説明

断熱体

【課題】従来に比較して安価な、かつ、常温常圧、あるいは常温減圧下でも大容量の気体を吸着可能な気体吸着材を備えた、優れた断熱性能を有する断熱体を提供する。
【解決手段】断熱体6は、芯材7と、ガスバリア性を有し芯材7を覆う外被材8と、芯材7と共に外被材8に覆われる気体吸着材1とを備え、外被材8の内部を減圧してなる。気体吸着材1は、少なくとも、イオン交換率が100%以上200%以下の銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトと水分吸着性物質とを含む。ZSM−5型ゼオライトの銅イオン交換工程において、銅イオン交換がバッチ式にて行われ、銅イオン含有イオン交換溶液が、銅イオン交換前のZSM−5型ゼオライト1gあたり50ml以上200ml以下の量である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芯材と気体吸着材とを、ガスバリア性を有する外被材で覆い、前記外被材の内部を減圧してなる断熱体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境問題である温暖化を防止することの重要性から、省エネルギー化が望まれており、民生用機器に対しても省エネルギーの推進が行われている。特に冷凍冷蔵庫に関しては、冷熱を効率的に利用するという観点から、優れた断熱性を有する断熱体が求められている。
【0003】
このような課題を解決する一手段として、空間を保持する芯材と、空間と外気を遮断する外被材によって構成される真空断熱体がある。その芯材として、一般に、粉体材料、繊維材料、連通化した発泡体などが用いられているが、近年では、真空断熱体への要求が多岐にわたってきており、一層高性能な真空断熱体が求められている。
【0004】
真空断熱体の断熱原理は、熱を伝える空気を可能な限り排除し、気体による熱伝導を低減することである。従って、真空断熱体の断熱性能を向上するためには、内部圧力をより低圧とし、分子の衝突による気体熱伝導を抑制する必要がある。しかしながら、工業的レベルで実用的に達成可能な真空度は0.1torr程度であり、これ以上の高真空にすることは困難である。
【0005】
また、真空断熱体内部から発生するガスや、外部から経時的に真空断熱体へ透過侵入してくる空気成分も真空断熱体の経時的な断熱性能の劣化を招く要因となる。よって、これらの気体、すなわち空気中の窒素および酸素、水分、水素を吸着除去することにより、初期断熱性能を向上し、経時的な断熱性能を維持することが可能となる。
【0006】
また、これらの気体の吸着は、非可逆であることが要求されるため、物理吸着は不適であり、より強固な結合を形成する化学吸着が望ましい。しかしながら、空気の80%をしめる窒素は、安定な三重結合を有するため、化学吸着は非常に困難である。
【0007】
例えば、希ガス中の窒素、あるいは炭化水素などを除去するものとしては、ジルコニウム、バナジウム及びタングステンからなる三元合金のゲッター材がある(例えば、特許文献1参照)。
【0008】
上記三元合金は、100〜600℃の温度で、微量の不純物を含む希ガスと接触させることにより、希ガスから窒素等の不純物を除去するものである。
【0009】
また、窒素に対して高ガス吸着効率を備える無蒸発ゲッター合金としては、ジルコニウム、鉄、マンガン、イットリウム、ランタンと、希土類元素の1種の元素を含む合金がある(例えば、特許文献2参照)。
【0010】
上記の窒素に対して高ガス吸着効率を備える無蒸発ゲッター合金は、300〜500℃の間の温度で10〜20分間活性化処理を行うことにより、水素、炭化水素、窒素等の吸着に対して、室温でも作用することができるものである。
【0011】
また、低温で窒素を除去する合金としては、Ba−Li合金がある(例えば、特許文献3参照)。
【0012】
Ba−Li合金は、乾燥材と一緒に、断熱ジャケット内の真空を維持するためのデバイスとして使用され、室温においても窒素等のガスに対して反応性を示す。
【0013】
また、精製対象ガスから窒素などの不純物ガスを除去する方法としては、銅イオン交換したZMS−5型ゼオライトからなる気体吸着材がある(例えば、特許文献4参照)。
【0014】
これは、従来既存のイオン交換方法によって、ZMS−5型ゼオライトに銅イオンを導入し、熱処理を行うことによって、窒素吸着活性を付与するものである。
【0015】
また、イオン交換時の銅塩の濃度、浸漬時間、浸漬温度、浸漬回数すなわちイオン交換回数などを選択することによって、銅イオン交換量を所望の量に調節することができる、と特許文献4に記されている。平衡圧力10Paにおける最大窒素吸着量は、0.238mol/kg(5.33cc/g)であるとされ、この際の条件は、銅塩の濃度が0.01M、浸漬時間が1時間、浸漬温度が90℃と特許文献4に記されている。イオン交換回数は特許文献4に明記されていないが、イオン交換回数の増大によりイオン交換率を増大させていることから、少なくとも3回以上イオン交換を実施したものであることが示唆される。
【特許文献1】特開平6−135707号公報
【特許文献2】特表2003−535218号公報
【特許文献3】特表平9−512088号公報
【特許文献4】特開2003−311148号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、特許文献1に記載の気体吸着材では、300〜500℃で加熱し続けることが必要であり、高温での加熱であるため、エネルギーコストが大きく環境にも悪く。また、低温でのガス吸着を望む場合は使用できない。
【0017】
また、特許文献2に記載の気体吸着材では、300〜500℃の前処理が必要であり、高温での前処理が困難な場合のガス除去、例えばプラスチック袋中のガスを常温下で除去することは困難である。
【0018】
また、特許文献3に記載の気体吸着材では、活性化のための熱処理を必要とせず、常温で窒素吸着可能であるが、そのため、取り扱い時に空気中の水分、窒素などと反応してしまうという問題がある。
【0019】
そして、一旦反応すると不可逆反応であるために、必要時までいかに活性を保持するか、取り扱い性が課題である。また、合金材料であるためにゲッター自身の熱伝導率が高く、ゲッターを適用することにより断熱性能の悪化する部位が生じることとなる。
【0020】
また、窒素吸着に対するさらなる大容量化が望まれていると共に、BaはPRTR指定物質であるため、工業的に使用するには環境や人体に対して問題のないものが望まれている。
【0021】
また、特許文献4に記載の気体吸着材では、常温で窒素などの気体吸着が可能である。しかしながら、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトは高価であるため、工業的に広範に使用するには、より安価な、および/または、単位重量あたりの吸着容量の大きい吸着材が求められる。
【0022】
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、常温常圧、あるいは常温減圧下でも大容量の気体を吸着可能な気体吸着材を備えた、高性能な断熱体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
上記目的を達成するために、本発明の断熱体は、少なくとも、芯材と、ガスバリア性を有し前記芯材を覆う外被材と、前記芯材と共に前記外被材に覆われる気体吸着材とを備え、前記外被材の内部を減圧してなる断熱体であって、前記気体吸着材が、少なくとも、イオン交換率が100%以上200%以下の銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを含む気体吸着材であって、前記ZSM−5型ゼオライトの銅イオン交換工程において、銅イオン交換がバッチ式にて行われ、銅イオン含有イオン交換溶液が、銅イオン交換前のZSM−5型ゼオライト1gあたり50ml以上200ml以下の量であることを特徴とするものである。
【0024】
これにより、本発明の断熱体に用いる気体吸着材は、従来既存の気体吸着材と同等以上の吸着能力を有し、かつ、銅イオン交換回数が低減することにより安価な製造が可能となるため、安価に工業的真空排気プロセスで除去しきれない窒素等および経時的に侵入する窒素等を大容量で吸着固定化することができる。したがって、常温常圧、あるいは常温減圧下でも大容量の気体を吸着可能な気体吸着材を備えた、高性能な断熱体を提供することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の断熱体に用いる気体吸着材は、従来既存の気体吸着材と同等以上の吸着能力を有し、かつ、銅イオン交換回数が低減することにより安価な製造が可能となるため、安価に工業的真空排気プロセスで除去しきれない窒素等および経時的に侵入する窒素等を大容量で吸着固定化することができる。
