説明

斜板式油圧モータ又は斜板式油圧ポンプ

【課題】熱処理などの硬化処理を斜板に施すことなく、斜板の摩耗・割れを防止することができる構造を備えた斜板式油圧モータ又は斜板式油圧ポンプを提供すること。
【解決手段】斜板式の油圧モータ1である。傾転ピストン8の斜板側端面に球面部8bが一体的に形成されている。傾転ピストン側に球面部8bが摺動自在に嵌り込む当該球面部8bと同形状の凹部10aと、斜板側に第2支持面7b2と摺動する摺動面10bと、を有するプレート部材10が、斜板7と傾転ピストン8との間に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ショベルなどの建設車両に用いられる斜板式油圧モータ又は斜板式油圧ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
斜板式油圧モータ又は斜板式油圧ポンプは、斜板の傾転角度を変化させるための傾転ピストンを有する。ここで、例えば特許文献1に記載された斜板式油圧モータ(1)では、斜板(12)と傾転制御ピストン(14B)とが点接触している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−169654号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のように、斜板(12)と傾転制御ピストン(14B)とが点接触していると、斜板(12)が磨耗したり、割れたりすることがある。斜板(12)の摩耗・割れを防止するためには、斜板(12)に熱処理を施す対応が考えられるが、熱処理の追加は高価である。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、熱処理などの硬化処理を斜板に施すことなく、斜板の摩耗・割れを防止することができる構造を備えた斜板式油圧モータ又は斜板式油圧ポンプを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明は、本体ケースと、前記本体ケース内に収納された回転軸と、前記回転軸に取り付けられたシリンダブロックと、前記シリンダブロックに形成された複数のシリンダ穴と、前記シリンダ穴に摺動自在に挿入されたピストンと、前記ピストンの先端に設けられたシューと、前記シューが摺動する斜面と、当該斜面の反対側に形成され前記本体ケースに対して支持される支持面と、を有する斜板と、前記斜板の支持面に当接し、当該斜板を前記ピストン側に向かって押圧することで当該斜板を傾転させる傾転ピストンと、前記本体ケースに形成され前記傾転ピストンが摺動自在に挿入される傾転ピストン用シリンダ穴と、を備える斜板式油圧モータ又は斜板式油圧ポンプにおいて、前記傾転ピストンの斜板側端面に球面部が一体的に形成されており、傾転ピストン側に前記球面部が摺動自在に嵌り込む当該球面部と同形状の凹部と、斜板側に前記支持面と摺動する摺動面と、を有するプレート部材が、前記斜板と前記傾転ピストンとの間に配置されていることを特徴とする斜板式油圧モータ又は斜板式油圧ポンプである。
【0007】
この構成によれば、斜板と傾転ピストンとがプレート部材を介して当接する。傾転ピストンとプレート部材との接触面積、およびプレート部材と斜板との接触面積は、いずれも従来の斜板と傾転ピストンとの接触面積に比べて増加するので傾転ピストンの押圧力は従来のような集中荷重とはならない。したがって、熱処理などの硬化処理を斜板に施すことなく、斜板の摩耗・割れを防止することができる。
【0008】
また本発明において、前記斜板が低速位置にあるときに、前記傾転ピストン用シリンダ穴の開口側端面よりも斜板側に前記プレート部材が配置されていることが好ましい。
【0009】
この構成によれば、斜板と傾転ピストンとの間にプレート部材を配置したとしても、傾転ピストンの軸方向長さを従来よりも短くする必要がない。すなわち、傾転ピストンの軸方向長さを従来と同様の長さとすることができ、傾転ピストンが傾くことに起因する傾転ピストン用シリンダ穴の偏摩耗を防止できる。
【0010】
さらに本発明において、前記プレート部材の摺動面の面積が、前記傾転ピストン用シリンダ穴の面積よりも大きくされていることが好ましい。
