説明

新規β−ラクタム合成法

【課題】簡便な操作で、しかも、収率よく、さらには良好な立体選択性をもって、アゼチジン-2-オン(β−ラクタム)骨格の4位にアルキリデン基を持っている有用なアゼチジン-2-オン誘導体を製造する方法の提供。
【解決手段】次の反応式(1)で示される環化異性化反応により、O-プロパルギルアリールアルドキシム化合物(1)を銅触媒などの触媒の作用によりβラクタム誘導体(2、2′)に変換する。


本反応は医薬品の合成中間体として有用な新規βラクタム化合物の高効率的合成法として期待できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、β−ラクタムの新規な合成法に関する。特には、本発明は、O-プロパルギ
ルオキシム化合物を出発原料としたβ−ラクタム骨格の4位にアルキリデン基を持っている有用なアゼチジン-2-オン誘導体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
β−ラクタムは4員環ラクタム構造を有しており、ペニシリン、セファロスポリンをはじめとした抗生物質として幅広く利用されている骨格である。β−ラクタム骨格を有する抗生物質としては、様々なものが開発されてきており、ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系、モノバクタム系、ペネム系などが挙げられる。β−ラクタム系抗生物質の開発の歴史は、強い抗菌活性を持つ中心構造の発見と、それを化学的に変換し、活性の広帯域化を図ることの繰り返しである。
また、β−ラクタムはアミノ酸合成の合成中間体としても利用されている(β−ラクタムシントン法: β-Lactam Synthon Method)。こうしたことから、多様なβ−ラクタム構造を供給することは、創薬の観点からも極めて重要であり、β−ラクタム骨格の新規合成法の開発が求められている。
【0003】
アゼチジン−2−オン骨格の4位にアルキリデン基を持つものの合成法としては、下記反応工程式に示すようにパラジウム錯体を触媒として使用する方法が知られている〔非特許文献1: Fustero, S., Hammond, G. B. et al., Org. Lett., 9, 4251 (2007)〕。
【0004】
【化1】

【0005】
しかしながら、上記の合成法では、原料調達の問題(異性化)があり、3位の置換基はフッ素原子に限られるし、原料合成に水銀を使用するとの問題がある。さらに、高価なパラジウム触媒を使用しなければならず、不斉反応への展開もほぼ不可能である。
【0006】
触媒的骨格転位反応は、複数の共有結合の切断と構築を経て進行し、複雑な分子骨格を迅速に構築する分子変換プロセスであり、これまで精力的な研究が展開されてきた。Trostらによる先駆的な報告〔非特許文献2: Trost, B. M., Tanoury, G. J. J., Am. Chem. Soc., 110, 1636 (1988)〕以来、様々な遷移金属錯体が多様な骨格転位反応に対し触媒活性を示すことが明らかにされた。反応基質としては1,n-エンイン化合物〔非特許文献3: Michelet, V., Toullec, P. Y., Genet, J.-P., Angew. Chem., Int. Ed., 47, 4268 (2008); 非特許文献4: Tobisu, M., Chatani, N., Chem. Soc. Rev., 37, 300 (2008)〕や
プロパルギルエステル類〔非特許文献5: Furstner, A., Davies, P. W., Angew. Chem.,
Int. Ed., 46, 3410 (2007); 非特許文献6: Jimenez-Nunez, E., Echavarren, A. M., Chem. Rev., 108, 3326 (2008)〕が、主な研究対象であり、2本ないしは3本の共有結合
の切断を伴う多様な骨格転位反応が開発されてきた。近年、アルキニルエポキシドを基質とする骨格転位反応がオキシランの高度に歪んだC-O結合を含む4つの共有結合の切断を
伴って進行することが報告されている〔非特許文献7: Pujanauski, B. G., Prasad, B. A. B., Sarpong, R., J. Am. Chem. Soc., 108, 6786 (2006); 非特許文献8: Maddirala, S. J., Odedra, A., Taduri, B. P., Liu, R.-S., Synlett, 1173 (2006)〕。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Fustero, S., Hammond, G. B. et al., Org. Lett., 9, 4251 (2007)
【非特許文献2】Trost, B. M., Tanoury, G. J. J., Am. Chem. Soc., 110, 1636 (1988)
【非特許文献3】Michelet, V., Toullec, P. Y., Genet, J.-P., Angew. Chem., Int. Ed., 47, 4268 (2008)
【非特許文献4】Tobisu, M., Chatani, N., Chem. Soc. Rev., 37, 300 (2008)
【非特許文献5】Furstner, A., Davies, P. W., Angew. Chem., Int. Ed., 46, 3410 (2007)
【非特許文献6】Jimenez-Nunez, E., Echavarren, A. M., Chem. Rev., 108, 3326 (2008)
【非特許文献7】Pujanauski, B. G., Prasad, B. A. B., Sarpong, R., J. Am. Chem. Soc., 108, 6786 (2006)
【非特許文献8】Maddirala, S. J., Odedra, A., Taduri, B. P., Liu, R.-S., Synlett, 1173 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、簡便な操作で、しかも、収率よく、さらには良好な立体選択性をもって、アゼチジン-2-オン(β−ラクタム)骨格の4位にアルキリデン基を持っている有用なアゼチジン-2-オン誘導体を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、O-プロパルギルアリールアルドキシム(1)が銅
触媒などの触媒の作用によりβラクタム(2)へ骨格転位する前例のない環化異性化反応を
見出し、この発明を完成した。すなわち、本発明の当該環化異性化反応は、次の反応式(1)で示される。
【0010】
【化2】

【0011】
極めて興味深いことに、本反応は、異なる5つの共有結合、すなわち基質のC-C, C-O, N-O, C=N, およびC-C三重結合の切断を経て進行する。本反応では、置換基の電子性より
も基質の位置情報に主に起因する反応の位置選択性が示唆されている。本反応では、アル
キン三重結合の切断が起こっており、アルキン末端の置換基R1は窒素上に特異的に転位する。一方、本反応の位置異性は基質のプロパルギル R2CH 部位とオキシム R3CH 部位が生成物のアリーリデン部位あるいはアジリジン骨格のα位へ再構成される際に生じることが示唆されるものである。この分子変換によりオキシム部位の窒素および酸素原子、および基質C1炭素上の共有結合は全て切断・再構築される。
本発明の方法で、調製容易かつ安定なO-プロパルギルオキシムを出発原料として、ド
ラスチックな骨格転位反応により、有用なβラクタム誘導体を製造することができる。βラクタム環はペニシリンを端緒とするβラクタム系抗生物質の重要な部分骨格である。またβ−ラクタムシントン法において様々なアミノ酸誘導体の合成中間体として汎用されている。したがって、本反応は新規βラクタム化合物の高効率的合成法として期待できる。
【0012】
本発明では、以下のものが提供される。
〔1〕 式1:
【化3】

