説明

断面が海島構造の塗膜を形成するカチオン電着塗料組成物

【課題】耐チッピング性、防食性、仕上り性などに優れた塗膜を形成するカチオン電着塗料組成物を提供すること。
【解決手段】基体樹脂(A)及び硬化剤(B)を含んでなるカチオン電着塗料用エマルションに、弾性ポリマー(C)の水分散体を配合してなるカチオン電着塗料組成物であって、(i) 弾性ポリマー(C)を基体樹脂(A)と硬化剤(B)の合計固形分100質量部に対して1〜40質量部の範囲内で含有し、(ii) 弾性ポリマー(C)が1,000〜15,000の範囲内の数平均分子量を有し、そして(iii) 基体樹脂(A)の溶解性パラメーター(δ)と弾性ポリマー(C)の溶解性パラメーター(δ)の差(Δδ)が0.8〜1.2の範囲内にあることを特徴とする、断面が海島構造の塗膜を形成するカチオン電着塗料組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐チッピング性、防食性、仕上り性等に優れた、断面が海島構造の塗膜を形成するカチオン電着塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車産業分野では、車体外板の腐食環境(例えば、寒冷地での道路への岩塩散布等)における耐久性向上の要求が高まっており、そのため、車体外板の材質として、従来の冷延鋼板に代えて、防錆性に優れた亜鉛メッキ鋼板が使用されている。
【0003】
一方、これらの車体外板に塗装された塗膜において、自動車の走行時に跳ね上げられた岩塩粒子や小石等が塗膜面に衝突して該塗膜が剥離する、いわゆる「チッピング」を起こすという問題がある。特に、寒冷地等の低温環境下では、塗膜が硬くなり弾性を失うので、その衝突を殆ど吸収緩和することができず、鋼板に直接衝撃が加わることになり、鋼板とその表面の化成処理皮膜間、鋼板と亜鉛メッキ層間で剥離を起こしやすく、低温環境下でのチッピング対策の検討が急務となっている。
【0004】
チッピング対策として、例えば、特許文献1には、エポキシ系カチオン電着性樹脂に、塗膜に可とう性を付与するための、該電着性樹脂との相溶性が良好な数平均分子量が少なくとも15,000の高分子量ポリウレタンを配合してなる、耐チッピング性、防錆性等に優れた塗膜を形成し得る電着塗料組成物が提案されている。しかしながら、該ポリウレタンは高分子量であるために、水分散安定性や、カチオン電着塗料中に配合した場合の浴安定性、塗面平滑性などに問題がある。
【0005】
また、特許文献2には、溶解性パラメーターがδaである樹脂aを含む粒子Aと、溶解性パラメーターがδbである樹脂b及び硬化剤を含む粒子Bを含む電着塗料組成物であって、(δb−δa)の値が1以上であり、粒子A及び粒子Bのそれぞれから形成される樹脂膜の動的ガラス転移温度がそれぞれ−110〜10℃及び60〜150℃であり、かつ粒子Aのみから造膜して得られる塗膜の伸び率が200%以上である電着塗料組成物が開示されているが、この特許文献2の電着塗料組成物は、互いに不相溶な2種類の樹脂成分を使用することによって、複層構造を有する電着塗膜を形成させ、このうち、基材上に接する側は防食性を有する樹脂層とし、空気に接する側は耐衝撃性(耐チッピング性)を有する樹脂層として、防食性と耐衝撃性とを両立することができるようにしようというものである。しかしながら、樹脂aが数平均分子量が10,000未満のオリゴマーである場合には、粒子Aは樹脂aに加えて硬化剤を含む必要があるため、塗料の安定性や塗膜の仕上がり性などに問題がある。
【0006】
さらに、非特許文献1には、SP値の異なる樹脂によって層分離膜を形成させ、それによって、従来型の均一構造膜や、分散相(島)と連続相(海)からなる海島構造膜と比較して、耐候性と防食性の高度な両立が可能となる、電着膜における耐候性と防食性の両立設計に関して報告されている。しかし、非特許文献1には、海島構造膜と耐チッピング性との関連については何ら報告されていない。
【特許文献1】特開平7−150079号
【特許文献2】特開2002−129105号
【非特許文献1】村本 壽一、「層分離による機能性電着塗料と自動車塗装への応用」、色材協会誌、色材協会、平成16年12月20日、第77巻、第12号、p552−557
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の主たる目的は、耐チッピング性、防食性、平滑性などに優れた塗膜を形成するカチオン電着塗料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、今回、基体樹脂(A)及び硬化剤(B)を含んでなるカチオン電着塗料用エマルションに、特定の分子量及び溶解性パラメーターをもつ弾性ポリマー(C)の水分散体を特定量で配合すると、耐チッピング性、防食性、平滑性などに優れた、断面が海島構造の電着塗膜を形成するカチオン電着塗料組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
かくして、本発明は、基体樹脂(A)及び硬化剤(B)を含んでなるカチオン電着塗料用エマルションに、弾性ポリマー(C)の水分散体を配合してなるカチオン電着塗料組成物であって、
(i) 弾性ポリマー(C)を基体樹脂(A)と硬化剤(B)の合計固形分100質量部
に対して1〜40質量部の範囲内で含有し、
(ii) 弾性ポリマー(C)が1,000〜15,000の範囲内の数平均分子量を有
し、そして
(iii) 基体樹脂(A)の溶解性パラメーター(δ)と弾性ポリマー(C)の溶解
性パラメーター(δ)の差(Δδ)が0.8〜1.2の範囲内にある
ことを特徴とする、断面が海島構造の塗膜を形成するカチオン電着塗料組成物を提供するものである。
【0010】
本発明は、また、上記カチオン電着塗料組成物を基材表面に電着塗装することを特徴とする断面が海島構造の電着塗膜の形成方法を提供するものである。
【0011】
本発明は、さらに、基体樹脂(A)及び硬化剤(B)から形成される海(連続相)と、該海中に分散された弾性ポリマー(C)の島(分散相)とからなる断面が海島構造の電着塗膜を提供するものである。
【0012】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
【0013】
カチオン電着塗料組成物
本発明のカチオン電着塗料組成物は、基体樹脂(A)及び硬化剤(B)を含んでなるカチオン電着塗料用エマルションに、弾性ポリマー(C)の水分散体を配合してなるものである。
【0014】
基体樹脂(A)
基体樹脂(A)としては、カチオン電着塗料分野において一般に使用されるカチオン性基、例えばアミノ基と架橋官能性基、例えば第1級水酸基とを有する樹脂を同様に使用することができ、例えば、アミン付加水酸基含有エポキシ樹脂を使用することができる。より具体的には、例えば、(1)ポリエポキシド化合物と第1級モノアミン、第1級ポリアミン、第2級ポリアミンもしくは第1、2級混合ポリアミンとの付加物(米国特許第3,984,299号明細書参照)、(2)ポリエポキシド化合物と第2級アミノ基及びケチミン化された第1級アミノ基を有するアミンとの付加物(米国特許第4,017,438号明細書参照)、(3)ポリエポキシド化合物とケチミン化された第1級アミノ基を有するヒドロキシ化合物との反応物(特開昭59−43013号公報参照)等が挙げられる。
【0015】
上記ポリエポキシド化合物は、1分子中にエポキシ基を2個以上有する化合物であり、
一般に180〜2,500、好ましくは200〜2,000、さらに好ましくは400〜1,500の範囲内のエポキシ当量を有することができ、また、一般に少なくとも200、特に400〜4,000、さらに特に800〜2,500の範囲内の数平均分子量を有するものが適しており、塗膜の防食性等の観点から、特に、ポリフェノール化合物とエピハロヒドリン、例えば、エピクロルヒドリンとの反応により得られるポリエポキシド化合物が好適である。
【0016】
