説明

整形装置

【課題】 被整形部材を簡易且つより安全に整形することができる整形装置を提供する。
【解決手段】整形装置10は、被整形部材Sを整形するための整形装置10であって、被整形部材Sを切削する切削刃12を一方向に移動させる刃移動装置14と、被整形部材Sを保持すると共に、切削刃12の刃先の移動面Pに対する被整形部材Sの配置を調整する保持装置50と、被整形部材Sにおいて切削刃12の切削により整形される領域を観察するための観察装置62とを備え、保持装置50は、切削刃12の刃先の移動面Pの法線方向に対して被整形部材Sを傾斜させる傾斜機構及び被整形部材Sの中心軸線C周りに被整形部材Sを回転させる回転機構を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被整形部材を整形する整形装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子顕微鏡等で観察する薄片試料は、厚さ100nm程度の薄いものである。このような薄片試料を作製する際には、通常、次のような手順を踏む。
【0003】
先ず、バルク、フィルム状、粉体等の各種試料が必要に応じて包埋樹脂(包埋材)に埋め込まれた四角柱状の試料ブロック(被整形部材)を作製する。なお、試料を包埋樹脂に埋設せずに単独で使用してもよい。次いで、試料ブロックの一端の端面が0.5mm角程度となるように上記一端側の角をナイフなどで切削する。このように試料ブロックを整形する作業はトリミングとして知られている。そして、トリミングされた試料ブロックの一端を例えば、薄片試料作製装置などとして知られている超ミクロトームなどを利用して薄くスライスすることで、電子顕微鏡用の薄片試料を作製する。光学顕微鏡用等に、より大きく厚い薄片試料を作製する装置として、特許文献1に記載の滑走式ミクロトームや回転式ミクロトームが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−289747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来、上記トリミングは実体顕微鏡等で被整形部材としての試料ブロックを観察しながら、手作業で行っていたため、熟練を要すると共に、ナイフで指などを切ることなどがあった。
【0006】
そこで、本発明は、被整形部材を簡易且つより安全に整形することができる整形装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る整形装置は、被整形部材を整形するための整形装置であって、被整形部材を切削する切削刃を一方向に移動させる刃移動装置と、被整形部材を保持すると共に、切削刃の刃先の移動面に対する被整形部材の配置を調整する保持装置と、被整形部材において切削刃の切削により整形される領域を観察するための観察装置と、を備え、上記保持装置は、切削刃の刃先の移動面の法線方向に対して被整形部材を傾斜させる傾斜機構及び被整形部材の中心軸線周りに被整形部材を回転させる回転機構を有する。
【0008】
上記構成では、保持装置により被整形部材を保持し、傾斜機構及び回転機構を利用して、上記移動面に対する被整形部材の配置を調整する。その後、刃移動装置で切削刃を一方向に移動させることによって、被整形部材を切削する。上記被整形部材の配置の調整や切削刃による切削位置の確認などは観察装置により確認することができる。このように、本発明に係る整形装置では、切削刃を手で持って被整形部材の整形をしなくてもよく、観察装置で観察しながら被整形部材の整形領域を調整して切削できるので、簡易且つより安全に被整形部材の整形が可能である。
【0009】
また、本発明に係る整形装置は、切削刃の移動方向を観察装置で表示するための刃移動方向表示手段を更に備える、ことが好ましい。
【0010】
このような刃移動方向表示手段を備えることで、観察装置の視野内において切削刃が被整形部材に近づくまでみえないとしても、刃移動方向表示手段により切削刃の移動方向が示されているため、切削位置が分かる。その結果、被整形部材をより所望の形状に整形することができる。
