間隔をあけて上下に接続し、処理水を伝わらせて流下する流下断面積が前記シート状保水部よりも小さい流下部42を形成した保水体4を設け、前記支持板を前記タンク2内に立設固定する構造であっても良く、また、前記保水体4の上方から保持する構成に限らず、側方、あるいは下方から保持する形態であっても良く、前記保水体4を保持する形態は種々公知の方法を適用することができる。
【0045】
また、上述の実施形態では、保水体4は、吸水性シートからなるシート状保水部41を筒状に吊り下げ保持したが、平面状の複数の吸水性シートを面方向に複数並列した形態で保持するなど吊り下げ保持する場合であっても、種々形態を採用することができる。
【0046】
また、上述の実施形態におけるシート状保水部41の保水性は、実際に処理水を含浸させ、微生物が育成する条件下で保水する寸法形状に設定すれば良く、吸水性シート等の素材そのものの保水性に加えて、その吸水性シート等の素材に表面性状の変化が生じた状態で、上下姿勢に保持した場合に、全長にわたって保水状態を維持することができる上下長が確保されていればよい。
【0047】
また、吸水性シートは、織布または不織布、編み地、であっても良く、スポンジシート、セラミックシートのように薄板状の多孔質部材であっても良い。これらの素材からなるシート状保水部41の場合も、そのシート状保水部41を上下姿勢に保持した場合に、全長にわたって保水状態を維持することができる上下長に設定すれば良い。
【産業上の利用可能性】
【0048】
早い速度で排水処理、ガス処理を行うことができるとともに、装置の大型化にも対応容易な浄化装置を提供することができた。
【符号の説明】
【0049】
1 :架台
2 :タンク
21 :処理空間
22 :有孔底板
23 :ガイド部
3 :散水部
31 :皿状部材
32 :散水孔
4 :保水体
41 :シート状保水部
42 :流下部
43 :係止部
5 :保持部
51 :保持部材
52 :係止部
6 :処理水供給手段
61 :給水管
7 :処理水排出手段
71 :集水部
72 :排水管
8 :給気管
81 :処理ガス供給手段
9 :排気管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理空間中に上下姿勢で配置されたシート状の保水体に、処理水を伝わらせて流下させ、
前記処理空間内に酸素含有ガスを導入するとともに、前記処理空間から気体を排出することによって、
処理水をろ過するとともに前記保水体の付着微生物により処理水中および/または酸素含有ガス中の処理対象物を分解処理する散水式浄化装置用保水体であって、
前記保水体は、全長にわたって保水状態を維持することができる上下長を有する複数のシート状保水部と、
前記複数のシート状保水部同士を、間隔をあけて上下に接続し、処理水を伝わらせて流下する流下断面積が前記シート状保水部よりも小さい流下部とを備えた散水式浄化装置用保水体。
【請求項2】
前記シート状保水部が繊維の太さ10〜2000μm、目付0.005〜0.2g/cm2の織布または不織布、編み地、タオル地もしくは孔径0.01〜2mmの多孔質シートから構成してある請求項1に記載の散水式浄化装置用保水体。
【請求項3】
前記シート状保水部がナイロン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ビニロン、アクリル繊維、炭素繊維から選ばれる少なくとも一種を主材とする請求項1または請求項2に記載の散水式浄化装置用保水体。
【請求項4】
前記シート状保水部の上下長が、10〜60mmであり、前記流下部の長さが5〜30mmである請求項1〜3のいずれか一項に記載の散水式浄化装置用保水体。
【請求項5】
中空のタンク内に処理空間を形成するとともに、散水部を設け、
該散水部の下方にシート状の保水体を上下姿勢に保持する保持部を設け、
前記保持部に前記保水体を保持した状態で、
前記散水部より前記保水体に処理水を供給する処理水供給手段を備え、
前記保水体により浄化された処理水を取出す処理水排出手段を備え、
前記処理空間内に酸素含有ガスを供給する給気管を設け、
前記処理空間内のガスを排出する排気管を設けた
散水式浄化装置であって、
前記保水体は、全長にわたって保水状態を維持することができる上下長を有する複数のシート状保水部と、
前記複数のシート状保水部同士を、間隔をあけて上下に接続し、処理水を伝わらせて流下する流下断面積が前記シート状保水部よりも小さい流下部とを備えた散水式浄化装置。
【請求項6】
前記中空のタンク内に処理ガスを供給する処理ガス供給手段を設けるとともに、前記処理ガスに含有される処理対象物を前記処理水とともに前記保水体の付着微生物により分解処理する請求項5に記載の散水式浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−179516(P2012−179516A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42821(P2011−42821)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【Fターム(参考)】