で示される化合物に、銅触媒、白金触媒及びインジウム触媒からなる群から選択された触媒を作用せしめることを特徴とする、
式2:
【化4】

で示される化合物、及び/又は、
式2′:
【化5】

で示される化合物
(式中、R1は、水素原子、置換されていてもよい炭化水素基、置換されていてもよい複
素環基、又は、アミノ基の保護基、
2は、水素原子、置換されていてもよい炭化水素基、置換されていてもよい複素環基、
−O−R11、−S−R12、又は、−NR1314
3は、水素原子、置換されていてもよい炭化水素基、置換されていてもよい複素環基、
−O−R15、−S−R16、又は、−NR1718
11及びR15は、それぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよい炭化水素基、置換されていてもよい複素環基、又は、ヒドロキシ基の保護基、
12及びR16は、同一または相異なり、それぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよい炭化水素基、置換されていてもよい複素環基、又は、スルフヒドリル基の保護基、
13、R14、R17及びR18は、同一または相異なり、それぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよい炭化水素基、置換されていてもよい複素環基、又は、アミノ基の保護基、あるいは、R13とR14、そして、R17とR18は、一緒になって隣接する窒素原子と共に環状アミノ基を形成してもよい、
を意味する)
の製造法。
【0013】
〔2〕 前記触媒が、銅触媒であることを特徴とする上記〔1〕に記載の製造法。
〔3〕 前記触媒が、ハロゲン化第一銅であることを特徴とする上記〔1〕又は〔2〕に記載の製造法。
〔4〕 前記触媒が、臭化第一銅及び塩化第一銅からなる群から選択されたものであることを特徴とする上記〔1〕〜〔3〕のいずれか一に記載の製造法。
〔5〕 前記式中、R1は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されて
いてもよいシクロアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基、
2は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいシクロアル
キル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基、
3は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいシクロアル
キル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基
を意味することを特徴とする上記〔1〕〜〔4〕のいずれか一に記載の製造法。
〔6〕 前記置換されていてもよい場合の置換基は、ハロゲン、アルコキシ基及びハロゲンで置換されていてもよいアルキル基からなる群から選択されたものであることを特徴とする上記〔1〕〜〔5〕のいずれか一に記載の製造法。
〔7〕 式2:
【化6】