該ポリエポキシド化合物の形成のために用い得るポリフェノール化合物としては、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2,2−プロパン(ビスフェノールA)、4,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−エタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1−イソブタン、ビス(4−ヒドロキシ−tert−ブチル−フェニル)−2,2−プロパン、ビス(2−ヒドロキシナフチル)メタン、テトラ(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,2,2−エタン、4,4−ジヒドロキシジフェニルスルホン(ビスフェノールS)、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等を挙げることができる。
【0017】
ポリフェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるポリエポキシド化合物としては、中でも、ビスフェノールAから誘導される下記式で示されるものが好適である:
【0018】
【化1】

かかるポリエポキシド化合物の市販品としては、例えば、ジャパンエポキシレジン(株)からエピコート828EL、エピコート1002、エピコート1004、エピコート1007なる商品名で販売されているものが挙げられる。
【0019】
該ポリエポキシド化合物にカチオン性基を導入するために使用されるアミンは、エポキシ基と反応する活性水素を少なくとも1個含有し且つ該ポリエポキシド化合物をカチオン化することができるものであれば特にに制限はないが、第1級アミノ基を導入することができるアミンを、場合により第2級アミンと併用することが好ましい。
【0020】
第1級アミノ基を導入するのに使用することができるアミンとしては、例えば、モノエタノールアミン、プロパノールアミン、ヒドロキシエチルアミノエチレンジアミン、ヒドロキシエチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等の第1級アミンのケチミン化物が挙げられ、また、かかる第1級アミンと併用することができる第2級アミンとしては、例えば、ジエチルアミン、ジイソプロピルアミン、ジエタノールアミン、ジ(2−ヒドロキシプロピル)アミン、モノメチルアミノエタノール、モノエチルアミノエタノール等が挙げられる。
【0021】
これらのアミンは、アミン付加水酸基含有エポキシ樹脂のアミン価が、通常30〜70mgKOH/g樹脂固形分、好ましくは40〜60mgKOH/g樹脂固形分の範囲内となるような量で使用することができる。
【0022】
アミン付加水酸基含有エポキシ樹脂は、また、一般に100〜50,000、特に200〜10,000の範囲内の水酸基当量を有することができる。
【0023】
本発明においては、また、基体樹脂(A)として、疎水性変性剤であるキシレンホルムアルデヒド樹脂の導入により分子内分極化が図られたキシレンホルムアルデヒド樹脂変性アミノ基含有エポキシ樹脂を有利に使用することができ、それによって、断面が海島構造をもつ電着塗膜を一層容易に形成することが可能となる。
【0024】
キシレンホルムアルデヒド樹脂変性アミノ基含有エポキシ樹脂は、それ自体既知のものであり、例えば、特開2003−221547号公報に記載のものを使用することができ、例えば、キシレン及びホルムアルデヒド及びさらに場合によりフェノール類を酸性触媒の存在下に縮合反応させることにより得られるキシレンホルムアルデヒド樹脂を、前述の如きポリエポキシド化合物およびアミンと反応させることにより製造することができる。
【0025】
上記ホルムアルデヒドとしては、例えば、工業的に入手容易なホルマリン、パラホルムアルデヒド、トリオキサン等のホルムアルデヒドを発生する化合物を挙げることができる。また、上記フェノール類としては、2個もしくは3個の反応サイトを持つ1価もしくは2価のフェノール性化合物が包含され、具体的には、例えば、フェノール、クレゾール類、パラ−オクチルフェノール、ノニルフェノール、ビスフェノールプロパン、ビスフェノールメタン、レゾルシン、ピロカテコール、ハイドロキノン、パラ−tert−ブチルフェノール、ビスフェノールスルホン、ビスフェノールエーテル、パラ−フェニルフェノール等が挙げられ、これらはそれぞれ単独でもしくは2種以上の組合せて用いることができる。この中で特に、フェノール及びクレゾール類が好適である。
【0026】
反応は、通常、適当な溶媒中で、約90〜約170℃、好ましくは約100〜約150℃の温度において1〜5時間程度、好ましくは2〜4時間程度行うことができる。上記溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、シクロヘキサン、n−ヘキサン等の炭化水素系;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン等のケトン系;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系;メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プルパノール等のアルコール系;及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0027】
キシレンホルムアルデヒド樹脂変性アミノ基含有エポキシ樹脂は、通常20〜50,000センチポイズ(25℃)、好ましくは30〜15,000センチポイズ(25℃)の範囲内の粘度を有することができ、また、通常100〜50,000、特に200〜10,000の範囲内の水酸基当量、及び通常30〜70mgKOH/g樹脂固形分、好ましくは40〜60mgKOH/g樹脂固形分の範囲内のアミン価を有することが好ましい。
【0028】
硬化剤(B)
硬化剤(B)としては、例えば、ブロックポリイソシアネート、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン等が挙げられ、特に、ポリイソシアネート化合物とブロック剤とのほぼ化学量論量での付加反応生成物であるブロックポリイソシアネートが好適である。
【0029】
上記ポリイソシアネート化合物としては、例えば、ジフェニルメタン−2,4’及び/又は4,4’−ジイソシアネート(以下、「MDI」という)、クルードMDI、水添MDI、これらとポリオールとの付加物;トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートやフェニレンジイソシアネートとポリオールとの付加物;イソホロンジイソシアネートやビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサンとポリオールとの付加物;テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどのイソシアヌレート化合物等が挙げられ、特に、クルードMDI及び水添MDIが好適である。
【0030】
ブロック剤種としては、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基に付加して一時
的にブロックするものであり、付加によって生成するブロックポリイソシアネート化合物は常温において安定であるが、塗膜の焼付け温度(通常約100〜約200℃)に加熱した際にブロック剤が解離して遊離のイソシアネート基を再生しうるものであることが望ましく、具体的には、例えば、ε−カプロラクタム、γ−ブチロラクタムなどのラクタム系化合物;メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム化合物;フェノール、パラ−t−ブチルフェノール、クレゾールなどのフェノール系化合物;n−ブタノール、2−エチルヘキサノールなどの脂肪族アルコール類;フェニルカルビノール、メチルフェニルカルビノールなどの芳香族アルキルアルコール類;エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテルアルコール類;プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、3−メチルー1,2−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、3−メチル−4,3−ペンタンジオール、3−メチル−4,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、1,4−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール等の1、2級または1,3級水酸基含有アルコール化合物を挙げることができる。
