説明

整流子モータおよびこれを備えた電気機器

【課題】トルクの低下を防止し、電流の高調波成分を低減し、鉄損の増加を抑制する。
【解決手段】本発明の整流子モータは、界磁巻線を巻回した方形筒状の界磁コア31を含む界磁と、界磁コア31の筒内に回転自在に設けられた電機子とを具備する。界磁コア31は、一対の磁極部35を備えている。また、磁極部35は、電機子と対面し、それぞれが互いに向かい合うように配置されている。そして、磁極部35の電機子と対面する面で、電機子の回転方向の上流側に切欠き部35nである切欠きを設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動送風機やこれを搭載した電気掃除機等の電気機器に具備されている整流子モータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の整流子モータでは、負荷電流の波形歪みを抑制し、高調波電流成分を低減させるために、界磁コアの磁極中央部から端部になるほどギャップ幅を狭くした技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図5は、特許文献1に記載された従来の整流子モータの構成を示す平面図である。図5に示すように、従来の整流子モータは、磁極部92bを有した界磁コア92と電機子コア94とを含み、界磁コア92と電機子コア94との間にギャップ95を設けている。そして、磁極部92b端部のギャップ95aのギャップ幅Gaと、磁極部92b中央のギャップ95bのギャップ幅Gbとの関係を、Ga<Gbとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−34183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この種の整流子モータは、その構成上、通電時の界磁コイルおよび電機子コイルから発生した磁束がそれぞれ合成される。そして、合成された磁束の流れは、磁極の対向する方向とずれた方向に流れることになる。このため、界磁コアの磁極の一部領域で磁束が集中して磁気飽和が生じ、電流の高調波成分の増加や界磁コアの鉄損の増加を引き起こすという課題を有していた。
【0006】
図6は、従来の一般的な整流子モータにおける磁束の流れを示す磁束線図である。図6では、通電時の磁束の流れを可視化するために、構造解析等に利用されるCAEを用いて算出した。図6からも分かるように、界磁コアにおいての磁束は、磁極の対向する方向とずれた方向に流れる。そして、この磁束の流れのずれにより、界磁コアの磁極における回転方向の上流側に磁束が集中している。
【0007】
図7は、従来の一般的な整流子モータにおける磁束密度の分布を示す磁束密度分布図である。図7での矢印で示すように、界磁コアの磁極の回転方向上流側である矢印の領域で磁束密度が最も高くなり、この領域で磁気飽和が生じることになる。
【0008】
これより、磁気飽和を緩和するためには、磁気飽和近傍のみのギャップ幅を広くすればよい。
【0009】
ところが、上述した特許文献1のような構成の場合、ギャップ幅は中央が広く、端部ほど狭くなるような構成である。このため、広げる必要のない部分までギャップを広げており、その結果、磁気抵抗が大きくなり、発生する磁束が減少してトルクが低下するという課題を有していた。
【0010】
本発明は、このような従来の課題を解決するもので、トルクの低下を抑制するとともに、電流の高調波成分の増加や鉄損の増加をも抑制可能な整流子モータおよびこれを備えた電気機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
このような目的を達成するために、本発明の整流子モータは、界磁巻線を巻回した方形筒状の界磁コアを含む界磁と、界磁コアの筒内に回転自在に設けられた電機子とを具備する整流子モータである。界磁コアは一対の磁極部を備え、この磁極部は、電機子と対面し、それぞれが互いに向かい合うように配置される。そして、この磁極部の電機子と対面する面で、回転方向の上流側に切欠きを設けた構成である。
【0012】
これによって、磁気飽和の領域近傍のみの切欠きにより、局所的に磁気抵抗を増加させるので、磁極部の磁気飽和が生じていた部分の磁束が分散され、この領域の磁気飽和を緩和させることができる。
【0013】
また、本発明の電気機器は、このような整流子モータを具備した構成である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の整流子モータは、磁気飽和を緩和させることができるので、電流の高調波成分が低減され、鉄損の増加を抑制することができる。また、局所的に磁気抵抗を増加させるので、トルクの低下も抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態における整流子モータを備えた電動送風機の構成を示す構成図
【図2】同整流子モータの界磁コアおよび電機子コアを示す平面図
【図3】同整流子モータをブラケット内に圧入した状態を示す上面図