で示される化合物、及び/又は、
式2′:
【化7】

で示される化合物
(式中、R1は、水素原子、置換されていてもよい炭化水素基、置換されていてもよい複
素環基、又は、アミノ基の保護基、
2は、水素原子、置換されていてもよい炭化水素基、置換されていてもよい複素環基、
−O−R11、−S−R12、又は、−NR1314
3は、水素原子、置換されていてもよい炭化水素基、置換されていてもよい複素環基、
−O−R15、−S−R16、又は、−NR1718
11及びR15は、それぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよい炭化水素基、置換されていてもよい複素環基、又は、ヒドロキシ基の保護基、
12及びR16は、同一または相異なり、それぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよい炭化水素基、置換されていてもよい複素環基、又は、スルフヒドリル基の保護基、
13、R14、R17及びR18は、同一または相異なり、それぞれ独立に、水素原子、置換さ
れていてもよい炭化水素基、置換されていてもよい複素環基、又は、アミノ基の保護基、あるいは、R13とR14、そして、R17とR18は、一緒になって隣接する窒素原子と共に環状アミノ基を形成してもよい、
を意味する)またはその塩。
〔8〕 前記式中、R1は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されて
いてもよいシクロアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基、
2は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいシクロアル
キル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基、
3は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいシクロアル
キル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基
を意味することを特徴とする上記〔7〕に記載の化合物またはその塩。
〔9〕 前記式中、R1は、C1-15アルキル基、C3-10シクロアルキル基、非置換又は置
換C6-15アリール基(ここで、置換基は、C1-4アルキル基、ハロゲン置換C1-4アルキル基
、ニトロ基、ハロゲン及びC1-4アルコキシ基からなる群から選択されたものである)、又は、非置換又は置換C7-20アラルキル基(ここで、置換基は、C1-4アルキル基、ハロゲン
置換C1-4アルキル基、ニトロ基、ハロゲン及びC1-4アルコキシ基からなる群から選択されたものである)、
2は、非置換又は置換C6-15アリール基(ここで、置換基は、C1-4アルキル基、ハロゲン置換C1-4アルキル基、ニトロ基、ハロゲン及びC1-4アルコキシ基からなる群から選択されたものである)、
3は、非置換又は置換C6-15アリール基(ここで、置換基は、C1-4アルキル基、ハロゲン置換C1-4アルキル基、ニトロ基、ハロゲン及びC1-4アルコキシ基からなる群から選択されたものである)
を意味することを特徴とする上記〔7〕又は〔8〕に記載の化合物またはその塩。
〔10〕 前記式中、R1は、C1-4アルキル基、C3-10シクロアルキル基、非置換又は置換フェニル基(ここで、置換基は、C1-4アルキル基、ハロゲン置換C1-4アルキル基、ニトロ基、ハロゲン及びC1-4アルコキシ基からなる群から選択されたものである)、又は、非置換又は置換ベンジル基(ここで、置換基は、C1-4アルキル基、ハロゲン置換C1-4アルキル基、ニトロ基、ハロゲン及びC1-4アルコキシ基からなる群から選択されたものである)、R2は、非置換又は置換フェニル基(ここで、置換基は、C1-4アルキル基、ハロゲン置換C1-4アルキル基、ニトロ基、ハロゲン、C1-4アルコキシ基からなる群から選択されたもの
である)、
3は、非置換又は置換フェニル基(ここで、置換基は、C1-4アルキル基、ハロゲン置換C1-4アルキル基、ニトロ基、ハロゲン及びC1-4アルコキシ基からなる群から選択されたも
のである)
を意味することを特徴とする上記〔7〕〜〔9〕のいずれか一に記載の化合物またはその塩。
【発明の効果】
【0014】
本発明のβ−ラクタム合成法は、前例のない分子変換法であり、従来法では4位にアルキリデン基を持つメチレンアジリジンを効率的に合成することが困難であるのに対し、簡便な原料調達可能(市販薬品より3段階で効率的に供給可能)で、触媒、特には安価な銅塩を触媒量使用することにより反応が円滑に進行し、より重要となるキラル化合物を選択的に合成することも可能である。さらに、本発明の方法で得られる生成物は、β−ラクタム環部分に存在するオレフィン部より、更なる分子変換が期待できる。本発明のβ−ラクタム合成法は、位置選択性を図ることも可能である。
本発明のその他の目的、特徴、優秀性及びその有する観点は、以下の記載より当業者にとっては明白であろう。しかしながら、以下の記載及び具体的な実施例等の記載を含めた本件明細書の記載は本発明の好ましい態様を示すものであり、説明のためにのみ示されて
いるものであることを理解されたい。本明細書に開示した本発明の意図及び範囲内で、種々の変化及び/又は改変(あるいは修飾)をなすことは、以下の記載及び本明細書のその他の部分からの知識により、当業者には容易に明らかであろう。本明細書で引用されている全ての特許文献及び参考文献は、説明の目的で引用されているもので、それらは本明細書の一部としてその内容はここに含めて解釈されるべきものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】X線結晶構造解析した結果、本発明の方法で得られた化合物(2a)のORTEP図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、一般式(1)で示される化合物に触媒を作用せしめることにより、一般式(2)で示される化合物、及び/又は、一般式(2')で示される化合物を製造する方法を提供するものであり、効率的にアゼチジン-2-オン骨格の4位にアルキリデン基を持っている有用なアゼチジン-2-オン誘導体を合成する技術を提供する。本発明では、簡便に原料調達が可能な出発原料を用いて所要のアゼチジン-2-オン誘導体を合成することができるし、さらに、化合物の構造異性体を、位置選択的、及び/又は、立体選択的に合成する技術も提供する。
【0017】
上記式中、R1、R2、R3、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17及びR18にお
ける「置換されていてもよい炭化水素基」の炭化水素基としては、β−ラクタム骨格を有する化合物に存在する置換基として知られているものであれば、特に限定されることなく、任意に適切な置換基を選んで使用できるが、典型的な場合では、ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系、モノバクタム系、ペネム系などのβ−ラクタム骨格を有する抗生物質などやそれらの合成中間体などにおいて使用されるものの中から選択して使用でき、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、s-ブチル、t-ブチル、ペンチル、アミル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル等の炭素数1〜15のアルキル基(C1-15アルキル基)、例えばビニル、アリル、2-メチルアリル、2-ブテニル、3-ブテニル、2-ペンテニル、2-ヘキセニル、3-オクテニル等の炭素数2〜10のアルケニル基(C2-10アル
ケニル基)、例えばエチニル、2-プロピニル、2-ブチニル、2-ペンチニル、2-ヘプチニル
、2-ヘキシニル等の炭素数2〜10のアルキニル基(C2-10アルキニル基)、例えばシクロプ
ロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、アダマンチル、ノルボルニル等の炭素数3〜10のシクロアルキル基(C3-10シクロアルキル基)、例えばシクロプロペニ
ル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル等の炭素数3〜10のシクロアルケニル基(C3-10シクロアルケニル基)、例えばフェニル、α-ナフチル、β-ナフチル等の炭素数6〜15のアリール基(C6-15アリール基)、例えばベンジル、フェニルエチル等のフェニルアルキル