【0011】
更に、本発明に係る整形装置では、観察装置は実体顕微鏡であり、刃移動方向表示手段は、実体顕微鏡内において上記移動面と共役な面に設けられている、ことが好適である。
【0012】
上記実体顕微鏡内の光学系において、上記移動面と共役な面に上記刃移動方向表示手段を設けることで、切削刃の切削位置を実体顕微鏡で観察しながら調整することができる。その結果、前述したように、被整形部材をより所望の形状に整形することができる。
【0013】
また、本発明に係る整形装置では、刃移動装置は、切削刃を保持する切削刃保持手段を更に備える、ことが好ましい。
【0014】
このように切削刃保持手段を備える整形装置では、刃移動装置は、所定方向に延在しているベース部と、ベース部の一側部上に設けられておりベース部の延在方向に沿って延びるテーブルと、テーブルに取り付けられており延在方向にスライドするスライダと、を備え、切削刃保持手段は、スライダに取り付けられている、ことが好適である。
【0015】
この構成では、スライダをテーブルに沿ってスライドさせることで、切削刃保持手段がテーブルの延在方向に移動する。その結果、切削刃保持手段に保持された切削刃を上記延在方向に容易に移動させることが可能である。
【0016】
更に、本発明に係る整形装置では、切削刃保持手段は、切削刃の刃先の移動面に対して切削刃の傾斜角を調整する傾斜機構と、移動面内で切削刃を回転させる回転機構と、を有する、ことが好ましい。この傾斜機構及び回転機構により、切削刃の引き角及び逃げ角を調整可能である。
【0017】
また、本発明に係る整形装置では、切削刃は一方向に延在しており、切削刃保持手段は、切削刃の延在方向に渡って切削刃を保持する、ことが好適である。
【0018】
この場合、切削刃がその延在方向に渡って切削刃保持手段で保持されることになるので、切削刃の延在方向のどの位置においても、切削刃の曲がり等を抑制しながら被整形部材を切削することができる。
【0019】
更にまた、本発明に係る整形装置では、切削刃の刃先角は30度以下である、ことが好ましい。このような刃先角の切削刃を用いることで、被整形部材が小さいものであっても、切削可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る整形装置によれば、簡易に且つより安全に被整形部材を整形することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係る整形装置の一実施形態の側面構成を示す模式図である。
【図2】図1に示した整形装置を図1中の白抜き矢印A側からみた場合の模式図である。
【図3】図1に示した整形装置の上面図である。
【図4】図1に示した整形装置で整形される被整形部材の一例の斜視図である。
【図5】図1に示した整形装置が有する切削刃の模式図である。
【図6】図1に示した整形装置が有する切削刃保持手段の一例の構成を概略的に示す側面図である。
【図7】刃移動表示手段の一例の平面図である。
【図8】滑走式の場合の切削刃による被整形部材の切削状況を示す図面である。
【図9】回転式の場合の切削刃による被整形部材の切削状況を示す図面である。
【図10】切削角と切削力との関係を示す図面である。
【図11】図9に示した被整形部材における中心位置からの距離と厚さ変位量との関係を示す図面である。
【図12】図9に示した被整形部材における中心位置からの距離と、回転式の場合と滑走式の場合の切削角差との関係を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面とともに本発明に係る整形装置の実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。更に、以下の説明における「上」、「下」、「前」、「後」等の方向を示す語は、図面に示された状態に基づいた便宜的な語である。
【0023】