【0031】
カチオン電着塗料用エマルション
以上に述べた基体樹脂(A)と硬化剤(B)は、それ自体既知の方法で、例えば、これら両者を十分に混合した後、通常水性媒体中において、酢酸やギ酸等の水溶性有機カルボン酸で中和し、高シェア分散によって基体樹脂(A)を水分散化(エマルション化)することにより、カチオン電着塗料用エマルションを調製することができる。
【0032】
カチオン電着塗料用エマルションを調製する際の基体樹脂(A)と硬化剤(B)との混合割合は、これら両成分の合計固形分質量を基準にして、基体樹脂(A)は一般に55〜90質量%、好ましくは65〜80質量%、硬化剤(B)は一般に10〜45質量%、好ましくは20〜35質量%の範囲内とすることができる。
【0033】
カチオン電着塗料用エマルションは、一般に10〜40質量%、特に25〜35質量%の範囲内の固形分濃度を有することが好ましい。
【0034】
弾性ポリマー(C)の水分散体
本発明のカチオン電着塗料組成物おいて使用し得る弾性ポリマー(C)としては、自動車の走行時に跳ね上げられた岩塩粒子や小石等が塗膜面に衝突したときの衝撃をある程度吸収緩和することができるだけの弾性をもった樹脂を使用することができ、例えば、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。耐チッピング性の向上という観点から、この中でも、特に、ポリウレタン樹脂が好適である。以下、これらの樹脂の水分散体についてさらに具体的に説明する。
【0035】
ポリウレタン樹脂の水分散体:
ポリウレタン樹脂は、それ自体既知の方法で、ポリイソシアネート、ポリオール及び第3級アミノ基を有するジオールならびに必要により重合停止剤及び必要により鎖延長剤を反応させることにより得ることができる。
【0036】
ポリイソシアネートは、1分子中に遊離イソシアネート基を2個以上有する化合物であって、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、p−フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の炭素数3〜12の脂肪族ジイソシアネート;1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4´−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添
MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4´−ジイソシアネート、1,3−ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)等の炭素数5〜18の脂環式ジイソシアネート;キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等の芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;これらのジイソシアネートの変性物、例えば、ウレタン化物、カーボジイミド、ウレチジオン、ウレトイミン、ビューレット、イソシアヌレート変性物等が挙げられる。これらはそれぞれ単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。これらのうち、特に、HDI、IPDI、MDI、水添MDI及びTMXDIが好適である。
【0037】
ポリオールとしては、具体的には、以下に例示するものが挙げられる。ポリエーテルポリオール、例えば、アルキレンオキシド(例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等)及び/又は複素環式エーテル(例えば、テトラヒドロフラン等)を重合または共重合して得られるもの、より具体的には、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレン−プロピレン(ブロックもしくはランダム)エーテルグリコール、ポリエチレン−テトラメチレンエーテルグリコール(ブロックもしくはランダム)、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリヘキサメチレンエーテルグリコール等;ポリエステルポリオール、例えば、脂肪族ジカルボン酸(例えば、コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、グルタル酸、アゼライン酸等)及び/又は芳香族ジカルボン酸(例えば、イソフタル酸、テレフタル酸等)と低分子グリコール(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、1,4−ジヒドロキシメチルシクロヘキサン等)とを縮重合させたもの、具体的には、例えば、ポリエチレンアジペートジオール、ポリブチレンアジペートジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリネオペンチルアジペートジオール、ポリエチレン/ブチレンアジペートジオール、ポリネオペンチレン/ヘキサメチレンアジペートジオール、ポリ−3−メチルペンチレンアジペートジオール、ポリブチレンイソフタレートジオール等;ポリラクトンポリオール、例えば、ポリカプロラクトンジオール又はトリオール、ポリ−3−メチルバレロラクトンジオール; ポリカーボネートポリオール、例えば、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール等;ポリオレフィンポリオール、例えば、ポリブタジエングリコール、ポリイソプレングリコール又はその水素化物等。
【0038】
第3級アミノ基を有するジオールは、1分子中に少なくとも1個の第3級アミノ基と2個の水酸基とを有する化合物であって、ポリウレタン樹脂にカチオン電着性を持たせるためのカチオン性の親水基を導入するために使用される成分であり、具体的には、例えば、N−メチルジエタノールアミン、N−ブチルジエタノールアミン、N−オレイルジエタノールアミン、N−シクロヘキシルジエタノールアミン、N−メチルジイソプロパノールアミン、N−シクロヘキシルジイソプロパノール、N,N−ジヒドロキシエチルアニリン、N,N−ジヒドロキシエチルトルイジン、N,N−ジヒドロキシプロピルナフチルアミン、及びこれらアルカノールアミン類にエチレンオキシドやプロピレンオキシド等のアルキレンオキシドを少量付加したオキシアルキレン化アルカノールアミン類等が挙げられる。これらのうち、特に、N−メチルジエタノールアミン、N−ブチルジエタノールアミン及びN−オレイルジエタノールアミンが好適である。
【0039】
ポリウレタン樹脂は、以上に述べたポリイソシアネート、ポリオール及び第3級アミノ基を有するジオールを反応せしめることによって得られるが、さらに必要に応じて、重合停止剤及び/又は鎖延長剤を併用することも可能である。
【0040】
重合停止剤は、ポリウレタン樹脂の分子量を調整するために使用されるものであり、1
分子中にイソシアネート基と反応しうる活性水素を少なくとも1個有する化合物を使用することができる。具体的には、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキサノール等の低分子モノアルコール;モノ−もしくはジ−エチルアミン、モノ−もしくはジ−ブチルアミン等の1価のアルキルモノアミン;モノ−もしくはジ−エタノールアミン等の1級もしくは2級アミノ基を有するアルカノールモノアミンが挙げられる。
