説明

新生血管造影剤

【課題】安全性が高く、再生医療において生成される細い新生血管を観察可能な新規造影剤を提供すること。
【解決手段】高分子に標的指向性の基と検出用の基を結合させてなる造影剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新生血管を観察可能とするための造影剤に関する。
【背景技術】
【0002】
造影剤は、画像診断の際に画像にコントラストを付けたり特定の組織を強調して撮影するために患者に投与される。X線CT用のヨード造影剤や、MRI用のガドリニウムキレート造影剤が腫瘍や血管性の病変の診断、治療のモニターに盛んに用いられている。
【0003】
近年、再生医療技術の進歩により、血管閉塞部位周辺に細胞増殖因子等を注入し、血管を新生治療させることが可能となり、人への応用が進められている(例えば非特許文献1)。このような血管新生治療において、非特許文献1にも示されているように、太い動脈は通常の血管造影により検出可能であるが、治療によって新生された細い血管を観察する事はきわめて困難であるのが現状である。
【0004】
そこで、再生医療の治療効果を確実に非浸襲的に評価するために、細い新生血管の生成の様子を可視化できる造影手段が求められており、たとえば、非特許文献2に示すように新生血管を標的とする造影剤の研究が行われて一定の効果が得られている。しかしながら、この報告では腫瘍の新生血管がその標的であり、虚血疾患治療を目指した血管新生に対する造影の可能性については全く述べられていない。また、標的指向性の基と検出用の基とを直接結合させた造影剤を用いており、高分子を造影剤に利用することは記載されていない。
【0005】
非特許文献3には、放射線プローブによる新生血管の造影についての報告があるが、検出用の基と標的指向性の基とを直接結合させた化合物が用いられており、造影剤に高分子を利用することに対する記載はない。
【0006】
新生血管を観察することが困難である原因は、血管径の小さな新生血管を検出するための高感度かつ高い分解能をもつ造影剤が無かったこと、加えて、元々ある毛細血管と区別するための新生血管のみに特異性をもつ造影剤がなかったことである。これらの問題点を満足させ、新生血管を効率よく造影するためには、造影剤自身の新生血管への特異的な標的指向性の基と、造影のための検出基とを、同じ造影剤分子に、出来るだけ多く導入する材料設計が必要となる。
【0007】
【非特許文献1】 Akira Marui ら。Circulation Journal Vo.71,1181−1186,2007。
【非特許文献2】 Meoli DF ら。Journal of Clinical Investigation Vol.113、1684−91,2004。
【非特許文献3】 Jing Hua ら。Circulation 111,3255−3260(2005)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解消することを解決すべき課題とした。即ち、本発明は、安全性が高く、再生医療において治療目的で生成される細い新生血管を観察可能な新規造影剤を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、高分子に標的指向性の基と検出用の基を結合させてなる造影剤を開発し動物実験で性能評価した結果、安全性が高く、且つ、良好な新生血管の造影が可能であることを実証した。本発明はこれらの知見に基づいて完成したものである。
【0010】
即ち、本発明によれば、造影剤の作製に高分子を用いていることから、造影剤中に標的指向性の基と検出用の基が多く含まれているため、新生血管に特異性が高く、検出用の基を新生血管に高い濃度で運搬する事が可能なため、新生血管を感度良く検出することが出来る造影剤が提供される。
好ましくは、高分子1分子あたり1以上50以下の標的指向性の基と、1以上50以下の検出用の基を結合させてなる。さらに好ましくは高分子1分子あたり1以上30以下の標的指向性の基と、1以上30以下の検出用の基を結合させてなる。
【0011】
好ましくは、高分子は、多糖類、蛋白質、ペプチド、核酸、又は合成高分子からなる群より選ばれる少なくとも一種、あるいはそれらの混合物、共重合体よりなる。より好ましくは、高分子は水溶性である。