図1は、本発明に係る整形装置の一実施形態の側面構成を示す模式図である。図2は、図1の白抜き矢印A方向からみた場合の整形装置の模式図である。また、図3は、図1に示した整形装置の上側からみた場合の模式図である。図4は、図1に示した整形装置で整形する被整形部材の斜視図である。図5は、図1の整形装置で使用する切削刃の模式図である。図5(a)は、切削刃の平面構成の模式図であり、図5(b)は切削刃の側面構成の模式図である。
【0024】
整形装置10は、例えば電子顕微鏡で観察する厚さ約100nm程度の薄片試料を用意するために、試料ブロック(被整形部材)Sをトリミングするトリミング装置である。試料ブロックSは、バルク状、フィルム状、粉体等の各種試料S1が必要に応じて包埋材S2に埋設されたものである。試料ブロックSの大きさの一例としては、長手方向に略直交する断面の一辺が約0.1〜10mm程度であり、長手方向の長さが約15mm程度である。試料ブロックSは、試料S1が包埋材S2に埋設されたものとせずに試料S1自体としてもよい。また、試料S1の材料としては、例えば、ポリエチレンなどのポリマーが例示される。また、包埋材S2としてはエポキシ樹脂などが例示される。
【0025】
整形装置10は、切削刃12を一方向に移動させて試料ブロックSを切削する切削装置(刃移動装置)14を有している。試料ブロックSが前述したような大きさの場合でもトリミング可能なように、整形装置10で利用される切削刃12は、刃先角θ(図5(b)参照)が約30度以下の薄いものが好ましい。
【0026】
通常、整形装置10は、作業台等の上に設置されるため、ここでも整形装置10は作業台上に設置されているものとして説明する。この場合、切削刃12が切削装置14によって移動する面である移動面P(図5(a),(b)の一点鎖線で示す平面)は水平となる。以下では、説明の便宜上、図1〜図3に示すように、切削刃12の移動方向をx軸方向とし、水平面(移動面Pが水平面でない場合は、移動面Pを含む面を指す。以下についても同様である)内でx軸方向に直交する方向をy軸方向、x軸及びy軸方向に直交する方向をz軸方向とも称す。
【0027】
切削装置14は、略長方体形状のベース部18を有する。ベース部18上には、ベース部18の長手方向(x軸方向)に延びる一側部上に、その側部に沿って延在している滑走部20が設けられている。
【0028】
滑走部20は、ベース部18上に固定されたテーブル22と、テーブル22に対して滑走するスライダ24とを有し、スライダ24は、x軸方向に移動可能にベース部18に取り付けられている。スライダ24の側部にはハンドル部26が設けられており、作業者がハンドル部26を持ってx軸方向に沿って前後にスライダ24を移動させることができる。スライダ24の移動量としては、例えば10mm以上であることが好ましい。テーブル22は、ベース部18に一体的に設けられていても良い。スライダ24には、切削刃保持手段28を介して切削刃12が取り付けられている。
【0029】
切削刃保持手段28は、切削刃12が取り付けられる切削刃ホルダ30と、切削刃ホルダ30をスライダ24の上面に取り付けるためのホルダ支持体32とを有する。
【0030】
切削刃ホルダ30は、一方向に延在しており、一端部側でホルダ支持体32を介してスライダ24に取り付けられている。切削刃ホルダ30の延在方向の長さは切削刃12の延在方向の長さとほぼ同じ長さであることが好ましい。これにより、ホルダ支持体32側と反対側の切削刃12の端部まで確実に切削刃12を保持できるからである。切削刃12を容易に替えることができるように、切削刃ホルダ30は切削刃12を着脱可能に保持する。このような構成としては、例えばネジなどにより切削刃12を切削刃ホルダ30に取り付けるものとしても良いし、切削刃ホルダ30にレバー等により操作可能な押圧部材を設けておき、押圧部材をレバーにより操作して押圧部材によって切削刃12を切削刃ホルダ30に押しつけて保持してもよい。
【0031】
