説明

新規なオキセタン化合物、活性エネルギー線硬化型組成物、活性エネルギー線硬化型インク組成物、及びインクジェット記録方法

【課題】新規なオキセタン化合物、該オキセタン化合物を含有し、活性エネルギー線の照射に対する感度が高く、硬化性に優れた硬化物を形成しうる活性エネルギー線硬化型組成物、該硬化型組成物を適用してなり、吐出安定性に優れたインクジェット用インク組成物として好適なインク組成物、に該インク組成物を用いたインクジェット記録方法の提供。
【解決手段】下記一般式(1)で表されるオキセタン化合物、これを含有する活性エネルギー線硬化型組成物及びインク組成物、並びにインクジェット記録方法。一般式(1)中、R11〜R15は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。R21〜R24は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基又はハロゲン原子を表す。Rは、オキシラン環、オキセタン環及びビニルエーテルから選択される部分構造を含み総炭素数が3以上10以下のアルキル基、又はビニル基を表す。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なオキセタン化合物、これを含有する活性エネルギー線硬化型組成物及びインク組成物、並びに、インクジェット記録方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
画像データ信号に基づき、紙などの被記録媒体に画像を形成する画像記録方法として、電子写真方式、昇華型及び溶融型熱転写方式、インクジェット方式などがある。電子写真方式は、感光体ドラム上に帯電及び露光により静電潜像を形成するプロセスを必要とし、システムが複雑となり、結果的に製造コストが高価になるなどの問題がある。また、熱転写方式は、装置は安価であるが、インクリボンを用いるため、ランニングコストが高く、かつ廃材が出るなどの問題がある。その一方、インクジェット方式は、安価な装置で、且つ、必要とされる画像部のみにインクを吐出し被記録媒体上に直接画像形成を行うため、インクを効率良く使用でき、ランニングコストが安い。さらに、インクジェット方式は、騒音が少なく、画像記録方式として優れている。
【0003】
プラスチックなどの非吸水性の被記録媒体への印字適性を有するインクジェット用インクとして、紫外線(UV)照射により硬化するUVインクが知られており(例えば、特許文献1、2参照)、溶剤系インクに比べて有機溶剤を揮発させるための時間や設備が不要であるなどの利点がある。このようなインクを用いた場合の硬化には、モノマー成分のラジカル重合を利用した系が汎用されている。
【0004】
また、近年カチオン重合性化合物を用いた紫外線硬化型インクジェット用インクも提案されているが、特に感度が高く、硬化性が良好で、安定に吐出できる低粘度なインクを設計することは容易ではない。このような問題点を解決するべく、特定の構造を有するオキセタン化合物、即ちオキセタン環が有する酸素原子に隣接する炭素原子にp-メトキシフェニル基を有する化合物を含むインクジェット用インクが提案されている(特許文献3参照)。しかし、該化合物は単官能であるために硬化性が充分ではなく、未反応でモノマーとして残存しやすいため安全性にも懸念がある。また、そのような化合物を2官能体とした化合物も報告されているが(特許文献4参照)、分子量が大きいため高粘度となる傾向であり、また、インクジェット用インクに用いた際の吐出安定性にも懸念が生じる。
【0005】
このように、硬化性のインク組成物などに適用される従来のカチオン重合系の硬化型組成物は、硬化感度と硬化膜の膜強度とが未だ充分とは言えず、また、インクジェット用インクとして用いた際の吐出安定性の観点でも改良の余地を残している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−183927号公報
【特許文献2】特開2003−292855号公報
【特許文献3】特開2001−181386号公報
【特許文献4】特開2005−2166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、前記の状況に鑑みなされたものであり、以下の目的を達成することを課題とするものである。
本発明の目的は、重合性モノマーとして有用な、新規なオキセタン化合物を提供することである。
また、本発明の目的は、活性エネルギー線の照射に対する感度が高く、硬化性に優れた硬化物を形成しうる活性エネルギー線硬化型組成物を提供することである。
また、本発明の目的は、活性エネルギー線の照射に対する感度が高く、硬化性に優れた画像を形成でき、且つ吐出安定性に優れたインクジェット用インク組成物として好適に用いうる活性エネルギー線硬化型インク組成物を提供することである
さらに、本発明の他の目的は、上記インク組成物を用いて被記録媒体に画像を形成するインクジェット記録方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段は、以下の通りである。
<1> 下記一般式(1)で表されるオキセタン化合物。
【化1】



[一般式(1)中、R11〜R15は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。R21〜R24は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン原子を表す。Rは、オキシラン環、オキセタン環及びビニルエーテルから選択される部分構造を含み総炭素数が3以上10以下のアルキル基、又はビニル基を表す。R21〜R24、及びRは、隣接する基同士が互いに連結して環構造を形成していてもよい。]
<2> 前記一般式(1)におけるRが、オキシラン環を部分構造として有する炭素数3以上10以下のアルキル基である<1>に記載のオキセタン化合物。
<3> 前記一般式(1)におけるR11、R12及びR15が総て水素原子である<1>又は<2>に記載のオキセタン化合物。
<4> 前記一般式(1)におけるR21〜R24が総て水素原子であるか、R21〜R24のうち3つが水素原子であり1つがアルコキシ基であるか、R21〜R24のうち2つが水素原子であり2つがアルコキシ基である<1>〜<3>のいずれか1項に記載のオキセタン化合物。
【0009】
<5> <1>〜<5>のいずれか1項に記載のオキセタン化合物を、重合性モノマーとして含有する活性エネルギー線硬化型組成物。
<6> 前記一般式(1)で表されるオキセタン化合物を、組成物中に含有される重合性モノマーの全質量に対して、10質量%〜30質量%含有する<5>に記載に記載の活性エネルギー線硬化型組成物。
<7> <5>又は<6>に記載の活性エネルギー線硬化型組成物を含むインク組成物。
<8> インクジェット記録用インクである<7>に記載の活性エネルギー線硬化型組成物。
<9> (a)被記録媒体上に、<8>に記載の活性エネルギー線硬化型インク組成物をインクジェット記録装置により吐出する工程、及び、吐出されたインク組成物に活性放射線を照射して、該インク組成物を硬化する工程、を含むインクジェット記録方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、重合性モノマーとして有用な、新規なオキセタン化合物を提供することができる。
また、本発明によれば、活性エネルギー線の照射に対する感度が高く、硬化性に優れた硬化物を形成しうる活性エネルギー線硬化型組成物を提供することができる
また、本発明によれば、活性エネルギー線の照射に対する感度が高く、硬化性に優れた画像を形成でき、且つ吐出安定性に優れたインクジェット用インク組成物として好適に用いうる活性エネルギー線硬化型インク組成物を提供することができる。
さらに、本発明によれば、上記インク組成物を用いて被記録媒体に画像を形成するインクジェット記録方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[新規なオキセタン化合物]
本発明の新規なオキセタン化合物は、下記一般式(1)で表されるオキセタン化合物(以下、適宜、「本発明のオキセタン化合物」とも称する。)である。
【0012】
【化2】




【0013】
一般式(1)中、R11〜R15は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。R21〜R24は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン原子を表す。Rは、オキシラン環、オキセタン環及びビニルエーテルから選択される部分構造を含み総炭素数が3以上10以下のアルキル基、又はビニル基を表す。R21〜R24、及びRは、隣接する基同士が互いに連結して環構造を形成していてもよい。
【0014】
本発明のオキセタン化合物の合成方法は、適宜選択することができるが、例えば、下記a)〜d)に示す合成スキームにより合成することが可能である。
【0015】
a)Rがオキシラン環を部分構造として含むアルキル基である場合の例
【化3】



【0016】
上記合成スキームにおいて、第1の反応は、フェノールとアルキルハライドとの一般的な反応で合成できる。第2〜4の反応は、Aldol−Canizzaro反応を含むオキセタン環形成の工程であり、Synthesis 1995, 533ページ(以下、「文献A」と称する。)に記載される方法で行うことができる。最終工程は、酸化反応によるエポキシ環の形成であり、過酸化水素水などを用いて行うことができる。
【0017】
b)Rがオキセタン環を部分構造として含むアルキル基である場合の例
【化4】



【0018】
上記スキームにおいて、第1及び第2の反応は、アルコールのメシル化及びフェノールのアルキル化反応として一般的な反応で合成できる。以降は、前記文献Aに記載の反応でオキセタン環を形成することができる。
【0019】
c)Rがビニルエーテルを部分構造として含むアルキル基である場合の例
【化5】



【0020】
上記スキームにおいて、第1の反応は、フェノールのアルキル化反応として一般的な反応で合成できる。以降は、前記文献Aに記載の反応でオキセタン環を形成することができる。
【0021】
d)Rがビニル基である場合の例
【化6】



