説明

整流筒及びこれを備えたガス消火システム

【課題】消火ガスの噴出に基づく乱流および騒音を低減することが可能な、ガス消火設備用の整流筒、及び、これを備えたガス消火システムを提供する。
【解決手段】火災が発生した対象室内に消火ガスを供給するためのガス配管22の供給口に一方側が連結されて、前記ガス配管からの消火ガスを通過させて他方側から放出する管路を有する整流筒30において、管路31を、該管路31の軸線L3に沿って延びて該軸線L3方向に向かって消火ガスを噴出する主噴口33aを備えた主流路35と、主噴口33aの外縁に沿った環状に消火ガスを噴出する副噴口34aを備えた副流路36とに分岐させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ガス消火設備用の整流筒、及び、これを備えたガス消火システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、対象室内において発生した火災を消火する消火設備として、窒素ガス、二酸化炭素ガス、ハロゲンガス等の不活性ガスや不燃性ガスからなる消火ガスを対象室内に充満させるガス消火設備が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
このようなガス消火設備は、水や化学消火剤に弱い大型コンピュータやサーバ等の精密機器類が設置された対象室内の消火に対して特に有効である。
このガス消火設備においては、短時間のうちに大量の消火ガスを対象室内に充満させることができるように、対象室内に開口する供給口をノズル形状とする等して、供給口から高圧の消火ガスを速い速度で噴出させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−60984号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、高圧の消火ガスを速い速度で噴出させる場合には、供給口の近傍において消火ガスと対象室内の空気とが干渉することで乱流が発生し、消火ガスの円滑な充満を妨げるとともに、この乱流に基づく騒音(いわゆる乱流騒音)が発生する。この騒音のエネルギーは、精密機器類の不具合や誤動作を引き起こすおそれがある。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、消火ガスの噴出に基づく乱流および騒音を低減して、消火の対象室内に設置された精密機器類の保護を図ることが可能な、ガス消火設備用の筒(以下、整流筒とする)、及び、これを備えたガス消火システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段を提案している。
即ち、本発明に係る整流筒は、火災が発生した対象室内に消火ガスを供給するためのガス配管の供給口に一方側が連結されて、前記ガス配管からの消火ガスを通過させて他方側から放出する管路を有する整流筒であって、前記管路が、該管路の軸線に沿って延びて該軸線方向に向かって前記消火ガスを噴出する主噴口を備えた主流路と、前記消火ガスを前記主噴口の外縁に沿った環状に噴出する副噴口を備えた副流路と、に分岐していることを特徴とする。
【0008】
このような特徴の整流筒によれば、管路の一方側をガス配管の供給口に接続した状態においては、ガス配管の供給口から整流筒の管路に入り込んだ消火ガスが、管路の他方側に向けて主流路と副流路とに分岐して流れる。この際、副流路を流れて副噴口から噴射される消火ガス(副噴流)が主噴口の外縁形状に沿って環状に噴射されるため、当該主噴口から噴射される消火ガス(主噴流)の外周側全域を副噴流が包囲することになる。このため、主噴流はその外周側全域において副噴流と接し、対象室内の空気と直接的に接することが回避される。
ここで、対象室内の空気に対する主噴流の相対速度に比べて、副噴流に対する主噴流の相対速度の方が小さいため、主噴流が対象室内の空気に接触している場合よりも該主噴流が副噴流に接している場合の方が、主噴流に作用するレイノルズ応力が小さくなる。これにより、主噴口付近で主噴流に乱流が生じるのを抑制することができる。
【0009】
また、本発明に係る整流筒においては、前記副噴口が、前記主流路の径方向内側に傾斜する方向に前記消火ガスを噴出することが好ましい。
この場合、副噴流が主噴流を径方向内側に向かうようにガイドするため、主噴流の直進性が増し、該主噴流に乱れが生じることを抑えることができる。
【0010】
