説明

断糸時または糸掛け時に用いる糸処理装置及びその糸処理方法

【課題】熱可塑性合成繊維の溶融紡糸装置の立上げ時や断糸発生時における、断糸処理や糸掛け作業を短時間かつ効率的に行うことができる糸処理装置を提供する。
【解決手段】溶融したマルチフィラメント糸条群を紡出する紡糸口金1群の下方に設けられた円筒状糸条冷却装置3と、紡糸筒2の内部に設けられた油剤付与装置7と、紡糸筒の下方に設けられた糸条吸引装置8と、断糸発生時又は糸掛け時に前記油剤付与装置の上方へ覆い被さるように突出自在に回動し、かつ断糸した糸条又は糸落しされた糸条をその上面から滑落させる傾斜面が形成された傾斜回動装置6と、そして、断糸の発生を検知する断糸検出器とを備え、断糸の発生を検知して前記油剤付与装置の上方へ前記傾斜回動装置を回動させて突出させると共に、前記糸条吸引装置を作動させて断糸した糸条を捕捉吸引して紡糸筒外へ排出することを特徴とする糸処理装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィンなどの熱可塑性重合体からなる合成繊維を溶融紡糸する際に生じた断糸を処理したり、一旦溶融紡糸を開始する際に糸掛けを行うための糸処理装置とその糸処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶融した熱可塑性ポリマーを紡糸口金から紡出した後、紡出糸条を冷却して熱可塑性合成繊維を溶融紡糸することは、熱可塑性合成繊維を生産するために一般的に行われているプロセスである。このような溶融紡糸において、紡出された熱可塑性合成繊維を良好に冷却するプロセスは高品質な糸条を得る上で極めて重要な役割を果たしている。特に、衣料用長繊維を溶融紡糸するプロセスでは、紡糸後の糸強度や伸度、あるいは染織性などに、この冷却プロセスが非常に大きな影響を与えることが従来から知られている。
【0003】
しかも、近年になって、生産効率を上げるために、一つの紡糸口金から多数本の細糸を紡出するようになってきており、単糸繊度(1本のフィラメントの繊度)が0.3デシテックス以下の繊維の生産も可能になってきている。このように、一つの口金から多数本の細糸を紡糸するプロセスにおいては、フィラメント群間に繊度斑が発生しないように糸条の紡糸条件を適切に制御することが非常に重要であり、そのために、繊度斑のない均質な糸条を安定して生産するための技術が要求される。
【0004】
従来、衣料用繊維の溶融紡糸において、紡出糸条を冷却するための装置として、特開平7−97709号公報(特許文献1)や特開2000−34615号公報(特許文献2)などに開示されているように、糸条が走行する方向に対して、略直角に走行糸条の横方向(側方)から一方向に向けて冷却風を吹き出す冷却装置(以下、本明細書において、「横吹き方式の冷却装置」という)が提案されている。
【0005】
しかしながら、この従来の横吹き方式の冷却装置では、紡出された各錘糸条が均等に冷却されないことによって生じる冷却の錘間差を低減することに限界が生じている。このため、近年では、例えば、特開2004−300614号公報(特許文献3)や特開2003−253522号公報(特許文献4)などに提案されているように、紡出された各錘糸条にそれぞれ対応させて、独立した円筒状の紡糸筒を有する糸条冷却装置を設けることが提案されている。
【0006】
この円筒状糸条冷却装置では、各錘毎にそれぞれ独立して設置された糸条冷却装置内へ各錘糸条をそれぞれ通過させ、これら各錘糸条と冷却風の吹出面との間の距離を小さく保ち、各錘糸条の外周側からその内側(つまり、糸条の中心方向)へ向かって放射状に冷却風を吹き付けて冷却効率を高めることが行われている。その結果、横吹き方式の冷却方式よりも冷却斑を抑制しながら、均一に紡出糸条を冷却することを可能としている。
【0007】