【0041】
鎖延長剤としては、例えば、水、低分子ポリオール、ポリアミン等が挙げられ、該低分子ポリオールとしては、例えば、上記ポリエステルポリオールの原料として挙げた低分子グリコール、該グリコールのアルキレンオキシド低モル付加物(数平均分子量500未満のもの)、ビスフェノールのアルキレンオキシド低モル付加物(数平均分子量500未満のもの)、3価アルコール(例えば、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等)、該3価アルコールのアルキレンオキシド低モル付加物(数平均分子量500未満のもの)、及びこれらの2種以上の混合物等が挙げられる。
【0042】
該ポリアミンとしては、例えば、エチレンジアミン、N−ヒドロキシエチルエチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン等の脂肪族ポリアミン;4,4´−ジアミノジシクロヘキシルメタン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン等の脂環族ポリアミン;キシリレンジアミン、テトラメチルキシリレンジアミン等の芳香環を有する脂肪族ポリアミン;4,4´−ジアミノジフェニルメタン、トリレンジアミン、フェニレンジアミン等の芳香族ポリアミン;ヒドラジン、カルボジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバチン酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド等のヒドラジン類;及びこれらの2種以上の混合物等が挙げられる。
【0043】
上記ポリイソシアネート、ポリオール及び第3級アミノ基を有するジオールならびに必要により重合停止剤及び必要により鎖延長剤を用いてポリウレタン樹脂を製造する方法としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、N−メチルピロリドン、トルエン、キシレン又はこれらの2種以上の混合物等の分子内に活性水素基を含まない有機溶媒の存在下又は溶媒の不存在下で、上記ポリイソシアネートとポリオールと第3級アミノ基を有するジオールと重合停止剤をワンショット法でウレタン化する方法;上記の如き分子内に活性水素基を含まない有機溶剤の存在下又は不存在下で、上記ポリイソシアネートとポリオールと第3級アミノ基を有するジオールとを反応させて末端NCO基含有ウレタンプレポリマーと生成せしめ、次いで鎖伸長剤で鎖伸長した後、重合停止剤を加えて反応を完結させる方法;上記と同様にして末端NCO基含有ウレタンプレポリマーを生成せしめ、次いで鎖伸長剤と重合停止剤を一括投入して鎖伸長し且つ反応を完結する方法;上記の分子内に活性水素基を含まない有機溶剤の存在下又は不存在下で、上記有機ポリイソシアネートと高分子ポリオールを反応させて末端NCO基含有ウレタンプレポリマーを生成せしめ、次いで第3級アミノ基を有するジオールと鎖伸長剤で鎖伸長した後、重合停止剤を加えて反応を完結させる方法等が挙げられ、ポリウレタン形成反応は、通常20℃〜150℃、好ましくは50℃〜120℃の範囲内の温度で行うことができる。
【0044】
カチオン性ポリウレタン樹脂は、また、例えば、ポリウレタン樹脂にN−メチルジエタノールアミンとジイソシアネートの部分付加物を反応させて第3級アミノ基を導入する方法;、ジエチレントリアミンメチルイソブチルケチミンのようなケチミンブロック第1級アミノ基含有第2級アミンをイソシアネート末端に反応させた後、樹脂の水分散工程においてケチミンブロック部分を加水分解させることによって1級アミノ基を導入する方法等により製造することもできる。
【0045】
得られるポリウレタン樹脂は、例えば、通常水性媒体中において、酢酸やギ酸等の水溶
性有機カルボン酸で中和することにより水分散体とすることができる。
【0046】
アクリル樹脂の水分散体:
アクリル樹脂の水分散体は、アクリル系モノマーをそれ自体既知の乳化重合法によりラジカル(共)重合することにより製造することができる。その際に使用し得るモノマーとしては、例えば、水酸基含有アクリルモノマー、アミノ基含有アクリルモノマー、芳香族ビニルモノマー及び必要によりその他のモノマーが包含される。
【0047】
水酸基含有アクリルモノマーとしては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとカプロラクトンとの付加生成物(例えば、プラクセルFA−2、プラクセルFM−3(ダイセル株式会社製、商品名))等が挙げられる。これらはそれぞれ単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0048】
アミノ基含有アクリルモノマーとしては、例えば、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジ−t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のN,N−ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートが挙げられ、また、グリシジル(メタ)アクリレートを開環共重合させて末端に活性水素含有アミン化合物を付加したものを用いることもできる。
【0049】
芳香族ビニルモノマーとしては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等が挙げられる。
【0050】
その他のモノマーとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート等アルキルもしくはシクロアルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0051】
ポリオレフィン樹脂の水分散体:
ポリオレフィン樹脂の水分散体は、オレフィン系モノマーを適宜他のモノマーと通常の重合法に従って(共)重合することにより得られるポリオレフィン樹脂を、乳化剤を用いて水分散するか、あるいはオレフィン系モノマーを適宜他のモノマーと共に乳化重合することにより得ることができる。
【0052】
オレフィン系モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ペンテン、1−ヘプテン、1−ヘキセン、1−デセン、1−ドデセン等のα−オレフィン;ブタジエン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,5−ヘキサジエン等の共役ジエン又は非共役ジエン等が挙げられ、これらのモノマーは、それぞれ単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0053】
オレフィン系モノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、酢酸ビニル、ビニルアルコール等が挙げられ、これらのモノマーはそれぞれ単独でもしくは2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0054】
オレフィン系モノマーを適宜他のモノマーと共に重合することにより得られるポリオレ
フィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1−ブテン、ポリ3−メチル−1−ブテン、ポリ4−メチル−1−ペンテン、ポリ3−メチル−1−ペンテン、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1−ブテン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体、プロピレン・1−ブテン・エチレン共重合体等のα−オレフィンの単独重合体又はランダムもしくはブロック共重合体;エチレン・ブタジエン共重合体、エチレン・エチリデンノルボルネン共重合体等に代表されるα−オレフィンと共役ジエンもしくは非共役等ジエンとの共重合体;エチレン・プロピレン・ブタジエン3元共重合体、エチレン・プロピレン・ジシクロペンタジエン3元共重合体、エチレン・プロピレン・エチリデンノルボルネン3元共重合体、エチレン・プロピレン・1,5−ヘキサジエン3元共重合体等に代表されるα−オレフィンの2種以上と共役ジエンもしくは非共役ジエンとの共重合体;エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体等のオレフィン系モノマーと他のモノマーとの共重合体を挙げることができる。
【0055】
ポリオレフィン樹脂の水分散体は、例えば、ポリオレフィン樹脂を水性媒体中で乳化剤と共に混合することにより得られる。上記乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンモノオレイルエーテル、ポリオキシエチレンモノステアリルエーテル、ポリオキシエチレンモノラウリルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレンモノオレエート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレエート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等のノニオン系乳化剤;アルキルアミン塩、第4級アンモニウム塩等のカチオン系乳化剤などが挙げられる。
【0056】
ポリエステル樹脂の水分散体:
ポリエステル樹脂の水分散体は、例えば、多塩基酸と多価アルコールから合成されるポリエステル樹脂、エピクロルヒドリンを付加したエポキシ基末端のポリエステル樹脂、ポリエポキシドと多塩基酸とのエステル化反応により合成されるエポキシ基末端のポリエステル樹脂等のポリエステル樹脂に、アミンを付加してカチオン性基を導入し、これを酢酸やギ酸等の水溶性有機カルボン酸で中和して水分散化することにより得ることができる。
【0057】
上記ポリエステル樹脂の合成に使用し得る多塩基酸は、1分子中に少なくとも2個のカルボキシル基を有する化合物であり、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、ジフェニルメタンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸及びその無水物;ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸等の脂肪族ジカルボン酸及びその無水物;アジピン酸、セバシン酸、スベリン酸、コハク酸、グルタル酸、マレイン酸、クロロマレイン酸、フマル酸、ドデカン二酸、ピメリン酸、アゼライン酸、イタコン酸、シトラコン酸、ダイマー酸等の脂肪酸ジカルボン酸及びその無水物;これらジカルボン酸の低級アルキルエステル;トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメット酸、トリメシン酸及びその無水物等の3価以上の多塩基酸などが挙げられる。
【0058】
上記ポリエステル樹脂の合成に使用し得る多価アルコールとしては、1分子中に少なくとも2個の水酸基を有する化合物であり、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ジメチルトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等の2価のアルコール;これらの2価のアルコールにε−カプロラクトン等のラクトン類を付加したポリラクトンジオール;ビス(ヒドロキシエチル)テレフタレート等のエステルジオール類;ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物、
ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール等のポリエーテルジオール類;プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等のα−オレフィンエポキシド、カージュラE10(シェル化学株式会社製、商品名、合成高分子飽和脂肪酸のグリシジルエステル)などのモノエポキシ化合物;グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニット等の3価以上のアルコール;これらの3価以上のアルコールにε−カプロラクトン等のラクトン類を付加させたポリラクトンポリオール類;1,4−シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF等脂肪族多価アルコールなどが挙げられる。
【0059】
上記ポリエステル樹脂の合成に使用し得るポリエポキシドとしては、例えば、テトラメチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF等のジグリシジルエーテルが挙げられる。
【0060】
ポリエステル樹脂の水分散体は、また、例えば、ポリエステル樹脂にN−メチルジエタノールアミンとジイソシアネートの部分付加物を反応させて第3級アミノ基を導入し、得られるカチオン性ポリエステル樹脂を、通常水性媒体中において、酢酸やギ酸等の水溶性有機カルボン酸で中和することにより製造することもできる。
【0061】
以上に述べたウレタン樹脂の水分散体、アクリル樹脂の水分散体、ポリオレフィン樹脂の水分散体、ポリエステル樹脂の水分散体等の水分散体における弾性ポリマー(C)は、1,000〜15,000、好ましくは1,500〜13,000、さらに好ましくは2,000〜12,000の範囲内の数平均分子量(注1)を有することができる。弾性ポリマー(C)の数平均分子量が1,000未満であると、断面が海島構造の電着塗膜を形成するのが困難であり、また、塗膜の耐チッピング性の向上効果が得られず、反対に、15,000を越えると、やはり断面が海島構造の電着塗膜を形成するのが困難であり、また、塗面の仕上がり性が低下する。
【0062】
(注1)数平均分子量: JIS K0124−83に準じ、分離カラムとしてTSK
GEL4000HXL+G3000HXL+G2500HXL+G2000HXL(東ソー株式会社製)を用い、40℃で流速1.0ml/分、溶離液としてGPC用テトラヒドロフランを用い、RI屈折計で得られたクロマトグラムとポリスチレンの検量線から計算により求める。
【0063】
弾性ポリマー(C)は、また、−75℃〜0℃、特に−60℃〜−10℃の範囲内の静的ガラス転移温度(注2)を有することが望ましく、これによって、耐チッピング性に優れた電着塗膜を形成せしめることができる。
【0064】
(注2)静的ガラス転移温度: 示差走査熱量計(DSC220 U)を用いて求めることができる。
【0065】
弾性ポリマー(C)の水分散体は、一般に1〜40質量%、特に25〜35質量%の範囲内の固形分濃度を有することが好ましい。
【0066】
カチオン電着塗料組成物の調製
本発明のカチオン電着塗料組成物は、以上に述べた基体樹脂(A)及び硬化剤(B)を含んでなるカチオン電着塗料用エマルションに、弾性ポリマー(C)の水分散体を配合することにより製造することができる。
【0067】
弾性ポリマー(C)の水分散体の配合量は、基体樹脂(A)と硬化剤(B)の合計固形分100質量部に対して、弾性ポリマー(C)が1〜40質量部、好ましくは3〜20質量部、さらに好ましくは5〜10質量部の範囲内となるような量とすることができる。弾性ポリマー(C)の配合割合が1質量部未満であると、断面が海島構造の塗膜を形成することができず、また、40質量部を越えると、それに伴うだけの塗膜の耐チッピング性の向上効果を期待することができず、却って塗料安定性が損なわれるので好ましくない。
【0068】