基等の炭素数7〜20のアラルキル基(C7-20アラルキル基)等が用いられる。
【0018】
また、「置換されていてもよい炭化水素基」の炭化水素基は、同一または相異なる置換基を1〜5個(好ましくは1個)有していてもよく、このような置換基としては、上記したようなC1-15アルキル基、C3-10シクロアルキル基、C2-10アルケニル基、C2-10アルキニル基、C3-10シクロアルケニル基、C6-15アリール基、C7-20アラルキル基に加えて、例え
ばフッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子、ニトロ基、水酸基、メルカプト基、オキソ基、チオキソ基、シアノ基、カルバモイル基、カルボキシル基、例えばメトキシカルボニル、エトキシカルボニル、tert-ブトキシカルボニル等の炭素数1〜5のアルコキシ
カルボニル基、スルホ基(-SO3H)、例えばメトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポ
キシ、ブトキシ、イソブトキシ、s−ブトキシ、t−ブトキシ等の炭素数1〜4のアルコキシ基、例えばフェノキシ、ナフチロキシ等の炭素数6〜10のアリールオキシ基、例えばメチルチオ、エチルチオ、n-プロピルチオ、イソプロピルチオ、ブチルチオ、イソブチル
チオ、sec-ブチルチオ、tert-ブチルチオ等の炭素数1〜4のアルキルチオ基、例えばフ
ェニルチオ、ナフチルチオ等の炭素数6〜10のアリールチオ基、例えばメチルスルフィニル、エチルスルフィニル等の炭素数1〜4のアルキルスルフィニル基、例えばフェニルスルフィニル等の炭素数6〜10のアリールスルフィニル基、例えばメチルスルホニル、エチルスルホニル等の炭素数1〜4のアルキルスルホニル基、例えばフェニルスルホニル、ナフチルスルホニル等の炭素数6〜10のアリールスルホニル基、アミノ基、例えばアセチルアミノ、プロピオニルアミノ等のアルカノイルアミノ基等の炭素数2〜6のアシルアミノ基、例えばメチルアミノ、エチルアミノ、n-プロピルアミノ、イソプロピルアミノ、n-ブチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ等のモノまたはジ炭素数1〜4のアルキルアミノ基、例えばシクロヘキシルアミノ等の炭素数3〜6のシクロアルキルアミノ基、例えばアニリノ等の炭素数6〜10のアリールアミノ基、例えばホルミル、アセチル等のアルカノイル基等の炭素数1〜4のアシル基、例えばベンゾイル等の炭素数6〜10のアリールカルボニル基、例えば2-または3-チエニル、2-または3-フリル、3-,4-または5-ピラゾリ
ル、2-,4-または5-チアゾリル、3-,4-または5-イソチアゾリル、2-,4-または5-オキサゾ
リル、3-,4-または5-イソオキサゾリル、2-,4-または5-イミダゾリル、1,2,3-または1,2,4-トリアゾリル、1Hまたは2H-テトラゾリル、2-,3-または4-ピリジル、2-,4-または5-ピ
リミジニル、3-または4-ピリダジニル、キノリル、イソキノリル、インドリル等の酸素原子、硫黄原子、窒素原子から選ばれたヘテロ原子を1〜4個含む5〜6員複素環基から選ばれるものが用いられる。
【0019】
これらの置換基が、例えばC6-15アリール基、C7-20アラルキル基、C3-10シクロアルキ
ル基、C3-10シクロアルケニル基、C6-10アリールオキシ基、C6-10アリールチオ基、C6-10アリールスルフィニル基、C6-10アリールスルホニル基、C6-10アリールアミノ基、複素環基等である場合には、さらに上記のようなハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜4のアルキル基(C1-4アルキル基)、炭素数2〜4のアルケニル基(C2-4アルケニル基)、炭素数2〜4のアルキニル基(C2-4アルキニル基)、C6-10アリール基、C1-4アルコキシ基、フェノキシ基、C1-4アルキルチオ基、フェニルチオ基等で1〜5個置換されていてもよく、また置換基がC1-15アルキル基、C2-10アルケニル基、C2-10アルキニル基、C1-4アルコキシ基、C1-4アルキルチオ基、C1-4アルキルスルフィニル基、C1-4アルキルスルホニル基、アミノ
基、モノまたはジC1-4アルキルアミノ基、C3-6シクロアルキルアミノ基、C6-10アリール
アミノ基等である場合には、さらに上記のようなハロゲン原子、水酸基、炭素数1〜4のアルコキシ基、炭素数1〜4のアルキルチオ基等で1〜5個置換されていてもよい。
【0020】
上記式中、R1、R2、R3、R11、R12、R13、R14、R15、R16、R17及びR18にお
ける「置換されていてもよい複素環基」の複素環基としては、β−ラクタム骨格を有する化合物に存在する置換基として知られているものであれば、特に限定されることなく、任意に適切な複素環基を選んで使用できるが、典型的な場合では、ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系、モノバクタム系、ペネム系などのβ−ラクタム骨格を有する抗生物質などやそれらの合成中間体などにおいて使用されるものの中から選択して使用でき、代表的な場合では、該複素環基は、異なる2種以上の原子を含有する環状基であり、例えば酸素原子、硫黄原子、窒素原子などのヘテロ原子を1〜5個含む5〜8員環またはその縮合環などが用いられ、その具体例としては、例えば2-または3-チエニル、2-または3-フリル、2-または3-ピロリル、2-,3-または4-ピリジル、2-,4-または5-オキサゾリル、2-,4-
または5-チアゾリル、3-,4-または5-ピラゾリル、2-,4-または5-イミダゾリル、3-,4-ま
たは5-イソオキサゾリル、3-,4-または5-イソチアゾリル、3-または5-(1,2,4-オキサジアゾリル)、1,3,4-オキサジアゾリル、3-または5-(1,2,4-チアジアゾリル)、1,3,4-チアジ
アゾリル、4-または5-(1,2,3-チアジアゾリル)、1,2,5-チアジアゾリル、1,2,3-トリアゾリル、1,2,4-トリアゾリル、1H-または2H-テトラゾリル、N-オキシド-2-,3-または4-ピリジル、2-,4-または5-ピリミジニル、N-オキシド-2-,4-または5-ピリミジニル、3-または4-ピリダジニル、ピラジニル、N-オキシド-3-または4-ピリダジニル、ベンゾフリル、ベン
ゾチアゾリル、ベンゾオキサゾリル、トリアジニル、オキソトリアジニル、テトラゾロ[1,5-b]ピリダジニル、トリアゾロ[4,5-b]ピリダジニル、オキソイミダジニル、ジオキソトリアジニル、ピロリジニル、ピペリジニル、ピラニル、チオピラニル、1,4-オキサジニル、モルホリニル、1,4-チアジニル、1,3-チアジニル、ピペラジニル、ベンゾイミダゾリル、キノリル、イソキノリル、シンノリル、フタラジニル、キナゾリニル、キノキサリニル、インドリジニル、キノリジニル、1,8-ナフチリジニル、プリニル、プテリジニル、ジベンゾフラニル、カルバゾリル、アクリジニル、フェナントリジニル、フェナジニル、フェノチアジニル、フェノキサジニルなどが用いられる。
【0021】
複素環基の好ましいものは、例えば2-または3-チエニル等の5−員含硫黄複素環基、2-または3-フリル等の5-員含酸素複素環基、2-,3-または4-ピリジル、2-,4-または5-チアゾリル等の5-又は6-員含窒素複素環基である。
これら複素環基は、同一または相異なる置換基を1〜5個(好ましくは1個)有していてもよく、このような置換基としては、前述の「置換されていてもよい炭化水素基」において当該炭化水素基の置換基として前述したもの等が用いられる。
13とR14、または、R17とR18が、一緒になって隣接する窒素原子と共に環状アミノ基を形成する場合の当該環状アミノ基としては、例えばアジリジノ、アゼチジノ、ピロリジノ、ピペラジノ、ピペリジノ、モルホリノ、チオモルホリノ基等が用いられる。これらの環状アミノ基は、メチル、エチル等のC1-4アルキル基を1〜4個置換基として有していてもよい。
【0022】
1、R13、R14、R17及びR18における「アミノ基の保護基」は、有機合成の分野で