しかしながら、この円筒状糸条冷却装置では、溶融紡糸時に断糸が発生したり、あるいは、溶融紡糸を停止又は休止したりして、再び運転を開始すると、紡出する糸条群の数だけ設けられた紡糸筒群の内部に対して、それぞれ糸通しを行う必要がある。したがって、この作業は大変煩雑である。
【0008】
しかも、一般に、熱可塑性合成繊維の溶融紡糸においては、近年においては紡糸速度が高速化しており、これに対応して紡出後の糸条を冷却するための時間を稼ぐ必要上から冷却長が大きくなってきている。したがって、これに対応させて紡糸筒長も長くせざるを得なくなってきており、紡糸筒は階上の紡糸室から階下の巻取室にまで達しているのが普通である。
【0009】
そうすると、断糸が発生して紡糸筒内へ糸通しを行う場合には、作業員は階上と階下の両方に位置して少なくとも二人以上で作業で行う必要がある。すなわち、通常は、階上にいる作業員が紡糸室に設置された円筒状紡糸筒内への糸通しを行い、次いで、階下の巻取室にいる作業者が引取ローラや巻取機への糸掛け作業を実施しなければならないという複数人による作業となっている。
【0010】
また、断糸が発生すると走行糸条の張力が急激に低下するため、例え下流側の引取ローラなどに糸条が巻き付いたとしても瞬間的に糸条にたるみが生じて、油剤付与装置などに糸条の絡みが生じることがしばしば生じる。更には、断糸が生じても、回転体などに巻き付かない場合には、紡糸筒内へは紡糸口金から紡出された糸条が次々に紡出されてくるために、途中に設けられた油剤付与装置などに引っ掛かって紡糸筒内に糸条が滞留して蓄積する。そして、酷い場合には、加熱された紡糸口金のポリマー吐出面にポリマーの融着が生じるといった問題を惹起する。
【0011】
【特許文献1】特開平7−97709号公報
【特許文献2】特開2000−034615号公報
【特許文献3】特開2004−300614号公報
【特許文献4】特開2003−253522号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上に述べたように、本発明が解決しようとする課題は、「紡出された各錘糸条に対応して独立してそれぞれ設けた円筒状の紡糸筒を使用して冷却斑などを解消できる糸条冷却装置を使用する際に生じる断糸処理に係る様々な困難を解消することにある。つまり、断糸が生じても、断糸した糸条が紡糸筒内に滞留することなく、紡糸筒外へ円滑に排出でき、しかも、断糸処理作業や糸掛け作業においても、屑糸の発生や糸掛け時間が増大することなく断糸処理を迅速に行うことができ、しかも、これまでは二人以上の複数の作業員が必要とされた作業を効率的なものとし、これによって、生産向上と生産コストの低減を可能とする糸処理装置と糸処理方法を提供すること」にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
ここに、前記課題を解決するために本発明として、下記の(1)〜(3)に記載の発明が提供される。
【0014】
(1) 溶融した熱可塑性重合体からなるマルチフィラメント糸条群を紡出する紡糸口金群の下方に各錘のマルチフィラメント糸条のそれぞれ対応して設けられ、かつ紡出された各錘糸条の外周側から内側へ向かって放射状に冷却風を吹き付ける円筒状糸条冷却装置と、
前記糸条冷却装置の下方に設けられ、かつ階上と階下の二つの階にまたがって設置された紡糸筒と、前記紡糸筒の内部に設けられた油剤付与装置と、前記紡糸筒の下方に設けられた糸条吸引装置と、断糸発生時又は糸掛け時に前記油剤付与装置の上方へ覆い被さるように突出自在に回動し、かつ断糸した糸条又は糸落しされた糸条をその上面から滑落させる傾斜面が形成された傾斜回動装置と、そして、断糸の発生を検知する断糸検出器とを備え、
前記断糸検出器によって断糸の発生を検知して前記油剤付与装置の上方へ前記傾斜回動装置を回動させて突出させると共に、前記糸条吸引装置を作動させて断糸した糸条を捕捉吸引して紡糸筒外へ排出することを特徴とする、断糸時または糸掛け時に用いる糸処理装置。
【0015】