【0026】
その結果、外被材の内部空間の到達圧力が、真空ポンプのみを使用した際より低減し、断熱体の断熱性能の向上を図ることができるため、優れた断熱性能を有する高性能な断熱体を提供することができるものである。
【0027】
また、より強固な気体吸着を可能とするものであり、信頼性にも優れた、高性能な断熱体を提供することができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトが、窒素や酸素などの気体に対して、物理吸着、および、化学吸着が可能であることが従来、知られている。
【0029】
それは、H−ZSM−5型ゼオライトやNa−ZSM−5型ゼオライトを原料とし、塩化銅水溶液やアンミン酸銅水溶液、酢酸銅水溶液など、銅の可溶性塩の水溶液にて銅イオン交換を施し、その後、乾燥及び適切な熱処理を行うことにより、導入された銅2価イオンを1価へ還元することによって、窒素吸着活性を付与するものである。
【0030】
しかしながら、ZSM−5型ゼオライトは高価であり、また銅イオン交換プロセスにもコストを要するため、工業的に広範に使用するには、単位重量あたりの吸着量の増大、及び、低コスト化が必要であった。
【0031】
単位重量あたりの吸着量が増大すると、使用量の低減が可能となり、その結果1使用あたりにかかるコストが低減する。吸着量を増大する方法としては、一般に吸着活性点である銅イオンの導入量を増大すればよい。そのためには、イオン交換を複数回繰り返すことが効果的である。特許文献4においても、イオン交換回数を増大することにより、イオン交換率を増大する実施例が示されている。
【0032】
しかし、一方でイオン交換回数を増すことは、プロセスコストを増大することである。
【0033】
従って、イオン交換回数を増すことなく、従来、複数回の銅イオン交換により得られた吸着活性を発現することが重要である。
【0034】
本発明の請求項1に記載の断熱体の発明は、少なくとも、芯材と、ガスバリア性を有し前記芯材を覆う外被材と、前記芯材と共に前記外被材に覆われる気体吸着材とを備え、前記外被材の内部を減圧してなる断熱体であって、前記気体吸着材が、少なくとも、イオン交換率が100%以上200%以下の銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを含む気体吸着材であって、前記ZSM−5型ゼオライトの銅イオン交換工程において、銅イオン交換がバッチ式にて行われ、銅イオン含有イオン交換溶液が、銅イオン交換前のZSM−5型ゼオライト1gあたり50ml以上200ml以下の量であることを特徴とするものである。
【0035】
銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトの製造プロセスについては、イオン交換工程と、洗浄工程と、乾燥工程と、熱処理工程とからなるものである。
【0036】
イオン交換工程は、本発明においては、バッチ式で行う。ZSM−5型ゼオライトは非常に微細な粉体であるため流出ロスや、イオン交換溶液を効率よく使用するために、連続式よりもバッチ式の方が優れているためである。
【0037】
銅イオンを効果的に交換するために、バッチ式のイオン交換時に重要となるのは、銅イオン含有イオン交換溶液中の銅イオンと、銅イオンと交換されて溶液中に溶出してきた、ナトリウムイオンのような陽イオンとのバランスである。
【0038】
イオン交換後の溶液中には、イオン交換に使用されなかった銅イオンと、銅イオンと交換されて溶出した陽イオンが共存するが、例えば、一定濃度の銅イオン含有イオン交換溶液の量が比較的少ない場合を考えると、溶液中に存在する陽イオン濃度が高く、一旦交換された銅イオンと再交換される可能性が高くなる。
【0039】
一方で、一定濃度の銅イオン含有イオン交換溶液の量が比較的多い場合、溶液中に存在する陽イオン濃度が低いため、銅イオンと再交換される可能性は低いが、イオン交換に使用されなかった余剰銅イオンが多数存在すると、コスト的には不利である。
【0040】
よって、適切な銅イオン含有イオン交換溶液の量を限定することは吸着能力とコストのバランスを鑑みる上で、非常に重要である。
【0041】
本発明においては、ZSM−5型ゼオライト1gあたり50ml以上200ml以下の銅イオン含有イオン交換溶液を用いて銅イオン交換を行うと、低イオン交換回数においても、優れた気体吸着量を示し、コストバランスに優れることを確認した。より好ましくは、80ml以上150ml以下である。
【0042】
また、本発明においては、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトのイオン交換率が100%以上200%以下の範囲である。銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトの気体吸着活性点は銅イオンであるため、イオン交換率が100%未満では大容量気体吸着を実現するには銅が不足である。一方で、200%とは、銅が交換前の陽イオンと完全に交換された場合であるため、特異な場合を除き200%より大きい値をとることはない。
【0043】
ここで、本発明における銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトのイオン交換率の求め方について、以下に説明する。
【0044】
まず、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを過塩素酸などで溶解し、EDTA滴定やICP測定などによって、ゼオライトの単位重量あたりに含まれる銅モル量を求める。
【0045】
一方で、熱重量測定を用いて加熱による重量減少率からゼオライトに含まれる水分量を計測し、水分を除いたゼオライトの真重量を求める。
【0046】
上記2つのデータから、ゼオライトの真重量に対する銅の含有率が算出でき、銅と交換される前に含まれていた陽イオンに対して、イオン交換された割合を算出することができる。
【0047】
ここで示すイオン交換率とは、銅交換前の陽イオンがNaとすると、2つのNaあたりにCu2+が交換されることを前提とした計算値であり、銅がCuとして交換された場合、計算上は100%を越えて算出され、完全に交換された場合は200%となる。
【0048】
本発明における銅イオン含有イオン交換溶液は、従来既存の銅化合物の水溶液が利用可能であるが、気体吸着量、特に化学吸着量の増大を実現するためには、銅イオンがカルボキシラトを含む化合物から生じたものであることが好ましく、酢酸イオン、プロピオン酸イオンなどを生じる酢酸銅、プロピオン酸銅などが好ましい。
【0049】
イオン交換回数は、ここで特に限定するものではないが、本発明によると、従来既存のプロセスよりイオン交換回数は低減し、同等以上の気体吸着量が得られるものである。例えば、1回〜3回程度のイオン交換で、従来既存のプロセスで10〜30回のイオン交換で得られる吸着能力を発現できる。
【0050】
銅イオン含有イオン交換溶液の濃度もまた、特に限定するものではなく、どんな濃度であっても効果は得られるが、0.01M〜0.1Mの範囲が望ましく、より好ましくは0.01M〜0.06Mである。0.06Mより高い場合でも効果はあるが、コスト的には0.01M〜0.03Mがより優位である。
【0051】
イオン交換時間は、特に限定はしないが、1回あたり10〜60分程度である。
【0052】
イオン交換温度は、特に限定はしないが、40℃〜90℃が好ましい。より好ましくは40℃以上、60℃以下である。
【0053】
洗浄工程では、蒸留水を用いて洗浄することが望ましい。
【0054】
また、乾燥工程では、100℃未満の条件で乾燥することが望ましく、室温での減圧乾燥でも良い。
【0055】
また、熱処理工程では、減圧下、望ましくは10−5Pa未満の条件下で、500℃以上800℃以下の温度で熱処理することが望ましい。熱処理時間は、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトの量によるが、銅イオンを2価から1価へ還元可能な十分な時間が必要である。
【0056】
なお、500℃以上800℃以下の温度での熱処理が望ましいとしたのは、500℃未満では、1価への還元が不十分になる恐れがあり、800℃を超えると、ゼオライトの構造が破壊される恐れがあるという理由からである。
【0057】