当業者に公知のもの、例えば、ペプチド合成、ペニシリン合成、セファロスポリン合成、ヌクレオチド合成、糖の合成などの分野で使用されたことがあるものから選ばれてよい。当該保護基は、通常、慣用のアミノ基の保護基あるいはβ−ラクタム骨格を有する化合物の合成法で利用されるアミノ基の保護基として知られているものであれば、特に限定されることなく、任意に適切な保護基を選んで使用できるが、典型的な場合では、水による処理、フッ化水素酸、トリフルオロ酢酸などの酸処理、水素添加処理、ピペリジン処理などにより除去可能なものを使用できる。具体的な場合では、当該保護基は、例えば、ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系、モノバクタム系、ペネム系などのβ−ラクタム骨格を有する抗生物質などやそれらの合成中間体などにおいて当業者が使用するものの中から選択して使用でき、代表的な場合では、ベンジル、p-メトキシベンジル、ビフェニルメチル、トリチルなどのアラルキル基、2,4-ジニトロフェニル基、ベンジルオキシメチル、tert-ブトキシメチルなどの置換されていてもよいアルキル基、トシル基、ホルミル、ア
セチル、クロロアセチル、ジクロロアセチル、トリクロロアセチルなどのアシル基、tert-ブトキシカルボニル、β,β,β-トリクロロエトキシカルボニル、β-トリメチルシリル
エトキシカルボニル、フルオレニルメトキシカルボニル、ベンジルオキシカルボニル、p-ニトロベンジルオキシカルボニルなどのエステル化されたカルボキシ基あるいはアルコキシカルボニル基、トリメチルシリル、tert-ブチルジメチルシリルなどのシリル基などが
使用できる。
【0023】
11及びR15における「ヒドロキシ基の保護基」は、有機合成の分野で当業者に公知のもの、例えば、ペプチド合成、ペニシリン合成、セファロスポリン合成、ヌクレオチド合成、糖の合成などの分野で使用されたことがあるものから選ばれてよい。当該保護基は、通常、慣用の水酸基の保護基あるいはβ−ラクタム骨格を有する化合物の合成法で利用される水酸基の保護基として知られているものであれば、特に限定されることなく、任意に適切な保護基を選んで使用できるが、典型的な場合では、水による処理、水素添加処理、酸又は弱塩基での処理などにより除去可能なものを使用できる。具体的な場合では、当該保護基は、例えば、ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系、モノバクタム系、ペネム系などのβ−ラクタム骨格を有する抗生物質などやそれらの合成中間体などにおいて当
業者が使用するものの中から選択して使用でき、代表的な場合では、ホルミル、アセチル、プロピオニル、ブチリル、バレリル、ピバロイル、クロロアセチル、ブロモアセチルなどの置換されていてもよいアルカノイル基、2-ブロモベンジロキシカルボニル、β,β,β-トリクロロエトキシカルボニル、β-トリメチルシリルエトキシカルボニルなどのエステル化されたカルボキシ基などのアシル基、tert-ブチル、ベンジル、p-ニトロベンジル、
トリチル、β-メトキシエトキシメチルなどの置換されていてもよいアルキル基、トリメ
チルシリル、tert-ブチルジメチルシリルなどのシリル基、ジボラン、トリイソプロピル
ボランなどのホウ素基、2-テトラヒドロピラニル、4-メトキシ-4-テトラヒドロピラニル
などのピラニル基、ベンゾイル、p-トルオイル、ナフトイルなどのアロイル基などを使用できる。
【0024】
12及びR16における「スルフヒドリル基の保護基」は、有機合成の分野で当業者に公知のもの、例えば、ペプチド合成、ペニシリン合成、セファロスポリン合成、ヌクレオチド合成、糖の合成などの分野で使用されたことがあるものから選ばれてよい。当該保護基は、通常、慣用の-SH基の保護基あるいはβ−ラクタム骨格を有する化合物の合成法で利
用される-SH基の保護基として知られているものであれば、特に限定されることなく、任
意に適切な保護基を選んで使用できるが、典型的な場合では、水による処理、水素添加処理、酸又は弱塩基での処理などにより除去可能なものを使用できる。具体的な場合では、当該保護基は、例えば、ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系、モノバクタム系、ペネム系などのβ−ラクタム骨格を有する抗生物質などやそれらの合成中間体などにおいて当業者が使用するものの中から選択して使用でき、代表的な場合では、例えば4-メチルベンジル、トリチル、tert-ブチル、N-アセチルアミノメチル、1-エトキシエチルチオエ
ステル、メトキシメチルチオエステルなどのチオエステルの残基、1-エトキシエチルアミノチオカルボニル、メトキシメチルアミノチオカルボニルなどのチオカルバメートの残基、ヘミチオアセタール基などを使用できる。
【0025】
本発明で使用される保護基は、官能基が一連の合成工程における処理で望ましくない変化を起こしてしまうことを防ぐ目的で使用されるものを意味するものであってよく、当該処理が終了した後には、必要に応じて、除去、すなわち、脱保護されるものであってよく、こうした目的に適したものは、当業者は容易に想定可能であり、代表的な場合には、当該分野に関する書籍に記載のもの、例えば、Peter G. M. Wuts; Theodora W. Greene, "Greene's Protective Groups in Organic Synthesis", Fourth Edition, Wiley, John & Sons, Incorporated, Pub. Date: October 2006 (ISBN-13: 978-0-471-69754-1)などに記
載のものを参考にして、使用できる。
【0026】
一つの具体的な態様では、上記反応式(1)の工程における化合物(1)、(2)及び(2')にお
ける置換基R1としては、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、tert- ブチル基、n-ヘキシル基、n-ペンチル基、ヘプチル基などの直鎖又は分岐鎖のC1-15アルキル基又は置換C1-15アルキル基(ここで、置換基は、水酸基、C1-4アルコキシ基、ハロゲン置換C1-4アルコキシ基、ニトロ基、ハロゲン、C1-4アシル基及びC1-4アルコキシカルボニル基からなる群から選択されたものである)、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基、ノルボルニル基などのC3-10シクロアルキル基又は置換C3-10シクロアルキル基(ここで、置換基は、C1-4アルキル基、水酸基、C1-4アルコキシ基、ハロゲン置換C1-4アルコキシ基、ニトロ基、ハロゲン、C1-4アシル基及びC1-4アルコキシカルボニル基からなる群から選択されたものである)、フェニル、α-ナフチル、β-ナフチルなどのC6-15アリール基又は置換C6-15アリール基(ここで、置換基は、C1-4アルキル基、ハロゲン置換C1-4アルキル基、水酸基、C1-4アルコキシ基、ハロゲン置換C1-4アルコキシ基、ニトロ基、ハロゲン、C1-4アシル基及びC1-4アルコキシカルボニル基からなる群から選択されたものである)、又は、ベンジル、フェニルエチル、トリチルなどのC7-20アラルキル
基又は置換アリール部を有するC7-20アラルキル基(ここで、置換基は、C1-4アルキル基
、ハロゲン置換C1-4アルキル基、水酸基、C1-4アルコキシ基、ハロゲン置換C1-4アルコキシ基、ニトロ基、ハロゲン、C1-4アシル基及びC1-4アルコキシカルボニル基からなる群から選択されたものである)で、置換基R2及びR3としては、フェニル、α-ナフチル、β-ナフチルなどのC6-15アリール基又は置換C6-15アリール基(ここで、置換基は、C1-4アルキル基、ハロゲン置換C1-4アルキル基、水酸基、C1-4アルコキシ基、ハロゲン置換C1-4アルコキシ基、ニトロ基、ハロゲン、C1-4アシル基及びC1-4アルコキシカルボニル基からなる群から選択されたものである)、又は、ベンジル、フェニルエチル、トリチルなどのC7-20アラルキル基又は置換アリール部を有するC7-20アラルキル基(ここで、置換基は、C1-4アルキル基、ハロゲン置換C1-4アルキル基、水酸基、C1-4アルコキシ基、ハロゲン置換C1-4アルコキシ基、ニトロ基、ハロゲン、C1-4アシル基及びC1-4アルコキシカルボニル基からなる群から選択されたものである)である。より具体的な態様では、上記反応式(1)の
工程における化合物(1)、(2)及び(2')における置換基R1としては、n-プロピル基、tert-