断面が海島構造の塗膜を形成するカチオン電着塗料組成物を調製するためには、カチオン電着塗料用エマルション中の基体樹脂(A)と水分散体中の弾性ポリマー(C)とが少なくとも互いに非相溶性であることが重要であり、その非相溶性の程度は、溶解性パラメーター(注3)の差により規定することができる。しかして、本発明では、断面が海島構造の塗膜を形成するカチオン電着塗料組成物を調製するために、基体樹脂(A)の溶解性パラメーター(δ)と弾性ポリマー(C)の溶解性パラメーター(δ)の差(Δδ)が0.8〜1.2、好ましくは0.9〜1.1の範囲内となるように、基体樹脂(A)と弾性ポリマー(C)の組み合わせを選択することが重要である。
【0069】
基体樹脂(A)と水分散体(C)の溶解性パラメーターの差(Δδ)が、1.2を越えると、水分散体(C)が塗膜中で局在化して、耐チッピング性の向上効果が低下する傾向がみられ、また、0.8未満であると、断面が海島構造の塗膜を形成し難くなる。
【0070】
(注3)溶解性パラメーター(solubility parameter、SP値):液体分子の分子間相互作用の尺度を表す。樹脂のSP値は、濁点滴定によって測定することができ、具体的には、下記のK.W.SUH及びJ.M.CORBETTの式(Journal of Applied Polymer Science,12,2359,1968参照)に準じて算出することができる。
【0071】
【数1】

【0072】
式中、Vはn−ヘキサンの容積分率であり、Vは脱イオン水の容積分率であり、
δはn−ヘキサンのSP値であり、δは脱イオン水のSP値である。
【0073】
濁点滴定は、乾燥した供試樹脂0.5g(固形分)をアセトン10mlに溶解した樹脂のアセトン溶液中に、n−ヘキサンを徐々に加え、濁点での滴定量H(ml)を測定し、同様に樹脂のアセトン溶液中に脱イオン水を徐々に加え、濁点における滴定量D(ml)を測定することにより行うことができ、これらの測定値を下記式に適用してV、V、δ及びδを算出することができる。なお、アセトンのSP値は9.75であり、n−ヘキサンのSP値は7.24であり、脱イオン水のSP値は23.43である。
【0074】
=H/(10+H)
=D/(10+D)、
δ=9.75×10/(10+H)+7.24×H/(10+H)、
δ=9.75×10/(10+D)+23.43×D/(10+D)。
【0075】
なお、基体樹脂(A)及び弾性ポリマー(C)のSP値は、これらの樹脂又はポリマーを構成するモノマーの組成及び/又は比率を変えることにより容易に調整することができ
る。
【0076】
本発明のカチオン電着塗料組成物には、必要に応じて、さらに顔料を配合することができる。上記顔料としては、カチオン電着塗料に通常使用されている顔料であれば特に制限なく使用することができ、具体的には、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、ベンガラ等の着色顔料;クレー、マイカ、バリタ、炭酸カルシウム、シリカ等の体質顔料;リンモリブデン酸アルミニウム、トリポリリン酸アルミニウム等の防錆顔料などが挙げられる。また、腐食抑制や防錆などを目的として、ビスマス化合物を含有せしめることもでき、該ビスマス化合物としては、例えば、酸化ビスマス、水酸化ビスマス、塩基性炭酸ビスマス、硝酸ビスマス、ケイ酸ビスマス等が挙げられる。これら顔料の配合量は、基体樹脂(A)と硬化剤(B)との合計固形分100質量部あたり、通常1〜100質量部、特に10〜50質量部の範囲内であるが好ましい。
【0077】
本発明のカチオン電着塗料組成物には、さらに、硬化触媒、顔料分散用樹脂などを適宜配合することもできる。硬化触媒は、基体樹脂と硬化剤との架橋反応を促進するために有効であり、例えば、ジオクチル錫オキサイド、ジブチル錫オキサイド、錫オクトエート、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジベンゾエート、オクチル酸亜鉛、ギ酸亜鉛等が挙げられ、その配合量は、基体樹脂(A)と硬化剤(B)との合計100質量部あたり、通常0.1〜10質量部の範囲内が適している。
【0078】
顔料分散用樹脂としては、3級アミン型などのアミノ基含有エポキシ樹脂、4級アンモニウム塩型エポキシ樹脂、4級アンモニウム塩型アクリル樹脂等が挙げられる。
【0079】
顔料の塗料組成物中への配合は、顔料分散ペーストをあらかじめ調製しておき、これを基体樹脂(A)及び硬化剤(B)を含んでなる電着塗料用エマルション及び弾性ポリマー(C)の水分散体と混合することにより行うことができる。
【0080】
顔料分散ペーストは、例えば、顔料分散用樹脂、顔料、硬化触媒、中和剤及び水を混合し分散することにより行うことができる。分散は、例えば、ボールミル、ペブルミル、サンドミル、シェイカー等を用いて行うことができるが、作業性の面からボールミルが好ましい。ボールミルによる分散は、通常1〜96時間、好ましくは10〜48時間行うことができる。
【0081】
本発明のカチオン電着塗料組成物は、顔料を含む場合、顔料分(注4)が、一般に25質量%以下、特に15質量%以下、さらに特に2〜13質量%の範囲内にあることが好ましい。それによって、カチオン電着塗膜の熱流動時に弾性ポリマー(C)が塗膜中でより均一に分散し、海島構造の形成にも好都合である。
【0082】
(注4)顔料分: 下記の式により算出される値である。

顔料分(%)=[顔料成分の質量(a)/カチオン電着塗料の固形分(b)]×100

式中、顔料成分の質量(a)は、顔料分散ペーストを800〜1000℃の温度で18
0分間加熱した後の残分の質量を示し、カチオン電着塗料の固形分(b)は、カチオン
電着塗料を塗料2g採取して、その塗料を105℃−3時間加熱し、水と有機溶剤を揮
散させた後の残分の質量を示す。
【0083】
電着塗膜の形成方法
本発明のカチオン電着塗料組成物は、基材表面に電着塗装することにより、断面が海島構造の電着塗膜を形成する。
【0084】
本発明のカチオン電着塗料組成物を適用することができる基材としては、例えば、冷延鋼板、溶融亜鉛メッキ鋼板、電気亜鉛メッキ鋼板、電気亜鉛−鉄二層メッキ鋼板、有機複合メッキ鋼板、アルミ鋼板等の鋼板に、必要に応じてアルカリ脱脂などによって表面を清浄化した後、リン酸塩化成処理、クロメート処理等の表面処理を行ったもの等が挙げられる。
【0085】
電着塗装は、一般に、本発明のカチオン電着塗料組成物を、固形分濃度が約5.0〜約40質量%、好ましくは15〜25質量%の範囲内となるように脱イオン水などで希釈し、さらにpHを5.5〜9の範囲内に調整した電着浴を用い、浴温を通常約15〜約35℃に調整し、基材を陰極として、負荷電圧100〜400Vの条件で行うことができる。
【0086】
形成される電着塗膜の膜厚は、特に制限されるものではないが、硬化塗膜に基づいて通常10〜40μm、特に15〜35μmの範囲内が好ましい。また、塗膜の焼き付け温度は、基材表面で一般に約120〜約200℃、好ましくは約140〜約180℃の範囲内の温度が適しており、焼き付け時間は5〜60分程度、好ましくは10〜30分程度とすることができる。
【0087】
耐チッピング性、防食性及び仕上り性のバランスに優れた塗装物品を得るためには、本発明のカチオン電着塗料組成物は、硬化膜厚で20μmとなるように電着塗装し、170℃で20分間焼付けたときの電着単独塗膜の20℃の伸び率(注5)が3.5%以上、好ましくは3.6〜5.5%の範囲内であるような塗膜を形成するものであることが好ましい。
【0088】
(注5)塗膜の伸び率: オートグラフ(島津製作所社製、商品名)を用いて測定したときの塗膜の伸び率(%)。
【0089】
電着塗膜
本発明のカチオン電着塗料組成物を用いて形成される塗膜は、図2に示すとおり、断面が基体樹脂(A)及び硬化剤(B)から形成される海(連続相)と、該海中に分散された弾性ポリマー(C)の島(分散相)とからなる海島構造を有する。なお、図1は、通常の電着塗膜の断面の走査型電子顕微鏡写真(倍率5000倍)である。
【0090】
弾性ポリマー(C)の島の形状は一般に円形、楕円形等であり、その大きさは、長手方向の幅(長径)(注6)で、通常0.1〜10μm、好ましくは0.1〜5μmの範囲内にあることが好ましい。弾性ポリマー(C)の島の大きさのコントロールは、例えば、基体樹脂(A)及び/又は弾性ポリマー(C)の溶解性パラメーターや塗料中の顔料分などを変えることにより行うことができる。