以上のような工程を経て、本発明の範囲の銅イオン含有イオン交換溶液を用いて銅イオン交換された、イオン交換率が100%以上200%以下のZSM−5型ゼオライトは、従来既存の吸着材に比較して、イオン交換回数が低減することにより安価な製造が可能となり、同等以上の気体吸着量が得られるという効果も確認された。
【0058】
本構成により、安価で、かつ高性能な気体吸着材を適用して工業的真空排気プロセスで除去しきれない窒素等および経時的に侵入する窒素等を大容量で吸着固定化することができる。
【0059】
その結果、外被材の内部空間の到達圧力が、真空ポンプのみを使用した際より低減し、断熱体の断熱性能の向上を図ることができるため、優れた断熱性能を有する高性能な断熱体を提供することができるものである。
【0060】
また、より強固な気体吸着を可能とするものであり、信頼性にも優れた、高性能な断熱体を提供することができるものである。
【0061】
請求項2に記載の断熱体の発明は、請求項1に記載の発明において、銅イオン含有イオン交換溶液の温度が、40℃以上90℃以下であることを特徴とするものである。
【0062】
銅イオン含有イオン交換溶液の温度が、40℃以上90℃以下の範囲であれば、銅イオン交換が促進され、その結果、気体吸着量の増大が得られる。おそらくは、その温度範囲において、銅イオンは、その他の陽イオンに比較して交換効率が高いためであると考える。
【0063】
加熱による吸着量の増大は、40℃以上が顕著である。また、加熱が過ぎると、銅イオン含有イオン交換溶液として、酢酸銅など有機質を含むイオン交換溶液を用いた場合、銅水酸化物あるいは銅酸化物に変質してしまうため、90℃以下が好ましい。より好ましくは40℃以上60℃以下である。
【0064】
本構成により、銅イオン含有イオン交換溶液が、銅イオン交換前のZSM−5型ゼオライト1gあたり50ml以上200ml以下の量にて銅イオン交換した、イオン交換率が100%以上200%以下の銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトの吸着量増大効果をさらに促進し、従来既存のものよりイオン交換回数が低減し、同等以上の吸着が得られる効果が確認され、安価で、かつ、高性能な気体吸着材を適用して工業的真空排気プロセスで除去しきれない窒素等および経時的に侵入する窒素等を大容量で吸着固定化することができる。
【0065】
その結果、外被材の内部空間の到達圧力が、真空ポンプのみを使用した際より低減し、断熱体の断熱性能の向上を図ることができるため、優れた断熱性能を有する高性能な断熱体を提供することができるものである。
【0066】
また、より強固な気体吸着を可能とするものであり、信頼性にも優れた、高性能な断熱体を提供することができるものである。
【0067】
請求項3に記載の断熱体の発明は、請求項1または2に記載の発明において、銅イオン含有イオン交換溶液の濃度が、0.01M以上0.1M以下であることを特徴とするものである。
【0068】
詳細は明らかでないが、0.01M以上0.1M以下の濃度範囲において、銅イオン含有交換溶液中に存在する銅イオン濃度と、銅イオンとの交換により溶出した陽イオン濃度とのバランスが、銅イオンの交換に優位に作用すると考えられ、イオン交換効率を向上することを確認した。より望ましくは、0.01M以上、0.06M以下である。さらに望ましくは、0.01M以上、0.03M以下である。
【0069】
本構成により、銅イオン含有イオン交換溶液が、銅イオン交換前のZSM−5型ゼオライト1gあたり50ml以上200ml以下の量にて銅イオン交換した、イオン交換率が100%以上200%以下の銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトの吸着量増大効果をさらに促進し、従来既存のものよりイオン交換回数が低減し、同等以上の吸着が得られる効果が確認され、安価で、かつ、高性能な気体吸着材を適用して工業的真空排気プロセスで除去しきれない窒素等および経時的に侵入する窒素等を大容量で吸着固定化することができる。
【0070】
その結果、外被材の内部空間の到達圧力が、真空ポンプのみを使用した際より低減し、断熱体の断熱性能の向上を図ることができるため、優れた断熱性能を有する高性能な断熱体を提供することができるものである。
【0071】
また、より強固な気体吸着を可能とするものであり、信頼性にも優れた、高性能な断熱体を提供することができるものである。
【0072】
請求項4に記載の断熱体の発明は、請求項1から3のいずれか一項に記載の発明において、銅イオン含有イオン交換溶液に含まれる銅イオンが、カルボキシラトを含む化合物から生じたものであること特徴とするものである。
【0073】
ここでのカルボキシラトを含む化合物とは、酢酸銅およびプロピオン酸銅、蟻酸銅などであり、これらを含むイオン交換溶液にてイオン交換することにより、熱処理時の銅1価への還元を促進する作用を有するため、銅1価サイトの割合を増大し、その結果、気体吸着量、特に化学吸着量の増大が得られるものである。取り扱い性や、汎用性の観点から、特に酢酸銅が好ましく使用できる。
【0074】
本構成により、銅イオン含有イオン交換溶液が、銅イオン交換前のZSM−5型ゼオライト1gあたり50ml以上200ml以下の量にて銅イオン交換した、イオン交換率が100%以上200%以下の銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトの吸着量増大効果をさらに促進し、従来既存のものよりイオン交換回数が低減し、同等以上の吸着が得られる効果が確認され、安価で、かつ、高性能な気体吸着材を適用して工業的真空排気プロセスで除去しきれない窒素等および経時的に侵入する窒素等を大容量で吸着固定化することができる。
【0075】
その結果、外被材の内部空間の到達圧力が、真空ポンプのみを使用した際より低減し、断熱体の断熱性能の向上を図ることができるため、優れた断熱性能を有する高性能な断熱体を提供することができるものである。
【0076】
また、より強固な気体吸着を可能とするものであり、信頼性にも優れた、高性能な断熱体を提供することができるものである。
【0077】
請求項5に記載の断熱体の発明は、請求項4に記載の発明において、カルボキシラトを含む化合物が、酢酸銅であることを特徴とするものである。
【0078】
酢酸銅は、カルボキシラトを含む化合物の中でも、そのイオンサイズが適当であることから、イオン交換効率に優れるものである。また、工業的にも安価で生産性にも優れている。
【0079】
本構成により、銅イオン含有イオン交換溶液が、銅イオン交換前のZSM−5型ゼオライト1gあたり50ml以上200ml以下の量にて銅イオン交換した、イオン交換率が100%以上200%以下の銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトの吸着量増大効果をさらに促進し、従来既存のものよりイオン交換回数が低減し、同等以上の吸着が得られる効果が確認され、安価で、かつ、高性能な気体吸着材を適用して工業的真空排気プロセスで除去しきれない窒素等および経時的に侵入する窒素等を大容量で吸着固定化することができる。
【0080】
その結果、外被材の内部空間の到達圧力が、真空ポンプのみを使用した際より低減し、断熱体の断熱性能の向上を図ることができるため、優れた断熱性能を有する高性能な断熱体を提供することができるものである。
【0081】
また、より強固な気体吸着を可能とするものであり、信頼性にも優れた、高性能な断熱体を提供することができるものである。
【0082】
請求項6に記載の断熱体の発明は、請求項1から5のいずれか一項に記載の発明において、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトの製造プロセスの銅イオン交換工程において、銅イオン交換がバッチ式にて行われ、イオン交換回数が1回であることを特徴とするものである。
【0083】
イオン交換回数が1回であっても、複数回イオン交換を行った際と同等以上の吸着が得られる効果が増大するものであり、本構成により、安価で、かつ高性能な気体吸着材を適用して工業的真空排気プロセスで除去しきれない窒素等および経時的に侵入する窒素等を大容量で吸着固定化することができる。
【0084】
その結果、外被材の内部空間の到達圧力が、真空ポンプのみを使用した際より低減し、断熱体の断熱性能の向上を図ることができるため、優れた断熱性能を有する高性能な断熱体を提供することができるものである。
【0085】
また、より強固な気体吸着を可能とするものであり、信頼性にも優れた、高性能な断熱体を提供することができるものである。
【0086】