【0022】
上記スキームにおいて、第1の反応は、フェノールのビニルエーテル化反応であり、例えば、J.Am.Chem.Soc. 2002, 124, 1951 に記載の反応などにより行うことができる。第2の反応以降は、前記文献Aに記載の反応でオキセタン環を形成することができる。
【0023】
本発明のオキセタン化合物の用途としては、例えば、硬化型組成物などに含有される重合性モノマー、機能性有機化合物の合成原料、等が挙げられる。
本発明のオキセタン化合物を適用しうる硬化型組成物としては、インク組成物等を含む活性エネルギー線硬化型組成物が挙げられ、そのような活性エネルギー線硬化型組成物の中でも、活性エネルギー線硬化型のインクジェットインク組成物が特に好ましい。
【0024】
以下、一般式(1)におけるR11〜R15、R21〜R24、及びRの好ましい態様について詳述する。
【0025】
一般式(1)中、R11〜R15は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。
11〜R15で表されるアルキル基は、炭素数1〜6のアルキル基であることが好ましく、メチル基又はエチル基であることがより好ましい。
【0026】
11〜R15で表されるアルキル基は、更に置換基を有していてもよく、該置換基としては、例えば、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、及びハロゲン原子等が挙げられる。R11〜R15で表されるアルキル基としては、置換基を有さないアルキル基であることが好ましい。
【0027】
より詳細には、R11及びR12は、双方が水素原子であるか、少なくとも一方が水素原子である場合が好ましく、双方が水素原子である場合が更に好ましい。R13及びR14は、双方がメチル基であるか、一方がメチル基であり他方が水素原子である場合がより好ましく、双方がメチル基である場合が更に好ましい。R15は、エチル基、メチル基、又は水素原子であることが好ましく、水素原子であることが更に好ましい。R11〜R15としては、その総てが水素原子であることが特に好ましい。
【0028】
一般式(1)中、R21〜R24は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン原子を表し、水素原子又はアルコキシ基であることが好ましい。
【0029】
21〜R24で表されるアルキル基は、炭素数1〜6のアルキル基であることが好ましく、メチル基又はエチル基であることがより好ましい。
【0030】
21〜R24で表されるアルキル基は、更に置換基を有していてもよく、該置換基としては、例えば、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、及び水酸基が挙げられる。R21〜R24で表されるアルキル基としては、置換基を有さないアルキル基であることが好ましい。
【0031】
21〜R24で表されるアルコキシ基は、炭素数1〜6のアルコキシ基であること好ましく、メトキシ基又はエトキシ基であることがより好ましい。
【0032】
21〜R24で表されるアルコキシ基は、さらに置換基を有していてもよく、該置換基としては、R21〜R24で表されるアルキル基が有していてもよい置換基が挙げれられる。R21〜R24で表されるアルコキシ基は、置換基を有さないアルコキシ基であることが好ましい。
【0033】
21〜R24としては、その総て水素原子であるか、これらのうち3つが水素原子であり1つがアルコキシ基であるか、これらのうち2つが水素原子であり2つがアルコキシ基である場合が好ましく、その総てが水素原子である場合、又はこれらのうち3つが水素原子であり1つがアルコキシ基(特に好ましくはメトキシ基)である場合が特に好ましい。
【0034】
一般式(1)中、Rは、オキシラン環(3員の環状エーテル)、オキセタン環(4員の環状エーテル)、及びビニルエーテルから選択される部分構造を含み総炭素数が3以上10以下のアルキル基、又はビニル基を表す。
【0035】
Rで表されるアルキル基は、総炭素数が3以上10以下であることが好ましく、総炭素数が3以上8以下であることがより好ましい。Rで表されるアルキル基は、直鎖状であっても環状構造を含むものであってもよい。
【0036】
Rで表されるアルキル基において、オキシラン環又はオキセタン環を部分構造として含むとは、アルキル基に含まれる1以上の炭素原子が1つの酸素原子と共にオキシラン環又はオキセタン環を形成することを意味する。
【0037】
Rが部分構造としてオキシラン環を含む場合の形態としては、末端アルキルエポキシ型、グリシジルエーテル型、及び脂環式エポキシドなどが挙げられ、脂環式エポキシドであることが特に好ましい。
【0038】
また、Rで表されるアルキル基において、ビニルエーテルを部分構造として含むとは、アルキル鎖の末端にビニルエーテルを有するアルキル基を意味する。
【0039】
Rに含まれるオキシラン環、オキセタン環又はビニルエーテルは、本発明のオキセタン化合物を重合性モノマーとして適用した場合において、カチオン重合性官能基として機能する。
【0040】
Rで表されるアルキル基は、硬化性の観点から、部分構造としてオキシラン環を含むことが好ましい。
【0041】
また、Rは、総炭素数が3〜10となる範囲内であれば置換基を有していてもよい。該置換基としては、本発明のオキセタン化合物を重合性モノマーとして硬化型組成物に適用した場合の硬化性、インクジェット用インク組成物とした場合の吐出安定性の観点からは、アルキル基及びアルコキシ基であることが好ましい。
【0042】
21〜R24及びRは、隣接する基同士が互いに連結して環構造を形成していてもよい。この場合、形成される環構造の員数は5又は6であることが好ましい。また、該環構造を構成する元素は、炭素原子のみであるか、炭素原子及び酸素原子であることが好ましい。
【0043】
RとR22が環構造を形成する場合、RとR22に含まれる炭素数の合計は3以上10以下である。また、RとR24が環構造を形成する場合についても、RとR24に含まれる含まれる炭素数の合計は3以上10以下である。
【0044】
本発明のオキセタン化合物の分子量は、好ましくは175〜600、より好ましくは200〜500である。
【0045】
本発明のオキセタン化合物としては、常温(25℃)で、液体であっても固体であってもよいが、重合性モノマーとして用いる場合であれば、液体であることが好ましい。なお、固体である本発明のオキセタン化合物を、重合性モノマーとして適用する場合であれば、例えば、他の重合性化合物に溶解して使用することができる。
【0046】
以下に、本発明のオキセタン化合物の具体例を挙げるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
【化7】





