説明

断熱材及びその製造方法

【課題】電磁誘導加熱器等における断熱箇所に用いられる断熱材、及びその製造方法を、加熱後の強度低下が無く又は少なく、しかも加熱時に臭気も生じないように改善されたものとして提供する。
【解決手段】セラミック繊維(シリカ繊維)12とアタパルジャイト11とを有して成る無機繊維13を用いての抄造によって成る断熱材10を用いる。この場合、アタパルジャイト11の無機繊維13に対する構成比率は10〜50%に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電熱器具、暖房器具の断熱用材料、或いは高温部のシール材等に好適な断熱材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の断熱材は、例えば、合成樹脂に発泡剤等を添加して成型されたものや、鉱石を溶解し、綿状にしたものに合成樹脂を加えてマット状にして使用しているものがあるが、一般には、断熱部材に有機結合材を加えることで補強して成形する手段が採られる。即ち、近年では、特許文献1において開示されるように、セラミック繊維とガラス繊維とから成る無機繊維を有機バインダーで結着して成る耐熱セラミックシート、即ち、合成樹脂と有機結合材とで成る断熱材が多用されてきている。
【0003】
ところが、合成樹脂と有機結合材とで成る断熱材は、成型保系形性には優れているが加熱後の強度が低下する性質がある。加えて、合成樹脂と有機結合材とで成る断熱材は、加熱時に臭いが発生するとか、煙が出易いといった性質もあり、改善の余地が残されているものであった。
【特許文献1】特公平6−17277号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、加熱後の強度低下が無く又は少なく、しかも加熱時に臭気や煙の生じないように改善された断熱材及びその製造方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、断熱材において、セラミック繊維12とアタパルジャイト11とを有して成る無機繊維13を用いての抄造によって成ることを特徴とするものである。
【0006】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の断熱材において、前記アタパルジャイト11の前記無機繊維13に対する構成比率が10〜50%に設定されていることを特徴とするものである。
【0007】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の断熱材において、電磁誘導加熱器における断熱箇所に用いられるものであることを特徴とするものである。
【0008】
請求項4に係る発明は、断熱材の製造方法において、セラミック繊維12とアタパルジャイト11とを混合して無機繊維13を作成する混合工程aと、前記無機繊維13を用いて抄造する抄造工程bと、を有することを特徴とするものである。
【0009】
請求項5に係る発明は、請求項4に記載の断熱材の製造方法において、前記混合工程aにおいては、前記アタパルジャイト11の前記無機繊維13に対する構成比率を10〜50%に設定することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、セラミック繊維とアタパルジャイトとを有して成る無機繊維を用いての抄造によって断熱材が構成されているので、有機結合材を加えることで形成される従来の断熱材に比べて、成型保系形性に優れるとともに、加熱後の強度低下を小さくすることができる。また、加熱時の臭いや煙も無く好ましいものである。その結果、加熱後の強度低下が無く又は少なく、しかも加熱時に臭気や煙も生じないように改善された断熱材を提供することができる。
【0011】
請求項2の発明によれば、かさ密度が小さいものとなり(図1参照)、より優れた断熱性を有する断熱材を提供することができる。本発明による断熱材は、請求項3のように、電磁誘導加熱器における断熱箇所に有効に用いることができる。
【0012】