【0011】
この構成によれば、プレート部材の受圧面積が大きくなり面圧が下がるので、安価な素材を用いてプレート部材を製作することが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、傾転ピストンの斜板側端面に球面部を一体的に形成するとともに、この球面部が摺動自在に嵌り込む当該球面部と同形状の凹部を傾転ピストン側に、斜板の支持面と摺動する摺動面を斜板側に有するプレート部材を、斜板と傾転ピストンとの間に配置することで、熱処理などの硬化処理を斜板に施すことなく、斜板の摩耗・割れを防止することができる構造を備えた斜板式油圧モータ又は斜板式油圧ポンプとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係る斜板式油圧モータの断面図であり、斜板が低速位置にあるときの図である。
【図2】図1のA部拡大図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る斜板式油圧モータの断面図であり、斜板が高速位置にあるときの図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。以下に説明する斜板式の油圧モータ1(斜板式油圧回転機)は、油圧ショベルなどの建設車両における走行装置に用いられるものであって、高速と低速との2速切換えを可能とする可変容量型の油圧モータである。なお、本発明は、斜板式油圧モータだけでなく斜板式油圧ポンプにも適用することができる。
【0015】
(斜板式油圧モータの構成)
図1、3は、本発明の一実施形態に係る斜板式の油圧モータ1の断面図であり、図1は斜板7が低速位置にあるときの図、図3は斜板7が高速位置にあるときの図である。図2は、図1のA部拡大図である。
【0016】
図1〜3に示すように、油圧モータ1は、本体ケース2、回転軸3、シリンダブロック4、ピストン5、シュー6、斜板7、傾転ピストン8などを備えている。
【0017】
(本体ケースおよび回転軸)
本体ケース2は、回転軸3、シリンダブロック4、ピストン5、斜板7などを収納するためのものであり、回転軸3は、本体ケース2に対して回転自在に保持されている。
【0018】
(シリンダブロック)
シリンダブロック4は、回転軸3に対してスプライン結合され、回転軸3の軸方向Xには移動可能に、回転軸3の回転方向には回転軸3とともに回転するように回転軸3に取り付けられている。また、シリンダブロック4の軸心まわりには軸方向に穿設された複数のシリンダ穴4aが形成されている。これらのシリンダ穴4aは、同一円周上に等間隔で配置されている。シリンダ穴4aは、その長手方向が軸方向Xと平行になるようにシリンダブロック4に形成されている。
【0019】
(ピストンおよびシュー)
ピストン5は、複数備えられており、シリンダ穴4aの各々にシリンダ穴4aの内壁面に対して摺動自在に挿入されている。ピストン5の先端に形成された球体部にはシュー6が取り付けられている。
【0020】
(斜板)
斜板7は、シュー6が摺動する斜面7aと、斜面7aの反対側に形成され本体ケース2に対して支持される支持面7bと、を有する。斜板7は、軸方向Xからみて環状に形成されており、回転軸3が貫通している。
【0021】
シリンダブロック4の各シリンダ穴4aに圧油が給排されると、各々のシリンダ穴4aに挿入されているピストン5が往復動する。このピストン5の往復動にともなってシュー6が斜板7の斜面7a上を摺動しながら回転し当該ピストン5も回転する。そして、ピストン5の回転によりシリンダブロック4が回転し、シリンダブロック4と一体となって回転軸3が回転するようになっている。
【0022】
斜板7の支持面7bは、回転軸3の軸方向Xに対する角度の異なる2つの面である第1支持面7b1と第2支持面7b2とで構成されている。第1支持面7b1と第2支持面7b2とが交差する交差線上であって回転軸3の両側にはピボット11が斜板7の支持面7bに対して摺動自在に配置されている。これら2個のピボット11は本体ケース2に固定されている。斜板7は、第1支持面7b1が本体ケース2に当接する位置(図3参照)と第2支持面7b2が本体ケース2に当接する位置(図1参照)との間で2個のピボット11を支点として揺動するようになっている。