【0048】
[活性エネルギー線硬化型組成物、活性エネルギー線硬化型インク組成物]
本発明の活性エネルギー硬化型組成物は、本発明のオキセタン化合物を重合性モノマーとして必須に含有するものであり、必要に応じて他の成分を含有してもよい。
【0049】
ここで、本発明で言う「活性エネルギー線」とは、その照射により組成物中において開始種を発生させうるエネルギーを付与することができるものであれば、特に制限はなく、広くα線、γ線、X線、紫外線、可視光線、電子線などを包含するものである。中でも、硬化感度及び装置の入手容易性の観点からは、紫外線及び電子線が好ましく、特に、紫外線が好ましい。
【0050】
本発明の活性エネルギー硬化型組成物は、発明のオキセタン化合物を含むことで、活性エネルギー線の照射に対する感度が高く、硬化性に優れ、強度に優れた硬化物を形成しうる。
本発明の活性エネルギー硬化型組成物は、特に、高湿度下(25℃60〜70%RH)における硬化性に優れている。
その作用機構については明確ではないが、本発明のオキセタン化合物は、特に硬化反応の初期における反応速度の向上に寄与しており、そのため高湿度下にて組成物を硬化させる場合においても重合阻害を受けることなく優れた硬化性を発揮しうるためであると推測している。
【0051】
本発明の活性エネルギー線硬化型インク組成物は、本発明の活性エネルギー線硬化型組成物の好適な態様の一つであり、被記録媒体に該インク組成物を付与後、活性エネルギー線を照射することで、硬化したインク画像を形成することができる。本発明の活性エネルギー線硬化型インク組成物は、インクジェット記録用のインク組成物として好適に用いることができる。
【0052】
以下、本発明の活性エネルギー線硬化型組成物の各構成要素について、その好適な応用態様である活性エネルギー線硬化型インク組成物を例に詳細に説明する。
なお、以下の説明においては、本発明の活性エネルギー線硬化型組成物及び活性エネルギー線硬化型インク組成物を、適宜「硬化型組成物」及び「インク組成物」と称する。
【0053】
(重合性化合物)
本発明の硬化型組成物及びインク組成物は、本発明のオキセタン化合物を重合性モノマーとして必須に含有する。
【0054】
<本発明のオキセタン化合物>
本発明の硬化型組成物又はインク組成物において、重合性モノマーとして含有される本発明のオキセタン化合物は、前記一般式(1)で表されるオキセタン化合物であり、その詳細は既述した通りである。
【0055】
本発明の硬化型組成物及びインク組成物は、本発明のオキセタン化合物を1種のみ用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0056】
本発明のオキセタン化合物の含有量は、硬化型組成物又はインク組成物に含有される重合性化合物の全質量に対して、4質量%〜50質量%が好ましく、10質量%〜30質量%がより好ましい。この範囲内とすることで、硬化性が向上し、インクジェト用インク組成物とした場合であれば、吐出安定性についても良好となる。また、保存安定性にも優れた硬化型組成物及びインク組成物となる。
【0057】
<その他の重合性化合物>
本発明の硬化型組成物又はインク組成物においては、本発明のオキセタン化合物に加え、他のカチオン重合性モノマーを併用することが好ましい。
【0058】
他のカチオン重合性モノマーとしては、後述する、活性エネルギーの照射により酸を発生する化合物から発生する酸により重合反応を開始し、硬化する化合物であれば特に制限はなく、光カチオン重合性化合物として知られる各種公知のカチオン重合性の化合物を用いることができる。
【0059】
他のカチオン重合性モノマーとしては、例えば、特開平6−9714号、特開2001−31892号、同2001−40068号、同2001−55507号、同2001−310938号、同2001−310937号、同2001−220526号などの各公報に記載されているエポキシ化合物、ビニルエーテル化合物、オキセタン化合物などが挙げられる。
【0060】
本発明の硬化型組成物又はインク組成物においては、オキシラン環を有する重合性モノマー、オキセタン環を有する重合性モノマー、及びビニルエーテルを有する重合性モノマーが、該組成物中に以下に詳述する含有比率で含まれることが好ましい。
【0061】
本発明の硬化型組成物又はインク組成物が、ビニルエーテルを有する重合性モノマーを含有する場合、その含有比率(質量比)としては、硬化性と臭気の発生などの周辺環境に対する影響の抑制とを両立する観点から、該組成物に含有される重合性モノマーの全質量に対し、50質量%以下であることが好ましく、20質量以下であることがより好ましい。
【0062】
また、本発明の硬化型組成物又はインク組成物が、オキセタン環を有する重合性モノマー(A)及びオキシラン環を有する重合性モノマー(B)を含有する場合、その含有比率(質量比)としては、硬化性の観点から、A:Bが、20:80〜80:20であることが好ましく、30:70〜70:30であることがより好ましい。
【0063】
ここで、オキシラン環を有する重合性モノマー、オキセタン環を有する重合性モノマー、及びビニルエーテルを有する重合性モノマーには、本発明のオキセタン化合物及び他のカチオン重合性モノマーの双方が包含される。また、その含有比率とは、硬化型組成物又はインク組成物に含有される重合性モノマーの全量に対する質量比として算出した比率である。
【0064】
また、重合性モノマーが、分子内に異なる重合性官能基を有する多官能化合物である場合については、その官能基数に応じて質量を分配して含有比率を計算するものと定義する。例えば、分子内にオキセタン環とオキシラン環を1個ずつ有する化合物100gであれば、オキセタン環を含む化合物50gとオキシラン環を含む化合物50gとして計算する。
【0065】
(重合開始剤)
本発明の硬化型組成物及びインク組成物は、重合開始剤を含有してもよい。
重合開始剤としては、光カチオン重合開始剤、色素類の光消色剤、光変色剤、あるいはマイクロレジスト等に使用されている光(400〜200nmの紫外線、遠紫外線、特に好ましくは、g線、h線、i線、KrFエキシマレーザー光)、ArFエキシマレーザー光、電子線、X線、分子線又はイオンビームなどの照射により酸を発生する化合物を適宜選択して使用することができる。
【0066】
本発明の硬化型組成物及びインク組成物においては、先に述べたように、紫外線照射が好適なことから、紫外線に感応性を有する重合開始剤を選択することが好ましい。
【0067】
このような光カチオン重合開始剤としては、放射線の照射により分解して酸を発生する、ジアゾニウム塩、ホスホニウム塩、スルホニウム塩、ヨードニウム塩などのオニウム塩化合物、イミドスルホネート、オキシムスルホネート、ジアゾジスルホン、ジスルホン、o−ニトロベンジルスルホネート等のスルホネート化合物などを挙げることができる。
【0068】
本発明に用いることのできる光カチオン重合開始剤の種類、具体的化合物、及び好ましい例としては、特開2008−13646号公報の段落番号〔0066〕〜〔0122〕に記載の化合物などを挙げることができる。
【0069】
重合開始剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
硬化型組成物中の重合開始剤の含有量は、インク組成物に適用する場合も含めて、固形分換算で、0.1質量%〜20質量%が好ましく、より好ましくは0.5質量%〜10質量%、更に好ましくは1質量%〜7質量%である。
【0070】
(増感剤)
本発明の硬化型組成物及びこれを適用したインク組成物には、さらに、重合硬化を促進させる増感剤を添加してもよい。
増感剤としては、アントラセン化合物を用いることが好ましい。該アントラセン化合物は置換基を有していてもよい。
【0071】
アントラセン化合物が置換基を有する場合、該置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、などが挙げられ、中でも特に、炭素数1〜4のアルコキシ基が好ましい。また、アントラセンの置換基の個数は、1〜4個であることが好ましく、1〜2個であることがより好ましい。特に、1置換の場合の置換基の位置としては9位であることが好ましく、2置換の場合の置換基の位置としては9,10位であることが好ましい。増感剤としては、この中でも特に、2置換の場合の9,10位である、9,10−置換アントラセン化合物であることが好ましい。
【0072】
以上のアントラセン化合物の含有量は、重合開始剤の全質量に対して35質量%〜200質量%であることが好ましく、50質量%〜170質量%であることがより好ましく、70質量%〜150質量%であることがさらに好ましい。また、既述の重合開始剤の好ましい含有量と、上記アントラセン化合物の好ましい含有量は同時にその範囲内とすることが好ましい。
【0073】
本発明おいては、アントラセン化合物以外の他の増感剤を添加してもよい。他の増感剤は、アントラセン化合物と併用することも単独で用いることも可能である。アントラセン化合物以外の増感剤としては、以下に列挙する化合物類に属しており、且つ350nm〜450nmの波長領域に吸収波長を有するものが挙げられる。
【0074】
他の増感剤としては、例えば、多核芳香族類(例えば、ピレン、ペリレン、トリフェニレン、2−エチル−9,10−ジメトキシアントラセン、等)、キサンテン類(例えば、フルオレッセイン、エオシン、エリスロシン、ローダミンB、ローズベンガル、等)、シアニン類(例えば、チアカルボシアニン、オキサカルボシアニン、等)、メロシアニン類(例えば、メロシアニン、カルボメロシアニン、等)、チアジン類(例えば、チオニン、メチレンブルー、トルイジンブルー、等)、アクリジン類(例えば、アクリジンオレンジ、クロロフラビン、アクリフラビン、等)、アントラキノン類(例えば、アントラキノン、等)、スクアリウム類(例えば、スクアリウム、等)、クマリン類(例えば、7−ジエチルアミノ−4−メチルクマリン、等)、等が挙げられる。
【0075】
本発明の硬化型組成物及びインク組成物における増感剤の含有量は、硬化型組成物の着色を抑制するの観点から、硬化型組成物の全質量に対し、0.01質量%〜20質量%が好ましく、0.1質量%〜15質量%がより好ましく、0.5質量%〜10質量%が更に好ましい。
【0076】
硬化型組成物の着色は、これをインク組成物に用いた場合には、重要な問題となるために、この硬化型組成物をインク組成物に使用する場合も、増感剤は上記範囲とすることが好ましい。