ブチル基、シクロヘキシル基、C1-4アルキル置換シクロヘキシル基、フェニル基、トリフルオロメチル置換フェニル基、p-フルオロフェニル、p−クロロフェニルなどのハロゲン置換フェニル基、p-メトキシフェニル、3,4-ジメトキシフェニルなどのC1-4アルコキシ置換フェニル基、p-メチルフェニル、3,4-ジメチルフェニルなどのC1-4アルキル置換フェニル基、ニトロ置換フェニル基、ベンジル基、トリフルオロメチル置換ベンジル基、ハロゲン置換ベンジル基、C1-4アルコキシ置換ベンジル基、C1-4アルキル置換ベンジル基、ニトロ置換ベンジル基、ビフェニルメチル基、トリチル基などであり、置換基R2及びR3としては、フェニル基、トリフルオロメチル置換フェニル基、ハロゲン置換フェニル基、C1-4アルコキシ置換フェニル基、C1-4アルキル置換フェニル基、ニトロ置換フェニル基などである。
【0027】
本発明の反応式(1)の工程は、出発物質が液体の場合は、無溶媒で行ってもよいが、通
常は適当な溶媒中で行われる。このような溶媒としては、反応に影響を及ぼさない常用の溶媒が使用可能であり、例えばベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、クメン、キシレン、テトラリン、ビフェニル等の芳香族炭化水素類、例えばジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、クロロホルム、ブロモホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、例えばジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、n-ブチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、テトラヒ
ドロフラン(THF)、ジグリム、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、アニソール、エ
チルセロソルブ、メチルセロソルブ等のエーテル類、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン等のアルコール類、例えばヘキサン、ヘプタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、シクロヘキセン、ペンタン、等の飽和炭化水素類、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルn-ブチルケトン、メチルイソプロピルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、例えばアセトニトリル等のニトリル類、例えばジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド等、例えばN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等の酸アミド類、例え
ば酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、エチルセロソルブアセテート、酢酸アミル等のエステル類、例えば酢酸、プロピオン酸等のカルボン酸類、ニトロメタン、水等が用いられる。好適な溶媒としては、例えばベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、クメン、キシレン、テトラリン、ビフェニル等の芳香族炭化水素類、例えばジエチルエーテル、n-ブチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、テトラヒドロフラ
ン(THF)、ジオキサン等のエーテル類が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いることも
できるし、また必要に応じて二種またはそれ以上の多種類を適当な割合、例えば1:1〜1:10の割合で混合して用いてもよい。
【0028】
本発明の反応では、O-プロパルギルアルドキシム化合物(1)は触媒の存在下に環化異性
化反応せしめられる。当該触媒としては、所要のβラクタム化合物(2)を与えるものの中
から選択できるが、銅、白金及びインジウムからなる群から選択された金属の塩又は化合物を触媒として使用でき、好適には銅塩あるいは銅化合物から選択して使用できる。当該触媒としては、銅、白金及びインジウムからなる群から選択された金属のハロゲン化物を好適に使用できる。当該触媒としては、PtCl2、InClなどの白金ハロゲン化物あるいはイ
ンジウムハロゲン化物を選択できるが、より好ましくはハロゲン化第一銅から選択され、例えば、塩化第一銅(CuCl)、臭化第一銅(CuBr)などを好適に使用できる。
本反応の反応温度は、適切な温度を選択して行うことが可能であるが、例えば、加熱下に反応を行うことが適切で、通常、室温〜180℃、好ましくは50〜140℃、より好ましくは、80〜110℃である。また、本反応の反応時間は、当該反応が生起して所要の変換が達成
できるように、適宜選択することができ、通常、10分〜150時間、好ましくは1時間〜80時間、より好ましくは、8時間〜70時間の範囲である。
【0029】
以上のようにして、本発明の方法で得られる反応生成物は反応終了後、 通常の単離精
製方法、例えば水又は有機溶媒による抽出、濃縮、中和、蒸留、カラムクロマトグラフィーおよび再結晶などの方法により容易に単離することができる。得られる化合物は、その溶媒和物あるいは塩(酸付加塩を含む)の型であってよく、それらは医薬としてまたは製薬学的にあるいは生理的に許容される酸又は塩基類から誘導されたものであってよい。これら塩としてはそれに限定されるものではないが、次のようなものがあげられる:塩酸、臭素酸、ヨウ素酸、硫酸、硝酸、リン酸、過塩素酸などの無機酸との塩;場合によっては、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、コハク酸、クエン酸、アスコルビン酸、乳酸、p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、フマル酸、酒石酸、マレイン酸などの有機酸との塩;ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属との塩、さらにはアンモニウムなどの無機塩基類との塩、有機塩基類(例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミンなどのジアルキルアミン類、トリアルキルアミン類、ジベンジルアミン、エタノールアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、N−メチルモルホリン、ピペリジンなど)との塩。また、これら化合物は、常法により製薬学的にあるいは生理学的に許容しうる酸または塩基との塩、たとえば塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩など無機酸との塩、化合物によって酢酸塩、シュウ酸塩、コハク酸塩、マレイン酸塩などの有機酸との塩、ナトリウム塩、カリウム塩などアルカリ金属との塩、カルシウム塩などアルカリ土類金属との塩に導くことができる。
【0030】
本発明の方法で得られる化合物(式2で示される化合物、式2′で示される化合物) の
概念の範囲には、それらの幾何異性体、立体異性体、各光学活性体、ラセミ体、互変異性体などが含まれることは理解されねばならない。本発明の方法で得られる化合物は、2つ以上の互変異性体として存在する場合もある。また、本発明の方法で得られる化合物は、1個〜複数個の不斉炭素原子を有する場合もあり、こうした不斉炭素原子に基づく(R)体
、(S)体等のエナンチオマー、ラセミ体、ジアステレオマー等が存在する。本発明は、こ
れらの異性体の分離されたものを、あるいは、混合物を全て包含する。
本発明の方法により、これまでのβ−ラクタム合成法では得ることが出来なかった、4位にアリーリデン基を有するβ-ラクタム化合物を、入手容易なプロパルギルオキシム化
合物から一挙に構築することができる。本発明は、これまでとは、全く異なる環化形式で一群のβ-ラクタム化合物を得ることが出来る。本発明の方法により得られたβ-ラクタム化合物は全くの新規化合物である。本発明により、医薬品前躯体として有用な、β-ラク
タムの新規化合物群を提供することができる。
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限
定したり、あるいは制限することを表すものではない。本発明では、本明細書の思想に基づく様々な実施形態が可能であることは理解されるべきである。
全ての実施例は、他に詳細に記載するもの以外は、標準的な技術を用いて実施したもの、又は実施することのできるものであり、これは当業者にとり周知で慣用的なものである。
【実施例1】
【0031】
〔基質 1a の銅触媒反応〕
【化8】