請求項7に記載の断熱体は、請求項1から6のいずれか一項に記載の気体吸着材が、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトの他に、少なくとも水分吸着性物質を含むことを特徴とするものである。
【0087】
本構成により、気体吸着材は、多湿環境下においても、水分吸着性物質が、銅イオン交換型ゼオライト中の吸着活性点であるCuが水分接触によりCu−OHを形成し気体吸着不活性となることを抑制することができ、短時間であれば、大気にさらしても失活することはない。
【0088】
また、芯材に付着した水分の悪影響も水分吸着性物質が除去するため、気体吸着活性は維持される。より確実にCu−OH形成を抑制するためには、本発明の銅イオン交換されたゼオライトの周囲を水分吸着性物質にて覆うことが望ましい。
【0089】
本構成における、気体吸着材の作製方法の一例について述べる。
【0090】
気体吸着活性を有する銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトは、窒素や水、酸素に触れることなく、高真空下あるいはArなどの不活性ガス雰囲気下で水分吸着性物質と混合あるいは水分吸着性物質により周囲を覆うなどして、ペレット化、あるいは取り扱い容易な形状に成形する。さらに不活性ガスを充填した気体不透過性容器にてこれを封止し、断熱体への適用時まで保管することが望ましい。
【0091】
その結果、水分吸着材は水による銅イオン交換型ゼオライトの気体吸着能の低下を予め抑制し、かつ、断熱体中の水分を吸着除去することができるため、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトは断熱体中の工業的排気プロセスで除去しきれない気体および経時的に侵入する気体を吸着除去できる。
【0092】
既存気体吸着材よりも、一層大容量の気体種を、より強固に吸着、固定化でき、断熱体中の工業的排気プロセスで除去しきれない気体および経時的に侵入する気体を吸着除去できるため、信頼性に優れた、高性能な断熱体を提供できるものである。
【0093】
本発明における水分吸着性物質は、アルカリ金属やアルカリ土類金属の酸化物および水酸化物などの水分吸着材や、ゼオライト、シリカゲルなどの物理的水分吸着材などが使用できるが、特に規定するものではない。可逆性のない化学的に水分を固定化できる水分吸着材の方がより望ましい。
【0094】
請求項8に記載の断熱体は、請求項1から7のいずれか一項に記載の発明において、少なくとも、真空ポンプによって外被材の内部を減圧する物理的排気工程と、前記気体吸着材によって前記外被材の内部の気体が除去される吸着排気工程とを経て、作製されることを特徴とするものである。
【0095】
本構成により、効率的に高真空を実現することが可能となると共に、到達真空度がより小さくなることにより、製造効率のよい高断熱性能を備えた断熱体が得られるものである。
【0096】
すなわち、真空ポンプにより数分間の真空排気を行い、断熱体の内圧を10torr程度とし、その後は気体吸着材により空気成分を吸着除去するものである。
【0097】
請求項9に記載の断熱体は、請求項1から8のいずれか一項に記載の発明において、気体吸着材が、窒素を吸着したことにより、前記気体吸着材のFT−IRスペクトルに銅1価イオンに吸着した窒素分子の3重結合伸縮振動に帰属できる2295cm−1付近のピークが現れることを特徴とするものである。
【0098】
本構成によって、大容量の気体、中でも空気中に最も多く含まれる窒素を吸着、固定化が可能となった銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトは、気体吸着材のFT−IRスペクトルに銅1価イオンに吸着した窒素分子の3重結合伸縮振動に帰属できる2295cm−1付近のピークが現れることで、確認できる。
【0099】
以下、本発明の断熱体の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって、この発明が限定されるものではない。
【0100】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1による断熱体に用いる気体吸着材の製造方法を示すフローチャートである。
【0101】
本発明の実施の形態における、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトからなる気体吸着材の製造は、銅イオン含有イオン交換溶液を用いたイオン交換工程(STEP1)と、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを洗浄する洗浄工程(STEP2)と、乾燥工程(STEP3)と、銅イオンを還元するための熱処理工程(STEP4)とからなるものである。
【0102】
銅イオンを交換する前の原料であるZSM−5型ゼオライトは、市販の材料を使用することができるが、シリカ対アルミナ比は、2.6以上50以下であることが望ましい。この範囲を望ましいとしたのは、シリカ対アルミナ比が50を超えると、銅イオン交換量が少なく、すなわち窒素吸着活性が減少するからであり、シリカ対アルミナ比が2.6未満のZSM−5型ゼオライトは理論的に合成が不可能であるという理由からである。
【0103】
イオン交換工程(STEP1)では、銅イオン交換がバッチ式にて行われ、銅イオン含有イオン交換溶液が、銅イオン交換前のZSM−5型ゼオライト1gあたり50ml以上200ml以下の量とする。
【0104】
銅イオン含有イオン交換溶液として、従来既存の銅化合物の水溶液が利用可能であるが、気体吸着量、特に化学吸着量の増大を実現するためには、銅イオンがカルボキシラトを含む化合物から生じたものであることが好ましく、酢酸イオン、プロピオン酸イオンなどを生じる酢酸銅、プロピオン酸銅などが好ましい。
【0105】
また、本発明においては、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトのイオン交換率が100%以上200%以下の範囲であることが望まれる。銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトの気体吸着活性点は銅イオンであるため、イオン交換率が100%未満では大容量気体吸着を実現するには銅イオンが不足である。一方で、200%とは、銅が交換前の陽イオンと完全に交換された場合であるため、特異な場合を除き200%より大きい値をとることはない。
【0106】
また、銅イオン含有イオン交換溶液の温度は、室温でも効果は得られるが、40℃以上90℃以下において、その効果が高く、より望ましくは、40℃以上60℃以下である。
【0107】
また、銅イオン含有イオン交換溶液の濃度は、0.01M以上0.1M以下の範囲が望ましく、より望ましくは、0.01M以上、0.06M以下である。さらに望ましくは、0.01M以上、0.03M以下である。
【0108】
また、イオン交換回数は特に限定するものではないが、従来既存のプロセスより低減し、同等以上の気体吸着量が得られるものである。例えば、1回〜3回程度のイオン交換で、従来既存のプロセスで10〜30回のイオン交換で得られる吸着能力を発現できる。
【0109】
また、イオン交換時間は、特に限定するものではないが、15分から60分程度である。
【0110】
洗浄工程(STEP2)では、蒸留水を用いて洗浄することが望ましい。
【0111】
また、乾燥工程(STEP3)では、100℃未満の条件で乾燥することが望ましく、室温での減圧乾燥でも良い。
【0112】
また、熱処理工程(STEP4)では、減圧下、望ましくは10−5Pa未満の条件下で、500℃以上800℃以下の温度で熱処理することが望ましい。熱処理時間は、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトの量によるが、銅イオンを2価から1価へ還元可能な十分な時間が必要である。なお、500℃以上800℃以下の温度での熱処理が望ましいとしたのは、500℃未満では、1価への還元が不十分になる恐れがあり、800℃を超えると、ゼオライトの構造が破壊される恐れがあるという理由からである。
【0113】
このようにして製造した銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトは、従来既存の吸着材に比較して、イオン交換回数が低減することにより安価な製造が可能となり、気体吸着容量は同等以上が可能となる。
【0114】
本実施の形態による、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトからなる吸着材において、銅イオン含有イオン交換溶液の量、及び、種類、濃度、イオン交換時の温度、イオン交換回数を変えてイオン交換率や気体吸着特性を評価した結果を、実施例1から実施例5に示す。気体吸着特性は、気体吸着容量を測定可能なオートソーブ1−C(カンタクロム社製)にて、窒素の吸着量を測定した。