【0077】
(着色剤)
本発明の硬化性組成物及びインク組成物には、目的に応じて着色剤を含有することができる。
また、本発明のインク組成物においては、着色剤を添加することで、可視画像を形成しうるインク組成物とすることができる。
【0078】
本発明に用いることのできる着色剤は、特に制限はなく、用途に応じて公知の種々の色材、(顔料、染料)を適宜選択して用いることができる。例えば、耐候性に優れた画像を形成する場合には、顔料が好ましい。また、染料としては、水溶性染料及び油溶性染料のいずれも使用できるが、油溶性染料が好ましい。
【0079】
<顔料>
まず、本発明の硬化型組成物及びインク組成物における着色剤として好ましく使用される顔料について述べる。着色剤として顔料を用いた場合、インク組成物を使用して形成された着色画像は耐光性に優れたものとなる。
【0080】
顔料としては、特に限定されるものではなく、一般に市販されているすべての有機顔料及び無機顔料、又は顔料を、分散媒として不溶性の樹脂等に分散させたもの、或いは顔料表面に樹脂をグラフト化したもの等を用いることができる。また、樹脂粒子を染料で染色したもの等も用いることができる。
これらの顔料としては、例えば、伊藤征司郎編「顔料の辞典」(2000年刊)、W.Herbst,K.Hunger「Industrial Organic Pigments」、特開2002−12607号公報、特開2002−188025号公報、特開2003−26978号公報、特開2003−342503号公報に記載の顔料が挙げられる。
本発明において使用できる有機顔料及び無機顔料の具体例としては、特開2008−13646号公報の段落番号〔0126〕〜〔0131〕に記載の化合物などを挙げることができ、これらを本発明にも適用することができる。
【0081】
顔料の分散には、例えばボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、ジェットミル、ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ニーダー、アジテータ、ヘンシェルミキサ、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル等の分散装置を用いることができる。
【0082】
顔料の分散を行う際に分散剤を添加することも可能である。分散剤としては水酸基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、高分子量不飽和酸エステル、高分子共重合物、変性ポリアクリレート、脂肪族多価カルボン酸、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル燐酸エステル、顔料誘導体等を挙げることができる。また、ルーブリゾール社のSolsperseシリーズなどの市販の高分子分散剤を用いることも好ましい。
【0083】
また、分散助剤として、各種顔料に応じたシナジストを用いることも可能である。これらの分散剤及び分散助剤は、顔料100質量部に対し、1質量部〜50質量部添加することが好ましい。
【0084】
硬化型組成物又はインク組成物において、顔料などの諸成分の分散媒としては、溶剤を添加してもよく、また、無溶媒で、低分子量成分である前記重合性化合物を分散媒として用いてもよいが、本発明のインク組成物は、放射線硬化型のインクであり、インクを被記録媒体上に適用後、硬化させるため、無溶剤であることが好ましい。これは、硬化されたインク画像中に、溶剤が残留すると、耐溶剤性が劣化したり、残留する溶剤のVOC(Volatile Organic Compound)の問題が生じたりするためである。このような観点から、分散媒としては、重合性化合物を用い、中でも、最も粘度が低いカチオン重合性モノマーを選択することが分散適性やインク組成物のハンドリング性向上の観点から好ましい。
【0085】
硬化型組成物又はインク組成物中の顔料粒子の体積平均粒径は、0.02μm〜0.60μmであることが好ましく、より好ましくは0.02μm〜0.10μmである。また、最大粒径は3μm以下が好ましく、さらに好ましくは1μm以下であり、そのような範囲となるよう、顔料、分散剤、分散媒体の選定、分散条件、ろ過条件を設定する。この粒径管理によって、ヘッドノズルの詰まりを抑制し、インクの保存安定性、インク透明性及び硬化感度を維持することができる。
【0086】
<染料>
染料としては、従来公知の化合物(染料)から適宜選択して使用することができる。具体的には、特開2002−114930号公報の段落番号〔0023〕〜〔0089〕、特開2008−13646号公報の段落番号〔0136〕〜〔0140〕に記載の化合物などを挙げることができ、これらを本発明にも適用することができる。
【0087】
着色剤は硬化型組成物又はインク組成物中、インク組成物の全質量に対して0.05質量%〜20質量%添加されることが好ましく、0.2質量%〜10質量%がより好ましい。着色剤として油溶性染料を用いた場合には、インク組成物の全質量(溶媒を含む)に対して、0.2質量%〜6質量%が特に好ましい。
【0088】
(紫外線吸収剤)
本発明の硬化型組成物及びインク組成物には、得られる硬化物、或いは、画像の耐候性向上、退色防止の観点から、紫外線吸収剤を添加することができる。
紫外線吸収剤としては、例えば、特開昭58−185677号公報、同61−190537号公報、特開平2−782号公報、同5−197075号公報、同9−34057号公報等に記載されたベンゾトリアゾール系化合物、特開昭46−2784号公報、特開平5−194483号公報、米国特許第3214463号等に記載されたベンゾフェノン系化合物、特公昭48−30492号公報、同56−21141号公報、特開平10−88106号公報等に記載された桂皮酸系化合物、特開平4−298503号公報、同8−53427号公報、同8−239368号公報、同10−182621号公報、特表平8−501291号公報等に記載されたトリアジン系化合物、リサーチディスクロージャーNo.24239号に記載された化合物やスチルベン系、ベンズオキサゾール系化合物に代表される紫外線を吸収して蛍光を発する化合物、いわゆる蛍光増白剤などが挙げられる。
添加量は目的に応じて適宜選択されるが、一般的には、硬化型組成物又はインク組成物の総量(全質量)に対して、0.01質量%〜10質量%程度である。
【0089】
(酸化防止剤)
本発明の硬化型組成物及びインク組成物には、安定性向上のため、酸化防止剤を添加することができる。酸化防止剤としては、ヨーロッパ公開特許、同第223739号公報、同309401号公報、同第309402号公報、同第310551号公報、同第310552号公報、同第459416号公報、ドイツ公開特許第3435443号公報、特開昭54−48535号公報、同62−262047号公報、同63−113536号公報、同63−163351号公報、特開平2−262654号公報、特開平2−71262号公報、特開平3−121449号公報、特開平5−61166号公報、特開平5−119449号公報、米国特許第4814262号明細書、米国特許第4980275号明細書等に記載のものを挙げることができる。
添加量は目的に応じて適宜選択されるが、一般的には、硬化型組成物又はインク組成物の総量(全質量)に対して、0.01質量%〜10質量%程度である。
【0090】
(褪色防止剤)
本発明の硬化型組成物をインク組成物に用いる場合には、各種の有機系及び金属錯体系の褪色防止剤を使用することができる。前記有機系の褪色防止剤としては、ハイドロキノン類、アルコキシフェノール類、ジアルコキシフェノール類、フェノール類、アニリン類、アミン類、インダン類、クロマン類、アルコキシアニリン類、ヘテロ環類、などが挙げられる。前記金属錯体系の褪色防止剤としては、ニッケル錯体、亜鉛錯体、などが挙げられ、具体的には、リサーチディスクロージャーNo.17643の第VIIのI〜J項、同No.15162、同No.18716の650頁左欄、同No.36544の527頁、同No.307105の872頁、同No.15162に引用された特許に記載された化合物や、特開昭62−215272号公報の127頁〜137頁に記載された代表的化合物の一般式及び化合物例に含まれる化合物を使用することができる。
添加量は目的に応じて適宜選択されるが、一般的には、インク組成物の総量(全質量)に対して、0.01〜10質量%程度である。
【0091】
(導電性塩類)
本発明の硬化型組成物をインク組成物に用いる場合、特にインクジェット記録用インク組成物に用いる場合は、射出物性の制御を目的として、チオシアン酸カリウム、硝酸リチウム、チオシアン酸アンモニウム、ジメチルアミン塩酸塩などの導電性塩類を添加することができる。
【0092】
(溶剤)
本発明の硬化型組成物及びインク組成物には、被記録媒体等の固体表面と、硬化物や形成された画像との密着性を改良するため、極微量の有機溶剤を添加することも有効である。
溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン系溶剤、メタノール、エタノール、2−プロパノール、1−プロパノール、1−ブタノール、tert−ブタノール等のアルコール系溶剤、クロロホルム、塩化メチレン等の塩素系溶剤、ベンゼン、トルエン等の芳香族系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピルなどのエステル系溶剤、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル等のグリコールエーテル系溶剤、などが挙げられる。
この場合、耐溶剤性悪化が起こらない範囲での添加が有効であり、その量は硬化型組成物又はインク組成物全体に対し、0.1質量%〜5質量%が好ましく、より好ましくは0.1質量%〜3質量%の範囲である。
【0093】
(高分子化合物)
本発明の硬化型組成物及びインク組成物には、膜物性を調整するため、各種高分子化合物を添加することができる。高分子化合物としては、アクリル系重合体、ポリビニルブチラール樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、シェラック、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、ゴム系樹脂、ワックス類、その他の天然樹脂等が使用できる。また、これらは2種以上併用してもかまわない。これらのうち、アクリル系のモノマーの共重合によって得られるビニル系共重合が好ましい。更に、高分子結合材の共重合組成として、「カルボキシル基含有モノマー」、「メタクリル酸アルキルエステル」、又は「アクリル酸アルキルエステル」を構造単位として含む共重合体も好ましく用いられる。
【0094】
(界面活性剤)
本発明の硬化型組成物及びインク組成物には、公知の界面活性剤を含有させることが好ましい。公知の界面活性剤としては、例えば、特開昭62−173463号、同62−183457号の各公報に記載されたものが挙げられる。具体的には、例えば、ジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類、脂肪酸塩類等のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、アセチレングリコール類、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類等のノニオン性界面活性剤、アルキルアミン塩類、第4級アンモニウム塩類等のカチオン性界面活性剤が挙げられる。なお、前記公知の界面活性剤の代わりに有機フルオロ化合物を用いてもよい。前記有機フルオロ化合物は、疎水性であることが好ましい。前記有機フルオロ化合物としては、例えば、フッ素系界面活性剤、オイル状フッ素系化合物(例、フッ素油)及び固体状フッ素化合物樹脂(例、四フッ化エチレン樹脂)が含まれ、特公昭57−9053号(第8〜17欄)、特開昭62−135826号の各公報に記載されたものが挙げられる。
【0095】
(保存安定剤)
本発明の硬化型組成物及びインク組成物には保存安定性を向上することを目的に塩基性化合物を添加してもよい。具体的には、特開2003−341217号、特開2004−238456号、2008−189776号の各公報に記載されたものが挙げられる。
【0096】
(他の添加剤)
この他にも、本発明のインク組成物には、必要に応じて、例えば、レベリング添加剤、マット剤、膜物性を調整するためのワックス類、ポリオレフィンやPET等の被記録媒体への密着性を改善するために、重合を阻害しないタッキファイヤーなどを含有させることができる。
前記タッキファイヤーとしては、具体的には、特開2001−49200号公報の5〜6pに記載されている高分子量の粘着性ポリマー(例えば、(メタ)アクリル酸と炭素数1〜20のアルキル基を有するアルコールとのエステル、(メタ)アクリル酸と炭素数3〜14の脂環属アルコールとのエステル、(メタ)アクリル酸と炭素数6〜14の芳香属アルコールとのエステルからなる共重合物)や、重合性不飽和結合を有する低分子量粘着付与性樹脂などが挙げられる。
【0097】
〜インク組成物の好ましい物性〜
本発明の硬化型組成物は、高感度で硬化し、硬化物の強度に優れることから、インク組成物に適用することが好ましいのは前述の通りであり、特に、インクジェット記録方法に適用するインクジェト用インク組成物に適用することが好ましい。以下、本発明の硬化型組成物をインクジェット用インク組成物に適用した際の好ましい物性について詳述する。
【0098】
本発明のインク組成物は、インクジェット記録に適用する場合、吐出性を考慮し、吐出時の温度におけるインク粘度が、5mPa・s〜30mPa・sであることが好ましく、7mPa・s〜20mPa・sが更に好ましい。このため、上記範囲になるように適宜組成比を調整し決定することが好ましい。
また、室温(25〜30℃)でのインク組成物の粘度は、7mPa・s〜120mPa・sが好ましく、10mPa・s〜80mPa・sが更に好ましい。室温での粘度を高く設定することにより、多孔質な被記録媒体を用いた場合でも、被記録媒体中へのインク浸透を防ぎ、未硬化モノマーの低減、臭気低減が可能となり、更にインク液滴着弾時のドット滲みを抑えることができ、その結果として画質を改善することができる。
【0099】
本発明のインク組成物の表面張力は、20mN/m〜40mN/mであることが好ましく、20mN/m〜30mN/mであることが更に好ましい。また、本発明のインク組成物を、ポリオレフィン、PET、コート紙、非コート紙など様々な被記録媒体へ記録する場合、滲み及び浸透の観点から、表面張力は20mN/m以上が好ましく、濡れ性の点では30mN/m以下であることが好ましい。
【0100】
〜インクジェット記録方式〜
本発明のインク組成物は、インクジェット記録用のインクとして好適に用いることができる。インクジェット記録方式には特に制限はなく、例えば、静電誘引力を利用してインクを吐出する電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えインクに照射して放射圧を利用してインクを吐出する音響型インクジェット方式、インクを加熱して気泡を形成し、発生した圧力を利用するサーマル型インクジェット方式、等のいずれであってもよい。なお、前記インクジェット記録方式には、フォトインクと称する濃度の低いインクを小さい体積で多数射出する方式、実質的に同じ色相で濃度の異なる複数のインクを用いて画質を改良する方式や無色透明のインクを用いる方式が含まれる。
本発明のインク組成物は、前記のうち、ピエゾ素子を用いたドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)のインクジェット記録用インクとして好適である。
【0101】
[インクジェット記録方法]
本発明のインク組成物は、(a)被記録媒体上に、該インク組成物をインクジェット記録装置により吐出する工程(画像記録工程)、及び(b)吐出されたインク組成物に活性エネルギー線を照射して、該インク組成物を硬化する工程(画像硬化工程)、を含むインクジェット記録方法に用いることができる。
即ち、本発明のインクジェット記録方法は、インクジェット記録によって画像を形成する画像記録工程と画像硬化工程とを含む方法である。
【0102】
本発明のインクジェット記録方法の具体的な実施態様について、当該方法に好適に採用され得るインクジェット記録装置の詳細を含めて、以下に説明する。