請求項4の発明は請求項1の発明を、そして請求項5は請求項2の発明を夫々方法化したものであり、対応する請求項に寄る前記効果と同等の効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に、本発明による断熱材及びその製造方法の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1は断熱材の各実施例と各比較例における引張り試験結果表を示す図、図2は断熱材の製造方法を示す原理図、図3は抄造の別例を示す作用図である。
【0014】
本発明による断熱材は、図2,3に示すように、シリカ繊維(セラミック繊維の一例)12とアタパルジャイト11とを有して成る無機繊維13を用いての抄造によって成るものであり、アタパルジャイト11の無機繊維13に対する構成比率が10〜50%に設定されている。
【0015】
アタパルジャイト(ポレイシィ:商品名)とは、天然に産出する繊維状粘土鉱物を特殊加工した工業用無機原料(含水マグネシウム珪酸塩鉱物)である。その特性は、揺変性、吸着性、可塑性と多くの性質を兼ね備えており、幅広い用途が期待されている。即ち、アタパルジャイトは、粉末にし熱処理(100℃〜200℃に加熱)するとゼオライト水が抜けて空洞になり、吸着力が増える。そのうえ繊維状の構造が絡み合っているため、水に浸けると強い粘性を発揮し、農薬のキャリャー、接着、粘結材、建材内外装ボード調整材、粘度、調整剤、飼料、水質浄化剤、化学・油脱色剤等に使用可能である。
【0016】
アタパルジャイトの主成分は、パリゴルスカイト(含水マグネシウムアルミニウム珪酸塩)であり、化学構造式は、(Mg,Al)5Si820(OH)2・(OH24・4H2Oで示される。結晶構造は中空繊維状であり、全長に沿ってトンネルが幾つも空いており、それらトンネルが特異な吸着効果に寄与している。この他に不純物としてカルサイト、石英、スメクタイト、緑泥石等が含まれる。
【0017】
つまり、アタパルジャイトは、二酸化珪素を主成分とする長さ15〜20μmの繊維状物質であり、無数の穴のあいた結晶構造で吸着性や耐熱性に優れている。ゴム等に混ぜてシール材として使い、最高600℃程度と、アスベストとほぼ同じ高温下でもクッション性を維持できる性質を有している。紙状にして液体のろ過材として使用することも可能である。アスベストに繊維形状が似ているので、既存の製造ラインを活用可能であるが、アスベストのようなトゲがなく、吸い込んでも肺に突き刺さるリスクは小さいため、アスベスト代替素材として有効である。
【0018】
断熱材の製造方法は、図2に示すように、シリカ繊維12とアタパルジャイト11とを混合して無機繊維13を作成する混合工程aと、混合工程aによって作成された無機繊維13を用いて抄造する抄造工程bと、を有するものである。混合工程aにおいては、アタパルジャイト11の無機繊維13に対する構成比率を10〜50%に設定する。抄造工程bは後述の角型シート抄紙機を用いるが、別の例としては図3に示される方法もある。
【0019】
即ち、図3に示すように、シリカ繊維12、アタパルジャイト11、及び水9の分散液(無機繊維)13をホッパー1に入れておき、ホッパー1下端の出口1aから、ローラ2,3に巻回されている無端回動帯状の金網4の搬送始端側の上面に前記分散液を垂らし供給させる。金網4上で矢印イ方向に搬送される間に分散液が漉かされて(抄かされて)概略のシート状体に形成され、金網4の搬送終端からは大径の持上げドラム5に沿って持上げ搬送されてから、複数の上下の仕上げローラ6,7の間を通ることにより、断熱材シート(抄造シート)8が形成される、という抄造工程bである。実際に使用される断熱材10は、前記断熱材シート8の複数を積層して用いるようにしても良い。
【0020】
上記のようにして製造される断絶材シートに関する幾つかの実施例と、比較例とをそれぞれ用意して、引張り試験を行った。引張り強さ試験は、得られた断熱材シートの常温時と400℃で12時間加熱後との引張り強さを測定することとした。試片は幅15mm、長さ50mmのもので、デジタルフォースゲージ(例:日本電産シンポ製)を用いて引張り速度5mm/分での引張り強さを求めるものである。引張り試験結果とかさ密度とを求めた特性比較表を図1に示す。尚、各実施例と各比較例の試験結果は次のようである。
【0021】
〔実施例1〜4〕