ホルダ支持体32の構成は、切削刃ホルダ30をスライダ24に取り付け可能であれば特に限定されないが、切削刃12の引き角ε及び傾斜角δを調整可能であることが好適である。換言すれば、ホルダ支持体32は、刃先の水平面(移動面P)内において刃先を回転可能な回転機構と、水平面(移動面P)に対する切削刃12の傾斜角δを調整可能な傾斜機構とを含んで構成されていることが好ましい。図5(a)に示すように、上記引き角εは水平面(移動面P)内において切削刃12の進行方向X(x軸方向)に直交する方向Y(y軸方向)と刃先のなす角度である。また、傾斜角δは、図5(b)に示すように移動面Pと切削刃12の背面とのなす角度である。このように傾斜角δを調整することにより、試料ブロックSを切削する際の切削面と切削刃12の背面とのなす角度である逃げ角δ(図8参照)を調整可能となっている。上述した引き角ε及び傾斜角δを調整可能な構成としては例えば図6に示すものが例示できる。
【0032】
図6は、ホルダ支持体を含む切削刃保持手段の一例の構成を概略的に示す側面図である。図6に示すように、ホルダ支持体32は、スライダ24の上面に例えばボルトを利用して取り付けられた台部34と、台部34上に設けられてその上面に切削刃ホルダ30の底面が固定される支持柱36とを有する。ホルダ支持体32では、台部34において支持柱36が取り付けられる取付け領域が下側に凸となるように湾曲しており、支持柱36の下面は、取付け領域の湾曲面に沿ってスライド可能に湾曲している。
【0033】
図6に示した構成では、台部34の取付け領域上に支持柱36を設け、取付け領域の湾曲面に沿って支持柱36をスライドさせることで、支持柱36の上面に取り付けられた切削刃ホルダ30が傾斜する。その結果、本構成は切削刃12の傾斜機構として機能して切削刃12の傾斜角δを調整できる。また、台部34に設けられたレバー38によりボルトの締め付け状態を調整して、台部34をボルトの中心軸線周りに回転させることによって、切削刃12の刃先を水平面内で回転でき、本構成は切削刃12の回転機構として機能する。
【0034】
再度、図1〜図3を参照して整形装置10の構成について説明する。
【0035】
図1〜図3に示すように、上記スライダ24から切削刃ホルダ30及び切削刃12が延びている側(図2中の左側)のベース部18上には、切削装置14の一部を構成する試料載置台40が設けられている。ベース部18において、試料載置台40が設置される設置領域は、ベース部18内部に配置されている昇降機構に連動しており、ベース部18の側面に設けられたハンドル部42を回すことで、試料載置台40は昇降する。試料載置台40の上下方向の移動量は0μm以上1000μm以下が例示される。
【0036】
試料載置台40は、試料載置面44のあおりを調整する、あおり調整機構を有し、つまみ46,48を回すことで、例えば一度トリミングした面を追加トリミングする場合に、トリミングしようとする面が切削面Pに平行になるように試料載置面44の水平面に対する傾斜角を調整することができる。この場合、試料載置面44のあおりの調整範囲は例えば0°〜10°である。試料載置台40の試料載置面44上には、試料ブロック保持装置50を介して試料ブロックSが載置される。
【0037】
試料ブロック保持装置50は、試料ブロックSを保持する試料ブロックホルダ52が、試料ブロックホルダ52を鉛直方向(移動面Pが水平面でない場合は、移動面Pの法線方向を指す。以下についても同様である)に対して傾斜させる傾斜機構部54に取り付けられて構成されている。試料ブロックホルダ52は、試料ブロックSを挿入可能な柱状体であり、試料ブロックSが挿入された際に、試料ブロックSの中心軸線Cと、試料ブロックホルダ52の中心軸線とがほぼ一致するように構成されている。
【0038】