【0115】
使用したZSM−5型ゼオライトのシリカアルミナ比は14である。
【0116】
また、熱処理は600℃にて行い、4時間保持とした。
【0117】
なお、比較対象は、従来の既存プロセスや、本発明の請求の範囲外の条件を経て作製された比較例1から4とした。
【0118】
(実施例1)
イオン交換溶液は、0.03Mの酢酸銅水溶液を用いた。50℃で、1時間のイオン交換を1回行うことにより、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを調製した。銅イオン含有イオン交換溶液は、銅イオン交換前のZSM−5型ゼオライト1gあたり50ml、80ml、100ml、150ml、200mlの量とした。
【0119】
これらの銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを熱処理後、25℃まで冷却し、窒素吸着特性を評価した。それぞれのイオン交換率、および、13200Paと10Paでの窒素吸着量を(表1)に示す。
【0120】
【表1】

【0121】
比較例1と比較すると、イオン交換回数は1/30に低減しているにもかかわらず、窒素吸着量はいずれも同等以上が得られており、このようにイオン交換溶液を、銅イオン交換前のZSM−5型ゼオライト1gあたり50ml以上200ml以下の範囲としたものでは、従来既存の吸着材と同等以上の吸着能力を有する、イオン交換率が100%以上200%以下の銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを安価に製造することが可能である。
【0122】
また、より好ましい範囲である、80ml以上150ml以下の範囲にて作製した銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトでは、10Pa窒素吸着量において、いずれも6cc/g以上の優れた吸着性を示した。
【0123】
これは、イオン交換後の溶液中の、イオン交換に使用されなかった銅イオンと、銅イオンと交換されて溶出した陽イオンとのバランスが適当であり、陽イオン濃度が、一旦交換された銅イオンと再交換されることなく、吸着に寄与する銅イオンが効果的に導入されているためであると考える。
【0124】
(実施例2)
イオン交換溶液は、0.03Mの酢酸銅水溶液を用いた。銅イオン含有イオン交換溶液は、銅イオン交換前のZSM−5型ゼオライト1gあたり100mlとし、40℃、50℃、60℃、90℃、25℃、98℃にて、それぞれ1時間のイオン交換を1回行うことにより、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを調製した。
【0125】
これらの銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを熱処理後、25℃まで冷却し、窒素吸着特性を評価した。それぞれのイオン交換率、および、13200Paと10Paでの窒素吸着量を(表2)に示す。
【0126】
【表2】

【0127】
40℃、50℃、60℃、90℃にて作製した銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトでの結果を比較例1と比較すると、イオン交換回数は1/30に低減しているにもかわらず、窒素吸着量はいずれも同等以上が得られている。
【0128】
より好ましい範囲としている40℃以上60℃以下の範囲では、10Pa窒素吸着量において、いずれも6cc/g以上の優れた吸着性を示した。これは、この温度範囲において、銅イオンは、その他の陽イオンに比較して交換効率が高く、吸着に寄与する銅イオンが効果的に導入されているためであると考える。
【0129】
よって、銅イオン含有イオン交換溶液の適切な温度範囲は、40℃以上90℃以下、より好ましくは40℃以上60℃以下である。この範囲であれば、イオン交換溶液を、銅イオン交換前のZSM−5型ゼオライト1gあたり50ml以上200ml以下の範囲とし、従来既存の吸着材と同等以上の吸着能力を有する、イオン交換率が100%以上200%以下の銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを安価に製造できる効果をさらに促進する。
【0130】
(実施例3)
イオン交換溶液は、0.01M、0.03M、0.06M、0.1M、0.005M、0.11Mの酢酸銅水溶液を用いた。銅イオン含有イオン交換溶液は、銅イオン交換前のZSM−5型ゼオライト1gあたり100mlとし、50℃にて、それぞれ1時間のイオン交換を1回行うことにより、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを調製した。
【0131】
これらの銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを熱処理後、25℃まで冷却し、窒素吸着特性を評価した。それぞれのイオン交換率、および、13200Paと10Paでの窒素吸着量を(表3)に示す。
【0132】
【表3】

【0133】
0.01M、0.03M、0.06M、0.1Mにて作製した銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトでの結果を比較例1と比較すると、イオン交換回数は1/30に低減しているにもかわらず、窒素吸着量はいずれも同等以上が得られている。
【0134】
より好ましい範囲としている0.01M以上0.06M以下の範囲では、10Pa窒素吸着量において、いずれも5.5cc/g以上の優れた吸着性を示した。これは、吸着に寄与する活性銅が効果的に導入されているためであると考える。
【0135】
一方で、0.005Mおよび0.11Mにて作製したものでは、比較例1と比べると、13200Paでは優れているが、10Pa窒素吸着量が低下する傾向が見られた。これは、0.005Mでは、溶液中の銅イオン濃度が低く、効果的に銅が導入されなかったためであると考える。0.11Mでは、要因は不明であるが、濃度が高すぎても銅の導入を阻害する何らかの因子が作用するものと考えられる。
【0136】
よって、銅イオン含有イオン交換溶液の適切な濃度範囲は、0.01M以上0.1M以下、より好ましくは0.01M以上0.06M以下である。
【0137】
この範囲であれば、イオン交換溶液を、銅イオン交換前のZSM−5型ゼオライト1gあたり50ml以上200ml以下の範囲とし、従来既存の吸着材と同等以上の吸着能力を有する、イオン交換率が100%以上200%以下の銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを安価に製造できる効果をさらに促進する。
【0138】
(実施例4)
イオン交換溶液は、0.03M、50℃の酢酸銅水溶液、プロピオン酸水溶液、および0.01M、90℃の塩化銅水溶液を用いた。銅イオン含有イオン交換溶液は、銅イオン交換前のZSM−5型ゼオライト1gあたり100mlとし、それぞれ1時間のイオン交換を1回行うことにより、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを調製した。
【0139】
これらの銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを熱処理後、25℃まで冷却し、窒素吸着特性を評価した。それぞれのイオン交換率、および、13200Paと10Paでの窒素吸着量を(表4)に示す。
【0140】
【表4】

【0141】
酢酸銅水溶液、プロピオン酸水溶液にて作製した銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトでの結果を比較例1と比較すると、イオン交換回数は1/30に低減しているにもかわらず、窒素吸着量はいずれも同等以上が得られている。これは、熱処理時の銅1価への還元を促進する作用を有するため、銅1価サイトの割合を増大し、その結果、気体吸着量、特に化学吸着量の増大が得られるものである。
【0142】
また、特に酢酸銅では、プロピオン酸銅と比較しても、優れた吸着性を示すことがわかる。酢酸銅は、カルボキシラトを含む化合物の中でも、そのイオンサイズが適当であることから、イオン交換効率に優れるものである。また、工業的にも安価で生産性にも優れている。
【0143】