アタパルジャイト鉱物[例:昭和KDE製ポレイシィPF(A)]と、シリカ繊維(繊維径7μm・繊維長12mm)と水5000ミリリットルとを、家庭用ミキサーで1分間分散したスラリー液を、角型シート抄紙機[例:熊谷理機工業製25cm角]にて紙漉きを行い、坪量350g/m2 のシート(断熱材シート)を得た。但し、アタパルジャイトとシリカ繊維とで成る無機繊維に対するアタパルジャイトの構成比率が10〜50%に設定されている。即ち、アタパルジャイトの構成比率は、実施例1が10%、実施例2が20%、実施例3が25%、実施例4が50%である。
【0022】
〔比較例1〕
紙パルプとシリカ繊維(繊維径7μm・繊維長12mm)と水5000ミリリットルとを、家庭用ミキサーで1分間分散したスラリー液を、角型シート抄紙機[例:熊谷理機工業製25cm角]にて紙漉きを行い、坪量350g/m2 のシート(断熱材シート)を得た。この場合、紙パルプとシリカ繊維との構成比は、1:9である。
【0023】
〔比較例2,3〕
アタパルジャイト鉱物[例:昭和KDE製ポレイシィPF(A)]と、シリカ繊維(繊維径7μm・繊維長12mm)と水5000ミリリットルとを、家庭用ミキサーで1分間分散したスラリー液を、角型シート抄紙機[例:熊谷理機工業製25cm角]にて紙漉きを行い、坪量350g/m2 のシート(断熱材シート)を得た。但し、アタパルジャイトとシリカ繊維とで成る無機繊維に対するアタパルジャイトの構成比率が10%未満、又は50%超に設定されている。即ち、アタパルジャイトの構成比率は、比較例2が75%で、比較例3は85%である。
【0024】
図1から判るように、紙パルプとシリカ繊維とを有機結合材で混抄して得られる比較例1のものは、かさ密度は良好な値を呈示するものの、加熱後の引張り強さの低下が大きく形態を保持することができない。そして、構成比率が50超のアタパルジャイトとシリカ繊維とから成る無機繊維を用いての抄造による比較例2,3のものでは、加熱後の引張り強さの低下は特に問題は無く、断熱材として用いることは可能ではあるが、かさ密度が大きいという難点がある。
【0025】
これらに対して、構成比率が10〜50%のアタパルジャイトとシリカ繊維とから成る無機繊維を用いての抄造によって得られる実施例1〜4の断熱材シートは、成型保形性に優れ、加熱後の引張り強さの低下が少ないとともに、かさ密度も0.2g/cm2 以下となって、断熱性にも優れるものとなっている。また、有機結合材を用いていないので、製造時における臭いや煙が生ぜず、環境にも優しい。尚、アタパルジャイトの構成比率が大きいほど引張り強さ及びかさ密度が大きくなる傾向がある。
【0026】
本発明による断熱材10(図2参照)は、例えばIHジャー(電磁誘導炊飯器)、IHクッキングヒーター(電磁誘導加熱器)、電子レンジ(電磁誘導調理器)等の電磁誘導加熱器(又はこれを含む機器)における断熱箇所に好適に使用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】断熱材の各実施例と各比較例との特性比較表を示す図
【図2】断熱材の製造方法を示す原理図
【図3】抄造工程の別例を示す作用図
【符号の説明】
【0028】
11 アタパルジャイト
12 セラミック繊維
13 無機繊維
a 混合工程
b 抄造工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック繊維とアタパルジャイトとを有して成る無機繊維を用いての抄造によって成る断熱材。
【請求項2】
前記アタパルジャイトの前記無機繊維に対する構成比率が10〜50%に設定されている請求項1に記載の断熱材。
【請求項3】
電磁誘導加熱器における断熱箇所に用いられるものである請求項1又は2に記載の断熱材。
【請求項4】
セラミック繊維とアタパルジャイトとを混合して無機繊維を作成する混合工程と、前記無機繊維を用いて抄造する抄造工程と、を有する断熱材の製造方法。
【請求項5】
前記混合工程においては、前記アタパルジャイトの前記無機繊維に対する構成比率を10〜50%に設定する請求項4に記載の断熱材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−266856(P2008−266856A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−115126(P2007−115126)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【出願人】(000229737)日本ピラー工業株式会社 (337)
【Fターム(参考)】