【0103】
・システム
インクを吐出するインクジェット記録システムとしては、特開2002−11860号公報に示すような形態が一例としてあげられるが、これに限定されるものではなく、他の形態であってもよい。
【0104】
・インク保持手段
インクを保持する手段としては、公知のインクカートリッジに充填することが好ましく、特開平5−16377号公報に開示されるように変形可能な容器に収納し、タンクとなすことも可能である。また特開平5−16382号公報に開示されるように、サブタンクを有するとインクをヘッドへの供給が更に安定する。また特開平8−174860号公報に開示されるように、インク供給室の圧力が低下した場合に、弁の移動によりインクを供給する形態のカートリッジを用いることも可能である。これらのインク保持手段でヘッド内のメニスカスを適切に保つための負圧付与方法としては、インク保持手段の高さすなわち水頭圧による方法、またインク流路中に設けたフィルタの毛細管力による方法、また、ポンプ等により圧力を制御する方法、また、特開昭50−74341号公報に開示されるようにインクをインク吸収体に保持し、この毛細管力により負圧を付与する方法等が適切である。
【0105】
・インク供給路
インクをこれらインク保持手段からヘッドに供給する方法として、ヘッドユニットに直接保持手段を連結する方法でもよいし、チューブ等の流路により連結する方法でもよい。これらインク保持手段及び流路は、インクに対して良好な濡れ性を持つような素材であること、もしくは表面処理が施されていることが好ましい。
【0106】
・ヘッド
インクを打滴する方法としては、特開平5−104725号公報に開示されるように、連続的にインク滴を吐出させ、画像に応じて滴を偏向して被記録材に着弾させるか、させないかを選択制御する方法であってもよいし、所謂オンデマンド方式を呼ばれる、画像として必要な部分にのみインク滴を吐出させる方式であってもよい。オンデマンド方式は、特開平5−16349に開示されるように、圧電素子等を用いて構造体の変形によりインク圧を発生させ、吐出させる方式であってもよいし、特開平1−234255に開示されるように、熱エネルギーによる気化にともなう膨張により発生する圧力で吐出する方式であってもよい。また特開2001−277466号公報に開示されるように、電界により被記録材への吐出を制御する方式であってもよい。
【0107】
インクジェット記録方法においては、本発明のインク組成物を用いて被記録媒体に画像記録を行なうが、その際に使用するインク吐出ノズル等については特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。ノズルはたとえば特開平5−31908号公報に記載されるような形態が適用可能である。なお、このとき複数色のインクを吐出させるため、ノズルは特開2002−316420号公報に記載されるように、複数列に構成されることにより、高速にカラー画像を形成することが可能となり、さらに複数のノズル列を有するヘッドユニットを複数配置することにより更に高速化が可能である。
【0108】
さらに、ノズルを特開昭63−160849号公報に記載されるように画像の幅と同等以上の幅分配置し、所謂ラインヘッドとなし、これらのノズルからの打滴と同時に被記録材を移動させることにより、高速に画像を形成することが可能となる。
また、ノズルの表面は、特開平5−116327号公報に開示されるような表面処理を施すことにより、ノズル表面へのインク滴の飛沫の付着、及びインク滴の付着を防ぐことが可能となる。
【0109】
このような処理を施しても、なお汚れが付着する場合があり、このため、特開平6−71904号公報に開示されるように、ブレードにより清掃を行うことが好ましい。
また、ノズルから各色のインクが均等に吐出されるとは限らず、特定のインクは長時間吐出されない場合もありうる。このようなときに、メニスカスを安定に保つために、特開平11−157102号公報に開示されるように、画像領域外で適宜インクを吐出させ、ヘッドに新しいインクを補給することにより、インク物性を適性値に維持することが好ましい。
【0110】
また、このような処置を施してもなお気泡がヘッド内に侵入もしくはヘッド内で発生することがある。このような場合は、特開平11−334092号公報に記載されるように、ヘッド外より強制的にインクを吸引することにより、物性の変化したインクを廃棄するとともに、気泡もヘッド外に排出することができる。更に長時間打滴しない場合は特開平11−138830号公報に開示されるように、キャップでノズル表面を覆うことによりノズル表面を保護することができる。これらの措置を講じてもなお吐出しない場合がありうる。
ノズルの一部が吐出しない状態で画像をプリントすると、画像にムラが発生する等の問題が発生する。このようなことを避けるため、特開平2000−343686号公報に開示されるように、吐出しないことを検出して処置をとることが有効である。
【0111】
ヘッドユニットを特開平6−115099号公報に記載されるように機械的に移動させ、これと同期させて被記録材を直交方向に間欠的に移動させることにより重畳打滴を行うと、被記録材の間欠的な移動の精度不良にともなうムラを見えにくくする効果があり、高画質を実現することが可能となる。このとき、ヘッドの移動速度、被記録材の移動量、ノズル数の関係を適宜設定することにより、画質と記録速度の関係を好ましい関係に設定することが可能となる。
【0112】
また、逆にヘッドを固定し、被記録材を機械的に所定方向に往復移動するとともに、それと直交方向に間欠移動させることにより、同様の効果を得ることが可能である。
【0113】
・温度制御
インクジェット記録装置には、インク組成物温度の安定化手段を備えることが好ましく、一定温度にする部位はインクタンク(中間タンクがある場合は中間タンク)からノズル射出面までの配管系、部材の全てが対象となる。
【0114】
インクジェット記録方法においては、上記インク組成物を40〜80℃に加熱して、インク組成物の粘度を30mPa・s以下、好ましくは20mPa・s以下に下げた後、射出することが好ましく、この方法を用いることにより高い射出安定性を実現することができる。一般に、放射線硬化型インク組成物では、概して水性インクより粘度が高いため、印字時の温度変動による粘度変動幅が大きい。このインク組成物の粘度変動は、そのまま液滴サイズ、液滴射出速度に対して大きな影響を与え、これにより画質劣化を引き起こすため、印字時のインク組成物温度はできるだけ一定に保つことが必要である。このためにはインク温度検出手段と、インク加熱手段、及び検出されたインク温度に応じて加熱を制御する制御手段を有することが好ましい。
【0115】
温度コントロールの方法としては、特に制約はないが、例えば、温度センサーを各配管部位に複数設け、インク組成物流量、環境温度に応じた加熱制御をすることが好ましい。また、加熱するヘッドユニットは、装置本体を外気からの温度の影響を受けないよう、熱的に遮断もしくは断熱されていることが好ましい。加熱に要するプリンタ立上げ時間を短縮するため、あるいは熱エネルギーのロスを低減するために、他部位との断熱を行うとともに、加熱ユニット全体の熱容量を小さくすることが好ましい。
あるいは、インク温度に応じてインクを吐出させる手段への印加エネルギーを制御する手段を有することも好適である。
【0116】
インク組成物温度の制御幅は設定温度±5℃とすることが好ましく、より好ましくは設定温度±2℃、更に好ましくは設定温度±1℃である。
【0117】
・露光
光源としては、一般的に用いられる水銀灯、メタルハライドランプ等を用いてもよいし、発光ダイオード、半導体レーザ、蛍光灯等を用いることができる。また熱陰極管、冷陰極管、電子線、X線等、インクの重合反応が進行する光源、電磁波等を用いることができ、これらが活性エネルギー線源となる。
【0118】
メタルハライドランプを用いる場合、ランプは10〜1000W/cmのものを使用し、被記録材面で1mW/cm〜100W/cmの照度であることが好ましい。
また、高圧水銀灯、メタルハライドランプ等では放電にともない、オゾンが発生するため、排気手段を有することが好ましい。排気手段は、インク吐出時に発生するインクミストの回収を兼ねるべく配置してあることが好適である。
【0119】
次に活性エネルギー線の好ましい照射条件について述べる。基本的な照射方法は、特開昭60−132767号公報に開示されている。具体的には、ヘッドユニットの両側に光源を設け、シャトル方式でヘッドと光源を走査する。照射は、インク着弾後、一定時間をおいて行われることになる。更に、駆動を伴わない別光源によって硬化を完了させる。国際公開99/54415号パンフレットでは、照射方法として、光ファイバーを用いた方法やコリメートされた光源をヘッドユニット側面に設けた鏡面に当て、記録部へUV光を照射する方法が開示されている。本発明においては、これらの照射方法を用いることが可能である。
【0120】
硬化させるための活性エネルギー線がインク吐出ノズルに照射されると、ノズル面表面に付着したインクミスト等が固化し、インク吐出の妨げとなる可能性があるため、ノズルへの照射を最小限にとどめるため、遮光等の措置を施すことが好ましい。具体的には、ノズルプレートへの照射を防止する隔壁を設ける、あるいは迷光を低減するべく被記録材への入射角を限定するための手段を設ける等が好適である。
【0121】
また本発明では、着弾から照射までの時間を0.01秒〜0.5秒とすることが望ましく、好ましくは0.01秒〜0.3秒、更に好ましくは0.01秒〜0.15秒後に放射線を照射することにある。このように着弾から照射までの時間を極短時間に制御することにより、着弾インクが硬化前に滲むことを防止するこが可能となる。また、多孔質な被記録媒体に対しても光源の届かない深部までインク組成物が浸透する前に露光することができる為、未反応モノマーの残留を抑えられ、その結果として臭気を低減することができる。上記説明したインクジェット記録方法と本発明のインク組成物とを併せて用いることにより、大きな相乗効果をもたらすことになる。このような記録方法を取ることで、表面の濡れ性が異なる様々な被記録媒体に対しても、着弾したインクのドット径を一定に保つことが出来、画質が向上する。
【0122】
・システムパラメータ
画像を形成するうえで、被記録材上でのインク着弾径は10μm〜500μmの間にあることが好適であり、このためには吐出時のインク滴の直径は5μm〜250μmであることが好ましく、このときのノズル径は15μm〜100μmであることが好ましい。
画像を形成するためには1インチあたりの画素数が50〜2400dpiであることが好ましく、そのためには、ヘッドのノズル密度は10〜2400dpiであることが好ましい。ここで、ヘッドのノズル密度は低くとも、被記録材の搬送方向に対して傾ける、あるいは複数のヘッドユニットを相対的にずらして配置することにより、ノズル間隔の大きいヘッドで高密度の着弾を実現することが可能である。また上記のようにヘッドもしくは被記録材の往復移動により、低ノズルピッチでヘッドが移動するごとに被記録材を所定量搬送させ、インク滴を異なる位置に着弾させることにより、高密度の画像記録を実現することができる。
【0123】
被記録材へのインク打滴量としては、良好な階調を表現するためには0.05g/m〜25g/mの間で任意量に制御できることが好適であり、これを実現するためにヘッドからの吐出インク滴の大きさ、及び又は数量を制御することが好ましい。
【0124】
ヘッドと被記録材の間隔に関しては、広すぎるとヘッドもしくは被記録材の移動に伴う空気の流れでインク滴の飛翔が乱れ、着弾位置精度が低下する。逆に間隔が狭いと、被記録材の凹凸、搬送機構に起因する振動等によりヘッドと被記録材が接触する危険性があり、0.5〜2mm程度に維持されることが好ましい。
【0125】
・インクセット
インクは単色であってもよいし、シアン、マゼンタ、イエローのカラーであってもよいし、さらにブラックを加えた4色、あるいはさらに特色と呼ばれるこれら以外の特定色のインクを用いてもよい。色材は、染料であってもよいし、顔料であってもよい。これらのインクの打滴順は、明度の低い順に着弾するように打滴させてもよいし、明度の高い順に着弾させてもよいし、画像記録品質上好適な順に打滴させることが好ましい。
【0126】
明度の高い色から順に重ねていくと、下部のインクまで活性エネルギー線が到達しやすく、硬化感度の阻害、残留モノマーの増加及び臭気の発生、密着性の劣化が生じにくい。また、照射は、全色を射出してまとめて露光することが可能だが、1色毎に露光するほうが、硬化促進の観点で好ましい。
記録するべき画像信号は、たとえば特開平6−210905号公報に記載されるように、良好な色再現を得るべく信号処理を施すことが好ましい。
【0127】
また、本発明のインク組成物は、インクジェット記録用途以外に、三次元造形用途などにも利用可能であり、缶印刷用途や食品用途にも利用できる。これらの用途については公知の方法を利用して画像形成することができ、例えば特許第2679586号公報などの記載を参照することができる。
【0128】
−被記録媒体−
本発明のインク組成物を用いて記録される被記録媒体としてはインク浸透性の被記録媒体、及び、インク非浸透性の被記録媒体をともに使用することができる。インク浸透性の被記録媒体は、普通紙、インクジェット専用紙、コート紙、電子写真共用紙、布、不織布、多孔質膜、高分子吸収体等が挙げられる。これらについては特開2001−1891549号公報などに「被記録材」として記載されている。
【0129】
前記インク非浸透性の被記録媒体としては、アート紙、合成樹脂、ゴム、樹脂コート紙、ガラス、金属、陶器、木材等が挙げられる。加えて各機能を付加する為に、これら材質を複数組み合わせ複合化した基材を使用することもできる。
【0130】
インク非浸透性の被記録媒として用いられる合成樹脂としては、いかなる合成樹脂も用いることができるが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、及び、ポリブタジエンテレフタレート等のポリエステル;ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリウレタン、及び、ポリプロピレン等のポリオレフィン;並びに、アクリル樹脂、ポリカーボネート、及び、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体等や、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、ポリイミド、セロハン、及び、セルロイド等が挙げられる。
【0131】
合成樹脂を用いた基材の形状(厚み)は、フィルム状でもよいし、カード状又はブロック状でもよく、特に限定されることなく所望の目的に応じて適宜選定することができる。また、これら合成樹脂は透明であってもよいし、不透明であってもよい。前記合成樹脂の使用形態としては、いわゆる軟包装に用いられるフィルム状で用いることが好ましい態様の一つであり、各種非吸収性のプラスチック及びそのフィルムを用いることができる。各種プラスチック製のフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、二軸延伸ポリスチレン(OPS)フィルム、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)フィルム、二軸延伸ナイロン(ONy)フィルム、ポリ塩化ビニル(PVC)フィルム、ポリエチレン(PE)フィルム、及び、トリアセチルセルロース(TAC)フィルムを挙げることができる。
【0132】
インク非浸透性の被記録媒として用いられる樹脂コート紙としては、例えば、透明ポリエステルフィルム、不透明ポリエステルフィルム、不透明ポリオレフィン樹脂フィルム、及び、紙の両面をポリオレフィン樹脂でラミネートした紙支持体が挙げられ、紙の両面をポリオレフィン樹脂でラミネートした紙支持体が特に好ましい。
【実施例】
【0133】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、本実施例ではインク組成物の一例としてインクジェット記録用のインクを作製した例を示す。なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0134】
(合成例1)
本発明のオキセタン化合物であるオキセタン化合物(1−1)を、下記に示す合成スキームにより合成した。
【化8】