(2) 溶融した熱可塑性重合体からなるマルチフィラメント糸条群を各紡糸口金からそれぞれ紡出し、紡出した各錘のマルチフィラメント糸条のそれぞれに対してその外周側から内側に向かって放射状に冷却風を吹き付けて冷却し、冷却された各錘糸条を階上と階下の二つの階にまたがって設けられた紡糸筒内の油剤付与装置によって油剤を付与した後、引取りローラで引き取る溶融紡糸工程で発生した断糸を処理したり、溶融紡糸の開始時に糸掛けを行ったりする糸処理方法において、
前記油剤付与装置の上方へ覆い被さるように傾斜面を突出させ、上方から送られてくる糸条を前記傾斜面上で滑落させて油剤付与装置への糸条の絡みつきを防ぐと共に、紡糸筒の下方で前記糸条を捕捉吸引して紡糸筒外へ排出することを特徴とする、断糸時または糸掛け時に用いる糸処理装置。
【0016】
(3) 溶融紡糸中に発生した断糸を検知して前記傾斜面を油剤付与装置の上方へ突出させて紡出されたマルチフィラメント糸条の前記油剤付与装置への絡みつきを防ぐと共に、断糸した糸条を紡糸筒の下部で捕捉吸引する、(2) に記載の断糸時または糸掛け時に用いる糸処理方法。
【発明の効果】
【0017】
このように従来方式の円筒状糸条冷却装置を用いた合成繊維生産設備では、断糸処理時に糸条が油剤付与装置に絡みつき、最終的には、糸条が口金面に融着するという問題があった。また,設備立上げ時の糸落し作業においては、油剤付与装置への糸条の引っ掛かりにより作業が不可能であった。
【0018】
しかし、本発明に係る糸処理装置を用いることにより、断糸が発生すると、直ちに傾斜回動装置を作動させて強制的に油剤付与装置から糸条群を移動させて遠ざけ、これによって、油剤付与装置との係合を解除させて、油剤付与装置への糸条の絡みを解消させることが可能となった。その結果として、糸条吸引装置に吸引している糸条群の糸掛け作業のみを行うことで対処でき、屑糸ロスの低減、再糸掛けに必要な作業時間の短縮、そして、生産性向上に大きく寄与する。しかも、断糸が発生した時に次々に紡出されてくる糸条群が紡糸筒の内部へ滞留することが無なり、滞留した糸条が紡糸筒の丈夫に蓄積して加熱された口金面と接触し、口金面に融着するという問題も解消できる。
【0019】
また、溶融紡糸を開始する時に行う糸掛け時において、糸落し作業においては、糸落し装置に設けた傾斜回動装置を作動させることにより、階下の糸条吸引装置への糸落し作業がスムーズに行われ、糸条吸引装置への吸引が容易となった。その結果として、断糸処理や糸掛け作業の一人作業化が可能となり、糸落し作業についもて、短時間で失敗なく確実に実施できることとなって、生産歩留まりの向上と人件費の削減によって生産コスト低減を図りながら生産性向上に寄与もできるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に本発明の実施例を図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る糸処理装置の一実施形態を例示した図であって、衣料用長繊維の溶融紡糸工程に適用した場合の概略説明図である。また、図2は、図1に例示した溶融紡糸装置において断糸が発生したり、糸掛けを行ったりする際に行う糸処理の様子を例示した概略説明図である。
【0021】
ここで、図1及び図2において、各参照符号について説明すると、Yはポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィンなどの熱可塑性重合体からなる糸条(マルチフィラメント糸条)である。また、1は紡糸口金、2は紡糸筒、3は紡出された糸条を冷却する円筒状糸条冷却装置、4は前記円筒状糸条冷却装置の上部に取り付けたシール構造体、5は糸落し装置、6は傾斜回動装置、7は油剤付与装置、8は糸条吸引装置、9は第1引取ロ−ラ、10は第2引取ローラ、11は断糸検出器、12は巻取機、そして、13は糸掛け用サクションガン(以下、「糸掛け具」ともいう)をそれぞれ示す。