そして、本発明に係るガス消火システムは、消火ガスを貯蔵するガス供給源と、消火ガスを前記ガス供給源から対象室内に供給するためのガス配管と、当該ガス配管の中途部に設けられて前記対象室内への消火ガスの供給を制御する供給制御弁と、上記いずれかの整流筒と、を備え、前記整流筒が、前記対象室内に開口する前記ガス配管の供給口に対して着脱自在に取り付けられていることを特徴とする。
【0011】
このような特徴のガス消火システムにおいては、対象室内において火災が発生した際に供給制御弁を開くことで、消火ガスがガス配管から整流筒を介して対象室内に噴出される。そして、この発明によれば、整流筒をガス配管の供給口に取り付けるだけで前述した騒音を低コストで低減することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ガス配管の供給口から対象室内に向けて高圧の消火ガスを速い速度で噴出させても、副噴流によって主噴流の乱流発生を抑制するとともに、騒音のエネルギーを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係るガス消火システムを示す概略図である。
【図2】図1のガス消火システムに備える整流筒を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図1及び図2を参照して本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1に示すように、この実施形態に係るガス消火システム1は、大型コンピュータやサーバ等の精密機器2が収容された対象室3内において発生した火災を消火するものである。
【0015】
ここで、対象室3には、床11との間に間隔をあけて床板13が設置されると共に、天井12との間に間隔をあけて天板14が設置されている。すなわち、対象室3は、これら床板13及び天板14によって、床下領域15、機器設置領域16及び天井領域17の三つに区画され、精密機器2は床板13上の機器設置領域16に配されている。
【0016】
なお、床板13及び天板14は、床下領域15、機器設置領域16及び天井領域17を完全に遮断するように設けられることに限らず、図示例のように、これらの領域が互いに連通するように設けられていてもよい。
【0017】
ガス消火システム1は、消火ガスを貯蔵するガス供給源21と、消火ガスをガス供給源21から対象室3内に供給するためのガス配管22と、このガス配管22の中途部に設けられて対象室3内への消火ガスの供給を制御する供給制御弁23と、対象室3内に開口するガス配管22の供給口に連結された整流筒30とを備えている。
【0018】
ガス供給源21は、例えば高圧状態で消火ガスを貯蔵するガスボンベ等の耐圧容器によって構成されている。なお、消火ガスには、不活性ガスまたは不燃性ガスとして、例えば窒素ガスや、二酸化炭素ガス、ハロゲンガス等を用いることが可能であり、本実施形態では窒素ガスが好適に用いられている。
【0019】
ガス配管22は、ガス供給源21から対象室3に至る中途部分において複数に分岐されており、これによって、ガス配管22の複数(図示例では三つ)の供給口が対象室3内に開口している。これら複数の供給口は、より短時間で対象室3内を消火ガスで充満できるように、互いに離れた位置に配されることが好ましい。なお、図示例では、供給口が対象室3内の床下領域15、機器設置領域16及び天井領域17の各領域に開口している。
【0020】
そして、ガス配管22の供給口には、図2に示すように、ガス配管22の供給口から噴出する消火ガスの流れを加速させるオリフィス形状のノズル部25が設けられている。これにより、消火ガスをより速い速度で対象室3内に噴出させることができる。
【0021】
図1に示す供給制御弁23は、自動あるいは手動で開閉可能に構成されている。すなわち、供給制御弁23は、対象室3内において火災が発生した際に、例えば対象室3内に設けられた火災検知器(不図示)からの信号に基づいて電気的あるいは機械的に開くように構成されてもよいし、例えば作業者によって開くように構成されてもよい。
【0022】
なお、図示例の供給制御弁23は、ガス配管22の分岐部分よりもガス供給源21側に設けられているが、例えば対象室3側の分岐された各部分にそれぞれ設けられてもよい。
【0023】