傾斜機構部54は、図1の白抜き矢印A方向からみた側面形状が円弧状のレール部56(図2参照)と、試料ブロックホルダ52が取り付けられるホルダ支持体58とを有し、ホルダ支持体58がレール部56に沿って移動可能にレール部56に取り付けられて構成されている。ホルダ支持体58は、つまみ60を回すことでレール部56に固定可能となっている。試料ブロックホルダ52は、ホルダ支持体58に試料ブロックホルダ52の中心軸線周りに360°回転変位可能に取り付けられる。試料ブロックホルダ52は、約90°毎にクリックストップ可能に回転できることが好ましい。このように、試料ブロックホルダ52とホルダ支持体58とにより、試料ブロックSを回転させることができるので、試料ブロックホルダ52とホルダ支持体58とは回転機構を構成していることになる。
【0039】
上記構成では、ホルダ支持体58をレール部56に沿って移動させることで、試料ブロックSを鉛直方向に対して傾斜させることができる。この傾斜角は0°〜90°が好ましい。これはレール部56の側面形状が円周の1/4となるようにレール部56を構成しておけばよい。また、試料ブロックホルダ52を、その中心軸線周りに回転させることで、試料ブロックSを試料ブロックSの中心軸線Cの周りに回転させることができる。
【0040】
図1〜図3に示すように、整形装置10は、試料ブロックSにおいて切削刃12で切削される切削領域を観察するための観察装置として実体顕微鏡62を有する。鏡台64は切削装置14のベース部18下に設けられており、その鏡台64から鉛直方向に延びる鏡柱66に、対物レンズを含む鏡体68が取り付けられて構成されている。実体顕微鏡62では、例えば鏡体68を鏡柱66に対して上下動させることで焦準を調整できる。実体顕微鏡62の倍率は、1倍以上100倍以下が好ましい。鏡体68には接眼レンズ70が取り付けられている。
【0041】
本実施形態における整形装置10では、実体顕微鏡62内の光学系における刃先の移動面Pと共役な面の一つには、切削刃12による切削ラインを示すための切削ライン表示部(刃移動方向表示手段)72が設けられていることが好ましい。図7は、切削ライン表示部の一例を示す図面であり、ガラス等の透光部材からなる円板状のプレート74に刃先の移動方向を示す切削ライン76が示されていればよい。このような切削ライン表示部72としては、切削ライン76が表示された接眼レチクルが例示される。ここでは、刃移動方向表示手段として、上述した接眼レチクルのような切削ライン表示部を例示したが、切削ライン76の方向に張られたワイヤー、切削ライン76の方向に照射された光線などでも刃移動方向表示手段として使用することができる。
【0042】
上記整形装置10では、次のようにして試料ブロックSのトリミングを実施する。先ず、試料S1が必要に応じて包埋材S2に埋め込まれてなる四角柱状の試料ブロックSを準備し、試料ブロック保持装置50に固定する。なお、試料ブロックSは、包埋材S2に試料S1が埋設されていない試料S1自体とすることもできる。そして、実体顕微鏡62で観察しながら、試料載置台40及び試料ブロック保持装置50を利用して試料ブロックSの先端部のうち切削すべき領域を刃先の移動面P上に位置させる。その後、スライダ24をテーブル22に対してスライドさせる。これにより、試料ブロックSが切削刃12により切削される。
【0043】
整形装置10では、試料載置台40の昇降装置を利用して試料ブロックSのz軸方向の高さを調整することができる。また、試料ブロック保持装置50の傾斜機構部54により試料ブロックSのz軸方向に対する傾斜角を調整可能であると共に、試料ブロックホルダ52をその中心軸線周りに回転させることで、試料ブロックSを中心軸線Cの周りに回転することができる。その結果、トリミング形状を調整できるようになっている。更に、整形装置10の試料載置台40を、試料載置面44のあおりの調整が可能な構成とすることで、z軸方向に対する試料ブロックSの傾斜角を更に微調整することができることから、トリミング形状をより所望の形状にすることができる。また、実体顕微鏡62を備えていることから、実体顕微鏡62で観察しながらトリミングを実施することによって、より確実に所望の形状にトリミングできる。
【0044】