(A)O-プロパルギルオキシム化合物(1a)を10 mol%のCuBrの存在下、トルエン中100℃
で42時間加熱攪拌した。結果、βラクタム誘導体(2a)とその異性体(2a')の 68:32 混合物が 96% 収率で生成した。構造は各種分光法により決定し、更にX線結晶構造解析により確定した。図1には、本発明の方法で得られた化合物(2a)のORTEP図を示す。
(B)基質(1a)のオキシム部位とプロパルギル位の置換基を交換した基質(1a')を使用し
て上記(A)と同様に反応させた結果はβラクタム誘導体(2a)と(2a')を混合比 33:67 で与えた。
【0032】
【化9】

この結果は、本反応の位置選択性は、置換基の電子性よりも基質の位置情報に主に起因することを示唆している。また、窒素上に脱保護可能なp-メトキシフェニル基を有するβ-ラクタムが良好な収率で得られることは、本反応が窒素無置換βラクタムへの展開が可
能であることを示唆している
【0033】
(C)下記反応式に示すように、炭素13同位体による標識実験により、本反応が5つの共有結合の切断を伴って進行することを明らかにした。
【化10】

【0034】
すなわち、アルキン部位の1位及び2位炭素が 15% および 85% で標識化した基質 1b-c を調製し、標準の反応条件に付した。その結果得られた生成物の炭素13の標識化はカルボニル炭素が 15% 、アゼチジン骨格のβ位炭素が 85% であった。この結果は、本反応ではアルキン三重結合の切断が起こっていることを明快に示している。これらの結果から、本反応は5本の共有結合(C-C, C-O, N-O, C=N, およびC-C三重結合の切断)と6本の共
有結合[3本のC-N,2本のC-C(またはC=C),およびC=O]を経由すると結論づけた。また、アルキン末端の置換基R1は窒素上に特異的に転位する。一方、本反応の位置異性は基質のプロパルギル R2CH 部位とオキシム R3CH 部位が生成物のアリーリデン部位あるいはアジリジン骨格のα位へ再構成される際に生じることを示唆している(上記反応式(1)参照)
。興味深いことに、この分子変換によりオキシム部位の窒素および酸素原子、および基質C1炭素上の共有結合は全て切断・再構築される。
【実施例2】
【0035】
基質(1b)の反応の最適化の結果を表1に示した。この反応では、10 mol % の一価臭化
銅の存在下トルエン中100℃で加熱攪拌により、化合物(2b)が 96 %の収率で得られた (entry 1)。一価塩化銅もこの反応の効率的触媒として作用したが、ヨウ化銅、塩化白金、
塩化インジウムを臭化銅の代わりに使用した場合 2b の収率は低下した (entries 2-5)。また銅の同族元素である金や銀の塩(AuCl, AgOTf)を用いた場合、基質の速やかな分解が
見られた (entries 6-7)。TfOHのようなブレンステッド酸は、本反応に対する触媒活性を全く示さない (entry 8)。溶媒として1,4-dioxaneやTHFは良好な収率で生成物を与えるが、アセトニトリル、ヘキサン、DMFの使用は効果的ではない (entry 9-13)。
【0036】
【表1】

上記表1中、Catalyst: 反応に使用した触媒を示し、Solvent: 反応に使用した溶媒を
示し、Time: 反応時間(hr)を示し、Yield: 化合物(2b)の収率を示し、Recovery: 出発化
合物(1b)の回収率を示し、a: 内部標準として1,3-ベンゾジオキソールを使用した1H NMR
により決定された収率を示す。b: 実際に単離しての収率を示す。
【実施例3】
【0037】
各種のO−プロパルギルアリールアルドキシムを出発物質として、本反応を行って、得られた当該反応の基質適応範囲を表2に示した。
オキシム部位とプロパルギル位に同一の置換基を有する基質からは、位置異性体を形成することなく、4-アリーリデン-2-アゼチジノンが良好な収率で生成する。窒素上に脱保
護可能なp-メトキシフェニル(PMP)基を有するβラクタムが良好な収率で得られることは
、本反応が窒素無置換βラクタムへの展開可能であることを示唆している (entry 4)。アルキン上の置換基がアルキル基の基質においても、Z異性体の生成は見られるものの反応
は速やかに進行し、良好な収率で生成物が得られる (entries 5 and 6)。
【0038】
【表2】

上記表2中、Time: 反応時間(hr)を示し、Yield: 収率を示し、a: 化合物(1)〔0.4 mmol〕を、10 mol % の一価臭化銅(CuBr)の存在下トルエン(0.8 mL)中100℃で加熱攪拌によ
り、反応を行った。b: 実際に単離しての収率を示す。c: E/Z異性体の比率81:19の混合物を得た。d: E/Z異性体の比率93:7の混合物を得た。e: 26 % の化合物(1h)を回収した。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、調製容易かつ安定なO-プロパルギルオキシムを出発原料としてドラ
ステックな骨格転位反応を行って、医薬品の前駆体として有用なβラクタム誘導体を効率よく合成することができる。得られる生成物の備えるβラクタム環はペニシリンを端緒とするβラクタム系抗生物質の重要な部分骨格である。またβラクタム誘導体は、β-ラク
タムシントン法において様々なアミノ酸誘導体の合成中間体として有望である。本発明の方法は、新規βラクタム化合物の高効率的合成法として期待できる。
本発明は、前述の説明及び実施例に特に記載した以外も、実行できることは明らかである。上述の教示に鑑みて、本発明の多くの改変及び変形が可能であり、従ってそれらも本件添付の請求の範囲の範囲内のものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1:
【化1】