好ましくは、多糖類はデキストラン、プルラン、マンナン、アミロペクチン、キトサン、キシログルカン、ヒアルロン酸、アルギン酸、水溶性セルロース、でんぷん、アガロース、カラギーナン、ヘパリンあるいはそれらの水溶性誘導体からなる群より選ばれ、蛋白質はゼラチン、コラーゲン、アルブミン、フィブリンからなる群より選ばれ、また合成高分子は。ポリエチレンイミン、ポリリジン、ポリアミドアミン、デンドリマーなどのアミノ基を有する高分子、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリセリンなどの水酸基を有する高分子、ポリグルタミン酸などのカルボキシル基を有する高分子からなる群より選ばれる。アミノ基あるいはカルボキシル基を持つ高分子は、水酸基を持つ誘導体に変換してから用いる事も出来る。
好ましくは、高分子の分子量は1,000から2,000,000で、さらに好ましくは5,000から500,000である。
【0012】
好ましくは、標的は新生血管の血管内皮細胞であり、標的指向性の基が、CD31(PECAM−1)、CD34(hematopoietic progenitor cell antigen−1)、E−selectin(CD62E)、endoglin(CD105)、endosialin(CD248)、VEGFR−2(Flk−1)、CD146、CD13、αvβ1 インテグリン、αvβ3 インテグリンなどの細胞表面抗原に対する抗体、あるいはエピトープ部位を有する抗体の一部(Half antibody、および抗体のFab,F(ab’)2,Fab’,scFv(single chain Fv,最小)部分など)、あるいはRGD配列を有するペプチド(例えばCyclic RGD、Pronectin、RGDの繰り返し単位をもつ高分子物質)などインテグリンに対するリガンドである。さらに、新生血管の生成時に、その周辺部位に産生されるMMP(Matrix Metaloprotease)、Ang−1および2(Angiopoietin)、bFGF(basic fibroblast growth factor)、PA(plasminogen activator,MMPの上流)、TGF−betaなどの液性因子に対する抗体あるいは抗体の一部(Half antibody、および抗体のFab,F(ab’)2,Fab’,scFv(single chain Fv,最小)部分など)、あるいはそれらの液性因子を認識するリガンドである。
【0013】
好ましくは、検出用の基が常磁性のガドリニウム、鉄、マンガン、あるいは超常磁性の酸化鉄コロイド、あるいは18FなどのMRIやPET用検出基、ヨード、臭素などのX線用検出基、骨シンチグラフィーニに用いるストロンチウム、心臓領域に用いるタリウムシンチ(201TI)、自ら放射線を出す、99mTc、85Sr、87mSrなどの放射線検出基、あるいは可視または近赤外蛍光色素などの蛍光検出基である。
ガドリニウムイオン、鉄イオン、マンガンイオンを高分子に結合させるためには、好ましくは高分子にキレート剤を化学結合させ、そのキレート剤に金属イオンを結合させる。キレート剤はガドリニウム、鉄、マンガンイオンをキレートできる物であれば特に制限は無いが、好ましくは Diethylenetriamine−N,N,N’,N”,N”−pentaacetic acid(DTPA)、Ethylenediamine−N,N,N’,N’−tetraacetic acid(EDTA)、trans−1,2−diaminocyclohexane−N,N,N’N’−tetraacetic acid(CyDTA)、O,O’−Bis(2−aminoethyl)ethyleneglycol−N,N,N’,N’−tetraacetic acid(EGTA)、Iminodiacetic acid(IDA)、Nitrilotriacetic acid(NTA)、Triethylenetetramine−N,N,N’,N”,N”’,N”’−hexaacetic acid(TTHA)、N,N−Bis(2−hydroxyethyl)glycine(DHEG)などの公知のキレート剤を利用することができる。
【0014】
蛍光色素としては、可視あるいは近赤外領域に蛍光を発する色素が好ましく、例えばアジン系色素、アクリジン系色素、トリフェニルメタン系色素、キサンテン系色素、ポルフィリン系色素、シアニン系色素、スチリル系色素、ピリリウム系色素、アゾ、色素、キノン系色素、テトラサイクリン系色素、フラボン系色素、ポリエン系色素などを用いることが出来る。
【0015】