従って、従来のように作業者が実体顕微鏡下で試料ブロックを観察しながら、切削刃を手でもってトリミングする場合に比べて、作業者が怪我をすることがなく、簡易にトリミングを実施できる。また、試料ブロックホルダ52として超ミクロトームで使用される試料ブロックホルダと同じものを採用することによって、試料ブロックホルダ52から試料ブロックSを取り外さずに超ミクロトームを使用して電子顕微鏡用の薄片試料を切り出すことも可能である。
【0045】
ところで、実体顕微鏡62の視野内では、試料ブロックS近傍まで切削刃12がスライドして来るまで切削刃12が見えないため、切削刃12による切削位置を確実に規定するのが困難な場合がある。一方、試料ブロックS内の試料S1部分は可能な限り切削せずに残すことが好ましいことから、切削位置をより確実に確認できることが望ましい。
【0046】
そこで、前述したように、切削刃12の移動位置を示す切削ライン表示部72を備えることが、より所望のトリミングを実施する観点から好ましい。
【0047】
切削ライン表示部72を利用した場合には、次の(1)〜(8)の手順で切削位置を規定して切削することができる。
(1)実体顕微鏡62の視野を試料ブロックSの端部の切削刃12の入射位置に合わせる。
(2)(1)で合わせた入射位置で仮切削をし、その切削エッジと切削ライン76の方向を正確に合わせる。
(3)試料ブロックSを切削厚み分だけ上昇させる。
(4)切削刃12を試料ブロックSに近づけ実体顕微鏡62の同一視野に入るようにする。
(5)切削刃12の入射位置が正確に切削したい位置になるように試料ブロックSを位置合わせする。
(6)切削ライン76を切削刃12の入射位置に正確にあわせる。
(7)切削したい方向と切削ライン76が一致するように試料ブロックSの向きを正確に合わせる。
(8)上記(7)で合わせた位置でスライダ24をテーブル22に対してスライドさせて試料ブロックSを切削刃12で切削する。
【0048】
なお、実体顕微鏡62の焦準は移動面Pに合わされているため、試料ブロックSにおいてピントが合っている部分が切削されることになる。そこで、上記(2)の後に試料ブロックSを上昇させ、ピントの合う高さが切削ライン76に合うように試料ブロックSの位置を調整した後に、切削することも可能である。しかしながら、ピントの精度に依存することになるため、上記(1)〜(8)の手順により位置決めし、切削する方がより高精度に切削位置を所望の位置に合わせることができる。
【0049】
上記のように切削ライン表示部72を利用することで、試料ブロックSにおける切削位置をより確実に決定することができる。その結果、試料ブロックSに埋設されている試料S1を削らずにトリミングをすることができることになる。
【0050】
また、上記整形装置10では、切削刃12を一方向に移動させる移動手段として滑走式の切削装置14を採用していることも重要である。以下、固定された切削刃に対して試料ブロックSを円弧運動させて切削を実施する回転式の切削装置の場合と比較して滑走式を採用していることの作用効果について図8〜図12を利用して説明する。ここでは、切削力Rに着目して滑走式と回転式とを比較する。
【0051】
図8は、滑走式の場合の切削刃による試料ブロックの切削状態を示すための模式図である。図8中の一点鎖線l1は、切削刃12の軌跡を示している。図9は、回転式の場合の切削刃による試料ブロックの切削状況を示すための模式図である。図9において一点鎖線l2は、回転式の場合の切削刃の軌跡を示しており、二点鎖線l1は比較のために滑走式の場合の切削刃12の軌跡を示している。
【0052】
主剪断流動応力をτ、切削面(ここでは試料ブロックSを移動面Pで切断した場合の断面と一致するものとする)における試料ブロックSの幅(図8,9中において紙面に垂直な方向の長さ)をb、切削刃12と切片の摩擦角をβとし、切削力をRとすると、Rは、
【数1】


と表されることが分かる(例えば、「朝倉健太郎、広畑泰久編「電子顕微鏡研究者のためのウルトラミクロトーム技法Q&A」、第1版、p18、1999年、アグネ承風社、東京」参照)。
【0053】