本構成によると、銅イオン交換前のZSM−5型ゼオライト1gあたり50ml以上200ml以下の銅イオン含有イオン交換溶液量にて銅イオン交換した際に得られる吸着量増大効果をさらに促進し、従来既存のものよりイオン交換回数が低減し、同等以上の吸着が得られる効果も確認された。
【0144】
一方、塩化銅水溶液にて作製した銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトでの結果を比較例2と比較すると、イオン交換回数は1/30に低減しているにもかわらず、窒素吸着量はいずれも同等以上が得られている。
【0145】
これは、イオン交換後の溶液中の、イオン交換に使用されなかった銅イオンと、銅イオンと交換されて溶出した陽イオンとのバランスが適当であり、陽イオン濃度が、一旦交換された銅イオンと再交換されることなく、吸着に寄与する銅イオンが効果的に導入されているためであると考える。しかしながら、酢酸銅やプロピオン酸銅水溶液と比較すると、その効果は小さかった。
【0146】
(実施例5)
イオン交換溶液は、0.03Mの酢酸銅水溶液を用いた。50℃で、1時間のイオン交換を1回、2回、3回のそれぞれ行うことにより、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを調製した。銅イオン含有イオン交換溶液は、銅イオン交換前のZSM−5型ゼオライト1gあたり100mlの量とした。
【0147】
これらの銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを熱処理後、25℃まで冷却し、窒素吸着特性を評価した。それぞれのイオン交換率、および、13200Paと10Paでの窒素吸着量を(表5)に示す。
【0148】
【表5】

【0149】
比較例1と比較すると、イオン交換回数は1/30、1/15、1/10に低減しているにもかかわらず、窒素吸着量はいずれも同等以上が得られており、このようにイオン交換溶液を、銅イオン交換前のZSM−5型ゼオライト1gあたり50ml以上200ml以下の範囲としたものでは、従来既存の吸着材と同等以上の吸着能力を有する、イオン交換率が100%以上200%以下の銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを安価に製造することが可能である。
【0150】
また、当然ではあるが、イオン交換回数の増加に従い、吸着量も増大している。一方で、イオン交換回数が1回から2回、3回へと増加するに従い、プロセスコストは2倍、3倍となる。しかしながら、吸着量は2倍、3倍と比例増加するわけではない。
【0151】
よって、プロセスコストに着目すると、1回交換のみで優れた吸着量を示す本構成は有用であると考える。最終的には、ZSM−5ゼオライトの価格などの直接材料費や、水溶液の攪拌や加熱に要する費用など、トータルコストを加味したうえで、最適イオン交換回数を決定することができる。
【0152】
また、実施例1から実施例5の銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトにおいて、窒素以外にも、酸素及び水素、一酸化炭素、二酸化炭素、窒素と酸素との混合気体などの気体吸着が確認できた。
【0153】
(実施の形態2)
図2は、本発明の実施の形態2による断熱体の製造方法を示すフローチャートを示すものである。
【0154】
本発明の実施の形態における、断熱体の製造は、外被材へ芯材および気体吸着材を挿入し、真空チャンバー内で真空排気する、物理的排気工程(STEP1)と、外被材内部を減圧条件で封止する封止工程(STEP2)と、その後、断熱体を放置しておくことにより、気体吸着材によって内部気体が吸着除去される、吸着排気工程(STEP3)とからなるものである。
【0155】
本構成により、気体吸着材が、出荷までに外被材中に残存する気体を固定化除去するため、高断熱が実現されるものである。
【0156】
(実施の形態3)
図3は、本発明の実施の形態3による断熱体に用いる気体吸着材の概略断面図を示すものである。
【0157】
気体吸着材1は、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライト2と、水分吸着性物質3と、酸素吸着材4と、水素吸着材5とを含み、これらの材料をアルゴンなどの不活性気体中で混合し、ペレット化を施したものである。
【0158】
以上のように構成された気体吸着材1では、工業的真空排気プロセスで除去しきれない水分及び内部発生水分を水分吸着性物質3が吸着除去し、水分が吸着除去されたことにより、気体吸着活性を発現する銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライト2が工業的真空排気プロセスで除去しきれない気体および経時的に侵入する気体を吸着固定化する。
【0159】
また、酸素吸着材4と、水素吸着材5がそれぞれ酸素及び水素を吸着除去し、工業的真空排気プロセスで除去しきれない窒素等の気体、および経時的に侵入する気体を吸着固定化する。
【0160】
その結果、外被材の内部空間の到達圧力が、真空ポンプのみを使用した際より低減し、断熱体の断熱性能の向上を図ることができる。
【0161】
(実施の形態4)
図4は、本発明の実施の形態4による断熱体に用いる気体吸着材の概略断面図を示すものである。
【0162】
気体吸着材1は、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライト2を中心に、その周囲を水分吸着性物質3が覆うような構造で、不活性ガス雰囲気中で成型を施したものである。
【0163】
以上のように構成された気体吸着材1では、工業的真空排気プロセスで除去しきれない水分及び内部発生水分を水分吸着性物質3が吸着除去し、水分が吸着除去されたことにより、気体吸着活性を発現する銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライト2が工業的真空排気プロセスで除去しきれない気体および経時的に侵入する気体を吸着固定化する。その結果、断熱体の断熱性能の向上を図ることができる。
【0164】
また、気体吸着活性である銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライト1が水分吸着性物質3に周囲を覆われているため、水分による気体吸着活性サイトの低減がより一層抑制される。
【0165】
断熱体への適用効果を、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトとしては、銅イオン含有イオン交換溶液として、銅イオン交換前のZSM−5型ゼオライト1gあたり100mlで、液温50℃、濃度0.03Mの酢酸銅水溶液を用い、1時間のイオン交換を1回行ったものを用い、水分吸着性物質3には酸化カルシウムを用いて、評価した結果を実施例6に示す。
【0166】
評価は、気体吸着材を封止した平板状パネルの熱伝導率にて、次のように行った。
【0167】
外被材内に気体吸着材のみを封止し、真空ポンプによる物理的排気によって初期内圧を1300Paとし、24時間経過後、すなわち気体吸着材によって吸着排気が生じた後の内圧と熱伝導率を測定した。
【0168】
また、比較対象は、比較例5および6とした。
【0169】
(実施例6)
有効吸着成分のうち、水分吸着性物質3を75wt%と、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライト2を25wt%とを含む、気体吸着材1を作製し、その24時間経過後の内圧と熱伝導率を測定した。
【0170】
24時間経過後の内圧は7Paであり、熱伝導率は、0.067W/mKであった。
【0171】
比較例5に対し、内圧は同等レベルであったが、熱伝導率は48%の改善が見られた。これは、本実施例における気体吸着材の気体吸着容量が大きく、また、合金材料と比較して、固体熱伝導率が低いことによるものである。
【0172】
また比較例6に対し、内圧は1/18まで下がっており、熱伝導率は30%の改善が見られた。これは、本実施例の気体吸着材の気体吸着容量が大きく、また、より強固に気体を吸着する化学吸着容量も大きいため、到達最低圧力が非常に小さいため、気体熱伝導率が低減したものと考える。
【0173】
(実施の形態5)
図5は、本発明の実施の形態5における断熱体の概略断面図を示すものである。
【0174】
本発明の実施の形態5の断熱体6は、芯材7と、ガスバリア性を有し芯材7を覆う外被材8と、芯材7と共に外被材8に覆われる気体吸着材1とを備え、外被材8の内部を減圧してなる断熱体6である。
【0175】