整流筒30は、図2に示すように、ガス配管22からの消火ガスを通過させる管路31を有する筒状に形成されている。この管路31の一方側(図2における右側)の端部は接続筒部32とされ、該接続筒部32にガス配管22のノズル部25を挿入させることで、整流筒30がガス配管22の供給口に接続されることになる。なお、図示例では、この接続状態において管路31の軸線L3がガス配管22の軸線L2一致しているが、例えばずれていても構わない。
する。
【0024】
管路31における上記接続筒部32の他方側(図2における左側)には、内管部33と外管部34とが設けられており、これら内管部33及び外管部34による二重管構造が構成されている。
【0025】
内管部33は軸線L3に沿って延びる筒状をなしており、一方側から他方側に向かうに連れて、一旦僅かに拡径した後に漸次縮径していくテーパ状をなしている。この内管部33の他方側の開口端は、消火ガスを噴出可能な主噴口33aとされている。即ち、この内管部33の内側は、消火ガスが流通する主流路35とされており、該主流路35を流通した消火ガスは、主噴口33aから主噴流Fmとして軸線L3に沿って噴出されることになる。
【0026】
なお、図示例では、主噴口33aが、軸線L3に直交する円形状に形成されているが、例えば多角形状や楕円形状など任意の断面形状に形成されていてもよい。
また、この内管部33は、例えばアーム(図示省略)を介して接続筒部32や下記外管部34に連結されることで固定されている。
【0027】
外管部34は、内管部33を外周側から取り巻くように形成された筒状をなしており、一方側が接続筒部32に接続されて、該一方側から他方側に向かうに従って、一旦拡径した後に漸次縮径するテーパ状をなしている。また、このテーパ角度は上記内管部33のテーパ角度よりも大きく形成されている。さらに、外管部34の他方側の開口端は、内管部33の他方側の開口端よりも一方側に位置している。
【0028】
上記外管部34の他方側の開口端と内管部33の外周面との間には環状をなす間隙が形成されており、該間隙が消火ガスを環状に噴出可能な副噴口34aとされている。即ち、外管部34と内管部33との間の空間は、消火ガスが流通する副流路36とされており、該副流路36を流通した消火ガスは、副噴口34aから副噴流Fsとして軸線L3を中心とした環状に噴出されることになる。また、この副噴口34aは主噴口33aよりも一方側に位置しており、これにより、主噴口33aから噴出される主噴流Fmの後方から副噴流Fsが噴出される。
【0029】
なお、上記のように、内管部33よりも外管部34の方がテーパ角度が大きく、副噴口34aが絞られた構成とされているため、副流路36はその他方側が絞られた形状をなしている。また、内管部33が上記のようなテーパ状をなしているため、副噴口34aから噴出される副噴流Fsは、主流路35の径方向内側に傾斜する方向に噴出されることになる。
【0030】
このようにして、整流筒30においては、管路31が、軸線L3方向に向かって消火ガスを噴出する主噴口33aを備えた主流路35と、環状に消火ガスを噴出する副噴口34aを備えた副流路36とに分岐した構成とされている。
【0031】
次に、上述したガス消火システム1の動作について説明する。
対象室3内において火災が発生した際には、供給制御弁23が自動あるいは手動で開放され、これによって、消火ガスがガス供給源21からガス配管22の供給口に流れる。さらに、消火ガスはガス配管22から整流筒30を介して対象室3内に噴出される。
【0032】
ここで、整流筒30の管路31を通過する消火ガスの流れについて詳細に説明すると、ガス配管22の供給口から整流筒30の管路31に入り込んだ消火ガスは、接続筒部32を通過した後、主流路35と副流路36とに分岐して流れる。
主流路35を通過する消火ガスは、内管部33のテーパ形状によって絞られて、主噴口33aから軸線L3方向に向かう主噴流Fmとして対象室3内に噴出される。
【0033】
一方、副流路36を通過する消火ガスは、徐々に絞り込まれて、副噴口34aから環状をなす副噴流Fsとして対象室内に噴出される。また、この副噴流Fsは、内管部33の外周面に沿って流れるため、結果として主噴口33aの外縁に沿った環状をなして軸線L3方向に噴出される。
【0034】
これによって、主噴口33aから噴射される主噴流Fmの外周側全域を副噴流Fsが包囲することになるため、主噴流Fmはその外周側全域において副噴流Fsと接し、対象室3内の空気と直接的に接することが回避される。
【0035】