図10は、切削角と切削力との関係を示す図面である。図10中の横軸は切削角γ(°)を示しており、縦軸は切削力(a.u.)を示している。切削角γは、切削刃12の背面と切削面とのなす角である逃げ角δと、刃先角θとの和である。なお、前述したように、逃げ角δは、傾斜角δを適宜設定することで調整することができる。式(1)より、切削角γの関数としてRを表すと、図10に示す曲線のように、切削角γが大きくなるにつれて切削力Rは大きくなる。
【0054】
滑走式の場合、切削刃12と試料ブロックSとの相対運動は直線運動であるため、試料ブロックS内の切削刃12の軌跡は、図8に示す一点鎖線(図9に示す二点鎖線)l1のようにほぼ直線である。この場合、切削厚さt及び切削刃12の切削角γはほぼ一定であり、結果として、切削力Rもほぼ一定になる。
【0055】
一方、回転式の場合、切削刃12と試料ブロックSの相対運動は円弧運動である。通常、切削刃12が固定された状態で、試料ブロックSが所定の半径rで円弧を描きながら切削が実施される。この場合、試料ブロックSに対する切削刃12の軌跡は、図9の一点鎖線l2のように半径rの円弧状となり、切削厚さt及び切削角γは、試料ブロックS内の位置により変化する。
【0056】
滑走式のように切削刃12が試料ブロックS内を一方向に移動していると仮定したとき(図9中の二点鎖線l1の位置)の切削厚さtをtとした場合に、回転式の場合の切削厚さtとtとの差である厚さ変位量をΔt(μm)とする。また、半径rの円弧である図9中の一点鎖線l2の接線と図9中の二点鎖線l1とのなす角度をρとする。このρは、回転式の場合の切削角γ(°)をγ(°)と称し、滑走式の場合の切削角γ(°)をγ(°)と称すると、切削刃12の試料ブロックS内での位置が回転式の場合と滑走式の場合とで同じときに、回転式の切削角γ(°)から滑走式の切削角γ(°)を引いた切削角差に対応する。図9に示した滑走式の場合の切削刃12の軌跡(図9中の二点鎖線l1)における切削角γはγであるから、回転式の切削角γは、γ+ρで表されることになる。また、図9中の試料ブロックSの切削方向の長さWに対して試料ブロックSの中心位置(W/2)の位置を基準とし、その基準位置から切削刃12が入射される端面側における切削刃の刃先までの距離をwとした場合、試料ブロックS内の位置に対するΔt及びρはそれぞれ次式(2)及び式(3)で表される。
【数2】


【数3】


図11は、試料ブロック中の位置と厚さ変位量との関係を示す図面である。横軸は中心位置からの距離w(mm)を表し、縦軸は厚さ変位量Δt(μm)を表している。また、図12は、試料ブロック中の位置と、回転式の場合と滑走式の場合の切削角差との関係を示す図面である。図12中の横軸は中心位置からの距離w(mm)を表し、縦軸は回転式の場合の切削角γ(°)から滑走式の場合の切削角γ(°)を引いた切削角差ρ(°)を示している。なお、図11及び図12では、図9に示した試料ブロックの左半分における厚さ変位量及び切削角差を示している。
【0057】
前述したように、回転式の切削角γはγ+ρで表される。γは一定であることから、回転式の場合の切削角γは、切削角差ρに応じて変化することになる。図12に示したように、試料ブロックS内の位置に応じて切削角差ρが変わるので、結果として、試料ブロックS内の位置に応じて回転式の場合の切削角γが変化する。そして、試料ブロックS内の同じ位置では、回転式の場合の切削角γの方が大きいので、図10の結果より、回転式の場合の方が滑走式より切削力Rが大きくなることが分かる。また、式(1)よりtが大きくなるにつれ切削力Rも大きくなるため、図11より、Δtの変化に応じても回転式の方が滑走式よりも切削力Rが大きくなる傾向にある。これらは、切削刃12及び試料ブロックSに対する負担が大きいことを意味する。これに対して、本実施形態の整形装置10では、滑走式を採用しているため、切削刃12及び試料ブロックSへの負担を軽減して試料ブロックSをトリミングできることになる。また、切削力Rが小さいことから、切削面が回転式よりも滑らかになる傾向がある。
【0058】
更に、整形装置10では、滑走式を採用していることで、回転式よりも切片厚さtをより厚くすることも可能である。