<中間体(1−1c)の合成>
p−ヒドロキシベンズアルデヒド(東京化成工業(株)社製)61g(0.5mol)のN、N−ジメチルアセトアミド2.0L溶液に、攪拌しながら化合物(1−1b)(Tetrahydron 1989,45,363に記載の方法で合成した。)87.5g(0.5mol)と炭酸カリウム(和光純薬工業(株)社製)276g(2.0mol)を加え、100℃で6時間加熱した。酢酸エチルと水を加えて分液し、有機層を水、0.5N硫酸、1wt%水酸化ナトリウム水溶液で洗浄し、飽和食塩水で2回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後した。溶媒を減圧留去して得られた101gの中間体(1−1c)を、そのまま次反応に用いた。
【0135】
<中間体(1−1d)の合成>
粗生成物の中間体(1−1c)101gとイソブチルアルデヒド(和光純薬工業(株)社製)170g(1.0mol)をメタノール1.2Lに溶解し、2N水酸化カリウム水溶液500mLを内温を40℃以下に保ちながら滴下した。反応液を3時間加熱還流した後、溶媒を0.6L減圧で留去した。酢酸エチルと水を加えて分液し、有機層を水、飽和食塩水で各2回洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を留去した後にシリカゲルクロマトグラフィーにて生成し、67gの中間体(1−1d)(0.23mol、収率2ステップで46%)を得た。
【0136】
<オキセタン化合物(1−1)の合成>
中間体(1−1d)58g(0.20mol)とトリエチルアミン24.2g(0.24mol)のジクロロメタン200mL溶液を0℃に冷却し、攪拌しながらメタンスルホニルクロリド(和光純薬工業(株)社製)25.2g(0.22mol)を5回に分けて添加した。反応液を室温にて2時間攪拌した後、水を加えて分液して水層を除去した。有機層に硫酸水素テトラブチルアンモニウム(和光純薬工業(株)社製)1.5gと50%水酸化ナトリウム水溶液100mLを加えて室温にて4時間攪拌した。水を加えて分液し、有機層を水で1回、飽和食塩水で2回洗浄して得られた粗生成物の化合物(1−1e)のジクロロメタン溶液に、メチルトリオキソレニウム(アルドリッチ社製)130mg、3−メチルピラゾール(東京化成工業社製)2.3gを攪拌しながら添加し、水冷にて内温を15℃に冷却し、31%過酸化水素水(関東化学社製)25.5mLを、内温を15℃〜35℃を維持しながら滴下した。滴下終了後オイルバスで加熱して2時間還流した後5℃まで氷冷し、10%亜硫酸ナトリウム水溶液65gを滴下した。有機層を飽和食塩水で2回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後溶媒を減圧留去し、シリカゲルクロマトグラフィーにて精製し、オキセタン化合物(1−1)21.9g(収率:中間体(1−1d)から38%)を得た。
【0137】
オキセタン化合物(1−1)のH‐NMRデータを以下に示す。
オキセタン化合物(1−1):H‐NMR(CDCl3、300MHz)δ:0.80(s,3H),1.39(s,3H),2.3(m,2H),2.6(m,1H),2.9(m,1H),3.1(m,1H),4.15(t,2H),4.23(d,1H),4.57(d,1H),5.49(s,1H),6.92(d,2H),7.23(d,2H)
【0138】
(合成例2)
本発明のオキセタン化合物であるオキセタン化合物(1−8)を、下記に示す合成スキームにより合成した。
【化9】