【0023】
(傾転ピストン)
斜板7の第2支持面7b2が本体ケース2に当接する部分の本体ケース2内壁面には、傾転ピストン8が摺動自在に挿入される断面円形の傾転ピストン用シリンダ穴9が設けられている。この傾転ピストン用シリンダ穴9に、斜板7をピストン5側に向かって押圧することで当該斜板7を傾転させる(揺動させる)傾転ピストン8が挿入されている。
【0024】
図2に示したように、傾転ピストン8は、円筒状であって傾転ピストン用シリンダ穴9の内壁面と摺動する本体部8aと、斜板7側の本体部8a端面に当該本体部8aと一体的に形成された球面部8bとを有する。なお、一体的に形成されたとは、本体部8aと球面部8bとを有する傾転ピストン8が一つの素材から鋳造、削り出しなどにより製作されていることをいう。本体部8aと球面部8bとがそれぞれ別に製作された部品ではないことをいう。
【0025】
球面部8bとは反対側の本体部8aの端と傾転ピストン用シリンダ穴9の底面との間には、傾転ピストン8作動用の圧油が導入される背圧室13が形成されている。なお、傾転ピストン8を作動させるための背圧室13への圧油は、本体ケース2に設けられた油路14を介して供給されるようになっている。また、傾転ピストン8は、背圧室13に配置されたコイルばね12により、常時、斜板7側に付勢されている。傾転ピストン8は、切換弁(不図示)が切り換えられて油路14を介して圧油が背圧室13に供給されることで斜板7をピストン5側に向かって押圧するようになっている。これにより、斜板7の傾転角度が変わって高速から低速へ油圧モータ1は切り換わる(図1参照)。背圧室13への圧油の供給をやめると、背圧室13から油が抜けて傾転ピストン8が後退し、斜板7の傾転角度が変わって低速から高速へ油圧モータ1は切り換わる(図3参照)。
【0026】
(プレート部材)
斜板7と傾転ピストン8との間にはプレート部材10が配置されている。プレート部材10は、傾転ピストン8の球面部8bが摺動自在に嵌り込む当該球面部8bと同形状の凹部10aと、斜板7の第2支持面7b2に形成された第2支持面7b2の一部である円形の凹部7cと摺動する平らな摺動面10bと、を有する円板状の部材である。摺動面10bの外周縁部は面取り10cが施されている。傾転ピストン8の球面部8bとプレート部材10の凹部10a、およびプレート部材10の摺動面10bと斜板7の凹部7cとは、いずれも面接触するように形成されている。
【0027】
ここで、本実施形態では、プレート部材10の直径D1は傾転ピストン用シリンダ穴9の直径D2よりも小さくされている。また、図1に示すように、斜板7が低速位置にあるときに、傾転ピストン用シリンダ穴9の開口側端面よりも斜板7側にプレート部材10が配置されている。第2支持面7b2の一部である円形の凹部7cの深さは、プレート部材10の厚みと等しい。すなわち、斜板7の第2支持面7b2(凹部7cではない位置)とプレート部材10とは面一とされている。また、第2支持面7b2の凹部7cの内径は、プレート部材10の直径D1よりも大きくされている。すなわち、プレート部材10と凹部7cとの間には隙間があり、プレート部材10は、凹部7cの底面と当接しつつ凹部7c内を移動可能とされている。
【0028】
(作用・効果)
本実施形態の油圧モータ1では、斜板7と傾転ピストン8とがプレート部材10を介して当接する。ここで、傾転ピストン8とプレート部材10との接触面積、およびプレート部材10と斜板7との接触面積は、いずれも、特許文献1(特開2004−169654号公報)に記載されたような従来の斜板と傾転ピストンとの接触面積に比べて増加する。したがって、傾転ピストン8の押圧力は従来のような集中荷重とはならない。すなわち、本実施形態によると、製作容易なプレート部材10を斜板7と傾転ピストン8との間に挟み込むだけで、熱処理などの硬化処理を斜板7に施すことなく、斜板7の摩耗・割れを防止することができる。また、プレート部材10が、斜板7の凹部7cの底面と当接しつつ凹部7c内を移動可能とされているため、接触している傾転ピストン8の球面部8bとプレート部材10の凹部10aとの間の相対的なズレが生じにくくなっている。そのため、球面部8bおよび凹部10aの摩耗が生じにくい。