本発明で使用する高分子とキレート剤(検出基であるMRI用あるいは自ら放射線を出す放射線検出基の金属をキレート結合するため)あるいは検出基としての色素を化学結合させるには、公知の反応を用いる事が出来る。例えば高分子が水酸基をもち、キレート剤や色素がカルボキシル基を持つ場合には、縮合剤を用いてエステル結合を形成させたり、あるいはカルボン酸の酸無水物を用いて水酸基とエステル結合を形成させることが好ましい。高分子がアミノ基を持ち、キレート剤や色素がカルボキシル基を持つ場合には、縮合剤を用いてアミド結合を形成させたり、あるいはカルボン酸の酸無水物を用いてアミノ基とアミド結合を形成させることが好ましい。また、カルボキシル基を持つ高分子、例えばヒアルロン酸、ポリグルタミン酸などを、公知の化学反応により水酸基に誘導体化した後に、キレート剤や色素と反応させることができる。チオール基を持つ高分子は、マレイミド基とカルボキシル基あるいはマレイミド基とN−ヒドロキシスクシンイミド基を持つ化合物を用いて公知の方法で高分子へカルボキシル基を導入することができる。リン酸基、硫酸基を有する高分子は、水酸基とカルボキシル基を持つ化合物を用いて公知の方法で高分子へカルボキシル基を導入することができる。この後、同様の反応によりキレート剤や色素と反応させることができる。このように、高分子の持つ化学官能基の種類に関係なく、公知の反応によってキレート剤や色素を高分子と化学的に結合させることが出来る。高分子に対するキレート剤や色素の反応方法については、特開平10−158195に開示されている各種の方法を好ましく用いる事が出来る。18FなどのMRIやPET用検出基、X線用検出基あるいは放射線検出基に関しても、これまで報告されている公知の反応によって高分子と結合させることが出来る。
【0016】
本発明で使用する高分子と標的指向性の基を化学結合させるには、公知の反応を用いる事が出来る。標的指向性の基の持つ水酸基、アミノ基、カルボキシル基、チオール基リン酸基、硫酸基と高分子の持つ水酸基、アミノ基、カルボキシル基、チオール基、リン酸基、硫酸基との間で、前述の化学結合反応を利用することで可能である。さらに、エチレングリコール、あるいはその数個の繰り返し化合物、グリシンなどのアミノ基の2−6個の繰り返し化合物などをスペーサーとして、高分子と標的指向性の基との間に組み込み、両者を化学結合させることも出来る。このスペーサーを組み込んだ高分子と標的指向性の基との間の化学結合にも、公知の反応を用いる事が出来る。
【0017】
検出基としての酸化鉄コロイドは、表面にシランカップリング剤を反応させる事によりアミノ基、カルボキシル基、水酸基などを導入する事が出来、これらの官能基を利用して、公知の反応により高分子と結合させる事が出来る。この高分子の官能基を利用することで、上述の反応によって標的指向性の基を結合させることが出来る。また、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、チオール基リン酸基、硫酸基などの様々の官能基を持つ高分子の存在下で、Fe2+とFe3+の溶液を混合することで、表面に高分子が存在する酸化鉄コロイドを調製することができる。コロイド表面の高分子の官能基を利用することで、上述の反応によって標的指向性の基を結合させることも出来る。
【0018】
高分子として、疎水性−親水性成分を1分子中にもつブロック共重合体、グラフト共重合体などから形成される高分子ミセルもこの目的に利用することが出来る。高分子ミセル成分の高分子に標的指向性の基と検出用の基とを同時に結合させる。結合方法は、公知の反応を利用することが出来る。
【発明の効果】
【0019】
本発明の造影剤は、造影剤中に標的指向性の基と検出用の基が多く含まれているため、新生血管に特異性が高く、検出用の基を新生血管に高い濃度で運搬する事が可能なため、新生血管を感度良く検出することが出来る造影剤が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態についてさらに具体的に説明する。
【0021】
本発明の高分子造影剤製剤は、0.01〜10重量%の高分子造影剤を含有することが好ましく、0.1〜5重量%の高分子造影剤を含有することがさらに好ましい。
さらに本発明の高分子造影剤製剤は、添加剤を含有していてもよい。添加剤の具体例としては、バッファー成分、浸透圧調整成分、凍結乾燥品安定化のための糖類や蛋白質、無痛化剤などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。添加剤の添加量は特に限定されないが、一般的には高分子造影剤の重量に対して0.1〜100重量%の量で添加することができる。