気体吸着材1は、少なくとも、イオン交換率が100%以上200%以下の銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライト2と水分吸着性物質3とを含む気体吸着材1であって、ZSM−5型ゼオライト2の銅イオン交換工程において、銅イオン交換がバッチ式にて行われ、銅イオン含有イオン交換溶液が、銅イオン交換前のZSM−5型ゼオライト1gあたり50ml以上200ml以下の量である。
【0176】
断熱体6は、芯材7として無機繊維集合体を、外被材8として表面保護層、ガスバリア層、および熱溶着層によって構成されるラミネートフィルムを、気体吸着材1として実施の形態4の気体吸着材1を用いたものである。
【0177】
以上のように構成された気体吸着材1では、工業的真空排気プロセスで除去しきれない水分及び内部発生水分を水分吸着性物質3が吸着除去し、水分が吸着除去されたことにより、気体吸着活性を発現する銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライト2が工業的真空排気プロセスで除去しきれない気体および経時的に侵入する気体を吸着固定化する。その結果、断熱体6の断熱性能の向上を図ることができる。また、気体吸着材1による熱伝導率の増大を抑制することができるものである。
【0178】
実施例6の気体吸着材1を適用した断熱体6における窒素吸着の評価結果を実施例8に示す。評価は、いずれも初期の内圧を1300Paとし、1ヶ月経過後の内圧を比較例3及び4の気体吸着材を適用した比較例5及び6の断熱体と比較して行った。なお、気体吸着材1つあたりの重量は約2g、断熱体の芯材の占める空間体積は約400cmである。
【0179】
(実施例7)
実施例6の気体吸着材を適用した断熱体にて、経時1ヶ月後の内圧は13Paであり、経時的な劣化は比較例7,8,9より小さく、外部より侵入した気体および内部発生ガスを気体吸着材がより効果的に吸着除去していると考える。
【0180】
(実施の形態6)
図6は、本発明の実施の形態6における断熱体の概略断面図を示すものである。
【0181】
本発明の実施の形態6の断熱体9は、芯材7と、ガスバリア性を有し芯材7を覆う外被材8と、芯材7と共に外被材8に覆われる気体吸着材1とを備え、外被材8の内部を減圧してなる断熱体9であって、少なくとも、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトと水分吸着性物質3とを含むものである。
【0182】
断熱体9は、芯材7として無機繊維集合体と、ガスバリア性を有する外被材8としてステンレス鋼からなる筐体と、少なくとも、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライト2と水分吸着性物質3とを含む気体吸着材1とを備え、外被材8の内部を減圧してなるものである。
【0183】
以上のように構成された気体吸着材1は、工業的真空排気プロセスで除去しきれない水分及び内部発生水分を水分吸着性物質3が吸着除去し、水分が吸着除去されたことにより、気体吸着活性を発現する銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライト2が工業的真空排気プロセスで除去しきれない気体および経時的に侵入する気体を吸着固定化する。その結果、断熱体9の断熱性能の向上を図ることができる。また、気体吸着材による熱伝導率の増大を抑制することができるものである。
【0184】
以上のように本発明の断熱体9は、少なくとも、イオン交換率が100%以上200%以下の銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを含む気体吸着材1であって、ZSM−5型ゼオライトの銅イオン交換工程において、銅イオン交換がバッチ式にて行われ、銅イオン含有イオン交換溶液が、銅イオン交換前のZSM−5型ゼオライト1gあたり50ml以上200ml以下の量であることを特徴とし、さらに、銅イオン交換型ゼオライトの気体吸着活性を制御するための水分吸着性物質とを含むことにより、水分吸着性物質3が、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライト中のCuが水分接触によりCu−OHを形成し気体吸着不活性となることを抑制することができるため、銅イオン交換型ゼオライト2が効果的に工業的真空排気プロセスで除去しきれない気体を吸着し、その結果、断熱体9の断熱性能の向上を図ることができる。
【0185】
また、気体吸着材1自身による熱伝導率の増大を抑制することができるものである。
【0186】
その結果、優れた断熱性能を有する高性能な断熱体9を提供することができるものである。
【0187】
次に本発明の気体吸着材および断熱体に対する比較例を示す。評価方法は実施例に準じるものとする。また、いかなる吸着材をも適用しなかった断熱体の結果は比較例9に示す。
【0188】
(比較例1)
従来既存の特許文献4のプロセスにてイオン交換するために、イオン交換溶液として0.01Mの酢酸銅水溶液を用いた。銅イオン含有イオン交換溶液は、本発明の請求の範囲外である銅イオン交換前のZSM−5型ゼオライト1gあたり25mlの量とした。
【0189】
25℃で、1時間のイオン交換を30回行うことにより、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを調製した。熱処理は、実施の形態1と同等とした。
【0190】
熱処理後、25℃まで冷却し、窒素吸着特性を評価したところ、窒素吸着量は13200Paでは10.8cc/g、10Paでは4.6cc/gであった。銅イオン交換率は、110%であった。
【0191】
(比較例2)
従来の既存のプロセスにてイオン交換するために、イオン交換溶液として0.01Mの塩化銅水溶液を用いた。本発明の請求の範囲外である銅イオン交換前のZSM−5型ゼオライト1gあたり25mlの量とした。90℃で、1時間のイオン交換を20回行うことにより、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを調製した。熱処理は、実施の形態1と同等とした。
【0192】
熱処理後、25℃まで冷却し、窒素吸着特性を評価したところ、窒素吸着量は13200Paでは5.3cc/g、10Paでは2.0cc/gであった。銅イオン交換率は、93%であった。
【0193】
(比較例3)
本発明の請求の範囲外の銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトについて、吸着特性評価するために、以下の条件にて銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを調製した。イオン交換溶液は、0.03Mの酢酸銅水溶液を用いた。50℃で、1時間のイオン交換を1回行うことにより、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを調製した。銅イオン含有イオン交換溶液は、本発明の請求の範囲外である銅イオン交換前のZSM−5型ゼオライト1gあたり30ml、220mlの量とした。
【0194】
これらの銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを熱処理後、25℃まで冷却し、窒素吸着特性を評価した。それぞれのイオン交換率、および、13200Paと10Paでの窒素吸着量を(表6)に示す。
【0195】
【表6】

【0196】
実施例1から実施例5と比較して、窒素吸着量は低く、特に10Paでの窒素吸着量はイオン交換回数30回の比較例1と比べて低いことがわかる。また、それぞれのイオン交換率は、90%および138%となり、前者についてはイオン交換率についても本発明の請求の範囲外となった。
【0197】
これは、1回交換条件では、30ml/gの量では溶液量が少ないために、銅イオンと交換されて溶出した陽イオン濃度が高く、一旦交換された銅イオンと再置換される可能性が高くなるためである。
【0198】
一方で、220ml/gの量では溶液量が多いため、溶液中に存在する陽イオン濃度が低く、銅イオンと再置換される可能性は低いが、コスト的には不適当である。また、要因は明らかでないが、吸着量の低減も確認され、過剰量の溶液を用いた場合も、吸着特性が低下することが確認された。
【0199】
(比較例4)
本発明の請求の範囲外の銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトについて、吸着特性評価するために、以下の条件にて銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを調製した。