【0059】
また、既存の整形装置では、試料ブロックSを高速で回転する刃により切削するため、試料ブロックSの材料によってはトリミング中に試料ブロックSが溶ける場合もある。これに対して、整形装置10では、切削刃が高速で回転しないため、上述したように試料ブロックSが溶けることがなく、試料ブロックSの材料の選択の幅が広がっている。
【0060】
以上、本発明の整形装置の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、ホルダ支持体32は、台部34と支持柱36とを有するとしたが、支持柱36は、切削刃ホルダ30の一部とすることができる。また、実体顕微鏡62の鏡台64上にベース部18が設けられているとしたが、ベース部18を鏡台とすることもできる。この場合、ベース部18の一部から鏡柱が延びていることになる。
【0061】
また、これまでの説明では、被整形部材は、四角柱状の試料ブロックとしたが、被整形部材の形状はこれに限定されず、他の柱状形状のものや、シート状のものとすることもできる。
【符号の説明】
【0062】
10…整形装置、12…切削刃、14…切削装置(刃移動装置)、18…ベース部、20…滑走部、22…テーブル、24…スライダ、28…切削刃保持手段、30…切削刃ホルダ、32…ホルダ支持体、34…台部、36…支持部、40…試料載置台、44…試料載置面、50…試料ブロック保持装置(保持装置)、52…試料ブロックホルダ、54…傾斜機構部、56…レール部、58…ホルダ支持体、62…実体顕微鏡(観察装置)、64…鏡台、66…鏡柱、68…鏡体、70…接眼レンズ、72…切削ライン表示部(切削刃移動方向表示手段)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被整形部材を整形するための整形装置であって、
前記被整形部材を切削する切削刃を一方向に移動させる刃移動装置と、
前記被整形部材を保持すると共に、前記切削刃の刃先の移動面に対する前記被整形部材の配置を調整する保持装置と、
前記被整形部材において前記切削刃の切削により整形される領域を観察するための観察装置と、
を備え、
前記保持装置は、前記切削刃の刃先の移動面の法線方向に対して前記被整形部材を傾斜させる傾斜機構及び前記被整形部材の中心軸線周りに前記被整形部材を回転させる回転機構を有する、
整形装置。
【請求項2】
前記切削刃の移動方向を前記観察装置で表示するための刃移動方向表示手段を更に備える、請求項1に記載の整形装置。
【請求項3】
前記観察装置は実体顕微鏡であり、
前記刃移動方向表示手段は、前記実体顕微鏡内において前記移動面と共役な面に設けられている、請求項2に記載の整形装置。
【請求項4】
前記刃移動装置は、前記切削刃を保持する切削刃保持手段を更に備える、請求項1〜3の何れか一項に記載の整形装置。
【請求項5】
前記刃移動装置は、
所定方向に延在しているベース部と、
前記ベース部の一側部上に設けられており前記ベース部の延在方向に沿って延びるテーブルと、
前記テーブルに取り付けられており前記延在方向にスライドするスライダと、
を備え、
前記切削刃保持手段は、前記スライダに取り付けられている、
請求項4に記載の整形装置。
【請求項6】
前記切削刃保持手段は、
前記切削刃の刃先の前記移動面に対して前記切削刃の傾斜角を調整する傾斜機構と、
前記移動面内で前記切削刃を回転させる回転機構と、
を有する、
請求項4又は5に記載の整形装置。
【請求項7】
前記切削刃は一方向に延在しており、
前記切削刃保持手段は、前記切削刃の延在方向に渡って前記切削刃を保持する、
請求項4〜6の何れか一項に記載の整形装置。
【請求項8】
前記切削刃の刃先角は30度以下である、請求項1〜7の何れか一項に記載の整形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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