【0139】
<中間体(1−8a)の合成>
p−ヒドロキシベンズアルデヒド(東京化成工業(株)社製)61g(0.5mol)の N、N−ジメチルアセトアミド 2.0L溶液に、攪拌しながら2−クロロエチルビニルエーテル(和光純薬工業(株)社製)51.3g(0.5mol)と炭酸カリウム(和光純薬工業(株)社製)276g(2.0mol)を加え、140℃で6時間加熱した。酢酸エチルと水を加えて分液し、有機層を水、0.5N硫酸、1wt%水酸化ナトリウム水溶液で洗浄し、飽和食塩水で2回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥後した。溶媒を減圧留去して得られた中間体(1−8a)72gを、そのまま次反応に用いた。
【0140】
<中間体(1−8b)の合成>
粗生成物の中間体(1−8a)82gとイソブチルアルデヒド(和光純薬工業(株)社製)170g(1.0mol)をメタノール1.2Lに溶解し、2N水酸化カリウム水溶液500mLを内温を40℃以下に保ちながら滴下した。反応液を3時間加熱還流した後、溶媒を0.6L減圧で留去した。酢酸エチルと水を加えて分液し、有機層を水、飽和食塩水で各2回洗浄後、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を留去した後にシリカゲルクロマトグラフィーにて生成し、中間体(1−8b)51g(0.19mol,収率2ステップで38%)を得た。
【0141】
<オキセタン化合物(1−8)の合成>
中間体(1−8b)51g(0.19mol)とトリエチルアミン24.2g(0.24mol)のジクロロメタン200mL溶液を0℃に冷却し、攪拌しながらメタンスルホニルクロリド(和光純薬工業(株)社製)25.2g(0.22mol)を5回に分けて添加した。反応液を室温にて2時間攪拌した後、水を加えて分液して水層を除去した。有機層に硫酸水素テトラブチルアンモニウム(和光純薬工業(株)社製)1.5gと50%水酸化ナトリウム水溶液100mLを加えて室温にて4時間攪拌した。水を加えて分液し、有機層を飽和食塩水で2回洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後溶媒を減圧留去し、シリカゲルクロマトグラフィーにて精製し、オキセタン化合物(1−8)25.9g(収率:中間体(1−8b)から55%)を得た。
【0142】
オキセタン化合物(1−8)のH‐NMRデータを以下に示す。
オキセタン化合物(1−8):H‐NMR(CDCl3、300MHz)δ:0.81(s,3H),1.39(s,3H),3.6−4.4.(m,8H),5.55(s,1H),6.5(m,1H),6.9(d,2H),7.2(d,2H)
【0143】
[実施例1]
1.顔料分散体の調製
C.I.ピグメントレッド 122(チバスペシャリティーケミカルズ社製 クロモフタールジェット マゼンタ DMQ)25質量%、3−エチル−3−フェノキシメチルオキセタン(東亞合成(株)製、商品名:OXT−211)65質量%、及び分散剤(ルーブリゾール社製 SOLSPERSE32000)10質量%を、この組成比でボールミルに入れて、直径0.6mmのジルコニアビーズを使用して、16時間分散して顔料分散体を得た。
【0144】
2.UVインクジェット用マゼンタインク組成物の調製
上記により得られた顔料分散体、重合性モノマー(オキセタン化合物(1−1)及び他の重合性モノマー)、重合開始剤、増感色素を、以下に示す組成1となるように混合し、高速水冷式撹拌機により撹拌し、UVインクジェット用マゼンタインク組成物を得た。
【0145】
(組成1)
・着色剤:C.I.ピグメントレッド 122(チバスペシャリティーケミカルズ社製、クロモフタールジェット マゼンタ DMQ) 5.0部
・分散剤:(ルーブリゾール社製Solsperse32000) 2.0部
・オキセタン化合物(1−1) 20.0部
・2官能エポキシ化合物:リモネンジオキサイド(ダイセル化学工業社製、商品名:セロキサイド3000) 35.0部
・2官能オキセタン化合物(東亞合成(株)製、商品名:OXT−221) 24.0部
・単官能オキセタン化合物(東亞合成(株)製、商品名:OXT−211) 21.0部
・光カチオン重合開始剤(下記B−1で示す構造):(トリス(4−クロロフェニル)スルホニウム ヘキサフルオロホスフェイト) 5.0部
【化10】