ここで、対象室3内の空気に対する主噴流Fmの相対速度に比べて副噴流Fsに対する主噴流Fmの相対速度の方が小さいため、主噴流Fmが対象室3内の空気に接触している場合よりも該主噴流Fmが副噴流Fsに接している場合の方が、主噴流Fmに作用するレイノルズ応力が小さくなる。これにより、主噴口33a付近で主噴流に乱流が生じるのを抑制することができる。
【0036】
また、副噴流Fsが主流路35の径方向内側に傾斜する方向に噴出される構成のため、該副噴流Fsが主噴流Fmを径方向内側に向かうようにガイドし、主噴流Fmの直進性を増加させて、該主噴流Fmに乱れが生じることを一層抑制することができる。
【0037】
したがって、本実施形態の整流筒30によれば、対象室3内に噴出された消火ガスの流れに乱れが生じることを抑えることができるため、ガス配管22の供給口から対象室3内に向けて高圧の消火ガスを速い速度で噴出させても、乱流および騒音の発生を低減することができる。
【0038】
そして、本実施形態のガス消火システム1において、整流筒30をガス配管22の供給口に対して着脱自在とした場合には、従来周知のガス配管22の供給口に整流筒30を取り付けるだけで乱流騒音を低減できるため、低コストで実施可能となる。
【0039】
なお、本実施形態のガス消火システム1では、対象室3内に消火ガスが噴出されることで火災の消火が行われるが、対象室3内に供給された消火ガスによって対象室3内の圧力が上昇することがある。ここで、本実施形態のガス消火システム1は避圧口ダンパー24を備えているため、過剰な圧力を対象室3外に逃がすことができる。したがって、対象室3内の圧力上昇が建物および精密機器2に悪影響を与えることも防止できる。
【0040】
また、本実施形態のガス消火システム1では、ガス配管22の供給口が対象室3内の床下領域15、機器設置領域16及び天井領域17の各領域に開口しているため、これら複数の領域のいずれかで火災が発生したとしても、消火ガスをより短い時間で火災の発生地点に到達させることが可能である。
【0041】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、実施形態においては、内管部33と外管部34との間に副流路36を形成する構成であったが、これに限定することはなく、管路31が主流路35と副流路36に分岐しており副噴口34aが主噴口33aの外縁に沿った環状に消火ガスを噴出可能であれば他の構成であってもよい。
【0042】
そして、本発明のガス消火システム1は、床板13や天板14によって複数の領域15〜17に区画された対象室3の消火に限らず、例えば床板13や天板14の無い一つの領域のみの対象室3の消火にも適用することができる。また、本発明のガス消火システム1は、精密機器2が配された対象室3内の消火に限らず、クリーンルーム等の他の対象室3の消火にも適用することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 ガス消火システム
3 対象室
21 ガス供給源
22 ガス配管
23 供給制御弁
30 整流筒
31 管路
32 接続筒部
33 内管部
33a 主噴口
34 外管部
34a 副噴口
35 主流路
36 副流路
L3 管路の軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
火災が発生した対象室内に消火ガスを供給するためのガス配管の供給口に一方側が連結されて、前記ガス配管からの消火ガスを通過させて他方側から放出する管路を有する整流筒であって、
前記管路が、
該管路の軸線に沿って延びて該軸線方向に向かって前記消火ガスを噴出する主噴口を備えた主流路と、
前記消火ガスを前記主噴口の外縁に沿った環状に噴出する副噴口を備えた副流路と、に分岐していることを特徴とする整流筒。
【請求項2】
前記副噴口が、前記主流路の径方向内側に傾斜する方向に前記消火ガスを噴出することを特徴とする請求項1に記載の整流筒。
【請求項3】
消火ガスを貯留するガス供給源と、消火ガスをガス供給源から対象室内に供給するためのガス配管と、前記対象室内に火災が発生した際に前記対象室内に前記消火ガスを供給する制御部と、請求項1又は2に記載の整流筒と、を備え、
前記整流筒がガス配管の供給口に対して着脱自在に取り付けられていることを特徴とするガス消火システム。










【図1】
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【図2】
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