【0200】
イオン交換溶液は、0.03Mの酢酸銅水溶液を用いた。25℃および98℃で、1時間のイオン交換を1回行うことにより、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを調製した。銅イオン含有イオン交換溶液は、銅イオン交換前のZSM−5型ゼオライト1gあたり100mlの量とした。
【0201】
これらの銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを熱処理後、25℃まで冷却し、窒素吸着特性を評価した。それぞれのイオン交換率、および、13200Paと10Paでの窒素吸着量を(表7)に示す。
【0202】
【表7】

【0203】
実施例1から実施例5と比較して、窒素吸着量は低く、特に10Paでの窒素吸着量は比較例1と比べても低いことがわかる。また、それぞれのイオン交換率が、97%および202%となり、本発明の請求の範囲外となったことを確認した。
【0204】
25℃作製のものに関してはイオン交換率が低く、大容量吸着を実現するための十分な銅の導入量が得られていないため、吸着量が低くなり、また、98℃作製のものに関しては、イオン交換率が200%を超えている。これについて詳細は明らかでないが、銅がゼオライト中に導入される形態が異なるためであると考える。
【0205】
すなわち、イオン交換時の溶液温度が98℃と高いため、銅は、少なくとも一部が、有機−銅化合物イオン複合体の形態でイオン交換されていると推測する。
【0206】
ここでの有機−銅化合物イオン複合体とは、有機物および銅化合物の重合物やオリゴマーの陽イオンを指し、1つの陽イオン中に銅が1つであっても、複数含まれていてもよい。
【0207】
その結果、1つのイオン交換サイトに、1つの銅を持つ陽イオンだけではなく、複数の銅を有する陽イオンが交換されるため、見かけ上、イオン交換率が200%を越えるのである。しかし、このような高イオン交換効率に現れる銅は、気体吸着にほとんど寄与しないものも含まれるようである。
【0208】
よって、適切な銅イオン含有イオン交換溶液の量とイオン交換率を限定することは吸着能力とコストのバランスを鑑みる上で、非常に重要である。
【0209】
(比較例5)
有効吸着成分のうち、酸化カルシウムを75wt%と、Ba−Li合金を5wt%と、コバルト酸化物を20wt%とを含むペレットを作製した。
【0210】
24時間経過後の内圧は、13Paであり、熱伝導率は、0.130W/mkであった。また、Ba−Li合金は、PRTR指定物質であり、作業環境が規制されている物質である。
【0211】
(比較例6)
有効吸着成分のうち、酸化カルシウムを75wt%と、比較例1の銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを25wt%とを含む、気体吸着材1を作製し、その24時間経過後の内圧と熱伝導率を測定した。
【0212】
24時間経過後の内圧は、130Paであり、熱伝導率は、0.097W/mKであった。
【0213】
(比較例7)
比較例5の気体吸着材を適用した断熱体にて、経時1ヶ月後の内圧は102Paであった。
【0214】
(比較例8)
比較例6の気体吸着材を適用した断熱体にて、経時1ヶ月後の内圧は130Paであった。
【0215】
(比較例9)
気体吸着材を適用しない断熱体にて、経時1ヶ月後の内圧は197Paであった。
【0216】
本発明においては、ZSM−5型ゼオライト1gあたり50ml以上200ml以下の銅イオン含有イオン交換溶液を用いて銅イオン交換した、銅イオン交換率が100%以上200%以下の銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトは、低イオン交換回数においても、優れた気体吸着量を示し、コストバランスに優れることを確認した。より好ましくは、80ml以上150ml以下である。
【産業上の利用可能性】
【0217】
本発明にかかる断熱体は、従来既存品よりも、安価で、かつ、大容量の気体を吸着可能な気体吸着材を適用したために、工業的真空排気プロセスで除去しきれない窒素およびその他気体を吸着し、その結果、断熱体の断熱性能の向上を図ることができる一方で、ゼオライト構造体は、気体吸着材による熱伝導率の増大を抑制することができるため、優れた断熱性能を発現可能なものである。よって、冷凍冷蔵庫および冷凍機器をはじめとした温冷熱機器への効率的な利用が可能であり、省エネルギーに貢献できるあらゆる機器や、熱や寒さから保護したい物象などのあらゆる断熱用途に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0218】
【図1】本発明の実施の形態1による断熱体に用いる気体吸着材の製造方法を示すフローチャート
【図2】本発明の実施の形態2による断熱体の製造方法を示すフローチャート
【図3】本発明の実施の形態3による断熱体に用いる気体吸着材の概略断面図
【図4】本発明の実施の形態4による断熱体に用いる気体吸着材の概略断面図
【図5】本発明の実施の形態5による断熱体の概略断面図
【図6】本発明の実施の形態6による断熱体の概略断面図
【符号の説明】
【0219】
1 気体吸着材
2 銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライト
3 水分吸着性物質
6 断熱体
7 芯材
8 外被材
9 断熱体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、芯材と、ガスバリア性を有し前記芯材を覆う外被材と、前記芯材と共に前記外被材に覆われる気体吸着材とを備え、前記外被材の内部を減圧してなる断熱体であって、前記気体吸着材が、少なくとも、イオン交換率が100%以上200%以下の銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトを含む気体吸着材であって、前記ZSM−5型ゼオライトの銅イオン交換工程において、銅イオン交換がバッチ式にて行われ、銅イオン含有イオン交換溶液が、銅イオン交換前のZSM−5型ゼオライト1gあたり50ml以上200ml以下の量であることを特徴とする断熱体。
【請求項2】
銅イオン含有イオン交換溶液の温度が、40℃以上90℃以下であることを特徴とする請求項1に記載の断熱体。
【請求項3】
銅イオン含有イオン交換溶液の濃度が、0.01M以上0.1M以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の断熱体。
【請求項4】
銅イオン含有イオン交換溶液に含まれる銅イオンは、カルボキシラトを含む化合物から生じたものであること特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の断熱体。
【請求項5】
カルボキシラトを含む化合物が、酢酸銅であることを特徴とする請求項4に記載の断熱体。
【請求項6】
銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトの製造プロセスの銅イオン交換工程において、銅イオン交換がバッチ式にて行われ、イオン交換回数が1回であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の断熱体。
【請求項7】
気体吸着材が、銅イオン交換されたZSM−5型ゼオライトの他に、少なくとも水分吸着性物質を含むことを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の断熱体。
【請求項8】
少なくとも、真空ポンプによって外被材の内部を減圧する物理的排気工程と、前記気体吸着材によって前記外被材の内部の気体が除去される吸着排気工程とを経て、作製されることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載の断熱体。
【請求項9】
気体吸着材が、窒素を吸着したことにより、前記気体吸着材のFT−IRスペクトルに銅1価イオンに吸着した窒素分子の3重結合伸縮振動に帰属できる2295cm−1付近のピークが現れることを特徴とする請求項1から8のいずれか一項に記載の断熱体。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−138890(P2009−138890A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−318152(P2007−318152)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】