【0091】
(注6)長手方向の幅(長径): 電着塗膜の断面を走査型電子顕微鏡(倍率5000倍)で観察し、海島構造を確認できた場合、10μm×10μmの領域内において認識することができる円形又は楕円形の島10個の長手方向の幅(長径)を測定し、その平均値を算出する。
【0092】
また、島が塗膜断面に占める割合は、厳密に制限されるものではないが、一般には、塗膜の断面積を基準にして合計で5〜40面積%、特に20〜40面積%、さらに特に30〜40面積%の範囲内であることが望ましい。なお、島が塗膜断面に占める面積割合(占有面積(%))は、試験塗板を切断し、その塗膜断面を走査型電子顕微鏡(5000倍)で写真撮影し、その写真をLUZEXIII((株)ニコンインステック社製、商品名、画像解析機)を用いて画像解析することにより求めることができる。
【実施例】
【0093】
以下、製造例、実施例及び比較例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、下記において「部」は質量部、「%」は質量%を示す。
【0094】
製造例1 基体樹脂No.1の製造
アミノ基含有エポキシ樹脂エピコート828EL(油化シェル社製、商品名、エポキシ樹脂)1010部に、ビスフェノールA 390部及びジメチルベンジルアミン0.2部を加え、130℃でエポキシ当量800になるまで反応させた。次に、ジエタノールアミン160部及びジエチレントリアミンのケチミン化物65部を加え、120℃で4時間反応させた後、エチレングリコールモノブチルエーテル355部を加え、アミン価67mgKOH/g及び固形分80%の基体樹脂No.1を得た。SP値は11.0であった。
【0095】
製造例2 基体樹脂No.2の製造
温度計、還流冷却器及び攪拌機を備えた内容積2リットルのセパラブルフラスコに、50%ホルマリン480g、フェノール110g、98%工業用硫酸202g及びメタキシレン424gを仕込み、84〜88℃で4時間反応させる。反応終了後、静置して樹脂相と硫酸水相とを分離した後、樹脂相を3回水洗し、20〜30mmHg/120〜130℃の条件で20分間未反応メタキシレンをストリッピングして、粘度1050センチポイズ(25℃)のフェノール変性のキシレンホルムアルデヒド樹脂 480gを得た。
【0096】
別のフラスコに、エピコート828EL(ジャパンエポキシレジン社製、商品名、エポキシ樹脂 、エポキシ当量190、分子量350)1000g、ビスフェノールA 400g及びジメチルベンジルアミン0.2gを加え、130℃でエポキシ当量750になるまで反応させた。
【0097】
次に、キシレンホルムアルデヒド樹脂を300g、ジエタノールアミンを137g及びジエチレントリアミンのケチミン化物を95g加え120℃で4時間反応させた後、エチレングリコールモノブチルエーテル403gを加え、アミン価57mgKOH/g樹脂固形分、分子量2,000及び固形分80%のキシレンホルムアルデヒド樹脂変性アミノ基含有エポキシ樹脂(基体樹脂No.2)を得た。SP値は10.6であった。
【0098】
製造例3 硬化剤の製造
反応容器中に、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート250部及びメチルイソブチルケトン25部を加え70℃に昇温した。その中に2,2−ジメチロールブタン酸15部を徐々に添加し、ついでエチレングリコールモノブチルエーテル118部を滴下して加え、70℃で1時間反応させた後、60℃に冷却し、1,4−ペンタンジオール188部を添加した。この温度を保ちながら、経時でサンプリングし、赤外線吸収スペクトル測定にて未反応のイソシアナト基の吸収がなくなったことを確認し、固形分80%の硬化剤を得た。
【0099】
製造例4 エマルションNo.1の製造
基体樹脂No.1 87.5部(固形分70部)に、硬化剤33.3部(固形分30部)及び10%酢酸15部を配合し、均一に攪拌した後、脱イオン水158部を強く攪拌しながら約15分かけて滴下し、固形分34%のエマルションNo.1を得た。
【0100】
製造例5 エマルションNo.2の製造
基体樹脂No.2 87.5部(固形分70部)に、硬化剤33.3部(固形分30部)及び10%酢酸15部を配合し、均一に攪拌した後、脱イオン水158部を強く攪拌しながら約15分かけて滴下し、固形分34%のエマルションNo.2を得た。
【0101】
製造例6 水分散体No.1の製造
サンニックスジオール PL−2100(三洋化成工業株式会社製、商品名、ポリエチレン−プロピレン(ブロック)エーテルグリコール、数平均分子量2477)479.2部、ネオペンチルグリコール39.74部、ヘキサメチレンジイソシアネート158.3部及びメチルイソブチルケトン75部を反応容器に仕込み、反応系内を窒素ガス置換した後、攪拌しながら110℃で3時間反応させ、次に反応物を60℃まで冷却し、N−メチルジエタノールアミン23.78部及びメチルイソブチルケトン225部を加えて、さらに90℃で4時間反応させて、残存NCO基含量1.30%のウレタンプレポリマー溶液を合成した。
【0102】
このウレタンプレポリマー溶液を40℃に冷却した後、イソホロンジアミン22.9部、モノエタノールアミン2.44部、メチルイソブチルケトン及びイソプロパノールの混合物を加えて1時間反応し残存NCO基がなくなるまで鎖伸長反応を行った後、ポリウレタン樹脂溶液を得た。
【0103】
次に、上記のポリウレタン樹脂溶液500部を四つ口ガラス反応容器に仕込み、10%酢酸41.3部を添加して30分攪拌した後、強く攪拌しながら脱イオン水465部を約15分かけて滴下して乳化し、さらに減圧下にてメチルイソブチルケトン及びイソプロパノールを留去して、平均粒径(注7)0.15μm、数平均分子量5,000及び固形分30質量%の水分散体No.1を得た。SP値は9.8であった。
【0104】
(注7)平均粒径: コールター社製、ナノナイザーN−4を用いて測定した値である。
【0105】
製造例7 水分散体No.2の製造
容量2リットルの4つ口フラスコにプロピレングリコールモノメチルエーテル246部を仕込み、窒素置換後、110℃に保った。その中に、スチレン30部、メチルメタクリレート6部、n−ブチルアクリレート6部、2−エチルヘキシルメタクリレート24部、プラクセルFM−3(ダイセル化学工業社製、商品名)24部及びジメチルアミノエチルメタクリレート10部の混合物を3時間かけて滴下した。滴下終了後から1時間経過後、その中に2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)8部をプロピレングリコールモノメチルエーテル56部に溶かした溶液を1時間かけて滴下した。
【0106】
滴下終了後、これをさらに1時間110℃に保持したのち、メチルイソブチルケトンを加え、水酸基価80mgKOH/g、アミン価35mgKOH/g及び固形分75%のアクリル樹脂溶液を得た。次に、脱イオン水と酢酸とを仕込んだ円筒型ステンレス容器に、十分な撹拌を行いながら、上記アクリル共重合体溶液を徐々に投入して乳化させた後、平均粒径0.1μm、数平均分子量12,000及び固形分30質量%の水分散体No.2を得た。SP値は9.6であった。
【0107】
製造例8 水分散体No.3の製造
温度計、サーモスタット、撹拌器、還流冷却器及び滴下装置を備えた反応容器に溶剤としてメチルイソブチルケトン50部を仕込み、窒素ガスを通送しながら105℃に加熱し、その中に重合性不飽和モノマーとして、ジエチルアミノエチルメタクリレート10部、n−ブチルアクリレート70部、2−ヒドロキシエチルアクリレート20部及びラジカル重合開始剤として2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)4.0部の混合物を3時間かけて滴下した。
【0108】