【0022】
本発明で用いることができる無痛化剤として具体例を列挙するが、本発明においてはこれらの化合物に限定されるものではない。ベンジルアルコール、塩酸プロカイン、塩酸キシロカイン、クロロブタノールなどが挙げられる。
【0023】
本発明における造影技術については特に限定されないが、装置固有の各種の信号処理方法を併用する事が出来る。例えば血流の影響を排除して血管内皮の信号を検出しやすくするための、サブトラクション法などを用いる事は好ましい。
【実施例】
【0024】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0025】
実施例1:血管新生造影剤の作製 (造影剤(1))
1. Dextran−(ジエチレントリアミンペンタン酸)DTPAの作製
Dextran(シグマ製、平均分子量74,000)の脱水ジメチルスルホキシド(DMSO、ナカライテスク株式会社製)溶液(10mg/ml,50ml)に触媒であるジメチルアミノピリジン(ナカライテスク株式会社製)を少量加えて室温で5分間攪拌、Dextranの水酸基を活性化した。得られた溶液に、DextranのOH基に対して0.5モル倍量のDTPA anhydride(1650mg、シグマ製)のDMSO溶液(450ml)を加えた。この混合溶液を35℃、16時間反応させた。得られた反応溶液を水に対して透析し、凍結乾燥を行うことにより、Dextran−DTPAの粉末を得た。DTPAがDextranのOH基に導入された割合は、電気伝導度滴定から算出し、9.3モル%/モルOH基であった。
DTPA anhydrideの仕込み濃度を0.1から10倍モル量に変化させることで、DTPAのOH基への導入率は、1.0から34.6モル%/モルOH基まで変化した。
【0026】
2. Dextran−DTPA−cyclic RGDの作製
Dextran−DTPAの0.1M 2−(N−モルホリン)エタンスルホン酸(MES、同仁化学研究所製)緩衝溶液(pH6.0)(1.25mg/ml)40mlへ、123mg1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドと73.9mgN−ヒドロキシスクシンイミド(ともにDextran−DTPAのCOOH基の3.0モル倍量、ナカライテスク株式会社製)を加え、室温、3時間の条件で攪拌することにより、Dextran−DTPAのCOOH基へ活性化エステルを結合させた。得られた反応溶液へ、cyclic RGD(英国ACTIVOTEC社製、H−ACRGDMFGCA−OH)を加え、室温、18時間の条件で反応溶液とCyclic RGDのN末端のアミノ基とを反応させた。このとき、加えるcyclic RGDの量を変化(Dextran−DTPAのCOOH基の0.05、0.1、および0.2モル倍量)させて、得られた反応溶液を水に対して透析、凍結乾燥することにより、Dextran−DTPA−cyclic RGDの粉末を得た。Cyclic RGDがDextran−DTPAへ導入された個数は、トリニトロベンゼンスルホン酸法によるアミノ基の定量の結果から算出した。この結果を図1に示す。この結果から、cyclic RGDのDextran−DTPAへの導入個数を変化させることができることがわかった。
Cyclic RGDの導入率は、前項記載のDTPA導入率の異なるdextranを用いることで、1から20(一分子dextran当りのcyclic RGD導入分子数)まで変化した。
【0027】
3. Dextran−DTPA−cyclic RGD−Gdの作製
Dextran−DTPA−cyclic RGDの0.1M MES緩衝溶液(pH6.0)(5mg/ml、2.1×10−5モルDTPA/ml)1.0mlへ、31mg GdCl3(DTPAの10モル倍量、シグマ製)を含む0.1M MES緩衝溶液を200μl加え、室温、6時間の条件で攪拌した。得られた反応溶液を、PD−10カラム(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を用いて精製、凍結乾燥することで粉末状のDextran−DTPA−cyclic RGD−Gdを得た。Gd3+イオンがDTPA基へ配位した量を原子吸光装置にて測定した結果、0.012モルGd3+/モルDextranであった。Gd3+/モルDextranは、作製条件を変えることで、0.005から0.03まで変化した。