・増感色素:9,10−ブトキシアントラセン(川崎化成工業(株)製) 3.0部
【0146】
[実施例2〜11、比較例1〜4]
実施例1の組成1において、化合物の種類及び量を、表1又は表2に記載の組成に変更した以外は、実施例1のインク組成物の調製と同様にして、実施例2〜11、比較例1〜4インク組成物を調製した。
また、重合性モノマーの比較化合物としては、化合物A−1(下記構造、特開2001−181386号公報に記載の化合物)、化合物A−2(下記構造、特開2005−2166号公報に記載の化合物)、化合物A−3(下記構造)を用いた。
【0147】
【化11】



【0148】
【表1】

【0149】
【表2】

【0150】
実施例1〜11、比較例1〜4で得られた各インク組成物を用いて、下記に示す印字、露光を行い、感度及び吐出安定性に関して、下記に示す評価方法及び評価基準により評価した。評価結果を表3に示す。
【0151】
(印字、露光)
各インク組成物をピエゾ方式のインクジェットヘッドを用いて打滴を行った。ヘッドは25.4mmあたり150のノズル密度で、318ノズルを有しており、これを2個ノズル列方向にノズル間隔の1/2ずらして固定することにより、被記録媒体上にはノズル配列方向に25.4mmあたり300滴打滴される。
【0152】
ヘッド及びインクは、ヘッド内に温水を循環させることにより吐出部分近辺が50±0.5℃となるように制御されている。ヘッドからのインク吐出は、ヘッドに付与されるピエゾ駆動信号により制御され、1滴あたり6〜42plの吐出が可能であって、本実施例及び比較例ではヘッドの下1mmの位置で被記録媒体であるメディアが搬送されながらヘッドより打滴される。搬送速度は50〜200mm/sの範囲で設定可能である。またピエゾ駆動周波数は最大4.6kHzまでが可能であって、これらの設定により打滴量を制御することができる。
搬送速度90mm/s、駆動周波数1.9kHzとすることにより、24plにインク吐出量を制御し、10g/mの打滴を行い、ベタ印字画像を得た。
【0153】
メディアは打滴された後、露光部に搬送され紫外発光ダイオード(UV−LED)により露光した。UV−LEDは日亜化学工業(株)製NCCU033(商品名)を用いた。本LEDは1チップから波長365nmの紫外光を出力するものであって、約500mAの電流を通電することにより、チップから約100mWの光が発光される。これを7mm間隔に複数個配列し、被記録媒体であるメディア表面で0.3W/cmのパワーが得られる。打滴後露光されるまでの時間、及び露光時間はメディアの搬送速度及びヘッドとLEDの搬送方向の距離により変更可能である。本実施例では着弾後、約0.5秒後に露光される。メディアとの距離及び搬送速度の設定に応じて、メディア上の露光エネルギーを0.01〜15J/cmの間で調整することができる。本実施例及び比較例では搬送速度により露光エネルギーを調整した。これら露光パワー、露光エネルギーの測定にはウシオ電機製スペクトロラディオメータURS−40D(商品名)を用い、波長220〜400nmの間を積分した値を用いた。本評価では被記録媒体であるメディアとして、PETフィルム又はポリ塩化ビニル製のシートを使用し、印字及び露光テストは23℃、R.H.60%の環境で実施した。硬化した画像の厚みは19μmであった。
【0154】
(1.感度の評価)
各インク組成物を、上記装置を用いてポリ塩化ビニル製のシートに印刷し、搬送速度を変えることにより積算露光量を調整し、インクを硬化させ印刷物を得た。硬化における露光エネルギーを光量積算計(EIT社製UV Power MAP)により測定した。硬化性は印刷物の表面べとつきの有無を指蝕で判断し、べとつきがなくなる最小の積算露光量を下記基準により評価した。
【0155】
<評価基準>
A:100mJ/cm未満
B:100mJ/cm以上200mJ/cm未満
C:200mJ/cm以上300mJ/cm未満
D:300mJ/cm以上500mJ/cm未満
E:500mJ/cm以上1000mJ/cm未満
F:1000mJ/cm以上
【0156】
実用的には感度の評価が C以上であることが必要であり、Bであることがより好ましく、Aであることが特に好ましい。
【0157】
(2.吐出安定性の評価)
各インク組成物を室温で4週間保存後、ピエゾ型インクジェットノズルを有するインクジェット記録装置を用いて、ポリ塩化ビニル製のシートへの記録を行い、常温で48時間連続印字したときの、ドット抜け及びインクの飛び散りの有無を目視にて観察し、下記基準により評価した。
【0158】
<評価基準>
○:ドット抜け又はインクの飛び散りが発生しないか、発生が2回以下。
△:ドット抜け又はインクの飛び散りが3〜10回発生。
×:ドット抜け又はインクの飛び散りが11回以上発生。
【0159】
【表3】

【0160】
表3に記載の結果より、本発明のオキセタン化合物を含有するインク組成物である実施例1〜実施例11のインク組成物は、感度、吐出安定性のいずれも良好であることがわかる。また、実施例1、2と、3、4との対比により、本発明のオキセタン化合物の中でも、一般式(1)におけるRがオキシラン環を部分構造として有する場合が、より好ましいことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるオキセタン化合物。
【化1】



[一般式(1)中、R11〜R15は、それぞれ独立に、水素原子又はアルキル基を表す。R21〜R24は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン原子を表す。Rは、オキシラン環、オキセタン環及びビニルエーテルから選択される部分構造を含み総炭素数が3以上10以下のアルキル基、又はビニル基を表す。R21〜R24、及びRは、隣接する基同士が互いに連結して環構造を形成していてもよい。]
【請求項2】
前記一般式(1)におけるRが、オキシラン環を部分構造として有する炭素数3以上10以下のアルキル基である請求項1に記載のオキセタン化合物。
【請求項3】
前記一般式(1)におけるR11、R12及びR15が総て水素原子である請求項1又は請求項2に記載のオキセタン化合物。
【請求項4】
前記一般式(1)におけるR21〜R24が総て水素原子であるか、R21〜R24のうち3つが水素原子であり1つがアルコキシ基であるか、R21〜R24のうち2つが水素原子であり2つがアルコキシ基である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のオキセタン化合物。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のオキセタン化合物を、重合性モノマーとして含有する活性エネルギー線硬化型組成物。
【請求項6】
前記一般式(1)で表されるオキセタン化合物を、組成物中に含有される重合性モノマーの全質量に対して、10質量%〜30質量%含有する請求項5に記載に記載の活性エネルギー線硬化型組成物。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載の活性エネルギー線硬化型組成物を含む活性エネルギー線硬化型インク組成物。
【請求項8】
インクジェット記録用インクである請求項7に記載の活性エネルギー線硬化型インク組成物。
【請求項9】
(a)被記録媒体上に、請求項8に記載の活性エネルギー線硬化型インク組成物をインクジェット記録装置により吐出する工程、及び、吐出されたインク組成物に活性放射線を照射して、該インク組成物を硬化する工程、を含むインクジェット記録方法。

【公開番号】特開2011−68637(P2011−68637A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181389(P2010−181389)
【出願日】平成22年8月13日(2010.8.13)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】