【0022】
前記図1において、口金1より紡出されたマルチフィラメント糸条Yは、円筒状糸条冷却装置3の円筒内周面より内側へ向かって放射状に吹き出される冷却風により必要な冷却温度以下(ポリエステル繊維であれば、ガラス転移温度以下)まで冷却される。ついで、前記円筒状糸条冷却装置3の下方に位置する紡糸筒2内に設けられた油剤付与装置7によって油剤が付与される。
【0023】
その後、必要に応じて交絡付与などが行われ、一対の第1引取ロ−ラ9及び第2引取ローラ10に所定の紡糸速度で引き取られ、引き取られた糸条Yは最終的に巻取機12で糸条パッケージとして巻き取られる。ただし、紡糸工程と延伸工程を切り離すことなく、紡糸直接延伸工程によって製糸を行う場合には、この溶融紡糸の段階で一旦巻取らずに、そのまま延伸処理へ供した後に巻取りが行われることは言うまでもない。
【0024】
また、一般に、合成繊維の製糸工程において、生産効率を上げるために、一台の巻取機12で複数錘(例えば、2錘、4錘、6錘など)の糸条群を同時に巻取る多コップワインダーが慣用されているので、本発明の断糸処理は、このような一台の巻取機12が巻取る錘数を単位に行うことが好ましい。
【0025】
なお、本明細書では、糸条Yが紡糸口金1から溶融紡糸されて巻取機12によって巻き取られるまでに糸条Yが走行する方向に対して、走行方向に対して逆方向側を「上流」と呼び、走行方向に対して順方向側を「下流」と呼ぶ。このため、この呼称に従えば、紡糸口金1は「上流」側に配置され、巻取機12は「下流」側に配置されることとなる。
【0026】
本発明においては、正常な溶融紡糸が行われている間は、紡出された糸条Yは、巻取機12に糸条パッケージとして通常通りに巻き取られる。このとき、傾斜回動装置6は、図1に示した位置で待機している。ところが、何らかの原因で断糸が発生すると、そのままの状態で放置しておけば、「背景技術」欄で述べたような問題が発生する。そこで、断糸が発生すると、直ちに巻取機12の直前に設けられた断糸検出器11によって、断糸の発生をいち早く検知する。
【0027】
なお、断糸検出器11は、接触式検知器、あるいは、光学式や静電容量式などの非接触式検知器など周知のものを使用することができるが、その設置位置は前述のように巻取機12の位置の直前位置とすることが好ましい。何故ならば、紡出された糸条Yが巻取機12によって巻き取られるまでの間のどの位置において断糸したとしても、最下流位置に断糸検出器11を設けておけば、必ず断糸を検出することができるからである。
【0028】
以上に述べたようにして、断糸が発生し、断糸検出器11によって断糸が検出されると、断糸検出信号が糸条吸引装置8と傾斜回動装置6の制御装置(図示せず)へと送信される。そして、この断糸検出信号が制御装置(図示せず)に受信されると、図2に例示したように、この制御装置(図示せず)から電磁弁などの空気流制御機器を操作することによって、糸条吸引装置8を作動させる。そして、糸条Yを吸引可能な状態にして、断糸した糸条Yを吸引する。また、これと共に、アクチュエータ5を作動させ、紡糸筒2内に設けられた傾斜回動装置6を糸道方向(図1の位置から図2の位置)へ回動させる。
【0029】
なお、前記傾斜回動装置6は、円筒状糸条冷却装置3の下端と油剤付与装置7の上端との間に設けられており、下方へ傾斜した状態で油剤付与装置7の上方へ覆い被さるように回動自在である。なお、この傾斜回動装置6は、図2に示したように、紡糸筒2の壁面を回動中心として、下方へ向かって傾斜する板状部材で形成されている。
【0030】
したがって、断糸した糸条Yは傾斜回動装置6の上方側で蓄積されずに、板状部材の傾斜面に沿って滑り落ちるようにされている。このため、傾斜回動装置6が形成する、鉛直下方への傾斜角度は、糸条Yが円滑に滑り落ちることができるような角度とする。また、少なくともその上面は、フッ素樹脂(4フッ化エチレン樹脂等)などの摩擦係数が小さな材質で形成することが好ましい。