【0028】
実施例2:(比較例)
Dextranのないcyclic RGDとDTPAとからなる低分子のcyclic RGD―DTPAは、Dextranのないこと以外は上記の反応と同じ反応条件で作製した。また、低分子cyclic RGD−DTPAへのGdのキレート反応は、前項の条件で行った。
【0029】
実施例3:造影剤(2)の作製
1. Dextran−ethylenediamine−cyclic RGDの作製
Dextranの脱水DMSO溶液(10mg/ml)に縮合剤であるN,N−carbonyldiimidazole(450mg,DextranのOH基に対して3モル倍量、和光純薬工業株式会社製)を加え5分間攪拌、Dextranの水酸基を活性化した。得られた溶液に、DextranのOH基に対して2モル倍量のethylenediamine(110mg、和光純薬工業株式会社製)およびcyclic RGD(18mg)を加えた。この混合溶液を35℃、3時間の条件で反応させた。得られた反応溶液を水に対して透析し、凍結乾燥を行うことにより、粉末状のDextran−ethylenediamine−cyclic RGDを得た。
【0030】
実施例4:Dextran−DTPA−cyclic RGD−Cy5.5の作製
Dextran−ethylenediamine−cyclic RGDの0.1M炭酸緩衝溶液(pH9.6)(2.5mg/ml、10ml)へ、331mgのDTPA anhydrideおよび1mgのCy5.5mono−reactive NHS(GEヘルスケアバイオサイエンス社製)を加え、室温、3時間の条件で攪拌した。得られた反応溶液を透析、凍結乾燥することにより、粉末状のDextran−DTPA−cyclic RGD−Cy5.5を得た。
【0031】
実施例5:造影剤(3)の作製
1. Dextran−cyclic RGDを含む酸化鉄ナノ粒子の作製
Dextranの脱水DMSO溶液(10mg/ml)に縮合剤であるN,N−carbonyldiimidazole(450mg,DextranのOH基に対して3モル倍量、和光純薬工業株式会社製)を加え5分間攪拌、Dextranの水酸基を活性化した。得られた溶液に、DextranのOH基に対して2モル倍量のcyclic RGD(18mg)を加えた。この混合溶液を35℃、3時間の条件で反応させた。得られた反応溶液を水に対して透析し、凍結乾燥を行うことにより、粉末状のDextran−cyclic RGDを得た。
Dextran−cyclic RGDを含むFe2+とFe3+イオン(Fe3+イオンは、Fe2+イオンの2モル倍量)の混合水溶液にアンモニア水を加え共沈後、60℃、20分の条件で攪拌した。この反応懸濁液を、PD−10カラムを用いて精製することによって、Dextran−cyclic RGDを含む酸化鉄ナノ粒子を得た。酸化鉄ナノ粒子のサイズは、それぞれFe3+イオンとDextran−cyclic RGDのOH基との仕込みモル比により制御することができた。また、上記と同様の方法で作製したDextranを含む酸化鉄ナノ粒子の表面電位は、Dextran−cyclic RGDを含む酸化鉄ナノ粒子の表面電位と異なっていた。このことは、Dextran−cyclic RGDを含む酸化鉄ナノ粒子の表面にcyclic RGDが存在していることを示唆している。
【0032】
性能試験:1.血管新生マウスモデルの作製
C57/BL6マウス(6週齢、オス、20−25g)を麻酔後、右鼠径部を切開、右大腿動脈とその全分枝を露出した。大腿動脈起始部を6−0ナイロン縫合糸を用いて結紮、さらに膝窩動脈と伏在動脈の分岐部直前で同様に結紮した。また他の全分枝を結紮後、右大腿動脈を切除、除去した。モデル作製後に肢指脱落、下肢脱落、潰瘍形成を肉眼的に観察するとともに、カラーレーザードップラー法による組織血流の測定により右下肢虚血の確認を行った。この右下肢虚血は無処置下でも作製1週後より血管新生することが知られている。右下肢虚血2週間後のマウスを血管新生マウスモデルとした。
【0033】
2. 血管新生マウスモデルへの造影剤投与による新生血管のMRI撮像