その後、105℃で1時間放置してから、さらに2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)0.5部及びメチルイソブチルケトン5部を1時間かけて滴下し、105℃で1時間放置してアクリル共重合体溶液を得た。次に、脱イオン水と酢酸とを仕込んだ円筒型ステンレス容器に、十分な撹拌を行いながら、上記アクリル共重合体溶液を徐々に投入して乳化させた後、平均粒径0.1μm、数平均分子量35,000及び固形分30質量%の水分散体No.3を得た。SP値は、9.4であった。
【0109】
製造例9 顔料分散ペーストの製造
60%の4級アンモニウム塩型の顔料分散用樹脂5.83部(固形分3.5)、チタン白14部、クレー10部、カーボンブラック0.3部、水酸化ビスマス2.0部及び有機錫1部に脱イオン水22.9部を加えて十分に攪拌し、固形分55.0%の顔料分散ペーストを得た。
【0110】
実施例1 カチオン電着塗料No.1の製造
エマルションNo.1 294部(固形分100部)に、顔料分散ペースト56部(固形分30.8部)、水分散体No.1 33.3部(固形分10部)及び脱イオン水320.7部を加え、固形分20%のカチオン電着塗料No.1を得た。
【0111】
実施例2〜7 カチオン電着塗料No.2〜No.7の製造
実施例1と同様にして、表1に示す配合内容にて、固形分20%のカチオン電着塗料No.2〜No.7を得た。
【0112】
比較例1〜5
実施例1と同様にして、表1に示す配合内容にて、固形分20%の電着塗料No.8〜No.12を得た。
【0113】
【表1】

【0114】
試験板の作成
パルボンド#3020(日本パーカライジング社製、商品名、リン酸亜鉛処理剤)で化成処理した0.8×150×70mmの冷延鋼板又は亜鉛メッキ鋼板を、上記実施例及び比較例で得た各カチオン電着塗料の浴に浸漬し、浴温28℃、250Vで3分間電着塗装を行い、得られた電着塗膜を電着熱風乾燥機を用いて170℃で20分間焼き付けて硬化膜厚が20μmの試験塗板を得た。
【0115】
得られた試験塗板の塗膜断面の観察結果及び塗膜の性能試験結果を下記表2に示す。
【0116】
【表2】

【0117】
(注8)塗膜断面観察A(μm): 試験塗板を切断し、その塗膜断面を走査型電子顕微鏡(倍率5000倍)で観察し、海島構造を確認できた場合、10μm×10μmの面積範囲において認識できる円形又は楕円形の島部10個の長手方向の幅(長径)を測定し、その平均値(μm)を求めた。
【0118】
(注9)塗膜断面観察B(%): 試験塗板を切断し、その塗膜断面を走査型電子顕微鏡(倍率5000倍)で写真撮影し、その写真をLUZEXIII((株)ニコンインステック社製、商品名、画像解析機)を用いて画像解析し、塗膜断面における海島構造の島部の占有面積(%)を求めた。
【0119】
(注10)塗膜の伸び率(%): ブリキ板に電着塗装し、水銀によるアマルガム法によって剥離した塗膜を短冊状(幅0.5cm、長さ4cm)とし、オートグラフS−D型(島津製作所社製、商品名)を用いて、毎分4mmで引っ張り、塗膜が切れたときの元の長さに対する(%)である。
【0120】
(注11)塗膜の破断応力(kgf/g): ブリキ板に電着塗装し、水銀によるアマルガム法によって剥離した塗膜を短冊状(幅0.5cm、長さ4cm)とし、オートグラフS−D型(島津製作所社製、商品名)を用いて、毎分4mmで引っ張り、塗膜が切れたときの断面積当たりの応力である。
【0121】
(注12)耐チッピング性: 亜鉛メッキ鋼板に電着塗装を施した試験板に、WP−300T(関西ペイント社製、商品名、中塗り塗料)を30μmの膜厚で塗装し140℃−30分間焼き付けて中塗り塗膜を得た。さらにその塗膜上に、ネオアミラック6000白(関西ペイント社製、商品名、ソリッド型上塗り塗料)を35μmの膜厚で塗装し、140℃−30分加熱して複層塗膜を得た。
【0122】
次に、スガ試験機社製、飛石試験機JA−400型(チッピング試験装置)の試片保持台に試験板を設置し、−20℃において、0.392MPa(4kgf/cm2)の圧縮空気により粒度7号の花崗岩砕石50gを塗面に吹き付け、これによる塗膜のキズの発生程度などを目視で観察し評価した。その評価基準は次のとおりである。
【0123】
◎:キズの程度はかなり小さく、中塗り塗膜がやや露出している、
○:キズの程度は小さく、中塗り塗膜が露出している、
△:キズの大きさは小さいが、素地の鋼板が露出している、
×:キズの大きさはかなり大きく、素地の鋼板も露出している。
【0124】
(注13) 防食性: 冷延鋼板に電着塗装を施した試験板に、素地に達するように電着塗膜にナイフでクロスカット傷を入れ、これをJIS Z−2371に準じて840時間耐塩水噴霧試験を行い、ナイフ傷からの錆、フクレ幅によって以下の基準で評価した。
【0125】
○:錆、フクレの最大幅がカット部より3mm未満(片側)、
△:錆、フクレの最大幅がカット部より3mm以上で且つ4mm未満(片側)、
×:錆、フクレの最大幅がカット部より4mm以上。
【0126】
(注14)仕上り性: 冷延鋼板に電着塗装を施した試験板の表面粗度を、サーフテスト301(MITSUTIYO社製、商品名、表面粗度計)でRa値(Cut Off 0.8mm)を測定した。
【0127】
○:Ra=0.20μm未満のもの、
△:Ra=0.20μm以上で、かつ0.3μm未満のもの、
×:Ra=0.30μmを越えるもの。
【図面の簡単な説明】
【0128】
【図1】図1は、通常の電着塗膜の断面の走査型電子顕微鏡写真(倍率5000倍)である。
【図2】図2は、実施例1で得られた電着塗膜の断面の走査型電子顕微鏡写真(倍率5000倍)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体樹脂(A)及び硬化剤(B)を含んでなるカチオン電着塗料用エマルションに、弾性ポリマー(C)の水分散体を配合してなるカチオン電着塗料組成物であって、
(i) 弾性ポリマー(C)を基体樹脂(A)と硬化剤(B)の合計固形分100質量部
に対して1〜40質量部の範囲内で含有し、
(ii) 弾性ポリマー(C)が1,000〜15,000の範囲内の数平均分子量を有
し、そして
(iii) 基体樹脂(A)の溶解性パラメーター(δ)と弾性ポリマー(C)の溶解
性パラメーター(δ)の差(Δδ)が0.8〜1.2の範囲内にある
ことを特徴とする、断面が海島構造の塗膜を形成するカチオン電着塗料組成物。
【請求項2】
基体樹脂(A)がキシレンホルムアルデヒド樹脂変性アミノ基含有エポキシ樹脂である請求項1に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項3】
弾性ポリマー(C)がポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂及びポリエステル樹脂から選ばれる少なくとも1種の樹脂である請求項1又は2に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項4】
顔料を2〜13質量%の範囲内の顔料分で含有する請求項1〜3のいずれかに記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のカチオン電着塗料組成物を基材表面に電着塗装することを特徴とする断面が海島構造の電着塗膜の形成方法。
【請求項6】
基体樹脂(A)及び硬化剤(B)から形成される海と、該海中に分散された弾性ポリマー(C)の島とからなる断面が海島構造の電着塗膜。
【請求項7】
弾性ポリマー(C)の島が塗膜の断面積を基準にして合計で5〜40面積%を占める請求項6に記載の電着塗膜。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−307196(P2006−307196A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−91512(P2006−91512)
【出願日】平成18年3月29日(2006.3.29)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】