で示される化合物に、銅触媒、白金触媒及びインジウム触媒からなる群から選択された触媒を作用せしめることを特徴とする、
式2:
【化2】

で示される化合物、及び/又は、
式2′:
【化3】

で示される化合物
(式中、R1は、水素原子、置換されていてもよい炭化水素基、置換されていてもよい複
素環基、又は、アミノ基の保護基、
2は、水素原子、置換されていてもよい炭化水素基、置換されていてもよい複素環基、
−O−R11、−S−R12、又は、−NR1314
3は、水素原子、置換されていてもよい炭化水素基、置換されていてもよい複素環基、
−O−R15、−S−R16、又は、−NR1718
11及びR15は、それぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよい炭化水素基、置換されていてもよい複素環基、又は、ヒドロキシ基の保護基、
12及びR16は、同一または相異なり、それぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよい炭化水素基、置換されていてもよい複素環基、又は、スルフヒドリル基の保護基、
13、R14、R17及びR18は、同一または相異なり、それぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよい炭化水素基、置換されていてもよい複素環基、又は、アミノ基の保護基、あるいは、R13とR14、そして、R17とR18は、一緒になって隣接する窒素原子と共に環状アミノ基を形成してもよい、
を意味する)
の製造法。
【請求項2】
前記触媒が、銅触媒であることを特徴とする請求項1に記載の製造法。
【請求項3】
前記触媒が、ハロゲン化第一銅であることを特徴とする請求項1又は2に記載の製造法。
【請求項4】
前記触媒が、臭化第一銅及び塩化第一銅からなる群から選択されたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一に記載の製造法。
【請求項5】
前記式中、R1は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよい
シクロアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基、
2は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいシクロアル
キル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基、
3は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいシクロアル
キル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基
を意味することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一に記載の製造法。
【請求項6】
前記置換されていてもよい場合の置換基は、ハロゲン、アルコキシ基及びハロゲンで置換されていてもよいアルキル基からなる群から選択されたものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一に記載の製造法。
【請求項7】
式2:
【化4】

で示される化合物、及び/又は、
式2′:
【化5】

で示される化合物
(式中、R1は、水素原子、置換されていてもよい炭化水素基、置換されていてもよい複
素環基、又は、アミノ基の保護基、
2は、水素原子、置換されていてもよい炭化水素基、置換されていてもよい複素環基、
−O−R11、−S−R12、又は、−NR1314
3は、水素原子、置換されていてもよい炭化水素基、置換されていてもよい複素環基、
−O−R15、−S−R16、又は、−NR1718
11及びR15は、それぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよい炭化水素基、置換されていてもよい複素環基、又は、ヒドロキシ基の保護基、
12及びR16は、同一または相異なり、それぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよい炭化水素基、置換されていてもよい複素環基、又は、スルフヒドリル基の保護基、
13、R14、R17及びR18は、同一または相異なり、それぞれ独立に、水素原子、置換されていてもよい炭化水素基、置換されていてもよい複素環基、又は、アミノ基の保護基、あるいは、R13とR14、そして、R17とR18は、一緒になって隣接する窒素原子と共に環状アミノ基を形成してもよい、
を意味する)またはその塩。
【請求項8】
前記式中、R1は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよい
シクロアルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基、
2は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいシクロアル
キル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基、
3は、水素原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよいシクロアル
キル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよいアラルキル基
を意味することを特徴とする請求項7に記載の化合物またはその塩。
【請求項9】
前記式中、R1は、C1-15アルキル基、C3-10シクロアルキル基、非置換又は置換C6-15アリール基(ここで、置換基は、C1-4アルキル基、ハロゲン置換C1-4アルキル基、ニトロ基、ハロゲン及びC1-4アルコキシ基からなる群から選択されたものである)、又は、非置換又は置換C7-20アラルキル基(ここで、置換基は、C1-4アルキル基、ハロゲン置換C1-4アル
キル基、ニトロ基、ハロゲン及びC1-4アルコキシ基からなる群から選択されたものである)、
2は、非置換又は置換C6-15アリール基(ここで、置換基は、C1-4アルキル基、ハロゲン置換C1-4アルキル基、ニトロ基、ハロゲン及びC1-4アルコキシ基からなる群から選択されたものである)、
3は、非置換又は置換C6-15アリール基(ここで、置換基は、C1-4アルキル基、ハロゲン置換C1-4アルキル基、ニトロ基、ハロゲン及びC1-4アルコキシ基からなる群から選択されたものである)
を意味することを特徴とする請求項7又は8に記載の化合物またはその塩。
【請求項10】
前記式中、R1は、C1-4アルキル基、C3-10シクロアルキル基、非置換又は置換フェニル基(ここで、置換基は、C1-4アルキル基、ハロゲン置換C1-4アルキル基、ニトロ基、ハロゲン及びC1-4アルコキシ基からなる群から選択されたものである)、又は、非置換又は置換ベンジル基(ここで、置換基は、C1-4アルキル基、ハロゲン置換C1-4アルキル基、ニトロ基、ハロゲン及びC1-4アルコキシ基からなる群から選択されたものである)、
2は、非置換又は置換フェニル基(ここで、置換基は、C1-4アルキル基、ハロゲン置換C1-4アルキル基、ニトロ基、ハロゲン、C1-4アルコキシ基からなる群から選択されたもの
である)、
3は、非置換又は置換フェニル基(ここで、置換基は、C1-4アルキル基、ハロゲン置換C1-4アルキル基、ニトロ基、ハロゲン及びC1-4アルコキシ基からなる群から選択されたも
のである)
を意味することを特徴とする請求項7〜9のいずれか一に記載の化合物またはその塩。


【図1】
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【公開番号】特開2011−32234(P2011−32234A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−181400(P2009−181400)
【出願日】平成21年8月4日(2009.8.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成21年2月6日 インターネットアドレス「http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/ja900133m」に発表
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】