【0029】
また、本実施形態では、斜板7とプレート部材10とが軸方向Xでラップするので、斜板7と傾転ピストン8との間にプレート部材10を配置したとしても、傾転ピストン8の軸方向長さを従来よりも短くする必要がない。すなわち、傾転ピストン8の軸方向長さを従来と同様の長さとすることができ、傾転ピストン8が傾くことに起因する傾転ピストン用シリンダ穴9の偏摩耗を防止できる。なお、別の観点では、油圧モータ1の軸方向長さを従来よりも長くする必要がない、という効果もある。
【0030】
(プレート部材の径)
ここで、本実施形態では、プレート部材10の直径D1を傾転ピストン用シリンダ穴9の直径D2よりも小さくしているが、プレート部材10の直径D1を傾転ピストン用シリンダ穴9の直径D2よりも大きくすることも好ましい。すなわち、プレート部材10の摺動面10bの面積を、傾転ピストン用シリンダ穴9の面積よりも大きくすることも好ましい。このようにすることで、プレート部材10の受圧面積が大きくなり面圧が下がるので、安価な金属素材を用いてプレート部材10を製作することが可能となる。なお、プレート部材10は円板状でなくてもよく、例えば、楕円板状などであってもよい。
【0031】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することができるものである。
【符号の説明】
【0032】
1:油圧モータ(斜板式油圧モータ)
2:本体ケース
3:回転軸
4:シリンダブロック
5:ピストン
6:シュー
7:斜板
8:傾転ピストン
8b:球面部
9:傾転ピストン用シリンダ穴
10:プレート部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体ケースと、
前記本体ケース内に収納された回転軸と、
前記回転軸に取り付けられたシリンダブロックと、
前記シリンダブロックに形成された複数のシリンダ穴と、
前記シリンダ穴に摺動自在に挿入されたピストンと、
前記ピストンの先端に設けられたシューと、
前記シューが摺動する斜面と、当該斜面の反対側に形成され前記本体ケースに対して支持される支持面と、を有する斜板と、
前記斜板の支持面に当接し、当該斜板を前記ピストン側に向かって押圧することで当該斜板を傾転させる傾転ピストンと、
前記本体ケースに形成され前記傾転ピストンが摺動自在に挿入される傾転ピストン用シリンダ穴と、
を備える斜板式油圧モータ又は斜板式油圧ポンプにおいて、
前記傾転ピストンの斜板側端面に球面部が一体的に形成されており、
傾転ピストン側に前記球面部が摺動自在に嵌り込む当該球面部と同形状の凹部と、斜板側に前記支持面と摺動する摺動面と、を有するプレート部材が、前記斜板と前記傾転ピストンとの間に配置されていることを特徴とする斜板式油圧モータ又は斜板式油圧ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の斜板式油圧モータ又は斜板式油圧ポンプにおいて、
前記斜板が低速位置にあるときに、前記傾転ピストン用シリンダ穴の開口側端面よりも斜板側に前記プレート部材が配置されていることを特徴とする油圧モータ又は油圧ポンプ。
【請求項3】
請求項2に記載の斜板式油圧モータ又は斜板式油圧ポンプにおいて、
前記プレート部材の摺動面の面積が、前記傾転ピストン用シリンダ穴の面積よりも大きくされていることを特徴とする斜板式油圧モータ又は斜板式油圧ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−15066(P2013−15066A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148092(P2011−148092)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(503405689)ナブテスコ株式会社 (737)
【Fターム(参考)】