【図4】同整流子モータの界磁コアの平面図
【図5】従来の整流子モータの構成を示す平面図
【図6】従来の一般的な整流子モータにおける磁束の流れを示す磁束線図
【図7】従来の一般的な整流子モータにおける磁束密度の分布を示す磁束密度分布図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0017】
(実施の形態)
本発明の実施の形態における整流子モータを用いた電気機器について図面を参照しながら説明する。本実施の形態ではこのような電気機器の一例として、電気掃除機等の電気機器に具備される本整流子モータを用いた電動送風機を挙げて説明する。
【0018】
図1は、本発明の実施の形態における整流子モータ20を備えた電動送風機10の構成を示す構成図である。
【0019】
図1に示すように、電動送風機10は、一方が閉塞しその反対方向が開口した円筒状のブラケット12内に、本実施の形態の整流子モータ20を設けた構成である。整流子モータ20は、界磁であるステータ30と、電機子であるロータ40とを含み構成されている。
【0020】
ステータ30は、方形筒状を呈する界磁コア31に界磁巻線32を巻回している。このようなステータ30がブラケット12の内側に固定されている。
【0021】
一方、ロータ40は、電機子コア41と電機子巻線42と回転軸43と整流子45とを含み構成されている。電機子コア41には、電機子巻線42が巻回されており、電機子コア41の中心を貫通するように回転軸43が結合されている。また、ロータ40は、回転軸43の両端がそれぞれ軸受13によって回転自在に支承されている。さらに、回転軸43には整流子45が配設されている。
【0022】
そして、ブラケット12には、ブラシ保持器14が固定されている。さらに、ブラシ保持器14は、一対のカーボンブラシ(図示せず)を保持している。その一対のカーボンブラシが、整流子45に当接している。以上のようにして、整流子モータ20が構成されている。
【0023】
また、電動送風機10において、ブラケット12の開口した側を覆うように、ファンケース15が取り付けられている。ロータ40の回転軸43は、ブラケット12の開口から突出してファンケース15内に進入している。進入した回転軸43の先端部には、遠心ファン16が取り付けられている。そして、遠心ファン16とブラケット12の開口との間には、エアガイド17が取り付けられている。このように、ファンケース15内には遠心ファン16およびエアガイド17が配置されている。
【0024】
このように構成された電動送風機10において、外部から整流子モータ20に電力が供給されると、電機子電流がカーボンブラシ(図示せず)および整流子45を介して電機子巻線42に流れるとともに、ステータ30の界磁巻線32には界磁電流が流れる。そして、界磁電流によって界磁コア31で発生した磁束と、電機子巻線42を流れる電機子電流との間で力が発生し、ロータ40が回転する。このロータ40の回転に伴なって、遠心ファン16が回転する。この回転によって、吸気口18から空気が吸入されて遠心ファン16の中に流れ込み、ブラケット12内を経て、電動送風機10の外に排出される。
【0025】
次に、整流子モータ20のさらに詳細な構成について説明する。
【0026】
図2は、本発明の実施の形態における整流子モータ20の界磁コア31および電機子コア41を示す平面図である。
【0027】
界磁コア31は、まず、電磁鋼板を、図2に示すような内側に開口を有した方形枠状の形状に打抜き、さらに、打抜いて形成された界磁コア素材を、複数枚積層することで構成されている。このように構成することで、界磁コア31は方形筒状の形状を成している。また、界磁コア31は、方形枠状の形状の枠部34とともに、開口箇所には、対向する一対の磁極部35が形成されている。この磁極部35の双方に界磁巻線32が巻回される。そして、両磁極部35に挟まれるようにして、界磁コア31内に電機子コア41が配置される。
【0028】
図3は、本発明の実施の形態における整流子モータ20をブラケット12内に圧入した状態を示す上面図である。
【0029】
図3に示すように、界磁コア31の磁極部35の双方には界磁巻線32が巻回されている。そして、両磁極部35間には、回転軸43を中心として電機子コア41に電機子巻線42を巻回したロータ40が配置されている。また、界磁コア31の各角部34aには、ブラケット12の回転軸43方向に沿って当接面が形成されている。この当接面がブラケット12の内周面に圧接され、界磁コア31に界磁巻線32を巻回したステータ30がブラケット12内に固定されている。
【0030】
以上のように、整流子モータ20は、界磁巻線32を巻回した方形筒状の界磁コア31を含む界磁であるステータ30と、界磁コア31の筒内に回転自在に設けられた電機子であるロータ40とを具備している。そして、界磁コア31が備える一対の磁極部35は、ロータ40と対面し、磁極部35のそれぞれが互いに向かい合うように配置されている。
【0031】