血管新生マウスモデルの尾静脈より200μlのDextran−DTPA−cyclic RGD−Gd(造影剤(1)、5mg/ml)を投与、4時間後にマウス両下肢大腿部の撮像を、7.0T−MRI(Magnet:Kobelco,Japan.Console:Bruker,Germany)を用いて行った。コイルは、volume coil for transmission(Bruker)と2ch phased array coil for receiving(Rapid Biomedical,Germany)を組み合わせたコイルを用いた。TR/TE=250/9.57ms,slice thickness=1.0

画像を撮像した。このとき、flow−saturation preparation pulseを当てることにより、血液の流れを消去した状態での撮像を行った。図2に、撮像結果を示す。血流を消した計測法では、虚血・血管新生側(左)において造影剤由来のT1緩和時間短縮が見られた。一方、正常側(右)では、造影剤由来の短縮は見られなかった。これらの結果から、造影剤が、新生血管周辺に集積、血管新生部位周辺のT1緩和時間を短縮したことが示唆される。
【0034】
比較例の試験:
低分子cyclic RGD−DTPA−Gdを、同様に動物に投与して、その造影効果を観察した。その結果、Dextran−DTPA−cyclic RGD−Gdとは大きく異なり、T1緩和時間の短縮は見られなかった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】 図1は、Dextran−DTPA−cyclic RGDへのcyclic RGD導入個数を示す。
【図2】 図2は、造影剤(1)の新生血管の造影結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子に標的指向性の基と検出用の基を結合させてなる造影剤。
【請求項2】
新生血管の内皮細胞を標的とする請求項1記載の造影剤。
【請求項3】
高分子が、多糖類、蛋白質、ペプチド、並びに、水酸基を有する合成高分子、アミノ基を有する合成高分子、カルボキシル基を有する合成高分子である請求項1〜2に記載の造影剤。
【請求項4】
標的指向性の基が細胞表面抗原に対する抗体、それらのフラグメント、あるいはインテグリンのリガンドである請求項1〜3に記載の造影剤。
【請求項5】
検出用の基が、ガドリニウム、鉄、マンガン、酸化鉄コロイドなどのMRI用検出基、ヨードなどのX線用検出基、あるいは可視または近赤外蛍光色素などの蛍光検出基、である請求項1〜4に記載の造影剤。
【請求項6】
高分子の分子量が1,000から2,000,000で、好ましくは5,000から500,000である請求項1〜5記載の造影剤。
【請求項7】
高分子が、デキストラン、プルラン、マンナン、アミロペクチン、キトサン、キシログルカン、ヒアルロン酸、アルギン酸、水溶性セルロース、でんぷん、アガロース、カラギーナン、ヘパリンあるいはそれらの水溶性誘導体、ゼラチン、コラーゲン、アルブミン、フィブリン、ポリエチレンイミン、ポリリジン、ポリアミドアミン、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリセリン、ポリグルタミン酸から選択される請求項1〜6記載の造影剤。
【請求項8】
標的指向性の基が、CD31(PECAM−1)、CD34(hematopoietic progenitor cell antigen−1)、E−selectin(CD62E)、endoglin(CD105)、endosialin(CD248)、VEGFR−2(Flk−1)、CD146、CD13、αvβ1 インテグリン、αvβ3 インテグリンなどの細胞表面抗原に対する抗体、あるいはRGD配列を有するペプチド(例えばCyclic RGD、Pronectin、RGDの繰り返し単位をもつ高分子物質)などインテグリンに対するリガンドである請求項1〜7記載の造影剤。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の造影剤を用いた、新生血管の造影方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−126864(P2009−126864A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−335240(P2007−335240)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(503265876)株式会社メドジェル (15)
【Fターム(参考)】