【0031】
これに対して、傾斜回動装置6を設けなければ、糸道上に突出した油剤付与装置7に糸条Yが引っ掛かってしまって、「背景技術」欄で説明したような問題を惹起する。したがって、従来の技術では、断糸が発生すると、油剤付与装置7そのものを紡糸筒2の内部位置から後退させて、糸条Yが油剤付与装置7に引っ掛からない位置へと退避させなければならず、そのための装置構成が複雑にならざるを得なかった。しかしながら、本発明においては、前述のように油剤付与装置7に関しては、何らの動作も行わせる必要がなく、そのままの状態に維持しておき、傾斜回動装置6のみを作動させるだけで、断糸処理を円滑に行うことができる。
【0032】
以上に説明したように、本発明に係る傾斜回動装置6を作動させることにより、油剤付与装置7と係合している糸条Yは、その係合を強制的に解除されて、油剤付与装置7から外れる方向へとその糸道が移動させられる。したがって、口金1から次々に紡出される糸条Yは、油剤付与装置7に引っ掛かることなく、下方へ走行するか、もしくは落下する。
【0033】
このとき、紡糸筒2の下方の階下に設けられた糸条吸引装置8は、前述のように既に糸条Yを吸引できる状態にされているので、断糸した糸条Yは、この糸条吸引装置8に捕捉されて吸引される。このようにして、断糸が発生すると、口金1から次々と紡出されてくる糸条Yは、傾斜回動装置6によって油剤付与装置7との係合が解除された状態で糸条吸引装置8に吸引される。それ故に、紡糸筒2の上部に糸条が蓄積されることもなく、紡糸筒2の外へと円滑に断糸した糸条Yが排出される。したがって、当然のことながら、断糸した糸条Yが油剤付与装置7に絡みつくこともなくなる。
【0034】
ここで、その後の断糸処理について説明すると、階下の糸条吸引装置8に吸引された糸条Yは、糸条吸引装置8から作業員が保持する糸掛け用サクションガン13へと移し替えられる。次いで、第1引取りローラ9及び第2引取りローラ10などへ糸掛けが行われ、最終的に巻取機12に巻き取らせる。
【0035】
このような作業において、もし、傾斜回動装置6が無い場合には、断糸に伴って張力が消失した糸条Yは、前述のように油剤付与装置7に絡みついてしまう。このため、絡みついた糸条を除去するために、円筒状糸条冷却装置3を下降させ、その円筒状の冷却風吹き出し面の内部へ糸通しをした後、階下の糸条吸引装置8へ糸移しを行う作業が必要であり作業効率が悪くなる。
【0036】
これに対して、本発明では、傾斜回動装置6を用いることにより、断糸が発生した時に、この傾斜回動装置6によって、油剤付与装置7に糸条Yが絡みつくことがないような状態で階下の糸条吸引装置8に糸条Yが吸引されている。したがって、作業員は階下で糸条吸引装置8から糸掛けサクションガン13への糸受け渡し作業から断糸処理作業を開始することができ、作業時間を大幅に短縮することができる。
【0037】
また、本発明においては、断糸処理とは別に、溶融紡糸装置の立上げ時における糸掛け作業を行う場合についても、傾斜回動装置6が有効に働く。つまり、傾斜回動装置6を備えない従来の方法では、円筒状糸条冷却装置3への糸通しをまず行って、この糸通し作業を完了し、ついで、階下の糸条吸引装置8へ糸移しを行う。しかしながら、このような作業を行おうとすると、紡糸筒2内に設けられた油剤付与装置7が障害物となって、糸が油剤付与装置7に絡みつきその作業が煩雑となる。
【0038】
その結果として、階上の紡糸室にて一人の作業者が糸条Yを油剤付与装置7に絡まないように、階下にいるもう一人の作業者へ慎重に受け渡しを行う必要がある。したがって、階下に別の作業員を配さなくてはならず、この作業員が階上の作業者から糸掛けサクションガン13にて紡糸筒の下部で糸条Yを受け取る作業を行わざるを得なかった。このため、円筒状糸条冷却装置3への糸落し作業は二人作業とならざるを得ず、人件費の上昇による生産コストアップに繋がっていた。