次に、界磁コア31のさらに詳細について説明する。
【0032】
図4は、本発明の実施の形態における整流子モータ20の界磁コア31の平面図である。
【0033】
界磁コア31の概要については上述したように、対向する一対の磁極部35を有している。磁極部35は、図4に示すように、枠部34の一辺の中心部から内部方向に突出する基部35aと、この基部35aからさらに2方向に突出するように延伸する磁極突部35b、35cとを有している。また、磁極部35の最内周側は電機子コア41の外周形状に沿って円弧状に形成されている。このような状態で、磁極部35の最内周面とロータ40の外周面とが互いに対面している。そして、図4に示すように、一方の磁極突部35bの内周側には、窪みとなる切欠きである切欠き部35nを設けている。
【0034】
この切欠き部35nを設ける磁極突部として、回転するロータ40に対して、その回転方向の上流側となる磁極突部としている。これより、図4の場合には、上流側となる磁極突部35bの方に切欠き部35nを設けている。また、他方の下流側となる磁極突部35cには、このような切欠き部35nは設けない構成としている。言い換えると、磁極突部35cは、先端部に近づくほど幅が狭くなるように形成している。これに対し、磁極突部35bは、切欠き部35nを設けることにより、基部35aと先端部との中間付近において、一旦、幅が細くなるように形成している。
【0035】
図6および図7を用いて説明したように、界磁コアにおいて、磁束は磁極の対向する方向とずれた方向に流れ、図7の矢印の領域で磁束密度が最も高くなり、磁気飽和が生じることになる。
【0036】
そこで、本実施の形態では、磁気飽和の生じている領域、すなわち磁極突部35bに対して、切欠き部35nを設け、ロータ40とのギャップ幅を他の領域よりも大きくしている。これによって、磁束密度が最も高くなる磁極突部35bで局所的に磁気抵抗を増加させている。そして、高磁束密度領域に対して磁気抵抗を増加させることで、磁束の流れを分散させ、磁気飽和を緩和させている。
【0037】
このように、本実施の形態では、磁極部35のロータ40と対面する面で、ロータ40の回転方向の上流側に切欠き部35nを設けている。これにより、高磁束密度領域に対して磁気抵抗を増加させることができ、磁気飽和を緩和させることができる。このように、本実施の形態では、磁気飽和を緩和できるため、電流の高調波成分や鉄損の増加を抑制することができる。さらに、高磁束密度領域に対してのみ磁気抵抗を増加させているため、トルクの低下も抑制できる。
【0038】
以上のように、本発明の整流子モータは、界磁コアが一対の磁極部を備え、この磁極部が、電機子と対面し、それぞれが互いに向かい合うように配置される。そして、この磁極部の電機子と対面する面で、回転方向の上流側に切欠きを設けた構成である。本発明の整流子モータはこのように構成しているため、磁極部の磁気飽和が生じていた部分の磁束が分散され、この領域の磁気飽和が緩和されることとなる。そして、この領域の磁気飽和を緩和できるため、本発明によれば、トルクの低下を防止し、電流の高調波成分が低減され、鉄損の増加を抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
以上のように、本発明にかかる整流子モータは、トルクを低下させることなく、電流の高調波成分が低減され、鉄損の増加を抑制することができるので、電動送風機またはこれを搭載した電気掃除機等の電気機器に適用できる。
【符号の説明】
【0040】
10 電動送風機
12 ブラケット
13 軸受
14 ブラシ保持器
15 ファンケース
16 遠心ファン
17 エアガイド
18 吸気口
20 整流子モータ
30 ステータ
31,92 界磁コア
32 界磁巻線
34 枠部
34a 角部
35,92b 磁極部
35a 基部
35b,35c 磁極突部
35n 切欠き部
40 ロータ
41,94 電機子コア
42 電機子巻線
43 回転軸
45 整流子
95,95a,95b ギャップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
界磁巻線を巻回した方形筒状の界磁コアを含む界磁と、前記界磁コアの筒内に回転自在に設けられた電機子とを具備する整流子モータであって、
前記界磁コアは、一対の磁極部を備え、
前記磁極部は、前記電機子と対面し、それぞれが互いに向かい合うように配置され、
前記磁極部の前記電機子と対面する面で、回転方向の上流側に切欠きを設けたことを特徴とする整流子モータ。
【請求項2】
請求項1記載の整流子モータを具備していることを特徴とする電気機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−115970(P2013−115970A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261397(P2011−261397)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】