【0039】
これに対して、本発明によれば、図2に示すように、断糸処理時において紡糸室に設けたスイッチを操作することにより強制的に糸条吸引装置8と傾斜回動装置6とを作動させ、円筒状の冷却風吹出面の内部へ糸通しを行うことができる。そして、糸通し作業が完了後、傾斜回動装置6を作動させた状態で階下の糸条吸引装置8への糸落しを次々に行い、全ての錘の糸を一旦糸条吸引装置8へ吸引させた後、階下に作業者が移動して、糸掛け用サクションガン12で糸掛け作業を実施して行く。
【0040】
その結果として、糸落し作業を全て一人の作業者で実施することが可能となる。したがって、生産に必要なコストを低減することが可能となると同時に、糸落し作業時間の短縮、効率化による生産性向上も図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に係る糸処理装置を適用する溶融紡糸工程の概略装置構成を例示した概略説明図である。
【図2】図1に例示した溶融紡糸工程での糸処理方法を例示した概略説明図である。
【符号の説明】
【0042】
1:口金
2:紡糸筒
3:円筒状糸条冷却装置
4:シール構造体
5:アクチュエータ
6:傾斜回動装置
7:油剤付与装置
8:糸条吸引装置
9:第1引取りローラ
10:第2引取りローラ
11:断糸検出器
12:巻取機
13:糸掛け用サクションガン
Y:マルチフィラメント糸条

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融した熱可塑性重合体からなるマルチフィラメント糸条群を紡出する紡糸口金群の下方に各錘のマルチフィラメント糸条のそれぞれ対応して設けられ、かつ紡出された各錘糸条の外周側から内側へ向かって放射状に冷却風を吹き付ける円筒状糸条冷却装置と、
前記糸条冷却装置の下方に設けられ、かつ階上と階下の二つの階にまたがって設置された紡糸筒と、
前記紡糸筒の内部に設けられた油剤付与装置と、
前記紡糸筒の下方に設けられた糸条吸引装置と、
断糸発生時又は糸掛け時に前記油剤付与装置の上方へ覆い被さるように突出自在に回動し、かつ断糸した糸条又は糸落しされた糸条をその上面から滑落させる傾斜面が形成された傾斜回動装置と、そして、
断糸の発生を検知する断糸検出器とを備え、
前記断糸検出器によって断糸の発生を検知して前記油剤付与装置の上方へ前記傾斜回動装置を回動させて突出させると共に、前記糸条吸引装置を作動させて断糸した糸条を捕捉吸引して紡糸筒外へ排出することを特徴とする、断糸時または糸掛け時に用いる糸処理装置。
【請求項2】
溶融した熱可塑性重合体からなるマルチフィラメント糸条群を各紡糸口金からそれぞれ紡出し、紡出した各錘のマルチフィラメント糸条のそれぞれに対してその外周側から内側に向かって放射状に冷却風を吹き付けて冷却し、冷却された各錘糸条を階上と階下の二つの階にまたがって設けられた紡糸筒内の油剤付与装置によって油剤を付与した後、引取りローラで引き取る溶融紡糸工程で発生した断糸を処理したり、溶融紡糸の開始時に糸掛けを行ったりする糸処理方法において、
前記油剤付与装置の上方へ覆い被さるように傾斜面を突出させ、上方から送られてくる糸条を前記傾斜面上で滑落させて油剤付与装置への糸条の絡みつきを防ぐと共に、紡糸筒の下方で前記糸条を捕捉吸引して紡糸筒外へ排出することを特徴とする、断糸時または糸掛け時に用いる糸処理装置。
【請求項3】
溶融紡糸中に発生した断糸を検知して前記傾斜面を油剤付与装置の上方へ突出させて紡出されたマルチフィラメント糸条の前記油剤付与装置への絡みつきを防ぐと共に、断糸した糸条を紡糸筒の下部で捕捉吸引する、請求項2に記載の断糸時または糸掛け時に用いる糸処理方法。

【図1】
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【図2】
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